ζ(゚ー゚*ζは天使でも悪魔でもないようです

75 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/29(水) 21:51:06 ID:meWBuvTc0
(゚、゚トソン「ドクオさん」

(;'A`)「は、はい」

(゚、゚トソン「何も心乱す必要はありません……どうか安らかに……ドクオさん。
     あなたは、自分の業についていかほどに思っておられますか。
     正直に胸の裡を述べてください。そのことについて責めたりなどしませんから……」

('A`)「そりゃ、悪いことしたなっていう……」

(゚、゚トソン「それだけですか?」

('A`)「へ?」

(゚、゚トソン「それだけなのでしょうか……」

吐息を漏らしながら話すので妙な色気がある。
妖気にも似ている

ドクオはその気配に吸い込まれるように続ける。

('A`)「あ……それと、やっちまった、まずいことになったなって……。
    いや、どちらかというとそっちのほうが大きいかな……」

76 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/29(水) 22:01:39 ID:meWBuvTc0
(゚、゚トソン「行為自体に対する後悔より、
     行為の発覚への悔恨のほうが大きいと……そう言うのですね?」

トソンの調子は変わらない。

('A`)「そう……なりますかね……本音を明かすと」

(゚、゚トソン「結構です」

顎を撫でつつ言った。

両者のやり取りをツンは何か言いたそうな形相で傍観している。
けれど決して口を挟んだりはしない。
トソンの空間は侵されない。

(゚、゚トソン「ドクオさん……そのように考えることは自然なことです。
     あなたの所業そのものは押し並べて観測すると悪事ではないのですから」

ζ(゚ー゚;ζ(えっ……?)

悪事ではない。確かにトソンはそう言った。
デレには理解が及ばなかった。

77 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/29(水) 22:10:31 ID:meWBuvTc0
なによりも、当のドクオ本人が驚いた顔をしている。

(;'A`)「へっ? な、なんで? 校則違反じゃないんすか?」

現にフサは先立って裁かれている。
しかしトソンは、ゆっくりと首を振ってから告げた。

(゚、゚トソン「それは……観点がミクロすぎるのです。
     聞けばあなたから持ちかけた話だそうですが、フサさんも快く乗ったそうじゃないですか。
     ここに合意が成立しているではないですか。どこにも問題はありません……」

('A`)「でも金銭のやり取りは……」

(゚、゚トソン「ですから……お互いに重々承知したうえでの取り決め事なのでしょう?
     だとしたら校則などという規制が作用するのはおかしいのです……気にすることはありません」

ζ(゚ー゚;ζ(校則がおかしいって、そんなむちゃくちゃな)

デレはそんなふうに密かに思う。

この人が語っていることは異質だ。

ツンが下唇を噛みしめているのが見える。
その心中が手に取るように読めた。

78 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/29(水) 22:16:35 ID:meWBuvTc0
ζ(゚ー゚;ζ「ハ、ハイン」

从 ゚∀从「なんだ、またアタシに解説役を期待する気か?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうじゃなくて、疑問があるんだよ!
       悪魔委員会も一応は風紀委員会なんでしょ?
       あんなこと言っちゃっていいの?」

从 ゚∀从「知らないよ、アタシだって詳しいことまでは。
      あの人……トソン先輩、ただでさえ何考えてるかわからないのに」

ぶっきらぼうにハインは答えた

从 ゚∀从「だけど、一つだけわかることがあるぜ」

ζ(゚ー゚*ζ「なに?」

从 ゚∀从「あの人は絶対、よかれと思ってやっている」

ζ(゚ー゚*ζ「よかれと思って……」

つまり、校則に捉われないことが校内の風紀を保つことに繋がるというのか。

頭が混乱した。
突飛すぎてよく咀嚼できなかった。

79 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/29(水) 22:28:52 ID:meWBuvTc0
从 ゚∀从「そうでなきゃわざわざ二つに別れたりなんかしないよ」

天使と悪魔の両方の顔を見比べながらハインが呟く。

ζ(゚ー゚*ζ「別れる? ……ってことは、元々はひとつの委員会だったってこと?」

从 ゚∀从「そうらしいぜ。去年までは普通にひとかたまりの委員会として機能してたそうだからな。
      あ、今のうちに言っとくけど、あんまりたくさん訊いたりしないでくれよ。
      アタシにもよくわかってない部分が多いんだから
      アタシらが入学した時にはもう風紀委員会は分裂してたしさ」

ζ(゚ー゚*ζ「そうなんだ……」

おぼろげではあるが構造がつかめてきた。
元は一つだったものが二つに分断された。
その結果生まれたのが――天使委員会と悪魔委員会。

从 ゚∀从「あの様子じゃ、たぶん、喧嘩別れなんだろうけどな。
      ツン先輩、すげー憎たらしそうな顔してるもん」

ζ(゚ー゚;ζ「あの二人っていつもこんな感じなの? なんだか険悪そうだけど」

从 ゚∀从「知らない。二人が同じ場所でそれぞれに活動してるとこ見るの、アタシ初めてだもん。
      おそらく他の奴らも同じだな。個別に遭遇した時よりも明らかにびびってっから。
      ……まっ、この様子じゃ、そういうことなんだろうなあ」

80 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/29(水) 22:40:02 ID:meWBuvTc0
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ……だからトソン先輩はツン先輩とは違うやり方をしてるんだ」

从 ゚∀从「だろうな」

ζ(゚ー゚;ζ「……だけどそんなのありなの? 先生に何か言われたりしないのかな?
       第一風紀委員会が二個あるとか、普通認可されないような……」

从 ゚∀从「あーもう、細かいな! 現実にこうして二つあるってことは許されてるってことだろ。
      生徒の自主性に任せるのがうちの校風なんだよ。
      委員会だって生徒の意見で新しく増設されたりするんだぜ?
      だからさ、あえて見逃してたりするんじゃないかな、ってアタシは思うんだけど」

ζ(゚ー゚*ζ「そんなものなのかな……」

どうも腑に落ちない。

从 ゚∀从「……でもまあ、言いたいことはわかるよ。
      悪魔委員会は手法だけ見たらむちゃくちゃだからな。
      校則破りがいたら『校則なんて意味ない』って言い聞かせて反省を促すんだぜ?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん。今まさにばっちり目撃者になってる」

从 ゚∀从「アタシも噂でしか知らなかった時は『は? なんじゃそりゃ?』って感じだったよ。
      目的もよくわかってねぇし……とにかく異端なんだ」

81 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/29(水) 22:59:47 ID:meWBuvTc0
デレは視線をトソンの方向へと移す。
霊気を身に纏った少女は、依然変わらぬ顔つきで、まだドクオを説き続けていた。

(゚、゚トソン「個人間の約束事こそ一番効力があるのです……。
     ドクオさん、たとえば、あなたの懐に拳銃があるとします。
     そしてあなたに殺してやりたいほど憎悪を抱いている人物がいるとします……。
     ちょうどその人と二人きりになった時、あなたは撃ちますか?」

('A`)「……は?」

咄嗟に投げかけられた過激な質問に、ドクオは一瞬呆然とした。

(゚、゚トソン「いかがしますか……?」

瞳がドクオをずっと映し続けている。瞳の中にドクオは囚われている。

('A`)「いっいや、もちろんするわけない。できるわけないっす」

(゚、゚トソン「なぜです?」

('A`)「だ、だって、憎いからって、実際に殺すだなんて、良心が痛むし、怖いです。
   俺にはそこまでの度胸もないし……それに犯罪だ!」

(゚、゚トソン「それが一番の理由ですか」

('A`)「当然ですよ……犯罪者になんてなりたくない」

82 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/29(水) 23:03:12 ID:meWBuvTc0
(゚、゚トソン「本能、理性、道徳、法律……」

トソンは呟くように単語を列挙する。

(゚、゚トソン「ドクオさん……あなたは、法律の存在ゆえに殺さないと答えましたが、
     はっきりと意識してその決断を下しますでしょうか」

('A`)「ううん、意識は……しないな……よく考えなくてもダメだってわかりますし。
   そういうのって意識しないでも身に覚えてますから」

(゚、゚トソン「では今度は、仮に友人と土曜日の午後三時に会う約束を結んだとしましょう。
     あなたはこの約束を守る際、はっきり意識しますか?」

('A`)「そりゃ意識しますよ」

ドクオの返答は早かった。すっかり呑み込まれている。

('A`)「頭に入れておかないと忘れてしまうし、それに遅れたら悪いから」

(゚、゚トソン「しかし遅刻したからといって法に裁かれるわけではありません……。
     あなたはこの瞬間、価値観の下位と上位が逆転しているではないですか。
     校則と、フサさんとの間で取り決めた賭博との関係も、同じことです」

冷えた目つきのままそう言った。

83 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/29(水) 23:19:30 ID:meWBuvTc0
(゚、゚トソン「この世界には多くの習律が段階的に存在しています。
     そして通常、価値観が適用される範囲が狭くなるほど、細分化されていきます……。
     内容が具体的に、取り囲む世間がマイナーになればなるほど、
     人々は記憶に留めるために意識下に置くようになるのです」

('A`)「は、はあ」

ドクオは曖昧な相槌を打った。
周辺のクラスメイト達は、黙って訥々と綴られるトソンの演説を聞いていた。

(゚、゚トソン「まず大元にあるのは本能……人間が生物である証……。
     次に来るのが理性です。こちらは人間が人間である証。
     その後はモラル、コモンセンス、そして国家ごとの法律……ルールが続きます。
     ルールは更に、県、市、町と掘り下げられていき、
     ついに特定の集団内でのみ発揮される規則に達します。そのひとつが校則です。
     以降は個人間で凍結する約束などに進みます……おわかりでしょうか」

('A`)「何が……ですか」

(゚、゚トソン「校則とはあくまで下部に座する概念なのです……。
     そのようなものの遵守を強制しておきながら、
     同じくピラミッドの底に位置する個々人の取引を否定するのはおかしいではありませんか。
     だからドクオさんはささやかな失態を気にすることなどないのですよ」

84 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/29(水) 23:36:22 ID:meWBuvTc0
('A`)「気にすることはない……」

(゚、゚トソン「ええ……しかし」

トソンは少しだけ表情を引き締めた――ようにデレには思えた。

(゚、゚トソン「校則に則って裁かれる責任はありませんが……しかし。
     学校に必要のないものを持ちこむことは常識からは外れます……。
     賭け事ならばなおさらです……無論、司法に問われることはありませんから、
     それよりさらに大きなステージで目に見える形で咎められたりはしませんが」

(;'A`)「う……す、すみません」

(゚、゚トソン「私は学校が定めた規則などではなく、全体の枠組みの中であなたを諭したのです。
     今後は校則如何にかかわらず、とにかく、自分が正しいと思う行動をとりましょう。
     そうして生じた自身に通じるルールが最も効果を発揮します」

('A`)「わかりました」

ドクオの表情は晴れやかではあるが、気味が悪かった。
洗脳を受けた人間のそれだった。

(゚、゚トソン「どうやら……私の話を深くご理解いただけたようですね……。
     理性や常識に劣る校則に縛られることはありません。
     本質に依っていれば過ちを犯すことなどそもそもないのですから……」

85 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/29(水) 23:48:00 ID:meWBuvTc0
トソンは満足げに瞼を閉じる。
巧みに説き伏せられた少年はは恍惚としている。

まさしく悪魔のささやきだった。

なるほど――悪魔か。

デレは恐ろしくなる。
この女子生徒の思考は無法の極みだ。混沌を奨励しているようにしか思えなかった。
風紀委員会は秩序を重んじるのではないのか。


「――トソン!」


喊声が上がる。全員が一斉にそちらに注目する。

声の主はツンである。
つかつかと大股でトソンへと歩み寄り、顔を突き合わせた。

教室内の状況はすっかり二人にコントロールされた。
誰も何も言わない。
天使と悪魔が向かい合っているだけだ。

86 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/29(水) 23:56:11 ID:meWBuvTc0
(゚、゚トソン「なんでしょうか……お互いに干渉しないのが契約では……?」

ξ゚听)ξ「知っています。今更
      今しがたあなたがやったことに更文句をつけようなどとは思いません。
      ただひとつだけ、言っておきたいことがあるわ」

毅然としてツンは立ち向かう。
トソンの表情にはやはり色がない。

ξ゚听)ξ「あなたのやり方は間違っています」

断言した。
そして。

ξ゚听)ξ「この学校の風紀を守るのはあなたではなく、私よ」

揺らぎない決意を秘めた鋭利な声音で、堂々と宣言する。

デレたちは圧倒された。

(゚、゚トソン「そうですか」

トソンだけが不気味なくらいに平然としていた。
汗一つかいていない。涼しげな顔のまま、少しのぶれもなく直立している。

87 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/30(木) 00:08:50 ID:vsnl0yjQ0
(゚、゚トソン「私からすると、あなたたちのほうが遠回しなやり方に思います」

静かにトソンが反論する。

(゚、゚トソン「ツンさんは功を急ぐあまり本来の目的を見失っていませんか?
     私たちならば適切に学校の風紀を正しい方向に導けます……」

ξ゚听)ξ「ふざけないで。校則違反を見過ごすことの、どこにそんな要素があるのよ」

(゚、゚トソン「各々が正しいと信じた理念に基づいた行動をしていれば、
     自浄作用的に風紀は保たれていくのです」

ξ゚ー゚)ξ「ふんっ!」

ツンは虚仮にするかのように鼻で笑った。

ξ゚听)ξ「そうならないから校則はあるのよ。おわかり?」

(゚、゚トソン「なりますよ……実証している最中です」

ξ゚听)ξ「賭けをしたことを許すのが実証? 馬鹿馬鹿しいわ。
      特例なんてものはあってはいけないの。皆が平等に扱われる場こそが求められてるのよ」

(゚、゚トソン「それは些事です。安寧の本質ではありません」

トソンは少しだけ語尾を強めた。

88 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/30(木) 00:18:19 ID:vsnl0yjQ0
ξ゚听)ξ「規則は明文化されてるから、どこまでも公平で公正なの。
      一人一人の良識になんて委ねてられないわ」

(゚、゚トソン「そういう考え方もあるとだけ記憶しておきます……。
     はあ……これで何度目のインプットでしょうか。
     上書きしても何ひとつ変化がないというのは困りものですね……」

ξ゚听)ξ「嫌みのつもりかしら? ふん、好きにしなさい。モララー!」

唐突に呼ばれた男子生徒はびくんと背筋を跳ねさせて反応した。

( ・∀・)「はっ、はい。なんでしょう」

ξ゚听)ξ「行くわよ。用件はとっくに済んだわ。長居しても仕方ありません」

返事を待つ前にツンはつかつかと出入り口に向けて歩き出していた。
トソンがその背中を虚ろな目で見送っている。

( ・∀・)「わかりました。それじゃ、このクラスの皆さん、お邪魔しました」

そう言い置くと、モララーと呼ばれた男子は他の委員を整列させ、
規律正しい列を組んで退室していった。

89 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/30(木) 00:37:09 ID:vsnl0yjQ0
(゚、゚トソン「では……」

トソンが自身の背後で待機していた三人の男女へと振り返る。

(゚、゚トソン「貞子さん、私たちも戻りましょうか。私は先に行きますので」

川д川「はっ、はい!」

おどおどとした、あまり上質とは言い難い髪を腰近辺まで伸ばした女子にそう言うと、
トソンはまた足音もなくドアをすり抜けていった。
あまりにも軽やかなので、消失してしまったかのようだった。

川д川「じゃあ、あの……そういうことですので」

女子生徒が残る二人に伝える。

( ゚∀゚)「よっしゃ。じゃあな、後輩ども! 迷惑かけたな!」

まずは髪の毛が逆立った、特徴的な眉毛の形をした男子生徒が。

( ゚∋゚)「……」

その後ろを異様に体躯の大きな男子生徒が無言でついていく。

90 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/06/30(木) 00:40:12 ID:vsnl0yjQ0
そして最後に、トソンに最初に声をかけられたロングヘアーの女子が二人の背中を追う。
今にも転んでしまいそうなおぼつかない足取りである。
一歩進めるたびに右足が左足に絡みつきそうになっている。

ζ(゚ー゚*ζ(貞子……って名前だっけ)

ドアの前に来たところで女子生徒は振り返る。

川д川「あ……どうも、失礼します」

籠った声でそれだけ言って、素早く一礼して去っていった。

突然の訪問者たちがいなくなったことを確認すると、教室にどよめきが起こった。
おそらくツンとトソン、そして両者が代表を務めている委員会について語り合っているのであろう。

ζ(゚、゚*ζ「……」

デレはぼんやりと中空を見つめていた。
二つの委員会が立ち去った後も、まだ胃がひりつくような心地が抜けない。

夢のような出来事だった。


戻る 次へ

inserted by FC2 system