- 56 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/27(月) 20:14:55 ID:CH4QBQVk0
- 二人して動かない。固まっている。
ツンは悠然と歩み寄る。
その背後を委員と思しき数人の生徒が追う。
ξ゚听)ξ「房村フサさん」
相手を直視して言う。
ミ,,゚Д゚彡「な、なんですか」
声が震えている。背丈はフサが上であるのに、ツンが見下ろしているようにデレには映った。
ξ゚听)ξ「なんですか、ではないでしょう。あなた自身が一番わかっているはず。
当校制定の校則第二十三項『娯楽、嗜好品の持ち込み制限』、
及び第五十七項『強制力を伴った金銭のやり取りの禁止』。
これらの規定にあなたは著しく違反していますでしょう?」
ミ;゚Д゚彡「きょ、強制たって、実際は、こ、こいつと合意してやってんだぞ!
そ、そりゃ、賭けてたことには変わりはないけど、無理やりじゃなく、お互いに理解して……」
ξ゚听)ξ「相互であろうと合意の上であろうと関係ありません。
厳密な審査の結果、校則違反、それも悪質なケースと判断しましたので」
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/27(月) 20:30:08 ID:CH4QBQVk0
- ミ;゚Д゚彡「悪質? ど、どこがだよ!? 誰にも迷惑かけてないぜ?
しかもこんな突然……」
ξ゚听)ξ「誰にも? あなたの行為によって学校の調和が乱れないとでも?
何よりもあなた自身のためにならないのではないかしら?」
ツンは目にかかった前髪を払って、続ける。
ξ゚听)ξ「それに突然ではありませんわ。今回の決定には時間を要しました。
当校には具体的に賭博を禁じるような校則はありませんからね。
一般レベルのモラルが備わっていれば、そもそもありえない事例ですから」
視線は交錯したままである。
ξ゚听)ξ「それが――よくありませんでした。あなたのような生徒を生んでしまいました。
一線を超えた部分をモラルだけに任せるのはやはり問題があるようですね。
そこで今回は、過去の判例なども参照して、規則の解釈を拡張することに決めたのです。
なんとしても不埒な学生を取り締まり我が校の風紀を保たねばなりませんから」
ミ;゚Д゚彡「で、でもさ、誰でもやってるよ、こんぐらい」
ξ゚听)ξ「誰でも? よくもまあ言えたものですわね。己の罪を薄めようとでも言うのですか?
残念ですがそれは無理な注文というものですわ。
あなたの犯したことは既に起きてしまった事実。見苦しい。認めなさい」
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/27(月) 20:38:34 ID:CH4QBQVk0
- ツンの語調が強くなる。
ξ゚听)ξ「認めなさい! あなたは校則を破ったのです!
まさかまだ言い訳の余地があるなどとお思いかしら?
とんだ思い上がりですわね」
ミ;゚Д゚彡「う……み、認めるのは認めるよ……」
フサはすっかり気圧されて萎びた青菜のようになっている。
それでも何か反論しようと口をもごもごと動かしているが、結局言葉にはならない。
ζ(゚ー゚*ζ「ねぇハイン」
从 ゚∀从「なんだ」
ζ(゚ー゚;ζ「あんなちょびっとの金額の賭けでこんなに怒られちゃうの?」
从 ゚∀从「額とかそういう問題じゃないんだよ。天使委員会は……厳正なんだ」
厳正。
从 ゚∀从「天使委員会に特別はないんだ。見逃されるなんてこともない。
連中はどこまでも公平で、緻密で、絶対で」
だから皆恐れてるんだよ――ハインはそう結んだ。
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/27(月) 20:54:13 ID:CH4QBQVk0
- ξ゚听)ξ「房村フサさん、あなたには以下のなすべき事項を課します。モララー」
( ・∀・)「はい」
ツンの背後に侍していた男子生徒が返事をした。
ξ゚听)ξ「伝えて。手短にね」
( ・∀・)「了解しました。ええと、房村フサを甲、風紀委員会を乙として、
今回の校則違反に関して甲は乙に反省文を四百字詰め原稿用紙六枚にまとめ提出。
また甲は二週間の間乙の監視下に置かれることを了承するように」
ミ,,゚Д゚彡「は、はあ……」
( ・∀・)「最後に乙は、甲に対して、罪の告白と改悛の弁を述べることを要求する。
簡単に言うと懺悔だね。会長に向かって頼むよ。ちゃんと聞き取れる声でね」
ミ;゚Д゚彡「やっぱりそれもですか」
( ・∀・)「ああ知ってるみたいだね。誰かがやってるところを見たのかな。じゃあ話が早い。よろしく」
そこまで早口で言い終わると男子生徒はまたツンの後ろへと下がった。
再びツンとフサが対峙する。ツンはこれまでと変わらない、澄み切った瞳で睨むように見つめている。
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/27(月) 21:03:13 ID:CH4QBQVk0
- ζ(゚ー゚;ζ「みんなが見てる前でそんなことさせられるの? 嫌だなあ……」
从 ゚∀从「みんなが見てなきゃダメなんだよ。
それが重要なんだ、あいつらには」
ζ(゚ー゚*ζ「どういうこと?」
从 ゚∀从「周りの人間に見せつけてやるのが狙いなんだよ」
ζ(゚ー゚;ζ「恥をかかせようってこと? なんだか性格悪いねそれ」
从 ゚∀从「そうじゃねぇ。見せるのは個人じゃない。場面全体だ」
ζ(゚ー゚*ζ「へ?」
意味がよく解らない。人ではなく場面を見せるとはどういうことか。
从 ゚∀从「まあ見てな」
ハインは多くを語ってくれない。
仕方なくデレはツンの方向に目を戻す。
フサは怯えている。ツンは勝ち誇っている。あまり長く眺めていたい光景ではなかった。
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/27(月) 21:12:27 ID:CH4QBQVk0
- ミ,,゚Д゚彡「わ、私は」
ξ゚听)ξ「小さい」
フサが意を決して開口したそばからツンが咎めた。
ξ゚听)ξ「小さすぎます。本当に自らの行為を後悔しているのですか?
反省の気持ちが感じられません。
私はあなたのためを思ってこうして駆けつけましたのに。
これ以上失望させないでくださりません?」
屹然とした口調である。
凹凸がはっきりしている凛とした横顔は惚れ惚れするほど美しく、だけど同時に、
ひどく恐ろしかった。
天使のような顔で鋭い言葉を投げかけている。
ミ,,゚Д゚彡「私は!」
フサは泣きそうな顔で叫んだ。
ξ゚听)ξ「続けなさい」
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/27(月) 21:31:45 ID:CH4QBQVk0
- ミ,,゚Д゚彡「私は! こ、校則で禁止されてい、いるにも関わらず、
トランプを持ち、持ち込んで、あ、あろうことか、賭けの道具に使っていました!」
ξ゚听)ξ「ええ、その通りですわ。あなたは大いなる失態を犯しました。
その報いを今受けています。当然ですね。はい、続けてください」
温度のない声でツンは言う。
ミ,,゚Д゚彡「も、もう……」
ξ゚听)ξ「どうしましたか。聞こえませんわ。
これは決意表明でもあるのですから、明瞭な声でお願いします」
フサの肩が震えている。
屈辱からか感情の昂りからかは判別がつかないが、目に涙が滲んでいた。
ミ,,;Д;彡「も……もう二度と、こ、このような行いは、いたしません!
じ、じ、自分は、心から悪いことをしたと反省しています!
だから、も、もう、いたしません!」
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/27(月) 21:38:06 ID:CH4QBQVk0
- ξ゚听)ξ「誓いますか?」
ミ,,;Д;彡「ち、誓います! 今後は、お、同じ過ちは繰り返さないと、誓います!
ほ、本当に、本当に、も、申し訳ありませんでした!」
フサが勢いよくツンに頭を下げる。
外聞もない涙声で懺悔は終わった。
たぶん、フサは精神的に痛めつけられているのだろう。
ツンの糾弾にすっかり参ってしまっていた。
フサは泣き面を晒している。
何人もの部下を従えた少女が、仁王立ちでフサを見据えている。
それを取り囲むクラスメイト。
全員が目撃している。
音はない。
壮絶な光景だった。
ζ(゚ー゚;ζ「……」
デレは言葉を失っていた。
これでは告解どころか、処罰じゃないか――そう感じた。
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/27(月) 21:51:36 ID:CH4QBQVk0
- 从 ゚∀从「なんとなく分かったろ?
天使委員会ってのは『応報』と『平等』を見せつけるんだ」
ハインが耳元で囁く。
从 ゚∀从「校則こそがすべてなんだ、天使委員会にとっては。
整った風紀を維持するためには校則を遵守させることが一番だって、そう考えてる。
校則に背く学生がいたら徹底的に絞り上げる。ちょうど今のフサみたいに。
その一部始終を周囲の奴に見守らせて、公平性を示す。
公平こそが連中にとっての正義だ。
そうやって全校生徒を支配しようとしてるのさ」
ζ(゚ー゚;ζ「支配って……言い方が悪いよ」
从 ゚∀从「似たようなもんだよ。風紀委員なんて結局、縛りつけるのが仕事なんだから」
ハインが少しも冗談っぽく喋らないから、デレは不安になってしまう。
ζ(゚ー゚*ζ「……誰が告げ口したのかな。このクラスの誰かってことだよね」
从 ゚∀从「そんなのわかんねーよ。昼休みなんていろんな組のやつが出入りするだろ?
誰がどこに繋がってるかなんてアタシらにわかるわけないよ」
ζ(゚ー゚*ζ「ううん……そっかあ……」
ならば、いつどこで見張られているかも定かではないということか。
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/27(月) 22:07:18 ID:CH4QBQVk0
- ζ(゚ー゚*ζ「だけど……呼び名が天使委員会だなんて、変じゃない?」
从 ゚∀从「なんでよ」
ζ(゚ー゚*ζ「普通天使って言ったらいいものでしょ? あの人……なんだか怖いよ」
こんな酷薄な天使がいてたまるものか。
天使とは祝福してくれる存在だ。
从 ゚∀从「だからさ、いいか悪いかじゃないんだよ。
言ってるじゃん。天使委員会は公平って。公平ってことは中立なんだ。
そういう観点じゃ、間違いなくツン先輩は中立だ」
ζ(゚ー゚;ζ「だけど……」
从 ゚∀从「それに天使ってのは、よくわかんねぇけど、清らかなもんなんだろ?
だったらやっぱり天使なんだよ。ツン先輩に汚れたとこなんて一個もない。
……怖いくらいにな」
ζ(゚ー゚*ζ「うん……」
だとしたら、なんとなくわかる気がする。
清純で公正。絶対的に平等な価値観と、絶対的に清浄な信念を持った、堂々たる一人の少女。
それが天使、津雲ツン。
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/27(月) 22:11:19 ID:CH4QBQVk0
- 言われてみれば納得のいく話だ。
ζ(゚ー゚*ζ(……それでも……)
それでもやはり、デレはツンに対して得体の知れない畏怖を感じている。
ξ゚听)ξ「……あなたの誓言、確かに謹聴しました。
以後善処してください。さて、もう一人いましたね」
ツンは頭を垂れたままのフサから視線を外し、その後方を見た。
当然のことながらそこには共犯のドクオがいる。
怯えている。友人と同じ目に遭うことが容易に想像できるからだろう。
ξ゚听)ξ「鬱田ドクオさ――」
ツンがそう言いかけた時。
また、ドアが開いた。
ζ(゚ー゚;ζ「えっ? なに?」
ざわめきが起こり、注目の的が一気に移動する。
そこに佇んでいるのは、またしても少女。
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/27(月) 22:20:17 ID:CH4QBQVk0
- しかし纏っている空気は甚だ異なっている。
だから教室に充満していた空気もがらりと入れ替わる。
デレは背筋に寒気を覚えた。
(゚、゚トソン「その人は」
細く、抑揚のない声だった。
声量も小さい。けれど不思議と耳に沁み渡るような、独特のソプラノである。
(゚、゚トソン「その人の処置は私たちがいたします」
足音もなく、滑るように少女は歩み寄る。
その後ろを三人の男女が列になって追尾する。
ξ゚听)ξ「ちょっと!」
たまらずツンが呼び止める。しかしながら少女に動ずる様子は一切ない。
(゚、゚トソン「なんでしょうか」
表情は変わらない。というよりも、元から少女には表情がなかった。
感情というものが置き去りにされていた。
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/27(月) 22:31:29 ID:CH4QBQVk0
- ξ゚听)ξ「津村トソンさん。後から来て、いきなり私たちの職分を奪うとは、
一体どういう腹積もりでしょう?」
(゚、゚トソン「後から……いえ、後ではありません。
その人は先に私どもが目をつけていた生徒ですから。
情報の入手ルートに差異があったのでしょうか……」
トソンと呼ばれた生徒は終始落ち着き払っている。
一方、ツンは見るからに苛々していた。人差し指で組んだ腕を叩いている。
(゚、゚トソン「どうにも此度の賭け事はドクオさんから持ちかけた話らしく……」
ξ゚听)ξ「モララー、そのことについては?」
( ・∀・)「……記憶にございません」
ξ゚听)ξ「ふん!」
ツンは不機嫌そうに鼻を鳴らした。トソンは相変わらず一定の表情を保っている。
(゚、゚トソン「ですので……こちらの方の処遇は私たちが決めます」
今にも消え入りそうな声でトソンは言う。
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/27(月) 22:41:15 ID:CH4QBQVk0
- ζ(゚ー゚*ζ「ハイン、あの人は?」
デレが尋ねる。
なんとなくの目星は疾うについているが、それでも確認しておきたかった。
从 ゚∀从「津村トソン先輩……悪魔委員会の会長さんだよ」
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあやっぱり……あの人が……」
悪魔――か。
(゚、゚トソン「……よろしいでしょうか、ツンさん」
ξ゚听)ξ「好きにすればいいじゃない。私たちはお邪魔みたいですから」
澄まし顔で返答しているが、明らかにツンはトソンに対してよい感情を持っていない。
そんなツンの様子を気にも留めずにトソンはドクオに向き直した。
(゚、゚トソン「それでは……ドクオさん……これより」
平坦な声音で続ける。
(゚、゚トソン「私があなたを諭します」
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/27(月) 22:59:18 ID:CH4QBQVk0
- それにしても、とデレはトソンを見やりながら思う。
不可思議な風貌の少女である。
肌は白いというよりは透明で、若干短く切り揃えられた髪は、黒いというよりも陰のようである。
目が細く黒眼だけが異様に大きい。眉が薄いから余計に目元が目立つ。
唇の色は肌の色とそれほど変わらない。
ほのかに紫色をしている。
そして、ここでもまた重ねるが、表情がまったくと言っていいほど浮かんでいないのだ。
鼻筋も通っているし、顔の作りだけ見ればツンに匹敵するほど整っているのだが、
先に挙げた特徴のせいかまるで生気がない。
背はさほど高くないが、姿勢がいいのと細身であるために実寸より長身に見える。
ζ(゚ー゚*ζ(津村トソン先輩か……)
トソンもまた、人形のようだとデレは感じた。
しかしそれはツンとは意味合いが異なる。
生命が宿っているようには見えない――だからどこか人形のように見えてしまう。
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