川 ゚ -゚)あるアパートのお話

76 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:45:16 ID:uAhNS2g.0





〜夕暮れノスタルジック〜

77 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:45:38 ID:uAhNS2g.0

 アパートの裏手には住人専用の畑がならんでいる。
そこでは思い思いの野菜や花が植えられており、
私はというと自給自足を兼ねてさまざまな野菜を育てていた。

 茄子、にんじん、きゅうり、玉ねぎ、小松菜、じゃがいも、など。
だいたいのものはここで揃うのだ。

川 ゚ -゚)「トマトが食べごろだな」

 市販されているものと比べたらサイズもかたちも劣るが、
ぷりっとまるく赤い果実は愛しさがめばえるほどかわいい。
太陽光を思う存分にあびたトマトは生命力に満ちあふれている。

川 ゚ -゚)「うーん、水遣り日和だ」

 水道からホースをつなげて蛇口をひねる。
じゃばじゃばと勢いよくでる先端をまんべんなく指先で押しつぶした。

 ホースを持ち上げ、なるべく高くから畑にむかって水を放てば、
いくつもの粒がきらめいて眩しい。


川 ゚ -゚)「みんな立派に育つんだぞ」

 乾いた土がみるみるうちに湿り気を帯びていく様子は、
毎日みていても飽きなかった。
余計なお節介かもしれないが、兄弟猫の畑にもホースを手向ける。
彼らの畑には名前もしらない花たちが咲いていた。

78 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:45:53 ID:uAhNS2g.0

▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「おねえちゃんなにしてるの」」

 上機嫌で水をまいていると、うしろから声がきこえた。

川 ゚ -゚)「見てのとおり、畑に水をやっている」

▲▲    △△
(*・ω・)(・ω・*)「たのちい?」「たのちそう!」

 そういえば聞いたことのない声だと気付き、
ホースを畑に向けたまま肩越しに振り返った。

川 ゚ -゚)「……どちらさま?」

 私の腰にも満たない高さの幼女
――幼猫ともいうのだろうか――がそこにいた。
ふたりはまったく同じ顔で、出で立ちも揃えており
唯一の違いはぴんと立った耳につけられたリボンの色ぐらいだった。

79 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:47:11 ID:uAhNS2g.0

 ▲▲   
(*・ω・)「あたちはシィタ」

  △△
(・ω・*)「あたちはラバー」

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「ふたりあわせて、シィタラバ!」」

 そのまんまである。
どうやらピンク色のリボンがシィタで、黄色のリボンがラバーのようだ。
ふたりとも白いワンピースを着て、スカートが風にふかれてはためいた。

川 ゚ -゚)「……お、おう」

 まるで戦隊もののようにふたりはびしっとポーズを決め、
子どもらしいドヤ顔を披露している。

 私は子どもと触れ合った経験がすくなく、
正直どう対応すればいいのか判らなくてフリーズしてしまう。
彼女たちは私にとって、未知との遭遇に等しいのだ。

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「ねえねえお水かけて! 水あそびしよ!」」

川 ゚ -゚)「いやそれはちょっと」

 ▲▲  
(*・ω・)「だいじょぶだいじょぶー!」

  △△
(・ω・*)「あちゅいからへーきよ!」

 そういう問題ではない。
どこの子どもかも知らないのに、易々と水を放てるわけがないのだ。

80 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:47:39 ID:uAhNS2g.0

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「おーねーがーいーっ」」

 もしも私がろりこんだったなら、即決していただろう。
胸のまえで両手をくんで、尻尾をかわいくふりふりしているのである。
しかし私にそのケはまったくなく、
そして母性本能もあるのかどうか怪しいぐらいだった。

川 ゚ -゚)「保護者はどこだい」

 せめて言葉がつうじる相手がほしかった。

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「ほごしゃってなーに?」」

 当然の返答である。
幼稚園ぐらいの子どもに使う言葉ではなかったと反省した。

川 ゚ -゚)「お母さんやお父さんのことだよ」

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「ママはねえお空にいるんだってーパパがいってた」」

 突拍子も無い展開にフリーズするばかりだ。
思わず額に手をやって、空を仰いだ。
燦々と照りつける太陽が、私たちをこれでもかと熱している。

81 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:48:15 ID:uAhNS2g.0


 ▲▲  
(*・ω・)「おみずおみずー!」

 呆けている私の手からホースを奪いとり、
シィタはラバーにむかって水をかけはじめた。

  △△
(・ω・*)「ちべたいっ、やーん」

川;゚ -゚)「ちょ、こら、やめなさい」

 うっかりしていたとはいえ、こうなってしまったのは私の責任だ。
もう既にびしょ濡れのラバーは諦めるとして、シィタだけは守らなくては。

川 ゚ -゚)「シィタ、それを貸しなさい」

 ▲▲   
(*・ω・)「いやーん」

川;゚ -゚)「いやーんじゃない、渡すんだ」

  △△
(・ω・*)「いやーん」

川;゚ -゚)「ラバーはそこで待ってなさい」

 ふたりは蝶々がひらひらと舞うように踊りながら逃げまどう。
はたからみれば、ほほえましい光景かもしれなかったが
焼けたフライパンの上で阿波踊りでもしてる気持ちである。

82 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:48:30 ID:uAhNS2g.0

 てんやわんやしている私に救いの神があらわれたのは、
濡れねずみが三人に増えたところだった。

(*‘ω‘ *)「っぽー! なにしてるっぽ!」

 非難めいた声に私はぎくっとして顔をむけた。
大家さんが目を見ひらいて立っている。
水で遊んでいるから怒られたのかと身構えたが、どうやらそうではなかった。

(*‘ω‘ *)「シィタ、ラバー! 迷惑かけちゃダメっぽ!」

 大家さんはどすんどすんと足をならして、いまだ遊んでいる双子へ走り寄った。
そしてホースをあっという間に取り上げ、
状況がつかめないままでいる私に蛇口をしめるようにいった。

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「あーん!おみずー!」」

(*‘ω‘ *)「っぽー!クーちゃんにごめんなさいするっぽ!」

 クーちゃん。
大家さんだけは私をちゃん付けで呼ぶのだ。
どこの世界もおばさんという存在は気安く、また心優しい。

川 ゚ -゚)「すぐ乾くので大丈夫です」

 現に濡れた髪は毛先から乾きはじめていた。
シャツのすそを絞ればじゅわっと水が滴ったけれども。

83 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:49:12 ID:uAhNS2g.0

(*‘ω‘ *)「ほんとうにすまないっぽ」

 頭を下げた大家さんをみて、
ホースに執着していたふたりもぺこんとちいさな頭を下げた。

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「おねえちゃんごめんなさい」」

川 ゚ -゚)「どういたしまして」

 自分でもよく判らない返答をしたものだ。
怒ってないと判断したのか、彼女たちは私の腕をとった。

 ▲▲  
(*・ω・)「ねえねえちがう遊びしよーよ」

  △△
(・ω・*)「おねえちゃんどんな遊びしってるのー」

 大家さんがきて子どもから開放されたと思っていたのも束の間、
左右の腕をひっぱられてやじろべえのようになる。

(*‘ω‘ *)「クーちゃんは遊び相手じゃないっぽ!
       ここに住んでるひとなんだっぽ!」

 やめなさいと制する大家さんの声に反して、
彼女たちはああでもないこうでもないと話している。
まさに宇宙人のようだとおもう。

84 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:49:34 ID:uAhNS2g.0

(*‘ω‘ *)「ああー、わがままで困るっぽ……
       ほら、離れるっぽ!
       西瓜を切ってあるから食べてくるっぽ」

▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「すいか!やったー!」」

 鶴の一声とはこのことか。
ふたりは私をあっさりと開放して、アパートの中へと駆けていった。

(*‘ω‘ *)「申し訳ないっぽ……」

川 ゚ -゚)「なんだか、台風のようでした」

(*‘ω‘ *)「いちばんやんちゃな時期で、手に余るんだっぽ」

川 ゚ -゚)「大家さんのお子さんですか」

(*‘ω‘ *)「いやいやまさかっぽ! 孫なんだっぽ」
 
川 ゚ -゚)「大家さんそんなおとしだったんですか。
     てっきりお子さんだとばかり」

(*‘ω‘ *)「娘が三人、息子が二人いるんだっぽ」

 初めてきいた話だった。
大家さんと話す機会はあっても、いつも、どこどこの店が安いとか、
新しくできた店があるとか、そんな話ばかりだった。

85 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:49:47 ID:uAhNS2g.0

川 ゚ -゚)「はあー、そうだったんですか。彼女たちは双子ですか」

(*‘ω‘ *)「そうだっぽ!長女の子どもなんだぽが、
       夏休みになると遊びにくるんだっぽ」

 娘さんは、と言いかけたところで口をつぐんだ。
確かママはお空に、といっていたのを思い出したのである。

(*‘ω‘ *)「遊びにくるのはいいんだっぽ。
       でもやんちゃ盛りで大変だっぽ」

 自分で暴れまわったかのようなホースをてきぱきと片付けると、
大家さんは自室である一階の角部屋をみた。

(*‘ω‘ *)「孫が迷惑をかけたお詫びに、クーちゃんも西瓜、いかがっぽ?
       さらに迷惑をかけるかもしれないっぽが……」

川 ゚ -゚)「有難くいただきます」

 今年に入ってまだありつけていなかったのだ。
私は双子にされた仕打ちなどすっかり吹っ飛ばして笑った。

86 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:50:01 ID:uAhNS2g.0

 大家さんの部屋に入るのは、引越しの挨拶をした以来である。
きちんと整理されていたはずなのだが、いまは見る影もなく荒らされている。

川 ゚ -゚)「わお……」

 双子は西瓜をたべながら、ぬいぐるみでおままごとをしていた。

▲▲  
(*・ω・)「しゅいかくださーい」

  △△
(・ω・*)「はいどうぞー」

 ラバーが抱きかかえているクマのぬいぐるみに、
三角に切られた西瓜をラバーがまるごと突っ込んだ。
べしゃべしゃと押し潰され、真っ白だったカーペットには
果汁が飛び散って殺人現場のような有様だ。

(*‘ω‘ *)「っぽー! なにしてるっぽー!」

 デジャヴを感じながら私は立ち尽くしていた。
子どもというのはおそろしい。
私も昔はこんなふうだったのかと背筋がうすら寒くなる。

87 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:50:34 ID:uAhNS2g.0

 ▲▲  
(*・ω・)「あのねーテディもたべたいってゆうからね」

  △△
(・ω・*)「おばあちゃんのしゅいかおいしいってー」

川 ゚ -゚)「テディとやらも、口がべたべたで具合がわるそうだぞ」

 ▲▲  
(*・ω・)「あっほんとだー! きれいきれいしなくっちゃ」

  △△
(・ω・*)「きれいきれいー!」

 双子はきゃあーと甲高い声をあげてお風呂場へと走っていった。
大家さんはこの短時間ですっかり老けこんだようで、
背中には哀愁すら漂っている。

川 ゚ -゚)「子どもって大変ですね」

 心からの言葉だった。
大家さんと共にカーペットを取っ払い、
テーブルと床をきれいに片付けてから、ようやく私たちは腰を落とした。

 双子はというと、お風呂場で水遊びの続きをしているようで、
きゃっきゃとはしゃぐ声がきこえている。

88 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:51:28 ID:uAhNS2g.0

(*‘ω‘ *)「クーちゃんには重ね重ね申し訳ないっぽ……」

 新たに切りわけた西瓜の皿をテーブルに置いて、
大家さんは眉を八の字にさげた。

(*‘ω‘ *)「あの子たちだけで遊びにくるのは初めてで、
       テンション上がりっぱなしなんだっぽ」

川 ゚ -゚)「そうだったんですか」

(*‘ω‘ *)「いつもは娘と婿が連れてくるんだぽが、
       どうしても仕事の都合がつかなかったんだっぽ」

 だから、車で送ってそのままとんぼ返りだっぽ。
しゃくっ、西瓜をひとかじりして大家さんはやれやれと小さく顔を振った。

川 ゚ -゚)「……娘さんもお仕事ですか」

 お空にいる、というのは一体どういうことなんだろう。
大家さんの口ぶりでは健在のようにおもえた。

(*‘ω‘ *)「CAだっぽ。夏休みは繁忙期で、
       休みがとれないかもとは言ってたんだっぽが……」

 ああ、それなら確かにお空にいるだろう。
私はほっとした気持ちで西瓜を口にした。
三角に切られたそれはみずみずしく、
暑さでやられた咽喉にじんわりと染みこんでいく。

89 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:52:14 ID:uAhNS2g.0

川 ゚ -゚)「美味しいです。私も西瓜植えればよかった」
 
(*‘ω‘ *)「まだまだあるっぽ、良かったらもらってっぽ」

川 ゚ -゚)「本当ですか、うれしいです」

(*‘ω‘ *)「あとで届けにいくっぽ!」

 畑に植えている野菜の話をしていると、
部屋にある黒電話がじりりりと鳴った。
私は三切れめの西瓜に手をのばしたところだった。

(*‘ω‘ *)「はいはいっぽ」

 大家さんはゆるゆると立ち上がり、電話をとった。
窓辺においてあるコブタのかたちをした蚊取り線香から、
なつかしい香りがただよっている。

 私もそろそろ買いにいかないとなあ、とぼんやりしていると
大家さんがこちらを見ていることに気付いた。
電話はもう済んだようだった。

90 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:52:30 ID:uAhNS2g.0

川 ゚ -゚)「どうしました」

(*‘ω‘ *)「っぽ……クーちゃん、ちょっとお願いがあるんだっぽ」

川 ゚ -゚)「はい」

(*‘ω‘ *)「会合があることをすっかり忘れてたんだっぽ。
       これから集まりがあるんだっぽが……」

川 ゚ -゚)「お孫さんをそのあいだ見ていてほしい、と」

(*‘ω‘ *)「その通りだっぽ……」

 大家さんはひどく申し訳なさそうにうなだれている。
大人たちだけの集まりに子どもを連れていくのは、
気がひけるようだった。悪い子たちではないし、
私はいいですよとかるく返事をした。

91 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:52:42 ID:uAhNS2g.0

川 ゚ -゚)「うーん、しかし私だけでは荷が重いな」

 引き受けたものの、早々と途方にくれていた。
子育てをしたことも、子どもを預かったことすらない私に
短時間だろうが果たして面倒をみられるのだろうか。

川 ゚ -゚)「胃が痛い」

 今にもきりきりと音を立てそうな片腹を押さえ、
どうすれば良いのか考えた。おとなしくしててほしいが、
そうもいかないだろう。そんなことは明白である。

川 ゚ -゚)「弟者ならいけそうな気がする」

 なんだかいけそうな気がする。
またもややじろべえのようになりながら、兄弟猫の部屋へと向かった。


川 ゚ -゚)「おーい、流石兄弟よ」

 両手がふさがっているので仕方なく声をかけた。
兄者がヘッドフォンネロゲをしていたら届かないだろうけど。
しかし私の予想はうれしいことに裏切られ、弟者が扉をあけた。

(´<_` )「はいはいってクーさんどうした……」

 まだ体調が戻らないのか、と弟者は眉をひそめた。
大家さんのように老けこんで見えたのだろうか。

92 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:53:12 ID:uAhNS2g.0

川 ゚ -゚)「実は」

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「だあれこのひとだあれ」」

(´<_` )「えっ」

 双子が私のわきをすり抜け、弟者の足元にちょんと立っている。

 この子たちは人見知りというものをしないのだろうか。
そんなことを思いながら、私が口をひらく前に部屋の奥から兄者が現れた。

(; ´_ゝ`)「クーさんの隠し子!?」

川 ゚ -゚)「シバきまわすぞ」

(´<_` )「ちがうよな、そうだよな焦った……」

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「わあくちゃーい!」」

 双子はそろって鼻をおさえ、兄者を指さした。

(; ´_ゝ`)「え俺!? クーさん俺くさい?」

川 ゚ -゚)「いや私にはわからないが……」

(´<_` )「煙草くさいんだろ」

 くっせえくっせえ、と弟者は双子と同じように
鼻をおさえ片手をぱたぱたと振った。
所詮人間の嗅覚なんて動物には及ばないのだ。

( ´_ゝ`)「……俺、シャワーあびてくる……」

 がっくりと肩を落とし、兄者はユニットバスへと入っていく。
双子は弟者のまわりをぐるぐる回りながら、自己紹介をしていた。

93 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:53:30 ID:uAhNS2g.0

川 ゚ -゚)「兄者なら子どもが好きそうな
     ゲームがあるんじゃないかとおもって」

( ´_ゝ`)「あー、俺はもっぱらRPGかアレしかやらない」

 流石の兄者も目の前に幼児がいては、言葉を濁すようである。
思惑は外れてしまったが、兄弟猫がいるだけで充分だった。

 ▲▲  
(*・ω・)「ねえこれなあにー」

( ´_ゝ`)「ばっ、それはだめだ!」

  △△
(・ω・*)「ねえはこれはー」

(; ´_ゝ`)「あばばばばっそれも勘弁してくれ!」

 双子がフィギュアを手にとるたび、兄者は慌てて取り上げた。
私と弟者は依然として、ああでもないこうでもないと首をひねっている。

94 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:53:50 ID:uAhNS2g.0

(; ´_ゝ`)「はあはあ……、そこのふたり……」

川 ゚ -゚)「なんだ、私は忙しい」

(´<_` )「右に同じく」

(; ´_ゝ`)「うそつけえぇえええさっきから何もしてないいい!」

川 ゚ -゚)「考え事をしている」

(´<_` )「大声あげて野蛮だな」

( ´_ゝ`)「おいおい、紳士中の紳士になに言ってくれちゃってんの」

(´<_` )「紳士とか(笑)」

 この調子でよくも一緒に暮らせているものだと
やや感心しながらも、仲裁に入ることはしなかった。
いつも通りなのだ。これが自然体なのである。

95 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:54:18 ID:uAhNS2g.0

川 ゚ -゚)「去年はどんなことして遊んだんだ?」

 ▲▲  
(*・ω・)「おばあちゃんがプールしてくれたよ」

  △△
(・ω・*)「このぐらいのねっ、おっきいプール!」

 ラバーは両腕を広げたが、想像よりも小さかったのか
シィタの片腕をとってから改めて、これぐらい!といった。

川 ゚ -゚)「アパートのどこかにあるのかな」

(´<_` )「たぶん倉庫だな」

川 ゚ -゚)「ああ、あそこか。ありそうだ」

( ´_ゝ`)「ネズミいるかもwwwテンションあがるwwww」

(´<_` )「罠にかかっちまえ」

川 ゚ -゚)「それじゃ、外でプールにしようじゃないか」

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「わぁーいっ!」」

 双子は同時にぴょんぴょんとジャンプをした。
その仕草に、ああ確かに大家さんの孫なんだとおもった。

96 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:54:32 ID:uAhNS2g.0

 予想通り、ビニルプールはアパートの倉庫に置いてあった。
空気をいれるための足踏みポンプもあったので、失敬してきた。

川 ゚ -゚)「さて、誰が膨らませるか」

 丁寧にたたんであったビニルプールをひろげると、
底面には可愛らしいアヒルが描かれていた。
縁はピンク色で、まさしく子どもに似つかわしいデザインである。

( ´_ゝ`)「黙ってたんだけどさ……
      医者から急激な運動は避けるようにって言われてんだ」

(´<_` )「空気いれてからしね」

 反論する暇もなく、兄者の足元にポンプが置かれた。
私と弟者はそろって親指を立てる。

川 ゚ -゚)「兄者ならできる、やればできる」

(´<_` )「熱くなれよもっと」

 という弟者の瞳には情熱のじの字さえない。

(; ´_ゝ`)「やりゃーいいんだろやりゃー!」

 半ばやけくそになりながらも兄者はポンプを勢いよく踏みだした。
しゅっこしゅっこしゅっこ。なんとも間抜けな音が聞こえるが、
それに合わせてビニルプールがゆっくりと膨らみはじめた。

97 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:54:55 ID:uAhNS2g.0

 ▲▲   
(*・ω・)つ◎「うきわ!」

 △△
(*・ω・)つ◎「ふくらませて!」

(´<_` )「まじか」

 倉庫にあったのだろう浮き輪をもって、双子は弟者にいう。
それをみて兄者はほくそ笑んだ。

( ´_ゝ`)「ざまあwwww」

(´<_` ;)「おい交代しようぜ」

( ´_ゝ`)「な、い、わっwwwww」

 素晴らしいほどの勝ち誇った顔である。
しかし兄者の額にはうっすらと汗がにじんでいた。
どっちもどっちだなとニヤついた私がいちばんの勝ち組であろう。

(´<_` ;)「っふう、ぶふー!」

 頬いっぱいに空気を吸いこみ、一気に浮き輪へと吐き出す。
見ているだけで頬が攣りそうだ。

川 ゚ -゚)「日除けでも用意するか」

 倉庫の端っこに立てかけてあったパラソルを
引っ張り出して、支柱を地面に固定させた。
赤と白と青のパラソルは海を連想させる。

98 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:55:17 ID:uAhNS2g.0

川 ゚ -゚)「やれやれ」

 早速日陰に座り込むと、双子も私の両脇にちんと座った。

 ▲▲  
(*・ω・)「マルバツやろーっ」

  △△
(・ω・*)「おねえちゃんもいっしょに!」

川 ゚ -゚)「三人でやるのか?」

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「うんっ!」」

 双子は元気よくうなずき、小枝で地面に線を縦横に四本ずつ引いた。
まず真ん中あたりにシィタがハートを描いた。
続いてラバーが右上に星を描く。
すでにマルバツの域を飛び越えている。

川 ゚ -゚)「えーっと、私はマルでいいのか……?」

 ▲▲  
(*・ω・)「すきなのでいいよ!」

  △△
(・ω・*)「ハートとお星さまはだめよ!」

 アドリブにはそこそこの対応力があると思っていたが、
思い上がりだったようだ。私は無難にマルを選び、左下にくるっと描いた。

99 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:55:49 ID:uAhNS2g.0

 ▲▲  
(*・ω・)「んじゃここ!」

 シィタはハートの右に音符を描きはじめた。
ラバーはその下にウサギを描いている。

川 ゚ -゚)「……すごく自由だな」

 もしかして三つ揃えたら勝ち、というのもないのでは。
そんなことが過ぎりつつも、ハートの左にマルを描き足した。

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「なににしようかな!」」

 そういって笑う双子の笑顔は太陽よりも眩しくみえた。

 地面が熱されてゆらりゆらりと陽炎がゆれている。
あとでつめたい麦茶を用意しなければ、倒れてしまいそうだ。

100 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:56:10 ID:uAhNS2g.0

(; ´_ゝ`)「っつかれた、マジしぬ本気でしぬ……」

 肩で息をしながら兄者は遂に、
ビニルプールに空気を入れ終わった。

(´<_` ;)「いってぇえ……頬がしぬ……」

 程なくして弟者も浮き輪をふたつ完成させたので、
私はいよいよ立ち上がり、ホースを伸ばし、
最後の仕上げとばかりに蛇口を開ききった。

 怒涛の勢いでビニルプールへと水が流れこんでいる。
その様子に双子は我慢の糸がぷっつり切れたらしく、
ワンピースのままそこへ飛びこんだ。

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「ばしゃーんっ」」

 双子は全身で太陽をあび、水しぶきを受けていた。
その様は私が育てているトマトのように若々しく、生に満ちあふれている。

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「ちべたい! きもちい!」」

 すべてが自分たちを中心にまわっていると錯覚していたころ。
おそらく自覚はない。
しかし身体ぜんたいでそれを確かに知っていた。

101 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:56:33 ID:uAhNS2g.0

川 ゚ -゚)「ふたりとも、お疲れさま」

 部屋からもってきた麦茶を、氷がたっぷりと入ったグラスに注ぐ。
すっかりへばったままの兄弟猫に手渡して、私もそれを口にした。

(; ´_ゝ`)「生き返る……」

(´<_` )「お前筋肉痛になりそうだな」

(; ´_ゝ`)「空気入れごときでなるもんか」

(´<_` )「なるなる、賭けてもいい」

川 ゚ -゚)「あ」

( ´_ゝ`)(´<_` )「うおうっ!?」

 私が発するのとほぼ同時に、兄弟猫の背中に水がかけられた。
突然の出来事にふたりの耳と尻尾がぴんっと立った。

102 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:56:50 ID:uAhNS2g.0

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「えへへーっ」」

( ´_ゝ`)「やりやがったなー!」

 ビニルプールの縁に半身を預けた双子が、
いたずらめいた顔で笑っていた。兄者は麦茶を置くと
両手を顔の上にあげて、がおーっと突進していった。

川 ゚ -゚)「意外と子ども好きなんだな」

(´<_` )「思考回路が同じなんじゃね?」

川 ゚ -゚)「ああ、なるほど」

 アパートを取り囲む樹木にとまった無数の蝉が、
じゅわじゅわじゅわ、みんみんみん、ととけたたましく囃し立てている。

 真夏が私たちを手あつく取り囲み、
時間だけがゆるやかに、しかし正確なはやさで過ぎていった。

103 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:57:12 ID:uAhNS2g.0

 私の部屋で双子と過ごしていると、遠慮がちなノック音がした。
はい、とちいさく返事をして扉をあける。

(*‘ω‘ *)「クーちゃん遅くなったっとと、寝ちゃったぽか」

川 ゚ -゚)「おかえりなさい」

 双子はすやすやと寝息をたてて布団のうえで
仲良く手をつないで眠りこけている。
その様子に大家さんはそぅーっと扉をしめた。

(*‘ω‘ *)「きょうはありがとうだっぽ」

 私の頭よりもはるかに大きな西瓜を差し出され、
両手で受け取ってみたものの、あまりの重さに足がよろめいた。

(*‘ω‘ *)「あと、これもお礼だっぽ」

 ビニル袋にみっしりと詰められた枝豆と、
桐の箱に黒帯がついた素麺だった。
  
川 ゚ -゚)「おお……ありがたいです」

(*‘ω‘ *)「食べ物ばかりですまんっぽ」

川 ゚ -゚)「いえいえ、それがいちばん助かります。
     流石さんにもおすそ分けできますし」

(*‘ω‘ *)「っぽ、お願いするっぽ」

104 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:57:31 ID:uAhNS2g.0

川 ゚ -゚)「プール遊びをしたあと、シャワーを浴びたら寝ちゃいました」 

 途中からプールに引きずりこまれた兄弟猫も同様、
ふらふらになりながら部屋に戻ったので爆睡しているだろう。

(*‘ω‘ *)「婿が迎えにきてるから、抱っこしてくっぽ」

 よいせぇっ、という掛け声と共に大家さんは
双子を両脇に抱えあげた。なんとも勇ましいではないか。

川 ゚ -゚)「扉、あけますね」

 まさか落としたりはしないだろうが、
急ぎ足で玄関へ向かうと扉を静かに押し開けた。

(*‘ω‘ *)「ぽっぽーぅ、ありがとだっぽ」

川 ゚ -゚)「お見送りします」

 情、というものだろうか。
このままさようならするのは忍びなかった。
大家さんが廊下を歩くたびに、ぎっしぎっしと床が軋んだ。

105 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:57:46 ID:uAhNS2g.0

(`・ω・´)「本日はお世話になりました」

 まだ明るみの残る夕焼けを背景に立っていたのは
しゃきっとした顔立ちの男性だった。

川 ゚ -゚)「いえいえ、お世話と呼べるほどのことは」

(*‘ω‘ *)「してくれてたっぽ!」

 私にかぶせるように大家さんがいうと、
男性は再度深々とお辞儀をした。

(`・ω・´)「どのようにお礼を申し上げたら」

川 ゚ -゚)「大家さんからいただきましたので」

(`・ω・´)「いえいえ私からも」

川 ゚ -゚)「いえいえ大丈夫です」

(`・ω・´)「いえいえ」

川 ゚ -゚)「いえいえ」

 居酒屋でよくある光景の押し問答をしていると、
大家さんの小脇に抱えられた双子が目をさました。

106 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:58:16 ID:uAhNS2g.0

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「……ぱぁぱ?」」

 大きな瞳をぱちぱちさせて顔を確認する。
双子は地面にとっと降り立ち、男性の足に絡みついた。

 ▲▲  
(*・ω・)「あのね、きょうね!」

  △△
(・ω・*)「たくさん遊んだよ!」

(`・ω・´)「そうかそうか、それは良かった」

 男性の目じりがほころび、一瞬で父親の顔になる。
ほほえましく思いながら、私は腰を落とした。

川 ゚ -゚)「迎えにきてくれて、よかったな」

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「うんっ!」」

 きょういちばんの笑顔に私もうれしくなる。
ただ平凡に過ぎていくはずだった一日が、
まさかこんなにも充実した日になるとは思わなかった。

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「あ、そーだ!」」

 男性の足元から離れ、車の後部座席を開けると
なにやらごそごそと探し物をしている。
ややあって双子はそれぞれ何かを手にして戻ってきた。

107 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:58:42 ID:uAhNS2g.0

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「遊んでくれたおれい!」」

 シィタが私の手のひらに、薄っぺらい紙のようなものを置いた。
すべすべとなめらかで、よくみると淡い桃色をしている。

川 ゚ -゚)「これは……」

 ▲▲  
(*・ω・)「これね、かみせっけん!」

 紙石鹸。なつかしい響きだ。
幼いころよく駄菓子屋で買った覚えがある。
鼻を近付けてみると、清潔なかおりにまじって花のようなにおいがした。

  △△
(・ω・*)「これも!」

 もう一方の手にラバーが握らせたのは、
つるりとつめたい感触が心地よいビー玉だった。

川 ゚ -゚)「きれいだ」

 晴天を粉々にくだいて閉じ込めたようなそれは、
いくつもの粒が夕焼けに照らされて小さな海のようだった。

川 ゚ ー゚)「素敵なものをありがとう」

 大人になってからは好んで買わなくなったものたち。
まだ小さな彼女たちにとって、それらが
どれだけ大事なものなのか容易く想像はできた。

川 ゚ -゚)「すごくすごく、大切にするよ」

 お礼といって、たった一日遊んだだけの私に
宝物を差し出す勇気を、たとえパフォーマンスであっても
遠慮する姿勢をするのは失礼だと思った。

108 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/08/05(金) 15:59:56 ID:uAhNS2g.0

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「えへへ、また遊んでね!」」

川 ゚ -゚)「ああ、また遊ぼう」

 ▲▲     △△
(*・ω・)db(・ω・*)「ゆびきりするの」」

 私が頷くのをみて、双子は小指を立てた。
両手の小指をシィタとラバーのそれに絡め、
ゆーびきげーんまんっ、と声を合わせて指切りをした。

(`・ω・´)「さあ、そろそろ帰ろうか」

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「はぁいー!」」

(*‘ω‘ *)「気をつけて帰ってっぽ」

 大家さんが手を振る。
私も指切りをした両手を振る。

 ▲▲   △△
(*・ω・)(・ω・*)「「まーたーねー!」」

 双子は何度か振り返りながら、車に乗り込むと
ひとつの窓からふたつ顔をだして大きく手を振った。

 またね。また明日。
そういって友達と言葉を交わした学生のころ。
さようなら、ばいばい、に移り変わったのはいつだったか。

川 ゚ -゚)「ああ、また遊ぼう!」

 エンジン音がして、ごうんと車体が揺れる。
じわじわと速度をあげて、車が走っていった。
山間に落ちていく太陽に向かって、まっすぐに。


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