- 2 名前: ◆jSMnX91Kl2 投稿日:2009/09/30(水) 23:40:16.46 ID:ifAcCydC0
(#゚;;-゚)編
- 3 名前: ◆jSMnX91Kl2 投稿日:2009/09/30(水) 23:45:15.65 ID:ifAcCydC0
- 4日間。
わしは宿無しにVIP町をさまよっていた。
今日も居候先はなく、ヘトヘトで住宅街の片隅を歩く。
野良猫のような真似はしたくなかったが、今日は仕方ない。
建物の間の細い道に入り、その先を目指す。
こういう所は衛生面こそ悪いが、建物に挟まれた生暖かい空気と薄暗さも相まって、猫にとって寝床にするには十分な場所だ。
- 4 名前: ◆jSMnX91Kl2 投稿日:2009/09/30(水) 23:48:48.41 ID:ifAcCydC0
- わしは野良猫の気配を注意深く嗅ぎとる。
野良猫は気性が荒い。
他の猫に勝手に居座られては黙ってはいないだろう。
(,,゚Д゚)「……誰もおらんな」
わしは安心して、雑多に山積みされたダンボール板の上に座り込んだ。
(,,゚Д゚)「にしても、腹が減った」
換気扇から排出されるシチューの香りに悪意を感じる。
遠くで、酔っぱらった男たちの騒ぎ声が聞こえた。
今日も一人、じゃなくて一匹。
なんか寂しい。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/30(水) 23:53:02.22 ID:ifAcCydC0
- (,,゚Д゚)ゴルァルァルァ
(,,゚Д゚)「ありえん腹の鳴り方だろ」
わしの独り言は、虚しくも虚空の闇に消えた。
(,,゚Д゚)「ぐすん」
(,,゚Д゚)「……こういうときは寝るに限る」
(,,-Д-)「ぐぅ」
(,,-Д-)zzZ
(,,-Д-)「……?」
不意に何者かの気配を感じた。
わしは目を細め、暗闇の奥を見やる。
(#゚;;-゚)「……」
一匹の、汚い猫がいた。
- 7 名前: ◆jSMnX91Kl2 投稿日:2009/09/30(水) 23:59:09.47 ID:ifAcCydC0
- 野良猫。
元々白であっただろうその体毛は、この環境のせいか薄茶色に黄ばんでいる。
身体の所々に虐待されたような傷があり、左耳に至っては無残に千切れていた。
なのにその目は、強い意志を持ってわしを睨みつけてていた。
(,,゚Д゚)(……まずいよなこれ)
喧嘩ふっかけられている、まではいかないまでも、敵意を持っているのは明らかだ。
- 8 名前: ◆jSMnX91Kl2 投稿日:2009/10/01(木) 00:03:22.11 ID:+ExTMHbR0
- (,,゚Д゚)「ハ、ハニャ〜ン」
とりあえず出来る限りの猫撫で声で(猫だけど)好意を向けてみる。
(#゚;;-゚)「……そういうの、いらないよ」
(,,゚Д゚)「!」
(#゚;;-゚)「ねぇ、どいてくれない? そこ私の寝床なんだけれど」
野良猫の視線がわしの足元のダンボールに向く。
- 10 名前: ◆jSMnX91Kl2 投稿日:2009/10/01(木) 00:07:34.45 ID:+ExTMHbR0
- わしは慌ててそこから降り立った。
(,,゚Д゚)「おぉ、すまんすまん」
(,,゚Д゚)「というかお前も喋れたんだな」
喋る猫など、わしとロマ以外初めてだった。
野良猫はわしの前を横切り、山積みダンボールの上によじ登る。
(#゚;;-゚)「どうでもいいわ、そんなこと」
(,,゚Д゚)「どうでもいいものか。せっかくこうして言葉を持っているのに、もっと意志を伝えあえる喜びを感じるべきだ」
- 11 名前: ◆jSMnX91Kl2 投稿日:2009/10/01(木) 00:11:41.14 ID:+ExTMHbR0
- (,,゚Д゚)「お前見たところ野良猫だが、名前はあるのか?」
(#゚;;-゚)「あるわよ。私だって最初から野良猫だったわけじゃない」
(#゚;;-゚)「ていうかさ、名前なんてまず自分から名乗るのが礼儀じゃない?」
(,,゚Д゚)「……あぁ、失礼」
(,,゚Д゚)「わしの名前は、あー、なんだったかな。長いこと呼ばれてないと忘れてしまうな」
(#゚;;-゚)「しっかりしてよ。いくら爺さん猫だからって、それくらい覚えてなさいよ」
(,,゚Д゚)「むっ」
失礼な奴だ。
- 13 名前: ◆jSMnX91Kl2 投稿日:2009/10/01(木) 00:15:06.12 ID:+ExTMHbR0
- (,,゚Д゚)「あーそうだそうだ。思い出した」
(,,゚Д゚)「わしの名前はギコ。昔の知り合いにそう呼ばれていたっけな」
(#゚;;-゚)「ふぅん……どうでもいいけど」
(#゚;;-゚)「私はでぃ。ま、私の名前なんて忘れてくれてもいいけど」
(,,゚Д゚)「ほう、なかなか洒落た名前ではないか」
(#゚;;-゚)「昔の飼い主に付けられた名前だから思い出したくもなかったけど」
- 14 名前: ◆jSMnX91Kl2 投稿日:2009/10/01(木) 00:19:17.83 ID:+ExTMHbR0
- (#゚;;-゚)「それより、ギコ? あなた人間の家を居候して回ってるそうね」
(,,゚Д゚)「うん? お前とは初対面のはずだが……わかるのか?」
(#゚;;-゚)「わかるわよ。私たちみたいな猫ってね、他にも不思議な力を持っているの。あなたにも心当たりがあるでしょう?」
(,,゚Д゚)「ふむ……まぁ確かにな」
ふと、でぃがクスクスと笑い出す。
- 15 名前: ◆jSMnX91Kl2 投稿日:2009/10/01(木) 00:23:03.18 ID:+ExTMHbR0
- (#゚;;-゚)「私ね、『不幸』が見えるのよ。なんとなくね」
(#゚;;-゚)「暇潰しに『不幸』を探って見ていると、たまぁに不幸の隣に一匹の猫が見えるの」
(#゚;;-゚)「それが、あなた」
(,,゚Д゚)「はぁ、なるほどね」
(#゚;;-゚)「あなたがその人間のもとに居候してほんの数日もすると、その人間の不幸が消えて、それからぷっつり見えなくなるの」
(#゚;;-゚)「あなたの力は私のものと相反していそうね。幸運を寄せる力とか、そんなものかしら?」
(,,゚Д゚)「似たようなものだ」
厳密に言えば違うけど。
- 16 名前: ◆jSMnX91Kl2 投稿日:2009/10/01(木) 00:25:23.75 ID:+ExTMHbR0
- (#゚;;-゚)「ふふ、まるで招き猫ね」
(,,゚Д゚)「だがわしは人間の行く先に手を加える気はないよ。わしはいつも傍らで茶々をいれているだけ。わしなんて及ばずもがなってことさ」
(#゚;;-゚)「よく言うわ。不幸なんていうのはね、人間の暗い部分にべったりと張り付いて、そう簡単に払拭できるものではないのよ」
でぃは吐き捨てるように言う。
(#゚;;-゚)「いい気なものね。人間を諭して夢を与えて、それで優越感に浸っちゃってるんだわ」
(#゚;;-゚)「ほんと、反吐が出ちゃう」
- 17 名前: ◆jSMnX91Kl2 投稿日:2009/10/01(木) 00:30:02.90 ID:+ExTMHbR0
- (,,゚Д゚)「違う。わしの目的はあくまで居候と飯とお喋りだ。人間への助言はそのついでに過ぎん」
(,,゚Д゚)「奴らは結局、自分の足で歩いていかなければならないんだ。わしがどうこうする問題ではない」
(#゚;;-゚)「言ってなさい。人間なんて脆いもの。一度挫折にはまり込めばずるずるとそこに落ちていく」
(#゚;;-゚)「よかったじゃないギコ。あなたの力の賜物よ」
(,,゚Д゚)「……ひねくれとるなぁ、お前」
わしは困り果てて、前足でぽりぽりと耳の後ろを掻く。
- 18 名前: ◆jSMnX91Kl2 投稿日:2009/10/01(木) 00:34:31.79 ID:+ExTMHbR0
- (,,゚Д゚)「そうだ、わしと一緒に来んか。わしの言うことが少しは理解できるかもしれん」
(#゚;;-゚)「お断り。あんな醜い生き物と二度と関わり合いたくないわ」
(#゚;;-゚)「それに私みたいな不幸をまとった汚い猫がついてきたら、居候すらさせてもらえないんじゃない?」
(,,゚Д゚)「……」
(#゚;;-゚)「……わかったら、出て行って」
(,,゚Д゚)「お前は知るべきだ。どんな過去があったのかは知らないが、もっと人間の良い部分を――」
(#゚;;-゚)「あぁもう! ほんと五月蠅い奴ね!」
突然、でぃは血相を変えて激昂する。
- 21 名前: ◆jSMnX91Kl2 投稿日:2009/10/01(木) 00:39:57.53 ID:+ExTMHbR0
- (#゚;;-゚)「あのね、私あなたみたいなのほんっっとに嫌いなの。口を開けば気持ちの悪い綺麗事ばかり。吐き気すら覚えるわ」
(#゚;;-゚)「あなたの戯れ言なんて二度と聞きたくない。わかったら消えなさい」
「この――偽善者」
- 23 名前: ◆jSMnX91Kl2 投稿日:2009/10/01(木) 00:42:52.40 ID:+ExTMHbR0
- (,,゚Д゚)「……」
偽善者、か。
あるいは、間違いではないのかもな。
(,,゚Д゚)「……邪魔したな」
わしは踵を返し、来た道を戻り始めた。
(#゚;;-゚)「あ、そうそう」
思い出したようにでぃに声を掛けられ、わしは振り返る。
(#゚;;-゚)「あなたの次の居候先の家主、とんでもない欠陥人間よ」
- 24 名前: ◆jSMnX91Kl2 投稿日:2009/10/01(木) 00:46:10.83 ID:+ExTMHbR0
- (#゚;;-゚)「あなたの上辺だけの薄っぺらい言葉なんて聞き入れちゃくれない」
(#゚;;-゚)「最悪のバッドエンディングはもう見えているけれど、せいぜい頑張りなさい」
(,,゚Д゚)「バッドエンディングね。ま、人の人生なんてどう転ぶかわからんからな。そうならないことを祈るよ」
(#゚;;-゚)「わかるわよ」
そしてでぃは、皮肉げにせせら笑う。
(#゚;;-゚)「だって私、『不幸』が見えるもの」
(,,゚Д゚)「……」
それからわしは何も言わず――いや、何も言えずにそこを立ち去った。
- 25 名前: ◆jSMnX91Kl2 投稿日:2009/10/01(木) 00:48:13.09 ID:+ExTMHbR0
(#゚;;-゚)編終わり
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