( ^ω^)さらばロシア・フォルマリズムのようです

2 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:15:18.08 ID:91WfxnLC0

( ^ω^)「先生、これで僕の目は治ったんですかお」

白い壁に囲まれているのか白い世界の中に壁があるのか、
ともかく一面真っ白な部屋の中で内藤ホライゾンが言いました。
彼の目にはこれまた真っ白な包帯が巻いてあります。

(-@∀@)「ああ、大丈夫だよ内藤くん。これで君の目は色彩を取り戻したはずだ」

アサピー先生が安心させようと、優しい声音で言いました。

内藤ホライゾンは生まれたとき、とても綺麗な目の色をしていました。
光の当たる加減によって彼の目は赤色にも緑色にも青色にも見えたのです。

あまりの美しさに、彼の出産に立ち会った人々が食い入るように見つめてしまったため、
彼の目の色は人々の視線に本当に食べられてしまって、もう何の色も残っていませんでした。

それ以来、彼の世界から色は失われました。
彼は生まれて最初に見た病院の白い壁と天井以外に色を知りません。

4 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:16:57.87 ID:91WfxnLC0

(-@∀@)「この包帯をとれば、君の世界には様々な色が飛び込んでくるはずだ」

先生は内藤ホライゾンの体を掴み、窓の外へと顔を向けます。
同時に、先生の手が彼の目にかかった包帯を解き始めました。

( ^ω^)「先生、楽しみで、仕方ないんです。色って、どんなものなのか」

早く見てみたい。
少し頬を紅潮させながら嬉しそうに言います。

(-@∀@)「大丈夫、もうすぐ見えるよ。ほら、これで包帯がとれたよ」

彼の目を覆っていた真っ白な包帯がぱさり、とこれまた真っ白な病院の床に同化するように落ちました。
落ちたときのぱさり、という音は病院の白い壁に反射し、ぐるりと彼のまわりを一周するうちに、
壁や床の白色に染められて真っ白になり、そこからさらに幾つもの影を生み出しました。

そのぱさり、の影がまた同じように反射して、真っ白になる頃に、
彼はゆっくりと目を開けました。

8 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:19:02.35 ID:91WfxnLC0

(-@∀@)「ようこそ、色のある世界へ」

先生が少し気取って言いました。
何時の間にか、白くなったぱさりから生まれた影も真っ白になり、それがさらに影を生み、さらにその影も周囲の白さに染められて(略)
それを続けているうちに部屋の中はぱさりでいっぱいになっていました。

そして、

( ^ω^)「これが、」

そして、内藤ホライゾンはぱさりだらけになった部屋の中から、生まれて初めて白以外の世界を見たのでした。


■ ■ ■

しくしく。しくしく。
ピンク色は泣いていました。
そんな彼女に青色が心配そうに声をかけます。

「どうしたんだい」

「みんながアタシをイヤらしい色だって言うの。ピンクは18禁だって。アタシそんな軽い色じゃないわ」

10 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:21:02.14 ID:91WfxnLC0

そんなことないよ、
そう言おうとして青色は口を閉ざしました。

東の果てにある「日本」という黄金の国ではピンク色が性の象徴として用いられていることを、
マルコ・ポーロの東方見聞録を読んで知っていたからです。

「落ち着きなよ、あんな大東亜の端っこの小さな島国の言うことなんて気にするなよ」

「でも、卑猥な映画を『ピンク映画』って呼んだり、アタシの肖像権や著作権はどうなるのよ!名誉毀損よ!脱税よ!」

興奮しているためか、ピンク色の言葉はもう滅茶苦茶です。

「あんな新年に餅で家をつくったり、わら人形で誕生日を祝うような、イカれた魚ばっか食ってる連中の言うことなんて、気にするなよ」

青色は如何に日本という国が滅茶苦茶で、出鱈目で、変態性欲者ばかりが住まう気のふれた土地かということを力説します。
全て東方見聞録や毎日新聞の英語版で仕入れた知識でした。
実際に正しいのかどうかはわかりませんが、毎日新聞の英語版記事の正否などは瑣末なことです。

青色はともかく、それ等の知識を総動員してピンク色を慰めました。

「それに欧米じゃピンク色は赤ん坊の肌を表す新しい生命の色じゃないか!」

13 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:23:48.31 ID:91WfxnLC0
その、あまりの必死さにピンク色の顔にも少しずつ笑顔が戻っていきます。

「その点、僕なんか欧米じゃブルームービーとか言ってエロビデオの代名詞にされてるんだぜ」

青色が少し自嘲気味に言いました。

「ていうか、憂鬱の色とかエロビデオの色とか、僕ってマジでどうなんだよ!」

青色は少し涙目になって叫びました。
特にオチはありません。


■ ■ ■

( ^ω^)「この色はなんだお」

左手のパレットを掲げてツンに尋ねる。
初めて色彩を捕らえた僕の目は貪欲にそれを求め続けた。

目が治ってからの数日間、僕は絵の具を混ぜ合わせてはツンに色の名前を尋ねていた。
定員割れした美術部は鳥渡前に廃部になった
下校時刻の美術室には僕とツンしか居ない。

放課後の茜色が目に眩しい。

15 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:25:26.27 ID:91WfxnLC0

ξ゚听)ξ「それは山吹色。隣のが若草色ね」

( ^ω^)「………………………」

僕が世界には白以外にも色があるという事実を知った頃にはもう、
世界中にはこれでもか、というくらいに色が溢れていた。

この世に存在する何もかもには既に色がついていたし、
もしかしたら、色がついていないものは存在できないのかもしれない。
だとしたら、この茜色を支える夕日に僕は感謝しなければいけない。

( ^ω^)「これは何色だお」

ξ゚听)ξ「それは猩々緋」

帰りのHRが終わってから下校時刻になるまでの四時間。
僕らは他愛のない会話を続けては、時折思い出したかのように絵の具を混ぜた。
それは永らくめくるのを忘れていたカレンダーを一気に破り捨てる感覚に似ていた。

この四時間が終わるまではこの絵筆とパレットが仇としよう。


■ ■ ■

16 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:27:22.53 ID:91WfxnLC0
( ^ω^)「この色にも名前ついているのかお?」

ξ゚听)ξ「それは臙脂色」

こうしてツンとパレットを挟んで向かい合うのは日課と化している。
僕は臙脂色を絵筆の先で何度も掻き回した。
絵の具たちは何を主張するためか知らないが、少しでもこれを怠るとすぐに水分を追い出して凝固してしまう。

この絵の具が固まれば僕等の空談も止まってしまうのではないか。
根拠の無い強迫観念に駆られて僕は右手の絵筆を動かし続けた。

僕が世界は色で溢れているという事実を知った頃にはもう、
世界中の色には既に名前がつけ尽くされていた。

僕は様々な色を作ってツンに尋ねるが、それ等にはもう既に名前がついていた。
聞いたことのある色の名前もあったし、聞いたことの無い名前もあった。
時にはそれらの前に「薄い」や「濃い」という形容詞がついた。

ツンはそれらの形容詞も含めて名前なのだと言った。
そうなると、僕はまだ名前のついていない色を意地でも探したくなった。

17 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:29:21.62 ID:91WfxnLC0

( ^ω^)「あのさ、ツン」

ξ゚听)ξ「なに」

( ^ω^)「僕がこれまで見せた色には全部名前があるお」

ξ゚听)ξ「うん」

( ^ω^)「僕がまだ見せていない、たくさんの色にも名前はあるのかお」

ξ゚听)ξ「当然よ、だって」

名前があるから色は色として認識されるんじゃない。
ツンは言った。

赤色という名前が無ければその色は赤色じゃないし、
私は赤色と定義されていない赤色を赤色と認識することは出来ないわ。

僕にはよく理解できなかったが、彼女の言葉はとても理屈が通っているように聞こえた。

( ^ω^)「でも、それじゃあ」

この世の色の名前にはそれぞれ全てに名前がついていて、
さらに、そのそれぞれ全てに「薄い」「濃い」という形容詞がついているのなら、

( ^ω^)「世界は色の名前だけで埋め尽くされてしまうんじゃないかお」

18 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:31:41.04 ID:91WfxnLC0

ツンの震える手が、
色素の薄い、しかし艶やかな白磁色の指が、
その先に張り付いた鴇色の爪が、

絵筆を握る僕の右手に重なった。

ξ゚听)ξ「想像させないで、怖い。そういうの」

( ^ω^)「僕は、」

見てみたい。
世界中が溢れ出した色の名前の下で遺跡になるのを。

白磁色と鴇色の世界の中で思った。


■ ■ ■


「このままでは名前が溢れ出してしまいます」

天国で名前の一人が神様にそう進言しました。
神様がこの世界を作ったときに、世界中のものには相応しい名前がつけられました。
存在する名前の数も神聖数字の累乗になるように計算されつくしていました。

20 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:32:59.21 ID:91WfxnLC0

しかしある時、世界には人間という勝手な生き物が現われました。
人間と言う勝手な生き物は、勝手と言うからには大層に自分勝手な行いを働きました。

畏れ多いことにも彼等は、自分達で新しいものをどんどん作り出し、
それ等にどんどんと新しい名前をつけていったのです。

毎日毎日、天国には新しい名前が犬猫のようにぽんぽんと生まれてくるので、
あっという間に天国には土地価格や穀物価格の高騰、失業率の上昇などの、
様々な社会問題が蔓延していったのでした。

「もういいよ。あいつら、なんか勝手に俺のこと死んだことにしてるし」

神様は面倒臭そうに言いました。

「なんか色?ってゆうの?あいつ等数多すぎだしウザいし、何人か地上界に追い出しちゃえよ」

多くの名前がそうだそうだ、と賛同を示しました。
しかし、彼等と神様に真っ向から反対意見を述べる名前も居ました。

「しかし神様、彼等の名前が無くなると少しばかり不便になるのでは」

21 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:35:03.67 ID:91WfxnLC0

そう言ったのは人間の名前のうちの一人でした。
彼は、さらに一歩前にでて神様に訴えかけます。

「どうしても彼らを地上界に追い出すというのならば、まず私の首を撥ねてから、おやりになりなさい!」

一瞬、神様と名前たちが静まり返りました。
神様は少し考えたあと「うん、いいよ」と言うと、
反対意見を述べた名前の首を撥ねて殺してしまいました。

こうしてこの名前は死んで消えて無くなってしまったので、
この名前を持つ人間は全員が名無しになりました。
これが匿名掲示板「2ちゃんねる」などで書き込みを行っている名無したちの正体です。

名無しでは不便だろうということで、
時代によっては彼らに権兵衛という仮の名前がつけられることもありました。
これが「名無しの権兵衛さん」の由来です。

彼らの本当の名前は、既に消えてしまっているので、
作者にはそれを書くことも呼ぶこともできません。
みなさんに教えられないことが、残念でなりません。

信じられないと思うかもしれませんが、これは全て事実です。
最近流行の「実話を元にしたフィクション」というやつです。
英語で言えばリアルフィクション!

22 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:36:37.59 ID:91WfxnLC0

まあ本当は全部が全部、今適当に作った与太話なんですけどね。
やーいやーい!騙された!
スイーツ!(笑)


■ ■ ■


或る日曜日のことだった。
絵の具を整理していると、いくつかの色が無くなっていることに気がついた。
使い切ってしまったのだ。

毎日毎日放課後が来るたびに使っているのだから、絵の具の消耗は激しい。
彼らはまるでシャイクスピアやワーズワースを切り刻み、言葉の一片一篇まで研究しつくさんとする、
スクルーティニー一派のような熱心さと激しさでその身を減らしていったのだった。

打倒印象批評派を志すスクルーティニー一派に新規参入者を送り込むべく、
僕は文具店を訪れねばならなかった。

彼とはそこで出会った。

(´・ω・`)「やあ、随分熱心に絵の具を見ているね」

突然だった。
絵の具を選んでいる最終に、背後から突然声をかけられたのだ。
僕の右手の指先には、緑色の絵の具が摘まれている。

24 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:39:39.08 ID:91WfxnLC0

( ^ω^)「はぁ、」

僕は思わず溜息なんだか相槌なんだか、曖昧な返事を返していた。
彼はこちらの困惑になどお構い無しに喋りかけてくる。

(´・ω・`)「何かお探しの色でもあるのかな」

( ^ω^)「はい」

(´・ω・`)「良ければ、どんな色を探しているのか教えてくれないかな」

( ^ω^)「実は、」

まだ存在していない、名前の無い色を探しているんです。
そう言うと彼は少し驚いたような顔をした。

最近になって、ようやく白以外の色を知ったこと。
この世の色には全て名前がついていて驚いたこと。
名前のついていない新しい色を見つけて幼馴染を驚かせたいこと。

僕は様々なことを彼に語った。

(´・ω・`)「ふむ、おもしろいね。実は僕も新しい色を作っているんだ」

彼は僕の手から緑色の絵の具を取り上げると、文具店の商品棚にもどした。

25 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:40:36.44 ID:91WfxnLC0

(´・ω・`)「駄目だよ、まだ誰も知らない色を作りたいなら、既にある色を混ぜても、」

既に在る色しか作ることはできない。
言いながら彼はにやりと笑った。

(´・ω・`)「僕はショボ、君は」

( ^ω^)「内藤ホライゾンですお」

その日から僕らはお互いに作った新しい『色』を見せ合うようになった。


■ ■ ■


( ^ω^)「どうぞ」

手にしたパレットには昨日作り出したばかりの色があった。
小学校時代の赤点の算数のテストと小学校の入学式で拾った桜の花びら、
それ等を初めて色のある世界を見た、あの病院の景色の思い出で溶かしてみたものだ。

26 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:41:40.51 ID:91WfxnLC0

(´・ω・`)「君の『色』は、」

パレットの上にしか無いのかい。
ショボはそう尋ねた。

確かに彼の作る『色』は様々な形をしていた。
ある時、彼の作った『こんなにも楽しい高校野球の世界』は紙に書かれた詩だった。

また、『くたばれ携帯小説』は古いラジカセに録音された歌だったし、
『カヴェナンダーを忘れない』は消しゴムを削って作られた彫刻だった。
『週間少年サンデー50周年』に至っては、水槽の中の土に作られたアリの巣だった。

彼はそれ等の『色』を見せるたびに感想を求めたのだが、
素直に僕がよく分かりませんでした、と告げると決まって悲しそうな顔をした。

(´・ω・`)「それで、君はこの『色』に名前をつけるのかい」

( ^ω^)「いいえ、僕の探していた『色』はこれじゃ無いような気がするんですお」

そう宣言すると、在り方を定義されなかった『色』は消えていった。
僕が見つける新しい色の名前はとっくに決まっている。
しかし、なかなかその名前に見合う『色』が作り出せない。

僕は歯痒いものを感じて頭をぼりぼりと掻いた。


28 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:42:58.99 ID:91WfxnLC0

■ ■ ■

パレットの上で紫色が叫んだ。

「僕は紫色になんてなりたくなかった!やめて!僕を赤と青に戻して!」

絵筆が無慈悲にも紫色を絡め取るとキャンバスにそれを塗りたくっていった。

■ ■ ■


(´・ω・`)「色っていうのはもっと自由なものだと思う」

何故ショボは新しい色を作っているのか。
尋ねられた彼は、少し考えるような素振りを見せたあと、唸るように言った。

(´・ω・`)「今まで、色はたくさんの、本当にたくさんのものを表現してきた」

ある時それは僕達の先祖が洞窟に描いた狩の獲物の色を表現していたり、
またある時は王侯貴族の権威の象徴として用いたれていた。
官吏の官位を分けるために使われたこともあった。

詩の中に色が出てくるばきみは視覚情報のそれと他の感覚情報を結びつけて感動に浸ることができるだろう。
僕達はこの世のありとあらゆるものを色でもって切り分けて僕達の表現としてきた。

しかし、この世界に存在するあらゆるものに対して、既存の色での表現はあまりに限定的で、
あまりにも不自由なのではないだろうか。

31 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:44:11.91 ID:91WfxnLC0

(´・ω・`)「きみはギリシャ神話は好きかな」

( ^ω^)「いえ、よく知りませんお」

(´・ω・`)「ギリシャ神話にはね、プロクルステスという怪物が登場するんだ」

プロクルステスは通りがかった旅人を自分の家のベッドに寝かせてくれる。
でも、その旅人がベッドより大きければ、はみ出した部分を切断してしまう。
逆に小さければ、手足を引っ張って伸ばして、ベッドに丁度いい大きさにしてしまう。

旅人という外から来る自然を自分の内にあるものに無理矢理合わせてしまう怪物なんだ。

(´・ω・`)「僕はね、既存の色はこのプロクルステスのようなものだと思っている」

僕達は世界にあるものを、自分の知っている色や常識、観念に合わせて切り取ってしか表現できないし、
知ることもできない。でもね、

(´・ω・`)「僕は、色っていうのはもっと自由なものだと思う」

色を、プロクルステスなんて怪物の住処にしてしまってはいけない。

ここで、やっとショボの口が閉じた。

32 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:44:48.01 ID:91WfxnLC0

僕はというと、今日発売のマガジンとサンデーのどちらを先に立ち読みするか、
そればかりを考えていて、正直彼の言っていることは半分も理解できていなかったが、
素直にそれを言うと彼はまた悲しそうな顔をするに違いないので黙っていた。


■ ■ ■


今日も授業が終わった。
早く新しい色を作り出したかった僕は家路に着こうとしていた。
そこにツンの声がかかった。

ξ゚听)ξ「どうしてなの」

( ^ω^)「どうしてって、何がだお」

ξ゚听)ξ「内藤はもう、色づくりには飽きてしまったの」

僕はここでようやく、彼女が何を言わんとしているのか思い至った。

(;^ω^)「違うお、僕はただ、」

ツンと一緒に新しい色を見たくて、だから新しい色を作りたくて、

33 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:46:01.94 ID:91WfxnLC0
ξ゚听)ξ「もう、今ある色は全部覚えちゃったから、内藤には私はもう要らないの、ねえ、答えて」

違う!
僕はただ、きみと一緒に新しい色を見たかった。
きみが困ったような笑ったような顔で「こんな色は知らないわ」って言うのを見たかった。

だから僕はきみにも会わずに毎日いろんなものを混ぜ合わせて新しい『色』をつくっていたのに!

僕の頭の中が一瞬で真っ赤になった。
脳細胞の全てが赤色に染め抜かれて、言語野も後頭葉も大脳皮質も脳髄も脳漿も全部が全部、
真っ赤っかに染まってしまった。

だから当然、僕の目は赤色しか見えなかったし、口から出る音も全部赤色だった。
脳に入った血も普段よりさらに真っ赤になって体中に出て行った。
ただでさえ赤い血がさらに赤くなったのだから僕の体中にまで赤みは染み出してきた。

真っ赤になった僕を見た体中が、横断歩道の前に4列縦隊に並んで青信号になるのを今か、今か、と待っていた。
信号が青になったらみんなで手をあげて横断歩道を渡りましょう。
先生が言った。

ξ;゚听)ξ「内藤、どうしたの」

ツンが心配そうに声をかけてきた。
僕は咄嗟に彼女の手を握って引っ張り、美術室へ向かっていた。

34 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:47:15.93 ID:91WfxnLC0

青信号になった。
4列縦隊に並んだ体中が僕を横断していく。
何人がフライングした。
先生が怒鳴っている。

(;^ω^)「僕は、」

美術室の扉を開けるなり叫んだ。

( ^ω^)「いや、僕と、結婚しよう」

ξ;゚听)ξ「え」

ツンが意味の無い声をあげた。
不思議そうな顔をしている。
僕はまたやってしまったのだろうか。

歩行者信号が点滅。
車道の信号は黄色になっている。

あかしんごう みんなでわたれば こわくない
叫びながら隊列を組んだ装甲騎兵が騎兵突撃を敢行した。

青信号が点滅したら横断歩道に入るのはやめましょう。
既に横断歩道に入ってしまっている人は速やかに出ましょう。
先生が言った。

35 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:47:39.80 ID:91WfxnLC0

ξ゚听)ξ「意味わかんない」

けど、イヤじゃない。

ツンがそう言った瞬間、
僕は赤色でも青色でも黄色でもなくなった。
体中のあちこちが交通事故を起こして車両故障、運行故障を起こした。

相次ぐ玉突き事故で最初に事故を起こした車はもう、CD-Rみたいに薄っぺらくなってる。
断続的に続く交通事故の衝撃は僕の心臓を揺らし、鼓動が早鐘を打ったように早くなった。

( ^ω^)「『ツン』」

僕は思わずその色に名前をつけていた。
新しい色を作り出すことができたら、ずっとつけようと思っていた名前。
『ツン』。

ξ゚听)ξ「なあに」

呼ばれたと思ったツンが返事をした。
世界の色が堰を切ったように溢れ出した。

■ ■ ■

36 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:48:53.78 ID:91WfxnLC0

この時、天国に新しい色の名前が生まれました。
地上界の内藤ホライゾンという人間の作り出した『ツン』という名の色です。
既に増えすぎた名前で飽和状態だった天国の神様と名前たちは怒り狂いました。

穀物価格の高騰による飢餓と人口過密による居住環境の悪化により、
彼らの幸福値と衛生値はとっくにマイナスに振り切れていて限界に達していたのです。
戦略ゲームなら何時パルチザンが発生してもおかしくない状態です。

「マジざけんなよ。言っとくけど俺の地元だと色系の名前とかマジでノーカンだから」

激怒した神様は名前の中でも特に数の多い色の名前を天国から追放することにいました。
こうして天国では色の名前狩りが行われ、ありとあらゆる色の名前が地上界に放り捨てられました。

泣き崩れていたピンク色も、
必死にそれを慰めていた青色も、
まだ生まれたばかりの『こんなにも楽しい高校野球の世界』も、

色の名前は見つかり次第に天国を追放されました。

■ ■ ■


( ^ω^)「…………………」

世界の色が堰を切ったように溢れ出した、
というのは比喩表現ではなかった。
実際に様々な色の名前が降ってきていた。

37 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:49:59.56 ID:91WfxnLC0

世界中で。

地上に落ちた名前はバラバラに砕け散った。
ツンは声を上げる間も無く、その破片の洪水に浚われていった。

ツンみたいに破片の洪水に浚われていった人はまだマシな方だった。
落ちてきた色の名前に当たった人間はもっと悲惨だ。
彼らは砕けた色の名前とぐちゃぐちゃに混ざり合って、色の名前なのか人なのかわからなくなった。

おちおち外も歩けない。

その日以来僕は家に引きこもった。
ツンはどこに行ったのか探しもしたが、一向に見つからなかった。
電話もメールも通じなかった。

もう外の世界に未練は無かった。
しかしどうしても最後に言いたいことがあって窓を開けた。

( ^ω^)「僕が引きこもったんじゃないお!僕がお前等を部屋の外に閉じ込めてるんだお!」

バーカ!
ざまあみろ!


38 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:50:35.45 ID:91WfxnLC0

■ ■ ■

ニュース23です。
まずは明日の天気予報からお伝えします。

関東地方から東北地方では夜明けから正午にかけて、
『ちょっと薄めの青色7号』と『かなり濃い唐棣色』が、
午後三時ごろからは『灰色の少し強い利休鼠色』が深夜まで降り続くでしょう。

それ以外の地域でも昨日から引き続き、断続的に『薄い鴨の羽色』と『やや薄いとび色2号』が降る模様ですので、
お出かけの際は注意が必要です。

続いて、政治のニュースです。
三日前に中華人民共和国東北地方に降り立った『カヴェナンダーを忘れない』に対して、
ついに中国共産党は人民解放軍の派遣を決定いたしました。

これを受けて、麻生総理は未だ四国地方で暴れている『くたばれ携帯小説』に対して、
自衛隊の派遣も視野に入れた対応を検討すると―――

■ ■ ■

39 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:51:36.24 ID:91WfxnLC0

( ^ω^)「マジかお」

穴が開いて拉げてしまった自分の家を見上げた。
空から落ちてきた『ぽっちゃり系の生牡蠣色』に押しつぶされたのだ。
僕は部屋の外へ閉じ込められてしまったのだ。

どうしよう。
家を無くした僕はホームレスになってしまった。
ホームレス?あの公園とかに自然に沸いてくる謎の生物?

いやいやいやいや、それは無い。

僕は学生だ。多分。
でも、学校はとっくに潰されてしまっている。
じゃあ僕は学生ですらないのだろうか。

ただのニート。
それをどうしても認めたくなかったので、暫く僕はネットカフェ難民をやることにした。

ネットカフェ難民は今ではプロレタリアに次ぐ立派な労働者階級として認知されていて、
マック難民よりも高級感があるので人気があった。

とりあえず職業を聞かれても「ネカフェ難民っす」と言っておけば、
保険にも入れるしアパートも借りることができた。
そう、世はまさに大ネカフェ時代。

40 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:52:21.22 ID:91WfxnLC0

こうして僕はネットカフェを探して町を彷徨った。
ただ、そのネットカフェ難民にも厳然とした階級が存在した。
一言にネットカフェといっても二種類に分かれていたからだ。

漫画喫茶も兼ねているタイプのものと、
純粋にパソコンが置いてあるだけのタイプ。
今では前者が主流で後者は絶滅危惧種と言っても過言ではない。

人々は希少価値に惹かれる。
当然、ネットカフェ難民の中でも上位に君臨するのは後者に宿泊するもの。
前者に宿泊するものは徹底した社会差別を受ける。

例えば、吉野家でも葱は乗せ放題にならないし、王将でもギョーザに使える醤油は限られている。
マックで水を頼んでも断られる。
人生の楽しみの八割は失うことになるのだ。

仕方無いので、僕は純粋にパソコンが置いてあるだけのタイプを探した。

三日間ほど駅前を探し回って、僕はようやくそのタイプのネットカフェを探し出した。
しかし、そこには僕と同じような境遇の人々が大挙して押し寄せてきていた。
その光景を目にした瞬間に、僕は吉野家の葱と王将の醤油とマックの水を諦めた。

人生が八割ものダイエットに成功した。

41 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:53:23.55 ID:91WfxnLC0

( ^ω^)「こんなの紹介してもビリーみたいに売れないお」

僕は適当な漫画喫茶も兼ねたネットカフェの個室に入ると、早速2ちゃんねるを開いた。
ニュー速ヘッドラインを見てみる。
どうやら世間は相当混乱しているようだった。

今月だけで3000人の画家と30000人のハイパーメディアクリエイターが自殺した。
色の名前が落ちて砕けてしまったからだ。
名前を失い指向性の消失した色は存在することができない。
当然だ。

ブルーハーツはただのハーツになってしまって、
赤い彗星もただの彗星に。
イエローモンキーなんてただのモンキーだ。

一方、灰色がバンド名の語源になっているグレイは名無しになると思われていたが、
スペルが違ったので間一髪助かった。

しかし、そんなことは些細な変化に過ぎない。

一番恐ろしいのは、ショボのつくった新しい『色』だった。
イスラエルに降り立った『週間少年サンデー50周年』は先日、
IDFとの三日間に渡る死闘の末、ようやく壊されたらしい。

42 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:55:11.31 ID:91WfxnLC0
どういうわけか、ショボのつくった新しい色の名前たちは世界中で破壊の限りを尽くしていた。
円谷の特撮映画にでてくる怪獣さながらに。

ちなみに創造主のショボはというと一週間も前に死んでいる。
中国共産党の人民裁判で銃殺刑にかけられてしまったのだ。

(´・ω・`)「色はもっともっともっと、もっと自由であるべきだ!」

それが彼の最後の言葉だった。


■ ■ ■


もう黒と白以外の殆どの色が消えていました。
モノクロになってしまった世界の中で内藤ホライゾンはアサピー先生を見つけます。

( ^ω^)「先生!」

アサピー先生は倒壊した病院の瓦礫の上にちょこん、と腰掛けていました。
病院も、病院の近辺の建物も、病院の近辺に無い建物も、全て映画MIBラストのゴキブリのように潰されています。
犯人は空から落ちてきた色の名前です。

43 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:56:14.92 ID:91WfxnLC0

彼らはルパン三世でもなければ怪人21面相でも鼠小僧でもないので、
もちろん立つ鳥後を濁しまくりで、内藤ホライゾンや先生の住む西日暮里は廃墟と化していました。
おそらく故・筑紫哲也さんが突撃リポートをしていたらきっとまた温泉街に例えていたでしょう。

そしてマルティン・ハイデガーならハンマーに、
ジークムント・フロイトなら性欲の象徴に例えていたでしょう。

まあ彼等は何を見ても同じようなものにしか例えないでしょうが、
そんなことは作者の知ったことではありません。

(-@∀@)「ああ、内藤くんか」

( ^ω^)「おひさしぶりですお!先生!」

内藤ホライゾンは久しぶりに他人を目にしたので、
少し興奮してアサピー先生に走り寄っていきました。

(-@∀@)「その後、目の方はどうだい?」

( ;ω;)「先生………」

先生の問いに内藤ホライゾンは突然泣き出しました。
綺麗だった彼の瞳の色も今や白黒の単色になっていました。

44 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:57:03.27 ID:91WfxnLC0

( ;ω;)「こんな世界は、こんな世界なら、僕は、見たくありませんでしたお」

彼は人目も憚らずにわんわんと泣き出したのです。
そう、彼は泣き出したのでした。
泣き出したのでした、
泣き出したのでした………………

( ;ω;)「なにも、見たく、ありませんでしたお」

(-@∀@)「内藤く、」

その瞬間、空から『黒色』が落ちてきて先生を押しつぶしました。
地面にぶつかってバラバラになった『黒色』の破片が飛び散ります。
黒色の破片だか先生の破片だかわからない『それ』が喋ることはもうありませんでした。

しかし、これは大変なことです。
モノクロの世界からついに黒色まで消えてしまったのです。
当然、黒色の無くなった世界ではものの輪郭すらハッキリ見えません。

( ;ω;)「何も、見えないお、」

何も、、、、、


45 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:57:40.02 ID:91WfxnLC0
■ ■ ■

『そして彼はそれが、色が、光が、
 町に生きる人々の営みであり、
 諸処の生産活動を通して類的存在としての人間と文化との関係の中に、
 自己を放り込む行為だと知るのであった』

■ ■ ■


僕は何をするでもなく膝を抱えて座り込んでいた。

( ^ω^)「………………………」

世界中から全ての色が消えてしまった。
僕にはもう何も見えないし、何も見たくない。
だからもう世界には僕以外に何もない。

解釈学的現象学によれば『過去を見つつ現在にある未来』こそが人間存在の意味らしい。
もう何も見えないのだから当然過去だって見えない。
僕という現存在の意味は完全に消え失せたことになる。

どうしよう。

46 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:58:06.13 ID:91WfxnLC0

考えても仕方が無いので僕は頭の中でイリオモテヒトモドキという架空の生物を作り出して、
人類との共存の可能性について72時間ほどかけて考察してみた。
すると「そもそも架空の生物は存在していないので共存は不可能」という結論が出た。

いよいよもって何もする事が無くなってきたので、
僕はひたすら色を罵倒することにした。

(#^ω^)「色のバカタレボンクラニート野郎低脳便常時チョン不能野郎ごく潰しの親不孝者(略」

色なんてもう大嫌いだ。
そもそも色が消えたからこんなことになっているのだ。
しかし、本当に全ての色が消えてしまったのだろうか。

まだ降ってきていない色があるはずだった。

僕の中にはまだ、その消えていない『色』が残っているのだから。
最後に残った『色』が僕の中から手を差し伸べた。
僕は壊れ物を扱うように丁寧に、そっとその手を掴むと立ち上がった。

47 名前: ◆FuckedUfFM 投稿日:2009/03/28(土) 00:58:46.56 ID:91WfxnLC0

ξ゚听)ξ『色が無くなったなら、』

また新しい色を作ればいいじゃない。
僕の中から出てきたその『色』の言葉は僕の胸に戻るとまた沈んでいった。

もう世界には何も無かった。

とっくにカーテンコールの準備はできていた。



           ―――おわり


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