ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです

2 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:00:53.13 ID:bia52uy50

 ( ´_ゝ`) 『双死双翼』 流石兄者

 【AGE】18歳
 【GRADE】三年D組
 【CLUB】和弓部
 【HEIGHT】181cm
 【WEIGHT】62kg

 【破壊力】A+
 【耐久力】D+
 【スピード】 C+
 【正確性】S
 【頭脳】  B
 【持続力】C
 【成長性】D−

 ・『七星連合』が一人。双子の弟、弟者とコンビを組む冷徹なる狙撃手。
 ・弓道の選手として高い能力と実績を兼ねているにもかかわらず、非常におちゃらけた性格の男。
  しかし、いざという時の判断・分析は鋭い。弟者を弟として、また相棒としても深く信頼を抱いている。
 ・和弓による狙撃は脅威の威力と正確性を誇る。遠距離戦で彼に勝てる者はいないであろう。
  生まれ持つ、発達した視覚野『鷹の眼』は、数十メートル先の的を正確に捉え夜の闇をも看破する。
 ・対ドクオ戦、敗北。

3 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:03:49.70 ID:bia52uy50

 (´<_` ) 『双死双翼』 流石弟者

 【AGE】18歳
 【GRADE】三年D組
 【CLUB】洋弓部
 【HEIGHT】181cm
 【WEIGHT】59kg

 【破壊力】B+
 【耐久力】B
 【スピード】 A−
 【正確性】B+
 【頭脳】  B−
 【持続力】B+
 【成長性】C

 ・『七星連合』が一人。双子の兄、兄者とコンビを組む驚異たる軽業師。
 ・アーチェリーを嗜み、兄と共に選手として優秀な記録をいくつも残している。彼とは対照的に、落ち着いた性格。
  普段から周囲とズレてばかりな兄を、気に病みつつフォローに回る苦労人。しかしてそれも、彼の兄を思う優しさなのか。
 ・類稀なる身の軽さと速度、そしてアーチェリーの技術。これらが彼に、超機動型アーチャーとしての能力を授けた。
  高速移動で敵をかく乱し、目にも止まらぬ連射で仕留める。手数の多さで敵を圧倒する、その戦術は強力の一言。
 ・対ドクオ戦、敗北。

4 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:06:05.94 ID:bia52uy50

 ( ゚∋゚) 『キャノン・ボール』 クックル・ドゥドゥドゥ

 【AGE】18歳
 【GRADE】三年B組
 【CLUB】アメリカンフットボール部
 【HEIGHT】190cm
 【WEIGHT】122kg

 【破壊力】A+
 【耐久力】A+
 【スピード】 B
 【正確性】D
 【頭脳】  D
 【持続力】A+
 【成長性】C+

 ・『七星連合』が一人。海を渡って来た留学生にして、高潔なる勝利を求める武人。
 ・戦いに興ずる性格ゆえに、その気性は激しく大雑把。だが卑劣を憎み、誇りを重んずる気高い精神も持ち合わせる。
  アメフトの選手として活躍する裏で、日本文化を学ぶ努力もしている。しかし、それほど頭は良くない。
 ・腕力、体力はトップクラス。どれだけ粉砕しようと、無敵の肉体は朽ちることを知らず、突撃を繰り返す。
  ただしあくまで小細工なしの猛攻なので、強力だが付け入る隙もまた多いファイトスタイルでもある。
 ・対クー戦、敗北。

7 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:08:36.26 ID:bia52uy50



 ― CAUTION ―

 なお、ここで表す能力値はあくまで目安的なものなので、その差が本編での勝敗に必ず影響するわけではありません。

 ご理解のほど、あしからず。では本編入ります



8 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:11:13.01 ID:bia52uy50


 闇の中、その小さな部屋。


 彼は黙々と黒石を打ち、飛車を差し、ナイトを進めた。

(’e’)「…………」

 相手もいない三種の盤を前に、ただただ一人ゲームに興ずる。
 手は早い。考えている時間すら感じられないほどに。
 だが決して、それは彼にとって気持ちの良い時間ではなかった。

(’e’;)「…………チッ」

 舌打ちは、落ち着きのない証拠。

 彼は――囲碁将棋部部長、『絶対王者』セントジョーンズは焦っていた。

9 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:13:40.07 ID:bia52uy50

 本来、彼はこうして自身の城で悠々と待っていればいい。
 全ての策は、各々『七星連合(ビッグディッパー)』の面子に伝えてある。
 万全の準備と完璧な作戦。負けはない、失敗はあり得ない。

 彼にとって戦いとは、実際殴った蹴ったという時には勝負がついているもの。

 それ以前の準備や手回し、事前の策によって実際の戦いは決する。
 あとはそれぞれの駒が全力でその役目を果たせば、勝利は容易い。
 今の今まで、群がる敵はそうやって蹴散らしてきた。

 しかし、今の状況は異常と化している。

(’e’;)「僕の作戦は……完璧だ。完璧だったはず」

 額に嫌な汗が伝う。噛んだ爪も、もうボロボロ。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/25(金) 23:16:08.58 ID:bia52uy50

 流石兄弟が開幕の火蓋を切ってから、既に数十分。
 間もなく時刻は、深夜の一時になろうとしていた。

 ここまで経過していれば、作戦では二つのことが完了しているはずだった。

 一つは、ハインを捕えたモナーがここに到着すること。
 二つは、それぞれの敵を撃破したであろうメンバーからの連絡だ。

 皆、学生だ。携帯電話の一つくらいは、全員所持している。
 しかし人気もない校内での通話は、隠密行動に適さない。その上、通話中はどうしても隙も出来る。
 故に、各員よほどの緊急時でない限り、連絡は敵の撃破後と取り決めていた。

 その後セントジョーンズの指示を仰ぎ、仲間の援護に向かう。

 スムーズなチーム戦の鍵となる、効率的な作戦だ。

(’e’) (全員、目標の敵との相性は良い。苦戦はしようと負けはないはず……)

12 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:18:34.51 ID:bia52uy50

 しかし、これだけ時間が経過して誰からも連絡がない。
 何故か。答えは簡単。

 アクシデント。
 
 現在の状況が、当初の作戦からかけ離れたものとなっているからだ。
 セントジョーンズは冷静にそう思っていても、認めたがらない。

 自身の完璧な作戦が、崩れた。

 それは、彼の自尊心をいたく傷付ける。

(’e’#)「くそっ! せめて誰か連絡して来い! 役立たずどもめ!」

 セントジョーンズにとって、自らの失敗はあり得ない。
 作戦に支障を来したというのなら、それは身勝手にも『駒』の責任と決め付ける。
 厚顔で尊大で、身も蓋もない考え。

14 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:21:06.87 ID:bia52uy50

 忌々しげに机の携帯電話を見る、その時。

 突然のバイブレーションが、無音の闇に騒がしく鳴り響く。

(’e’;)そ 「――――っ! やっとか!」

 乱暴に取り上げ、通話ボタンを叩く。
 期待するのは、快勝の一報。しかし、どれだけ良い結果でもこれだけの遅延。
 苦言の一言でも言ってやるのが当然と、息を巻く彼の耳に飛び込んできたのは、

 聞き覚えのある部下たちの声ではない。


 ハスキー気味な、女の声だった。


16 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:23:37.29 ID:bia52uy50


ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです

第二十五話『風哭き』


17 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:26:06.48 ID:bia52uy50

/ 、 /d【あーもしもし、聞こえるし? セントジョーンズで間違いないし?】

b(’e’;)「……なっ、何だお前は?」

 液晶を見る。そこに映った名前は、流石兄者。
 今、連絡して来ているのは兄者の携帯からだ。しかし、相手はどうも兄者ではない。
 何故、兄者以外の人間が彼の携帯を使っているのか。

 原因不明の、嫌な予感が頭を取り巻く。

b(’e’)「兄者はどうした? お前は何者だ! ヒート軍団なのか!?」

/ 、 /d【せっかちな奴だし。もう少し落ち着いて話をしたらどうだし?
       何事もどっかり腰を据えて行動する奴の方が、あくせくする奴より成功するんだし】

19 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:28:46.32 ID:bia52uy50

b(’e’#)「下らない御託はいい! 名を名乗れ! 何者だ!」

 聞こえてくるのは質問の答えではなく、ふんと小さく鼻で笑う音。

/ 、 /d【所詮、お前も小物だし。今、この会話でよく分かったし。
       まぁ一応いい大人として、前もまともに見えないガキに忠告してやるし】

b(’e’#)「僕の質問の意味を――」


/ 、 /d【我々は、聖斗指導部】


 その一言は、まるで氷の塊のよう。


21 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:31:45.19 ID:bia52uy50

 電話越しでも感じる圧倒的質量と、凍えるほどの冷気。
 思わず言葉を呑みこんでしまうほどのプレッシャー。

/ 、 /d【こっちはこっちで別の目的があるから、お前には構ってやれないし。
       ただしお前の方の処理に向かっているのは、ちょっと手加減を知らん連中だし】

b(’e’;)「な……何を言っている……」

/ 、 /d【とりあえず掻い摘んで説明するなら、『抵抗したら死ぬ』ってことだし】


 死。


 その簡潔な一文字を聞くだけで、セントジョーンズは全身に怖気が立つ。
 感じたこともない恐怖に、頭からすっぽりと覆いこまれる。
 口が渇き、上手く言葉が思いつかなかった。

22 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:34:08.15 ID:bia52uy50

b(’e’;)「な、何を……」

 何一つ、意味が分からない。

 思考を支配するのは、混乱と焦燥だけ。

/ 、 /d【繰り返すが、抵抗したら死ぬだけだし。逃げることも不可能だし。
       すぐに膝をついて、降伏するし。お前が五体満足にここを出られるのは、その時だけだし】

b(’e’;)「ど、どうして僕にそんな事を伝える? お前は敵なのか?
      お前が一体どういう意図を持って、僕にそんな忠告をするんだ! 答えろ!」

 またも笑い声。

 しかし、それは先ほどの侮蔑めいたものではない。
 もっと別の感情が込められた、不思議な声色だった。

23 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:36:36.83 ID:bia52uy50

/ 、 /d【ま、親心とでも思っていればいいし】

 ぷつり、と。

 まだ聞きたいことの半分も聞けないまま、通話は終わった。
 セントジョーンズは暗がりの中、孤独へと引き戻される。
 今はもう、作戦の支障にイラつく気持ちもない。

 ただ何とも言えない表情で、じっと携帯電話を見つめているだけだった。

24 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:39:19.38 ID:bia52uy50

 * * *

 
 頭からかぶった水は、どこか鉄の味。


ミ,,-Д-彡「うぷっ……」

 そしてフサギコは思い出す。
 そう思うのは投げ回された挙句、口の中を切っていたからだ。
 じんわりと広がっていくのは、熱い血潮の味。

从 ゚∀从「まったくもって、馬鹿ここに極まれりだな」

 空になったバケツを乱暴に投げ捨て、ハインは呆れ返ってそう呟く。
 対モナー戦、火達磨となったフサギコを消火するため、彼女も尽力した。
 彼が幸いにも、酷い火傷を負うことなくすんだのはそのお陰。

25 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:41:56.14 ID:bia52uy50

从 -∀从「オレより馬鹿だぜ。
       自分に火を放って突撃なんてよ。死ぬ気かボケ」

ミ;,,゚Д゚彡「ははは、まぁ……俺自身かなり無謀だったと思うよ」

 ひりひりと痛む肌を検めつつも、フサギコは苦笑する。

ミ,,-Д-彡「でも勝って、お前を守れた。それだけで十分だ。
       運の良いことに大きな怪我もなく、まだまだ戦えるしな」

从 ゚∀从「…………」

 少しだけ、胸に詰まるものがあった。

 よくもまぁ、他人を目の前にして『守ってやる』なんて恥ずかしいセリフが言えたもの。
 彼女はそう思う。曲がりなりにも、ハインだって女なのだ。

27 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:44:36.04 ID:bia52uy50

 フサギコは何の考えも無しに言っているかもしれないが、やはり感極まる。

从 -∀从「本当に……馬鹿だよ。救えねぇな」

 壁に背を預けるフサギコの胸板へ、投げ付けた布の塊。
 薄汚れたそれは年季の入ったエプロン。
 フサギコ愛用の品であり、ハインが守った物だ。

从 ゚∀从「ほれ、いつまでも裸でいられちゃ目に毒だ。
      とっととそのボロ切れ被って、移動を開始すんぞ。モタモタすんな!」

ミ,,゚Д゚彡「おう」

 軽く二つ返事し、広げたエプロンに腕と首を通す。
 湿った体に張り付く布の感触は、慣れ親しんだ優しいもの。

 フサギコは心底、安らぎを覚える。

29 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:47:07.40 ID:bia52uy50

ミ,,゚Д゚彡「しかし、これからどこに向かうんだ?
      まぁ当然、他の奴らの救援に行くのが最優先なんだろうが……」

从 -∀从「ふむ……まぁ、そうだろう。普通は」

 先頭を切って教室を出たハインは、その細い両腕をかっちりと組む。
 そして同時に閉じた瞼の裏で、情報と状況と、独自の判断による計算式が構成されていった。

 この場合の優先事項とは何か。
 各方面の戦闘状況は、如何ほどと予想するか。
 恐らく唯一フリーである自分たちの行動は、今後の戦局に大きな波紋を広げるはず。

 慎重かつ的確に。

 ハインは自身の行くべき道を、徐々に見出だし始める。

30 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:49:40.28 ID:bia52uy50

从 ゚∀从「オレたちがするべきことは……」

ミ,,゚Д゚彡「するべきことは?」

 開かれた眼と、頭上へと伸ばされた腕。


从 ゚∀从「――敵の頭(ヘッド)を叩くこと、だ」


 その右の人差し指が、彼女の額をぴたりと突いた。


ミ,,゚Д゚彡「何……?」

 返って来たのは、フサギコが予想もしなかった答え。

31 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:52:18.28 ID:bia52uy50

ミ;,,゚Д゚彡「ヒートたちを……助けにはいかないのか?」

从 ゚∀从「あぁ」

ミ,,゚Д゚彡「どういうことだ?! 中央校舎でも東校舎でも、みんな戦っている。
      少しでも助けになるように、今すぐにでもそっちへ向かうのが当然だろう!」

从 ゚∀从「まぁ待て、落ち着けよ」

 いきり立つフサギコを前に、ハインは彼を制す。

从 -∀从「確かにな。全員が全員、戦っている最中だ。
      でもよ、それは非力なオレじゃあねえ。今戦ってるのは素直姉妹に、ドクオなんだぜ?」

ミ,,゚Д゚彡「…………っ!」

32 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:54:40.50 ID:bia52uy50

从 ゚∀从「クーは怪我をしてるっつっても、まだ戦えるはずだ。
      東校舎には保健室だってある。ある程度の治療も可能だろう。そしてドクオもいる」

 ヒートに言い聞かせたことを、時が一巡りして自分に説かれるとは。
 それでも、フサギコはなかなか踏ん切りがつかない。

ミ;,,゚Д゚彡「くっ……しかし」

从 ゚∀从「あいつらだってよ、生半可な気持ちで戦いに臨んでいるわけじゃあるめえ。
      傷を舐め合ったり、馴れ合うのは楽だ。だが、そのために大局をないがしろにするわけにもいかない」

 ハインは足早に歩を進める。
 フサギコの決断を追い立てるように。それは彼女の優しさ。
 何故なら、その場における正しい判断とはやはり、ハインの言ってることだからだ。

33 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:57:06.39 ID:bia52uy50

从 -∀从「行くぜ? どうせセントジョーンズは中央校舎三階、囲碁将棋部の部室だ。
      どうせ、王者が不用意に王座から離れることはあってはならない――なんて思ってんだろ」

ミ,,゚Д゚彡「…………」

 フサギコは躊躇う。

ミ,,゚Д゚彡「ハイン、一つ聞きたい」

 胸を突くのは、一つの疑問。

ミ,,゚Д゚彡「短い期間だが、俺たちは仲間として協力し共に戦ってきた。
      そんな中で俺は、ヒートたちのことを掛け替えのない友人として信頼している」

从 ゚∀从「…………」

35 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/25(金) 23:59:47.27 ID:bia52uy50


ミ;,,゚Д゚彡「だが……お前は今でも俺達のことを、『利用できる駒』としか考えていないのか?」


从 -∀从「――――っ」

 ハインは、その言葉をはっきりと彼に伝えている。

 自分たちは、馴れ合う関係じゃない。
 あくまで互いの利害関係がの一致を理由に、一時的に協力する関係だと。
 彼女には目的がある。ただ莫大な賞金に目が眩んで、盲目的に戦っているわけではない。

 彼女なりの使い道が決まっている。

36 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:02:19.61 ID:gg2oo/Qk0

 それは、一人の少女のため。
 彼女にとって、唯一の友と呼べる人のため。
 そのためには、ハインは誰を彼をも利用する。そう宣言した。

 なら、今なおその考えは同じなのか。

从 ゚∀从「オレの戦いは――」

 ハインは深い思考の後、ゆるゆると口を開く。
 語ることを躊躇うようで、それでもある種の覚悟を持っているかのような声色。

从 ゚∀从「全部、渡辺のためだ。オレにはびた一文残らなくてもいい。
      勝ち取った金は全て、あいつとあいつの居場所のために使う。それくらいの考えでやってるんだ」

ミ,,゚Д゚彡「…………」

37 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:04:38.36 ID:gg2oo/Qk0

从 -∀从「言ったな、前に。お友達ごっこするつもりなんてないって。
      そうだよ。確かにそうだ。オレはお前らを最初から利用するつもりでいたし、だから突き放す。
      情が移れば何も出来ない。いざという時はお前たちを犠牲にしてでも、オレは生き残らなくちゃならない」

 一言一言述べる度に、まるで針の塊を呑みこむような。
 彼女の表情は痛々しく、辛そうだ。

ミ,,゚Д゚彡「それは……」

 そしてフサギコにも、その言葉は痛いもの。

ミ,,-Д-彡「それは、今も変わらないのか?」

从 ∀从「……話したのは二日前なんだぜ?」

39 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:07:16.40 ID:gg2oo/Qk0

 たった二日前。
 たった四十八時間ほど前。
 変わるのだろうか。そんな僅かな時間で、人の思いは。

从 ゚∀从「オレはな、今だって勝利に貪欲でありたい。何より渡辺のために」

ミ,,゚Д゚彡「……なら、お前は――」


 でも、


从 ∀从「もっと……欲をかきたくなったかもしれない」


 固く握った白衣の裾。


40 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:09:44.65 ID:gg2oo/Qk0

从 ゚∀从「いなかったんだ。身近で支えてくれる人間なんて。
      だから守る術が分からない。どうやって、そいつらと付き合っていくのかも」

 吐露する。その想いが溢れ返りそうだから。

从 -∀从「渡辺だけで手いっぱいだったんだ。でも、でも今は違う。
      やり方も何も分かったもんじゃあねえが、オレはもっと多くのものをその手に持っていたい」

ミ,,゚Д゚彡「それは……」

从*゚∀从「ほ、本人を前にして言うのもなんだけどよ。
      もう少しは、お前らを人並みに扱ってもいいんじゃねーかって、そう思ってんだ」

 僅かに頬を赤く染めて、恥ずかしげに彼女は目を反らす。
 それでも、言いたいことをちゃんと口に出す所は彼女なりのけじめなのだろう。

41 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:12:08.19 ID:gg2oo/Qk0


从*-∀从「そうだな、例えば――友達とか仲間として」


 それっきり。
 彼女の告白は終わり、沈黙が流れだす。
 しかしそれは気まずいものではない。もっとずっと、安心のできる空気。

ミ,,-Д-彡「――そうか」

 フサギコも、その言葉の意味をよく噛み締める。
 噛み締めて、受け入れて、心の奥底へと丁寧にしまい込む。
 一抹の疑惑や不安など、もう大昔のことのような気分。

ミ,,^Д^彡「そうだな。それがいい」

 もっとずっと朗らかな気分で、彼はまたハインの頭をぐしゃっと撫でた。

43 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:14:36.38 ID:gg2oo/Qk0

从#゚∀从「……お前な、一応オレも女なんだから不用意に頭を触るんじゃねーよ」

ミ,,゚Д゚彡「ん? あ、そういうものなのか?」

从 -∀从「くっそ、デリカシーのない馬鹿だぜ」

 小さな頭に乗っかる大きな手を、軽く払って彼女は踵を返す。
 仲間のため、友のため。

 己に出来る、精一杯を行うために。

从 ゚∀从「今度こそ行くぞ! オレたちが戦っているヒートたちのために出来ること。
      それはまず真っ先に、敵のブレイン――セントジョーンズの糞を叩き潰すことだ!」

ミ,,゚Д゚彡「うむ! 行こう!」

 今一度、二人は同じ目的と理由――そして信頼の下に動き出す。
 身長も気性も、歩幅すら合わない二人だった。だが、

 不思議と、その時だけは足並みが揃っていた。

44 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:17:07.65 ID:gg2oo/Qk0

 * * *


 空虚な闇の中、呼吸は荒くなっていく。


(;,,゚Д゚)「うぐ……はぁ、はぁ、はぁ……」


 肩を押さえるギコ。
 そこには、袈裟掛けに大きな裂傷が走っていた。
 まるで鋭利な刀剣で、すっぱりと断ち切られたかのように。

 流れる血は、毒々しい赤。

(;,,-Д゚)「くそ、何だって……役立たずな身体だ!」

 歯軋り。

45 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:19:40.34 ID:gg2oo/Qk0

 白い歯を砕きそうなほどに、食い縛る。
 悔しさから、怒りから、焦りから。

 そして、憎しみから。


( ・∀・)「…………」


 目の前にいる男は、いつだって飄々と。

 彼も手傷を負っていた。ギコと同じく。
 しかし、被害の程は比べ物にならない。明らかに、ギコの傷の方が甚大。
 涼やかに夜風を身に受ける、モララーの身体には軽い切り傷がいくつか。

 それだけだ。

47 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:22:06.97 ID:gg2oo/Qk0

(#,,゚Д゚)「……ふっ、愉快だろうな」

 もはや押さえ付けていることも無意味と悟ったか、彼は手を離す。
 だらりと下げた右手には、真っ赤な液体がこびりついていた。

(#,,゚Д゚)「お前を倒してやると息巻いていたくせに、このザマだ」

( ・∀・)「……何も可笑しくはないさ」

(#,,゚Д゚)「そうか? お前のその顔が、俺には嘲りの笑みに見える!」

 ギコは歪んだ笑みを浮かべて、そしてモララーを睨みつける。

(#,,゚Д゚)「そうだったな……そう、お前は人でなし。仲間も友も、みんなみんな裏切った最悪の人間。
     その心がとっくの昔にねじ曲がっていたなんてこと、分かり切っていたのに……!」

49 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:25:21.09 ID:gg2oo/Qk0

( ・∀・)「ひどい言われようだね。俺からすれば、本当にねじ曲がっているのは――」


 ――お前のようにも見えるけど。


 そう言いきる前に、飛び掛かったギコが視界を覆う。
 空中で弓なりに溜められた、右脚。逞しく、鍛え上げられた必殺の武器。

(#,,゚Д゚)「ゴラァ!」

 空気を裂く音を響かせて、打たれる蹴りは側頭部へ。

50 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:28:36.17 ID:gg2oo/Qk0

( ・∀・)「――シッ!」

 間一髪、頭を右へと反らして回避。
 続けて、重心を保ったまま回転する。
 回避運動に引っ張られ、モララーの身体が天地に逆らう。

 両手が廊下の床につくと共に、捻じれた。

 弾ける独楽の如き回転撃。広げた両脚は鋭利な鎌。
 ブレイクダンスのように、逆立ちから打ち込まれた連続蹴り。

(;,,゚Д゚)「うぅぐ!」

 空中から降り立ったギコに、それを回避する暇はない。
 竜巻のように迫るモララーを前に、片膝を目一杯上げ、両腕を壁のように構える。
 片足立ちで、それでも全力の防御で、モララーの蹴りに備えた。

52 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:31:08.82 ID:gg2oo/Qk0


 そして、斬り飛ばされる。


(,, Д )「がっ……!」

 力及ばずか。

 モララーの回転に跳ね返されるギコは、吹き飛んで背中から墜落。
 直撃を受けた脛は、しかして軽傷だった。
 それもそのはず。彼の脛にはプロテクターが供えられていた。

 既に断ち切られているが、それが生身を切り裂かれることを防いだのだ。

(;,,゚Д゚) (くっ……危なかった!)

 もしプロテクターが存在しなければ、と考えるだにゾッとする。

53 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:33:36.81 ID:gg2oo/Qk0

 しかして身を反転、すぐさま立ち上がるギコは前進。
 弾かれるように加速する、それは次の一撃への布石だ。
 同じくしてモララーも疾駆。風のように、激しくも静かな走行である。


(,, Д )「――――っ!!」( ∀  )


 二つの突風と化した両者が、最大加速の後にぶつかり合う。


(#,,゚Д゚)「『連続ハットトリック』ッ!!」

( ・∀・)「『神吹雪』っ!」


 大気が悲鳴を上げた。


54 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:36:25.54 ID:gg2oo/Qk0

 蹴り、蹴り、蹴りの応酬、蹴りの嵐。
 下段を払い、中段を薙ぎ、上段を叩く。
 モララーの蹴りも神速だが、ギコの蹴りもまた迅雷のごとし。

 速い、余りにも速すぎるキックのぶつかり合い。

(#,,゚Д゚)「おおおおおぉぉぉおお!!」

( ・∀・)「シッ、シッ、シッ!! しばっ!」

 互いの手の内を読み切っている。

 モララーがギコの顔面を叩き砕こうとすれば、それをかわして。
 逆にギコがモララーの脇腹を切り裂こうとすれば、膝で受け止める。
 一進一退。互角の速度が生み出した、決着の見えぬ攻防。

55 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:38:40.09 ID:gg2oo/Qk0

(#,,゚Д゚)「俺の何がねじ曲がってると言うんだ! 自分のことを棚に置いて!」

( ・∀・)「ものの見方だよ。お前は何一つ、しっかりと見てはいない」

(#,,゚Д゚)「黙れッ!!」

 荒ぶり、打ち込んだ蹴りは弾かれる。
 同じ角度で、同じ強さで。相殺されること、既に幾数十手。

 避けられ、受け流された斬撃は彼らの周りに散っていく。
 それは渡り廊下の床に、柱に、廂に、いくつもの傷を作る。破壊していく。

 壮絶にして孤独な戦い。

 ありとあらゆるものが両断する、ぶつかり合い。

57 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:41:06.28 ID:gg2oo/Qk0

(#,,゚Д゚)「――――ッ!」

 先に均衡を崩したのはギコだ。
 モララーの膝を思いっきり蹴り込み、反動で後方へと飛び退く。
 空中で一回転、着地する彼は膝を折った。
 弾けるバネを、その両脚に溜め込んでいるのだ。

 それは、加速の合図。

 そこから繰り出される跳躍と、斬撃は恐らく一撃必殺。
 全身の筋肉を柔軟にしならせ、鞭のような重みと速度で放たれる蹴りは強烈だろう。
 距離を取られたモララーも、それを受け切れるかは分からない。

 だが、迎え撃つことは彼にも出来る。

60 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:43:43.92 ID:gg2oo/Qk0

( ・∀・)「…………シッ!」

 ワンテンポ遅れた以上、ギコほどの溜めを作ることは出来ない。
 ならば突っ込んでくる彼を見切り、カウンターの一撃を放つのみ。

 体側に構え、左脚を後方へ。

 反撃を叩き込むのなら、威力よりも速度。
 命中さえすれば、ギコは自身の加速によって自滅してくれる。

 故に、左。

 利き足にして、モララー最速の蹴りを打つための剣。

62 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:46:07.87 ID:gg2oo/Qk0

(,, Д )「ぬぅぅ、あっ!」

 モララーの迎撃準備が整った時には、ギコの全身が伸び上がっていた。
 強靭な脚力をもってしての突撃。風を追い越す大跳躍。

(#,,゚Д゚)「りぃゃああああああああ――――っ!!」


 飛び出した。


 一陣の竜巻と化し、周囲の塵や砂を巻き込み突っ込んでくる。
 その全てのパワーが、彼の脚へと伝達していく。疾風怒涛の一撃が放たれる。
 速い。言葉に出来ないほどに。

 友を思う暇すら、モララーに与えぬほどに。

63 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:48:45.94 ID:gg2oo/Qk0

( -∀-)(ギコ……お前はそんなにも)

 ふと、悲嘆にくれる。

 そこまでして、ここまでして、これほどの全力をもってして。
 彼は――ギコはモララーを殲滅せんとしている。

 憎悪、憤怒、宿命、覚悟、決着。

 様々なワードがモララーの脳裏を掠めては、消えた。


( ・∀・)(俺のことを、信じてくれていたのか)


 過去との因縁を、断つ時が来たのだ。


64 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:51:09.40 ID:gg2oo/Qk0


( ・∀・)「『神剃り』ッッ!!」


 彼にも容赦、躊躇はない。

 眼前へと迫るギコへ、モララー最大最速の蹴りが打ち込まれた。


 嘶く突風と、静寂。

 大気を揺るがす一閃が、壁も柱も闇も心も――未練すらも。

 全て、叩き切る。

65 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:53:38.23 ID:gg2oo/Qk0

 ギコは避けない。その烈風の、圧倒的質量を前にして。
 突っ込む。跳躍姿勢のまま。全身にその風を目一杯に受け止めて。
 瞳に、モララーの悲哀に満ちた顔をしっかりと映しながら。


(,, Д )「――――ぐあぁっ!!」


 彼の肩口を断裂が走った。叫びが上がった。
 溢れる血潮は、壊れた噴水のように八方へと散っていく。血の珠はまるで宝石。

 そして轟音。

 一筋の裂傷が壁面に描かれ、ギコの後方で西校舎の一角が崩れた。
 たった一発の蹴りが、人一人の蹴りが、これほどまでに。
 凄まじすぎる斬撃は確かな手応えと共に、ギコを切り裂き、校舎を叩き割る。

66 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:56:06.94 ID:gg2oo/Qk0

 だが、倒壊していく学び舎を背に。

(,, Д )「こ、れで……、間合いに! 間合い、に!」

 それでも、ギコは失速しなかった。

( ・∀・)「っ!!」

 打ち込んだ『神剃り』。

 モララーが脚を収める前に、ギコは間合いに飛び込んでいた。
 隙は十分。防御も回避も、モララーには不可能なタイミング。
 致命的なダメージを負って、なおその一瞬に賭けたのだ。

 肉を斬らせて――

68 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 00:58:36.34 ID:gg2oo/Qk0

(#,,゚Д゚)「『クロス……!!」


 骨を断たん、と。


(#,,゚Д゚)「ボレーシュート』ォオオオオオオ!!」


 横に一閃。

 そして一回転、空中からの叩き割り。


 ギコが放つ、最大最強最速の技。
 限界までの加速から、横と縦に空間を分断する。
 夜闇に轟いた、少年の怒りと憎しみをのせた十字斬。

71 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 01:01:39.52 ID:gg2oo/Qk0

(  ∀ )「うっ……!」

 それはモララーの蹴り宜しく、全てを破壊した。

 渡り廊下を巻き込んで、吹き飛ばして、中央校舎の壁面にクロスの跡を作る。
 荒れ狂う風は、その圧力を持ってして何ものをも残さない。

(#,,゚Д゚)「…………っ」

 壮絶。

 苛烈。

 目前の万象をモララーごと全て薙ぎ払い、ギコは地に降り立つ。
 しかし、身に受けた二発の斬撃は決して軽いものではない。
 血は滴り続けている。その胸にクロスした赤い軌跡を、彼は苦しそうに抑えた。

72 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 01:04:07.84 ID:gg2oo/Qk0

(;,,-Д-)「ぐ……ぁ、くそ、深いか……う、ぐぅ……」

 流れ出るものは止め処なく、足元に水溜りを作っていく。

(;,,゚Д゚)「だが、勝った。俺は勝った……。全部、終わったんだ」

 それは決別の一撃だった。
 そう、既に彼の前にモララーはいない。
 闇夜を断つ必殺撃に、どこか彼方へ吹き飛ばされたのか。

(,,゚Д゚)「終わった……本当に、長かった。やっと、やっと決着を……」

 言い淀んで、彼の頬を一筋の線が走る。
 それは流れ出る血ではない。涙だ。

73 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 01:06:45.58 ID:gg2oo/Qk0

(,,;Д;)「はは……先輩、ヘリカルさん。やっと終わったよ。
     仇討ちなんてカッコつけたもんじゃないけど、やっとモララーに……俺は」

 ぽつり、ぽつりと。
 想いと、涙をこぼして。彼は跪いたままむせび泣く。
 精悍な顔つきをくしゃりと歪ませて、ただただ勝利を噛みしめた。


 その背が、一文字に裂ける。


(,, Д )「――かはっ!?」

 思わず吐き出した息は、掠れて血の粒を伴ったもの。
 仰向けに倒れ込んだギコは、軋む体を掻き抱いて、呻く。

74 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 01:09:47.55 ID:gg2oo/Qk0

(;,,゚Д゚)「そ、んな……!」

 胸の血が、背中の傷が、熱い。焼ける。
 思い出したかのように遅れてやってくる痛みの中、彼はその影を見た。

 いつもクールで気さくで、誰よりもプレーヤーとして輝いていて。

 やたら尖っていたギコを、受け入れ親友だと笑いかけてくれて。

 強く、正しく、一生涯の親友だと信じていた男。


( ・∀・)「ごめんよ。これで終わりなんだ、ギコ」


 そして、ギコから全てを奪っていった裏切り者。


76 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 01:12:20.34 ID:gg2oo/Qk0


 モララーはその胸に、同じ十字傷を作って立ち尽くしている。


(,, Д )「くそ、くそ……」

 当たったのだ。その蹴りは、確かに。

 それでも、直撃を免れた。間合いを読み切られた。
 互いの傷は同じでも、深さが違う。
 ギコの、身が割れるほどの深手とは対照的に、モララーの傷は浅い。

(,, Д )「あの距離で……あの速度で……何で、何で!」

77 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 01:14:52.19 ID:gg2oo/Qk0

 その姿が心を抉って、歯痒くて、辛くて、辛くて。
 ギコはまた涙を流していた。だが先のものとは違う。
 歯を食いしばり、懸命にモララーを睨みつけての、血の涙だ。

 かつて肩を並べた親友、そして今は憎き裏切り者。

 彼はもう、ギコの手の届かない領域に立っている。

(,,;Д;)「お前なんかに! お前みたいなクズ野郎に! くそ! くそぉお!」

( ・∀・)「もういいよ。もう喋らなくていい。傷が開く」

(,,;Д;)「そうやってヘラヘラして! あの時みたいに全部踏み躙っていくんだろう!
     キャプテン達の夢も! ヘリカル先輩の心も! 俺との友情もみんな、みんな!」

78 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 01:17:37.29 ID:gg2oo/Qk0

( ・∀・)「今のキャプテンはお前じゃないか」

(,,;Д;)「茶化すな! 弄るな! う、うぁあ、あああ゛あ゛あ゛!」

 血を吐いて、泣いて、ギコは吠え続ける。

(,,;Д;)「俺は強くなったんだ! 自分のために、部のために!
     お前とは違う! ずっとずっと、俺は正しく強く在り続けてきた!」

( ・∀・)「ギコ……」

(,,;Д;)「それでも俺は、結局何も、何も出来なかったのか……。
     間違っているのは、全部こいつなのに……どうして、どうしてなんだよぉお゛」

 モララーの胸が痛む。
 それは傷のせいではない。もっともっと奥底にあるもののせい。

81 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 01:20:07.74 ID:gg2oo/Qk0

( -∀-)「……そうだな。もう、これで終わりだから」

 呟くモララーはそっとギコの上に屈みこむと、耳元で囁く。

 小さな小さな語りは決して長くはなく、しかしギコの反応は大きかった。
 涙に濡れていた顔が一変、引き攣る。
 目を剥く彼はわなわなと震え、ただ虚ろにモララーを見つめるだけ。

(;,,゚Д゚)「う、嘘だ……そんな、そんなこと!」

( ・∀・)「嘘じゃないさ。あれは、サッカー部が発足してからずっと続いてきた伝統なんだよ」

(#,,゚Д゚)「先輩――キャプテンたちはそんなこと、一度だって……!」

83 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 01:22:36.71 ID:gg2oo/Qk0

( ・∀・)「俺たちが二年になれば教えるつもりだったんだろうさ。
      もっとも、その忌まわしい伝統を受け継いだ先達は、もう一人も残っちゃいないけど」

(#,,゚Д゚)「なら、なんで今更言い訳のように! 信じられん、そんな戯言……」


( ・∀・)「今だからさ。今だから言えるんだ」


 モララーの笑みは痛々しかった。

(,,゚Д゚)「……今、だから?」

 決して、倒れ伏したギコを嘲るものではない。
 勝利した喜びの余韻に浸るものでもない。

84 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 01:25:13.00 ID:gg2oo/Qk0

 悲しさに凍りついたまま、顔に貼り付いて取れなくなったかのような。

( ・∀・)「いいじゃないか、もう。お前はたった一人で、壊滅状態のサッカー部を復活させた英雄。
      俺はその崩壊の発端となった、ただの裏切り者。それでいい。全部、それで丸く収まったんだから」

(,,゚Д゚)「お前は……モララー……どうして」

( -∀-)「……本当はお前にとどめを刺して、バッジを回収しなくちゃあならない。
      でも駄目だ。やっぱり、俺には出来ない。お前を地獄に落とすことだけは、出来ないよ」

 己の刻んだ傷にまみれた、戦闘不能のギコを抱え上げる。

 残った柱の残骸に彼を座らせて、脱いだ学ランを羽織らせた。
 彼のポケットから携帯を抜き取って、血塗れとなった手に握らせる。
 真っ赤な流血が、目に痛い。

85 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 01:27:37.20 ID:gg2oo/Qk0

( ・∀・)「俺の面子を守るのは、もっと別の方法にする。
      辛いだろうが、これで仲間に連絡するんだ。もしかしたら、誰かが助けにきてくれるだろう」

(,, Д )「信じない……俺は、そんなこと。今更、今更……」

 ギコは空虚な視線を手元に落とし、ぶつくさと呟いている最中だ。

( ・∀・)「最後に……知っていたらでいい、一つだけ聞いておきたい」

 冷え切ったギコの手を握り直して、問う。

( -∀-)「ヘリカルさんは……ヘリカルさんは今も元気なのか?」

(,, Д )「…………」

87 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 01:30:58.61 ID:gg2oo/Qk0

 ギコの呟きが止まった。
 色を無くしていた瞳が、ほんの少しだけ火を灯す。

(,, Д )「元気だよ。あの人らしく……新しい環境でも頑張っている。
     今でも……今でもまた、サッカー部のマネージャーをやっているらしい」

( ・∀・)「そうか……本当に、あの人らしいな」

(,, Д )「あぁ、そうだな……」

 あの人らしい、と最後に一言だけ。

 それきりギコは俯いたまま、口を閉ざす。
 覗きこめば、彼は既に気絶していた。かたんと音を立て、滑り落ちた携帯が床を跳ねる。
 涙の跡も乾かないまま、目を閉ざす彼の表情は悲しげだ。

90 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 01:33:31.58 ID:gg2oo/Qk0

( -∀-)「……許してくれなんて言わないよ」

 モララーは拾い上げた携帯を開くと、着信履歴の頂点にある番号をコールした。
 液晶に浮かび上がったミルナ、という名前。
 そして静かなコール音が、ただただその静寂の中で、繰り返される。

( ・∀・)「ただ生き残ってくれ。お前まで失いたくは、ないから」

 踵を返す。

 彼の目的――やるべきことはもう終わった。
 このヒート軍団と七星連合の戦いの中、とばっちりを避ける意味でも離脱するのが当然。
 自分が手を出す理由はどこにもない。ただ、このまま去ればいいだけ。

 しかし、何かが引っ掛かる。

91 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 01:36:07.70 ID:gg2oo/Qk0

 その戦場を覆う、張り詰めいて、静かな気配だ。
 ヒートたちではない。七星連合でもない。もっと別種、もっと高次。
 姿も見えないというのに、恐ろしいほどの存在感は学園を丸ごと包み込むほど。

( ・∀・) (感傷に浸らせてくれる暇すらないのか)

 例えるのなら、鯨。

 水面下をゆっくりゆっくりと、その余りあるスケールをもって泳ぐ。
 大きな波は立てない。ただ静かに、しかして確かな存在を見せつけながら。

( ・∀・)「一体何なんだろうね、こいつは」

92 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/09/26(土) 01:38:40.79 ID:gg2oo/Qk0

 夜の校舎を仰ぐ。

 昼間の姿が嘘のように沈黙する学び舎は、今尚その恐ろしさを留める。
 この気配を放つのは、いったい何者なのか。


 考えも付かないまま、ただ彼は見上げるばかりであった。


第二十五話・終


戻る 次へ

inserted by FC2 system