|゚ノ ^∀^)天使と悪魔と人間と、のようです
953 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:38:20 ID:AHAz5nYQ0

・今回の登場人物紹介

【メインキャラクター】
今回のエピソードにおいてのメインキャラクター。


宝ヶ池投機
淳中高一貫教育校高等部の教師。担当教科は政治経済。一年文系進学科十一組の担任教諭。
理事会やPTAの一部勢力と繋がりがある。


鬱田独雄。
淳中高一貫教育校高等部の教師。担当教科は日本史。また生徒指導部の教員でもある。
場合によっては体罰も已むなしと考える前時代的な人物だが、未来ある子供には希望があるとも思っている。

954 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:39:05 ID:AHAz5nYQ0

【その他キャラクター】
他、登場する人物。


高天ヶ原檸檬。
淳高三年特別進学科十三組所属。通称『天使』『一人生徒会(ワンマン・バンド)』。
前会期生徒会長であり、次の選挙戦にも出馬する予定。
分類は放任型リーダーシップ。


鞍馬兼。
淳高一年文系進学科十一組所属。エスカレーター式ではなく外部から淳高に入学した。
自分は人望があれども人の上に立つには向いていないと考えている。
分類は民主型リーダーシップ。


壬生浪真希波。
淳高三年文系進学科十一組所属。理数科目の方が得意だが官僚になる為に有利として文系進学科を選んだ。
『一人生徒会』に対抗するところの『人を使う天才』。
分類は専制型リーダーシップ。

955 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:40:05 ID:AHAz5nYQ0


※この物語はアンチ・願いを叶える系バトルロイヤル作品の前日談です。
※この物語を読む必要は全くありません。
※この物語には能力バトル的要素は欠片も存在しません。


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956 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:41:04 ID:AHAz5nYQ0


 第零話及び第零々話『宝ヶ池投機の自覚なき無関心または八瀬ゆうたろうの呆れた不在証明』


――― 第零話『 assumption ――宝ヶ池投機の自覚なき無関心―― 』





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957 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:42:06 ID:AHAz5nYQ0
【―― 0 ――】



 『政治』――主義主張の争いという美名のもとに正体を隠している利害関係の衝突



.

958 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:43:10 ID:AHAz5nYQ0
【―― 1 ――】


 少なくとも宝ヶ池投機の出身高校の生徒会にはお調子者かお人好しかのどちらかしかおらず、生徒会執行部なんて組織は極めて有名無実な存在だった。
 その長も目立ちたがり屋の馬鹿が勢いで立候補するか教師から依頼された善人(こちらも違う意味で馬鹿だ)が仕方なく務めるような、そんなものでしかなかったと記憶している。
 あるいは内申点を得たい優等生もいるのかもしれないが、宝ヶ池の周りにはそういう敬虔な高校生はいなかった。

 空想の中じゃあるまいし、たとえ選挙によって選ばれた全て生徒の一応の代表である生徒会長でも『学校』という閉鎖空間内での権力はごく僅か、というか言ってしまえばないに等しい。
 生徒会という機関が関われるのは文化祭などの一部行事と精々部の予算編成くらいだ。

 他にやることは教師の雑用の手伝い程度で、何処の学校でもこういう現状は変わらないだろう。
 あえて強調するが「少なくとも」宝ヶ池投機が通った学び舎ではそうだった。
 自分が知らないだけで実は忙しかったなどということはない、何故ならば他ならぬ彼自身が生徒会に所属していたからだ。
 小学校(児童会)、中学校(自治会)、高校(生徒会)と全てを制覇した男、それが若かりし日の宝ヶ池投機である。


 ……それでは彼も馬鹿なのでは?
 その通り、宝ヶ池投機は自分のことを愚か者だと思っている。

 中高一貫教育校の政経教師を務められる程度に学歴はあるがそういうことではない。
 無気力かつ無関心。
 自分はそういうタイプの馬鹿だと宝ヶ池は分析していた。
 かつて生徒会に所属したのも教師から依頼され、固辞すると面倒なことになりそうだからとりあえず服従しただけだけだった。

959 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:44:06 ID:AHAz5nYQ0

 そしてその時から何年もの時を経た現在でも彼は無気力かつ無関心に生徒会に関わっている。
 今は一介の教師という立場で。

 役割的には――かなり違う立場で。


「……しかしホントに無茶を言うよなあ、アイツも」


 呟きながら宝ヶ池は廊下を進む。
 アイツというのは一昨日彼を呼び出したPTAのさる重鎮のことだ。

 少し前から淳高の生徒が事故や通り魔の被害者になることがやたらに多くなった。
 それだけでも由々しき事態なのだが、この問題をややこしくさせているのは被害に遭った生徒達が褒められる類の人間ではなかったということだ。
 言い切ってしまうと素行不良児ばかりだった。
 恐喝や暴行といった騒ぎを起こした生徒ばかりが連続して被害者になったのだ。 

 何処の中二病の仕業だよ、と宝ヶ池は素直に思った。
 天罰にしては暴力的過ぎる、恐らく正義の味方気取りの愚か者が勝手に認定した悪に鉄槌を下しているのだろう。

 ……まあ、それ自体は歓迎するところなのだが。
 同じ馬鹿でも自分のような自堕落な馬鹿と他人に危害を加える馬鹿なら前者の馬鹿の方がまだマシだ。
 ああいう小悪党共に罰が与えられるのは宝ヶ池としても望むところ、なんなら諸手を挙げて喝采してやっても良いと思うくらいだ。

960 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:45:05 ID:AHAz5nYQ0

 しかし暴走した正義は往々にして思慮が足らない。
 手を出さない方が良い相手――教育委員会や地方議会に顔が利くような大物の子を標的にしてしまった。

 その生徒はある部で発生したいじめの主犯だったとされているが、彼が関わっていたかどうか、そもそもいじめがあったかどうかさえ曖昧なのだ。
 下手をすれば完全な濡れ衣ということも十二分にありえる。
 彼の親、つまり宝ヶ池を呼び出したPTAのさる重鎮(及び周辺勢力)が不快感を抱いたのも頷ける。

 けれどだからと言って、


「その犯人と想定される現生徒会長の次期選挙戦出馬を阻止しろだなんて、なんか違うと思うんだけどなあ……オレは」


 宝ヶ池投機に下された任務は「現会長高天ヶ原檸檬を会長の座から引き摺り下ろすこと」。
 その為に宝ヶ池は動いていた。

 理由としては、警察沙汰にするに当たり(どうやらさる重鎮はそのつもりらしい)現職の生徒会長が補導されるのは学校関係者にとって非常に不味いから、だろう。
 加えささやかな仕返しの意味合いもなくはないというのが宝ヶ池の私見だった。

 正直に言ってしまえば、本当に高天ヶ原檸檬が犯人なのかとか、関係者の体裁とかそういうことはどうでも良かった。
 自分が縁故採用だった関係上、人の頼みはあまり断れないので素直に服従しただけであり、事件や問題そのものに思い入れは全くない。
 正義の味方気取りの誰かも、勿論生徒会にも。
 ただ「高天ヶ原が次の選挙に立候補しなけりゃそれだけで済む話なんだけどな」と思うだけである。

961 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:46:05 ID:AHAz5nYQ0

 モチベーションが上がらないのは生来の無気力と無関心以外にも成果が期待されていないことを薄々分かっているのが大きかった。
 あの十三組の化物の道を一介の教師が遮れるわけもないし、向こうもからも失敗しても別に良いと告げられていた。

 そういう取って付けたような理由といい加減な対応だからこそ宝ヶ池も「きっとこの人は目立つ子供に嫌がらせがしたいだけなんだろう」と見做したのだった。



 何はともあれ。
 宝ヶ池は高天ヶ原檸檬を生徒会長に再選させない為の策を講じねばならない。

 四月という一年の担任教師(宝ヶ池投機は一年十一組の担任だ)には酷く多忙な時期だが文句を言ってる暇はない。
 立候補者の立会演説会まで時間もない。
 どうにかして高天ヶ原檸檬に出馬を諦めさせるか、それか落選してもらうかしなければならない。 

 そして宝ヶ池は考えた末に後者をメインプランに据えた。


「立候補を防ぐのが無理なら、アイツに落ちてもらえば良いんだよな。誰かに選挙に出てもらって」


 その為の対抗馬を確保する目的で宝ヶ池投機は廊下を進んでいたのだ。

 ……手間はかかろうが、落選させるなら学校裏サイトにでも現会長の悪口を書き並べた方が遥かに効果があったと彼は後日気が付いた。
 この時に思い至らなかったのは普段から頭を使うことを怠っていた所為かもしれない。

962 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:47:05 ID:AHAz5nYQ0
【―― 2 ――】


「……はあ。まあ良いですよ」

「本当か鞍馬?」

「嘘を吐く理由がありませんから」


 放課後、一年十一組の教室で自身の席に座っていた新入生鞍馬兼は平坦な口調で答えた。
 快く了承した感じではないが、露骨に嫌そうな顔をしたり帰り支度を始めたりしないくらいには真摯に受け取ってくれたようだ。

 宝ヶ池が受け持つクラスの生徒である鞍馬兼は近くで見ると十二分に整ったと言える容姿をしていることが分かる。
 学力でも入学試験では上位五人に入り、加えて中学時代はスポーツでも中々の成績を残していたという秀才だ。
 それでいて嫌味ではなく、エスカレーター式に上がってくる生徒が多いこの学校では珍しい高校からの転入組にも関わらず既に何十人という友人ができたらしい。
 今と同じような無気力な学生時代を過ごした宝ヶ池からすれば最早別次元の人間だ。

 コイツならば生徒会長なんて余裕だろう――そうほくそ笑んだ瞬間、鞍馬兼は淡々とした調子で告げた。


「でも多分、僕じゃ駄目だと思いますよ」

「え?」

963 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:48:05 ID:AHAz5nYQ0

 顔が整っており、頭が良く、運動は得意で、人望もあり、誰に対しても親切で嫌なところがない。
 そんな、宝ヶ池から見れば「理想の高校生像」とでも言うべき鞍馬兼はあっさりと言う。


「誰の頼みも断らない人間って良い人じゃなくて単に『断るのが面倒な人』ですよね。人間関係や周囲を見直すのが億劫な人」

「えっと……なんだって?」


 すみません間違えましたと断り、続ける。


「出馬自体は全く構いませんが、僕の予想では僕は現会長以上の票を得ることはできません。あの人も出るんでしょう?」


 千を超える生徒の代表を決めようかという生徒総会に「出るのは全く構わない」と了承する彼は中々の大物だったのだろうが、それは宝ヶ池にとってさして重要ではなかった。
 ここで大事なのは、そんな鞍馬兼であっても現会長には勝てないと認識しているということである。


「おいおい、出る前からそんなこと……」

「逆に言えば『必ず生徒会長になって欲しい』と頼まれたら僕は断ります。構わないのは出馬までです」

「いやしかしだよ、オレが見る限りじゃあオマエも相当な人気者だと思うんだが……」

964 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:49:04 ID:AHAz5nYQ0

「知名度があれば当選しやすい、というのはそうかもしれません。タレント出の政治家さんも最近は増えましたし」

「ならオマエもかなりの票を集めることができるんじゃないのか? 友達は多いように見えるぞ」

「僕に百人の友人がいたとしても生徒総数が千を超えるこの学校では一割以下ですよ。大部分の、特に多くの上級生にとっては僕はただの新参者です」


 鞍馬兼の言い分は謙虚と言うよりも冷静なもの。
 しかし大人しく引き下がるのも惜しい。

 宝ヶ池は言った。


「でも、でもだ鞍馬。現会長の高天ヶ原だって絶対王政の人気者ってわけじゃないんだ。それに何十人と候補がいるわけでもない。票がバラけないのなら高天ヶ原に入れない奴の支持を得れば……」

「先生がどうして僕に当選して欲しいのか――裏を返せば会長に落選して欲しいのか僕は寡聞にして存じませんが、僕では無理だと思います」


 生徒会長になることが無理――なのではなく。
 高天ヶ原檸檬を破り全校生徒の代表となることが――無理なのだ。

 ある種の確信を持ち鞍馬兼はそういう言葉を選んだのだが、残念ながらそれは宝ヶ池には伝わらなかった。
 学生時代は生徒会に所属し、全教師の中でも選挙については詳しい部類に入るであろう彼はその二つの違いを理解することが叶わない。
 あるいは元生徒会執行部所属で、選挙に関する知識を持ち合わせているからこそ、分からないのかもしれなかった。

965 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:50:06 ID:AHAz5nYQ0
【―― 3 ――】


 鞍馬兼は出馬自体は了承してくれた。
 しかし当選は確約してくれなかった。

 高校の生徒会選挙なんてどうせ大多数の生徒は興味がない。
 なら顔が広く顔も良い鞍馬兼は十二分に当選の確率があると宝ヶ池は思う。
 適当に丸を付けるなら顔見知りかそれか見た目が良い奴を選ぶだろう。
 男子は高天ヶ原に入れるとしても、女子は鞍馬に入れるというのが子供の相手をする教師としての宝ヶ池の予想だった。

 淳高の生徒会選挙はまず立候補者を募り公表、その後の生徒総会で立会演説会を行い、そして投票を行う流れだ。
 演説に関しても、現会長はユニークでセンスあるトークを展開するが、鞍馬兼だって中学時代に賞を取る程度には卓越している。
 後者が劣っているとは必ずしも言えない。

 言えない――はずだ。


「……聞いていらっしゃいますか、宝ヶ池先生」

「あっ、はい! 勿論です!」


 先輩教師の言葉に驚きをひた隠しにしつつ返答を。
 勿論聞いていなかった。

966 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:51:05 ID:AHAz5nYQ0

 喫煙室の中、目の前に座っているのは鬱田という生徒指導部の教員だ。
 少し痩せ気味で寡黙な彼を宝ヶ池は苦手としていた。
 生徒からの信頼もある悪い人ではないとは分かっているのだが、三十代のはずなのに妙に落ち着いていることや「場合によっては体罰も已むなし」という思想は苦手だった。

 というより端的に言えば怖かった。
 別に怒鳴り散らしたり、本当に暴力を振るったりはしないけれど。


「それで……なんの話でしたっけ?」

「……聞いていなかったんですね。もう一度言います」


 静かに彼は続けた。


「教師も人間なので仕方ないとは思いますが、選挙の場では一人の生徒に肩入れしない方が良いと思います」


 そうか、生徒会選挙の話だったのか。
 五分ばかり同じ空間にいたのに宝ヶ池は初めて知った。
 とりあえず「はあ、その通りですね」と無難な相槌を打っておく。

 遠回しに自分のクラスの生徒を立候補させたことを咎められているらしいが、その程度のことは何処の担任教師もやっている。
 学生時代に宝ヶ池に懇願してきたのも担任だった。

967 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:52:06 ID:AHAz5nYQ0

 しかしこれは良い機会だ。
 まるで悪びれていない宝ヶ池は今後の為、淳高の生徒会選挙について先輩に訊ねてみることにした。


「鬱田先生は教師という客観的な立場から見て、次の選挙、誰が勝つと思いますか?」

「……そうですね。宝ヶ池先生は鞍馬兼に勝ってもらいたいと思っているようですが、鞍馬自身は自身の当選の可能性を否定したんじゃないですか」


 先輩教師はそう言った。
 素直に答えてくれたことも意外だったが、それ以上に鞍馬兼の反応を見抜いてみせたことが何よりも驚愕に値した。
 一見ただの陰鬱そうな大人に見えるのに優れた洞察力を持つ。
 鬱田が生徒に慕われる理由も分かるというものだが、宝ヶ池としてはやはり「怖い先輩」でしかない。

 素行不良生徒を闇討ちしているのが彼だと言われても驚かないだろう。
 まさかそんなことがあるわけがないし、あってもらっては困るのだが。


「実はそうなんです。アイツは自分じゃ無理だって」

「……そうですね。PM理論などリーダーシップに関しては幾つかの研究がありますが、鞍馬は民主型リーダーシップの持ち主だと思います」


 そうして、政治経済の先生に語ることではないですかね、と僅かに笑う。
 これで分からなければ良い恥晒しだっただろうが、幸運なことにその用語は聞き覚えがあった。

968 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:53:05 ID:AHAz5nYQ0

 鬱田が言った「民主型リーダーシップ」とはリーダーシップ行動論の言葉だ。
 心理学者レヴィンの研究ではリーダーシップには民主型、専制型、放任型の三つの種類があると考えられている。

 民主型リーダーシップはリーダーが集団の討議を援助し方針を決定後、細かな部分は部下に任せるもの。
 専制型リーダーシップは意思決定や作業手順の大部分をリーダーが命令するもの。
 そして放任型リーダーシップは部下の行動にリーダーは関与せず基本的に放任であるもの。


「それで……そうですね、壬生浪真希波などは専制型だと考えます。人を使うことに秀でた類の人間です」

「『人を使う』って言葉からはあまり良い印象を受けませんがね」

「人を使うことが上手いということは、つまり、人の良さを見つけることが上手いということだと思いませんか?」


 なるほど、その通りかもしれない。
 官僚を目指していると聞いたことがあるが壬生浪にはトップに立つ人間の才覚があるのだろう。


「で、なら現会長の高天ヶ原はどうなんですか? やはり行動論で理想とされた民主型と専制型の使い分けですかね?」

「彼女は間違いなく放任型です」

「…………は?」

969 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:54:06 ID:AHAz5nYQ0

 放任型は組織の纏まりがない為にメンバーの士気も低く、それどころか仕事の質も量も他二つの類型に劣るとされている。
 無論ケースバイケースだが、いやけれど――それにしたって。

 思わず宝ヶ池は言った。


「ちょっと待って下さいよ、それで鞍馬が負けるなんて……おかしくないですか?」

「……おかしいかどうかは別にして高天ヶ原が放任型なのは間違いないと。命令を下そうにも部下はおらず、集団の意見を取り入れようにも彼女は一人ですから」


 そうだ。
 高天ヶ原檸檬は生徒会全ての役職を兼任している為、現行の生徒会は彼女一人だけだ。
 だからこそ――彼女は『一人生徒会(ワンマン・バンド)』。

 各委員会は生徒会執行部の下部組織と言えなくはないものの、どの委員会にも委員長がいる。
 リーダーシップを発揮しようにも委員会の意見は生徒会に来る前に統合され、彼女から命令を下すことは、まずない。

 ワンマンバンドという言葉は「一人が全ての職務をこなす組織」という意味だが、そんな組織の長にリーダーシップが求められるわけもない。
 必要ないのだ。
 彼女は一人で十分――五人分なのだから。


「いや……でも……」

970 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:55:05 ID:AHAz5nYQ0

 高天ヶ原檸檬が放任型のリーダーだということは分かった。
 というよりも、それ以外に分類しようがないことは。

 しかし――ならばどうして、類型の中で最も有能と考えられる民主型リーダーシップを持つ鞍馬兼は、彼女に勝てないと思ったのか。


「……分からないのならば生徒会長に訊ねてみれば良いと思います」

「鞍馬じゃなく……高天ヶ原にですか?」

「そうです。育児放棄と放任教育は違うものです。彼女は一人で生徒会ですが……だからと言って生徒や教師の話に耳を傾けないわけではない」


 一人でいるのは自分が一人でも不便がないからであって。
 リーダーとしての役割を果たさないわけではない。


「…………そうですね」


 この時点で宝ヶ池投機はかなり揺らいでいた。
 無関心で無気力な自分が始めた行動の、その動機の何か支柱のようなものに疑問を感じ始めていたのだ。

 何より彼は生徒会長高天ヶ原檸檬と会って、話がしたくなっていた。

971 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:56:05 ID:AHAz5nYQ0
【―― 4 ――】


「突然だが高天ヶ原、生徒会選挙は辞退してくれないか?」

「えぇ、ヤだよぉ〜」


 即答だった。
 宝ヶ池の頼み方が悪かったのかもしれないが、任期終了を控えた現会長高天ヶ原檸檬は理由を訊きもせず断った。
 どころか仮にも教師である宝ヶ池の方を向いてすらいない(紙片を読んでいる)。

 PTAの重鎮も新一年生も先輩教師も全員が敬語を使っていたにも関わらず、この対応。
 親しくない人間とは年齢や立場に関わらず丁寧語で話すという宝ヶ池の中の常識は彼女には通用しないらしかった。


「でもね、例えばタカラちゃんが誰かに脅されて、仕方なく僕の立候補を阻止しようとしているのなら―――、」

「それなら取り止めてくれるのか?」

「―――その脅してる誰かをどうにかしても良いかな、とは思うよ」


 どうにか、とは具体的にどうするかということはあえて訊かなかった。
 これで「いつも通り闇討ちかな」とでも答えられたら極めてややこしい事態に陥るからだ。

972 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:57:05 ID:AHAz5nYQ0

「……まあいい。さっきの頼みはナシで良い。だから少しオレと話さないか」

「うん、いいよー。もしかしたら話す過程で急に生徒会長をやりたくなくなるかもしれないし」


 それなら幸いだと宝ヶ池は笑ったが、内心には疑問が満ちていた。
 自分は一体どう思っているんだろう――と。

 やっと書類に目を通すことをやめた高天ヶ原に彼は言った。


「オレは高天ヶ原、オマエを落選させようと思っていた」

「知ってるよ。それがどうかしたの?」

「どうかしたのって……まあいい。それで、オマエに訊きたいことがあったんだ」

「なに?」


 一拍置いて宝ヶ池は訊いた。


「オマエはなんで生徒会長をやろうと思ったんだ?」

973 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:58:06 ID:AHAz5nYQ0

 学生時代の自分はあんなにも面倒だと感じていたのに。
 お前は何故、そんなにも毎日楽しそうなんだ?


「うーん。それには答えられないケド……ヒントくらいならあげても良いかなぁ」


 そうして高天ヶ原檸檬は血に塗れたように美しい笑みを浮かべ、こう言った。


「この学校の生徒会が僕の大好きな少年マンガとかライトノベルのやつみたいに絶大な権力を持っていたなら、多分僕は生徒会に入ってないよ」

「どういうことだ?」

「現実の生徒会って、やることないじゃん。一人でも回るくらいに」


 いや、現実の生徒会執行部にないのは権力であって、仕事ではない。
 空想とは違うから一人でも大丈夫という理屈にはならないが、とりあえずそれは良い。


「……悪い、高天ヶ原。もう少しヒントをくれ」

「多分なんだけどね、タカラちゃんは生徒会長と大統領とか首相とか内閣総理大臣を同じ分類にしてると思うんだケド……どうかな?」

974 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 21:59:05 ID:AHAz5nYQ0

「ああ。学校を国家とし、生徒を国民とすれば近いものになるだろう」


 学校が国家及び領土。
 中にいる生徒は当然国民。
 ならば立候補者の中から生徒による投票で選出され、特別な任務を遂行する生徒会――その長たる生徒会長はそれらと同じではないか。

 少なくともアイドルグループの煽りに使われる「総選挙」よりは遥かに選挙としての体裁を成している。
 政治経済の教師として言わせてもらえば一人一票ではなく株式数(買ったCDの数)に応じて議決権が与えられる会議は株主総会だ。

 だが、彼女は首を横に振った。


「違うよ。政治家と生徒会役員は全然違うものなの。きっとタカラちゃんの中の違和感はその勘違いから来るものだと思う」

「違うって、何が違うんだよ高天ヶ原。流石に責任の違いなんて言わないよな?」

「責任の違い――とも言える。それは本質ではないけどね。……タカラちゃん、そもそも『生徒会』ってどういう定義の組織か分かる?」

「生徒の代表によって組織される自治機関……とかじゃないか?」

「うん、それでほぼ正解」

975 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 22:00:04 ID:AHAz5nYQ0

 より正しくは淳高においての生徒会は、
 「学校の全生徒により組織された」「会員生徒の自主的な活動により」「学校生活の向上改善及び諸活動の調整支援を図る」組織であるらしい。
 その中で本部役員とされているのが生徒会長を始めとする生徒会執行部の人員だ。


「だから僕は『一人生徒会』じゃなくて厳密には『一人執行部』なの」

「全生徒が生徒会に属していることは初めて知ったが、だとするとますます政治に近いんじゃないか? つまり一般生徒は有権者ってことだろ、それ」


 けれど。



「だけど生徒会執行部という政府には領土を維持する役目も、経済の方針を定める役割も、何一つないんだよ?」



 そう。
 生徒会執行部が全生徒の代表者で構成された機関だとしても――学校を運営しているわけではない。

 生徒数が減ろうとも、素行不良の生徒が増えようとも、校舎が荒れ果てようとも。
 それに対処する役目は任されていないし、その対策を立てるほどの権力を有してはいない。
 「学校生活の向上改善」という名目で問題に取り組むことはできるが、それだけだ。

976 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 22:01:13 ID:AHAz5nYQ0

「いや……でも……!」

「学校で何か問題が起こった時に怒られるのは自治機関である僕じゃなく、タカラちゃん達教師や理事会でしょ? 結局ね、そこが現実の政府との違いなんだよ」


 単純な責任の違い――ではなく。
 責任の発生する担当業務の多寡の違い。

 現会長高天ヶ原檸檬は生徒会(執行部)の権力を我が物としているが、それでできることなど高が知れている。
 どんな行為でも活動には生徒会顧問、学年主任、そして学校長の許可が必要だ。
 彼女は生徒会長になって校則を幾つか付け足したが、それにしたって通常業務の迅速な対応の為の処置の承認を得ただけに過ぎない。

 言ってしまえば、彼女は現実の政府なら精々市役所の職員でしかない。


「タカラちゃんはそこを勘違いしてて、だから学生時代の生徒会活動がつまらなかったんじゃないかな」

「…………そうだな」


 折角選ばれて、頑張ろうと思っていたのに。
 やれることは何一つなくて。
 どうでも良い雑用ばかりをやっているのが本当に嫌になった。

977 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 22:02:06 ID:AHAz5nYQ0

 政治経済風に言えば――「脱政治的無関心」だ。
 自分が行動しても、何も変わらないのなら、やらなくていいじゃないかと。

 そっちの方が楽じゃないかと―――。


「……ああ、そうかもな。オレもマンガの中の生徒会みたいな、やりがいある活動がしたかったのかもしれない」


 さして恩があるわけでも、弱みを握られているわけでもない人間の命令に従ったのは。
 単純に、宝ヶ池投機という元生徒会長が高天ヶ原檸檬という現生徒会長の在り方に嫉妬していたからなのだろう。

 本当に彼女に嫌がらせをしたかったのは他ならぬ自分自身だった。

 自覚のない想い。
 嫉妬と憧憬。 
 それに気付けたのは彼女と話したおかげだ。


「みっともねぇなあ……」


 あるいはもっと惨めになるところだった。
 気付かなければいつまでも空回りし続けていたはずだ。

978 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 22:03:06 ID:AHAz5nYQ0

「みっともなくても良いと思うよ。みっともない自分をみっともないと思えるのなら」

「……それは大人には辛いことだな」


 少女の言葉に教師は笑った。

 心の中のつかえがやっと一つなくなった。
 けれど、まだ大きな疑問は残ったままだ。

 自分はあんなにも楽しくなかった生徒会活動を。
 何かに影響を及ぼせるわけでもない業務を。
 どうして彼女はやりたいと思い、そして楽しめるのだろう?


「最初の質問に答えろよ。どうしてオマエは生徒会長をやろうと思い――やっているんだ?」

「……どうしてかなぁ。普段の仕事は退屈だし、不良とか反生徒会勢力とか他校生徒とかの抗争もないから活躍の機会もないし」

「いじめはあるらしいぜ?」

「そんなのは僕がどうにかすることじゃないよ」

979 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 22:04:05 ID:AHAz5nYQ0

 呟き、しいて言えば、と彼女は続けた。


「さっき権力の大きい生徒会ならやらなかったって言ったけど、政府で喩えるなら僕は夜警国家が好きなんだと思う」

「生徒会(政府)が生徒(国民)に積極的に介入しないってことがか?」

「うん。自由放任主義が好きって言っても良いかな」


 高天ヶ原檸檬は放任型のリーダー。
 その言葉の真意は、ここにあったのかもしれない。


「僕は何かをしろとか何かをやれとかは言わないし言えないから、皆は好き勝手に自分の好きなことをやってるよね」


 勉学に、運動に、恋愛に。
 あるいは他愛もない時間潰しに興じてみたり。
 好き勝手に好きなことをやっている。


「僕が何も言わなくても、壬生浪クンは政治家とか官僚を目指して勉強してるし、新宮クンは全国で何番ってスプリンターだし」

980 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 22:05:06 ID:AHAz5nYQ0

 彼女の相棒であるハルトシュラー=ハニャーンだって。
 大真面目に芸術家を目指す夢見る少女。


「僕は、自分で目標を設定して、そこに向かう過程が大好きだよ。僕が何も言わないからこそ皆は自分を目指す場所へと進んでいく」

「自由故に自発的に努力する、それが最善か……。経済学的にはモチベーション理論の話だな」

「そんな感じかな。内的動機付けと外的動機付けの方が近い気がするケド……これは経済学じゃなくて心理学の用語だね」


 クスクスと少女は笑った。
 そう言えば、と宝ヶ池は思い出した。

 類型の中では最も劣っているとされる放任型リーダーシップだが――研究機関など個々人が目標を持ち活動している場所では最適だと言われていることを。
 あるいはそれは学校としても良いのではないだろうか。
 それぞれの生徒は違う未来を見据えていて、時に周囲の干渉は彼等の意欲を削ぐことになる。
 ならば――個人の選択を重んじる放任主義は未来のある子供達にとっては理想形なのかもしれない。

 生徒会には義務はほとんどない、生徒を指導し命令する権限もない。
 しかしだからこそ、何もできない高天ヶ原檸檬の生徒会は生徒の目標を馬鹿正直に応援することができる。


「(なるほど……鞍馬はそれが分かっていたらしい)」

981 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 22:06:04 ID:AHAz5nYQ0

 本当に大した奴だ。
 高天ヶ原檸檬も、鞍馬兼も。


「僕は夜警国家が好きだと言ったケド……だから求められれば最低限の手助けはしたいと思ってるよ」

「そうか。オマエは誰しもが夢に向かって努力していけると思ってるんだな。誰かが命令したり指導したりしなくとも――何処かへ進んでいけると」


 宝ヶ池投機の言葉に、生徒会長は初めて素直に頷いた。



「うん。きっとそうだよ」



 学校の主人公は生徒だ。
 そんな標語を目にすることは教師になってから益々多くなったけれど、生徒の内からそんなことをやる人間がいるなんて予想もしていなかった。
 生徒会という機関をそんな風に捉える人間がいるなんて思ってもみなかった。

 政治というものは多くの場合大義名分の下に行われる利害関係の衝突だと宝ヶ池は思っているが、ならば、もしかすると。
 なんの権力もなく、利点もほとんど存在しない生徒会という小さな政府は――政治の理想なのかもしれないと。

982 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 22:07:05 ID:AHAz5nYQ0

 ……なんて、そんなことを考えた。
 考えただけだ――本当の政府ならばその中心人物は高天ヶ原檸檬よりもやはり鞍馬兼や壬生浪真希波の方が適任なのだろう。

 次の選挙で、この学校の生徒達は誰を選ぶのだろう。
 誰が当選するか宝ヶ池には分からない。
 けれどもし自分が生徒だったなら恐らく高天ヶ原に入れるんだろうな、とは思った。


「高天ヶ原、」

「んー?」


 結局例の連続通り魔はオマエが犯人なのか?とか。
 今度当選したら何をやるつもりなんだ?とか。
 訊きたいことは色々と浮かんだが、結局言葉になり出てきたのは当たり障りのない一言だった。

 教師らしい激励だった。


「……頑張れよ」

「タカラちゃんもね♪」

983 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 22:08:05 ID:AHAz5nYQ0

「うるせぇ。あと教師をちゃん付けで呼ぶな」


 捨て台詞としてそう吐き捨てると宝ヶ池投機は教師が並ぶ体育館の脇へと歩いて行く。
 整列し切れていない生徒がざわめく中、彼等のことを少しだけ羨ましく思い、「今はあそこが自分の場所だ」と言い聞かす。

 教師にはなりたくてなったわけではなかった。
 けれど今は夢がある。
 学生時代の自分のような、無気力感に打ち拉がれ何もかもを諦めたように生きる子供を一人でもなくしたい。
 そういう教師になりたいという夢ができた。

 彼女のお陰だ。


「……ありがとうな」


 振り返ると、その少女は生徒会顧問の教師と話している最中だった。
 こちらが見ていることに気付くと手を大きく振った。

 恥ずかしくて苦笑いが出た。
 大人になるとこういうことも難しくなる。
 全く、ままならない。

984 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 22:09:05 ID:AHAz5nYQ0

 やがて全ての生徒が揃い、生徒総会が始まる。
 内容は生徒会選挙の為の立会演説会。 

 静まり返った館内に教頭の声が響き総会の開始を告げた。

 一人目の立候補者が壇上に上がり、一礼すると自身のマニフェストを語り始める。
 現会長である高天ヶ原檸檬の出番は最後だ。 
 目を凝らし彼女の方を伺うとにやにやと愉しげに笑いながら話を聞いていた。
 緊張という言葉とは無縁の存在らしい。

 そうして、



『―――それでは最後に三年十三組所属の高天ヶ原檸檬さん』



 彼女の名前が呼ばれて。
 この学校の生徒会長が歩き出す。

 そして、彼女は慣れた風に壇上へと向かい―――。

985 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 22:10:05 ID:AHAz5nYQ0
【―― 5 ――】



 『天使』
 『十三組の化物』
 『血塗れ三日月』
 『意思を持つ闘争本能』

 様々な異名で呼ばれる高天ヶ原檸檬だが、一教師である宝ヶ池投機はやはり彼女にはこの肩書きが一番相応しいと思っている。
 自分もかつてそうだった、そして今は支持する立場である――あの役職。



 『生徒会長 高天ヶ原檸檬』






【―――Episode-0 END. 】

986 名前:第零話投下中。:2012/10/04(木) 22:11:04 ID:AHAz5nYQ0
【―― 0 ――】



 《 assumption 》

 @(証拠なしに)当然のことと考えること、決めてかかること、想定、前提

 A(任務・責任などを)引き受けること、承認、権力の掌握

 B(態度などを)取ること、(様相・性質などを)帯びること





.

991 名前:おまけ・高天ヶ原檸檬の尊敬すべき先生方。その一。:2012/10/05(金) 15:51:41 ID:IaY8jZQ.0
( ,,^Д^)「宝ヶ池投機」

【基本データ】
・年齢:二十代
・職業:高校教師(担当は政治経済)
・能力:四年制大学を卒業し苦もなく教師になれる程度
・生徒からの評価:「教え方が凄く上手いわけではないが自分達の気持ちを良く理解してくれる」

【概要】
 第零話主人公。淳高の政経教師。
 また一年文系進学科十一組の担任でもある。

【その他】
 『コールアウター』のプギャーが教師になったらこんな感じかもしれない。
 名前の由来は京都市宝ヶ池駅+経済用語の投機+その元になった仏教用語で「師弟の気持ちが自然に一致する」という意味の投機から。
 崩れ気味の言葉遣いで、一人称(オレ)や二人称(オマエ)がカタカナ。
 自身のことを無気力で無関心な人間と思っているが、別に不真面目ではない。
 というか、進学クラスである文系進学科の担任を任されるくらいなので教師としてはそれなりに優秀。
 昔は今よりも真面目で少なからず向上心があり高校時代は生徒会長を務めていた。
 「親しくない人間とは立場に関係なく敬語で話す」を常識と考えているが、生徒に対し丁寧語を使うことはない。
 レモナからはタカラちゃんと呼ばれており、中々親しい。

【備考】
 『天使と悪魔と人間と、』は欲望と願望に満ちた若者の話ではあるが、それに対応するような意欲を失くしてしまった大人。
 構成段階ではバトルロイヤルに参加するプランもあった(AAはその名残り)。けど結局はなしに。
 彼は教師であり、また大人であり、生徒や子供を踏み越えてまでして叶えたい願いは一つもなかったのだ。

992 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2012/10/07(日) 03:21:48 ID:yeFHpFSg0

|゚ノ*^∀^)「あとがたり〜」

|゚ノ ^∀^)「『あとがたり』とは小説などにある後書きのように、投下が終了したエピソードに関して登場キャラがアレコレ語ってみようじゃないかというものです」

j l| ゚ -゚ノ|「要するに後書きの語り版であとがたりだ」


|゚ノ ^∀^)「今日も僕の出番少なかったけどね」

j l| ゚ -゚ノ|「私に至っては名前が一度登場したのみだぞ」




―――『あとがたり・第零話篇』







993 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2012/10/07(日) 03:23:06 ID:yeFHpFSg0

|゚ノ*^∀^)「改めまして、レモナこと高天ヶ原檸檬です」

|゚ノ ^∀^)「そしてスペシャルゲスト!」

( ,,−Д−)「あー、初めまして。きっとここに来るのは最初で最後な宝ヶ池投機だ」


|゚ノ ^∀^)「まさかの先生登場」

( ,,^Д^)「生徒会顧問でもオマエの担任でもないのにな。まだ鞍馬を呼んだ方が良かったんじゃないか?」

|゚ノ*^∀^)「冒頭の注意書きが変わってるから大丈夫大丈夫♪」

( ,,^Д^)「読者は気付いてないかもしれないがな」



( ,,−Д−)「それで、零話の解説だったか? 小説版めだ●ボックスのパロディだ。以上」

|゚ノ ^∀^)「そんなこと皆興味ないし、あったとしても大して重要じゃないよ」

( ,,^Д^)「そうか?」

994 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2012/10/07(日) 03:24:04 ID:yeFHpFSg0

( ,,^Д^)「とりあえず時系列から解説するが、この零話は四月の話だな」

|゚ノ ^∀^)「第四話で鞍馬クンが『先生の熱心の勧めで選挙に立候補した』と言ってるけどその時の話だね」



( ,,−Д−)「…………もうないんじゃないか? 言うべきことは」

|゚ノ ^∀^)「敬語の話とかあるでしょ」


( ,,^Д^)「ああ、そうか。えーっとオレは作中で『親しくない人間とは立場に関わらず敬語で話す』ということを常識と考えているが、その割に生徒にはタメ口で話している」

( ,,^Д^)「自分で言うのもなんだが、宝ヶ池投機という人間の中では生徒はかなり親しい相手に分類されるらしい」

|゚ノ*^∀^)「鞍馬クンが頼みを引き受けたことからも、タカラちゃんも生徒からは慕われてるってことが分かるよね。心的な距離が近いんだ」

( ,,^Д^)「その割にオマエは即座に断っていた気がするがな」

995 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2012/10/07(日) 03:25:06 ID:yeFHpFSg0

( ,,^Д^)「あとは……出てきたテクニカルタームの解説でもするか」


( ,,^Д^)「まず『PM理論』。これはリーダーの特性を集団機能から見たもので、PはパフォーマンスでMはメンテナンスの頭文字だ」

|゚ノ*^∀^)「ビックリするくらい単純だけど世界的に知名度がある理論だから是非覚えてね」


( ,,−Д−)「そして『リーダーシップ行動論』は作中での説明通りだな。こっちも有名だ」

|゚ノ ^∀^)「少しだけ触れられているけど、理想的なリーダーは民主型と専制型を使い分けることができるらしいよ?」


( ,,^Д^)「『脱政治的無関心』はタイトルにも関係がある用語だが、知っている人は少ないんじゃないか?」

( ,,^Д^)「少なくとも政治経済ではリースマンの二類型の方を覚えさせる」

|゚ノ ^∀^)「こっちはラスウェルの方だね」

( ,,−Д−)「そうだ。『脱政治的無関心』は政治的無関心の三類型の一つで、かつては政治に積極的に参加していたが挫折や幻滅を経て無関心になったものだ」

|゚ノ ^∀^)「作中でのタカラちゃんみたいなのだ」

996 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2012/10/07(日) 03:26:07 ID:yeFHpFSg0

( ,,^Д^)「高天ヶ原が言った『夜警国家』は古い自由主義国家のことだ。対義語には福祉国家や警察国家がある……どちらかと言えば、この二つの対義語としての意味合いで使っているな」

( ,,^Д^)「警察国家は現在口語で使われるものとは微妙にニュアンスで違っているので注意が必要だ」


( ,,^Д^)「あとの『モチベーション理論』や『内的動機付け・外的動機付け』は興味のある奴のみが調べるくらいで良いだろう」

|゚ノ ^∀^)「どっちも自発的な行動が効率的に一番良いってことを表す為に使われてるね」



( ,,^Д^)「……なんか授業みたいだな」

|゚ノ*^∀^)「いいじゃん。好きでしょ? 授業」

( ,,−Д−)「嫌いじゃないが、好きではないな。高校の政治経済の授業ではさわりしかやらないから面白くない」

|゚ノ ^∀^)「さわり、っていうのは本来はくどきとほぼ同じ意味だがら、要点を意味するけど導入って意味じゃないよ?」

( ,,−Д−)「うるせぇ。オレは現国の教師じゃねぇんだよ。そもそも『くどき』がなんなのか分からねぇ」

997 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2012/10/07(日) 03:27:02 ID:yeFHpFSg0

|゚ノ*^∀^)「じゃあ最後にタイトルについて!」

( ,,^Д^)「第零話は最初に誰かが高天ヶ原が犯人だと決めてかかって、高天ヶ原が会長に就任し、そしてオレが支持する態度を取った話だった」

|゚ノ ^∀^)「動詞形だと『…するふりをする』や『…を装う』って意味もあるから、タカラちゃんは実は自分の気持ちに気付いてて目を背けてただけだったのかもね」

( ,,−Д−)「だとするとオレがみっともないだけな話になるが――いや今もでもそう変わらないか」






( ,,^Д^)「……ところで通り魔事件の犯人は誰だったんだろうな」

|゚ノ ^∀^)「さあ? ケド、多分これから明らかになるんじゃないかな」

( ,,−Д−)「オレはオマエが明らかにするんだと思うがな」

|゚ノ*^∀^)「この物語で明らかにならかった場合は外伝で――当然教師であるタカラちゃん達が犯人探しすることになると思うよ?」

( ,,^Д^)「気が進まないな、そりゃ」


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