- 8 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 22:53:08.15 ID:E2tXrzBIO
从 ゚∀从「よぅ」
午前九時。
もうとっくに一時限目が終わっている、この時間。ハインは教室にいなかった。
彼女が佇むのは武道場の玄関。バッチを失った渡辺を家にまで送り届けた後、偶然通りかかったそこで彼女は遭遇した。
川 ゚ -゚)「あぁ、ハインか。お早う」
普段は袴姿が基本であるクーも、曲がりなりにも学徒の一人。
学校指定のブレザーに身を包み、ボタンもタイもきっちりと正したその姿は、袴とはまた別の魅力があった。
ローファーの踵に指を引っ掛けて、片足立ちで靴を直していた彼女はハインに気付く。
- 10 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 22:56:08.74 ID:E2tXrzBIO
川 ゚ -゚)「良くないな。頭がいいからといって、学生の本業たる授業を休むものではないぞ」
从 ゚∀从「そういうあんたも随分と悠長じゃねーか、受験生」
川 ゚ -゚)「……それもそうか。いや、すまんな」
どこか自嘲めいた笑い。
クーは下ろした片足の爪で、トントンと地面を数度叩く。一緒になってチェックのスカートも揺れた。
普段のしゃきしゃきとした動きが、今日は少し乏しい。ハインは彼女と連れ立ち、朝の光の下に出る。
从 ゚∀从「あんたはもう聞いてるかい?」
川 ゚ -゚)「何を?」
从 ゚∀从「ドクオのことだよ。今、『凶星』とやりあっているらしい。さっきフサギコから連絡があった」
- 11 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 22:59:10.29 ID:E2tXrzBIO
クーはほんの少しだけ歩みを止める。
その表情を窺うハインにも、彼女の心情は測り難かった。無表情のどこかに、何か張り裂けるほどの感情を隠しているかのような。
それでも、何事もなかったかのように彼女は歩き出す。
川 ゚ -゚)「いずれは起こり得たことだからな」
从 ゚∀从「さっすが、クールだねぇ。可愛い弟分が危ない目に遭っているのに」
川 ゚ -゚)「だからといって、私やお前が助けに行くわけにもいかないだろうさ」
从 -∀从「……だろうね。ったく、最後まで牽制しときゃいいものを。
あのビビりがわざわざ自分で向かって行くなんて、オレとしちゃ思ってもみなかったよ」
- 12 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 23:02:09.98 ID:E2tXrzBIO
クーも全くその通りだと思う。
まさか朝練をつけてやったその日に大本命とぶつかろうとは。落ち着いてはいるがクーも予想だにしなかったことだ。
もっと時間をかけ、出来る限りギリギリまでドクオを鍛える腹積もりだったのが、全て台無しになったわけで。
それでも、この戦いはドクオのものなのだ。
いくら自分たち外野が干渉しようと、実際に考えて戦うのは彼。
最後には、こうやってただただ無事と勝利を願うしか出来ることはない。
川 ゚ -゚)「そうだ、ヒートはどうしてるか聞いてないか?」
从 ゚∀从「あん? いや、今フサギコと一緒にいるらしいぞ。そういや血気盛んなあいつがドクオに勝負を譲るたぁ、ちょっと驚きだな」
川 ゚ -゚)「ん、そうか、うん……ならいい。有難う」
- 14 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 23:05:18.16 ID:E2tXrzBIO
クーはどこか上の空になりながら、しきりにうなずいていた。
从 ゚∀从「?」
ハインは首を傾げながらも、自らの脇腹をそっと撫でる。
あの日――『凶星』に遭遇した日、そこに刻まれた痛み。それは忘れ難いものだ。
从 ゚∀从「……正直言って、全員で取っ組みかかっても到底勝てる気がしねえ。ありゃ化け物だ」
川 ゚ -゚)「――私より強い、か」
从 -∀从「私見だがな。少なくとも二度もお目にはかかりたくない奴だよ」
並木道を歩む二人の頭上を、鳥の群れが音を立てて飛び去っていく。
散った羽が幾枚も、雨のように天蓋を舞った。
二人してそれを見上げる中、うわ言のようにクーは呟く。
- 15 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 23:08:07.96 ID:E2tXrzBIO
川 ゚ -゚)「例え、『凶星』ショボンが私より強かろうが弱かろうが――……」
伸ばした手が、ひらりと落ちる羽根の一枚を掴み取る。
川 ゚ -゚)「私は最初から最後まで、全て見守るつもりだ。ドクオの戦いを、な」
从 ゚∀从「…………」
川 ゚ -゚)「それが女である私の、示すべき矜持(スタイル)なのだ」
視線は空に向いたまま。
ハインへと呼びかけているのか。自らに言い聞かせているのか。
从 ゚∀从「……行こうぜ、フサギコとヒートが食堂で待ってる。こんなモヤモヤしたままじゃ、クソつまんねー授業に出ても足しになんねーよ」
川 ゚ -゚)「そうだな、今日ばかりは大目に見てもらおう」
- 16 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 23:11:17.26 ID:E2tXrzBIO
二人が見合わせるその時だった。賑やかなロック調の音楽が、突然流れ出す。
何事かと辺りを見回すクーに反し、ハインは落ち着いた様子で白衣のポケットに手を突っ込む。
引っ張り出したのは音の出元、白が基調となった彼女の携帯電話だ。
从 ゚∀从「悪ぃ、またフサギコからだ。時間貰っていいかい?」
川 ゚ -゚)「構わんよ」
さらりと承諾するクーに『さんきゅ』と短く返し、ハインは携帯を耳に寄せる。
聞こえた声は随分と切羽詰まっていた。
从 ゚∀从d「はいはいもしもし、ハイン様だ。今、クーと一緒にそっちに向かってるところだぞ」
ミ;,,゚Д゚彡d【すまん、ハイン。お前たちこっちに来る途中でヒートを見なかったか?】
从 ゚∀从d「ヒートって……お前と一緒に食堂にいたんじゃなかったのかよ?」
ミ;,,-Д-彡d【それがちょっと目を離した隙に消えたんだ。鞄はここにある。授業に行くわけはないし……】
- 17 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 23:14:09.27 ID:E2tXrzBIO
溜め息。
从 -∀从d「……そんなの、今あいつが行くとこなんて一つに決まってんだろ」
ミ,,-Д-彡d【……まったくその通りだな。そもそも平気なフリしてること自体がおかしかったのか】
从 ゚∀从d「で、どうするよ? オレたちは男ドクオの一大決心を反故にしてまで、あいつの元に駆けつけるか?」
しばらくの沈黙と共に、フサギコは力強く答える。
ミ,,゚Д゚彡d【行こう。やっぱり放っておけない。それでも――】
从 -∀从d「『それでも勝負自体はドクオに任せる』……だろ?」
ミ,,-Д-彡d【……あぁ、そうだとも】
- 19 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 23:17:09.97 ID:E2tXrzBIO
やがて着信を切ったハインが振り返る。そこには不思議な笑みを浮かべるクーが、前髪をかき上げていた。
絹のように流れる黒髪に取り巻かれた彼女は、穏やかでどこか口惜しそうで。
川 ゚ー゚)「――そうだと思ったよ、ヒート」
ただ一言、ぽつりとそう言った。
- 21 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 23:20:10.19 ID:E2tXrzBIO
ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです
第十五話『The Rumbling Star 〜 Break 〜』
- 22 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 23:23:09.17 ID:E2tXrzBIO
* * *
(´・ω・`)「…………」
ショボンは一人、項垂れていた。
戦いの終わってしまったこの場に、立っている者は彼のみ。
他に在る者といえば、ゴミのように叩き潰され動くこともままならないデミタス。そして――
( A )
ドクオだった。
大の字になった彼は動かない。
投げ出された竹刀は、かろうじて腕の鎖につながっているのみ。
裂けた額からたっぷりと血を流している。左の瞼の上が潰れ、真っ赤な花を咲かせているのが痛々しい。
制服は引き裂け、あちこちに青々と打ち身を作り、荒い呼吸が断続的に響くだけ。
- 24 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 23:26:12.74 ID:E2tXrzBIO
誰が見ても分かる、彼は戦闘不能だった。
(´・ω・`)「――残念だ」
ショボンにとって、この戦いは決してつまらないものではなかった。
むしろ今までの中でも、とびっきりの快感を味わえたのは紛れもない事実。
しかし、それだけだ。
現に勝ったのは自分で、好敵手となり得たであろう男は不様にも地に背を付けている。
もう立ち上がることも叶わないであろう。
その悲しいこと、虚しいことこの上ない。
(´;ω;`)「うぅぅううう〜……どうして、どうしてみんなこんなに弱いんだよ? 僕はどうしてこんなに強いんだ?」
- 25 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 23:29:21.13 ID:E2tXrzBIO
普段はいやらしい笑みしか浮かべないその凶悪な顔が、今だけは悲愴な色に染まる。
目一杯に歪む顔、ハの字になった眉、食い縛られた鮫の牙がぎりぎりと音を立てた。
挙句、崩れ落ちる彼は床を思いっきり殴りつける。
(´;ω;`)「戦いたい、一生涯戦いたい、戦いの中で生きていきたい! でも無理だ、誰も戦ってくれない!
僕は強すぎる! 僕に匹敵してくれる奴なんかこの世にいない! どうして、どうして僕はこんなに、こんなに……」
大粒の涙をぼとりぼとりと溢す。
戦闘に快感、享楽を感じるこの性分。それを理解できる者、受け入れてくれる者はこの世に多くない。
彼は孤独だ。それは生まれた時から決まっていた。彼が破壊の道を突き進むのは自然のことだったのだ。
彼は死ぬまで、孤独に闘うことでしか存在を表明できない。
誰にも理解されることのない運命――その凶なる星の下に生まれた彼は、あまりにも不幸だった。
- 26 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 23:32:16.08 ID:E2tXrzBIO
(´;ω;`)「ふぉっ、ふごぉっ、うぶぅ、うっうっうっう……」
流れ出る感情の液を拭い拭い、顔中に纏わり付く血の跡にそれが混じる。
(´・ω・`)「でも……もう全部終わっちゃったんだよね。君も、僕の本当のライバルにはなれなかった」
気だるげに歩を進め、ドクオに近づくとその懐に手を差し入れる。
感触を確かめて引き千切った、それは武喝道バッチ。剣道部のレタリングが、今は物悲しく輝く。
(´・ω・`)「目の前で、君の大切なナカマとやらを痛めつけてやるつもりだったけど……。もういいや」
抵抗も出来なくなった者を痛めつけるのも、今はただ不毛。
(´・ω・`)「さようなら、鬱田ドクオ。僕を楽しませてくれた男」
ショボンは寂しげに背を丸めると、階段へと歩いていく。
(´・ω・`)「もう二度と会うこともないだろうさ」
- 27 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 23:35:11.64 ID:E2tXrzBIO
* * *
――――っ。
誰かが呼んでいる。
混濁した意識の中、ドクオはぼんやりと思考する。
('A`) (あれ……俺は)
真っ暗な世界。
- 29 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 23:38:10.25 ID:E2tXrzBIO
確か自分は、ショボンとの決戦に臨んでいたはずだった。それが気付いた時にはあっと言う間にやられて――……
思い返そうとすると、鋭く左目が痛む。
(;'A`) (痛ぇ……。そうだ、俺はショボンにボコボコにされちまって……)
身体が重い。まるで大地に縛り付けられているかのように。
顔にぬめりを感じる。触って確かめることもできそうにないが、血であろう事はなんとなく分かった。
( A ) (そうだ……俺は負けたんだ)
- 30 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 23:41:12.66 ID:E2tXrzBIO
――ド――っ。
視界は暗いまま。また誰かが呼んでいる。
心が空洞になっていた。敗北の味。それは筆舌に尽くしがたいほどの絶望を生む。
結局、ドクオは敗者だったのだ。
どれだけクーに武術の道を説かれても、ハインに新しい武器を貰っても、今自分は負けたのだ。
勝てる、と思い込んでいた。
勘違いに過ぎなかったのだ。
( A ) (終わった、全部……そりゃそうだ。最初っから、本当は勝ち目なんて無いに等しかったんだ)
圧倒的な実力差を持つショボンの前に、付け焼き刃の勇気なんて意味を持たなかったのだ。
- 31 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 23:44:18.49 ID:E2tXrzBIO
――クオ――っ。
まだ呼んでいる。もう放っておいてくれ。
( A ) (俺はどうなるんだろう?)
自分は負けた。バッチも奪われたのだろう。
全て終わった。取り返しは付かない。再び風紀委員が現れて、何かをしてくるはず。
ハインの言っていた話では、彼らはバッチを失くした脱落者を誘拐するとか。
自分も直にそうなるのだろう。
今度ばかりはもう助けは来ない。何故なら自分で釘を刺したのだから。
これはドクオ自身の戦いであると。
それもこれも、もうどうでもいい。
( A ) (カッコ悪ぃ……)
こんな不様な姿、誰にも見せたくなかった。
- 32 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 23:47:14.94 ID:E2tXrzBIO
――ドクオっ。
( A ) (もう、いいだろ。俺は負け犬だ。構わないでくれよ)
――ドクオっ!
( A ) (……どうして、そんなに。俺のことを呼ぶんだよ?)
――ドクオォオっ!!
( A ) (……何でだろう、この声)
('A`) (すごく、懐かしい。もうずっと聞いていなかった気がする声だ)
('A`) (うるさくて、うっとうしくて)
('A`) (いつもうんざりさせられた声)
('A`) (でも、すごく――……)
- 35 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 23:50:10.14 ID:E2tXrzBIO
(;A;)
力強い声だ。
もっと呼んでほしい。
そばに行って、応えたい。
ノパ听)
ヒートが、呼んでいる。
- 36 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 23:53:10.73 ID:E2tXrzBIO
* * *
ノハ#゚听)「ドクオオオオオオオオオオオ!!」
慟哭する。
少女は立ち塞がった。勝負を終え、敗者の元から去ろうとするショボンの前に。
真っ赤な髪の毛を炎のように逆立てて、怒りに瞳を震わせて、拳を砕けるほどに握り締めて。
ショボンはあからさまに不快な顔をした。汚物でも見るかのような目つきは、また静かに煮え滾っている。
(´・ω・`)「何だ、お前。また僕の邪魔をしに来たのかよ」
吐き捨てるように。
(´゚ω゚`)「彼の敵討ちのつもりか? 下らないな。もう興味も無くしていたところなのに、鬱陶しいんだよ」
- 37 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 23:56:08.08 ID:E2tXrzBIO
ノハ#゚听)「……うるせえぞ、キノコ頭! 私の用があるのはドクオだ。お前じゃない!」
ヒートは食ってかかる。よれよれになったショボンの半袖、その襟首を掴み、牙を剥く彼女はまさに獣。
ノハ#゚听)「私は怒ってる。今すぐにでもお前をぶっ飛ばしてやりたい! でも、でもだ。
私は、お前に何もしない。パンチ一回、蹴り一発も入れない。それがドクオとの約束だからな!」
(´゚ω゚`)「…………」
ノハ#゚听)「だからここで大人しく、待っていろ!」
突き放す。
鼻息荒く、興奮気味の彼女は彼を押し退けて行く。目指す場所にいるのはドクオ。
ショボンも歩みを止めていた。
背中から、真っ赤なオーラを立ち上げるかの如く。怒れる少女の後ろ姿を、気だるげにただ見てるだけ。
思考を覆い尽くすのは、『下らない』の四文字。
- 39 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/29(金) 23:59:37.54 ID:E2tXrzBIO
完膚なきまでに打ちのめした、敗者のドクオに期待するものは何もない。
そんな冷め切った感情だ。
ヒートは大の字のまま、動かないドクオをフン掴む。
脱力し、起こしても人形のようにぐったりとするだけ。そんな姿を見る彼女は、もう耐えられないとばかりに吠える。
ノハ#゚听)「お前ぇ、何なんだよこのザマは! 何で負けてるんだよ! あいつの、あいつのムカつく面見たか?」
( A )
ドクオは沈黙する。
今の彼には意識が無い。そう呼びかけたところで、反応など返ってくるわけもなく。
それでも、ヒートは諦めなかった。
- 40 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 00:02:10.96 ID:PWSpd9UaO
ノハ#゚听)「目を覚ませよ! まだ負けてないだろ! フサギコと約束したんだろ! ハインに何て言うんだ?!」
( A )
ノハ#゚听)「クー姉ぇだってガッカリする! みんなお前を信じてるんだ! 目を覚ませ、覚ませよおおお!」
( A )
ノハ#;凵G)「私に、私にカッコイイとこ見せてみろよ! 男なら最後までカッコつけろよ!!」
( A )
- 43 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 00:05:07.16 ID:PWSpd9UaO
何度も何度も、ドクオを揺り動かし声を上げる。
目を覚ませ、立ち上がれ。血を吐くような思いで、少女は叫びを上げ続けた。
それでも、返ってくるものはない。痛いくらいの静寂に、彼女の声が僅かに木霊するだけ。
ノハ#;凵G)「ドクオ、ドクオぉぉお! 目を、覚ましてよおお……」
溢れ出す涙が止まらなかった。黙ったままの相棒が、酷く小さく見えた。
堪らなくなり、ドクオを掻き抱く。細く骨張った、それでもしっかりとした男の身体。
ほんの少しでもいいから、動いてほしい。そう、切に願う。
ノハ;凵G)「ドクオ……ドクオ……!」
落ちた涙が、ドクオの頬を叩いた時だった。
- 44 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 00:08:11.64 ID:PWSpd9UaO
――うるさいな。
しゃがれた、懐かしい声。
ノハ;凵G)そ 「――――っ!」
(´゚ω゚`)「……そんな」
二人が眼を見開いて驚く中、彼は立ち上がる。
奇跡でも何でもない。
彼が依然、戦闘不能の傷を負っているのは変わらない。立っているだけで苦痛のはずだ。
それでも、目覚める。
('Aメ)「耳元で……うるせ―奴だな、ホント……勘弁してくれ」
- 45 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 00:11:06.88 ID:PWSpd9UaO
服はボロボロ。膝は震えている。左目は潰れて見えもしない。
彼はヒートの肩を支えに、前へと踏み出す。拾い上げるJET竹刀。再燃する闘志。
勝つ可能性なんて、無いに等しいのかもしれない。
それでも立ち止まることは許されない。
彼は自分のためでなく、誰かのために戦うから。
ノハ;凵G)「ドクオ…………」
('Aメ)「やめろよ。天下御免のヒート様が、ベソなんてかくもんじゃねーって」
小さく『ありがとう』と呟く。
その一言が、堰を切ったように泣き崩れる少女の心へ、無限大の暖かさを取り戻してくれた。
- 46 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 00:14:07.39 ID:PWSpd9UaO
鬱田ドクオは立ち止まらない。
('Aメ)「来いよ、決着を……着けてやる。ショボン……!」
彼は新世界へと踏み出す。
そして、それに何よりの喜びを覚える者は彼だ。
(´゚ω゚`)「すごい……すごいよ、やっぱり君はすごい、最高だ! 最高だ! 最高だ最高だ最高だ!!」
打ち鳴らされる拍手と鮫の牙。喝采は止まらない。
落胆の色は消え去り、ショボンの顔は熱に上気した。
- 49 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 00:17:12.84 ID:PWSpd9UaO
(´゚ω゚`)「やっぱり君は僕のライバル、好敵手だ! 幸せ、幸せ! 僕は君に会えて幸せだ!」
('Aメ)「黙るんだ」
狂気の炎に、再び取り巻かれるショボン。
その圧倒的プレッシャーをもはねのけ、ドクオは前進を止めない。ゆっくりとだが、確実に彼の元へと歩んでいく。
しかし、闘志を燃やすその眼の、片方の光は潰れていた。
最高のテンションで向かってくるショボンを前に、それは間違いなくハンデになってしまうだろう。
零れ落ちる涙を無理矢理拭い、ヒートはドクオの背中へと声を上げた。
ノハ;゚听)「ドクオ! お前左目が――」
('Aメ)「大丈夫だ」
強く、確かに、言い放つ。
('Aメ)「全部、見えている」
- 52 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 00:20:14.47 ID:PWSpd9UaO
光の道標。
彼の雄々しき行進は、その上をなぞる。
世界を覆う稲光。栄光への道。もはや刹那の幻などではない。
見えている。その隻眼には、地を這う輝きがしっかりと映っていた。
('Aメ) (不思議だ。体中が痛くて、頭がボーっとして、左目も見えないのに)
光明の続く先。
それはラケットを凶悪に振りかぶり、悪魔のような笑みで突進してくるショボンへと繋がっていた。
('Aメ) (でも、心が落ち着いている。今なら――……)
――何だって出来そうだ。
- 54 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 00:23:06.64 ID:PWSpd9UaO
道標が屈曲した。
ショボンの動きに呼応して。生き物のように激しく波打ち、折れ曲がる。
ドクオはそれに従うまで。重い足取りが、湾曲した光の筋を踏み締めた。
同時に頬を掠めて行く鉄球。
(´゚ω゚`)「――――っ!」
驚いたのはショボンだった。
突進と同時に、前進の勢いに乗せて打ったドライブサーブ。スピード、威力は共に十分。
疲労困憊、満身創痍のドクオが避けられる球ではない。
だが外れた。
(´゚ω゚`)「くく……ぶぶ、ぶはは。ぶはははは! ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
- 56 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 00:26:29.44 ID:PWSpd9UaO
狂気は加速する。
ラケットを持たぬ左手で、空を薙ぐ。そこからばら撒かれるのは鉄球、鉄球、有らん限りの鉄球だ。
踊り上がるそれらを、彼は目にも止まらぬ速度で打ち抜く。
腰の回転、スナップ、テンション。
全てが連動し、放たれるのは間違いなく、ショボンが打てる最高のサービス。
('Aメ)「――――っ」
鉄の嵐が、ドクオを飲み込んだ。
ノハ;゚听)「ドクオぉぉぉおおお――!!」
流れ球を躱しつつも、ヒートは叫ぶ。
嵐はあっと言う間にドクオを包み込んだ。その叫びも、届いているのか定かではない。
こんな量の鉄球をまともに身に受ければ、全身を砕かれてしまうのは誰にでも予想できる。
- 57 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 00:29:07.15 ID:PWSpd9UaO
今、彼はどうなっているのか。
鉄球の猛攻の前に、どこか弾き飛ばされてしまったのか。
それとも、未だ嵐の中でショボンに狙い撃ちにされているのか。
唐突に、嵐が止む。
ノパ听)「……ドクオ」
(´゚ω゚`)「本当に……君は面白い。一体何があったんだよ? どうやって避けたんだ?」
ショボンは声を震わせて呟く。
('Aメ)
健在。
- 58 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 00:32:20.69 ID:PWSpd9UaO
彼は変わらずに前進を続けている。
ゆっくりと、重い足取りだが、確実にショボンへと接近していた。
まるで先の鉄球など、取るに足らなかったことのように。何事もなかったかのように。
JET竹刀を固くと握り締め、隻眼を燃やす。
('Aメ)「言っただろう。『全部、見えている』って」
ここで一つの異変が生じた。
ショボンにだ。
今までがちがちがちりと、喧しく鳴っていた彼の牙。それがふと、小刻みで微かな音へと変貌する。
鳴る――と言うよりも、もはや振動。彼の歯は震えていた。
表情も青ざめる。笑顔なのは変わらない。だが顔色は真っ青で、脂汗が止め処無く流れ出ている。
瞳が焦点を合わない。
- 60 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 00:35:08.34 ID:PWSpd9UaO
カチカチカチカチカチカチカチカチ。
彼は恐怖していたのだ。
(´゚ω゚`)「君は一体何者なんだ? この僕が……僕が他人に恐怖を抱くなんて」
震える彼は笑みを絶やさない。
強がりではない。彼は、自分が『恐れていること』を喜んでいる。
無人の荒野を行く己の前に現れた、かつて見たこともないような大きな存在――ドクオ。
彼に出会えたことを心の底から恐れ、そして喜ぶ。
(´゚ω゚`)「身の毛がよだつ、震えが止まらない……素晴らしいよ! これが、これが恐怖!」
びくびくと痙攣を始める。足元がふらつく。
そんなショボンの目の前に、ドクオは踏み込んだ。
互いの吐息の温かさを感じる、一足一刀の間合い。疲れ切った両者の、次の一合が全てを決める。
- 62 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 00:38:08.69 ID:PWSpd9UaO
('Aメ)「……そうだ、怖い。戦うことは何時だって怖い」
ドクオは、哀れな快感に囚われる狂人を前に、悲しさを秘めた表情で語る。
('Aメ)「人を傷付けることは、誰かに傷付けられる覚悟が無くちゃ出来ない」
('Aメ)「お前は強すぎる。だから、追い詰められたり負けそうになるなんてことは、今まで考えもしなかった」
('Aメ)「でもそんなのダメだ」
JET竹刀をベルトに差し込む。
('Aメ)「傷付けられる人の心を――負け犬の心を知ってこそ」
腰溜めの構えから、右手を柄に添える。
('Aメ)「人は本当に戦える」
- 63 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 00:41:32.68 ID:PWSpd9UaO
居合の構え。
全ての準備は整い、あとは引き金を引くだけだ。
勝つにせよ負けるにせよ、それで全てが終わる。
(´゚ω゚`)「ああああああああああああああああああああああああ!!」
ショボンの絶叫。
筋肉の硬直を緩め、意識を覚醒させ、恐怖に怯える魂を無理矢理戦場へと引き戻す。
天高く掲げたラケット。高角度から打たれる、五キロの鉄塊によるスマッシュ。当たればノックアウトは確実。
互いの技の威力は、もうこの状況では一撃必殺に違いない。
速い方が勝つ。反応速度が勝敗を決するのだ。
- 64 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 00:44:16.29 ID:PWSpd9UaO
('Aメ)
(´゚ω゚`)
双方、同時に喉を鳴らす。
瞬間、真っ先に反応したのはショボン。
掲げるラケットをそのまま振り下ろすかと思いきや、軌道は弧を描く。
半月は鋭く、ショボンから見て右――ドクオから見て左方向から薙ぎ払われる。
潰れた目の死角を突いたのだ。
これでは、ドクオの反応が遅れないわけがない。
ショボンの狂気は爆発した。
(´゚ω゚`)「いいいいいいぶうはああああああああ!!! これで僕のおおおお――」
確信するのは紛いなき勝利。最高の戦いを制する、この上ない快感。
- 65 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 00:47:12.78 ID:PWSpd9UaO
('Aメ)「鬱圓明流、『JET――」
爆音を上げる鞘。
かまいたちのように唸る剣。
ショボンは確かに、そこで光を見た。眩しく、目が潰れそうなくらいの光を。
ドクオを包み、まるで守護するように溢れ返っていた光。
美しく、強く、無限大。
(´・ω・`) (あぁ……君の見ている世界は、こんなにも美しく、素晴らしい――……)
時間が吹き飛んだ刹那の中で、垣間見るドクオの『新世界(ニュー・ワールド)』。
自分には触れることさえも叶わないと、そう思わされてしまう高次の領域。
- 67 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 00:50:11.01 ID:PWSpd9UaO
('Aメ)「竜胆(りんどう)』ぉぉおおおお――っ!!」
ショボンは現実をへと引き戻された。
(´゚ω゚`)「うぶぁああああああっ!?」
肉に食い込むのは己のラケットではない。ドクオのJET竹刀。
打撃を空振った彼に浴びせられる、最後の居合。それはショボンの頸部に深く、重く、熱く叩き込まれる。
衝撃が大気を振動させる。戦いの最後を飾るにふさわしい、豪快で激烈な一撃。
首が悲鳴を上げた。意識が白く焼きつくされていく。
- 69 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 00:53:26.01 ID:PWSpd9UaO
しかしショボンにはもう、恐れも後悔もなかった。
崩れ落ち、膝を突く。
喉が委縮し、視界がブラックアウトする中で、絞り出される最後の言葉。
(´ ω `)「ドクオ……きみの、こと、が、だいすき……だ……」
黒目が裏返る。重力に従い、ショボンの身体は倒壊した。
('Aメ)「……俺はお前が大嫌いだよ」
ドクオの勝利である。
- 71 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 00:56:11.89 ID:PWSpd9UaO
(;'Aメ)「――うっ」
ノハ;゚听)そ 「ドクオ!」
勝利者もまた膝を突いた。駆け寄るヒートに支えられ、彼は力無く項垂れる。
('Aメ)「終わった……終わったんだな。やったよ……ちくしょう、勝てたんだ」
ノパ听)「あぁ! 勝ったぞ、ドクオ! 間違いなく、お前が・ぎ取った勝利だ!」
('Aメ)「俺の……勝利……」
胸に熱く込み上げてくるもの。
忘れかけていた感覚だ。
かつて剣道に真っ直ぐに打ち込んでいた時、努力の末に強敵を倒した時。同じものを感じたことを、彼は思い出す。
それは勝利の喜び、その余韻。
絶対に勝てるわけがなかった悪魔を、今彼は自ら打ち倒した。その嬉しさは、例えようがない。
- 74 名前: ◆b5QBMirrJE[※訂正] 投稿日:2009/05/30(土) 00:59:14.43 ID:PWSpd9UaO
(;'Aメ)「――うっ」
ノハ;゚听)そ 「ドクオ!」
勝利者もまた膝を突いた。駆け寄るヒートに支えられ、彼は力無く項垂れる。
('Aメ)「終わった……終わったんだな。やったよ……ちくしょう、勝てたんだ」
ノパ听)「あぁ! 勝ったぞ、ドクオ! 間違いなく、お前がもぎ取った勝利だ!」
('Aメ)「俺の……勝利……」
胸に熱く込み上げてくるもの。
忘れかけていた感覚だ。
かつて剣道に真っ直ぐに打ち込んでいた時、努力の末に強敵を倒した時。同じものを感じたことを、彼は思い出す。
それは勝利の喜び、その余韻。
絶対に勝てるわけがなかった悪魔を、今彼は自ら打ち倒した。その嬉しさは、例えようがない。
- 76 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 01:02:14.94 ID:PWSpd9UaO
ノハ;凵G)「くそ! ちくしょう、バカたれ! 一時はどうなることかと思ったぞ! 本当に、本当に迷惑ばっか掛けて……」
('Aメ)「はは、いいだろ……。普段は、こっちが迷惑かけられまくってんだからよ……」
ノハ;凵G)「バッカヤロウ! それとこれとは話が別だ!」
本当は諸手を上げて勝利を喜びたい。
だのに、ヒートはしつこく溢れ返ってきた涙で前が見えなくなる。悲しいわけじゃない。
ただ熱くなった心が、自然と涙を誘う。本人も良く分からなかった。
ノハ--)「くそ、くそ……前が見えない。汗が目に入ったのかな」
真っ赤に目を腫らした者が言うセリフではない。
ドクオは、不器用だが彼女の心の在り方に触れ、くしゃりと微笑んだ。
今、五体満足とはいかないが、もう一度彼女と話せることが堪らなく嬉しい。
- 77 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 01:05:19.98 ID:PWSpd9UaO
('Aメ)「……それじゃあよ、そろそろ帰ろうぜ。フサギコたちが待ってんだろ?」
ノパ听)「あぁ、帰ろう! フサギコだけじゃない、みんなが待って――……」
きいぃ。
(;'Aメ)「――ぐぁっ?!」
ノハ;゚听)「何っ?!」
炸裂する。
錆びたドアが開く音。
気付いた二人が振り返る瞬間、大気が唸り、かまいたちが辺りを席巻する。
目も開けられない程の風圧。ドクオはもちろん、ヒートもまとめて吹き飛ばされるだけの勢い。
- 78 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 01:08:23.23 ID:PWSpd9UaO
( ・∀・)「悪いね」
聞き覚えのある声。一度見たら忘れそうにない、眠そうだが精悍な顔つき。
頂く白髪は相も変わらずボサボサと、縦横無尽に暴れ回っている。彼はゆるりとそこに佇んでいた。
奇襲を前に何とか受け身を取るヒートは、瞬時に鋭い表情と呼吸を行う。
それは彼女の、戦闘前の準備。
ノハ#゚听)「てめー! 白髪頭! 何しに来やがった!!」
かつて窮地を救われる形になったとはいえ、首級を奪った張本人。
決して、良い感情を持てる相手でないのは確かだ。拳の骨を鳴らし、低く構えたヒートはいつでも飛び出せる準備をする。
彼の前で、一瞬の躊躇は命取り。隙を見せれば、すかさず瞬速の蹴りが飛んで来るだろう。
- 79 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 01:11:06.72 ID:PWSpd9UaO
今は、満身創痍のドクオもいる。
彼も守りつつ、この男を撃退することは出来るのだろうかと、心の内では一抹の不安を抱くヒート。
( ・∀・)「少なくとも君に用はないな」
しかし、男――モララーは対照的に冷静だった。
ヒートの燃えたぎるような闘志を前にしても、あくまで冷淡に言葉を紡ぐ。
( ・∀・)「俺の用があるのは、『凶星』ショボンと鬱田ドクオだけさ」
ノハ#゚听)「何だとコラ!?」
( ・∀・)「極秘だけどね。鬱田ドクオ、君の戦いはある意図に則ったものだった。演出されていたんだよ。君も『凶星』も」
('Aメ)「演出……だと?」
- 80 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 01:14:06.59 ID:PWSpd9UaO
( ・∀・)「俺の目的は二名の『回収』。生き残った方にとどめを刺す――それが本来のシナリオだったんだが……」
ゆらりと歩を進めるモララーは、ピクリとも動かなくなったショボンを拾い上げ、重そうに肩へと担ぐ。
彼はショボンの懐から、紐で数珠繋ぎとなったバッチを抜き取り、おもむろに投げ捨てる。
そこには、ドクオの剣道部バッチもあった。
( ・∀・)「見逃そう。俺が着いた時、既に君たちはバッチを奪って去っていたことにするさ」
ノハ;゚听)「……どういう、こと?」
( ・∀・)「今は分からなくてもいい。ただ生徒会には気を付けることだ」
背を向ける。完全に、戦う気はないらしい。
拍子抜けしたヒートが、所在なさげに二人を見比べる中、ドクオが声を上げた。
- 81 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 01:17:11.69 ID:PWSpd9UaO
('Aメ)そ 「おい! あんた生徒会のことについて何か――」
( ・∀・)「鬱田ドクオ」
突然彼は振り返る。
いつもの眠そうな目に、一縷の鋭さを秘めて。
( ・∀・)「君は進んで闘争の渦に足を踏み入れた。今までと比べ物にならない過酷な戦いが、これからは続くだろうさ」
('Aメ)「…………」
( ・∀・)「『凶星』ショボンのような恐ろしい奴も多々いる。そんな中で、君は生き残っていく覚悟があるのかい?」
一体どういう意図をもって尋ねるのか。
モララーは問う。ドクオに、これから続く戦いにどう立ち向かっていくのか――その思いを。
- 84 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 01:20:05.85 ID:PWSpd9UaO
('Aメ)「……正直無い」
ノハ;゚听)そ 「おいっ!」
('Aメ)「でも俺には仲間たちがいる。共に助け合って、守り合う仲間がな」
ノパ听)「ドクオ……」
ただ彼は確信している。
自分には確かに守りたい者たちが、守りたい人がいる。
その思いに偽りはなく、そしてそれに伴う闘争への覚悟もまた紛い物ではない。
隻眼は熱く輝いた。
( -∀-)「……そうか。なるほど。それが君の答え――君の強さなのか」
- 87 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 01:23:33.75 ID:PWSpd9UaO
染み入るようにじっくりと瞼を閉じる。
ドクオにもヒートにも、この謎の風来坊の考えはさっぱり理解できない。
一瞬の沈黙の後、ドクオは思い出したかのように尋ねた。
('Aメ)「あんた、名前は何て言うんだ? 今度こそ教えてくれよ」
( ・∀・)「……言ってなかったか。そうだね、俺は『旋風(つむじかぜ)』のモララー。二年、帰宅部だ」
風は背中で語り、その場を後にする。
( ・∀・)「君たちの味方じゃあない」
新たな波乱と、混沌の臭いを漂わせながら。
- 88 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 01:26:31.20 ID:PWSpd9UaO
* * *
覚醒する。
そこは暗闇。
ねっとりと濃い闇の中では、まるで水中のような息苦しさを覚える。
背には固い床の感触があった。それでも、辺りはさっぱりと見当が付かない。
全身が軋み、呼吸が浅い。意識も朦朧とした中で、彼は己の所在を考えた。
(´・ω・`)「ここは……地獄なのかな……」
独り言は暗闇に吸い込まれていく。
返事はない。周りには誰もいないのだろうか。
- 90 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 01:29:10.52 ID:PWSpd9UaO
(´-ω-`)「まぁ……いいか。何だか頭も痛い。考えるのもめんどくさいや」
脱力する。もう、全てにやる気が起きない。
ショボンは目を瞑る。瞼の裏に広がるのは、変わらない闇だ。
そんな彼の傷だらけの頬に、何かが触れる。
すべすべとした何かがゆっくりと、顔の形を確かめるように撫で回してくる。
彼は悟る。これは人間の手だ。どうやら皮の手袋か何かを嵌めているらしい。その感触がある。
瞼をこじ開けても闇は広がっている。そこに生き物の気配など、感じないはずだった。
それでも顔にかかる吐息の温度は、間違いなく人のもの。
- 93 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 01:32:09.70 ID:PWSpd9UaO
( ω )「お前が考える必要は、何もない」
『誰か』が語りかけてくる。
冷たい声色――だがどこか甘く、もっと聞いていたいとも思わされる不思議な声。
( ω )「全ては私が導こう。お前はただ、付いて来てくれるだけでいい」
(´・ω・`)「…………だれ?」
尋ねた後で、ふと気付く。
今まで誰もいない――そう思っていたこの空間に、突然複数の人間の気配を感じたのだ。
曖昧な感覚だが、ざっと五、六人の呼吸がそこに存在する。
どこか、覚えのある臭い。
(´・ω・`)「きみたちは……だれだ?」
- 95 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 01:35:05.90 ID:PWSpd9UaO
誰かが笑う。
_
( ∀ )「俺たちは開拓者(パイオニア)さ、ショボン。新しい時代を切り開く、な」
( 、 トソン「あなたの能力・思想は非常に興味深く、このまま使い捨てるのは惜しい――それが私たちの判断です」
ミセ* ー )リ「おめでとぉ! これであなたは、晴れてミセリ達のお仲間。理想郷の実現を目指す同志!」
( .)「再生の前には必ず破壊がある。あなたの狂気は、来たるべき変革に必要不可欠の鍵となるでしょう」
( ..)「アドヌラノタyシアヒソンニサハレラウェ、ヂアケサテラソッテシラゲテブス、レグトウィラヲアヒアケサッタスk」
( .)「えぇ、そうですねゼアフォー。全てはゼロに戻る。その世界で真の王者に相応しいのは、たった一人」
- 96 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 01:38:24.24 ID:PWSpd9UaO
再び、ショボンの頬に温かい息がかかった。
闇に目が慣れてきたのか、徐々にその輪郭がハッキリとしてくる。
( ФωФ)
スッと伸びた顎、肉食獣のように鋭い目つき、形の整った眉、メッシュの入ったオールバック。
暗闇の中でぼんやりと浮かび上がる色は白。引き締まった体を包んだ、詰襟が放つ白色だ。
彼は薄い唇を開き、問いかけてくる。
( ФωФ)「答えるがいい。お前の望みは何だ? お前が心から欲するものは、何だ?」
(´・ω・`)「ぼくの……望み……?」
- 97 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 01:41:06.13 ID:PWSpd9UaO
ショボンの望み。
そんなものは決まっている。
彼の生きる目的、彼の求める快感、彼の愛するもの、彼の欲望のジレンマ。
全ては結び付く、一つの帰結に。
(´;ω;`)「僕は戦いたい……ずっと、戦い続けたい……ドクオ、彼と、彼と……」
子供のように泣きじゃくるショボン。その額がそっと撫でられる。
( ФωФ)「涙を拭くがいい。……よかろう、私は与えよう」
微笑みは残酷に。
( ФωФ)「望むならば、永遠の闘争をお前に」
- 98 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/30(土) 01:44:07.61 ID:PWSpd9UaO
凶星は再び輝く。
(´;ω;`)「えへ、えへへ、嬉しいよ、王様。えへへへへへへへ、えへ――……」
(´゚ω゚`)「えへへはははははは! ぎゃあははははは! ドクオ! ドクオぉおおおお!! ぎゃははははは!!」
再び辺りが闇に落ちる。
その中で、ただショボンの笑いだけが反響し続けた。
第十五話・終
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