- 25 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/13(火) 20:10:59 ID:kBq5hNZE0
「( ^ω^)ブーンと円のようです」
第二話「マヨイガ」
- 26 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/13(火) 20:12:06 ID:kBq5hNZE0
ドクオは山の斜面に寄り添うように建つ家並みを抜け、
その一番上のはずれにある内藤の自宅へと向かっていた。
この集落も日本の平均的な山村にありがちな過疎化の道筋を着実に歩んでいる。
高齢化…若者の都市部への流出、それに伴う産業の衰退…。
この集落はすでに黄昏を迎えていた。
そしてとどめを刺すように、高速道路建設計画が持ち上がったときも
退去を促された住民はごくあっさりと補償金を受け取り、どこへともなく去って行った。
案外みんな、この集落のことを気に入っていなかったのかもしれない。
('A`)「あー、なんかここまできて騙されてるような気がしてきた」
('A`)「さっきから携帯もつながらんし…。」
そう言って携帯のディスプレイをみると午後六時をまわっている。
内藤がポンプ小屋の修理に出てから、すでに八時間が過ぎていた。
('A`)「…。」
車の外はもうかなり薄暗くなっていた。
内藤の家に向かう曲がりくねった車道は、非常に運転に気を使う。
少し前までこの道を走るときはドクオは緊張したものだった。
- 27 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/13(火) 20:12:58 ID:kBq5hNZE0
ドクオは一度、免許を取りたての頃に運転を誤って車ごと段々畑に突っ込んだことがあった。
そういえば、あのときはセントジョーンズさんの畑に落ちたんだったっけ。
ちょっとボケてたけどいやな顔もせず、車を引っ張り出すのを手伝ってくれたよな…。
とその場所にさしかかった時、そんなことをドクオはぼんやりと思い出していた。
例の高速道路建設で持ち主が立ち退いたいま、件の段々畑は雑草に隙間なく覆われていた。
内藤の家にたどりつくと、すでにドクオから連絡を受けていたロマネスクが
玄関先に設けられた夕涼み台の上に、横になって待っていた。
彼はドクオの車の音に気がつくと、緩慢に上半身をおこしてドクオを迎えた。
('A`)「お久しぶりです。おじさん」
( ФωФ)「ひさしぶりだね、ドクオくん。わざわざすまないな」
('A`)「いえ、お元気でしたか?」
( ФωФ)「腰はあいかわらずだ、だが畑には毎日でとるよ
今日なんかはイモをとって炊いてあるんだが…」
(;'A`)「それよりもブーンのことなんですが…」
( ФωФ)「あぁ、まあだいじょうぶだよ」
(;'A`)「はあ…。」
- 28 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/13(火) 20:14:25 ID:kBq5hNZE0
- 内藤の父は、息子の置かれた危機的状況にさほど興味を持っていないように口のわきを掻いた。
ドクオはいいかげん、本当にこれが危機的状況なのか疑わしくなってきた。
内藤との電話の後、すぐに状況を説明したのだが、ロマネスクの反応は不可解なものだった。
はじめこそ、いつまでたっても帰ってこない息子を心配してか、おろおろと落ち着かない様子だった。
しかし、円形の場所と伝えたところ心配そうな声色がふっと穏やかになった。
さらに電話口でロマネスクは、今すぐ行きますというドクオに対して
「まあのんびり来なよ、ところで今日は新鮮なアカイカを刺身にしたんだが…」
と、言い放ったのである。
ややあって、ドクオは聞いた。
(;'A`)「おじさんはなにか御存じなんですか?」
( ФωФ)「ホライゾンのいるところの話か?
それは…。まあ…とにかく、あいつはだいじょうぶだよ」
ここでロマネスクは押し黙ってしまった。眉にしわが寄っている。
しまった、つっこみすぎたかとドクオは胸中で舌打ちした。
ロマネスクはこうなるとテコでもしゃべらない、ということをドクオは知っていた。
しばらくして、ロマネスクは思い出したように
( ФωФ)「きょうは晩ごはんはどうせまだだろ?うちで食べてきな」
と、のんびりと言った。
- 29 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/13(火) 20:15:11 ID:kBq5hNZE0
- ドクオはなんだか、急に気が抜けてしまった。
まったく、呑気にもほどがあるんじゃないか?ブーンは相当びびってたんだぞ…?
ここまで言うのなら、内藤は少なくとも晩飯を食い終わるころまでは無事なんだろう…。
それにおじさん、なにも教えてくれそうにないしなぁ…。
まぁおじさんが事情を知ってるならおれの出る幕もないか?
ここまで考えて、ドクオはついに腹を決めた。
('A`)「晩ごはんいただいてきます」
( ФωФ)「ありがとう、わたしもいつもホライゾンとじゃつまらないからな」
('A`)「俺も誰かと食事するのはひさしぶりです」
( ФωФ)「では今日は淋しいもの同士というわけだ
今日はのむぞ、ドクオくん!」
('A`)「……イカでね」
(*ФωФ)「そうだな!だはははは!」
かくして内藤ホライゾンは、しばらく放置プレイをくらうことになった。
- 30 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/13(火) 20:16:38 ID:kBq5hNZE0
*―――――*
(;-ω-)「うう…。」
その 内藤がようやく気がついたのは、午後7時頃だった。
といっても、内藤には時刻を知る術はなかった。
内藤の携帯電話は内藤が外に置き去りにしたナップサックの中にあった。
時刻を知る方法だけでなく、連絡手段さえ失ってしまったわけである。
……がしかし内藤にとって、それはもはや遠い日常に関わる瑣末な問題にすぎなかった。
この時、内藤はもっと直接的な問題に直面していた。
(・(ェ)・)「……ブググ」
( ゚ω゚)(ええええええええ!!!1!!!)
あの忌まわしい熊が、目覚めた自分の視界内にまだいたのである。
廊下の中ほどに丸くなっている熊は大きさからいっても、出会った場所からしても
夕方に内藤が遭遇したのと同じ熊であることはほぼ間違いなかった。
しかも、ぼんやりと窓からさす月明かりしか明かりがないうえに、
熊のまっくろな顔ゆえに判然としなかったが……おそらく内藤の方を凝視していた。
( ・(ェ)・ )
( ゚ω゚)(こっちみんな、っていうか鍵まで掛けたのになんで入ってきてるんだお!!!)
玄関ドアが開いているのか、内藤の足もとから冷たい風が吹いていた。
しかしうつぶせに倒れたままの内藤には、それを確認することはできなかった。
- 32 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/13(火) 20:18:11 ID:kBq5hNZE0
( ゚ω゚)(きっとうごくとやられるお)
( ゚ω゚)(あいつが僕に興味を失うまでじっと耐えなくちゃだお…)
そして、それからの内藤にとって永遠とも思える数分ののち
熊はゆっくりと内藤の方に向かってきた。
ゆっくりと、ゆっくりと、周りの物の匂いを嗅いだりしながら。
それを視界の端に認めた内藤の心臓は、もはや喉のところにせり上がっていた。
それとは裏腹に、頭の隅では妙に落ち着いている自分がいるのを内藤は感じた。
しかし、その「頭の隅にいる落ち着いた内藤」が何をしているかといえば
情けないことにただ単に辞世の句を練り上げているだけだった。
( -ω-)(ああ、短い人生だったお…トーチャン…カーチャン…。
親不孝者だった僕を許してくれお…。
そして先立つ不孝をお許しください…。
それと、ドクオが無事でありますように)
熊の生温かい吐息が首にかかって、
それにたて続いてどこかに噛みつかれるのを内藤は覚悟していた。
内藤は何かで読んだことがあった。
なにかにかみ殺されるのが殺され方の中で最も苦痛な殺され方だと。
首に来るか、腕に来るか…それとも足だろうか?
いきなり腹に食いつかれたらどんなに苦しいだろう?
鈍い熊の歯に、内臓をすり潰されるのはどんな気分だろうか…。
真っ白な頭で、そんなことを想像しながら一分たち、二分がすぎた。
- 34 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/13(火) 20:19:12 ID:kBq5hNZE0
- 熊は静かに内藤のの背後にまわっていた。
野生の熊ながら、相手に反撃されにくい襲い方を心得ているのだ…。
と、内藤は思った。
が、熊は内藤には目もくれずに内藤の後ろでごそごそしている。
そして内藤は急にぎゅっと閉じた瞼の向こうが急に明るくなったのを感じた。
それに続いて、ばたっ、と玄関ドアがしまった。
それと同時に熊の気配は消えていた。
そのあと、内藤は五分ほどそのまま倒れていたが周囲を確認してゆっくり起きあがった。
体は、長い間の静止状態のせいで棒のように固くなっていた。
(;^ω^)「助かった…お…」
長い緊張の後のぼーっとした頭の中で、内藤はどうして自分が助かったのかが分からないでいた。
「熊には死んだふり」というのは都市伝説だったはずだ。本来、熊は死体もあさって食う動物なのだ。
あの熊の行動はあまりにも奇妙だった。
それに、どうしていきなり電気がついたのかも分からなかった。
内藤はスイッチを探し、それはすぐみつかった。
電灯スイッチについているパイロットランプの光が、玄関ドアのすぐ横に浮かんでいる。
あの熊が電気をつけた?
- 35 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/13(火) 20:21:10 ID:kBq5hNZE0
いやいやいや……そんな訳ないだろう。
内藤は一瞬浮かんだ思いつきを即座に否定する。
いくら何でも、それは無い。
その問題をひとまず無視した内藤は、部屋の様子に目を向けた。
ロッジ外壁とは打って変わって、中は相当新しい時代のものが置かれている。
内藤は放置されてから二十〜三十年と見当をつけていたが、その予想は間違っていたようだ。
ハロゲンヒーターは少なくとも80年代にはなかったはずだ。
そのほかにも室内には様々な時代の色々な調度品が置かれ、
このホールに不釣り合いな、大きいシャンデリアから暖かみのある光が…
煤i;^ω^)「あ"ぁっ?なんでだお?」
そう、照明だ。
電線はこの家にひかれていない――最寄りの電柱までは300mはある。
しかし間違いなく内藤の頭上に輝いているのは白熱電球だ。
(;^ω^)「…。」
内藤は混乱していた。どうもここに来てから何もかも変だ。
ホールに吊られたそこに不似合いなシャンデリア(たぶん電気もなしに光っている)
おかしな結界のようなもの…。
そしてこの奇妙なロッジだ。
(;^ω^)「まったくどうなっちゃったんだお、日本の山奥は。」
そういって内藤は近くに置いてあったソファに腰を下ろした。
- 36 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/13(火) 20:23:15 ID:kBq5hNZE0
内藤が予想していた大量の埃は一切、舞わなかった。
床には薄く埃が積もっているにもかかわらず。
あたかも毎日誰かが、そこにすわって本を読んでいるソファであるかのように……。
(;^ω^)「なんなんだお、ここは……」
内藤は半分は無意識にそういった。
そして、のろのろとロッジの外に出て自分の荷物を取って、エントランスにおいた。
そのとき内藤は、熊の襲撃を毛ほども警戒しなかった。
なにもかも、もうどうでもいい気分だった。
もうあの熊の存在さえ、内藤には現実のものとは思えなかったのだ。
本当に、あの熊は起きた僕を見て電気をつけて、
ドアを閉め、外にそのまま出て行ったのかもしれない。
何かにそうするように言いつけられてそうしたのだ。
でなければ、電気が点いた説明がつかない。
内藤にはそうとしか思えなくなっていた。
あの熊は最初に襲いかかって来た時も、このログハウスに追い込むために
そんなそぶりをして見せただけなのではないのだろうか…。
そんな想像さえ、内藤の頭には浮かんでいた。
- 37 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/13(火) 20:24:09 ID:kBq5hNZE0
内藤はナップサックを取ると同時に、いままでその中に入れておいた携帯をズボンの前ポケットに突っ込んだ。
彼と現実をつないでいるのは、もはやこの小さな機械だけになっていた。
内藤は、ひと時もこれを手放さないと固く心を決めた。
そして、まず内藤はドクオと連絡をとることにした。
外には――夢や幻でなければだが――まだ、あの熊がいるかもしれない。
最初の電話からすぐ、ドクオが内藤の所に向かったとすれば、もうそろそろこの周辺に着く頃だった。
( ^ω^)「顔が若干不自由で、ロリコンなところを除けばドクオは善良な人間だお。」
( ^ω^)「そんな人が熊に食われるなんてあってはいけないお。」
(;^ω^)「山に入る前に電話しとかないと……。」
そうして、ぶつぶついいながら内藤はドクオの携帯に電話した。
しかし、ドクオは電話に出なかった。
ドクオは、時計代わりにしていた携帯をそのまま車内に置き忘れていた。
- 38 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/13(火) 20:25:04 ID:kBq5hNZE0
- その頃のドクオといえば内藤家の外にある物干し場に、
夕涼み台を臨時の野外テーブルとして酒盛りをしていた。
折しもロマネスクと二人で地元の銘酒の「宇宙」をひと瓶やっつけて、
二本目の「大魔王」にとりかかるところだった。
(*ФωФ)「ふはははは!ホントにうまいな!お前らというのはっ!」
と用意したアカイカの大半を自分で平らげながら、
その刺身に話しかけている様子はとても六十を越した人の様子ではなかった。
(*'A`)「ほんとれすね〜、
おれも久しぶりに食いましたよ、こんなうまいイカの刺身なんて…」
普通のイカに比べて濃厚な味のするアカイカには、きりりと冷えた「大魔王」がよく合った。
ドクオもロマネスクに負けじと箸をのばす。
宴もたけなわである。
(*ФωФ)「おうっ!どんどん食ってくれよ〜カツオもある!スルメも焼くぞ〜」
(*'A`)「うおおおおおっ!スルメイカですか!
七輪だ!おれ車から持ってきますよ!」
(*ФωФ)(なんで七輪が車の中に…?)
- 39 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/13(火) 20:26:28 ID:kBq5hNZE0
そうして酒宴の夜はふけていった。
二人が皿の上をほとんど空にして、ドクオの酔いがあらかた醒めたころ
ドクオはすっかりご機嫌になっているロマネスクにあらためて質問した。
(*'A`)「おじさん、ブーンのいるところにはなにがあるんですか?」
ドクオはこれまで、ロマネスクがいい気分になるのを待っていた。
酒好きのロマネスク、こうなると結構、口が軽くなる。
(*ФωФ)「う〜ん?ブーン…?
あぁ、あいつはたぶんマヨイガにいってるんだろう」
(*'A`)「マヨイガ?」
ドクオはその単語がすぐには理解できなかった。
しかし、ドクオは字面を思い浮かべるとある本で読んだ話に思いあたった。
関東、東北に伝わる迷い家伝承である。
だれもいない豪邸に旅人が迷い込む。
そこから不思議な品物を持ち帰り、
しばらくのちに裕福になる。
三行でまとめるとこんな話だ。
- 40 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/13(火) 20:27:59 ID:kBq5hNZE0
(*'A`)「迷い家って東北の方のはなしでしょ?
でもここは、近畿じゃないですか」
(*ФωФ)「君の言ってる迷い家というのは私も知ってるよ。
私の言う『ここのマヨイガ』とは違うんだ
何もかもが違っている」
(*ФωФ)「あそこには、何かしらの引力みたいなものがある。
ただそれに逆らっちゃ絶対に逃げられない」
( ФωФ)「その引力圏から離れるには、ちょっと工夫がいる」
ロマネスクはここで口を切った。
…二人の間に沈黙が流れる。
どうもドクオに考える時間を与えるための沈黙であるようだった。
だが、ドクオは何と言うべきか分からなくなってしまった。
昔話レベルの存在に内藤が捕らわれているらしいというのはわかった。
だがそんなものに捕まった内藤を、しがない公務員の自分がどう助ければいいというのか。
そもそもロマネスクの口ぶりでは内藤一人でもなんとか脱出できそうじゃないか?
と困惑したドクオに対して、ロマネスクはつづけた。
- 41 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/13(火) 20:28:57 ID:kBq5hNZE0
( ФωФ)「まあ私だって出れたんだからあの子にもできるさ。」
('A`;)「はあっ!?おじさんも行ったんですか!?そこに!?」
( ФωФ)「ああ、この集落の人間の男の半数は行くんだ。
一種の通過儀礼のようなものでね。
あるとき、あそこに呼ばれるんだ」
( ФωФ)「たまに帰ってこないものもいるが、そういう人は ち ょ っ と 運が悪いだけだ。
いままでに何人かしかそんなのはいないしな」
('A`;)「まじかよ…」
( ФωФ)「マジよ、マジ。」
ドクオは茫然として話を聞いていた。
こんな山奥に、そんなものがあるとはにわかには信じられないことだし、
さらにロマネスクそこに行くことを少々危険な通過儀礼かなんかとして捉えている。
ドクオにはその事実にそこはかとない不気味さを覚えた。
('A`;)「いったいいつからの話なんですか?
この集落はできてから400年くらいって聞いてますけど」
( ФωФ)「いや、私にもあそこの成立は聞かされていない。
集落と同時にここにあらわれたのかもしれないし、
そんなことは関係なく、ずーっとそこにあるのかもしれない」
あるいは文明の生まれる前から。
ロマネスクはふーっとため息をつくように言った。
- 42 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/13(火) 20:32:52 ID:kBq5hNZE0
( ФωФ)「ドクオくん、私を酔わせてまで聞きたかった話は満足いく内容だったかね?」
('A`;)「ばれてましたか…」
その時、夜の山から強く冷たい風が吹き下ろしてきた。
ドクオにはそれが、山に住む形のない者たちの呼び声のように聞こえた。
- 43 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/13(火) 20:35:23 ID:kBq5hNZE0
二話 終わり
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