悪夢幻想ジョルジュの剣のようです
- 1 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:12:21 ID:ImpPfSNs0
アスキー暦 510年 世界各地で魔物の存在が確認される。魔法、マナの存在も実証される。
アスキー暦 514年 ショボーン国王、痛風が痛すぎて死亡(真偽は不明)。
アスキー暦 514年 新国王モナー、爆誕
アスキー暦 516年 第一次魔人戦争勃発。国王軍は多くを失いながらも、国土の防衛に成功。
アスキー暦 517年 ファイナル村の杉浦ロマネスク、岩に刺さった聖剣を引き抜き、勇者として旅に出る。
アスキー暦 519年 勇者ロマネスク、魔王討伐に失敗。四肢を奪われ、意識不明の状態で帰還。
アスキー暦 522年 魔王軍の侵攻、苛烈を極める。
アスキー暦 523年 モナー国王、国土の一部を完全放棄。人と魔物の戦争、膠着状態に突入する。
アスキー暦 524年 勇者、現れず。
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- 2 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:12:53 ID:ImpPfSNs0
【1】
この日、村の酒場には荒くれ共が集まっていた。
彼らは遠くの山からやって来た山賊で、魔物が相手でも略奪惨殺をするようなトチ狂った連中だった。
しかしそのせいで魔物の群れにアジトを襲撃されてしまい、命には代えられないと渋々アジトを放棄。
結果的に金品資材奴隷まで殆どを失ってしまった彼らは、今こうして日中から自棄酒に溺れているのだった……。
<#ヽ`∀´>「おい店主ーー!! さっさとメシ持って来いニダ!!」 ダンダンッ!!
( ^Д^)「おらおらニダーさんの言うとおりだぞwここの村人ぶっ殺されてぇのかあ?w」
(;'A`)「う、うう……ただいまお持ちしますので……」
店内は既にしっちゃかめっちゃだった。
グラスやビンの破片が床に散り、料理も酒も“クソ”みたいな扱いをされている。
ξ;゚⊿゚)ξ「あなた、もう店を出ましょう!」
('A`;)「し、しかし……奴らを怒らせたら何をされるか……」
<#ヽ`∀´>「おい店主!! 女で遊ばれたくねえならさっさとしろニダ!!!!!!」
Σ(;'A`)「はいっ! ツン、次のお酒だ!」
ξ;゚⊿゚)ξ「次って、もう品切れよ! 一滴だって残っちゃいないわよ!」
('A`;)「……なら他の店に掛け合ってきてくれ! 事情を話せば大丈夫だ!」
ξ;゚⊿゚)ξ「……もう! 破産したって知らないんだからね!」
店主の妻は捨て台詞を吐いて店を飛び出して行った。
そして、彼女と入れ替わるように店に入ってきた男がひとり――
_
( ゚∀゚)「……」 ガチャッ ガチャッ ガチャッ ガチャッ…
<ヽ`∀´>「……ああ?」
耳障りな金属音。
山賊の長・ニダーは振り返り、黒い甲冑を鳴らしながら歩く男に一瞥を送った。
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- 3 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:13:15 ID:ImpPfSNs0
- _
( ゚∀゚)「……食いもん、なんか出してくれ」 ガタッ
喧騒を抜けてカウンター席に座った男は傷だらけの顔で店主を見て言った。
黒い甲冑、背には大剣、腰にも二振りの剣を下げている。
店主の目には、彼の出で立ちは流浪の傭兵のように映っていた。
(;'A`)「あ、すみません、お酒はもう無くて……」 スッ
店主は綺麗なグラスに水を注いで差し出す。
(;'A`)「……悪い事は言いません。あいつらに絡まれる前に他の店へ……」
_
( ゚∀゚)「気にしねえよ。んな事より聞きたい事が――」
<ヽ`∀´>「――あんた、いいエモノ持ってるニダねえ」 ドカッ
男が店主に聞き込みをしようとした瞬間、その隣席にニダーがやってきて彼の肩に腕を回した。
ニダーは男の背中にある大剣を覗き込み、勝手に大剣の柄を握って感触を確かめる。
<ヽ`∀´>(ああ、これは上物ニダ……)
男はニダーの物色を無視して話を続けた。
_
( ゚∀゚)「この辺に魔女が居るって話を聞いた。なんか知らねえか」
(;'A`)「……魔女、ですか? 聞いた事ありませんが……」
_
( ゚∀゚)「……そうか。ならいいんだ」
店主の返答を聞いた男は出された水を一気飲みし、あっさりと席を立った。
男はさっさと店を出ようと踵を返す。しかし、ニダーは部下を回り込ませて彼を引き止めた。
<ヽ`∀´>「……なぁあんた、死にたくなけりゃ身ぐるみ置いてけニダ」
けらけらと笑いながらニダーが煽る。
店内にはざっと二十人の山賊達。
いかにこの男が強かろうと、20対1という数の利、装備による機動力の差を覆す事など不可能だとニダーは高を括っていたのだ。
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- 4 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:13:43 ID:ImpPfSNs0
「置いてけよ……へへっ、なあ……w」
_
( ゚∀゚)「…………」
下卑た薄笑いが男を包囲している。
山賊達は既に武器を手に取っており、剣や銃を男に向けて身構えていた。
(;'A`)「ああッ!! 止めて下さい、お酒なら妻がすぐ持ってきますので!」
<#ヽ`∀´>「おい返事はどうした!! さっさと全部脱いで失せろニダ!!」
_
( ゚∀゚)「……チッ」
_
( ゚∀゚)「水一杯でこの数か。吹っかけられたもんだぜ……」 ガシッ
男は静かに背の大剣を抜き、そのギラついた目で周囲を睨んだ。
- 5 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:14:03 ID:ImpPfSNs0
* * * *
ξ;゚⊿゚)ξ「きゃっ!」 ドンッ
_
( ゚∀゚)「――っと。すまねえ」
ξ;゚⊿゚)ξ「あ、こちらこそ……」
店に駆け込もうとした店主の妻は、不意に出てきた客と肩をぶつけてしまった。
村中に声を掛けてようやく食料の当てを見つけてきた彼女は、男に軽い会釈をしてから急いで店に入っていった。
_
( ゚∀゚)「……山は、あっちか……」 ガシャッ ガシャッ ガシャッ ガシャッ…
男は沈みゆく太陽の方角を向いて呟き、甲冑を鳴らしながら再び歩き始めた。
目指すところは森の魔女。彼の敵は、決して酒場の酔っ払いなどではないのだ。
<;ヽ ∀ >「あ、あ……」 ピクピク
ξ;゚⊿゚)ξ「……なにこれ」
(;'A`)「……さっきの人が、全員のして行っちまったんだ……」
――これは、人が魔物を殺す物語である。
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- 6 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:14:26 ID:ImpPfSNs0
悪夢幻想ジョルジュの剣のようです
“ナイトメアファンタジー ジョルジュブレイド”
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- 7 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:14:54 ID:ImpPfSNs0
【2】
――アスキー暦 519年――
(; ´∀`)「勇者は……ロマネスク君は……」
(; ´∀`)「……両手、両足を失っていて、今は、街中の医者を集めて治療に当たってるとこモナ……」
_
(; ゚∀゚)「……そんな……あいつが……」
(; ´∀`)「もう一週間も意識が戻ってないモナ……。
彼があの状態で今も生きているのは、恐らくは魔王の呪いだとみんな言ってるモナ……」
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- 8 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:15:33 ID:ImpPfSNs0
――アスキー暦 520年――
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( ゚∀゚)「……いくら待ったってラチが開かねえ。
俺は俺なりにやらせてもらうぞ……」
(; ´∀`)「……なら、彼が使っていた装備一式を持っていくといいモナ」
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( ゚∀゚)「わりぃな王様。まとまった金が手に入ったら城に送る。治療費の足しにしてくれ」
(; ´∀`)「すまないモナ……魔物には気を付けるんだモナ……」
_
( ゚∀゚)「分かってる。ロマネスクの事、頼んだぜ」
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- 9 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:16:44 ID:ImpPfSNs0
――アスキー暦 521年――
この頃を境に、各地に点在する魔王軍基地が何者かによって壊滅させられる事態が頻発するようになった。
他にも、今まで戦果も得られず防戦一方だった義勇兵団がとつじょ敵尖兵団を打倒する等、人間側の戦力に明確な変化が現れたのである。
その明確な変化を戦場の中で体験した、義勇兵団の一戦士は後にこう語った。
身の丈を超える大剣を背負い、腰に二振りの聖剣を下げた太眉の剣士。
奴は、嵐のような男だった。荒れ狂う刃そのものだった。
逃げ惑う魔物達に刃を向け、斬り殺し、魔物の血と臓物を浴びて吼え猛る“人間の怪物”だった――
ある冬の日、総数500体以上の魔物を抱える魔要塞に一人の剣士が単身戦いを挑んだ。
雪嵐が吹き荒ぶ中、剣士は三日三晩かけて山岳の雪道を突き進んだ。
敵を斬り殺して進んだ道には、魔物の死体で道が出来ていたという。
決死行の末、砦に着いた剣士を待ち受けていたのは残り200体の魔物と砦の長・ウェアウルフのフザギコだった。
……冬が明けた頃、モナー国王の城に山ほどの大金と、勇者ロマネスクが魔王に奪われた “勇者の右足” が届けられた。
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- 10 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:17:40 ID:ImpPfSNs0
――そして時は過ぎ、アスキー暦525年――
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- 11 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:18:02 ID:ImpPfSNs0
(*゚ー゚)
_
( ゚∀゚)「…………よう」
(;*゚ー゚)「――ヒートさま! ヒートさま! 誰か来ました!」 トテテテテテ…
森の奥にある開けた草原。
幻想的な木漏れ陽を浴びながら、少女は魔法使いの家を目指して草原を駆け抜けていった。
_
( ゚∀゚)「……あれか……」
ジョルジュは魔法使いの家を遠くから眺めて独りごちた。
その全容は丈夫な草木に覆い隠された、機械仕掛けの家だった。
草木の合間に覗く無数の歯車は老朽しつつも動き続けており、ここからでも僅かに金属の軋む音を聞く事ができた。
≪……中に入れ。歓迎してやる≫
_
( ゚∀゚)(こいつ、脳内に直接……) ガッチャ ガッチャ ガッチャ ガッチャ…
ジョルジュは周囲に警戒しつつ草原を行き、魔法使いの家のドアを開けた。
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- 12 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:18:58 ID:ImpPfSNs0
ノパ⊿゚)「……ならざる者か。参ったね……」
_
( ゚∀゚)「……あんたが、魔法使いか」
家に入ったジョルジュを出迎えたのは、うら若き女性・ヒートの苦言であった。
彼女は年季の入ったレザージャケットとショートパンツという、およそ魔法使いらしからぬ姿で椅子に腰掛けていた。
その傍らには最初に見た少女・しぃが、怯えた表情で立ち竦んでいる。
ノパ⊿゚)「夢遊の森を一晩で抜けてくるとはね。……ヤなもん見たんじゃない?」
_
( ゚∀゚)「大したもんは見てねえよ。昔話で暇が潰れて助かったくらいだ」
ノパ⊿゚)「――けっこう。相応の資格は満たしているらしい」 パチン!
ヒートは席を立って指を鳴らした。
途端、床やテーブルに散らかっていた物が空を飛び交い、瞬く間に然るべき場所へ自ずと収納されていった。
しぃが部屋の電気を点ける。
天井から吊るされたランプがオレンジの光を放ち、テーブルを照らした。
ノパ⊿゚)「よっこらせ……さて、ここは“まほろば”だ」 ガタッ
ヒートは椅子に腰掛けながらジョルジュに言った。
しぃがそそくさと安タバコの箱を彼女に差し出す。ヒートは箱を受け取り、タバコをくわえて火を付けた。
ノパ⊿゚)「ふー……。ここは、勇者とそれに準ずる力を持つ者だけが到達できる異界の端だ」
ノパ⊿゚)「おめでとう。お前はお墨付きの化け物だぜ」
_
( ゚∀゚)「……そりゃ、どうも」
(*゚ー゚)「あ、椅子どうぞ……」 ギギッ
ヒートと対面になる椅子を引き、ここに座るようジョルジュに促す。
使用人のように動き回るしぃを見て、ジョルジュは彼女に小さく礼を言ってからその席に座った。
(*゚ー゚)「それじゃあ、私はこれで」
ノパ⊿゚)「おう。ご苦労さん」
しぃは自分の仕事を終えると深く頭を下げて別の部屋に消えていった。
よくできた弟子だろう。ヒートが自慢気に呟くと、ジョルジュも囁くように 「そうだな」 と呟いて答えた。
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- 13 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:19:18 ID:ImpPfSNs0
タバコの煙が空に舞う。
機械仕掛けの音が聞こえる。
ヒートは宙のランプを見上げ、大きく息を吐いて見せた。
ノパ⊿゚)「で、用件は」
_
( ゚∀゚)「……この剣を、あんたの魔法でどうにかしてほしい」 ガチャッ
そう言ってジョルジュがテーブルに置いたのは腰に下げていた二振りの聖剣であった。
どちらも勇者ロマネスクが引き抜いた伝説の剣――本来、勇者以外が持ち歩いていい代物ではない。
ヒートはテーブルに置かれた聖剣を数秒を見てもう一度タバコの煙を吐いた。
めんどうくせぇ仕事だ。心の中で、そう呟く。
ノパ⊿゚)「……片方はどうにかしてやる。だが片方は無理だ」
_
( ゚∀゚)「どっちを直せる」
ノパ⊿゚)「ちゃんと呪われてる方。鞘に、赤目の神龍が巻きついてる方だ」
テーブル上を滑らせて、ジョルジュはヒートにその呪われた方の聖剣を送りつけた。
ヒートは聖剣を鞘から抜いて掲げ、光に照らして物色する。
ノパ⊿゚)「……魔王の呪いが10種、20種……ってトコか。
オレ程度じゃ呪いを解くのは無理だが、呪いを相殺する呪文を上書きして、とりあえず使えるようには出来るぜ」
_
( ゚∀゚)「それでいい。やってくれ」
ノパ⊿゚)「……だが結局は呪われた聖剣だ。人が使えば命を削るぞ」
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( ゚∀゚)「取引だ。何でも言ってくれ。俺は何をすればいい」
話を聞かねえ奴だな、と心の中で呟く。
ノパ⊿゚)「……西の山中に砦がある。先日まで山賊が居着いてたんだが、今は魔物の巣だ」
聖剣を鞘に戻し、テーブルに置き、ヒートは机上で手を組んで言った。
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- 14 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:19:53 ID:ImpPfSNs0
ノパ⊿゚)「――その砦を奪還して、人の手に返してほしい」
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( ゚∀゚)「……それだと、山賊の手に戻ってもいいみたいに聞こえるぜ」
ノパ⊿゚)「そう言っているんだ。略奪惨殺大いに結構、人間同士の争いならな」
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( ゚∀゚)「……分かった。てめえはそれに集中しろ」 ガチャッ
ジョルジュはどうにもならない方の聖剣を腰に戻して立ち上がった。
ノパ⊿゚)「それ使うつもりか? 勇者にだけ使える聖剣を、勇者ならざるお前が」
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( ゚∀゚)「……余計なお世話だ」
ノパ⊿゚)「そのうち死ぬぞ」
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( ゚∀゚)「今は生きてる。死ぬ前に殺し切る。それだけだ」 ガチャッ ガチャッ ガチャッ ガチャッ…
踵を返し、ジョルジュは西の砦に向かった。
- 15 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:20:15 ID:ImpPfSNs0
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- 16 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:20:55 ID:ImpPfSNs0
【3】
――魔物の巣となった砦では、捕らえた人間達を用いた宴が毎夜のように繰り広げられていた。
今宵もまた、人間という名の動物が魔物の群れに嬲られている。
(; ・∀・)「やめろォ!! こンの……ッ!!」
(´・ω・`)「ゲヒヒ……男の穴でも構いやしねえぜ……」 ジュルリ
大きな焚き火が照らし出すのは人と魔物の酒池肉林。
痛ぶり殺すも良し、肉欲を貪るも良し。
悲鳴が聞きたくば女の股を裂き、死に怯える滑稽な姿を見たくば男二人を殺し合わせる。
理性を失った人間がのたうつ様は魔物にとって最高の余興。
食べ物で遊んで笑う子供のように、魔物達は無邪気に人間で遊び続ける――。
|(●), 、(●)、|「……あれが魔物の性とはいえ、見るには堪えんな」
砦の奥に建てられた塔の一室。
机や椅子、本棚などを取り揃えた理性的なその一室は、砦の魔物達を牛耳るダディクールの書斎となっていた。
コンコンコン、と書斎の扉がノックされて開かれる。
ダディクールは入ってきた男を見遣り、椅子の背もたれにどっと身を預けた。
|(●), 、(●)、|「何用だ」
(-_-)「いえ、急用ではありませんが、ダディクール様もいかがかと思い……」
|(●), 、(●)、|「……ヒッキー、私にあのような下卑た宴に出ろと?」
(-_-)「まさか。滅相もございません。
私めが持参したこのデザートワインを開けようと思いましたので、お誘いに」
ヒッキーはそう言って得意気に微笑み、ボトルを掲げてダディに見せた。
紳士的なタキシードに身を包んだヒッキーはダディクールの側近であり、同じ“人間ごっこ”の趣味を持つ友人でもあった。
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- 17 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:21:30 ID:ImpPfSNs0
|(●), 、(●)、|「……ふむ」
ダディクールは立ち上がってもう一度塔の直下を見渡した。
人の叫び、魔物の笑い声。
地面の土は血を吸って赤く粘着質になり、あらゆるものが泥のように混ざり合って惨たらしい。
しかし、ダディクールの感覚はそのような些事を気にも留めていなかった。
――森を抜けてこちらに何かが向かってきている。
魔物ではない、しかし人間とも思えない異質な気配。彼は眉間にしわを寄せ、敵襲を悟る。
|(●), 、(●)、|「……ヒッキーよ、ワインは後回しだな」
(-_-)「――はい、私も捉えました」
|(●), 、(●)、|「下の者共に武器を取らせろ。敵襲だ――……」
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- 18 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:22:18 ID:ImpPfSNs0
――死神は、鉄の鎧を鳴らし来たる。
――鉄の軋みが止んだ時、そこには無数の命が潰えているという。
――彼の者が振るう剣は、死の轍を刻む宣告の剣である。
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- 19 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:22:41 ID:ImpPfSNs0
【4】
ガシャッ…
(´・ω・`)「……ああん?」
砦にやって来た人影に気付き、男を嬲って遊んでいた魔物がふと振り返る。
その瞬間、鉄板のような剣が空を奔り抜けていた。
(´・ω・`)「……あ?」
ボト、と魔物の体が左右に分かれて地に落ちる。
体液の飛沫が一気に噴き出し、その一帯に異色の雨が降り注いだ。
……とたん、魔物達の宴は沈黙した。
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- 20 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:23:05 ID:ImpPfSNs0
_
( ゚∀゚)
黒い甲冑の剣士――ジョルジュは、焚き火に集った魔物を一望して大剣を構える。
勘の良い魔物達は早くも武器を取り、ジョルジュを囲い込もうと行動を開始していた。
_
(# ∀゚)「……さっさと来い」 ガッシャ…
それから十秒と経たず魔物に包囲されたジョルジュ。
砦の奥からは、今も続々と魔物の群れが出てきている。
数の不利は圧倒的だった。しかし、ジョルジュの構えに乱れはない。
(#´゚ω。`)「ア゙…ア゙ア゙ア゙…」
(#´゚ω。`)「――ウヴェア゙アアアアアア!!!!」 ダッ!!
――次の瞬間、包囲網から数匹の魔物が飛び出してジョルジュに襲い掛かった。
_
(# ゚∀゚)「ッ!」 グオオッ!!
それと同時に大剣が銀閃を描いて飛んできた魔物達の胴元を薙ぎ払う。
ある魔物は上下に、ある魔物は左右に斬殺され、血飛沫を振りまきながらどこぞへ吹き飛んでいった。
(#´゚ω。`)「ヴォッヴォッヴォッ!!」 ブオンッ!!
_
(# ∀゚)(そうだ! さっさと死にに来い!)
.
- 21 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:24:08 ID:ImpPfSNs0
火蓋は切って落とされた。
魔物は次から次へとジョルジュに牙を向けて襲い掛かり、ジョルジュはそれを一振りで薙ぎ払い前進する。
雑兵など幾百殺したところで無意味。ジョルジュの狙いは敵将の首ただ一つだった。
(#´゚ω。`)「ギジェヴヴヴヴヴヴ!!」
_
(# ∀゚)「おおおォオォッ!!」
魔物の頭を掴んで千切る。前進ついでに倒れた敵を踏み潰す。
ジョルジュの大剣が翻るごとに敵の群れが抉れ吹き飛んだ。
己が傷つく事など二の次に、防御など一度たりともせず、彼はひたすら剣を振り回し魔物を血肉の断片に変えて蹴散らしていく。
(*´゚ω。`)「――ウホッホッホッ!」
やがて、魔物達の動きが変わり始めた。
陣形を取ってジョルジュを迎え撃つようになったのである。
(*´゚ω。`)「グヒュッ……!」
从;ー;从「や、や…助け……」
陣形の前衛を担う魔物達は盾と槍を持っていた。
だがその盾には奴隷として捕まっていた人間が括り付けられており、文字通りの肉壁として有効活用され――
_
(# ∀゚)「おおおおァァ!!」 ブオンッ!!
――否、ジョルジュは人質などお構い無しに盾ごと魔物を斬り伏せて見せた。
この戦場に人の理など存在しない。惑えば死ぬ、剣を止めれば死に直結する。
ジョルジュの剣は止まらなかった。
人も魔物も、彼の行く手を阻むものは全てこの大剣が薙ぎ払う。
前進は止まらない。砦の中に、死の異臭が立ち籠めていく……
( ´_ゝ`)「……そろそろ我らの」
(´<_` )「出番であろうな……」
死の渦が魔物の群れを吹き飛ばす。
同じ顔、同じ武器を持った双子の魔物は、その惨劇を照らし出していた盛大なる焚き火を巨大な棍棒で叩き潰した。
.
- 22 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:24:52 ID:ImpPfSNs0
_
(; ゚∀゚)(――ッ! なんだ!?) ザッ!!
焚き火が消えたその瞬間、ジョルジュの視界が闇に落ちた。
頼るものを目から耳へ――暗中より襲い掛かる魔物を寸で斬り捨て、ジョルジュは息を止めて周囲に目を光らせた。
(# _ゝ`)「――ぜえい!!」 ブオン!!
怒号と共に、風が鳴る。
_
(; ゚∀゚)「ッ!!」 バッ!!
ジョルジュは咄嗟に大剣を頭上に構えた。
直後、鋼鉄同士がぶつかり合う凄まじい金属音が鳴り響いた。
_
(; ∀゚)(なんつう怪力だ……! いよいよ、骨のあるのが出てきたか……!) ギリッ…
暗闇に目が慣れてきた。
ジョルジュが大剣で受け止めた武器は、その大剣をも超える巨大な棍棒であった。
振るう魔物は筋骨隆々な上半身をはだけた阿修羅のような男――魔物の中でも、彼は上位種に分類される強者だった。
(# _ゝ`)「我が名は流石兄者! この一撃、よくぞ受け止めた!」
(´<_ #)「――だが、我ら兄弟の連撃について来れるか、人間!!」
_
(; ゚∀゚)(もう一匹――ッ!!)
闇に紛れて現れたもう一匹の魔物が背後から棍棒を振り下ろす。
ジョルジュは大剣を傾けて兄者の棍棒を受け流し、即座に振り返って攻撃に転じた。
_
(# ∀゚)「おおおおおおお!!」
(´<_` #)「ゆくぞ兄者よ!!」 ブオンッ!!
(# ´_ゝ`)「応とも弟者!!」 ズアッ!!
.
- 23 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:25:53 ID:ImpPfSNs0
|(●), 、(●)、|「――凄絶なりや、というところか」
(-_-)「さようでございます。彼らを一人で相手取る人間など見た事がありません」
甲冑を着込んだダディクール達の視線の先で、絶えず鉄と火花が弾けていた。
三者の打ち合いに入り込む余地など無い。
雑魚の魔物はその激戦を取り囲み、雄叫びを上げて流石兄弟を鼓舞している。
(#´゚ω。`)「ウヴォーッ! オアアーーッ!」 ピョンピョン
(#´゚ω。`)「ブジェアアアアアアア!!」
_
(# ∀゚)「――うるせえッ!!」 グオオオッ!!
ジョルジュは剣撃の合間に観衆を薙ぎ払う。
それを一瞬の好機と見た兄者は棍棒を握る手に力を込め、大きく振りかぶって彼の頭上に振り下ろした。
(# _ゝ゚)「――隙あらば!! 討ち取るのみ!!」
_
(; ゚∀゚)(しまッ――!) バッ!!!
(゚<_ #)「させんッッ!!」
流石弟者はジョルジュの行動を読み切っていた。
弟者は棍棒で大剣を弾き飛ばし、ジョルジュの守りをがら空きにする連携をして見せた。
(# _ゝ゚)「討ち取ったぞ――外道なる剣士よ!!」
_
(; ゚∀゚)「チッ!」
大剣を失ったジョルジュは両腕を頭上にやって大きく後ろに跳躍した。
次の瞬間、甲冑を叩き割らん程の凄まじい衝撃が彼に直撃する。
空中に居たジョルジュは衝撃のままに吹き飛んでいき、錐揉みしながら砦の外壁に叩きつけられた。
_
(; ∀゚)「………ごぷっ……!」 ガクッ
地面に片膝をつき、兜の中で塊のような血を吐き出す。
限界を超えて飽和しきった痛みが現実感をも有耶無耶にしていく。
視界がボヤけ始めた所で、ジョルジュは下唇に牙を立てて意識を繋ぎ止めた。
.
- 24 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:27:01 ID:ImpPfSNs0
_
(# ∀ )「……あ゙ぁ……」
――ジョルジュの頭の中で、最後のタガが外れて消える。
心臓の音がやけにうるさい。目はすっかり暗闇に慣れてくれた。
( ´_ゝ`)「次で仕留めるぞ……」
(´<_` )「応とも」
敵が近付いてくる足音も鮮明だ。
口の中には鉄の味。ぎゅるぎゅると全身に血液が巡っている。
_
(# ∀ )「……ああ……」
――このままここで止まっていたら、今すぐアタマが狂ってしまいそうだ。
立ち上がり、血まみれズタボロの甲冑を脱ぎ捨て、両足でしかと大地を踏みしめる。
肉体だけが彼を支える。手には、心もとないナイフが一本。
けれども胸の殺意がはち切れそうだ。
もう何もない、頭の中には誰も居ない――
_
(# ∀ )「すぅーー………」
――呼吸を止めて、一秒。
_
(# '゚∀'゚)「ブッ殺す!!」 ダンッ!!
(´<_` ;)「――なんだとッ!?」
ジョルジュは全速力で駆け出し、あろうことかナイフ一本で流石弟者に飛びかかっていた。
.
- 25 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:29:26 ID:ImpPfSNs0
(´<_` ;)「貴様ッ!! 気でも触れたか!?」 ブオッ!!
弟者は反射的に棍棒を振るってジョルジュを追い払おうとした。
しかしジョルジュはその一撃を脇腹にあえて受け止めてから、獣のような俊敏さで弟者の肩に飛び乗った。
_
(# ∀゚)「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッッッ!!」
ジョルジュは両手で握り締めたナイフを弟者の首筋に突き立てた。
弟者は堪らず棍棒を手放し、肩にしがみついたジョルジュを掴んで足元に叩きつけた。
(´<_` ;)「な、なんたる男……!」 ボタッ…ボタッ…
鮮血が吹き出す首筋を抑えつつも、致命傷に堪え切れず地に膝をつく弟者。
その間にジョルジュは立ち上がり、弟者の棍棒を奪って天高く振り上げていた。
(; ´_ゝ`)「バカな――ッ! 逃げろ弟者!」
( <_` ;)「……この命、人に敗れるか」
_
(# ∀ )「ガァァァァァァァァァッッッ!!」
直後、重鈍なる棍棒は弟者の頭蓋をぷちゅんと粉砕し、彼の肉体を押し潰して大地に衝撃を走らせた。
一瞬にして頭から股間まで正中線を叩き潰された弟者は、死の直前に断末魔を上げる事すらできなかった。
(; ゚_ゝ゚)「あ、……お、おお……ッ!!」
水風船が炸裂したような飛沫が辺り一面に飛び散る。
残された流石弟者の左半身右半身は、ちょっとクネクネ動いてから己の血溜まりの上に倒れ、動かなくなった。
(; _ゝ )「……なんたる、なんたる事だ……!!」
間に合わなかった、油断した――流石兄者は己を叱責しながら棍棒を強く握り締めた。
生来無二の弟を失った悲しみが胸の内で絶叫を上げていた。
(# _ゝ゚)「殺す……貴様を圧殺する……!」 ズシッ…
憎悪が影となって流石兄者の背後で揺らめいている。
|(●), 、(●)、|「――もうよい、下がれ」
しかし次の瞬間、ダディクールの一言が兄者の激情を止めていた。
.
- 26 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:30:21 ID:ImpPfSNs0
(; ´_ゝ`)「――な、ダディクール様!? なぜです!?」
振り返り、背後に現れたダディクールに問いかける兄者。
感情を昂ぶらせる彼に対して、ダディクールは極めて冷静な言葉を返してやった。
|(●), 、(●)、|「いずれ、私と肩を並べるのは貴様ら兄弟であると確信していた」
|(●), 、(●)、|「……無念だ。だからこそ、今は私にこの戦を預けよ」
(; _ゝ )「……ッ!」
兄者は身を打ち震わせ、言葉を押し殺し、程なく一礼を残してダディクールの後ろに引き下がっていった。
無数の死、無数の命の残骸が作り出したフィールドには、二人の戦士だけが残されていた。
|(●), 、(●)、|「……ウェアウルフ、フサギコを討ったのは貴様だな?」
_
(# ∀゚)「……あの犬か……強かったぜ……」
ジョルジュの返答に、ダディクールは思わず一笑を漏らしてしまった。
さもあらん、と彼は呟く。
_
(; ゚∀゚)「――!?」
そのとき、ダディクールが懐から何かを取り出して夜空に掲げて見せた。
ジョルジュは掲げられたそれを見上げ、ゴグンと音を立てて息を呑んだ。
(*´゚ω。`)「……あ、あデは!」
(*´゚ω。`)「ユーしゃの腕だ!! ユーシャの腕だ!!」
周囲の魔物がざわざわと騒ぎ立てる。
.
- 27 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:31:08 ID:ImpPfSNs0
|(●), 、(●)、|「――これこそ我が誉れ、“勇者の右腕”である!
貴様が探しているのはこれであろう?」
ダディが晒したもの、それは勇者ロマネスクが失った四肢の一つ・勇者の右腕であった。
残る三つのうち一つをようやく見つけられた。
その喜びの余り、ジョルジュはこの死闘の中に満面の笑みを浮かべていた。
_
(; ∀゚)「……よこせ……」
|(●), 、(●)、|「……我が友フサギコを賞した礼だ、あえて言おう」
|(●), 、(●)、|「勇者ロマネスクは勇敢なる戦士であった。
さりとて貴様はどうだ、我らに仇成す異端なる者よ……」
_
(# ゚∀゚)「そいつをッ――!」 ダッ!!
彼が言い切る前にジョルジュは大剣を持ち直して駆け出していた。
走りながら踵を返して一回転し、全力を込めた一撃をダディクールの脇腹に叩きつける。
_
(; ゚∀゚)「ッ!」
だがダディクールは微動だにせず、閃光を放つような鋭い視線でジョルジュを見下ろしていた。
|(◯), 、(◯)、|「この姿でも今の貴様は討ち取れようが、それでは友の未練が許さぬだろう」
――彼の甲冑の内側から、何かが溢れ出ようとしていた。
ジョルジュは死を予感した。形振り構わず、ダディクールの付近を撤退する。
|(◯), 、(◯)、|「……異端なる者よ、我が矛先に勇姿を晒すがいい……」 メキッ…ボコッ…!!
ダディクールの甲冑が弾け飛び、内側から溢れ出た血肉が彼の姿を瞬く間に変容させていく。
天高く膨れ上がる肉体、大地に沈む巨大な蹄――次の瞬間現れたるは、人が立ち向かうには余りにも強大過ぎる化け物だった。
.
- 28 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:33:06 ID:ImpPfSNs0
_
(; ゚∀゚)「……ハッ……でかくなったな……!」
乾いた笑いで空を見上げる。
変身したダディクールは、ジョルジュの身の丈を五倍にしても足りないほどの巨体と化していた。
『……しかと見よ。勇者の腕をもいだ、我が肢体を……』
その立ち姿を生き物に例えるならば、二足歩行の黒毛の雄牛であった。
月を串刺しにするような鋭い一角。
口内から飛び出した牙は太く強靭で、ジョルジュの大剣すら小さく見えるほど巨大。
大木のような両腕の先には重厚な手の平があり、鉄をも斬り裂く先鋭な爪が伸びている。
両腕が大木ならば蹄のついた両脚はまさに大木の幹であり、黒く分厚い蹄は彼の全身を支えて余りある威圧感で大地を踏み締めていた。
_
(# ∀ )(……向こうの見た目が変わろうが、こっちのやるこたぁ変わらねえ……) ズシッ…
ジョルジュは大剣を構えた。剣の切っ先は今も変わらず、空高くにある敵の顎先を向いていた。
- 29 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:33:38 ID:ImpPfSNs0
『――死力を尽くせ。さもなくば滅びよ!』
次の瞬間、雄牛の鉄槌が地面を叩いた。
ジョルジュはこれを避け、雄牛の腕を駆け上がって敵の頭上に飛び上がった。
_
(# ゚∀゚)「お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙ッッッッ!!」
『面白い! 初撃より、我が一角に剣を向けるか!』
雄牛の頭蓋めがけてジョルジュは全力で大剣を振り下ろした。
それを迎え撃つは雄牛の額から伸びる一角。
ぶつかりあった一撃は一瞬の均衡を見せた後、互いを大きく弾き合って状況を仕切り直させた。
_
(; ∀゚)「――ッ!?」 ザリッ
しかし、着地して構え直したジョルジュは即座に大剣の異変に気がついた。
剣身に亀裂が見える。あと数度打ち合えば砕け散ると直感で理解できた。
『――どうした!! 無様を晒すには早かろう!!』
_
(; ゚∀゚)「おっ、……うおおおおおお!!」 グオオオオッ!!
だが最早立ち止まっているような余裕はジョルジュには無かった。
周囲の魔物でさえ息を呑む攻防。
大剣の銀閃と雄牛の赤き眼光は、夜闇の中で絶えず軌跡を描き続けた――
.
- 30 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:34:05 ID:ImpPfSNs0
――――バキン!!
_
Σ(; ゚∀゚)「ッ!!」
その時、互角に渡り合っていたジョルジュの大剣が遂に限界を迎えた。
剣身の中ほどで真っ二つに砕け散る大剣。その向こうには、雄牛の爪が迫ってきていた。
『――もらった!!』
瞬間、雄牛の爪がジョルジュの胴を薙ぎ払う。
ジョルジュは観衆の魔物達をも巻き込んで吹っ飛んでいき、斬り裂かれた胸から大量の血を噴き出して地面を跳ね転がっていった。
『…………』
血肉を裂いた雄牛の爪には生々しい臓物の破片がくっついていた。
雄牛は腕を振るってそれを払い、起き上がろうとするジョルジュに双眸を向ける。
_
(; ∀ )「……それでも……」 グッ…
_
(; ∀ )「俺のやるこたぁ……変わらねえ……」 ヨロッ…
――まだ、何かある。
よろめきながら立ち上がったジョルジュを見て、雄牛はなお戦闘態勢を崩さなかった。
_
(; ∀゚)「……借りるぞ」 ガシッ
そしてジョルジュが手にしたのは、甲冑と共に脱ぎ捨てていた腰の一振り――“勇者の聖剣”であった。
.
- 31 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:34:52 ID:ImpPfSNs0
――ジョルジュが手にした細身の剣が、かつて勇者ロマネスクが振るっていた聖剣なのは一目で分かった。
雄牛はかつてその身に聖剣の一撃を受けたことがある。
黒毛の奥に隠れた傷跡をさすり、雄牛はジョルジュに言葉を投げかける。
『……貴様のような選ばれなかった者が、その剣を振るおうとは、恐れ入る……』
『代償は高かろう、勇者ならざる者よ……』
_
(; ∀゚)「それでも今は……生きている……!」
――ジョルジュの手で聖剣が光り輝く。
だが、それは決して彼の味方をするものではなかった。
この光は、勇者以外の者が剣を持たぬよう施された拒絶の光である。
勇者以外が触れれば身を焦がし、体を蝕む聖なる力だったのだ。
_
(; ∀゚)「――ッ」
聖剣の光はどんどん強くなっていった。
聖なる光は確かにジョルジュの傷を癒やしてくれたが、光はそれ以上の速度で彼の体内を焼き尽くさんとしていた。
このまま聖剣を持ち続ければ、ジョルジュは内側から聖剣に焼き尽くされて命を失うだろう。
_
(; ∀゚)「……」 スッ…
だからこそ、その前に決着をつけるのだ。
瞬間ジョルジュが疾走する。今宵の終焉は、もう目の前に迫ってきていた。
.
- 32 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:35:54 ID:ImpPfSNs0
『――見事なり!! 勇者ならざる者よ!!』
_
(# ∀ )「お゙お゙お゙お゙お゙お゙――!!」
再び至近距離で打ち合う両者。
武器が軽くなった分だけジョルジュは身軽に立ち回り、確実に雄牛の攻撃を捌けるようになっていた。
_
(# ∀゚)「――ッ!」
刹那の中に光明を見出す。
ジョルジュは防御を捨て、雄牛の片脚に聖剣の切っ先を走らせた。
『――ぬうッ!』
_
(# ∀゚)「――ッ!!」
そこに更なる隙が生まれたと見るや、二撃三撃と雄牛の脚を斬り刻む。
聖剣のバックアップを受けた最速の連撃は、二十もの斬撃を数秒に圧縮して繰り出す事を可能としていた。
『おのれええええッッ!!』
雄牛の鉄槌が大地を叩き割る。
ジョルジュは大幅に距離を取り、雄牛の次の行動に意識を集中した。
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- 33 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:36:51 ID:ImpPfSNs0
『貴様、その聖剣に何を混ぜた……!』
深く唸るような怒りの声。
雄牛は両手を地につけ四足になり、赤い眼でジョルジュを捉えた。
『――否!! 是非も無し!! いかなる邪法を用いようと、我が一角に敵うものあらず!!』
雄牛の後ろ足が地面を蹴り上げる。
猛狂った息吹が湯気だって空に上る。
雄牛の猛りは地響きとなって砦、山、そして森の中にまで響き渡った。
周囲の魔物達も次の瞬間に怯えて逃げ惑い、身を守れぬものは我先にと砦の外に逃げ出していた。
_
(# ゚∀゚)「……俺は、次の勇者が出てくるまでの、繋ぎでいい……」
『――なればこそ、ここで討ち取らん!!』
雄牛は首をもたげて天を裂く雄叫びを轟かせた。
そして雄牛は後ろ足で大地を抉り、その巨体に全速力を乗せてジョルジュに爆進した。
一角の切っ先は迷わずジョルジュの心臓を狙う。
_
(# ∀ )「おおおおおおおお――――!!」 ダンッ!!
迫り来る雄牛めがけて聖剣を振りかぶり、一歩踏み込んで振り下ろす。
振り下ろされた聖剣の切っ先は雄牛の一角に直撃して火花を爆発させ、そして凄絶な閃光を放つと同時に彼の一角を打ち砕いていた。
_
(# ∀゚)「――――――おおおおおおおア゙ッッ!!」
ジョルジュは雄牛の一角を斬り捨てて足元に潜り込み、突進の勢いを利用して雄牛の剛体を深々と斬り裂いて見せた。
喉元から後ろ足にかけて走り抜ける斬撃――それは致命の一撃となった。
『ヴォ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!』
雄牛は死を確信させる程の激痛に涎を振りまきながら体勢を崩し、勢いそのままに地面を転がって砦の外壁に激突した。
とたん、追い打ちのように砦の外壁が大きく傾き崩れ始める。
外壁の瓦礫は雄牛の上に降り注ぎ、その周囲は次第に血混じりの土煙に満たされていった――
.
- 34 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:38:23 ID:ImpPfSNs0
_
(# ゚∀゚)「――――――」
_
(; ゚∀゚)「――――ハア!! ハアッ!! ハアー……ッ!!」 ガクッ
瓦礫から雄牛が這い出てこないのを見てから、ジョルジュは緊張に堰き止められていた呼吸を必死で繰り返した。
肩を上下させながら、自分が生きている事を確かめるように深呼吸を繰り返す。
体内を焼き続けている聖剣を手放し、そこでようやく人間らしい恐怖と痛みを思い出す。
_
(; ゚∀゚)「ハァー……! ハァー……ッ!!」 ガクガクブルブル…
体の内側を焼いていた業火は段々と収束した。
死闘の疲労も、雄牛の爪に抉り奪われた血肉も、聖剣の加護が幾分かは回復してくれていた。
だが、たとえ外傷を治したとしても、彼が今まで受けてきた死に至るだけの傷は丸ごと死の恐怖と化し、彼の生肌に張り付いたまま離れようとしなかった。
人が人ならざるものに立ち向かう代償は、確かにジョルジュの内外に痛烈な爪痕を刻み付けていたのだ――……。
(;-_-)「――ダディクール様! お気を確かに!!」 ガラガラッ!!
|;( ), 、(◯)、|「ぬ、うう……!」
_
(; ゚∀゚)「ッ!!」
そのとき、無数の瓦礫を跳ね除けてヒッキーが外に飛び出してきた。
ヒッキーは瀕死のダディクールを抱えたまま瓦礫のない場所に行くと、そこにダディクールを下ろして彼に肩を貸した。
|;(●), 、(●)、|「……ヒッキー、礼を言うぞ」
(;-_-)「よして下さい! 既に捧げた命でございます!」
彼に肩を借りて辛うじて立っているダディクールは、自分と同じように満身創痍のジョルジュを見て、ギリと奥歯を噛み締めた。
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- 35 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:39:04 ID:ImpPfSNs0
|;(●), 、(●)、|「……撤退だ。ヒッキー、我らの負けだ」
(;-_-)「……意向と、あらば……!」 ギリッ
ダディクールの撤退命令を受け、ヒッキーもまた悔しさを噛み締めながらそう答えた。
私は良い部下をもった――ダディクールは血が滴る頬を吊り上げて笑みを作る。
|;(●), 、(●)、|「……最後の仕事だ。しばし待て」
(;-_-)「あっ! お待ち下さい、危険です!」
途端ダディクールはヒッキーの手を払い除けてジョルジュに歩み寄っていった。
しかし彼にもう敵意は無い。一人の戦士として、彼は然るべき幕引きをしようとしていた。
_
(; ゚∀゚)「……ンだよ、逃げねえのか……」
ジョルジュは膝を折り、さきほど捨てた聖剣に手を伸ばしながら言った。
ダディクールは手の平を突き出してそれを止め、懐から“勇者の右腕”を取り出してから言葉を続けた。
|;(●), 、(●)、|「……貴様の勝ちだ。持っていけ」
彼は地面に勇者の右腕を置き、次いで、己の左腕を雄牛のものに変容させた。
_
(; ゚∀゚)「ッ!」 ガバッ!!
ふたたび雄牛の腕となった彼を見て咄嗟に聖剣を握るジョルジュ。
だが、ダディクールが左腕を変えたのは死ぬまで戦う為ではなく――
|;(◯), 、(◯)、|「――ふッ!」
_
(; ゚∀゚)「……なにっ……?」
――己の右腕を、己の爪で斬り落とす為であった。
.
- 36 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:40:20 ID:ImpPfSNs0
|;(●), 、(●)、|「……ふうっ」
右肩から先を、自分の爪で斬り落としたダディクール。
彼は傷口を抑え、不敵に笑いながらドクオに告げた。
|;(●), 、(●)、|「勇者の右腕は、そも勇者の物である……」
|;(●), 、(●)、|「ならば此度は、我が右腕をそちらに預けるが道理というもの……」
_
(; ゚∀゚)「……てめえ……」
|;(●), 、(●)、|「我らは再び相まみえるであろう。
その時まで、その命、業火に焼き尽くされるでないぞ……」 ザッ
そう言い残してダディクールは踵を返した。
目的を果たした以上、ジョルジュもこれ以上、彼の後を追おうとはしなかった。
(;-_-)「……度し難い。しかし見事です、ダディクール様」
|;(一), 、(一)、|「褒めてくれるな。傷は深いのだ……」
ヒッキーに連れられ闇に溶けていくダディクール。
_
(; ∀゚)「…………」
その後ろ姿を、ジョルジュは一人の剣士として、最後まで見届けていた――――
.
- 37 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:40:40 ID:ImpPfSNs0
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- 38 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:41:58 ID:ImpPfSNs0
【5】
ノパ⊿゚)「――こうして、西の砦からは魔物が消えたとさ」
_
( ゚∀゚)「……で、預けた剣はどうした」
ノパ⊿゚)「とっくに出来てるよ。確かめな」
機械仕掛けの家の中、オレンジ色のランプの下で、二人は取引の最終チェックを行っていた。
テーブルを滑ってこちらに戻ってきた聖剣の鞘を取り、ジョルジュは剣を慎重に抜き取って検めた。
_
( ゚∀゚)「……ああ、悪くねえ」 カチャン
ジョルジュは微笑んで剣を収め、立ち上がってその鞘を腰に戻した。
背中には真っ二つになった大剣、腰には二振りの聖剣。元通りとはいかないが、ジョルジュは今回の結果に満足していた。
_
( ゚∀゚)「…………」 ガチャッ ガチャッ ガチャッ
ノパ⊿゚)「……んだよ。甲冑の修理ならよそに依頼してくれ」
_
( ゚∀゚)「ありがとう。これは、友達の大事なものだったんだ」 スッ
ヒートの近く歩み寄ったジョルジュは片手を差し出した。
寡黙な男が垣間見せた義理堅さに応えない訳にもいかず、ヒートはそっぽを向きながら握手に応えた。
_
( ゚∀゚)「悪いな。魔女狩りも金になるんだ」 ヒュッ
ノパ⊿゚)「――えっ?」
瞬間、聖剣の刃が音もなくヒートの首を断った。
ジョルジュは、多額の賞金を賭けられている魔法使い・素直ヒートの首を持って外に出た。
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- 39 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:44:02 ID:ImpPfSNs0
ガチャッ……ガチャッ……ガチャッ……
夢遊の森へと続く草原を、甲冑を鳴らしながら進んでいくジョルジュ。
やがて森に入ろうかというところで、森の木陰からヒョッコリとしぃが顔を出して現れた。
(*゚ー゚)「……」
_
( ゚∀゚)「……悪いな。お師匠さんならこの通りだ」 プラーン
ジョルジュはもぎたてのヒートの首をしぃに突き付けて見せた。
しかし少女は顔色一つ変えず、ジョルジュの背後に回り込んでクルッと一回転して見せた。
(*^ー^)「それ、要るんでしょう? ならあげるわ。次は、友人としてお話しましょうね」
少女はくすくすと笑い、そのまま機械仕掛けの家にトテトテと駆けていった。
_
( ゚∀゚)「……」
_
( ゚∀゚)「……まあ、これも魔女の首には変わりねえか……」 ザッ
ジョルジュは麻袋に魔女の首を片付けてから森に入った。
甲冑が軋む音は森の中に消え、彼の戦いもまた、歴史の闇に消えていった――……
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- 40 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:44:22 ID:ImpPfSNs0
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- 41 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:44:50 ID:ImpPfSNs0
アスキー暦 510年 世界各地で魔物の存在が確認される。魔法、マナの存在も実証される。
アスキー暦 514年 ショボーン国王、痛風が痛すぎて死亡(真偽は不明)。
アスキー暦 514年 新国王モナー、爆誕
アスキー暦 516年 第一次魔人戦争勃発。国王軍は多くを失いながらも、国土の防衛に成功。
アスキー暦 517年 ファイナル村の杉浦ロマネスク、岩に刺さった聖剣を引き抜き、勇者として旅に出る。
アスキー暦 519年 勇者ロマネスク、魔王討伐に失敗。四肢を奪われ、意識不明の状態で帰還。
アスキー暦 522年 魔王軍の侵攻、苛烈を極める。
アスキー暦 523年 モナー国王、国土の一部を完全放棄。人と魔物の戦争、膠着状態に突入する。
アスキー暦 524年 勇者、現れず。
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- 42 名前: ◆44QuBkraqk[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 21:45:13 ID:ImpPfSNs0
アスキー暦、525年。
勇者は未だ、現れず。
―― 完 ――
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