- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 01:05:41.70 ID:SNyc/Cw2O
ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです
第二話『GAME』
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 01:07:48.75 ID:SNyc/Cw2O
ドクオは充分にヒートの強さを理解している。
幼き日々、今と変わらずヒートは暴れ回っていた。
時に上級生と喧嘩し、時に大きな野良犬に組みかかり、時に理不尽な大人たちの向こう脛に蹴りを入れたり……。
彼女の闘志はいつだって轟々と燃えている。
それは齢どころか女としても相応しくない腕力だとか、猫科の猛獣のようにしなやかな瞬発力だとかに頼って生まれるものではない。
強いモノに立ち向かう――その興奮が彼女を滾らせるのだ。
自分より大きな者を倒すためなら何度だって立ち上がる。自分より俊敏な奴に追いつくためなら足が千切れようとも走り続ける。
生まれ持った闘争者の気質。
彼女の背中をいつも付いてまわっていたドクオには、幼いながらもそれがひしひしと感じられていたのだった。
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 01:10:32.13 ID:SNyc/Cw2O
(;'A`)「ひ、ヒートぉお――――っ!!?」
ドン、と倒壊。鉄製の下駄箱はヒートを巻き込んでグシャリと折れ曲がっていた。
背中を丸めてぐったりと動かないヒート。ドクオは戦慄した。彼女のこんな姿を見るのは初めてだからだ。
叩いても押し倒しても立ち上がってくる達磨のような彼女がたった一発で動かなくなるなんて事態を、彼は長年の付き合いで経験した事は無い。
| ^o^ | げきはです
从 ゚∀从「この程度の不意打ちでダウンか……。『熱血喧嘩屋』なんて仇名も大した事ないな」
タタンッ――と、ハインの指がいつの間にか現れたノートパソコンの上を踊る。
从 ゚∀从「戦闘データ測定に値せずっと。つまらねぇもんだ」
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 01:13:03.16 ID:SNyc/Cw2O
(#'A`)「……おいっ」
二人がドクオに視線を移す。彼は両手に握り締めたモップの柄の先端を、しっかりと眼前に向けていた。
掃除の時に置きっ放しにされた物なのか、使い汚されたそれは武器としてはあまりに貧相だった。
(#'A`)「動くな! 近づくなよ! いきなりやりやがって……お前らぶっ飛んでやがる!」
ドクオは臆病者である。彼自身もそれを分かっていて、こんなことをしている自分を愚かだと思った。
痛いこと、怖いことはお断り――だが今だけは身体が自然に動いていた。
ヤバイ奴がいる、ヒートが倒れた、自分はどうすればいい?
考える前に一歩先へ出ていた。モップを見つけて握り締めた。そして立ち向かっている。巨大な敵に。
从 ゚∀从「お前……足が震えてるぞ?」
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 01:15:07.57 ID:SNyc/Cw2O
(;'A`)「ぐっ?!」
確かに震えていた。ガクガク、ガクガクと止まらない。無様なものだった。
从 ゚∀从「それになんだ、大見得切って掛かって来ないのか? 連れがブッ飛ばされて、まだ『動くな』だなんてよく言えたもんだな」
( A )「な……っ!!」
ハインは端正な顔立ちに嫌味な笑みを浮かべ、吐き捨てるように告げる。
从 ゚∀从「この、臆病者」
(#'A`)「うおぉぉおおおおおおおおおおお――――ッ!!!!!」
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 01:17:15.32 ID:SNyc/Cw2O
駆け出していた。勝てそうもないとか、どうやって戦うんだとか、冷静に考えることすらできない。
ハインの言葉が、ドクオの怒りの引き金になったのだ。
途端にハインを守るようにして立ちふさがる巨漢。おもむろに構えた、鈍器のような重圧を漂わせるその両腕。
それでも迷わなかった。腰を深く落とし、ドクオはリノリウムの床を蹴る。
(#'A`)「っりゃあああああああああああああああ――!!!」
腹、鳩尾、喉。
流れるように三段、鋭い突きがブームを貫く。例えモップと言えど防具も無い常人なら、しばらく呼吸もできなくなるほどの威力。
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 01:19:47.24 ID:SNyc/Cw2O
だが、
| ^o^ | かゆいかゆい
ぐしゃり。
柄が爪楊枝のように折れ曲がる。塗装が剥がれ、中の鉄片が痛々しく食み出た。
(;'A`)「うぐぁっ?! 痛ぇえ!」
返ってきた反動に思わずモップを取り落とすドクオ。対してブームはさすりさすりと打点をなぞってはいるが、全くのノーダメージ。
ゾッとした。確実に必殺の間合いで、容赦も躊躇もない突撃だったのに――。
从 ゚∀从「ブームの全身は、オレの特製プロテインと肉体改造トレーニングで培った強固な筋肉装甲に守られている。
こいつの防御力の前に、モップなんて飴細工も同然だ。鉄パイプで殴りつけられても跳ね返すくらいだからな」
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 01:21:47.86 ID:SNyc/Cw2O
ぱちんと、指で合図。
ドクオの額を閃光が穿つ。
それがブームの繰り出した、何の小細工もないただのデコピンだと気付いたのは、ドクオが壁に叩きつけられた後だった。
( A )「げふぅっ!? うぐっ、あ……?!」
崩れ落ちる。見ればハインとブームは五メートルも先に離れていた。いや、違った。ドクオの方が五メートル吹き飛んだのだ。
揺れる頭を地面に突っ伏す。地に突いた両手は立ち上がるためのものではない。
それ以上体が倒れるのを防ぐためのものだった。
从 ゚∀从「こっちもダメだな。ブーム、とっととバッチを奪って引き上げるぞ」
| ^o^ | いぇっさー
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 01:24:07.21 ID:SNyc/Cw2O
揺れる視界の向こうで、大きなシルエットが近づいてくる。トドメを刺す気だろうか。
だとしたら動かなければ。せめてヒートを担いで逃げるぐらいはしなければ。
思いっきり額にブチ込まれたのに、頭の回転がやけにスッキリとしている。
でも体の動きがついてこれない。手足が重い、鉛の塊を背に担いだかのようだ。
ドクオには何一つ意味が分からなかった。
ブームの強さの桁も、ハインが何を企んでいるのかも。今この学校で起きていることも。
唯一つ理解できるのは、今が限りない程に危機的状態で、自分にはどうしようもなくて――
ノパ听)「……ドクオ、倒れるな、倒れるなよぉおお!!」
そしてそんな状況を打破してくれるのは、いつだってヒートなのだという事だった。
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 01:26:36.12 ID:SNyc/Cw2O
ハインは眉根をひそめ、ブームはひょうきんな面に僅かながら驚きを浮かべ、そしてドクオは安堵の溜め息を吐いた。
('A`)「お前……バカヤロウ、やられたのかと、思ってたぞ……」
ノパ听)「私が、あんなヘナチョコパンチで倒れると思ってたのかあ!?
まぁちょっとは効いたかも……イチチ……しれないけどなぁあああ!!! コラあああああ!!!」
瓦礫と化した下駄箱の上に仁王立ちし、ヒートは吼える。
ドクオに話しかけてはいたが、意識はしっかりと眼前の敵に向けられている。
対するハインは高速でノートパソコンをタイプする。
その目には興奮にも似たような揺らぎが爛々と輝き、液晶画面を反射していた。
从;゚∀从「ノーガードで土手っ腹、手加減なしのブームの一発で戦闘不能にならないたぁ……。面白いが正直驚きだぜ……!」
| ^o^ | おどろき もものき――
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 01:29:10.49 ID:SNyc/Cw2O
――爆発のような一撃が走る。
| ^o^ | ショウテンガイっ!?
ブームの巨体が衝撃に耐えかねて大きく揺らぐ。その側頭部にはしっかりと打ち込まれた右拳。無論ヒートのだ。
誰も目視できないほどの、獣のようなスピードで飛び掛るまま、体勢もへったくれもない状態からの強引な重撃。
腰の回転、膂力が許すままに、踏ん張りの効かない空中で身体ごと殴る。
その無茶苦茶な一発が、鉄製のモップをひしゃげるブームの装甲に確かなダメージを与えた。
そして、彼女の反撃はそこで終わらない。
ノハ#゚听)「がああぁあおおおおおおおおおおおおおお――――ッ!!!」
空中でブームの頭に拳をめり込ませたまま、その無防備な体勢からさらに全身を捩る。
バネを――弾けて炸裂するような身体のバネを溜めている。
ミシミシ、ミシミシとブームの頭蓋が軋んだ。
- 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 01:31:58.12 ID:SNyc/Cw2O
| ^o^ | ちょ ちょいとおまち――
ノハ#゚听)「待たああああああああああ―――ん!!!!」
撃墜。
天と地が入れ替わる。
ツルッとした頭が地面にブチ込まれた。深く、激しく、強く、重く。
大きな音を立ててヒビ割れ立つ廊下。
从;゚∀从「こ、こいつはぁ!?」
ハインは慄いた。
ありとあらゆる肉体改造術により超筋肉の砦と化したブーム、彼が地に叩きつけられ人形の如く跳ね上がるのを慄いた。
自分の最高傑作である彼が、一介の少女に想像を絶する打ちのめされ方をしている。
確かに少しは格闘技をかじってはいるだろうが、所詮自分と同じ女だというのに。
ハインは高をくくっていたのだ。素直ヒートという者の本質に対して。
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 01:34:33.89 ID:SNyc/Cw2O
重々しい音を立て、再度ブームの巨躯が地に堕ちる。
動かない。だらしなく投げ出された四肢はピクリとも反応しなかった。
ワンテンポ遅れて着地するヒートはステップを踏み、猪のような息遣いの治まらぬままに倒れたブームに向かった。
ノハ#゚听)「どおおおしたあああああ!!? もぉう終わりかあ?! まだだろ、まだかかってこれるだろがあああ!!!!」
从;゚∀从 (こいつはちょっとヤバイ奴に吹っ掛けちまったようだな……)
後ずさるハイン。彼女が見つめて離さないヒート――その姿は立ち上がる闘気に彩られ、あたかも蜃気楼の如く歪んでいると錯覚してしまいそうだ。
ブームはもう戦えない。今度ヒートが襲い掛かってくるのは自分だろうか? そんなことを考えつつも、ハインの胸は興奮で静かに奮い立つ。
从 ゚∀从 (確かにヤバイが……それでも拾い物だな。ブームを失ったのは痛手だが)
妖しく瞳が煌く。そこには決して敗北の色など浮かんではいない。
白衣を翻し、ハインは廊下の向こうへと駆け出した。
- 77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 01:37:11.09 ID:SNyc/Cw2O
ノパ听)「ふぅー、ふぅー、ふぅう――ッ……!」
ヒートは呼吸を落ち着ける。胸の高鳴りを、筋肉の沸騰を、肌の粟立ちをゆっくりとゆっくりと深呼吸してクールダウンさせる。
もう敵は立ち上がってはこなかった。叫んでも踏みつけても反応が無い。勝ちだ、彼女の圧倒的な勝利だ。
ノパ听)「ふぅぅぅううううう……」
('A`)「ヒート……いつつ……大丈夫、か?」
足取りも頼りなく、ドクオが立ち上がってきた。デコピン一発だが、彼も予想以上に被害を被っていた。
ノパ听)そ 「ドクオ! 頭から血が出てるぞ?! い、痛くないか!? ハンカチ、ハンカチは……っ」
振り返ったヒートはドクオのやられっぷりに思わず慌てふためく。
普段争い事は避けに避け、怪我なんて滅多にしない奴。それが彼女にとってのドクオだった。
そんな彼が頭から血を流してる姿は、色んな――そう、本当に色んな意味で彼女にはショックな光景だった。
ポケットに手を突っ込み、中身をひっくり返しても何も出てこない。
- 80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 01:39:43.79 ID:SNyc/Cw2O
('A`)「落ち着け、落ち着けよ。俺は大丈夫だ」
ノハ;゚听)「いやでも、お前、そんなにいっぱい出て……」
('A`)「お前こそ大丈夫なのか? 腹にモロ一発喰らってたし、そのカチコチマッスルを思いっきり殴ってたけど」
そっ、とドクオはヒートの右手を取る。ブームの筋肉装甲を撃ち抜いた拳は無傷――というわけにもいかないらしい。
やはりそのリスクは大きかったのか、手の甲が赤く腫れていた。
ノパ听)「あぁ、えっと……多分そんな、いや……やっぱり……その」
ノハ;凵G)「い、痛いなあああ……。何なんだあの筋肉野郎?! コンクリート並みに硬かったぞ? ていうか腹も痛いぞおお!」
('A`)「俺も血が目に入りそうだわ、コレ。
こいつをどうするかとか、教師に伝えるとか、その前にまず保健室行こう。この様子じゃ立ち上がって逃げ出す事も無いだろ」
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 01:44:03.31 ID:SNyc/Cw2O
ウンウンと頷くヒート。戦いの最中は、あんなにもがむしゃらに敵へ向かって行ってたのにだ。
アドレナリンの過剰放出なのか?とドクオは思いを巡らす。
ふと、辺りを見回した。あちこちに散乱する瓦礫や倒壊した物に燦然としたホール。
他の者が見たら一体何事だと大騒ぎしそうな有様である。
そこには既に、あの少女――ハインの姿は無かった。
ノパ听)「あいつ、いないみたいだな」
ドクオも頷く。確かにあの少女は気になることを言っていた。標的、勝ち星、バッチだとか。それに文化部だから云々とも。
それは少なからず、自分たちがいきなり襲われた事に関係しているのだろう。
('A`)「科学部のハインリッヒか……」
頭を一振り、眉にかかっていた血を払う。
ハインの事は今考えても詮無いことなのだろうと彼は思い、ヒートと保健室へ向かった。
しかし、そのハインを含め、その場にいた全員は気付かなかった。
これまでの一部始終を観察する、第三者がいたことを。
( ∵)「…………」
- 83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 01:46:30.38 ID:SNyc/Cw2O
-
* * *
('、`;川「えぇ〜? ちょっとこれどうしちゃったのよぅ、あなたたち?」
VIP学園に勤務する養護教諭、ペニサス伊藤は素っ頓狂な声を上げた。
彼女の毎朝の日課は他の教諭よりもちょっぴり早く出勤して、保健室の窓際で育てているパンジーの植木鉢に水をやってお話をしてあげる事。
とある園芸雑誌で植物は話しかけられるとより健やかに成長するという記事を見てから、その日課は続いていた。
なので、今の今まで彼女は今日の朝の占いについてパンジーとお喋りをしている最中だったのに、いきなり怪我をした二人組みが現れるなんて思いもよらなかったのだ。
片方は頭からダラダラ血を流していると来ているので、さぁ大変。
('、`;川「あー……、とりあえずドクオ君の怪我を先に見るわね。ヒートちゃんは氷嚢を手に当てといてね」
ノパ听)「よしわかった! わかったぞおお」
('、`;川「元気そうなのはいいんだけどねぇ……」
ペニサスは見たところ活力に溢るるヒートは置いておき、ドクオの処置に移った。
椅子に腰掛けたドクオの額をガーゼで止血し、丁寧にバンテージを貼っていく。
- 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 01:49:24.01 ID:SNyc/Cw2O
- 対するドクオは、ちょっと邪な考えにふけっていた。
(*'A`) (おぉ……美人でかつナイスバディと有名なペニサス先生がこんなにも近くに……。俺、普段怪我しないからなぁ。
それにしてもスゲー良い匂いだ。何より目の前で無防備にたゆたゆしている二つのメロンが素晴らしすぎる。
落ち着いた赤のタートルネック――その下からはち切れんばかりの存在感を、くっきりとしたラインで示す魅惑のおバスト様……)
鼻の下を伸ばすドクオにペニサスは小首を傾げる。
確かに、ドクオではないがペニサスの適度に熟したボディラインは、羽織った白衣では抑え切れないほどの艶かしいフェロモンを放っている。
だがそんな光景を面白く思わない者が一人。
ノパ听)「…………」
- 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 01:53:45.39 ID:SNyc/Cw2O
ヒートは自分の胸に手を当てて良く考えてみる。そうだ、ペニサスにはもう伸び白は無い。
片や自分は花も恥じらう女子高生、まだまだ発展途上なのだ。
そう言い聞かせたくても、彼女の手の平が感じるのはあまりにも心許ない起伏。
ノハ#゚听)「…………ッ」
自身の体型と全くもって関係無いにもかかわらず、咎めるかのような鋭い視線はドクオのだらしない表情をしっかりと射止めていた。
氷嚢を親の仇のように握り締める姿は圧巻である。
(;'A`)そ (い、いかん。ちょっと小難しい幼馴染の視線が痛い)
煌々と光る瞳に睨みつけられているのに気付くと、緩みきっていた鼻の下を戻し、ドクオはニヘラと弱々しく作り笑いをする。
(;'∀`)「ひ、ヒートさんもこれからスクスク成長しまっせ、多分」
ノハ#゚听)「何だそのダメ押しはあああああ!!?」
放たれたヒートの蹴りが、ドクオに新たな傷を増やしたのは言うまでもない。
- 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 01:57:23.06 ID:SNyc/Cw2O
* * *
('、`*川「でも本当に珍しいわね。
確かにヒートちゃんが擦り傷たくさん作ってここに来るのはよくあることだけど、ドクオ君が一緒になってボロボロだなんて何かあったの?
その、ほら、ヒートちゃんの喧嘩に巻き込まれて――とか。
まぁね、本当はオススメしないけど、男の子なんだし喧嘩の一つでもやっておいて損はないんじゃないかなーなんて。
あぁでも偉そうなこと言いつつもね、先生はしたこと無いから。痛いのとか、しんどいのは先生パスだし」
飲みかけだったらしいモーニングコーヒーのカップをくゆらし、ペニサスは聞いてもいないのにポロポロとよく喋る。
ヒートとドクオは知り得ない事だが、やはり早朝からパンジーにひとりごつのも結構寂しいらしい。
ノパ听) (さっきのことペニたんに話すか?)
('A`) (いやいや、不審者ならまだしもウチの生徒らしい事は言ってたし。
……まぁあんな怪しい奴の言う事を真っ向から信じるのも不安だが)
ノパ听) (私も普段から喧嘩ばっかしてる手前、ただ襲われたからって文句つけるのも気が引けるし……)
- 87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 02:01:20.37 ID:SNyc/Cw2O
うーむと顔を突っ伏し声を潜める二人。
ペニサスはよく分かってないらしい、言う事はそれっきり『仲がいいわねえ』の一点張りだった。
('A`) (いや、でも一応言っておこう。もしかしたら先生も何かしら知っているかもしれんし。
そうじゃなくてもあの大男とか玄関とか、放置しといても良いわけないからな)
ノパ听)「よし、わかった。あのさぁ、ペニたん――」
意を決し、ヒートが口を開いた瞬間だった。
ノックが二回。
三人が一斉にドアへと視線を移す。しかし、ペニサスの返事を待たずして客人はするりと中に歩み入って来た。
( ∵)「失礼します、伊藤先生」
- 88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 02:04:38.69 ID:SNyc/Cw2O
('、`*川「はぁ……どうぞ。あなたお名前とクラスは?」
( ∵)「一年B組、風紀委員会筆頭のビコーズです。朝早くからすいませんね。
あぁお気遣い無く。僕の用事があるのはそっちの二名です」
それはちょこん、とした華奢な少年だった。
甘めの顔だが表情は乏しく、笑えば可愛げもありそうなのに勿体無いほどだった。
しっかりと詰襟のボタンを上まで閉じ、落ち着いた髪形、ハキハキとした喋り、なんとも優等生な印象である。
ビコーズは袖に留めてある『風紀委員会』の腕章をクイッと直すと、小気味いい靴音を鳴らしてヒートとドクオに近づく。
( ∵)「二年E組・鬱田ドクオ、そして同じく素直ヒート。貴方たちに生徒会から至急召集せよとの達しが出ています」
('A`) (年上なのに呼び捨てかよ……)
ノハ*゚听)「おぉお、何かお前可愛いな。ちっちゃいちっちゃい!」
- 90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 02:08:31.28 ID:SNyc/Cw2O
- ヒートがビコーズの頭をグリグリと撫で付ける。が、ビコーズは照れる様子も鬱陶しがる様子も見せず、ヒートの手を軽く払うとあくまで事務的に続けた。
( ∵)「第二会議室で副会長がお待ちです。そこまで案内しましょう」
くるり、と向きを変え足早に廊下に出て行くビコーズ。
ノパ听)「ドクオ?」
('A`)「いや、うん……付いて行こう。もしかしなくてもさっきのことについてだろうな。タイミングが良すぎる」
ドクオは膝をポンと一叩き、ペニサスに一礼をして退出する。
('、`*川「さっきのことって?」
ノハ;゚听)「あぁ、ごめんごめんペニたん! 言いかけたのはやっぱり無しで!!」
ヒートは無理矢理ペニサスの追及を逃れると、そそくさとビコーズの後を追うドクオに続く。
静かになった保健室。ペニサスはやっと訪れた朝の静寂に肩の力を抜き、やれやれとカップに残っていたコーヒーを啜り直すのだった。
- 91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 02:12:31.05 ID:SNyc/Cw2O
* * *
( ∵)「先程の戦闘、僭越ながら観察させてもらいました」
両腕を後ろで組み、しっかりとした歩調でビコーズは二人を先導する。
彼ら三人が廊下を渡っている際にも、あちこちで聴き慣れた生徒のざわめきが響いていた。
時刻は八時。窓からはさんさんと朝陽が覗いている。
('A`)「やっぱり見ていたのか。それで何もせず、と。風紀委員ってのは学園の風紀を守って何ぼじゃないのか?」
( ∵)「教義をどう解釈しているかの違いですよ」
ノパ听)「でもでも! 私たちは怒られるような事はしていないからな! 襲ってきたあっちが悪い!」
( ∵)「理解しています」
一行は玄関ホールに差し掛かる。そこでは驚くべき事が起こっていた。
先の戦闘での破壊の跡が無い。いや、修復されているのだろうか。
- 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 02:15:24.53 ID:SNyc/Cw2O
- ドクオとヒートは目を丸くした。確かにあの時、下駄箱はひしゃげ、廊下はあちこちが砕けていたはず。
そしてブームの姿も見えない。
今、そこは何事も無かったようにいつも通りであり、登校してきた生徒たちが気持ち良く挨拶を交わしながら靴を履き替えている――そんな当たり前の光景でしかない。
( ∵)「お気になさらず、風紀委員の仕事です。戦闘の痕跡は一切残しません。学校側に事態が露呈するのは禁則事項なので」
(;'A`)「……どういう意味だ?」
( ∵)「僕がお伝えできる情報には限りがあります。それも含めて、これから副会長にお会いしていただくのです」
ちなみに――と零してビコーズが振り返る。その仏頂面にほんの少し、嘲笑めいた色が浮かんだ。
( ∵)「あなたたちが最後です」
- 93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 02:19:27.97 ID:SNyc/Cw2O
* * *
_
( ゚∀゚)「よう、よく来たなお前ら」
通された教室一個分ほどの広さを有する会議室。
そこに備え付けられている長テーブルの向こう側で、ふんぞり返りながら彼は言った。
_
( ゚∀゚)「まぁ突っ立ってんのもアレだしよ、座りなよ」
立ち尽くすヒートとドクオは眼を見合わせた。
既にビコーズは、例の小気味いい靴音を鳴らしてジョルジュのすぐ傍まで歩み寄っている。
仕方が無く、二人は手近な椅子を引き寄せて意識してか浅めに腰掛けた。
_
( ゚∀゚)「先に自己紹介だな。俺は二年A組のジョルジュ長岡、副会長をやってる」
ジョルジュ、と名乗った男は大仰に手を広げ、自己紹介を済ませる。
先程会ったハインとはまた別の意味で、彼は並々ならぬ自信に溢れた眼をしていた。
顔付きはさっぱりとしていて取っ付き易そうなものだが、如何せんその眼は釣り合いが取れていない。
('A`)「……俺たちがここに呼ばれたってのは、ついさっきの科学部の二人に襲われた事――」
- 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 02:22:58.81 ID:SNyc/Cw2O
- 一瞬の沈黙の後、ドクオが身を乗り出し口を開く。
ヒートも何か言ってやろうかとは思っていたが、とりあえずここは彼に任せることにした。
('A`)「――それと、もしかして昨日の召集も何か関係しているのか?」
ジョルジュは質問に答えない。ただ、その口をニンマリと大きく歪める。
ドクオにはそれで充分だった。答えは、是。
_
( ゚∀゚)「困った話だよなぁ。お前らくらいだぜ? 召集バッくれて遊び呆けていた奴は。
まぁ、今朝の騒動はそのしっぺ返しだった程度に思ってくれればいい。」
ヘラヘラと笑う。ジョルジュの身振り手振りは徹底しておどけていた。
まるで他人を嘲るように、何も分からない二人を見下すように。
_
( ゚∀゚)「昨日の集会で集まった奴らに伝えられた内容は一つ――サバイバルだ」
('A`)「…………?」
ノパ听)「サバイバルぅ?」
_
( ゚∀゚)「そうさ、学園の部活全てが参加者のバトルロワイヤル――名づけて、『武喝道』!!」
- 97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 02:26:25.80 ID:SNyc/Cw2O
* * *
静かになった第二会議室。
ジョルジュは大きく溜め息をつくと、椅子の上でゆったりと伸びをする。
_
( ゚∀゚)「……これでやっと本当のスタートだな」
( ∵)「何分、全て予定通り――と言うわけにはいきませんでしたね」
ジョルジュのぼやきに、変わらずも屹立するビコーズは返答した。
_
( ゚∀゚)「あぁ、だがこれでいい。俺の仕事もとりあえずは一段落だ。
そうだろう? 生徒会長、いや――ロマネスク。」
陰が揺らいだ。
いつの間にこの部屋に入ってきたのか。最初からそこにいて誰も気付かなかっただけのか。
会議室の上座、その至極立派な革張りの椅子に彼は座っていた。
( ФωФ)「御苦労だったな。ジョルジュ、それにビコーズも」
- 100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 02:29:08.78 ID:SNyc/Cw2O
黒が男子制服の指定色であるこの学園で、否応でも目立つであろう白い詰襟。
それが包む引き締まった肉体は細身で、しかし力強い。
制服と対照的な黒い皮の手袋は、テーブルの上でその長い指を組み合わせている。
眼光は鋭く、眉はきりりと釣り上がり、オールバックを頂くその精悍な面持ちは笑みを浮かべた。
彼は三年D組、杉浦ロマネスク。
生徒会長――その地位を欲しい侭にする者。
_
( ゚∀゚)「いいーってことよ」
( ∵)「お気になさらず」
ジョルジュはあっけらかんと答え、ビコーズは恭しく頭を下げた。
それがいつもの反応だと分かっているのか、一瞥するロマネスクは再び口角を上げた。
( ФωФ)「――我輩は待った。長い時と、苦汁の中で。それも今日、この日から全て変わる」
配下二名は夢見心地のように語るロマネスクの邪魔をしない。ただ、彼を見守る。
( ФωФ)「始めよう、同志たち。共に――変革を」
- 105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 03:00:29.58 ID:SNyc/Cw2O
* * *
学食。学生の活気と食事の音に溢れる憩いの場。
ヒートとドクオはそのテーブルを一つ占領し、面と向かって食事に箸を付けていた。
ノハ*゚听)「むふ、むふふふふふふふふ」
('A`)「気持ち悪いよ……何がそんなに愉快なんだよ。あんなこと聞かされて」
天ぷらうどんの椀の中を箸でグールグルと掻き混ぜながら、気味の悪い笑い声を上げるヒートにドクオは溜め息をつく。
ヒ−トの方は終始ご機嫌だった。恵比寿か何かのようにニヤニヤと、自分でもどうしようもないのか笑みが治まらない。
ノハ*゚听)「むふふふ、これがウキウキせずにいられるか?
部活動バトルロワイヤル、最後に生き残った部活には部費って面目で賞金一千万!!
あー、もちろん金とか二の次だぞ? 何より、学園中の強い奴と生徒会御免で戦える――たまらんなああ!」
('A`)「ただし教師には秘密、校外戦闘も禁止で期限は一週間。……さすがに怪しすぎる。
可能な限り風紀委員が事態を隠蔽する――とか、マジで教師には一切何も伝えない気かよ」
- 106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 03:02:42.46 ID:SNyc/Cw2O
ノパ听)「そりゃあ、生徒が戦争ごっこなんてしてたら先生は止めるだろぅ」
(;'A`)「ダメってわかってるなら参加するなよ?」
ノパ听)「だが断る!!!」
(;'A`)「おいおいぃ」
ヒートは箸を放り出すと懐に手を突っ込む。引っ張り出したのはきらりと輝く銀のバッチ。
丸い形状でその中心には『空手道部』のレタリング。これが二人の渡された唯一の物。
このバッチこそが参加者の証であり、言うなれば首級。
ノパ听)「そんな気負うなって! 遊びだよ、遊びぃ! そう思えば軽いモンよお!」
('A`)「遊びって……お前今朝のこともう忘れたのか。あんなヤバそうな奴らがゴロゴロしているのかもしれないんだぞ?
中には金目当てで、遊びなんかじゃ済まない事をしてくる奴も出てくるかもしれないんだ。俺はゴメンだね」
ノパ听)「ドクオぉ〜。相変わらずだなそのチキンっぷりは」
(#'A`)「せめて『平和主義者(パシフィスタ)』と呼べ!」
二人が終わりそうにない問答を繰り広げている最中である。
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/25(水) 03:06:08.00 ID:SNyc/Cw2O
- ――ガシャン。
何かが倒れるような大きな音を皮切りに、突如として学食が騒がしくなってきた。
思わずヒートとドクオも口論をやめ、音のした方へ目を向ける。
<ヽ`∀´>「全くもって不愉快ニダ! どーしてこの学食にはキムチ丼がないニカ!?」
J(;'-`)し「そんなこと言っても、無い物は無いんだから、文句は言っちゃあだめだよ……」
<ヽ`∀´>「うっせーニダ!! とっととキムチ丼を作るか、さもなければ謝罪と賠償を要求するニダ!」
( `ハ´)「私もアル! メニューには無いけど、とっとと小龍包を作るアル!」
どうにも学生二人が給仕のオバちゃんに無理難題を押し付けて、騒いでいる様子だった。
キムチキムチ、とのたまっている学生の方はことさら悪い事に、カウンターの傍にあった券売機を蹴り倒している。
辺りの者達はオバちゃんとその二人を遠巻きに眺め、ガヤガヤと色々騒いでいるようだが迂闊に手が出せないようだ。
そしてヒートは見定める。そのはた迷惑な二名が着ている制服――その胸ポケットに付けられた銀のバッチを。
ノパ听)「カモ、見っけえええええ!!!」
('A`)「オイこら、待て!!」
ドクオが声を荒げて席を立った時、既にヒートは人の波へと飛び込んでいくところだった。
第二話・終
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