j l| ゚ -゚ノ|天使と悪魔と人間と、のようです Part2


797 名前:オマケB「延長戦」:2013/04/08(月) 01:20:32 ID:xyDpMfoQ0

『すみません先輩、もののついでに良いことを教えてあげましょう』


 ―――正直に言って。
 神宮拙下は――山科狂華のことが苦手だった。


『兼の話です。俺のライバルであり、先輩のライバルでもある鞍馬兼の話。すみません、興味はありませんか?』


 嫌いというわけではなかった。
 もしかすると「苦手」という表現も正しくないのかもしれない。

 そもそも苦手意識を抱くほどの交流はない。
 鞍馬兼が友達だとすれば山科狂華とは友達の友達程度の間柄であって見かけることはあっても深い話をしたことはなかった。
 野球や剣道が上手いことは知っているが、それだけだ。

 なのに、何故だろう。


『奴がどうしてあんなに強いのか。精神論ではなく理屈で。知りたいと思いませんか?』


 この相手と向かい合うと――何か、存在の根幹の部分が軋み叫ぶのだ。

798 名前:オマケB「延長戦」:2013/04/08(月) 01:21:13 ID:xyDpMfoQ0

 中二病的な言い回しに「俺の右腕が疼く」というものがあるが、それに倣えば「全身を巡る血液が疼く」のだ。
 山科狂華と会い、話していると何か野生の勘のようなものが働いて話を早く切り上げようとする。

 恐れているわけではない。
 神宮拙下はどんな勝負であっても勝てると思って臨むが、客観的に見ても自分とコイツでは俺の方が強いと考えていた。
 だから余計に疑問に思うのである――この妙な感覚はどういうことなのだろうと。

 まあ、そのことはとりあえず置いておくとしよう。


『すみません、俺は話したくて堪らないんで、はっきり拒否してくれないと勝手に話し出すと思います』


 今現在大事なのは鞍馬兼についてだ。
 彼の強さについて。

 知りたくないと言えば嘘になる。
 ……いや、狂華が話したくて堪らないとすれば拙下は知りたくて堪らない。
 正直無茶苦茶知りたい。


 何よりも戦いたくて堪らない。
 あの凡人と、勝負がしたいと彼は思っていた。

 ずっと思っていた―――。

799 名前:オマケB「延長戦」:2013/04/08(月) 01:22:05 ID:xyDpMfoQ0

 ―――カラン、と木刀が音を立てて道場の床に落ちた。


ハハ ロ -ロ)ハ「受け取れ、ハンデ……ではないな。お互いに全力を出さなければ意味がない。それだけのことだ」


 神宮拙下が日ノ岡亜紗を打ち倒し、鞍馬兼が都村藤村を退けた数分後のことだった。
 夢の中の武道場で二人は向かい合っていた。

 意味も分からずここに連れて来られた兼は意味も分からないまま木刀を拾い上げ特に意味はないが中段に構えてみた。
 それに対し灰色の天才は、スタンディングスタートのようなあの特徴的な構えを取る。
 両者の距離は三メートルと少し。

 兼は言った。


(  −ω−)「いや僕は了承したわけじゃなくて構えてみただけなんだから。それに説明すらされてない」

ハハ ロ -ロ)ハ「フン。俺の考えくらいお見通しだろうに」

(  ・ω・)「どうして仲間同士で戦わないといけないのかを訊いているんだから」

ハハ ロ -ロ)ハ「お前は強者を前にして奮い立たないのか? 自分の力を試してみたいと、目の前の相手を倒したいと思わないのか?」

800 名前:オマケB「延長戦」:2013/04/08(月) 01:23:05 ID:xyDpMfoQ0

(  ・ω・)「僕は強い人を前にしたら不安になるし、自分の力を試したいとは思っても時と場所を考える」

ハハ ロ -ロ)ハ「お前と戦うのはこれで四回目か? 一回目は俺の圧勝、二回目はノーゲーム、三回目はお前の勝ちなら四回目の今日はどうかな?」


 聞けよ人の話、とぼやきながら溜息を吐く。
 だが兼の方も分かっている。

 いい加減長い付き合いだ、分かっている。


ハハ ロ -ロ)ハ「神聖な道場で私闘をすることが嫌なのか? フン、ならば模擬戦ということで良い。ルールはフルコンタクトの無制限、禁止技はなしだ」

(  −ω−)「一般的には『フルコンタクトの無制限で禁止技がない勝負』を殺し合いと呼ぶんだと思う」

ハハ ロ -ロ)ハ「……まさか、お前。俺に戦う価値がないと思ってるんじゃないだろうな。神宮拙下は戦うに値しない相手だと、そう思ってるわけじゃないよな」


 分かっているのだ。
 人の話を聞かないこの天才は――珍しく人の話を聞いたとしても、自分が決めたことは曲げないと。
 彼がこう言い出した以上、戦うしかないのだと。

 彼の言葉に従いたくないのなら戦って止めるしかない。
 だから結局は戦うしかないのだ。

801 名前:オマケB「延長戦」:2013/04/08(月) 01:24:04 ID:xyDpMfoQ0

(  −ω−)「…………それこそ『まさか』なんだから」


 そして。
 鞍馬兼という人間も――戦う以上は全力を出さないと気が済まない。



(  ・ω・)「あなたほど、戦うに値する人間はいない。あなたを超えるということは『経験』という僕の全てが『才能』という壁を超えるということだから」



 だからこれは殺し合い。
 命が賭かっていないとしてもお互いの強さの誇りを殺し合う、殺し合いだった。
 真剣を使わない真剣勝負だった。


ハハ ロ -ロ)ハ「フン、それで良い。ただしルールを一つ決める。俺は今疲れているので俺がやめと言ったら即やめだ。ただしお前の中止要請は認めない」

(  ・ω・)「試合を仕掛けておいて無茶苦茶横暴で自分勝手だけど、分かった」


 明らかにおかしなルール設定も兼は了承する。
 それも、分かっているからこそだ。

802 名前:オマケB「延長戦」:2013/04/08(月) 01:25:02 ID:xyDpMfoQ0

 そうして、鞍馬兼は改めて中段に構える。
 対する神宮拙下ももう一度気を入れ直し構えた。


(  −ω−)「開始の合図は?」

ハハ ロ -ロ)ハ「フン、不必要だ。先手は譲ってやろう――何処からでもかかって来い、凡人」


 じゃあ、ありがたく。

 その一言が拙下の耳に届いた瞬間にはもう兼は動き出していた。
 先手必勝と言わんばかりに間合いを詰める。
 ほとんどの体勢の崩れがない、地面を滑るような歩法。

 いつ見てもこの『強さ』は素晴らしい。
 神経が研ぎ澄まされ一秒が何十倍にも引き伸ばされ周囲の風景がコマ送りのように流れていく最中、紛れもない天才はふとそう思う。


ハハ ロ -ロ)ハ「(―――楽しいな、トモ、本当に俺は楽しい―――そしてお前は本当に最高だ―――)」


 一歩目を、踏み出した。
 百メートル十秒フラットの光速の脚から生み出されるスタートダッシュもこの状態ではスローモーションだ。

803 名前:オマケB「延長戦」:2013/04/08(月) 01:26:05 ID:xyDpMfoQ0

 幽屋氷柱はゾーンに入った拙下のことを「違う時間に生きている」などと評するが、本人は周囲とのズレこそあれど同じ時間に存在すると思っていた。
 一秒を十秒として捉えられるとしても決して常人の十倍の速さで移動できるわけではない。
 どれほど集中しても自分のスピードは一定なので適当なところで結論を出し次の行動を決めて動き出さなければ間に合わない。

 間合いにはまだ余裕がある。
 木刀を使う兼の方が遥かにレンジは長いが、それでも後二歩ほど踏み出さなければ攻撃は届かないだろう。


ハハ ロ -ロ)ハ「(―――俺は左手を前に出している、左小手を打って下さいと言っているようなものだ、トモの技術ならば小手打ちは振り上げる必要はない―――)」


 思考を続ける。
 目の前の鞍馬兼は右脚を踏み込んだ。


ハハ ロ -ロ)ハ「(―――アイツは手首の動きだけで小手が打てる、一瞬の打突だ、目標が真正面にあるわけだから余計に速い―――)」


 ターン、と。
 緩慢な世界で踏み込みの音が遠くに聞こえる。
 兼の右手が離れていく。


ハハ;ロ -ロ)ハ「(―――だから先に左手を動かし剣先を誘導し正中線を空けさせる―――しかし音というのは速いな、この状態でも―――いや待てよ―――?)」

804 名前:オマケB「延長戦」:2013/04/08(月) 01:27:02 ID:xyDpMfoQ0

 一瞬前に何かが起こった。
 何かを見落とした。
 極限の集中状態、何もかもが遅い世界で拙下は自身の動き始める左手の向こうにそれを見る。

 真っ直ぐに突き出されつつある切っ先を。


ハハ;ロ -ロ)ハ「(―――読み間違えた、挙動を見落とした―――俺が左手が移動させることを読んで―――)」


 拙下は歌舞伎役者が見得を切る時のように左手の掌を相手に向け、前に出している。
 これは何も格好を付けているわけではなく空手における引き手の役割があり、この左手を引きながら突きを出すことで右腕に腰の回転を乗せることができる。
 スタンディングスタートに近い彼の構えは、こうして考えると歪な前屈立ちとも言える。

 他にも左手には意味があり、『五の閃』においてはこの左手で相手の右手を受け止め投げることもするし、攻撃も払うことも可能だ。
 突きに威力を出す為の引き手でありながら同時に盾でもあり、勿論攻撃に使うこともできる。 


ハハ;ロ -ロ)ハ「(―――俺はトモが左手を狙うと考え左手を動かす―――それをトモは読んで、俺が左手を動かしたことで空いた場所に真正面から―――)」


 拙下は、自身の前に出した左手を兼が狙うと考えた。
 だからその左手を向かって左に予め動かしておくことで小手を狙う剣の動きを左側に誘導しようとした。
 だが――鞍馬兼はそれを読んだ。

805 名前:オマケB「延長戦」:2013/04/08(月) 01:28:05 ID:xyDpMfoQ0

 右手が完全に柄から離れる。
 左手が突き出され、体勢はやや前傾気味に変わり。

 手首を捻りながら放たれるのは、中段の構えから踏み込みと同時に喉元を狙い最短距離を走る――左片手突き。


ハハ;ロ -ロ)ハ「(―――木刀であろうと突きを喉に喰らったら死ぬぞ―――俺を殺す気か、お前は―――)」


 その突きはただ速度と威力があるだけではない。
 速いことに加え、今相手の喉元が在る場所を狙っているのではなく、一瞬後の移動した相手の位置を先読みして放たれている。

 相手が飛び出した瞬間、自分の刀の軌道を完全に把握した上で相手の挙動を完璧に予測し放つ突き。
 剣筋と予測の正確さは経験の成せる技か。
 分類で言えば「迎え突き」になるが、尤も剣道に詳しくない神宮拙下が知る由もない。


(   ω)

ハハ#ロ -ロ)ハ「(―――だが―――この程度を避けられない俺だと、思うなよ―――!!)」


 身体を捻りながら左斜め前へと進み突きを回避する。
 狙うのは片手で突く為に柄から右手を離したことでガラ空きになった右腹部。

 そして―――。

806 名前:オマケB「延長戦」:2013/04/08(月) 01:29:01 ID:xyDpMfoQ0

 ―――答えなど決まっていた。


『……俺は確かにトモの強さが知りたい。強さの理由も知りたいが、それを実感したい』


 神宮拙下は勝つことが好きなのではない。
 どんな時でも勝てると思い試合に臨む彼にとって勝利とは当たり前で至上の目的ではない。

 だから。


『だから?』

『トモの強さに理由があると言うのなら――俺は戦う中でそれを理解し、更に攻略してみせる』


 いけないか?
 だが、そっちの方が面白いだろう?
 そんな風に天才は笑った。

 詰まるところ、神宮拙下は勝つことだけが好きなのではない。
 勝つことが好きなのは勿論だが――戦うこと自体も、好きなのだ。

807 名前:オマケB「延長戦」:2013/04/08(月) 01:30:08 ID:xyDpMfoQ0

 返事を聞いた狂華は暫く黙っていたが、やがて「そうですか」と一言呟いた。
 相変わらず目を合わせないままではあるが、それでも神宮拙下という天才がどういう人間なのか理解したのかもしれない。


『……すみません、でも一つだけ』

『なんだ』

『あ、すみませんやっぱり二つだけ言っても良いですか』


 立ち去ろうとした拙下を引き止めた山科狂華は言った。


『一つ目に、あなたは「後の先」というものをカウンターだと思っているようですが、兼の「後の先」はカウンターじゃないです』


 更にこう続ける。


『それで二つ目ですが、兼と戦うこと自体を俺は別に止めませんが、戦うならスポーツか武道にした方が良いです』

 
 流石のあなただって死にたくはないでしょうから。
 なんて、そう言って狂華は笑ったのだ―――。

808 名前:オマケB「延長戦」:2013/04/08(月) 01:31:02 ID:xyDpMfoQ0

 ―――意味が、分からなかった。


ハハ;ロ -ロ)ハ「(―――何故、トモの刀が俺を―――何故こちらの攻撃が―――これは―――!)」


 そうしている間にも木刀は無情に振り下ろされる。
 重心の乗った右脚を使い後ろに下がりながら。

 鞍馬兼の右側に踏み込んだ。
 しかしその瞬間には兼は既に拙下の方向を向いていた。
 身体が向いているだけではなく、やや歪ながらも今にも刀を振り下ろさんとしていた。

 この距離ならば踏み込めば彼の攻撃も当たる――が、兼が下がりながら木刀を振り下ろしている以上、その前に頭を割られて終わりだ。


ハハ;ロ -ロ)ハ「(―――考えてみればトモはあんな突きをする奴ではない―――ならば、これは―――)」


 きっと山科狂華ならば分かっただろう。

 相手の動きを予測して喉元を狙うなんて芸当は抜群の動体視力と思考速度を持つ彼ならばまだしも、鞍馬兼ができるわけがないと。
 しかも剣道の試合ならまだ分からなくもないが、この場合に兼が相手にしているのは徒手空拳喧嘩殺法の天才だ、「先読みして突き」なんてできるわけがない。

809 名前:オマケB「延長戦」:2013/04/08(月) 01:32:13 ID:xyDpMfoQ0

 そもそも鞍馬兼という剣道家は突き自体を使いたがらず、相手が飛び出した瞬間に突く迎え突きに至っては嫌っている。
 使うとすれば、それは相手に何かの反応を起こさせる牽制の意味でしかない。

 ――迎え突きを使ったのは斜め前へと避けさせる為。
 ――片手で放ったのは自身の右腹部に攻撃を誘導させる為。
 ――攻撃の際に手首を捻ったのはその次の打ち込みの為。
 ――前傾姿勢気味だったのは前足に重心を移すことで下がりやすくする為。

 だから、らしくない歪な挙動は全て。


ハハ;ロ -ロ)ハ「(―――最初から、最初の突きの時点で―――この状況、この位置に俺を誘導する為に―――これが奴の言っていた―――)」


 最初から全てが。
 この一瞬の為の伏線。


(   ω)

ハハ*ロ -ロ)ハ「(―――ああ、やはりお前は、素晴らしい―――これほどまでに―――俺が、全力を出すに値する―――!!)」


 そして刀は振り下ろされる―――。

810 名前:オマケB「延長戦」:2013/04/08(月) 01:33:05 ID:xyDpMfoQ0

 ―――その後の話。


「狂華君は鞍馬君の後の先の技術のことを『アクティブ・カウンター』と呼んでいますね」


 また車椅子のキャスターを溝に嵌めたところを通りかかった今度は氷柱に助けてもらい、その後。
 車椅子を押す彼女に、動きを誘導されたことを話すとそんな風に説明された。


「フン、聞いたことがない」

「それはそうです。狂華君達が作った造語ですから」


 そういうのが好きらしいですと氷柱は笑い、続ける。


「この技術は二種類あって、一つ目の『アクティブ・カウンター−A』が『無心の構え』で咄嗟に出してしまうカウンターです」

「考えて出しているわけではないのか」

「ええ。元々あった癖や隙を相手が突いて来た際に反射的に返し技を出してしまう……。実力で勝る相手に対しては圧倒的に強い技ですね」

811 名前:オマケB「延長戦」:2013/04/08(月) 01:34:04 ID:xyDpMfoQ0

 それはそうだろう。
 相手からしてみれば弱点を攻めたと思った瞬間にカウンターが出てくるのだから。

 一方で、このAタイプは格上の相手との試合では危うい一面もある。
 氷柱などは意図的に兼に特定の反射を起こさせ、発動したカウンターに対し更にカウンターを狙う……といった手段も使う。
 ただそれに対しても鞍馬兼は『無心の構え』で対応してしまうので一筋縄ではいかない。

 次いで氷柱は言った。


「二つ目が『アクティブ・カウンター−B』と呼ばれるものです。話を聞く限りではあなたに対して使ったのはこちらのようですね」

「それが敵の動きを誘導するカウンターというわけか」

「そうですね。Aタイプのカウンターが擬似的な反射であるのに対し、Bタイプは明確に駆け引きし相手を騙した上でカウンターを狙うものです」


 ありとあらゆる要素を総動員し相手を誘導し、特定の場所を攻めさせる。
 そして攻めてきた瞬間にそれを返す――それが『アクティブ・カウンター−B』。


「今の彼はAタイプとBタイプを組み合わせて戦っています。彼が強くなったのはこの方法が確立されてからです」

812 名前:オマケB「延長戦」:2013/04/08(月) 01:35:17 ID:xyDpMfoQ0

 最も恐るべきことは、鞍馬兼はBタイプを使いこなすことにより、剣道の試合でしか発動できないはずのAタイプのカウンターを私闘で使っていることだ。
 つまり相手の動きを誘導し、特定の行動を取らせることで剣道の技を出せる状況にしてしまう。

 以前のトソンとの戦いにおいて兼が優位に立てたのはこのような理由だった。


「武道における形の中にはゆっくりと動く部分がありますけど、何故ゆっくり動いているのかご存知ですか?」

「……互いに牽制し合っているからだろう。相手の出方を伺っている」

「その通りです。安易に攻めればカウンターを貰うかもしれない、それを警戒している。本来地稽古とはそういう風に技の出し方を練習する為のものです」


 剣道の動きの中に形を組み込めるほど形稽古を重視する鞍馬兼がそれを知らないはずがないだろう。
 だから彼はそういった部分にも気を配っている。


「剣道にも様々な教えがありますが、彼は後の先であっても先があってこそだと教えられたのでしょう。ただ待ってるだけの相手なんて怖くもなんともないと」


 カウンターを狙うにしても、ただ漫然と相手の攻撃を待つだけではいけない。
 攻めの姿勢を忘れず、常に相手を牽制し、機先を制す。
 わざわざ返し技を使わずとも向こうが隙を見せたならば仕掛ければ良い。
 そうした気勢でまず気の時点から敵に勝る。

813 名前:オマケB「延長戦」:2013/04/08(月) 01:36:22 ID:xyDpMfoQ0

 だから鞍馬兼が思う理想的な後の先とは「相手が攻めて来たところを返す」――ではなく「相手に攻めさせ、そこを返す」なのだ。
 だからこそ山科狂華は兼の技を『アクティブ・カウンター』と呼んだ。

 それは後手に回ったように見えても、間違いなく先の技。


「元々竹刀を使った稽古とは真剣勝負で勝つ為のものでした。それがいつの間にか当初の目的が消え、竹刀試合の優劣だけを重視するようになった」


 だから剣道の中に含まれる剣術としての要素はあまり多くはない。
 それにより武道となったとも言えるし、一つのスポーツになったとも言える。
 良い意味でも、悪い意味でもだ。

 けれど。
 それでも鞍馬兼の持つ『強さ』とは、剣術ではない剣道の稽古でのみ培われる剣道の奥義なのかもしれない。


「ですが竹刀稽古で培った経験則を実戦で、しかも形稽古の技術を交えて使う鞍馬君は『理想の剣士』と呼べる存在かもしれませんね」

「……フン。剣道を学ぶ人間という意味での剣士か、それとも剣術を使う人間という意味での剣士か、一体どちらなのだか」


 さてどちらでしょう?と氷柱は柔らかに笑った。
 後者であるとすればゾッとしないな、と拙下は小さく溜息を吐く。

 あの模擬戦は引き分けということで決着したけれど――鞍馬兼が使っていたのが真剣ならば、自分は死んでいたと彼は思うからだ。

814 名前:作者。:2013/04/08(月) 01:37:06 ID:xyDpMfoQ0

警視流撃剣形に鞍馬流の変化が取り入れられてることは前に言いましたが、この変化の決まり技は水月への平突きだったりします。
鞍馬兼が突きをあまり使わないのは、つまり「剣術(≒人を殺す技術)が思い浮かぶから」です。
『コール』に出てくるあるキャラは「剣道の打突の中で突きだけは剣術とほぼ同じ」と思っているので突きが好きなんですが、対照的ですね。


まあ武道には様々な精神論とか教義とかがあって、面倒なことに真逆の教えもあって。
分かりやすいのは鞍馬兼と神宮拙下の武道に対する扱いの差です。

最近はるろうに剣心が映画になったりリメイクされたりしてるので活人剣と殺人剣とかは分かる人が多いと思います。
活人剣は「相手を殺すのではなく制す術(≒致命傷を与えない)」と説明されたりしますが、実は別に「悪を殺すことにより多くを生かす」という意味もあります。
後者の意味だと神谷活心流じゃなく斎藤一のスタンスが近いのかもしれません。

鞍馬兼は、剣道で鎬で応じるような技を得意としていますが、これは彼の認識では「剣道とは剣術ありきのもの」であるからです。
だから肩で竹刀受けたりとか真剣なら間違いなく傷を負うようなやり方はあまり好んでいません。
また躊躇いなく銃を使っているのも兵法的にはそちらの方が正しいから。柔道で寝技が苦手なのも実は苦手なんじゃなくて分からないだけ。
彼的には「昔は相手が倒れた時点で脇差か鎧通しで首を撥ねるのが普通だっただろうに」って感じなんだと(つまり組討術と柔術の違いがよく分かってない)。


でも一方で勉学に一生懸命だったり、周囲のことをよく見て考えていたり、戦うのを嫌がったりする。
「万が一の時は戦わないと駄目だけど万が一にならないように頑張るべき」って感じでしょうか。

精神論や教義っぽく纏めれば「鞍馬兼は人を殺す術を知っていて、だけど人を殺す術を知るからこそ命の大切さも知っている」となるのかもしれません。

817 名前:おまけ・『汎神論(ユビキタス)』のレポート。その十三。:2013/04/08(月) 21:13:59 ID:xyDpMfoQ0
(-@∀@)「日ノ岡亜紗」

【基本データ】
・年齢:十五歳
・職業:高校生(淳機関付属VIP州西部淳中高一貫教育校高等部一年普通進学科十組所属)
・所属:無所属→マキナのチーム
・能力:『読心』→「他人の思考を読む能力」
・能力体結晶の形状:簡素な指輪
・総合評価:A

【概要】
 二回目の断章に登場。『天才』に憧れ、そうなろうとした凡人。
 スクウェア型の伊達眼鏡の下には一縷の淀みもない綺麗な瞳がある。

【その他】
 名前の由来は京都市日ノ岡駅。
 神宮拙下とは「天才と凡人」として対比になっており、鞍馬兼とは「凡人と凡人」として対比になっている。
 少し考えれば分かるが、たかだか一年半年でいてもいなくても変わらなかった非リアがここまで変わったのは普通に凄い。
 総合評価的には神宮拙下と同格(一線級)で鞍馬兼(B級)や山科狂華(B〜A程度)よりも高い。
 能力には広域読心と限定読心の二つの使い方があり、前者は索敵にも使える。
 幽屋氷柱の弟子で、空手道部では期待の新人であり一年生ながら次期主将候補だったのだがエピローグではやめてしまったらしい。
 ちなみに一年十組では女子から一番人気で、一年生全体で見てもかなりモテる方だが、ちょっと前まで非リアだったので関係を深めていくのは苦手。

【備考】
 神宮拙下には負けるが鞍馬兼には勝つ(多分)ので何気にこの三人は三竦みになっている。
 彼の悪い点は「才能がない人間は何も出来ない(≒才能があれば欲しいものが手に入る)」という不合理な思い込み。
 及び「彼女を手に入れたい」のか、それとも「成功して周囲を見返したい」のか、どっちが重要なのか分からなくなっていた点。

818 名前:おまけ・『汎神論(ユビキタス)』のレポート。その十三。:2013/04/08(月) 21:14:41 ID:xyDpMfoQ0
ハハ ロ -ロ)ハ「神宮拙下(ハロー=エルシール)」

【基本データ】
・年齢:十七歳
・職業:高校生(淳機関付属VIP州西部淳中高一貫教育校高等部三年理系進学科十二組所属)
・所属:ヌルのチーム
・能力:不明
・能力体結晶の形状:不明
・総合評価:A

【概要】
 二回目の断章より登場。『天才(オールラウンダー)』とまで呼ばれる万能の天才。
 傲慢で高慢で、だが誇り高い矜持と美学を持つ灰色の閃光。短距離では全国どころか全世界でも有数。

【その他】
 名前の由来は京都市神宮丸太町駅+電光石火。また「拙下」とは一人称代名詞である。
 フィクションの天才らしい天才キャラで、多くの人間のことを凡人呼ばわりし、加えて女性蔑視的な発言も多い。
 本人に埒外な能力がある為に余計に性質が悪い。しかも一応皇族なので「偉そう」なのではなく事実偉い。
 ただし認めるべき人間には敬意を払い、また武道に対しても礼儀を示す。
 一方でどうでも良い相手に対しては話を聞かず適当な返事をしたりすることが非常に多く、結果彼のことを「新宮寺切」のような名前で認識している生徒が何人かいる。
 ちなみにアキレス腱断裂の理由は『怪異の由々しき問題集』を読めば分かる。

【備考】
 勝つのが当たり前だった天才。だからこそ自分に匹敵する凡人には最大限の経緯を表し、そうなる可能性がある相手に期待する。
 他人に勝つことが好きそうに見えるが実際に好きなのは「自分に勝つこと」であり「他人と競い合うこと」であり、なんなら負けることすら愛している。


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