- 4 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:16:22.30 ID:9xPodIa4O
- ゆらり、ゆらり
船体が波に当たる度にゆったりと揺れる。
それに合わせて、船縁に立つ僕の体も、右へ左へと揺れていた。
( ^ω^)「異世界の海は変わらず。……かお」
ぽつりと呟いた。
当然といえば当然だ。
だが、どんなものでも自分の世界と全く同じということは、僕の心を安らげるに足るものだった。
ζ('、`*ζ『それ、どういう意味です?』
( ^ω^)『気にしないでデレは休んでるお』
ζ('、`*ζ『気持ち悪くてとても寝れたものじゃないんです……』
- 7 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:18:07.04 ID:9xPodIa4O
- 僕は幸いにもまだなってはいないが、意外にも彼女が船酔いしていた。
見ての通り、見てるこっちまで心配してしまうほどの重症だ。
ζ('、`*ζ『うーん……。この乗り物は、恐ろしいものです……』
心底そう思っているのだろう。
その言葉には重みがあった。
( ^ω^)『何かできる事はあるかお?』
ζ('、`*ζ『うーん、お気持ちだけ、いただいておきますぅ』
それなら仕方ない。
と、船室に戻る時だった。
*( ; ;)*「わーん、暇ひまヒマー!」
(゚、゚トソン「ほら、我が儘言わないの。ね? 良い子だから……」
- 9 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:19:29.51 ID:9xPodIa4O
- 黄昏ていたから気付かなかったが、一組の親子が同じ船縁にいた。
どうやら子供が駄々をこねているらしく、とても騒がしかった。
母親も、表情からは読み取れないが、とても困っている様だ。
このままではその子はいずれ怒鳴られるだろう。
そんな光景はあまりに見たくなかった。
( ^ω^)「お嬢ちゃん。暇ならお兄ちゃんが手品を見せてあげるお」
*( ; ;)*「グスン……ホント?」
( ^ω^)「だおだお」
そう言って、僕は人差し指を立てた。
また、彼女にもそうするよう頼んだ。
- 10 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:20:56.12 ID:9xPodIa4O
- そして最後にイメージ。
僕の人差し指の先までは、手に巻き付くイメージを。
そこから先は、彼女の指の先にはまる様に投げ縄状にした。
( ^ω^)「ほーら。仲良しの握手だおー」
*(*‘‘)*「わぁ、すごーい!」
彼女にとっては種も仕掛けも分からぬ手品。
だからか、彼女はいたくそれを気に入った。
先程までの泣きじゃくった顔は何処へやら。
次は次はと僕にせがみはじめた。
( ^ω^)「おっおっおっ」
- 11 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:22:08.05 ID:9xPodIa4O
- そこから僕は、この能力を使って、様々な見世物を披露した。
やがて、日も暮れ、お互いの船室に帰る頃には、彼女が笑顔で別れを告げるくらい喜んでいた。
( ^ω^)ノシ「……」
正直に言おう。疲れた。
ただこの疲労感は、子供の相手をしていただけというわけではないだろう。
となると、この能力はあまり燃費がいいとはいえないみたいだ。
ζ('、`*ζ『それはあれだけ使ってたら、誰だって疲れます。燃費の問題じゃないですよー』
そのことを言ってみたらそう返された。
確かにやり過ぎた感じもしなくもない。ここは大人しく反省することにしよう。
- 12 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:24:11.87 ID:9xPodIa4O
- 船内で一晩過ごした後、船は何事もなく目的地へと着いた。
そこは物静かな漁村で、まさに田舎と言うに相応しいものだった。
( ^ω^)『大丈夫かお?』
ζ('、`*ζ『もうしばらく無理みたいです……』
彼女を労りながら、僕は船を降りた。
どうしようか、このまま遺跡に行くか、彼女の回復を待ってから行くか。
彼女を心配する気持ちはあった。
しかし、初めて行く遺跡に対する好奇心には勝てなかった。
デレには悪いが、ここはこのまま行かせてもらう事にしよう。
ごめんね、デレ。
- 13 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:25:55.66 ID:9xPodIa4O
- 地図の印を見れば、遺跡は村からそんなに離れてはいないようだ。
多分だが、日が落ちるまでには着くだろう。
また、そうしたいために、僕は早くにそこを出る事にした。
そして村を出て、どれだけ進んだだろうか。
あれからずっと山道を踏み分けてきたために、溜まる疲れも相当なものになってきた。
ここらで一度休憩を取るべきだろう。
近くの木に馬の手綱を縛って、僕は一息つくことにした。
そういえば、彼等と出会った時も、僕はこうして休んでたな。
ζ(゚ー゚*ζ『何考えてるんですか?』
( ^ω^)『お。……内緒だお』
ζ(゚ー゚*ζ『あの二人の事……ですか?』
困ったな。普通にお見通しって訳か。
- 14 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:27:09.09 ID:9xPodIa4O
- ( ^ω^)『その通りだお。
……あれは、嘘じゃ、ないんだおね?』
ζ(゚、゚*ζ『……えぇ、残念ですが』
思わず深い溜め息が出てしまった。
やはり、といったところだろうか。
僕のささやかなる希望も、その一言で微塵に打ち砕かれた。
少なくとも、ギコさんはそう言う人だった。
それが、事実なのだ。
そう思うと、また溜め息が出た。
ζ(゚ー゚*ζ『今はそれより遺跡に行きましょう。
ここで悩んでても仕方ないですよ』
そうだ。その通りだ。
今は彼等の事よりも自分のことを考えなくては。
決意を新たに、僕はまた歩き出した。
- 15 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:28:37.26 ID:9xPodIa4O
- ζ(゚ー゚*ζ『あ、着きましたよ』
( ^ω^)『……これ?』
遺跡というからには、古い建造物を想像していた。
だが、実際は大きく違った。
簡単に表現するならば、森の中のちょっとしたスペースに、ぽつりと扉を張り付けたようなものだ。
しかも、他には何も遺跡らしきものはなく、その扉だけしかないときてる。
これは拍子抜けもいい所だった。
ζ(゚ー゚*ζ『さ、行きましょう』
( ^ω^)『何だろう。このやるせない気持ち』
ζ(゚ー゚*ζ『どうしました?』
( ^ω^)『……なんでもないお』
- 16 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:31:05.46 ID:9xPodIa4O
- 扉を開けると、下に続く階段があったが、中はひどい霧でいっぱいで、奥はとても見えるものじゃなかった。
ζ(゚ー゚*ζ『気をつけて下さいね』
分かってる。
そう思って一歩、二歩と、慎重に降りていく。
手摺も、壁もない。
横から下を覗いても、闇しか見えない。
万一落ちたら只じゃ済まないだろう。
だが、ここでも恐怖心よりも好奇心の方が勝っていた。
だから、若干へっぴり腰になりながらも、僕は歩み続けた。
最初は相当降りると思ったが、案外そうでもなかった。
霧は降り始めるとすぐに晴れ、底が見えるまでには五分もかからなかったからだ。
- 17 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:33:50.34 ID:9xPodIa4O
- ( ^ω^)『ここが遺跡……』
ζ(゚ー゚*ζ『そう、この世界にいくつか存在する、様々な世界の物が流れ着く場所です』
見渡すと、様々なもので溢れかえっていた。
見渡す限り異世界の品々が山のように積み上げられている。
ただ、見た感じどれもガラクタとしか言い様がなかった。
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、手分けして探してみましょうか」
気付けば彼女は実体化していた。
ニッコリしながらこちらを見ている。
( ^ω^)「え……この山から探すの?」
ζ(゚ー゚*ζ「そうですよー。
さ、頑張りましょう」
- 18 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:38:06.17 ID:9xPodIa4O
- と、言われても。
ちょっと僕を不安にさせるものがある。
ここは勇気を出して聞いてみる事にした。
(;^ω^)「なんか白骨があるんだけど」
ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫ですよ。
少なくともここは平気です」
そう意味深な台詞を口にして、彼女はガラクタの山に登っていった。
(;^ω^)「え? どういうこと? え? 大丈夫なの?」
彼女の返事はなかった。
もう自分の仕事に夢中になっていたからだ。
(;^ω^)「不安だお……」
かといってこのままでいる訳にもいくまい。
僕も僕でやることにした。
- 19 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:39:39.21 ID:9xPodIa4O
- というわけで、積上げられた山を物色するが、あるわあるわ。ガラクタの山が。
僕が分かる物でも、折れた剣や、ボロボロの絨毯。果てには軽トラックらしきものまであった。
分からない物だと、壊れた無線機らしきものや、僕の体ほどある巨大な銃まであった。
しかし、やはり調べられた遺跡だからだろう。保存状態が良い物は全く出てこない。
これは空回りだろうか?
そう思った。
ζ(゚ー゚*ζ「おー! ブーンさん。なんか面白いもの見つけましたよ!」
( ^ω^)「お! なんだお?
……えっと、何これ」
- 20 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:40:42.21 ID:9xPodIa4O
- 彼女が手にしてるのは、ヘッドホンだろうか?
訳の分からないものだ。
ζ(゚ー゚*ζ「えーっとですね、これはなんと!
……何でしょうね?」
(;^ω^)「……」
正直言うと、彼女のテンションについていけない。
ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、一応着けてみますね」
そうして、彼女はそれを耳につけた。
しばらく彼女は何かを聞き取った後、それを僕に差し出した。
ζ(゚ー゚*ζ「どうやら翻訳機の類です。
いります?」
( ^ω^)「必要性が感じられないからいらないお」
ζ(゚ー゚*ζ「ですよねー」
- 21 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:42:28.00 ID:9xPodIa4O
- それを投げ捨てると、彼女はまた近くのものを物色し始めた。
僕もここにいても仕方ないので、自分の持ち場に戻って作業を再開することにした。
結局、しばらくしても芳しい成果はみられなかった。
なので、お互い一度階段の下へと戻り、ひとまずの休憩をとる事にした。
(;^ω^)「いやー、しかしここまでガラクタばかりだと、なんかごみ捨て場みたいだお」
ζ(゚ー゚*ζ「そうですねー。使えるものは大抵取られてるですし、その表現はあながち間違いじゃないですね」
じゃあ僕ら冒険者はそれを荒らすカラスか。
そう考えると、僕の心の中の冒険者という職種に対する憧れみたいなものが、音を立てて崩れていく気がした。
( ^ω^)「……はぁ」
ζ(゚ー゚*ζ「また溜め息。
元気を出してくださいよー」
( ^ω^)「善処するお」
多分しばらくは無理だろうけど。
- 22 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:43:28.97 ID:9xPodIa4O
- そしてまた、漁る作業が再開された。
( ^ω^)「……てん?」
「転」とかかれた花札のカードらしきもの。
ζ(゚ー゚*ζ「この壺……おっきー」
人が二人か三人入れるほどの巨大な壺。
( ^ω^)「これは……?」
ζ(゚ー゚*ζ「これまたかわいい甲冑ですねー」
赤ん坊用にしか見えないサイズの鎧。
しかし、どれもこれも、僕の望むものはなく、時間だけが過ぎていった。
- 23 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:44:58.99 ID:9xPodIa4O
- ( ^ω^)「……ふー。
結局成果はなし、かお」
ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、仕方ないですよ」
その時だ。
どこからか何か小さい金属が落ちた音がした。
( ^ω^)「? なんだお?」
ζ(゚ー゚*ζ「行ってみましょう」
音を頼りにそれらしき場所を探してみるが、一向に見当たらない。
どうしたものかと思案に暮れている僕の後ろで、派手な音がした。
ζ(゚、`*ζ「いったーい。
……エヘヘ、ごめんなさい。転んじゃいました」
そう言って謝る彼女の頭に、一つの指輪が乗っかっていた。
( ^ω^)「……」
これも能力の内なのだろうか。
だとしたら、デレ……本当に恐ろしい子……。
ζ(゚ー゚*ζ「あれ? どうしました? え?」
- 24 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:46:09.92 ID:9xPodIa4O
- それは不思議なものだった。
金のリングに小さな赤い宝石がはまっている。
一見普通に見えるのだが、それは何か力を持っているようにも見えた。
ζ(゚ー゚*ζ「なんでしょうね、これ?」
( ^ω^)「……さあ、普通の指輪……にしては雰囲気が違うお」
ζ(゚ー゚*ζ「ですね。けど、私から見ても特別な力は感じられませんよ」
( ^ω^)「取りあえずゲットということで」
もし、価値のない物だとしても、この程度なら大きな荷物にはならないし、大丈夫だろう。
そういえば……。
- 25 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:47:00.61 ID:9xPodIa4O
- ( ^ω^)「ここにあるものはどうやってきてるんだお?」
ζ(゚ー゚*ζ「その答えは上を見てくれれば分かりますよ」
そう言われ、上を見た。
すると、天井の一部にいくつか渦が見える。
それらはこことはまた異質な感じがした。
何だろう。空間が違うという表現が正しいのだろうか。
この世界と、そこの空気の違いはここからでもはっきり感じ取れた。
ζ(゚ー゚*ζ「異世界のものは、あそこから落ちて来るんですよ」
その渦を見ながら、彼女は言った。
なるほど。そうなると、さっきの音は、あそこから落ちて来たからか。
- 26 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:48:27.10 ID:9xPodIa4O
- と、ここで、僕のお腹の虫が鳴いた。
よく考えてみたら、昼食抜きだったんだっけ。
ζ(゚ー゚*ζ「夕飯にします?」
( ^ω^)「そうするお」
彼女の提案に乗り、夕食を取る事にした。
しかし、食材などは器材など含め、全て他の荷物と一緒に上にある。
となると、あの危険な階段を往復しなければならないという事だ。
ちょっと憂鬱になった。
だが行かない訳にもいくまい。
仕方なしに僕は階段を登っていった。
もちろんだが、彼女は下で待つらしい。
だが、悠長に夕飯を取れそうにはなかった。
- 29 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:50:19.20 ID:9xPodIa4O
- (;゚ω゚)「村の方の空が……!?」
ふと空を見ると、村の方角が赤い。
それに、心なしか黒煙も上がってるようにも見える。
僕は最悪の事態を想定した。
(;゚ω゚)「デレ! ちょっと来てくれお!」
僕は慌てて回れ右をし、叫びながら階段を駆け降りた。
ζ(゚ー゚*ζ「どうしました?」
(;゚ω゚)「いいから! 早く!」
疑問の声をあげる彼女の手を引っ張って、また駆け上がった。
途中で彼女を掴んでる感触は無くなった。
どうやら宝石化したようだ。
だが、今はそんなことどうでもいい。今一番する事は彼女に確認を取ることだから。
- 30 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:51:22.61 ID:9xPodIa4O
- (;゚ω゚)「あれ! あの空を見るお!」
ζ(゚ー゚;ζ『……!』
彼女も僕と同じ考えを持ったようだ。
息を飲む声が聞こえた。
となると、僕が取るべき行動は一つしかない。
( ゚ω゚)『助けに行くお!』
ζ(゚ー゚*ζ『はい!』
急いで荷物を纏め、僕はその方角へと、走り出した。
駆けた。必死で駆けた。
何が僕をこうさせるのかは分からない。
ただ、自分の良心に従っただけだ。
- 31 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/07(木) 19:52:28.06 ID:9xPodIa4O
- 僕の予想が外れて欲しいと、そう思いながら。
しかし、そう言う予想ほど無駄に当たってしまうものだ。
(;゚ω゚)「あ、あぁ……」
僕が見た光景は、半日前に見たものと全く違っていた。
第八話――遺跡――
完
第九話へ続く→
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