( ^ω^)は選ばれたようです

3 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/04/08(水) 23:27:43.73 ID:NmN3bdp4O
あれからどれだけ歩いただろうか。
今の服装は制服に革靴だから、かなり動きにくい。
更に道も整備された道ではなく、雑草が生い茂る草原。
故にたまる疲労も普段以上だ。
だが、それもあと半分程だ。
もう街の門まで目と鼻の先。
しかし、その行進を遮るかのように、僕らに迫る影があった。
紛れもない。狼である。

ζ(゚ー゚*ζ「あっ、かわいー」

かわ……いい……?

4 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/04/08(水) 23:28:54.67 ID:NmN3bdp4O
(;^ω^)「え? いやいや、かわいいじゃないですお!
      どう考えても敵意むき出しじゃないですかお!」

尻尾を振りながら来るのならまだ分かる。
だがそれは身構え、唸っている。
ご丁寧に涎まで垂らしているおまけつきときた。

ζ(゚ー゚*ζ「えー、かわいいじゃないですかー」

(;^ω^)「失礼だけどあなたのその辺の感覚というのを疑いますお……」

ζ(゚、゚*ζ「ムー」

こんな風に余所見して言い合いをするものだから、僕らは隙だらけで、当然向こうは襲いかかって来た。

5 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/04/08(水) 23:30:05.75 ID:NmN3bdp4O
狙われたのは僕。
慌てて腕で塞ごうとはしたが遅すぎた。
飛び掛かった狼の牙は間違い無く僕の喉笛を食いちぎるだろう。

(;^ω^)「うわぁぁぁぁ!」

間に合わない。
嫌だ、死にたくない。
そう思った。狼がいきなり視界から消えるまでは。

ζ(゚ー゚#ζ「狼さん! 今私達は話をしてるんです。
      邪魔しないでください!」

狼は丁度真下から生えてきた何本もの蔓に体を巻かれ、思い切り引っ張られたのだ。
彼女がやったのであろう、彼女の足元にも何本かの同じ蔓が今も動いている。

6 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/04/08(水) 23:32:01.68 ID:NmN3bdp4O
(;^ω^)「た、助かった……?」

何がなんだかさっぱりだが、僕は生きている。
安堵感からか、つい僕は腰を抜かしてしまった。

ζ(゚ー゚*ζ「さて」

ζ(゚ー゚*ζ「お帰りはあちらですよー!」

そんな僕を余所に、彼女はその場で大きく腕を振った。
それにあわせて動く蔓が、狼を宙に放った。
人なら大怪我を負う飛ばされ方だったが、流石は獣と言った所か。
慣れた感じで体勢を立て直すと、見事な着地を見せた。
だがもう戦意は微塵も残されてないようで、脱兎の如く走り去って行った。

僕が立ちあがる頃には、既に見えなくなる程小さくなっていた。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、行きましょうか」

僕と違って終始落ち着いていた彼女を見て、少し恥ずかしさを覚えた。

7 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/04/08(水) 23:33:54.27 ID:NmN3bdp4O
大きな門。
それが第一印象だった。
それはまるで往来する人々を見守るかのように堂々としていた。

( ^ω^)「おー、随分と立派な門だお」

ζ(゚ー゚*ζ『ここは首都ではないにしろ、清潔な水の恩恵を受けて繁栄してる街ですからね。当然でしょう』

( ^ω^)「ふーむ、これは……石垣状のものかお。
      なるほど……、比較的きれいな状態だから、つい最近改修されたばかりかお。
      て事は、文明レベルは僕の世界の方が上かお?」

ζ(゚ー゚;ζ『あの……聞いてますか?』

(;^ω^)『えっ、あ、申し訳ないお』

ζ(;、;*ζ『……いいんです、私の事なんて気にしないで下さい……グスン』

僕がそう謝るのは、腕にある装飾品。つまり例の腕輪だ。
しかし、今は彼女の精神が入っている。

8 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/04/08(水) 23:35:08.43 ID:NmN3bdp4O
何故かというと、話は遡ってオオカミを追い払った後からになる。

ζ(゚ー゚*ζ「あ、そうでした」

ふと、思い出したように彼女は立ち止まったところからだ。

ζ(゚ー゚*ζ「言い忘れてましたけど、このまま人前には行けませんでした」

( ^ω^)「……はい?」

どういう事だ?
全く理解出来ない僕を置いて、彼女はこう続けた。

ζ(゚ー゚*ζ「私みたいな精霊は、人前には現れない事になってるんですよ。
      まぁ、どちらにせよこのままじゃダメなんですけどね」

9 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/04/08(水) 23:36:55.99 ID:NmN3bdp4O
益々疑問に思う僕に、更に言った。

ζ(゚ー゚*ζ「あなたの使う言語と、この世界の言語は違うんですよ」

( ゚ω゚)「な、なんだってー!!」

ζ(゚ー゚;ζ「……オーバーリアクションですね」

( ^ω^)「いや、ついなんとなく……」

うーむ、このネタはダメだったか。
呆れた表情をする彼女を見ながら反省した。

ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、いいです。
      続けますが、そうならないためには、私の力を使うのです!」

胸を張って言う彼女に、僕はちょっと感心した。
ツンと同じまな板なのによくやれたね……。

ζ(゚ー゚*ζ「いきますよー、えいっ」

10 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/04/08(水) 23:38:24.27 ID:NmN3bdp4O
それは一瞬の出来事だった。
僕と彼女の腕輪が一本の蔦で結ばれたかと思うと、また別の蔦が彼女の体を覆うように巻き付いていく。

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫ですよ」

そう言って、彼女は蔦の球に包まれた。
そして、彼女が見えなくなると、その球は蠢きながら縮小をはじめた。いや、僕の腕輪が吸い取っているという言い方が正しいだろう。
やがて、その球は彼女を飲み込んだまま吸い尽くされ、そこに残されたのはただ一人、僕だけだった。

12 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/04/08(水) 23:41:18.28 ID:NmN3bdp4O
(;^ω^)「で、デレさん!?」

『はい? なんですか?』

(^ω^;≡;^ω^)「?」

テレパシーの類だろうか、頭の中に彼女の声が響いてきた。
しかし、辺りを見回しても、足元を見ても彼女の姿も影も見えない。
しかし頭の中とはいえ、声ははっきりと聞きとれる。

『ここですよ、ここ。
 腕輪を見てください』

腕輪? 腕輪に目立った違いは……なんだこれ?
最初見た時は何もなかった窪みに、宝石のようなものが埋められていた。
表面は淡い緑、中心は濃い黄色の宝石で、色の境界ははっきりと見て取れた。

13 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/04/08(水) 23:42:12.57 ID:NmN3bdp4O
ζ(゚ー゚*ζ『驚かせてごめんなさいw
 一応私みたいな精霊は、こんな事も出来るんですよ』

( ^ω^)「なるほど……」

ζ(゚ー゚*ζ『ちなみにこの状態ならここの世界の人達と普通に会話できます』

(;^ω^)「マジかお……」

この状態じゃないと会話すら満足に出来ないのか……。
不安になる反面、どんな言語なのだろうとちょっと気になる自分がいた。

ζ(゚ー゚*ζ『後、他にもちょっとした機能はあります。
 えっと……。あ、近くに木ありますよね』

( ^ω^)「確かにあるお?」

ζ(゚ー゚*ζ『じゃあこの腕輪の宝石と、木の幹を結ぶ一本の線を想像してください』

14 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/04/08(水) 23:43:28.08 ID:NmN3bdp4O
変な注文だと思いつつ、僕は左手を樹に向け、言われた通りにイメージした。
すると、宝石の表面が少し波立ったかと思うと、そこから勢い良く緑色の何かが僕の想像した線をなぞるように飛び出した。
それが目標物に巻き付いてからようやく何か分かった。
蔓だ。

(;^ω^)「おおぅ!」

ζ(゚ー゚*ζ『えっへん! どうですこれ?
      使いようならかなり便利な能力ですよ』

そう誇らしげに言った後、まぁ私なんかまだまだですけどと、気恥ずかしそうにそれに加えた。

16 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/04/08(水) 23:46:46.64 ID:NmN3bdp4O
ζ(゚ー゚*ζ『あぁ、あと』

( ^ω^)「?」

ζ(゚ー゚*ζ『私に話し掛けるだけなら心の中で十分ですよ。
      そうじゃないと不審者扱いされますからね』

( ^ω^)「なるほど……把握だお」

ここで僕は、一つ実験をすることにした。
なんてことはない。適当なことを想像した後、彼女にそれについて意見を求めるものだった。

ζ(゚、゚*ζ『?』

結果は御覧の通り。
どうやら彼女に話し掛けるという意思がない限りは、彼女に心を読まれる心配はないということだ。

17 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/04/08(水) 23:47:52.08 ID:NmN3bdp4O
( ^ω^)(しかし、プライバシーの保護がされててよかったお……)

( ^ω^)『ところで質問だお』

ζ(゚ー゚*ζ『はい? 』

( ^ω^)『通行許可証とかないけど大丈夫かお?』

ζ(゚ー゚*ζ『そうですね、今は自由に行き来出来るので、特に問題はないですよ』

それだけ治安がいいのだろう。
まぁ、街中で喧嘩なんて起きるなんて――

「ってーなコラ! やんのかコラ!?」

「んだと!? テメェがぶつかってきたんじゃねぇかよ!」

( ^ω^)「……」

(^ω^ )「聞かなかったことにしよう」

僕は何も聞かなかったことにした。
うん。何も聞いてないよ。

18 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/04/08(水) 23:48:54.56 ID:NmN3bdp4O
街の中は至って賑やかなものだった。
大通りには露店が並び、道行く人々の姿がこの街の賑やかさを物語っていた。
そして、やはり目が行くのは塀の一角にある巨大な塔だ。高さだけなら門よりある。
僕が果ての森の入口から

ζ(゚ー゚*ζ『あれは見張りに使われてるみたいです。
      この街のシンボルの一つですね』そしてもう一つ。こちらは巨大な水車だ。
見るものを圧倒するそれには、僕に軽い感激を与えた。

ζ(゚ー゚*ζ『これがシベリア名所の水車です。
      これによって作られる小麦粉は品質が良いと評判なんですよ』

(*^ω^)『へぇー』

19 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/04/08(水) 23:50:38.76 ID:NmN3bdp4O
その後は、軽く商店街をまわる事にしたが、ここで疑問が生じた。

(;^ω^)『あ、お金大丈夫かお?』

ζ(゚ー゚*ζ『大丈夫ですよ。あの銀貨を換金すれば、しばらく路銀には困りませんから』

( ^ω^)『換金するのかお?』

銀貨なんだから換金する必要はないだろうと、素直に思った。

ζ(゚ー゚*ζ『ええ、この世界では金属は貴重ですからね。
      しかもあの銀貨は異界の魔法銀でできてますから』

( ^ω^)『?』

異界? 魔法銀? なんだそれ?

ζ(゚ー゚*ζ『まぁ、落ち着く場所でゆっくり話しますよ。
      取りあえず換金が先です』

彼女の言われるまま換金したのだが、その価値は僕の予想を遥かに超えていた。

21 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/04/08(水) 23:54:21.60 ID:NmN3bdp4O
「魔法銀製銀貨三枚なら十万ペソでどう?」

ζ(゚、゚*ζ『むー、安いです。あと五万は行けますよ』

(;^ω^)「いや、ここは十五万ペソだお」

「あんちゃんも厳しいねぇ。
 じゃあ十二でどうよ?」

ζ(゚ー゚#ζ『ここで引いちゃダメです! あくまで強気で行きましょう!』

僕を媒介とした過激な取引の中で、僕は後悔の念に襲われた。
軽い気持ちで出した三枚が、まさか万単位の取引になるとは思わなかったからだ。
結局、十四万ペソで取引したが、まさかここまでとは思わなかった。

宿屋の一泊での代金が丁度五百ペソ。
確かに、路銀には困る事はなさそうである。
パンパンになった財布をポケットにしまい、部屋へと案内されるのだった。

第三話――街――



第四話へ続く→


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