ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです

2 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 22:33:15.51 ID:nIuqa94K0



( ´_ゝ`)「ぐ……」


 兄者は、再び闇の中で覚醒する。


 実際はドクオとの戦いが終わった数分後だ。
 彼は再び何者かの気配を感じ、その意識を取り戻した。
 暗がりの中、薄く開けた瞼。映る姿は大きい。丸めた背は熊のようだ。

 ドクオではない。

(; ´_ゝ`)「だ、誰だ……?」

5 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 22:35:43.05 ID:nIuqa94K0

 兄者の傍らには弟者がいる。
 この大柄な者の存在は、無防備な弟者にとっての危機かもしれない。
 敵なのか。分からない。

 ならば先に目の覚めた自分が、弟者を守らねば。

 痛む体を無理矢理起こし、背を向ける大男へ臨む。

( ´_ゝ`)「名を、名乗れ……!」

 傷付いた身体で、例え戦えなくとも。
 弟者に危険をもたらす存在ならば、許さない。
 疲れきっていた心に、再び火が灯る。兄弟を守るための、義憤。

 そして、肩を掴んだ。

7 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 22:38:21.43 ID:nIuqa94K0


ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです

第二十四話『介入と覚悟』


9 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 22:40:39.74 ID:nIuqa94K0


( ゚∋゚)「むぅ……!」


(; ´_ゝ`)「く、クックル!」

 振り返った影は、日本人離れした顔付きに高々としたモヒカンを頂く。
 ズタボロとなっても良く分かる赤いポロシャツは、アメフト部のユニフォームだ。

 アメフト部部長にして、同じく『七星連合(ビッグディッパー)』の仲間。
 『キャノン・ボール』の異名を持つ巨弾、クックル・ドゥドゥドゥ。

 兄者はその見慣れた姿に、ホッと息をついた。

( ´_ゝ`)「お前……無事だったのか」

( ゚∋゚)「うむ、アニジャ。そういうお前も、大事なかったようだな」

11 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 22:43:13.88 ID:nIuqa94K0

 振り返ったクックルの、太い腕に抱えられた弟者。
 まだ意識は戻ってはいないらしい。その体はぐったりと力ない。

( ´_ゝ`)「すまない……弟者を介抱してくれていたらしいな」

( ゚∋゚)「クックルが駆け付けた時には、お前たちは二人ともリタイアされていた。
     オトジャも大きな怪我はない。しかし、バッジは既に奪われていたようだな……」

( ´_ゝ`)「これまたすまん。情けないことに、二対一で負けちまったよ」

 床にあぐらをかき、兄者は申し訳なさそうに首を垂れる。
 その脳裏に浮かぶ、鬱田ドクオの姿。

 間違いなく怪物だ、と。

 彼の記憶は、本能へとそう語りかけてくる。

13 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 22:45:47.40 ID:nIuqa94K0

( ´_ゝ`)「セントジョーンズは完全に奴らを見誤った」

 叩きつける握りこぶしも、今はちっぽけで滑稽に見えた。

( ´_ゝ`)「ヒート軍団の勢いは異常だ。俺たち程度の力じゃあ止められん」

( ゚∋゚)「…………」

( ´_ゝ`)「クックル、お前もその様子じゃあ負けちまったんだろう?」

 問いかけられるクックルは、目を伏せる。
 しかし、決して事実から逃げようとはしない。

( -∋-)「うむ……完敗だった」

 例え、背中に不敗の過去がのしかかろうとだ。

14 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 22:48:23.29 ID:nIuqa94K0

( ´_ゝ`)「そうか……」

 兄者もまた、クックルの重くも潔い答えに染み入る。
 きっと、彼にとっても大きな意味をもつ敗北なのだろうと。

 そう、感じながら。

( ´_ゝ`)「つまり、これで東校舎勢は全滅か。手痛いな」

 兄者は指を折って数えつつ、残りの戦力を計算する。

( ´_ゝ`)「残るは、西校舎でハインリッヒ高岡を追跡中のモナー。
      中央から西への渡り廊下で、敵を足止めしているギコ。
      そして、中央校舎で素直ヒートとの一騎打ちに臨んでいるミルナか」

( ゚∋゚)「セントジョーンズは? 今はどうしている?」

15 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 22:50:43.52 ID:nIuqa94K0

( ´_ゝ`)「奴は中央校舎三階の、囲碁将棋部部室で待機している。
      自分の部室で待つなんてベタなやり方だが、今は敵の目がいきにくい」

(; ゚∋゚)「ぬぅ?」

( ´_ゝ`)「東に怪我人の素直クール、西に戦闘能力の無いハインリッヒがいるからな。
      中央の敵は、嫌でも両方の援護に回らなきゃならん。そういうことさ」

 しかし、それも東校舎勢が全滅というと話が変わってくる。

 生き残ったドクオとクーが、中央校舎への援護に回るからだ。
 ドクオは勝ったとはいえ、兄者たちがかなりの痛手を負わせた。
 まともな戦闘は無理だろう。

 となると、クーの存在が厄介になる。

( ´_ゝ`)「クックル。お前と戦って、素直クールはかなりのダメージを負ったか?」

16 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 22:53:07.81 ID:nIuqa94K0

( ゚∋゚)「ダメージ……」

 兄者の質問は、無意識にクックルの痛い所をつく。

( -∋-)「……ソーリー。戦闘不能――なんてダメージは決して与えられていない。
     全てクックルの力不足だ。本来なら撃破しなければならなかったのに……」

(; ´_ゝ`)「いや、いいんだ。ほんの少しでも、素直クールを足止め出来たのは大きい」

 落ち込む彼をなだめつつも、やはりマズいと兄者は危惧する。

( ´_ゝ`)「そうなると、素直クールがヒートの援護――ないしセントジョーンズの捜索を始める。
      どちらもまずい展開だ。見つかれば、セントジョーンズは一瞬でやられちまうに決まってる。
      それにミルナも、二人掛かりを相手となると苦戦するだろう。このままじゃあ、敗色濃厚だぞ……」

( ゚∋゚)「いや、アニジャ。少なくとも片方の件には問題はない」

17 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 22:55:38.94 ID:nIuqa94K0

( ´_ゝ`)「どういうことだ?」

 兄者の問いかけを前に、向き直るクックルの眼差しは真剣そのもの。
 焦りも危惧も、その面持ちからは一切感じられない。


( ゚∋゚)「中央校舎にいるのが、『壱の槍』ミルナだからだ」


( ´_ゝ`)「…………」

( ゚∋゚)「何も恐れる必要はない。ミルナはこの武喝道で、間違いなく最強クラス。
     例え素直クールが増援に向かおうと、決して不様に負けることなどない!」

( ´_ゝ`)「そうは言ってもだな……」

 クックルの言いたいことは分かる。

18 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 22:58:14.13 ID:nIuqa94K0

 ミルナは『七星連合』内でも最強。
 そのバッジ数も示している。『凶星』に匹敵する怪物だということを。
 戦えば全てを喰らい、破壊する。容赦無き闘争者。その証。

 しかし、兄者はそれでも危惧を取り払えない。

( ´_ゝ`)「クックル、お前は奴と一度戦ったことがあるんだろう?
      その時は引き分けたそうじゃないか。つまりお前とミルナは同格」

 そう、それはクックルの全勝歴に傷を残した、二つの戦いの内の一つ。
 一つは先のクーとの戦い。もう一つが、そのミルナとの引き分けだ。

( ´_ゝ`)「そんなあいつが、お前を倒した素直クールに勝てるのか?
      ましてや、素直ヒートとの二人掛かりもあり得る。勝ち目は薄いだろう」

20 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:00:43.61 ID:nIuqa94K0

( ゚∋゚)「アニジャよ、勘違いするな。クックルは決してミルナと同格ではない」

 掲げた大きな手が、兄者の言葉を遮る。


( ゚∋゚)「クックルがミルナと引き分けたのは、クックルがミルナを倒せなかったからだ」


( ´_ゝ`)「は?」

( ゚∋゚)「あの時、奴はまだセントジョーンズと二人で、連合の仲間を集めていた最中だった」

 その時、クックルもまた一人の武喝道参加者として、戦いに臨もうとしていた。
 無敵の肉体を駆使し、順調に勝ち進んでいる。そんな折に現れた、突然の訪問者。

 尊大な小男と、槍を携えた武人。

21 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:03:07.00 ID:nIuqa94K0

 特に後者は、並々ならぬ気配で。
 クックルは感じたこともないような感覚を味わった。
 今までの敵は、立ち塞がろうとただ押し潰せばそれで問題なかったのに。

 彼にだけは、真正面から立ち向かうことを躊躇させられてしまう。

 
( ゚д゚ )


 その瞳。

 糸でこちらのそれと結びつけたように、一度たりとも反らされることはない。
 静かで、凪いでいて、しかし穏やかさなどは存在せず。
 まるで荒野の風の如き厳しさ。渇き、飢え、それでも静寂を守る眼差し。

22 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:06:07.55 ID:nIuqa94K0

( ゚∋゚)「クックルは恐れた」

 こんな者と戦ったことはない。

 戦ったことのない相手には、勝ち方が分からない。
 対面するだけで、体の底から震わされる。何とか取り除きたい、排除したい。
 その瞳に見つめられることだけは、どうしても耐えられない。

 彼がその後どうしたのかは、結局それまでの戦いと同じであった。

 真っ直ぐに突っ込んで轢き潰すのみ。
 それが幾何回も繰り返してきた、クックルのファイトスタイルだ。
 今更、どう手を加えることも出来ない戦法。


( ゚∋゚)「しかし、ミルナの前にクックルの力押しは通じなかった」


24 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:08:36.00 ID:nIuqa94K0

 倒せない。

 どれだけ突っ込もうと、どれだけ押しのけようと。
 ミルナには通用しない。体重差はこちらが上。パワーも勝っているはず。
 しかし、勝てない。勝つことが出来ない。

( ゚∋゚)「だが、同時にミルナもクックルを倒そうとはしなかった」

 その静かに震える瞳で、クックルを検めるように。
 決して手は出さない。攻撃をかわし、防ぎ、クックルをただただ振り回すだけ。

( ゚∋゚)「やがてセントジョーンズの一声で戦いは終わった。
     ミルナが槍を引いた時、結局一撃すら加えることはできなかったのだ」

( ´_ゝ`)「…………」

26 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:11:17.41 ID:nIuqa94K0


 全ては、テスト。


( ゚∋゚)「クックルは品定めされていたのだと、ようやく分かった。
     『七星連合』に相応しい強さをもつか、ミルナを通じて探られていたのだ」

( ´_ゝ`)「そこまで分かっていて、よく仲間になろうとしたな」

( ゚∋゚)「確かに気に喰わなかったが、同時にとても興味をそそられた。
     これほどの男がいるチームに身を置くことに、クックルはワクワクしたのだ」

 クックルは、セントジョーンズに膝を折った。

 そして、間もなく新たな面子が増えていく。
 サッカー部のギコ、柔道部のモナー、そして流石兄弟たち。
 皆、クックルが今までに見たこともないような強者。

27 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:13:48.82 ID:nIuqa94K0

 こうして、武喝道最大級のチームは出来あがっていく。

( ゚∋゚)「クックルはミルナを恐れているが、同時に深く信頼もしている」

( ´_ゝ`)「――全てはその強さゆえに、か?」

( ゚∋゚)「そうだ。ミルナは強い。それで十分」

 それは何ものにも侵されぬ事実。


( ゚∋゚)「ミルナがいる限り、例え全滅していようとも、クックル達には勝ち目がある!」


 これほどの男に、そこまでの信頼を得る。
 決して馴れ合う仲ではないにもかかわらずだ。

28 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:16:09.50 ID:nIuqa94K0

 全ては、強さのカリスマによるもの。

 闘者を惹き寄せる、際限なき力量の為せることであろう。

( ´_ゝ`)「なるほどね……」

 兄者は、クックルのように直接ミルナと対峙したことはない。
 ただバッジの保持数や、名の知れ渡っていることから強さを判断していただけ。
 しかし、いざこの大男の語りを聞くや、まざまざとミルナの恐ろしさが分かってくる。

( ´_ゝ`)「ミルナと敵じゃなくて、いま俺はとても安心しているよ」

 心の底から、そう思う。

29 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:18:52.62 ID:nIuqa94K0

 同時に大きな安心も生まれてきた。
 少なくとも、彼は素直姉妹を相手にしようとも後れは取らない。それだけは分かる。
 ならば、クックルの言うようにミルナを案じる必要はない。

( ´_ゝ`)「なら、俺たちがやるべきことは一つだけだな」

( ゚∋゚)「む……?」

 兄者は立ち上がる。

 ある程度、回復は図れた。
 やはり弟者と比べて、被ったダメージは少ないからか。

( ´_ゝ`)「俺たちはこれから中央校舎に向かい、セントジョーンズの救出に向かう」

31 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:21:15.49 ID:nIuqa94K0

( ゚∋゚)「ぬぅ……!」

 クックルは盛大に顔をしかめた。

( ゚∋゚)「しかし、クックル達は既にリタイアされた!
     戦いに参加するのは、ルール違反ではないのか?」

( ´_ゝ`)「あぁ、そうだな。確かに、今の俺たちが戦うことは武喝道のルールに反する」

 しかし、と付け加え、兄者は人差し指を立てる。
 ゆっくりと持っていかれるそれは、彼の薄い唇へと当てられた。

( ´_ゝ`)「極論から言えばだな、『戦わなければ』問題は一切ない。
      セントジョーンズにこの状況を連絡、または奴を救出することはルールには反していないはず」

(; ゚∋゚)「むぅう……、そういうものなのか?」

32 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:23:42.06 ID:nIuqa94K0

( ´_ゝ`)「加えて言うなら、この『ヒート軍団』対『七星連合』の戦いは場外戦闘。
      監視の風紀委員もいない。多少のルール違反も、言ってしまえば構わないだろうさ」

(# ゚∋゚)「やはり違反するか! クックルは卑怯な真似はしない!」

(; ´_ゝ`)「まぁまぁ落ち着けよ。俺だってもう戦えるとは思っていない。
      お前も予想以上にボロボロだしな。実際、まともな戦闘は無理だろう」

( ゚∋゚)「で、ではセントジョーンズの救出のみを……?」

( ´_ゝ`)「あぁ。それくらいは許してくれたっていいだろ。
      リタイアされた身でも、やっぱり自分のチームが負けるのは気持ち良いものじゃない」

( ゚∋゚)「ふむ……なるほど」

33 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:26:07.72 ID:nIuqa94K0

 少し考える素振りを見せてから。

( ゚∋゚)「わかった。それならばクックルも協力しよう」

 クックルもまた立ち上がった。

 折れた右の腕がぶらりと、その動きにつられて揺らぐ。
 なんとかまともに動く左腕で、気絶している弟者を抱え上げた。

 彼を先頭とし、三人は中央校舎を目指す。

 まずはこのまま二階渡り廊下へと向かうのが、最短のルートだ。

( ´_ゝ`) (何事もなければそれが一番なんだが……)

 暗闇の中を進んで行く、兄者の脳裏にふっと浮かぶ不安。
 セントジョーンズの元へ向かうまでに、敵に遭遇することだけは避けたい。
 するりと、彼のいる部室まで辿り着ければ僥倖だ。

34 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:28:41.75 ID:nIuqa94K0

( ´_ゝ`) (いや、変に不安がるのはやめよう。俺たちは俺たちに出来ることを――)


 暗い考えを、振り払ったその時。

 彼は背後に、人の気配を感じた。


(; ´_ゝ`)そ 「…………なっ!」

 あまりに突然の出来事。

 まるで、いきなりその場へワープしてきたかのように。
 人間二人分の気配がふっと、兄者たちの背後へと出現する。

 異常な感覚に後ろ髪を引かれ、堪らず振り返った廊下の先。

35 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:31:07.37 ID:nIuqa94K0


  、_
( ,_ノ )「…………」

/ 、 /「――――」



 背の高い影と、対照的にひどく小さな影がいる。

 鷹の眼はしっかりと捉えた。
 ちょうど先ほどまで、自分たちがブッ倒れていた場所にそれらはいる。
 闇の中から異様な雰囲気を漂わす、その眼差しはこちらを射抜いていた。
 それが敵意を現わすものなのかも、何故か分からない。

 兄者には、それらの感情を読み解くことが出来なかった。

38 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:33:40.03 ID:nIuqa94K0

(; ´_ゝ`)「うっ……く、まずいぞ、クックル!」

 ただ分かるのは、この者たちが異常だということだ。
 未知の存在が、何にしろ明確な意識をこちらへと向けている。
 それだけで、悪寒が全身を這いずり回った。冷や汗が溢れ出す。

( ゚∋゚)「――――ッ!」

 呼びかけられて気付いたクックルも、その者たちを見据える。
 すかさず怪我人の弟者を床に降ろすと、左腕一本で険しく構えを取った。
 戦闘態勢だ。

 すなわち、クックルの本能は彼らを敵と判断したのだ。

 兄者は、嫌な予感と共に生唾を飲み込む。

41 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:36:09.36 ID:nIuqa94K0

(# ゚∋゚)「アニジャ、あれは何だ!?」

(; ´_ゝ`)「わ、わからない。何だあいつらは? 敵なのか?」

(# ゚∋゚)「いま、この時、この場所にいるということは――」


 ギコ、モナー、ミルナ、セントジョーンズ。いずれでもない。

 ならば敵だ。『七星連合』以外の存在は、彼らにとって漏れなく敵となる。


(; ´_ゝ`)「ヒート軍団か? 何故? こんな場所に?!」

(# ゚∋゚)「違う! 奴らの中にこんな気配を見せるような者はいなかった!」

42 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:38:40.51 ID:nIuqa94K0

 その纏う気配。

 ドクオよりも鋭敏に、こちらの感覚を探っている。
 ヒートよりも激しく、他者を圧倒するプレッシャーを放っている。
 クーよりも静寂で厳しく、刃物の如き冷たい眼差しを向けている。

 今まで見たこともないような、存在。

(; ´_ゝ`)「つまり……第三勢力、か」

(# ゚∋゚)「貴様ら何者だ! 名を名乗れ! 姿を見せろ!」

 兄者の予感が的中すると共に、クックルは声を張り上げた。
 ずいと進み出る巨体。ちょうど兄者を庇うようにだ。
 この調子なら向こうの返答次第で、彼はすぐにでも突進を繰り出すだろう。

44 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:41:12.59 ID:nIuqa94K0


 緊張漂う二人を尻目に、影達は答える。

  、_
( ,_ノ )「名乗る必要はない。どうせ知っているだろうからな」

/ 、 /「それよりてめーらこそ、こんな深夜の学校で何してんだし?
      喧嘩に明け暮れる暇があんなら、ウチで明日の授業の予習でもしやがるし」

 何とも、的の外れた答え。

 と言うよりもまず、クックルの問いかけに対し真面目に答える気が無かったとみれる。
 無論、それは彼の怒りに火を点けるには十分すぎた。
 顔を真っ赤にした彼は、口角泡を飛ばし食って掛かる。

(# ゚∋゚)「クックルは! お前たちなど知らない! 真面目に答えろ!」

45 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:43:41.52 ID:nIuqa94K0

/ 、 /「てめーが知らないと思っていても、実際はお互いによく知ってるんだし。
      ただ単に、てめーの目が便所の鏡みたいに曇ってるから、事実に気付かないだけだし」
  、_
( ,_ノ )「お前のことならよく知っているぞ。三年B組のクックル・ドゥドゥドゥ。
     確かこの前の現国の小テスト、お前は十五点だったな。悪いが酷いとしか言えん」

(; ゚∋゚)そ 「ぬぐぅ?! 何故、それを……!?」
  、_
( ,_ノ )「流石に留学生とはいえ、もうちょっと頑張ってほしいもんだ」


 そこでぷちりと、クックルの堪忍袋の緒が切れる。


(# ゚∋゚)「くぅあああああ――ッ!! RUUUUUUUUSH!!」


 暴走する彼は我武者羅に突っ込んで行った。

46 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:46:11.26 ID:nIuqa94K0

 まだ敵の力量も能力も、所属する部活すらも、何一つ分からないというのに。
 怒りに身を任せ、ただ真っ直ぐに突っ込んで行く。
 強力だが、粗雑すぎる。
 
(; ´_ゝ`) (まさか……こいつら!)

 兄者だけは、気付く。

 先の会話から、最悪の答えを既に導き出していた。
 その予想が正しいのなら、クックルの突貫は無謀の一言。
 全身が一気に冷えていく。頭のてっぺんから、爪先まで。

 渇いた喉を震わせ、彼は叫ぶ。

49 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:48:37.84 ID:nIuqa94K0


(; ´_ゝ`)「駄目だぁあああ!! クックル、戦うんじゃない!」

(# ∋ )「――――ッ!!」


 だが懸命の呼びかけも、届かない。

 真っ直ぐに二人組へと突っ込んで行くクックル。
 頭からの突進だ。加速と体重と筋力が生み出す、鋼の特攻。
 向かって来られる身としては、逃げるなり構えるなりをするのが普通の反応だ。

 しかし、二人組の背の高い方がゆらりと前に出て、軽く左腕を前へと伸ばす。
 小さい方はそれが当然というばかりに、見守るだけ。
  、_
( ,_ノ )「右腕を怪我しているようだな。
     なるほど、ならハンデだ。こちらも一本で相手しよう」

51 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:51:14.84 ID:nIuqa94K0

 機関車のように爆進するクックルを前にして、掲げられた左手が軽く手招きする。
 完全にクックルを侮っている。その挑発が、加速する彼をより焚き付けた。

(# ゚∋゚)「クがああああああああ――ッッ!!」

 腹の底まで震える、獣の叫びと共に。


 激突する。


(; ´_ゝ`)「うわっ!」

 弾けるように、高鳴る肉と肉の衝突音。
 結局、敵は最後までクックルの突撃を避けようとしなかった。
 伸ばした左腕を、ただ前へと向けていただけ。

52 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:54:00.87 ID:nIuqa94K0

(; ´_ゝ`) (ど、どうなった……?)

 闇の奥へと吸い込まれていったクックルの安否は、分からない。
 兄者は鷹の目を絞り、少しでも様子を探ろうと躍起になる。
 だが、そんな努力も無駄に終わったようだ。

 進み出る者が、いる。


  _、_
( ,_ノ` )「やれやれだ。最近の子供は血の気が多すぎる」



 それはクックルではなかった。

54 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:56:35.56 ID:nIuqa94K0

 険しく眉間に皺を寄せた、しかして衰えを感じさせない表情。
 ワイシャツとスラックスに包まれた肉体は、絞り上げられた筋肉の鎧。
 色黒の肌にひっつめ髪を揺らして、彼はこちらへと向かってくる。

 その手に、クックルのシャツの襟首を引っ掛けながら。

(  ∋ )「――――」

 引きずられる彼は目を裏返し、全身から力を失っていた。
 ノックアウト。気絶。この巨体が、先の一交じりで叩き潰されたというのか。

 脅威だ。

 そう簡単に倒されることのない男が、たった一撃で沈められた。
 訪れるのは、底知れぬ恐怖。

55 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/18(金) 23:59:15.90 ID:nIuqa94K0

(; ´_ゝ`)「や、やはり……!」

 そして、兄者の予想する最悪の顛末。

(; ´_ゝ`)「どうしてあんたたちが! 何でだ! くそ、どうして……!」

 うろたえ、崩れ落ちる。
 もう、抵抗は無意味と知ったから。出来ることは何一つないと悟る故に。
 強いだとか弱いだとか、戦うとか戦わないなんて次元ではない。

 彼らは敵ではなかったのだ。

 もっと、この武喝道にとって危険な人物たち。

/ ゚、。 /「こっちとしては感謝してもらうくらいだし」

56 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:01:37.33 ID:bCpzuO9C0

 兄者が顔を上げると、そこにはクックルを倒した者とは別の人物がいた。

 非常に小柄で、子供のような。
 闇に溶け込む、漆黒のロリータファッションに身を包む。
 腰まで届く、重量感のある濃紺の髪が、兄者の視界を覆い尽くした。

/ ゚、。 /「お前らは幸いにも、一番乗りでこの馬鹿騒ぎから足を洗えるんだし」

 桃色の唇が言葉を紡ぐ。
 見た目と裏腹なそのハスキーボイスは、兄者に浴びせかけられた。
 刃の雨のような、鋭い威圧感と脅威を孕んだ声。

(; ´_ゝ`)「うぐ、くそ……終わりだ! 武喝道の全てが、終わっちまう……!」

/ ゚、。 /「終わるんじゃないし。全てが元に戻るだけだし」

58 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:04:08.97 ID:bCpzuO9C0


 兄者が仰ぐ、その女は眼を見開く。

 人間の眼というには余りにも恐ろしく、奇妙。
 深く波立つそれは、兄者の心へと容易く侵入していく。
 彼はその侵入を止めることも、瞼を閉じることも出来ない。


 そして彼の意識は呆気なく、そこでぷつりと途切れたのだった。


60 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:06:39.49 ID:bCpzuO9C0

 * * *


( ´∀`)「モナハハハハハハ――ッ!」


 高々と笑うモナーに振り回され、フサギコは地へと叩きつけられる。

ミ,, Д 彡「ぐぁあっ!」

 見事なまでの一本背負いは、完璧に決まった。
 受け身を取ろうと、ダメージは大きい。投げ出された身に、衝撃が走る。

从;゚∀从「フサギコっ!」

 その戦いを、遠くで身守るハイン。

61 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:09:07.14 ID:bCpzuO9C0

 彼女は痛めつけられるフサギコを前に、駆け寄ろうと足を出しかけた。
 しかし、むくりと起き上がる『野獣コック』はそれを許さない。

 太い腕を突き出し、彼女を制す。

ミ#,,゚Д゚彡「来るな! ハイン、お前はそこで待っていろ!」

从;゚∀从「ば、馬鹿野郎! お前押されまくってるくせに……!」

ミ,, Д 彡「この程度……まだ、負けてはいない!」

 ぐん、と身を踊り上がらせて。

 自らに休む暇をも与えず、彼は再び突進を始めた。

63 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:11:36.13 ID:bCpzuO9C0

ミ#,,゚Д゚彡「喰らえぇえい!」

 その手に握るのは、小振りのミルクパン。

 敵がこちらを掴み、投げるモーションに入る前に攻撃する。
 そのためには、スピードを生かした攻めが必要と判断した故に。

( ´∀`)「モナモナ……分からん奴だモナ」

 しかし、モナーは一切問題無しと構える。

 そんな彼の脳天へと、フサギコは一撃を叩き込まんとした。
 速い。確かに速い。加えて、底に深さのあるミルクパンは打撃力もある。
 なかなかに、鋭い攻め方だ。


( ´∀`)「教えてやるモナ! 肉弾戦における、柔道の万能さを!」


64 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:14:11.28 ID:bCpzuO9C0

 すかさず、フサギコの手首へと打ち込み。

 ミルクパンを握った、右手の手首にだ。
 その速度は、これまた見た目に似合わず速い。

ミ;,,゚Д゚彡「ぬっ!?」

 思わず、武器を手放してしまう。

 そこへ間髪入れず、モナーはフサギコの両手を鷲掴みにする。
 ついでやってくるのは突進。ちょうど取っ組み合いの状態で、フサギコを跳ね飛ばそうと言うのか。

ミ#,,゚Д゚彡「力比べ……!」

65 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:16:33.28 ID:bCpzuO9C0

 それならば、フサギコにも勝機はある。
 100キロを超える筋骨隆々の肉体は、そう易々と押し返されるものではない。
 比べて、モナーは小太りで幅広い体型と言えども、フサギコを圧倒するほどの重量は見られない。

 わざわざこちらの有利な戦いに持ち込むのは、一体どういうわけなのか。

 その真意は図れないが、攻めれる時に攻めなければ。


ミ#,,゚Д゚彡「うりゃあぁああっ!!」

(# ´∀`)「モナぁぁぁぁああ!」


 大喝一声。


66 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:19:08.65 ID:bCpzuO9C0

 両手を絡ませた二人は、全力で相手を押し返す。
 真っ向からのぶつかり合い。力の強い者が制する戦い。
 額をぶつけ、手を握り潰し、ただただ前へと押し合う。

 シンプルにして、激烈なる勝負。

( ´∀`)「…………」

 だが、やはり体重差は大きいのか。
 モナーの身体が少しずつ、少しずつ押し負けている。
 フサギコが一歩力強く踏み出せば、モナーはあえなく一歩退く。

从 ゚∀从 (フサギコが押している……!)

 二人のぶつかり合いを見つめるハインにも、その変化はしっかりと分かった。
 間違いなく、フサギコはこの取っ組み合いを制している。圧倒している。

67 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:21:43.56 ID:bCpzuO9C0

从 ゚∀从 (このままフサギコが、あのデブを吹っ飛ばせれば――)


 隙の出来た相手を前に、繰り出す攻撃は間違いなく有効打。


 そうなれば、序盤押されがちだったフサギコにも戦況は有利となるだろう。

ミ#,,゚Д゚彡「うぉおおおおお――っ!」

 波に乗る彼は止まらない。
 このまま一気にモナーを吹き飛ばし、決定打を叩き込むのみ。
 まさしく追い風に乗ったかのように、ここ一番の突進を加えた。

( ´∀`)「――――っ」

 モナーはその瞬間を逃さなかった。

69 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:24:07.73 ID:bCpzuO9C0

ミ;,,゚Д゚彡「ぬっ!?」

 引き寄せられる。

 重心が崩れる。

 もたついた足を、容赦なくモナーのそれが払った。

 出足払いだ。

 重さや体格の大きさは、柔道の不利有利に含まれない。
 本来、小柄な者が大柄な者に対抗するための技術だからだ。
 それ故に、例え数十キロの体重差がある二人の戦いにおいても――

70 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:26:38.03 ID:bCpzuO9C0


ミ,, Д 彡「がはっ!」


 モナーが絶対的に不利である理由は、何一つない。

 背中から叩き付けられた。
 衝撃は内腑を叩き、呼吸を乱す。

( ´∀`)「モナハハハハ! 愚鈍モナ、間抜けめ!」

 すかさず追い打ちに走る。

 投げ出されたフサギコの、太く逞しい腕に彼は取り付いた。
 胸に抱え、脚で挟み込み、締め上げる。関節を逆にヘシ曲げられる痛みは、相当なもの。

71 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:29:09.69 ID:bCpzuO9C0

 腕ひしぎ十字固め。

 格闘技における、もっともポピュラーな関節技(サブミッション)の一つ。
 余りにも有名すぎるその技の威力は、シンプルにして非常に強烈。

ミ;,,゚Д゚彡「う、うごぉおおああ!」

 みしり、みしりとフサギコの骨は悲鳴を上げた。

( ´∀`)「ガタイはいいが、他の連中より飛び抜けてパワーがあるわけでもない!
      スピードも並以下! 耐久力や体力があるだけ、いいサンドバッグだモナ!」

ミ#,,゚Д゚彡「な、何を……!」

 睨み返す、その眼は力強い。
 しかし、実際は苦悶に耐えることで精いっぱいだ。
 今も固められた腕は砕ける一歩手前。限界は近い。

72 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:31:37.97 ID:bCpzuO9C0

( ´∀`)「教えてやるモナ! お前はヒート軍団の中じゃ、雑魚も同然!」

 そんな彼に浴びせかけられる、侮蔑。

( ´∀`)「ハインリッヒも哀れ、運が無いモナ!
      助けに来たのがお前じゃあ、二人まとめて僕にリタイアだモナ!」

ミ,, Д 彡「――――ッ!」

 がつんと、金槌で頭を打たれたかのような。


 それは、突き付けられた現実。


 確かに、フサギコはヒート軍団の中では目立たない存在かもしれない。
 ヒートやクーはもちろん、今やドクオも大きく成長し、相当な実力を持っている。
 非力なハインとてその頭脳を駆使し、チームを常に勝利へと導いてきた。

74 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:34:08.72 ID:bCpzuO9C0

 ならばフサギコは?

ミ,, Д 彡 (俺は役立たずなのか……)

 成長し、あるいは元より一騎当千の力を持つ仲間たちの中で。
 彼は何も出来ない――ハイン一人守れない役立たずなのか。

 先の、渡り廊下での戦いが思い出される。


 ――お前なんかじゃあ、俺の相手は務まらん。


ミ,, Д 彡「くっ……」

 辛辣な一言。

77 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:36:37.59 ID:bCpzuO9C0

 ギコ――『鎌鼬』の男。圧倒的な実力差で、自分を圧倒した者。

 彼もまた、モナーのようにフサギコを雑魚と呼んだ。弱い、相手にならないと。
 それは事実だった。フサギコが彼に太刀打ちできなかったのは、紛れもない。
 結局、モララーというイレギュラーが現れなければ、フサギコはリタイアされていた。

 そして、今この戦い。

 もう、逃げたりやり過ごしたりは出来ない。
 それでも、敵は強大で強烈。歴戦の猛者。強いの一言。
 勝てないのか。なら諦めるのか。

 フサギコには、この武喝道を生き残ることは出来ないのか。

81 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:39:22.48 ID:bCpzuO9C0


ミ#,,゚Д゚彡「違うっ!」


 締め付けられていた腕に、力が舞い戻る。
 腕力に任せ、屈曲。その拘束を無理矢理に引き剥がさんとした。

 同時に、腕に取り付いたモナーごと立ち上がる。

 人一人を、極められた右腕一本で持ち上げた。
 それは咄嗟に出たものとは言え、相当な剛力。

(; ´∀`)「こ、こいつ……!?」

ミ#,,゚Д゚彡「確かに俺は、仲間と比べればパッとしない実力だ!」

82 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:42:07.87 ID:bCpzuO9C0

 見る見るうちに、筋肉を盛大に隆起させる右腕。
 その様相は、さながら岩石だ。
 硬く大きく膨らんでいく剛腕を、モナーは抑えつけられない。

(; ´∀`) (ま、まさに火事場の馬鹿力……!!)

 汗を滲ませ必死に抱え込もうと、腕は彼を拒む。

ミ#,,゚Д゚彡「ぬぅあああっ!!」

 モナーの極めが緩む、ここぞというタイミングでフサギコは腕を薙いだ。
 遠心力に振り回され、弾かれるモナー。

(; ´∀`)「モナガッ!?」

 叩き付けられ、焼け焦げた教室の壁は黒板ごと崩れ落ちる。

83 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:44:39.41 ID:bCpzuO9C0


ミ,, Д 彡「だが覚悟なら……お前にも、あいつらにも負けない自信がある!」


 黒焦げの床に転がるモナーは、衝撃に揺らぐ頭で彼を仰いだ。

ミ#,,゚Д゚彡「ふんっ!!」

 その場で半回転、フサギコは回し蹴りを放つ。
 狙いはモナーではない。教室前方、崩れかけていた壁だ。

 剛脚にとどめを打たれ、見るも無残に大穴を開ける。

(; ´∀`)「い、一体何を……!!」

 戦き、立ち上がって距離を取るモナーを尻目に。
 フサギコは大穴に身を突っ込むと、瓦礫を掻き分け掻き分け何かを探し出す。

84 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:47:22.35 ID:bCpzuO9C0

 本来なら、教室の壁一枚向こうは隣の教室だ。

 しかし、この家庭科研究室には隣室との間にワンクッションが挟まれている。
 倉庫だ。とは言っても、ごく狭く、そう使われているものではない。
 余った調理器具や箱詰めとなった食材などを、一時的に置いておくだけの場所。

 そこで彼が求める物とは何か。

ミ,, Д 彡「……あったか……!」

 意外にすぐに見つかったらしい。
 壁の穴に差し込まれていた両手は、埃と煤に汚れた一つのスチール缶を取り出した。


 黒ずんだラベルから判断できる、その中身は灯油。


85 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:49:37.02 ID:bCpzuO9C0

ミ,,-Д-彡「運が良かった。この爆発の中、一個だけ無事に残ってるとはな」

( ´∀`)「それはっ?!」

ミ,,゚Д゚彡「灯油さ。学校のストーブのな。何せこの広さ、数が数だけに燃料も場所を取る。
      学校側が置き場所に困っていたところ、ここのスペースを一時的に貸していたのさ」

 フサギコはそれを片手に、着ていたエプロンを剥ぎ取ると投げ捨てる。
 薄汚れた白いエプロンはひらりと宙を舞い、見守るハインの傍らへと落ちた。
 彼女はエプロンとフサギコを見返しては、その行動の意味を計りかね、汗を流す。

ミ,,゚Д゚彡「ハイン、エプロンを頼む」

从;゚∀从「お前……何を……?」

ミ,,-Д-彡「そのエプロンにだけは、何かあっちゃあいけないからな」

87 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:51:22.21 ID:bCpzuO9C0

 意味深にそう言い残して、ひしゃげた缶の蓋をこじ開ける。


 そして、頭上でそれを逆さに振るった。


(; ´∀`)「い、一体何をしているモナあああ?!」

ミ,,-Д-彡「――――っ」

 固く眼を閉じた彼は、たっぷりと油をかぶる。
 裸に剥かれた上半身を、ぬらりとした光沢が覆い尽くしていった。
 間もなくして、全身が油に塗れる。

 その場にいる全員の鼻腔を、充満していく濃密な臭い。

88 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:53:37.03 ID:bCpzuO9C0

(; ´∀`)「い、イカレてるモナ! こんな、こんな場所で!」

 後ずさる。そのわけの分からない行動を前に。

(; ´∀`)「まだそこら中で爆発の残り火が燻ぶっているモナ!
      全身油塗れになるなんて、命知らずにも程があるモナ! こいつ、こいつ――」

ミ,,゚Д゚彡「ビビったな」

 モナーの喚き声も、気に掛けず。

 フサギコは燃え落ちた教室を闊歩する。

 もう一方の手がズボンのポケットに突っ込まれ、取り出されるたこ糸の束。
 頭に、腕に、体に。たっぷり油を染み込ませながら、彼は全身を糸で包んでいく。
 最後に、まるで導火線の如く余った糸の端を、ゆっくりゆっくり地面へと近づけ――

90 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:56:07.62 ID:bCpzuO9C0


 足元でちろりちろりと踊り狂う、小さな残り火。

 その舌先に、末端を晒した。 


ミ#,,゚Д゚彡「ビビったのなら、お前の負けだ!!」


 一気に加速。

 同時に、赤い火の尾はたこ糸を駆け巡り、フサギコの身体を蹂躙していく。
 燃え広がる炎は、大男を瞬く間に火達磨へと変えていった。

ミ,, Д 彡「うおおおあああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 しかし、止まらない。

92 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 00:58:35.28 ID:bCpzuO9C0

 火の玉と化す彼は一直線に、腰を抜かしたモナーへと向かった。

(; ´∀`)「うぁあああ、やめろお!! 来るな、来るなぁぁあ!!」

 既にモナーの心は、恐れに支配された。
 先程の酷い侮蔑もどこの話、後ずさる彼の背後に逃げ場はない。

 生き残れる方法は、立ち向かうことのみ。

ミ#,,゚Д゚彡「取ったぁぁぁぁあああああ――ッ!」

 しかし、こちらには恐れも容赦もない。

 肉薄し切ったフサギコが、モナーの襟首を引っ掴んだ。
 炎に揺らぐ両碗に掴まれたのだ。
 モナーの柔道着にもまた、火が燃え移っていく。

93 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 01:01:07.51 ID:bCpzuO9C0

 その眩しいほどの赤は、彼に更なるパニックを与えた。

(; ´∀`)「ぁぁぁああああ! あ、火、火ぃい! うわぁぁあ、燃えるぅう!!」

 振り払うことも、掴んでくる腕を取ることも出来ない。
 燃え盛る腕――ましてや油を被ったそれを、素手でどうやって掴み取れようか。

 滑る、熱い、これでは跳ね返せない。
 
 彼に出来ることは、ただ不様に叫ぶことだけだった。


 覚悟。


 例え技術で勝ろうとも、その点においてフサギコに負けているが故に。


95 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 01:03:42.15 ID:bCpzuO9C0


ミ,, Д 彡「理解……できた、か? これが……俺の……覚悟だ!」

(;  ∀ )「うわああ゛ぁあああ゛あああぁあ゛あああぁぁあ゛――――ッッ!!」

ミ,, Д 彡「俺が……仲間たちに見せつける、戦うための覚悟なんだ!」


 振り回すモナーを再度、壁に叩き付ける。
 燃え燻ぶり、半壊したそれはヒト二人分の体重を前に、大きく崩れる。
 突き抜けた先、倉庫内部へともつれ込むまま、モナーをその壁面へと押さえ込んだ。


 振り上げられた左の手刀。

 引くは烈火の赤い帯。


96 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 01:06:17.09 ID:bCpzuO9C0


ミ#,,゚Д゚彡「うおおおおお! 『ポーク・チョップ』、ワンッ!」


 一撃目は重く。


ミ#,,゚Д゚彡「ツーッ!!」


 二撃目は激しく。


ミ#,,゚Д゚彡「スリィイイイイ――――ッ!!!」



 そして三撃目は、燃え尽きるほどに熱く。



97 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 01:08:44.16 ID:bCpzuO9C0


(  ∀ )「モナガァアアああああああああっ!!」


 立て続けの三連打。
 全てを砕く、その必殺撃はモナーの肉体を破壊した。
 断末魔を上げ、彼は打ち込まれた重撃に吹き飛ばされる。

 その衝撃と威力は、あまりにも苛烈。

 倉庫の壁をブチ破り、モナーは隣の教室まで転がり込んだ。
 きちんと整列していたはずの机と椅子を、滅茶苦茶に巻き込み巻き込み、弾き飛ばす。
 まるで、嵐が通り過ぎたかのような惨状の中――

100 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/19(土) 01:11:09.78 ID:bCpzuO9C0


(  ∀ )「ブ、がっ――……」


 瓦礫に飲まれる彼が、最後の一声をあげて気絶する。

 辛くも激しき覚悟の戦いを、フサギコが制した瞬間であった。


第二十四話・終


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