ζ(゚ー゚*ζは天使でも悪魔でもないようです

263 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/25(月) 21:20:28 ID:RSgRRJTw0
聞いた話では件の人々は放課後、
北校舎三階にある図書資料室の一角に集っているという。

ζ(゚ー゚*ζ「てなわけで……やってきたんですが……」

この薄いドア一枚隔ててトソンらが列席している。
どうも実感が湧かない。
デレが彼女たちに抱いているイメージは神出鬼没の愚連隊といったふうな、
得体の知れない不気味な集団である。

それがここに一堂に会しているという。
なんとも奇妙な感じがする。

ζ(゚ー゚*ζ「……まあ、いつまでもこうして立ち呆けてはいられないしね……」

思い切ってドアを開ける。

ζ(゚ー゚*ζ「あのー、すみません、都村トソン先輩はおられますか?」

返事はない。
デレは首を左右に動かして室内を見渡す。

264 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/25(月) 21:31:54 ID:RSgRRJTw0
ζ(゚ー゚*ζ「……あっ」

折りたたみ式の会議テーブルの、一番端に四人の影をデレは確認する。

都村トソンは粛々とした面構えで着席していて、
そのすぐそばに、長い髪の少女が侍して立っていた。
書棚にもたれかかっているのは大男。
太い眉毛が目立つ男子生徒は窓のサッシの部分に腰かけている。

こちらに視線を送ってきている。
どうやら気づいてはいるらしい。
眉毛の少年などは意地の悪そうな笑みを浮かべている。

ζ(゚ー゚*ζ「あっ、あの、ちょっといいですか」

おずおずと近寄る。

(゚、゚トソン「……なんでしょうか」

機嫌の判りづらい平坦な声音でトソンが問うてきた。

ζ(゚ー゚*ζ「ええと……そのですね、えー……」

デレは言い澱む。やはり口では伝えにくい。

265 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/25(月) 21:45:03 ID:RSgRRJTw0
ζ(゚ー゚*ζ「その……そう! これです!」

ならばとばかりに、鞄から手探りに書類を取り出して、トソンの面前にかざす。

(゚、゚トソン「これは……入会希望届?」

トソンは紙を受け取りざっと目を通す。
『配属希望先:風紀委員会』と記されてある。

ζ(゚ー゚*ζ「はい、職員室でもらってきました。
       えと、私、転校生でして、
       転校してきてからまだ一ヶ月も経ってないんですけど、
       そろそろ委員会の所属を決めろって、担任に口酸っぱく言われまして……」

(゚、゚トソン「それで、この委員会に加入したいと?」

ζ(゚ー゚*ζ「はい」

愛想よくデレが返事すると、トソンは憂鬱そうに湿気のある息を吐いた。

(゚、゚トソン「申し訳ありませんが……これは受理できません……。
     そういった権限は私どもにはありませんので……」

知っている。正式な風紀委員会として存続しているのは、ツンの側だ。
それでもデレは物知らぬ体でとぼけた顔をする。

266 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/25(月) 21:58:41 ID:RSgRRJTw0
ζ(゚ー゚*ζ「え、どうしてですか?
       直接の手続は教員を介さないでいいって聞いたんですけど」

(゚、゚トソン「それはですね……」

トソンが何か言おうとした矢先。

( ゚∀゚)「会長。別に詳しく答える必要なんてないっしょ。
     無理ってだけ伝えとけばそれで十分ですって」

割って入られる。
あの男子生徒だ。

( ゚∀゚)「いやそれにしても、この前のかわいこちゃん、デレちゃんだっけか。
     あんた結構度胸あるね」

少年は貶すような口ぶりで褒め言葉を述べると、
サッシから尻を上げて、デレに歩み寄り顔を突き合わせた。

( ゚∀゚)「どうせその用紙も、どこに入るかとかは説明せずにもらったんだろ?
     でなきゃ相手にされてねーだろうしさ。
     俺らの委員会に入りたいなんて告げようもんなら、
     絶対苦虫噛みつぶしたような顔されて拒否するからな、良識ある教師さんたちは」

シニカルに口元を曲げて話す。

267 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/25(月) 22:11:53 ID:RSgRRJTw0
( ゚∀゚)「それにこの前のことがあったばかりだ。
     普通来ないって。あんた、俺らのことうぜえって思ってるっしょ?
     ぶっちゃけると。めっちゃキレてたしさ」

ζ(゚ー゚;ζ「そんなことないですよ。
       あれは……ちょっと冷静さを欠いていたというか……」

他の三人は沈黙している。
トソンと長躯の少年は無表情を保っているが、
あと一人の少女は、表情こそ前髪で目が隠れていて読み取れないものの、
不安げに落ち着きなく手を揉んでいる。

( ゚∀゚)「いやデレちゃんには怒る権利あるよ。俺らのミスなわけだし」

(゚、゚トソン「そうですね……我々の純然たる失策です……」

トソンがそっと口を開く。

(゚、゚トソン「得ていた情報と現実に若干の、しかしながら決定的な齟齬がありました……。
     この場を借りて改めてお詫びします」

ζ(゚ー゚;ζ「いやいや、もういいですよ。過ぎたことですし……。
       それより、やっぱり入会って無理なんですかね?」

(゚、゚トソン「はい……残念ですが」

ちっとも残念そうでない様子でトソンは言う。

268 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/25(月) 22:22:48 ID:RSgRRJTw0
(゚、゚トソン「本心を申しますと……あなたほどの逸材を逃すのは惜しいのですが」

ζ(゚ー゚;ζ「フォローはいいですよ」

(゚、゚トソン「世辞の類ではありません……」

トソンは依然デレの瞳を睨んだままである。

( ゚∀゚)「うは、それってあれっすか、ツン先輩に赤っ恥かかせたからですか」

(゚、゚トソン「それは真理を捉えていはいません……。
     その点に関しては私もまったく違いませんから……。
     ただ……権威に立ち向かうその姿勢を評価しているのです……」

生徒会長と同じようなことをトソンは真顔で陳述する。
デレはなんだか背中がむず痒くなる。

(゚、゚トソン「ですが……不可なものは不可ですので。申し訳ありません」

ζ(゚ー゚*ζ「はあ、わかりました」

素直にデレは頷く。ここまでは予定通り。

269 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/25(月) 22:30:53 ID:RSgRRJTw0
ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあ、あの……ついでと言ってはなんですけど」

デレはまず一歩、深部に向けてにじり寄る。

(゚、゚トソン「いかがしましたか」

ζ(゚ー゚*ζ「ひとつ質問していいですか?
       さっき話していた情報って、どこから来たものなんですか。
       あれからずっと気になってたんですけど……」

尋ねられたトソンは頬に手を当てる。

(゚、゚トソン「ふむ……もっともな疑問ですね……。
     とはいえ、私も詳しい情報源はよく把握していないのです……。
     貞子さんに寄せられた諸々の風説を元にしているだけですので……」

トソンは一度頷くと、

(゚、゚トソン「貞子さん、デレさんに解説願えますでしょうか?」

傍らの少女に声をかけた。

270 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/25(月) 22:52:27 ID:RSgRRJTw0
川д川「ふぁ、けふん、はい、了解しました」

トソンに貞子と呼ばれた女子生徒は、まず喉を指の腹で撫でて、
それから答え始める。

川д川「ええと、とは言っても、
     具体的に誰が送ってきたのか私も判ってないんですよね……。
     ほとんどが匿名の投書によるものですし」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、どこの誰か、ってところまでは明らかじゃないんですか?」

川д川「はい。自分の足で集めているというわけではありませんからね。
     この人数ですし……」

頭上で蛍光灯がぶうんと鳴った。

川;д川「あの、本当にごめんなさい。
      私が情報をちゃんと整理していれば
      デレさんが迷惑を被ることもなかったでしょうし……」

貞子は急に怯えたような声色になって、ぺこぺこと頭を下げて謝る。
年長者だというのに随分と腰が低い。

271 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/25(月) 23:00:38 ID:RSgRRJTw0
ζ(゚ー゚;ζ「いえいえそんな、謝らなくてもいいですよ。
       私にも紛らわしい部分が合ったのは確かですし」

逆にデレは困惑してしまう。

今にして思えば、ツンにしろトソンにしろ、
早合点してしまったことについては詮方ない話ではある。
映像だけで判断すればそう勘繰られても仕方あるまい。

そこでふとデレはひとつ疑問に思う。

ζ(゚ー゚*ζ「でも……投書だけって、中傷目的の嘘も多かったりしないんですか?
       私の場合は、まあ、見かけ上仕方のないことだったにしても」

(゚、゚トソン「それは」

トソンが答えようとすると、貞子は慌てて口をつぐんだ。

(゚、゚トソン「不思議と大多数が真実なのです……。
     貞子さんがある程度は選別しているようですが、
     下調べの段階で完全な虚言、作り話だと判明することすらもないのです……」

ζ(゚ー゚;ζ「そんなに正確なんですか!?」

デレは目を丸くする。

272 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/25(月) 23:15:09 ID:RSgRRJTw0
川д川「そうですね……明らかに嘘だと判るものは外してますけど、
     それ以外は大体、本当のことです」

ζ(゚ー゚;ζ「……なんだか怖いです」

(゚、゚トソン「特に……二週間ほど前からその傾向は強まっています……。
     しかも平素校内で過ごしていたのでは知り得ないようなことまで……。
     おかげさまで私も信条を浸透させることに専念できるのですが」

まさか。
そのような奇怪がありえるのか。

そんなのは本当に――悪魔じみている。

デレは気味が悪くなる。
ぴくんと肩が収縮する。

(゚、゚トソン「例外と呼べるのは……デレさんのケース程度でしょうか」

ζ(゚ー゚*ζ「私の時くらい……」

( ゚∀゚)「そういうこと。どうよ、凄いでしょ俺らって」

少年が調子よく、人差し指を立てて返答する。

273 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/25(月) 23:31:30 ID:RSgRRJTw0
( ゚∀゚)「あとさ、デレちゃんさっきから狐につままれたような顔してっけど、
     別に難しく考える必要なんてないんだぜ。
     どういうやり方で学生どもの事情を暴いてるかまではさすがに知んねぇが、
     なんで真実ばかりがツン先輩のとこより早く集まるかってことはわかる。
     単純な話だ、それだけうちの会長の信奉者がいるってことだよ」

さも当然のことを語るかのように、自信満々にジョルジュは断定した。

ζ(゚ー゚;ζ「そんなことって……」

(゚、゚トソン「ジョルジュさん、少しお静かに頼みます」

極めて冷静な口調でトソンが咎めた。
ジョルジュと名を呼ばれた少年は悪びれもせずにやついている。

(゚、゚トソン「……デレさん。私もひとつ、あなたに質問しても構いませんでしょうか」

トソンがデレを見直す。
吸い込まれそうな闇色の瞳。

ζ(゚ー゚*ζ「な、なんでしょう」

(゚、゚トソン「それは……ここではなく、二人きりでお話したいことなのですが」

274 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/25(月) 23:42:45 ID:RSgRRJTw0
ζ(゚ー゚;ζ「二人……ですか」

(゚、゚トソン「はい」

ζ(゚ー゚*ζ「……・わかりました」

溢れんばかりの緊張感に堪えて、デレはトソンの申し出を受諾した。
最初こそ戸惑ったがここで断るわけにはいかない。

(゚、゚トソン「ということですので……しばらく退席します。
     私とデレさんは四階に行きますので……」

( ゚∀゚)「追ってくるなってことっすか? わかってますって。
     俺らもそんな野暮な奴じゃないですよ。なあ? クックル」

ジョルジュが、棚に体重を預けている少年に目配せした。

( ゚∋゚)「……」

どうやらこの大柄な少年はクックルというらしい。
しかし無口である。呼びかけられてもにこりともせず首を縦に振るだけだ。

対して貞子は気が気でなさそうである。

275 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/25(月) 23:52:39 ID:RSgRRJTw0
(゚、゚トソン「それから……ジョルジュさん、窓枠に座るのは得策とは思えません。
      油断すれば落下します……。
      どうしても座りたいのでしたら廊下側の窓を推薦します」

( ゚∀゚)「大丈夫ですって。それより、ちゃっちゃと済ませて来てくださいよ」

(゚、゚トソン「そうさせていただきます……それではデレさん、行きましょうか」

ζ(゚ー゚;ζ「はっ、はい」

見送る視線を振り払って、トソンの先導の元、デレは四階へと進んだ。

(゚、゚トソン「もう少しだけ……階段を上がりましょうか……」

ζ(゚ー゚*ζ「へっ? 四階が最上階ですよ」

(゚、゚トソン「この先は屋上です……もっとも、北校舎の屋上は無断で利用できませんが。
     その代わりこの階段には、余程のことがない限り誰も来ません……」

中腹辺りで二人は足を止めた。
そして向かい合う。
校舎において教室以外は概念的には開放された場所のはずなのに、
トソンの醸す雰囲気が閉じた空間を演出している。

277 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/26(火) 01:26:10 ID:WY2GJ.O60
(゚、゚トソン「さてデレさん……私からの質問というのは」

トソンの声はあくまで平坦で、冷ややかである。

(゚、゚トソン「あなたが私たちの活動をどう思っておられるのか――
     そのことについて意見をもらいたいのですが」

ζ(゚ー゚*ζ「どう思っているか……」

(゚、゚トソン「そうです」

デレはすぐには回答せず、熟考する。

ζ(゚ー゚;ζ(正直に答えるのは……ダメだよね、やっぱり)

建前とはいえ願書を持ってきた以上、あまり悪くは言えない。
かといって歯の浮くような美辞麗句を並び立てるのも、
ここまで接してみて感じたトソンの性格からして、そんなのは望んでいないように思える。

やられたと思った。

たぶんトソンは、察している。

278 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/26(火) 01:38:04 ID:WY2GJ.O60
ζ(゚ー゚*ζ「私は……新しいな、って思います」

しばらく考えて、ようやく捻り出せた台詞がそれだった。

ζ(゚ー゚*ζ「個人個人の認識に任せるというのは、悪いことじゃないと思います。
       私たちだってもう高校生ですからね。
       そのくらいの倫理観と判断力は身につけてます……たぶん。
       ……そりゃ、ちょっと過激すぎるところがあるとも思いますけど」

本音ではない。
いくらか理解できる点や譲歩できる点もあるとはいえ、
それでもやはりトソンの思想は間違っていると、デレはそう信じている。

(゚、゚トソン「過激。それは風紀委員会としてでしょうか?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうです」

トソンの表情にはやはり変化はない。
嘘を見抜いているのか、それとも、受け入れた上での余裕か。

ζ(゚ー゚*ζ「そこに……魅力を感じました」

(゚、゚トソン「私たちはあのような、醜い勘違いを犯してしまったのにですか」

ζ(゚ー゚*ζ「……はい」

279 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/26(火) 01:46:22 ID:WY2GJ.O60
(゚、゚トソン「そうですか……」

トソンは軽く握った拳を顎に当てる。

ζ(゚ー゚;ζ(……もう無理!)

既にデレは限界だった。
口を開くたびに矛盾が生じているように感じられて仕様がない。
何を喋ってもトソンには効果的ではない。

(゚、゚トソン「貴重なご意見、誠にありがとうございます……。
     あなたの考えを拝聴できてよかったです」

ζ(゚ー゚*ζ「はあ……」

(゚、゚トソン「しかし……新しいですか」

とても静かだ。

トソンの細い声がよく聴こえる。
その息遣いまでも。

(゚、゚トソン「あなたのような人も――そのような言葉を吐くのですね」

280 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/26(火) 01:54:53 ID:WY2GJ.O60
ぽつりと、背筋に水滴が落ちた。

確かにデレはそう感じた。
一粒の雫によって、体中に波紋が広がっていく。

(゚、゚トソン「咄嗟に漏れる言葉は最も強く印象に残っていること……。
     あなたでさえも、そのような感想を、無意識下で抱いたのですね……」

トソンは相変わらずの能面である。
それでもどこか、満足げな表情に映ってしまう。

ζ(゚ー゚*ζ「……あの……」

(゚、゚トソン「デレさん」

ζ(゚ー゚;ζ「なっ、なんでしょう」

(゚、゚トソン「あなたは、私の果たすべき目標が見えますでしょうか……?」

ζ(゚ー゚*ζ「目標って……学校の風紀を守ることじゃないんですか」

他に適切な答えは浮かばない。

281 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/26(火) 02:07:00 ID:WY2GJ.O60
(゚、゚トソン「まさしく……ですが、今のままでは前進しません……。
     ツンさんが歯止めとなっていますから……」

どうにも言動が不穏だ。頭が痛くなる。

(゚、゚トソン「彼女は……ツンさんは、縛られてしまっているのです……。
     本質を見極められず、人間が生み出したルールによって翻弄される、
     虜囚となってしまっています……本末転倒と言わざるを得ません」

ζ(゚ー゚*ζ「ですけど……それが普通の風紀委員会の在り方じゃ……」

(゚、゚トソン「何をもって『普通』と定義するのでしょう……?
     ただ流されて根付いてしまっただけの考えが常識として存命するのは、
     私には堪らなく苦痛なことのように思えます……」

ζ(゚ー゚;ζ「……それを変えるってことですか?」

(゚、゚トソン「いかにも……私の考える学生にとっての規範を、
     校内の秩序を保つための新たな基準として設けたいのです」

一定のペースを崩さずに、トソンは言い切った。

デレはすっかり目的を忘れて、
調査委員としてではなく、寄る辺のない一人の少女としてトソンと相対している。

282 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/26(火) 02:23:06 ID:WY2GJ.O60
(゚、゚トソン「それには賛同者が必要です……。
     ですからツンさんたちよりも早く参じて、自論によって説伏し、
     当校の生徒たちに私の信念と存在を認知させなければ……」

トソンはゆっくりと視線を落とす。

なんだかひどく、
寂しそうだ。

やがて面を上げて、僅かに憂いを帯びた語り口で続けた。

(゚、゚トソン「人によっては……単なる売名行為のように映ったり、
     扇動することそのものが狙いの大言壮語のように思うかもしれません。
     そういった側面があることは否定しませんが……しかし」

氷のような冷たく硬質な語調に、かすかに炎が灯る。

(゚、゚トソン「帰着する先は同じ……私は間違っているとは微塵も思っておりません」

デレの目を凝視して言った。

283 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/26(火) 02:38:26 ID:WY2GJ.O60
(゚、゚トソン「この学校は私が変えて見せます……」

繊細に開閉する紫色の唇から、不釣り合いなほどに力強い言葉を紡がれる。

デレには到底信じられない。

暴論に人が従うのか。
暴挙で人が動くのか。

ζ(゚ー゚;ζ(やっぱり……この人むちゃくちゃだよ……)

しかしトソンは本気である。
そしておそらくは、己の容姿と性質すらも自覚して、利用している。

生命感のない透明の皮膚。
墨を落としたような真っ黒な瞳。
それでもその容貌は美しさを置き去りにしていない。

痩せた体で浮遊するように歩く。
霊気を纏って佞弁を弄す。

幽霊のような少女。

トソンが放つ独特の雰囲気に惹かれる者も幾人かいるのかもしれない。

284 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/26(火) 02:51:30 ID:WY2GJ.O60
(゚、゚トソン「仮に私の時代に成し遂げられなくとも、
     次はジョルジュさんが継承してくれます……。
     彼は来月、生徒会選挙に出馬するそうですから……」

ζ(゚ー゚*ζ「それを足がかりに、ですか」

(゚、゚トソン「はい。彼には革新を期待します……。
     叶うことならば、私自身が在校している間に達成したいのですが……」

ζ(゚ー゚;ζ「達成って……さっき話していた、新しい基準だとかの……」

(゚、゚トソン「そのとおりです。それの定着です。
     風紀委員会自体の転身とも言い換えられましょうか……」

ζ(゚、゚;ζ「そんなことが……・本当に……出来るんですか?」

(゚、゚トソン「出来ます。私と、私の同士ならば可能です……」

かたん。トソンはひとつ階段を上る。
デレを見下げて、青白い顔に膜のように影が降りる。

小さな口唇が震えた。


(゚、゚トソン「それが――悪魔の務めですから」

285 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/26(火) 03:00:24 ID:WY2GJ.O60
ζ(゚ー゚*ζ「……えっ?」

悪魔。
空耳ではない。間違いなくトソンはそう言った。

(゚、゚トソン「疾うに承知です……そのように揶揄されているのでしょう、私は。
     結構なことです。悪魔ならば……悪魔なりに行動するだけです。
     私にそれだけの力があると、そう保障されているようなものですから……」

ζ(゚ー゚;ζ「それは……」

かたん、かたん、かたん。
一段ずつトソンが下りていき、デレの真横を通り過ぎる。

(゚、゚トソン「私はこのまま図書資料室まで戻りますが……デレさんはどうぞ、
     お好きになさってください。来るのも、来ないのも自由です……。
     幸い、荷物も持ってきているようですし……」

デレの右手に握られた通学鞄を見やりながら、トソンが言う。

(゚、゚トソン「それでは……」

最後にかけられた言葉もデレにはよく聴こえなかった。
遠ざかっていく悪魔を眺めるだけで、しばらく放心していた。


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