( ^ω^)ブーンと円のようです

276 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:31:59 ID:PAGmcZG60
***





***

277 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:32:56 ID:PAGmcZG60

重たいスチールの扉を押し開けると、内藤の目の前に暗闇が広がる。
しばらくその闇に目を凝らしていると、ぼんやりと細長い廊下の姿が浮かび上がってきた。
注意してみると、奥のほうに小さな光が見える。思い返してみると下階への梯子はあの辺りだった気がした。

( 'ω`)「……つかれたお」

廊下に一歩踏み出すと、ひとりでに下の階につながる落とし戸が開いた。
淡く廊下の中が照らされ、モーターが唸りを上げて下階に梯子を降ろしていく。
内藤はその様子を、呆けたように見ていた。

(;^ω^)「これが、話題のオール電化かお」

落とし戸に近寄って下を覗くと、あまりの高さに目が回った。
どうせならエレベーターでも付けてくれればいいのに、と内藤は思う。

( ^ω^)「よいしょ」

そっと梯子の一段目に足を掛ける。
ようやく、地面と再会できる。
そう思うと、無性に嬉しかった。

278 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:33:37 ID:PAGmcZG60

ブーンと円のようです

   第八話

「昼餐はおにぎりで」

279 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:34:20 ID:PAGmcZG60

梯子を降りると、そばのドアからツナギを着た女が出てくる。
内藤は女の顔を見ると、うれしさが腹の底から込み上げてくるのを感じた。
生身の人間と会うというただそれだけのことで、えもいわれぬ安心感があった。

lw´‐ _‐ノv「ご苦労さま。……大丈夫?」

( ^ω^)「おっお」

ちょっと笑って見せようとしたのだが、
内藤は上手く笑い顔を作れたのか分からなかった。
顔の筋肉がひどくこわばっているのを感じた。

lw´‐ _‐ノv「……頑張っただけあって、なかなか見事だったよ。
       うまいことあの子たちに同調できてたし」

( ^ω^)「それは、よかったお」

いつものように言葉がさらさらと流れてこなかった。
疲れているみたいに頭の奥のほうが痺れている。

( ^ω^)「僕は本当に何もしてないお。
       ただ見てただけで……」

lw´‐ _‐ノv「それが紡ぎ手ってやつなのよん。
       聞き役に徹するのも大切な事だってことだよ。それで…」

女が内藤の持っているワンピースに目を落とした。
それから内藤の顔にゆっくり視線を戻す。

lw´‐ _‐ノv「それはもう使った?それどんな感じなの?」

280 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:35:11 ID:PAGmcZG60

内藤は女の言ったことを理解できなかった。
「使う」?使うってどういう事だ?

まさか。

(;^ω^)(女性の衣服を使う……いやいやいや)

(;^ω^)「断じて使ってないお!
       僕はロリコンじゃなくて、大人の女性が好みなんだお!
       Cカップ以上ならなおよし!」

lw´‐ _‐ノv「何言ってんのう?それが例の付加給与なんだけど」

(;^ω^)「はい?」

lw´‐ _‐ノv「まあいいや、ちょい貸してみ?」

( ^ω^)「ああ…うん」

内藤は女にワンピースを渡してやった。
女は受け取ったワンピースの袖をつまんで、色々な角度から眺め始める。
服装と相まって、なにやら彼女は鑑定士じみた雰囲気を漂わせていた。

lw´‐ _‐ノv「んー何に使うんだろこれ…しかしホコリだらけだな」

(;^ω^)「あ、ごめんだお。
      さっき梯子から降りる前にちょっと叩いたんだけど……」

281 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:35:55 ID:PAGmcZG60
lw´‐ _‐ノv「別に謝らんでも……よっと」

女はホコリを払おうとワンピースを振ったその時だった。
ワンピースが風をはらみ、大きく膨らんだ。
メガホンのように膨らんだ裾のところから、風を吸い込む音が……。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
 ―――――――――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
 ―――――――――あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

lw´‐ _‐ノv

( ゚ω゚)


爆音。
まさに花火工場が間近で爆発したような、とてつもない音がほとばしった。
それはすでに音というよりも、衝撃波のようだった。
事実そうだったのだろう。

次の瞬間、内藤と女の目の前で館の中の物がめちゃくちゃに壊れ始めた。

282 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:36:41 ID:PAGmcZG60

まず近くにあったガラス窓が外側に向かって破裂するように砕け散った。
次に、パンパンとリズムよく天井の電球が内藤たちの近くから順にはじける。
しまいには内藤の目の前に見えていた木の柱におおきな亀裂が走り、そこから埃が舞った。

そして、長い長い叫び声がようやく止んだ頃。
部屋という部屋のドアノブが見計らったように一斉にドアから落ちた。


lw、‐ _‐ノvポトッ

( ゚ω゚)「お…」


不思議と耳鳴りはしなかった。
だが、衝撃のあまり何も言えなかった。
内藤は数歩よろよろと歩き、置いてあった応接セットの椅子にへたりこんだ。

女はといえば、床にアヒル座りしてしまったまま動かない。
それでも彼女は無表情を保ち続けていた、あるいは放心していただけかもしれない。

その間もあちこちで何かが床に落ちたり、ガラスが割れる音が断続的に続いた。
……それは雨上がりの林の中に、さらさらと雫が垂れる音が続くのに似ていた。

283 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:37:38 ID:PAGmcZG60

( ゚ω゚)「…」

目の前の風景がそこにあるのをただ見ていた。
内藤は何も考えられなかった。
自分の存在があり、周囲の世界がその周りに広がっている。
そのことを体が認識しているのみ。

今、内藤に残っているのは感覚だけだった。

少しすると、真っ白な頭に不安感のようなものが浮かんでくる。
それは嘔吐する前の切迫したあの不安感にそっくりだった。
内藤の手が、無意識のうちに口を覆う。

(;゚ω゚)「うぐっ」

立ち上がろうと肘掛けに手を付いたが、手に力が入らない。
無理に立とうと体を捻った内藤は、バランスを崩して床へと倒れこんだ。
……今度は、そのまま立てなくなってしまった。

どのくらい二人でそうしていただろうか。
玄関から荒巻が姿を現したころには、屋敷の中は静かになっていた。
古めかしいスーツを着込んだ彼は、一昔前の教員のように見える。

/ ,' 3「あれ、どうしたんですかみなさん」

(  ω )「おーん…」

284 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:38:20 ID:PAGmcZG60

長閑な口調だった。
荒れた室内を気にも留めず、
老人は真っ先に女が持ったままの黄色い布地に目を止めた。

lw´;‐ _‐ノv「……うう」

/ ,' 3「おーおー、これですか」

女の落としたワンピースを拾い上げると、荒巻はそれをじっと見つめる。
穴が開くほど見つめたあと、彼は女に聞いた。

/ ,' 3「これはあの子達の入れ物だったものですね?」

lw´‐ _‐ノv「……はい」

女がようやく言葉を発した。
彼女はフラフラと立ち上がると、近くの壁に寄りかかった。
ほひー、と耳慣れない音を立てて女の口から空気が漏れる。

/ ,' 3「……これはまた面白いものですね。
    実に楽しいものです」

そう言うと、今度は倒れた内藤に向き直る。
なぜか荒巻は嬉々としていた。

(;^ω^)「お…起こしてくれお」

/ ,' 3「おお、これは失敬。
    ぼおっとしておりました」

285 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:39:00 ID:PAGmcZG60

荒巻は内藤の腕を掴んで引き起こすと、内藤の頭をポンと軽く叩いた。
その途端、叩かれたところから熱が全身を駆け巡った。
血管に熱湯を流し込んだような感覚に内藤は思わず呻く。

(;^ω^)「うげ……」

/ ,' 3「これで立てますよね」

内藤は荒巻が何をしたかは分からなかったが、体に力が戻っていた。
さっきまで萎えていた手の先が熱くなって、その上細かく痙攣している。

(;^ω^)「……スマンコ」

/ ,' 3「ま、お気になさらず」

なんでもない様にそう言うと、荒巻はワンピースをくるくると巻く。
……あの姉妹のものをそんな風にぞんざいに扱われると、内藤は気分が悪かった。

(;^ω^)「いったい…いったい今の爆音はなんなんだお?
       ちょっと人の声みたいだったけど」

/ ,' 3「このワンピースの能力です。
    人の声というか……分かりませんでしたか?」

( ^ω^)「何がだお?」

/ ,' 3「……いえ、なんでもありません」

286 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:39:46 ID:PAGmcZG60

そう言われてみると、さっきの爆音は何か喋っているようにも聞こえた。
だが、あまりにも音が大きすぎて何を言っていたのか内藤にはさっぱり分からなかった。

/ ,' 3「ところで内藤さん。
    気分がすっきりしてはいませんか?」

( ^ω^)「まあ、なんか確かに……確かに悪くない気分だお」

/ ,' 3「そうでしょうそうでしょう。
    これがそのワンピースの、『付加給与』の力です」

彼女たちを救えたとは言え、陰惨な過去を見て気分が少し落ち込んでいた。
しかし内藤は、さっきから妙に清々しい気持ちになってきていた。
大音量を発し、それを聞いたものを朗らかな気分に気分にさせる。

老人の言うことには、それがこのワンピースの力であるらしかった。

(;^ω^)(「付加給与」かお……とんでもないおね)

奇妙なこの場所に慣れつつあった内藤だったが、
現実にまでこんなものが出てくるのを見ると少し恐ろしかった。

……本当に今見ているのは現実なのだろうか、それともまだ。

/ ,' 3「じゃあ、景気づけにもう一回……」

lw´;‐ _‐ノv「え、ちょっ」

(;^ω^)「おまっ…」

287 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:40:49 ID:PAGmcZG60

内藤の思考を、荒巻が老人独特の無遠慮さでぶった切った。
女が慌てて荒巻を制止しようとするがもう遅かった。
荒巻の手にしたワンピースが小さく振られ……。

「うおおおおおおおお!」

(;^ω^)「お?」

lw´‐ _‐ノv「……あれ」

さっきとは違い、そんなに大きな音はしなかった。
内藤と女は、拍子抜けしたような顔で顔を見合わせる。
それから、女は内藤に向かって小さく笑って見せる。

内藤は初めて、彼女がそんな表情をしたのを見た。

/ ,' 3「大きく振れば大きな音、小さく振れば小さな音。
    まあ、簡単な話です」

lw´‐ _‐ノv「脅かすんじゃねえよクソジジイ」

/ ,' 3「いやあ、すみませんな」

悪びれた様子もなくそう言うと、
老人はそのワンピースを改めて折りたたんでから女に渡した。
さっき適当に丸めた仕草とは正反対の、妙に丁寧な動きだった。

288 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:41:29 ID:PAGmcZG60

( ^ω^)「……?」

/ ,' 3「少し汚れているようですし、洗濯しておいてください。
    きっとその方が元の持ち主の方たちも喜ぶでしょうし」

lw´‐ _‐ノv「……あいよ」

(;^ω^)「あ、そうだお」

内藤は、ワンピースを手にどこかへ歩き去って行こうとした女を呼び止めた。
頼んでおかなくてはいけないことがあった。

( ^ω^)「君は…裁縫は出来るかお?」

lw´‐ _‐ノv「ん?わたし?出来るにはできるけど」

( ^ω^)「じゃあ、お願いがあるお。
       これなんだけど」

内藤がポケットから、小さな布片を取り出す。
女は最初、不審そうに布片をみていたが、何かに気がついたように内藤からそれを受け取った。

( ^ω^)「これを、糸で襟のところにつけておいて欲しいんだお」

lw´‐ _‐ノv「……これは、例の。
       お姉ちゃんが持ってた奴か」

(;^ω^)「なんでそれを知ってるんだお」

289 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:42:13 ID:PAGmcZG60

lw´‐ _‐ノv「見てたからね」

女は得意げに、眉をうごめかして見せる。
呆気にとられた内藤は、どういう意味かもう一度良く考えてみる。
だが、やはりそういう意味にしか取れない。

女は、内藤と姉妹のやりとりの一部始終を見ていたのだ。

(;^ω^)「どうしてだお」

lw´‐ _‐ノv「不思議な機械で脳内スキャン」

(;^ω^)「はぁ?」

lw´‐ _‐ノv「あー、えっとね……うん、説明するのが面倒だ。
       実際見たほうが早いよ、ついてきて。
       いいよね、クッソジジイ?」

/ ,' 3「かまいませんよ」

(;^ω^)「……なんだお」

女は、さっき出てきたドアを蹴飛ばして開けると中へと消える。
内藤がその場でまごついていると、中で女が「かむいーん!」と叫んだ。

290 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:42:54 ID:PAGmcZG60

(;^ω^)「おじゃましますお」

lw´‐ _‐ノv「ん、じゃあこっちにちょっと寄って」

何かの事務スペースとファンシーな趣味の家具。そして、壁に大量に飾られた絵画。
……それらがわずか八畳の中に渾然一体となっていて、妙な圧迫感がある部屋だった。
だが腐っても女性の部屋なのか、ちょっといい匂いが漂っている。

内藤は、そのうちの事務スペースの方にいる女のところまでそろそろと歩く。
女性の部屋に男やもめが入っていくのは、いくつになっても抵抗があった。

lw´‐ _‐ノv「では、画面にご注目」

(;^ω^)「おk」

ズタ袋から女がノートパソコンを取り出し、画面が内藤にも見えるようにデスクに置いた。

それから女は見慣れないアイコンをクリックして、何かのソフトを起動した。
内藤にはそれが、動画プレイヤーかなにかのように見える。
女が「城山から櫓」というファイルをひらくと、見覚えのある場所が画面に映し出された。

『ノハ*゚听)「―――――――」

(;^ω^)「―――――――――」』

(;^ω^)「あ」

291 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:43:42 ID:PAGmcZG60

lw´‐ _‐ノv「これが、あなたから抽出した映像ね。
       びっくりした?」

(;^ω^)「ああ、まあ」

城山で目を開けたときの視界そのままの映像が流れている。
少し前の自分の視界を、画面上でもう一度見るというのは新鮮だった。
もっとも、もう大抵のことなら内藤は驚かないのだが。

lw´‐ _‐ノv「かあいいよなこの子。
       こんな妹がほしいもんだ……」

(;^ω^)「そ、そうかお」

女がテレビでも見ているように呟く。
それを聞いた内藤は、どうしてか妙に恥ずかしかった。

少しして、画面上の映像は大きく揺れた。
内藤が地震に驚き、火の見櫓に向かって走りだしたからだ。
そこで女が再生を止め、ぷちっと映像が途切れる。

292 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:44:46 ID:PAGmcZG60

lw´‐ _‐ノv「……こんな感じにモニターしてたってこと。
       まあ、リアルタイムではなかったんだけどね。
       いちいち、あなたの頭から映像を引っ張ってこなくちゃいけないから」

(;^ω^)「じゃあ、脳内スキャンって実際に僕の頭の中を覗いてたって事かお」

lw´‐ _‐ノv「そうですね」

(;^ω^)「あぶない技術だお……」

画面上に表示されているファイルは、シーンごとに分割されているようだった。
「城山から櫓へ」の次は「二人で歩く」が続き、最後のファイル名は「花びら」になっている。

そのときふと、あるファイル群が内藤の目に止まった。
「バグ1」「バグ2」……と他と異質なファイル名のものがある。

( ^ω^)「その、バグってなんだお」

lw´‐ _‐ノv「んあ?これ?これはねぇ」

そう言いながら、女が「バグ67」と「姉のもとへ」を二つのウインドウで同時に再生する。
画面には、ペニサスのもとへ向かう内藤とヒートの姿が二つ映しだされた。

293 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:45:33 ID:PAGmcZG60

―――――――――
―――――――――
―――――――――


( ^ω^)「―――――――――」 ( ^ω^)「―――――――――」    

ノハ*゚听)「―――――――――」 ノハ*゚听)「―――――――――」

「―――――――――」        「―――――――――」


(;^ω^)ノハ;゚听)「―――――――――」  (;^ω^)ノハ;゚听)「―――――――――」
 
―――――――――               ―――――――――

ミセ*゚益゚)リ「―――――――――」         ミセ*゚ー゚)リ「―――――――――」

(;^ω^)(―――――――――)        (;^ω^)(―――――――――)


―――――――――                ―――――――――
―――――――――                ―――――――――』
 
(;^ω^)「なっ」 

lw´‐ _‐ノv「もともとあなたが見てたのが左、『バグ67』だね。
       それを修正したものが右。」

294 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:47:40 ID:PAGmcZG60

内藤が記憶の中で見た醜女が、修正後の映像ではなかなかの美人に変わっていた。
変わっていないのは髪型と輪郭ぐらいで、顔のパーツがほとんどすげ替わっている。

lw´‐ _‐ノv「あー……彼女は伊藤ミセリさん。
       伊藤ペニサスの孫で、今は役所に勤めてるみたいね」

(;^ω^)「一体、なんなんだおこれ」

lw´‐ _‐ノv「……記憶ってのはすぐ歪むんだこれが。
       記憶の持ち主の都合のいいようにね。
       たとえ真実と異なることでも、本人の強い感情と思い込みで歪曲するの」

(;^ω^)「だからって、どうしてこんな豚がでらべっぴんになるんだお」

画面は、二人のミセリという女性が伊藤家の玄関に立っているところで停止している。
内藤は二つの画面を何度も見比べた。

lw´‐ _‐ノv「……正確には、美人が豚になったんだよ。
       現実では、ミセリさんは綺麗な人なんだ」

(;^ω^)「え?」

lw´‐ _‐ノv「ペニサスが言ってたでしょう?
       『孫は私を放って遊びに……』って。
       動けない自分を差し置いて青春を謳歌する孫」

lw´‐ _‐ノv「肉親であっても、嫉妬や怒りが募っていったんでしょうね。
       ……そして最後にはこうして心といっしょに、記憶まで捻くれてしまった」

295 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:48:39 ID:PAGmcZG60

( ^ω^)「もしかして、君も『仕事』かお」

lw´‐ _‐ノv「そのとおりだ、ワトソンくん」

彼女は内藤の言葉に、ニヤリとして応じた。
ここの仕組みが分かってきたじゃないか、とでも言わんばかりに。

lw´‐ _‐ノv「バグを分離してここに蓄積されてる記憶を使って修正版を作って……。
       それを組み合わせて一本の映像を作るの」

( ^ω^)「なんて言うんだろう、テレビかなんかの編集さんみたいだおね」

lw´‐ _‐ノv「ディレクターと呼んでくれたまえよ」

しばらく女は画面を眺めていたが、ちいさくため息をついてパタンとノートを閉じた。
記憶の編集作業というのは、どうも大変な作業であるらしい。
でも、内藤にはどうしてそんな事をする必要が有るのかさっぱりわからない。

lw´‐ _‐ノv「そろそろ米……もとい飯にしようか。
       もうとっくに昼だし」

( ^ω^)「お」

女は小さく伸びをしてから席を立つ。
しかし入り口の扉に手をかけてから、やおら内藤の方を振り返った。
髪が、女の肩の上で踊る。

296 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:49:21 ID:PAGmcZG60

lw´‐ _‐ノv「そうそう、忘れてたわ」

( ^ω^)「なんだお?」

lw´*‐ _‐ノv「私は砂尾シュールといいます、気軽にシューでいいです。
       これからよろしくね、内藤さん」

( ^ω^)「……お、よろしくだお。シュー」

彼女は花が咲いたように笑ってそう言ってから、扉をくぐった。
……なんだ、そんな顔も出来るんじゃないか。
内藤はふっ、と笑ってしまってからはっとした。

ニヤニヤしてるんじゃないぞこの助平親父め。
両頬を強めに叩き、内藤はあわてて自分の顔を引き締めた。

297 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:50:03 ID:PAGmcZG60

*―――――*


lw´‐ _‐ノv「じゃあ、ここが食堂になるから。
       食事はここで。
       さて、さっぱりと塩握りでもしようかね」

シューに案内されて、食堂に入る。
食堂とは言っても、キッチンと六人がけ位のテーブルがあるだけのこじんまりとした空間だった。
流しの窓から差し込む陽光がシューの頬に当たって、内藤には少し眩しかった。

lw´‐ _‐ノv「じゃあ、出来たら呼ぶから部屋で時間潰してて。
       まあ昼だし適当にするからすぐだけど」

( ^ω^)「いや、作らせてばっかじゃ悪いお。
       僕も手伝うお」

lw´‐ _‐ノv「わりぃな旦那、ここの厨房は男子禁制でね。
       さ、行った行った」

( ^ω^)「……おん、つれないおね」

lw´‐ _‐ノv「きめえ」

シューに食堂から追い出されると、内藤は部屋に戻るほかなかった。
ホールを通って、ドアの並ぶ廊下に出る。廊下には相変わらずかなりの量のホコリが積もっている。
家具などには塵ひとつ乗っていないのに、床だけが真っ白だ。

……こういう変なことの理由をいちいち考えるのももう面倒だった。

298 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:50:50 ID:PAGmcZG60

( ^ω^)(えっと、どのドアだったかな)

適当にあたりをつけドアノブに手を掛けた瞬間、内藤はぎょっとして手を引っ込めた。
なんでノブがここにあるんだ?

(;^ω^)(!?)

さっき落ちたはずのドアノブが、元の場所に戻っている。
それだけではない、館の中は完全に元通りになっていた。
ガラスは曇り一つなく、電球は普通に天井からぶら下がっている。

欠けているものは何一つない。

(;^ω^)

恐る恐る、ドアノブに触れて右にひねる。
少し金具の軋む音がして、ドアが開く。
向こうにあるのは……どうということはない、内藤が今朝起きた寝床だ。

そこにも、破壊の痕跡はおろかホコリが落ちたあとさえない。
工具箱の上に、今朝出したグリースがそのままになっていた。
何もかが、今朝のままだった。

奇妙な現象を立て続けに体験している内藤ではあったが、
ふいにこういうことに気づいてしまうと心霊現象じみた恐怖感があった。

299 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:51:34 ID:PAGmcZG60

(;^ω^)「……」

部屋の中は、しんと静まり返っている。
恐ろしさに駆られて、内藤はテレビの電源を入れる。
部屋に覆いかぶさっている沈黙にもう耐えられそうになかった。

(;^ω^)(あ、その前に家に連絡しとこうかお)

少し前から、家にいるロマネスクがちゃんとやっているか気にかかっていた。
それに昨日の口ぶりから言って、ロマネスクは何かここのことを知っているようなフシがある。
その事を是非聞いておかなければならなかった。

ベッドに腰を下ろすと、かばんの中にしまってあった携帯を開く。
電池は残り二個になっている。充電器はないので慎重に使わなければいけなかった。
なるべく急いで履歴から自宅の番号を選択しダイアルする。

ロマネスクは直ぐに電話をとった。
電話の向こうの声は、妙に眠たそうだった。

300 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:52:14 ID:PAGmcZG60

( ФωФ)『もしもし』

(;^ω^)「あ、トーチャン!よかった……」

( ФωФ)『良かった?いきなりなんだ』

(;^ω^)「いや、なんでもないお。
       ところで今忙しくないかお?」

( ФωФ)『いや、今ちょうど一仕事終わったところだ。
       どうした?なにかあったか?』

(;^ω^)「何かあったかって。
       もう僕にも何が何だか」

( ФωФ)『もう、そっちの仕事は済んだのか?』

(;^ω^)「あー、とりあえずはまあ」

昨日とは打って変わって、穏やかな口調だった。
普段のロマネスクはこういう温厚な性質の人だ。
昨晩のように電話口に向かって怒鳴るなんて、尋常ではない。

だが、一応「仕事」を終えた内藤にはぼんやりと怒鳴った理由が分かった。
きっとあの怒声は、「覚悟を決めろ」ということだったのだろう。

301 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:53:22 ID:PAGmcZG60

( ФωФ)『そうか、じゃああの部屋を見たんだな。
       あの白い……』

内藤の脳裏に、館の二階で見た広い部屋の光景がフラッシュバックする。
どこまでも続く、白い回廊と灰色のキャビネットの森。

( ^ω^)「見たお。
       ……トーチャンもやっぱり、ここに?」

( ФωФ)『そうだ、おれの時は今のお前よりだいぶ若かったがね』

懐かしいな、とロマネスクは言った。

( ФωФ)『きついだろ、そこの仕事は』

(;^ω^)「きついってもんじゃないお……。
       マジで一回死んだというか」

(*ФωФ)『ぶっ!いきなりか!』

(;^ω^)「ちょwwww笑うとこじゃないお!」

(*ФωФ)『いやwwwでも初っ端から死ぬとかwwww
       なかなかいないぞwww
       おれのトーチャンぐらいだぞww一回目で死んだのwww』

302 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:54:14 ID:PAGmcZG60

(;^ω^)「爺ちゃんも来てたのかお」

(*ФωФ)『あー、お前と一緒で抜けてるところがあったからな』

ロマネスクはしばらく一人で笑い続けた。
それにつられて、内藤も力なく笑った。
ロマネスクは笑い止んでから、少し真剣な調子に戻る。

( ФωФ)『でも分かっただろう?一人で何とかしなくちゃいけないというのも』

( ^ω^)「うん、でも何とかなりそうだお。
       世話してくれる人もいるし」

( ФωФ)『ああ、荒巻さんか?
       基本的にあの人はいい人だし……』
  _, ,_
(;^ω^)「荒巻?」

内藤は、聞き違いかと思って思わず聞き返した。
あいつはそんな昔からここにいるのか?

( ФωФ)『ああ、爺ちゃんも世話になったし。
       というかかなり前からあの人がそこを管理してる』

(;^ω^)「爺ちゃんって……。
       あの人何歳なんだお?80後半くらいみたいだけど」

303 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:54:55 ID:PAGmcZG60

( ФωФ)『ん?まさかお前そこで散々変なモノを見てきて、
       未だにわかってないのか?
       あの人は……こういう言い方だとちょいと語弊があるが……』

( ФωФ)『あの人は人間じゃない』

(;^ω^)「え?」

( ФωФ)『おいおい、しっかりしないか。
       お前もやられただろ?』

( ^ω^)「やられたって……」

内藤は昨晩のことを思い出す。
納屋のようなところで待ち受けていた荒巻が何をしたのか。
いや、自分に何を見せたのか。

突然、昨日の夜のことが鮮明に頭の中に蘇ってくる。
起き抜けの時は頭がぼんやりして上手く思い出せなかった記憶だ。
それと同時に、胸がつまったような感情が沸き上がった。

感情を押し殺しているときのような
怒りとも悲しみとも違う、漠然とした暗い気持ち。
今朝、起きたときに感じた奇妙な感覚だった。

304 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:55:42 ID:PAGmcZG60

(;^ω^)「そう、だったお。
       僕も見せられたお、あいつに」

( ФωФ)『あんな事が出来る奴が人間なわけがないだろう?』

(;^ω^)「確かにそう言われればそうだおね」

なぜ、いままで自分はあの不可思議な老人のことを素直に人間だと思っていたのか?
いや、それも無理からぬ事だ。と内藤は結論する。
人間以外のもので、喋ったり歩いたりするものにいままで自分は触れたことがないのだ。

だから目の前に人間の姿があれば、人間であると信じる。それは常識であり、正常な思考だ。
初対面の人を「こいつは人間ではないかもしれない」などと疑ってかかるのは、
モルダー捜査官か頭のおかしい人間くらいのものだろう。

( ФωФ)『まあ悪い人じゃないから、何かあったらあの人を頼りなさい。
       大抵のことは解決してくれる』

(;^ω^)「おん」

ロマネスクはやけに荒巻を信頼していた。
内藤の中で荒巻は依然得体のしれない存在ではあったが、
父親は太鼓判を押して「いい人だ」と言う。

内藤の心中は荒巻を信じてみようか、という方向に傾きつつあった。
その時だった。

「おーい!ないとー!できたぞー!」

( ^ω^)「お」

305 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:56:23 ID:PAGmcZG60

( ФωФ)『どうした?』

( ^ω^)「これから昼なんだお」

シューが呼んでいた。
立ち上がって空きっぱなしの扉の向こうへ、今行く、と声を張り上げた。

( ^ω^)「じゃあ、いろいろありがとだお。
       なんとか僕なりに頑張ってみるお」

( ФωФ)『……その意気だ、じゃあな』

( ^ω^)「あ、そうだ」

内藤はもう一つロマネスクに質問したいことがあった。

( ^ω^)「トーチャン、シューもここにずっといるのかお?」

( ФωФ)『シュー?』

( ^ω^)「あー、ツナギを着た女の子でなんか変な……」

(;ФωФ)『ちょっと待て、女がいるのか?』

306 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:57:09 ID:PAGmcZG60

(;^ω^)「え……昔はいなかったのかお?」

(;ФωФ)『……』

ロマネスクはそれきり黙ってしまった。
シューの存在は絶句するほど驚くことなのか。
内藤は荒巻に対する反応との差に逆に驚かされる。

(;^ω^)「トーチャン?」

(;ФωФ)『……そういうことか』

(;^ω^)「なにがだお」

(;ФωФ)『いや、なんでもない。
       じゃあ切るぞ』

(;^ω^)「ちょ」

307 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:58:00 ID:PAGmcZG60

唐突に電話が切れる。
ロマネスクは明らかに動揺していた。何も無いわけがなかった。
……これで本当になんでもなかったら一体なんだというのだ。

(;^ω^)(トーチャン…どうしたんだお)

内藤はもう一度かけ直して問いただそうかとも思ったが、
今はシューからも呼ばれている。
ひとまずは腹ごしらえをしてからにすることにした。

内藤はポケットに携帯をしまうと、食堂に戻った。

( ^ω^)「ん?」

食堂の扉を開けようとした内藤は、またしてもドアを開ける前に慌てて手を引っ込めた。
今度はドアノブがどうの、という騒ぎではない。

食堂のドアには、船室風に丸くガラスが嵌めこんであって中が見えているのだが、
――そこからテーブルに忌まわしい先客がいるのが見えた。

(・(エ)・)モグモグ

( ゚ω゚)

その先客は全身が真っ黒な毛に覆われ、口元には輝くような白い牙が見える。
外で追いかけられ、中では死ぬほどビビらされたあの熊だった。
位置的に口の周りしか見えないのだが、熊は何かを咀嚼しているように見えた。

308 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:58:45 ID:PAGmcZG60

(;゚ω゚)「ちょっと待てお!」

lw´‐ _‐ノv「なによ」

(・(エ)・)「クマー?」

(;゚ω゚)「何がじゃないお!なんなんだおこれは!」

lw´‐ _‐ノv「……えっ?マジメに分からないんだけど」

(;゚ω゚)「だから……!」

内藤は熊を指差し、口角泡を飛ばしながら奥にいるシューに叫ぶ。

(;゚ω゚)「どうしてコイツが椅子に座って豆腐のお味噌汁を箸でもそもそ食ってんだお!」

(・(エ)・)「……」ズズッ

lw´‐ _‐ノv「あー」

シューが納得したような顔をしてポンと手を叩いた。

lw´‐ _‐ノv「……豆腐が嫌いなのね」

(;゚ω゚)「いやいやいや!そーじゃなくて!!」

309 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 02:59:36 ID:PAGmcZG60

lw´‐ _‐ノv「あーもう、うるさいよ。
       食事中にうるさくされると…ねえ?」

(・(エ)・)ガタッ

(;゚ω゚)「ひっ」

シューが呆れ顔で熊に聞くと、箸をおいた熊がいきなり立ち上がった。
そして両手を体の横で垂らす、あの独特の立ち姿をして見せる。
狭い食堂の中で立つと彼(もしくは彼女)はツキノワグマだったが、グリズリーのように見えた。

lw´‐ _‐ノv「とにかく、二人とも座ってよ。
       冷めちゃうからさ」

(・(エ)・)「……」

(;^ω^)「……わ、わかったお」

これ以上騒ぐと何をされるかわからなかった。
内藤が音を立てないようにゆっくりと席に着くと、やがて熊も静かに腰を下ろす。
おおきな図体に似合わず、やわらかな所作だった。

テーブルの上を見ると大きめのおにぎり二つと、汁椀、それに沢庵が乗っていた。
……昼餐にしてもあまりにも質素だった。
しかし、内藤はそれを気にするどころではない。

310 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:00:17 ID:PAGmcZG60

(;^ω^)「……」

(・(エ)・)モシャモシャ

両者にらみ合い……というわけではなかった。熊は内藤の視線を意に介さず、
のんびりとご飯を口に運び、ときたま思い出したように沢庵の皿に手(足?)を伸ばした。
そのたびにビクっと内藤は身を震わせた。

lw´‐ _‐ノv「食べ終わったら皿は自分で下げろよ〜」

(・(エ)・)モソモソ

(;^ω^)「あ、うん……」

シューの声もまともに内藤の耳には入っていなかった。
この局面をどうやって切り抜けるか。内藤の頭はそれでいっぱいだった。

(;^ω^)(自分の部屋で食べるって席をたてば……いやもし失礼だと思われたらまずいお)

(;^ω^)(……急いで食っちゃうしかないかお!)

内藤は覚悟を決めると、おにぎりを引っつかんでそれにかじりついた。
薄くもなく、しょっぱくもない。米も実にいい具合に炊けていた。
しかし、それを味わう余裕はない。直ちに味噌汁で口に入った分を流しこむ。

それが済んだら、またおにぎりに食いついて……。

311 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:01:10 ID:PAGmcZG60

(;゚ω゚)「ハムッ、ハフハフ、ハフッ!! 」

(・(エ)・)コリコリ

lw´‐ _‐ノv「……きめえ」

熊が沢庵をかじる音と、内藤の荒い息遣いが入り交じって食堂は混沌とした雰囲気に包まれる。
シューはといえば、味噌汁の入っていた鍋を流しで洗っていた。
内藤は、熊に対してなんの注意も払っていない彼女を半ば信じられないような気持ちで見ていた。

そうしてしばらく経ち、内藤が二個目のおにぎりの最後の一口を飲み込もうとした時だった。

(・(エ)・)「クママ」

lw´‐ _‐ノv「ん、お粗末さまでした」

(;^ω^)「ふぉ?」

食事を終えた熊は食器を重ねてから、椅子から床にとてっと前足から着地する。
そして、そのままドアを開けて出ていった。丸いドアノブを両手でひねる姿は少し可愛くさえあった。
後ろ足で蹴ってドアを閉めたのはいただけなかったが。

(;^ω^)「……あの熊、なんなんだお」

ごくっと口に残った最後の塊を飲み下すと、内藤の全身からは力が抜けてしまった。
お茶に手を伸ばすと、すっかり冷えてしまっていた。

312 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:01:50 ID:PAGmcZG60

lw´‐ _‐ノv「いい子だよ、ちょっと獣臭がするのが玉に瑕のかわいこちゃんさ」

洗い物を終えたシューが内藤の向かいの席に座って、
今度はどこかからだしてきたサヤエンドウの筋を取り始めた。
彼女はテーブルの上に太く黒い毛が散らばっているのを見つけると、左手でそれを払い落とす。

( ^ω^)「いい子でも食われちゃかなわんお」

lw´‐ _‐ノv「人は襲わないよ。
       外で毛玉みたいのを食べてるのは見たことあるけど」

( ^ω^)「毛玉?」

lw´‐ _‐ノv「まあ、とにかく平気だよ。
       今みたいに怖がってると落ち込むから……仲良くしてやって」

(;^ω^)「勘弁してくれお……」(落ち込むのかお)

内藤は、自分があの熊と遊んでいる様子を想像してみた。
鬼ごっこ、かくれんぼ、腕相撲、キャッチボール……。
内藤の脳内ではそのすべてがスプラッタな結末に終わった。

313 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:02:30 ID:PAGmcZG60

lw´‐ _‐ノv「普通にしてればいいの」

(;^ω^)「そういうことなら、まあわかったお」

lw´‐ _‐ノv「ありがと、ああ見えてナイーブだから」

( ^ω^)「……じゃあ、僕は部屋に戻るお」

lw´‐ _‐ノv「ごゆっくり〜」

またあいつに戻ってこられても困るので、内藤は食器を流しの中に置くと、
さっさと食堂からお暇することにした。
念のためドアの覗き穴から外を確認したが、熊の姿はない。

lw´‐ _‐ノv「あ、ちょっと待ったいい忘れてたことが」

( ^ω^)「……いまがチャンスなんだから呼び止めないでくれお」

lw´;‐ _‐ノv「チャンス?どうでもいいけど夕方にもう一回仕事あるから。
        それに備えておいてね」

(;^ω^)「え?またやるのかお」

一日に二回もやるなんて初耳だった。

lw´‐ _‐ノv「……三食飯付き、宿泊料無料。
       そのサービスがたった3時間程度の労働で提供されるとでも?」

(;^ω^)「シビアだおね」

314 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:03:10 ID:PAGmcZG60

lw´‐ _‐ノv「たりめーよ」

(;^ω^)「はは、当たり前かお」

内藤はそう言って笑う彼女を見て、ため息混じりに苦笑する。
でも今は、とにかく「仕事」続けていくしかない。
それがここから出る唯一の方法ならば。

( ^ω^)(仕方ないおね…もう一丁、やってやるお)

内藤は昼餐で逆に消耗した気力を振り絞って奮い立った。
……次の記憶もしっかり紡いでやる。
そう腹の中で呟くと、今はひとまず部屋へと戻っていった。

315 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:03:51 ID:PAGmcZG60

――――――――――――――――――
―――――――――
―――――
――


私が家に入るなり、妻が慌てて玄関に飛び出してくる。
その顔には生気がなく真っ青で、まさに幽霊のよう……。

J(;'ー`)し「あなた!……ああデレちゃん!
      ……良かった」

ζ(゚ー゚*ζ「おばあちゃんどうしたの?」

その場で彼女は膝からへなへなと崩折れる。
デレはなにがあったのか覚えていないので不思議そうな顔をしている。
まったくおおげさな奴め。

私の頬が少し緩む。

( ФωФ)「もう大丈夫だ。
       ガイロはちゃんと潰しておいた」

J(;'ー`)し「あーよかった〜……本当にどうなることかと」

ゆっくり息を吐きながら框に腰掛け、その隣にデレを座らせる。
騒ぎを聞いてツンも奥からすっ飛んでくる。

316 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:04:34 ID:PAGmcZG60

ξ;゚听)ξ「デレっ!大丈夫なの!」

ツンが娘を抱きしめる。
背中を掴む手にはぎゅっと力が入っていた。
何も知らないデレは、それでもただならぬ雰囲気を感じて、
母親の腕の中で身を硬くしていた。

ζ(゚ー゚*ζ「……本当にみんなどうしたの?」

( ФωФ)「山に近づきすぎたせいで、悪い奴にさらわれたんだ」

ξ;;)ξ「本当に、本当によかった……」

涙するツンにつられて、妻が鼻をすすった。
玄関にはツンがしゃくりあげる声だけが大きく聞こえる。

( ФωФ)(しかし妙だ。
       ここ2カ月でもう六匹目になるぞ)

山に潜み、人間の霊魂を自分の周囲に纏う物の怪。彼らは「ガイロ」と呼ばれている。
狐狸の類とも妖怪とも判然としない彼らだが、めったに人前には姿を表さない。
それも数年に一度現れるか現れないかという程度だったが、最近はやたらと見かける。

生きている人間なら彼らなど恐るるに足らないが、
死者は彼らに魅入られたら、ほぼ確実に取り込まれてしまう。

317 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:05:17 ID:PAGmcZG60

J( 'ー`)し「もう、家の外には出さないほうがいいかもしれないね……。
      デレちゃんには可哀想だけど」

ζ(゚、゚*ζ「えー!やだよそんなの!」

デレが不満そうに頬をふくらませて見せる。かわいい。
……だが私がにやけそうになった瞬間、ツンが絶叫した。

ξ;;)ξ「ワガママ言わないの!!
      もう帰って来れなかったかもしれないんだよ!?
      デレはそれでいいの!?ねえ!!」

( ФωФ)「ツンちゃん……おちつ)ry

J( 'ー`)し「ツンちゃん、気持ちは分かるけど落ち着いてちょうだい。
      ……デレちゃんは何も覚えてないんだから、しょうがないわよ」

(´ФωФ)

私を押しのけるようにして、妻が割って入ってきた。
さらに私がなにか言おうとすると、わたしに任せておいて、みたいな手振りをしてみせた。
これ以上、私が何を言っても仕方なさそうだった。女のことは女にということか?

( ФωФ)「ふう」

仕方ないので、部屋に下がってゆっくりすることにする。
……今日はさすがに疲れてしまった。
料理、洗濯、化け物退治とくればどんな爺さんでも疲れるというものだ。

それに指輪の力も、もう時間切れという頃だった。

318 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:05:58 ID:PAGmcZG60

( ФωФ)「……」

適当に布団をしいて、その上に横になった。
それから、少し服を緩めると人差し指にはめた指輪に指を添える。
午後の淡い光を受けて、嵌っている石が赤く光った。

いつも、外すときはついつい躊躇してしまう。
粘着テープと同じであることは分かっている。
ゆっくり外そうが、一気に外そうが痛みの総量は全く変わらない。

私は深呼吸のあとで、指輪を外し枕元に置いた。

(; ω )(ぐっ…!)

指から指輪がはなれた瞬間、腰を中心にして痛みが体に戻ってくる。
鈍痛が質量のある雲のように腰から広がり、全身に広がっていく。
そうして薄まった痛みは気だるさへと変わり、その倦怠感は私をその場に縫いつけた。

(;ФωФ)「いてててて……」

指輪から得ていた活力を失うと、私はいつも自分が老人であることを意識させられる。
今日は無理をした分、余計にダメージを受けたのだろう。
全身の関節が動かすたびにキリキリと痛んだ。

(;ФωФ)「ふーっ」

319 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:06:40 ID:PAGmcZG60

まったく、この指輪が無ければまともに生活も出来ない体が疎ましい。
少し前に重度の椎間板ヘルニアを患って以来、こんな毎日が続いていた。
朝、指輪をつけて一通りの仕事を終わらせてからあとは布団に寝たきり。

まったく、どう仕様もない爺になっちまったものだ。
そうやって自嘲しても、あまり気は晴れなかった。
そこに、空いていた襖の隙間から妻がやってくる。

J( 'ー`)し「あなた、大丈夫?」

( ФωФ)「ん?ああ、大丈夫だ。
       ツンちゃんは?」

J( 'ー`)し「うん、今ようやく落ち着いたところよ。
      いまテレビのところでのんびりしてる」

( ФωФ)「そうか、なら良かった」

こいつは昔から、子供をあやすのがうまかったっけなあ。
まあ、ツンはもう三十路になろうかという歳なのだが。

J( 'ー`)し「腰、さすろうか」

( ФωФ)「いや、構わんよ。
       ……最近は触れられるだけで痛くてかなわん」

私がそう言った瞬間、妻が目を丸くする。
ああ、しまった。

320 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:07:21 ID:PAGmcZG60

J( 'ー`)し「……前より酷くなってるじゃない。
      あなたこの前『もうだいぶ良くなった』って」

(;ФωФ)「あ、いや、今日は痛み止めを飲み忘れてだな」

J( 'ー`)し「分りやすすぎよ。あなた」

(;ФωФ)「……しまったな」

妻にはやはり隠し事はできないようだ。
……私は医者に最近かかっていない。
いや最近どころか、ヘルニアだと分かって以来医者には行っていない。

J( 'ー`)し「いつから、行ってないのかしら?」

(;ФωФ)「行ってないんだ、一度も」

妻の顔を直視するのが気まずかったが、反対側に寝返りを打つのもしんどかった。
そのせいで、どんどん呆れ顔になる彼女の顔を見続ける事になった。
ようやく寝返りを打てたのは、彼女が完全に渋面を作ってからだった。

J( '-`)し「どうしてまた……まさか面倒くさいからじゃ」

( ФωФ)「……」

(ФωФ )「……最初に行って、まず手術が必要だと言われたんだ」

321 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:08:02 ID:PAGmcZG60

もう、最初から白状するほかなかった。
隠し事を彼女にすると、いつもこうなるのは分かっていたつもりだったが……。
やはり、私という人間は学習能力に難があるようである。

(ФωФ )「それでもって一ヶ月は入院しろと言うんだ。
       だがあの時はお前が死んですぐだったし、あいつもしんどそうだった。
       あいつ一人じゃ田んぼやみかん畑の世話など無理だっただろう」

J( '-`)し 「……確かにあの頃は忙しかったでしょうよ。
       でも、今だったらあの子も一人でやってけるでしょ?
       なんで放置するのよ」

(ФωФ )「いや、一回 期を逃すとどうも医者に会うのが気まずくてな。
       あの医者『今そんな達者に歩けてるのは奇跡ですよ!』
       『すぐに入院して手術してください!』なんて言って驚いてたしな」

(ФωФ )「……奇跡か、まさにその通りだ。
       あの医者は知らずにそう言っていたわけだがね」

J( '-`)し「ちょっとおかしいと思ってたわよ、最近ずっと嵌めてるんですもの」

妻は枕元に置いてある私の指輪をちらりと見て、ため息をついてみせた。

J( 'ー`)し「……でも、懐かしいわね」

(ФωФ )「ああ」

322 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:08:47 ID:PAGmcZG60

赤い石の指輪、私が「円」の中で得た報酬の一つ。
身につけている限り全身に活力を漲らせ、
体の不調もものともせず動けるようになる指輪だ。

使用できる時間に限りがあったし、その力が戻るのにも少し時間がかかる。
だが、奇跡にケチを付けるほど私は恩知らずではない。

それに……。

( ФωФ)「結婚指輪の次に大切な指輪だ。
       なにしろ、私たちを結びつけてくれたんだからな」

J( 'ー`)し「……この人ったら、真顔でそんな事言われても困るじゃない」

( ФωФ)「本当のことを言うのに照れるのもおかしいだろう」

この指輪は最初の仕事で得た、初めての報酬である。
妻と初めて顔を合わせたのは、この指輪を彼女のところに持っていった時のことだった。
まだ、あの時は二人とも二十代に入ったばかりの若者だった。

J( 'ー`)し「あなたったら、ぼろぼろ泣きながら私のところに来て。
      『これぇ、これぇ…』って見せてきたのがこの指輪だったわね」

( ФωФ)「……お前だって泣いてたじゃないか」

J( 'ー`)し「あの記憶、見ていて本当に悲しかったからね」

323 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:09:28 ID:PAGmcZG60

妻の表情がうっすらと暗くなる。
たしかにあれはひどかった。
私が初仕事で見たその記憶は、ある不幸な女のものだった。

あの女が浮かべた死に際の笑顔を、その後何度も夢に見た。

 爪 ー)

数十年が経っても、いまだにあの女から放たれていた悲憤が私の中に残っている。
いまでも、あの女の「私のことを忘れないでね」という言葉が私の耳にはこびり付いていた。
忘れたくても、忘れられるものか。

( ФωФ)「悲しくて悲しくて……。
       本当に頭がおかしくなりそうだった。
       あの時はとにかく、お前の顔が見たくてな」

J( 'ー`)し「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」

(;ФωФ)「あ、いや、自分が現実に戻ってきたんだと実感したかったんだ」

J( 'ー`)し「ふーん」

あの「円」の中で荒巻と、妻と私。
三人で仕事をし、語らい、彼女とは恋に落ちた。
そして彼女と「円」の外へ出てから二人の子どもに恵まれ、私は父になった。

そしていま、私の子が再び「円」の中にいる。
宗教に私は頓着はないのだが、
運命とか、因果というものの存在を実感せざるをえなかった。

324 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:10:11 ID:PAGmcZG60

( ФωФ)「あいつ、うまくやってるかな」

J( 'ー`)し「……心配性ね、あなたも」

その時、枕元に置いてある文机の上の電話が鳴った。
慌てて身を起こそうとして、腰に鈍痛が走る。
指輪を外しているのを忘れるといつもこうだ。

(;ФωФ)「むぐっ……いてて」

J(;'ー`)し「だいじょぶ?」

(;ФωФ)「……すまん、子機取ってくれ」

J(;'ー`)し「……はい」

妻から子機を受け取ると、私は寝転がったまま電話を取った。
多分、息子からだろう。

( ФωФ)「もしもし」

川 ゚ 々゚)『あーもーしもーし、くるうです?』

( ФωФ)「お?ああ、お前か。なんだ?」

関東に働きに出ている娘だった。
てっきり息子の方だと思っていたのでちょっと拍子抜けしてしまった。
あいつが不安になってそろそろ電話して来たのかと思ったのだが。

325 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:10:53 ID:PAGmcZG60

川 ゚ 々゚)『えーっとね、いまね、そっちに向かってるとこ。
      何日かそっちにいてもいい?』

(;ФωФ)「ずいぶん急な話だな」

この子がこうして急にうちに帰ってくると言い出すのは、
大抵は失恋したときか、失業したときかである。
今回も、嫌な予感しかしない。

川 ゚ 々゚)『ごめんねぇ、こっちもちょっといろいろあって……』

(;ФωФ)「今はどこだ?」

川 ゚ 々゚)『んー?いま?名古屋のちょい手前くらいかな。
      八時までにはそっちに着くと思う』

( ФωФ)「それで、今回はどうした?」

そう聞くと、少し口ごもってから……。

川;゚ 々゚)『……わかる?』

( ФωФ)「……わかるよ」

むしろ、私が分からないと本気で思ったのだろうか?
伊達に20年子育てやってきたわけではないのである。

326 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:11:40 ID:PAGmcZG60

川; 々 )『……仕事、やめたんだよね』

( ФωФ)「そうか」

川; 々 )『怒らないの?』

普段、間延びした性格の娘が探るような声音で私に聞いた。


( ФωФ)「私がこういうことで怒ったことがあるか?」

川 ゚ 々゚)『……』

( ФωФ)「……お前の人生なんだから好きにやればいいと言ってるだろう。
       お前は若いし、まだあわてるような時間じゃない」

( ФωФ)「まあ、うちでゆっくり話をしよう。
       お母さんも顔を見ればきっと喜ぶしな」

川 ゚ 々゚)『……そだね。
      そういえばお葬式の時からあんまり帰ってないし』

( ФωФ)「ああ、楽しみにしてるぞ」(主にお母さんがな)

ちらっと妻のほうを見ると、案の定ニコニコしている。
いい機会だし、久しぶりに家族三人で昔話でもしよう。
この子にはそろそろバラしたって平気だろうし。

……くるうの驚く顔が、眼に浮かぶようだ。

327 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:12:22 ID:PAGmcZG60

J( 'ー`)しフフッ

( ФωФ)「ご飯と風呂は用意しておくからな。
       じゃあ、気をつけてこい」

川 ゚ 々゚)『うん……ありがと』

( ФωФ)「ん」

そうして電話が切れると、すこし明るくなった娘の声に夫婦で微笑んだ。
だが、私には同時に少しの不安があった。
くるうは多少性格に難のある子だったが、ここまで世渡りが不器用だとは思わなんだ。

今はまだいいが、あの調子がずっと続くと流石にまずい。
……でも、まあどうしようもなくなったら家でホライゾンみたいに農業でもやればいいか。
そう考えてしまう私は楽観的すぎるだろうか?

すこし考え込んでしまった私の横で、妻はなにやらニヤニヤしていた。

J(*'ー`)し「ふふふ……」

(;ФωФ)「なんだよ、気持ち悪い」

J(*'ー`)し「……そうと決まれば今晩も腕を振るっちゃいましょうか!
くるうちゃんを励ます会ということで!」

(;ФωФ)「ちょっと待て、晩もか!?
       ドクオくんに大御馳走したばかりではないか!」

328 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:13:04 ID:PAGmcZG60

J(*'ー`)し「だいじょぶよ!下準備ぐらいなら私ができるし。
      夕方には指輪も回復してるでしょ?」

(;ФωФ)「まあ、うん」

J(*'ー`)し「というわけで……頑張りましょうね」

(;ФωФ)「わかった」

J(*'ー`)し「ありがと!じゃあ台所にいるね!」

(;ФωФ)「あ、待ってくれその前に湿布をせなかn)ry

J('ー`*)し≡=─スタタタタタ…


(´ФωФ)「むぅ…」


興奮すると話を聞かない妻である。
仕方ないので、湿布はあとで自分で貼ることにした。
とりあえず、腰をひねらないように慎重にうつ伏せになると目を閉じる。

……しかし今日は本当に疲れた。
料理の支度は手間取るし、その後最悪のタイミングでガイロが出た。
さて、少し遅いが昼寝でもしようかな。

そう思った時だった。
耳元でまたしても電話が鳴った。

329 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:13:55 ID:PAGmcZG60

私はくるうの電話を取ったとき、
枕元に置いてあったままの子機を手にとって画面に表示された番号を見る。
今度こそ、ホライゾンからの電話だった。

( ФωФ)「もしもし」

(;^ω^)『あ、トーチャン!よかった……』

( ФωФ)「良かった?いきなりなんだ」

息子は私の声を聞くと安心したようにそう言った。
……その気持ちは、私も痛いほどよく分かる。
あそこに初めて行ったときは不安で仕方なかった。

その後私は息子の疑問に答えたり、ちょっとしたアドバイスをしてやったりした。
そのたびに昔の自分を思い出しては、懐かしい気分になる。
そうして私が思い出の小路に足を踏み入れようとしたとき、息子が言った。

( ^ω^)『トーチャン、シューもここにずっといるのかお?』

( ФωФ)「シュー?」

( ^ω^)『あー、ツナギを着た女の子でなんか変な……』

それを聞いた瞬間、頭を殴られたような衝撃が私を襲った。

女、だと?

330 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:14:38 ID:PAGmcZG60

(;ФωФ)「ちょっと待て、女がいるのか?」

(;^ω^)『え……昔はいなかったのかお?』

(;ФωФ)「……」

あそこに女がいる。
つまり、それは私の時と同じ……。

(;^ω^)『トーチャン?』

(;ФωФ)「……そういうことか」

(;^ω^)『なにがだお』

(;ФωФ)「いや、なんでもない。
       じゃあ切るぞ」

(;^ω^)『ちょ!』

息子の上ずった声が少し聞こえた気がした。
だが、そんな事を気にしている場合ではない。
私は電話を切ると、とりあえず立ち上がるために指輪を手に取った。

そして、妻のいる台所へと走った。

331 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:15:22 ID:PAGmcZG60

(;ФωФ)(なんということだ。
       まだ、まだあいつには早過ぎる。
       なのになぜ……荒巻め!)

(;ФωФ)「あやか!おい!」

J(*'ー`)し「んー?どうしたんですか?」

妻は、長ネギを刻んでいるところだった。
ダイニングテーブルの土鍋にはてんこ盛りの野菜が盛られていた。
くるうの好きなシシ鍋にでもするつもりなのだろう。

(;ФωФ)「まずいことになったぞ……。
       あっちに、『贈り物』がいる」

贈り物、という私の一言に妻の動きが止まった。
そして集中が持たなくなったのか、指から包丁がすり抜けてまな板の上に転がった。

J(;'-`)し「うそでしょう?そんな、まさか」

(;ФωФ)「村の人も減ってきてるからいてもおかしくはない。
       しかし……これはまずい事になった」

J(;'-`)し「どうするのよ」

(;ФωФ)「……」

332 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:16:06 ID:PAGmcZG60

私は、妻になにも言うことができなかった。
解決策はすでに頭に浮かんでいた。
だがそれは、息子には……いや、息子夫婦にはあまりにも残酷な方法だった。

ツンに、そしてデレにどんな顔をして言ったらいいのか。


―――――申し訳ないが、この世から消えてくれ。などと。

333 名前: ◆9i63q3L3BI 投稿日:2011/12/25(日) 03:16:51 ID:PAGmcZG60

第八話 おわり


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