( ^ω^)達は缶けりをするようです

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 12:53:50.06 ID:zgGLw3ikO
 決闘缶けりのルール

一・決闘の場所は障害物が少なく、見晴らしの良い場所に限る。

二・決闘を行なう二人はそれぞれ最低一人、立会人を用意しなければならない。

三・決闘に使う缶、そして缶を置く場所は決闘を行なう二人の合意の元に取り決める。

四・攻め手、守り手の取り決めはせず、互いに缶から同じ距離を置き、開始の合図と同時に缶を蹴りに向かう。

五・四の時点で先に缶を蹴った方が攻め手となり、守り手が缶を元の位置に戻すまで攻め手は自由に守り手を攻撃出来る(その際に守り手は反撃してはならない。但し攻め手の攻撃を避ける、受け止める等、それに準ずる行為は認められる)。

六・守り手が缶を元に戻した時点で攻め手は攻撃を止める。そして攻守を交代しなければならない。

七・五と六を繰り返し、どちらかが戦闘不能になった時点で勝敗が決まる。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 12:56:00.65 ID:zgGLw3ikO
从 ゚∀从「で、どっちが私にぶちのめされに来るの? 私としては『魔剣』持ちのおにーさんの方が良いんだけど……」

 ハインリッヒは器用にペプシの缶でリフティングしながら尋ねた。
雪駄の後金が地を打つ音と缶の音が一定のリズムを刻んでいる。

(´<_`メ)「俺が行く」

 膝をついていた弟者が立ち上がった。
だが歩き出そうとしたその瞬間視界が大きくぐらつき、身体がよろめく。

(; ´_ゝ`)「弟者!」

 兄者は慌てて弟者の肩を掴んで制するが、弟者はその手を非情にも払い除けた。

(´<_`メ)「話しかけるな、集中力が途切れる」

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 12:58:17.64 ID:zgGLw3ikO
 ハインリッヒに蹴られた頬は赤く腫れ上がり、瓦礫で切ったのか、ぱっくりと裂けている。
それでも尚敵に立ち向かおうとする弟者を、兄者は純粋に心配に思った。

(; ´_ゝ`)「お前そんな状態でやり合っても秒殺だぞ秒殺。ここは俺に任せて──」

(´<_`メ)「自分の得物も持ってきてない奴よりは動ける。俺が秒殺されるんなら丸腰の兄者は瞬殺だ」

 兄者の制止はあっさりと振り切られる。

(´<_`メ)「ハインリッヒとやら。お前の相手は俺だ」

 腕の震えを無理矢理押さえ込み、弟者は刀の切っ先をハインリッヒに向けた。
迸る殺気は周囲一帯に満ち溢れ、肌を刺すような悪寒をその場にいる全員に振り撒く。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 13:00:27.19 ID:zgGLw3ikO
从 ゚∀从「はっはーん、お前死ぬ気満々だな」

 ハインリッヒは殺気に気圧されることもなく、飄々と言い放った。

从 ゚∀从「まさか刺し違えてでも、なんてぬりー考え持ってんじゃねーだろうな? 言っとくがあの高名な流石兄弟と言えども今のアンタなら一秒間に百回はぶち殺せるぜ?」

 手負いじゃなくても十回は固いけどな、と付け加えてハインリッヒは下卑た笑みを浮かべる。

( ´_ゝ`)「…………」

 兄者はただひたすら押し黙った。
『魔剣』を持つ手は小刻みに震えており、僅かに漏れる吐息は浅い。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 13:03:06.01 ID:zgGLw3ikO
从 ゚∀从「ひゃはっ、兄貴の方はブルって声も出ねーかい? まぁ無理もねーだろな」

 高らかに、そして嘲るようにハインリッヒは言う。

从 ゚∀从「向かうところ敵無し、VIP小の流石兄弟の名を立てたのは全部そっちの弟の実績。ニュー速じゃあアンタはヘタレ兄貴だって専らの噂だぜ?」

从 ゚∀从「運が良いよなぁ出来の良い弟を持って。兄弟なんてのは往々にして一括りに評価されるもんさ」

从 ゚∀从「それにしてもあれかね。ニートの息子に『働かずに食う飯は旨いか?』って聞く親父の気持ちってのはこんななのか──」

(´<_`メ)「兄者を愚弄するのは止めろ」

 立て続けにわき出てくる罵詈雑言を遮ったのは弟者だった。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 13:05:25.29 ID:zgGLw3ikO
(´<_`メ)「それ以上何か言ってみろ。そのよく動く口が二度と動かなくなるぞ」

从 ゚∀从「手負いのアンタに何が出来るんだ? 『魔剣』持ちの兄貴でも二秒ともたねーよ」

 唾を吐き捨ててからからと笑うハインリッヒを、弟者はきつく睨み付けた。
自然と強張る彼の肩にそっと手を置いたのは兄者だった。

( ´_ゝ`)「もう良いよ弟者」

(´<_`メ)「駄目だ。『魔剣』の所有者をクーさんに正式に決めてもらうまではそれを使うべきじゃない。しゃあしゃあと出張ってそれを抜いたんじゃあ本末転倒だ」

(# ´_ゝ`)「もう良いっつってんだろ!」

(´<_`メ;)ビクッ

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 13:07:29.66 ID:zgGLw3ikO
( ´_ゝ`)「言ったよな? お前がピンチになったら躊躇せずこれを抜くって」

 兄者はそっと『魔剣』を覆う布を手繰り寄せてゆく。

( ´_ゝ`)「紛れもなくピンチだろ今は。どんぐらいピンチかってーとガッツのテントに、ガンビーノに金払ったおっさんが夜這いしてきた時ぐらいピンチだ」

(´<_`メ)「……何も言わんぞ」

 こんな時に冗談を交える余裕があるのだから笑えない、弟者は純粋にそう思った。
そしてこうなってしまっては止まらない。
高名な流石兄弟。打ち立ててきた実績の影に兄者の狂暴性が潜んでいる事を、弟者は常に理解していた。

( ´_ゝ`)「おねーちゃん。勘違いしてるようだから言っておく」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 13:09:55.86 ID:zgGLw3ikO
从 ゚∀从「あ?」

 やけに落ち着いた様子で布の結び目を解いている兄者を見て、ハインリッヒは訝る。

( ´_ゝ`)「俺は今の今まで生きてきて弟者の力をあてにした事なんてないんだよね」

(  _ゝ )「何故なら弟者は俺に力なんてあてにする必要も無い程強い。そして俺は……」

( ´_ゝ`)「その弟者よりも強いからだ!」

 薄汚れた布がはためき、風に流されてゆく。
現れた『魔剣』の全貌。それは剣と呼ぶにはあまりにも風変わりだった。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 13:12:00.97 ID:zgGLw3ikO
 柄は長く、丁度中央の部分から一本の棒が真横に伸びている。棒の根元部分はスペースになっており、形から見るに棒の押し引きが出来るようだ。
そして肝心の刀身は赤く、巨大な花の蕾のような形状で、剣というよりは装飾用の槍を思わせる。

( ´_ゝ`)「俺が所有者だ。存分に暴れろ」

 兄者は自分の親指を噛んだ。
そしてじわりと滲み出る血を、蕾の刀身に這わせる。
すると、大きな空洞に風が吹き抜けたような音がした。

(´<_`メ)「ちっ……」

 弟者は誰にも聞こえないように小さく舌打ちした。
視界は未だ安定しておらず、端の方は僅かに霞んでいる。立ち上がるのも一苦労だ。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 13:14:23.21 ID:zgGLw3ikO
 そんな状態でも弟者は考える事を止めなかった。

(´<_`メ)(……丸腰ならまだしも、あの状態の兄者をどう止める?)

 人畜無害な木偶の坊。それが大衆から見た兄者の評価だ。
先程ハインリッヒが言ったように流石兄弟の名はその全てが弟者の実績によって打ち立てられたと言っても過言ではない。

( ´_ゝ`)「最初は配置は適当で良いだろ? 目測で十メートルくらいな」

从 ゚∀从「オーケーそれでいこう」

 だが兄者の中には毒が潜んでいた。
あてられた者は立ちどころに竦み上がってしまう、凶暴性という名の障気。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 13:16:44.93 ID:zgGLw3ikO
(´<_`メ;)(クソが……。どう転んでも最悪のヴィジョンしか浮かばない。どうする? どうすれば良い?)

 棒立ちで放っておけば立ち回りによっては周囲一キロが瓦礫の山に変わってしまう可能性がある。それが弟者の見立てだ。

(´<_`メ)「兄者」

 何かしなければならない。その思いは弟者を駆り立て、無意識に口を開かせる。

( ´_ゝ`)「どした?」

(´<_`メ)「怒ってないか?」

( ´_ゝ`)「いーや全然。でも『魔剣』は抜いちまってんだから今更止めろとか言うなよな」

 『キレて』いる。
 弟者はこの時そう確信した。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 13:24:02.66 ID:zgGLw3ikO
(´<_`メ)「そこの二人」

(*゚ー゚)「っ!」

(;  ー )「…………」

 弟者はハインリッヒの介入で蚊帳の外になり気味な二人に接触を図る。

(´<_`メ)「手負いが居るんだから直ぐにこの勝負止めた方が良い。どの道お前達の目的である『魔剣』は所有者が決まった以上兄者以外から見たらガラクタ同然だ」

 敵意は無い。
 今は二人をどうこうするよりも、この場から離れるのが先決だからだ。
そしてあわよくば立会人の不在によってこの決闘を無かった事に出来る。
 シラネーヨ達の行動次第で状況は大きく変わるのだ。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 13:26:05.41 ID:zgGLw3ikO
(; ´ー`)「聞く耳を……持つな……。しぃ……」

 深く目を閉じていたシラネーヨが上体を起こす。
途切れ途切れに紡ぐ言葉は酷く痛々しい。

(*゚ー゚)「寝てなさいな。君の言葉に助けられるほど馬鹿じゃないよ」

 しぃと呼ばれた少女は冷ややかな視線をシラネーヨに送る。

(´<_`メ;)(聡明な人間なら直ぐに止めさせて退くべきだろう!)

 弟者は心中で毒づくが、彼の葛藤は誰にも理解されない。

(´<_`メ;)(奴等は十中八九嘘は言ってない。目的はあくまで『魔剣』の奪取。俺達の命は二の次……)

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 13:28:13.43 ID:zgGLw3ikO
 弟者はセントジョーンズの『魔剣』の性質について脳内検索する。
 武器として使用してもその威力は絶大、だが『魔剣』の本来の性質は能力者の力を増幅させる媒体だ。
その性質上『魔剣』の起動には呪術的な代償を必要とする。それが血である。
 注がれた血から読み取った情報で『魔剣』は所有者を認識し、その情報を固定する。
故に最初に血を注いだ所有者以外は『魔剣』本来の力を起動する事は出来ない。

(´<_`メ)(無用の長物に執心する理由はなんだ? 威力の観察? 『魔剣』の破壊?)

 どちらもノーだ。弟者は浮かんできた考えを直ぐに否定した。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 13:30:31.81 ID:zgGLw3ikO
(´<_`メ)(破壊が目的ならばわざわざ無傷の兄者をその気にさせる必要は無い。……根本的に、あのハインリッヒとかいう奴が俺がやり合っている隙に奪取すれば、全ては上手くいってた筈なんだ)

 彼女が介入するタイミングはこれ以上無い程に完璧。
だが介入してからの初動があまりにも不可解だった。
彼女らの意志、目的を探ろうとするほどに思考の迷宮に迷い込んでゆく。

(´<_`メ;)(どれだ? どの道だ? どの道を行けば兄者を止められる?」

 自棄になりかけたその時、不意に弟者の頭にしぃの言葉が過ぎった。

『……何で貴女が此所に居るのよハインリッヒ』

 それは全ての辻褄を合わせる言葉で、全ての道を塞ぐ言葉でもあった。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 13:36:14.53 ID:zgGLw3ikO
(´<_`メ;)(あ……れ……?)

 兄者とハインリッヒは既に缶の位置の取り決めを終え、缶を挟むように立ち尽くし、睨み合っている。
 どうしてこんな大事な言葉を忘れていたんだ、弟者は悔いた。

(´<_`メ;)(ハインリッヒの介入は此所に居る者はおろか、恐らくこの命令を下したのであろう上の人間も理解していなかった?)

 つまり──。

(´<_`メ)(ハインリッヒの目的は『魔剣』の奪取ではなく戦いたいだけ。典型的なバトルジャンキーという事か)

 同じ勢力でありながらもしぃとシラネーヨ、そしてハインリッヒとでは目的が違う。
違和感を残す彼女らの行動の矛盾はそこから来ていたのだ。
恐らくしぃ達にはハインリッヒを止められる術は無い。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 13:38:19.23 ID:zgGLw3ikO
 所属勢力の意志もぶち壊し、暴走するハインリッヒ。
 そして安い挑発に乗って憤っている兄者。
 二人が決闘の場を設けた時点で、被害ゼロで事を終えようとする事自体ナンセンスだったのだ。

(´<_`メ;)(……もうどうにでもなれ糞がッ!)

 弟者が立会人を拒否したところで兄者は縛り付けてでも彼を立会人にするだろう。
 生まれてから今に至るまでずっと兄者と一緒に過ごしてきた弟者は、彼が『キレる』のがどういう事かを重々理解していた。

( ´_ゝ`)「残念だよハインちゃん。お前はこの世で一番やっちゃいけない事をしたんだ」

从#゚∀从「馴々しくハインちゃんなんて呼ぶなよ軟派な男は趣味じゃねーぜ」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 13:41:00.19 ID:zgGLw3ikO
 ハインリッヒは露骨に嫌そうな顔をした。
だがそれは一瞬の事で、今度はにいっと口角を歪めて言う。

从 ゚∀从「にしてもこんなにあっさり乗ってくるたぁ思わなかったぜ。弟想いも行き過ぎるとハインちゃん引いちゃうよん」

 舌を出して目を線にする。
よく表情が動く娘だ。兄者はそう思った。

( ´_ゝ`)「見当違いだよ。俺は弟者の為に戦うんじゃない」

(´<_`メ)「…………」

 目が合って、弟者は兄者に見えるように両手を上げてひらひらと振った。
その行動の本意は、もう好きにしろといったところか。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 13:43:40.32 ID:zgGLw3ikO
( ´_ゝ`)「俺が弟者をあてにしてないように弟者も俺をあてにしてない。敵討ちなんて古臭い真似はしないよ」

从 ゚∀从「へぇ、じゃあどうしてそんなに『キレて』んだ?」

 砂を踏み締め、屈伸運動をしながらハインリッヒは眉を吊り上げた。
兄者はそれを無視して『魔剣』を上段に構える。

( ´_ゝ`)「ブレードコード『高貴なる意志は剣と共に』」

 鍵語と共に迸る重圧。
そこに普段のへらへらした表情は無かった。

从 ゚3从 「無視かよ、つまんねーの」

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 13:46:01.05 ID:zgGLw3ikO
 口を尖らせてハインリッヒも構える。
構え一つを取ってもその動作は洗練されており、無駄が一切無い。
武術の才に恵まれた者が何年、何十年と修行を積んでも辿り着けない境地。
ハインリッヒは小学生にして既にその位置にいる。

从 ゚∀从「っ!」

( ´_ゝ`)「っ!」

 特に正確に取り決めたわけではない。
だが穏やかな風が吹き付けたその時、決闘は始まった。

(;゚ー゚)「なっ!?」

(´<_`メ;)「…………」

 次の瞬間目の前に広がった光景にしぃは息を飲んだ。
弟者は全て解っていたようで、重々しく顔を伏せる。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 13:48:06.12 ID:zgGLw3ikO
( ´_ゝ`)「教えてやるよ。お前が犯した罪を」

 空き缶は取り決めた位置にはなく、宙に舞っている。
そして兄者の右足がハインリッヒの脇腹に捩じ込まれていた。

从;゚∀从「――っ」

( ´_ゝ`)「お前は俺の悪口を言った。それが許されるのは俺の家族だけだ」

 振り降ろされるセントジョーンズの『魔剣』。
やけにスローに動く視界。ハインリッヒは地から浮いた体勢で、その一撃を受け止めるだけで精一杯だ。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 13:50:11.60 ID:zgGLw3ikO
从;゚∀从「うっひょう! 刃だったら御陀仏だったぜ」

 地に叩き付けんとする衝撃に耐え、ハインリッヒは冷や汗を流す。
右手を左手に添え、二本の腕の力で『魔剣』を制したのだ。

( ´_ゝ`)「余裕かましてるとホントに御陀仏になっちまうぜ」

 兄者が言い終えるよりも先にハインリッヒはある違和感に気付いた。
痺れる掌に伝わる感触は鉄のつるつるしたそれとは違い、ざらついている。
ハインリッヒはこの質感にどこかで触れた事があった。
だがそれを考える間もなく兄者の手が動いた。
柄の部分の棒を強く前に押し出すと、扉の鍵を閉めた時のような音が『魔剣』から響く。

从 ゚∀从「っ!」

 咄嗟に手を引っ込めて身を引いた。
『魔剣』はそのままハインリッヒの肩を掠めて地面に叩き付けられ、土を抉る音と共に砂煙を撒き散らす。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 13:52:59.32 ID:zgGLw3ikO
从;゚∀从「いってえええええええっ!!」

三度のバック転の後にバック宙。ハインリッヒは兄者から大きく距離を取る。
彼女が跳ねた跡には血が垂れており、軌跡を残した。
 中腰の姿勢で抑えた肩からは大量とまではいかないものの、激痛を伴うと一目で見て取れる量の血が流れている。
着流しの肩から先はぼろ切れ同然となり、二人の間に落ちた。

( ´_ゝ`)「へぇ、なかなかどうしてしっくりくるじゃないか。見た目が少しあれな感じだけど」

 『魔剣』の蕾のような刀身はけたたましい音を上げながらドリルのように回転している。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 13:55:08.19 ID:zgGLw3ikO
(* ´_ゝ`)「おーい弟者、見てみろよ。これバイブじゃね? ほら、こうやって手首回してぐりぐりやったら……」

 身の丈ほどもある『魔剣』を手首の力だけで回し、兄者は中腰の姿勢で静かに佇む弟者に話しかける。

(´<_`メ)「…………」

( ´_ゝ`)「無視かよ。つまんねーな」

 擦れた瞳で弟者を一瞥し、再びハインリッヒの方へと目をやる。
肩口から露になった白く細い腕は赤で彩られていた。

从 ゚∀从「…………」

 長い爪で抉られた傷をなぞり、指の腹で血を掬い取る。
二、三往復それを繰り返すと、彼女は徐に真新しい傷に爪を立てた。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 14:01:01.29 ID:zgGLw3ikO
 くちゃ――。
 くちゃ――。
 ぐちゃ――。
 ぐちゃ――。

 生々しく肉を抉る音が響いた。
ハインリッヒは眉を顰め、小刻みに熱い吐息を漏らす。
目を凝らさなければ解らない程度だが、彼女の肩、太股が小刻みに震えていた。

( ´_ゝ`)「何やってんの?」

从 ゚∀从「きもちーこと」

 ハインリッヒの手が止まって、直ぐに動き始めた。
何かをこねるような動きの後に傷口から手を引く。彼女の指に挟まれていたのは、ビー玉ほどのサイズの肉の塊だった。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 14:12:27.67 ID:zgGLw3ikO
从 ∀从「いったいよぉ……。でも……すげぇ気持ち良い……」

( ´_ゝ`)「そっか」

 がちゃん、と兄者は無表情のまま柄のトリガーを手前に引いた。
蕾の刀身は回転を止め、花開く。
『魔剣』の中に隠されていたのは三本の砲台だった。

( ´_ゝ`)「じゃあくたばれ。淫乱ビッチ」

 射出されたのは三本の小型ミサイル。
煙を上げながらミサイルは放物線を描き、寸分の狂いもなくハインリッヒが居る場所に墜ちた。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 14:21:03.20 ID:zgGLw3ikO
(;゚ー゚)「うっそ!?」

(´<_`メ;)「言わんこっちゃない!」

 刹那、光が満ち、轟音が鳴り響く。
しぃと弟者は遮二無二に駆け、何とか舞い上がる爆風から逃れた。シラネーヨは置いていかれた。

(´<_`メ;)「つっ――」

 急に身体を動かした事が祟り、弟者は大きくよろめく。
背中に降り注ぐ熱と風にうだりそうになる。

(///////)「ぁ……が……」

 一瞬で焦土と化した公園で、黒い肉の塊が蠢いた。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 14:28:03.46 ID:zgGLw3ikO
从*゚∀从「あっはぁ! すげぇゾクゾクする!!」

 噴煙漂う焦土の上空にハインリッヒはいた。
ずたずただった着流しは更にぼろぼろになっており、ところどころ煤けている。

(//////)「がっ――」

 彼女の落下点に居た肉塊の芋虫はそのまま踏みつぶされ、肉飛沫を撒き散らしながら絶命した。

从*゚∀从「いぃぃぃやっはああああああっ!!」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 14:36:09.62 ID:zgGLw3ikO
 雄叫びを上げ、彼女は気が狂ったように肩口の傷を掻き毟る。
 爪の間に肉が入り込み、乾いてどす黒くなった指に再び赤が塗り重ねられた。

从*゚∀从「もっと激しいのくれよ! 気が狂っちまいそうなごっついのをさぁ!!」

 空を仰ぎ、月明りに照らされた影に恍惚とした視線を送る。

( ´_ゝ`)「ほいさ」

 月を背に兄者は魔剣を振りかぶった。
直後に眩い光が開いた刀身に集束する。
 そして善悪も、強弱も、並べて無に返す一撃が下された。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 14:46:49.13 ID:zgGLw3ikO
 鉄仮面の如く張り付いた無表情で兄者が振り降ろした一撃はあまりにも非情だった。
 『魔剣』という名の花から放たれた五つの光線はその姿を変え、暴れ狂う龍となる。
 不規則に入り乱れ、周囲一帯を喰い荒らすその姿は人間の理解の範疇を越えていた。

 民家も、ビルも、店も、オフィスも、電信柱も、道路も、壁も、皆平等に、理不尽に壊される。

从*゚∀从「それそれ! それが欲しかったのさ!!」

 両手を広げ、ハインリッヒは高らかに笑う。
自分を狙って滑空する光の龍を避けるつもりなど毛頭無い。

从 ゚∀从「零と唯の狭間『盲目白痴の王の間』!!」

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 14:53:56.06 ID:zgGLw3ikO
 紡がれた鍵語は混沌の根本たる王の名。
ハインリッヒの身体から滲み出てきた黒い靄が彼女の視界を覆い尽くしたその時。

「でしゃばり過ぎだ、ハイン」

 低く、厳かな声がハインリッヒの背後で響いた。
振り向かなくとも彼女は理解した。
この声の主が誰なのかを。

从 ゚∀从「……フォックスくん?」

 その名を呼び、振り返ろうとした。

 ハインリッヒの世界が漆黒を喰い破った龍の光に満たされたのは、それと同時だった。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/23(火) 14:56:09.62 ID:zgGLw3ikO
第六話「おおきくいきをすったようないたみ」

 お  わ



 っ  た



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