- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:03:08.54 ID:vh0AiJ3C0
- 黒焦げになった死体の中を、一人の少年が歩いていく。
( ^ω^)
少年の右手には、黄色いスライド式の携帯電話が握られていた。
一歩、一歩踏み出す少年の行く先には、彼と同年代の一人の少年が立っている。
(・∀・ )
その少年は、変わった格好をしていた。
まず奇妙なことに、少年の両手両足には、なぜか携帯電話が紅い光のベルトで固定されている。
右腕の携帯電話には大きな斬り傷がつき、そして右足の携帯電話には大きなヒビが入っていた。
何より目立つのは、下腹部に、こちらも光のベルトで固定された”頭”である。
中心に大きな”目”のついたそれは、ラウンジ社製の凡庸人型ロボット、TASIROのものだ。
少年の身体からは紅い光のようなエネルギー体が発せられており、
それが少年の身体を包み込み、紅く不規則な、荒々しい模様をその身体の表面に描いていた。
黄色い携帯電話を持った少年は、変わった格好の少年の側に歩み寄って行く。
変わった格好の少年から少し距離を置いた場所まで近づいて、彼は立ち止まった。
二人の少年は距離を持ったまま、しばらく互いに見詰め合っていた。
静かな、沈黙。
やがて黄色い携帯電話を持ったほうの少年が、ぽつりと呟いた。
( ^ω^) やっぱり、君だったのかお
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:04:27.02 ID:vh0AiJ3C0
(・∀・ ) やっぱり……ね、悲しいな。ボクってそんなに信用されてなかったの?
やれやれと言った風に、変わった格好の少年が両手のひらを上に向けて首を振った。
( ^ω^) ここに来るまでに会った女の子が、言ってたんだお。
自分を襲ったのは、携帯電話を手とか足につけた”男の人”だったって
(・∀・ ) ……なるほどね。確かにドクオじゃ”男の人”って言うには幼すぎる、か
消去法で、犯人はボク以外にありえなかった……と
( ^ω^) ……できれば、信じたくはなかったお
(・∀・ ) うん……そうだろうね
彼らの声は、周囲の状況に不釣合いなほどに落ち着いていた。
しかし、決してそれは普段の彼らの会話の調子ではない。
この二人はお互いに、
これから自分たちが命の奪い合いをするであろうということを知っているのだから。
(・∀・ ) 覚えてるかい、ブーン。昔みんなで怪獣ごっこをやってたときのこと
( ^ω^) おっお、よく覚えてるお。僕がヒーローで、モララーは怪獣だったお
しかし、知っているからこそ、この二人はこんな会話をしているのかもしれなかった。
互いに一番仲のいい友を失うことになる。
だからこそ、今、楽しかったあのときの思い出を自分の頭に焼き付けたい。
無意識ではあろうが、今の彼らは、そう思っているからこそ、こんな話をしているのだろう。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:05:40.30 ID:vh0AiJ3C0
(・∀・ ) あの遊びは、いつもボクが町に現れるところから始まったね
( ^ω^) そうだお、それで隊員役のみんながピンチになって、
そこに正義のヒーローブーンが登場だお
(・∀・ ) 考えてみればワンパターンだったよね
( ^ω^) 子どものやることだお、しかたないお
どちらとも笑うでもなく、しかしどちらかが怒りだすこともない。
ただ、穏やかなだけの回想。
(・∀・ ) ずっと思ってたんだけどさ、キミのおかげなんだよね
( ^ω^) お? 何がだお?
(・∀・ ) キミが『正義の味方』になってくれたからこそ、ボクは『怪獣』でいられたんだよ
( ^ω^) 逆だお、君が『怪獣』役を務めてくれたからこそ、僕は『正義の味方』になれたんだお
(・∀・ ) ……そうかな?
( ^ω^) ……そうだお。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:08:39.87 ID:vh0AiJ3C0
- 二人とも、そこで話題が尽きた。
また、少しの間その場所を静寂が支配する。
(・∀・ ) ……訊かないんだ、「なんでこんなことをしたんだ」って
( ^ω^) おっお、君が「怪獣になりたい」って言ってたの、僕が忘れたとでも思ったのかお?
(・∀・ ) ……思ってた、正直
( ^ω^) あのときの君は本当に変だったから、
多分すごく真剣に悩んでるんだろうなって思ってたんだお
(・∀・ ) そっか……
( ^ω^) お
風が吹いた。焦げくさい臭いが、一瞬だけ二人の間を通り過ぎる。
( ^ω^) ……やめるつもりは、ないんだお?
(・∀・ ) ……うん
黄色い携帯電話を持つ少年が、その機器をスライドさせる。
現れる数字版。
( ^ω^) デレ、モララーと同じ姿になれるかお?
ζ(゚ー゚*ζ ……はい
問いかける少年に、彼の携帯電話は小さな声で応答した。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:09:42.37 ID:vh0AiJ3C0
- ζ(゚ー゚*ζ ブーンさん
( ^ω^) お?
ζ(゚ー゚*ζ 「戦うことを迷わないで」って私が言ったの覚えてますか?
( ^ω^) お、もちろんだお
ζ(゚ー゚*ζ ブーンさん、私がああ言ったあとから積極的に戦うようになりましたよね。
でも、実はそう見えるように振舞ってただけで、実際はいつも迷ってたんですよね?
( ^ω^) ……あらら、ばれてたのかお
ζ(゚ー゚*ζ ……あのとき言ったこと、もう一度言います。
私は優しいあなただからこそ、”私たち”の所持者にふさわしいと信じています。
今もそれは変わらない、だから、だから……
携帯電話が、言葉に詰まる。
セキラである彼女は、人間の数倍の演算能力を有している。
しかしそんな彼女でも、そのときは自分の主人に何を言うべきか、
その言葉を見つけることができなかった。
それを見た少年は、しかし、優しく笑った。
( ^ω^) 大丈夫だお、デレ
ζ(゚ー゚*ζ ……?
( ^ω^) 言ったおデレ? 僕は『自分にできることをする』だけ―――
少年は、目の前の親友を見ながら、携帯電話に番号を入力する。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:10:59.15 ID:vh0AiJ3C0
「―――自分にできる精一杯を、やろうとする。それだけだお」
優しい声で少年は言って、そして自らの左腕に黄色い携帯電話を押し当てた。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:13:27.55 ID:vh0AiJ3C0
- 少年の左腕に押し付けられた携帯電話が、赤い光のベルトで固定される。
そこから伸びる光の触手が、傍らで倒れているドクオのまわりに落ちていた携帯電話とゲーム機を拾い上げる。
少年を中心にくるくると回る三つの携帯電話と、一つのゲーム機。
しばらくの間あたりを回り続けたそれらは、やがて自らの行くべき場所に狙いを定めると、
少年の体に向かって飛んでいった。
―――黒い折りたたみ式の携帯電話は、少年の右腕に。
―――紫色のスマートフォンは、少年の右足に。
―――紅いセパレート携帯は、少年の左足に。
最後に黒い横長の携帯ゲーム機が、下腹部に固定され、
少年の身体が、ばちばちと音を立てながら紅い光に包まれる。
ζ(゚ー゚*ζ―Form Change:「Ultimate」―
やがて光が去ったとき、そこに全身に五つのデバイスを装着した少年の姿が現れた。
全身を走る、紅い光のライン。
荒々しい模様の目の前の少年と比べ、こちらの少年の身体に現れた模様は
どこかやさしく、そしてあたたかな印象を見るものに与える。
閉じられていた少年の目が、ゆっくりと開いていく。
彼は目の前の少年を見据えると、一言だけ、言った。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:14:09.68 ID:vh0AiJ3C0
( ^ω^) 始めるお、モララー
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:16:06.23 ID:vh0AiJ3C0
( ^ω^)彼らは携帯電話を武器に戦うようです
第十五話「怪獣」
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:18:16.97 ID:vh0AiJ3C0
- 一定の距離をとって、二人の少年―――ブーンとモララーは向かいあっていた。
( ^ω^)
(・∀・ )
二人はしばらくお互いの姿を見合っていたが、やがてゆっくりと歩き出す。
一歩一歩ゆっくりと、地面を踏みしめながら、歩く。
(・∀・ )
ふいにモララーが、そっと左手を上げた。
掌が前方のブーンの方に向き、次の瞬間、ブーンの体から炎が上がる。
( ^ω^)
めらめらと燃えるブーンの身体。しかし彼は構わず歩き続ける。
三歩ほど進んだ所で、彼の右手が上がった。
今度はモララーの身体から炎が上がる。
燃え上がる二人の身体。しかし二人はお互いに歩くことをやめない。
その内二人の両足が、ばちばちと音を立てながら紅く輝き始め、
そして、その輝きが最高頂に達したとき、ふいに二人の姿が”消えた”。
転瞬、どん、というもの凄い音が当たりに響き渡った。
音の中心には、拳と拳を合わせる二人の姿がある。
互いに紅く輝く彼らの拳からは、セキラ同士の拒絶反応によって発生する、
紅い閃光と、ばちばちという音が放たれていた。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:19:34.99 ID:vh0AiJ3C0
(#^ω^)―――!!
(・∀・#)―――!!
再び、二人の姿が消える。
一瞬で音速を超えるスピードを発現した二人には、
まわりの動くもの全てが、まるで止まっているかのように遅く感じられた。
(#^ω^) !!
超高速の世界で、ブーンの拳が振りかぶられる。
それとほぼ同時に、モララーも自らの拳を固め、振りかぶる。
ぶつかる二人の拳。発生した衝撃波で、彼らの立つアスファルトの路面が粉々に砕け散った。
二人が、一旦バックステップで距離を取る。
それと同時に、モララーの左腕に取り付けられていた携帯電話がくるりと回転しながら、
彼の掌に納まった。
(・∀・#) !!
携帯電話の先端から現れた剣を前に突き出しながら、ブーンに突進するモララー。
ブーンは高く上空に飛んでそれを回避する。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:20:28.83 ID:vh0AiJ3C0
( ^ω^)
上空に飛んだブーンはその両手の指から一本ずつ、計十本の赤い光を自分の真下に向かって放った。
それは下に居るモララーを狙ったものではなく、
辺りでまだ動作を続けていたTASIROたちに降り注ぐ。
〔○〕 〔○〕 〔○〕
(・∀・;) !!?
たちまちブーンにコントロールされた十体のTASIROたちがモララーに襲い掛かった。
(・∀・#) ……ふん
モララーの左手が、目にも留まらない速さで動く。
〔○〕 〔○〕 〔○〕
〔(/ /)〕 〔(/ /)〕 〔(/ /)〕
一瞬のちには、TASIROたちは見事に真っ二つになっていた。
しかし、そこでモララーは気付く。
(・∀・;) !?
自分の右腕に、セキラの『鞭』が絡み付いているということに。
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:22:16.59 ID:vh0AiJ3C0
(#^ω^) おおおおおおおおおおおお!!!!
ブーンが鞭となった携帯電話を持つ手を、思い切り動かした。
モララーの身体が宙に浮く。
(・∀・#)
しかし、モララーも素直に投げ飛ばされはしない。
空中で右腕のセキラを消し、鞭の束縛から脱すると、
彼は剣にしていた携帯電話を左腕に戻し、それを下にいるブーンに向けた。
(;^ω^) !!
モララーの左腕に装着された携帯電話の赤外線発信部位から、
無数のセキラの弾丸がブーンに向かって降り注ぐ。
ブーンは転がるようにそれを回避しながら、右手に持って鞭にしていた携帯電話を右腕に戻す。
着地したモララーに向けて、ブーンは彼とまったく同じ方法で光の弾丸を乱射する。
二人は互いに打ち合いながら、横向きに走り出した。
(#^ω^)
(・∀・#)
強力な威力を持ったセキラの弾丸がところどころ被弾し、彼らの体からばちりばちりと紅い光が発生する。
しかし彼らは気にせず、向かい合ったまま平行に走り続ける。
しばらくその状態が続くかと思われたが、しかし彼らの行く先には巨大なビルの姿があった。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:24:34.79 ID:vh0AiJ3C0
(・∀・ ) !!
先にビルの存在に気付いたモララーが、ビルに向かって飛ぶ。
彼は足の裏のセキラの性質を粘着質なものに変化させると、そのままビルを垂直に駆け上がった。
遅れてブーンがそれに続く。
( ^ω^) ッ!!
一気に加速したブーンが、後ろからモララーに足払いをかける。
それをモララーはビルと垂直になる形に飛んで回避。
重力に呼ばれ、落ちていきながら、彼はビルの壁面に佇むブーンをセキラの弾丸で狙い撃ちにする。
ブーンは加速してビルの壁面を走り、それを回避。
モララーはセキラの鞭を足から出して壁面に向かって放ち、その先端をビルの壁面に粘着させると
まるで掃除機のコードのようにセキラの鞭をたぐりよせ、もとの壁面に帰還する。
そしてそのまま彼も加速し、壁面を駆け上がるブーンを追いかけて行った。
加速していく二人のスピード。
その速度が生み出す衝撃波で、足場にされたビルの窓がぱりんぱりんと音を立てながら割れていく。
屋上のフェンスが見えた。
見えたそれが、一瞬あとには足場になり、自殺防止用の返しを伝って、彼らは屋上の上空に舞い踊る。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:26:56.00 ID:vh0AiJ3C0
( ^ω^)
(・∀・ )
ふわりと浮き上がりながら、彼らは互いの姿を見た。
お互いに固めた拳に活性化させたセキラを纏い、大きく腕を振りかぶっている。
ブーンは右拳を
モララーは左拳を
纏ったセキラの活性率が臨界点に達し、二人は拳を前に押し出す。
ごお、という音と友に、屋上のフェンスが吹き飛んだ。
二人の少年が拳をぶつけ合った、その衝撃波で、である。
互いの打撃の衝撃に吹き飛ばされた二人は、そのまま屋上に転がり落ちた。
時刻は、すでに夕暮れ時。
赤く大きな太陽が、屋上で向かいあう二人を照らしている。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:28:55.71 ID:vh0AiJ3C0
(;^ω^) あー、もう。やっぱり強いお、モララーは
ブーンがぼやく。それは嘘偽りのない、正直な彼の気持ちだった。
(・∀・;) ふふん、なかなかどーして、キミも強くなったじゃないかブーン
それに対してモララーの方も素直な感想で返した。
なにしろほんの数週間前まで目の前の幼馴染は、ケンカはゴキブリよりも嫌いだと豪語していたのだ。
それが今、もともと戦闘の心得のあった自分と対等に戦っている。
( ^ω^) 『強くなった』わけじゃないお。ちょっと『ケンカがうまくなった』だけだお
(・∀・ ) ははは、キミらしい意見だね
この二人は今、殺し合いの最中である。
ゆえにある程度の緊張感は保たれていたが、それでも二人の間には奇妙な和やかさが流れていた。
( ^ω^) ……いや、あるいは『強くなれた』のかもしれないお。
本当に、ちょっとだけだけど
(・∀・ ) へぇ……めずらしいね、キミがそんなことを言うなんて
( ^ω^) 変われたのかもしれないお、この数週間で
(・∀・ ) ……そっか
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:30:59.00 ID:vh0AiJ3C0
- 言いながらモララーは、自らの右腕にセキラのベルトで固定した銀色の携帯電話をスライドさせ、
そこに左手の指で番号を入力する。
( ΦωΦ)―Get Set……―
( ^ω^) ……モララー
(・∀・ ) ……うん?
同時にブーンも、自らの左腕にセキラのベルトで固定した黄色い携帯電話をスライドさせた。
( ^ω^) 今まで僕は、ずっとずっと楽しかったお
君とツンと、バカなこともやって、色々遊んで……
そんな当たり前の日常が、とても、とっても幸せだったお
(・∀・ ) ……うん
右手の指で番号を入力しながら、話すブーンの声。
最初は平然とした調子だったそれが、段々とかすれて、そして、震える。
ζ(゚- ゚*ζ―Get Set……―
( ω ) あれは、嘘じゃなかったんだおね?
僕たちは、友達だった……いや、今でも友達なんだおね?
( ∀ ) ……
ブーンの問いかけに、モララーは答えない。
―――答えられない。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:32:05.19 ID:vh0AiJ3C0
( ∀ ) ……ごめん、ブーン
モララーの左腕に固定されていた携帯電話が、
くるりと回転して彼の左手に納まる。携帯電話の先端から現れるのは赤い光の剣。
( ∀ ) ボクはもう『怪獣』だから……『人間』じゃないから……
( ω ) モララー……
ブーンの右腕に固定されていた携帯電話が、
くるりと回転して彼の右手に納まる。携帯電話の先端から現れるのは赤い光の剣。
( ∀ ) ただねブーン、これだけは言える
( ω ) ?
( ∀ ) モララーは……『人間』だったころのモララーは、
キミのことも、ツンのことも、クー先輩のことも……大切な友達だと思っていたよ
( ω ) モララー……なら……!!
( ∀ ) でもねブーン、ダメなんだ
(; ω ) そんな、どうして……!!
( ∀ ) ボクはもう選んでしまったから
……『人間であること』よりも『夢かなえること』を選んでしまったから
なおも何かを言おうとしているブーンの声を遮るように、モララーは叫ぶ。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:34:06.75 ID:vh0AiJ3C0
( ∀ ) だから……だからボクはもう振り返らない!!
左腕の携帯電話の発信ボタンを押し、彼は吼えた。
( ∀ #) アサルトッ!!
( ΦωΦ)―Assault:「クリムゾンドライブ」―
ばちばちと音を立てながら、モララーの両足のセキラが活性化する。
それを見て、ブーンは一言、呟いた。
( ω ) 不器用すぎるんだお……君は昔から……!!
そして、叫ぶ
(# ω ) アサルトッ!!
ζ(゚- ゚*ζ―Assault:「クリムゾンドライブ」―
( ∀ #) ああああああああああああああ!!!!!
(# ω ) おおおおおおおおおおおおおお!!!!!
雄叫びを上げながら、互いに向かって突進する二人。
地を蹴り、高く飛び上がると、彼らは空中で、相手に向かって剣を突き出した。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:34:50.29 ID:vh0AiJ3C0
- 世界が、真っ赤に染まった。
先ほどまでその場を照らしていた夕日のオレンジは完全に消え去り、
今、この場所を支配しているのは高エネルギー体同士の激突によって生じる紅の光。
光の中で、少年たちは互いの姿を見ていた。
(・∀・ )
『怪獣』になりたかった少年の目に、ずっと共に歩んできた幼馴染の姿が映る。
こちらに剣を突き出す彼の顔は、いつもにこにことしている彼には珍しく怒っていた。
―――自分のために、怒ってくれていた。
少年は、なんでこいつはこんなに優しいんだろうと、ちょっとだけ目の前の彼を羨ましく思った。
( ^ω^)
『自分にできること』をしたかった少年の目に、ずっと共に歩んできた幼馴染の姿が映る。
こちらに剣を突き出す彼の表情は、相変わらずのポーカーフェイスだった。
でも、彼には分かった。この目の前の友達は、今ちょっとだけ後悔しているのだと。
まったく、感情を内側に隠すのがうますぎるのだ、こいつは。
誰かが力になりたいと思っていても、彼は大抵自らの器用さで大体のことをこなしてしまう。
少年は、そんな彼の器用さがいつも羨ましかった。
そして、人に弱さをさらせない彼に頼ってもらえる自分が、いつも誇らしかった。
赤い光の中の二人の少年。
正面からぶつかり合っていた剣と剣。
やがて、彼らの手にわずかな揺れが生じ、正面からぶつかり合い、拮抗していた二つの剣は
それぞれが支えを失い、そしてお互いの身体へ向かって突き出された。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:36:40.78 ID:vh0AiJ3C0
(# ω ) !
モララーの剣が、ブーンの右足のデバイスに突き刺さる。
先ほどのドクオの戦いで、外見からは分からないダメージを負っていたそれは、
活性化したセキラの剣が刺さることによって粉々に砕け散った。
( ∀ #) !
ブーンの剣が、モララーの左足のデバイスに突き刺さる。
先ほどのドクオの蹴りによって大きなヒビを入れられたその携帯電話は、
活性化したセキラの剣が刺さることによって内側から爆散した。
ζ(゚- ゚*ζ―Form Down:「Amazing」―( ΦωΦ)
それぞれ一つずつデバイスを失った二人の姿が変わる。
デバイスから出るセキラのラインが全身に幾何学模様を描く姿に変わった二人は、
互いに衝撃を受けた片足に残るしびれを感じながら立ち上がり、
お互いの姿を見据える。
(# ω ) ぉぉぉおおおおおおオオオオオ!!!!!
( ∀ #) ぁぁぁああああああアアアアア!!!!!
叫び声を上げる二人。
どちらからと言うでもなく彼らは互いに駆け出した。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:37:33.28 ID:vh0AiJ3C0
―――二人の間に、もはや言葉のやりとりは無かった。
( ∀ #) ぁぁぁああああああアアアアアア!!!!
殴る。
モララーがブーンを殴る。
( ∀ #) あはははは!! あははははハハハハハハハハハハ!!!!
友達を殴りながら、彼は笑った。
笑う彼の目は、涙で潤んでいたが、
そんな事実を消し去りたいとでも思っているかのように、大声で彼は笑った。
(# ω ) ぉぉぉおおおおおおオオオオオオ!!!!
殴る。
ブーンがモララーを殴る。
(# ω ) おおおおお!!! ……おおおおおおおおオオオオ!!!!
友達を殴りながら、彼は泣いていた。
涙を流す彼の拳は、ときどき目の前の相手を殴ることを戸惑うような動きを見せたが、
その戸惑いを無理やり打ち消したいと言うように、大声で彼は叫んだ。
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:39:27.97 ID:vh0AiJ3C0
( ∀ #) ハハハ!! アッハッハッハッハ!!!!
―――殴るたびに、彼らの体から血が流れる。
(#;ω;) おおおお!! おおおおおおオオ!!!!
―――殴るたびに、彼らの目から涙が流れる。
( ∀ #) か……は……クッ……!! あはははは!!
―――殴るたびに、彼らの体に傷が付く。
(#;ω;) くそ……くっそおおおおおおおお!!!!
―――殴るたびに、彼らの心が深く抉れる。
何のために戦っているのかは、彼らさえ知らない。
その戦いの先に何があるのかさえ、彼らは分からない。
しかし、戦わなければならないということ、それだけは分かっているから、彼らは戦う。
一人は、笑いながら。
一人は泣きながら。
そんな彼らを、大きな夕日が静かに見下ろしていた。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:41:02.38 ID:vh0AiJ3C0
- デバイスの殆んどを失った彼らの拳が、
同時に相手の下腹部に固定されたデバイスに命中する。
(#;ω;) ―――ッ!!
( ∀ #) ―――ぁぁ……!!
お互いの打撃によって後方に吹き飛ばされる彼ら。
その下腹部に装着された黒いゲーム機と、TASIROの頭部が、
倒れた彼らの腹の上で砕け、地面に落ちる。
( ∀ #) ぁ……ぁぁ……あはは……
先に立ち上がったのはモララーだった。
ゆらり、ゆらりとまるで亡霊のような歩き方で彼はブーンに歩み寄ると、
固めた拳を、未だ立ち上がらない彼に向かって振りかざした。
( ∀ #) あっはっは……アハハハハハハハ!!!!
振り下ろされるモララーの拳。
(#;ω;) モララー……
それは、自分の名を呼ぶブーンの顔面を狙って、そして―――
( ∀ #) ぁ……ぁ……?
(#;ω;) モララー、もう、いいんだお
―――セキラを纏ったブーンの掌に、止められた。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:42:00.79 ID:vh0AiJ3C0
( ∀ ) ぁ……ぁ……?
( ;ω;) モララー、もういいんだお。もう……
掌でモララーの拳を受け止めるブーンの左腕には、
彼の物である黄色い携帯電話が、セキラのベルトによって固定されていた。
対して、拳を振り下ろすモララーの身体には、
もう、セキラの寄り代となる携帯電話もTASIROの頭も存在しなかった。
( ∀ ) ……ぁ……ああ……?
( ;ω;) もういいんだお、モララー。『怪獣』はもういないお。―――僕が倒したお
未だ状況を把握しきれていない親友に、ブーンは泣きながら必死な声で話しかける。
それに対しモララーは、しばらく空を仰ぎ、言葉とも呟きともとれない小さな声を出していたが、
やがて彼はゆっくりと両手を頭に持っていくと、頭にそれを当ててその場に膝をついた。
:( ∀ ):: ぁ……あ……ぁ……ぁぁぁ
小刻みに震えだす彼の身体。やがて一粒、また一粒と暖かい液体が彼の双眸から流れ落ちる。
:(;∀; ):: ……ぁぁ……ぁぁあああああああ!!!!
彼の口から漏れ出していた小さな声は、やがて大きな泣き声へと変わっていった。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:43:13.71 ID:vh0AiJ3C0
- 頭を抱えて震えるモララーの身体を、ブーンが思い切り抱きしめる。
( ;ω;) モララー……モララー!!
:(;∀; ):: ブーン……
( ;ω;) もう、『怪獣』はどこにもいないお!
悪い怪獣は『正義の味方』にやっつけられたんだお!
これでもう、めでたしめでたしだお。だからモララー、僕と一緒に帰るお!!
:(;∀; ):: ブーン、ボクは……ボクは……
( ;ω;) もう何も言うなお! 悪いのは全部『怪獣』だお!
君は、君はもう『怪獣』じゃない。ただの、一人の、
どこにでもいるちょっと気取った高校生だお!
―――僕の友達のモララーだお!!
叫ぶブーンの必死さは、モララーの心に直に染み込んでいった。
そして、ようやく彼は理解した。
永く続いた、どうしても捨てられなかった『夢』が、今やっとここに終焉を迎えたのだと。
自分はもう二度と、『怪獣』になることはできないのだと。
―――そのチャンスはもう、永遠に自分に回ってくることはないのだと。
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:44:05.33 ID:vh0AiJ3C0
- 腕の中のモララーの震えが納まるまで、ブーンはしっかりとモララーの身体を抱いていた。
( ∀ ) ……ブーン
( ;ω;) お……?
ようやく震えが納まったモララーが、少し落ち着いた声でブーンに話しかける。
( ∀ ) キミは……なんでボクを殺さないの?
( ;ω;) !
( ∀ ) ボクは、許されないことをしたんだよ?
たくさんの人を殺して、たくさんの人からいろんなものを奪ったんだよ?
ゆっくりとモララーは立ち上がる。
それに少し遅れる形でブーンも立ち上がり、涙に濡れた目を、俯いた彼に向けた。
( ;ω;) ……だとしても、僕は許すお
( ∀ ) ……
しゃくれた声で搾り出すようにブーンは言った。
( ;ω;) もし、誰かが君を責めたとしても。
神様仏様が、君を許さないと言ったとしても。
僕だけは、君を許すお。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:45:13.61 ID:vh0AiJ3C0
( ;ω;) だって、そうじゃないと……そういう人間がいないと『理不尽』だお?
( ∀ ) 理不尽……?
「何が」と聞き返すモララー。相変わらず涙交じりの掠れた声で、ブーンは話し始める。
( ;ω;) 世の中には、色んな人がいるお。強い人や、弱い人、優しい人や、意地悪な人。
中には自分じゃ間違ってると分かってても、それをしないとどうしようもない人だっているお
でも、それに傷つけられた人からしてみれば、
自分を傷つけた相手の事情なんて知ったこっちゃない。
ただ、傷つけられたという事実を怒るだけだお。
そして大抵の人間は、傷つけられた側の味方だお。
夕日が照らすブーンの顔には、再び暖かい涙が流れ始めていた。
( ;ω;) 誰かを傷つけざるを得なかったその人の苦しみは、誰にも理解されない。
本当は誰かに分かってほしかったはずのその人の悲しみや苦悩は、どこに行けばいいんだお?
どこにも行かずに、誰にも理解されずに、ただ消えていくだけなのかお?
そんなの……そんなの、悲しすぎるお!!
ひとりぼっちで、誰にも理解されないまま消えていくしかないなんて、悲しすぎるお!!
叫んだ彼は、
彼自身も自分がどうしてそうしているのか分からないままに、大きな声をあげて泣き出してしまった。
( ・∀・)
その彼の泣き顔を、モララーは何を考えているのかわからないその表情で、
ただ、じっと眺めていた。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:49:38.86 ID:vh0AiJ3C0
- ( -∀-)=3
夕日の照らす屋上で、少年は一つ、ため息をついた。
まったくこいつには適わない。そんな風な表情だった。
( ・∀・) ブーン
( ;ω;) お?
少年は、ゆっくりと歩き出した。
( ・∀・) まあなんというか、今更こんなことを言うのも恥ずかしいんだけどさ
歩きながら、少年は少し照れくさそうにそう言った。
そして、屋上の淵、彼らの戦いに巻き込まれて、破壊されたフェンスの側まで歩くと、
彼はくるりと振り返り、ブーンの方を見て、笑う。
( ・∀・) キミのその優しさが、ボクはとても好きだった。
だからこそボクは信じていたんだ、キミこそ『正義の味方』に一番ふさわしいって。
( ;ω;) ……モララー?
少年の様子がおかしいことに気付いたブーンが彼の名前を呼ぶ。
彼は、相変わらず笑ったままだ。
( ・∀・) でもね、ブーン。
だからこそ、ボクはキミと一緒には帰れない。
『正義の味方』に倒された『怪獣』は、二度と人前に姿を現しちゃいけないんだ
( ;ω;) 待つおモララー! ……何を……!!
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:50:34.16 ID:vh0AiJ3C0
- ブーンの目に映るモララーの姿が、ゆっくりと後ろに傾いていく。
ここは、ビルの屋上だ。
もちろん彼が倒れようとしている先に、地面はない。
夕日に照らされる彼の笑顔が、だんだんと見えなくなっていく。
( ∀ ) ありがとう、ブーン。キミと友達になれて本当に良かった。
そんな言葉を残して、モララーの姿は壊れたフェンスの向こう側へと消えていった。
(;゚ω゚) モララー!!
セキラによって脚力を強化したブーンが、一瞬にして先ほどまでモララーが居た位置に飛ぶ。
形態がUltimateでないため、身体が先ほどのようにうまく動かない。
それにもどかしさを覚えながら、ブーンはモララーの消えていったフェンスの向こう側を覗き込み、
遥か下に落下していくモララーに向かって、セキラの鞭を放つ。
伸びる鞭の速さが、落下するモララーに追いつきそうになって、そして―――
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:51:15.96 ID:vh0AiJ3C0
―――遥か下の地面から、何かが落ちて砕ける音がブーンの耳に届いた。
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:52:33.95 ID:vh0AiJ3C0
( ^ω^)彼らは携帯電話を武器に戦うようです
第十五話「怪獣」
おわり
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/01/26(水) 22:53:25.00 ID:vh0AiJ3C0
―次回予告―
J( 'ー`)し ……そうか、もうあれから一年経つのねえ
ζ(゚ー゚*ζ 人間臭い、ですか……うーんそうだなあ、私もいっそ人間だったらなあ……
*(*‘‘)* そっか……かえってきてたんだ……
( ΦωΦ) おそらく、捨てられない『夢』を持ってしまったとき
人間というものは果たすべき『役目』を背負わされるのである
最終話:「分雲」
―――小さな『彼ら』の、話をしよう。
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