- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 21:05:58.43 ID:K3Xs79KLO
- 優勝の余韻覚めやらぬニュー速スタジアム。
毒田の劇的優勝決定サヨナラ打から一夜が明けた。
時刻は午後五時半。10月の風が容赦なく観客に吹きすさぶ。
('A`)「……」
今日はいわゆる消化試合。
試合開始前の応援合戦も昨日ほどの熱気は感じない。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 21:09:40.57 ID:K3Xs79KLO
- レフトスタンドにはレールウェイズの優勝を信じてチケットを買っていたファン。
ライトスタンドには未だ歓喜でうずうずしているヴィッパーズファン。
両者の激突はなく、今日はのびやかな空気で野球が楽しめそうだ。
('A`)「ふぃー……」
ベンチの中で伸びをする。
昨日多少酒は飲んだが今日には残っていない。
まあそもそもまだビールかけをしていないのだから当たり前だが。
( ´∀`)「まだ試合が残っていますから」
監督の鶴の一声でビールかけは今日行われることになった。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 21:13:05.57 ID:K3Xs79KLO
- ( ゚∀゚)「毒田センパイ」
と、そんなことを考えていると向こうから長岡が歩いてきた。
長岡はヴィッパーズの面々に会釈をし、俺の隣に座る。
('A`)「やめろやめろセンパイなんて。首位打者様からセンパイなんておこがましいよ」
手を大げさに振り回しながら嫌みったらしく長岡に言う。
しかし長岡は気にしていない様子だ。
( ゚∀゚)「そんなこと言わないでくださいよ。センパイはずっとセンパイですから」
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 21:19:14.48 ID:K3Xs79KLO
- ('A`)「……へっ」
( ゚∀゚)「それに昨日はすごかったじゃないですか」
('A`)「……別にすごかねーよ」
照れ隠しに帽子を目深に被りなおして対応する。
巷では『天才』と称されている長岡に誉められるのは悪い気はしない。
( ゚∀゚)「ま、これで俺の今年のシーズンは終わりですよ」
('A`)「まだ1試合残ってるだろ?」
疲れたなーと伸びをする長岡に言う。
まだシーズンは終わっていない。今から試合が始まるのだ。
そう言うと長岡はニヤリと笑う。
( ゚∀゚)「いやあ、今日はどうがんばっても主役にはなれませんから」
('A`)「……なるほど」
俺も、納得した。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 21:22:52.19 ID:K3Xs79KLO
- 『お待たせいたしました。
ヴィッパーズ対レールウェイズのスターティングメンバーを発表します。』
聞き慣れたウグイス嬢の声がスタジアムに響く。
観客がいよいよ始まる試合に心を踊らせる。
『レールウェイズ、1番ショート、長岡。背番号7』
長岡の名前に場内が湧く。
しかし今日はどうがんばっても主役にはなれない。
長岡も俺も。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 21:26:13.63 ID:K3Xs79KLO
- その後もメンバー紹介は滞りなく進む。
そして、今度はヴィッパーズが紹介される番だ。
『ヴィッパーズ、1番セカンド、毒田。背番号37』
ビジターチームにはない、オーロラビジョンを使った派手な演出。
厳ついフォントの文字とともに俺の顔が場内に映し出される。
('A`)
('A`)「俺はもうちょっとキリッとしてると思うんだけどな」
(K‘ー`)(ねーよ)
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 21:29:49.15 ID:K3Xs79KLO
- そして2番川島、3番ガイエルと名前が呼ばれていく。
さあ、次だ。
『4番』
ウグイス嬢のその言葉に、騒がしかった場内がピンと静まる。
その次に呼ばれる名前は誰もがわかっていた。
『ライト』
「おかえり」のプラカードを上げるファン。
イップスに泣き、引退を決意した三冠王。
『諸本。背番号、3』
最強の4番が、428日振りに一軍の4番に返り咲いた瞬間だった。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 21:35:45.14 ID:K3Xs79KLO
- (´・ω・`)「やっべーやっべ泣きそう」
J( ゚_ゝ゚)し「腹痛か?」
( ・∀・)「……」
俺は実際にはベンチを諸本さんと共にしたことはない。
俺がヴィッパーズに入団した時点で諸本さんはイップスに苦しんでいたからだ。
('A`)「……」
しかし、男1人がいるだけでベンチの雰囲気はこうも変わるのか。
消化試合にも関わらず張り詰めた心地のいい緊張感。
本当に首位を争うときに諸本さんがいたらどんな空気になっていただろう。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 21:39:15.61 ID:K3Xs79KLO
- それぞれの守備位置につく俺たち。
もはやすっかり慣れたヴィッパーズのセカンドにつく。
と、その瞬間。場内が大音声に包まれた。
「「「もろもと!! もろもと!!」」」
太鼓やラッパに合わせ起こる諸本コール。
ライトの守備についた諸本さんに送られるそれはライトからだけではない。
本来はビジターファン、つまりレールウェイズファンが多いレフトからも送られていた。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 21:42:47.73 ID:K3Xs79KLO
- ('A`)「……すごいですね」
大歓声に負けないように、ショートの茂等さんに囁く。
茂等さんはあまり興味なさげに呟いた。
( ・∀・)「ま、最後の輝きだよな」
その言いぐさに少しムッとする。
('A`)「そんな言い方……」
( ・∀・)「だから」
('A`)「?」
( ・∀・)「飾ってやらんとな」
('A`)「……はい」
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 21:50:38.16 ID:K3Xs79KLO
- 諸本さんが手を挙げるとさらに場内が湧く。
やはり諸本さんは愛されているのだな、となんとなく思った。
('A`)「……よし」
自分の仕事であるセカンドの守備に集中する。
勝とう。諸本さんの最後を飾ろう。
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 21:55:51.27 ID:K3Xs79KLO
- しかしやはり引退寸前の男を4番に据えて勝つのは難しい。
諸本は3打席のうち2打席をチャンスで迎える。しかしいずれも三振。
あとの1打席も凡退に倒れる。
(´・ω・`)
しかし、その顔は穏やかだ。
諸本が凡退してベンチに帰るときも暖かい声援に包まれている。
(´・ω・`)
('A`)「……!」
諸本さんが俺の横を通ったとき、確かに見た。
諸本さんの頬が、汗ではない水分で濡れているのを。
- 42 名前:途中経過 投稿日:2009/05/18(月) 21:59:55.90 ID:K3Xs79KLO
- 123 456 789 RH
RW 000 031 00 47
V 000 100 0 14
RW 大矢‐カイニン
V 鈴木・松田・海崎‐比木
本塁打
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 22:01:56.35 ID:K3Xs79KLO
- 8回の裏。
3点ビハインドの攻撃。
ピッチャーは昨日絶好調だったジョーンズだ。
そして、バッターは1番の俺から。
(’e’)「UWA〜」
('A`)「空気読めよ空気読めよ空気読めよ空気読めよ」
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 22:06:31.66 ID:K3Xs79KLO
- 思慮の浅いアメ公野郎は真剣勝負を挑んでくる。
160キロも出してくる。まったく、やれやれだ。
(#'A`)「空気読めって言ってるだろうが――!!」
(’e’)「UWA〜」
俺は甘く入ったストレートを振り抜く。
空気を読まないからこんなことになるのだ。
(K‘ー`)「よしっ!」
そして川島が続きノーアウトランナー一塁二塁。
J( ゚_ゝ゚)し「チャンスで決めるのがワシや!!」
ガイエルが三振で迎えるバッターは――4番。
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 22:09:50.20 ID:K3Xs79KLO
- 『4番ライト、諸本』
場内が湧く。
三冠王が、三冠王らしい姿を見せてくれることをみんな望んでいるのだ。
ファンも、俺たちも。
(´・ω・`)「まったく……大変な期待だな……」
(’e’)「……」
(´・ω・`)「……ん?」
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 22:13:07.60 ID:K3Xs79KLO
- (’e’)「……」
ジョーンズは右腕を前に突き出している。
握りを諸本に見せているのだ。その握りは――ジョーンズ得意のストレート。
('A`)「……空気読めるんじゃん」
( ゚∀゚)「面白いですねえ」
俺たちもこの時ばかりは一観客として見守る。
諸本さんはあっけにとられた表情をしたが、すぐに凛々しい顔に戻った。
(´・ω・`)「粋なことしてくれるじゃないの」
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 22:16:59.58 ID:K3Xs79KLO
- (’e’)「UWA〜」
ジョーンズが上背だけの独特なフォームで投げる。
真ん中へのストレート。
あくまで真っ向勝負がしたいらしい。
(´・ω・`)「!」
諸本はその球威に思わず見送る。
二軍のピッチャーとは比べものにならないスピード。
諸本はすっかり衰えた自分に、自虐的に笑った。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 22:21:18.12 ID:K3Xs79KLO
- 2球目もストレートを空振り。
追い込まれた。恐らくジョーンズは3球勝負をしてくるだろう。
得意のストレートで。
(´・ω・`)「球種はわかっている……コースもわかっている」
(’e’)「……」
(´・ω・`)「なら、打てないわけないじゃないか」
(’e’)「……UWA〜」
(´・ω・`)「勝負だ」
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 22:24:46.03 ID:K3Xs79KLO
- (’e’)「UWA〜!!」
ジョーンズも、諸本の熱意に答えようと渾身の力で投げる。
恐らく、160キロ台のストレート。
(´・ω・`)「……」
やはり、真ん中のコース。
自分がイップスに悩んだインコースではない。
(#´・ω・`)「っ……おらぁっ!!」
野球人生の全てをこの一振りにこめる。
ボールを、捉える。
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 22:28:10.39 ID:K3Xs79KLO
- ――ことは、できなかった。
ボールは乾いた音とともに、キャッチャーのミットに収まった。
(’e’)「……」
ペコリと頭を下げ、諸本に敬意を表するジョーンズ。
それを受けて諸本も深く深く頭を下げる。
(´ーωー`)「……」
自分の現役実質最後の打席。
ジョーンズに、チームメイトに、ファンに、グラウンドに、家族に。
深く深く、頭を下げた。
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 22:32:08.39 ID:K3Xs79KLO
- 『5番ファースト、宝』
( ^Д^) 「……」
諸本の後を受け、4番に座った宝。
今日は諸本が帰ってきたため5番だ。
(´・ω・`)「……」
( ^Д^) 「……」
諸本さんがベンチに帰ろうとする。
何か言うべきなのだろうが、言葉が見つからない。
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 22:39:46.05 ID:K3Xs79KLO
- ( ^Д^) 「諸本さん……」
(´・ω・`)「わかってるよ」
父親のような優しい言葉。
すれ違いざまに背中をポンと、叩かれる。
自分の誇りの背番号、5。
(´・ω・`)『お前は5番をつけたらどうだ?』
当時頭角を現し始め、球団から一桁背番号を選んでもいいと言われたオフ。
諸本さんに飲みに連れて行ってもらったとき、言われた言葉だ。
( ^Д^) 「……」
(´・ω・`)「……がんばれよ」
そう言ってベンチに帰る諸本。
その背中には背番号3が輝いている。
( ^Д^) 「……ずるいなあ」
ヘルメットを目深に被る。
カクテルライトが、なぜか滲んでいた。
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 22:45:40.91 ID:K3Xs79KLO
- 結局、もう諸本さんに打席が回ってくることはなかった。
三冠王の引退試合。
4打数0安打3三振。
往年の諸本とは、程遠い内容だった。
123 456 789 RH
RW 000 031 001 59
V 000 100 030 46
RW 大矢・ジョーンズ・バルケン‐カイニン
V 鈴木・松田・海崎‐比木
本塁打 宝32
勝 ジョーンズ 2勝7敗1S
S バルケン 1敗35S
負 海崎 1勝4敗
- 90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 23:19:45.71 ID:K3Xs79KLO
- 試合が終わったあとのスタジアム。
いつもならファンは我先にと家路を急ぐだろう。
だが、今日は違う。4万人のファンは、未だ帰らない。
('A`)「……」
マウンドとホームベースの間にマイクとステージが用意される。
俺たち選手は誰に言われるでもなくベンチの前に整列した。
(´・ω・`)「……」
諸本さんが気恥ずかしそうにしながらステージに上がる。
ふ、と一息ついて話し始めた。
- 95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 23:24:01.39 ID:K3Xs79KLO
- (´・ω・`)「今日はキィイイィイィイィイィイィン」
ハウリング。
(´・ω・`)「……」
(´・ω・`)「きょキィイィィイイイィイィイィン」
慌てて球団職員の方が飛んでくる。
ひょうきんな諸本にふさわしいとファンは湧いていた。
:(* ∀ ):「ふふふ……」
(;'A`)「……」
ここにも笑いをこらえられていない36歳がいるが。
- 100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 23:26:50.68 ID:K3Xs79KLO
- (´・ω・`)「あー、あー」
諸本がマイクの調子を確認する。
ちゃんと声が出ることを確かめて今度こそ話し始める。
(´・ω・`)「えー、今日はこんな時間まで残っていただいてありがとうございます」
メガホンが音を立てる。
さざ波のような歓声が上がる。
- 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 23:30:04.29 ID:K3Xs79KLO
- (´・ω・`)「えー、バッターはいバッター方がいいと言いますが」
途端に場内が静まり返る。
しかしこれも諸本さんの代名詞だ。お立ち台でのダジャレ。
三冠王を取った時にはダジャレが追いつかないほどだったらしい。
(´・ω・`)「今日は、威張らずに話をさせていただきたいと思います」
- 106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 23:33:30.49 ID:K3Xs79KLO
- (´・ω・`)「えー、今僕が思っていることを叫びたいと思います」
('A`)「……」
(K‘ー`)「……」
( ^Д^) 「……」
場内が静まり返る。
今この場にいる人間は諸本の一挙一動に集中している。
(´ーωー`)「……」
すうーっと、息を吸い込む。
そして、吐き出した。
(#´・ω・`)「まだまだやりたい!!」
- 112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 23:36:56.24 ID:K3Xs79KLO
- (#´・ω・`)「しかし! 自分の体は!」
( ・∀・)「……」
(#´・ω・`)「プロとして野球をすることを許してくれませんでした!」
('A`)「……」
場内は静まったままだ。
誰もが諸本の叫びを聴き逃すまいとしている。
- 120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 23:40:48.27 ID:K3Xs79KLO
- (´・ω・`)「……」
少しクールダウンする諸本。
しかし諸本の魂の叫びは続く。
(´・ω・`)「……しかし、プロとしてではなく」
J( ゚_ゝ゚)し「……」
(´・ω・`)「一野球人として」
从 ゚∀从「……」
(´・ω・`)「野球の素晴らしさを、未来のプロに伝えるために」
( ФωФ)「……」
(´・ω・`)「……これからも、精進していきたいと思います」
- 126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 23:45:14.02 ID:K3Xs79KLO
- (´・ω・`)「……この球場に来ている、子どもたち!」
从'ー'从「……」
(´・ω・`)「そして、ニュースなどのテレビでこれを見ている、子どもたち!」
( ゚∀゚)「……」
(´・ω・`)「野球は楽しいぞ! 野球って、いいもんだぞ!!」
観客席から、拍手が起こる。
メガホンを使ったものではなく、みんなが自らの手で行う、拍手。
ライトスタンドの片隅から始まったそれは、瞬く間に球場全体を包み込む。
- 135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 23:49:55.23 ID:K3Xs79KLO
- (´・ω・`)「14年間、早いものでした! 共に戦った、チームメイト!」
( ・∀・)「……」
(´・ω・`)「応援してくださった、ファンの方々!」
拍手がまたも球場を包む。
(´・ω・`)「……そして、今日来ている、妻と、娘」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
*(‘‘)*「……」
(´・ω・`)「……迷惑かけて、済まなかった」
- 142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 23:54:33.29 ID:K3Xs79KLO
- (´・ω・`)「それでは、老兵はただ消え去るのみと言います。
今まで、ありがとうございました!!」
その瞬間、ライトからもレフトからも、内野席からも一斉に諸本コールが立ち上がった。
ラッパと太鼓で諸本の応援歌が流される。
それを、バックネット裏で聴き、見る怜とヘリカル。
ζ( ー *ζ「……」
*(‘‘)*「パパ……」
その時、ヘリカルは母である怜の異変に気づいた。
自分が見たことのなかった、母の姿。
*(‘‘)*「ママ……」
「泣いてるの?」
- 146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/18(月) 23:58:06.85 ID:K3Xs79KLO
- 両軍の選手が諸本の所に集まる。
ヴィッパーズ・レールウェイズ関係なくその目は1人の偉大な男を送り出さんとしている。
(;´・ω・`)「待て待て、恥ずかしいからいいって」
( ・∀・)「捕らえろガイエル」
J( ゚_ゝ゚)し「イェッサー!!」
そうしてガイエルの肩に担がれる諸本。
胴上げから逃げだそうとするが、これでもう逃げられない。
- 152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 00:03:30.09 ID:e6D9vt27O
- 諸本の体が宙に浮く。
掛け声は、ファンも一緒に出す。
(*'A`)「わっーしょい!!」
(*´・ω・`)「……」
1回。
( ゚∀゚)「わっーしょい!!」
(*´ーωー`)「……」
2回。
( ・∀・)「わっーしょいっと――!!」
(*´ーωー`)「……ありがとう」
3回。
背番号と同じ3回、宙を舞った。
諸本信彦36歳、職業野球。
1人の偉大な男の最後は、偉大な選手たちの胴上げによって締めくくられる。
球場には、いつまでもいつまでも、諸本コールが鳴り響いていた。
- 175 名前:トリプルSブルペンにて ◆5Ws6J0OZQE 投稿日:2009/05/19(火) 00:36:00.32 ID:e6D9vt27O
- ――ある日のブルペン
( ><)『さあヴィッパーズリードで7回に移ります……』
( ФωФ)「……1点差か」
(´<_` )「そうですね」
(・∀ ・)「……」
( ФωФ)「……」
(´<_` )「……投球練習してきます」
( ФωФ)「おう」
- 176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 00:37:12.71 ID:e6D9vt27O
- バシーン
( ФωФ)「……」
バシーン
(・∀ ・)「……」
バシーン
( ФωФ)「……」
(´<_` )「行ってきます」
( ФωФ)「おう、がんばれ」
(・∀ ・)「……」
- 177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 00:40:06.37 ID:e6D9vt27O
- 『ヴィッパーズ、選手の交代をお知らせします。
ピッチャー内藤に代わりまして、流石。背番号30』
( ФωФ)「……」
(・∀ ・)「……」
( ФωФ)「……」
(・∀ ・)「……」
( ФωФ)「……」
(・∀ ・)「……」
( ФωФ)「……投球練習してくる」
(・∀ ・)「うぃ」
- 179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 00:41:59.32 ID:e6D9vt27O
- バシーン
(・∀ ・)「……」
バシーン
(・∀ ・)「……」
バシーン
(・∀ ・)「……食らえ火の玉ストレート!!」
バシーン
(・∀ ・)(……ちょっと恥ずかしかった)
( ФωФ)「行ってくる」
(・∀ ・)「うぃ」
- 180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 00:44:09.73 ID:e6D9vt27O
- 『ヴィッパーズ、選手の交代をお知らせします。
ピッチャー流石に代わりまして、杉浦。背番号56』
(・∀ ・)「……投球練習しとくか」
バシーン
バシーン
バシーン
『ヴィッパーズ選手の交代をお知らせします。
ピッチャー杉浦に代わりまして、斉藤。背番号66』
あまり共通の話題はないようですbyトリプルS
- 185 名前:伊藤、18歳、夏。 投稿日:2009/05/19(火) 00:53:20.37 ID:e6D9vt27O
- ('、`*川「うーん……」
ミンミンシャワシャワと蝉が鳴きまくる夏。
プール、入道雲、カブトムシ。愛すべき夏の代名詞たち。
しかしあたしはそのどれもをこの夏体験できないでいた。
('、`*川「……あっつーい」
受験、受験、お受験ザマス。
みんなは進路を決めていて、みんなのやる気は星飛雄馬。
あたしはすっかりやる気なし。なぜなら夢がないからさ。
- 187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 00:56:49.99 ID:e6D9vt27O
- ('、`*川「……」
家の縁側にゴロンと寝転がる。
シャツがまくれてへそが見えるがあたし以外には誰もいないので問題ない。
('、`*川「ふー……」
親の手前、予備校には通ってる。
でも受ける気のない授業を延々と聞くのは苦痛。
すいへいりーべぼくのふね。サインコサインタンジェント。
どれも将来役立つとは思えない。
- 190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 01:01:16.43 ID:e6D9vt27O
- ('、`*川「……」
そんなことを言うのは中学生の言い訳。そんなのわかってる。でもダメだ。
自分に必要ないとわかっているのにそれを吸収しようとする力はあたしにはない。
('、`*川「あ」
不意に肘がテレビのリモコンに当たる。
テレビが画像の受信を開始する。
('、`*川「……高校野球」
- 192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 01:05:07.08 ID:e6D9vt27O
- テレビの向こうでキラキラ輝く高校球児。
今のあたしと嫌でも比べて自己嫌悪。
('、`*川「ふう……」
それでも特にすることがなかったあたしはテレビにかじりつく。
聴いたことない学校と、聴いたことない学校の対決。
赤勝て白勝て。あたしはそんな気分だった。
- 193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 01:09:10.34 ID:e6D9vt27O
- ('、`*川「……」
結局勝ったのは聴いたことない学校。
負けたほうの聴いたことない学校の球児が泣いている。
いいなあ。泣くほどのめりこむものがあって。
('、`*川「……あ」
早々とベンチが入れ替わる。
次の試合は聞いたことない学校と聞いたことあり学校。
確か近くにある私立の学校。たまに坊主が家の前をランニングしてる。
('、`*川「甲子園出るほど強いんだ……」
知らなかった街角情報。
得した気分になってさらにテレビにかじりつく。
- 195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 01:14:21.84 ID:e6D9vt27O
- ('、`*川「……あ」
見たことのある子たちが甲子園に出ていた。
かっこいいショートくん、背が高いセカンドくん、ちょっと太ったピッチャーくん。
('、`*川「がんばれー」
同郷のよしみ。なんとなく応援する。
それでもシーソーゲームのこの試合に私のボルテージは上がってく。
- 199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 01:17:30.24 ID:e6D9vt27O
- そして、すっかり興奮したあたし。
本当にかじりつく勢いで応援する。
('、`*川「あっ!」
野球素人のあたしでもわかる、大きい打球。
ピッチャーくんの青ざめた顔、打った奴の満面の笑み。
ショートくんやセカンドくんは泣いていた。
- 205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 01:24:34.33 ID:e6D9vt27O
- ('、`*川「あーあ……」
そうため息をついた後にはっとする。
あたし、柄にもなく興奮してた。
('、`*川「……ふふ。きーめた」
野球で興奮したのなら、野球を追う記者になろう。
それならサッサと勉強しなきゃ。
すいへいりーべはいらなくても、現代文はいるだろう。
('、`*川「……」
ふと、画面を見る。
顔をくしゃくしゃにして泣く、ショートくんセカンドくんピッチャーくん。
('、`*川「……私に道を与えた者たちよ! 私に取材される権利を与える!」
なんとなく、テレビを指差し宣言する。
この場面を弟に見られたことを知って赤面するのはもうちょっとあとの話だ。
伊藤紅、18歳夏。進路、決まりました!
- 246 名前:( ^ω^)は10勝できなかったです 投稿日:2009/05/19(火) 09:54:46.20 ID:e6D9vt27O
- ヴィッパーズ対レールウェイズの試合。
内藤が4失点KOされた試合。
つまりヴィッパーズが優勝を決めた試合。
『ヴィッパーズ、選手の交代をお知らせします。
ピッチャー内藤に代わりまして、流石。背番号30』
(; ω )
ガックリとうなだれてベンチに引っ込む内藤。
その姿はどの角度から見ても情けない。
ξ#゚听)ξ「……っ! ないとー! この、あほんだら――!!」
('、`;川「つ、ツンちゃん……」
一緒に観戦していた伊藤ちゃんに若干引かれる。
それがどうした。人の目を気にしてたまるか。
- 247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 10:00:14.62 ID:e6D9vt27O
- ξ#゚听)ξ「……」
('、`;川「……」
ミセ;゚ー゚)リ「……」
あたしが怒っているのを気遣ってか、2人は何も喋らない。
長岡くんが打っても、ドクオが打っても喜びもしない。
ξ#゚听)ξ「……煙草吸ってきます」
('、`;川「い、行ってらっしゃい……」
これ以上あたしがいても雰囲気を悪くするだけだろう。
煙草を吸うと言って席を立つ。
- 248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 10:05:16.88 ID:e6D9vt27O
- ξ#゚听)ξ「……」
指定の喫煙所にずかずかと歩く。
当然だが、煙たい。
ξ#゚听)ξyー・~「……」
バックから煙草を取り出し、火をつける。
喫煙所に備え付けられているモニターには試合が逐一映される。
- 249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 10:09:35.02 ID:e6D9vt27O
- ξ#゚听)ξyー・~「……」
あたしは野球にあまり詳しくないので、細かいことはわからない。
でも今ヴィッパーズが負けていることはわかる。
誰のせいで? 彼氏のせいで。
「やっぱダメだなあ。内藤は」
「やっぱりこんな大一番に弱いんだよなあ」
「あー、こんなときに高岡がいればなあ」
ξ#゚听)ξyー・~「……」
同じ喫煙所で煙草を吸う男2人がいる。
2人は内藤の悪口をくっちゃべっている。
ξ#゚听)ξyー・~「……」
- 250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 10:17:37.91 ID:e6D9vt27O
- ξ#゚听)ξyー・~「……っ」
ξ#゚听)ξ「うるさいわよ!!」
「!?」
「!?」
あたしの大声に内藤の話をしていた2人だけでなく、喫煙所全体が静まる。
する音と言えばモニターから流れる野球のものだけだ。
ξ#゚听)ξ「なにを内藤のことをわかった風に!
あいつがどれだけあたしをほっぽってロードワークしてるか!!」
「……」
「……」
あたしのあまりの剣幕に男2人は黙り込む。
周りの人々もいっしょ。
- 253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 10:20:54.16 ID:e6D9vt27O
- ξ#゚听)ξ「知ってるの!? ねえ、あんたらはあたし以上に内藤を知ってるの!?」
「いえ……」
「すいませんでした……」
ξ゚听)ξ「ふん」
あたしは灰皿に煙草をなすりつけ席を外す。
落ち着きに煙草を吸いに来たのに余計にイライラしてしまった。
「あのユニ……内藤の彼女かな」
「かもな……」
「綺麗な子だな……」
「うん」
「内藤、俺たちより勝ち組……」
「言うなよ」
- 254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 10:24:59.97 ID:e6D9vt27O
- ('、`*川「あ」
ミセ*゚ー゚)リ「おかえりなさい」
('、`*川「どうよ、少し落ち着いた?」
ξ゚听)ξ「ええ、まあ」
嘘だ。
心はまだささくれ立っている。
ξ#゚听)ξ(そもそもあいつがKOされるから悪いのよ……あの豚インフルめ)
次に内藤と会ったときにどんな悪口を言ってやろうか。
あたしの頭はそれでいっぱいだった。
- 257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 10:31:57.80 ID:e6D9vt27O
- 結局その日はドクオのサヨナラ打で勝ち。
伊藤さんがバックネットの選手に一番近いところに走っていったのが印象的だった。
ξ゚听)ξ「……」
ミセ*゚ー゚)リ「あちゃー」
彼氏が所属するヴィッパーズの優勝。
監督のおじいちゃんが胴上げされ、スタンドは大盛り上がり。
今はペナントを選手が持ってグラウンドを一周している。
伊藤ちゃんはまだ帰ってこない。
ξ゚听)ξ「……ミセリ、あんまり悔しそうじゃないわね」
ミセ*゚ー゚)リ「悔しいですよ。……でも」
ミセリはあたしの目を見て、可愛らしい笑顔を浮かべる。
ミセ*゚ー゚)リ「長岡くん、がんばったから!」
ξ゚听)ξ「……そうね」
- 260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 10:43:30.80 ID:e6D9vt27O
- ――そして、オフシーズン。
いつもは寮に住む内藤も実家に帰っているらしい。
今日は、内藤に呼び出された。
ξ゚听)ξ「……なんだろ」
いつも待ち合わせする駅前の公園。
あたしは待ち合わせ時間の30分前についた。
でもあいつは、もう公園にいた。
(*^ω^)ノシ「ツーン!!」
ξ゚听)ξ「……もう」
こんな人混みの中で自分の名前を呼ぶのは止めてほしい。
欲しいのだが。
ξ゚听)ξ「……」
ξ*゚ー゚)ξノシ
- 261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 10:49:52.07 ID:e6D9vt27O
- ξ゚听)ξ「まったくあんたはほんとにねー……」
(;^ω^)「返す言葉もないですお」
連れてこられたのはオシャレなイタリアンレストラン。
こいつが連れて行くのはたいがいロイホなのでいささかビックリする。
あたしは優勝決定戦のことを内藤に話していた。
ξ゚听)ξ「あんたがKOされて煙草吸いにいってね、そこでアホな男が――」
(;^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「聴いてる?」
(;^ω^)「キャン!! き、聴いてますお」
なんだかおかしい。
内藤が上の空だ。いつもはあたしの言葉をちゃんと聴いてくれるのに。
- 265 名前:さるった+訂正 投稿日:2009/05/19(火) 11:11:45.10 ID:e6D9vt27O
- ξ゚听)ξ「ま、いいわ。……そういや」
続きを話そうとしたその時。
今年のシーズン前に内藤に言われた言葉を思い出す。
ξ゚听)ξ「あんた、10勝したらあたしに言うことがあるって」
(;^ω^)「ひっ」
ξ゚听)ξ「……」
(;^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「10勝」
(;^ω^)「いやっ」
ξ゚听)ξ「……」
これは、何かあるな。
- 269 名前:>>266そりゃそう(さる)なるわな 投稿日:2009/05/19(火) 11:20:47.58 ID:e6D9vt27O
- ξ゚听)ξ「言いなさいよ」
(;^ω^)「嫌だお」
ξ゚听)ξ「いいから」
(;^ω^)「10勝してないから言えないお」
ξ゚听)ξ「9勝だから似たようなもんじゃない」
(;^ω^)「全然違うお」
言えや言わないの掛け合いが続く。
いい加減イライラしてきたあたしは半ば怒ってこう言った。
- 273 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 11:28:18.62 ID:e6D9vt27O
- ξ゚听)ξ「じゃあなに? 来年あんたが10勝するまで気になって眠れない夜を過ごせと?」
ヨヨヨ、とチープな泣きマネをする。
それでも内藤に効果はあったようだ。
(;^ω^)「……わかったお。言うお」
いつになく真剣な顔。
内藤の目が、あたしの目を見る。
- 275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 11:30:12.35 ID:e6D9vt27O
( ^ω^)「結婚して欲しいお」
ξ゚听)ξ「やだ」
- 276 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 11:32:11.16 ID:e6D9vt27O
- ( ^ω^)「 」
ξ゚听)ξ「やだ」
( ^ω^)「 」
ξ゚听)ξ「やだ」
( ;ω;)「 」
ξ;゚听)ξ「な、泣くんじゃないわよ!」
- 280 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 11:38:08.49 ID:e6D9vt27O
- ( ´ω`)「そうかお……死にたいお」
ξ゚听)ξ「勘違いしないでよね」
( ´ω`)「豆腐の角に頭ぶつけて死にたいお……ん?」
ξ゚听)ξ「あんたのことは好きよ。もちろん」
( ´ω`)「おっおっ……」
ξ゚听)ξ「家はどうするの家は」
内藤は寮住まいだ。
あたしも実家。結婚するには家がいる。
( ´ω`)「どっちにしろ僕も8年目だお……マンション借りて退寮の手続きしたお」
ξ゚听)ξ「ふーん」
( ^ω^)「家があるなら結婚してくれるのかお!?」
ξ゚听)ξ「やだ」
( ´ω`)
- 283 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 11:44:01.88 ID:e6D9vt27O
- ξ゚听)ξ「結婚指輪がないじゃない」
( `ω´)「指輪ならあるお! 給料3ヶ月ぶんだお!!」
そう言って内藤は結婚指輪を取り出す。
ダイヤがついた、しかしそれを強調しすぎない上品な指輪だ。
ξ゚听)ξ「あら綺麗。でもダメね」
( `ω´)「なんでだお! 何が足りないんだお!」
ξ゚听)ξ「10勝目のウイニングボール」
( ^ω^)「!」
ξ゚ー゚)ξ「無理?」
あたしは頬杖をついてニヤリと笑う。
きっとあたし、イジワルな顔してるんだろうな。
( ^ω^)「……任せとけお」
内藤も、ニヤリと笑った。
- 287 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 11:51:00.18 ID:e6D9vt27O
- ――満員の、ニュー速スタジアム。
ひとりの男が、マウンドに立つ。
少し太ったその男が白球を投じる。
バッターが打つ。打球が上がる。打球は、レフトのグラブに収まった。
キャッチャーがマウンドに駆け寄る。
「10勝おめでとうございます、内藤さん」
「ありがとうだお、ワカ」
「ボールポイっとな」
「ああああああああっ!! 何してるんだおアーロン!!」
「何って観客席に投げたんやが。記念やったか? すまんすまん」
「問題大ありだお!!! すいませーん!! 返してくださーい!!」
そのボールを捕った人物は心優しい人物だったらしい。
ボールは観客席からグラウンドに返された。
「ありがとうございますお! 記念品たっぷり贈らせてもらいますお!!」
- 289 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 11:55:14.51 ID:e6D9vt27O
- 太った男がお立ち台に上がる。
今日は彼の記念日だ。……あたしにとっても。
『10勝おめでとうございます!!』
アナウンサーの声が球場に響く。
満員のスタジアムは大いに湧く。
「ありがとうございますお!!」
「……もう」
まさか、本当にやっちゃうとは思わなかったなあ。
10勝できなくても、結婚してあげるつもりだったんだけど。
- 290 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 11:59:54.34 ID:e6D9vt27O
- ヒーローインタビューは順調に進む。
アナウンサーが締めに入る。
『それでは内藤さん。ファンの皆さんに一言』
「……すいません、今日はファンの方にではなく、大事な人に一言言わせてくださいお」
『?』
アナウンサーさんの顔にははてなマークが浮かんでいる。
内藤はそれを気にせず大きな声で叫ぶ。
「ツーン!! これで条件は揃ったお!! 結婚してくれお――!!」
「……ばか」
スタジアムが湧く。
人ごみではあたしの名前を呼ぶなって言ったのに。
とりあえず、返事を考える。
きっと返事をするときのあたしは、赤い顔をしているんだろうな。
- 313 名前:魔将ガイエル列伝 投稿日:2009/05/19(火) 13:50:29.34 ID:e6D9vt27O
- 2007年某日
某テレビ局
(´・ω・`)「どーもー」
J( ゚_ゝ゚)し「どーもー」
その年まだイップスに陥っていない諸本。
その年、ホームランがリーグ3位のガイエルがテレビ出演。
( ><)「はい、プロ野球選手の握力計りまSHOWの時間です。
今日のゲストは三冠王諸本選手とガイエル選手です」
- 315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 13:55:19.98 ID:e6D9vt27O
- (´・ω・`)「ふんぬ!!」
( ><)「さすが三冠王!! 歴代1位の97kg!!」
(´・ω・`)「どーもー」
J( ゚_ゝ゚)し「ヨッ! 日本一!!」
( ><)「さっ、ガイエル選手も」
J( ゚_ゝ゚)し「いやいや、ワシはええですわ」
( ><)「そんなこと言わずに。さっ」
J( ゚_ゝ゚)し「そうでっか。なら」
J(###゚_ゝ゚)し「おらあっ!!」
( ><)「……98kg」
J( ゚_ゝ゚)し「あっ……」
(´・ω・`)「……」
FILE1:なんとなくお茶の間を気まずい空気にする
- 319 名前:>>317一部実話 投稿日:2009/05/19(火) 14:01:41.44 ID:e6D9vt27O
- J( ゚_ゝ゚)し「なにしとんのや?」
(K‘ー`)「あっ、ガイエルさん。wiiですよwii」
J( ゚_ゝ゚)し「ほう、これが妊娠御用達の。ちょっとやらせてくれるか?」
(K‘ー`)「いいですよ。どうぞ」
J( ゚_ゝ゚)し「野球か。振ったらええんか?」
(K‘ー`)「あっ、ストラップを……」
J(###゚_ゝ゚)し「おらあっ!!」
(K‘ー`)「あっ……」
J( ゚_ゝ゚)し「テレビにコントローラーが刺さった……」
(K‘ー`)「……」
J( ゚_ゝ゚)し「……」
FILE2:GK歓喜
- 322 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 14:08:45.72 ID:e6D9vt27O
- J( ゚_ゝ゚)し「チリンチリーンっと」
('A`)「あっ……」
J( ゚_ゝ゚)し「……」
('A`)「アーロンもチャリなんだ……仲間だな」
J( ゚_ゝ゚)し「ワシ、チャリ通勤辞めるわ」
(;'A`)「!?」
FILE3:タクシーチケット
- 324 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 14:14:49.00 ID:e6D9vt27O
- オールスター後
从'ー'从「……」
(^o^)「……」
( ´_ゝ`)「……」
にしこり「……」
J( ゚_ゝ゚)し「あ、カルビ二人前」
FILE4:なぜかこの面子で焼き肉
- 329 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 14:20:14.87 ID:e6D9vt27O
- J(*゚_ゝ゚)し「エチルアルコール一気しまーす!!」
从*'ー'从「いっき!! いっき!! 百姓一揆!!」
(;^o^)「くっ……ドー、いやサプリが切れそうだ」
にしこり「やっぱり佐山愛やmarinは捨てがたいね」
(*´_ゝ`)「なるほどなるほど」
FILE5:なんとなく打ち解ける
- 332 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 14:24:24.26 ID:e6D9vt27O
- J( ゚_ゝ゚)し「一気用のエチルアルコールは常備しとるんや」
FILE6:薬事法違反
- 333 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 14:29:22.34 ID:e6D9vt27O
- にしこり「どうだいこれは」
J( ゚_ゝ゚)し「ジャパニメーション最高でんがな」
(*'A`)
にしこり「三次元もいいけど二次元もたまにはね」
J(*゚_ゝ゚)し「ホンマ日本人の性欲は底なしでんなあ」
(*'A`)
FILE7:松井邸にて、魂の契り
- 336 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 14:42:48.93 ID:e6D9vt27O
- にしこり「……」
J( ゚_ゝ゚)し「……」
('A`)「……」
FILE8:これが『三賢の邂逅』である
- 338 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 14:46:42.23 ID:e6D9vt27O
- ( ><)『打った――!! ホームラン――!!』
J( ゚_ゝ゚)し「カッタデー!!」
『魔将! 魔将! 魔将! 魔将!』
('∀`)「アーロン――!!」
J( ゚_ゝ゚)し「どーん!!」
('`∀)「ぶべらっ」
( ><)『ガイエルの毒田ラリアットが決まりました』
J( ゚_ゝ゚)し「いぇーい」
FILE9:なんにせよ、愛されている助っ人です
- 345 名前:高岡・渡辺ラプソディー 投稿日:2009/05/19(火) 15:19:25.19 ID:e6D9vt27O
- ――高岡8歳
从 ゚∀从「……お前、左利きなんだな」
从'ー'从「へ?」
俺は小学2年生の春、隣の席に座ってた奴に興味を持った。
同じような髪型、同じような女顔、そして同じ左利き。
話しかけない要素はなかったのかもしれない。
- 347 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 15:24:38.24 ID:e6D9vt27O
- 从 ゚∀从「いや、気になっただけ」
从'ー'从「……君も?」
从 ゚∀从「ああ……なあ、野球やんねー?」
俺は渡辺をそう誘った。
その時俺は地域のボーイズリーグに入っていた。
渡辺を誘ったのには特に意味はない。
もしかしたら、自分より下手な奴をチームに入れて安心感に浸りたかったのかもしれない。
- 350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 15:32:34.36 ID:e6D9vt27O
- 从'ー'从「高岡くーん、お待たせ〜」
从 ゚∀从「おせーよ」
渡辺が俺のチームに入るその日。
あいつは野球道具を一通り揃えて待ち合わせ場所にやってきた。
从;゚∀从「すげー、これミズノのバットじゃん! あ、こっちのグラブはSSK!」
从'ー'从「お母さんがもってけ、って言った奴なんだけど……」
从;゚∀从「……」
野球道具は高い。
その当時俺の家にあまり余裕はなく、道具はおさがりのものが主だった。
- 351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 15:38:05.93 ID:e6D9vt27O
- 从 ゚∀从「……なにこのグラブ」
从'ー'从「店員さんに左用って言われたんだけど……」
从;゚∀从「左用!?」
俺のグラブはおさがりに右用。つまり利き腕の左にはめるグラブだ。
対して渡辺のグラブは左用。右手にはめるグラブだ。
从;゚∀从(グラブに左用ってあったんだ……)
みんながみんなグラブを左にはめていたので自分もそうしていたが……
実は左用のグラブもあったのだ。それを知っていても買えることはなかったろうが。
- 353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 15:42:17.59 ID:e6D9vt27O
- 当時の俺は4番でエース。
チームの絶対的存在だった。
そんな俺が連れてくる人間はどんなだと、チームメイトのみならず監督も興味津々だった。
从 ゚∀从「ま、気まぐれだけどな」
从'ー'从「なんか言った〜?」
从 ゚∀从「なんでもねーよ」
そう言って自転車を立ちこぎでこぐ。
いつも通い慣れたグラウンドに。
- 357 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 15:49:35.48 ID:e6D9vt27O
- 从;'ー'从「わ、渡辺です。よろしく……」
チームに自己紹介をする渡辺。
左利きで高価な野球道具を持っているとあらば、みんなが興味を持って集まる。
「ちょっと投げてみてよ!」
从;'ー'从「う、うん……」
从>ー<从「えいっ!」
从 ゚∀从「……」
見るも無残な女投げ。
体を使わず、腕も振れていない。もちろん離れていた相手には届かない。
从'ー'从「あれれぇ〜?」
- 359 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 15:54:52.59 ID:e6D9vt27O
- 从 ゚∀从「違う違う。ボールってのはな……」
大きく振りかぶる。
左利きとはいえ、長年右でやってきた。今ではエースだ。
しっかりと腰を落とし、肘を先に出して、腕をしならせる。
从#゚∀从「こう投げんだよ!!」
从;'ー'从「わっ」
力いっぱい渡辺に投げ込む。
この時の監督の話だと、俺はもう100キロ近い球を投げていたらしい。
从>ー<从「いたっ!」
その球をを渡辺は取れずに、頭にぶち当てた。
ボーイズリーグは硬球だ。きっと痛いだろう。
- 360 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 15:57:56.66 ID:e6D9vt27O
- 「いたそー」
「大丈夫かー?」
「理緋、初心者に速い球投げすぎだって」
从 ゚∀从「わりー、わりー。大丈夫?」
从;ー;从「……」
渡辺は目に涙を浮かべていた。
少しドキッとするがその思いを振り払う。
从;゚∀从「な、泣くんじゃねーよ!!」
「なーかした、なーかしたー」
从;゚∀从「うるせえ」
从;ー;从「……す」
- 363 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 16:02:07.79 ID:e6D9vt27O
- 从;ー;从「すごいねえ!!」
从 ゚∀从「へ」
思わず間の抜けた声を出す。
てっきり大きな声で泣き出すんじゃないかと心配だったからだ。
从;ー;从「僕、あんな速い球初めて見た! ね、投げ方教えてよ!!」
从;゚∀从「お、おう」
「根性あんなー」
こうしてなんとなく溶け込んだ渡辺。
高価な道具を使っていたが、俺の知る限りではイジメもなかった。
- 365 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 16:06:14.63 ID:e6D9vt27O
- そうして練習をこなしていく俺たち。
ボーイズが休みの日、俺は友達と遊んでいた。
「理緋、野球の練習せんでええん?」
从 ゚∀从「んで、休みの日にまで野球やらなきゃいけねーんだよ」
「んだよ、プロになるんじゃねえの」
从 ゚∀从「おうおう、なってやるよ。でもな、休養も必要よ」
「……あ」
从 ゚∀从「? どしたー」
自転車の大群の先頭を走っていた奴が止まる。
自動的に後ろを走っていた俺たちも止まる。
- 367 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 16:09:10.41 ID:e6D9vt27O
- 「あれ、渡辺じゃない?」
そう言って指差した先には小さいグラウンドの片隅でバットを振る渡辺だ。
隣には、父親だろうか。大人がつきっきりで指導している。
从 ゚∀从「んー? ……ほんとだ」
「素振りしてるじゃん」
「隣にいる人誰だ?」
「……あ、監督じゃん!」
- 369 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 16:14:35.09 ID:e6D9vt27O
- 「何してんだろ」
从 ゚∀从「さあ。ヘタクソだから特訓でもしてんじゃねえの」
渡辺は嫌われてこそいなかったが、ヘタクソだった。
バットにボールを当てることはできないし、速い球も投げれない。
そんな渡辺はみんなにからかわれていた。
「ま、いいじゃん。早く高橋ん家行ってファミコンしようぜ」
从 ゚∀从「おー」
そうして俺たちは渡辺を尻目にチャリをこぐ。
ここの差が、後々埋めがたいものになることも知らずに。
- 371 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 16:20:26.03 ID:e6D9vt27O
- 「それでは、今度の試合のスタメンを発表する」
時は俺たち5年生の年の夏。
その時も俺はバリバリの4番エースとして君臨していた。
(理緋、今度も4番ピッチャーだろ?)
从 ゚∀从(おうよ)
友達がひそひそと俺に話しかけてくる。
このスタメン発表の時間は俺以外のスタメンを発表する場だった。
- 373 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 16:22:57.43 ID:e6D9vt27O
- 「1番センター高橋」
「ハイッ!」
「2番ショート源五郎丸」
「ハイッ!」
「3番キャッチャー理緋」
从 ゚∀从「……は?」
すっかり油断していた。
理緋、とは自分の名だ。
3番? それに、キャッチャー?
意味が分からない。じゃあ4番ピッチャーは誰だ。
- 375 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 16:26:12.53 ID:e6D9vt27O
- 从#゚∀从「ちょっと待てよ監督!」
「どうした」
从#゚∀从「どうしたもこうしたもねーよ! なんで俺が3番でしかもキャッチャーなんだよ!」
「……」
从#゚∀从「俺は真面目に練習してるし! 下ろされる理由はないぞ!」
1回、4番エースの座を剥奪されたことはあった。
練習をサボって遊びに行った時だ。
それに懲りた俺は練習にきちんと参加した。やる気ももちろん出していた。
从#゚∀从「納得いかねーって!」
- 378 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 16:30:18.02 ID:e6D9vt27O
- サボった時は100%自分の非だった。
だから仕方ないと反省したし、そういうことをやないとも決心した。
しかし今回は違う。100%自分に非はないのに――
「……続けるぞ」
从#゚∀从「監督!」
「4番ピッチャー綾」
从;'ー'从「ふぇっ!?」
渡辺が素っ頓狂な声を上げる。
確か、綾という名は――
从#゚∀从「ふっざけんなよ!! なんで渡辺が4番ピッチャーなんだよ!!」
- 379 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 16:34:32.95 ID:e6D9vt27O
- 「……本当に、理由が分からないか?」
从#゚∀从「ったりめーだろ! ……あれか、こいつが俺より練習してるからか」
「違う。まあそれに関した理由だが」
从;'ー'从「監督……僕、いいです。理緋に譲ります……」
「ダメだ。今度の試合の4番ピッチャーはお前だ」
从#゚∀从「納得いかねーって言ってるだろうが!!」
グラウンドは、騒然となる。
- 382 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 16:42:22.43 ID:e6D9vt27O
- 「……ふう」
从#゚∀从「……」
从;'ー'从「……」
「仕方ないな。理由を言っても理緋は納得しなさそうだし……」
从#゚∀从「……」
「勝負しろ」
从;'ー'从「ふぇっ!?」
「綾がピッチャー、理緋がバッターの一打席勝負。それでいいか?」
从#゚∀从「……勝ったら4番ピッチャーだからな」
「はいはい」
从#゚∀从「……」
从;'ー'从「あの……監督……僕本当にいいです……」
「綾」
- 385 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 16:44:52.94 ID:e6D9vt27O
- 「綾、これはな、理緋のためでもあるんだ」
渡辺だけにひそひそと話をする監督。
渡辺はそれを聞く。
「理緋は天狗になってる。あいつの鼻を叩き折ってやった方があいつのためなんだ」
从;'ー'从「でも……僕じゃ理緋は抑えられません」
「抑えられません、じゃない。抑えるんだ。大丈夫、綾ならできる」
从;'ー'从「……」
- 386 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 16:49:11.12 ID:e6D9vt27O
- 从 ゚∀从「ひそひそ話は終わったかよ」
ヘルメットをつけ、バットを持ちボックスに入る。
素振りをし、マウンドに立った渡辺を睨む。
从;'ー'从「そんな睨まないでよ……」
从 ゚∀从「とっとと来いよ」
「高橋と源五郎丸はそれぞれキャッチャーと審判をしてやれ」
「「は……はい!」」
- 388 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 16:52:56.55 ID:e6D9vt27O
- 从;'ー'从
渡辺が投球動作に入る。
そのフォームに俺は少なからず驚く。
从 ゚∀从「!」
最初の女投げでもない。
かといって俺が教えた力いっぱい投げるフォームでもない。
まるでプロのような、ゆったりとしなやかなフォーム。
从;゚∀从「監督め……綾に何吹き込みやがった……!」
- 389 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 16:55:37.26 ID:e6D9vt27O
- 1球目。
从 ゚∀从「……なんだよ」
投じられたボールは高岡の球より遥かに遅い。
フォームの優美さに少し驚きはしたが、この程度の球ならエースの資格はない。
从#゚∀从「なめんなあ!!」
从;'ー'从「っ!」
力いっぱいバットを振り抜いた。
- 390 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 17:00:20.63 ID:e6D9vt27O
- 「す、ストライク!」
从 ゚∀从「……はあ?」
審判役の源五郎丸がストライクをコールする。
確かに自分は空振りした。
あの遅い球を。なぜ?
(なんだよ……さっきの球……)
キャッチャー役の高橋は驚愕する。
高岡よりかなり遅い球。
しかし、渡辺の球は手元で急に伸びてくる。
(……高橋は、気づいたみたいだな)
ベンチに座る監督はまだ渡辺の球の特性に気づかない高岡を見ている。
- 392 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 17:04:48.35 ID:e6D9vt27O
- 2球目。
詰まった当たりはバックネットに当たる。
从;゚∀从「なんでジャストミートしないんだ……?」
2球とも自身を持って振り抜いた。
パワーには自信がある。
ジャストミートすればボールはどこまでも飛んでいくはずなのだ。
- 394 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 17:09:11.87 ID:e6D9vt27O
- そして、3球目。
从#゚∀从「そろそろ……」
从;'ー'从「……」
从 ゚∀从「当たれよっ!!」
バットは金属らしい鋭い音を立てる。
その音とともにボールは高く高く舞い上がり……
从;'ー'从「……」
渡辺のグラブに収まった。
- 395 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 17:11:42.74 ID:e6D9vt27O
- 从;゚∀从「……」
「わかったか? 綾とお前の差が」
从; ∀从「わかんねぇよ……」
「……」
从;'ー'从「……」
从#゚∀从「攻守交代だ! とっととどけ!」
从;'ー'从「監督……」
「やってやれ」
从;'ー'从「……はい」
从;゚∀从「なめんじゃねえよ……」
- 397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 17:16:51.01 ID:e6D9vt27O
- 从#゚∀从「俺が……」
投球動作に入る。
むちゃくちゃに力を入れた、ぎこちないフォーム。
そのフォームが1番速い球を投げられると盲信していた。
从#゚∀从「負けるかぁっ!!」
初速だけが速いその球はキャッチャーミットめがけて飛んでいき――
从'ー'从「ここっ!」
从;゚∀从「なっ……」
渡辺のバットの、芯に吸い込まれた。
打球は、河川敷のグラウンドを飛び越え、川に落ちていく。
- 401 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 17:22:57.17 ID:e6D9vt27O
- 「これで、投打ともに敗北。もう文句は無いな?」
从 ∀从「……」
「じゃあみんな、手間をとらせてすまんな。続けるぞ。
5番ライト光宙……」
从 ∀从「……」
从;'ー'从「理緋……」
从 ∀从「さわんな」
从;'ー'从「……」
その言葉を聞いて、渡辺は遠くに行ってしまう。
チームメイトからは、
「渡辺すごいな!理緋の球を打つなんて!」
という声も聞こえる。
- 403 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 17:27:07.76 ID:e6D9vt27O
- 从 ∀从「……」
「8番セカンドラッキー星……」
「すごいよ綾! ニューエースだな!」
「そんなことないよ」
「あるって! 今まで誰も理緋の球打てなかったんだぜ!!」
从 ∀从「……」
様々な人間の、様々な声が聞こえる。
今まで自分が信じてきた「自分を超える人間はいない」という前提が、覆された。
从 ∀从「……う」
从 ;皿从「ううう……」
その日初めて俺は、悔しさで声を噛み殺して、泣いた。
- 404 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 17:31:49.89 ID:e6D9vt27O
- 从 ゚∀从「……」
夜、寝転がってテレビを見る。
いつもは大爆笑するコントも、大して面白くない。
从 ゚∀从「……」
そのうちテレビの笑い声が煩くなり、俺は電源を落とした。
ゴロン、と大の字になる。
从 ∀从「……」
油断すれば、涙がまた出そうになる。
そこでふと思い出すのが、休みの日に監督とともに練習する渡辺の姿。
从 ゚∀从「……ちょっと出てくる!」
- 408 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 17:38:06.24 ID:e6D9vt27O
- 「ちょっと理緋!? もう夜よ!?」
从 ゚∀从「監督ん家行ってくる!!」
「ちょっと!!」
うるさい母親を無視して飛び出す。
カギを開けっぱなしにしている自転車に飛び乗る。
闇夜に立ちこぎして向かうところは一つ。監督の家だ。
- 409 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 17:42:11.48 ID:e6D9vt27O
- 从;゚∀从「はあ……ついた」
呼び鈴を鳴らす。
結構な時間だが、監督は起きているだろうか。
从;゚∀从「あいつジジイだからな……」
「はいはい……あら」
从 ゚∀从「夜分遅くに失礼します。監督は……」
出てきたのは監督の奥さん。
試合の時にたまに応援に来るからお互い顔は覚えていた。
「はいはい、庭にいますよ。いらっしゃい」
从 ゚∀从「失礼します」
そう言って上がらせてもらう。
用件は一つ。特訓をさせともらうのだ。
- 411 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 17:46:09.20 ID:e6D9vt27O
- 「しかし……あの人は教え子に好かれるのね」
从 ゚∀从「……?」
広い家の廊下を歩きながら奥さんは話す。
しかしその内容は俺にはわからなかった。
从 ゚∀从「……あ」
月のきれいな晩だった。
その月光に照らされた素振りができるほど広い庭には――
「おう、そろそろ来るかと思ってたぞ」
監督と。
从;'ー'从「理緋……!!」
バットを持ち、額から汗を垂らす綾だった。
- 412 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 17:50:16.55 ID:e6D9vt27O
- 「やっと来たか。まあ来なかったら見込みなしだったけどな」
わっはっは、と高笑いする監督。
不思議そうな顔をする綾。
从;'ー'从「理緋!? どうしたの!?」
从 ゚∀从「あのなあ、綾よ。勝ったと思ってんじゃねえぞ」
从;'ー'从「……?」
从 ゚∀从「才能は俺の方があるに決まってんだ。じゃあ俺がなんで負けたのか……」
「練習の差」
从 ゚∀从「うるせえジジイ。……だからな、てめえと一緒かそれ以上練習をする」
从;'ー'从「……」
从 ゚∀从「そうしたらよ、お前なんかすぐに超えちまうんだよ」
- 414 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 17:54:27.54 ID:e6D9vt27O
- 从;'ー'从「……?」
まだ理解できない、という顔の渡辺。
高岡はしびれを切らしたように叫ぶ。
从#゚∀从「だからよ! お前以上に練習してお前に勝つっつってんだ!!」
从;'ー'从「……」
「……ふふっ」
从 ゚∀从「な、何笑ってんだクソジジイ……」
从*'ー'从「ふふっ」
縁側に座っていた監督と、頬を紅潮させた渡辺が微笑む。
高岡はそれが気に入らない。
从 ゚∀从「んだよ、何笑って……」
从*'ー'从「ごめんごめん、理緋!! わかった! 一緒に練習しよう!!」
- 415 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 18:00:24.37 ID:e6D9vt27O
- 从#゚∀从「だから!! 俺はお前以上に……」
「はいはい、お前ら。そんな言い合いしてる暇あったら練習したらどうだ?」
監督が手をパン、パンと叩く。
高岡と渡辺は顔を見合わせ、頷きあった。
从 ゚∀从「ジジイよ。俺を焚き付けたんだ、面倒見やがれ?」
「はいはい、何時まででもやってけ」
こうして、高岡と渡辺と監督の秘密練習が始まった。
時に衝突し、時に理解し合い、時に指導する。
この練習は、高岡たちが高校生になるまで続けられた。
- 417 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 18:05:27.71 ID:e6D9vt27O
- ――高岡29歳(現在)
从 ゚∀从「……」
ざあっと、一陣の風が通り過ぎる。
11月にしては暑い。
スーツではなくもっとラフな格好をするべきだったか。
そう思い高岡は花を手に歩く。
从 ゚∀从「……あ」
目的地が見えたと思った瞬間。
最も見たくない奴がいた。
从'ー'从「や」
渡辺が、手を振っていた。
- 421 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 18:10:22.04 ID:e6D9vt27O
- 从 ゚∀从「……お前も来てたのかよ」
从'ー'从「まあね」
从 ゚∀从「拝んだか?」
从'ー'从「もちろん」
从 ゚∀从「そうか。じゃあもっかい拝め。1人じゃ照れくさい」
从'ー'从「はいはい」
そう言って花を飾り、数珠を取り出し線香を立てる。
渡辺も数珠を取り出し手を合わせる。
从 ゚∀从「ジジイ成仏してください……っと」
从'ー'从「そんなこと言ったら余計成仏しないよ」
从 ゚∀从「言えてる」
そう言って、2人はクスクスと笑いあう。
シーズン中では見れない光景だ。
- 423 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 18:16:12.25 ID:e6D9vt27O
- 一通りジジイの墓に手を合わせた後、ベンチに座る。
从 ゚∀从「……もう6年か」
从'ー'从「僕たちが23の時だから……そうだね」
ジジイは俺たちが23の時に死んだ。
もともとボーイズの監督をしていたときも定年だったぐらいだ。
大往生だったらしい。俺たち2人は試合でジジイの死に目には会えなかった。
从 ゚∀从「……」
从'ー'从「……」
自販機で買った缶のお茶を飲み干す。
中身が無いのを確認して左手でゴミ箱に投げる。
- 424 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 18:18:47.22 ID:e6D9vt27O
- 从'ー'从「……肩は?」
恐らく、俺の右肩の話だろう。
スポーツ新聞で渡辺は知ってるはずだが。
从 ゚∀从「手術だよ」
从'ー'从「……そう」
- 425 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 18:23:03.72 ID:e6D9vt27O
- 从'ー'从「元々左利きなんだからさ、左で投げたら?」
从 ゚∀从「……左で投げたら、ジジイが叩き込んでくれたフォームがムダになるだろ?」
从'ー'从「……」
渡辺は黙りこくる。
俺は言葉を続ける。
从 ゚∀从「俺のフォームは……ジジイの生きた証だ」
大げさだけどな、と付け加える。
渡辺は笑うかと思ったがそうでもないらしい。
从'ー'从「……そうだね」
- 429 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 18:28:48.65 ID:e6D9vt27O
- 从'ー'从「監督に、タイトルトロフィー見せたかったな。生きてるうちに」
从 ゚∀从「……まあなあ」
ジジイが死んだのは俺たちが23の時。
その時俺は大卒のルーキーで、渡辺は一軍定着ができないでいた。
しかし渡辺は24歳の時から毎年二桁勝利。
俺は昨シーズン20勝を上げた。
从 ゚∀从「逝くタイミングが悪いんだよ、あいつは」
从'ー'从「同感」
俺たちが輝き始める前に、ジジイは逝った。
ジジイは必死に磨き上げた俺たちの輝きを見る前に逝った。
- 433 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 18:34:58.65 ID:e6D9vt27O
- 从 ゚∀从「んじゃ、俺は行くわ」
从'ー'从「そう。実は僕も帰るとこなんだ」
从 ゚∀从「男2人で仲良く歩いて帰れって? 冗談じゃねえや」
从'ー'从「まあまあ、たまにはいいんじゃないの」
ふと、渡辺に言うべきことを思い出す。
なあ、と渡辺に声を掛ける。
从'ー'从「なに?」
- 435 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 18:38:22.86 ID:e6D9vt27O
- 从 ゚∀从「……もし、俺が這い上がれなかったらさ」
从'ー'从「……」
从 ゚∀从「ジジイの教え子として、後よろしく」
医者からの手術の説明はシビアだった。
復帰できるかわからないほどの大手術。成功確率は五分。
成功して全盛期の球威が戻るかはさらに五分。
弱気になってもしかたない数字だ。
从'ー'从「……珍しいね」
- 438 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 18:44:19.81 ID:e6D9vt27O
- 从 ゚∀从「何が」
从'ー'从「理緋が僕に頼む、って言うの」
从 ゚∀从「……かもな」
思えばずっとライバル視してきた相手だ。
そんな奴に頼み事をするなんて確かになかった。
从'ー'从「ま、監督の一番弟子は僕だからね」
从 ゚∀从「はあ? それは聞き捨てならねえな」
从'ー'从「当然でしょ。怪我でナーバスになる奴なんて一生二番手さ」
俺の血管が、切れた音がした。
从#゚∀从「……ああ、決めた。絶対復帰しててめえの顔面にぶつける」
从'ー'从「期待してるよ」
綾は手をひらひらと振り、タクシーを止める。
タクシーが止まる。綾が乗り込む。
俺も乗り込もうとする。
ふと空を見上げる。そこには、10歳の時と同じ空が広がっていた。
- 445 名前: ◆5Ws6J0OZQE 投稿日:2009/05/19(火) 18:54:47.76 ID:e6D9vt27O
- >>431こんぐらい?
高岡理緋
8年目 29歳
70勝 43敗 防3.35
渡辺綾
11年目 29歳
87勝 71敗 防3.54
- 474 名前:伊藤・毒田その後 投稿日:2009/05/19(火) 23:26:29.34 ID:e6D9vt27O
- ('A`)「あ゛ー、疲れた」
日本シリーズも終わりアジアシリーズも終わり。
毒田剛の2009シーズンは終わりを告げた。
今は寮のロビーでくつろいでいる。
普段なら内藤や川島がいるのだが……
('A`)「実家に帰ってますっと」
- 478 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 23:30:44.90 ID:e6D9vt27O
- まあそもそも寮に残ってるのは俺ぐらいのものなのだが。
実家と折り合いが悪いわけではない。むしろ問題は無い方だと思う。
しかし俺が実家に帰らない理由はひとつ。
('A`)「近所の人がなあ……」
俺ももう25歳。
実家のような田舎だと、
「あらまー、毒田さんとこのたけしくんがパパに! いややわー!」
みたいな儀式を済ませてしかるべきらしい。
余計なお世話だ。
- 482 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 23:35:11.11 ID:e6D9vt27O
- それに、俺はなんだかんだでこの寮が好きだ。
長いペナントの合間に川島や内藤や若手選手とだべるのも楽しかった。
アクアリウム時代は寮といえば部屋と練習場を往復するだけだった。
('A`)「ま、でもそろそろ潮時だな」
俺ももう来年8年目。そろそろ中堅選手だ。
いつまでもいつまでも寮にいるようでは面子が立たない。
現に内藤は今年度限りで退寮届けを出したらしい。恐らく俺も出すだろう。
- 490 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 23:40:26.98 ID:e6D9vt27O
- ('A`)「……」
いつも賑わうロビーも1人だと寂しく感じる。
やはり話し相手、特にあの2人は俺に取って大事な人だ。
別れ際の2人の言葉を思い出す。
( ^ω^)『ツンとイタ飯行きますwwwサーセンwww』
(K‘ー`)『彼女と24時間耐久にゃんにゃんしますwwwサーセンwww』
('A`)「あ、やっぱ殺してえ」
- 493 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 23:44:50.75 ID:e6D9vt27O
- |゚ノ ^∀^)「や、隣いいかな」
('A`)「あ、レモナさん。どうぞ」
声をかけてきたのはレモナさん。
この寮の寮長をしている。
美人だがオカマだともっぱらな噂だ。思わず括約筋に力が入る。
|゚ノ ^∀^)「いる?」
('A`)「あ、いただきます」
そう言って差し出されたのは缶ビール。
酒は嫌いではないのでありがたく受け取る。
- 495 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 23:49:14.73 ID:e6D9vt27O
- |゚ノ ^∀^)「よっと」
プシュっとレモナさんが缶のプルタブを開ける。
風呂上がりなのだろうか、髪は少し濡れていてなんとなく妖艶な雰囲気を醸し出している。
惜しむらくは生物学上男であるというところだろうか。美人なのに。
|゚ノ ^∀^)「飲まないの?」
一向にプルタブを開けない俺にレモナさんが言う。
確かに受け取っておいて飲まないのは失礼だ。それにぬるいビールは好きではない。
レモナさんにならってプルタブを開ける。
――その瞬間。
('A`)「え」
缶が、爆発した。
- 497 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 23:53:27.70 ID:e6D9vt27O
- もちろん、液体的な意味で。
恐らく振られていたのだろう。
プルタブを開けた瞬間に中の液体が反乱を起こした。
('A`)「……なんでこんなことするんすか」
顔からビールをポタポタ滴り落としながら訪ねる。
レモナさんはうーん、と少し考えたあとこう返した。
|゚ノ ^∀^)「かわいいから?」
('A`)「嬉しくありません」
- 500 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/19(火) 23:57:59.36 ID:e6D9vt27O
- けらけらと笑いながらタオルを渡される。
こりゃ、風呂に入り直しだな。
|゚ノ ^∀^)「毒田くんも退寮するの?」
('A`)「ええ、まあ。もう8年目ですし」
|゚ノ ^∀^)「そう、寂しくなるわねえ」
('A`)「……」
ふと、興味を持って訪ねる。
レモナさんはずいぶん前からここの寮長をしている。
('A`)「先輩方ってどんな感じだったんですか?」
|゚ノ ^∀^)「先輩? 諸本くんとか?」
- 503 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 00:02:59.11 ID:lPllbJT6O
- |゚ノ ^∀^)「そうねえ。いっぱい見てきたわよ。……いっぱいね」
('A`)「……」
|゚ノ ^∀^)「毒田くん大きなケガしたことないでしょ」
('A`)「ええ」
|゚ノ ^∀^)「それは幸せなことよ。本当に」
('A`)「……」
- 505 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 00:07:04.53 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「……」
ケガの話は、何度か聞いたことがある。
あれは、諸本さんの家に行ったときか。
|゚ノ ^∀^)「で、長く見てるといろいろ悩みを抱えてるのもわかるわけよ」
('A`)「はあ」
|゚ノ ^∀^)「恋の悩みでしょ」
('A`)「ブッ」
思わず口に含んでいたビールを吐き出す。
オカマは色恋に鋭いというのは本当らしい。
- 509 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 00:15:40.23 ID:lPllbJT6O
- |゚ノ ^∀^)「あら、図星?」
('A`)「カマかけたんですか」
|゚ノ ^∀^)「カマだけにね」
('A`)「笑えません」
|゚ノ ^∀^)「まあまあ、恋愛の相談なら聞いてあげるから」
('A`)「……」
少し考える。
レモナさんは男と女の両方を持っている。
なら、相談するのも悪くないかもしれない。
- 511 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 00:21:53.18 ID:lPllbJT6O
- そして俺はレモナさんに相談した。
いつもなら内藤や川島に笑い飛ばされるような恥ずかしい相談だ。
|゚ノ ^∀^)「はっ」
鼻で笑われた。
('A`)「相談しなきゃよかったです」
|゚ノ ^∀^)「まあまあ。告白したらいいじゃない」
('A`)「無理言わないでください」
|゚ノ ^∀^)「いやいや、話聞いた限りじゃベタぼれよその娘」
('A`)「……」
('A`)「ええー……?」
- 513 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 00:27:26.68 ID:lPllbJT6O
- |゚ノ ^∀^)『ちゃっちゃと誘って襲っちゃえばいいのよ!』
その言葉を真に受け、伊藤さんを食事に誘う。
レモナさんの後半の言葉は聞こえない。
('A`)「そういえば俺から伊藤さんに連絡するのは久々だな……」
- 516 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 00:31:26.46 ID:lPllbJT6O
- 俺は以前の失敗も踏まえて顔文字も絵文字もつけないメールを送った。
いつまでも独男ではいられないのだ。
('A`)「うおっ」
俺がメールを打ち終わってすぐにメールが返ってくる。
まさか、また悪魔の英文字列ではあるまいな……
- 518 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 00:36:26.51 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「ふう……」
まさかのメーラーダエモンではなかった。
ちゃんとした正真正銘伊藤さんのメール。
('、`*川『いいですよ! 明日の〇時に××駅前で〜』
('A`)「……」
('∀`)「へっ」
女一匹、ちょろいもんだ。
その返ってきたメールを胸に抱きながら、俺は快眠を貪った。
- 523 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 00:46:00.38 ID:lPllbJT6O
- ――朝。
待ち合わせは夕方なのでまだ時間には余裕がある。
しかし時間に余裕があっても俺にはなかった。
('A`)「デートに着ていく服がない」
朝からクローゼットをひっくり返す。
出てくるのはなぜか某配管工が着るようなオーバーオールばかり。
誰だこれ買ったの。
(;'A`)「ふ、服を買いに行かなくちゃ」
(;'A`)「しまった、服を買いに行く服がない!」
俺はパニックに陥った。
- 528 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 00:50:20.83 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「……」
タクシーに乗る俺。結局服装はスーツだ。
万が一億が一野球選手とバレたら厄介なのでサングラスもかける。
('A`)「……」
「……お客さん」
('A`)「ハイ?」
タクシーの運ちゃんに話しかけられる。
なんだろう、早くもプロ野球選手とバレたのだろうか。
そうだとしたら俺も結構顔が売れt
「SPですか?」
('A`)
- 531 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 00:55:36.30 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「……」
待ち合わせの場所につく。
まだ30分以上の余裕がある。
サングラスはその場で叩き割った。
黒スーツはまあいいとして黒ネクタイは外した。
('A`)「これで少なくともSPには見られないな」
どっちかと言うともしかしたらダンディ系かもしれない。
そういえば前雑誌の表紙にこんな格好をしてた人がいたような気がしないでもない。
- 533 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 01:04:04.58 ID:lPllbJT6O
- ('、`*川「毒田さん?」
(゚A゚)「ひゃい!?」
ショーウィンドウで自分の姿を確認していると後ろから声をかけられた。
そこには可愛らしい服装をした伊藤さんが立っていた。
あのまま運ちゃんが指摘してくれなかったなら本当に姫を守るSPみたいな感じだっただろう。
('、`*川「どこに連れて行ってくれるんですか?」
('A`)「任せてください。いいレストランがあるんです」
そう言って伊藤さんの手を取り歩き出す。
- 535 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 01:11:07.40 ID:lPllbJT6O
- 革張りのイス。整理されたテーブル。
洗練されたメニュー。安価ながらも高級感溢れる店内。
しかし庶民に入りにくいイメージを与えない外観。
完全に別れた分煙。
俺の行き着けのレストラン。
('、`*川「……」
('A`)「さ、なんでも頼んでください」
ロイホだ。
- 545 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 01:17:48.61 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「このステーキセット。ご飯大盛で」
('、`*川「……コーヒーで」
「かしこまりました」
店員にオーダーを伝える。
伊藤さんはなんだか少食だ。
- 552 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 01:26:59.83 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「いいんですか?」
('、`*川「……ええ」
('A`)「ならいいですけど」
俺はステーキセット(大盛)を食べながらドリンクバーのコーラをがぶ飲みした。
伊藤さんはコーヒーを飲んでいた。
俺は伊藤さんに野球の話をした。途中でげっぷが出た。
- 557 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 01:30:47.78 ID:lPllbJT6O
- ('、`*川「……」
('A`)「じゃあ出ましょうか。俺が金出しますよ」
('、`*川「……はい」
俺は伝票を持っていき代金(1,440円)を払った。
伊藤さんは外で待っていてくれていた。
('A`)「ふふ……ここからが詰めの段階やで……」
- 563 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 01:33:57.13 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「もう一軒行きます?」
俺独自の調べによるとこのキラーワードで大抵の女性は落ちる。(an・an調べ)
さあ、伊藤さん! 落ちろ!
('、`*川「……うーん」
('A`)
('、`*川
('A`)
('、`*川
('A`)(なんだそりゃー!!)
俺は脳内のan・anを破り捨て、独自の方法で落としにかかる。
- 567 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 01:37:05.70 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「いやいや、あわよくば終電なくなるとかそんなんじゃなくてですね」
('、`*川「……」
('A`)「ちょっとお酒でもどうかなーって。あ、あは、あはは」
('、`*川「……」
('A`)「あはは……」
('、`*川「……」
('A`)「……」
('、`*川「……」
('A`)(なんだ……? 何が悪かった……?)
- 571 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 01:39:34.80 ID:lPllbJT6O
- ('、`*川「……明日早いので、帰ります」
('A`)「あ、そうですか。なら、仕方ないですね。はは、あはは」
腕時計をチラリと見る。
午後8時。なるほど、これは明日に響くじかn
(゚A゚)(8時!?)
全然宵の口だ。
ヤバいヤバいこれはヤバい。
- 575 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 01:42:49.69 ID:lPllbJT6O
- ('、`*川「……」
テクテクと駅に向けて帰る伊藤さん。
ダメだ。ここで逃がしてはGAME OVERだ。
('A`)「お、送りますよ!」
('、`*川「……そうですか」
('A`)「ヨッシャー!」
('、`*川「?」
('A`)「あ、すいません心の声が」
なんとか首の皮一枚つながった。
- 580 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 01:48:41.78 ID:lPllbJT6O
- ('、`*川「……」
('A`)「……」
('、`*川「……」
('A`)「……」
('、`*川「……着きましたね」
('A`)「そうですね、あはは」
('、`*川「……じゃあ、さようなら」
そう言って改札をくぐる伊藤さん。
俺は背中に向けて言葉を放つ。
('A`)「また、連絡しましゅから!」
噛んだ。
('、`*川「……」
伊藤さんは返事をせずに、ホームに消えた。
- 585 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 01:52:55.82 ID:lPllbJT6O
- ('∀`)「よっしゃ……期待大やで……」
寮に帰って早速携帯を開く。
伊藤さんからの着信は来ていない。
きっと明日の用意をしているのだろう。
('A`)「ま、明日早いって言ってたし連絡するのは悪いな。明日にしよう」
いつまでもチャンスをつぶす男ではないのだ。
いわゆる待球戦法。できる男の作戦だ。
- 590 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 01:56:05.13 ID:lPllbJT6O
- ――次の日
('A`)「よし、メール送ろう」
起きてすぐ、メール作戦場面に入る。
何を言うものか迷う。
('A`)「んー……『昨日は楽しかったです。また遊びましょう』……こんなんでいいか」
('A`)「送信」
携帯をベッドの脇に置く。
とりあえずシャワーを浴びることにする。
- 593 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 01:58:41.39 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「ふー、さっぱりした」
頭をタオルでゴシゴシしながら部屋に戻る。
携帯がチカチカと点滅している。
着信の合図だ。
('A`)「やべっ、すぐ返信しなきゃ」
パカッと携帯を開ける。
差出人を確認する。
『mailer-daemon』
- 598 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 02:02:04.20 ID:lPllbJT6O
- ――1月某日
(K‘ー`)「内藤さーん!!」
( ^ω^)「おう慶三。あけおめだお」
(K‘ー`)「ことよろです!!」
( ^ω^)「しかしドクオも人使いが荒いお。いきなり引っ越し手伝えなんて」
(K‘ー`)「全くですよ」
そうブツクサ文句を言いながらも寮に向かう2人。
今日はドクオの引っ越しのため、手伝ってくれと言われたのだ。
- 601 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 02:05:05.26 ID:lPllbJT6O
- ( ^ω^)「ドクオー、開いてるのかお―?」
ドクオの寮の部屋のドアをノックする。
中からドクオの声がする。
「お待ちしておりました。どうぞ中へ」
( ^ω^)「!?」
(K‘ー`)「!?」
- 605 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 02:08:32.69 ID:lPllbJT6O
- ( ^ω^)「今のドクオだよね」ヒソヒソ
(K‘ー`)「……たぶん」ヒソヒソ
( ^ω^)「なんかあったのかお?」ヒソヒソ
(K‘ー`)「わかりません」ヒソヒソ
( ^ω^)「とりあえず入るお」ヒソヒソ
(K‘ー`)「了解です」ヒソヒソ
内藤はドクオの部屋のドアを開ける。
そこで2人がみた者は――
('A`)「ああ、あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしく」
1人の、菩薩のような顔をした男だった。
- 609 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 02:12:03.37 ID:lPllbJT6O
- ( ^ω^)「……」
(K‘ー`)「……」
('A`)「今日はわざわざ私のためにすいません」
( ^ω^)「いや……」
(K‘ー`)「こちらこそ……」
('A`)「すいません、折角来て下さったのになにもおもてなしできずに」
( ^ω^)「いえ……」
(K‘ー`)「お気遣いなく……」
- 612 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 02:16:44.63 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「……」
(K‘ー`)「……」
( ^ω^)「……」
('A`)「なんてな、冗談だよ冗談。お前ら引きすぎだよ」
( ^ω^)「……ですよねーwwwwww」
(K‘ー`)「わかりにくいですよwwwwww」
('A`)「ごめんごめんwwwwww」
( ^ω^)「んだらば早速荷造り始めるお!」
('∀`)「イェッサー!!」
(K‘ー`)「あ、毒田さん糸取ってください」
(゚A゚)「いと……いとう……?」
(K;‘ー`)「!?」
- 613 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 02:21:46.53 ID:lPllbJT6O
- (゚A゚)
(K;‘ー`)
('A`)「ごめん、何でもない。はい」
(K;‘ー`)「ありがとうございます」
( ^ω^)「なんか音楽かけるお」
('∀`)「お、いいね! スキマスイッチとかある?」
( ^ω^)「あるおー。……あ、これいい曲だお。『糸の意図』」
(゚A゚)「いとうの……いとう……?」
(;^ω^)「ひっ」
(゚A゚)
(;^ω^)
('A`)「ごめん。何でもない。いい曲だよな、それ」
(;^ω^)「うん……」
- 616 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 02:25:39.70 ID:lPllbJT6O
- ('A`)
これが、全てだ。
だがしかし、俺は何かを捨てて何かを確実に掴んだ。
俺のあだ名が『独男』から『純潔』になって、最強の1番バッターとして君臨するのは、
('A`)ウボァー
そんなに遠くない、未来の話だ。
――BAD END――
- 651 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 02:55:59.31 ID:lPllbJT6O
- >>533より
革張りの上品なイス。
整頓されたテーブル。
淀みなく発音を重ねる洗練されたボーイたち。
ここはオシャレなレストラン。内藤に教えてもらったイタリアンだ。
('A`)「あわわ」
伊藤さんに見栄ははったものの、どうしたらいいのかわからない。
そんな俺にボーイが近づいてくる。
- 655 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 02:59:52.75 ID:lPllbJT6O
- 「御予約はされていますか?」
('A`)「あ、はい。どどどどどどどどど毒田です」
後ろで伊藤さんがクスリと笑う。
俺は何事かと振り返る。
('、`*川「毒田さん、緊張しすぎですよ」
('A`)「いや、今は全然ですよ。予約の時に緊張してただけで」
('、`*川「あら」
「どどどどどどどどど毒田様ですね。こちらへどうぞ」
('A`)(よく笑わないな……)
- 658 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 03:02:23.44 ID:lPllbJT6O
- 案内された席にはなんだかわからん花が飾られている。
俺は花はチューリップとひまわりぐらいしかわからない。
('、`*川「この花は〜」
だから、目の前で花のうんちくを語る女性の言うこともあまりわからない。
俺はタイミングを外さないように適当に相槌を打つ。
- 659 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 03:05:13.38 ID:lPllbJT6O
- 「メニューです」
('A`)「ふむ……」
('、`*川「……」
(;'A`)(メニューが何を示しているのかわからない! 写真は!? 写真はどこ!?)
(;'A`)「い、伊藤さんはなににします?」
('、`*川「……ふふ」
(;'A`)「?」
('、`*川「あなたと同じで」
(;'A`)(やっばーい!!)
- 660 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 03:09:20.99 ID:lPllbJT6O
- (;'A`)「えーと、えーとえーと……」
('、`*川「……ふふ」
慌てふためく俺。
それを見て笑う伊藤さん。
俺は観念してボーイさんに説明を求めた。
「こちらが肉料理のコースで……こちらが魚料理のコースです」
('A`)「あ、じゃあ俺は肉料理で……伊藤さんは」
('、`*川「あたしも同じで」
「かしこまりました」
ボーイさんが下がっていく。
その洗練された動きに思わず見惚れる。
- 663 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 03:12:50.55 ID:lPllbJT6O
- ('、`*川「毒田さん」
(;'A`)「ひゃい!?」
ボーイさんに見惚れていた俺は急に話しかけられて思わず声が裏返る。
('、`*川「ここ、初めてですよね?」
イジワルそうな顔で尋ねられる。
ああ、その顔は卑怯だ。
('A`)「……すいません」
('、`*川「ふふ。謝らないで。少しかわいく見えちゃって」
- 680 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 07:53:51.34 ID:lPllbJT6O
- ('A`)ウボァー
デート開始30分でリア充もとい化けの皮が剥がれてしまった。
しかし伊藤さんはそんなことは気にしないらしい。
('、`*川「ふふ、かわいいですね」
('A`)「同い年なんだからかわいいはやめてください」
('、`*川「そっか、同い年なんだ」
メールやなんやで知ったことだがどうも俺たちは同い年であったらしい。
正直なところ、伊藤さんより俺の方が年下だと思っていたので知ったときは驚いた。
('、`*川「ね。これから禁止しようか」
('A`)「何をですか」
('、`*川「敬語。なんだか敬語じゃ他人行儀よ」
- 681 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 07:57:10.58 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「……」
そういえばナチュラルに今まで敬語で通してきたがそれはきっと変なのだろう。
たぶん。俺は願ってもないチャンスと承諾する。
('A`)「わかりまし……」
('、`*川「……」
('A`)「……わかった」
('、`*川「よろしい」
- 684 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 08:03:37.30 ID:lPllbJT6O
- それから俺たちは出てきた料理に舌鼓を打つ。
なんたら風かんたらとかうんたら風かんたらと名前を付けられた獣肉を貪る。
伊藤さんの食べっぷりは、野球選手の俺から見ても豪快で、密かに計画していた
('、`*川『もう食べられません……』
('A`)『それなら僕が食べましょう』
('、`*川『ワオ。なんと素敵なエコロジースタイル』
('A`)『ちきゅうを だいじに』
('、`*川『惚れた。抱いて』
('A`)『HAHAHAおいでよハニー』
('、`*川『ダンケシェーン』
という作戦はお蔵入りになりそうだ。
- 685 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 08:07:48.87 ID:lPllbJT6O
- ('、`*川「ところで……」
という伊藤さんの切り出しをきっかけに話題は野球へと移る。
自分は野球しか能の無い人間なので、この話題はありがたい。
もしかしたら、伊藤さんが配慮してくれているのかもしれないが。
('A`)「今のヴィッパーズは……」
('、`*川「ふむふむ……」
彼女も記者になるほどの野球狂である。
懸念していた気まずい空気も流れることなく、俺たちは会話を楽しんだ。
- 687 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 08:13:43.44 ID:lPllbJT6O
- ('、`*川「あのサヨナラヒットはすごかったよ」
('A`)「いやいや、そんなことないって」
そして話題は俺の優勝決定サヨナラヒットに移る。
俺がレールウェイズの守護神バルケンから打った一打だ。
('A`)「……あ」
('、`*川「?」
ふと、思い出す。
俺が空振りしかけた時、バックネットから聞こえた声援は――
('A`)「伊藤さん、最後のとき大きい声で応援してくれたよね」
('、`*川「! ……聞こえてたんだ」
恥ずかしそうに目を伏せる。
その表情と仕草に思わず胸キュンだ。
- 689 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 08:19:26.04 ID:lPllbJT6O
- ('、`*川「ホントは大人しく席で応援するはずだったんだけど」
('A`)「はあ」
('、`*川「なんだかヒートアップしちゃって」
('A`)「いやいや、あの一打は伊藤さんのおかげだよ」
この言葉は事実だ。
あの応援がなければ三振して、さらに負ければ2ちゃん内で戦犯扱いになってただろう。
- 692 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 08:24:44.97 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「そろそろ出ますか」
デザートもあらかた食べ終え、俺たちは席を立つ。
おいしいイタリアンを食べさせてくれる店だった。機会があればまた来よう。
伝票を持っていこうとする伊藤さんを制止する。
('A`)「払うよ」
('、`*川「いや、でも……」
('A`)「大丈夫大丈夫。これでもまあまあ稼いでるから。外で待ってて?」
('、`*川「……そう。ごちそうさま。ありがとう」
('A`)「どういたしまして」
伊藤さんが店から出て行く。
まあこれで男の面子は保てただろう。
- 693 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 08:28:42.86 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「……さて」
俺は手に持った伝票をまじまじと見つめる。
こんないい感じのイタリアン(笑)だ。結構な金を取ってしかるべきだろう。
一つ小さく息を吐き、覚悟を決めて伝票を開く。
(゚A゚)「ハイッ! ……あれ」
しかしそこに並んでいた数字は俺が想像した以上に良心的だった。
どうやらこの店は優良店らしい。
俺は会計の時にボーイさんと握手した。ボーイさんは引いてた。
- 694 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 08:35:11.97 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「……」
腕時計を見る。午後8時。
まだ帰るには早い時間だ。
(;'A`)(でももう一軒誘う度胸なんてないしなあ)
そう思いながら外で待っていた伊藤さんに話しかける。
店の照明に淡く照らされた伊藤さんはひどく艶めかしかった。
- 698 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 08:41:54.04 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「えーと……」
誘うか誘わないか迷う。
誘うならもちろんお酒の席だろう。お洒落な隠れ家的居酒屋(笑)とか。
間違ってもロイホなどに誘ってはいけない。
('A`)「あのー……」
意を決して誘おうとする。
しかしそれは伊藤さんの言葉に遮られた。
('、`*川「もう一軒行きませんか?」
('A`)「……!」
('、`*川「……ダメ、ですか」
伊藤さんが泣きそうな顔になる。
そんな顔も美人だな、とか思っている場合ではない。
- 700 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 08:45:01.14 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「いやいや、行きます行きます。世界が滅んでも行きます」
('、`*川「よかった」
伊藤さんが心底ホッとした表情を見せる。
俺で良ければいつでも食事ぐらい一緒にできるのだが。暇だし。
その旨を伝えると彼女は、
('、`*川「そうですか。なら、ガンガン誘いますね」
と、言ってくれた。
嬉しい限りだ。
- 701 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 08:50:21.09 ID:lPllbJT6O
- ――と、言うわけで。
俺は今伊藤さんオススメの居酒屋に来ている。
個室で仕切られた雰囲気の良いそこは、今まで隠れ家的(笑)とバカにしていたのを覆した。
(;'A`)「……」
しかし、俺は今困っている。
話題が続かないとか、そんなんではない。
('、`*川「あはははは!! でね!? でね!? その時その娘が!!」
この目の前にいる酒乱をどうしたもんかと困っているのだ。
- 704 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 08:55:30.91 ID:lPllbJT6O
- ヴィッパーズにも酒乱は大勢いる。
茂等さん、アーロン、朴さん。
杉浦さんも下戸と言いつつ酒が入ると猫みたいな口調になるので酒乱に入れてもいいだろう。
キャラ崩壊的な意味で。
(;'A`)「……」
('、`*川「それでね!? その娘がおかしいったらありゃしないの!! キャハハハハハ!!」
だから、チームの飲み会で潰れる先輩もいるし、酒乱の扱いは慣れたはずだった。
しかし、なんか伊藤さんのパワーに圧倒される。
相槌を打つだけで向こうが勝手に盛り上がるから楽と言えば楽だが。
- 706 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 09:01:08.76 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「……」
ちらりと腕時計を見る。
もう針はてっぺん(業界用語で12時)を指している。
俺はどっちにしろタクシーだからいいが、伊藤さんは困るだろう。
('A`)「伊藤さん、終電無くなるよ」
('、`*川「えー、ドックンノリ悪いー、もっと飲むぅー」
('A`)「飲みすぎだよ。帰ろう。送るから」
伊藤さんはすでに俺の2倍近く酒を飲んでいる。
俺もまあまあ飲む方なので、尋常ではない量だ。
間違いなく明日に響くだろう。
- 710 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 09:06:46.56 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「立てる?」
('、`*川「立てなぃー! おぶって!」
(;'A`)「ええ!?」
('、`*川「おぶらないと帰らないから!」
(;'A`)「酔いすぎだよ」
('、`*川「酔ってませんー」
そう言ってはーっと息をかけられる。
めちゃくちゃ酒臭かった。
- 712 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 09:11:23.35 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「……」
これは本当におぶらないとてこでも動かなさそうだ。
とりあえず先に会計を済ませる。
そして伊藤さんのところに戻る。
伊藤さんはテーブルに赤い顔で突っ伏していた。
非難めいた感じで責められる。
('д`*川「ドックン遅いー」
('A`)「ごめんごめん。さ、立って」
('、`*川「だーかーらー! おぶって!!」
(;'A`)「うーん……」
どうしたもんか。
- 715 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 09:16:53.38 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「……ふう」
観念する。
恥ずかしいがまあ仕方ないだろう。
もはや寝そうな伊藤さんを背中に乗せ、店を出る。
潰れた人を介抱するのは珍しくないのか、特に奇異の目を受けることなく道を歩く。
('A`)(かるっ……)
伊藤さんをおぶって最初に考えたのはそれだった。
練習でチームメイトをおぶってダッシュする練習がある。
その時の内藤の3分の1ぐらいしか無い気がする。
('A`)「電車に乗るわけにもいかんしな……」
こんな状態の伊藤さんを電車に入れるなど、躊躇する。
ここはタクシーに乗せるべきだろう。
- 716 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 09:21:02.66 ID:lPllbJT6O
- 「タクシー」「アイヨー」「ギャー」
(;'A`)「……」
向こうでは重大な人身事故が発生している。
見なかったことにして普通にタクシーを止める。
('A`)「ほら、伊藤さんタクシー入って」
そう言って伊藤さんをタクシーに詰める。
あとは運ちゃんがなんとかしてくれるだろう。
これで俺の仕事は終わりだ。
('、`*川「ドックンも!!」
伊藤さんがタクシーの座席を焦点が合わない目でポンポンと叩いている。
どうやら俺の仕事はまだ終わりではないらしい。
- 721 名前:>>718グッズ作ったのはツンだでよー 投稿日:2009/05/20(水) 09:26:31.94 ID:lPllbJT6O
- 「……」
('、`*川「すやすや」
(;'A`)「……」
タクシーの中で三すくみ。
伊藤さんは行き先だけ伝えるとすやすや眠りについた。
俺いる意味ないじゃん。
「……大変ですね」
('A`)「ええ、まあ」
('、`*川「すやすや」
「SPは」
('A`)「……」
('、`*川「すやすや」
('A`)(夕方の運ちゃんじゃん……)
ささやかな、別にいらない奇跡が起こっていた。
- 734 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 10:02:24.26 ID:lPllbJT6O
- 「ありがとうございましたー」
('、`*川「むにゃむにゃ」
(;'A`)「……」
タクシーの運ちゃんに見送られ、伊藤さんの家に着く。
相変わらずおんぶの体勢のままだ。
(;'A`)「伊藤さん、ついたよ」
背中を揺すって起こそうとする。
伊藤さんはむにゃむにゃと何事が呟きながらカギを取り出した。
('、`*川「……505号室」
('A`)「えっ」
('、`*川「……むにゃむにゃ」
(;'A`)「えぇー……」
- 737 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 10:06:57.10 ID:lPllbJT6O
- カギでオートロックを開け、エレベーターに乗る。
他の住人に会わなかったのは幸いかもしれない。
185cmの黒スーツが可愛い人をおんぶしているなんて怪しさMAXだ。
('A`)「……ここか」
505号室で表札には「伊藤」。間違いないだろう。
預かったカギでドアを開ける。
- 738 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 10:09:40.92 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「ほーら、伊藤さん。起きて起きて」
('、`*川「うーん……」
背中に伊藤さんを乗せたまま体を揺さぶる。
やっとの思いでここまで運んできたのだ。
最後ぐらいはしっかり言うことを聞いてほしい。
('、`*川「……ベッドー」
(;'A`)「……」
どうやら、素直には聞いてくれそうにない。
- 740 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 10:14:10.75 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「お邪魔しまーす」
いつまでも玄関先にはいられないのでちゃっちゃと伊藤さん家に入る。
ベッドはすぐに見つかった。
そこに伊藤さんを寝かせる。
('A`)「じゃあ、俺帰るから。ちゃんと着替えなよ」
('、`*川「うーん……ドックンお水ぅ……」
(;'A`)「……」
ワガママなお姫様か。
美人じゃなかったら愛想尽かされるぞ。
美人だからいいけど。
- 743 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 10:19:18.29 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「……」
ジャーっと水道から水を入れる。
勝手にコップを使ったがまあ、いいだろう。
('A`)「はい、伊藤さんお水……っ!」
その時、俺は見た。
伊藤さんの安らかな寝顔。
おんぶしているときに感じた控えめな胸部の膨らみ。
服の上からでもわかるきゅっとしたウェストにちゃんと出るとこは出ている尻。
('A`)「……」
そして、スカートが少しはだけて露わになっている張りのありそうな大腿。
そんな魅力的な女性がベッドに寝ている。無防備で。
俺はコップを持ったまま、立ちすくんでいた。
- 746 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 10:23:06.82 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「……」
('、`*川「……むにゃむにゃ」
俺は25年間モテないで過ごしてきた。
高校時代も、野球だけに必死で取り組んできた。
俺から野球を取れば、本当に何も残らない。
満足な女性経験など、あるはずがなかった。
('A`)「……」
('、`*川「すやすや」
それが今、ほんの少し手を伸ばせば意中の女性に触れられる。
2人きり。相手の家。遮るものは、なにもない。
- 747 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 10:25:44.13 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「……」
コップをテーブルに置く。
カタン、という音がする。
それすら、彼女を起こさないかと心配する。
('、`*川「……」
('A`)「……」
カタカタと、震える手を伸ばす。
指先の、ほんの数センチ先には、俺の追い求めてきたものがある。
- 751 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 10:32:12.13 ID:lPllbJT6O
- 俺の手が、伊藤さんの胸に当たるか――当たらないかぐらいの時。
俺は、見た。
('、`*川「すやすや」
安らかな寝顔。
――俺を、信頼している寝顔。
('A`)「……」
出した手を引っ込める。
伊藤さんに毛布をかけ、置き手紙を書き、電気を消す。
ドアをくぐって鍵をかけて、ポストの中に入れた。
('A`)「……」
エレベーターに乗って、一階まで下がる。
きっと、あれで良かったのだ。――きっと。
オートロックの自動ドアを出て、ふと505号室の辺りを見る。
何かしら何の得にも損にもならないことを考えて、歩を進める。
- 754 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 10:36:27.62 ID:lPllbJT6O
- ――マンション『アアァッース』505号室
暗くなっていた部屋に、電気が灯る。
おしゃれ着を脱ぎ捨て、洗濯機に入れ、部屋着のジャージに着替える。
枕元に置いてあった水を一気に飲む。
('、`*川「……ふぅ」
その顔が紅潮しているのは、果たしてお酒のせいだけか。
コップを置いて、一言つぶやく。
('、`*川「……いくじなし」
もう一杯水を飲むため、台所へと立ち上がる。
- 755 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 10:37:54.48 ID:lPllbJT6O
- ――1月某日
(K‘ー`)「内藤さーん!!」
( ^ω^)「おう慶三。あけおめだお」
(K‘ー`)「ことよろです!!」
( ^ω^)「しかしドクオも人使いが荒いお。いきなり引っ越し手伝えなんて」
(K‘ー`)「全くですよ」
そうブツクサ文句を言いながらも寮に向かう2人。
今日はドクオの引っ越しのため、手伝ってくれと言われたのだ。
- 759 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 10:48:48.10 ID:lPllbJT6O
- ( ^ω^)「ドクオー、開いてるのかお―?」
ドクオの寮の部屋のドアをノックする。
中からドクオの声がする。
「お待ちしておりました。どうぞ中へ」
( ^ω^)「!?」
(K‘ー`)「!?」
- 762 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 10:53:12.46 ID:lPllbJT6O
- ( ^ω^)「今のドクオだよね」ヒソヒソ
(K‘ー`)「……たぶん」ヒソヒソ
( ^ω^)「なんかあったのかお?」ヒソヒソ
(K‘ー`)「わかりません」ヒソヒソ
( ^ω^)「とりあえず入るお」ヒソヒソ
(K‘ー`)「了解です」ヒソヒソ
内藤はドクオの部屋のドアを開ける。
そこで2人が見た者は――
('A`)「ああ、あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしく」
荷造りを終えた部屋の中心で座禅を組む1人の男だった。
- 763 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 10:57:54.78 ID:lPllbJT6O
- ( ^ω^)「なんで敬語? なんで座禅?」
(K‘ー`)「ていうか荷造り終わってるじゃないですか……」
('A`)「……ワシはなあ、貴様等とは違うんじゃ」
( ^ω^)「!?」
(K‘ー`)「!?」
('A`)「なぁにが結婚だ。なぁにが24時間耐久だ。
貴様等は女性をそんな目でしか見れんのか」
( ^ω^)(ドクオ変な宗教入ったのかお?)
(K‘ー`)「毒田さん変な宗教入ったんですか?」
- 767 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 11:02:39.44 ID:lPllbJT6O
- ('A`)「やかましいわ。俺は悟りを開いた。
俺は性欲から完全に解放された。いわゆるプラトニックラブだ」
( ^ω^)「ふーん」
(K‘ー`)「あ、内藤さんそっち持ってください」
( ^ω^)「ほいほい」
家主である俺を無視して引っ越し道具を運ぶ俗物ども。
まああいつらはあの状況なら光の速さで手を出すんだろう。
まったく呆れた性獣どもだ。
- 769 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 11:06:16.31 ID:lPllbJT6O
- ちなみに。
(K‘ー`)「あ、毒田さん糸取ってください」
と川島に5回ぐらい言われ、
( ^ω^)「僕この曲好きなんだお」
(K‘ー`)「スキマスイッチいいですよね」
スキマスイッチの『糸の意図』が8回連続ぐらいで流れた。
が、特に俺は動揺せずに引っ越しを完了した。
まあそもそも動揺する要素がないが。
- 773 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 11:10:46.29 ID:lPllbJT6O
- ――そして、引っ越しが完了して数日後。
('A`)「ふぃー」
そろそろこの新居にも慣れてきた。
一人暮らしには少し広いが、まあ1年のうちの3分の1はいないのでいい。
時刻は午後8時。そろそろ来る時間だろうか。
('A`)「……」
お酒は用意した。つまみも用意した。
部屋も掃除した。突然現れる『妖怪チン毛散らし』も退治した。
あとは、待ち人を待つだけだ。
- 778 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/20(水) 11:19:23.09 ID:lPllbJT6O
- 『ピンポーン』
('A`)「おっと」
インターホンの音。俺は、はーいと返事をしてドアへと向かう。
ふとドアを開けようとして、覗き窓から待ち人を覗く。
('、`*川
前に見た服とはまた違う、しかしおしゃれな服。
いったい女性はどれだけ服を持っているのだろうか。
そんなことを考えながらドアを開ける。
('A`)「いらっしゃい」
('、`*川「お邪魔します」
今日の2人宴会が楽しいものになるかはわからない。
でも、今日自分の気持ちを真摯に伝えれば、きっとあの日の続きができる。
もちろん彼女の意志も尊重して。
なんとなく、そんな気がする。
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