ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです

5 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 22:18:34.79 ID:latcvQC5O

 ( ^^ω) 『筆闘士(ブラッシュファイター)』 マルタスニムは瀬川

 【AGE】16歳
 【GRADE】一年E組
 【CLUB】書道部
 【HEIGHT】169cm
 【WEIGHT】65kg

 【破壊力】C
 【耐久力】C−
 【スピード】B
 【正確性】B+
 【頭脳】  C
 【持続力】B
 【成長性】D+

 ・シャーミンと共にハインを襲おうとした悪漢。好みは巨乳。
 ・様々なアルコール飲料を掛け合わせて作った秘伝の『墨の鞭』は、驚異の粘りと耐久力を誇る。
 ・対ヒート&ハイン戦、敗北。

6 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 22:21:00.11 ID:latcvQC5O

 ,(・)(・), 『筆闘士(ブラッシュファイター)』 シャーミン松中

 【AGE】16歳
 【GRADE】一年E組
 【CLUB】美術部
 【HEIGHT】160cm
 【WEIGHT】60kg

 【破壊力】D−
 【耐久力】D
 【スピード】C+
 【正確性】B+
 【頭脳】  B−
 【持続力】B
 【成長性】C

 ・は瀬川と共にハインを襲おうとした悪党。好みは幼女。
 ・自らの身体に絵の具を塗りたくり、景色と同化する能力を持つ。気付かない相手は後ろからパレットナイフでザクリ。
 ・対ヒート&ハイン戦、敗北。

8 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 22:23:31.73 ID:latcvQC5O

 ( ´ー`) 『菱の陣(ダイアモンド・フォーメーション)』 シラネーヨ

 【AGE】18歳
 【GRADE】三年A組
 【CLUB】野球部
 【HEIGHT】176cm
 【WEIGHT】69kg

 【破壊力】B+
 【耐久力】C
 【スピード】C
 【正確性】C+
 【頭脳】  A−
 【持続力】B−
 【成長性】C−

 ・野球部のチームワークと運動能力を最大限に生かし、チーム戦で部活動を制覇しようと企んでいた男。
 ・ナインの力を借り、近〜中距離の戦いでは集団戦法『菱の陣』により相手を圧倒する。一人二人では、そうそう敵わない。
 ・対モララー戦、敗北。

9 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 22:27:06.59 ID:latcvQC5O

 ( ・□・) 『大佐(カーネル)』 ブーン

 【AGE】15歳
 【GRADE】一年C組
 【CLUB】ミリタリー研究会
 【HEIGHT】154cm
 【WEIGHT】56kg

 【破壊力】D
 【耐久力】D−
 【スピード】C+
 【正確性】C
 【頭脳】  C
 【持続力】D
 【成長性】C+

 ・ミリタリー研究会を率いる。自信家で人を見下すような口調が特徴的な小男。
 ・ほぼ戦闘能力は皆無だが、チームを率いる統率力と、M134機関銃による掃射は強烈の一言。
 ・対ヒート戦、敗北。

10 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 22:29:27.54 ID:latcvQC5O

 (‘_L’) 『軍曹(サージェント)』 フィレンクト・ミッドガルド

 【AGE】18歳
 【GRADE】三年D組
 【CLUB】ミリタリー研究会(副部長)
 【HEIGHT】186cm
 【WEIGHT】76kg

 【破壊力】B
 【耐久力】B−
 【スピード】A−
 【正確性】B+
 【頭脳】  B−
 【持続力】B−
 【成長性】D−

 ・屈強な肉体と冷静な判断で、ブーンの補佐をする男。物腰は丁寧だが、戦闘スタイルは荒々しい。
 ・鍛え上げられた肉体は、スピードと腕力もバランス良く、万能型な接近戦タイプ。得物は二本のスタンロッド。
 ・対クー戦、敗北。

14 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 22:32:17.38 ID:latcvQC5O

 ('(゚∀゚∩ 『エアリアル・スナイパー』 なおるよ

 【AGE】17歳
 【GRADE】二年C組
 【CLUB】男子バレーボール部
 【HEIGHT】150cm
 【WEIGHT】48kg

 【破壊力】A+
 【耐久力】C−
 【スピード】C
 【正確性】B−
 【頭脳】  C+
 【持続力】C+
 【成長性】B

 ・小柄だが、驚異の跳躍力により前衛でスパイクを連打するエースアタッカー。マリントンとコンビ。
 ・高高度からの『スナイプ・スパイク』は、まともに受ければ骨も折れる威力。そう簡単にレシーブすることは叶わない。
 ・対ショボン戦、敗北。

15 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 22:34:30.13 ID:latcvQC5O

 |;;;;| ,'っノVi ,ココつ 『肉の壁』 榊原マリントン

 【AGE】18歳
 【GRADE】三年D組
 【CLUB】相撲部
 【HEIGHT】196cm
 【WEIGHT】213kg

 【破壊力】A−
 【耐久力】A
 【スピード】B−
 【正確性】D
 【頭脳】  D+
 【持続力】C+
 【成長性】C

 ・大柄な体に見合ったパワー、そして意外にもスピードを併せ持つスモウレスラー。なおるよとコンビ。
 ・掌打の嵐、『張り手マシンガン』は攻守ともに優れた技。近づくことも逃げることも難しい、まさに『肉の壁』。
 ・対ショボン戦、敗北。

16 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 22:36:59.29 ID:latcvQC5O

 ― CAUTION ―

 なお、ここで表す能力値はあくまで目安的なものなので、その差が本編での勝敗に必ず影響するわけではありません。

 ご理解のほど、あしからず。では本編入ります

17 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 22:39:35.56 ID:latcvQC5O


从 ゚∀从「はん? 『絶対王者』? 随分と大層なお名前が付いていたんだな、セントジョーンズよぉ」


 現れる、凶悪な戦闘集団の首魁。
 その自己紹介を耳にしてなお――というより、耳にして初めてハインが冷静さを取り戻したような。
 いつもの尊大で傲慢、そして貪欲な光が瞳に戻っている。

(’e’)「おや、見知った顔がいるね。久しぶりじゃないかハインリッヒ高岡。どうだい、元気にしていたかな?」

从 ゚∀从「知るかよ。そっちこそ相変わらずの尊大な物言い、変わってなくて安心したぜ」

(’e’)「尊大なのは君も同じじゃあないかな。少なくとも、僕は君と違って気品と礼儀に溢れているがね」

18 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 22:41:59.44 ID:latcvQC5O

 小男と少女が睨み合う。
 双方、共に表情は険しいなんてものではない。もはや憎悪。
 セントジョーンズは醜悪に、ハインは思いっきり不快に、顔にたっぷりと皺を寄せていた。

ミ,,゚Д゚彡「ハイン、こいつは知り合いなのか?」

从 -∀从「どこがだよ。昔々にチェスの大会で因縁吹っかけられて、それ以来付き纏われているだけさ」

(’e’)「君のように粗野で、犬のように全てを食い散らかす女は嫌いだよ。全くもって汚らわしい。
 そんな奴が、この僕の戦績に一度でも泥をかけたのが気に食わないだけさ。勘違いして欲しくないな」

从 ゚∀从「ほざけよ。てめえの輝かしい勝利の歴史なんざ、オレの前じゃ砂上の楼閣さ。
 下らないプライドに振り回された挙句、ついには武喝道にまでやって来やがったとはな。しつこい男は嫌われるぜ?」

20 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 22:44:29.93 ID:latcvQC5O

(’e’)「……本当に相変わらずだな、君は。自意識過剰もいい加減にしたまえ」

从 ゚∀从「それに、随分と物騒な奴ら引き連れてるじゃねえか。バッチが一つしかない割には人気者だな」

(’e’)「王たる僕の元に、然るべき戦士たちが集まっただけだ。カリスマだよ。君に欠けているものさ」

从 ゚∀从「…………」

(’e’)「僕は戦略を提供し、彼らは勇敢な兵士となって戦う。約束したのは優勝の二文字だ。それで充分だろう?」

从 ゚∀从「何が兵士だ、駒の間違いだろ」

 暴言に罵声を浴びせ掛ける舌戦。
 因縁深い間柄らしい二人の間には、既に一触即発の空気が漂う。


 変化は向こう側から起きた。


22 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 22:46:58.30 ID:latcvQC5O

ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです

第十八話『チェス、ロリータ、或いはベーグル』

24 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 22:49:42.86 ID:latcvQC5O

 表情は静かだが額に青筋を浮かべ、怒りを顕にするセントジョーンズにミルナが耳打ち。

( ゚д゚ )「セントジョーンズ、やるのか? 我々の準備は既に整っている。必要ならばいつでも戦えるぞ」

(’e’)「んん、あぁ、そうだな……まぁ待て」

 何とか怒りに歯止めをかけようと、彼も深呼吸を繰り返す。

(’e’)「そうだ、今更だが理解しているかな? 君たちは包囲されている。まさにその命運は僕の手の上、ということだ。
 僕が一言声をかければ、こいつらは一斉に君たちに襲いかかり、殲滅する。それですべて終了――呆気ない終わりさ」

从 ゚∀从「舐めんな、お前がそんなこと出来ねーってのは分かっている」

 絶望的状況は確かなのに、変わりないのに。
 ハインはあくまで冷静だ。静かに、淡々と言葉を次ぐ。

26 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 22:52:09.94 ID:latcvQC5O

从 ゚∀从「仮にここで総力戦になりオレ達を全滅させた所で、お前らの被害がゼロなんてことはあり得ねえ。確実に二、三人は再起不能にする」

(’e’)「だからどうした? 君たちの負けに変わりはない」

从 ゚∀从「抜かせ。完璧主義のお前のことだ、死んでもそんな不様な戦いはしない。やるなら圧勝――だろう?」

(’e’)「……なるほど」

 ニヤリと歪む頬。

 ハインの洞察に対し彼は笑う。まるで嫌悪と感心が入り混じったような、複雑な表情。

(’e’)「全くもって君は憎たらしい。そこまでこちらの思惑を理解してくれるとは……胸糞悪い女だ」

28 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 22:54:32.93 ID:latcvQC5O

 セントジョーンズは後ろ手に合図を送る。
 それを機に、居並ぶ猛者たちは一時的に戦闘態勢を解いた。
 槍を下ろし、弦から矢を外し、しかして包囲はそのままに。

(’e’)「大方、最後にはその新聞部を人質に、この包囲を突破する腹積もりだったんだろう」

(;,,゚Д゚)そ 「――っ、セントジョーンズ!」

(’e’)「安心しろ、ギコ。僕はこの女のように外道じゃない。お前の彼女の安全は保障する」

(;,,゚Д゚)「……ならいい、信用しよう」

 最後の最後まで、一人ヒートたちへと飛びかからんとばかりに構えていたギコ。
 渋々というように、彼はゆっくりと下がる。よほど、しぃのことが気にかかるのだろう。
 後退しつつも視線は彼女に張り付いたままだった。

30 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 22:57:12.11 ID:latcvQC5O

(;゚ー゚)「ギコ君……」

ノパ听)「大丈夫だ、しぃ。ハインはズルっこい奴だけど悪党じゃない。卑怯な真似はしないさ」

(;゚ー゚)「う、うん。ありがとうヒートちゃん……」

 なだめられて尚、しぃの悲愴な瞳はギコから離れない。

 そんな少女の思いを汲み取られることも無く、王者の演説は続く。
 まるで自分の発する一言一言に、深い陶酔を抱くような恍惚の表情。

(’e’)「さて、それで君はどう考える、高岡? 僕達に今ここで戦う意思はない。ならば僕は、どういう意図を持って君たちに接触するのか」

从 -∀从「知らないね。これ以上、お前のバカげた思考をなぞるのはゴメンだな」

川 ゚ -゚)「……投降しろ、とでも言うつもりなのかな?」

33 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 22:59:40.23 ID:latcvQC5O

 高笑い。

(’e’)「面白いな、なるほど確かにそれもいい。だが、君たちがそんな提案を受け入れるとも、僕は考えていないさ」

ノハ#゚听)「わけわかんねーぞ、チビ助! 言いたいことがあるならとっとと言いやがれ!」

('Aメ)「ヒート、こいつはきっとこう言いたいんだよ。『正々堂々と勝負して、お前らを完璧に負かしてやりたいんだ』ってな」

 いきり立つヒートを抑えて、ドクオが片眼でセントジョーンズを睨む。
 そこに沸き立つのは、また闘志。しかし、ヒートのように真っ赤に燃えたぎるそれではない。
 もっと静かな、青い炎だ。

(’e’)「……鬱田ドクオ、正直君のことを過小評価していたよ。無名の雑魚が、『凶星』ショボンを本当に倒せたのか?ってね。
 だが違うようだ。やはり、ヒート軍団の中で最も危険なのは君だよ。素直ヒートでも、ハインリッヒ高岡でもない。間違いなく君だ」

('Aメ)「そりゃあ嬉しいね」

36 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:02:22.97 ID:latcvQC5O

 ドクオはさらりと受け流すが、その言葉の重みは果てしない。

 その成長性、以前とは明らかに違うポテンシャル。
 セントジョーンズは会ったばかりの彼に、無限の広がりを感じているのだ。底の見えない、その潜在能力を。

 それはつまり、間違いなく今のドクオが武喝道における特殊な存在となっている証拠。
 名も無き一人の雑魚から、強敵たちに狙われる猛者へと変遷した、その証。

(’e’)「彼の言う通り。君たちはすこぶる邪魔者だ。僕たちの堅実で確実な勝利の栄光も、このままじゃ全て台無しだよ。
 そして同時に恐れてもいる。この先、君たち放置しておけば大きな障害となるのは目に見えているからね」

39 名前: ◆q2DBIOsk9ijb[いま気付いたけど何か酉が変だ] 投稿日:2009/06/22(月) 23:05:00.86 ID:latcvQC5O

 彼が固執するのは、あくまで完全な勝利。
 絶対的な力で、圧倒的に勝利する。そこに一切の揺らぎを肯定しない。
 肩を並べるものなどあってはならない――それがセントジョーンズの哲学。

(’e’)「僕は提案する。会ったばかりでこの言い回しは変だが、『そろそろ決着を着けようじゃないか』。
 お互い、目の上のたんこぶなのは同じ。そして戦いはあと四日もある。これ以上のアクシデントは避けたい」

从 ゚∀从「だったらとっとと勝負して、どっちが上なのかハッキリさせようってことかい」

(’e’)「僕たちは後々の脅威を取り払える。君たちは優勝に王手をかけることができる。いい条件だろう。
 それにだ、ご存知の通り僕は完璧主義者。万全の君たちを叩き潰さないと気が済まない。分かっていただけたかな?」

从 -∀从「……どうだかな」

41 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:07:35.67 ID:latcvQC5O

 ハインの答えは決まっている。
 しかし、彼女は敢えて自分から答えを出さなかった。そして視線を反らす。
 その行き先は誰でもない、ドクオだ。

从 ゚∀从「オレ達のリーダーはドクオだ。オレは参謀、決定権はこいつにある」

('Aメ)「ハイン……」

从 ゚∀从「信用しているぜ、ドクオ。もっとも、この場で最善の選択は一つしかないと思うがな」

(-A+)「あぁ、分かってる」

 下がるハインと入れ替わりに踏み出すドクオ。
 不敵な笑いを貼り付けたまま、こちらの様子を窺っているセントジョーンズと真っ向から睨み合う。
 腹の内は決まっていた。

 声を上げる。


43 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:10:01.13 ID:latcvQC5O


('Aメ)「その勝負、受けて立つ」


 力強く。

(’e’)「そう言ってくれて嬉しいよ」

 まるで最初からこの答えを知っていたかのように、不気味に微笑むセントジョーンズ。

('Aメ)「御託は良い、いつおっ始める気なんだ?」

(’e’)「ふふ、そんなもの決まっているじゃあないか」

 掲げられた腕、骨張った人差し指と親指が作る一つの輪。


(’e’)「今夜零時、場所は学園内なら問わず――つまりサバイバルゲームさ。本当の意味のね」


 水を打ったように静まり返る。
 とても十人強の人間が息づいているとは思えない程の、深く重い静寂。
 その中で各々、一体何を思い浮かべるのか。

▼・ェ・▼

 まだ誰も知る由もなかった。

45 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:12:33.94 ID:latcvQC5O

 * * *


 再びの学園長室。

  _、_
( ,_ノ` )「……なるほど、あらかた知りたいことは聞き出せましたな」


 渋澤はソファーに横たわるでぃを見つめる。
 先のように生気の無い声で語りだすことも、人形のように動きだすこともない。
 今、彼女は間違いなく眠りに落ちていた。静かで、規則的な呼吸がその証拠。

川д川「参加している部活動の総数は百二十四、その内で現在生き残っている部活は四十七。予想以上に加熱していますね」

 傍らに腰掛ける貞子がそっと彼女の額を撫でる。
 汗で張り付いた前髪をを剥がしても、でぃはピクリとも反応を示さない。
 ただ昏々と眠るのみ。

48 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:15:18.05 ID:latcvQC5O

(-@∀@)「今日と明日を除いた残り四日間で、その生き残りたちが最後の一人になるまで戦う――と。
 ヒヒ、ガキのお遊びにしちゃあ少々大袈裟ですね。それに行方不明者も出ているとか? けったいな話ですよ」
  _、_
( ,_ノ` )「詳しいことは聞き出せなかった。だが、ゲームの敗北者が軒並み行方知れずになっているのは事実らしい」

川д川「寮生が九割を占めている我が校の盲点ですね。自宅通学者が一人でもいれば、親御さんたちが不審を感じていたでしょうに……」

/ ,' 3「――いや、その件に関しては不幸中の幸いじゃよ」


 荒巻はデスクの上で組んだ手に、分厚い皺の寄った顎をどっかりと乗せた。


/ ,' 3「事態が外に漏れずに済んだ。今、騒ぎを学園内だけで鎮圧できれば万事解決じゃ」

49 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:17:30.86 ID:latcvQC5O

川д川「一般教諭の方々は何も?」

/ ,' 3「おそらく――いや、確実に知らんな。皮肉じゃが、それは生徒会の隠蔽工作の賜物じゃよ。
 仮に一般の先生方に気付かれたとしても、そこはワシが何とかしよう。必要ならば圧力をかけてでも閉口させるわい」

(-@∀@)「ヒヒ……なるほど。それで学園長、一体これからどうするのですか? 生徒会を叩き潰せ、とでも?」

 恐らく本当に分からないわけではないのだろう。
 アサピーは分厚い眼鏡の奥で、その静かな狂気を燻ぶらせていた。
 貞子、そして渋澤もそれに気付くと不快そうに眼を反らす。

 彼に真っ直ぐと向かい合えるのは荒巻だけだ。

/ ,' 3「いや、それは無理じゃ。あの子らは優秀で、勘も鋭い。ワシらの動きを察知すれば、すぐにでも身を隠すだろうて」

50 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:20:09.08 ID:latcvQC5O

川д川「ではどうすれば……」

/ ,' 3「何、考え方を変えようではないか。要は、この馬鹿騒ぎが終わってしまえば良い。生徒会は後からでも引き摺り降ろせる」
  _、_
( ,_ノ` )「……頭を潰せば蛇は死ぬ。が、今回は敢えてその逆を――ということですな」

 渋澤の静かな答えに、老紳士はにっこりと微笑む。

/ ,' 3「そうじゃ。手間取るが致し方あるまい。幸いにも、でぃ君のおかげで参加者の情報は把握できた」

 下されるのは、掃討の命。


/ ,' 3「まずは武喝道参加者の生き残り四十七名。それらを根こそぎ全滅させる。それが第一目標じゃ」


52 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:22:41.24 ID:latcvQC5O

 力技だ。

 道理もへったくれもない、荒々しい解決法。
 戦いを統括する生徒会を叩くのではなく、生き抜いてきた猛者たち――敢えて彼らに牙を向ける。
 確かに煩わしく困難、しかして確実な方法だ。参加者が一人もいなくなれば、武喝道が自然消滅するのは当然。

 その茨の道を選ぶ胆力と、実力。

 居並ぶ教師たちに、その力があると見込んでの提案なのだろう。


/ ゚、。 /「ちょっと遅刻してみれば、随分とめんどくさそうな話になっているし」


 唐突にドアが開く。


54 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:25:09.11 ID:latcvQC5O

 鋭い視線を向ける四名の前に現れた者。半開きのドアを押し閉じ、ふんぞり返る小柄な女性。
 いや――小柄などという言葉では片付けにくい。
 その不遜な立ち居振る舞いとギャップを放つ姿。

 まるで幼女だ。
  _、_
( ,_ノ` )「鈴木先生……ダイオードか、遅かったな」

 緊張の糸を解く渋澤。
 片や、ダイオードという名らしい女性は返事もまともに返さず、ずかずかと部屋に踏み入る。
 断りもなくソファに身を沈みこませる様子は、見た目にはただのわがまま娘。
 しかし、目付きが子供のそれではない。

 まるで幾多の修羅場をくぐってきたかのように、刃物と化した視線は辺りを舐め回す。

57 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:27:30.08 ID:latcvQC5O

/ ゚、。 /「オジジ、子供相手に『洗脳』なんて使ったのか? 学園長がやることにしちゃあ、少々物騒だし」

/ ,' 3「洗脳と言っても、ロマネスクのものよりは強制力も持続力もずっと下回っておるよ。
 所詮、年寄りの精神力では逞しい若人の心を縛り付けることは難しい。それに一時的なものじゃ、害はない」

/ ゚、。 /「なるほど。確かに、老いぼれにはその程度が妥当だし」

 髪は、深まる夜空のような濃紺の姫カット。愛くるしい卵型の小顔。
 身を包むのは、黒と白を基調としたジャンパースカートに丸襟のブラウスだ。
 厚底のストラップシューズを履いてはいるが、丈が足らずに床から浮いてしまってる。

 典型的なロリータファッション。

 そこにいるだけで雰囲気を一変させるだけの存在感を、彼女は孕む。

59 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:30:00.67 ID:latcvQC5O

/ ゚、。 /「とにかく疲れたし。貞子、お茶を淹れるし」

川;д川「あ、はい、すいません。今、淹れ直しますね」

 キツめの声に追い立てられた貞子は、急須を手に壁際の給湯ポッドへ駆け寄った。
 いつでも茶を淹れられるように置いているのだろう。立ち上る湯気と共に熱湯が注ぎ込まれる。

(-@∀@)「それでダイオード、あんたは今まで何をしていたんですか? 気紛れも場合によっちゃ集団の輪を乱しますよ、ヒヒ!」

/ ゚、。 /「黙るし。ダイオードは理由があって離れていただけだし」

 鬱陶しげにアサピーの言葉を跳ねっ返し、ソファでゆったりと身をくつろがす彼女は出し抜けに、自らの指を口元へ。
 桃色の唇がそっと、小枝のように細い人差し指と中指を食む。次の瞬間にはひゅっと擦れるように鳴った。

 指笛だ。

61 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:32:31.79 ID:latcvQC5O

 合図を聞き付けたのか、床を規則的に叩く爪の音と共に、それは学園長室に飛び込んでくる。


▼・ェ・▼「バゥッ!」


 白、茶、黒の模様。垂れた耳と小さいが良く動く体躯。
 一匹のビーグル犬が走り込んでくると、迷うことなく腰かけていたダイオードの膝の上に飛び乗った。
 愛情表現のつもりらしい。
 嬉しそうに息を荒げながら、ビーグルは彼女の顔を舐める。

▼・ェ・▼「クゥーン、クゥーン、ハッハッハッ!」

/*゚、。 /「あーうー、可愛いし、愛らしいし。お利口だし、ビーグル。いい子、いい子」

63 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:34:59.27 ID:latcvQC5O

▼・ェ・▼「バゥッ、バゥッ、アゥ! クゥーン、バゥッ!」

/*゚、。 /「んー? そうなん? そうなんね? 偉いし、ビーグル〜! よしよし〜」

(-@∀@)「…………」

/ ゚、。 /「何見てんだし、この野郎」

 やれやれと溜め息。

(-@∀@)「それで、その犬畜生は何と言っていたんですか?」

/ ゚、。 /「犬畜生じゃないし、ビーグルちゃんだし」
  _、_
( ,_ノ` )「ダイオード、用件だけ伝えてくれないか?」

64 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:37:30.94 ID:latcvQC5O

 アサピーにばかり話をさせていては埒が明かないと踏んだのだろう。
 渋澤に問われたダイオードは少し不服気に、言葉を紡ぐ。

/ ゚、。 /「今夜の零時、ガキ共が派手な喧嘩をおっ始めるつもりらしいし。場所はここ、学園内。
 集まっていた面子は一年のセントジョーンズやら、素直姉妹、槍術部のミルナ。他にも血の気の多そうなのが数人いたようだし」
  _、_
( ,_ノ` )そ 「素直――二年の素直ヒートか?」

/ ゚、。 /「それに加えて三年のクール。生真面目な優等生まで喧嘩祭りに興じているとは、ダイオードも少し驚きだし」
  _、_
( ,_ノ` )「……そうか、ふむ……分かった」

 渋澤は黙りこむ。
 太き剛腕をしっかりと組み、薄く皺の入った表情を曇らせた。
 ダイオードには測り難い心情だ。それっきり、彼は口を閉ざす。

67 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:40:09.56 ID:latcvQC5O

 代わりに話を進めるのは荒巻。

/ ,' 3「ともあれ、鈴木先生の言う通りならば見過ごせんな。言わば『ないすたいみんぐ』という奴かもしれんが」

(-@∀@)「ヒヒヒ、では早速――」

/ ,' 3「うむ。学園有事対策処理部隊、『聖斗指導部』の行動制限を限定解除する」


 『聖斗指導部』


 聞き慣れぬ名。
 しかして、彼らにとってそれは己らを表す明確な記号らしい。
 沈黙する渋澤、茶を淹れる貞子、静かに滾るアサピー、そして謎を孕むダイオード。
 皆々一様に、その眼の奥に特別な光を灯しだした。

68 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:42:31.53 ID:latcvQC5O

川д川「しかし、限定解除ですか……難しいですね」

/ ,' 3「そうじゃ。暴れ回っているとはいえ相手は子供。どのような事情があろうと絶対に――」


(-@∀@)「――殺すな、でしょう?」


 凍てつく空気。

/ ゚、。 /「無茶な話だし。渋澤やダイオードはまだしも、この眼鏡と貞子にそれを求めるのは困難だし」

川;д川「そ、そんな……私は別に……」

(-@∀@)「ヒヒヒ! 全くですよ、殺した方が楽だというのに……!」

/ ,' 3「そういう問題ではない。彼らは子供で、そして君たちも今は教師という立場にいること――それを決して忘れるな」

69 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:45:08.27 ID:latcvQC5O

 貞子は自らに言い聞かせるように何度も小声で呟きながら、アサピーはいかにも不満げにだらだらと首を曲げながら。
 了承はする。
 本当のことを言えば、これだけ言っても荒巻は心中の不安を隠せずにいたのだが。

 しかし、時間は待ってはくれない。

 今も尚、時刻は緩やかだが、確実に零時へと近づいているのだから。


/ ,' 3「さぁ、状況開始じゃ。子供たちに見せてやろうぞ。大人を怒らせるとどういうことになるのかを」


 笑顔に影を落としながら、立ち上がる荒巻は静かな口調でそう述べたのだった。

70 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:47:32.08 ID:latcvQC5O

 * * *

 時計の針が天上を穿つ。

 濃厚な闇が立ち込める、人気もない午前零時。
 天蓋を厚い雲が覆い尽くし、月明かりも差し込むことを許されない。
 学園も、朝昼の賑やかな様子が嘘のように静まり返っている。

 まるで死を孕む城。

ノパ听)「暗いなー。足元もまともに見えねーぞ」

 軽々と校門を飛び越え、猫のように音もなく着地。
 好奇心旺盛に闇の中を、きょろきょろと見回す二つの光が浮かび上がった。

71 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:50:36.88 ID:latcvQC5O

从 ゚∀从「おい、あんまりはしゃぐなよ。まだセキュリティのハックが終わってないんだ」

 門扉の向こうで愉快そうに夜の学園を満喫しているヒートを尻目に、ハインは地面に腰掛けノートパソコンを操作する。
 ノータイムのブラインドタッチは高速。次々とウィンドウが開いては閉じ、『CLEAR』の文字がディスプレイを覆い尽くした。

 傍らで、ハインの手腕を覗き込んでいたフサギコは溜め息をつく。

ミ,,゚Д゚彡「全くもってお前は万能だな。学校の警備セキュリティをインターホンからハッキングするなんて、にわかには信じられん」

从 ゚∀从「どーせ民間のセキュリティ会社だ。大したことねーよ。端末さえあれば訳はない」

 アダプタから伸びるがコードの先は、カバーを取り外され内部を顕にされた校門のインターホン。
 ハインの指先一つで、この蟻の一穴から学園の警備は全て裸にされてしまうのだ。

73 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:53:30.27 ID:latcvQC5O

从 -∀从 (伝える必要もないことだが、実は繋いだ時点でほとんどの障壁がクリアされていたんだがな。
 必要最低限、校内で移動の差し支えになるポイントのみ。多分、セントジョーンズたちの仕業だろう)

 タイプを続ける彼女の脳裏を埋めるのは、既に敵が先行している可能性。
 それは敵の誘いに乗った時点で避けられない事実。
 最悪、このまま勝負をすっぽかし逃げることも可能だ。しかし、それは彼女の精神に反する行い。

从 ゚∀从 (ムカつくぜ。まさかあのクソ野郎の目の前で、ケツまくって逃げるのだけは勘弁したいからな)

 ハインには珍しい、感情的な理由だった。

从 ゚∀从「よし、終わったぜ。感謝しろ野郎ども。これでオレ達は透明人間になった。
 大騒ぎ上等。中で火を焚こうが壁をブッ壊そうが、センサーもカメラも一切反応しない」

 最後に一叩き、エンターキーが押し込まれる。
 浮かび上がるウィンドウたちが降伏するかのように、緑色に染まって閉じられていった。

74 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:56:11.46 ID:latcvQC5O

川 ゚ -゚)「それは助かる。あの面子に対して、セキュリティの心配をする余裕はないからな」

 それを合図に、ヒートに続いてクーも校門を飛び越える。
 ひらりと裾のはためく袴。今回は制服の時のように、余計な懸念はない。
 身なり、台詞からも伝わってくる。素直クールが全力で闘う――その予告が。

ノハ*゚听)「ドクオも来いよ! 真っ暗ですごいぞ! 声もめちゃ響く!」

 そんな緊張感もどこの話。
 興奮気味に飛び跳ねるヒートは、校門に顔をへばり付けると相棒を呼んだ。
 しかし、本人の反応は芳しくない。

('Aメ)、「え、あ、あぁ……」

 引け腰。

75 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/22(月) 23:58:28.43 ID:latcvQC5O

 どこか覚束ない足取りで校門をよじ登る。素直姉妹とは比べ物にならない、地味臭い侵入の仕方。
 しかし、一足飛びに胸より高い鉄扉を跨ぐのは、決して容易いことではない。
 あくまでドクオが普通なのだ。

(;'Aメ)「うぉ、とと……。うぅ、く、暗いな、すぐそこの様子もわからねー……」

 地に足が着くと、老眼鏡を落とした年寄りのよろしく恐々と歩き出す。
 無造作に突き出された両手とひょろ長い体躯が相まって、チープなゾンビ映画の登場人物のようだ。危なっかしい。

 ヒートは何やらその様子に思いつくことがあったらしい。
 音も立てずに走り出すと、ドクオに気付かれないように背後へと回る。

(;'Aメ)「ヒート? クー? おいおいどこだよ、すぐそこにいるんだろ? マジで見えねーんだよ」

78 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:01:07.63 ID:DvyWaoAWO

 焦るドクオが立ち止まったその時、


ノパ听)σ「つんつーん!」


 突き出された人差し指が、弛緩し切っていた脇腹を刺す。

(゚Aメ)「ひゃおぅっ!!」

 全身の毛を逆立てる。おまけに大絶叫。
 ドクオは石のように直立不動のまま固まると、ぱたりと地に伏した。口は全開、目は白目を剥いている。
 後に残るのはヒートの爆笑。

ノハ*;凵G)「ぶはははは! ふひ、今の、『ひゃおぅっ』だって! ぷははは、ぷひ、ぷひひ! カッコ悪ぅ!」

 腹を抱えて大笑い。

80 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:04:01.00 ID:DvyWaoAWO

 覚醒したのか、むくりと起き上がるドクオの目に怒りの火が灯っていた。
 彼は暗い所と幽霊の類がからっきしダメだ。
 しかし、許すまじきはそれを知っての上で狼藉を働く幼馴染。

(#'Aメ)「ヒート! お前よくもやりやがったな!」

 怒髪、天を突く。
 大人げなくも、紅いポニーを目印に彼はヒートを追いかけ回した。
 無論、彼女は捕まる気も悪いことをした気もない。相変わらず甲高い笑い声を止めぬまま、軽やかに闇を疾走する。

ノハ*;凵G)「ぶふぅ、ははははは! ダッせー! 昔、同じようなシュチエーションでオネショしたのを思い出したかー?」

(#゚Aメ)「テメー!! 言ってはならんことをおおお!!」

81 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:06:38.26 ID:DvyWaoAWO

 ついにはJET竹刀を抜いて暴れ回る。酷いものだ。

 しかし、紅い軌跡がふいっと視界から消えたかと思うと、突然ドクオの顔面が何かに衝突する。
 勢い余って躓いてしまったらしいのだが、その何かのせいで怪我はせずに済んだようだ。

('Aメ)「あ痛たたた、とっと、何だこれ?」

 右手を突き、それを頼りに体勢を立て直す。随分と柔らかいものだった。
 開いた手にも収まりきらない程のサイズ。ゴム毬のような感触を、にぎにぎと確かめては訝しがる。

 次第に、夜の濃さに目が慣れてきたのか。

川 ゚ -゚)

 ドクオの眼の前にはクーがいた。

82 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:09:16.91 ID:DvyWaoAWO

('Aメ)「あれ、何だよ。すぐ近くにいたのかクーは――……」

 改めて、手元を確かめる。

 がっちりと。

 どういうわけだかドクオにはさっぱりだったのだが、間違いない。
 彼の五指はしっかとクーの胸を鷲掴みにしていた。
 道着の上からでもたわわな形状が滲み出る、推定Eの文句なしの巨乳。

 もう一度、にぎにぎ。

('Aメ)「やーらか……」

川#゚ -゚)「何を、しているか……っ!」


 天地が回転する。


85 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:12:00.26 ID:DvyWaoAWO

(゚Aメ)「ん、ぼぉあ!?」
 頭から真っ逆さまに投げ落とされた。
 首から変な音と、口から悲痛な呻き声を上げ、ドクオは奇怪なトーテムポールと化す。
 痛々しいことこの上ない。

川#゚ -゚)「全く! 不埒この上なし、少し見損なったぞドクオ!」

(;'Aメ)「いや、だって今のは不可抗力――」

川#゚ -゚)「問答無用!」

 ダメ押しにもう一撃。
 打たれた蹴りが、地面から覗いてくる情けない顔を踏み潰す。

(゚Aメ)「あばっ?!」

 痛みに悶絶。
 土の上を転がりまくるドクオをほったらかし、肩を怒らせてクーはヒートの後を追った。 

86 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:14:28.99 ID:DvyWaoAWO

ノパ听)「あれ、クー姉ぇ。ドクオは?」

川 ゚ -゚)「知らん。それより気を抜くな。ここは既に戦場――敵の気配はあるか?」

 怒りに紅潮していた頬を、二三度の深呼吸で普段通りの色にまで戻す。
 さすがというところだろう。切り替えの早さは凄まじい。

ノパ听)「んー……そうだな、まぁクー姉ぇよりは頼りにならんけど……」

 ヒートは虚空に目を凝らし、耳をそばだて、鼻をひくつかせる。
 研ぎ澄まされた五感と、戦闘経験からくる六感。それらをフル活用し、彼女は闇に潜む敵の気配を探り取る。

ノハ--)「……ハッキリしないが、視線は感じる」

 長い睫毛を伏せ、瞼の内に感じる敵の視線。
 その位置を探る。

88 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:17:07.34 ID:DvyWaoAWO

ノパ听)「どこだろうな? 窓から覗いているのかも。こんな暗い中で闘ったことないからよくワカンネ」

川 - _-)「なるほど、確かにいるな。だが私も同意見、よく分からん」

川 ゚ -゚)「まぁ、これだけ広い場所でなら、暗いとはいえ襲われてもある程度の対処は出来るだろう。ただ――」

ノパ听)「――弓使いが邪魔だな。しかも二人」

川 ゚ -゚)「明かりがないのはあちらも同じ。狙い撃ちはないだろうが、屋外に長居するのはよくない」

 背後の様子を窺う。

 フサギコに、顔を踏み潰されていたドクオも手伝い、今やっとハインが門を乗り越えた所だ。
 荷物になるパソコンは傍の植木に隠しておいたらしい。土に汚れる白衣を叩いている。

89 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:19:28.89 ID:DvyWaoAWO

ノパ听)「呼んでくるわ」

川 ゚ -゚)「うむ、急ごう。行くなら正面玄関だ。あそこならまだ広さもあるし、奇襲には迎撃し易い」

 三人の元へ駆け寄って行くヒートの背を眺め、クーは持参した腕時計に目を移す。

 時刻は間もなく午前零時。

川 ゚ -゚) (ふむ……どうにも、嫌な予感が拭えんな)

 肌寒い春の夜だというのに、彼女には珍しく額に一滴の汗が伝っていた。

91 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:22:28.12 ID:DvyWaoAWO

 * * *


(´<_` )「兄者、客だぜ。きっちり零時前だ」


 弟者は声を上げた。

 顔を覆う大きなゴーグルを押し上げる。赤いレンズが毒々しい、暗視ゴーグル。
 ついさっきまで、そこに映し出されていたのは敵――ヒート軍団の姿だ。

(´<_` )「堂々としているぜ。正面玄関から乗り込んでくるとはな」

( ´_ゝ`)。゜「うおぉん、何だよぉ、まだ朝じゃないのかよお……」

(´<_` ;)「しっかりしろ兄者。ほらゴーグルを付けろよ」

( ´_ゝ`)。゜「え? なになに、ベーグル? 朝ご飯の時間?」

95 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:25:22.25 ID:DvyWaoAWO

(´<_` ;)「勘弁してくれ。ちゃんと指示通りに動かなきゃ、俺がセントジョーンズにどやされる」

( ´_ゝ`)。゜「分かったよ、ふぁぁ〜あぁ〜……」

 一際、大きな欠伸を一つ。
 むくりと起き上がる兄者は、天に伸び上がるが如く盛大な伸びをし、ゴーグルを装着する。
 立ち上がった彼の背を、雲の切れ間から月光が穿つ。

 剣のように鋭い三日月だ。

( ´_ゝ`)「はは、見ろよ弟者。天も俺達を手助けしてくれているぜ。こいつはゴーグルも不要かもな」

(´<_` )「何でもいいさ、始めようぜ兄者。戦いの火蓋を『射って』落とす――その役割を果たすのみ」

96 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:27:28.39 ID:DvyWaoAWO



 ――流石だよな、俺たち。


 感嘆の声が漏れるほどの、酷似した声のトーン。
 呟く二人のアーチャーはゆらりと、己らの得物を手に取る。既に双方、鷹の瞳は照準を合わせていた。
 狙われる、跳ねっ毛の強い銀髪と丈の長い白衣。

 弦は引き絞られる。


( ´_ゝ`)「「まずはお前だ、ハインリッヒ高岡」」(´<_` )


 風は嘶き、魔弾が放たれた。

97 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:30:03.49 ID:DvyWaoAWO

 * * *

川 ゚ -゚)「――――っ!!」

 肌がざわめいた。

 辺りが急に明るむ。真っ先に天を仰ぐクーは気付いた。月だ。
 凍えるほどに鋭利な三日月が空に浮かんでいる。

 それをバックに、東校舎屋上に二つの影が立ち上がっていた。

川;゚ -゚)「いかんっ!!」

 弾かれるように疾走。

 ハインたちに駆け寄っていたヒート
 彼女の背にすぐさま追いつくと、襟首を引っ掴み後方へ投擲。

99 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:32:48.69 ID:DvyWaoAWO

ノハ;゚听)「どぅわっ!!」

 彼女の着地を確かめる暇もなく、さらに加速した。
 突然、目の前で起きた出来事にぽかんと口を開けているドクオ、フサギコ、そしてハイン。
 三名のド真ん中に飛び込むや否や、クーは風車のように両碗を振り回す。

 そして、吹き飛ばされた。

 一瞬で三人もの人間を、それぞれ別方向にブン投げたのだ。
 距離もまた半端ない。ゆうに十メートル近く、ハインはまだしもフサギコまで軽々と放物線を描いた。

从;゚∀从「何だっ!?」

ミ;,,゚Д゚彡「クー!! 何を――」

 受け身を取る間もない。
 空中に投げ出された者たちは声を上げる。

100 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:35:20.22 ID:DvyWaoAWO

 しかし、全ては遅かった。
 いくら超人的な能力を持つ素直クールでも、他人の安全を優先して縦横無尽に動けるわけがない。

川;゚ -゚) (マズい! 暗闇だと油断した、それに一手遅れ――)


 貫通。


川; - )「ぅあっ!!」


 回避しようと駆け出す一歩は手遅れ。突き出した右腕に深々と。

 カーボンの矢が突き刺さる。

 開くのは鮮血の花。


101 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:37:31.50 ID:DvyWaoAWO


('Aメ)「ク――――ッ!!」


 うずくまる少女。

 ほぼ反射的に。
 吹き飛びながらドクオは、柄のチェーンを渾身の力で投げる。狙いはクーだ。
 矢の突き刺さっていない方の腕に巻き付くと同時に、思いっ切り引き寄せた。

 吹っ飛ぶ勢いも合わせ、クーの身体が弾丸の如く飛ぶ。

 刹那、彼女のいた場所へ第二撃――木製の矢が深々と突き立った。

川; - )「う、おのれ……っ!」

(;'Aメ)「掴まれクー! 放すなっ!」

103 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:40:23.67 ID:DvyWaoAWO

 手繰り寄せる鎖と共にクーを空中で抱え、ドクオは背中から着地する。
 砂煙を巻き上げ、受け身も取れぬままに。それでもクーを決して離さない。
 最後まで彼女の身体を庇いながら地を滑り終えると、すぐさまに抱え上げた。

 そして走り出す、最も近い建物へと。

 正面玄関は遠すぎた。仕方なく、東校舎出入り口に向かう。

 案の定、後を追うように彼らの足跡を矢の雨が貫いてゆく。
 立ち止まれば狙い撃ち。躊躇すれば敗北。

('Aメ)「うおおぉおおあああああ――っ!!」

 頭から扉へと体当たり。

 強引に室内へと飛び込むドクオとクー。姿が見えなくなると同時に、敵の攻撃も止んだ。
 しかし、終わりではない。狙う相手が変わっただけのこと。

105 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:43:07.58 ID:DvyWaoAWO

ノハ;゚听)「クー姉ぇえええ!! ドクオおおお!!」

ミ;,,゚Д゚彡「待て!! 追うなヒート!!」

 思わず、東校舎へと走り出すヒートの前方へ、フサギコが回り込む。
 体当たりで彼女の勢いを殺すと共に、細腰を抱え上げて逆方向へと遁走。

 その背後に突き立つ、矢の雨霰。

ノハ#゚听)「離せ! クー姉ぇが、クー姉ぇが!!」

ミ;,,゚Д゚彡「クーはドクオに任せろ! それよりまずはここから脱出する! 中央校舎に行くぞ!」

106 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:45:29.40 ID:DvyWaoAWO

 目指すは広い学園のド真ん中に鎮座する、中央校舎。

 その入り口、正面玄関。

 大股で地を揺らし、月明かりによって顕となった校庭に目を馳せる。
 かなり離れた位置、西校舎の出入り口間近でうずくまっている白衣の少女。
 フサギコは見つけた。ハインはまだ逃げれていない。

从;-∀从「うぅ……」

 受け身に失敗したのか、白衣を土で真っ茶色に汚す彼女は頭を抱える。

ミ;,,゚Д゚彡「ハイ――ンっ!! 逃げろおおおお!!」

从;゚∀从「……くっ、やられた……敵は……」

109 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:48:26.23 ID:DvyWaoAWO

ミ#,,゚Д゚彡「モタモタするなあああ――っ!! 西校舎に逃げ込め!!」

 なんとか中央校舎に辿り着き、廂の下で矢の嵐から身を隠す二人。
 フサギコは大声を上げ、遥か彼方で身動きを取れていないハインへと呼びかけた。

从;゚∀从そ 「――うぁっ?!」

 ハインの目の前にカーボン矢が突き立つ。
 深く突き刺さったその光景は凶悪。こんな物を生身に受けては、大怪我も免れない。

 襲いかかる恐怖。

从;゚∀从「く、くそっ!!」

110 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:50:36.90 ID:DvyWaoAWO

 白衣の裾を踏み付けてつんのめりながらも、彼女はドアに齧り付く。
 しかし、ドアには施錠がされている。そして懐が軽い。
 クーに投げられた時だ。スリングショット他、装備のほとんどを取り落としてしまった。

从;゚∀从 (爆薬があればこんなドア……!)

 こうなっては仕方ない。
 軽い体重が悲しさを引き立てる、精一杯の体当たりを繰り返した。

从#゚∀从「開け! 開きやがれ! クソ、クソっ!!」

 肩が軋む、衝撃に跳ね返される。
 それでも諦めない。今まさに背後の大地では、自分を蜂の巣にしようと迫っているのだ。
 ここで立ち止まっては敗北しか待っていない。

111 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:53:07.83 ID:DvyWaoAWO

从#-∀从「開けよクソがあああ――っ!!」

 大声を上げ、再度ブチかます。
 神の気まぐれがそこにあったのか、一撃はドアの鍵を破壊。

 勢い余って廊下に転げ入る。

 コンマ一秒遅れて、ドアの前に数本の矢が音を立てて衝突する。
 間一髪という奴だった。

112 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 00:55:30.46 ID:DvyWaoAWO

 * * *

 人影の消えた校庭を見下ろす二人は、納得の溜め息を漏らす。

( ´_ゝ`)「よし、分断完了だな」

(´<_` )「しかし、ハインリッヒ高岡を再起不能に出来なかったのは痛手だな」

( ´_ゝ`)「構わないさ。それはあくまで出来たらの話。分断された奴の息の根は、他のメンバーが確実に止める。
 むしろ素直クールにダメージを与えたのはラッキーだ。何事もポジティヴにいこうぜ、弟者」

(´<_` )「どうだかな……とにかく俺は行くよ。兄者も所定の位置に。ゴーグルは忘れるな」

 肩をすくめ、兄者はおどけて見せた。

114 名前: ◆q2DBIOsk9ijb 投稿日:2009/06/23(火) 01:01:11.87 ID:DvyWaoAWO

 いつの間にか、切れ味鋭い三日月は消えている。
 分厚い雲に切れ間は見えない。まさに、一瞬の偶然から生まれた襲撃。
 無論、彼らがそれを知っていたわけではない。

 しかし、ヒートたちに不幸が訪れようが、セントジョーンズたちに勝利の流れが見えようが、

 戦いが始まったことに変わりはない。


( ´_ゝ`)「あぁ、始めようぜ。狩りの時間だ」


 不気味に微笑む兄者の表情も、また訪れる闇の中へと霞んでいった。

第十八話・終


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