ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです

7 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 22:41:36.65 ID:giCj2ht/0

 人はフラストレーションを解消できない時、一体どうするのか。

 誰かに責任転嫁してしまうのか、忘れようと努力するのか、何か別の物に興味を移すのか。

 VIP学園二年F組卓球部部長、そのあまりの凶暴なプレースタイルに『凶星』と呼ばれ畏怖される男――ショボン。

 彼の場合、その解消方法は他人に八つ当たりすることでしかない。

 むしろ、それしか知らないのだ。

9 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 22:43:37.37 ID:giCj2ht/0

ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです

第十話『したごころ』

10 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 22:46:03.39 ID:giCj2ht/0

 * * *

 放課後の体育館は、少年たちの喧騒に包まれていた。
 シューズが床を擦る音が、激しい息遣いの音が、バレーボールが跳ねる音が、高い天井の隅の隅まで響いている。

('(゚∀゚∩「マリントン! 時間を稼いでほしいんだよ!」

 小柄で人懐っこそうな顔をした少年――その名は二年・男子バレー部部長、なおるよ。
 白いTシャツに半パン、そして胸に『男子バレーボール』の武喝道バッチを携えている。
 彼は小脇に抱えていた四号球を、高々と空に舞い上げながら指示を飛ばす。
 その間も、目は別の動きをしていた。少年に付き従う、似たような格好の二人組にアイコンタクトをする。
 彼よりもずっと背の高い二名は同じタイミングで親指を突き出すと、なおるよの投げたボールの動きを正確にリモートし始める。

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「あいあい!」

 時間を稼げ――と指示をされた者。彼の名は榊原マリントン。三年生だ。
 この者だけは、他の三人とは体格から服装まで全く違う。太くたっぷりとした体、そのワイドな腰部をしっかりと覆う『まわし』。
 その『まわし』には、銀色に輝く『相撲部』の文字が映える。

12 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 22:49:03.99 ID:giCj2ht/0

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「くらいなっせ! 『張り手マシンガン』っ!!」 

 勇ましく声を上げ、背後の排球部たちを守るように身を広げると、丸太のような腕を突き出すマリントン。
 マメだらけで固そうな掌を突き、突き、また突く。
 風を切る張り手が幾十回、幾百回と打ち込まれる。残像すら帯びるそれはまさに機関銃。
 近づくだけで吹き飛ばされそうな風圧が、マリントンの周囲に逆巻く。


(´・ω・`)「…………」


 マリントンのターゲットは彼だ。ショボン――『凶星』の男。
 気だるげに佇む彼は、ゴミクズか虫けらでも見るような目つきで迫るマリントンを刺し貫く。
 仮にこの戦いを見物する者がいたのなら、ショボンはとても油断や余裕をかましていられる状況ではないと思うだろう。

13 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 22:52:09.17 ID:giCj2ht/0

 マリントンは張り手の乱打を繰り返しながらも、徐々にショボンへと接近している。
 大柄な体躯に意外と長い剛腕から繰り出されるそれは、彼を生きた壁にしているのだ。
 これでは向かうことも、退くこともできない。
 そしてマリントンの背後では、バレー部三名が懸命にボールをパスし合っている。
 ショボンは既に悟っている。恐らく隠し玉は相撲部ではなく、背後の彼ら。あくまでマリントンは時間稼ぎなのだ。
 中から遠距離で戦うバレー部を、接近戦で絶大なパワーを誇る相撲部が盾として守り矛として援護する。

 互いの弱点を補う、的確な組み合わせである。

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「どっせぇぇえええい!!」

 ついにマリントンが間合いに踏み込む。そして眼前を覆う掌の壁。

15 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 22:55:10.44 ID:giCj2ht/0

(´・ω・`)「なるほど……さすがは相撲部、パワーはすごい」

 それを相も変わらず気の抜けた顔で防御するショボン。
 打ち込まれた張り手を、寸分狂わずラケットで受け止めている。
 だが、その本人が言う通りマリントンの怪力は凄まじい。防御は出来ても、そのままでは力づくで突破されそうなほどだ。

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ぬおおおお! そちらも、なかなかの反射神経……! だが――」

('(゚∀゚∩「今だよ、マリントン!! 避けるんだよ!」


 急に嵐が止む。


 その巨体に似合わない俊敏な動き。
 マリントンの姿が横にスライドしたかと思うと、ショボンの瞳に空中へと踊り上がったなおるよのシルエットが映る。
 小さな体のどこにそんな脚力があるのか。なおるよの跳躍は高く、家屋一つでも飛び越えてしまいそうなほどだ。
 そして目一杯体をのけ反らせ空中を切り裂く彼と、同じく浮かび上がった排球(バレーボール)。
 二つの軌跡が重なった。

16 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 22:58:16.22 ID:giCj2ht/0

('(゚∀゚∩「タイミング文句なし! 高度完璧! 『凶星』破れたり、なんだよ!」

 固く絞られた手の平が、帯を引いて振り下ろされる。

('(゚∀゚∩「『スナイプ・スパイク』ッッ――――なんだよお!」


 さながら落雷のように。

 叩き落とされたバレーボールは天からの重砲撃。
 その形状を激しく唸らせるほどの威力とスピード。大気の壁を破り、砲弾は一直線に落下していく。

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「決まったぃ!! なおるよのスパイクはぁ、生身で受けちゃあ骨折確実のハイパワー弾!」

('(゚∀゚∩「悪いけどこの勝負頂きだよ! これで僕らのコンビが優勝に一歩近づくんだよ!」

 勝利を確信し、歓喜の叫びを上げる二人。

18 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 23:01:21.85 ID:giCj2ht/0


 そしてその顔はまもなく、絶望へと歪むことになった。


 まずはなおるよだ。
 空気を震わす爆裂音が響いたかと思うと、着地態勢に入ろうとしていた彼の表情が苦悶に染まる。
 その原因は一つ。命中してなお、頸部で回転を止めずに皮膚を削り焦がす鉄球だ。

('( ∀ ∩「うぐ、がぁああ――?!」

 絞り出すような悲鳴が上がる。
 撃たれた彼はビクリと一つ大きく痙攣すると、人形のように脱力した。

(´・ω・`)「……ドライブ」

 宙を舞う厚めのビニール片やゴム。それは残骸である。
 なおるよごと空中で狙撃――そして貫通されたバレーボールの無残な亡骸なのだ。

20 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 23:04:20.70 ID:giCj2ht/0

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「――なに、が?」

 一歩離れた位置にいるマリントンにすら、ショボンの動きは捉えられなかった。
 恐ろしく、速い。
 僅かに一瞬、隠し持っていた鉄球を空へ向けて打ち込み、超絶した勢いで迫るボールを爆破。
 勢い余る鉄球の回転は、そのままなおるよを正確に打ち抜いた。

 頭から地に落ちるなおるよ。彼の身体が床を弾む。

 呆気に取られていたマリントンにとって、ショボンの動きは瞬間移動としか思えないだろう。
 数メートルの距離が一気に消失、目の前には笑みを浮かべる狂人、その振り上げた腕にはシェイクハンドラケット。
 張り手、四股、寄り切り。
 様々な返し手を考えた。興奮と驚きに満ちた頭でも彼はよく考えた。

|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「――――ッ!!」

23 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 23:07:10.90 ID:giCj2ht/0

 だがその思考が行動となるよりも、ショボンの一刀は遥かに速い。


(´・ω・`)「――フリック」


 飛び散っていく歯が、砕け折れていった歯が、マリントンの歯が――空を舞う。

|;;;;| っノVi ,ココつ「ゴボッ――ゴバブッ!?」

 彼の突き出した突っ張りは虚しく空ぶった。
 鉄板すら打ち抜きそうな強烈な平手は、僅かにショボンの頬を掠めるだけ。
 代わりと言うのか、マリントンの横っ面には深々とラバーが食い込んでいる。
 振り抜かれたラケットは徹底的に、顔の脂肪も角ばった顎の骨もまとめて破砕していた。

 血の雨を噴き上げ、瓦解するマリントン。
 喉に丸い焦げ跡を残し、もう起き上がってこないなおるよ

24 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 23:10:05.39 ID:giCj2ht/0

 ほんの一瞬、且つたった一撃で両者とも決着をつけられてしまった。
 決して弱くはない二人の、決して悪くは無いコンビネーションだった。並みの相手なら、充分に圧倒できる戦いだったろう。

(´・ω・`)「まぁどれだけ群れようと、蟻は像を殺せないからね」

 相手が悪すぎたのだ。


 すでに、バレーボール部部員の二人は逃げていた後だった。
 ショボンはあくまで容赦なくバッチをむしり取りつつも、呆気なく同輩に見捨てられた敗北者二名をほんの少し哀れに思う。
 もちろん、そんなものは彼にとって一時の気の紛れ。

(´・ω・`)「……身体の調子は戻ったかな。いや、まだ本調子じゃないかな」

 ぐるぐると回す肩は骨のアンサンブルを奏でる。

25 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 23:13:05.71 ID:giCj2ht/0

 戦いは終り、手の内にあるバッチの数はもかなり増えた。
 彼らが持ち合わせていた分も合わせて、これで十三個。恐らく現在も、初日と変わらずトップの成績だ。
 弱者を蹴散らし、その称号として手に入るバッチ。当初、これはショボンにとって気持ちの良いものだった。
 自己の強さが明確な数値として表れていることへの快感。
 しかし、今は違う。
 たとえどれだけ群がる塵芥を踏み潰し、山のようなバッチを手にしても歓喜することは無いだろう。

 もっと、もっと素晴らしい快感を彼は知ってしまったからだ。

(´・ω・‘)「剣道部君……君は今何を思っているのかな」

(´゚ω゚`)「僕は……クク、僕は君のことしか考えられなくなってしまったよ」

 肌が粟立つ。

27 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 23:16:18.41 ID:giCj2ht/0

 昨日、あの踊り場で死合ったその時、間違いなくショボンは今までにない恍惚と幸せに包まれていた。
 触れる物全てを破壊する規格外の『凶星』に、好敵手など存在しなかった。そしてそれはこれからも変わらないと思っていた。
 卓球の試合でも、喧嘩でも、相手になる者などいない。それでも、沸騰しそうな血液は底無しの沼のように闘いを欲する。
 戦うことが存在証明であるのに、その戦いが退屈に拍車をかけるジレンマ。

 葛藤の日々も終わりを告げた。

 今、彼の心はドクオによって魅了されている。

(´゚ω゚`)「早く、早く早く、早く早く早く、戦いたい、君と戦いたい。不思議だ、仕留め損なったのに嬉しさが止まらないよ!
 君の躍動する体を味わいたい! 君の鋭い技の一つ一つを感じたい! あぁ、あぁ……たまらないいい!」

 溢れ出そうな焦燥と狂気に頭を掻き毟る。髪を振り乱し、痙攣するかのように引くつく顔が不気味だった。

 胸を焦がすほどの狂おしい想い。

 それはどこか恋に似ていた。

28 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 23:19:07.01 ID:giCj2ht/0

  _
( ゚∀゚)「お楽しみのところ悪いね」


(´・ω・`)「…………!」

 やたらと派手に足音が響く。室内だというのに土足なのだろうか、堂々と足跡をつけながら闊歩する者がそこにはいた。
 尊大で、厚顔で、人をコケにしたような笑みを浮かべた男。

 生徒会副会長、ジョルジュ長岡。

 紅の腕章がワンポイントの学ランから、垂れ下がった金色のチェーンが覗いている。彼が大股に歩く度、鎖は首の上を跳ね踊った。
 短めの髪を掻き上げ、ジョルジュは倒れ伏す無残な敗者たちの姿を鼻で笑う。
  _
( ゚∀゚)「おーおーすげぇ、相撲部と男バレがこんなになっちまって。容赦ねーのな」

(´・ω・`)「君……確か生徒会だよね。覚えてるよ、この臭い。ゲス野郎の臭いだ」
  _
( ゚∀゚)「ゲスとは言ってくれるねえ。こうやって、祭を盛り上げるのに骨身を惜しまず働いてるってのによ」

30 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 23:22:45.70 ID:giCj2ht/0

 手招きを数回。

 ざわざわと、まるで蜜に吸い寄せられる虫のように、どこからともなく風紀委員たちが集まってくる。
 白地の仮面に風の文字。男とも女とも取れない、異様の集団。
 最初からそういう指示を受けていたのか、彼らはするするとなおるよとマリントンの周りに群がると、沈黙を守ったままに担ぎ上げ運び出す。

(´・ω・`)「それが目的? 聞いてるよ。攫ってるんだよね、負けた奴を。変わったことしてるんだね」
  _
( ゚∀゚)「人聞きが悪い奴だねー。負傷者を回収してるだけだよ。怪我人そのままにするわけにはいかねーだろ?」

(´・ω・`)「嘘臭い話だ。信用ならない。でも……まぁ僕の邪魔にならないならいいや」

 ふらりと向きを変える。今のショボンには、生徒会は興味の勘定に入らない。

(´・ω・`)「君が戦ってくれるってんなら面白いかもしれないけどね。でも生徒会は参加してないんでしょ。見逃してあげるよ」
  _
( ゚∀゚)「昨日は堂々と風紀委員をブチのめしといて良く言うぜ。でもいいのかい? 俺はお前教えてやることがあって来たんだぜ?」

31 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 23:26:03.25 ID:giCj2ht/0

(´・ω・`)「教えてやること?」
  _
( ゚∀゚)「剣道部部長、鬱田ドクオのことだ」

 眉がバネ仕掛けのように跳ね上がる。
 剣道部。そのワードは、今ショボンの感情を最も揺さぶる重要なものだ。

(´・ω・`)「鬱田……ドクオ。へえ、そうか……ドクオか。そんな名前だったんだ、彼」
  _
( ゚∀゚)「名前も知らなかったのか? でもまぁちょっと小耳に挟んでね。『凶星』に狙われて生き残った奴がいるってな。
 調べてみたらすぐ分かったよ。ある意味有名人だな。『熱血喧嘩屋』、『野獣コック』、『天才(ジーニアス)』――中々に手強そうな面子とツルんでる」

(´・ω・`)「……へえ、そう、そうかい」
  _
( ゚∀゚)「さぁどうする、決着を付けたいんだろ? 鬱田ドクオに目一杯の屈辱と敗北と、そして絶望を味あわせてやりたいんだろ?」

33 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 23:29:06.83 ID:giCj2ht/0

 ジョルジュはくつくつと笑う。
 何が楽しいのか。闘いに火を注ぐことがそんなにも楽しいのだろうか。
 だが得てして、それは彼の言う『祭を盛り上げるための仕事』に過ぎない。
 己が手の内で深く、速く、力強く、回る闘争の渦。それをさらに掻き回すことが、ジョルジュは愉快でたまらないのだ。
 だからこそ、ただただ笑う。
  _
( ゚∀゚)「――剣道部二年の盛岡デミタス。こいつのことを知ってるか?」

 そして同じように、昨日のように。


(´゚ω゚`)「知らない……でも、是非知りたいね」


 ショボンの顔もまた、ドス黒い狂気に包まれていった。

34 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 23:32:23.10 ID:giCj2ht/0

 * * *


 行き交う『普通の』部活動に勤しむ者たちは、みな元気に走り回る。
 平和で、如何にもよくある学園生活のワンシーン。
 しかし、それでもこの学園の裏では、激しく、そして後ろ暗い闘争が日夜繰り広げられているのだ。


('A`)「なぁ、やっぱりやめないか?」

从 ゚∀从「うっせーな、男がいちいちグダグダ抜かしてんじゃねーよ」

ノパ听)「そうだぞ。仮にもヒート軍団のリーダーなんだ、もっとしっかりしろ!」

('A`)「リーダーなのにこの決定権の無さは何ですか?」

ミ,,゚Д゚彡「まぁ、観念しておけ。ウチの女どもは、一度決めたらブルドーザーでも動かんだろうしな」

35 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 23:35:05.09 ID:giCj2ht/0

 ぞろぞろと連れ立つ一団。
 彼らが目指す場所は一つ、武道場。
 今そこで、四人の探し求めたもう一人の仲間が待っているのだ。

 しかしながら、結局最後まで乗り気ではない者もいる。

从 ゚∀从「もうお前だけの問題じゃないんだ。野球部に襲われたのがいい例だろ。
 さすがにオレたちの動きも目立ち始めている。可能な限りとっとと動いて、面子を固める方が得策なんだ」

ノパ听)「私はむしろ、途中から乱入してきた奴の方が気になるけどな」

ミ,,゚Д゚彡「名前は聞かなかったのか? 学年は? そんな強い奴だ、新聞部が情報を掴んでないわけがないと思うが……」

ノパ听)「さっぱり。それに見たこともない技だった」

从 ゚∀从「蹴りだけで野球部を殲滅……ね。テコンドー、キックボクシングか? サッカーはギコって二年がキャプテンらしいし……」

ノパ听)「テコンドーは無いな。ニダーって小悪党が部長だ」

38 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 23:38:04.69 ID:giCj2ht/0

 三人が謎の男についての討論を繰り広げる最中も、ドクオは一人ぼやき続ける。

('A`)「あぁ……そうだよ。実際襲われた身だしそう思うさ。でもなぁ……」

 ぶつくさと独り言は止まない。このままでは歩くこともやめてしまいそうだった。
 故に、今はフサギコに摘み上げられたまま運ばれている形となってる。
 ハインもすっかり呆れ顔だった。彼女には、ドクオがここまで嫌がる理由がさっぱり理解できない。

从 ゚∀从「このウスノロは、一体素直クールの何が嫌なんだ? 当事者さんよ、何か語ってくれ」

ノパ听)「んなこと私に聞いても仕方無いだろ。どうせ当人同士の話なんだから」

从 ゚∀从「んだよ、幼馴染だろ?」

ノハ--)「別に私にとっちゃ年上のいいお姉ちゃんってだけだし、ドクオはドクオで色々あるんだよ」

从 ゚∀从「全くもってイミフだな」

40 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 23:40:02.88 ID:giCj2ht/0

 そんなこんなで、四人がうだうだと歩いてやっと着いた武道場。
 ドクオには馴染み深い場所――というより、昨日も来ていた場所だ。
 毎日放課後、ここで剣を振るうことこそが彼の習慣であり、心の安寧。
 しかし、今は別のイメージも湧き上がる。
 中程まで開かれた重めの引き戸――そこに昨日、満身創痍の少年が一人倒れていたこと。

 これまでとは違う。戦場の記憶だった。

('A`)「…………」

 脳裏を踊る傷だらけのフォックス、そして『凶星』の不気味な笑い声。

ノパ听)「ドクオ?」

41 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 23:42:17.80 ID:giCj2ht/0


('A`)「いや、なんでもない。フサギコももういい、降ろしてくれ」

ミ,,゚Д゚彡「あいよっ」

 もう一度よく戦いの厳しさと悲惨さを噛みしめて、彼は先陣を切る。
 ハインの言い分もある。それにやはりここまで来てしまった以上、もう腹を括らなければならないのだ。

('A`)「行こう、クーに会いに」

 グッと身を引き締め、半開きとなった戸に手を掛けた。

43 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 23:45:04.13 ID:giCj2ht/0

 * * *


川 ゚ -゚)「――――っ」


 日本刀。
 
 第一印象はただその一言だろう。

 踏み込んだ四人が見たのは、武道場の畳の真ん中できちんと正座をする少女の袴姿。
 彼女が頂くのはたっぷりと背中にまで届くストレート。
 鋼のように光沢を放ち、墨のように美しい漆黒を孕む長髪は、触れれば銀糸の如き手触りなのだろう。
 その証拠とでも言うのか、わずかな風に揺れるそれは一本一本がさらさらと細かく散ってはまた静かにまとまっていく。

 女らしい緩やかで柔らかい身体の線、溜め息を漏らすような白磁の如き眩い肌。
 そのどこかに鋭さを放つ少女は、まさに一本の美しい刀であった。

45 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 23:48:10.20 ID:giCj2ht/0

('A`)「…………」

 先頭を切って飛び込んだドクオも見とれていた。
 それは、胸に込み上げてくる熱い想いと頭の片隅でもやもやと漂う苦悶が混じり合った、不思議な気持ちによるものだ。

ノパ听)「ほっ!!」

 棒立ちとなった彼の頭上を飛び越える影。
 それは勇猛果敢にして大胆不敵の女、我らが素直ヒートである。

ノパ听)「クー姉ぇ!! お久し――」

 華麗に一回転、片膝を突いて着地する彼女は勢いも殺さず、転がり出るように駆ける。
 スニーカーは脱いで来たので裸足だが、畳を踏み鳴らすその脚力に外装の有無は関係ない。
 加速し切ると同時に再び跳躍。片足を折り畳み、もう片方は槍のようにびしりと伸ばし切って突っ込んだ。

ノパ听)「ブリタニア――ッ!!!」

 弾丸のような飛び蹴りが空を裂く。

47 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 23:51:25.60 ID:giCj2ht/0

川 ゚ -゚)「その声――ヒートか」


 ――吹き飛んだ。


ノハ;゚听)「うぉぉおおぉぉおおぉぉぉおぉおおお?!」

 まるで間欠泉が足元から彼女を噴き上げたかのようだ。明らかに運動のベクトルがおかしい。
 真っ直ぐにクーへと突撃していったヒートは、いつの間にか武道場の天井すれすれにまで打ち上げられていた。
 ヒートも、他三名もクーの動きは捉えられられなかった。
 彼女はただ、変わらずに正座していただけにしか見えない。

ノパ听)「ほおおぉぉお――っりゃ!!」

 もちろんそれでうろたえるヒートでもなかった。
 空中で猫のような器用さにより体勢を取り戻し、しっかりと足の裏で着地。事無きを得る。
 その瞬間の地響きは、かなり大きなものではあったが。

50 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 23:54:04.74 ID:giCj2ht/0

 鈴を転がすような笑いがほんの少し聞こえた気がした。
 気が付けば正座を崩し、立ち上がったクーはヒートに手を差し伸ばしている。

川 ゚ -゚)「相変わらずだな、その無茶っぷりは」

ノパ听)「クー姉ぇの方が無茶だよ。あんな投げ方されたら一般人は死んじまうぞ」

川 ゚ -゚)「お前くらいの馬力で突っ込んでこなければ、とてもあんな高さまで届かないよ。
 それにしても中学以来か? あれからはお前も荒れていたし、同じ高校でもすっかり会わなくなってたしな」

ノパ听)「そんなことどっちだっていいよ。それよりだな、今日はクー姉ぇに客がいるんだ」

川 ゚ -゚)「客?」

 振り返る美少女二人。そこには、待ち侘びたとふんぞり返る尊大者御一行がいた。
 クールな方の美少女の視線はチラチラと泳ぐ。ズカズカと踏み入ってくるハイン、やれやれと付き従うフサギコ、そして――

从 ゚∀从「やあやあ、あんたが素直クールか? 初めましてだな、オレは――」

53 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/01(金) 23:57:25.21 ID:giCj2ht/0


川 ゚ -゚)「――ドクオ、ほお珍しい。ドクオじゃないか」


 長らく会っていなかった甥っ子に会う叔母――という表現が正しいのだろうか。
 ドクオの姿を見つけたクーは、どこか好奇心に満ちた様子で彼へと近づく。
 片や、ドクオ本人は早くも逃げ腰。引きつった顔で受け答えた。

(;'A`)「ひひ、久しぶりだな、クー。お元気シテマシタカナ?」

川 ゚ -゚)「何だ余所余所しい奴め。いつもみたいに『おねーちゃん』と呼ばんのか? 寂しいぞ、ドックン」

(;'A`)「頼むからからかわないでくれよ。その呼び方も子供の時の話じゃねーか」

川 ゚ -゚)「何年経っても、お前が弟分だってことは変わらんよ。それより鍛錬は怠ってないか? 毎日素振り千本は続けてるだろうな?」

('∀`)「え、いや……ハハ。どうだったかな」

川 ゚ -゚)「……サボってるのか」

('A`)「……はい、すいません」

56 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/02(土) 00:03:13.24 ID:qPUIK7530

ミ;,,゚Д゚彡「おいおい、いいのか? 我らがリーダーが今にも失神しそうな勢いだぞ」

从 ゚∀从「好きなだけじゃれさせてやれよ。久方ぶりの再会なんだし」

ノパ听)「よおーっし!! 私も混ざってくるぞ!」

 彼の一言はまた別の方向で、ドクオへの負担を増やしてしまったらしい。

ミ;,,゚Д゚彡 (火に油を注いだか……すまん)

 意味もなくテンションマックスとなったヒートは、小プロレスを展開中の幼馴染たちへ突っ込んでいく。

ノパ听)「クー姉ぇ!! 私も混ぜろおおおお!!」

川 ゚ -゚)「何だヒート? 別に遊んでいるわけではないんだぞ。これは愛の鞭だ、鞭」

ノパ听)「面白そうだから私も鞭を振るうぜ! とびっきりの愛の鞭をなあああ!!」

61 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/02(土) 00:09:25.62 ID:qPUIK7530

 * * *


 ――ドクオ、おままごとなんだぞ。ふうふげんかもリアルにさいげんするんだ。たたかれたくらいでなくんじゃない。

 ――ドクオ、さっそくはじめるぞ。わたしがおいかけるからにげつづけるんだ。つかまったらしりをひっぱたくぞ。

 ――ドクオ、おとこなんだからガマンづよくならないとな。せんびょうかぞえるまであがっちゃあダメだぞ。

 ――ドクオ、ふっきんうでたてもわすれずにな。ひゃっかいをさんセットおわったらいっしょにねよう。

 ――ドクオ、ドクオ、ドクオ……。


('A`)「まだ首が痛ぇ……」

 ドクオは変な方向へ湾曲してしまった痛々しい首をさする。なんとも生きているのが不思議な状態だ。

64 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/02(土) 00:12:05.22 ID:qPUIK7530

 ともかく今は、騒ぎも終局していた。
 暴れ馬のようにドクオを振り回す二名を、何とか抑え込んで一同は車座に集まり直っている。
 ヒートとクーの間で縮こまっているドクオは、肩身の狭さに押し潰されんばかりだった。

ノパ听)「ドクオが悪いな。武道家なら毎日のトレーニングは呼吸も同然だろ。悔しかったら帰って腕立て一万な」

('A`)「すごく……多いです」

川 ゚ -゚)「まあ落ちつけヒート。私も大人げなかった。ドクオに会うのも相当久しぶりだ。指導者たる私にも責任がある」

('A`)「いや、指導者とか。子供のころからコキ使ったり、理不尽なメニューでしごいてただけだろ……」

 うすら寒い気配と共に、彼の眉間は冷たい獣の眼光に射抜かれる。

(;'A`)「はい、はい、すいません。僕は怠け者です。ウジ虫のニートです。生まれてきてすいません」

川 ゚ -゚)「おいおいドクオ、それは言い過ぎだろう。もっと自分に自信を持て。強き者は何時だって雄々しく在るものだ」

 とても睨んだ本人の言葉とは思えない。

66 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/02(土) 00:15:30.48 ID:qPUIK7530

从 ゚∀从「はいはい、お前らちょっとはオレの話聞いてくれますかね、え? 全く素直家の関係者は面白おかしい奴らばかりだな。
 こちとら仏さんみたいに、三度も華麗なスルーパスなんざ決められないんでね。そこんとこよく覚えとけよ。分かったらご静聴、よろしく頼む」

 体躯に似合わないどっしりとした胡坐をかく少女は、パンパンと手拍子して場をまとめる。
 大騒ぎの三名もとりあえずは、腰を落ち着けた。
 そして真っ先に口を開いたのはクー。絹糸の髪をさらりと一撫でハインへと向き直る。

川 ゚ -゚)「いや、失敬。何度も取り乱して済まない。久しぶりに旧知の仲との再会だったんでな。
 私を仲間にしたい――とかいう話らしいじゃないか。なるほど、だがあまり前向きには考えられないな」

从 ゚∀从「何か不満でも? 賞金はきっちり山分けだぜ。二百万、いい額だろ」

川 ゚ -゚)「信用ならんよ、君がな」


 和やかだった空気が、一瞬にして凍りつく。

 
69 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/02(土) 00:18:01.84 ID:qPUIK7530

 当然だろう。
 ヒートやドクオはいい、だがハインは彼女にとって全くの部外者。
 そんな者の突然の交渉――しかもそれは大金の絡む話だ。手放しで信用しろと言うのも難しい。

 フサギコは身を乗り出した。
 さすがに黙ってハインの隣に座り続けるのにも耐えかねたらしい。
 このままでは、ハインがクーに信頼を得るなどとても叶わない話だ。
 同学年の自分から言えば少しは理解を示してくれるのでは。そう思い、何か言わなければと思ったのだろう。

ミ,,゚Д゚彡「素直さん、こいつは――」

从 ゚∀从「…………っ」

 そんな彼を制するハイン。
 フサギコに『邪魔をするな』とばかりに強い眼光を向ける。

 確かにそうだ。
 今ここで安易にフサギコやヒートたちの手を借りてクーを丸めこんだとしても、それは信頼に繋がらない。
 この戦いでは僅かな解れさえも敗北への糸口となる。
 勝利を掴むための強固な集団――それは確かな信用から始まるのだ。

72 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/02(土) 00:21:09.33 ID:qPUIK7530

 故に、ハインも分かっている。いまここでやらなければならないことは、己がクーに認められることだと。

从 ゚∀从「まぁ、そうなるだろうな。いきなり押しかけてハイ仲間になって下さい――なんて話美味すぎらぁ。
 でもよ、あんただって人間だ。可愛い従妹たちが必死こいて戦っているのを、見て見ぬ振りってわけにはいかねーんだろ?」

川 ゚ -゚)「打算的だな。そういう考え方は嫌いだよ」

从 ゚∀从「オレもあんたみたいな奴は嫌いだね。でも生き残るためには、我慢しなくちゃあならねー時もある」

川 ゚ -゚)「……君、学年は? 同輩ではなさそうだが」

从 ゚∀从「一年だよ。あんたと比べりゃガキに違いないが、あんたよりはずっと優秀な頭脳を持っているぜ。
 それともあんたは、年齢や学年みたいなつまらない価値観で人を見定めるようなケチな奴なのかい?」

川 ゚ -゚)「……ほう」

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/02(土) 00:24:08.98 ID:qPUIK7530

 一瞬の沈黙。
 誰もが険悪な雰囲気だと思えるはずだ。
 のっけから疑っている素振りのクー、上級生と言えども一歩も食い下がる素振りを見せないハイン。
 二人の間に、今にも暗雲が立ち込めてきそうだった。

 静寂を破るのは、クー。

川 ゚ -゚)「君は何のために戦うんだ?」

 答えを求める、それは闘いへの存在理由(レゾンデートル)。
 何を求め、何を目指し、何を思ってハインは闘いへと駆り立てられるのか。
 クーはそこを見極めたかったのだ。それ如何で、彼女の人となりをもう一度考えられると悟って。

川 ゚ -゚)「このサバイバルは遊びにしては派手すぎる。怪我をすることだってあり得るだろうに。それでも勝ち進もうとする理由を教えて欲しい」

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/02(土) 00:27:03.40 ID:qPUIK7530

从 ゚∀从「……実際のところ目的は金だよ。だがな――」

 クーの問いに、ハインは伏せた目の裏で一人の少女を思い浮かべる。
 花を愛で育てることを生き甲斐とし、日々笑顔を絶やさず、幸せを供として可憐に咲く少女。

从 -∀从「それは約束のために必要なんだ。果たさなければならない約束のための」

 そう、自分の戦う理由は花咲ける少女――渡辺にある。
 見開かれたその目に、一切の嘘偽りはなかった。真っ直ぐに、想いのままをぶちまける。

从 ゚∀从「それにはあんたの力が必要だ。頼む、決して悪いようにはしない。オレたちと戦ってくれないか?」

 再びの沈黙。それはクーの返事を待つための、長くて短い無音の時。
 だがそれに、先程のような重苦しさは孕まれてはいなかった。

川 ゚ -゚)「……わかった」

 突き出されたのは手。握手を求める手だ。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/02(土) 00:30:12.14 ID:qPUIK7530

川 ゚ -゚)「失礼したよ。従妹たちをたぶらかす曲者かと疑っていたんだが、そんな小物でもないらしいな」

从 ゚∀从「当たり前だぜ素直クール。オレは世界が認める大物なんだからな」

川 ゚ー゚)「……なかなか、ヒートも面白い奴を連れてくるものだ」

从 ゚∀从「よろしく頼むぜ」

 ニヤリと微笑むハインは最初からこうなると分かっていたかのようだった。
 がっしりと握られた手に迷いはない。

ミ,,゚Д゚彡「ハイン……やるじゃないか」

从*゚∀从「はっ、別にこれくらいなんてことねーんだよ。言いたいこと包み隠さず言っただけだ」

('A`)「クー相手に真っ向勝負とか。さすがっつーか、やっぱ大した肝っ玉だよ」

从 ゚∀从「お前に舐められる程度の下等さは持ち合わせちゃいないんでね」

('A`)「何だこの扱いの違い……」

82 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/02(土) 00:33:20.47 ID:qPUIK7530

 晴れて五人目の戦士となったクー。
 ヒートはその周りを子供のようにちょろちょろと取り巻く。

ノパ听)「つか、クー姉ぇもやっぱ金とか欲しいのかよ? ちょっと心外だな」

川 ゚ -゚)「馬鹿を言うな、金など二の次だよ。すっかり腑抜けた弟が心配でたまらんだけだ。わたしが付いてやらんとな」

ノハ;゚听)「えー? か、可愛い従妹は心配じゃないんすか?」

川 ゚ -゚)「従妹もまぁ不安な所はあるが、ある程度なら頼りがいがあるし心配あるまい」

ノパ听)「……すげービミョーな気分だ……喜んでいいのか?」

 一時はどうなるのかと思われたが、これで問題なくチームは固まった。
 しかし五人が一時の安心と新たな仲間を歓迎している――そんな時であっても、闘いの連鎖はそう断ち切れないようだ。
 喜ぶ間も与えずに早々と、新たなトラブルはやってくる。

84 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/02(土) 00:36:16.93 ID:qPUIK7530


 窓ガラスたちが一斉に叫び声を上げた。


 頭上を覆う煌めきの雨。飛び散る破片が畳を突き刺す。
 同時にぽっかりと空いた窓の空洞から、緩やかな白煙の放物線を描いて飛び込んでくる『何か』。
 鈍い音を立てながら地を跳ねる、小さくて黒い缶詰のような物。 
 それが棒立ちになっていたドクオの足元を、コツンと触れる。

(;'A`)「な、何だ!?」

从;゚∀从「――――っ! 離れろ、煙幕だ!」

 まるでその声に反応したかのように、缶詰は炸裂する。
 視界を飲み込む、相当量の白煙。ドクオ達の視界はたちまちホワイトアウトと化す。

 そこには彼らを包囲する、新たな敵意が確かに存在していた。

第十話・終


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