- 34 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/22(水) 22:00:47 ID:Dsu8GcHU0
三日ほどもすればデレは転校先での生活にも馴染んだ。
接してくれる人間は皆親切だったし、デレも元々気立てのいい性質をしていたから、
デレがクラスに溶け込んでいくことに不便も障害もなかった。
学校という空間そのものが自分を受け入れてくれている。
校舎は見下ろしているのではなく、見守っているのだ。
そんな気がした。
(´・ω・`)「えー、というわけで、しばらく皆さんの授業を担当することになりました。
よろしくお願いしますね。それでは早速始めたいと思います」
金曜日の四時限目は世界史。
まさに兄のショボンが受け持っている科目だが、週の終わりの金曜日という日にちがそうさせるのか、
あるいは昼休み直前という時間帯がそうさせるのか、どうも教室内に覇気がない。
ζ(゚ー゚;ζ(一番の理由は世界史ってところなんだろうけど)
隣のハインも船を漕いでいる。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/22(水) 22:21:01 ID:Dsu8GcHU0
- 居眠りしたり他の科目の勉強をする生徒はまだいいほうで、
ひどいのになると弁当に手を付けている。
蒸れたような臭いが辺りに漂う。デレはその臭気に若干不快になる。
(´・ω・`)「ええと、確か、西欧史は一学期の間にルネサンスまで終わらせてるんでしたよね。
授業計画表にそうありますから。ということで、今日からロマン主義の学習に入ります」
そんな雰囲気を微塵も気にする様子もなくショボンは講義を始めた。
(´・ω・`)「えー、ロマン主義。十八世紀から欧州を中心に起こったムーブメントですね。
人間の『本質』に迫る文化体系とでも呼びましょうか。
その根にあるのは抑圧からの解放、といった精神的な欲求からです」
ショボンは黒板に、『教条主義』と書く。
(´・ω・`)「さて特に試験などで取り上げることのない単語ですが、
一応これにも触れておきます。ロマン主義以前の、いわゆる宗教支配的な考えですか。
当時の欧州では宗教というものは大いに人々の理性を構築する指針となっていました。
理性とは人間が人間である所以ですね。
理性がなければ人は動物と変わりません。理性があるから人なんです」
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/22(水) 22:38:44 ID:Dsu8GcHU0
- 一定のペースを維持してショボンは続ける。
(´・ω・`)「ただそうした教義は導く能力よりも抑えつける能力のほうが大きかったりする。
要するに人々の自主性、自由、そういったものを奪う側面があったわけですね。
理性とは本来生まれた瞬間から人間に備わっているもの。
そこに注目した、つまり人間自体に重点を置いたのがロマン主義なんです」
デレは顔を上げている。
せめて自分くらいはまともに耳を傾けてやるべきだと思った。
ζ(゚ー゚*ζ(いまいち興味ない話なんだけどね……でも)
なぜか聞き入ってしまう。
ショボンの声は決して大きくなく、むしろ小さめだが、不思議と聞き入ってしまうのだ。
一度聞く体勢に入るとショボンが紡ぐ言葉に惹きつけられる。
奇妙なものだ。
(´・ω・`)「更にそれ以前の文芸復興、おっと、今はルネサンスでした。
どうも僕らあたりの世代だと文芸復興って言っちゃうんですよね。それはともかく」
一旦切る。
(´・ω・`)「既に学んであるとは思いますが、ルネサンスとは古代の文化を現代に蘇らせる運動でしたね。
その後に教義主義が来た。これによって強引さを含みつつもよい方向に進もうとした。
そして時代は移り変わり、時間を遡ることも未来を読むことも終わり、新しい思想が生まれた」
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/22(水) 22:49:03 ID:Dsu8GcHU0
- そこでようやく、ショボンは『ロマン主義』というキーワードを黒板にでかでかと刻んだ。
(´・ω・`)「これが『人』にスポットを当てたロマン主義です。
人間そのものを見つめることこそが、ロマン主義の基礎なわけです」
ζ(゚ー゚*ζ(ふうん……)
デレは思う。
ζ(゚ー゚*ζ(自分の得意ジャンルにだけは本当に明るいんだから……)
デレが知る限り、ショボンの世界史学、とりわけ思想面や芸術面に関する知識は膨大である。
彼の脳内にあるデータバンクの底はまったく見えない。
ただ博識を誇っていても、生徒に関心を持たれない限りショボンが報われることはまずない。
だから不憫なのだ。
実際ほとんどの生徒は最初から理解しようとする態度を放棄している。
ζ(゚ー゚;ζ(まあ受験で役に立たないから仕方ないんだけど)
(´・ω・`)「ロマン主義では感情であったり欲望であったりといった、
それまで避けられ気味であった生々しい部分が芸術や文化に反映されていきます。
この時代における代表的な文学作品がドイツの文学者、ゲーテの『ファウスト』です」
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/22(水) 23:04:03 ID:Dsu8GcHU0
- ファウスト。デレも耳にしたことぐらいはある。
(´・ω・`)「ファウストは二部構成の戯曲作品ですが、
実は完全なゲーテのオリジナルではないんですね。
元々は、十五世紀から十六世紀ごろに実在したゲオルク・ファウスト博士の生涯を
モチーフにした民間伝承の物語なのです。
彼の伝説として、やれ悪魔の力を身につけた、やれ錬金術に傾倒している、
その代償として研究中に爆発事故を起こして死んだ、などと色々噂されたようですが、
彼が世間から疎んじられていたこともあってか、
そこから『悪魔と契約した男』という物語がいくつか作られたそうです。
いくつか作られた、と言いましたが、
大筋はどれも最後に博士が酷い目に遭うという破滅的なストーリーとなっていますね」
ところが、とショボンは続ける
(´・ω・`)「ゲーテが再編成したファウスト博士のストーリーはまるで違いました。
最大の相違点は『最後に博士が救済される』ということです」
ζ(゚ー゚*ζ(救済?)
(´・ω・`)「ファウスト神話は、悪魔と契約した人間には必ず報いがやってくる、
という因果応報の物語ですが、ゲーテはそういった結末を用意しなかった。
最後までファウスト博士を人間として扱ったのです」
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/22(水) 23:16:24 ID:Dsu8GcHU0
- ショボンは猫背をほんの少しだけ改める。
(´・ω・`)「簡単にあらすじを話しましょう。
人間が一生で出来ることの限界に悩んでいたファウスト博士は、
ある日悪魔メフィストフェレスに出会い、喜怒哀楽のすべてを経験することを約束されます。
ただし、その代わりに死後の魂の復讐を誓わされたのです。
ここで登場するのが町娘のグレートヒェン」
以前声量は乏しいが、性質はいくらか熱を帯びている。
(´・ω・`)「ファウスト博士とグレートヒェンは恋に落ちます。
二人の恋の邪魔となるグレートヒェンの家族を殺してしまうほどに、
ファウスト博士は彼女を激しく愛しました。
ところがです。ある日、博士が悪魔にヴァルプルギスの夜の宴に呼ばれている間に、
グレートヒェンは投獄されてしまう。
罪状は実子の殺害。グレートヒェンは博士の子供をその胎内に宿していたのです」
ζ(゚ー゚;ζ(な、なんか凄いけど昼ドラみたい。サスペンスチックな昼ドラ?)
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/22(水) 23:32:39 ID:Dsu8GcHU0
- (´・ω・`)「そして――グレートヒェンは処刑されたのです。
ファウスト博士は大いに絶望します。二人の仲は永遠に引き裂かれた。
以降はもう、悪魔メフィストフェレスの言いなりですね。
悪魔の力を借りて皇帝に仕えたり、はたまた人探しの旅をしたり、
理想の国家のあり方を求めて戦争を起こしたりもしましたが、
最後はメフィストフェレスの奸計にかかり命を落としてしまいます。しかし」
ショボンは、ここからが大きく異なる、と継いだ。
(´・ω・`)「ファウスト博士は決して悲惨な死を迎えませんでした。
死の間際に彼は最上の幸福を予感したのです。
そこで彼の願いに呼応するかのように奇跡が起きる。
博士の魂を契約どおり横取りしようとした悪魔メフィストフェレスを、
なんと天使たちが追い返してしまうのです。いやあなんともドラマチック」
ζ(゚ー゚*ζ(ドラマチック、かあ……)
確かに感動的ではある。
ζ(゚ー゚*ζ(だけど……)
ご都合主義――ではないかとも思う。
ハッピーエンドに至ることこそが『追い求めるべき人間の本質』なのだろうか?
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/22(水) 23:46:30 ID:Dsu8GcHU0
- (´・ω・`)「そういえば戯曲ファウストの開幕は天使ミカエル、ラファエル、ガブリエルの歌ですから、
ある意味伏線だったのでしょうかね。そこまではわかりませんが。
いや余談になりました。続けます」
ショボンはもみあげのあたりをかいてから再開する。
(´・ω・`)「更に登場するのが、なんとかつて死別した最愛の恋人グレートヒェン。
彼女の霊が聖母に祈りを捧げたことで、博士の魂は浄化され、無事に昇天します。
ここにファウスト博士の救済は完成しました。
オリジナルとはまったく違う趣の、なんとも美しい物語となっています。
こういったシナリオ展開をゲーテが考えついたのは、ロマン主義の先駆者である
同じドイツ出身の詩人、ノヴァーリスの『青い花』という作品における、
『愛による成長』という抒情性たっぷりのテーマに影響を受けていると考察できいますね」
さて、とショボンは付け加えた。
(´・ω・`)「なぜこれがロマン主義的であるか、というのが問題になります」
デレはここで自分以外にもショボンの話を聴講している生徒が数人いることに気づく。
その一人がブーンだった。後ろ頭がうんうんと頷くかのように上下に揺れていた。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/23(木) 00:03:44 ID:k3JyGjbQ0
- (´・ω・`)「一番目立つ要素としてはグレートヒェンの存在ですね。
彼女を単なるヒロインの立場だけでなく、『救い手』として扱ったことが大きい。
これは女性の本質は清らかであり男性の救世主たりうる、という理想が込められています。
女性の中に聖母マリアを見出してるわけですね。
そういった理想を人の内面に求めていることがまさにロマン主義なのです」
そしてもうひとつは――ショボンは続ける。
(´・ω・`)「最初に宣言したように、
この作品は最後までファウスト博士を一人の人間として尊重しています。
それまでは悪魔と契約した人間はろくな最期を迎えないとして描いていますが、
ゲーテの『ファウスト』では救われています。
すなわち、『悪魔に憑かれた者』が、嫌悪ではなく同情の対象になっているんですよ。
これが非常に興味深い点でして、同時にロマン主義的思想の象徴といえます。
悪魔に魅入られることは不幸であっても、魅入られてしまった当人は糾弾されるべきではない。
人間はどこまでも人間なのです。たとえ何があっても揺るぎません」
まだハインは眠っている。
一方のデレは依然冴えている。
(´・ω・`)「ちょうど、その頃は欧州の魔女狩りもすっかり衰退していましたしね。
そうした時代背景も悪魔に対する考え方の変化に影響を及ぼしたのでしょう」
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/23(木) 00:12:25 ID:k3JyGjbQ0
- そこでチャイムが鳴る。
(´・ω・`)「え、もう終わり? しまったあ、教科書が全然進まなかった!
テストに関係ないことを長々と話してしまった!」
ζ(゚ー゚;ζ(え、全部余談なの?)
試しに教科書を開いてみると、
そこには『ロマン主義』『ゲーテ』『ファウスト』という単語が無機質に記されているだけで、
内容や解釈に関してはまったく触れらてていない。
ζ(゚ー゚;ζ(本当に全部余談だった!)
デレはずっこけそうになる。
よくもまあ脇道に逸れたままここまで長広舌をふるえるものだ。
(´・ω・`)「えー、まあ、そういうことでして、今日の授業はここまでということで。
宿題等は出しませんから教科書ノートだけ準備しておいてくださいね。
それでは」
締めの挨拶もそこそこに、ショボンはすたすたと大股で去っていった。
教室の空気が緩和される。
ハインもようやく目覚めたらしく、両手を突き上げて背伸びをしている。
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/23(木) 00:22:38 ID:k3JyGjbQ0
- 从 ゚∀从「んん……ぷはー。やっと終わったか」
ζ(゚ー゚*ζ「ずっと寝てたの?」
从 ゚∀从「おう。フルで寝てたぜ。おかげで体調良好!」
ハインは歯を見せて笑う。なんとも快活な笑顔だ。
( ^ω^)「寝てただなんてもったいない。
中々聞きごたえのある授業だったお! ねぇデレちゃん?」
横からブーンが口を挟んでくる。
ζ(゚ー゚;ζ「え? まあ……そこそこね」
从 ゚∀从「なんだよー同意しちゃうのかよ。
お前ら、あんな退屈な話ずっと聞いてたの? 信じられねぇ」
ζ(゚ー゚;ζ「う、うん、一応試験に出るかもって思ってね」
ここで、『自分の兄だからです』とは答えられない。
なぜ姓が違うか尋ねられても理由が理由だけに真面目に返答するのは恥ずかしいし、
何も訊かれないのも居心地が悪くなるだけだ。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/23(木) 00:40:24 ID:k3JyGjbQ0
- ハインとの昼食を済ませた後、デレはぼんやりと教室中を見渡していた。
ζ(゚ー゚*ζ「みんなリラックスしてるなあ……あれ?」
ふと、ある一ヶ所に目が止まる。
('A`)「……っしゃああああ! フォーカード! 俺の勝ちだな!」
ミ,,゚Д゚彡「んがあ! マジ運ゲーすぎんだろこいつ!」
('A`)「これが持ってる男と持ってない男の違いだ」
ミ,,゚Д゚彡「うぜえ……あー最悪。よりによってこの時に……」
教室の隅の席で、男子二人がトランプで遊んでいる。
確か又聞きした記憶だと、鬱田ドクオという生徒と、房村フサという生徒だったはずだ。
様子を見る限りではドクオが勝利したらしく、
口角が片方だけ吊り上がったいやらしい笑みを浮かべている。
対するフサは悔しそうに眉根を寄せていた。
だが、ただ勝敗が決しただけにしては、妙に感情と熱気が込められすぎている。
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/23(木) 00:45:46 ID:k3JyGjbQ0
- ('A`)「ほれほれ、諦めてさっさと支払いな、フサちゃんよー」
ミ,,゚Д゚彡「……ちっ、わかったよ。ほら」
フサが卓上の財布を乱暴につかみ、そこから百円硬貨を数枚取り出す。
そしてそれをドクオに握らせた。
ζ(゚ー゚*ζ「あ」
ギャンブルだ。
ζ(゚ー゚;ζ「いいのかなあ、学校でやってて。ばれたら大変なことになりそうだけど」
从 ゚∀从「ああ、あいつらなら頻繁にやってるぜ」
ζ(゚ー゚*ζ「そうなの?」
从 ゚∀从「まっ、ちんけな額しか賭けてないみたいだから、大事にゃならないよ。
かわいいもんだぜ。百円単位の争いなんだから」
ζ(゚ー゚*ζ「かわいいかな?」
从 ゚∀从「かわいいよ。なんていうか、ガキっぽいっていうか?
ああいう小さなことに心から熱くなれるのって男子だけだからねーやれやれさ」
両手の平を天井に向けて、首を横に振りながらハインは呆れたように言う。
テンプレートな外国人めいた仕草だったのでおかしかった。
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/23(木) 00:51:45 ID:k3JyGjbQ0
- ミ,,゚Д゚彡「くっそう……もう一戦だもう一戦! レート上げて再試合だ!」
('A`)「お前、レート上げろって取り返す気満々じゃねぇか……。
ま、いいぜ。返り討ちにしてやんよ。財布の中空になっても知らんぞ?」
ミ,,゚Д゚彡「馬鹿言えトータルじゃ俺のほうが勝ってるっての。ほら、さっさと混ぜろ」
('A`)「ちょい待ちな……」
ドクオがカードを回収しようとした瞬間である。
がたん。
ドアが勢いよく開いた。
ζ(゚ー゚;ζ「わっ、なっ、なに?」
思わずドアの方向を見る。
デレだけではない。教室にいた全員がそちらに視線を向けていた。
開け放たれたドアの先には――天使がいた。
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/23(木) 01:09:03 ID:k3JyGjbQ0
- ζ(゚ー゚*ζ「……え?」
天使――ではない。そんなはずがない。
あれは少女だ。
教室と廊下の境目に立っているのは紛れもなく少女。
けれど、ただの少女とはとても言えない。並ならぬ雰囲気を発している。
ξ゚听)ξ「少々、いいかしら。すぐに終わりますので」
瞳が大きく、睫毛も長い。だから一層鈴張りの目に拍車がかかっている。
体は華奢で脚はすらりと長い。
腕を組んで立っているから手元は分からないが、わずかに覗くその指は、細く白く、しなやかである。
瞬きは少なく、やや顎を上げ、唇の端に微笑を湛えている。
自信に満ち溢れた表情。
二つにまとめられた巻き髪。
顔のパーツの配置も含め、微塵の狂いもない左右対称の外見。
完璧を擬人化したような、そんな美少女。
ζ(゚ー゚*ζ(綺麗な人だなあ……)
人形のようだとデレは思った。
しかし和人形ではない。西欧の人形だ。顔立ちが日本人的ではない。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/23(木) 01:17:35 ID:k3JyGjbQ0
- 少女の登場と同時に教室内がさあっと静まりかえる。
全員が全員沈黙し、ある者は顔を背け、ある者は俯き、ある者は釘付けになっている。
ζ(゚ー゚*ζ「ど、どうしたのみんな? あの人、誰なの?」
从 ゚∀从「天使委員会だ」
ζ(゚ー゚*ζ「え? 今なんて?」
从 ゚∀从「あの人は天使委員会の会長……津雲ツン先輩だよ」
ハインが暗い声で呟く。
ζ(゚ー゚*ζ「天使委員会? もしかして、この前に言ってた、風紀委員のこと?」
从 ゚∀从「うちのクラスにも天使が……来ちまったのか……」
――風紀委員会は『ふたつ』ある。
――『天使委員会』と『悪魔委員会』。
ζ(゚ー゚*ζ「じゃああれが……あの人が」
やはりこの可憐な少女は――天使だったのか。
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/23(木) 01:26:51 ID:k3JyGjbQ0
- ζ(゚ー゚;ζ「……でも、でも、変じゃない? なんでみんな委縮してるの?
天使なんだから怖がることはないじゃない」
悪魔を恐れるのであれば理解できる。
しかし天使に恐怖を覚えるなど聞いたことがない。
ツンは変わらずドアの前で直立不動の姿勢をとっている。
注視してみると、その背後に数名の男女入り混じった学生の姿が見える。
あの集団も天使委員会か。
从 ゚∀从「じきにわかるよ……いや、もうすぐだ。もうすぐデレにもわかるぜ」
ζ(゚ー゚*ζ「もうすぐって……そうだ!
天使委員会って、要は風紀委員会なんでしょ?
誰かが校則違反をしたことが……あっ」
思い立ったようにデレはツンの目を見た。
青が混濁した瞳はある一点をひたすらに見つめ続けている。
最初から今まで、ずっとツンはその一点のみを捉えていたのだ。
その射竦めるような眼差しの先には、ドクオとフサがいた。
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