- 1 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:29:02 ID:XyPyp/Kg0
※この作品の主人公二人はほぼ人間ではありませんのでご了承下さい。
- 2 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:29:52 ID:XyPyp/Kg0
――― 第一話『 approve ――第二宇宙速度―― 』
- 3 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:32:00 ID:XyPyp/Kg0
- 【―― 0 ――】
その学校には天使と悪魔がいる。
その学校には、『天使』と呼ばれる生徒会長と『悪魔』と言われる風紀委員長がいた。
『天使』の名前は「高天ヶ原檸檬」。
『悪魔』の名前は「ハルトシュラー=ハニャーン」。
両者共に有する人間離れした能力と魅力からそんな渾名を付けられていた。
……彼女達が本当に天使や悪魔と謳われる存在だということは、その時はまだ、ほとんどの生徒が知らなかった。
- 4 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:33:30 ID:XyPyp/Kg0
- 【―― 1 ――】
生徒会長、高天ヶ原檸檬は酷い眠気に襲われていた。
睡魔の原因ははっきりしていて、その一つ目はここ最近生徒会活動が忙しかったからだ。
この学校の生徒会はそこまで仕事が多くないのだが、それは通常の場合だ。
彼女は生徒会役員の仕事の全てをたった一人で捌き切る生徒会長――『一人生徒会(ワンマン・バンド)』だった。
忙しいのは必然と言え、会長就任時に役員を集めなかった彼女の自業自得とも言えた。
眠いの理由にはもう一つ心当たりがあったのだが、そちらは完全な自業自得だったので誰にも文句は言えない。
文句が言えるような状況でも文句を言わないのが高天ヶ原檸檬という女なので結局のところそれは同じことだったのだが。
「んん〜……」
視界を塞ぐ栗色の髪を掻き揚げ欠伸を噛み殺すと、涙が一筋零れる。
眠気の所為か、それとも珍しく生徒会室ではなくHR教室で仕事をしていた為か、どうにも調子が出ない。
三年特別進学科十三組の自分の席でぼんやりと射し込む夕日を眺める。
手を止めれば寝てしまうのは予測できていたのだが、どうしても我慢ができなくなって、作業を一時中断し頬杖をつく。
「五分間だけ休憩しよう」と自らを納得させられるような理由をでっち上げつつ目を閉じた。
- 5 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:35:13 ID:XyPyp/Kg0
放課後の教室。
一人きり。
用のない生徒の大半は帰路に着いたようで、彼女の鼓膜を揺らすのは校舎のあちこちに散らばり個別練習をする吹奏楽部のチューニング音。
そして校庭で練習をしている運動部の掛け声だけだった。
――最近は色々と問題が多くて大変だ。
――この数か月だけで幾つ事件が起こったんだっけ?
――生徒の無断欠席も多いし。
――生徒会が忙しいから弓道部にも顔出せないし。
――夏も近いから仕方ないけど、暑いし。
――でも夏だし久々にビーチフットとかやるのもいいかもなあ。
考え事を続ける彼女は、休憩として設定した五分間が既に過ぎていることに気が付かない。
そもそも目を閉じているので時計を見ることができない。
夕刻の心地良い風の中で、取り留めのない思案に暮れるのはとても気持ちが良かった。
キーン、という甲高い音が校舎に響き渡った。
聞くだけでホームラン性の当たりと分かるバッティングの音。
ボールが外野を遥かに越えグラウンドの硬い土に落ちた時にはもう、彼女は夢の世界へ誘われていた。
- 6 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:36:52 ID:XyPyp/Kg0
- 【―― X ――】
―――「タカマガハラ・レモン」 ガ ログイン シマシタ.
.
- 8 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:37:57 ID:XyPyp/Kg0
- 【―― 2 ――】
目が覚めると外は薄暗くなっていた。
窓から入り込む光は夕日の色とは程遠い、淡い青だ。
|゚ノ ∀)「ふあ〜ぁ……ちょっと寝ちゃったかな?」
大きく伸びをして、椅子から立ち上がる。
左手に嵌めた、本来は男子用である黒色で機械的なデザインの腕時計を見る。
意外なことに大した時間は過ぎていないようだ。
いや、大した時間どころかそのままで全く進んでいなかった。
秒針も止まっている。
|゚ノ ^∀^)「あれぇ? おかしいなぁ……このっ、この!」
ぶんぶんと音が鳴る勢いで腕を振り回してみるも針は動かない。
至極当然の結果に彼女は落胆し、仕方がないので黒板の上方にある掛け時計に目をやった。
- 9 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:39:09 ID:XyPyp/Kg0
その掛け時計も――止まっていた。
|゚ノ ^∀^)「…………うん?」
自分の時計と教室の時計が同時に壊れるなんて凄い偶然もあるものだ、とは彼女は考えなかった。
そんな確率としては低いながらも現実的な結論が出せるほど高天ヶ原檸檬は一般的な女子高校生ではなかった。
そうでなければ『天使』などと渾名されまい。
そして、それとは関係なく、この空間には明らかにおかしな点があった。
|゚ノ ^∀^)「青い……光?」
薄暗いのは夜が近づいたのだと理解ができる。
だが、教室に射し込んでいる淡い青色をした燐光は先程まで彼女がいた日常ではありえない。
窓辺に寄り空を見てみれば、地鳴りのような音が響く校庭、その上空に広がる曇天はやはりぼんやりと輝いている。
現実ではありえない。
ここは夢の世界か、あるいは。
- 10 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:40:04 ID:XyPyp/Kg0
|゚ノ*^∀^)「あるいは……噂の『空想空間』かな?」
ここ数日、この淳高の生徒達の間で実しやかに噂されている都市伝説があった。
それが『空想空間』。
夜眠ると現実世界とほとんど同じ異世界に迷い込むという、そんな噂だ。
その世界に行った生徒が複数人いるらしく、生徒会長としても「単なる夢でしょ」と一蹴はできなかったのだが……。
入り込んだ人間しかいない――生徒達が言うところの「ログインした」生徒しかいないゴーストタウン。
彼女を包む異常な雰囲気、ログイン時刻で止まる時計などは噂の内容と一致している。
|゚ノ ^∀^)「ツッコミ所としては、『ログインした時刻で時計が止まるなら複数人が順番に入ったらどうなるの?』だったんだケド……」
時計が設置された場所を思い出しつつ一つ一つ見て回る。
携帯や隣の教室の時計を見る限りでは、どうやら自分の時計と直前に自分が見ていた時計だけが止まるらしい。
他の部屋のそれは時刻はバラバラながら動いているか、それか違う時間で止まっているかだった。
体感時間で十分ほど調査して止まっていたのは三つ。
最初の教室の六時十二分、図書室の五時五十八分、そして二年五組の二時三十分。
檸檬自身ののログイン時刻は六時十二分なので―――。
- 11 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:41:07 ID:XyPyp/Kg0
|゚ノ ^∀^)「あと二人、誰かがログインしているんだ」
何かの音が耳朶を叩いたのは四階に上がり、そう呟いた瞬間だった。
その音、いや、その旋律はピアノ。
軽快な曲調と一オクターブを越える大きな跳躍が特徴的なその曲を檸檬は知っている。
もしかして、と思い彼女は音源に向かって走り出した。
音を辿る必要はない。
淳高でピアノがある場所くらいは全て記憶している。
あとは四階の階段まで音が届きそうな教室。
考えるまでもなかった。
理科室などの特別教室が多い四階の廊下を走り抜けそこを目指す。
突き当たり、吹奏楽部の備品が点在する音楽準備室の隣に、グランドピアノが設置された音楽室はあった。
厳密には吹奏楽部と合唱部が普段練習に使っている大音楽室の脇の教室、小音楽室。
かつてはピアノ練習室という名称だったが鍵盤楽器を練習する人間がいなくなった為に今ではもう補習授業くらいでしか使われない教室だ。
大音楽室と同じ防音性の扉を檸檬は開けた。
- 12 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:42:08 ID:XyPyp/Kg0
瞬間、幾重にも重なるかのような旋律が流れ出した。
溢れ出した、と表現しても良いかもしれない。
微笑みながら檸檬は言った。
|゚ノ*^∀^)「“僕(きみ)”、許可を取らずに教室を使うのは校則違反って言わなかったっけ?」
音が止まり――そして。
j l| ゚ -゚ノ|「私も演奏中は話しかけるなと言った気がするのだが、“私(おまえ)”」
開け放たれていた窓から吹いた風が、立ち上がった少女の銀髪を揺らした。
『天使』である高天ヶ原檸檬に対応する所の『悪魔』――ハルトシュラー=ハニャーンがそこにいた。
- 13 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:43:08 ID:XyPyp/Kg0
- 【―― X ――】
―――「ハルトシュラー・ハニャーン」 ガ ログイン シテイマス.
.
- 14 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:44:33 ID:XyPyp/Kg0
- 【―― 3 ――】
ハルトシュラー=ハニャーンは風紀委員長である前に芸術家だった。
彼女の思う芸術家とは、畢竟するに「自分が戦場の真っただ中にいても芸術のことを考える人間」である。
絵画、音楽、料理……ありとあらゆる芸術を専門にする、専門が芸術である万能の天才らしい人並み外れた極端な定義。
無論そう語るからには彼女がそうである前提があり、図書室で居眠りをし空想空間に迷い込んだ後もハルトシュラーは全く動揺することがなかった。
どころかそもそもそのことに気づいておらず、黙って調べていた音楽史のことを考えていた。
思案がフランツ・リストに至った所で彼女はふとピアノが弾きたくなり、音楽室に向かった。
大音楽室で練習しているはずの吹奏楽部がいないことで初めて、自分が先ほどまでと違う空間にいることに気が付いたのだった。
j l| ゚ -゚ノ|「普段なら吹奏楽部がパート練習に使っていることが多いので使えないのだ」
|゚ノ*^∀^)「まあ、“僕(きみ)”には専用の部屋があるからねー。仕方ないよ」
そうだな、とハルトシュラーは相槌を打ち、
j l| ゚ -゚ノ|「しかしレモナがいるということは夢ではないようだな。私としたことが予測を外してしまったらしい」
- 15 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:45:28 ID:XyPyp/Kg0
『レモナ』というのは高天ヶ原檸檬のニックネームのようなものだった。
彼女の持つ『一人生徒会』『天使』、あるいはハルトシュラーの『閣下(サーヴァント)』『悪魔』のような畏敬忌を込めて使われる異名とは趣を別にするもの。
親しい者しか使わない愛称だ。
お互いに様々な理由で友達が少ないのでお互いをそれなりに大事にしており、なので檸檬――レモナの方も、
|゚ノ*^∀^)「どうやらそうみたいだよ、シュラちゃん」
と、甘えたような声音で女子高校生には不釣り合いな響きのニックネームを呼ぶのだった。
|゚ノ ^∀^)「そう言えばさっき弾いてた曲って、」
j l| ゚ -゚ノ|「パガニーニによる大練習曲第3番嬰ト短調……『ラ・カンパネラ』だ。説明を面倒がる私ではないが、前も教えただろう」
|゚ノ;^∀^)「ああ、違った。間違えた」
軽く頭を振って眠気を覚ます。
一応は夢の中であるはずなのに眠いというのはおかしいが、しかし考えてみれば頭を休める為に睡眠をしているのに意識が覚醒していては意味がない。
眠気が取れないのも無理なからぬことなのかもしれない。
- 16 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:46:14 ID:XyPyp/Kg0
本当に言いたかったのはね、とレモナは前置きをし話し出す。
|゚ノ ^∀^)「ここ……どうやら『空想空間』って場所らしいよ? 知ってる?」
j l| ゚ -゚ノ|「私としたことが寡聞にして知らないな。それは有名なものなのか?」
|゚ノ ^∀^)「うん、都市伝説だからそこそこ有名」
j l| ゚ -゚ノ|「なるほどそうか。先程も同じ名前を聞いたのでもしかしたら誰でも知っているものかと思ったが、それならば良かった」
表情を変えないまま安堵を表すハルトシュラー。
浮世離れしたした天才芸術家ではあるが、多少は周囲のことも気にする。
しかし、この状況でレモナの方が気になったのは別の事柄だった。
|゚ノ ^∀^)「先程? さっき、誰かに会ったのかな?」
j l| ゚ -゚ノ|「会ったぞ。尤もその時は私の脳が生み出した産物かと思っていたが……」
- 17 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:47:12 ID:XyPyp/Kg0
j l| ゚ -゚ノ|「と、言うか――今もそこにいる」
彼女の細く長い指先が指し示したのは小音楽室の隅。
入口から見て左斜め前、先程までハルトシュラーが座っていた椅子の向こうだった。
そこにあったのはオートクチュールの黒いスーツを着た人形。
:(; _L ):「うぅ……ぐ……」
人形――ではなく、右頬を腫らした長身の男だった。
|゚ノ ^∀^)「あ、あの倒れてるのオブジェじゃなかったんだ」
j l| ゚ -゚ノ|「私が演奏中に話しかけてきて、一度は口で話しかけないよう頼んだにも関わらず喋り続けたので、殴り飛ばした」
悪びれる様子もなく語るハルトシュラー。
淳高の風紀委員長は表情を変えないだけで結構短気だった。
- 18 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:48:46 ID:XyPyp/Kg0
- 【―― 4 ――】
黒いスーツの男、個性という個性を人間から剥ぎ取ったような顔立ちのその男は「ナナシ」と名乗った。
それは名乗っていないことに等しいが、レモナもハルトシュラーも気にはしなかった。
(‘_L’)「呼びにくければ別の名前でも限りません。『おい』でも『そこの人』でも構いません」
j l| ゚ -゚ノ|「では『真坂木』で」
ハルトシュラーは即答した。
(;‘_L’)「な、何故ですか……?」
|゚ノ*^∀^)「僕は『キュゥべえ』がいいなあ」
(;‘_L’)「それ多分人間の名前じゃないですよね!?」
j l| ゚ -゚ノ|「人間じゃなくても良いなら『クマ』でいこう」
(;‘_L’)「『ナナシ』で! 『ナナシ』でお願いします!!」
- 19 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:49:47 ID:XyPyp/Kg0
ナナシの言葉を聞いて二人は心底残念そうな顔をしていたが、やがて先を促した。
咳払いをし、男は話し出す。
(‘_L’)「まずはようこそ、この『空想空間』へ。ナビゲーターを務めさせて頂きますのは私、ナナシでございます」
レモナは椅子に座り、愉快そうに。
ハルトシュラーは壁にもたれ掛かり、不快そうに。
黙って耳を傾ける。
(‘_L’)「この世界は狭間の世界。その名の通り、空想が現実になる世界でございます」
j l| ゚ -゚ノ|「空想が現実に?」
はい、とナナシは頷く。
(‘_L’)「なので他の参加者の皆様方はお好きなように――正しくは『ログイン時に抱いていた自分の理想に近い姿に』変わっているのでございますが……」
- 20 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:50:46 ID:XyPyp/Kg0
(‘_L’)「とても珍しいことですが、あなた方は現実と全く同じ容姿でございますね」
少し複雑そうな顔をしつつ、ナナシは二人を見やる。
神様が誤植したかのような凄惨な美貌。
引き締まった四肢に、その幼い顔立ちには不釣り合いなほどに大きな双丘。
セミロングの長さの栗色の髪と腕に付けた『会長』『副会長』『書記』『会計』『庶務』『役員』の腕章が目立つ。
高天ヶ原檸檬は――天使のような美少女だった。
対し、周囲の世界が歪む錯覚さえ見せる殲滅な魅力をハルトシュラー=ハニャーンは有していた。
流れるポニーテールは目の眩むような銀色で、両の瞳は流動する水銀のよう。
大人びた凛々しい横顔は容姿端麗限定の辞書という言葉が相応しく、スレンダーな体型は纏った詰襟タイプの男子学生服が異常なまでに様になっている。
悪魔の如き容姿を誇る――美少女だ。
これでは理想も何もない。
方向性は違うものの、どちらも完璧以上の容姿なのだから。
j l| ゚ -゚ノ|「同じ容姿だと何か不都合があるのか? 細かなことまで気にするのが私だ」
男装の少女の窓の外を伺いながらの問いにナナシはまた頷く。
- 21 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:51:48 ID:XyPyp/Kg0
(‘_L’)「不利……で、ございますかね……」
|゚ノ ^∀^)「不利? どういうことなのかな?」
椅子から立ち上がりナナシに近づきながらレモナが訊く。
彼女達は無自覚だが、両者共百七十センチある女性としては超高身長なので、他人には威圧感を与えてしまう部分がある。
ごく簡単に言えば「ちょっと怖い」のだ。
二人よりも少し上背が劣る彼もそうだったようで、レモナの脇を逃げるようにすり抜けて話を続ける。
いや、続けなかった。
(‘_L’)「細かなルールは見て貰った方が早いと思います」
ナナシはそう言うと軽く指を弾く。
すると如何なる理屈だろうか、音もなく彼の脇に縦長で半透明のボードが現れた。
そこにはこう書かれていた―――。
- 22 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:52:49 ID:XyPyp/Kg0
《空想空間・ルール説明》
@参加者の皆さんには夢の中の異世界『空想空間』でバトルロワイヤルを行って頂きます。
A相手に致死量のダメージを与える、あるいは相手から能力体結晶のアクセサリーを奪うと勝利になります。
B初ログイン時に超能力を配布致しますので、戦闘にはそれをお使い下さい。
Cその超能力の入れ物が能力体結晶のアクセサリーでございますので、くれぐれもお失くしになられないようお願い致します。
Dこの世界で倒されても現実にはなんの影響もありませんのでご安心してお楽しみ下さい。
Eただし、この世界とそれに関係する記憶は消去されますのでご了承下さい。
F他の参加者の方を九人倒せばクリアでございます(※能力体結晶を十個集めることと同義です)。
G見事クリアされた方には二つの権利を差し上げますので、どちらかをお選び下さい。
Hクリア特典:『現実で超能力を使えるようになる』もしくは『願いを一つだけ叶える』
Iご辞退される場合は他の参加者の方に能力体結晶を譲り渡すか、ナナシにお申し付けください(この場合も記憶は消去されます)。
.
- 23 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:53:50 ID:XyPyp/Kg0
箇条書きをレモナはじっくりと、ハルトシュラーはさらりと眺めた。
前者は値踏みをするかのように慎重で、後者は無価値と決めてかかっているかのような適当なものだった。
(;‘_L’)「残念なお知らせが二つございます」
二人が読み終わったのを見計らい、ナナシは言う。
(;‘_L’)「一つ目はハルトシュラー様に関するものなのですが……」
j l| ゚ -゚ノ|「私が何か?」
(;‘_L’)「いえ、今あなたが髪を括っておられるものがここに記載してある能力体結晶。超能力の源です」
|゚ノ*^∀^)「そぉ言えば珍しくポニーテールだね、シュラちゃん」
レモナの言葉通り、普段のハルトシュラーはストレートヘアだ。
目が覚めた時に手の中にあったので、ちょうど良いとばかりに使っていたのだ。
- 24 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:54:47 ID:XyPyp/Kg0
(;‘_L’)「ですが……ハルトシュラー様の超能力は、ないのと同じなのです」
ないのと同じ?
髪を解き、銀の装飾が付いたヘアゴムを取り出しつつ鸚鵡返しをする。
銀色の髪が流れ、煌めいた。
(;‘_L’)「その能力の内容は通常とは逆、『現実世界での自分の超能力を空想空間に持ち込む』というものなのでございます」
つまりは。
ハルトシュラーの能力体結晶はパイプであり、中身がないのだ。
(;‘_L’)「なので、現実世界で超能力がない限りは全く意味のない能力で……」
j l| ゚ -゚ノ|「なるほど、よく分かった。理解が早いのが私だ」
言わば鍔と柄だけで戦えと言われているようなものだった。
「お前は圧倒的に不利だ」と告げられながらも、銀の少女は問題なさげに、むしろ得心したように頷いた。
- 25 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:55:49 ID:XyPyp/Kg0
残念なお知らせの一つ目が終わった。
二つ目、レモナの方は、もっと酷かった。
(;‘_L’)「えぇ〜とですね、真に申し上げにくいことなのでありますが……」
|゚ノ*^∀^)「?」
あどけなく微笑む少女に個性のない顔を本当に申し訳なさそうに変え、ナナシは言った。
(;‘_L’)「檸檬様の場合は、そもそも能力自体がございません。能力体結晶もありません」
ハルトシュラーは鍔と柄だけで戦えと言われたようなものだった。
だが、レモナの方はそれすらもなかった。
更に言えばクリア条件は「自分のものを含めて能力体結晶を十個集める」なので、既に他の参加者より難易度が高くなっている。
それがどれほど異常な事態なのかは、ナナシの困惑した口振りを見れば分かるだろう。
- 26 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:56:46 ID:XyPyp/Kg0
けれど。
|゚ノ ^∀^)「ふーん、あっそ」
彼女はそう言っただけだった。
高天ヶ原檸檬は文句を言えるような状況――自分が悪くないような状況でも、文句を言わない女なのだ。
その様を強がりと取ったのかナナシは続けて釈明をする。
(;‘_L’)「実はですね、その能力体結晶は参加者の皆様の願いの強さに関係しているのでございます」
|゚ノ ^∀^)「僕は願いがないから、能力がないんだね」
(;‘_L’)「はい……。おそらくハルトシュラー様の方はあるにはあるけれど、叶っても叶わなくてもどっちでも良い程度の願望なのかと……」
j l| ゚ -゚ノ|「それは最早願望でないと思うが」
きっと男性の大きな手でないと弾けない曲があるから男になりたい、なんて冗談で思っていた所為だろう。
ハルトシュラーは特に深く考えることなくそう結論付けた。
- 27 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:57:46 ID:XyPyp/Kg0
(‘_L’)「さて、不測の事態でございますが、お二人は参加なされますか?」
ナナシの問い。
非日常への切符を手にした二人。
生徒会長と風紀委員長。
彼の問いに考えることなく瞬時に答えたのはレモナだった。
考える必要なんて何処にもないと言う風に。
|゚ノ ^∀^)「参加するか? 参加なんかしないに決まってるじゃん」
(‘_L’)「では辞退するということで……」
|゚ノ ^∀^)「辞退もしない」
訝しむような視線を向けるナナシに彼女は言った。
|゚ノ*^∀^)「生徒会長も副会長も書記も会計も一般役員も――全会一致で不承認だよ♪」
- 28 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:58:46 ID:XyPyp/Kg0
(;‘_L’)「は……?」
|゚ノ ^∀^)「分からないのかな? 僕は、この学校の生徒会長だ。高等部生徒の代表であり自治機関の主だ」
嗤いながら、彼女は続ける。
浮かべるのは酷く酷く凄惨な笑み。
|゚ノ ^∀^)「ここは僕の学校で、君達は部外者だ」
そして。
巻き込まれているのは僕の学校の生徒だ、と。
彼女は更に続ける。
|゚ノ ^∀^)「君達はさあ……なんの権利があってこんなことをしているのかな?」
(;‘_L’)「権利って……」
|゚ノ ^∀^)「学校側に許可は取った? PTAには連絡入れた? 生徒にはちゃんと説明した? ……少なくとも僕は聞いてないなぁ」
- 29 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 00:59:45 ID:XyPyp/Kg0
|゚ノ ^∀^)「そして何より、君達に権利があったとしても……僕にはそれを突っ撥ねる権利がある」
そう言い、彼女は話し出した。
|゚ノ ^∀^)「僕の異名の一つに『歩く校則(モノポリスティック・ルールブック)』というのがある。なんでこんな呼ばれ方をしてるか分かる?」
|゚ノ ^∀^)「それはね、僕が生徒会長に就任時に制定した特別法に由来するんだよ」
|゚ノ ^∀^)「淳機関付属VIP州西部淳中高一貫教育校校則生徒会法特別法――『生徒会長は必要に応じて臨時法を制定することができる』」
|゚ノ ^∀^)「ただし過半数の反対があった場合は即時無効にしなくちゃいけないんだけどね」
|゚ノ ^∀^)「今の所、僕が制定したのは一つだけ。『生徒会は目安箱に投書があった問題について生徒指導教諭と学校長の承認が得られるのならこれを全力を以て排除できる』」
|゚ノ*^∀^)「ちょうど僕は今困ってたんだよ、君達の異世界の所為でさ。『変な噂をどうにかして下さい』って投書があってね。僕の言ってること、分かる?」
滑らかな調子で一方的に捲し立てる。
絶対に否定させないと言外に語るような勢いで。
- 30 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:00:45 ID:XyPyp/Kg0
|゚ノ*^∀^)「だからね、僕は淳高生徒会全権を使って君達の開催したくだらないバトルロイヤルを強制終了させないといけない」
(;‘_L’)「ベラベラベラベラと……! 一体……何が言いたいんですッ!!」
|゚ノ*^∀^)「まだ分からないのかな? 結局ね、生徒会は全会一致で君達を承認しないことに決めたって言ってるの」
一つの理由もなく、僅かな決意もなく、あらゆる過去もなく、万別の大義もなく、あるべき意識もない。
屈託のない、あどけない笑みを漏らして。
|゚ノ*^∀^)「えっと、もの凄く簡単に言うとね――君達と君達のゲームはとてもムカつくから、僕は塵も残らないよう叩き潰すねっ♪」
つまりは、彼女は。
ダラダラと口上は述べたが、事務的な事柄を伝えはしたが。
端的に結論だけを言ってしまえば「お前等は嫌いだ、だから排除する」と彼女は宣言したのだ。
一人きりの生徒会の総力で以て。
独裁的な判断で。
彼女自身の自分勝手な結論で――そう、決定したのだ。
- 31 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:01:47 ID:XyPyp/Kg0
|゚ノ*^∀^)「シュラちゃんはどうするのー?」
次いで、レモナは遊びにでも誘うかのような軽い調子で風紀委員長に訊ねる。
部屋を出て行こうとしていた彼女、ハルトシュラーは振り返ると、冷ややかな視線をナナシに送りながら言った。
j l| ゚ -゚ノ|「勿論、私はレモナに協力する。委員会は生徒会の下部機関だからな。助力を惜しまないのが私だ」
(;‘_L’)「お前達……!」
j l| ゚ -゚ノ|「ナナシさん。お節介な私が貴様に良いことを教えておいてあげよう」
扉を開け、駆け寄ってきたレモナに先を譲って彼女は言う。
j l| ゚ -゚ノ|「他がどうかは知らないが、私という芸術家は上からものを言われることと干渉されること、そして他人の思い通りに動くことが大嫌いなのだ」
「あと殴ったのは申し訳なかった」と、それだけを告げ彼女は扉を閉じた。
まるで全てを見透かしているかのような冷たい拒絶だった。
- 32 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:02:46 ID:XyPyp/Kg0
- 【―― 5 ――】
j l| ゚ -゚ノ|「そう言えばレモナ、今日は少し眠そうだな」
|゚ノ ^∀^)「昨日ちょっと遅くまでアニメを見ちゃってて……」
j l| ゚ -゚ノ|「なるほど。“私(おまえ)”が何故あれほどハッキリと拒絶の意を示したのか分かった気がするよ」
やや早歩きで二人は廊下を進む。
ハルトシュラーの方はここでナナシが追ってきたパターンも想定していたのだが、杞憂に終わったようだ。
隣を歩く会長がどうなのかは分からないが、風紀委員長たる彼女はこの『空想空間』に関して二つ気になることがあった。
まず、こんなゲームを開催する意味が分からないことが挙げられる。
さっきのルールを見た際に簡単に考えてみたのだが、主催者側に全く利益がないのである。
ペナルティが、たとえば「負けた人間は魂を奪われる」などがあれば理解ができたが、あのルール設定ではなんの為にゲームを開催しているか分からない。
無論単なる善意故なのかもしれないが、それなら殺し合いなんてさせないで願いを叶えてやれば良いのだ。
殺し合いをさせることがリターンになっていることも一応考えられる。
観戦し楽しむ為、なんらかの実験の為、もしくは超能力をバラ撒くことで社会を混乱させる為か……。
どれにせよハルトシュラーは不愉快に感じるので、どれが真相でも参加はしないが。
- 33 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:03:47 ID:XyPyp/Kg0
j l| ゚ -゚ノ|「(あのナナシという男が嘘を吐いている、知らない情報があるという線も考えられるが……それは調べていくしかないな)」
会長は簡単に「叩き潰す」と言ったが、まず黒幕が誰で何処にいるのかも分からないのにどうするつもりなのだろう。
下手をすればこの空間から出られないということもありえるのに。
そんな風に案じ、これからの方針をレモナに訊ねてみると簡潔かつ明瞭な答えが返ってきた。
|゚ノ ^∀^)「え? 黒幕なんて探す必要あるの?」
j l| ゚ -゚ノ|「叩き潰すのではなかったのか?」
|゚ノ*^∀^)「参加している生徒を片っ端から殺してこの世界から叩き出せば良いじゃん♪」
j l| ゚ -゚ノ|「それは…………それもそうか」
そも、生徒会としての目的は「変な噂(『空想空間』)の処理」なのだから黒幕を探し出す必要はない。
レモナの「殺して叩き出す」は最終手段としても、参加してしまった生徒をどうにか辞退させれば良いのだ。
しかし。
- 34 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:04:46 ID:XyPyp/Kg0
j l| ゚ -゚ノ|「最悪の予測として、『実はここで死ぬと現実でも死ぬ』がある」
|゚ノ ^∀^)「ナナシが嘘吐いてるってこと? シュラちゃんのスキルには嘘を見抜くやつなかったっけ?」
j l| ゚ -゚ノ|「ある。そしてあの男は嘘を吐いていない……だが、知らない可能性はある」
十三組の化物、万能の天才たるハルトシュラーが有する数百の特技の中には「相手の嘘をほぼ見抜く」というものがある。
それは彼女の恩人と言うべき相手から伝授されたスキルなのだが、しかし前提として相手が嘘と分かっている嘘しか見抜けない。
要するに脈拍数や瞳孔の大きさ、視線、声のトーン強弱などから動揺を覚る能力なのだ。
なので、相手が本当と思っていること(結果的に嘘を吐いた状態)や日常的に嘘を吐いている相手には通用しないのである。
ナナシという男は彼女の見立てでは嘘を吐いていなかった。
しかし彼もまた騙されているという可能性は残る。
j l| ゚ -゚ノ|「他にもある。『実は私達はもう死んでいてこれは走馬灯』や『実は私達が脳を分解され操作されて思考実験に使われているだけ』など……」
|゚ノ;^∀^)「素面でそういうこと語らないでよ……怖いなぁ、もう」
ちなみにレモナが怖いと思ったのはその予想ではなくそんな予想を素面で語るハルトシュラーである。
- 35 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:05:45 ID:XyPyp/Kg0
j l| ゚ -゚ノ|「もう少し軽い感じでは『実は私達は精神病患者で精神病院で同じ幻覚を見ている』というのもありだな」
|゚ノ ^∀^)「いやなしでしょ。丸パクリじゃん」
雑談のような会話を続けながら校舎を進む。
打ち合わせもしていないのに同じ場所を目指してしまうのは天使と悪魔故、鏡合わせ故だろうか。
遂に一階まで辿り着き、校庭に近い出入り口を目指す二人。
j l| ゚ -゚ノ|「他に気になることとしては、あのナナシという男が私達の名前を知っていたことくらいか……。本当に細かなことが気になるのが私だ」
|゚ノ ^∀^)「そう言えば……お互いにニックネームで呼び合ってたから、本名が分かるわけないね」
檸檬はハルトシュラーを「シュラちゃん」と呼び、ハルトシュラーは檸檬を「レモナ」と呼んでいた。
だが、ナナシは二人を「檸檬様」「ハルトシュラー様」と呼んだ。
あの男は名前をいつ知ったのか?
事前に調べていたという線が濃厚だがだとしたら何故だ?
頭を回転させつつ、外へと向かう。
- 36 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:06:54 ID:XyPyp/Kg0
j l| ゚ -゚ノ|「(私達を狙って引き込んだ、という可能性……。いや違うな。だとするならば、)」
だとするならば――ハルトシュラーの持つ超能力についても知っていなければ、おかしい。
今までひた隠しにしてきたので幸運にもバレなかった、もしそうであるのならば敵はその程度ということでかなり気が楽になる。
彼女は考えを一度打ち切った。
青い光に照らされる校庭を目の前にし、隣に立つ生徒会長に告げる。
なんでもないという風に。
j l| ゚ -゚ノ|「レモナ、分かってるとは思うが何か来r―――」
瞬間だった。
彼女達が立っていた場所に白の軽自動車が突っ込んできた。
.
- 37 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:07:46 ID:XyPyp/Kg0
- 【―― 6 ――】
交通事故を思わせる凄まじい轟音と共に自動車とそれが激突した周囲――校舎に近い校庭の一角は、土煙に包まれた。
破片が散乱し、漏れ出たガソリンが剣呑な雰囲気を加速させる。
まともな自動車事故であったのなら搭乗者の被害や爆発の心配があったのかもしれないが、この『空想空間』において「まともな自動車事故」などありえない。
基本的な物理法則は現実と同じとは言え、ここは超能力が当たり前に存在する異世界なのだから。
その軽には誰にも乗っていなかった。
加えて言うなら、エンジンすらかかっていなかった。
(;-_-)「ややや、やったぞ……! やった、強いぞ僕!」
惨状を引き起こした少年は広い校庭の中ほどでガッツポーズを取った。
ひ弱そうな男子生徒だった。
身に纏った制服は確かに淳高のものだが、街で私服の彼を見かければ誰だって中学生だと思ってしまうだろう。
言葉にも気弱さが滲んでおり、目元は怯える小動物に似ていた。
豈図らんや。
オドオドした態度からは想像もできないが、彼が自動車を激突させた張本人だった。
- 38 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:08:45 ID:XyPyp/Kg0
自動車が時速数十キロで衝突したのだ、普通の人間ならばまず即死だろう。
だが幸運なことに、そしてその男子生徒には酷く不運なことに、彼が相手にすることになったのは淳高の二匹の化物だった。
即ちは。
j l| ゚ -ノ|「――貴様。親切なのが私なので一つ忠告しておいてやる。待ち伏せをするならまず敵から視認できないような場所でしろ」
『悪魔』と言われる風紀委員長、ハルトシュラー=ハニャーンと。
|゚ノ*^∀^)「――あと、攻撃する前に敵かどうか確かめてよね?」
(;-_-)「!!?」
『天使』と呼ばれる生徒会長、高天ヶ原檸檬だった。
- 39 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:09:49 ID:XyPyp/Kg0
淳高の進学科は四つ存在する。
普通進学科、文系進学科、理系進学科――そして特別進学科。
最後の十三組進学科は、何を基準に選ばれているのか生徒達に知る者はいないエクストラクラスだった。
引きこもり気味であるその少年だって、そのことは知っている。
十三組の二匹の化物のことも。
j l| ゚ -ノ|「貴様が準備している様は校舎の窓から丸見えだったぞ。使い方を間違えたのか、練習だったのか、音も聞こえていたしな」
向かって右方向に回避していたハルトシュラーは片目を閉じ、半身で右腕をピンと伸ばし、手の平を「待て」をするように少年に向けている。
歌舞伎役者が見得を切っているのに近い奇妙なポーズだ。
超能力を発動する前段階にも見えたので少年も一瞬身構えたが、やがて彼女は何もしないままに、けれど納得したように腕を下ろした。
|゚ノ*^∀^)「うん! さてっと……とりあえず訊いておこうかな?」
対し直撃の瞬間に左方向に移動していたレモナはブレザーを脱ぎ後方へと放り投げた。
半袖のシャツのボタンは三つ目まで開け、スカートの短さも相俟って夏真っ盛りというような格好になる。
『空想空間』は現実世界よりも涼しかったのだが、彼女は暑がりだったのだ。
- 40 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:10:46 ID:XyPyp/Kg0
もしかしたら先の一撃で肉片に変わっていたのかもしれない。
そうでありながらハルトシュラーは無表情のまま、レモナに至っては愉しそうに微笑んでいる。
言い知れぬ恐怖を感じる少年に、生徒会長は知った風に訊ねた。
|゚ノ*^∀^)「僕は生徒会としてこのゲームを強制終了させることに決めたんだケド……そこで一応訊いておくね」
(;-_-)「なな、なにをっ……」
|゚ノ*^∀^)「君、なんでこんなことやってるのかな?」
特に興味もなさそうな問いに少年は怒鳴るように答える。
(;-_-)「ふふふ復讐の為だ! ぼ、僕は、復讐するんだ……!!」
|゚ノ*^∀^)「へえ。誰に? 何を?」
腕をぐるぐると回しストレッチをしつつ、極めていい加減な調子で先を促す。
「なんにせよブン殴るけどね?」とでも言いたげな表情で。
- 41 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:11:46 ID:XyPyp/Kg0
(#-_-)「ああアイツ等に……僕を、毎日のようにパシリにしたり、技をかけたりする奴等にだよ!!」
|゚ノ*^∀^)「どぉして?」
(;-_-)「どうしててって……。嫌だからに決まってるだろっ!」
|゚ノ*^∀^)「なんで?」
コイツ頭おかしいんじゃないのか?と少年は思った。
奇しくもそれはレモナが少年に対して思ったこととほぼ同じだった。
(;-_-)「いっ、いやだから……」
|゚ノ*^∀^)「友達なんでしょ? その人達」
(#-_-)「友達なんかじゃないッ!!」
|゚ノ ^∀^)「アレそうなの? ごめんね、勘違いしちゃった。続けて?」
(;-_-)「おおお前…………聞く気、ないだろ……」
- 42 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:12:47 ID:XyPyp/Kg0
j l| -ノ|「おい、レモナ。私はパスだ」
と。
唐突にハルトシュラーが口を挟んだ。
|゚ノ ^∀^)「え?」
j l| -ノ|「少し短気なところがあるのが私なので、なんだ……その、」
一拍置き、そして。
j l| ゚ -゚ノ|「――そのガキの話を聞いていると不愉快過ぎて殺したくなるから、後は“私(おまえ)”に任せる」
相変わらずの無表情で天才芸術家はそう言うと手近な壁にもたれ掛かり、目を閉じた。
声音も表情も少しも変化していなかったが、彼女は確かに、これ以上ないほどに激怒していた。
- 43 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:13:45 ID:XyPyp/Kg0
(;-_-)「…………だだっ、だからな、僕は」
気を取り直して少年は話を再開し、まとめにかかる。
足元には体育倉庫から持ち出してきた鉄球が幾つも転がっていた。
その砲丸の一つをやっとのことで持ち上げる。
|゚ノ ^∀^)「……危ないよ?」
(;-_-)「うるさい! じゅ、重力が操れる力があるから大丈夫なんだよ!!」
少し考えて、レモナは言う。
|゚ノ ^∀^)「そんなに簡単に手の内明かさない方が良いと思うんだケド……」
(;-_-)「っ! う、うるさいなあ……!!」
叫んだ拍子に砲丸を落としそうになる。
高校生男子用の六キロの砲丸、足の上に落とせば骨折は免れない危険なものだ。
- 44 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:14:46 ID:XyPyp/Kg0
|゚ノ ^∀^)「さっきの話だけど、僕にはその人達、君のことを友達だと思ってるように感じるケド」
(;-_-)「え……?」
|゚ノ ^∀^)「だってパシったり技かけたり殴ったりって、男子高校生ならよくやってるじゃん。それは『友達』って言わないの?」
(;-_-)「で、でも……人が嫌がるようなことをする奴なんて友達なんかじゃない……」
|゚ノ ^∀^)「君の中ではそうかもね。でもその人達の中では違うかもしれないじゃん。少なくとも僕の中では違うなー」
彼女は、何故彼が怒っているかが分からないのだ。
友達がほとんどいないレモナは心底不思議そうに言葉を続ける。
|゚ノ ^∀^)「結局ね、その人達は友情を押し付けてるのかもしれないけれど、君は自分の価値観を押し付k――」
( _)「……うるさい」
砲丸は取扱いに注意しなければならない危険なものだと言った。
だが危険だということは、即ち。
- 45 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:15:46 ID:XyPyp/Kg0
(# _)「知ったような口を――聞くなぁぁぁっ!!!」
レモナの顔面の数センチ横、髪をかするようにして鉄球が通り過ぎた。
五秒足らずで時速六十キロ近くに達した鉄の塊はレモナの背後にあったコンクリートの壁に激突しヒビを入れた。
殺す気だった。
当たれば顔は潰れ彼女は脳漿を飛び散らせながら即死していた。
けれど、レモナは微動だにしなかった。
そうして生徒会長は、ポツリと一言呟いた。
|゚ノ ∀)「…………君は生徒会全会一致で不承認だよ、ナントカ君」
重心をやや落とし、右足を前に。
右手を折り畳む不自然なスタンディングスタートを取った天使は前を見据えた。
- 46 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:16:45 ID:XyPyp/Kg0
- 【―― 7 ――】
|゚ノ ∀)「……君は好きにすれば良いよ。ただし、僕を倒せたらね」
会長は告げる。
|゚ノ ^∀^)「僕は今から走って君の所まで行って君を殴るから、その前に僕を止めてみせて。止められたら好きにすればいーよ」
(;-_-)「なな、何を……。お前、死ぬのが怖くないのか……?」
怖いよ。
レモナは当たり前のようにそう答え、でも、と続ける。
|゚ノ ^∀^)「でも――殴りたい相手を殴れないことの方がもっと嫌だから」
どうしたのかな?と彼女は更に続ける。
さっきまでの威勢はどうしたの、もしかして怖くなっちゃった、なんて嘲笑するように言って。
- 47 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:17:47 ID:XyPyp/Kg0
|゚ノ ^∀^)「そして最初に言っておくけれど、僕には能力がない」
(;-_-)「は……? う、嘘だ……」
|゚ノ*^∀^)「嘘じゃないよ。ただし、僕は五十メートル七秒切るから」
日本の女子高校生の五十メートル競走の平均タイムは八・九八秒。
男子でも七・五一秒、女子の日本記録が六・四七秒であることを考えればそれは驚異的な数字と言えた。
|゚ノ*^∀^)「シュラちゃーん! さっき距離測ってたよねー? 何メートルだったー?」
実は、そうだった。
先程ハルトシュラーは腕の長さと指の長さの比率を使って凡その距離を計算していたのだ。
手を伸ばしていたのはその為だった。
j l| ゚ -゚ノ|「……私の地点からは五十五メートルほど。レモナの場所からは、目算だが大体五十メートルほどだと思う」
|゚ノ ^∀^)「ありがとう」
- 48 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:18:46 ID:XyPyp/Kg0
|゚ノ*^∀^)「じゃあ――淳高生徒会長高天ヶ原檸檬、タイマン張らせてもらおー♪」
ひょっとしたら今日は調子が良いから、六秒切れるかもね。
彼女はもしかしたら世界記録に肉薄できるかもと笑いながら言う。
(;-_-)「ほほ、本当にやるんだな……。当たったら、死ぬんだぞ……!」
|゚ノ*^∀^)「なら、やめる?」
(;-_-)「ああ、もう! 知らないんだからな!!」
ひ弱な少年は足元にある砲丸の一つを持ち上げる。
少女は只管真っ直ぐ、彼を見据える。
重力を操る能力。
両者の間合いは五十メートルほど。
七キロの鉄の塊が彼女を粉砕するのが先か、それとも。
- 49 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:19:47 ID:XyPyp/Kg0
ハルトシュラーが手を高く上げる。
審判のつもりなのだろう。
|゚ノ*^∀^)「でもさあ、ナントカ君。もし君が本当にいじめられてたとして……もしそうなのなら、君は誰かに言うべきだったんだよ」
―――On Your Mark(位置について)!
(; _)「両親も、先生も……。きっと、誰も……話なんて聞いてくれなかったよ……」
|゚ノ*^∀^)「君は本当に自分勝手な奴だね。結局何もしてない内に、自分で何もかも決めつけて結論出してたんじゃん」
―――Get set(用意)!
|゚ノ ∀)「ま、僕はよく分からないし、そうなのかもね。でもさ……」
- 50 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:20:50 ID:XyPyp/Kg0
「でもさ――誰が君の話を聞かなかったとしても、僕は、君の話を聞いたよ……?」
―――Go(どん)!
.
- 51 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:21:46 ID:XyPyp/Kg0
少年が呆けた瞬間にレモナの疾走は始まった。
青く淡く輝く曇天の下、それは見惚れるほどの速さだった。
――まだ速く。
――もっと速く。
――更に速く。
重力を発生させている大地を蹴り飛ばし。
取り巻く空気を切り裂いて。
自分を拘束する全ての事象を飛び越えようとしているかのような速さで走る。
(;-_-)「っ!!」
出遅れる形になった少年は瞬時に力を発動。
彼が『重力を操る能力』と呼ぶ超能力によって砲丸は水平方向の推進力を得る。
狙うは彼女の腹部。
直撃ルートだ。
全力であんな直線的な走り方をしてしまえば避けることは不可能だろう。
- 52 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:22:47 ID:XyPyp/Kg0
しかし、その予想は裏切られることになった。
|゚ノ ∀)「あはっ♪」
激突の直前――レモナの身体が回転しながら不自然に方向転換した。
鉄球の真横をすり抜けるように容易く走り抜けて見せた。
そうして砲丸をかわすと彼女は立ち止まる。
両者の距離は十メートルもない。
レモナならば二秒も足らず――下手をすれば少年が能力を発動させる前に彼の元へと到達するだろう。
(;-_-)「は……へっ……?」
何が起こったのか分からない。
それが正直な感想だった。
少なくとも、あれが五十メートル競走の技術でないことは確かだが。
- 53 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:23:46 ID:XyPyp/Kg0
j l| ゚ -゚ノ|「――クロスオーバーステップ、そしてスピン」
ゆっくりとレモナの方へと向かいながらハルトシュラーが説明を加えた。
(;-_-)「は……?」
j l| ゚ -゚ノ|「ラグビーやアメフトなどに使われる技術で、急な方向転換でディフェンスを抜き去る技術だな」
クロスオーバーステップとはその名の通り、ステップの際に足をクロスさせる動きのこと。
スピンとは文字通り「回転」のことで、身体を回転させることで相手の妨害をかわしながら抜き去る技術だ。
つまり、レモナはディフェンスを抜く要領で迫り来る砲丸を回避したのだ。
そう言えば、と少年は思う。
右腕を畳んだ不自然なフォームは楕円状のボール保持を模していると考えれば納得できる―――!
(;-_-)「う、ぐ……」
|゚ノ ^∀^)「ほら、ナントカ君」
- 55 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:24:47 ID:XyPyp/Kg0
十メートル先で天使が笑っていた。
酷く凄惨で、酷く残酷な少女が微笑んでいた。
|゚ノ*^∀^)「あと十メートルしかないよ? 降参する気になったかな?」
少年は様々なことを思い。
絞り出すように一言、言った。
(; _)「……一つだけ聞かせて下さい」
|゚ノ*^∀^)「なに?」
一瞬の間、そして。
(; _)「本当に、僕の話を……?」
|゚ノ ^∀^)「当たり前じゃん」
- 56 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:25:45 ID:XyPyp/Kg0
レモナは言葉を遮り言った。
|゚ノ*^∀^)「何が敵であったとしても、生徒会執行部は全会一致で生徒の味方だよ。当たり前じゃん?」
それとも君は、と会長は訊ねる。
それとも君は前選挙の時に僕に入れてくれなかったのかな、なんて。
(; _)「でも……」
|゚ノ ^∀^)「大丈夫、受け止めてあげる」
一歩、また一歩。
またも鉄球を持ち上げた少年に、一歩ずつ近づいていく。
そしてそれは五歩目を踏み出した瞬間だった。
- 57 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:26:47 ID:XyPyp/Kg0
(;_;)「もう――遅いよ……」
彼の能力が発動した。
重力に加速させられた凶器がレモナに直撃した―――。
.
- 58 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:27:49 ID:XyPyp/Kg0
- 【―― 8 ――】
高天ヶ原檸檬は死んでいなかった。
直撃を受けて、なお。
|゚ノ*^∀^)「ほら――受け止めたよ」
彼女は飛んできた鉄球を受け止めて、大事に抱えるように持って――そう言ったのだ。
(;_;)「ああ、うぅ。ああ、ああ……!!」
ボロボロと涙が零れた。
膝を折り、神に祈りを捧げるかのように彼女を見上げた。
- 59 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:28:56 ID:XyPyp/Kg0
馬鹿みたいだと思った。
何をやっているんだろうと思った。
なんで泣いているのかさえよく分からない。
だけど。
|゚ノ*^∀^)「今度はちゃんと、自分勝手に決め付けないでやってみなよ。諦めないで、試してみなよ」
薄れ行く意識の中で聞いたその言葉が。
そんなありきたりな言葉が、本当に。
|゚ノ -∀-)「もし本当に困ったのなら……言ってくれたら、助けるから」
(;_;)「は゛い……」
訳が分からなくなっていた心を溶かしてしまって――だから。
- 61 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:29:51 ID:XyPyp/Kg0
(;_;)「ありがとう……っ。本当に……ありがとう、会長……!」
|゚ノ*^∀^)「気にしなくていーよ。当たり前じゃん」
彼女が当選した春の選挙。
見た目で選んだだけだったけれど――本当にこの人に投票して、良かった。
そんな風に思いながら少年は光の粒になり、世界に溶けて、消えて行ったのだった―――。
.
- 62 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:30:48 ID:XyPyp/Kg0
- 【―― X ――】
―――「×××××」 ガ ログアウト シマシタ.
アカウント ヲ サクジョ シマシタ...
.
- 63 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:31:47 ID:XyPyp/Kg0
- 【―― 9 ――】
光となり世界に溶けた少年を見送った後、二人はしばらく黙っていた。
色々な懸案事項はあったが、やがてとりあえずと言う風にハルトシュラーが話し始めた。
j l| ゚ -゚ノ|「彼の能力、何か分かったか?」
レモナはさらりと答える。
|゚ノ ^∀^)「『一定時間、触れた物体にかかる重力方向を変える能力』じゃないかな、多分」
j l| ゚ -゚ノ|「意見が同じなのが私だ。一直線にしか動かせなかったのだな」
本当に重力を操ることができるのならば、そもそも触れる必要はない。
ただ敵自体に加重し押し潰してやれば良いだけだ。
触れることが制約だったとしても、自由自在に操れるのならば砲丸を持った程度でよろけたりはしないだろう。
だから、『一定時間、触れた物体にかかる重力方向を変える能力』だと予測した。
真偽は今となっては分からないが……些細なことだ。
- 64 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:32:46 ID:XyPyp/Kg0
|゚ノ ^∀^)「僕の作戦の意味は分かった?」
j l| ゚ -゚ノ|「鉄球が自由落下運動をしているのであれば速度は加速度的に上がり、威力も上がる。だが零距離に辿り着いてしまえば手渡されたのと同じだ」
そう、だから一直線に突っ込んで行った。
空気抵抗を有する自由落下運動、重力加速度と空気抵抗を標準値とし計算をしてみれば良く理解できるだろう。
六キログラムの質量を持つ物質が五十五メートル落下すると、最終的な速度は時速六十キロ弱になる。
一メートル落下した場合ならば最終的な速度は時速十五キロほど。
言うまでもないことだが、零距離や能力発動前に受け止めてしまえば重力はかからない。
下がれば下がるほど――不利になる勝負だったのだ。
|゚ノ ^∀^)「あの人が消えてしまったのは、」
j l| ゚ -゚ノ|「おそらくは願望が消えてしまったからだろうな……なるほど、こういう手がありか」
納得したように頷くハルトシュラー。
安心したように頷くレモナ。
- 65 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:34:35 ID:XyPyp/Kg0
が。
一つ、極めて重大な問題がある。
j l| -ノ|「なあレモナ。私達は、どうやって現実に戻れば良いと思う?」
|゚ノ;^∀^)「あー……。あのナントカ君に訊くつもりだったから考えてないや……」
j l| ゚ -゚ノ|「寝たら戻るのかな」
|゚ノ;^∀^)「いや無理でしょ……」
この後、二人はナナシを見つけ出す為に学校中、ひいては街中を駆け回り、脱出までに二時間近くの時間をかけることになるのだが。
それはまた、蛇足と言うべき別のお話だった。
- 66 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:35:45 ID:XyPyp/Kg0
- 【―― 10 ――】
数年前にVIP州西部地域の複数の学校を統合してできた中高一貫校。
空に突き刺さるように伸びた時計塔が特徴的な淳高――淳機関付属VIP州西部淳中高一貫教育校。
気持ちの良い朝、生徒達が一人、また一人と登校してくる。
高等部校舎の校門前で、二人の生徒が病弱そうな男子生徒に謝っていた。
隣を通り過ぎた女子生徒が聞いた限りでは、「まあ友達同士のトラブルかな」といった感じだった。
知らない内に友達を傷つけちゃうってよくあるもんなあ。
言ってくれないと分かんないし。
……女子生徒はそんな風に思いつつ下駄箱へと向かう。
「あれ、会長?」
校舎の前に淳高の生徒会長が立っていた。
栗色のセミロングの髪と幼い顔立ちが特徴的な、人間離れした美貌を持つ美少女だ。
彼女を見ると、女子生徒はいつも太陽を思い浮かべる。
- 67 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:36:48 ID:XyPyp/Kg0
「おはよう、ミセリちゃん」
「おはようございます会長。……今日は服装チェックの日ですっけ?」
ミセリと呼ばれた少女の問いに、生徒会長高天ヶ原檸檬は「違うよ」と答えた。
彼女のイメージでは会長はいつも笑っているが、心なしか、今日は本当に嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「あ、そう言えば会長。校門の前で男子生徒が揉め事っぽいですよ」
「知ってるよ」
「知ってて放置ですか……」
「多少は揉めることもあるでしょ? だって、友達同士なんだから」
知ったような口振りで会長は口遊ぶ。
その歌うような調子から察するに今日は本当に機嫌が良いようだ。
- 68 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:37:47 ID:XyPyp/Kg0
ミセリが振り返ると、校門の前で話していた三人が仲良さげに話しながら、こちらに向かってくることだった。
仲直りできたのだろうか、そうなら良かったんだけど。
独り言ち、彼女は空を見上げた。
初夏の空は高く、澄んだ青。
それだけで良い気分になってしまうのは単純な為なのだろうか。
三人組がミセリと檸檬の隣を通り過ぎた瞬間だった。
「――――やればできるじゃん」
会長が誰にも届かないようなとても小さな声で、そっと風に言葉を置くように言った。
言われた相手――先程まで友人から謝られていた病弱そうな少年は、軽く後ろを見て檸檬の姿を見つけると、眉に皺を刻み小首を傾げた。
何かを思い出そうとしているかのような。
とても大事な記憶をなくしてしまったかのような。
その少年がしていたのは、そういう表情だった。
- 69 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:38:47 ID:XyPyp/Kg0
やがて思い出すことを諦めたのか、少年はただ。
「あ、ありがとうございます……生徒会長」
そんな風にお礼を言うと二人の友人の元へと駆けて行った。
一場面を見届けたミセリは、何かあったのだろうか、とは思ったものの追及はしなかった。
会長も話したくなれば話してくれるだろうと思ったのだ。
あの少年がどうかは知らないが、ミセリが思う友達とはそういうものだ。
「あれ……会長、泣いてます?」
と。
檸檬の方を見たミセリは頬に一筋の涙を見つけ、問いかけた。
「え? あーうん、寝不足で……」
「そうなんですか」
- 70 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:39:46 ID:XyPyp/Kg0
淳高、三年特別進学科十三組の化物――『一人生徒会(ワンマン・バンド)』の高天ヶ原檸檬。
そんな彼女が眠くて涙を流すのが面白くてミセリは笑ってしまい、「僕だって泣くよ」と会長に窘められた。
「僕だって泣くよ。眠い時にも――悲しい時にも」
「もしかしてで訊くんですけど、会長……何か落ち込んでます?」
ミセリの問いに、『天使』と謳われる化物は笑って答えた。
「――まさか、ね」
【―――Episode-1 END. 】
- 71 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/02/18(土) 01:41:39 ID:XyPyp/Kg0
- 【―― 0 ――】
《 approve 》
@[SVC](人が)(事)に賛成する、是認する(≒agree to)
A(計画・提案など)を(正式に)承認する
――自:(人・行動・考えなどに)賛成する、(…を)よく思う、気に入る、認める、満足する
.
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