- 217 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 00:46:07 ID:E8soUdZc0
- ただそうやって胸を張られても、デレには何が何やらわからない。
ζ(゚ー゚*ζ「ええと、それって、なんの委員会なんですかね?」
真っ先に浮かんだ疑念だった。
そんな名前の委員会はこれまでに聞いたことがない。
ζ(゚ー゚*ζ「それに会ってもらいたい人って……」
*(‘‘)*「詳しい点は追々説明しましょう!
まずはわたしについてきていただきたいのです。さあ!」
ヘリカルは了承を得るより先に、デレの手を引き走り出した。
小さな体に似合わず意外に膂力が強くて、前につんのめりそうになる。
ζ(゚ー゚;ζ「えっ、えっ、えっ?」
訳も判らぬままデレは案内される。
階段をひとつ、ふたつ、みっつ、ぽんぽんと駆け上がる。
ζ(゚ー゚;ζ「あ、あの、ヘリカル先輩。いきなり四階までダッシュはきついです」
*(‘‘)*「情けない足腰ですね」
息を切らしながら至った四階の廊下を、
やはりここもヘリカルの紅葉のような手に引っ張られてデレは行く。
- 218 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 01:03:30 ID:E8soUdZc0
- 程々進んだところでヘリカルは止まった。
廊下中央に引かれた白線を挟むようにして、二人は向き合う。
ζ(゚ー゚;ζ「ぜぇ……はぁ……ほとんど拉致ですよ、これ」
デレはまだ事態が把握できていない。
喘いでいるだけだ。
気にせずヘリカルは人差し指をぴんと伸ばして突き出す。
ζ(゚ー゚*ζ「へ? 何か顔に付いてますか?」
*(‘‘)*「あなたを指差してるのではありません! 後ろです」
ζ(゚ー゚*ζ「後ろ?」
振り返ると教室である。
他とは違い、ドアが金属素材の引き戸ではなく木製の開き戸だが、紛れもなく教室である。
学校にある部屋は一部を除いてほとんどが学習教室だから、当たり前なのだが。
*(‘‘)*「プレートに書かれた教室名が読めますか?」
ζ(゚ー゚*ζ「そりゃまあ当然……。
ええとなになに……生徒会室!?」
*(‘‘)*「ご名答。それでは参りましょう」
- 219 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 01:25:06 ID:E8soUdZc0
- 躊躇なくヘリカルはドアノブに手を掛ける。
その手を慌ててデレは制した。
ζ(゚ー゚;ζ「いやっ、ちょっと! ちょっとタイム!」
*(‘‘)*「なんですかやかましいですね。
中には生徒会長がおられるのですから、なるべく静かにしないと失敬ですよ。
いきなり連れて来てこんなこと言うのもなんですけど」
妨害されたヘリカルはむっとする。
幼子が駄々をこねる時のような表情をしているから、
自分に陽があるわけでもないのに、デレはなんだか後ろめたい気持ちになる。
ζ(゚ー゚;ζ「あっ、いや、そのことは別にいいんですけど……。
それより! なんで私はこんなところに来させられたんですか?」
*(‘‘)*「ですから生徒会長に会ってほしいからに決まってるじゃないですか」
きょとんとして答える。
何を今更とでも言いたげな、無邪気な目でデレは見つめられる。
- 220 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 01:30:39 ID:E8soUdZc0
- ζ(゚、゚*ζ「生徒会長と……私が会う?」
デレの脳内に大量のクエスチョンマークが集積する。
にわかには信じ難かった。
接点がない。
*(‘‘)*「そうですよ。他に理由となる目的なんてないことぐらい、
ここまで来た時点で悟れるでしょうに」
ζ(゚ー゚*ζ「……なんのためにですか?」
*(‘‘)*「その辺は、まあ、対面してからじっくり話すべき議題ですので」
ζ(゚ー゚;ζ「説明になってないです……」
*(‘‘)*「とにかく、まずは室内に入ろうではないですか。
あ、あと、急にお呼びしたことと非礼を働いたことは今のうちに詫びておきます。
申し訳ありません。お手数かけますです」
ヘリカルは事務的に対処を済ませると、はきはきとした声で、
*(‘‘)*「失礼します」
と言った。その一言から少し遅れて、扉が開かれた。
- 221 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 01:53:29 ID:E8soUdZc0
- さほど大きくない教室だった。
黒檀の乾いた臭いがする。
部屋の中央には長机がコの字型に配置されていた。
四角からドア側の一辺が欠けたような形だ。
入ってすぐ、窓側の一辺で、頬杖をついて着席している少女と目が合った。
凛々しい容貌をしていて、特に眼光が鋭い。
全てを見透かしているような深遠な瞳。
デレは少々臆する。
*(‘‘)*「ヒートさん、ただいま連れて参りました!」
ヘリカルが大声でその少女に報告する。
ノパ听)「おお、ではその生徒が鈴院――いや、緒本デレか!」
*(‘‘)*「そうです!」
ノパ听)「うむ、なるほど、なるほど」
噛みしめるように少女が頷く。
席は複数空いているが、座っているのはこの泰然と構えた女子生徒一人だけである。
他に二人、男子と女子が一名ずついたが、どちらも壁際に立って侍している。
- 222 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 02:06:16 ID:E8soUdZc0
- ノパ听)「……デレくん!」
少女が唐突に腰を上げ、大声を発した。
ζ(゚ー゚;ζ「はっ、はい、なんでしょう」
ノパ听)「少し、君と話がしたい。いいかな?」
ζ(゚ー゚;ζ「構いませんけど……」
おそるおそるデレは近寄る。
津雲ツンも自信満々な態度を常に保っているが、この少女はそれ以上だ。
言葉の節、振る舞い、表情――すべて堂々としていて、威厳がある。
少女ではなく既に女だ。青臭い部分が一切ない。
ノパ听)「紹介が遅れたな。私の名は須直ヒート。
僭越ながらVIP高校の生徒会長を務めさせてもらっている」
ζ(゚ー゚*ζ「はあ……」
なんとなくそんな気はしていた。
だから意外性はなかったが、それでもやはりこうして直に接すると、緊張する。
- 223 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 02:20:02 ID:E8soUdZc0
- ノパ听)「生徒会長だからといって特別扱いは不要だぞ。
気軽にヒートと呼んでくれ。私は肩書で区分されることが嫌いでね」
ζ(゚ー゚*ζ「はあ、ヒート……」
ノパ听)「うむ」
ζ(゚ー゚;ζ「……さん」
ノパ听)「うむっ! よろしく頼むぞ」
ヒートは磊落に笑って、デレの手を握った。
やたらと高い手の平の温度を感じていると、横からヘリカルが小突いてきた。
*(‘‘)*「ほら、デレさんもお願いしますよ」
ζ(゚ー゚;ζ「ええ……そんな名乗るような者でもないのに……。
あ、えっと、緒本……デレです。初めまして」
握手したまま、ぼそぼそした調子でデレは挨拶し返した。
ノパ听)「そうかそうか。なるほど良い面構えをしている。
評判に聞くとおりだな!」
デレの肩をヒートが叩く。
- 224 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 02:32:16 ID:E8soUdZc0
- ζ(゚ー゚*ζ「あのー、評判ってなんでしょう?
まさかとは思いますけど……」
ノパ听)「うむ、君が想像しているとおりだ。
なんでも君は天使委員会と悪魔委員会に毅然として立ち向かい、
そしてなんと圧倒的な勝利を収めたそうじゃないか。
ヘリカルくんから私の携帯に報告があったよ」
ζ(゚ー゚;ζ「いや、その、あれって勝ち負けとかじゃないと思うんですが……。
結局向こうの勘違いでしたし……」
ノパ听)「端緒となったのは委員会サイドの手違いであろうと、
最終的に説き伏せたのはデレくんの力だろう?
それにあのような場面に出くわせば多くの生徒は委縮して何もできなくなる。
だが君はしっかりと自己の正当性を主張した! 称賛に値することだ」
ζ(゚ー゚;ζ「まあ、良く言えばそうですけど……」
ヒートほどの人物に正面切って褒められると、なんだかむず痒い。
ノパ听)「いずれにせよこれで彼女たちの面目は丸潰れだ。
捜査段階でミスを犯し、そしてそのミスを徹底して攻撃されたのだからな」
そこで、ヒートは険しい顔つきになった。
- 225 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 02:46:03 ID:E8soUdZc0
- ノパ听)「今この場には私以外に参列していないが、
我々生徒会も彼女たちには手を焼いててな。
独断と権力の暴走を止めることができていないんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「生徒会でも、ですか?」
ショボンの話では教師陣も放任しているという。
ならばふたつの委員会を抑制できる機関は存在しないではないか。
ノパ听)「うむ。分裂して以降拡大が止まらないのだよ。
もはや完全に別個の勢力として成り立ってしまっている。
由々しきことだ」
ヒートは思い詰めたように一旦顔を伏せてから、口述する。
ノパ听)「……実はね、私は風紀委員会の出身なんだ。
生徒会選挙に出る前はツンとトソンと共に活動していたのだよ」
ζ(゚ー゚*ζ「えっ、そうだったんですか」
ノパ听)「うむ。私たちは同級生でね、一学年の頃から馴染みだった。
……ここから少し、話が長くなるが、構わないか?」
ζ(゚ー゚*ζ「……大丈夫です」
デレは堅く口を結ぶ。
- 226 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 03:06:43 ID:E8soUdZc0
- ノパ听)「感謝するぞ。そうだな、私が風紀委員会を脱会する以前の話から始めようか。
私が籍を置いていたあの頃は、何もおかしなことはなかった。
いや、ツンは今とそれほど変わらなかったか。あいつは昔から難儀な奴だったよ。
糞真面目なのか、単に性格が終わってるだけなのか」
ヒートは懐かしそうに笑った。
ノパ听)「とにかく不穏な様子など微塵も感じなかったんだ。
ところがだ。私が十一月の生徒会選挙に備えて委員会から去り、
当時の残った二年生の中から会長職にツンが選ばれた頃、
トソンが急に、風紀委員会の在り方に面と向かって異を唱え出してな。
その騒動は事実上引退した私の耳にも届けられた」
ゆっくりとヒートは椅子に腰を下ろす。
ζ(゚ー゚*ζ「トソンさんが反乱を起こした、ってことですか?」
――悪魔というのは元を辿れば神に仕える使いだったんだ。
――天使と源流が同じなんだよ。
ノパ听)「そうだ」
組んだ手の上に顎を乗せてヒートは語る。
- 227 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 03:12:09 ID:E8soUdZc0
- ノパ听)「前々から校則原理のやり方に不満があったみたいだがね。
奴はおそらく、自分が会長になって新たな指針を打ち立てたかったのだろうな。
しかしその目論見は津雲ツンによって叶わぬ夢となった」
ζ(゚ー゚*ζ「それでトソンさんは風紀委員会から抜けた……ってわけですか」
ノパ听)「いや、『抜けた』という表現にはいささか語弊がある。
正しくは『別行動をとるようになった』だな。支持者三名と共に」
ζ(゚ー゚*ζ「どういう……」
ノパ听)「なあデレくん」
ヒートは絡ませた指をほどき、腕を組む。
ノパ听)「君は、『天使委員会』や『悪魔委員会』などという名称の委員会が、
本当に学校側が正式に認可していると思うか?」
ζ(゚ー゚*ζ「へっ?」
不意をつく質問だった。
- 228 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 03:26:18 ID:E8soUdZc0
- ノパ听)「はっはっはっ! そんな馬鹿げた話があるわけないだろう。
あれは俗称だ。それに風紀委員会は『実質的にふたつ』なだけで、
形式上はひとつのままだ」
*(‘‘)*「要するに、都村トソンさんが勝手に自分なりの方式でやってるってことです。
トソンさん本人は『風紀委員会長』を名乗っていますが、まあ自称は所詮自称です。
公式の場、たとえば生徒総会で効力を発揮するわけではありません」
ヘリカルが補填する。
*(‘‘)*そしてどうやらツンさんの元から離別する際に、
お互いに手出しをしないという取り決めを交わしたみたいですね。
いわゆる絶縁状態ってやつでしょうか。口は出してるみたいですが」
ζ(゚ー゚*ζ「ちょっと待ってくださいよ。だとしたら……変じゃないですか?」
ノパ听)「何がかな?」
ζ(゚ー゚*ζ「勝手に行動してる人たちのことなんて、聞く必要ないじゃないですか。
なんでみんな素直に存在意義を認めてるんですか?」
ノパ听)「確かに彼女らは我流を貫いているが、一応は風紀委員であることは間違いないからな。
そしてそれを風紀委員長であるツンが許している以上、受諾するしかないだろう。
内心、ツンも苦々しく思っているんだろうが」
- 229 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 03:39:33 ID:E8soUdZc0
- あなたのやり方は間違っている。
ツンはそう指摘していた。
本来の風紀委員の在り様を否定する少女を、自らも全面否定した。
ノパ听)「何よりトソンのやり口は過激だった。
目的の最終地点は等しいんだろうが、手法がまるっきり異なっていた。
規則を破った者を咎めずに規則自体にノーを叩きつけるなど前代未聞だ。
君も知っているだろう」
デレはこくんと首肯する。
ノパ听)「それを受けてツンが与える処罰の厳しさもエスカレートしていってな。
いかに校則を遵守せぬことが悪徳であるかを大々的に周囲に示していた。
両名の相反するやり方を見て、誰が呼んだか、『天使委員会』と『悪魔委員会』。
皮肉か畏敬か――名付けた意図は定かではないがな」
ヒートは、ふう、と溜め息を吐いた。
ノパ听)「目的は大概等しいだろうに、手段が違いすぎる。だから混乱を招くのだ。
最早パフォーマンスに近いよ、あれは。
どちらも信念に基づいての行動なのだろうが、そう捉えられても仕方のないところだ」
- 230 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 03:57:41 ID:E8soUdZc0
- 嘆息する生徒会長の背後にある窓からは風は吹かない。
北校舎に遮られている。
だから何も揺れないし、何も鳴らない。
ノパ听)「特に――トソンは顕著だな。
ツンは公平性をいかなる時も欠いていないが、トソンは違う。
あいつによって不平等が生まれるケースがある」
それはフサとドクオの場合などを指しているのだろう。
ノパ听)「やろうと思えば本家同様反省文の提出ぐらいは課すことができるのに、そうしない。
あれは支持層を増やすためでもあるのではないかと私は睨んでいる。
自らの考えを浸透させるには、まず強固な地盤と、バックアップが必要だ。
高等学校とは言うなれば感受性の高い年齢の若者の集まりだ!
魅力ある提示に惹かれる者もいるのだろうな」
ζ(゚ー゚;ζ「だけど、そんな人がいるはずが……」
いや――きっといる。
ハインとブーンとの会話を想起する。
なにより掲げているテーマが刺激的だ。
規定事項への反逆という言葉の響きからして蠱惑的である。
加えて温情ともとれる裁定。トソンに心服する学生は、少なからずいるだろう。
カルト宗教のようだと思った。
- 231 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 04:16:21 ID:E8soUdZc0
- けれどトソン自身がどう考えているのかまでは知らない。
知りようがない。
まったくの善意で動いている可能性もある。
ただ、仮に善意だとしても、甚だしく独善的ではあるが。
ノパ听)「さてデレくん。ここからは私個人の話になるが」
ζ(゚ー゚*ζ「は、はひっ」
デレは背筋を直す。
ノパ听)「そう強張ることはないぞ。リラックスして聞いてくれればいい。
私はな、元風紀委員会の人間として、
この歪んだ状況は打破しなければならないと常々思っている」
語調が熱っぽくなる。
ζ(゚ー゚*ζ「はあ……」
ノパ听)「……デレくん。ひとつ問答を持ちかけたい。
君はツンとトソン、どちらが正常だと思う?」
- 232 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 04:22:26 ID:E8soUdZc0
- ζ(゚ー゚*ζ「それは……当然ですけど、ツンさんの考え方が普通だと思います。
少しばかりやりすぎな部分はあるにしても……」
どちらが、と訊かれればそう答えるしかないだろう。
ノパ听)「うむ、私もまったくの同意見だよ。トソンの思想は異端に過ぎる。
大元となる校則を蔑ろにし、好き勝手に操業するなど本来であれば言語道断。
あれをいつまでものさばらせていれば、
風紀の統制など未来永劫成し遂げることは不可能だ!」
ヒートは感情を燃焼させている。
興奮すればするほど、台詞の説得力が増していく。
それだけの強靭な気概と資質を、この傑物は有している。
どこかで夕方の鳥が鳴いた。
ノパ听)「私は校則を無視し、綱紀を乱すトソンを看過することは出来ない!」
須直ヒートは机をばんと力強く叩き、
よく響く声でそう宣言した。
壁のそばに立ち続けている男子生徒の肩がびくんと震えた。
- 233 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 04:32:42 ID:E8soUdZc0
- ノパ听)「……そこで君の力が必要になるのだ」
ヒートがデレを見つめ返す。
燃え盛るような瞳の輝きにデレは惑う。
ζ(゚ー゚;ζ「私の力って、なんにもないですよ、そんなの……」
*(‘‘)*「はー、デレさんもとぼけたことを言いますね。
天使と悪魔に目を付けられても、全力で対抗できる、そのガッツですよ」
ヘリカルが茶々を入れる。
ζ(゚ー゚;ζ「が、がっつ?」
ノパ听)「勇気と言い換えても支障ない!」
ζ(゚ー゚;ζ「そんな格好いいもんじゃないですよ……。
溜まった鬱憤を晴らしただけですってば」
*(‘‘)*「ですから、それすら無理な人も多い中でのデレさんですよ」
ζ(゚ー゚*ζ「そんなものなのかなあ……」
- 234 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 04:42:34 ID:E8soUdZc0
- ノパ听)「いや、私もかねてから対策は講じているのだよ。
そのひとつとして生み出したのが、調査委員会だ」
ζ(゚ー゚*ζ「調査委員会……ヘリカル先輩が会長の?」
ノパ听)「そうだ」
即答である。
ζ(゚ー゚*ζ「……なんなんですかそれ?
ヘリカル先輩も自慢げに言ってましたけど……」
*(‘‘)*「自慢げとは失礼ですね」
ζ(゚ー゚;ζ「すみません言葉のあやです」
ノパ听)「調査委員会とは今年度最初の生徒総会で新設を決めた委員会だ」
ヒートが解説する。
ζ(゚ー゚;ζ「新設って……そんなのやっちゃっていいんですね」
ノパ听)「うちの高校は生徒の自主性を重んじていてね。
学校は学生自身が仕切るべきという校風が伝統的に続いているんだ。
……そうでなければ、風紀委員会の絶対権力が見過ごされることはないだろう?」
- 235 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 04:52:46 ID:E8soUdZc0
- ζ(゚ー゚*ζ「確かにそうですけど」
ノパ听)「活動内容は、シンプルに行ってしまえば企業における人事部だな。
各種委員会やクラブ活動の動向及び実績を調べ、
それを月例会議や総会で発表する、というものだ――表向きは」
ζ(゚ー゚*ζ「表向き?」
*(‘‘)*「真の狙いは合法的にふたつの風紀委員会を調査するためですよ」
童子じみた声でヘリカルが脇から言う。
ノパ听)「無論、通常の業務もこなしてもらうが、
本来期待している働きはヘリカルくんが述べたとおりだ」
ζ(゚ー゚*ζ「はあ、それはそれは。なんだか凄い委員会ですね」
*(‘‘)*「何を他人事みたいに感心してるんですか。
わたしとヒートさんはデレさんに調査委員会に入ってくれって頼んでるんですよ」
ζ(゚ー゚;ζ「えっ、嘘、そういうことなんですか?」
*(‘‘)*「文脈というものを読み取りましょうよ」
- 236 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 05:03:24 ID:E8soUdZc0
- ζ(゚ー゚;ζ「いやいやいや! 私にそんな役目無理ですって!」
ノパ听)「無理なものか。むしろデレくんこそ適任だ。
ぜひともお願いしたいのだが……」
ζ(゚、゚;ζ「そんなこと言われましても……」
ノパ听)「そうか……君にしか果たせぬ大業なのだがな……」
ヒートはひどく悲痛な面持ちをする。
落胆しているのだろう。
デレは根がお人よしだから、そんな表情を見せられると捨て置けなくなる。
ζ(゚ー゚*ζ「いや、でもまあ……やれなくはないですけど……。
ちょうど委員会の所属先も決まってませんし。
……やってもいいかなあ、なんて、思ったりして」
ノパ听)「ほっ、本当か! 二言はないな!」
勢いよくヒートが顔を上げる。
ノパ听)「言質は取ったぞ! いやあ、こんな至福が今まであっただろうか!」
ζ(゚ー゚;ζ(案外がっついてくるなあこの人……)
- 237 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 05:25:24 ID:E8soUdZc0
- 狂喜乱舞したい想いを噛み殺すように、ヒートは声のトーンを下げる。
ノパ听)「……そうか、その返事が聞けて嬉しいよデレくん。
君の好意に心から感謝する」
ζ(゚ー゚;ζ「まあ……拒否権発動できるほどの立場じゃないですしね……」
元はといえば委員会の問題を先延ばしにしていたせいで、
ショボンと過ごす時間が長くなってしまい疑惑の火種となってしまったのだ。
だから委員会を決定するきっかけをくれたことはデレにとってもありがたかった。
ノパ听)「そうと決まれば早速指令を出そう!」
ヒートは息巻いている。
ζ(゚ー゚*ζ「あれ? ヘリカル先輩が指示するんじゃないんですか?」
*(‘‘)*「普段の仕事内容ならそうですが、
風紀委員会に関することは生徒会長から賜るのですよ」
ζ(゚ー゚*ζ「へえ、そうなんですか」
- 238 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 05:31:12 ID:E8soUdZc0
- ノパ听)「明日からだ。明日からデレくんには動いてもらいたい」
ζ(゚ー゚;ζ「いきなりですか……」
ノパ听)「うむ。まだ君が調査委員会に加入したことは誰も知らぬからな。
作戦を決行するのは早ければ早いほど都合がいい」
ζ(゚ー゚*ζ「作戦とは?」
どきどきしながらデレは返答を待つ。
ノパ听)「君が悪魔委員会に入会希望届を出しに行くことだ」
ζ(゚ー゚;ζ「……ほえええええええ!?」
視界の外側から殴られたような気分がした。
完全の予想から外れていた。
*(‘‘)*「どうかしましたか、間抜けな声を出したりして」
ζ(゚ー゚;ζ「いやだって、悪魔委員会に入会って……。
おかしいじゃないですか!」
たった今調査委員会への配属が決まったばかりなのに、
なぜそのようなことをしなくてはならないのか。
- 239 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 05:43:07 ID:E8soUdZc0
- ノパ听)「いや、入会しろと命令しているわけではないぞ。
あくまで『希望届』を出しに行けというだけのことだ」
ζ(゚ー゚;ζ「どう違うんですかそれって……」
同じ意味のことを重ねて言っているようにしか聞こえない。
ヘリカルは呆れ果てたような様子で、
*(‘‘)*「おバカですね。先程風紀委員会は正式にはひとつ、
悪魔委員会と呼ばれるものは非公認の亜流に過ぎないと、
ヒートさんに説明を受けたじゃないですか」
ζ(゚ー゚*ζ「あっ、そっか。風紀委員になりたかったら、
公式に風紀委員会長であるツン先輩のところに行かなきゃいけなくて、
トソン先輩のところに希望届を出しても、受理されないのか」
ノパ听)「それに、トソンが分裂当初から在籍した三人以外を受け入れるとは、
到底思えないしな。あいつはそういう奴だよ。変に頑固だ」
しみじみとヒートが漏らす。
*(‘‘)*「ですが話ぐらいは聞いてもらえるでしょう。
その隙に内部事情を探るのですよ!」
- 240 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 05:59:28 ID:E8soUdZc0
- ζ(゚ー゚*ζ「え、ですけど、私さっきトソン先輩たちに恥かかせたばかりですよ?
こんな奴門前払いなんじゃないですか?」
ノパ听)「プライドの塊みたいなツンならそう考えるだろうな。
しかし連中に常識は通じない。逆にその手腕を高く評価するだろう。
トソンは何よりも実益を求めている」
ヒートはまた深く溜め息を吐いて、
ノパ听)「……そのせいもあるのか、この頃はトソン側が優勢なんだ。
それに従って賛成派を着実に得て、勢力をどんどん増進させている。
ネタの入手も早いし、対応も早い。疾風迅雷がごとくだ」
ζ(゚ー゚*ζ(そう言えば……)
自分に向けられた嫌疑については、
トソンが握っていた情報のほうがより詳細まで追っていた。
ノパ听)「おかげでツンの出る幕がめっきり減っていてな。
自信家のあいつのことだから、さぞかし煩悶としていることだろう。
私もツンと共通するところがあるから、奴のことは手に取るようにわかるよ」
ζ(゚ー゚*ζ「手に取るように……ですか」
ノパ听)「ああ、そうだ」
- 241 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 06:08:37 ID:E8soUdZc0
- たぶん、かつてヒートはツンやトソンと良好な友人関係を構築していたのだろう。
ヒートが彼女たちのことを語る時の、
遠い過去に思いを馳せているような哀愁のある口ぶりを聞く限りでは、
そんなふうに推し測れる。
ノパ听)「――そんな情勢だからこそ、悪魔委員会はなおさら放置できない!」
気丈な口調で、ヒートはそう言った。
ノパ听)「そのためには君の力が必要なのだ、デレくん」
ζ(゚ー゚*ζ「わっ、わかりました」
ノパ听)「そうだ、デレくん、君の同僚となる二人の委員を紹介しておこう。
さっきから気にはなっていたとは思うが、あそこに立っている二名だ。
彼らにヘリカルくんを含めた三名が現在の調査委員だよ。
そして君が加わって、四人構成になるな」
ζ(゚ー゚;ζ「……委員会と銘打ってるわりに人数少なくないですかね?」
*(‘‘)*「生徒会直属ということになってますから少数精鋭でいいんですよ。
無用なツッコミは野暮というものです」
ζ(゚ー゚*ζ「はあ……」
- 242 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 06:27:00 ID:E8soUdZc0
- ただそうなると、各自が担うべき任務の比重は相当大きいものになる。
一人当たりの負担は、数字化できることではないが、かなりの量になるだろう。
ζ(゚ー゚;ζ(責任重大だなあ……気安く請け負ったりしてよかったのかな)
ノパ听)「おい、二人とも!」
ヒートが生徒会室の隅々まで行き届くような、張りのある声を上げた。
ノパ听)「長らく待たせたな。こっちに来てくれ。
いやしかし、まさかここまで愚直に言いつけを守るとは思わなかったぞ。
正直感服した。はっはっ!」
(;><)「笑い事じゃないんです! 待機するのも楽じゃないんです!」
少年は右腕を振り上げて不平をぶつけた。
ノパ听)「いやあ、すまないな。それより簡単に自己紹介をしてくれ。
まずは新人のデレくんからだ!」
ζ(゚ー゚*ζ「えと、緒本デレです。よろしくお願いします」
デレはぺこりと頭を下げる。
他に取り立てて言っておきたいことがない。
やはり自己紹介は苦手だ。どうしようもなくアピールが下手くそなのだ。
- 243 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 06:35:01 ID:E8soUdZc0
- ( ><)「あっ、どっ、どうもっ、僕は二年一組の稚内ビロードというんです!
今日からか明日からかよくわかんないですけど、
よろしくお願いするんです!」
寸刻前まで真面目に直立していた男子生徒は、まごつきながらも慇懃に礼をした。
大きな立ち耳をしているから小猿のような印象を受ける。
川 ゚ -゚)「……」
一方冷淡な顔つきをしたロングヘアーの女子生徒は、
声を出さないどころか、壁にもたれたまま、にこりともせずに軽く会釈しただけだ。
ただ不思議と嫌な感じはしなかった。
そのクールな挙措がとても似合っているように思える。
何より、息を呑むほどの美人なのだ。
名札のカラーを見ると同学年だということが判ったが、
デレより遥かに先、というよりも別次元にいるように感じてしまう。
ζ(゚ー゚*ζ(この人たちが調査委員会のメンバーかあ……)
ノパ听)「その娘はいつもつまらなそうに不愉快な仏頂面をしているが、
洞察力は確かだし割と行動力もある。
男のほうは気弱だが実直だ。支えになると思うぞ」
ζ(゚ー゚;ζ「その説明だと、頼りになるやら、ならないやら……」
- 244 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 06:42:46 ID:E8soUdZc0
- *(‘‘)*「……で、今更改めて名乗るほどでもありませんが、形式的にだけ。
調査委員会『会長』沢近ヘリカルです。
これより先、よろしくお願いしますよ、デレさん」
ζ(゚ー゚*ζ「はいっ」
*(‘‘)*「それから、今後わたしのことはヘリカル先輩ではなく会長と呼ぶように」
ζ(゚、゚*ζ「えー、なんでですか」
*(‘‘)*「舐められるからです!
単に先輩というステータスだけじゃ権威が外観に負けてしまうのです!」
金属音のようなきいきいとした声でヘリカルは持論を展開した。
身長といい、声の高さといい、ころころ転調する表情といい、
明らかに可愛げのあるお子様だった。妙に和む。
( ><)「うっかり『かわいい』とか言っちゃダメですよ。
会長は『かわいい』って言われることが何よりムカつくそうなんです!」
ビロードがこっそりとデレに耳打ちする。
ζ(゚ー゚*ζ「変わった人だなぁ……」
けれど眺めていて飽きることはないと思われるので、口にさえ出さなければ問題ないだろう。
- 245 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 07:07:06 ID:E8soUdZc0
- ヒートの号令によって本日の解散が告げられた。
ヘリカルとビロードはこれから会計委員会の実情調査に向かうらしい。
ヒートはといえば、まだやるべきことがあるらしく生徒会室に籠り続けている。
階段の前に来たところで、デレは若干駆け足気味にそれを下りていった。
そして一階と二階を結ぶ階段の中腹で目的の背中を発見する。
ζ(゚ー゚*ζ「ちょっと、ちょっと……いいかな?」
川 ゚ -゚)「ん?」
先に退室していった、同じ一年の女子に用事があった。
近くで見ると、羨ましいくらいに目鼻立ちが整っていることが一層明白になる。
中二階は陽だまりになっている。
オレンジ色の光が階段の段差によって乱反射している。
その光線に少女が照らされている。
絵のように綺麗だった。
- 246 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 07:12:08 ID:E8soUdZc0
- ζ(゚ー゚*ζ「ええと……名前、聞いてなかったよね」
川 ゚ -゚)「須直クールだ」
想定外なことに、あっさりと回答してくれた。
ζ(゚ー゚*ζ「須直さん」
川 ゚ -゚)「クーでいい。須直はややこしくなるからな」
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあやっぱり、そういうことなんだ」
川 ゚ -゚)「ああ。ヒートは私の姉だ」
夕陽のせいで、クーの頬が赤く染まっているように見えた。
見惚れているデレは訳もなくどきりとする。
川 ゚ -゚)「……所用になる話しはそれだけか?」
ζ(゚ー゚;ζ「えっ? あっ、うん、これだけなんだけどね。
えへへ、ちょっと気になっちゃって」
デレはかゆくもないのに、こめかみのあたりを曲げた人差し指でかく。
- 247 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/18(月) 07:21:47 ID:E8soUdZc0
- 川 ゚ -゚)「そうか。それではな」
そう言うと、デレが瞬きをする刹那に、クーは目の前から消えていった。
ζ(゚ー゚*ζ「……まあ……実際はそんなことはないんだけど……」
現実的にはデレがぼんやりしている間にさっさと行ってしまったのだろう。
だけどそう大袈裟に表してしまいたくなるほど、クーは忽然と消えてしまっていたのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「……私も、早く帰ろう……今日は疲れたよ……」
しかしながら、いざ帰宅しようとすると足が重いし気も重い。
なぜなら――。
(´・ω・`)「デレ! ああ、君はなんということをしでかしてしまったんだ!
もう全部がパァじゃないか! 全部がだよ! 一部じゃなくて全部!
あああああ! デレのバカ! 僕知らない!」
ζ(゚ー゚;ζ「だから、あそこで私と兄さんの関係をバラしておかないと、
もっと謂れのない誹謗中傷を受けることになってたから仕方ないでしょ!」
兄との口論は過去最大級の長期戦になった。
結局デレが布団の中で休むことが出来たのは、零時を回ってからになってしまった。
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