j l| ゚ -゚ノ|天使と悪魔と人間と、のようです Part2
- 673 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:20:55 ID:IAkQDQxE0
・今回の登場人物紹介
【メインキャラクター】
今回のエピソードにおいてのメインキャラクター。
(-@∀@)
日ノ岡亜紗。一縷の淀みもない瞳をしたごく普通の少年。
空手道部次期主将候補であり学年一桁台の頭脳を持つが神宮拙下からは『凡人』『凡骨』と呼ばれている。
かつて天才に憧れ、そうなろうとした凡人。
ハハ ロ -ロ)ハ
神宮拙下。三年理系進学科十二組所属。本名は「ハロー=エルシール」。
『天才(オールラウンダー)』とまで呼ばれる万能の天才。
ありとあらゆる人間から才人と言われている一方で、口にはしないが彼自身は……。
- 674 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:22:06 ID:IAkQDQxE0
( ・ω・)
鞍馬兼。一年文系進学科十一組所属。『生徒会長になれなかった男』。
不自然に脱色された髪が特徴的な育ちの良さを伺わせる高校生。
ただ努力しただけの凡人。
( ´Д`)
天神川大地。鞍馬兼が「はっちゃん」と呼ぶ人物。
ちなみに元歌舞伎の女形で「ハチ」というアダ名は当時の屋号から。
(゚、゚トソン
都村藤村。「トソン」と呼ばれる軍服姿の少女。
全ての参加者に大して対策を立てている。
〈::゚−゚〉
イシダ。同じく軍服姿の大柄な少女。
トソンの部下らしい。
- 675 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:23:10 ID:IAkQDQxE0
リハ*゚ー゚リ
洛西口零。二年特別進学科十三組所属。通称『汎神論(ユビキタス)』。
本名は「清水愛」だが、現在は「洛西口零」と名乗っている。
イ从゚ ー゚ノi、
稲荷よう子。零のクラスメイト。
目立たず気付かせないが零に匹敵する天才。
ミ,,゚Д゚彡
伏見征路。
参道静路の従兄弟。
- 676 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:24:07 ID:IAkQDQxE0
- 【その他キャラクター】
壬生狼真希波。
三年文系進学科十一組所属。中高共同自治委員会会長。
『人を使う天才』と称される非凡な人物。
壬生狼真理奈。
一年普通科七組所属。部活は新聞部で、空手道部のマネージャーも兼任している。
自称「ただの普通な凡人」。日ノ岡亜紗とは古い付き合いで、今は付き合っているが……。
幽屋氷柱。
三年特別進学科十三組所属。弓道部部長にして淳高を代表する才女の一人。
実は日ノ岡亜紗に空手を用いた喧嘩の方法を教えた人物。
宝ヶ池投機。
淳中高一貫教育校高等部の教師。担当教科は政治経済。
一年文系進学科十一組の担任教諭。
- 677 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:25:09 ID:IAkQDQxE0
※この作品はアンチ・願いを叶える系バトルロイヤル作品です。
※この作品の主人公二人はほぼ人間ではありませんのでご了承下さい。
※この作品はアンチテーゼに位置する作品です。
.
- 678 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:26:08 ID:IAkQDQxE0
――― 断章 後編『 wish ――私達がいる世界―― 』
.
- 679 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:27:12 ID:IAkQDQxE0
- 【―― 0 ――】
“ずっと好きだったんだ、ホントだよ?”
私もだよ
……なのに、どうして?
.
- 680 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:28:07 ID:IAkQDQxE0
- 【―― 1 ――】
―――いつの間にか、だった。
いつ彼のことを好きになったのかを訊かれ、答えることができなかった。
だけど、それは「告白されたからとりあえず付き合っている」ということではない。
いつかと訊かれれば、いつの間にかだったのだ。
真里奈にとっての当たり前だった。
二人の間にある沢山の些細な出来事を彼女はよく覚えていないけれど、それでもいつの間にか彼のことを好きになっていた。
多分、それは恋ではなく――愛、のようなものだった。
「上手く言えません。それは、そういうものなんですから。しいて言うなら『親愛』になるのかな……」
彼は私に恋をしていた。
けれど私は彼に恋をしているわけではなかった。
でも好きだった。
- 681 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:29:07 ID:IAkQDQxE0
「『親しみ』って言葉は『友達』っていう意味もあって、それは『常に一緒にいて馴染んでいるもの』って意味で、だから……」
だから、壬生狼真里奈が彼に対して抱く感情は、しいて言えば愛だった。
当たり前にそこにあって、できることならばずっと一緒にいたいと思う感情を愛と呼ばないならなんと呼ぶのだろう?
恋ではないが、好きだったのだ。
きっと彼の方は自分がずっと片想いをしていたと思っているだろう。
だが実際は違うのだ。
いつかは分からないけれど、いつの間にか真里奈も好きになっていた以上、それは両想いになっていた。
教室にあった花瓶の水を毎日変えていた。
運動会の準備をする際、それとなく重い方を持ってくれた。
授業でペアになった時に見せた素朴な笑顔。
買い物の途中に偶然出会って一緒に歩いて帰った日。
数え切れない当たり前の日々を真里奈はよく思い出すことができない。
彼との思い出は、彼への想いは、点ではなくて線だった。
一つ一つが大切なのではなく全てが結ばれ続いた先に今がある。
覚える必要もないほどに当たり前で尊い日常。
- 682 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:30:12 ID:IAkQDQxE0
……その日常が変わり始めたのはいつだっただろう。
放課後に夕暮れの教室で談笑することも、授業中物憂げに空を見ることもなくなった彼。
買い物帰りにゲームセンターを覗いても彼の姿は見つけられない。
いつの間にか好きになっていた彼は――いつの間にか、変わっていた。
「成績も私より良くなって、服装も垢抜けて、ハッキリと意見を言うようになりました。いつの間にか喧嘩も凄く強くなってて……」
まるで先輩みたいですよね、と真里奈は笑った。
拙下は笑わず、何も言わず黙っていた。
数々の思い出はよく覚えていないが彼から告白された日のことはよく覚えている。
「好きだ、付き合ってくれ」。
言葉と、自分を真っ直ぐ見つめてくる一縷の淀みもない瞳。
「頑張ったのは私の為だったのかな……。あー、これって自惚れですかね?」
真里奈は笑った。
拙下は笑わず黙っていた。
- 683 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:31:07 ID:IAkQDQxE0
「これも今でも覚えてますけど、春先に二人で歩いていたら私が指をさされて笑われたんです。多分、あの人が嫌いな上級生だったと思うんですけど……」
結果は知っての通り。
彼は上級生二人に食って掛かり、大立ち回りを演じた。
危うく真里奈共々退部処分になるところだった。
真里奈に落ち度はないんだから我慢して退くのは間違ってるんだ、なんて。
見事に勝ちを収めた彼はハッキリとそう言った。
「『勝てるかどうかは分からない』けれど、『負けて欲しいと思っている』……確かにそうかもしれません」
彼はどう思っていたのだろう。
私はどう想っていたのだろう。
少女はいつも通り、何を考えているのか分からない曖昧な笑みを浮かべて呟いた。
覚える必要もないほど溢れていた当たり前な日々を思い返して。
過去も、日常も、恋心も、後悔も、何もかもを等しく溶かしてしまいそうな夕日の中で。
彼女は曖昧に微笑み、何かを隠すように目を閉じる。
- 684 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:32:11 ID:IAkQDQxE0
- 【―― 2 ――】
「困ったことになった」というのがハチこと天神川大地の正直な感想だった。
仲間の元へ行く途中、手負いの少女を見つけた。
放っておけば出血多量で倒れるだろうと消耗戦に持ち込んだのだが、結局逃げられてしまった。
こんなことならば無視して目的地に急げば良かったと思う。
彼の仲間――鞍馬兼も神宮拙下もあまり助けを必要とするタイプではないというか、戦闘能力的にはハチより優秀なので、助けに行く気が起きないのも確かだ。
行く気が起きない、というよりも、行く必要性があまり見出だせない。
( ´Д`)「(私が行ってどうにかなることは私が行かなくてもどうにかなることな気がする)」
加えて二人は自分が不利なことは許せるが有利なことは堪えられない類の人間だ。
一対二の状況だったら良いが、もしも一対一だったら「そこで見てろ」と言われかねない。
仲間ながらなんて面倒な連中なのだろう。
( ´Д`)「(灰色さんは言うまでもないが鞍馬君も集団行動が好きってわけじゃないし? 得意なだけで)」
- 685 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:33:06 ID:IAkQDQxE0
人と人の間を取り持ったりするのが上手いだけで別に集団が好きなわけではない。
だから、鞍馬兼は基本的にグループに属さない。
属したとしても、染まり切ることなく、自分で在り続けられる。
鞍馬兼の周りに人が集まってくるのはきっと彼がありのままだからだろう。
変に繕わなくても良いと思わせてくれる上に、合わせないが故の他者との衝突は彼が緩和してくれる。
( ´Д`)「(鞍馬君は常識的なようでいて、常識に縛られていない。自分と周囲を分けているのにどちらも蔑ろにしていない。面白い人)」
ミ,,-Д-彡「余所見してる暇があんのか?」
思考が打ち切られる。
廊下の先に立つ茶の短髪の男はつかつかと無警戒に近寄ってくる。
先ほどの少女とは対照的だ。
( ´Д`)「そちらこそよろしいのですか?」
高校生らしからぬ真面目で固い声音を作り、ハチは訊く。
- 686 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:34:10 ID:IAkQDQxE0
茶髪の大男は、近くで見ると一層大きく感じる。
兼よりも大きいので百八十は余裕で超えているだろう。
かなりガタイも良さそうだ。
トレーニングで使うようなトレーナーのセットアップに寝癖かそういうヘアースタイルなのか分からない髪型。
その両拳にはボクシングで使うバンテージが巻かれている。
ミ,,-Д-彡「ハン、よろしいも何もよぉ〜〜っ? アンタがどんな力を持っていたとしても、一発見るまではどうしようもないだろうが」
(;´Д`)「(様子見をするという考えはないんですか?)」
間延びしたふざけた口調はハチとは対照的。
向こう見ずなのは実力の裏返しか。
遂に一歩踏み出せば拳が届く距離までやってきた大男にハチは訊いた。
( ´Д`)「お名前を伺ってもよろしいですか?」
ミ,,゚Д゚彡「伏見征路だ」
答えた。
しかも即答だった。
- 687 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:35:14 ID:IAkQDQxE0
- 【―― 3 ――】
イ从゚ ー゚ノi、「あなたの恋人はいつも通り健闘しているようですね」
リハ*-ー-リ「ただの友人だ。君も知っているだろう」
イ从゚ ー゚ノi、「ええ。鞍馬兼……『大佐(カーネル)』の勇名は轟いています。言うなれば『普通に優れている』と」
「優れている」と聞けば、多くの人間は特別な才能や不幸な背景を想像しがちだ。
実際洛西口零こと清水愛は特別な才能と不幸な背景を持っている。
が、しかし。
社会に溢れている優れた人間の大半は普通に努力し、普通に挫折し、そして普通に成功した――ごく普通の人間だ。
誰も彼もが零のように特殊な設定を持っているわけではない。
山科狂華が使う例えで言えば「プロ野球選手だからと言って異常に厳しい父親がいるとは限らない」ということになるだろう。
イ从゚ ー゚ノi、「山科狂華という人間が特別な血筋に生まれ特別な能力を持ち特別な過去の上に立つ人間だとすれば鞍馬兼は呆れるほどに普通の人間です」
そこそこ裕福な家系に生まれ、公務員の両親を持ち、一般的な良識と個性を兼ね備え。
他人から見れば些細なことで悲しみ、社会から見ればどうでも良いことで笑い、人と出逢い、別れ、そして生きてきた人間。
- 688 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:36:17 ID:IAkQDQxE0
イ从゚ ー゚ノi、「劇場と客席には『第四の壁』と呼ばれる暗黙の了解がありますがあるいはニュースの視聴者は勝手に壁を設定していると言えます」
リハ*゚ー゚リ「壁……自分達との差異のことだね」
イ从゚ ー゚ノi、「その差異は才能であったり過去であったりする」
今世の中に溢れている成功者の全員が全員、麒麟児であったわけではない。
むしろ大半が一般的な家庭に普通の人間として生まれ、成功と失敗を繰り返しながら生きてきた凡人だ。
そして鞍馬兼も凡人だった。
イ从゚ ー゚ノi、「ただ彼が決定的に一般人、教師宝ヶ池のような人物と違うのは……『適度に手を抜く』という知恵がないという点です」
体育の授業で流して走るということができない。
定期試験を一夜漬けで乗り越えようと思わない。
何かに命を懸けているわけではないが――どんなことであっても真面目に一生懸命取り組んでいる。
その延長線上にあるのが今の彼だった。
考えてみれば当たり前だ、例えば学校の試験にしてもカリキュラムは段階的に組んであるので一つ一つクリアしていけば八割九割の点数は取れるはずなのだ。
他の人間ができないような、例えば音楽にしたって、十年以上も練習し続けて身に付かない方がおかしい。
- 689 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:37:17 ID:IAkQDQxE0
鞍馬兼という人間が様々なことができるのは――単に「できるまで続けたから」に過ぎない。
リハ*゚ -゚リ「理解はできたが……共感はできないね。普通、それこそ普通は結果が出なければ嫌になってやめるだろう。大して好きでもないのなら尚更だ」
イ从゚ ー゚ノi、「分かりやすい言い方をすれば『努力できる才能があった』のでしょう」
リハ*゚ー゚リ「……本気で言っているのかな?」
イ从゚ ー゚ノi、「そんなわけないでしょう。だから『持っていない』と述べました」
努力できる才能があった――のではなく。
手を抜く知恵がなかった――のだろう。
それだけのことだ。
イ从゚ ー゚ノi、「では見せて頂きましょうか――あるいは天賦の才を凌駕するかもしれない、『人生』という名の経験を」
何にも命を懸けなかったが、しいて言えば人生そのものに懸命に取り組んできた凡人の実力を。
- 690 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:38:11 ID:IAkQDQxE0
- 【―― 4 ――】
無意識の内に――トソンは一歩、下がっていた。
向かい来る声と気に一瞬間全身が痺れた。
気圧されたのだ。
(゚、゚;トソン「(明らかにこちらが有利だったはずなのに圧倒された!? 武道家の気位とは……!!)」
困惑するトソンにできた隙を逃さぬよう壮烈な気勢と共に鞍馬兼は踏み込む。
読み合いや探り合いはない。
まるで無策、だからこそ迷いがない。
間合いが接した瞬間、迎撃と牽制を兼ねてトソンはナイフを突き出す。
それと同時に兼は右斜め前に身体を進めつつ、右手の軍用懐中電灯で斬撃を受け流す。
(-、-;トソン「(そうか、これは……!)」
流れるようにそのまま腕が振るわれる。
狙いはトソンの額、正面。
- 691 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:39:08 ID:IAkQDQxE0
咄嗟に腰を回転させあらぬ方向に流れたナイフを引き戻し受け止めようとするが、間に合わない。
直撃する。
風切り音が耳元で鳴り、一撃。
(、 ;トソン「ぐっ!!」
額を打たれることは避けたが代償として左肩に激痛が走る。
左手側の鎖骨にヒビを入れられた。
痛みを噛み締め堪え自由に動く右腕で反撃。
即座に一歩退き上段を取っていた兼は、右脚で踏み込みながら再度打ち込む。
小刀と警棒が切り結ぶ。
前進し、左手で右手を支えることで鍔迫り合いに持ち込んだトソンは言う。
(゚、゚;トソン「剣道形小太刀一本目仕太刀……!」
( −ω−)「あなたの知識量には恐れ入ります。壬生狼先輩を思い出すんだから」
(-、-;トソン「だとしても!!」
- 692 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:40:10 ID:IAkQDQxE0
言い返そうとした瞬間に力が抜けた。
自分ではなく、相手の。
また――流された。
(、 #トソン「二度も通用すると!?」
( # ω)「思ってない!!」
正面からの打ち込みに受け止めるべくトソンはナイフを構えたが、そこに襲い掛かったのは軍用懐中電灯ではなく兼自身。
鍔迫り合い、転換からの左肘から肩を使った体当たり。
(、 #トソン「打突でなければ通用するとでも!?」
自身の右側への衝撃を左に躱すことで受け流す。
即座に兼が退きながら面打ちを放つが、対するトソンはスウェーで回避。
間合いが開く。
再び兼は中段半身に構える。
トソンも同じようにサバイバルナイフを握った右腕を前に出す。
- 693 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:41:10 ID:IAkQDQxE0
と思わせ。
刹那。
(、 #トソン「これでッ!!」
左手で軍服の腰に収納してあった小型のチャクラムを投擲。
人差し指と中指で挟み、フリスビーのように投げられた戦輪は空を切り裂き兼へと向かう。
竹刀対竹刀の技術しか知らぬ相手ならば対応できない。
そう考えての奥の手だった。
が。
( ω)「―――当たらない」
まるでチャクラムの軌道を読んでいたかのように兼は右斜め前へ飛び出す。
滑らかな足捌きで避け間合いを詰める。
- 694 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:42:12 ID:IAkQDQxE0
対応策を知らなかったとしても、当たらなければどうということはないのだ。
相対するトソンは同じように右斜め前へ。
二人で円を描くように動く。
一瞬の静寂。
(-、-トソン「二星の目付……ですか?」
( ・ω・)「言うに値しないことなんだから」
互いに間合いを計り、隙を見逃さぬように牽制を繰り返す。
兼が警棒の先を下げてみせるがトソンは乗らない。
(゚、゚トソン「……今更ですが私達と共闘する気はないですか」
( −ω−)「今更過ぎます」
(-、-トソン「確かにそうなので。私としても、あなたはここで殺しておきたい」
二人の攻防が始まって数分――だが未だどちらも能力を使っていなかった。
- 695 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:43:11 ID:IAkQDQxE0
- 【―― 5 ――】
鞍馬兼にしても神宮拙下にしてもそうなのだが、『空想空間』での能力は当たり外れが激しいので結局は素の戦闘力がモノを言う気がする。
他でもなくその二人の友人である天神川大地――ハチはそう思っていた。
現実世界のハチは元役者故に顔が良く演技が上手いだけの人間だ。
戦闘技能は有していない。
風紀委員会の幹部であるので護身術程度は習っているが、上述の二人に比べればお粗末なものだ。
だから能力も出し惜しみせず使う。
(#´Д`)「そうです――かッ!!」
伏見征路が名前を答えると同時に放った拳を掻い潜り掌底を叩き込んだ。
掌底を用いたのは偏に人を殴り慣れていない為だった。
だが。
ミ,, Д彡「ぐ……」
- 696 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:44:10 ID:IAkQDQxE0
力を込めて放った掌底は相手の胸部に直撃した。
が、倒れるどころか身動ぎ一つしない。
声こそ漏らしたものの、攻撃が効いているとは思えない。
ミ,,-Д-彡「今のがアンタの能力か? ……ハン、だとしたら拍子抜けだ。あの血塗れの嬢ちゃんは何を警戒してたんだか」
堅い胸板だった。
まるで壁を殴打したかのようだった。
そしてそこでハチは気付く。
( ´Д`)「(待て……。そう言えば『伏見征路』という名前は以前聞いた気が……)」
ミ,,゚Д゚彡「アンタに俺の座右の銘を教えよう。二つあってな、一つ目は『有無を言わせず先手必勝』」
後ろに下がり少しずつ距離を取りながら考える。
征路の言葉など聞こえてはいない。
何処で耳にしたのだろうか。
- 697 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:45:07 ID:IAkQDQxE0
僅かな思案の後、ハチは訊いた。
( ´Д`)「つかぬことをお伺いしますが、何かアダ名はありますか?」
ミ,,-Д゚彡「そして二つ目は――え、アダ名? 大体後輩は『ふーさん』と呼んでるし、クラスメイトや同級生は『フサフサ』か『フサ』と呼ぶ」
( ´Д`)「…………三年でボクシング部の?」
ミ,,-Д-彡「そうだ。俺以外に伏見って苗字は女しかいないだろうが。伏せて見るでフシミ、路を征くでセイジだ。三年一組の伏見征路」
三年一組。
ボクシング部。
伏見征路。
( ´Д`)「(……思い出した)」
直後に思い出さなければ良かったと思った。
三年一組の伏見征路。
淳高では有名な素行不良生徒で上司であるハルトシュラーが何度か指導していた覚えがある。
- 698 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:46:09 ID:IAkQDQxE0
二つ名は海賊の子孫ということから名付けられた『平等主義者(バッカニア)』。
あの高天ヶ原檸檬ですら倒せず、『天才(オールラウンダー)』こと神宮拙下すら勝てないのではないかと言われるボクシング部の裏エース。
学園十傑の一人。
少し前、バイクで盛大にクラッシュし入院中だったことからすっかりと忘れてしまっていた。
この異世界では現実の怪我など関係ないというのに。
( ´Д`)「(二人共申し訳ない……。当分、助けには行けない)」
心の中で仲間達に詫びる。
いや、むしろ祈る。
こうなっては自分が助けて欲しいくらいだ。
だがそんな彼の心情を知るわけもなくフサは軽快なフットワークで一歩踏み込む。
咄嗟にハチは腕を交差させたブロック、ボクシング的にはクロスアームブロックで防御を固めた。
ミ,,-Д-彡「で、座右の銘の二つ目だが――『何はともあれ後手必殺』」
フサはガードの上からそのまま殴り飛ばし、ハチはそのまま吹き飛ばされた。
- 699 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:47:21 ID:IAkQDQxE0
- 【―― 6 ――】
屋上から見る死闘は見事と言うべきものだった。
間合いを計り、牽制し合い、策を巡らし、幾度となく剣戟を重ね――殺し合う。
息をつく暇もない一進一退の攻防。
どちらが優勢なのか運動はてんで不得手な零には分からない。
それほどの接戦だった。
リハ*゚−゚リ「…………」
イ从゚ ー゚ノi、「どちらが優勢か分かりませんか?」
リハ*-ー-リ「そういう君は分かるのかな?」
イ从゚ ー゚ノi、「六対四で鞍馬兼が優勢です。あるいは実力云々以前に相性で勝っている」
そう言えばコイツも武道経験者だったか、と零は思い出す。
リハ*-ー-リ「悪いが肉体労働は苦手でね。講説講釈をお願いできるかな?」
- 700 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:48:30 ID:IAkQDQxE0
零の毒の込められた言葉を「分かりました」と流し、よう子は話始める。
イ从゚ ー゚ノi、「今の鞍馬兼は使う技術をほぼ剣道一つに絞っています」
リハ*゚ -゚リ「体当たりをお見舞いしたり相手の手を掴んだりしている気がするが……」
イ从゚ ー゚ノi、「近間や鍔迫り合いでの体当たりはごく一般的な技術ですし脇差や小太刀を使う場合は相手の腕を掴むこともままあります。教えの上では、ですが」
現代では使われないものの理に適った技術だ。
実際に軍隊で教えられるようなナイフ術では関節を極める技も多用されている。
要するに柔道における当身のようなものである。
イ从゚ ー゚ノi、「どんな武道でもそうですが地稽古(乱取り)と形稽古というものがあります。地稽古はそのままスポーツとしての武道に直結します」
リハ*-ー-リ「形稽古は決められた動作を確認する稽古だったかな?」
イ从゚ ー゚ノi、「はい。分かりやすいものが柔道の形稽古です。当身のような現在の試合形式では使用できない技術が含まれている」
そして例に漏れず剣道にも形があり、これは剣術の時代に作られた形が元になっている。
現代のスポーツとしての武道では使わない構えや使えない技術、つまり剣術の為の教えが組み込まれている。
- 701 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:49:27 ID:IAkQDQxE0
当時日本にあった数百という剣術流派の技を統合し十本の形に纏めたものが今ある剣道形だ。
武術では奥義の失伝が非常に多い。
が、主立った剣術の技はまさに「形だけは」残すことができたのである。
よう子は続ける。
イ从゚ ー゚ノi、「余談ですが警視庁で教えられる警視流撃剣形の二本目は『鞍馬流』という流派の技です」
リハ*-ー-リ「彼の動きが形に基づいたものであることは分かったが、相性というのはどういうことなのかな?」
鞍馬兼は剣道での所作に剣術の技術を混ぜて戦っている。
その時点で相当卓越した武道家になるのだろうが、一先ずそれは置いておこう。
イ从゚ ー゚ノi、「先ほどまでの鞍馬兼はあの生徒会長のように複数の武術を混ぜて戦っていました。使える技の中から状況に合ったものを選び出し使っていた」
リハ*゚ー゚リ「理想的だね」
イ从゚ ー゚ノi、「そうですね。柔道の創始者である嘉納治五郎は剣術や棒術も熱心に学んだと伝わっています。あるいはそれが当時の武道家にとっては当たり前だった」
リハ*-ー-リ「四六時中帯刀し防具を身に纏っているわけにもいかないだろうし当然と言えば当然だね」
- 702 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:50:27 ID:IAkQDQxE0
淳高では幽屋氷柱がそうなるのだろう。
彼女は弓道部の部長だが他の武道においても達人級の腕前だ。
が。
鞍馬兼は幽屋氷柱のようにあらゆる武道に秀でているわけではなく専門としているのは剣道だけだ。
逆に言えば、剣道という武道においてはそれなりの実力者ということになる。
つまりは。
イ从゚ ー゚ノi、「選択肢を剣道のみに絞ればほとんど反射的に技を繰り出せるということです。十年間の経験が勝手に身体を動かしてくれる」
相手の攻撃をなんの武術のどんな技かを考え、どのような行動に出るべきかを毎回考えているトソンよりも。
咄嗟の判断に任せると同時に動き出す兼の方が遥かに速く動ける。
だから先の攻防で、トソンは「剣道形小太刀一本目の仕太刀の技を基にした動きだ」と理解したにも関わらず回避が間に合わなかった。
イ从゚ ー゚ノi、「あるいは貴方の得意なパソコンで喩えれば『剣道の技』だけはデスクトップにショートカットがあるということになるのでしょうか」
リハ*゚ -゚リ「理解はできたが……納得はできないね。そうだとしても上手く行き過ぎだ」
イ从゚ ー゚ノi、「それだけなら確かに上手く行かないかもしれません」
- 703 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:51:12 ID:IAkQDQxE0
- 【―― 6 ――】
だから、それだけではない。
(-、-トソン「(得意な技ならばスムーズに出せる……。そんなことは誰だってそうだ)」
日ノ岡亜紗は追い突きからの右中段回し蹴りが全国クラスの完成度だ。
神宮拙下はほぼ一種類の技しか使わないし、数多くの武道の心得がある幽屋氷柱であっても得手不得手はある。
だから厄介なのはそれではない。
(゚、゚トソン「(鞍馬兼は神宮拙下のように一項目が限界を振り切っているわけではないものの、全ての能力が八十点台から九十点前半程度にまで達している)」
厄介な点の一つが、全ての値が万遍なく高レベルで纏まっていることだ。
つまり弱点らしい弱点が存在しない。
人間はどんな才能があったか、どのような競技に取り組んできたかによって能力値に偏りが出る。
走るのが速かろうと泳げない人間はいる。
同じ「走るのが速い」であっても短距離なのか長距離なのかでは全く違うだろう。
- 704 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:52:21 ID:IAkQDQxE0
だが何に対しても手を抜かなかった鞍馬兼は――こういった偏りが極端に少ないのだ。
先にトソンは「剣道家ならば飛来物に対して反応できないだろう」という思惑の下にチャクラムを放ったが、兼は剣道家であると同時にテニスプレーヤーだ。
自身に向かってくる物体を回避するなど打ち返すことに比べれば容易過ぎる。
「◯◯を頑張ったから××は手を抜こう」という考えがない為に異常なまでに守備範囲が広くなった。
偏りが少なく、穴に至ってはないに等しい。
結果として現在の鞍馬兼は「運動ができ、全ての科目で高得点を取り、尚且つ喧嘩が強く、加えて芸術にも明るく、その上生活力がある」という信じられないようなスペックを誇る。
……いやついでに人付き合いも上手い彼はそんなことを誇ったりはしない。
彼の担任である宝ヶ池投機は『理想の高校生像』と兼を評した。
実際にそうなのだろうとトソンは思う。
(-、-トソン「(文科省の掲げた学習指導要領にある内容を完璧に熟した上で一般常識と教養を身に着ければ、あるいは……)」
周囲の大人にとっては最高の子供だろう。
トソンにとっては最悪の敵だが。
全ての参加者に対し対抗策(メタ)を用意することで有利に立ち回ろうとしたトソン。
この作戦は洛西口零のような得手不得手の差が激しい人間には有効だが、兼のような全てのことが万遍なくできる相手にはメタの張りようがない。
地力で勝る以外の必勝法が存在しない。
- 705 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:53:16 ID:IAkQDQxE0
そして厄介な点のもう一つが―――。
(、 トソン「ッ!」
トソンが踏み出す。
が、その瞬間に兼も同じように飛び出した。
間合いが接する。
一気に近間へ。
お互いの攻撃が届く距離。
しかし、トソンの刃だけは届かない――その軌道上にメタを張ったかのように銀の懐中電灯が置かれている!
(゚、゚;トソン「やはり、あなたは……!」
瞬時に後退し仕切り直したところで口から言葉が漏れた。
当たり前過ぎて驚くことすらできない。
これこそが全てにおいて八十点の能力値しか持たない鞍馬兼の数値化できない真骨頂―――。
- 706 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:54:09 ID:IAkQDQxE0
- 【―― 9 ――】
『そう言えば幽屋は鞍馬とは長いのか?』
『そうですね……。実家も近いので年数回は見かけていました。剣道の大会で、ということですね』
言われてみれば奴は雪国の生まれだったと思い出す。
口振りから察するに、氷柱の方もここが地元というわけではないのだろう。
宝ヶ池は訊く。
『オレは、まあ……この学校で腕の立つ人間を聞きに来たわけだが、アイツは昔からあんな風に完璧だったのか?』
『完璧だったとも言えますし、駄目駄目だったとも言えます』
『は?』
『私の記憶が正しいならば、初めて会った時の鞍馬君は試合に負けて半泣きだったと思います』
今の兼を知る宝ヶ池には信じられないが、よく考えてみれば、その初めて会った時が十年前ならば年相応の反応と言えるかもしれない。
自分がそうであるように誰にだって幼い頃というのはあるのだから。
- 707 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:55:09 ID:IAkQDQxE0
『試合には負けてばかりだったので、その点では駄目駄目だったと言えるでしょう』
『じゃあ何が完璧だったんだ?』
『次に見かけた時には明確に進歩している点です』
「男子三日会わざれば刮目して見よ」という言葉があるが鞍馬兼はそういう風に直ぐに変わるタイプではなかった。
ただし、少しずつ少しずつ、けれど確実に前に進み続けていた。
いや――進み続けている。
『その進歩がとっても面白くて……。以前、神宮さんと鞍馬君に強くなる秘訣について訊いたんです』
強くなる秘訣があるとすれば、それはどんなものか。
氷柱は二人にそれを訊いた。
詳しい話の流れは忘れてしまったが二人の答えだけはよく覚えている。
問われ、神宮拙下は「強くなる秘訣なら『自分の強さを伸ばすこと』だ」と即答した。
強さ、つまり人に勝っている部分を伸ばし続け、どんな相手にも負けなくなれば試合にだって勝てるだろうと。
彼にとっては速さが強さだった。
持って生まれた優れた部分を伸ばし続けた天才らしい答えだ。
- 708 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:56:14 ID:IAkQDQxE0
対し、兼の答えは真逆だった。
『鞍馬君は正反対で「自分の弱さを知ること」と答えたんです。そして確かに鞍馬君はそういう風に進んできている』
強い人間は自分の勝ち方を知っているというが、負け続けた鞍馬兼は自分の負け方を知っていた。
どの部分が弱いか、どこが悪かったのかを誰よりも知っていた。
自分の負け方を知っているということ。
それはつまり――相手の勝ち方を知っているということ。
負け方と勝ち方。
だから、鞍馬兼は―――。
『何十何百回と負けたからでしょうね……。鞍馬君は瞬時に相手の動きを予測し、かつそれ対し負けない反応を返すことができる』
ある意味でそれは皮肉とも言えた。
誰かに勝つ為に努力したわけではない兼の強さの真髄は――誰かと対峙することで初めて発揮されるのだから。
- 709 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:57:28 ID:IAkQDQxE0
- 【―― 10 ――】
「二星の目付」――と言う。
ごく小さな動きから相手の意思を察することを剣術家はこう呼ぶ。
打突の前には必ず両の手首が動き、攻めの意思は両目に現れるのだから、その兆候を読み取れば相手の次の手を予測するのも容易い。
知識としては知っていた。
(-、-;トソン「(返し技が得意なのは知っていましたが……まさか本当に私の動きを予測してくるとは)」
意識的にならばトソンも同じことをやっている。
だが兼は、無意識でも行動を予測する。
刹那の間合いにおける咄嗟の判断が恐ろしいほどに的確なのだ。
達人級の腕前を持つ幽屋氷柱のように隙がないのではなく、明らかに隙はあるのに――そこを攻めた瞬間に返される。
メタに対して――更にメタがある。
ナビゲーターの中では鞍馬兼はBクラス相当(優勝候補ではなく二線級)だとされている。
多芸だが器用貧乏で特筆すべき点がないと。
それは確かにそうで、百メートルを十秒で走るような数値化できる分かりやすい強さを兼は持たない。
だから強そうには見えない。
- 710 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:58:13 ID:IAkQDQxE0
ただ「強そうに見えること」と「実際に強いこと」は全く違う。
(-、-トソン「……埒が明かないので。折角超能力を与えられているのですから、それを駆使して戦いませんか?」
( ・ω・)「RPGでは強い武器を装備すれば強くなりますが、現実には素人が刃物を持つと徒手空拳よりも弱くなると言われています」
トソンの申し出にも応えはするが乗ってこない。
敵の言葉に生真面目に返答してしまうのは兼の弱点とも言えない程度の欠点だろう。
能力を使ってくれればまだ良かったとトソンは思う。
そうすれば穴を突くことができた。
不慣れさや慢心から生じる隙に付け込むことで反撃ができたのだ。
(゚、゚トソン「(プレイングを見るに、鞍馬兼は私と同じように不慣れな超能力を使わないことで弱点を作らないようにしている……)」
( −ω−)「それに僕の能力は積極的に使える類のものではないんだから」
(-、-トソン「それは奇遇ですね」
奇遇なことに、トソンの能力も積極的に使える類ものではないのでこの状況ではあまり役に立たない。
- 711 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 02:59:06 ID:IAkQDQxE0
トソンは二つ能力を持つが、兼のようにRPGで喩えれば両方共に補助魔法のような効果だ。
いや、個人の願望が元になっている以上、直接攻撃的な能力は少数派になるのだろう(炎を出す能力の持ち主がいれば「放火したい」というような欲望を持っていることになる)。
ただトソンの能力は直接攻撃には使えないが肉弾戦には使える能力だ。
ダメージを与えられはしないが有用ではある。
問題はこの早期に奥の手を晒してしまうのは気が引けるのと能力戦闘用に戦術を再構築しなければならない点だ。
と、息を吐いた――瞬間だった。
( ω)「!」
隙を突かれた。
間合いを詰められた。
油断していたわけではなかった。
息を吐いただけ。
ただそれは兼の前では致命的な隙だった。
音楽家でもある鞍馬兼は相手の呼吸音を聴き取れる程度には耳も良いのである。
- 712 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 03:00:08 ID:IAkQDQxE0
- 【―― 11 ――】
正面から日ノ岡亜紗を見つめ、灰色の天才は言った。
ハハ ロ -ロ)ハ「お前に言いたいことがあった。ずっと昔から言いたいことがあった」
ハローはあの特徴的なファイティングポーズで構える。
スタンディングスタートのように重心を落とし、右手を腰に起き左手を前に出した、正拳突きを予告するような構え。
あの時と全く変わらないスタイル。
向かい合うアサピーはこの期に及んでまだ口を開くかと呆れる。
だが同時に驚愕した。
(-@∀@)「(心が……読めない?)」
いや思考は読めている。
真っ直ぐに突撃し突きを放とうと考えていることは分かる。
けれど、読み取る心は酷く不確かであやふやなのだ。
- 713 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 03:01:23 ID:IAkQDQxE0
今更ながらに日ノ岡亜紗は気付いた。
思考と感情は違うということに。
『心を読む』という能力は対象を一人に限れば思考はほぼ完璧に読み取れるが――相手の感情は、よく分からないのだ。
あるいは。
複雑に絡み合った心を正確に共感できるからこそ、理解できないのかもしれなかった。
(-@∀@)「(……感情が分からないとしても今必要なのは思考を読むことだ)」
自分の願望とは少しズレてしまうものの、今この状況においては相手の思考を読み次の一手を知ることの方が重要だった。
ハローは未だ能力を使用していないので「いつ超能力を発動させるか」が分かるだけでも有用だと言える。
(;-@∀@)「(今のところ、コイツの思考に能力のことが浮かび上がって来たことはないが……まさか自分に能力があることを忘れているのか?)」
心を読めたとしても本人が完全に忘れてしまっていることは読み取りようがない。
だとしても『空想空間』において最も重要な要素である超能力のことを、しかも自分の能力を忘れることがあるだろうか?
どれほど考えなしだというのだろう。
だがそれならば好都合だ。
思い至る前に勝負を決めてやる、とアサピーは拳を強く握った。
- 714 名前:断章投下中。:2013/03/24(日) 03:02:31 ID:IAkQDQxE0
対しハローは続ける。
ハハ ロ -ロ)ハ「俺は考えない人間だ。考えずとも生きていける故に考えない。だから口下手だ」
何を言えば良いかが分からない。
自分の気持ちが分からない。
どう言えば伝わるのかが分からない。
そんな馬鹿みたいな思考が能力を通じて伝わってくる。
ただ、分からないからこそ何を言うのかは決めていたようで――天才は考えることもなくその言葉を口にした。
ハハ ロ -ロ)ハ「お前に言いたいことがあるが、それが何かは分からない。だから―――、」
―――ずっと言えなくて、ごめん。
これまでも言うことができず、これからも言うことはできない――悪かった、と。
言葉と同時に心の中でも詫びた瞬間に天才は踏み出した。
- 720 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:31:03 ID:rx6JMDGQ0
- 【―― 12 ――】
―――これから使うのは正真正銘の必殺技だ
あの傲慢な天才の謝罪の言葉に驚く暇もなく日ノ岡亜紗の頭に彼の思考が流れ込む。
既に敵は一歩目を踏み出している。
(;-@∀@)「(あの男が謝った!? 正真正銘の必殺技? くそっ、何がなんだか……!!)」
もう一息もしないうちに灰色の閃光が自分を射抜くことだろう。
受けなければ、受けて反撃しなければ。
考えている暇などなかった。
いつだってそうだ。
ゆっくりと立ち止まり考える時間なんて与えられやしない。
笑われる自分が嫌で、何もできない自分が嫌で、手を伸ばせない自分が嫌で。
だから日ノ岡亜紗は進むのだ。
この天才と同じように――欲しいものを手に入れる為に。
- 721 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:32:05 ID:rx6JMDGQ0
左脚が踏み込まれた。
左手が引かれる。
中段、腹部を狙い右手が突き出される。
ハローの動きは先程までと全く変わらない。
瞬きの一瞬で勝負を決める電光石火の一撃であっても何処に来るかが分かっていれば受けることは容易い。
だから。
(#-@∀@)「―――はっ!!!」
左手を身体の右側、腰の部分に拳を添えて構える。
正面に向いた体勢から半身に回転。
重心を後ろ足から前足に移し、それと同時に受け手の拳を握り込み前腕を捻りながら前から横に振る―――!
右中段突きに対し左中段内受け。
相手の拳を半身の自分よりも左側に逸らすことで受け切る。
が。
(;-@∀@)「(手応えがない!?なん―――)」
- 722 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:33:04 ID:rx6JMDGQ0
左手にあるべき受けの感触がないことに驚いた刹那、焼け付くような頭痛がアサピーを襲った。
脳の神経が根こそぎショートしたかのような強烈な痛みに視界が真っ白に染まる。
そして――零々コンマ数秒の後。
(; ∀)「がっ………!!」
一瞬間呼吸が止まる。
右鎖骨に近い肋骨二本が纏めてへし折られた。
彼の胸部、右側の肺より少し上の部分が強打された結果だった。
連続する激痛と衝撃にアサピーはその場に崩れ落ちる。
それを見下ろすのは灰色の天才。
ハハ ロ -ロ)ハ「……フン。堪能したか、凡人? これが俺の本気――これが『五の閃』だ」
この『五の閃』を使わせた今までの努力は認めよう。
ただ少し、お前には勿体無い技だったな。
薄れ行く意識の中で日ノ岡亜紗は失望したかのような心の声を聞いていた。
- 723 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:34:04 ID:rx6JMDGQ0
- 【―― 13 ――】
相手の攻めの兆候を読み取る二星の目付を中心とした鞍馬兼の防御陣は『無心の構え』と呼ばれている。
山科狂華や幽屋氷柱といった彼と戦ったことのある人間の間では有名な話だ。
しかし一方で、張本人である兼自身は「そんなことは誰だってそうでしょ」と必殺技のような大層な扱いに呆れていた。
単純に言えば『無心の構え』とはただの経験則だ。
どんなスポーツでもどんな武道でも、ある程度の鍛錬を積んだ人間ならば誰だって似たようなことをやっている。
何千何万と繰り返された練習、過剰学習が擬似的な反射を作り出す。
相手の攻撃を見てから思考し対応していたのでは零コンマの世界では太刀打ちできない。
「向こうは右のストレートだから一旦避ける、右脇腹が空いたからこの拳を掻い潜ってそこにボディーブローを打ち込んで……」と呑気に考えられるのはそれこそ神宮拙下くらいだ。
普通は反射的に応戦するし、そしてそれこそが理想なのだ。
(-、-トソン「(西洋では『直感』と『直観』を明確に区別している。前者が勘であるのに対し、後者は経験則により瞬時に行われる高度な推測だ)」
鞍馬兼の奇襲を受けながらトソンは考える。
では経験則で劣る自分が勝つにはどうすべきか?と。
とは言っても答えは出ている――出ているからこそ呼吸の隙を狙った奇襲に対応できたのだ。
- 724 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:35:04 ID:rx6JMDGQ0
自分が使うのは軍用格闘術、相手が使うのは剣道及び剣術。
こちらの練度は敵に大きく劣るが投げ受け極め等のバリエーションを踏まえると三対七程度か。
だが相手は竹刀や木刀ではなく二十センチ程度の警棒を使っているので万全とは言い難い。
この時点で力量差は良くて互角、悪くて六四。
備考としてこちらは左鎖骨に損傷が有る。
しかし、一つ二つの要素があれば――十分に勝負を決められると言える。
(-、-;トソン「(思考、整理。前提一『鞍馬兼は剣道家でありその技術を用い戦っている』。前提二『反射により攻防を行なっている』)」
攻防の後、トソンは大きく後退するが兼は追ってこない。
最初からずっとこのように前進後退を混ぜて行なっていることからかなり冷静であると判断できる。
一気に攻め込む気はないらしい。
そしてその間合いの計り方を利用し、トソンは思考を進め鋭くする。
(゚、゚トソン「(前提一と前提二を踏まえれば自ずと攻めるべき点は見えてくる)」
前提一『鞍馬兼は剣道家でありその技術を用い戦っている』。
前提二『反射により攻防を行なっている』。
- 725 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:36:05 ID:rx6JMDGQ0
ここから導き出されることは多い。
例えば「鞍馬兼はほぼ確実に右脚を前に出し左脚に重心を置いている」などだ。
剣道の特性として左脚が右脚より前に出ることはないので、それを元にした兼も右脚を前に出す→左脚を引き付けるという動きの連続で間合いを詰める。
他の武道では構えや技によって前足も軸足も変化する為に一つ読み易くなっと言える。
こうして考えると『無心の構え』には幾つか致命的な欠点がある。
兼の反射は剣道の為に形作られたもので、殺し合いの為に作られたものではない、つまり―――。
(-、-トソン「(推測される弱点一『有効打突部位付近は過剰に反応する』)」
剣道における有効打突部位は頭部(面)、両手首(両の小手)、胴体の左右(左右の胴)、そして喉元(突き)である。
これらの部位に竹刀が当たった場合に一本となる。
故に『無心の構え』もこれ等の部位は過剰気味に反応するようになっている。
前腕部で捌けるような攻撃であっても咄嗟に避けるか、そうでなければ手にしている武器で応じてしまう。
剣道という競技ならば正しいが白兵戦では弱点と言えるだろう。
(゚、゚トソン「(推測される弱点二『関節や足元は疎かになっている』)」
そして致命的なのがこれだった。
- 726 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:37:04 ID:rx6JMDGQ0
先述したように剣道における有効打突部位は頭部、両手首、胴体の左右、喉元のみだ。
それ以外の場所に幾ら竹刀が当たろうが全く意味がなく、むしろ痛みと引き換えに相手の隙を攻められると歓迎するくらいだ。
このように剣道を主体にして戦う鞍馬兼はフルコンタクト空手であっても攻撃を禁止されるほどの急所である関節部分のマークが甘い。
更になぎなたと違って脛打ちがない為に下半身も疎かになっている。
ある程度は避けられるだろうが、そもそも剣道において足払いは反則なので対処の仕方を知らない。
加えて横転すると試合が中断するので倒れてからのリカバリーも苦手のはずだ。
以上のことから、『無心の構え』に対しトソンが取るべき戦術は。
(、 トソン「(―――『関節部分を狙い』牽制し『前足が浮く打突の瞬間』を狙った――『足払い』!)」
トソンが疾走する。
兼が悠然と構える。
両者の間合いは一気に近間へ。
牽制、フェイントが一瞬の内に数度繰り返され激突。
先読みされナイフが受けられた瞬間にトソンは素早くローキックを繰り出す。
鞍馬兼はあの神宮拙下にも劣らぬような超反応で一歩退き回避。
しかし小手や面を抜くのと違い足元への攻撃は避け切れない。
- 727 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:38:04 ID:rx6JMDGQ0
内側に曲げ固く締められたトソンの足首が脛に直撃する。
(; ω)「くぅっ!!」
呻き声が漏れる。
だが兼は動きを止めることはない。
回避の際に重心が後ろ足に移ったことを利用し、鍔迫り合いからの引き面のように打ち込む。
策に――嵌ったのだ。
(、 トソン「(―――想定通り、)」
打ち込みの一瞬。
打突の威力を高める為に右脚を踏み込む瞬間を狙い――払った。
完全に体勢を崩された兼は倒れ落ちる。
受け身も取れやしないだろう。
ここで一気に攻め込めば、と考えるトソンは眼前の光景が信じられなかった。
―――倒れ行く鞍馬兼が笑っていた。
- 728 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:39:05 ID:rx6JMDGQ0
- 【―― 14 ――】
稲荷よう子は、その真実に辿り着き驚愕し目を見開いた。
イ从;゚ ー゚ノi、「まさか、そんな……。でも、だとしたら鞍馬兼はいつから……まさか、最初から……?」
彼女の隣で死闘を見下ろしていた洛西口零は思わずよう子を見た。
クラスメイトとして敵として、それなりに付き合いがある零であっても彼女がここまで狼狽えた様は目にしたことがなかった。
よう子が何に驚いたのか分からない。
屋上を訪れた零が兼の戦いを観戦し始めた頃から状況は何も変わっていない。
精々、鞍馬兼が警棒を持つ手を右手に変えたくらいだ。
戦慄するように震えるよう子に零は訊く。
リハ*゚−゚リ「どうしたと言うんだい、らしくもない。まさかあそこにいる男が偽者だとでも言うんじゃないだろうね?」
イ从 ーノi、「……違います。あるいは疑う必要など全くありません。あの男は間違いなく鞍馬兼です」
あんな存在が他にもいるなんて恐ろしくて考えたくもありませんと小さく笑う。
- 729 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:40:05 ID:rx6JMDGQ0
あの男と渡り合える山科狂華や幽屋氷柱といった人間を稲荷よう子は武道家の端くれとして心底尊敬する。
無論、言わば『努力の天才』である鞍馬兼のことは言わずもがな畏怖しよう。
イ从゚ ー゚ノi、「……剣道は神事である相撲や弓道、現代でも十分活用可能な柔道や空手道等とは違い知識ある人々の中では評価が低いことが多い」
現実では刀を持ち歩くことなどできない。
しかも竹刀の振り方は真剣とは異なる為に居合道や抜刀術と違い日本刀を手にしたとしても使えない。
こと決闘においてさえ槍や薙刀といった物々に劣る。
文化としての伝統も廃刀令や戦争、また火事や価値観の変化により断続的だった。
けれど、それでも続いてきた道の先に彼のような剣士が在るのだとすれば――過去に剣に命を賭けた人間達も報われることだろうと。
少しだけ本気で、そう思う。
イ从 ーノi、「人体の仕組みを踏まえた極めて合理的な戦闘術である軍用格闘術が形骸化した剣に断ち切られるとは……あるいはこれ以上に痛快なこともない」
リハ;゚ -゚リ「一体どういうことなんだい? 何が、どうしたのかな?」
イ从゚ ー゚ノi、「……洛西口零。貴方が好きになったあの男は最高の剣士でした。彼に免じ今日は貴方を見逃します」
は?と零は小首を傾げ、よう子は淡く笑って屋上を後にした。
- 730 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:41:04 ID:rx6JMDGQ0
- 【―― 15 ――】
(゚、゚;トソン「(―――その笑みはなんだ!?この状況で何故笑える!?)」
鞍馬兼が寝技も得意ということはない。
むしろ柔道の授業でも寝技は苦手中の苦手だった。
――まさか普段は力を隠していた?
――だから調べた情報が間違っている?
――いや鞍馬兼という人間は何かに対し手を抜けるタイプではない、なら何故だ?
一瞬の内に十四の可能性に思い至り瞬時に全てを否定する。
そして思い出す。
教室前で遭遇した際の言葉を。
「冷静で理性的な人間は最善手を指そうとする」――鞍馬兼はそう言った。
(゚、゚;トソン「(まさか――そんなこと!?)」
その瞬間にトソンは全てを理解した。
- 731 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:42:04 ID:rx6JMDGQ0
彼女は見た。
背中から倒れ落ちながらも、まるで後ろを見ることなく――廊下に落ちていた拳銃を手にした兼の姿を。
それは、トソンが叩き落とした自動拳銃P230SL―――。
(、 ;トソン「(最初からそれが狙いか鞍馬兼―――!!!)」
剣道の試合場は「境界を含め一辺九メートルないし十一メートルの正方形または長方形」である。
境界は白のラインテープを使い分けられ白線を超えると反則を取られる。
反則を二回取られると一本になる為、鍔迫り合いや体当たりで相手を押し出そうとする行為も試合では散見される。
故に場外反則が定められる武道においては――基本的に、試合場の中央から離れ過ぎないような移動が必要とされているのだ。
間合いを計る際は退くのではなく円を描くように回る。
相手に追撃を加える際も転換により押し出されないように注意を配る。
ボクシングでロープ際に追い詰められることを防ぐように。
そして多くのボクサーと同様に、剣道家も「何歩下がれば場外か」を感覚で知っている。
それはつまり、経験則で。
- 732 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:43:04 ID:rx6JMDGQ0
だから鞍馬兼もそう動いた――最初にトソンと遭遇した位置から離れ過ぎないように。
(゚、゚;トソン「(最初からということはないにせよ、少なくとも中段半身に構えた時点でこれが狙いか!私が足払いを選択することまで読んでの……!!)」
足払いを受け倒されたのも。
追撃できる場面で攻めなかったのも。
円を描くような足裁きも。
あるいは、二十センチのリーチしかない軍用懐中電灯で小太刀を使う際の構えを取ったのも。
自分の負け方を知り、相手の勝ち方を知る――『無心の構え』。
剣道に弱さがあると言うのなら、その弱さを攻めたところを更に返す――それが鞍馬兼という剣士だった。
(、 ;トソン「(だとしたら鞍馬兼は『カウンターの天才』などではない、ゲームメイキングそのものの―――)」
( ω)「―――これが、僕だ」
トソンの思考を断ち切るかのように言って。
兼は引き金を引いた。
- 733 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:44:04 ID:rx6JMDGQ0
- 【―― 16 ――】
ハロー=エルシールの原点にして最後の技が『五の閃』だった。
……いや、喧嘩などの問題行動によって皇族から追い出され「神宮拙下」と名乗ることになった経緯を踏まえれば、神宮拙下の到達点が、と言うべきか。
『五の閃』は少林寺拳法の技ではなく、護身術の技でもない。
最も荒れており、同時に最も中二病の格好付けだった中学時代の彼が編み出した喧嘩の技だ。
当初は名前さえもなかった。
そして、ある時偶然に再会した鞍馬兼と彼が振るう剣を見て『五の閃』と名付けた。
後より出て先に殺す「後の先」と、同じ構えから打ち込みの一瞬で五つの技(面、小手、右胴、逆胴、突き)に変化する剣道の打突から。
高校で一緒に過ごすようになって「逆小手(左小手)も状況によっては有効打突に成り得る」と知ったのは笑える思い出だ。
ハハ ロ -ロ)ハ「……やはりお前程度ではトモのレベルには及ばないな」
そして神宮拙下の『五の閃』は――相手の対応を見た後で拳の軌道を変え、相手がガードしていない急所を狙うという技だった。
常人離れした思考速度、類稀なる各種関節及び筋肉を前提とした、天才の天才による天才の為の技だ。
あの幽屋氷柱をして「神業」と言わしめ、ハルトシュラー=ハニャーンに「選ばれた者のみの技」と評された『五の閃』。
当然だが相手の行動を見た後に攻撃場所を考えるので基本的に必ず直撃する。
- 734 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:45:04 ID:rx6JMDGQ0
今回の場合、日ノ岡亜紗の中段内受けで振られた左手が右腕に当たる前に、前に出ていた左脚を軸に右回転。
そのまま飛び上がり半身でガラ空きになった身体の正面を目掛けて踵を叩き込んだのだ。
一言で言えば飛び後ろ回し蹴り。
本人は引用元の中国武術から「転身旋風脚」と呼んでいる。
実は拙下本人は顔面を狙ったつもりだったのだが、練習不足なのか胸部に当たってしまった。
それも無理のないことで、そもそも『五の閃』を使わせるような相手に神宮拙下は数人しか出会ったことがないのだ。
だからこそ突き受けで倒れず、少林寺拳法の技を使わせ、『五の閃』を出させた日ノ岡亜紗のことを神宮拙下は素直に認める。
けれど――認めただけ、だった。
ハハ ロ -ロ)ハ「……少しは驚いたが想像通りの結果だ」
結果だけ見ればいつも通り自分の勝ちだった。
天才である自分の勝ちだ。
見下ろす少年はやはり天才などではなく――ただの凡人だった。
ハハ ロ -ロ)ハ「分かっただろう? お前の負けだ、能力体結晶を渡せ」
( ∀)「…………」
- 735 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:46:04 ID:rx6JMDGQ0
ハハ ロ -ロ)ハ「さっさと渡せ。気絶したのか?」
( ∀)「…………いやだ……」
ハハ ロ -ロ)ハ「フン、俺は優しいのでな、もう一度だけ訊いてやろう。渡せ」
( ∀)「……嫌だ、僕はまだ…………」
両の目から涙が溢れていた。
掛けていた伊達眼鏡も先の衝撃で飛んでしまったらしく涙が流れる様がよく見えた。
惨めで、愚かで、みっともない。
地面に這い蹲り言い訳もできぬほどに完敗しそれでも負けを認めない。
好きになれないなと天才は冷ややかに見下す。
そして。
ハハ ロ -ロ)ハ「そうか。生憎だが俺は凡人の泣き言に付き合っている暇はない」
彼は横たわる少年の手首目掛け思い切り足を振り下ろす。
呻き声が聞こえるが知ったことではない。
- 736 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:47:04 ID:rx6JMDGQ0
そうして手首を固定すると、その指にあったシンプルなデザインな指輪を抜き取った。
街の露天で買えるような簡素なものだ。
もしかするとこの能力体結晶は壬生狼真里奈から貰った指輪が元になっているのかもしれないと拙下は思った。
ペアルックだろうか。
だとすれば、車椅子を押す両手にこの指輪はあっただろうか。
いや、どうでも良いことだ。
どうしようもないことだ。
そう思い直し、神宮拙下は凡人に背を向け歩き出す。
( ∀)「…………くそ。後出しの択一攻撃なんて、どうしようもないじゃんかよ……」
ハハ ロ -ロ)ハ「……少なくとも俺の上司と鞍馬兼は倒れなかった」
耳に届いた涙声に天才は立ち止まり、答える。
( ∀)「僕は、あなたみたいになりたくて……。あんなに努力して……」
ハハ ロ -ロ)ハ「努力? は、何が努力だ笑わせるな」
- 737 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:48:04 ID:rx6JMDGQ0
無情に天才は言う。
ハハ ロ -ロ)ハ「俺と出逢ったことで努力し始めたなら、お前が努力した期間など中三から今までだけ。たかだか一年半年程度で努力などと……笑わせるな凡人」
その程度で「俺は努力した」なんて。
烏滸がましいにも程がある、と。
ハハ ロ -ロ)ハ「努力というのは人より練習し、その練習が日課になり、自分にとっての当然となって初めて『努力』だ。努力を努力と言っている時点でお前は大した努力はしていない」
人と同じことをやっているなら『当然』であり、練習して身に付かなければ『徒労』であり、付け焼刃なら『工夫』だ。
『努力』というものは特別な練習を日課になるまで続け、自身の血肉となった時に初めて『努力』なのだ。
そう――例えば鞍馬兼のように。
( ∀)「……最初から天才だったアンタなんかには、分からない……。影で皆に笑われる苦しみも、好きな相手に声も掛けれない辛さも……」
ハハ ロ -ロ)ハ「そうだな、俺には分からない。いけないか? 俺はそもそも他人のことを考えるなどごめんだ」
影で心ない言葉を言う人間は彼にだっているだろうが神宮拙下はそんな人間達のことを気にしたことすらない。
- 738 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:49:04 ID:rx6JMDGQ0
周囲が自分に対して何を思っているなどどうして気にする必要がある。
自分は自分でしかないというのに。
( ∀)「…………好きな相手の為に努力することの、何が悪いって言うんだ……」
ハハ ロ -ロ)ハ「フン、何が『好きな相手の為』だ。お前が頑張ったのはお前の為だろうが。お前が好きな相手に振り向いてもらいたいから頑張った、ただそれだけだ」
( ∀)「それは……!」
少年は言い返そうとした。
しかし輪郭はぼやけ、段々と薄くなる身体では最早声すら出せなかった。
彼は負けたのだ。
負けた。
だから消えるのだ。
ハハ ロ -ロ)ハ「ああ、ようやく分かった。俺はお前に三つ言いたいことがあった」
そうして天才は歩き出す。
- 739 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:50:03 ID:rx6JMDGQ0
もう耳を傾けることもない。
振り向くこともないだろう。
だから、いつかのあの夜のように歩き出しながら言う。
ハハ ロ -ロ)ハ「まず一つ目に勝負の世界には天才も凡人もいない。フィールドにいるのは『勝者』と『敗者』だけだ」
負けた天才は天才とは認められず、勝った凡人は天才と持て囃される。
才能を言い訳にすることなど許されない、勝者と敗者だけの世界――それが神宮拙下のいる世界。
ハハ ロ -ロ)ハ「二つ目に。お前は俺のようになればミブロマリナが好きになってくれると思ったようだが、奴は顔が良いとか喧嘩が強いとか、そんなことで恋人を選ぶ馬鹿な女ではない」
そんな上っ面な、見た人がどう思うかのような要素で人を区別したりはしない。
友達全員から否定されたとしても自分が好きになった相手ならば躊躇わず結婚するような、そんな一途な少女だ。
だからこそ神宮拙下は壬生狼真里奈を認め対等に扱うのだ。
ハハ ロ -ロ)ハ「三つ目に…………三つ目はなんだったかな」
言葉に答える声はもうなく、だから神宮拙下も再び歩き出した。
- 740 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:51:06 ID:rx6JMDGQ0
- 【―― 17 ――】
それを日ノ岡亜紗が聞けばどう思ったのだろうか。
『最後に話を戻しますが、心を読める人間がいたとして……多分それは大して役に立たないと思いますよ』
一通り話も終わり、礼を述べて立ち去ろうとした宝ヶ池に幽屋氷柱は言った。
日ノ岡亜紗の師でもある彼女は柔らかに笑って述べた。
『きっと心は読み取れるほど単純じゃない。一人の相手に対し「好き」という感情と「嫌い」という感情を抱き、「好き」の中に恋愛、友情、尊敬、肉欲という風に様々な要素が交じり合う』
矛盾する二つの感情を同時に抱き。
自分でも気付かぬ想いが在り。
グラデーションのような心は少しずつ色合いを変えていく。
他人の心が読めたとしても、その相手の全てを理解することなんて決してできやしないのだ。
そしてもし長い時間をかけ完全に理解したとしても余計に分からなくなるだけだろう。
だから。
- 741 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:52:03 ID:rx6JMDGQ0
だから心が読めたとしても、相手の全ては理解できないのだろう。
そして、だからこそ――人は言葉を紡ぐのだろう。
入り混じり移ろい変わりゆく不確かな心を『言葉』という形に変えて伝えるのだ。
『……だから少しで良いから伝わりますようにと願いながら私達は言葉を紡ぐ』
人は、人の心を読むことはできないけれど。
相手の気持ちを想像して、自分の気持ちを言葉にして――分かり合っていくことができる。
『少しずつ少しずつ。何度でも、何度でも……』
……それを日ノ岡亜紗が聞けばどう思ったのだろうか。
彼の願いは変わったのだろうか。
幽屋氷柱は言葉にしなかった。
日ノ岡亜紗に対しても、壬生狼真里奈に対しても、彼等の周りにいた人間に対しても、思うところはあったが言葉にはしなかった。
すれ違い離れて行く二人を黙って見送った。
彼女は良い人だが誰でも助ける善い人ではないのだ。
- 742 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:53:04 ID:rx6JMDGQ0
- 【―― 18 ――】
銃声が響き、そして。
(-、-トソン「……そうですか。だとしても――これが私です」
拳銃から放たれた弾丸はトソンの左手に受け止められ、落ちた。
無論、受け止めた掌に傷はない。
兼は言う。
( ・ω・)「それがあなたの能力ですか」
(-、-トソン「はい。あなたに敬意を表し、お教えしましょう。『ディストピア』――それがこの能力の名前です」
攻撃を無力化する能力か、あるいはそう見せかけられる別の能力か。
そんな便利な能力があるのなら何故今まで使わなかったのか。
奥の手を温存していた、ということも考えられるが恐らく彼女の性格を考えるに違うのだろう。
- 743 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:54:06 ID:rx6JMDGQ0
きっとトソンは保険として隠していた。
戦術的にはすぐに使えば良かったのだろうが戦略的には目の前の敵を倒すことよりも自身が生き延びることの方が重要だった。
だから兼は笑ってこう返す。
( −ω−)「はは、あなたは敬意を払って名前を教えるなんて柄じゃないでしょう。これはただの、時間稼ぎ」
そう言う兼の後方から走ってくる影があった。
刹那の攻防で必死で思考し策を巡らし合った為に時間間隔が曖昧になっているが、そろそろトソンの親愛なる部下が戻ってくる時間だ。
(-、-トソン「……そういうあなたも会話に付き合っているのは注意を逸らす為でしょうに」
そしてトソンの少し後ろにも灰色の男が立っていた。
鞍馬兼が常に敵であるトソンの言葉に対し応答していたのは、この為の伏線だったのか。
それは流石に考え過ぎだろうか。
兼は笑い、トソンも笑った。
(゚、゚トソン「こんなことを言うべきではないですが……楽しかったので。またお会いしましょう」
- 744 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:55:08 ID:rx6JMDGQ0
トソンの言葉に兼は苦笑する。
もう勘弁して下さい、さっさと何処かの強敵と相打ちになって下さいと心底願った。
そして。
(-、-トソン「―――イシダ。パターンβ、Bの24」
端的に部下に向けて指示を出すとトソンは開いていた廊下の窓から飛び降りた。
続けてイシダも同じく近くの窓から身を躍らせた。
いつからその窓は開いていたのだろう。
逃走経路を確保する為に拠点近くの窓を幾つか予め開けておいたのか。
気が付きもしなかったな、なんて。
ハハ ロ -ロ)ハ「無理にでも攻撃を加えた方が良かったか?」
( −ω−)「いや、戦わずに正解だと思うんだから。そもそも僕達には目的がある。退いてくれるならそれで良い。……それより、早く移動しよう」
ハハ ロ -ロ)ハ「何故だ?」
( ・ω・)「あのトソンという軍人モドキがRPGを打ち込んでこないとも限らないから。一度逃走したと見せかけて油断させて」
- 745 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:56:05 ID:rx6JMDGQ0
- 【―― 19 ――】
それからも一年普通科七組の昼休みはいつもと変わらなかった。
クラスメイト達は仲の良い友達と机を合わせ、談笑し長閑な一時を楽しんでいる。
ただ唯一変わった点があるとすれば――いつも昼休みの途中で教室を出て行っていた壬生狼真里奈がずっと自分の席にいるくらいだった。
「そう言えばさ、どうして別れちゃったの〜?」
「え?」
「そうそう。あのカレシの話だよ、どうして別れちゃったのさ」
いつもの二人の友人の問い。
どうしてと訊かれると答えるのが難しい。
いつ好きになったのかも答えられなかった自分はいつ嫌いになったのかも答えられない。
いや、答えられないのも無理はない。
だって嫌いになったから別れたわけではないのだから。
今だって、多分――好きなのだ。
- 746 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:57:04 ID:rx6JMDGQ0
けれど長い間話し合って、言葉を交わして、考え想い伝えた結果として二人は別れた。
涙を流す彼の姿は今でも鮮明に思い出すことができる。
いつか彼が泣いている時に傍にいてあげられたらなとずっと真里奈は思っていた。
けれど彼は付き合っている間はずっと涙を見せなかった。
そしてやっと訪れたその状況は別れの場面だった。
私は、泣いていただろうか―――。
「あー……どうして、なんだろう。どうしてなのかな?」
「どうしてって真里奈が分からないのに私達が分かるわけないじゃん。噂されてるみたいに『お兄ちゃんに邪魔された』って感じじゃないなら、良いんだけどさ」
それはないよと真里奈は笑う。
そうしてやっと気が付いた。
……そうだ。
私は泣いていなかった。
悲しいけれど、多分笑っていたのだ。
彼と別れたのは――「彼の隣にいる私は笑えなかったから」という、ただそれだけなのだろう。
- 747 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:58:04 ID:rx6JMDGQ0
彼の心と私の心。
二つの心は少しずつズレて、すれ違って。
彼は見違えるほど格好良くなったけど私は前の彼の方が好きだった。
曖昧な笑みも。
悲しそうな瞳も。
優しい嘘も。
二人で過ごした日々も。
抱いていた思いも。
届かなかった想いも。
何もかも。
私は、どうすれば良かったんだろう。
もしももう一度、最初からやり直せるとすれば私はどうすれば良いんだろう。
分からない。
分からない。
……分からないのだ。
「私達は似てたのかな? それとも全然違ってたのかな? ねぇ……」
そんな問いにさえ、真里奈は答えられないのだ。
- 748 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 07:59:06 ID:rx6JMDGQ0
- 【―― 20 ――】
「……だから『放っておいてあげて』と何度も言ってるでしょう? 無理に連れ戻してもどうしようもありません。分かりましたか?」
道場に足を踏み入れると聞こえてきたのは温厚な彼女に珍しい苛ついたような口調だった。
壬生狼真希波は通話中の氷柱に頭を下げる。
氷柱は会釈を返すと、適当な言葉と共に電話を切ってしまった。
「空手道部の部長から……かな」
「ええ。学校の部活動だとこういうことがあって、その、苦手です。有望な部員が減ると困るのは分かりますが……」
「だからと言ってやる気のない人間を引き止めてもどうしようもないな」
「そうですね。武道は好きな人間が好きにやるべきものです。どの道を行くかなんて誰かに強制されるのはおかしな話でしょう?」
箴言だな、と真希波は笑った。
彼女のような高潔な人間と向き合うと世俗に塗れた自分も武道というものをやってみたくなる。
自嘲する笑みを浮かべつつ真希波は思った。
武道の経験があるだけで気高くなれるなら苦労はない。
- 749 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 08:00:10 ID:rx6JMDGQ0
氷柱は言った。
「それで何か御用でしょうか」
「用がなければ来てはいけない場所かな、ここは」
「そういうわけではないですが、遊びで来られると困ります。一応、道場ですから。でも鍛錬ならば歓迎しますよ。道場ですから」
検討しておくと答え、真希波は本題に入る。
言うまでもないが遊びに来たわけでも鍛錬をしに来たわけでもない。
「用、か。こちらに用は特にないが、そちらには用があるのではないかと思い伺ってみた」
「つまり私が何か伝えたいかもしれないと考え、それは他人に聞かれると不都合なことなので、教室や会議室に訪ねて来られないように先手を打ったわけですか」
その通りだが、まさか瞬時に看破されるとは思わなかった。
幽屋氷柱は身体能力だけではなく頭脳も人並みを遥かに超えている。
もしや武道をやると頭の回転も早くなるのだろうか。
やり難い、と感じつつも同時に面白いとも思う。
真希波は頭の冴えた女子が好きだった。
- 750 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 08:01:06 ID:rx6JMDGQ0
当然、幽屋氷柱に対しても好意を抱いている。
同時に警戒もしているが。
「その通りだ」
「だとしたら杞憂ですよ。私はあなたに言いたいことなんてありませんから」
「そうかな」
「ええ。私の弟子の気持ちを察し、誑かし、利用し、挙句に妹が取られるのが嫌になって捨てたとしても、特に何も」
弟子――日ノ岡亜紗。
「そうか、もしそんなことをしていたとしても何も言わないか」
「はい。あなたを軽蔑することはありませんし、弟子に同情することもありません。恋愛は自由なものですから」
誰を好きになることも、他人の助言を聞き入れることも、何もかもが自由であるべきだ。
そして自由であるが故に責任が伴う。
例えロクでもない人間を好きになって破滅したとしてもそれは本人が悪いのだ。
- 751 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 08:02:13 ID:rx6JMDGQ0
日ノ岡亜紗が壬生狼真希波に何を言われたのかは分からない。
もしかしたら何も言われていないのかもしれない。
しかし何かを言われていたとしても、その言葉に耳を傾けたのは日ノ岡亜紗であり――道を選んだのも彼なのだ。
「だから私に罵倒され責められることで自身の中の罪悪感を薄めたいと考えたのなら、生憎ですが他を当たって下さい」
「なるほど。だがそれには及ばない。後に悔いるような選択はしないことに決めている。そもそも人間はその為に思考し、想像する生き物だ」
より良く生きようと思考する。
良い未来を想像する。
後悔する選択肢など最初から選ばなければ良いだけの話だ。
観察し、情報を精査し、可能性を考慮し、想像し思考し、そして選択する。
この世界に溢れる悲劇は何も全てが「街を歩いていたら突然隕石が落ちてきた」というような回避のしようがないものばかりではないのだから。
「……むしろ大半の不幸は良く思考し良く想像した上で選択すれば回避できるものだ」
今回の一件にしても選択の前に少し考えれば良かっただけなのだ。
日ノ岡亜紗にしても、壬生狼真里奈にしても。
- 752 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 08:03:12 ID:rx6JMDGQ0
ですが、と氷柱は言った。
「ですが後悔し反省することで学べることもあると思います」
「きっと人間は経験したことでしか、本当の意味で理解しない……確かにそうかもしれない。だが人間の良さとは社会的存在であることだ」
多分「人は一人では生きていけない」――のではなく「人は一人で生きると効率が悪い」のだろう。
経験したことでしか理解しないとしても、他人に共感することができる人間は他人の経験を理解し生かすことができる。
だから二人も誰かに相談すべきだったのだ。
もしも二人の内のどちらかが、どちらかでも幽屋氷柱に話していれば結末は変わっていたはずだ。
現実はそうはならなかったけれど。
けれど。
「もし何処かの男女が、何か些細な行き違いで、別れることになったとして。せめて次はその経験を生かし、思考し、想像し、選択して欲しいと思う」
彼等が今度は幸せな結末を手にできますようにと願うよ。
壬生狼真希波はそう言って、含みを持たせるように微笑んだ。
それを見、幽屋氷柱は少しだけ呆れたように笑った。
- 753 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 08:04:16 ID:rx6JMDGQ0
- 【―― 21 ――】
天才は言った。
『俺は生まれて初めて人が羨ましくなったよ。お前のことが、心底羨ましくなった』
電話から聞こえる声に鞍馬兼は驚愕する。
あの傲慢で誇り高い天才が、「誰かが羨ましい」などと口にするなんて。
しかもその羨ましいという相手は自分なのだ。
少し考え兼は言った。
「……僕は、昔は君のことが羨ましかったけどね。ううん君だけじゃなくて才能がある人が皆羨ましかったよ」
負けてばかりだったことを思い出す。
辛くて、苦しくて、悔しくて、悲しかったことを思い出す。
『…………フン。俺に言わせればお前ほど強い人間もいないがな』
- 754 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 08:05:15 ID:rx6JMDGQ0
鞍馬兼のことを良く知る人間は彼を『努力の天才』と評する。
しかしそんな呼び名では、兼の強さの一割も表現できていないと思うのだ。
きっと彼の強さとは負け続けられること。
負けても、歩みを止めないことだ。
負けることを嫌う人間は多いが、そもそも『負け』とは勝負した人間にしか得られない一つの結果だ。
それはあるいは勝ち以上に価値がある経験―――。
『お前のような人間がいるからこそ俺は武道をやってみたくなった。昨日の自分に挑む競技じゃなく、誰かと競い合う勝負を』
他人などどうでも良いと思っていた。
だから昨日の自分とタイムに挑む短距離走を始めたのだ。
……でも、鞍馬兼のような凡人がいるのなら、他人と戦うスポーツも悪くないと思った。
何度でも這い上がってくる、幾度となく立ち塞がる。
これほど楽しいことが他にあるだろうか?
長い長い道程を。
走ったり、歩いたり。
追い抜いたり、追い付かれたりしながら、時には転んだり。
そういった全てが堪らなく楽しい。
- 755 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 08:06:08 ID:rx6JMDGQ0
ずっと一人で歩いて来た灰色の天才は、ずっと一人で歩いて来たからこそ素直にそう思う。
『次は剣道をやるのも面白いかもしれないな。そうすればヤマシナキョウカやカクリヤツララとも戦える』
「あの二人は僕より強いよ」
『そうだ、だからこそ戦ってみたい。いけないか?』
いや君らしいと兼は笑った。
拙下も小さく笑う。
そうして「アイツもいつかまた立ち塞がって来れば良いのにな」と思う。
『……トモ、俺はな』
「え?」
『お前のことが羨ましいと言ったのは、俺がお前のようだったならば、一人の掛け替えのない凡人をどうにかできたかもしれないと思ったからだ』
どうにか、とはどういうことなんだろう。
- 756 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 08:07:04 ID:rx6JMDGQ0
背を押したかったのか。
手を差し伸べたかったのか。
救いたかったのか。
助けたかったのか。
具体的に何をしたかったのかは分からないが、もう少し他人の気持ちが分かることができたら何かが違っていたかもしれないと。
神宮拙下はそう思ってしまう。
『俺らしくもないが本当にそう思うんだ。お前のように周囲のことを考えられたら、何かが変えられたかもしれないと……』
なあ、トモ。
お前ならどうした?
お前はどうするべきだったと思う?
彼のらしくもない問い掛けに凡人は少しだけ悩み、答えた。
「……あまり良く分からないけれど、多分今の君みたいにすれば良かったんだと思う」
『でもアイツは俺みたいになりたいと思って、それで……』
「そうじゃなくて」
- 757 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 08:08:08 ID:rx6JMDGQ0
才能があるとかないとかではない。
それは、単に。
「今、君は分からないことを他人に問い掛けている――そういうことをその人もすれば良かったと思う」
僕が思う君の良いところの一つは本当に大事なことはちゃんと訊いて話してくれるってことなんだから、と。
鞍馬兼は言って笑った。
普段はまるで人の話を聞いていないけれど。
でも重要なことには真摯に向き合おうとする姿勢は神宮拙下の一つの長所だ。
自身の足りない部分は他人を頼ることで補おうとする、それは弱さではなく立派な強さだ。
『ああ、そうか……。それだけで良かったのかもしれないな……』
日ノ岡亜紗も。
壬生狼真里奈も。
そんな些細なことが足りなかったのかもしれない。
- 758 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 08:09:13 ID:rx6JMDGQ0
「彼女の為に」と決意し努力した日ノ岡亜紗は別れの時まで彼女の想いを聞こうとしなかった。
彼女の心を知りたいと望みながら、周囲の声ばかり気にし問い掛けることをしなかった。
一方で彼のことを好きだった壬生狼真里奈は大切に思う故に「彼が決めたことだから」と彼の選択に口を出さなかった。
言えば良かったのだ、「そんなことはしなくて良い」と。
あれこれ口出しし、我侭を言い、想いを伝えれば良かったのだ――だって好きなのだから。
恋人同士だったのだから。
「意見を言うことと強制することは全然違うよ。言わなきゃ伝わらないなら、言わないと駄目なんだから」
自分が傷付くのが嫌で、相手を傷付けるのが嫌で。
でもだからと言って、偽って誤魔化して曖昧に流してばかりではいられない。
だって、好きなのだから―――。
『俺は……いや、人間は他人の心は分からない』
「でも分からないからこそ他人の心を想像し、問い掛け、話し合い、分かり合っていくことができる」
『そうだな』
- 759 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 08:10:10 ID:rx6JMDGQ0
そうだ、確かにその通りだ。
そもそも自分達はその為に戦おうと決意した。
そう、彼女達と。
『……フン。俺達も上手く想いを伝えられると良いがな』
「敵対したこと、後悔してる?」
『少しだけな』
天才らしくもないねと呟く兼に神宮拙下は笑って言った。
俺はマキナとは違うからな、なんて。
『敗北し、失敗し、後悔し――けれど絶望せず、反省を繰り返しながら前に進む。そういうのも悪くないと思っている。……いけないか?』
【―――The last part of Second-extra-episode END. 】
- 760 名前:断章投下中。:2013/04/02(火) 08:11:13 ID:rx6JMDGQ0
- 【―― 0 ――】
《 wish 》
@[SV(that)節]…すれば良いのだがと思う、…であれば良いのだがと思う〔※仮定法過去;現在の事実に反すること等への願望を表して〕
A[SV(that)節]…していれば良かったのにと思う、…であったら良かったのにと思う〔※仮定法過去完了;過去の事実に反すること等の願望または悔恨を表して〕
B[SV(that)+S+would]…であれば良いのだがと思う〔※仮定法過去;現状への不満や遺憾の気持ちを含み、けれど淡い望みを表して〕
C[SVO1 O2 / SVO2 to O1](人が)O1(人)にO2(成功・幸運など)を祈る
――自
D[SV(M)](人が)(…を)望む、切望する、思い焦がれる
――名
E[しばしば〜es]やんわりとした命令、穏やかな要請、意向
F(他人の幸福や健康への)切なる願い
.
- 761 名前:作者。:2013/04/02(火) 08:12:18 ID:rx6JMDGQ0
警視庁撃剣形二本目は『変化』という鞍馬流の技です。
技の分類で言うと巻き落とし技になり、打ち込んできた相手の竹刀を巻き落とした後に打ち込むという技です。
僕は正直今でもこの技がよく分かりません。
どうも完全な慣れによる技(相手の打突に完璧に合わせるとできる技)らしいです。
鞍馬兼というキャラを作る際、鞍馬流のことを思い出したので、「経験によってのみ到達できる境地」を組み込もうと考えました。
結果的には神宮拙下の「才能を前提とした妙技」と対応した感じになって良かったです。
というわけで、これで二回目の断章は終了となります。
日ノ岡亜紗のテーマはGRANRODEO「Can Do」ですが、彼と真里奈のイメージは「嘘つきの世界」です。
鞍馬兼は「リニアブルーを聴きながら」だったりします。
この断章の主役は日ノ岡亜紗だったはずなのですが対比として出した神宮拙下と鞍馬兼が目立ち過ぎたのが反省点です。
またあとがたりとこの断章の後日談を投下する予定なので楽しみにして下さいな。
ちなみに神宮拙下の元ネタはアイシールド21で言えばセナではなく金剛阿含ですね(描写的には越佐大橋シリーズの雨霧八雲)。
- 768 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 19:48:08 ID:mhpHCSBg0
|゚ノ*^∀^)「あとがたり〜」
|゚ノ ^∀^)「『あとがたり』とは小説などにある後書きのように、投下が終了したエピソードに関して登場キャラがアレコレ語ってみようじゃないかというものです」
j l| ゚ -゚ノ|「要するに後書きの語り版であとがたりだ」
|゚ノ ^∀^)「こんなに長いエピソードだったのに僕は出てませ〜ん!」
j l| ゚ -゚ノ|「私の部下の話なのに私は出ていない」
―――『あとがたり・第二回断章篇』
.
- 769 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 19:49:10 ID:mhpHCSBg0
|゚ノ*^∀^)「きっと本物のバスターマシンパイロットは! 本物のノノリリは!! 心にバスターマシンを持っているのだから!!」
|゚ノ ^∀^)「改めまして、あと久しぶり♪ レモナこと高天ヶ原檸檬です」
j l| ゚ -゚ノ|「努力と根性と言えばト●プだと先輩が煩かったことを思い出すのが私だ。ハルトシュラー=ハニャーンだ」
|゚ノ*^∀^)「そしてスペシャルゲスト!今日の解説!!」
川 - 々-)「皆さんお久しぶりです。兼じゃなくてすみません、山科狂華です」
j l| ゚ -゚ノ|「……何故貴様が?」
川 ゚ 々゚)「武道関係の解説である氷柱さんの代わりで」
j l| ゚ -゚ノ|「なるほど。私としたことが迂闊だったな、確かに今回の話は武道ネタがやたらに多かった」
|゚ノ ^∀^)「僕もシュラちゃんも武道は専門じゃないからねー」
川 - 々-)「すみません俺も別に専門ってわけじゃないです」
j l| ゚ -゚ノ|「一応弓道部だろうに」
- 770 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 19:50:08 ID:mhpHCSBg0
|゚ノ*^∀^)「じゃ、最初は武道の話からしよっか」
|゚ノ ^∀^)「今日出てきたのは少林寺拳法、空手道、剣道だったよね?」
川 - 々-)「そうですね。どれも俗に言う『日本九大武道』に含まれているとてもメジャーなものです。ある程度の交友関係があれば、誰かしらは経験者がいるではずです」
j l| ゚ -゚ノ|「私の兄は一応全て心得がある」
川 ゚ 々゚)「まず少林寺拳法ですが、単なる武道やスポーツではなく宗教でも教育でもある、端的に言えば『仏門修行』的な意味合いもあるものです」
川 - 々-)「なんで精神修養を凄く重視しますし、公的な演武では法衣を身に纏ったりします。……すみません、俺は面倒な武道だと思いますが」
|゚ノ ^∀^)「どう考えても神宮君には合わないのに誰が勧めたんだろうね?」
j l| ゚ -゚ノ|「合わないからこそ勧めたのだろう。悪ガキを寺に預けるのと同じだ」
川 ゚ 々゚)「あの人の戦い方はまあ、ほぼ少林寺拳法関係ないものですが、少林寺拳法には打撃攻撃の対処法である剛法と抜きや投げの対処法の柔法があります」
|゚ノ ^∀^)「護身目的だから先手の技がないんだよね」
川 ゚ 々゚)「百を超える技がありますが、大体の技が受けから攻めの流れるような応じ技ですね。当たり前みたいに背後からの攻撃に対する防御法がある辺りが護身目的らしい」
- 771 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 19:51:12 ID:mhpHCSBg0
川 ゚ 々゚)「大体教義の中に『守主攻従(自分からは手を出してはいけない)』があるので先手がないのは当たり前ですが」
川 - 々-)「教えも難しいですし、すみませんちゃんと勉強したいなら習うしかないです」
j l| ゚ -゚ノ|「あの男も性根こそそのままだが、一応目上の方に対しては正しい言葉遣いと立ち振舞ができるようになったらしい」
|゚ノ ^∀^)「次は空手だね」
川 ゚ 々゚)「空手についてはご存知のように殴ったり蹴ったりする武道ですが、すみません、詳しくは解説できません」
j l| ゚ -゚ノ|「多様化しているからだな」
川 - 々-)「はい。この辺りは別派を認めない少林寺拳法とは対極的ですね」
川 ゚ 々゚)「近くに空手やってる人がいたら何派とか何流とか訊いてみると面白いかもしれません。それによってルールも全然違いますし」
j l| ゚ -゚ノ|「ちなみに日ノ岡亜紗の取り組んでいた空手については、あえてぼかしてある。最初から負ける予定だったからだ」
j l| ゚ -゚ノ|「が、空手は流派によって同じ技術でも名称が異なることがあるので、とても詳しい人なら現実世界のどの空手に相当するか分かるかもしれないな」
- 772 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 19:52:05 ID:mhpHCSBg0
|゚ノ*^∀^)「最後は剣道だ!」
川 ゚ 々゚)「古武道の剣術から江戸後期の撃剣を経て成立した武道ですね。剣道家が真剣を使えないのは直接のルーツが撃剣(竹刀競技)だからです」
川 - 々-)「ただ本来は形稽古で技を覚え、地稽古で駆け引きを学ぶものだったので、現状に不満を覚える人間もいます」
j l| ゚ -゚ノ|「鞍馬兼の師達は形稽古を重視していたのだろうな」
川 ゚ 々゚)「すみません、兼が習った師匠が鞍馬流だとすれば奴が強いのも分かりますね。鞍馬流は剣術でも撃剣でも強かったらしいですし」
|゚ノ ^∀^)「その『鞍馬流』はどんな流派なのかな?」
川 - 々-)「昔話や時代劇に出てくる京八流の末流とされ、現代剣道でも活用できる返し技や応じ技が多く伝わる流派ですね。まさに『後の先』って感じの」
川 ゚ 々゚)「警視庁武術世話掛だった柴田衛守って人が有名ですね」
j l| ゚ -゚ノ|「どのような剣客だった?」
川 - 々-)「すみません知らないですが、多分兼みたいな奴だったんじゃないですかね?」
川 ゚ 々゚)「『器用をも 達者も得手も たのむまじ ただねり込みて 功をつむべし』――こんな歌残すくらいですから」
- 773 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 19:53:05 ID:mhpHCSBg0
川 ゚ 々゚)「本編で語られた話の補足をしておくと、柔道の創始者である嘉納治五郎に触れられてましたが、この人が剣道形作ったことになってますね」
川 ゚ 々゚)「文部省が普遍的な形を作ろうとして各地の流派の人間を集めて委員会を作ったと。で、その責任者が嘉納治五郎です」
|゚ノ ^∀^)「『警視流撃剣形』っていうのは?」
川 ゚ 々゚)「西南戦争の後に警視庁で剣術(撃剣)の形を作ると決まり、世話掛の流派の選りすぐりの技を一つずつ選んで作ったものです」
川 - 々-)「さっき言った鞍馬流以外にも、北辰一刀流とか柳生流とか名立たる流派の技が取り入れられてます」
川 ゚ 々゚)「今も警視庁の剣道家は練習するらしいです」
j l| ゚ -゚ノ|「……鞍馬兼が中段半身に構えた際の地の文に出てきた『不退転』という用語についても解説した方が良いのではないか?」
川 - 々-)「ああ、不退転ですか……。近年は妙に御上の人間が言いますよね、『不退転の決意で』って」
|゚ノ*^∀^)「色々意味があるんだよね?」
川 ゚ 々゚)「一つ目は仏教で『得た功徳を失わないこと(修行を怠らないこと)』という意味ですね。二つ目の意味は不屈と同じ感じです」
川 ゚ 々゚)「口語的には『常に攻めの意思を見せる』みたいな、後ろに下がらないっていう意味もありますが、多分兼的には二つ目の意味でしょうね」
- 774 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 19:54:09 ID:mhpHCSBg0
j l| ゚ -゚ノ|「今回の断章は一般的なスポーツ漫画のアンチテーゼ的要素が散見されたが、鞍馬兼というキャラクターがまさにそうだったな」
川 - 々-)「アイツあんま勝とうと思ってないですからね、試合中。戦っててビビりますよ」
|゚ノ*^∀^)「普通『うおおー!負けられないんだー!!』的なテンションで戦うはずなのに……。なんなのかな? あの勝気のなさ」
川 ゚ 々゚)「ただ兼は勝とうとは思ってませんが、すみません、負けたいと思ってるわけじゃないんですよね。当然どうでも良いとも考えていない」
|゚ノ ^∀^)「『力を出し切りたい』って感じ?」
川 ゚ 々゚)「八割それで、一割が勝負を楽しみたいで、もう一割が勝つことで師匠や先輩の誇りを守りたい、ですね」
川 - 々-)「別にアイツは流派の誇りを賭けて戦ってるわけじゃないんで。◯◯流第××代継承者とかじゃなくて趣味で剣振ってるだけの普通の剣士ですから」
j l| ゚ -゚ノ|「だが、ある意味でとても武道家らしいメンタリティだ。負ければ死ぬ戦場ではそういう風に考えることはできない」
川 ゚ 々゚)「あの灰色の天才は同じ相手と何度でも戦える武道を『これほど楽しいことは他にない』と考えてましたが、考えようによっちゃ残酷ですよね」
|゚ノ ^∀^)「え?」
川 - 々-)「だってそうでしょう? 負けても続きがあるってことは、負けた惨めな姿を見られ続けるってことですから」
- 775 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 19:55:11 ID:mhpHCSBg0
川 ゚ 々゚)「殺し合いなら一回で済んだはずの屈辱を幾度となく味わうことになる。才能ある人間と戦う度に惨めな気分になる」
川 - 々-)「それが嫌だからってやめれば『途中で折れた人間』としての烙印を押され残りの人生を生きることになる。こんなに残酷なことってないでしょう」
|゚ノ ^∀^)「……格好を大事にする君らしい考え方だね」
川 ゚ 々゚)「すみません、俺は才能があったんで剣道でもすぐに勝てるようになりました。でも兼はずっと負け続けだった」
j l| ゚ -゚ノ|「でもやめなかった――そうだろう?」
川 - 々-)「ええ。だからあの天才が言うように、兼の強さとは『負け続けられること』なんでしょう。負けても、歩みを止めないこと」
|゚ノ ^∀^)「皮肉と言えば皮肉だよね。負け続けた故の勝気のなさが無心に繋がったっていうのは」
j l| ゚ -゚ノ|「『大事なのは頑張ること』という綺麗事を自己満足と理解しながら、一方で一生懸命生きてきた自分を誇りにも思っている。不思議な男だな」
|゚ノ*^∀^)「でも『ナンバーワンにはなれずとも、頑張った日々はオンリーワンな自分の中で生きている』って一文はカッコいいよねぇ♪」
川 ゚ 々゚)「すみません、俺からすれば当たり前だろって感じですがね。だってアイツ、結果出るまで努力し続けますし」
川 - 々-)「普通は結果が出なければやめてしまうけれど、兼はやめなかった。普通に凄いアイツの、普通に凄い部分はきっとそこなんでしょうね」
- 776 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 19:56:08 ID:mhpHCSBg0
j l| ゚ -゚ノ|「そう。そう言えば『鞍馬兼』というキャラクター自体もアンチテーゼ的だ」
j l| ゚ -゚ノ|「『ただ少し恵まれていただけの、何にも選ばれなかった普通の人間だ。』という一言に象徴されるような普通の人間だ」
川 - 々-)「俺のようなキャラクターの対比になってますね」
|゚ノ ^∀^)「才能とか不幸とか、運命とか、そういうものに選ばれなかったからこそ自分で選んだものを大切にしてるんだね」
川 ゚ 々゚)「俺みたいに周囲に押し付けられた設定がないってことは、つまり人の所為にできないってことで。当たり前なことだけど大変ですよね」
|゚ノ*^∀^)「……でも彼の一番の特異な点は凡人なのに、凡人を否定してる点だよね」
|゚ノ*^∀^)「一年や半年程度の努力が駄目ならジャ●プのスポーツ漫画の主人公は大体駄目じゃん、みたいな」
|゚ノ ^∀^)「ジョルジョルが敵意を抱いちゃうのはそういうことなのかな?」
川 ゚ 々゚)「兼はそういうことを他人に言ったりしませんけど、でも分かってるんでしょうね。『自分より努力した人間なんて幾らでもいる』って」
j l| ゚ -゚ノ|「だから『天才』と呼ばれることを嫌うのと同じく『努力』という言葉も使いたがらない」
- 777 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 19:57:14 ID:mhpHCSBg0
j l| ゚ -゚ノ|「代わりに奴は『経験』という単語を使うが……これは『自分は人より長く練習しなければ結果を出せない不器用な人間だ』ということだろう」
|゚ノ ^∀^)「こうして見ると同じ凡人でも日ノ岡亜紗君とは全然違うね」
j l| -ノ|「……ただ恐らくだが、鞍馬兼は自分よりも日ノ岡亜紗の方が余程立派だと考えているだろう」
|゚ノ ^∀^)「たかだか一年半年の努力で結果を出したから?」
j l| ゚ -゚ノ|「それも一つだ。加えて負けず嫌いで、誰かの為に必死で戦おうとする様にある種の畏敬を抱いていると推察するのが私だ」
川 - 々-)「すみません、確かにそうですね。兼は自分のモチベーションを『自己満足』としてますから。凄いとか羨ましいって感情はあるでしょうね」
j l| ゚ -゚ノ|「しかし鞍馬兼は自分のスタイルを確立しているので尊敬はしても『ああなりたい』とは思わないのだろうな」
|゚ノ*^∀^)「『俺は俺にしかなれない。でも、これが俺なんだ』って感じかな?」
川 ゚ 々゚)「兼的に言えば『思わざれば花なり、思えば花ならざりき』ですね。何処かの戦闘機のパイロットみたいですけど」
j l| ゚ -゚ノ|「ちなみに原典は世阿弥の風姿花伝だ。日本の有名な芸道論の一つだな。奴としては、止心を否定し泰然として構える、くらいの意味だろう」
川 - 々-)「この辺りも見栄や格好を大切に俺と対照的ですね」
- 778 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 19:58:10 ID:mhpHCSBg0
|゚ノ*^∀^)「……でも鞍馬クンに認められてる割には日ノ岡亜紗君弱かったよね」
川 ゚ 々゚)「すみません、一応言っておきますけどアイツ割と強いですよ」
川 - 々-)「今回は相手が悪かっただけで、兼とも良い勝負するでしょうし、俺とは互角以上に戦うと思います」
j l| ゚ -゚ノ|「相性の問題だな」
川 ゚ 々゚)「はい。俺は相手の虚を突くことで有利に立ち回りますが心読まれてたら虚も何もないでしょう。仕掛けたところをカウンター貰って終わりです」
川 ゚ 々゚)「兼に関しても、経験則による反射である『無心の構え』はどうしようもないですが、もう一つの必殺技は防げるでしょうし」
|゚ノ*^∀^)「まだ必殺技があるのかな?」
川 - 々-)「今回兼が最後にやったような相手の行動を誘導し嵌めるという技は『アクティブ・カウンター−B』と呼ばれてます」
川 ゚ 々゚)「というか呼んでいます。俺が」
j l| ゚ -゚ノ|「詳しい設定は次回のオマケに出てくる。楽しみにしていて欲しい」
川 - 々-)「何故アイツがトソンなる美少女を圧倒できたのかも説明されるんでよろしくお願いします」
- 779 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 19:59:14 ID:mhpHCSBg0
|゚ノ ^∀^)「日ノ岡亜紗君がそこそこ強いのは分かったケド、『心を読む』という能力は全然考えない神宮君には相性が悪かったんだね」
j l| ゚ -゚ノ|「奴は戦術や戦略を練り戦うタイプでないからな。身体能力こそ全てにして絶対という天才だ」
j l| ゚ -゚ノ|「補足しておくが、『五の閃』の瞬間に日ノ岡亜紗を襲った激しい頭痛は脳のキャパシティを超える膨大な情報を取得した結果だ」
|゚ノ*^∀^)「神宮君があの一瞬で常人の数十秒〜数分に相当するような量を思考したからパンクしちゃったんだね」
川 - 々-)「能力バトルでは最強の一角であるはずの読心能力が役に立たないどころか足を引っ張ってしまっている辺りも、すみません皮肉ですね」
川 ゚ 々゚)「……いや一番の皮肉は『俺は努力した』と主張する日ノ岡亜紗が偶然手に入れた超能力を当てに戦ってたことなんでしょうが」
j l| ゚ -゚ノ|「鞍馬兼や神宮拙下、都村藤村が能力ではなく自分を信じて戦っていたこともな」
|゚ノ ^∀^)「でもそう考えると、日ノ岡亜紗君はエンディングで部活やめてたケド――それって単にやめたんじゃなくて『脳に障害が残ってできなくなった』んじゃ……」
川 - 々-)「…………すみません悲し過ぎます」
j l| ゚ -゚ノ|「流石にそれはないだろう。多分」
- 780 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 20:00:17 ID:mhpHCSBg0
|゚ノ*^∀^)「そうそう。凡人を見下すような発言が目立った神宮君だけど、何気に心の声は『失望したかのような』感じだったんだよね」
j l| ゚ -゚ノ|「望みを持っていなければ失望はしない。心の奥底では、きっと期待していたのだろうな」
川 - 々-)「すみません、ちなみに『凡人に凡人と言うのはいけないことか?』という一言も終盤の発言を踏まえないと真意が分からなかったりしますね」
川 ゚ 々゚)「勝負の世界には才能なんて関係ない。そこにいるのは勝者と敗者だけであり、凡人だからといって天才に勝てないということはない。だから頑張れ」
川 - 々-)「……意訳するとこんな感じですかね」
j l| ゚ -゚ノ|「日ノ岡亜紗が読み取った『絶対勝つのは俺』『俺が負けるはずがない』という思考は認識ではなく神宮拙下の矜持だ」
|゚ノ ^∀^)「心を読んでいたからこそ余計に勘違いしちゃったんだね」
|゚ノ*^∀^)「何処かの地上最強の生物みたいに鍛え上げられた強さを叩き潰すことが大好きな神宮君にとっては、倒してもその度に強くなって立ち上がってくる凡人が一番面白い」
川 - 々-)「俺が叢●劾だとすれば、あの人はジョー●・グレンというわけですね」
j l| ゚ -゚ノ|「好きな相手の為云々という発言に対しては『上等な料理にハチミツをブチ撒けるがごとき思想』と考えているのだろうがな」
- 781 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 20:01:06 ID:mhpHCSBg0
j l| ゚ -゚ノ|「ちなみに神宮拙下が少林寺拳法の技を使おうとしないのは戦い方に合わない以外にも理由がある」
川 - 々-)「少林寺拳法自体に対する礼儀、ですね」
j l| ゚ -゚ノ|「そうだ。口では理念を尊重する気はないと述べているが……まあ、奴の発言と真意がちぐはぐなのはいつものことだ」
|゚ノ*^∀^)「ちぐはぐっていうか、分かってない?」
|゚ノ ^∀^)「鞍馬クンとの最後のやり取りを見る限りだと、神宮君が分からないのは他人の気持ちじゃなくて自分の気持ちだと思うなあ」
川 ゚ 々゚)「対し、兼は躊躇いなく武道の技を私闘に使ってますが、多分それはただの武道ではなく警視流の流れを汲んでいるからです」
j l| ゚ -゚ノ|「現在の武道は若者の健全育成が目的のことが多いが、警察や軍隊での武道は『敵を打ち倒し何かを守る』というその為のものだった」
j l| ゚ -゚ノ|「つまり使わなければ意味がないし、使えなければ意味がない。特に撃剣の時代はそうだったのだろう」
|゚ノ*^∀^)「そう言えばさ。鞍馬クンのお父さんは名誉大佐らしいケド、神宮君の回想では『私の息子も悪かった』って言ってるんだよね」
|゚ノ*^∀^)「これって『(あなたの家の子供が悪いのは前提として)私の息子も悪かった』だよね? 曲者っぽいなぁ」
j l| ゚ -゚ノ|「あの鞍馬兼の父親だからな。恐らく『普通に凄い』類の人間なのだろう」
- 782 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 20:02:05 ID:mhpHCSBg0
川 - 々-)「……曲者と言えば終盤の氷柱さんと自治会長のやり取りも、すみません、かなりいやらしいものでしたよね」
j l| ゚ -゚ノ|「幽屋氷柱は『◯◯だったとして』というあくまでも可能性として話を展開し、対し壬生狼真希波も『もし◯◯なら』と仮定の形を取っている」
川 ゚ 々゚)「しかも、どちらも固有名詞を使わず、それでいて相手には名前を言わせようとしている」
|゚ノ*^∀^)「でもお互いにそれが分かったから間合いを保ち話を続ける……どっちも性格悪いなあって感じ?」
川 ゚ 々゚)「ところで会話の最後に自治会長は含みを持たせるように笑って、それに対して氷柱さんは呆れたように笑ってますけど、この解釈難しいですよね」
|゚ノ ^∀^)「普通の解釈では自分が別れさせたのに白々しくも『幸せを願う』なんて言ってる壬生狼クンに呆れて笑った、になるのかな?」
j l| ゚ -゚ノ|「だが、更に深読みすれば全く違った解釈もできる」
j l| ゚ -゚ノ|「二人がすれ違っているのは明白だった。が、二人共優しいのでこのまま惰性で付き合いを続けてしまうかもしれない」
j l| ゚ -゚ノ|「その場合、例えば何週間後や何年後、あるいは結婚した後で。すれ違いが決定的になり、お互いがお互いを嫌いになり別れてしまうかもしれない」
|゚ノ ^∀^)「……でも今のうちに何かキッカケを作って別れさせておけばそうはならない?」
j l| -ノ|「そうだ。今別れておけば、もう一度相手のことを好きになる時間がある――いや、嫌いにならずに済む」
- 783 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 20:03:07 ID:mhpHCSBg0
川 ゚ 々゚)「その解釈だと氷柱先輩は自治会長のシスコン振りに呆れて笑ったんですかね?」
j l| ゚ -゚ノ|「前編の冒頭で妹の為に授業に出ないことがある、という話が出てきているので『またこの人は無茶苦茶なことを……』と笑ったのだろうな」
|゚ノ*^∀^)「前編では他にも壬生狼クンが他人のことを考え操ることが得意って話が出てきてるケド、その評判通りに皆を操ったってこと?」
j l| ゚ -゚ノ|「壬生狼真里奈の独白に『もしももう一度、最初からやり直せるとすれば私はどうすれば良いんだろう。』とあるので、概ね計画通りと見て良い」
川;- 々-)「とすると氷柱さんに会いに行ったのも『問いに答えてくれる他人』として使えるかどうかを調べに行ったってことで……ああ、もう面倒だ」
j l| ゚ -゚ノ|「……纏めると、真希波の一連の行動の意味は『壬生狼真里奈と日ノ岡亜紗の両名に挫折を経験させ想像を促しより良い選択をさせる』だ」
川 ゚ 々゚)「すみません、その通りだとしたらあの人恐ろし過ぎます」
j l| ゚ -゚ノ|「貴様にせよ神宮拙下にせよ洛西口零にせよ、多くの天才の弱点である『他人の気持ちが分からない』を完璧に克服しているわけだ」
j l| -ノ|「というよりも、壬生狼真希波という天才は『他人の気持ちを想像し、他人の選択を気付かれずに操る天才』なのだろう」
|゚ノ ^∀^)「こうすると真里奈ちゃんの『変わったキッカケである人に負ければまた変わるかも』って考えは全然まだまだって感じだね」
- 784 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 20:04:11 ID:mhpHCSBg0
j l| ゚ -゚ノ|「だがあくまでもこれは推測――想像に過ぎない」
川 - 々-)「自治会長にせよ氷柱さんにせよ何処まで考えてたのかは闇の中、というか本人の心の中ってことで」
|゚ノ*^∀^)「ところで相変わらず真希波クンは彼とも彼女とも呼ばれてないね」
川 ゚ 々゚)「すみません、でも『お兄ちゃんに邪魔された』って言葉からすれば男なんじゃないですか?」
j l| ゚ -゚ノ|「いや『実は壬生狼家は三人兄妹で、真里奈の友達が言っていたお兄ちゃんと真希波は別人物』ということも考えられる」
川 - 々-)「推理小説じゃないんですから……」
|゚ノ*^∀^)「『妹を取られるのが嫌になって』って言葉から兄だと思いがちだけど、前編にあった女子キャラ同士のキスシーンが伏線とすれば姉ってこともありえるよね♪」
j l| ゚ -゚ノ|「とすると、冒頭の壬生狼真里奈の『もし双子だったら』という仮定の話は二人が同性であるという伏線と成り得るな」
川 ゚ 々゚)「すみませんもう面倒なのであの人の話題終わりにしませんか?」
j l| ゚ -゚ノ|「……そうだな。そろそろ纏めに入るべきだと考えるのが私だ」
- 785 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 20:05:06 ID:mhpHCSBg0
|゚ノ ^∀^)「じゃあ、名前の元ネタ!」
j l| ゚ -゚ノ|「神宮拙下という名前は京都市神宮丸太町駅と石火(電光石火)だな。ちなみに『拙下』とは一人称代名詞だ」
川 ゚ 々゚)「兼が『他人と一緒』みたいな由来なら、拙下は『自分だけ』って感じですね」
j l| ゚ -゚ノ|「本名のハローという名前のスペルはhelloではなくhaloだ。後光や光背という意味だ」
|゚ノ*^∀^)「ハロー効果を踏まえると面白い名前だよね。『天才』という大きな特徴に引きずられて他の部分が歪んじゃってる」
j l| ゚ -゚ノ|「日ノ岡亜紗は京都市日ノ岡駅からだ。下の名前に特に意味はない」
川 - 々-)「意味を持たせないことで普通っぽさを出したって感じですかね?」
j l| ゚ -゚ノ|「いや、単にこじつけが思い付かなかっただけだ。面白い名前が思い付かなかったのでAAの名前との兼ね合いを優先した」
|゚ノ ^∀^)「次辺りアナグラムになるかもね」
- 786 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 20:06:06 ID:mhpHCSBg0
|゚ノ*^∀^)「最後にタイトル!」
j l| ゚ -゚ノ|「英単語の方はそのままなものが多いな。後編の『wish』の意味が妙に多いが、読んで下さった方には分かるはずだ」
川 - 々-)「単純に『◯◯を望む』じゃない、仮定法が重要ですね。二人の壬生狼の内面が表れている」
j l| ゚ -゚ノ|「分かりにくいのは日本語のタイトルで中編はストレートだが前編と後編は考えないといけないだろう。特に前編は捻り過ぎだ」
川 ゚ 々゚)「『私達のいる世界』は神宮先輩の言う『勝負の世界』のことであり、『嘘つきの世界』のことであり、またズレてしまった二人の立ち位置のことでもありますね」
|゚ノ ^∀^)「じゃあ『かなう才能、かなわぬ努力』は?」
川 - 々-)「普通に考えれば『望みを叶えられる才能』と『才能に敵わない努力(望みが叶えられない努力)』でしょうね」
j l| ゚ -゚ノ|「『称(称する)』を当て嵌めれば『才能と呼ばれる努力』と『他人に胸を張って言えない努力』とも取れるな」
川 ゚ 々゚)「すみません、なら『適(適する)』だと『才能≒努力』ってことですか?」
|゚ノ*^∀^)「やっぱり捻り過ぎかもね」
- 787 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 20:07:05 ID:mhpHCSBg0
|゚ノ*^∀^)「丸々三話分だったから長くて疲れちゃったね」
j l| ゚ -゚ノ|「そうだな。私は出ていないのに」
川 - 々-)「すみません、それ言ったらここにいるメンツは皆出てないです」
j l| ゚ -゚ノ|「…………あとがたり、第二回断章篇でした。次回もお楽しみに」
|゚ノ*^∀^)「次も出ないけどね!」
川 ゚ 々゚)「え、すみません、次の投下も出ないんですか?」
j l| ゚ -゚ノ|「次はこの後日談(オマケ)、神宮拙下と鞍馬兼の話だ。当初は断章内でやる予定だったのだが日ノ岡亜紗の影が薄くなりそうだったので変更した」
|゚ノ*^∀^)「ちなみに当初のオチは天神川ナントカ君の『あの二人、まさか私のこと忘れてる?』って台詞だったんだけど、流石にアレだから変えたの」
j l| ゚ -゚ノ|「散々シリアスな話をしたのにオチで笑わせるのは如何なものかということだな」
- 788 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 20:08:05 ID:mhpHCSBg0
川 - 々-)「それは分かりましたが……すみません、二人は次も出てこないんですか? 主役なのに?」
|゚ノ ^∀^)「…………言わないでよ悲しくなるから」
川 ゚ 々゚)「すみません」
川 ゚ 々゚)「それはそうと、兼の『無心の構え』ってテニ●リで言う『無我の境地』に近いものですよね」
j l| -ノ|「まあ……そうだな。無心≒無我の境地である以上は。ただ、それは言わないで欲しい。ネタじゃなくただの被りだから」
川 - 々-)「神宮先輩の才能も黒●スの『天帝の眼』に近いものですし」
|゚ノ*^∀^)「惜しむらくは神宮君の才能は黒バ●的には赤×青だから、青の方を突破できる相手と戦わないと赤の方の能力が全然伸びないってことかな?」
川 ゚ 々゚)「『後出し択一攻撃』ってそれだけで反則ですからね。どうやって破ったんですか?」
j l| ゚ -゚ノ|「聞かずとも恐らく貴様になら破れるだろう」
j l| ゚ -゚ノ|「あの『五の閃』という技はあくまで必殺技だ。『無心の構え』とは違い常時出せるものではない。いや、出せることは出せるが体力が保たない」
- 789 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 20:09:05 ID:mhpHCSBg0
j l| ゚ -゚ノ|「『五の閃』とは『相手の反応を見た後で拳の軌道を変え、相手が防御していない急所に攻撃を叩き込む』という大技だ」
j l| ゚ -゚ノ|「これを使う際、神宮拙下は勝負を決めに来ている。だからこそ半身の相手に対し飛び後ろ回し蹴りなどという隙の大きな技を使ったのだ」
川 - 々-)「一撃で勝負を決める為には大技を急所に当てる必要があり、そうすると普段より隙が大きくなるってわけですか」
|゚ノ*^∀^)「つまりギリギリで急所への直撃を回避して即座に反撃すればどうにかなるんじゃない?ってコト」
川 ゚ 々゚)「だとしても、最低でも踵落としレベルの大技を受け切った上で間髪入れずに攻撃に移らないといけないって、それは既に無理ゲーです」
j l| ゚ -゚ノ|「だから天才と自称する。確かに奴のみに許された最強の必殺技だ」
j l| ゚ -゚ノ|「それよりも『無心の構え』をどうやって破ったのかが知りたいのが私だ。中学時代に勝ったことがあるのだろう?」
川 - 々-)「すみません詳しいことは企業秘密です」
川 ゚ 々゚)「が、『無心の構え』の特性上――つまり経験則である以上、昔はそれほど厄介ではなかったと言えますね」
|゚ノ*^∀^)「一回目に効いたフェイントが二回目には通用しなくなるんだね」
川 - 々-)「いえ、アイツはそこまで学習能力高くないんで、二回目は絶対に効かないってこともありません」
- 790 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 20:10:12 ID:mhpHCSBg0
川 ゚ 々゚)「ただその学習能力にしても経験則で段々と強化されているので、すみません、今は二回目効かないどころかカウンター取られるかもしれないですね」
|゚ノ*^∀^)「普通必殺技って完成形だけど、『無心の構え』は永遠に発展途上なんだね」
川 - 々-)「突き詰めればただの経験則ですからね。試合し続ける限り死ぬまで進化していくと思います」
j l| ゚ -゚ノ|「『無心の構え』の対極である貴様の『虚心抜き』ももう通用しない、か?」
川 ゚ 々゚)「すみません、普通に俺のネタバレするのやめてもらえませんか?」
|゚ノ ^∀^)「…………どうでも良いケド、この物語って能力バトルだよね? なんで武道の変な必殺技で争ってるの?」
j l| ゚ -゚ノ|「理由は三つだろう。一つ、『願望が元になっている故に直接攻撃系の能力が少ない』。二つ、『能力を使わなくても強いキャラが多い』」
j l| ゚ -゚ノ|「そして三つ、『能力を使わずに能力を破るがテーマの一つだから』」
川 - 々-)「二つ目深刻ですね。氷柱さんが前に出てきた武人被れ倒したらもう手がつけられない」
j l| ゚ -゚ノ|「鞍馬兼陣営に読心の能力が渡ってしまった時点でかなりパワーバランスが崩れた気がするが……」
|゚ノ*^∀^)「だから次回以降は皆能力を活用し始めるかもね」
- 791 名前:オマケ・『あとがたり(キャラクターコメンタリー)』:2013/04/05(金) 20:11:09 ID:mhpHCSBg0
川 ゚ 々゚)「すっかり忘れてましたが、日ノ岡亜紗の能力の由来を説明してないですね」
j l| ゚ -゚ノ|「あの『心を読む』という能力は『好きな相手の本当の気持ちを知りたい』という願望と周囲の評価を気にする思いが元になっている」
j l| ゚ -゚ノ|「一人の思考を完全に読み切る使い方が前者で、広範囲に渡り周囲の人間の浅い思考を読むのが後者だな」
|゚ノ*^∀^)「どちらかを選んで発動してるってトコが皮肉だよね」
川 - 々-)「周囲を気にすれば恋人の気持ちが分からず、恋人だけを見れば周囲の視線を気にすることができない……。すみません、確かにそうかもしれませんね」
川 ゚ 々゚)「……そうすると、俺の能力も俺の欲望が元になってるわけですか」
川 - 々-)「自己再生の能力ってことは心の中では俺も死にたくないと思ってるってことですかね。これは格好悪いですね、すみません」
|゚ノ ^∀^)「違うんじゃないかな?」
j l| ゚ -゚ノ|「恐らく貴様の能力の元になった感情は『どんな傷を負ったとしても生き続けることをやめたくない』だろう」
|゚ノ*^∀^)「どんな辛い出来事を経験しても、生きている内は生きることをやめたくない。……僕はそういうことだと思うなあ」
川 - 々-)「…………そうだと良いですね」
戻る 次へ