- 2 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 22:46:25.49 ID:couvEFqQ0
ドクオの、痛みを超えた戦い。
クーの、勝利を追及した戦い。
ハインの、恐怖を乗り切った戦い。
フサギコの、覚悟を見せつけた戦い。
死線において、勝ち取った極限の勝利。
どれ一つとして、柔な戦いなどなかった。
それぞれがそれぞれ、過酷の連続に見舞われ続けてきた。
仲間のため、己のため。皆、死力を尽くして戦った。
- 3 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 22:49:08.39 ID:couvEFqQ0
その時、あの少女はどうしていたのだろう。
荒ぶる暴嵐、空手道部部長『熱血喧嘩屋』、素直ヒート。
ただ一人、未だかつてない強大な敵に向かっていった彼女。
一体何を思い、何を考え、何を願ったのか。
深き闇の中、彼女は烈火のように輝いていた。
仲間たちと互角かそれ以上に、ヒートの戦いもまた極限のものである故に。
- 4 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 22:51:41.23 ID:couvEFqQ0
* * *
ミルナの頭上へと迫る、スニーカーの靴底。
ノハ#゚听)「おぉらっ!」
唸りを上げる、それは流星。
電話ボックスの一つでも飛び越えられそうな跳躍から繰り出される、飛び蹴り。
重力と筋力によって加速される、ヒートの蹴りは敵の額を砕かんとする。
( ゚д゚ )「――ふっ!」
だが、大雑把な動きである以上、隙も多い。
落ち着いて後退したその眼前で、少女の蹴りがリノリウムの床を大破する。
硬く、重い蹴りだ。生身で受ければ相当の威力。
- 6 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 22:54:16.09 ID:couvEFqQ0
( ゚д゚ ) (だが当たらなければどうということはない)
槍の穂先を前方へと構え、地を踏みしめる。
踏み込みの高らかな音と共に、繰り出された突きは高速。
長いリーチが生み出すしなりは、そこへ更なる加速を与えた。
十字の刃が、ヒートの脇腹を抉る。
ノハ )「ぐっ!」
木製の槍とはいえ、本来は防具を着けて受けるもの。
生身に喰らえば、その衝撃と痛みは生半可なものではない。
しかし、ヒートは強引に前へと出る。
- 7 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 22:56:54.38 ID:couvEFqQ0
( ゚д゚ )「っ!」
穂先を滅茶苦茶に地面へと叩きつけ、ミルナの体勢を崩しながら突進。
切り込んでいく、そこは間合いの内の内。槍の射程の届かない場所だ。
拳闘と槍。
一見、長大なリーチの差があるように見えるが、それは諸刃の剣。
中距離では、確かに槍が有利だ。しかし超接近戦では拳闘に軍配が上がる。
ノパ听)「間合いの内の、もっと内!」
互いが互いの弱点を突き合う関係。
この戦いを勝利するのは、より自身の得意とする――そして相手の苦手とする間合いをキープした者。
- 9 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 22:59:14.12 ID:couvEFqQ0
ヒートはその点を早々と察知する。
故に、踏み込むは吐息の交わるインファイトの領域。
ミルナの槍の穂先が届かぬ、懐の位置。
今、そこへ入り込んだ。
ノハ#゚听)「がぁああおおおおおおお――っ!!」
後退や防御の隙も与えない。
固く握った拳を、有らん限りの膂力で前方へとブッ放す。
岩を砕き、鋼鉄をひしゃげる渾身の正拳突き。万象を破砕する、烈火の一撃。
その剛撃を前に、ミルナが取った行動は下がることでも防ぐことでもない。
- 10 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:01:43.42 ID:couvEFqQ0
もっとシンプルで、もっと激しい。
( ゚д゚ )「じゃっ!!」
体を体側にズラしながら、柄を放した右手で掌打。
ノパ听)「っ!」
狙うはヒートの脇腹。
弾かれた彼女の拳は、しかしてミルナの胸板を僅かに掠るのみ。
インパクトの瞬間に打撃で押し出されたことで、ミルナは彼女と強引に距離を取った。
加えて体側の体勢により芯を外されている。威力を殺されてしまったのだ。
- 11 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:04:12.31 ID:couvEFqQ0
ノハ;゚听)「ぐっ……」
あえなく後退するヒートの脳裏に、嫌な予感が過る。
この戦いは、ギリギリの間合いを取り合うもの。
例え必殺の間合いに踏み込んでいようとも、一歩退けばそこは危険地帯。
互いが安全な間合いなどない。どちらか一方は必ず、敵の射程の好位置に立つ。
気がついた時には、彼女は眼前を覆う突きの嵐に飲み込まれた。
(#゚д゚ )「じゃあぁああああああああっ!」
機銃の掃射のように、その連続突きは速く、鋭い。
ほんの少しの隙間も、遅れもない。全てを飲み込み、貫く。
- 12 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:07:07.21 ID:couvEFqQ0
ノハ#゚听)「がぁあああああああああ!!」
喰らい付いてくる十字槍を、ヒートは無謀にも拳で叩き返していく。
リーチの短さが無い分、拳闘の方がスピードはあるだろう。
槍の突きにも十分に対抗できるはずだ。
しかし、ミルナの突撃は殊更に速い。
額を、肩を、腹を、貫かんと襲いかかってくる鋭利な牙。
その速度はヒートとほぼ互角。打ち返し、反撃に出る隙を与えてはくれない。
二メートルもの長槍で、かくも速い突きが繰り出せるものなのか。
ノハ;゚听) (くそ……拳が……!)
加えて、剥き出しの拳でそれを殴り続けるには限界があった。
- 14 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:09:08.22 ID:couvEFqQ0
打ち込まれる乱打は、次第に赤くて細い帯を走らせる。
出血する拳が悲鳴を上げた。このままでは砕けてしまう。
無策の特攻から一転、ヒートは戦法を変えた。
突き込まれた穂先を、打ち返さずに受け止める。
( ゚д゚ )「ぬっ!」
ばしりと、白刃取りの要領でしっかりと刃を挟み込み、逃がさない。
ミルナも弾かれるばかりの防御から、その突然の変化に眉根を潜めた。
リズムは崩れる。引き返そうとしても、槍は動かない。
ノハ#゚听)「取ったぁああ!」
放たれる、蹴り上げ。
- 15 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:11:38.90 ID:couvEFqQ0
穂先を握ったまま、柄を上方へと打ち上げた。
それは槍を握るミルナをも、玄関ホールの空虚な闇へと蹴り上げることになる。
彼は武器を放すわけにはいかない。故に、愛槍ごと吹き飛ばされた。
( ゚д゚ ) (いかん、空中では体勢が――)
無論、崩れる。
大地にしっかりと腰を落とし、強靭な踏み込みから繰り出す突きこそが槍術の脅威。
地上戦においては強力無比だ。しかし、踏ん張りも利かぬ空中ではどうしようもない。
ノハ )「しっ!」
そして、敢えて言うなれば空中戦において――
- 18 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:14:12.68 ID:couvEFqQ0
ノハ#゚听)「ハイジャァア――ンプッ!!」
素直ヒートには圧倒的にアドバンテージがある。
空中に放り出されたミルナの視界に、踊り上がるヒート。
( ゚д゚ )「間合いにっ!?」
地上で溜めた強靭なバネは、彼女を必殺の間合いへと導く。
跳躍により伸び上がったヒートの身体が、今度は絞られた弓の如く反り返った。
引き付けた足が背中に付いてしまいそうな程に、その溜めは大きい。
- 19 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:16:37.84 ID:couvEFqQ0
ヒートには地上での踏ん張りは必要ない。
例え宙に浮いた状態でも、その柔軟で発達した筋肉が強烈なバネを作るからだ。
故に、彼女は例え空中戦であろうと、地上戦と変わりない威力の打撃を扱える。
そして今まさに、力を溜めに溜めたヒートの必殺脚が――
ノハ#゚听)「落ちろッ!!」
ミルナを地上に叩き落とした。
( д )「ごわっ!?」
- 20 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:19:10.09 ID:couvEFqQ0
墜落。
撃墜。
腹の底まで震わせるほどの衝撃が、玄関ホールに響き渡る。
リノリウムの床を無残にも叩き砕いて、ミルナは打ち伏された。
ヒートはその身に、確かな手応えを感じる。
ノパ听) (間違いなく、クリーンヒット!)
威力は上々、当たりは間違いなくクリティカル。
戦闘不能でもおかしくない一撃だ。
しかし、油断は出来ないと彼女は拳を振りかぶる。
- 22 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:21:38.79 ID:couvEFqQ0
狙いはミルナの落下地点。
重力と腕力に任せ、このままダメ押しの一撃を加える腹積もりだ。
一つの理由に、あの『凶星』と渡り合えたであろう男が、これほどあっさりと潰れるはずがないという確信から。
もう一つの理由は、ヒート自身の闘争本能に火がついたまま故に。
このままでは収まりがつかない。
願うのは勝利でなく、ミルナの屹立。
そして、その願いは幸か不幸か叶えられる。
- 23 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:24:10.58 ID:couvEFqQ0
( ゚д゚ )
拳を構えたままに落ちていくヒートの真下。
墜落によって砕けた廊下のど真ん中、彼は槍を水平に掲げている最中。
険しく細められた眼はヒートを見つめている。
しっかりと、だ。
ノハ*゚听)「やっぱ、そうじゃなきゃなぁあああああ!!」
ヒートは燃え上がる。
喜びに、興奮に。
限りなくハイクラスの戦いに身を投じれる、その楽しさに。
闘争者としてのこの上ない狂喜の中、彼女は胸の疼きが止められない。
- 25 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:26:38.81 ID:couvEFqQ0
落ちるヒートと、迎え撃つミルナ。
一瞬の接触、制するのは後者だ。
(#゚д゚ )「じゃぁああっ!」
半月を描くように一閃。
ノハ )「ぐぁっ?!」
ぶつかってくるヒートを縦に薙ぎ払い、十字槍は獲物を歯牙にかけた。
薙刀は弧を描く曲線的軌道で、敵を払う。
また直槍は一点突破の絶大な威力で、敵を貫く。
しかして、十文字の槍は両方の特性を併せ持つ、いわば万能の兵器。
- 26 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:29:13.85 ID:couvEFqQ0
一対一から、乱戦まで何でもござれ。
その威力の程は、今まさにヒートがその身で味わっているところだ。
ノハ;゚听)「っかー……くそ!」
逆に叩きつけられてしまった後、二回三回とバウンド。
背中から着地し、荒ぶる瞳でミルナを睨みつけようとした時には、既に姿が無い。
左右、前に後ろにも槍を携えた男はいない。
ならば、どこにいるというのか。
――刹那、悪寒が走る。
- 27 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:31:58.19 ID:couvEFqQ0
ノハ;゚听)「上かっ!」
豪雷炸裂。
予測通り、攻勢は上空から。
ヒートの額を叩き割る軌道。
いつの間にか上空から肉薄してきたミルナの、槍は叩きつけられる。
( ゚д゚ )「――勘がいいな」
ノハ;゚听)「うぎっ……!」
しかし、間一髪。
- 28 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:34:37.02 ID:couvEFqQ0
伸ばした右脚で柄を受け止める。
枝刃が鼻先を掠めていた。止めなければ、危うく顔面を叩き砕かれていたであろう。
受けた足の底に感じる重さと痺れは、槍撃の破壊力を物語る。
ノハ#゚听)「うりゃぁお!」
だが、圧倒されてばかりでは面白くはない。
逆の足で槍を弾き、後転。
ようやく地に足をつけ直し、屈伸していた膝の力を解放する。
槍を弾かれたミルナへと高速接近。
問題はない。
小回りは圧倒的にヒートの方が利いている。
- 29 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:36:37.63 ID:couvEFqQ0
先のように突き込まれようと、ヒートは無理矢理に間合いへと踏み込むつもりだ。
掌打による攻撃と防御。もう、あのような技も喰らう気はなかった。
今度こそ、乱打の射程にミルナを捕えんとする。
( ゚д゚ )「また突撃か? 単純だな」
ぐん、と前進。
今度は突きではない。
頭上で振り回す長槍を唸らせ、側面から打ち込む。
風を切って迫る石突が、突っ込んでくるヒートの顔面を打とうとした。
ノパ听)「ふっ!」
問題なく防御、だが――
- 30 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:39:08.83 ID:couvEFqQ0
( ゚д゚ )「ここがガラ空きだぞ」
石突の打ちかけとほぼ同時、蹴り上げがヒートの顎を叩く。
ノハ )「んがっ?!」
同時攻撃に注意を裂かれてしまった。
顎関節を盛大に揺らされ、ヒートの視界に星が飛ぶ。
足が止まった彼女は、余りにも隙だらけ。
(#゚д゚ )「じゃああああああああああ――っ!!」
ミルナの攻めは終わらない。ここぞというばかり、激しく。
再び顎、胸、脇腹、脛、追い立てるように左側頭部へ上段蹴り。
- 31 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:41:49.95 ID:couvEFqQ0
とても槍術部とは思えないほどの鋭い蹴りで、ヒートの全身を叩く。
ここまでは勢いで振り切って来た彼女も、その怒涛の攻めに押し切られてしまう。
速い、強い。なにより、千変万化。
接近戦に持ち込もうと格闘術で迎撃される。
距離を取ってしまえば必殺の槍で貫かれる。
おおよそ、肉弾戦の全ての間合いを支配していた。
格闘において、その実力は計り知れない。
ノハ;゚听)「ぶっ、ぷ……ぁ、くそ!」
全身を余すところなく蹴り叩かれ、ふらついたヒートは思わず後ずさる。
- 32 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:44:10.22 ID:couvEFqQ0
そこをミルナは逃さない。最適な間合いに捉えた敵を、仕留めんとする。
( ゚д゚ )「ちぇええええええ――」
回転。
歩を継ぐ、全身を捻る。
小さな竜巻と化す彼は、その遠心力を持ってして槍を振るう。
樫の槍は唸り、しなった。ミルナの頭上で、赤茶色の軌跡が転回。
(#゚д゚ )「すとおおおぉぉぉおっ!!」
――薙ぎ払った。
- 33 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:46:36.47 ID:couvEFqQ0
ノハ )「あばっ!?」
ヒートの右の脇腹へ。
深く、深く抉り込んだ槍の穂先は凶悪。
肉も骨も、悲鳴を上げる。激痛がヒートの神経を焼き尽くす。
痛々しく身体を「く」の字に曲げ、吹き飛んだ。
向かう先は下駄箱の群れ。
きちんと林立するそれらを、まるでボーリングのピンのように。
ぶつかるヒートは次々と吹き飛ばしては、ドミノ倒しの倒壊に飲み込まれる。
舞い上がる粉塵、響く衝撃音。
( ゚д゚ )「…………」
- 35 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:49:18.34 ID:couvEFqQ0
振り切った得物をくるりと回し、手元に引き戻す。
石突がこつりと床を叩いた。乾いた眼差しが闇の中にすぼめられる。
ミルナのテンションは凪いでいる。
戦いに昂揚しているわけではない。
静かに、静かに。粛々と。戦いの最中の、荒々しいファイトスタイルが嘘のように。
灰色に沈む瞳はじっと、ヒートを飲み込んだ下駄箱の山に向けられる。
決して勝利を確信していない。警戒をしている。
油断なく、奢りなく。
彼のその行為に応えるかの如く、山の頂点が崩れた。
- 36 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:51:44.85 ID:couvEFqQ0
立ち上がるは、素直ヒート。
ノハ--)「しゅぅううう――……」
髪は埃まみれ、ブレザーもはあちこちが破れ、ほつれている。
だが、ボロボロの様相を気にかける素振りもない。
深い深い深呼吸の後、ぱちりと開眼する彼女はにやりとほくそ笑んだ。
何の裏表もない、愉快痛快という意志表示。
ミルナは彼女のそんな面持ちに、眉根をほんの僅かに潜めた。
( ゚д゚ )「何が可笑しい」
ノパ听)「あ?」
- 37 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:54:18.44 ID:couvEFqQ0
( ゚д゚ )「何が可笑しくてそんな顔をしているのかを聞いている」
ノパ听)「何でってお前……」
下駄箱の山に君臨する、暴風烈破の化身。
彼女は腕を組み、ほんの少しだけ考える素振りを見せるとあっけらかんと答える。
ノパ听)「楽しいから?」
( ゚д゚ )「…………」
まったく答えになっていない、とミルナは表情を曇らせる。
( ゚д゚ )「それは俺に勝つ算段があるからか? 単なるハッタリのつもりなのか?」
- 39 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:56:39.58 ID:couvEFqQ0
ノハ;゚听)「質問の多い野郎だなー。言っただろ、楽しいからって。
こんな身震いするくらいの大暴れしてくれる奴なんて、ひっさしぶりだからな」
( ゚д゚ )「……意味が分からない」
それはミルナの、本心からの言葉だ。
( ゚д゚ )「過信するつもりもないが、勝敗の見えぬ戦いではない。
明らかにお前は俺に圧倒されている。それはお前とて分からないわけではなかろう」
なのに、だ。
( ゚д゚ )「何故、嬉しそうにする? 勝利を確信しているわけでもないのに」
繰り返される質問。
- 40 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/11(日) 23:59:11.97 ID:couvEFqQ0
うんざりと言わんばかり、ヒートは唇をアヒルのように尖がらせる。
そしておもむろにボロ屑となったブレザーを脱ぎ捨て、袖を捲くった。
捲くられたブラウスの袖から伸びる腕。引き締まったラインに白い肌が映える。
ノパ听)「勝ち負けが重要か? 私は違うな、今この時が一番大切なんだよ」
両の袖をまくり終えると、がっちり組んだ手を上方に伸ばす。
こきり、と小気味よく肩関節が鳴った。
ノパ听)「強い奴と戦える、今この時がな」
ノパー゚)「これ以上楽しいことってあるか?」
( ゚д゚ )「…………」
- 41 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:02:26.74 ID:v6SGVvgu0
ミルナはより一層、その晴れぬ疑問に頭を悩ませる。
素直ヒートは彼の理解の範疇にない。
戦うのなら、目的がある。そして結果が付いて回る。重要なのはそれだ。
いくら善戦しようと、いくら見事な戦いを繰り広げようと、負ければ意味が無い。
戦うことは――方法は目的たりえない。
( ゚д゚ )「お前は俺に負けてもかまわないと?」
ノハ;゚听)「んなわけねーだろ! やるからには全勝ちだ!」
喚く彼女はぶんぶんと両腕を振り回す。
ノパ听)「勘違いすんなよ。勝つのは私だ。誰とやったってそれは変わらん!」
- 42 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:05:27.93 ID:v6SGVvgu0
どれだけ雑魚を相手にしても、どれだけ強敵を前にしても。
やるからには全力全開、そして全勝。それは今尚変わらない、ヒートのポリシー。
ノパ听)「最近はドクオに活躍の場を奪われてばっかだからな。
ここいらでデカい勝ち星上げとかないと、『熱血喧嘩屋』の通り名が泣くんだよ!」
空を切り、ジャブを数回打つ。
ミルナのテンションとは対照的に、ヒートのボルテージは燃え上がっていく。
ノハ#゚听)「さぁあ! こっからは今まで以上に激しいヒートちゃんで行くぜ!」
ぐわし、と。
足元の山からひしゃげた下駄箱を掴み、剛力の許すままに持ち上げた。
- 44 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:07:39.46 ID:v6SGVvgu0
少女のシルエットの頭上に、巨大な影が加わる。
自身の身長体重の、三倍もあるロッカー。大の大人とて容易にはリフト出来ない代物。
ノハ#゚听)「だらっしゃあ!!」
軽々と持ち上げたそれを、ヒートは目一杯投げ付けた。
狙いはもちろん、佇む『壱の槍』。
( ゚д゚ )「ぬっ!」
放物線を描く超重量。
おおよそ百キロはあるであろう、その大型ロッカーは吸い込まれるようにミルナへと向かう。
なんとも破天荒な攻撃。やろうと思っても、そうそう真似のできない荒技。
( ゚д゚ )「ちょこざいな……っ」
- 45 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:10:22.08 ID:v6SGVvgu0
晴れぬ思いは、槍に乗せればいい。
頭上を覆う鉄の塊へと、小脇に抱えた十文字槍で突きを放つ。
地を踏み割る踏み込みと剛なる腕力は、飛来する下駄箱を刺し貫いた。
吹き飛ぶそれを前に、ミルナは一瞬息を呑む。
中空へ二個、三個と畳みかけるように、下駄箱たちが投げ込まれていたからだ。
ノハ#゚听)「ふんぬーっ!」
ヒートは我武者羅に、足元の鉄塊を掴んでは投げ、掴んでは投げる。
打ち落されることを気にもかけず、絶え間なく投擲を繰り返した。
(#゚д゚ )「なるほど、確かに――激しい!」
- 46 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:12:39.40 ID:v6SGVvgu0
一つでも、二つでも、例え雨のように降り注いで来ようと。
打ち落し、跳ね返すのみ。それがミルナの選択。
(#゚д゚ )「じゃあああららららららららららららららら!!」
貫撃の連続、突きの嵐、槍は閃光と化して空間を疾駆する。
出せる限りのスピードで、突いて突いて突きまくった。
上空から自分を押し潰そうと襲いかかる、投擲物たちを蹴散らしていく。
ヒートの怒涛の攻めは、確かに激しい。槍を握る彼の手は汗に滑る。
(;゚д゚ ) (おのれ、握りが甘くなる!)
今にも筋肉が、弾けて千切れてしまいそうだった。
- 49 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:15:19.49 ID:v6SGVvgu0
無数の突きを持ってしても、その嵐の前には打ち返すことが限界。
とても隙を突いて、ヒートへと肉薄することは出来ない。
それでも、彼は耐え切る。
防ぎに防いで、見上げれば最後の一投が暗闇に踊り上がった。
問題はない。しっかりと柄を握り直し、投擲物へと臨む彼には油断はない。
だが、いざ突きを放つ瞬間に気付く。
ヒートの姿が消えていた。
( ゚д゚ ) (どこに!?)
疑問はすぐに解消される。
- 52 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:17:42.03 ID:v6SGVvgu0
ノハ#゚听)「貰いぃぃぃぃいいいい!!」
今にも頭上へと落ちてこようとする、下駄箱の向こうから。
耳を劈く大音響の叫び。
( ゚д゚ )「っ!!」
次の瞬間には、重力に従って緩やかな曲線を描こうとしていた下駄箱が、弾ける。
突如として鋭角な軌道に入り、速度を上げて真っ直ぐにミルナの元へ。
それはヒートの仕業だ。
ノハ#゚听)「がぁぁあああおおおおおおおおおお!!」
叩く。
叩きまくる。
- 53 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:20:12.55 ID:v6SGVvgu0
固いスチールの表面へと何十発もの拳を叩き込む。
重力プラス、ヒートの腕力。強引な乱撃により、下駄箱は更なる加速を成功させた。
その全てのパワーは、ミルナへと襲いかかる。
( ゚д゚ )「少しは楽しませてくれるらしい」
だが、それでも、何も変わりない。
(#゚д゚ )「じゃぁああらららららららららららららら!!」
ただ、突いて、打ち落すのみ。
ヒートのラッシュスピードに匹敵するほどの、豪雨の如き貫撃。
二つの嵐が真っ向からぶつかり合う。
激しい、それは余りにも激しすぎた。
- 54 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:22:42.58 ID:v6SGVvgu0
歪みのない、正真正銘の全力攻撃。
見る見るうちに、二つのラッシュに挟まれた下駄箱は変形する。
ひん曲がり、折れ砕け、ヒビが走り、元の原型などまるで残っていない。
限界はやってくる。ぶつかり合いの犠牲となったそれは、みしりと微かな断末魔を上げた。
そして、砕け散る。
鉄の塊が爆砕、破片弾が八方へと弾け飛んだ。
ノハ#゚听)「――――っ!」
(#゚д゚ )「っ!!」
雨のように降り注ぐ鉄片の中。
それでも二人の獣は、前へと出る。戦うため、勝つために。
- 55 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:25:09.89 ID:v6SGVvgu0
飛び蹴りと突きが、交錯する。
――クロスカウンターだ。
ノハ;゚听)「うぎっ!」
横っ面に穂先を掠めるヒート。
(;゚д゚ )「ぐっ!」
右の肩口を踵で削られるミルナ。
互いに急所を外した交錯から一転、体勢を直し背中合わせになる。
ほぼ同時のタイミング、振り返り様の裏拳と払い斬りが衝突した。
- 56 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:27:42.27 ID:v6SGVvgu0
一発一発、打ち合う度に振動が大気を震わせる。
両者とも重く、鋭い一撃。
( ゚д゚ ) (何故だ、ここに来て一段と技が重みを増した……!)
槍を握る手に、まざまざと感じる痺れ。
確実に、ヒートの力と速度は増している。疲労など微塵にも感じさせず。
( ゚д゚ ) (ありえない。今までは手を抜いていたというのか?)
そうではない。
ヒートはいつだって全力だ。それは紛れもない事実。
現にミルナでさえ、ヒートが手加減したなどという感触は受けなかった。
ならば答えは一つだ。彼女は加速している。
- 58 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:30:22.86 ID:v6SGVvgu0
限界を超え、戦いの中で成長し始めているのだ。
ノハ*゚听)「――楽しくなってきたな」
( ゚д゚ )「ッ!?」
ほくそ笑むのは余裕からではない。
楽しいからだ。
ノハ*゚听)「これだから喧嘩はやめられね――っ!!」
続け様に、一、二、三連打。
組み合っていた槍の柄に、目にも止まらぬ連撃が打たれる。
弾かれた槍は明後日の方向へ。すぐには手元へ戻らない。
隙が出来る。
- 59 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:33:11.40 ID:v6SGVvgu0
開いた脇腹へ、手刀。
( д )「かっ……!!」
みしり、と。
肋骨が悲鳴を上げる。鉄骨に殴られたかのような衝撃は、痛烈の一言。
重い、重すぎる。まともに受けて立っていられる一撃ではない。
( д )「が……こ、れしき!!」
だが踏ん張る。
反撃の斬り払いは、ヒートの頸椎を狙う軌道。
- 60 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:35:56.93 ID:v6SGVvgu0
ノパ听)「ふっ!!」
手刀を引き、問題なくバックステップ。
確実に「いい」位置に打ち込んだ。常人なら倒壊しているはず。
それでもミルナの槍は、一切のブレなく振るわれていた。
疲弊した肉体を突き動かすのは、鋼の精神力。
ならばその根本とは、ミルナを動かすものとは何なのか。
距離をとったヒートは、純粋な疑問と興味から問い掛ける。
打たれた脇腹を押さえ、凪いだ瞳に僅かな揺れをチラつかせるミルナへと。
ノパ听)「お前は何のために戦っているんだよ?」
(;゚д゚ )「何を……」
- 61 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:38:09.72 ID:v6SGVvgu0
ノパ听)「私は戦うのが好きだから――強い奴との戦いが好きだから戦っている」
( ゚д゚ )「…………」
ノパ听)「でもお前は違う。もっとこう、全然逆な感じ。
一体何のために戦っている? 何のためにそんな強くなったんだ?」
( д )「……知れたことを」
吐き捨てる。心底苦々しく。
( ゚д゚ )「俺にとって戦うこととは生きること。
生来、俺の人生にはずっと戦いが付いて回ってきた」
だから戦うしかなかったのだ、と続ける。
- 63 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:40:50.13 ID:v6SGVvgu0
( ゚д゚ )「俺にとって戦うことが生きることなんだ。生まれた時からそれは決まっている」
( ゚д゚ )「家を継げ、流派を継げと幼き頃より槍を握らされ、ただ純粋に戦いに身を置く日々……」
( ゚д゚ )「息をするように、食事を摂るのと同じように、槍を振り、戦ってきたのだ」
ノパ听)「…………」
(#゚д゚ )「お前らのように、ただ遊びで戦っているのではない。
俺は戦うことでしか己を示せない。戦うことが俺の存在理由!」
吠える狼は、その色のない瞳を何重にも波立たせている。
揺れていた。死んだ彼の心は、ここにあったのだ。
( ゚д゚ )「だから俺は戦う。戦わなければならない。戦うことしかできない」
- 64 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:43:13.36 ID:v6SGVvgu0
闘争の中でしか、存在を許されない。
( ゚д゚ )「お前は女だ。戦うばかりが本性ではないはずだろう。
友を作り、遊び、いつかは恋の一つでもする。だが俺は違う!」
ノパ听)「…………っ」
( ゚д゚ )「俺にあるのはこの身一つに、槍の一本だけ。それしかない。
戦いの中で存在を否定されれば、もうどこにも俺の居場所は無くなってしまう」
脇腹を押さえる手を降ろし、柄へと運ぶ。
ぎりりと強く強く握り締めて、頭上で槍を一回転。
そして穂先を真っ直ぐに前へ。
闘争の真っ只中――己の生きる場所へ。
- 65 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:45:37.73 ID:v6SGVvgu0
( ゚д゚ )「俺の闘争だけは、誰にも否定させん!」
最後に、ほんの少しの灯が。
燻ぶり、忘れかけていた炎が彼の瞳の中に。
ノパ听)「お前……そうか」
突き付けられた槍を恐れることはない。
ノパ听)「戦うことが嫌いなんだな」
だが、ほんの少しだけその表情を曇らせる。
ミルナの色のない――沈んで感情の無い、その瞳の意味を知って。
ヒートは少しだけ悲しくなったのだ。
- 67 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:48:10.01 ID:v6SGVvgu0
ノパ听)「だからいつもいつも、戦うお前は寂しそうだったのか」
( ゚д゚ )「……ほざけ」
ノパ听)「そして、せめて理由だけでも欲しかったんだろ?」
(;゚д゚ )「――――っ!」
いつもの激しさが嘘のように、静かなヒートは続ける。
ノパ听)「セントジョーンズの仲間になったのはそういうことだな。
この武喝道の中で、ただ漠然と戦うんじゃなくて何かのために戦いたかった」
( -д- )「否定は……せん」
ノパ听)「なんでぇ、なんでぇ。
何だかんだ言いつつ、お前だって方法が目的なんじゃん」
- 68 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:50:39.81 ID:v6SGVvgu0
(#゚д゚ )「っ! お前と同じに――」
ノパー゚)「でも、それも悪くない」
笑顔。
( ゚д゚ )「――――っ」
それは手向けだった。
戦うことしか知らなかった男への。
戦いの中に、何かを見出だすことが出来なかった男への。
意図も企みもない。同情ですらない、自然な笑み。
ノパ听)「だから戦おうぜ。思いっきり戦おうぜ。
お前に戦いしかないっていうのなら、私はそれに全力で応えてやるよ」
- 70 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:53:10.21 ID:v6SGVvgu0
ほんの一瞬の、その微笑みはどこかに置いて来て。
ヒートは構える。熱い拳が、どこか夜の空気を揺らがせているかのよう。
いや、そうではない。本当に、彼女の拳は熱に揺らいでいた。
熱く滾る本能がいま、彼女を一人の戦士として覚醒させる。
室内だというのに、そのむせ返るような熱風は渦のようにヒートを取り巻く。
ミルナの肌にもひりひりと感じるほど、明確に。
( ゚д゚ )「……お前の、戦いを楽しむというスタンス」
その謎の現象を前にして、しかしてミルナはどこか穏やかだった。
瞳は相変わらず凪いでいるが、かつてとは違う。
( ゚д゚ )「未だに理解出来ない。俺には到底、真似のできないことらしい」
- 72 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:56:02.74 ID:v6SGVvgu0
槍を握る手に、跳んだ脚に、熱に茹だる頭に――彼は途方もないエネルギーを感じた。
体の奥底から湧き上がる感情。今までに感じたことがないほどに熱い。
はち切れそうなそれは、あるいはヒートのような昂りなのか。
ようやく彼は理解した。自分は、いま本当の意味で『戦っている』、と。
( ゚д゚ ) (そうか……俺は生まれた時より数年、この瞬間の、この感情を――)
待っていた。
信じていた。
願っていた。
飢えて、渇いて、叫びをあげたくなるほどに。
- 73 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 00:59:06.25 ID:v6SGVvgu0
(*゚д゚ )「この戦いを、求めていたのかぁああああ――ッ!!」
正真正銘、最後の突撃。
ミルナは有らん限りの力を用い、ヒートへと嵐の如き突きを放つ。
空間を席巻する、槍、槍、槍の絨毯爆撃。
回避出来ないほどの射程範囲と、防御も困難な鋭さを持つこのラッシュ。
ヒートはそれを前にしても、
ノハ#゚听)「がぁぁああああおおおおおおお!!」
恐れの一つも見せず、前進。
- 74 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:01:42.11 ID:v6SGVvgu0
身に覆う熱気を拳に乗せ、全ての闘力を全力全開に。
進み、拳を突き出す。巻き起こる風にのったそれは、かつてないほどの速さと激しさ。
一見、何の変哲もないただの突きだった。少なくとも、見た目には。
だが、拳は切り裂いていく。
(;゚д゚ )「なっ――!!」
向かってくる槍撃が、ヒートの拳を避けるように反れていく。
まるで台風の目。荒れ狂う暴嵐の中で、ヒートの周りだけが無風状態。
無数の突きの中を一直線に、彼女の剛腕が突破していく。その様子は驚嘆の一言だ。
そして、固い拳はミルナの胸板へ。
- 75 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:04:08.75 ID:v6SGVvgu0
( д )「がふっ……!」
熱を感じる。
ミルナは叩き込まれた小さな拳に、焼けるような熱を感じる。
決して人の体温ではない。燃え盛る炎を前にしたかのような熱さだ。
渦巻く熱風、小さな竜巻、それが彼女を守護している。
ノハ#゚听)「『熱血』ッッ!!」
血が熱い――その言葉に、あぁと言葉をもらしてミルナは納得した。
そうだ、間違いない。この女の血は誰よりも、熱く熱く燃え滾っているのだと。
- 77 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:06:49.49 ID:v6SGVvgu0
ノハ#゚听)「『天衣無縫ラッシュパンチ』ィィイイイイイ――ッ!!!」
生き方に素直になれなかった自分などとは、比べようがないほどに。
- 79 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:09:13.13 ID:v6SGVvgu0
* * *
( ゚д゚ )「見事……だ……」
砕け落ちた壁を背に、力なく崩れたミルナは声を絞り出す。
一声一声出す度に、連打によって破壊された胸板が悲鳴を上げた。
( ゚д゚ )「最後の最後に、圧倒的な差を、見せつけ……られたな」
ノハ*゚听)「よせやい、照れるだろ」
破顔する彼女は、先程の荒ぶりが嘘のように。
見下ろしたミルナへの敵意など、ヒートの頭の中には既に存在していなかった。
- 80 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:11:38.65 ID:v6SGVvgu0
ノパ听)「お前も強かったぜ。それこそ、ここ数年で一番に」
( -д- )「やめろ……情けは、いらぬ」
ノパ听)「そう思うのは勝手だけど、とにかく私が満足したからイイんだよ」
ノハ*゚听)「面白かった。またやろう。それこそ武喝道とか関係なく」
( ゚д゚ )「…………」
はぁ、と溜め息。
( -д- )「やはり、わからん奴だ……」
ミルナは、制服の内に突っ込んだ手を放り出す。
音を立て、十数個の武喝道バッジが床を跳ねた。さすがに相当な量である。
- 81 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:14:16.83 ID:v6SGVvgu0
( ゚д゚ )「持って行け、お前の首級だ」
ノパ听)「じゃあ遠慮なく」
ウキウキと肩を弾ませるヒートは、散らばるバッジを掻き集めた。
こんもりと片手に出来た小山、その中に見えた『槍術部』の文字。
ノパ听)「…………」
何を思ったのか、ヒートはそれを摘み上げるとミルナの懐へ投げつける。
( ゚д゚ )「何を……?」
ノパ听)「まぁ、ナイスファイトを提供してくれた強敵へのサービスってとこだな」
( -д- )「下らん、ことを……」
- 82 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:16:52.21 ID:v6SGVvgu0
ノパー゚)「良かったら一緒に来るか?」
それは何気ない提案。
ノパ听)「お前、強いし頭も悪くないみたいだから、仲間になってくれたらハインも喜ぶぞ?」
ノパー゚)「もっと戦いの楽しさとか、イイところとか、いっぱい教えてやれるんだけどな」
( ゚д゚ )「……断る」
答えはすぐさま返ってきた。
それは、彼に固き意志が残っている証拠。
( ゚д゚ )「一度はセントジョーンズに膝をついた。それは紛れもない、事実だ。
首が繋がった以上……蔑ろに出来ない。俺は俺の意志で、『七星連合』として戦い続ける」
- 83 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:19:29.24 ID:v6SGVvgu0
ノパ听)「なるほど、それもいいんじゃね」
ヒートもさほど残念そうにする様子もない。
あっけらかんと納得すると踵を返し、玄関ホールを後にしようとする。
残されたミルナはバッジを握り締め、最後にとヒートの背中に声をかけた。
( ゚д゚ )「素直ヒート、最後の技は……一体何だったのだ?」
ノパ听)「うえ? 最後って、こう『ラッシュパンチィィイ』ってヤツのことか?」
( ゚д゚ )「違う、俺の槍へ突っ込んできた時のだ」
反発する磁石のように、槍を退けたその奇怪な技。
彼はそのお陰で、一発もヒートに当てることは出来なかった。
- 84 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:22:19.45 ID:v6SGVvgu0
( ゚д゚ )「まるで槍が当たらなかった。意志を持ってお前の拳を避けるようだった。
とても空手の技術や、身体能力云々で説明できそうにない。いったいあれは何なのだ?」
ノハ;゚听)「ちょ……んなこと頭の悪い私に分かるわけないだろ。
あの時はただ何も考えず、がむしゃらに突っ込んだだけだし」
( ゚д゚ )「では一体……」
ノパ听)「気合だろ、気合。何事も気合で何とかなる!」
グッと突き出した親指は、馬鹿らしいほどに雄々しい。
ミルナはこれ以上の詮索は意味が無いと知る。
( -д- )「そうか……なら、いい」
- 85 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:25:06.14 ID:v6SGVvgu0
ノパ听)「おう! お前も元気でやれよ!」
軽やかに弾みをつけて。
少女は振り返らずに走っていく。
行き先は東校舎への渡り廊下。きっと仲間の元へと向かうのだろう。
一人残されたミルナは、節々の痛みにじぃんと感じ入る。
何とも、今までにないほどボロボロにされたものだった。
殴られてあちこちに青痣が残り、砂埃や血で制服は汚れきっている。
しばらくは立てそうにもないだろう。
( ゚д゚ )「…………」
- 86 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:27:45.22 ID:v6SGVvgu0
つるりと、剃り上げた頭を撫でる。
自分の呼吸が静かに、規則的に聞こえる闇の中。
胸に残る感情は、重く、熱い。
突然、懐で何かが振動し始める。
首を傾げて手を差し入れれば、触れたのは携帯電話だ。
サイレントに設定されたそれが、ぶんぶんと振動に唸りを上げている。
取り出して目を向ければ、映った名前はギコ。
( -д- )「…………っ」
彼が休める暇は、思ったより短いらしい。
ただ、もう少しだけこの気持ちを噛みしめていたい――と。
ミルナは心の中でギコに断り、静かに瞼を閉じた。
- 88 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:30:16.32 ID:v6SGVvgu0
* * *
ノハ;゚听)「えっさほいさ、えっさほいさ!」
素っ頓狂な掛け声を出しながら、ヒートは駆ける。
目指す場所は、東校舎。一刻も早く、ドクオとクーの元へ。
汗を散らし、足音を響かせて、深夜の学園を疾走していく。
ノパ听)「ドクオ……クー姉ぇ……大丈夫かな」
胸に渦巻くのは、彼女には似つかわしくもない不安。
- 89 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:33:09.41 ID:v6SGVvgu0
ノパ听)、「まさかあいつらが負けているとは思わないけど……」
それでも、クーの怪我のことは無視できなかった。
もし、万が一、最悪の場合というのも、考えたくはなくとも考えてしまう。
ノハ;゚听)「いやー! やめだやめだ、とにかく早く二人を捜さなくっちゃ――」
暗い考えを吹き飛ばし、思いっきり勢いを付けて角を曲がる。
もうすぐ渡り廊下の扉へと辿り着く、そんな位置取りだ。
だが逆に、渡り廊下からこちらへ向かう二つの影が見えた。
ノパ听)そ 「敵っ!?」
- 90 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:35:36.94 ID:v6SGVvgu0
一瞬の警戒の後、闇に慣れた眼はその二人組の正体を暴き出す。
敵ではない。そう、待ち望んだ仲間たちの姿だ。
('Aメ)
川 ゚ -゚)
ノハ*゚听)「ドクオ! クー姉ぇっ!!」
喜び勇むヒート。
二人は、ちょうど肩を貸し合って歩いている。
しかし、実際はドクオがクーに支えてもらっているらしい。
フラつく彼は、ヒートの喧しい声に気付くと安堵の表情を浮かべた。
- 91 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:38:09.16 ID:v6SGVvgu0
('Aメ)「よぉ……無事だったみたいで何よりだ」
ノハ*゚听)「二人こそ良かったぁあ! 何とか勝てたんだな!」
あっと言う間に二人の目の前に飛び込んでくると、ヒートは嬉しそうに跳ね回る。
その闇の中でも映える赤髪を、クーは軽い頬笑みと共にくしゃりと撫でた。
川 ゚ -゚)「お前もな。よく一人で頑張った。褒めてやるぞ」
ノパ听)「クー姉ぇ……心配してたんだぞ! 怪我のこともあったし、ホント!」
川 ゚ー゚)「この素直クール、そう簡単には膝をつかんよ」
その力強い言葉。頼もしいことこの上なし。
逆に、肩を貸されたドクオの満身創痍ぶりは、ヒートですら舌を巻くほどだった。
- 92 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:40:45.29 ID:v6SGVvgu0
ノハ;゚听)「つってもドクオはボロクソだな。血塗れじゃんかよ」
(;'Aメ)「はは……割とイケると思ったんだが、流石に血が足りねーわ。
クーに肩貸してもらってなきゃ、ここまで歩いてくるのも辛かったくらいだぜ」
ノパ听)「腕とか包帯ぐるぐるマミーだし、戦えるのか?」
('Aメ)「悪いがちょっと無理だな。少なくとも今は剣が握れない」
ノハ;゚听)「お前はホント、いっつも大怪我するんだから。体鍛えろよ!」
('Aメ)「考慮しときます」
わずか数十分の間の出来事であったにもかかわらず。
お互い、酷く長い間離れ離れになっていたように感じていた。
それほどに、この戦いは厳しく、激しい。
それでも彼らは生存した。強敵たちを蹴散らして。
- 94 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:43:18.50 ID:v6SGVvgu0
川 ゚ -゚)「ふむ……」
クーは腕時計で、現在の時刻を確認する。
間もなく深夜の一時になろうとしていた。長針が、再び天を目指そうとゆるゆる動く。
川 ゚ -゚)「ヒート、情報を整理したい。
とりあえず東校舎は突破した。流石兄弟に、クックルの三人だ」
ノパ听)「三人――ってことは、クー姉ぇが二人を相手にしたわけか」
川 ゚ -゚)「いや、私はクックル一人だ。流石兄弟を落としたのはドクオの功績だよ」
ノパ听)そ 「マジで!?」
ヒートはまん丸く開いた目を再びドクオに向け、しげしげと検める。
(;'Aメ)「疑うなよ!」
- 95 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:45:34.04 ID:v6SGVvgu0
ノパ听)「いやー……だって、チキンオブチキンのドクオが二人も相手にとはねぇ」
川 ゚ -゚)「話を戻そう」
ぱんと手を一叩き、ヒートを会話に引きずり戻す。
川 ゚ -゚)「とにかく、ドクオのお陰で狙撃手という最大の障害を取り除けた。
ひいては西校舎のハインも、多少は助けれたとは思うのだが……」
('Aメ)「問題はそれなんだよ。
ヒート、一緒にいたフサギコはハインの救出に行ったんだろ?
お前は中央校舎に残って敵を迎撃。多分だけど、相手はミルナだな」
ノパ听)「うん、そこまでは合ってる」
('Aメ)「ということは、残りはサッカー部のギコと柔道部のモナーか」
- 96 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:48:48.38 ID:v6SGVvgu0
川 ゚ -゚)「ハインの情報によると、セントジョーンズの戦闘力は皆無だ。
まず間違いなく、フサギコが残ったその二人を相手にしているだろうな」
ノハ;゚听)「……フサギコが心配だな」
ヒートの懸念に、二人は揃って首を縦に振る。
('Aメ)「俺らを援護しに来てくれて悪いが、ここはすぐに西校舎へ引き返そう。
フサギコがやられちまえば、ハインが負けるのもあっという間だろうしな」
ていうか、と付け足し、ドクオはクーの肩から腕を離す。
(;'Aメ)「最悪、二人だけで行ってくれ。怪我人の俺がいちゃ足手まといになる」
川 ゚ -゚)「ドクオ……いいのか?」
- 97 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:51:09.18 ID:v6SGVvgu0
('Aメ)「大丈夫だ。もう東校舎に敵はいないはず。
二人を助けて、全部終わったら助けに来てくれればいい」
ノパ听)、「すまん、ドクオ。ホントはおぶってでも一緒に連れていきたいけど」
ひらりひらりと手を振り、ドクオはヒートの言葉を遮った。
なぜならば、全員で生き残ることこそが最優先事項である故に。
('Aメ)「いいんだ。それより早く……行ってやってくれ」
苦しそうに身を壁へと預け、腰を床までずり落とす。
荒い呼吸が痛々しい。放っておけないことは事実だが、今が緊急なのもまた事実。
素直姉妹は顔を見合わせ、駆け出す。
- 98 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:54:18.15 ID:v6SGVvgu0
ノパ听)「あ」
その直後、ふっとヒートは立ち止まった。
それは何気ない思い付き。
五月の夜はまだ肌寒い。怪我をして血の足りないドクオには酷だろう。
だから、自分のブレザーを一枚羽織らせてやろうと、そう思った。
ボロボロになってしまったが、無いよりはマシ。
何よりドクオのことを案じるが故の、一瞬の思い付きだった。
ノハ*゚听)「ドクオ! 私のブレザーを貸して――」
- 99 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:56:36.37 ID:v6SGVvgu0
だからこそ振り返ったその時、少女は凍りつく。
_、_
( ,_ノ` )
(゚Aメ)
ドクオが、床に座っていたはずのドクオが、傷だらけで戦えないはずのドクオが。
捕まっていた。そして今にも、とどめの一撃を刺されようとしていた。
- 100 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 01:59:11.74 ID:v6SGVvgu0
_、_
( ,_ノ` )「悪いな、鬱田」
襟首を掴まれて、足も付かない高さに釣り上げられている。
それも、酷く慣れ親しんだ人物に。
毎日、毎日、教室に入れば当然のようにそこにいる人物に。
自分たちのクラス担任の――国語科教諭、渋澤その人に。
(゚Aメ)「せ、先生ぇ……なんで……」
ドクオが、蚊の鳴くような声を絞り出した後、
- 102 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 02:01:20.43 ID:v6SGVvgu0
渋澤の拳が彼の胸板を、呆気なく貫いた。
- 104 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 02:03:23.63 ID:v6SGVvgu0
ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです
第二十六話『それでも、終わりは静かにやってくる』
- 106 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/10/12(月) 02:04:35.39 ID:v6SGVvgu0
第二十六話・終
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