ζ(゚ー゚*ζは天使でも悪魔でもないようです

183 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/13(水) 23:11:58 ID:G4jvTtG20
階段を駆け上がる途中でチャイムが鳴ったが、
幸いにもまだ教室に教師は来ていなかった。

从 ゚∀从「遅かったじゃん」

席に着くデレにハインが声をかけた。

ζ(゚ー゚;ζ「うん……まあ、ちょっとね」

从 ゚∀从「とりあえず汗ふいとけ」

五時限目はつつがなく終わった。
次の授業は化学なので実験室に移動しなければならない。

从 ゚∀从「いっつも思うんだけどさ、六限が化学って悪意を感じるよな。
      鐘鳴った時点で放課なのに、
      一回教室戻んなきゃいけないからタイムラグができちゃうじゃんか」

ζ(゚ー゚*ζ「鞄も持っていったら? そのまま部室に行けるよ」

从 ゚∀从「なっ、ちょっ、おま……名案すぎるだろそれ」

ζ(゚ー゚;ζ「早い段階で気づこうよ」

184 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/13(水) 23:25:34 ID:G4jvTtG20
化学の授業は、燃焼実験で房村フサがバーナーのガスの噴出量を誤り、
長大な炎を噴射してしまったことを除けば円滑に進んだ。

( ^ω^)「あれわざとかもしれんお」

その際、ブーンが気になることをぽつりと漏らしていた。

ζ(゚ー゚*ζ「わざと? そんなことするわけないでしょ。危ないなあ」

( ^ω^)「いや……フサの班にドクオがいたお?
      あの二人最近険悪だから、もしかしたらと思って」

ζ(゚ー゚*ζ「険悪? そうなの?」

从 ゚∀从「おいおい、馬鹿言うなよおめー。
      いくら嫌いでも人の顔面燃やしたりはしないだろ」

( ^ω^)「んなもんわかってるお! ちょっと言ってみただけだお」

ζ(゚ー゚*ζ「それより……どうして仲悪くなっちゃったのかな、あの二人」

デレはブーン以外の男子とはほとんど話さないから、経緯がよくわからない。
そもそも友情にヒビが入っていることすら知らなかった。

185 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/13(水) 23:39:45 ID:G4jvTtG20
从 ゚∀从「いや理由は、ほらさ、あれしかないじゃん」

ζ(゚ー゚*ζ「あれ?」

( ^ω^)「別々に委員会の判決を下された時のことだお」

ζ(゚ー゚*ζ「あ……」

記憶が鮮明に蘇る。天使の裁き。悪魔の誘い。

( ^ω^)「あれ以来」

ζ(゚ー゚*ζ「……どうしてだろう?」

从 ゚∀从「どうしても何も、フサがドクオを恨んでるんだろ。
      やったことは一から十まで同じなのに、
      自分だけやたら厳しい目にあって、あいつの処分はぬるかったからな」

ζ(゚ー゚;ζ「それだけのことで友達が嫌いになったりするの?」

从 ゚∀从「するだろ。自分がフサの立場だったらって考えてみなよ。
      まったくの同罪なのに、片や厳罰処分、片や無罪放免だぜ?
      おまけになんか言いくるめられてへらへらしてやがる。
      自分がせっせと反省文を書かされてる横でだ。
      少なくともアタシは嫌になるよ。そして天使委員会を憎むだろうね」

はっきりと、ハインは断言した。

186 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/13(水) 23:51:27 ID:G4jvTtG20
ζ(゚ー゚*ζ「天使委員会を……憎む?」

確かにそう発言した。
聞き間違いではない。

从 ゚∀从「おうさ。だってそうじゃん?
      いくら自分が悪いからって、結局待遇に差をつけてるのはあいつらじゃないか。
      悪魔委員会は説き伏せるだけだけど、天使委員会は打ちのめしてる。
      納得いく奴なんていないよ。どうせ罰せられるなら悪魔のほうがいい」

明朗な声。冗談ではなく、本音で語っているのだろう。
けれど――その言い方では。

ζ(゚ー゚*ζ「悪魔委員会がいいだなんて変だよ。そんなの、絶対変。
       あの人たちのほうがめちゃくちゃだよ?」

( ^ω^)「いや、ハインの言っていることは頷ける部分もあるお。
      ほとんどの生徒は天使委員会を警戒して校則を律儀に守ってるけど、
      その一方で悪魔委員会にカリスマ性を感じてる層も中にはいるんだお」

ブーンも同調する。
デレはますます困惑に陥る。

187 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 00:00:25 ID:2wZHhd2c0
从 ゚∀从「いやアタシはさ、別に連中を支持してるってわけじゃないぜ。
      もし自分がドクオとフサと同じ境遇に立たされたら、ってだけだよ」

ζ(゚ー゚*ζ「うん……それはわかってるけど……」

しかしブーンの話が本当であるなら、支持層も一定以上存在しているということになる。

理屈は解る。
飴と鞭とはよく言うが、無条件に飴をくれるのであればそちらに従いたい。
それが偽らざる本心というものだ。

ただ。

ζ(゚ー゚*ζ「……やっぱりおかしいよ。そういうのって」

从 ゚∀从「だよな。深い意義なんてなくて、ただの人気取りかもしれねぇし」

( ^ω^)「ともかく、そういうわけであの二人組は離別しちゃったんだお。
      ドクオはドクオですっかりトソン先輩のシンパになっちゃったみたいだし」

ζ(゚ー゚*ζ「仕方のないことなのかなぁ……」

口にはしてみたが、やはり得心できない。

彼女たちの行為によって生徒間に亀裂が生じてしまったというのであれば、
それは本当に秩序に貢献していると呼べるのか。

188 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 00:15:40 ID:2wZHhd2c0
デレは一人静かに思案に入る。

フサは自分だけ助かったドクオを唾棄し、
天使委員会を忌み嫌っている。
逆に、悪魔委員会にある程度の魅力めいたものを抱いている可能性もある。

ドクオはおそらく、フサや天使委員会に対して特に考えてはいないだろう。
恨む理由が何ひとつない。
ただ自分を諭してくれた悪魔委員会会長である都村トソンを信奉しているだけ。
個人の中で完結している話だ。

ドクオがフサを嫌っているのだとすれば、
それは突然友人が自分を遠ざけ始めたからであろう。

話を聞いた範囲で考えれば、そんな構図が浮かび上がってくる。

从 ゚∀从「どっちにしろ、いくらうぜーって思っててもそいつをバーナーで焼くかよ」

( ^ω^)「だから僕の勝手な推理だってば」

从 ゚∀从「今時そんなアホな展開、三流の推理小説でも書かないぜ」

二名が言い合っている間に、終業の鐘が響いた。
起立と礼を済ませて実験室を出ると、既に廊下には人が溢れていた。
少し授業時間が押したらしい。

189 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 00:32:04 ID:2wZHhd2c0
実験室は北校舎にある。

北校舎はグラウンドに面しているから、運動系の部活動に向かう生徒の中には、
渡り廊下を通りこちらの校舎の階段を下って外に出る者もそれなりにいる。

文化系は文化系で、音楽室等の特別教室は概ね北校舎に設置されているので、
そういった場所を利用する部活動に属しているならば当然こちら側の校舎へと移動する。

デレを含む三名は、他のクラスメイトに混じり雑踏をかき分けて進んだ。

校舎と校舎の繋ぎ目。
渡り廊下。

ζ(゚ー゚;ζ「うわ、多いなぁ。上級生と肩ぶつけちゃったらどうしよう……。
       私、謝ると声裏返っちゃうのに……」

从 ゚∀从「男子なら逆に許したくなっちゃうぜ、そういうの」

( ^ω^)「誠に一理ある意見だお」

渡り廊下にも多数の学生が行き交っている。
群集の向こうに南校舎の廊下が見える。
言うまでもなく、南校舎は組ごとの教室を有しているから、放課後の廊下は混雑している。

すっかり人だかりが出来ていた。

190 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 00:46:53 ID:2wZHhd2c0
从;'ー'从「はう〜、ヘアピン落としちゃったよ〜。踏まないで〜」

やや後方で渡辺が弱った声を出している。

从;'ー'从「みんな〜止まってよ〜」

从 ゚∀从「馬鹿だな、そんな調子で誰が足止めてくれるかよ」

ハインがやれやれといった感じで近寄る。

从 ゚∀从「ここはアタシに任しときな」

从'ー'从「ハインちゃんにい?」

はてなを浮かべる渡辺に、ハインはにやりと唇を湾曲させた。
それから。

从 ゚∀从「おーい! ごめん! 悪いんだけどさ、
      ちょっとアタシ、今コンタクト落としちまったから、ストップして!」

威勢よく叫んだ。

191 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 00:50:58 ID:2wZHhd2c0
皆一様に静止する。
流れが止まって、動いていた顔がクリアに目視できるようになる。

从 ゚∀从「今のうちに拾え。アタシもコンタクト探すふりしとくから」

渡辺の耳元でハインが囁く。

从'ー'从「ありがと〜。ハインちゃん。感謝だよ〜」

屈みこむ二人。周辺にいる生徒は誰も前に進まない。

デレはその傍らで、
立ち竦んでいた。

人ごみの中に、忘れるはずのない顔が紛れていたからだ。

全員が止まっているから、よく見えた。
相手も同様だろう。
視線が、はっきりと伝わる。


ξ゚听)ξ「――お待ちしておりましたわ、鈴院デレさん」


渡り廊下の中央に――津雲ツンがいた。
すぐ後ろには委員らしき生徒たち。
巻き髪の少女は、腰に手を当てた、威風堂々たる立ち姿でデレの名を呼んでいる。

192 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 01:05:52 ID:2wZHhd2c0
ζ(゚ー゚;ζ「……えっ、私?」

不測のことに、デレはたじろぐ。
身に覚えがない。
ツンが少しずつ接近してくる。足が動かない。言い返そうにも、喉が萎んでいる。

廊下にいるほぼ全員がデレに注目している。

ξ゚听)ξ「デレさん、お時間いいかしら」

目の前まで迫って、ツンは歩を止めた。

ξ゚听)ξ「なぜ私がこうしてあなたの元に赴いたか……おわかりですよね」

ζ(゚ー゚;ζ「はっ、はの、あの、全然状況が呑み込めないんですが……」

ξ゚听)ξ「愚かしい! 自分の罪を認めることができないのですか?」

ζ(゚ー゚;ζ「いや、いやいや! なんなんですかいきなり!」

何が何やらさっぱりわからない。
自慢でもなんでもなく、校則規定を犯した記憶は一切ないのだ。

193 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 01:22:11 ID:2wZHhd2c0
気づけば、デレとツンを中心とした円が出来上がっていた。
野次馬が円を縁取っている。

逃げ出そうかと思った。
だがツンの背後には委員会のメンバーが控えている。
ならば来た道を戻って北校舎へ、とも考えたが、どちらにしても解決にはならない。

デレは向かい合う。

ζ(゚ー゚*ζ「あの……本当にわからないんです。本当に。
       自分が一体何をしたっていうんですか?」

ξ゚听)ξ「あくまでシラを切り通しますか。いいでしょう。
      衆目の面前で違反内容を口上してさしあげます。モララー」

( ・∀・)「ははっ。えーと、鈴院デレさんだったかな。
      君が破ったのは校則第七項の」

モララーなる少年はゆっくりとメモ張を読み上げる。

( ・∀・)「『教員生徒間の不健全行為』、要は不純異性交遊ですな、先生との」

ζ(゚ー゚;ζ「はあああああ?」

194 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 01:39:28 ID:2wZHhd2c0
どよめきが起こった。
同時に、周囲からデレに浴びせられる視線が、いやらしいものに変わる。

( ・∀・)「わっ。こりゃ大変なことだよね」

ξ゚听)ξ「大事です。著しく風紀を乱す行為ではありませんか、デレさん」

ζ(゚ー゚;ζ「ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってください!
       皆さんも汚らしいものを見るような目をするのはやめてください!」

すう、はあ、と息を整えてから、

ζ(゚ー゚;ζ「……なんのことですか、それ!?」

率直な疑問である。
ツンは軽蔑の念を込めた眼差しで応じる。

ξ゚听)ξ「はあ、まだ私どもを欺くつもりですか。ほとほと呆れましたわ。
      なんでも、あなたは放課後、特にこれといった用事もないのに、
      毎日のように緒本ショボン先生と会っているそうではないですか」

ζ(゚ー゚*ζ「ぶっ」

思わず噴き出した。

195 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 01:46:13 ID:2wZHhd2c0
ξ゚听)ξ「複数の証言と目撃例が挙がっていますの。
      人知れず、こっそりと二人でどこかに消えているとか。
      どこに身を隠しているのかまでは我々の耳には届いてませんけど」

ひそひそ声が聴こえる。デレはいたたまれない気持ちになる。

ζ(゚ー゚;ζ「違うんです! 誤解しないでください」

必死に弁解するが信用してもらえそうになかった。

ハインや渡辺までご愁傷さまといった目で見ている。
ブーンに至ってはご馳走さまとでも言いたげな暖かい目線になっている。

ξ゚听)ξ「無論、このことは緒本先生にもじっくりと追及した上で、
      教育委員会に報告し相応の処置を求めますが」

ζ(゚ー゚;ζ「いや……それ……そのー……」

喉を絞って説明しようとしたその時。

「ちょーっと待ったー!」

彼方から大声が上がった。

196 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 02:06:34 ID:2wZHhd2c0
( ゚∀゚)「会長! ちょうどいいタイミングっぽいっすよ。
     やー、途中で会長が疲れて休憩し出した時はどうなるかと思ったけど、
     ナイス調整ナイス調整。さすがっすわ」

少年が二人。うち一人は大柄で、少年と呼称するのは似つかわしくない。

二人が並んだ間から少女が現れる。
病的なまでに透きとおった肌。青白い顔に表情はない。
湿度の高い黒髪が、一歩ごとに揺れている。

幽霊のような少女――都村トソン。

(゚、゚トソン「ああ……どうやら馳せ参じるのが遅れたようですね……。
     ジョルジュさんが言うようにさほど支障はなさそうですが……」

相変わらずのか細い声で、トソンは独り言めいたことを呟く。

ξ゚听)ξ「……なんの用かしら」

ツンが目の縦幅を狭めて睨む。

(゚、゚トソン「いえ……先日、
     デレさんが緒本先生と密会しているという巷説を聞きつけましたので、
     私が彼女を教化しようかと思いまして。それだけです」

197 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 02:27:23 ID:2wZHhd2c0
ξ゚听)ξ「残念ね。既に先約が入っていますので」

(゚、゚トソン「情報の伝達経路が違います……。
     私どもに寄せられた情報は、デレさんと緒本先生が、
     社会科準備室で落ち合っているというものだったのですが……」

ξ゚听)ξ「社会科準備室で落ち合ってる?」

トソンが提示した未知のソースにツンは狼狽する。
ただ、それ以上にデレが驚いた。

ζ(゚ー゚;ζ「へ、なんでそれを?」

デレが準備室に入る時間帯は二パターンしかない。
朝にあらかじめ先に行っておくことを兄であるショボンに告げてから、
誰よりも早く廊下に出て人目につく前に到着してしまうか、
逆に時間を遅らせて、誰もいなくなってから兄と共に入室するかだ。

二人で歩いているところを見られたことはあったかもしれないが、
準備室に入っていく瞬間は誰にも知られていないはずだ。

ζ(゚ー゚;ζ(というか、『なんでそれを?』とか間抜けなこと言うんじゃなかった!
       目的は違うけど過程を認めちゃってるじゃん!)

今更後悔しても、もう遅い。

198 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 02:33:09 ID:2wZHhd2c0
ζ(゚ー゚;ζ「あわわ……」

縮こまるデレの様子を片目に、ツンとトソンが対談する。

(゚、゚トソン「準備室の類は……学生はまず使用しませんから……。
     教師も授業後に教材を持ち出すなんてことはまずありません。
     中々考えてある場所だと感心しました……」

ξ゚听)ξ「そこで二人が密かに過ごしているということかしら?」

(゚、゚トソン「はい。暗くなるまで」

自然発生するざわめき。

ξ゚听)ξ「デレさん……あなた、恥ずかしくないのですか!?
      緒本先生も緒本先生だわ。破廉恥な!」

ζ(゚ー゚;ζ「だから、違うんですってば!」

(゚、゚トソン「大丈夫です、デレさん。あなたの行いは悪しきことではありません……。
     殿方と繋がりたいと願う心情は天真です……。
     それを縛るというのであれば規則に不備があるのです。
     女性の喜びと幸福を奪うような法はあってはならないのですから……」

ζ(゚ー゚;ζ「表現が生々しいですって!」

199 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 02:48:35 ID:2wZHhd2c0
デレは段々、苛立ってきた。

なんでこんな不名誉な誤解をされているのか。
なんでこんな仕打ちを受けなければいけないのか。

ζ( ー *ζ(それもこれも……)

全部苗字のせいだ。
これがいけないのだ。

ツンとトソンはまだ何やら詰問している。
内容は判らないし、判りたくもない。
デレにとってとことん無意味なことばかり述べている。

天使は正論を説いているつもりなのだろうが、
その声はきんきんと甲高く耳障りで、
悪魔は甘言を弄しているらしいが、
抑揚がなさすぎて出来の悪いお経を聴かされているように感じる。

うるさかった。

デレは十分に『溜まって』いた。

200 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 02:52:07 ID:2wZHhd2c0
顔を上げる。

ζ( ー *ζ「だから……私と緒本先生は……」

もう迷わない。

(゚、゚トソン「どうか致しましたか……?」

ξ゚听)ξ「ようやく白状する気になったようね」

デレは二人の言葉に耳を貸さない。
大きく息を吸って、


ζ(゚ー゚*ζ「だから! 私と兄さんは兄妹なんです!
       私の名前は緒本デレです!」


デレは絶叫した。

最高に気分が良かった。胸がすっとした。

201 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 03:05:41 ID:2wZHhd2c0
ζ(゚ー゚*ζ「そんなに人の隠し事を暴くのが好きなら、
       好きなだけ徹底的に調べ尽くせばいいじゃないですか!
       戸籍でもなんでも! 後日持ってきますよ!
       ばっちり『緒本デレ』って書かれてますから!」

デレは吐き出すように叫び続ける。

ζ(゚ー゚*ζ「なんなら兄さんに直々に訊いたんでもいいですよ!?
       最初は否定するでしょうけど、最終的には折れて全部説明してくれますよ!
       なんで私が母方の姓を名乗っているかも!」

吠えれば吠えるほど言いたいことが山のように湧いてくる。
ツンもトソンも口を差し挟めない。
唖然としている。

ζ(゚ー゚*ζ「大体住所を調べればいいじゃないですか住所を!
       同じ住所になってますよ、私と兄さんは!
       校長先生に頼めば一発でわかります! その程度の個人情報がなんですか!
       別にいいですよ、それくらい!」

面食らっているのは実際に弁論を聴いているツンとトソンだけではなく、
間近で傍観している他の全員もだった。

202 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 03:15:19 ID:2wZHhd2c0
ξ;゚听)ξ「……」

(゚、゚トソン「……」

ツンは衝撃を受けたような引き攣った顔をしている。
トソンの白面に変容はない。
共に黙り込んでいる。

ζ(゚ー゚*ζ「……とにかく、嘘だと思うんでしたら、
       私が列挙した事柄を全部洗ってみてください。
       洗ってみた上で、それでもやっぱり疑わしいっておっしゃるんでしたら、
       ぜひ呼び出してくださいよ。私は逃げも隠れもしませんから。
       ……失礼します!」

デレは両者の隙間を強引に通って円の外側へと出ていった。
取り囲んでいた生徒たちも自ずから進路を空ける。

ある程度まで進んだところで、どかない人間がいた。

トソンが伴っていた少年二人だ。
その脇では、ぼさぼさの髪を生やした少女が、怯えた瞳でデレを見つめている。

悪魔委員会。

203 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 03:29:10 ID:2wZHhd2c0
ζ(゚ー゚*ζ「……すみません、急いでますので」

( ゚∀゚)「いやー、でもうちら、
     ここで待っててって会長に言いつけられてるからさ」

眉の太い少年がにたついている。
他の二名は口出しはしないが、道を譲らないのは同じだ。

(゚、゚トソン「ジョルジュさん、クックルさん、貞子さん。
     もう用件は済みました……行きましょう。長居は無用です……」

後ろでトソンが声を張り上げた。それでも並以下の声量でしかない。
とはいえ十メートルほど離れた位置で聞き取るだけなら十分だったようで、
その宣告に少女が呼応する。

川д川「あっ、りょ、了解です。
     ……と、いうことですので……」

( ゚∀゚)「ほいきた。とんずらしますかね。じゃあな、デ・レ・ちゃん」

( ゚∋゚)「……」

三人揃って去っていく。
結局、巨躯を誇る男子生徒は最後まで無言のままだった。

204 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 03:44:22 ID:2wZHhd2c0
デレのすぐ横をトソンが通り過ぎる。

(゚、゚トソン「では……ご迷惑をおかけしました。
     不徳の致す限りです……」

それだけ言い残していった。
やはり足音は皆無に等しい。静かな退場だった。

振り向くと、ツンはまだ立ち尽くしていて、
悔しそうに眉間にしわを寄せて親指の爪を噛んでいる。

ξ゚听)ξ「……行くわよ!」

たった四文字だけを勢いよく宣言して、北校舎に向けて闊歩する。
その後ろ姿を他の委員たちが慌てて追う。
これからどこに向かうかも知らない。たぶん、決めてはいないのだろう。
手段はどうあれ、一刻も早く退散したがっているように思えた。

ふたつの委員会がいなくなってから、歓声が湧き起こった。

それを無視してデレは歩くことを再開する。


「すげぇ、あいつ、天使にも悪魔にも勝ちやがった!」


そんな台詞が後方で聴こえた気がしたが、デレは構わず、直進し続けた。

205 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 03:45:31 ID:2wZHhd2c0
デレのすぐ横をトソンが通り過ぎる。

(゚、゚トソン「では……ご迷惑をおかけしました。
     不徳の致す限りです……」

それだけ言い残していった。
やはり足音は皆無に等しい。静かな退場だった。

振り向くと、ツンはまだ立ち尽くしていて、
悔しそうに眉間にしわを寄せて親指の爪を噛んでいる。

ξ゚听)ξ「……行くわよ!」

たった四文字だけを勢いよく宣言して、北校舎に向けて闊歩する。
その後ろ姿を他の委員たちが慌てて追う。
これからどこに向かうかも知らない。たぶん、決めてはいないのだろう。
手段はどうあれ、一刻も早く退散したがっているように思えた。

ふたつの委員会がいなくなってから、歓声が湧き起こった。

それを無視してデレは歩くことを再開する。


「すげぇ、あいつ、天使にも悪魔にも勝ちやがった!」


そんな台詞が後方から聴こえた気がしたが、デレは構わず、直進し続けた。

206 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 03:54:24 ID:2wZHhd2c0
教室に戻るとがらんとしていた。
自分以外のクラスメイトは依然渡り廊下の渋滞に巻き込まれているのだろう。

ζ(゚ー゚;ζ「……はぁ……」

言いたいことを思う存分大声で言えてすっきりしたが、
同時にひどく疲労した。

今もまだ高揚感が抜けない。
体がだるい。頬に触れると、熱っぽくなっている。

ζ(゚ー゚*ζ「今日はもう……まっすぐ帰ろう……」

まだ喧騒が廊下中に反響している。
デレは面を伏せて校内を歩く。

階段を下りれば随分と静かになった。
デレはひとまず安息する。
あとは正面玄関を通り抜け、正門をくぐるだけだ。


それだけのはずだった。

207 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 04:16:26 ID:2wZHhd2c0
玄関前に、一人の少女が佇んでいた。

ζ(゚ー゚;ζ(少女というか……・えっ? 幼女?)

なにせ身長が低い。低すぎる。
デレより頭一つ分は小さい。
下手したら二つ分の可能性もある。

けれどもVIP高校指定の制服を着ているのだから、ここの生徒であることは間違いない。

*(‘‘)*「ふふふ、お待ちしておりましたよ」

前触れもなく、その幼女が不敵な笑みを浮かべてデレに語りかけてきた。

色素が極端に薄い毛髪を、赤色のゴムで二つに束ねている。
目が大きく顔の三分の一ほどを占めている。
その分鼻が小さくて丸い。かわいらしい容姿をしている。

スタイルといい、顔立ちといい、
どう見ても子供だった。

208 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 04:21:02 ID:2wZHhd2c0
ζ(゚ー゚*ζ「あれ……初等部なんてこの学校にあったっけ?」

*(‘‘)*「誰が小学生ですか! とっくに義務教育なんて終わってますよ!
     第一ヘリカル、あなたより年上ですからね! この名札が目に入りませんか!」

怒っているようだが声音が外見同様幼いのでまるで迫力がない。

ζ(゚ー゚*ζ「えっ、年上? またまた……」

ありがちな嘘に思えた。

それでも一応、デレは言われるがままに名札を確認する。
『沢近』とある。先程『ヘリカル』と自分で言っていたから、下の名前はヘリカルだろう。
色は青。

ζ(゚ー゚;ζ「あれ、この色ってことは……二年生なんですか?」

*(‘‘)*「そうですよ! なんか文句でもありますか?」

幼女は、いや少女は、頬を膨らませて不満を言った。
そうした仕草も子供っぽかったので、デレは実年齢とのギャップに混乱しそうになる。

ζ(゚ー゚;ζ(うそーん)

209 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 04:36:34 ID:2wZHhd2c0
だとして、なんの用があるというのだろう。

*(‘‘)*「……こほん。えー、それは余談としてですね」

こうして咳払いをするなど、時折大人びた所作も見せるのだが、
それが逆に見た目の幼さを引き立てているような気がした。

*(‘‘)*「デレさん! あなた先程、天使委員会と悪魔委員会を撃退しましたよね?
     わたしもこっそりとですが拝見させていただきました」

ζ(゚ー゚;ζ「えっ、いや……あれはそんな大層なものじゃ……」

*(‘‘)*「またまたご謙遜を!」

ヘリカルはぐい、と肘で押してきた。
おそらく本人の中では肩のあたりを押そうとしたのだろうが、
背丈が足りていないので腹部に肘打ちを見舞っているような形になった。

*(‘‘)*「わたし、ヘリカルが覚えている範疇では、
     このような偉業を成し遂げた学生はあなただけですよ」

ζ(゚ー゚*ζ(こんな嬉しくない褒め言葉初めて……)

210 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/14(木) 04:41:28 ID:2wZHhd2c0
ヘリカルはデレの想いをよそにうんうんと頷きながら言う。

*(‘‘)*「あなたのその力量を見込んで、ぜひともお願いしたいことがあります。
     わたしはデレさんのような人材がいることを知らせたいのです!」

ζ(゚ー゚*ζ「……はい?」

*(‘‘)*「デレさんに会ってもらいたい人がいるんですよ!」

そうそう、とヘリカルは付け加える。

*(‘‘)*「デレさん、まだどの委員会に所属してませんでしたよね?」

ζ(゚ー゚*ζ「え、そうですけど……」

*(‘‘)*「申し遅れました。わたし、『調査委員会』会長、沢近ヘリカルと申します」

ぺこり、と小さい体を更に屈めて礼をする。

ζ(゚ー゚*ζ「調査……委員会?」

*(‘‘)*「そうです!」

可憐な少女は、得意げに笑ってみせた。


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