|゚ノ ^∀^)天使と悪魔と人間と、のようです

729 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/11(土) 23:06:59 ID:tnQsOsII0

・今回の登場人物紹介

【メインキャラクター】
今回のエピソードにおいてのメインキャラクター。


???
山科狂華。淳高一年文系進学科十一組所属。二つ名は『厨二病(バーサーカー)』『レフト・フィールド』。
人と目を合わせようとしない斜に構えた態度の男子高校生。
十三組への移籍が決まっているが、それにはある事実が関係している。


( ^ω^)
「ブーン」。『空想空間』で行われているバトルロイヤルの参加者。
白髪と僅かに口角の上がった半笑いのような表情が特徴的な青年。ナビゲーターナナシが一人目に招致した人間。


リハ*゚ー゚リ
清水愛。現在は「洛西口零」と名乗っている。
姉が一人、血の繋がらない兄が三人いるなど複雑な背景を持つ。
兄譲りの情報収集力を持つウィザード級のハッカー。

730 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/11(土) 23:08:07 ID:tnQsOsII0

【その他キャラクター】
他、登場する人物。


(‘_L’)
ナナシ。ナビゲーターの一人。
生真面目な人物だが最近はある二人組に頭を悩まされている。


i!iiリ゚ ヮ゚ノル
花子。ナビゲーターの一人。
ナナシとは対照的に適当な調子の子供のような大人。

731 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/11(土) 23:09:09 ID:tnQsOsII0


※この作品はアンチ・願いを叶える系バトルロイヤル作品です。
※この作品の主人公二人はほぼ人間ではありませんのでご了承下さい。
※この作品はアンチテーゼに位置する作品です。


.

732 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/11(土) 23:10:07 ID:tnQsOsII0




――― 断章 『 help ――その日を摘め―― 』





.

733 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/11(土) 23:11:09 ID:tnQsOsII0
【―― 0 ――】



 瞬間を生きよう 

 飲みかつ食べよう、明日には死ぬのだから


 この世のあらゆることに意味はなく 

 全ての人間は等しく死に

 世界はその最初から非合理で

 何もかもが狂っている



 ……けれど、それでもきっと我々は答えを探さずにはいられないのだ 


.

734 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/11(土) 23:12:14 ID:tnQsOsII0
【―― 1 ――】


 ナビゲーター花子にとっての『強さ』とは『マイナスさ』とほぼ同じものだった。

 ここでの『マイナスさ』とは欠点という意味ではなく傷跡という意味だ。
 端的に言ってしまえば、彼女は「不幸な人間は強い」と考えていたのである。

 何故彼女がそう考えるようになったのか?
 これは単に――「歴史上の偉人には悲劇が付きもの」という、ある種『お約束』とでも形容すべき事柄を花子が意識していたからだ。
 思い込みではなく、実際問題としてそうだろう。
 彼女の中では『偉人』と『悲劇の主人公』はイコールで結ばれている。


i!iiリ- ヮ-ノル「私が君を選んだのもそういう理由だ。不愉快かな?」


 承知した相手に花子はそんなことを語った。
 その生徒は「いえ、別に」と目を合わせないままに応え、先を促す。


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「君は強い。そして私は、君が強いのは君の過去の経験故だと思ってる」


 一息。

735 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/11(土) 23:13:17 ID:tnQsOsII0

i!iiリ^ ヮ^ノル「君の強さは過去の経験に裏打ちされた強さ。だから私は君を選んだのだよ。怒った?」


 生徒は首を振る。
 「訳の分からない同情よりは余程良いです」なんて。

 彼女の言っていることも分からないではなかった。
 確かにフィクションの中のヒーローは不幸な背景を持っている奴が多いなあ、とその生徒は思った。
 それは物語上で必要なことなのだろうが。
 ……一方で、強さの理由付けとして不幸を使っている作品も多いとも思う。

 些か不愉快だった。


 だからその生徒は黒々とした髪を掻き、こう言った。

 「俺の過去の経験は俺の生き方に影響は与えたでしょう」
 「けれど、それは俺の強さとはさして関係がないことですよ」

 そうだ。
 本当にあの出来事が影響を与えていたのならば、自分は強くなんてなっていないはずなのだ。
 孤独ではあったとしても。 

 生徒は思う、自分は本来――弱くなるべきだったのに、と。

736 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/11(土) 23:14:08 ID:tnQsOsII0
【―― 2 ――】


 洛西口零は廃墟の廊下のような場所を歩いていた。

 パキリ、という足元でガラスが割れる音。
 心霊スポットと言っても通用しそうなそこは迷路障害物競争の舞台、『エクストラステージ』と言われる異世界だ。

 「extraならエキストラだろう」と思うが発音というのは国や地域で少しずつ違うものなので、ナビゲーター達にも指摘はしなかった。
 名称なんて飾りだと零は考えている。
 現在進行形的に偽名を用いている彼女が言うと重みのある発言だ。
 洛西口零こと、清水愛が言うと。


 『汎神論(ユビキタス)』洛西口零は『空想空間』で清水愛と名乗っている。
 が、本来的には清水愛が本名で洛西口零は偽名である。
 普段は偽名を本名として名乗っていて非常時は本名を偽名として使っているのだ。
 書類上での名前は「洛西口零」なので、もうこうなってくると何が本当なのか自分でもよく分からない。

 身元不明者の法益保護(身元不明者は仮の戸籍を取得できる)を利用して戸籍を制作したので住民票でも彼女は洛西口零。
 だが一方で清水愛としての戸籍も残っており、状況によって使い分けることも可能だ。

 これは彼女の複雑な背景と高度な能力があってこそだが、それにしたって、誰か指摘しろと清水愛は思う。
 というか、何人かはこの事実を知っているはずなのに以前戸籍が取り消されることはない。
 知られると本当にマズい人間には気を使っているが、淳高の中だけでも数人は勘付いているだろう。

737 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/11(土) 23:15:09 ID:tnQsOsII0

 まあ、とりあえず淳高一年特別進学科十三組に在籍しているのは性悪な笑みの少女、洛西口零だ。
 そして『空想空間』で戦っているのは『汎神論(ユビキタス)』である。

 そして彼女は既に『エクストラステージ』を攻略しつつあった。


リハ*-ー-リ「超えた障害物は二つ……そろそろこのゲームも終わりかな?」


 呟きながら廊下を進み、螺旋階段を上って、非常口のような鉄製の扉のドアノブに手をかける。
 開ける前に待ち伏せを考慮し耳をすましてみるが静寂の世界が広がるだけだ。

 零は「頭の良さ」というものに幾つか種類がある思っている。
 たとえばそれは結晶性知能と流動性知能であったり、記憶力であったり、判断力や直感力であったりするものだ。 
 どうやら『エクストラステージ』はその全てを競う場――障害物によって何が求められるかが違うらしい。

 洛西口零は自らのことをそれなりに聡明だと考えているものの頭脳労働であっても分野によっては苦手があることも分かっている。
 検索能力が高い故に不必要な知識は有しておらず、人と付き合わない為に人を動かすことは不得手だ。
 
 それでも、こうして早々に二つの障害物を突破しゴール付近に辿り着いているのだから、やはり彼女は頭が切れるのだ。
 少なくともゲームや謎掛けに関しての頭脳は優秀らしい。
 淳高でもトップランクに頭が良いと言われているのだから当然だが、「トップランク」と称されるということはトップとは言い切れないということでもある。
 だから自分が優勝できるとしたら、その一番の要因は運の良さ(障害物との相性の良さや強敵が参加していないこと)だろうと零は思う。

738 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/11(土) 23:16:08 ID:tnQsOsII0

 きっと、そういった物事を冷静に見つめることのできる能力も「頭の良さ」だった。
 天才にありがちな唯我独尊さや傲慢さがないことが彼女の性悪さであり、彼女らしさなのかもしれない。


リハ*゚ー゚リ「……さて」


 前生徒会選挙において二十%以上の支持を獲得し現在は中高共同自治委員会の長である壬生浪真希波。
 自分と同じ十三組所属で、しかし自分とは違う全方位型の天才である烏丸空狐。
 陸上部短距離走のエースであり少林寺拳法は全国二位の腕前、加えて偏差値七十を超す頭脳を持つ神宮拙下。
 一年生でありながら風紀委員会の事実上の副委員長である鞍馬兼。
 その他、注意すべき生徒の数々……。

 そして言わずもがな――『天使』と『悪魔』。
 三年特別進学科十三組の怪物と化物たる高天ヶ原檸檬とハルトシュラー=ハニャーン。


 この先に誰かがいるとしたら、それは誰だろう。
 誰が勝ち抜くことになるのだろう。

 そんなことを考えつつ、洛西口零は鋼鉄製の扉をゆっくりと開ける。
 目の前に広がったのは西洋風の城の広間のような空間だった。
 蝋燭が灯されるその場所には誰の姿もなく、どうやら先に来た人間はいないようだ。
 零は胸を撫で下ろし、同時に少し寂しくも思った。

739 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/11(土) 23:17:08 ID:tnQsOsII0
【―― 3 ――】


 例えば、『R、O、Y、G、B、I、P』という文字列が何を意味するか瞬時に分かる人間はどれくらいいるだろうか。
 あるいは『S、M、T、W、T、F、S』の文字列ならばどうだろう。

 最初の七つのアルファベットはニュートンが提唱した虹の七色(赤、橙、黄、緑、青、藍、紫)を示す英単語の頭文字。
 次のものはそれぞれの曜日(日曜日、月曜日、火曜日、水曜日、木曜日、金曜日、土曜日)のイニシャルを並べたものである。
 これは知能テストや知恵比べで使われる問題なのだが、この問題に対する姿勢一つ取っても個性は現れる。

 ある日、第三保健室に遊びに来ていた後輩に零は言った。


「この文字列が何を意味しているか分かるかい?」

「期待を裏切ることになってすみませんが、分かります。知ってますから」


 なるほど、と彼女は笑う。


「貴兄はそのタイプか」

「どういうことですか?」

740 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/11(土) 23:18:10 ID:tnQsOsII0

「頭の良さの分類についての考察だよ。そして、『知っている』というのも頭の良さではある」


 何かの問題に対し、『知っている』で答えを出せるということは、過去に目にした問題を正確に記憶できる能力があるということだ。
 試験において公式の応用ができずとも全ての問題のパターンを知ってさえいれば答えられるのである。

 この頭の良さの持ち主は、どんな難題を相手にしても、それが既知のものならばものの数秒で片付けることが可能だ。
 「考え答える」のではなく膨大な量の情報から合致する解答を探す――「検索する」作業。
 一方で、そういった思考方式では基礎を応用展開する能力はほぼ鍛えられない為に未知の障害には非常に弱い。
 必要不可欠な力だが頼り過ぎると困る時が来る。

 零は続ける。


「私のような人間ならば問題を前にした場合、まず意図と傾向を考えるね」

「出題者の意図と問題の傾向ですかね」

「ご明察でご名答だよ。アルファベットを使う知能テストは大別して文字そのもの(形状や順番)が関係しているものか、その文字が入っている単語の関係性を答えさせるものに分けられる」


 そして七は西洋の名数なので――という風に西洋由来の七に纏わることから考え始めるのである。
 予測を立て、知識の広さで直感力を補う方法だ。

741 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/11(土) 23:19:09 ID:tnQsOsII0

「当然、頭の良さには直感力や発想力といったものもある。……謎掛けは本来その類の力を試すものだ」

「秀でた部分で弱い部分を補ったり、どれか一つだけが優れるだけでは不完全だったり。考えさせられる話ですね」


 一息置いて彼は言う。


「俺とは違って天使や悪魔なんかは、言い方はおかしいですが全部が秀でているんでしょう」

「そうだろうね。一つが秀でた人間は天才と呼ぶべきだが、全てが優れる人間は化物と呼ばれる。この学校には様々な人間がいるが、化物呼ばわりされるのは二人だけなのが証明であり証左だよ」

「じゃあ俺もまだまだだ。狂戦士呼ばわりくらいじゃ」


 目を合わせぬまま、フッと笑い。
 少年は続けた。


「七に関係するものと言われたって俺は『俺の数字だな』としか思えない」

742 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/11(土) 23:20:07 ID:tnQsOsII0
【―― 4 ――】

 
 どうやら広間にある大きな扉の先が『迷路障害物競走』のゴールのようだ。
 零はそう予測し、錠前部分にある問題に取り掛かる。

 知識を問うものや引っ掛け問題、哲学的な問いなど様々な種類の多岐に渡る障害物があったが、最後を飾るそれは最も不可解なものだった。





『>答えは?』





 問題文はそれだけだった。 
 その問題として成立していない短文が彼女の最後の障害物だった。

 これでは予測の立てようもない。
 知識が広かろうが関係がない。
 十秒間だけ考え、現時点で答えを出すことは不可能と考えた零はヒントを探すことにする。

743 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/11(土) 23:21:11 ID:tnQsOsII0

 扉の脇に取り付けられた小さな液晶、その下にあるのはごく一般的なパソコン用キーボード(101キーボードだ)。
 ちなみにハッカーである洛西口零は通常とは異なる配列のもの(91キー配列)を使うことが多いが……これはハッキングでどうにかできる問題ではないだろう。


リハ*゚ー゚リ「……おっと、これは予測通りだ」


 そのキーボードの隅にヒントらしき文章が刻まれているのを発見した。
 「答えはあなたの障害の数とも一致する」という一文。
 所詮はヒントか、そのまま答えに直結するものではないようだ。

 いや、答えには直結しているのだろう。
 だがヒントを活用するには『あなたの障害の数』を解読しなければならない。


リハ*-ー-リ「一人では行かず、誰かを連れてくるべきだったかな……?」


 自分もまだまだ未熟だという思いもあるが、同時に「自分が分からない問題を突破できる参加者はどれくらいいるだろう」とも思う。

 あの天使ならば分かるだろうか。
 あの悪魔ならば理解できることなのだろうか。

 そんなことを考えていると、後方に幾つかある扉の一つが開いた。

744 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/11(土) 23:22:11 ID:tnQsOsII0
【―― 5 ――】


 去り際に問われた高天ヶ原檸檬は「んー?」と可愛らしい声を出し振り向く。

 問うた人間は洛西口零、その内容は最後の障害物に関してである。
 自分の知りたいことと相手の知りたいこととの等価交換。
 この取り引きを成立させる為に、これを見越して零は能力を用い参道静路の居場所を探し出したのだった。


リハ*-ー-リ「この問題の答えを私は知りたい。愛しの彼を探してあげたんだ、知恵を貸すくらいはして欲しいものだね」

|゚ノ ^∀^)「そういうのって自分で答えを出さないと意味ないんじゃないのかな?」


 アスリートらしいことを言う『一人生徒会(ワンマン・バンド)』に対して零はこう返す。


リハ*゚ー゚リ「そんなことに私は価値を見出さないね。能力名が聞こえなかったのかい?」

|゚ノ ^∀^)「『コンテキストアウェアネス』――人間が意識せずともコンピューターが能動的に情報処理を行うことだっけ? そっか、そういうのもあるんだね」


 そういうのも。
 そういう価値観。

745 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/11(土) 23:23:08 ID:tnQsOsII0

 「できないことはやらなければ良い、どうしてもやらなければならないならば他者にやらせれば良い」。
 そんな洛西口零の価値観をレモナは納得したようで、液晶に表示されている問題文と刻まれたヒントを読むと笑って告げた。
 おそらく助言と言うべきものを。


|゚ノ ^∀^)「……洒落が効いてて、君が一番分かりそうな答えだけどなぁ」

リハ*゚ー゚リ「もう分かったのかい。私が五分以上悩んだ難問だぜ?」

|゚ノ ^∀^)「たった五分じゃん」


 ホントに悩んでるのかなあと首を傾げつつ、天使は続ける。


|゚ノ ^∀^)「ヒントも割とそのままだし……コンピューターが専門なら分かりそうな感じだケド」

リハ*-ー-リ「私の専門は厳密にはプログラミングと情報収集だよ」

|゚ノ ^∀^)「だったら尚更だよ。君の会社は光通信じゃないのかな?」

リハ*゚ -゚リ「? そうだが……」

|゚ノ*^∀^)「無駄な知識を知らないのも困りものだね。グーグルで検索できれば良かったのに」

750 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:21:30 ID:0lg6Oc0I0
【―― 6 ――】


 いつだったか覚えていないが、彼は彼女とこんな会話を交わした。
 彼の二つある二つ名の一つは以下のような邂逅と会話の下に成立する。


「ところで貴兄、昔は野球をやっていたそうだがポジションは何処だったのかな?」

「女子の中には野球のルールも分からないって人もいるらしいですが、すみません、あなたはそうではないようで。俺はレフトでした。三番でレフト」

「一番ラクなポジションじゃないか」

「そうですねボールさえちゃんと捕球できるなら比較的に楽……よく知ってますね」

「これくらいは常識だろう? しかし、随分と相応しいポジションにいるものだよ――レフトフィールドとは」


 その奇妙な口振りの意味を当時の彼は分からなかった。
 真意を理解したのはしばらく後、彼女がどういう人間かを知った後だ。

 なるほど、と彼は思った。
 コイツは俺が何者なのか知っていて、だからあんなことを言ったのだろう、と。
 確かに自分はレフトフィールドに立っている。
 今も昔も七番目のその場所に。

751 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:23:03 ID:0lg6Oc0I0

 「left field」という言葉は野球の左翼を示すが、同時に「変わった、異常な立場」という意味も持つ。
 レフトを守る変わり者に対しての、彼女の――洛西口零一流の洒落だった。

 当時の彼は言葉の意味が分からなかったので、曖昧に頷くと、世間話という具合にいつも考えていることを呟いた。


「左翼手っていうのは七番目のポジションなんですが、どうせなら俺は六番を打ちたかったですね」

「比較的守備の難易度が低いレフトは強打者が置かれるのだろう? 貴兄の成績は知らないが三番は妥当なんじゃないのかな?」

「力は強い方なんでその通りではあるんですがね」


 ご存知ありませんか?と訊いてから彼は続けた。



「七掛ける六は正しい方程式で、導き出されるのは宇宙や人生や、そういったもの全ての答えですから。……やはり女の子はSFは読まないものなんですか?」



 当時、彼が彼女の言葉を理解できなかったように彼女は彼の言葉を理解し損なった。
 それはあるいは既知のネタだったのかもしれないが、検索技能が優れる故に不必要な事柄を記憶しない洛西口零は分からなかった。
 ……分かってみれば、大したことではなかったのだけれど。

752 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:24:03 ID:0lg6Oc0I0
【―― 7 ――】



 「何度も徹底的に検算しました。」

 ――コンピュータが応じた。

 「間違いなくそれが答えです。率直なところ、皆さんの方で究極の疑問が何であるかわかっていなかったところに問題があるのです。」



 (ダグラス・ノエル・アダムズ著、『銀河ヒッチハイク・ガイド』より)





753 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:25:03 ID:0lg6Oc0I0
【―― 8 ――】


 ……レモナが去ってから二分ほど考えて、やっと洛西口零は答えに辿り着いた。 

 終わってみれば簡単な問題だった。
 ヒントは馬鹿みたいに沢山あったのだ。 


 それは例えば、このバトルロイヤルの主催者の名前であったり。
 想定される参加者の総数であったり。
 プログラマーなら誰だって知っているメタ構文変数(プログラミングで使われる「意味のない名前」)であったり。
 光ファイバーに重要な光の角度であったり。
 テンキーが付属しているキーボードの存在であったり。
 レモナが最後に言った「グーグルで検索できたらよかったのに」という一言であったり。

 全てに関係する言葉が――数字が一つだけある。
 SFや洒落の通じる人間なら誰でも知っているであろう真理の数字が。


リハ*-ー-リ「……八人のナビゲーターが五人ずつ参加者を招致した場合、予想される総参加者は四十人」


 そして、偶然ログインしてしまった高天ヶ原檸檬とハルトシュラー=ハニャーンを足せば。
 その数は――『42』。

754 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:26:04 ID:0lg6Oc0I0

 「あなたの障害の数」とはバトルロイヤルの総参加者の数のことだ。
 常識的に考えるならば障害の数は参加者の総数から自分を引いた四十一になるはずだが、ある意味では自分自身さえも障害とも言える。
 緊張や邪念……最も大きな「障害」と言うべき弱さとはそれぞれの内に在るものだ。
 スポーツを嗜む高天ヶ原檸檬ならばそう考えるだろうし、アスリート的な視点からすればそうなるだろう。

 キーボードがテンキーが付属しているタイプだったのは解答が数字だったから。
 答えが言葉ならば数字を打ち込む機能は必要ない。


リハ*゚ー゚リ「光通信……光ファイバーには光の全反射が重要だが、光が全反射を起こす角度は『42』度だ」


 中学の理科の授業で聞いた覚えがある。
 パッと出てくるレモナは流石学年首席だとしか言いようがない。

 そして。


リハ*-ー-リ「『42』という数はメタ構文変数の一つであり……それは『銀河ヒッチハイク・ガイド』というSF作品から取られたものだ」


 同作品内では「生命、宇宙、そして万物についての(究極の疑問の)答え」として『42』という数が登場している。
 またその作品の作者(ダグラス・ノエル・アダムズ)の愛称は『DNA』――バトルロイヤルの主催者とされている人物と同じである。

755 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:27:03 ID:0lg6Oc0I0

 狂華のかつての言葉はこういった事柄を踏まえたものだった。
 知っている人にしか伝わらない、他愛のない些細なジョークだったのだ。
 それはこの障害の答えについても変わらない。

 『42』などという解答は――言ってしまえばさしたる意味もない、ただの冗談でしかない。
 

リハ*-ー-リ「そう言えば『42』という答えを弾き出したのはコンピューターだったかな……」


 それ故に、コンピューターに『42』と答えさせるのは英語圏に育ったプログラマーの間ではお約束のようなものである。
 例えばGoogleの電卓機能も「人生、宇宙、すべての答え」というような言葉を入力すれば『42』と返してくれる。

 確かにこれは私が一番分かりそうな問いだと零は思う。
 レモナの言葉はその通りだった。
 淳高の中で『汎神論(ユビキタス)』よりもコンピューターに詳しい人間はいないのだから。


 だから、自分が最も答えを出せそうな人間だったのだろう。
 そんなことを思いながら零はテンキーを使い『42』を打ち込んだ。

 液晶には『We apologize for the inconvenience.』という文字列が表示され、広間にガチリという硬質な音が低く響いた。
 大扉のロックが外れたのだ。
 ゴールへの道が開けたのである。

756 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:28:11 ID:0lg6Oc0I0

 重厚な効果音と共に独りでに扉が開いていく。 
 そして扉が開き切った時だった。


「ああ、開けてくれたんだ。ありがとうだお」


 声と共にゾクリという悪寒が零の小さな背中に走り、彼女は咄嗟に『汎神論(ユビキタス)』を使いその場から退避した。 



( ^ω^)「―――『恒久の氷結(エターナル・フォース・ブリザード)』」



 ほぼ同時だった。

 出口の大扉周辺が徐々に凍り付いていった。
 そこから伸びた白色の氷の道は、黒いオープンフィンガーグローブを嵌めた手に繋がっている。

 冷たい世界。
 ダイアモンドダストが舞う広間には二人の参加者。
 ゴール手前まで辿り着いた両者がいる。

757 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:29:04 ID:0lg6Oc0I0



 ……そう。
 
 実は障害物『ディープ・ソート』は解答できないことが前提の関門だった。
 あんな冗談のような問題は殆どの参加者は答えられない、それを分かっていて『DNA』は問いを設定した。

 自分には答えられない問題。
 ならばどうすれば良い?
 簡単だ、洛西口零が普段そうしているように「他人にやらせれば良い」のだ。

 最後の関門で試される頭の良さは知識でも連想力でもなく――「相手の裏をかく鋭さ」だった。 
 狡知さ、ずる賢さだった。


 設定上の最後の障害物である『ディープ・ソート』を突破し大扉を開ければゴールは目前だ。
 だが、事実上の障害物が残っている。

 自分以外の参加者四十一人と自分の中に生まれた油断という障害が―――。





758 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:30:04 ID:0lg6Oc0I0
【―― 9 ――】


 油断していた、と洛西口零は舌打ちをする。 

 後悔をしても意味はないが反省をするとすれば何処が悪かっただろう。
 ああそうか、「間が悪かった」「運が悪かった」というのもあるかと彼女は開き直る。 
 開き直るしかない状況だった。


( ^ω^)「待ってた甲斐があったお。その問題は多分、僕じゃ解けなかった」

リハ*-ー-リ「レディの背後で待ち伏せなんて礼儀がなってないんじゃない?」

( ^ω^)「レディーファーストと言って欲しいお」


 口振りから察するに目の前の青年は今ここに辿り着いたわけではないだろう。
 自分より早く来て隠れていたか、自分より僅かに遅く辿り着き様子を伺っていたか……考えて「まあそれはどうでも良い」と結論を出す。

 零にとって重要なのは、この大広間に敵と二人きりであること。
 加えて扉が開いてしまっていることだ。
 その他の事項はこの状況を切り抜けてから考えれば良い。

 切り抜けられたら――の、話だが。

759 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:31:03 ID:0lg6Oc0I0

 目の前に立つ青年は癖毛混じりの白髪だった。
 赤色のナイロン・アンチフリーズを羽織っておりグローブは黒、ファッションは赤と黒で統一されている。
 それ故に雪のように白い髪が際立っていた。
 いや、何よりも際立っているのは常時微笑んでいるかのような口角の上がった表情か。

 人を傷付ける時も薄笑いを浮かべたままなんて狂っているとしか言いようがない。
 血塗れの哄笑をする高天ヶ原檸檬とは違う意味で異常な印象を受ける。

 笑っていることは――戦闘狂である高天ヶ原檸檬と共通しているが。
 表情を動かさないことは――ハルトシュラー=ハニャーンと同じだ。
 それはつまり、目の前の相手は二重にイカれた存在だということと洛西口零は考える。


リハ*゚ー゚リ「……なら、せめて名前くらい名乗ったらどう?」


 言動を清水愛に変えての策を思い付くまでの時間稼ぎの一言に、以外にも青年は素直に返答した。


( ^ω^)「僕は……フルネームなんていらないよな。『ブーン』でいいお」

リハ*^ー^リ「私は『アイ』でいいよ」

( ^ω^)「ふぅん。アイちゃんかお」

761 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:32:04 ID:0lg6Oc0I0

 気安く呼ぶなデリカシーのない男め、と心の中で吐き棄てる。
 この状況を打開できそうな名案が浮かぶことはない。


リハ*゚ー゚リ「それで……私に何か用?」


 青年――ブーンは黙ったまま足を動かす。
 開いた大扉ではなく零のいる方向へ向かうように。

 素通りはしないらしい。
 敵対者である零に背中を見せることをしたくないのだろう。
 合理的な判断だった。


リハ*^ー^リ「私に戦闘能力はないよ?」

( ^ω^)「そうかお」


 表情こそ変わらなかったが、声音は「所詮自己申告だろう」と告げていた。
 その通りだと思う。
 無力に見える少女を見逃すことは、現実世界ならいさ知らず、この『空想空間』では命取りとなることがありえる。
 超能力というものを一人最低一つは持っているのだから。

762 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:33:05 ID:0lg6Oc0I0

 零は先程『汎神論(ユビキタス)』を発動させてみせたが、ブーンの立場からすれば、零の能力が移動能力一つだとは限らない。
 じりじりと様子を伺いながら躙り寄るのは能力を警戒しているのだ。

 だから先に進みたいブーンからすると不意を打たれないようにする為には最低でも無力化が必要だ。


( ^ω^)「……アンタ頭良さそうだし、分かっているお?」


 眼前まで辿り着いた白髪の男が言った。
 清水愛の口調で話していた零はキャラを戻してハッと性悪な風に鼻で笑う。

 策は浮かばなかった。
 状況を打開することはできない。
 だからせめて抵抗と非服従の証明として、せめてもの攻撃として――口撃として、零は精一杯笑ってやった。


リハ*^ー^リ「何がかな、痛カッコ付け野郎クン? 白髪にオープンフィンガーグローブって……どれだけ気取れば気が済むんだい?」

( ^ω^)「…………雌狐」


 瞬間、ブーンが左腕を振るった。
 挑発の笑みを浮かべた零の顔面を薙ぎ払うように。

763 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/27(月) 03:34:04 ID:0lg6Oc0I0

リハ; -リ「い……っっっ!!」


 頬に裏拳を叩きこまれ、踏ん張ることもできずに少女は倒れ転がった。
 余程強く殴られたのだろう、一撃で口の辺りが切れたらしく唇から血が数滴落ちた。

 女の顔面を迷いなく殴るなんてコイツは本当にイカれた奴だと思う。
 でもその原因を作ったのは自分だった。
 本当に損な性分だと、口を拭って今度は自嘲の笑みを零す。

 合理的な判断をするのならば「私の負けです見逃して下さい」と一言言えば良かったのだ。


リハ* ーリ「(だが……そんなこと、言えるはずもない)」


 それは――嘘ではないから。
 痛みから逃れようとする弱い心の叫びだから。
 ただの心の敗北だ。

 情報を操る者として、どんなものでも自覚的な言葉は許容されうるが、そうではない「言わされた言葉」や「言ってしまった言葉」は許されない。
 単なる意地であり矜持だった。
 端的に言ってしまえば――洛西口零という人間は自分で考えているよりも物分かりは良くなかったのだ。
 従順に生きるよりは曲がることなく死を選ぶような、そんな人間だったのだ。

764 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/27(月) 03:35:04 ID:0lg6Oc0I0

 ……だから、ここで死ぬことも仕方がないことだ。

 と――彼女がそう思ったその時、ブーンの後頭部を強襲するように高速回転する何かが飛来した。 
 勢い良く壁にぶつかり甲高い音と共に跳ね返ったのは金属バットだった。



「―――バケツ被った猫が鳴く 一人また一人消えて行く 今更どうしようもないこのゲーム さあ何処にも行けないな―――」



 避けたブーンは声――歌のする方を振り返り、それを見た。

 そこにいたのは打撃用ヘルメットを被った黒壇の如く黒い髪の少女。
 カーゴパンツにシャツというラフな格好で墨汁のような濁った深い黒の瞳をこちらに向けている。
 目元に日焼けペイントを付けた、その、あるだけの殺意を纏う彼女は。


( ^ω^)「……誰だお前?」

川 ゚ 々゚)「誰だと思う?」


 そう言って、不敵に笑った。

765 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:36:04 ID:0lg6Oc0I0
【―― 10 ――】


 くまのように塗られた目の下の日除けペイントに、黒いリストバンド、ヘルメットに金属バット。
 左肘の部分には野球選手が付けているような黒いプロテクターが装着されている。
 靴こそシンプルなデザインのスニーカーだが、きっと屋外ならばスタッドスパイクシューズを履くのだろう。

 そこに立っていた少女は「今の今まで草野球をしていた女子高生」のような、そんな見た目をしていた。
 誰何したブーンは勿論のこと零も心当たりはない。


川 ^ 々^)「誰か分からないって顔してるね二人共。悪いけど、私はどちらのことも知っている」


 ブーンは優先順位を変えたらしく、零から離れ、新たに登場した少女を見据えて距離を図る。
 対し彼女はすたすたと歩いていくと落ちていた金属バットを拾った。

 そうしてバッドの先を狙いを付けるようにブーンに向ける。


( ^ω^)「……そうかお」

川 - 々-)「ああ、そうだ。多少ならず姿は変わってるけど悪いけど私には分かる。その歪んだ表情も、死んだ瞳も、容赦ない行動も」

766 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:37:04 ID:0lg6Oc0I0

 どれも自覚はあることだったが、しかし、とブーンは思う。
 「容姿は現実と変わっているのに言動ぐらいで誰か分かるものだろうか?」と。


川 ゚ 々゚)「そして零さん。やっぱりお前の能力はそういうことだったんだね。悪いけど、分かってしまった」

リハ; ーリ「なんだと……?」

川 ゚ 々゚)「…………とか言ったら能力の内容を自白すると思ったけど、そんなことはなかったか。流石リアリスト、説明死はしないらしい」


 デュエリストにしか分からないネタを言うな。
 心の中で零は冷静にツッコミを入れ、近くまでやってきた少女の顔をよく見てみる。
 彼女の瞳は何時間も煮詰めた墨汁のようなドロドロに濁った黒色だった。

 山科狂華と、同じ―――。


リハ; ーリ「そうか、貴兄は……」

川 ^ 々^)「何死にかけてるの、一発殴られたぐらいで。意識飛ばすなら悪いけど助けに来た私の勇姿をちゃんと見てからにしてくれ」


 そうして少女はブーンに向き直る。

767 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:38:05 ID:0lg6Oc0I0

川 ゚ 々゚)「私はクルウという。というわけで、悪いけど零さんの代打として私が戦うから……ブーンさん?」

( ^ω^)「……そうかお」


 相対するブーンはオープンフィンガーグローブをもう一度しっかり嵌めると、両拳を強く握る。
 ふざけてこそいるが未知の相手だ、警戒するに越したことはない。


( ^ω^)「(しかし……コイツ、一体誰だ? 普通に考えれば僕のことを知っているということは顔見知りかお)」


 だが、現実での彼はそこそこの有名人でもあるのだ。
 有名と言っても「札付き」と言われるような悪い意味でだが、なんにせよある程度の認知度はあるので一方的な認知ということも考えられる。
 妙に親しげな口振りは気になるが……。

 最も高い可能性としては自分が殴り飛ばした相手のどれかだろうか。
 そうだとしても一々覚えちゃいないので仕方がないが。

 彼がそんなことを考えた、瞬間。


川 ゚ 々゚)「―――お前の頭に脳天直撃セガパワー」

768 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:39:08 ID:0lg6Oc0I0

 一縷の躊躇もないフルスイングがブーンを襲った。
 先の裏拳を思い出させるような横薙ぎの一撃は距離を詰めたクルウによるものだ。

 バットは広間の壁を掠め、そこに掛けられていた絵画に叩き落とした。
 が、目当ての白髪は捉えていない。
 返す刀ならぬ返し金属バットは腰と手首の捻りで避けたブーンを追撃する。


( ^ω^)「(人の頭に向けて金属バットをフルスイングなんて真っ当な人間ならできない。向こうも相当、イカれ野郎だお)」


 思いつつ向かい来るバットを捌いた。
 剣による攻撃を素手で捌く――「剣取り」という動作。


リハ*゚ -゚リ「(今の技……合気道か? 我流のようにも見えるが……)」


 白髪の青年の一挙一動が何処となく洗練されているように見えるのは武道を学んでいるからなのか。
 あるいは、場数を踏んできたからか。

 しかしなんにせよクルウこと山科狂華の広間の物を巻き込み壊しながらの荒々しい攻めに比べるとスマートだった。
 零は戦闘のことは分からないが(知識としては一応有しているものの本当は分かりたくもないのだが)、相当の実力が伺える。
 強そうだし、事実強いのだろう。

769 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:40:04 ID:0lg6Oc0I0

 だが。


リハ*-ー-リ「…………それは所詮、私達の日常レベルの強さに過ぎないのだよ」


 ブーンという青年は強い。
 力も強く、容赦もなく、何より場数を踏んでいるように感じる。
 地元では負け知らずだったのかもしれない。
 例の生徒会新役員参道静路と同等以上の強度を誇るのかもしれない。

 ……しかしそれは、言ってしまえば「所詮は喧嘩が強い程度」でしかないのである。
 ジャンルで言えば『ストリートファイト』だ。

 山科狂華とはカテゴリーが違う。


リハ*゚ー゚リ「(奴はあんな風だが……あれでも、人殺しの中の人殺しと言われる一族に生まれた子供なんだぞ?)」


 そう、それこそが山科狂華が特別進学科十三組に移籍になる理由だった。
 「曰く付きの一族の生まれであること」――その事情から彼は十三組に送られることになる。

 山科狂華は生まれ落ちたその瞬間から狂っていたのだ。

770 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:41:05 ID:0lg6Oc0I0
【―― 11 ――】


 一年十一組での山科狂華の評価は「変わり者」というよりも「傾奇者」だった。

 なんの変哲もない黒髪は項が隠れるほどの長さ。
 百八十センチの長身でありながらも顔立ちは男らしいとは言えず嫋やかと表現しても差し障りないだろう。
 何もかもを軽蔑しているような瞳は墨汁のように黒く。
 人と目を合わせようとしないことと、慇懃無礼な斜に構えた態度さえなければそれなりに絵になる少年だったが、その振る舞いこそが彼らしさだった。

 趣味は茶道と俳諧という純和風な奥ゆかしい一面も持つが、そういった部分も含めて傾奇者なのである。
 ここでの「傾奇者」とは変わり者と数寄者を足したような意味合いだ。


『嫌な奴……だけど、悪い奴ではないと思う』


 山科狂華のことを彼のクラスメイトに訊ねてみたとしたらそんな答えが返ってくるだろう。
 違和感を生じさせることに関しては右に出る者はいない嫌われ者の代表のような人間なのに不思議と憎まれてはいない。
 悪い奴ではない、と周囲の人間は言う。

 悪いのは口と態度だけだ。
 素行は悪くないし、故に評判も悪くはない。

771 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:42:05 ID:0lg6Oc0I0

 同じクラスの鞍馬兼が「普通に良い人」ならば狂華は「変な良い人」なのである。
 口と態度は悪いので敬遠されがちではあるし、人を引き離す雰囲気を纏ってはいるが、他人を傷付けるようなことはしない――そんな生徒だった。
 二つ名通りの『厨二病』なのだ。


 あるいは逆に考えてみると、こうとも言えるだろう。
 山科狂華は口と態度だけが悪い――それ以外は悪いとは言えない人間だと。

 容姿も。
 性格も。
 そして能力さえも。

 鞍馬兼のように全方位に万遍なく実力を発揮するわけではないが、それでもスペックとしてはかなり高い方だった。
 特に『戦い』に関しては筆舌に尽くし難い。
 それは特徴的なオーラを纏っているのにも関わらず当然のように人の背後を取れる様からも窺い知れるが、彼の真骨頂はそこではない。
 相手の隙を突くスキルも確かに凄いものの彼の彼らしさはそこにはない。


 山科狂華は「勝つ人間」ではなく「負けない人間」だった。
 負けないから勝てる人間だった。

 そしてその異常な戦いぶりと何者にも臆さず立ち向かう姿勢から彼は『厨二病(バーサーカー)』と呼ばれている。

772 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:43:05 ID:0lg6Oc0I0
【―― 12 ――】


 「取った」――きっとその時、ブーンはそう思ったのだろう。
 クルウの攻撃を捌き、腕を取ったその瞬間。


( ^ω^)「(ふざけ過ぎて……油断したな)」


 間隙を突き彼は掴んだ右の手首を思い切り捻り上げクルウの肘関節を限界まで伸展させた。
 合気道ならば「一教」と呼称されるもので逮捕術などでも使われる技術だ。

 この状況、腕を可動域の限界まで伸ばされた状態で抵抗すれば手首、肘、あるいは肩のいずれかが損傷する。
 人間の身体の仕組みを踏まえた合理的な攻撃。
 他の合気道の技と同じように、無駄な力を使わず効率良く相手を制する技術――それは。

 「ごきり」という骨を伝わり響く嫌な音と共に簡単に破られることになった。


川* 々)「こんなので勝ったつもりかシロートっ!!!」

(;^ω^)「なっ!?」

773 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:44:05 ID:0lg6Oc0I0

 そう。
 腕を可動域の限界まで伸ばされた状態で抵抗すれば関節が損傷する――が、関節を損傷しても、人は死なないのだ。
 どころか無力化したことにすらならない。

 極論を言えば、遍く関節技は関節を壊す覚悟さえあればどうとでも対処できるものなのだ。


川*- 々゚)「ハッ――!」


 右腕を捻り上げられたクルウは瞬間、構わず身体を捻った。
 当然可動域を超えて強引に動かされた肩は脱臼するが、前述の通り肩が脱臼しても戦えなくなるわけではない。
 同時にカーゴパンツのポケットに携えられていたボールペンを左手で回収し、

 次いで、迷いなく振り向きざまに突き刺した。


(; ω)「ぐっ……!!」


 動揺していた為か、ブーンは避け損なう。
 反射的に左手を出してしまい手の平をボールペンが貫通することとなった。
 距離を取り抜くと血が溢れ出した。

774 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:45:14 ID:0lg6Oc0I0

 更なる追撃を避ける為にバックステップをすれば、その足元には弾き飛ばされた絵画があり体勢を崩す。
 それを狙っていたかのようにクルウは、あろうことか肩が外れているはずの右腕で金属バットを袈裟気味に振るう。

 回避どころか防御さえままならない鋭い攻撃。
 ブーンは血塗れの左腕を盾にすることで致命傷を防いだ。
 だが直撃だ。

 手首周辺に激しい痛みが走るも堪え、大きく距離を取った。


(; ω)「(ぐ……。なんて無茶苦茶な……!)」


 関節が極まっている状態を、片腕を犠牲にすることで抜け出すなんて。
 その片腕で武器を奮ってみせるなんて。

 おかしな格好は忍ばせていたペンを気付かれない為か。
 靴がスニーカーなのはその名通りに(「スニーカー」は「こっそり歩く人」の意)足音を消す為か。
 周囲の物を巻き込むような破壊は足元を悪くする為だったか。
 一度考え始めればクルウの行動の一つ一つに意味があるように思えてくる。


川 ゚ 々゚)「どうした? 顔色悪いな、お前」

775 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:46:07 ID:0lg6Oc0I0

(;^ω^)「一体誰だ……いや、お前は一体なんだお?」


 素直な疑問を口にする。
 答えは簡潔。


川 ゚ 々゚)「私はクルウだ。お前達の使うお優しい武道ではなく、人を殺めてでも自分を守る武術――我流の特攻武術を使う人間だ」


 なるほど、と端で聞いていた零は心の中で得心した。


リハ*-ー-リ「(特攻武術、近接格闘術か……なるほど。人殺者の生まれらしいチョイスだ)」


 『特攻武術(韓国語では「トゥコンムスル」という風に発音する)』とは韓国国軍で使われている近接格闘術だ。
 他の軍用格闘術と違わず単純だが効果的な技を主体とし、更に短い兵役の中で習得できるように構築されたものである。
 ルーツには柔道や合気道も存在するので対抗も可能なのだろう。

 また「我流」である為、クルウの使うそれはオリジナルから離れた彼女(彼)一流のもの。
 奇策と絡め手を交えた変則戦闘術だった。
 相手の心身を傷付けることも構わず、自身を犠牲にすることも厭わない。
 自爆宛らとまで評されるまさに特攻の戦闘形態だ。

776 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:47:04 ID:0lg6Oc0I0

 そしてそんなクルウだからこそ、自らの手の内をただで明かすような真似はありえない。

 ブーンは左手首の腫れと手の平の傷を見た。
 痛みは痺れに変わっている。
 止血をしたいが、その隙を与えてくれるような相手ではないだろう。

 と、次いで彼はクルウの脱臼した肩に目をやった。
 治っていた。


(;^ω^)「は……?」


 脱臼は見た目では分からない。
 分からないのだが……明らかにその右腕は調子が良さそうなのだ。
 痛みを堪えている風でもなく動きがおかしなわけでもない。
 治っている。


川 ゚ 々゚)「言い忘れたが、悪いけど能力を発動した。肩は治った」


 そうして「無意味に説明しているとでも思ったのか?」と殺意混じりの笑みを浮かべる。
 追撃をしなかったのも手の内を明かしたのも――傷が完治するまでの時間稼ぎ。

777 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:48:04 ID:0lg6Oc0I0

川 ゚ 々゚)「待ってくれたお礼に能力を教えてあげよう。私の能力は『アンリミテッド・アンデッド』という、死なないだけの能力だ」

(;^ω^)「死なない……だと……?」

川 ゚ 々゚)「そうだ。私は死なない――というよりも死んでも生き返る」


 傷は受けるが塞がる。
 血は流れるが止まる。

 肩は外れても治り、例え腕が千切れようが暫くすれば再生する。
 即死しようが放っておけば復活する。
 「傷付かない」という意味の不死ではなく、「傷付いても治癒する」という意味の不死。

 死なない、だけ―――。


川 ゚ 々゚)「死なないだけだ。悪いけど、痛みはある。つまり――精神が壊れるまで殺し続ければ良いだけの話」


 零もすぐその対抗策には辿り着いた。
 だが一方でこうも思うのだ――「自分で関節を壊せるような人間の精神が、痛みで壊れるのか?」と。

 あの『厨二病(バーサーカー)』山科狂華が痛みに屈することがありえるのかと。

778 名前:断章投下中。 投稿日:2012/08/27(月) 03:49:05 ID:0lg6Oc0I0

 有するだけの殺意を纏うクルウは笑う。
 それは微笑みだが、狂っているようにも見える。


川 ^ 々^)「さあ泥仕合を始めよう、シーソーゲームを愉しもう。――なんて厨二病染みたことを言っている間に悪いけど捻挫と傷付いた毛細血管も治った」

( ^ω^)「……そうかお」


 その治ったという捻挫はいつ負ったのだろうとブーンは思う。
 隠しながら戦っていたのだろうか。

 捻挫程度ならば――顔色も変わらない相手なのだろう。
 「面白い」。
 そう感じる自分はきっとおかしいのだ。

 きっと壊れているのだと。


川 ゚ 々゚)「私はお前のような『自分は手遅れだ、壊れている』と考えている子供が大嫌いだ。自分の不幸に酔っている人間が大嫌いだ。だから殺す」


 心を読んだかのような挑発の言葉にブーンは乗らなかった。
 ただ「お前に何が分かる」と小さく呟き、大きく一歩目を踏み出した。

784 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 00:57:51 ID:0MtJvr2s0
【―― 13 ――】


 「一目惚れ」という単語を「一目見て心を動かされたこと」と解釈するなら、山科狂華は彼に一目惚れしたことになるだろう。

 それは紛れもなく一目惚れだった。
 一目見た瞬間、心を奪われた。
 電流が走ったような刺激と背で蛇が這い回るかの如き悪寒が同時に襲い掛かってきた。

 恋のようで。
 死のようだった。


 彼の両目を目にし「もしかしたら」と思った。
 彼の行動を聞いて「きっと」と思った。
 彼の過去を知って「間違いない」と思った。

 ああ、コイツは俺の相似だと山科狂華は確信した。
 同じ属性の相手だと。

 向こうは気付いていないようだった。
 当たり前だ、瞳を見た程度で人間を判別できる能力は一般人には備わっていない。
 それはアブノーマルなスキル。
 けれど狂華が生まれた血統においては当然の才能だった。

785 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 00:59:03 ID:0MtJvr2s0

 両親も、祖父も、兄も姉も、家や名の他何もかもを失くした山科狂華の理解者になってくれるかもしれない人間。
 期待はした、心が踊らなかったと言えば嘘になるほど。

 ―――だが彼は自分とは違った。


 始点は同じでもベクトルの方向が違っていた。
 いや、あるいは似た出来事を通過しただけで始点は違っていたのかもしれない。
 そうであるならば一度交錯した後は離れていくだけ。
 最初に出逢った時は同志でも、次に逢う時は――敵同士。

 同じ悲劇を経験したんだとしても。
 自分は弱くなるべきだったが――彼は、きっと強くなるべきだった。 

 自分は弱くならず。
 彼は強くなった。
 違いで言えばそれだけだろう。


 ……「自分のような人間が仲間を探そうとしたのが馬鹿だった」と以降はそう思うようになった。
 そもそも最初から理解者なんて要らなかったのかもしれないと。

 そうして同族嫌悪のような自己嫌悪のような、迷惑極まりなくしかしある意味で真っ当な、生き方をぶつける戦いが始まる。

786 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:00:12 ID:0MtJvr2s0
【―― 14 ――】


 『アンリミテッド・アンデッド』はバトルロイヤルにおいてこれ以上ない程に凶悪な能力だった。
 相手を無力化することが勝つ為の前提にある戦いで「死なない(傷付いても治る)」とは苦笑いしか出てこない。
 どんな泥試合になったとしても最後にはクルウこと山科狂華が勝利する。
 それはそういう能力だった。

 一撃貰う毎に一撃与えていれば必ず最後は彼の勝ちだ。
 まさに「負けないから勝てる」という狂戦士らしい強さの形態である。


 思えば、と洛西口零は回想する。
 山科狂華という人間はいつだってそういう風な戦い方をする奴で、その精神は化物じみていると言えた。

 小学生時代、三番を担っていた彼は二十球連続ファウルの末に敵エースを打ち崩し全国大会に出場を決めた。
 中学生時代、剣道の試合の最中に足首を骨折するが続行し延長戦で勝利する。
 そういった逸話ならば事欠かない。
 退かず屈せず、だから最終的には勝つのだ。

 今回も同じだろうと零は予測している。
 実力が肉薄しているとしても最後の最後には狂華が勝つ。
 きっとそうだと。

787 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:01:13 ID:0MtJvr2s0

 だが。
 白髪の青年――ブーンは諦めていなかった。


(  ω)「『恒久の氷結(エターナル・フォース・ブリザード)』」


 世界が止まる。
 ダイアモンドダストが舞う。

 攻撃を捌き、クルウの腕を取った瞬間に能力を発動させた。
 バットを握っていた右手がそのまま凍り付く。
 アニメに出てくる氷に囲まれるような凍結ではない、そのまま――細胞と血液がそのまま凍り付いていく。

 凍傷のように。
 あるいは凍死するように。


川; 々)「まだまだっ!」


 クルウは蹴りを放ちながら身を翻す、が――これまで通りにはいかなかった。
 敵と間合いを離すことには成功したものの、その代償として肘先から右腕が千切れたのだ。

788 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:02:06 ID:0MtJvr2s0

 凍った右腕を掴まれた状態で無理矢理身を捩った為、凍り付き脆くなっていた肘から先が外れた。
 「外れた」と表現するに相応しい有様だった。
 残った腕からは血が滴り出たが、千切れ変色した右腕からは出血は一滴もなかった。
 血液さえ凍る寒さというのはそういうものだった。

 自分の腕が、シャーベットのように変容し身体から離れていく―――。
 人生でも一二を争うほどの嫌な感覚だ。


( ^ω^)「ほら、腕忘れてるお」

川;- 々-)「……これはどうも」


 ぞんざいに投げ渡された紫色の腕を肘に付け能力を発動する。
 厳密には『アンリミテッド・アンデッド』は常時発動型であり能力は発動し続けている為、再生を補助する形だ。

 痛覚さえも凍り付いた傷の治癒には激痛が伴う。
 凍り付き千切れた神経を強引に繋ぎ直しているのだから当たり前だ。
 声が漏れそうになるが、耐えた。


( ^ω^)「死なない能力……確かに強い。強いと思うお」

789 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:03:05 ID:0MtJvr2s0

 ふらつく身体を律し、戦闘態勢を取る。
 考えてみればブーンが追撃を行わず腕を大人しく返したのは自身の体力を回復させる為だったか。
 あるいは治療の過程で精神を摩耗させる目的か。

 どちらにせよ目処が立っていなければできない行動だ。
 攻略の目処が。


( ^ω^)「だけど……世の中には生きながら死ぬことなんて幾らでもある」

川 々)「…………」


 ヒマラヤ山脈などの高山では動物が生きたまま凍ることがままある。
 無論、人間でもある。

 また神話の世界においても。
 例えばダンテの「神曲」では地獄の最下層に氷漬けにされた悪魔が登場する。
 生きているのに死んでいるのだ。

 標本のように生きながら――死んでいる。


( ^ω^)「お前を生きながら死なせてやる。殺すことはできなくとも、動きを止めるくらいはできるだろ」

790 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:04:03 ID:0MtJvr2s0

 対し。
 クルウは変わらず有るだけの殺意を纏い、笑った。
 そうして濁った瞳を敵へと向ける。


川 - 々-)「……は、っはは。悪いけどやっぱりお前はただのガキだ。俺とは違う」

( ^ω^)「なに……?」

川 ゚ 々゚)「家族に目の前で死なれながらその程度とは恐れ入る。所詮、一般人は一般人なのか」


 家族に目の前で死なれながら?
 瞬間、時間が止まり、次いでブーンが叫ぶ。


(;^ω^)「お前っ!何を知ってる!!」

川 ゚ 々゚)「悪いけど何も知らない。知っているのはお前の暗い過去くらいだ」

(; ω)「ッ……!!」


 苦虫を噛み締めるような、煮え湯を飲まされたような。

791 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:05:03 ID:0MtJvr2s0

 怒りと悲しみと憎しみとが交じり合った形容しがたい表情を浮かべた白髪を黒髪は笑う。
 その髪は黒檀の如く黒い。


川 ゚ 々゚)「どうした、怒ったのか。怒ったところで時間が巻き戻るわけでもないのに」

(; ω)「お前に……何が……」

川 - 々-)「お前に何が分かる、かな? ……分かるさ」


 一拍置いて、クルウは言う。


川 ゚ 々゚)「俺にはお前の気持ちが分かる……分かって、いた」


 そうして追憶するように目を数瞬間だけ閉じ。
 何処か悲しげな調子で口を開いた。


川 ゚ 々゚)「お前にも私の気持ちが分かるものだと思っていた。けれど私はお前の気持ちが分からなくなった。だから、」

792 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:06:04 ID:0MtJvr2s0

 ……いや。
 あるいはそれはただの錯覚だったのかもしれない。

 瞳を見た程度で。
 すれ違った程度で。
 一体、一人の人間の何が分かるというのだろう?

 分かりようがないのだ。
 たとえ狂華が目の前の少年と同じく、目の前で家族に死なれていたとしても―――。


川 ゚ 々゚)「……それはそうと、」


 と。
 思わせ振りな呟きの直後、唐突にクルウが言った。


川 ゚ 々゚)「悪いけど、そろそろあの性悪女がゴールする」

(;^ω^)「え……は!?」


 思い出したかのような口調だったが絶対にわざとだった。

793 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:07:03 ID:0MtJvr2s0

 ブーンは視線を移動させる。
 無論、自分が先程殴った女の元へとだ。
 だがそこに零はいない。

 やられたと思い荒れ果てた広間の扉を見るが、そこにも零はいない。
 恐らくもう部屋から出て行ってしまったのだろう。

 長々とした台詞も。
 訳の分からない行動も。
 最初から全て、動作の一つ一つに至るまでがこの為の布石だった。
 零を休ませ、敵の意識を逸らし、その内にゴールさせる為の。

 クルウを相手にした時点で、その時既にブーンは術中に嵌っていたのだ。


(; ω)「お前っ、いつから……」

川 ゚ 々゚)「―――ふもーふっ!」


 再度、フルスイング。
 振り返った彼の額を砕くような速さで再び金属バットが振るわれた。
 虚を突かれた形となったブーンはそれを食らってしまう。
 直撃だけはなんとか避けたが頭蓋が割れる音が頭全体に響いた。

794 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:08:04 ID:0MtJvr2s0

(; ω)「がっ……!!」


 頭が揺れる。
 額から血が飛び散る。
 一度距離を取ろうにも足元がふらついて視界がブレる。

 五感の中で唯一まともに機能していた聴覚はクルウの言葉を聞いていた。
 小馬鹿にするような一言を。


川 - 々-)「悪いけど、これだから一般人はいけない。優先順位が定まっていないから土壇場で困る」

(; ω)「く、そ……お前……っ!」

川 ゚ 々゚)「ゴールするのが目的なら私を相手にするべきじゃなかったし、私を倒すのが目的ならば視線を外すべきじゃなかった」


 それに比べ、零とクルウの目的ははっきりしていた。
 洛西口零の目的はこの迷路をさっさとクリアしてしまうことであり。
 クルウこと山科狂華の目的は目当ての敵(ブーン)を殺すことでしかなかった。

 ブーンはどちらかに絞るべきだった。
 優先順位を明確にしておくべきだった。

795 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:09:03 ID:0MtJvr2s0

 クルウは言う。


川 ゚ 々゚)「お前が前に家族を失くした時もそうだったんだろう。悩んでいる内に全てが手をすり抜けて行き、何も残らなかった」


 そして拳を握り締め、またしばらく瞳を閉じ。
 自らの過去を想起しながら続けた。


川 - 々-)「俺は迷わなかった。あの時は家族を犠牲にして助かったし、そのことに関して後悔はしていない」


 加えて言えば。
 きっと。
 今あの時と同じ状況になったとしても自分は家族を見捨てて生き残る決意がある。

 山科狂華はそういう人間。
 それは山科ではない狂華の頃から変わらない。

 人の命を喰って生きてきた。
 ずっと昔からそうだ。
 これからも変わらないことだろう。

796 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:10:03 ID:0MtJvr2s0

 休憩を終えたクルウはバットを構え直す。
 ブーンは体勢を整えたところで、戦える状況ではなかった。
 だがそんなことは関係ない。


川 ゚ 々゚)「さて、悪いけど彼女がゴールするまで余裕もないし今から本気に殺しにかかる」

(;# ω)「くそっ、この……ッ!」

川 ゚ 々゚)「おっと」


 鮮血に染まった白髪が突撃してくるのを軽くいなし、今度は後頭部に向けてバットを振るった。
 回避どころか受け身も取れず倒れ伏した一般人を踏みつけ、クルウは告げる。


川 - 々-)「……お前を見ているとイライラする。私の心の平安の為に、悪いけどいっぺん死んで欲しい」


 安心しろ、記憶を司る部位から潰してやるから、なんて。
 何をどう安心すれば良いのか分からない言葉と共に彼女は赤いバットを振るう。
 人間の脳の欠片は踏むとプチプチという音がするんだったか。
 そんなことを考えながら、狂華は表情を変えないままに金属バットを振り下ろしたのだった。

797 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:11:06 ID:0MtJvr2s0
【―― 15 ――】


 洛西口零は歩いていた。
 最早「這っていた」の方が幾らか正しいのかと思われるようなゆったりとした足取りで。

 彼女の強さとは戦わない強さだ。
 戦う機会を徹底的に排し、裏での暗躍に徹することでこそ得られるアドバンテージ。
 情報を使うことで常に自分に有利な状況を作り出す。
 殴られることなど現実ではほとんどない為に身体はひ弱で、常人ならば耐えられる一撃も彼女にとっては重傷なのだ。

 それでも、あんなに長く時間を稼いで貰えば、流石に多少は回復する。
 あくまで多少だが(だから歩いている)。


リハ;-ー-リ「あー……痛いぞ、これは。会長殿はいつもこんなことをしているのか。マゾとしか言いようがない」


 呟きつつ思う。
 あの戦いを放置し抜け出してきて良かったのだろうかと。
 漁夫の利というか、本当にクルウ任せにした形なので少しは心が痛む。
 いや心は痛まないが、心配になる。

 今頃凍り付いてるんじゃないだろうか。
 そんなことを思ったりもする。

798 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:12:09 ID:0MtJvr2s0

 けれどよくよく思い返してみれば合図のようなものがあった気もするのだ。
 クルウの取った無駄な言動の数々の中に、サインが。

 インドア派の零は野球をやるどころか見ることさえほとんどない。
 だが基本的な内容くらいは把握している。
 そう、例えば帽子を直す仕草などで指示を出すことくらいは。

 山科狂華という人間は無茶苦茶に見えて存外よく考えている人間だ。
 戦闘の一挙手一投足の中に走塁のサインを隠すことなども容易くできるだろう。
 「ここは俺に任せて先に行け」というやつだ。


リハ*-ー-リ「……まあ、全ては想像だが」


 そんな気がしたというだけだ。
 本当に野球のサインを使ってメッセージを出していたとしても残念ながら零には分からない。
 そこまで詳しくはない。

 だからこれは彼女の想像に過ぎない。
 後で「俺の勇姿見ててって言ったじゃないですか!俺が誰の為に戦っていたと!!」とマジ切れされることも考えられる。

 それも狂華が今日を生き残ったらの話だ。
 明日になる前に脱落してしまえば、彼の記憶は全て消えるのだから。

799 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:13:05 ID:0MtJvr2s0

 ゴールは目の前だった。
 長い廊下の先は行き止まりで、腰ほどの高さの台座があるだけだ。
 押しボタンのようなものが乗っているのが見える。
 つまりあのボタンを押した奴が優勝者なのだろうと零は当たりを付け、歩みを進める。
 
 そろそろゴールしても良いだろうか。
 狂華はケリを付けただろうか。
 そんなことを考えながら彼女は一歩踏み出す。 

 だが。


リハ*゚ー゚リ「ん……?」


 自分のすぐ前方の空間が揺らいでいることに気が付いた。
 蜃気楼のような、いや、それよりも水にアルコールが混ざった感じによく似ている。
 二メートルない程度の縦に伸びた楕円状の揺らぎ。

 ゆっくりと、しかし段々と遠ざかって行く違和感の塊。
 その不自然な縦長の揺らめきに一度は眉を顰めたものの零はすぐさま走り出した。

 それが何か気付いたからだ。

800 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:14:02 ID:0MtJvr2s0

 空間自体が揺らぐことなど考えられない。
 蜃気楼にせよ何にせよ、そういった揺らめきは光の屈折が原因で引き起こされる。
 つい数分前に屈折率のことを思い出したばかりだったのが良かった。

 つまり、零の前方の空間は「光が不自然に屈折している」。
 だから揺らいでいるように見える。
 範囲は縦長の楕円状で高さは二メートルない程度。

 それはちょうど人の大きさではないだろうか?
 蜃気楼のように見えるのはSFなどに登場する光学迷彩と同じ理屈で光を偏向させている為ではないだろうか?
 現実の科学技術では難しくとも、この『空想空間』の超能力ならば可能なのではないだろうか?
 ゆっくりと移動しているのは足音を消しているからではないだろうか?

 というか――目の前にいるのは、人間ではないだろうか?


リハ;゚ -゚リ「ここまで来てか!!これだから肉体労働はっ!」

(;`ハ´)「何故バレたし!?」


 零が叫ぶと揺らめきが消え中から男が現れる。
 辮髪のような三つ編みの男は自分を追い抜かそうとした零を背後から蹴り飛ばすと、倒れた彼女を飛び越え走っていく。

801 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:15:03 ID:0MtJvr2s0

リハ; -リ「ぐ、く……」


 地面に倒れ伏しながら前方を見ると、三つ編みの学生服が一目散に台座へと駆けていくところだった。
 現実から拳銃でも持ち込んでおけば良かったと零は本気で後悔をした。

 卑怯者と罵るつもりはない。
 自分も大概に卑怯者だという自覚があるからだ。
 今日は狡知さにおいて二度も負けてしまった。
 これが現実世界の出来事でなかっただけ、幸運だったと思うことにしよう。

 最後にそんな感想だけを残し、洛西口零は目を閉じる。 



 ……三つ編みの男は躊躇いなく台座のボタンを押した。
 申し訳程度の小さなファンファーレと共に『エクストラステージ』が終わる。

 彼の行動は白髪の頭がバットで砕かれることを防ぎ、不機嫌な天使に虐殺されるところだった数人を救ったのだが。
 それは彼の与り知らぬ出来事であり、興味もないことだった。

 こうして迷路障害物競争は終わりを告げた。
 優勝者は決した。
 結果だけ見れば恙なく、ナビゲーター側の当初の目的通りに頭の回転の速い人間が勝利したのだった。

802 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:16:03 ID:0MtJvr2s0
【―― 16 ――】


 狂華がまだ山科でなかった頃。
 彼が旧姓であった最後の日は始まった時点ではなんの変哲もない日曜日だった。

 日常の崩壊を告げたのは門から聞こえてきた叫び声。
 当時狂華と彼の家族は親戚の家を訪れており、そこは旧い日本家屋で玄関まではかなり距離があったのだが、そんなことは関係がなかった。
 断末魔の悲鳴は家中に響き渡った。
 人間が死ぬ時はあんなに大きな声が出せるのだと彼はその時初めて知った。

 完全なる無差別攻撃。
 理由も分からぬ殺戮。
 まるで戦争映画みたいだと狂華は思った。

 復讐したり、報復されたり。
 そういう世界があることは知っていた。
 他ならぬ自分がそういう世界に関係した生まれであることもだ。
 それほどまでに彼の氏は有名だった。
 悪名高かった。

 あるいは。
 戦時の英雄として誉れ高かった。

803 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:17:04 ID:0MtJvr2s0

 一番奥の部屋に連れてこられた彼は押入れの中に入れられた。
 父は言った。

 「全部終わるまでここで待っていなさい」。
 「何が起こっても終わるまで声を出してはいけないよ」。
 「大丈夫、すぐ終わるから」。

 今から思うと「すぐ終わる」というのは助かるという意味ではなく、間もなく全滅するからということだったのだろう。
 家族が逃げなかったのは逃げられなかったのか、逃げてはいけないと思っていたのか。
 そちらの方は今となってはよく分からない。
 今になっても分かることはない。


 親の言うことをよく守る子供だった狂華は押入れの中でじっとしていた。

 何かが爆ぜる音も、発砲音も、悲鳴も勝鬨も。
 目を瞑り、耳を塞ぎ、聞こえないフリをしていた。

 彼は聡明な子供だった。
 泣き叫ぶことも飛び出ることもせず、ただ事態を受け止め最善を尽くすことができる。 
 それは幸福なのか、不幸なのか。

 だから狂華は自分には何もできないと分かっていて。
 何もかもが終わっても自分の日常は戻って来ないことも分かっていた。

804 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:18:03 ID:0MtJvr2s0

 押入れの扉が開けられたのは夜も更けた頃、夜半過ぎのことだった。

 次に戸が空く時は死ぬ時だと覚悟していた彼の予想を裏切り、そこに立っていた小柄な女性は手を伸ばしてきた。
 鞘だけの日本刀を携えた中学生にも見えるその幼い容姿の少女は「助けに来ました」と端的に自分の行動の意味を告げた。
 狂華は訊いた。


「……お父さんは?」

「死にました」

「じゃあ、お母さんは?」

「死にました」

「他の人は……」

「あなたの知ってる人は全員死にました。敵は私が殺しました」


 それは、あまりにも思いやりのない言葉だった。
 真実だとしても年端も行かない子供に伝えるには残酷過ぎる事実。
 オブラートに包むことなく少女は伝えた。
 「大丈夫です、生きています」と優しい嘘を言い下手に希望を持たせるよりは幾らか誠実だと考えたからだった。

805 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:19:02 ID:0MtJvr2s0

 例えばその言葉に狂華が絶望し、家族の後を追い命を絶ったとしても、それはそれで正しいことだと。
 そんな風に助けに来た少女は思っていたのだ。


「……あなたの家族の仇は私が殺しました。けれど、そもそも私達の巻き添えであなたの家族は襲われた。だから私を恨んでも良いです」


 少女は朴訥とした雰囲気で謝罪のような言葉を淡々と告げる。

 だが、彼女の言葉も狂華の耳には届かない。
 何もできず、何もしなかった彼に家族を失くしたという実感はない。
 実感どころか――何も、ない。

 何もないのだ。
 家族も自分も何もかもが。



「…………僕は一人になった?」



 漏れたのはそんな言葉。
 誰に問うわけでもない一言。

806 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:20:02 ID:0MtJvr2s0

「そうです。あなたは一人になりました」


 一晩で何もかもを失くした狂華の呟きに少女は応えた。
 また淡々と、朴訥に。



「……だから一人だけ生き残ったあなたは、生かされた意味を考えて生きないといけないね」



 それは今し方家族を全員失くした子供に言うには不適切な言葉だったかもしれないが、不思議と狂華は、何か納得することができた。
 家族が死んだ――けれど自分は生き残った。
 その意味、その意図が分かったような気がしたのだ。

 きっと父親は自分に生きて欲しかった。
 自分も生きたかったけれど、それ以上に息子である自分に生き延びて欲しかった。
 他の家族もそうだった。
 自分だけが仲間外れで自分だけが生かされた。

 「一人だけ生き残ったあなたは生かされた意味を考えて生きないといけない」。
 ……その時の少女の口調は今までよりも少しだけ、柔らかだったことを覚えている。

807 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:21:03 ID:0MtJvr2s0
【―― 17 ――】


 淳高の中には「保健室」と呼べる施設が三つ存在する。
 一つ目が一般保健室、二つ目が健康管理室、三つ目が一般保健室に隣接する保健予備室である。
 普段の治療には主に一般保健室が使用されており、健康管理室はその予備、そして保健予備室は食中毒などの大規模な事件を想定してのスペース。 
 日常生活においてほとんどの学生は第一保健室(一般保健室)以外のお世話になることはない。

 そういった事情もあって、特別進学科十三組に所属し保健室登校児でもある洛西口零は第三保健室(保健予備室)を根城にしていた。
 つまり特待生の特権として彼女に与えられた空間が第三保健室なのである。

 最低限の日数しか学校には来ない零だが、登校したとしても教室には行かずに保健室で授業と試験を受ける。
 また授業と言っても、監督の教員と雑談しつつ課題をこなすだけ。
 それで進級できているのは彼女が優秀だからだ。
 そもそも彼女は講義を必要としないほど聡明で勤勉なので特に問題はない。


「……いやはや、昨日今日と多くの人と話し過ぎた気がするね。話すのは嫌いではないが」


 土曜日の昼過ぎだった。
 零は生徒会室での会合を終え、自分のスペースである第三保健室に戻ってきていた。
 学校は好きではなかったが保健室は好きだった。
 昼食の為だけに部屋に戻ってくるくらいには。

808 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:22:04 ID:0MtJvr2s0

 一般保健室の扉を開け、土曜日も常駐の保険医に挨拶すると奥の保健予備室へと向かう。
 その途中で座っていた保険医に呼び止められた。

 なんでも「生徒を一人通しておいた」らしい。
 零を訪ねてくる生徒は数人しかおらず、そのほとんどは彼女の数少ない友人なので問題ないと判断したのだろう。
 もしかすると保険医と顔見知りだったのかもしれない。
 対応が母親のようだった。

 友人を待たせるのも悪いのでさっさと先へと進む。
 保健予備室には予備のベッドが多くあるが、彼女の指定席は一番奥のそれだ。


「どうも、零先輩。すみません」

「……やはり貴兄だったか。鞍馬兼か貴兄のどちらかだと思っていたが」

「奴は休学中ですからね、必然的に俺になります」


 予想した通りにベッド脇のパイプ椅子に座っていたのは一年文系進学科十一組の山科狂華だった。
 手持ち無沙汰に携帯をいじっていた彼は零の姿を見ると操作を終え、会釈をする。


「会長殿から本は返してもらったのかな?」

809 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:23:03 ID:0MtJvr2s0

 零の問いに「そんなことも言いましたかね」と前置いて、狂華は言う。
 相も変わらず現実の彼は視線を合わせようとしない。
 ネットでは別人格と近いものだろうかと零は推測した。


「今はないので近い内に家に届けてくれるらしいです」

「そうかい。ところで、貴兄は誰と住んでいるんだい? 家族はいないのだろう?」

「すみません、調べれば分かることを訊かないで欲しいですね。情報の検索はお得意なんじゃないですか?」


 皮肉のような言葉に零は笑って応じる。


「いやいや本人から聞く意味もあるともさ。特に状況や過去に関してはね。相手がどう解釈しているのかを知ることができる」

「客観的な事実ではなく主観的な認識を把握する為ですか」

「そういうことだ。私は貴兄が何者なのかを知っているが、貴兄が自身を何者と思っているかは知らない」


 情報を扱うのに長けた零らしい言い分だった。
 客観よりも主観が重要な局面があることを知っている人間の理屈だ。

810 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:24:04 ID:0MtJvr2s0

 言葉に納得したのだろう。
 やや面倒そうながらも、狂華はぽつぽつと話し出す。


「一応今は一人暮らしですが、すみません、少し前までは山科という遠い親戚の家で暮らしていましたね。今の家は駅の近くですが、前は商店街で」

「裁縫屋を営む老夫婦の家だったかな?」

「そうですね。子供がいない家だったんでほとんど他人である俺も良くして貰いました」

「どうせ一人暮らしをするなら生まれ故郷に戻ろうとは思わなかったのかい?」

「思わなかったですよ。俺の実家には墓と慰霊碑があるだけですからね。すみません、戻る意味がない」


 まるで過去の経験が堪えていないかのような口振り。
 ただ怠惰なだけの。

 肉親が死ねば多感な子供は多少ならず影響を受けるはずだが、どうやら狂華は例外らしい。
 あるいは影響を受けた結果として現在があるのか。
 その心の複雑な部分を零は上手く理解することができない。

 確かに自分も家族を失くしたが。
 彼の場合とは状況が違い過ぎる。

811 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:25:03 ID:0MtJvr2s0

 ところで、と狂華が言った。


「すみません先輩の意見を伺いたいんですが、『不幸な人間は強い』という理屈をどう思いますか?」

「素敵な理想論だと思うね。悲劇が成長を促進することはあるとしても、それは一例だ。ノットイコールだし必要十分条件とは言えないね」

「ですよね」


 友人にでも言われたのかな?と零が訊ねると「ええ、まあ」と曖昧な返事をする狂華。
 どうやらその誰かは友人とは言えない相手らしい。


「俺なんかは、逆に不幸であることが逃げ道になると思いますね。俺だけかもしれないですが」


 何かあった際に「◯◯だから仕方ない」と考えてしまうと狂華は思うのだ。
 親がいないから非行に走っても仕方がないとか、そういう尤もらしい理論を頭の中で作り上げてしまうと。

 いや、あるいはそれは尤もなことなのかもしれない。
 だがそんな理屈を考える時点でその人間が大成することはほぼないと言って良い。
 現代社会は実力主義だ。
 そんな言い訳に塗れた人間が勝ち残れるほど甘くはない。

812 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:26:04 ID:0MtJvr2s0

 「仮にそんな理屈が成立するとしたら普通の人が可哀想ですよ」なんて。
 次いで狂華は呟き笑った。

 プロ野球選手になる為に必要なことは生き別れの兄がライバルだとか、父が無駄に厳しいとか、そういうことではなく。
 野球の実力があるということと……強いて挙げるならそれに加えて野球が好きであること。
 逆境でも続けられるくらいに好きであること。  
 自分にはプロになれるほどの実力はないけれど少なくとも山科狂華はそう思っている。


「……それに俺もそこそこ暗い過去を持ってますが、俺は弱くなるべきでしたし」


 意味も分からず家族が全員殺されて。
 自分だけが生き残って。


「弱くなるべきだった?」

「はい。まあ、そうですね。あるいは『普通になるべきだった』と」


 高天ヶ原檸檬が一人で生徒会足り得るのはその絶大な強度があってこそだが、それは敵が多いことでもある。
 『空想空間』では彼女を標的にした関ヶ原という人間がいたことからも明らかだろう。
 強ければ安全というわけではなく、強いだけ危険も増える。

813 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:27:04 ID:0MtJvr2s0

 狂華の家族が殺されたのは強かったからだと彼は考えていた。
 他者から恐れられる血と氏だったからこそ敵が増え、殺されたのだ。


「だから弱くなるべきだと――貴兄の父親はそう思っていたと言うのかい?」

「すみません、分からないですけど、遠野志貴の父と同じ感じだったじゃないですかね」

「型月ファンにしか分からない例を出すな」

「……なんにせよ親の気持ちは子供には一生分かりませんよ。できるのは想像するだけです。俺なんかは特に」


 だから狂華は想像する。
 父の心情を。
 曰く付きの一族の人間が抱いた愛情を。


「自分の息子だけは生き延びて欲しかった。自分達のようにはならず普通に学校に通って、友達と遊んで、恋をして結婚をして……」


 普通の幸せを掴んで欲しかった。
 仲間外れの狂華が生かされた意味はそれに尽きるのだろう。

814 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:28:03 ID:0MtJvr2s0

 だから狂華はきっと弱くなるべきだった。
 自分がどんな生まれなのかを忘れ、力を強めることなく、普通に生きるべきだった。
 父親はそう願った。

 けれど。


「……けどやっぱ駄目ですね。折角生かされたんだから楽しく生きようと考えると平々凡々になんかやってられないです」


 自分達の分までも長く生きて欲しいと願われた狂華。
 だが人の命の軽さを知る彼は、単純に長く生きることよりも瞬間を楽しみ生きることを大事にしたくなった。

 明日死ぬかもしれない自分は今日この一瞬を楽しく生きようと。
 もしもの時があれば、父親のように大切な誰かの為に命を捨てられるような人になりたいから。 
 過去に囚われることなく前を向いて。

 決して後悔しないように、一瞬一瞬を大切に生きていこうと―――。


「Carpe diem quam minimum credula postero.……かな」

「すみません、聞き取れませんでした」

815 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:29:08 ID:0MtJvr2s0

 ラテン語だから分からないのも無理はない、と零は断って続けた。


「訳すならば『明日のことはできるだけ信用せず、その日その日の花を摘め』となる。エピクロス学派に通ずる考え方だね」


 幸福主義のように快楽をただ求めるだけではなく。
 宗教世界での節制や謙遜を推奨するものでもなく。

 人間は皆いつか死ぬのだと言うのならば、その死が訪れるまでの時間を楽しみ懸命に生きるべきである。
 在るかも分からない短い未来に希望を抱くよりもこの瞬間を有効に使うべきだ。
 『その日を摘め』とはそんな意味を含んだ警句である。


「すみません、聞いたことがあります。つまり『命短し恋せよ乙女』みたいなもんですか」

「随分と渋いことを言うねえ、そんな感じだ。数少ない機会を逃さず、絶望することなく生き、心の平穏を大事とする……。神を信じない人間には良い人生観だ」

「そうかもしれませんね。『その日を摘め』……良い言葉です。俺の名前とも関連してるのが更に良い」


 会話を進めながら洛西口零は狂華の心情をなんとなくだが理解できた気がした。
 彼が白髪の青年を、自分と似た境遇の相手を「腹が立つ」「殺したい」と思った理由をだ。

816 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:30:04 ID:0MtJvr2s0

 きっと狂華はこう感じたのだ。
 「折角生き残ったのだから今を生きないと死んだ人間に失礼だろう」と。

 後悔したところで時間が巻き戻るわけではない。
 絶望するだけ無駄だ。
 ならば、今を生きている自分達は、今を生きなければ申し訳が立たないのではないか。
 生き延びたのに少しも楽しそうではない彼に腹を立てた。 

 だから、本当は狂華は―――。


「君は……、」

「なんですか零先輩。お礼ならば歓迎しますよ」

「…………いや、なんでもない」


 答えは自分で気が付くべきことだ。
 そんな風に考え、零は言いかけた口を噤む。

 それを不審そうに見ていた狂華だったが、やがて追及しても無駄だと悟ったらしく話を戻した。

817 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:31:07 ID:0MtJvr2s0

「結局昨日はゴールできたんですか? 俺が頑張って助けたんですから。いやその前に、すみません、俺があの女の子だと気付いてますよね?」

「無論、わかっているさ。ちなみに結論だけ言うと優勝はできなかった。だが感謝はしているとも」

「すみません、頑張り損です。命懸けの戦いが台無しだ。空気読んで下さい」

「あーいやーそれよりもだ!」


 話を逸らす為に咳払いをする零。
 話題の転換、煙に巻く手法としては雑だったが、彼女も焦っているのだろう。
 あるいは悪いと思っていたのかもしれない。


「あの少女が貴兄だと言うのならば一つ訊きたいことがある」

「なんですか」

「どうして女になっていたんだい? トランスジェンダーという記録はなかったはずだが……」


 『空想空間』での山科狂華は彼の面影を残す黒髪の少女だった。 
 あまりにも現実の面影が残り過ぎている、身分を隠すだけならば他にもっと良い方法があったはずだ。

818 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:32:03 ID:0MtJvr2s0

「単純に女の子になって変な格好してればバレにくいだろうと考えたのも一つですね。にしては、俺に似過ぎてますが」

「まあ近しい相手でなければ分からない程度の近似だったがね」

「二つ目には……そうですね、確認です」


 ある説では、男性の三千人から三万人に一人くらいの割合で無自覚のトランスジェンダーがいるらしい。
 染色体的には半分は女性なのでそれについて不思議に思うことはなかったが、代わりに自分がそうなのではないかと疑問には思った。
 昔から女友達の方が多かったのだ。
 だから良い機会だと、試しに女になってみた。


「で、結果はどうだったんだい? 女の身体を堪能して」

「すみません言い方がやらしいです。まあでも動きにくいですが結構楽しかったですし、一つ分かったこともあります」

「分かったこと?」

「はい」


 そう言うと狂華はパイプ椅子から立ち上がり、目の前に座っていた零の髪を左手で触った。
 頬に触れるかのように髪を触られ驚き、次いで彼女は怪訝そうな顔をして、その手を振り払おうとする。

819 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:33:35 ID:0MtJvr2s0

 が、その瞬間に。
 左手で零を容易くベッドに押し倒すと。
 狂華は空いていた右手で更に驚愕する彼女の胸を触った。

 いや触ったというか、揉んだ。
 制服の上からもはっきりと分かる大きな胸部を弄ぶように一撫でして、ふに、ふにゅと。


「んっ……あ、っ……!」


 癖が人間の背後に立つことの狂華だからこそ可能な、凄い技能を凄く無駄に使ったセクハラに思わず零は素で声を漏らしてしまう。
 そして直後に赤面して叫んだ。


「な、なにすんじゃーっ!!!」

「すみません、やっぱり自分の胸を揉んでも面白くないですね。揉むなら人の胸が良いです」

「そんな理由でわ、私の……っ!!」


 女の子になっても他人の胸を揉むなら別に男のままで良い、ということが分かったらしい。
 「女なら他の女子の胸をおふざけで触れる!」と考えない辺りが狂華が結構モテるということを物語っている。

820 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:35:06 ID:0MtJvr2s0

 真っ赤になり抗議する零に対し狂華はあくまに冷静なままで言う。


「すみません。そんなに怒らないで下さい」

「誠意が感じられないっ!!」

「ああ間違えました、すみません。ありがとうございました。気持ち良かったです」

「そういうことでもない!何が気持ち良かったよ怒るよ!!」

「すみません、もう怒ってるじゃないですか。キャラ付け忘れるくらいに」


 ハッとし更に赤くなる零。
 だが狂華は至って普通に続けた。


「やっぱり零先輩のオパーイは凄いですね。弓道部の氷柱さんも良いですけど、先輩はそれより大きいし、また違う良さがあります」

「ふ・ざ・け・る・なーっ!!」

「すみません間違えました。違う柔らかさがあります」

821 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:36:04 ID:0MtJvr2s0

 そういうことではなかった。
 もう恥ずかしさで涙目になっている少女も構わず狂華は追撃を緩めない。
 ブーンと戦った時と同じ鬼畜モードだ。


「人の胸だと、気持ち良さにプラスして相手の反応も楽しめるので尚良いですね。特に先輩の反応はとても可愛かったです。ひょっとして処女ですか?」

「かわ……っ! く、訴えてやる! 絶対に訴えてやるからな!!」

「そう言わないで下さい。零先輩が兼に振られた時には俺が慰めますから」

「意味不明だし!もうっお前なんかに誰が感謝するか!! このっ、なんでお前みたいなのがモテるんだ!ただの変態の厨二病のくせに!!」


 ……今この瞬間を生きるということは、目の前にいる誰かと笑ったり楽しんだりするということ。
 いつか別れが来ても後悔しないように一生懸命生きるということ。

 それを意識したのかしてないのか分からないが、洛西口零と山科狂華は二人で、保険医に怒られるまでずっと騒いでいたのだった。






【―――Extra-episode END. 】

822 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:37:02 ID:0MtJvr2s0
【―― 0 ――】



 《 help 》

 @[SVO](人が)(人を)手伝う、手助けする

 A[SVOM](人が)(人を)助けて…へと移動させる〔※Mは方向を示す副詞〕
 
 B[SVO](物事が)(別の物事を)促進する

 C[cannot help doingで](感情的に)そうせずにはいられない(≒cannot but do)、…だということは仕方がない〔※「…することは避けられない」から派生〕

 ――名・不
 D(…することの)助力、救済

 E[否定文または否定的な意味合いの文で]救済法、逃げ道





.

823 名前:断章投下中。:2012/09/17(月) 01:38:05 ID:0MtJvr2s0


 というわけで山科狂華の番外編はこれにて終了です。
 イメージソングは「パンダヒーロー」。
 サバイバーズ・ギルトのない彼はその反動か必要以上に前向きで書いていて楽しかったです。
 これでとりあえず迷路障害物競争は終わりとなります。

 なんか色々難しい話とかも出てきましたが、もうすぐ全行程の三分の一くらいが終わるのでお付き合い頂けると。
 ……え、まだ三分の一も行ってないの?



 今回はブーンが弱そうに見えましたがあれは相手が狂華だから。
 他の参加者なら大抵の相手に勝ちます。
 関ヶ原と同じく再登場時の活躍に期待して下さい。


 それでは、それでは。

826 名前:おまけ・『汎神論(ユビキタス)』のレポート。その十。:2012/09/18(火) 00:04:18 ID:XQiCTEds0
川 ゚ 々゚)「山科狂華」

【基本データ】
・年齢:十五歳
・職業:高校生(淳機関付属VIP州西部淳中高一貫教育校高等部一年十一組所属、後に十三組へ)
・能力:『アンリミテッド・アンデッド』→「常時発動型の自己再生能力。詳細不明」
・能力体結晶の形状:不明
・総合評価:B

【概要】
 第六話より登場。鞍馬兼と同じクラスに所属する生徒。
 斜に構えた態度と滅多に人と合わせないドロドロに濁った瞳が特徴的な黒髪の青年。
 口癖は「すみません」だが悪びれた様子は全くない。
 二つ名は『厨二病(バーサーカー)』『レフト・フィールド』。

【その他】
 名前の由来は京都市山科駅+狂った華。「狂い咲く花」ではなく「時期外れに咲いた花」の意。
 珍しく彼の名前は苗字と名前のイニシャルが同じにならないが、旧姓だと「狂華」と同じKになる。
 曰く付きの一族の生まれで、隙を突き人の背後に立つ癖(能力)がある。
 特攻武術を使い、自らを顧みない自爆宛らな戦い方をする。
 『空想空間』においては黒壇のような黒髪を持つ草野球姿の少女。こちらでの口癖は「悪いけど」。
 嫌われ者なのに交友関係は広く鞍馬兼と同じクラスで、洛西口零の友人で、幽屋氷柱と同じ弓道部で、高天ヶ原檸檬とは本の貸し借りをする仲。

【備考】
 能力の元ネタは様々な作品に登場する不死系能力。
 そして狂華の能力は常時発動型だがある制約と致命的な欠点がある。

828 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2012/09/19(水) 02:55:55 ID:rCoP8tkk0

|゚ノ*^∀^)「あとがたり〜」

|゚ノ ^∀^)「『あとがたり』とは小説などにある後書きのように、投下が終了したエピソードに関して登場キャラがアレコレ語ってみようじゃないかというものです」

j l| ゚ -゚ノ|「要するに後書きの語り版であとがたりだ。今日から始まったオマケだな」


|゚ノ;^∀^)「…………アレ、でも今回僕、出てないよね?」

j l| ゚ -゚ノ|「私も出ていない」




―――『あとがたり・断章篇』







829 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2012/09/19(水) 02:57:05 ID:rCoP8tkk0

川 - 々-)「改めましてクルウこと山科狂華です」

リハ*^ー^リ「やあやあ諸君、数日振りだね。清水愛こと洛西口零だぜ」


川 ゚ 々゚)「悪いけど、今回は私の話だったから生徒会メンバーの出番はないよ」

リハ*-ー-リ「貴兄が主役の話は最初で最後だったのだから許してくれるだろう。次回からは天使と悪魔の二人がオマケの担当だ」

川 ゚ 々゚)「いやでも勝ち残りはしなくても脱落時には話の主役になるだろうね」

リハ*゚ー゚リ「どうだろうねえ。私や貴兄みたいなキャラは強キャラの噛ませになって『いつの間にか死んでました』的な展開も予想できるから難しい」

川 - 々-)「悪いけど私は中々負けないと思う……。能力的に」



リハ*゚ー゚リ「それはそうと『空想空間』での貴兄の口調は最後まで安定しなかったね。時折素の一人称である俺も出ていたよ」

川 ゚ 々゚)「アレは最後の方で少し触れられたトランスジェンダーについても関係してる」

リハ*゚ー゚リ「ほう?」

830 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2012/09/19(水) 02:58:04 ID:rCoP8tkk0

川 - 々-)「『空想空間』では願望や憧憬が元になり見た目が形作られるわけですから、言わば自己が不安定で思い込みが激しいほど姿が大きく変わる」

川 ゚ 々゚)「口調についても同じで、常に『本当の私はこうじゃないのに』と思っているような人は普段出せない部分を前面に出せば良いだけです」

川 ゚ 々゚)「すみません、俺は悪い意味で裏表がないですから、意識しないと何処でもいつもと同じ風に話してしまうんですよね」

リハ*-ー-リ「だからわざわざクルウ用のキャラを作る必要があり、けれど猫被ったことなんてほとんどないから上手くできないのだね」

川 - 々-)「作中で一人称が俺になっている時は『今は女の姿だからそれっぽく話さないと』ということを忘れてしまっている、つまり余裕がない状態の時なんですよね」


川 ゚ 々゚)「――簡単に言うと不意に胸触られて喘ぎ声出しちゃった後の零先輩と同じです」

リハ#//-/リ「その話は止めろと何度言ったら分かる!!」

川 ゚ 々゚)「すみません。……で、アレも『今は洛西口零モードだ』っていうことを忘れるくらいにテンパってたんですよね?」

川 - 々-)「素の先輩は男勝りっぽい口調なんですね。可愛かったです」

リハ;//-/リ「勘弁してくれよ、もぉ……」

831 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2012/09/19(水) 02:59:04 ID:rCoP8tkk0

川 - 々-)「……しかしすみません、俺はやっぱり普段通りの喋り方が一番楽です。次のログインからは普通に話そうかな」

リハ*-ー-リ「傍から見てる分には完全な俺っ娘キャラだね」



リハ*゚ー゚リ「ところで後半では貴兄の過去回想も入ったが、何年くらい前の出来事なんだい?」

川 ゚ 々゚)「今俺は十五ですが、五年以上は前ですね。すみませんそれ以上は秘密です。知りたければ調べてみて下さい」

川 ゚ 々゚)「ただ俺が自称ブーンさんと出会ったのは精神科の廊下なんで、向こうの過去がいつの出来事か判明すれば予測は立てられるでしょうね」

リハ*-ー-リ「どちらもPTSDの治療をしていたのかな? まあ良いが」


川 ゚ 々゚)「家族の話に関連してですが、すみません、零先輩と三人の兄はどういう関係なんですかね」

リハ*゚ー゚リ「一人目が血の繋がった兄、二人目が姉の婚約者、三人目は親の再婚相手の息子だよ」

リハ*-ー-リ「地の文で出てくるハッカーの奴は三人目の兄になる。ハッカーとしては優秀だったが実にイマイチな顔面の男だった」

川 - 々-)「会って見たいですね、先輩の兄」

リハ*^ー^リ「素直に信じないでくれよ。嘘も交えているんだから」

832 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2012/09/19(水) 03:00:04 ID:rCoP8tkk0

川 ゚ 々゚)「余談になりますけど、俺は他作品に登場するあるキャラの遠縁になります」

リハ*゚ー゚リ「物事の捉え方や……あと見た目は良く似ているね。ちなみに私の兄も他作品に登場しているよ」



川 - 々-)「すみません戦闘の際のことですが、零先輩は俺の能力の攻略法気付いてますか?」

リハ*-ー-リ「無論で勿論だとも。貴兄の能力は攻撃用でないが故に拘束されることには酷く弱い。関節技を極めるのではなく、ロープで縛れば良いだけだ」

川 ゚ 々゚)「お見事ですね。けれどそれに加えてもう一つ欠点があります」

リハ*゚ -゚リ「なに?」

川 ゚ 々゚)「ヒントは戦闘時の描写ですかね。不死は不死ですけど別に時間が巻き戻ってるわけじゃないんですよ、アレは」


川 ゚ 々゚)「まあ、それが明らかになる日が来るとすれば高確率で俺が脱落するエピソードですけどね」

リハ*^ー^リ「どうだい、今の内に死亡フラグでも立てておくかい?」

川 - 々-)「すみません。今日も『ここは俺に任せて先に行け』って王道フラグを使ったのに圧勝してるんですが……」

833 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2012/09/19(水) 03:01:04 ID:rCoP8tkk0

川 ゚ 々゚)「登場時に俺が歌ってるのは『パンダヒーロー』って曲の大サビ前の部分ですね。解釈が難しい、楽しい曲です」

リハ*-ー-リ「当初はそのすぐ後に出てくるデュエリストと説明死のネタに絡めて口笛を吹きながら登場する予定だったらしいね?」

川 - 々-)「はい。口笛だと何の曲か分からないのでやめましたが」



リハ*゚ー゚リ「最後にタイトルの話をして終わろうか」

川 ゚ 々゚)「『その日を摘め』の部分は作中で説明があった通りですよね。俺の価値観を示した言葉です」

リハ*-ー-リ「『help』は複数意味があるが、文字通りこの話は貴兄が私を助ける話だった」

川 - 々-)「また『He helped the girl across.(少女を向こう側まで連れて行った)』『He helped her in escape.(その彼女の逃亡を手助けした)』という意味も含まれているみたいですね」

川 ゚ 々゚)「促進や逃げ道といった単語も会話の中に出てきました」

リハ*^ー^リ「最も重要なのは『そうせずにはいられない』という意味だろうね。cannot help doing。受験では頻出の表現だ」

川 ゚ 々゚)「そうですね。avoid(避ける)でも似たような意味が作れますが、helpを使う用法の場合、泣かずにはいられなかった、のようなものが多いです」

リハ*゚ー゚リ「避けられずに無意識にしてしまう様子を表す表現だね」

834 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2012/09/19(水) 03:03:10 ID:rCoP8tkk0

川 - 々-)「というわけで、あとがたり断章篇でした」

リハ*^ー^リ「ご愛読ありがとうございました。次回の話はちゃんと生徒会が出てくるから安心し給えよ諸君」






j l| ゚ -゚ノ|「……それで何故いきなりこんなコーナーを?」

|゚ノ ^∀^)「最近会話主体の作品を書いてなかったから空気を掴みたかったらしいよ?」

j l| ゚ -゚ノ|「なるほど。確かにこの作品は地の文ばかりだからな」

|゚ノ*^∀^)「だから展開もすっごく遅いし……知ってる? 第一話って月曜日の放課後の話なんだよ。まだ一週間立ってないの」

j l| ゚ -゚ノ|「単行本二十巻以上の章が実は数日の話だった、という漫画作品もあるのだから不思議ではないな」


j l| ゚ -゚ノ|「だが第七話からは話が大きく動き始める予定だ」

|゚ノ*^∀^)「ワンクールのアニメならクライマックスだね!乞うご期待!!」


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