リハ*゚ー゚リ 天使と悪魔と人間と、のようです Part3

90 名前:オマケE「僕はあなたの犬になりたい」 投稿日:2013/07/09(火) 15:40:21 ID:A6odQSg60

 十三組の化物、『天使』こと高天ヶ原檸檬の暮らす部屋はある高級マンションの最上階に存在している。
 「ひょっとしたら本当に天使で雲の上からやって来てるんじゃ」などとジョルジュは思っていたのだが流石にそんなことはなかったらしい。
 ただ家賃的には学生が暮らすには不相応な、雲の上と称しても過言ではない高い部屋だ。

 唐突に「シュラちゃんの料理が食べたい」とレモナが言い出したことから、淳校生徒会+αの面々は高天ヶ原檸檬の自宅へとやって来ていた。
 ジョルジュとしては女子の部屋を訪れるなど初めてなので、ハルトシュラーがいる為に二人きりではないにせよ、テンションが上がることは確かだった。

 ……まあ最上階(地上十三階)まで向かう過程でエレベーターがあるのにわざわざ階段を使ったことで、その楽しい気分はかなり削がれてしまったが。


「(なんで、この二人は息も切らさずっ……あー、疲れた……)」


 天使と悪魔は和やかに雑談しながら登っていったが、ジョルジュは六階辺りからは付いて行くのがやっとだった。
 多分、階段では自然と視界に入るレモナの揺れるスカートや引き締まった白い太ももがなければリタイアしていたと思う。

 しかもレモナに至っては学生鞄以外に道中で買った食材が入ったエコバッグを提げている。
 買い物後に一度持つと申し出たのだが、「別にいい」と拒否されていた――今となっては断ってくれたことに本当に感謝している。
 もしかするとこうなることを予測しており、気を使ってくれたのかもしれない(それはそれで情けないが)。
 しかしなんにせよ、一応は女子相手に体力的に完全敗北である。


「(はあ、スゲー情けないわ……)」

91 名前:オマケE「僕はあなたの犬になりたい」 投稿日:2013/07/09(火) 15:41:04 ID:A6odQSg60

 ただその情けない体力のお陰で最後尾になり、結果的に数段下から見上げる形でスカートの中が見えたので情けなさ様々だ。
 ちなみにそのスカートの中身は残念ながらパンツではなくマイクロスパッツだった(まあエロかったが)。

 というかよくよく考えてみるとこれって目の前に人参ぶら下げられた馬レベルの思考じゃねぇの?と気付き、どっちにせよ情けなかった。


「お前の家に来るのも久しぶりだな。犬は元気か?」

「うん、また大きくなったよ」

「前回見た段階でシベリアンハスキーとしては既にかなり大型だった気がするが」


 部屋に向かう廊下での天使と悪魔の会話。
 棒になった足に鞭打ちながらジョルジュも続く。


「犬かー。俺も、犬は好きだわ」

「予め忠告しておくのが私だ。奴は普通の人間の手に負える犬ではない」

「えー? 可愛いよー」

「可愛いのは確かだがな」

92 名前:オマケE「僕はあなたの犬になりたい」 投稿日:2013/07/09(火) 15:42:04 ID:A6odQSg60

 可愛いが、手に負えない大きな犬。
 女子は色んなものを大袈裟に言うものだから「可愛い」はまだしも「手に負えない」とかは些か言い過ぎの部類だろう。
 ジョルジュはぼんやりとそんな風に考えていた。

 念の為にハルトシュラーに訊いておく。


「……躾が出来てねぇから我が儘で手に負えないとかじゃねぇよな?」

「否定するのが私だ。躾は行き届いている。そして忠告しておくが、今からレモナの近くには立つな。一歩後ろ――今の位置にいろ」


 小首を傾げながらも従う。
 ひょっとして委員長サンは犬が苦手なのか?
 なんて思った――が、扉を開けた瞬間にハルトシュラーの言葉がそのままの意味だったと理解した。

 玄関の扉が開け放たれ、レモナが一歩踏み出した瞬間。
 黒青色の物体が物凄いスピードで廊下を駆けそのままの勢いで飛び掛って来る―――!


「ワンコ―!」


 天使は両手を広げ迎え入れる。

93 名前:オマケE「僕はあなたの犬になりたい」 投稿日:2013/07/09(火) 15:43:04 ID:A6odQSg60

 その飛び付いて来た大きな犬を力強く抱き留めると、くるりと一回転し体当たりの威力を殺す。
 そうしてギュッと強く抱き締め言う。


「よしよーし、いい子いい子。いつもお出迎えしてくれてありがとうねー♪」

「(…………え、今の『お出迎え』だったか? 完全に頸動脈食い千切りに来てた気が……)」


 いや、「迎え入れた」や「抱き留める」と文字では簡単に見えるが、レモナが受け止めたのは体高七十センチ弱・体重三十キロ強の大型犬である。
 一般的に犬の速さは時速三十キロ程度と言われているので歓迎であったとしてもそんなものが向かって来ては最早軽い交通事故だ。
 しかしレモナにとってはいつものことでしかないようで「上がってよ」と二人に告げると大きな犬を抱いたままで靴を脱ぐと廊下を歩き出す。

 呆然とするジョルジュ。
 犬に本気で恐怖したのは初めてだった。


「毎日毎日甲斐甲斐しくもああして出迎えに来るらしい。主人の帰りが嬉しく、じゃれて来るのだな」

「それを聞くと確かに可愛いが……」


 ハルトシュラーの発言の意味が心底理解できた。
 確かに可愛くて、手に負えない大きな犬だった。

94 名前:オマケE「僕はあなたの犬になりたい」 投稿日:2013/07/09(火) 15:44:04 ID:A6odQSg60

 悪魔は言う。


「頭の良い犬だからな、レモナ以外にはああいう出迎えはしない。悪意はないのだ」

「むしろ会長サンはアレを毎日受け止めてるのか?」

「毎日受け止めていたからああなったと推測するのが私だ。最初はもう少し、常識的な範囲だっただろう」


 ドラマのワンシーンなどで、主人公が家に帰るとチワワなどの小型犬が廊下を走ってやって来て足元にじゃれ付く場面がある。
 最初はそのレベルから始まり、天使がちゃんと受け止めるものだから、段々と本気になったのだろう。
 正直ジョルジュが同じことをされれば受け止め切れずに後ろへ吹っ飛ぶ自信がある。


「……可愛い奴だがな」


 フォローのつもりなのか、もう一度呟くハルトシュラー。
 ひょっとしたら動物好きなのかもしれない。

 ずっと玄関先で話しているのも馬鹿らしいので、とりあえず上がらせてもらうことにする。
 広さや間取り的には明らかにシングル用の部屋ではないのだがレモナ一人らしい。
 いや、あんなに大きな犬がいるのならば、ちょうど良いのか。

95 名前:オマケE「僕はあなたの犬になりたい」 投稿日:2013/07/09(火) 15:45:07 ID:A6odQSg60

 廊下を進んでリビング・ダイニングに行き着く。
 件の大きな犬は二人掛けのソファーで寛いでいた。

 食材を冷蔵庫に仕舞い終わったレモナが言った。


「じゃあ、僕はワンコをジョルジョルに紹介するから、シュラちゃんは料理作ってよ」

「了解したのが私だ。一応言っておくが、犬は厨房に入れるなよ」

「んー。多分大丈夫じゃないかな?」


 レモナがソファーの方へやって来ると犬――「ワンコ」は瞬時に起き上がり、ソファーから飛び降りた。
 更におすわりをして彼女を待つ。
 犬にそこまで詳しいわけではないジョルジュだが聞いた通りに躾がちゃんとされているらしいことは分かった。

 ワンコの頭の撫でると、レモナはソファーに座る。
 隣に座るのはなんとなく憚られたのでジョルジュはカーペットに直接腰を下ろした。


「というわけで、ワンコです」

「あ、ああ……名前が『ワンコ』なのか?」

96 名前:オマケE「僕はあなたの犬になりたい」 投稿日:2013/07/09(火) 15:46:04 ID:A6odQSg60

「そうだよ。元々の飼い主がね、付けてくれたんだって」


 どうやら譲り受けた犬らしかった。
 大きさ的に成犬であろうワンコの顔を見る。
 
 顔付きは狼のように精悍だが吠えないこともあってか何処か愛らしい。
 バランスの取れた大きな身体。
 黒青色の毛並みは美しく、腹部の毛は白く柔らかで、一言で言えば綺麗な犬だった。


「ワンコ、ジョルジョルだよー」


 レモナの一言に呼応しワンコは一吠え。
 犬の言葉で「よろしく」とでも言ってくれたのかもしれない。


「触ってもいいのか?」

「んー、大丈夫」

「そっか、じゃあ」

97 名前:オマケE「僕はあなたの犬になりたい」 投稿日:2013/07/09(火) 15:47:05 ID:A6odQSg60

 頭をわしゃわしゃと撫でる。
 初めて会った相手なのに大人しくされるがままだ。
 利口な犬だ、とジョルジュは思った。

 飼い主に似て、結構サービス精神旺盛なのかもしれない。
 彼女もほぼ初対面のジョルジュに「おっぱい揉ませてあげよっか?」みたいなことを言っていたことだし。


「てか室内で飼ってるんだな。大型犬が部屋にいるのとか初めて見たわ」

「シベリアンハスキーは暑がりだし、ワンコは頭が良いから物を壊したりもしないしね」


 それは前の飼い主やブリーダーの躾が良かったのか、それともレモナに心底屈服しているのか、どちらだろうか。


「運動好きな犬だから毎朝毎晩何キロか一緒に走ってるよ」

「へぇ……」

「僕のいない間にはそこにあるルームランナーで勝手に走ってるんじゃないかな」

「ホントに利口だわ」

98 名前:オマケE「僕はあなたの犬になりたい」 投稿日:2013/07/09(火) 15:48:05 ID:A6odQSg60

 そんなことを話しているとレモナがごろんと横になった。
 仰向けに寝転がった状態だ。
 すると、おすわりを続けていたワンコはソファーに飛び乗り、更にレモナの上で寛ぐ。

 豊かな双丘を枕にするようにして。
 甘えるように目を閉じる。


「ぐっ……」


 思わず声が漏れた。
 羨ましい。


「……ね? ジョルジョルに似てるでしょ」

「へ?」

「ワンコも好きなんだー」


 何が好きかは言われなくとも分かった。

99 名前:オマケE「僕はあなたの犬になりたい」 投稿日:2013/07/09(火) 15:49:04 ID:A6odQSg60

 スリスリと頭を柔らかな胸に擦り付けてるとレモナは了解したようにワンコを撫でる。
 どちらも気持ち良さげで、どちらとは言わないが益々羨ましい。

 ……ワンコの方は何処か勝ち誇った感じの表情をしている気がするが、それはジョルジュの気のせいだろうか?


「んー、もふもふ〜。今日もシャンプーしようねー」

「(まさか一緒に風呂まで入ってんのか!?)」


 この部屋の広さから考えるに恐らく浴室も相当広いだろう。
 女子一人と犬一匹くらいなら使えるはずだ。
 もうそこから引き摺り下ろして自分が代わりに撫でてもらいたいくらいに羨ましいジョルジュである。

 大人げない(人間げない?)ので実際にはやらないが。
 やったところで、パワーゲームで敗北する可能性もなきにしもあらずだし。


「―――おい、名も知らぬ素行不良生徒」


 と。
 キッチンからハルトシュラーが声を掛けてきた。

100 名前:オマケE「僕はあなたの犬になりたい」 投稿日:2013/07/09(火) 15:50:04 ID:A6odQSg60

 無表情ながら、彼女は呆れたように続ける。


「何を考えるのも勝手だが、基本的にペットは去勢されるものだということを覚えておけ」

「ひぅっ!?」


 背筋が凍る発言だった。
 というより股間が縮こまった。
 人間であって良かったと思うと同時に、そこの犬に対する同情心が湧き上がってきた。

 だが、レモナは不貞腐れたようにこう返す。


「えー。そんなことしないよ。可哀想だし。ねー、ワンコー」

「衝動を持て余しながら交尾できないことも可哀想と言えば可哀想だろう」

「心配いりませんー。ちゃんと僕が処理してあげるもんー」


 あ、やっぱ俺犬になりてぇ。
 割と本気でそう思った衝動を持て余す男子高校生だった。

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