ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです

5 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 20:22:35.36 ID:qu0uVv5q0

 ( ゚д゚ ) 『壱の槍』 ミルナ

 【AGE】17歳
 【GRADE】二年A組
 【CLUB】槍術部
 【HEIGHT】182cm
 【WEIGHT】65kg

 【破壊力】A+
 【耐久力】B+
 【スピード】 B+
 【正確性】A
 【頭脳】  B
 【持続力】A+
 【成長性】B+

 ・『七星連合』が一人。『凶星』ショボンに匹敵するほどの力を持つ、寡黙なる闘争者。
 ・全国大会でも敵無しな槍術の名手。その実力は、実家の道場を継承するために幼少から培われたもの。
  それ故に、己の存在理由を闘争そのもの見出だし、常に過酷なる戦いの内に身を投じる修羅と化す。
 ・身の丈を軽く超える十文字槍を軽々と扱い、長大なリーチと必殺の突きで敵を薙ぎ払うファイトスタイル。
  また、唯一の弱点である超接近戦対策に格闘術も携えている。あらゆる間合いにおいても、その強さは揺るぎない。
 ・対ヒート戦、敗北。しかし、武喝道バッジは保持。

6 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 20:25:05.49 ID:qu0uVv5q0

 (,,゚Д゚) 『鎌鼬』 ギコ

 【AGE】17歳
 【GRADE】二年D組
 【CLUB】サッカー部
 【HEIGHT】176cm
 【WEIGHT】60kg

 【破壊力】A−
 【耐久力】B−
 【スピード】 A
 【正確性】B
 【頭脳】  C
 【持続力】B
 【成長性】C

 ・『七星連合』が一人。裏切り者との宿命に苦しむ、孤独たる復讐者。
 ・サッカー部キャプテンを務め、かつての友である『旋風』モララーとの確執に復讐心を燃やす。
  クールに振舞うが、その本性は激情に満ちた男。望まぬ形で再会した裏切り者と、過去の決着をつけるため荒れ狂う。
 ・使う技はサッカーを基盤に置くが、その蹴りは万物を切り裂く刀剣の如し。対峙する者を容赦なく切断する。
  能力値も技もモララーとほぼ同じ。しかして二人の間には、容易には埋められない力量差と心の溝が出来ていた。
 ・対モララー戦、敗北。しかし、武喝道バッジは保持。

7 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 20:27:23.28 ID:qu0uVv5q0

 ( ´∀`) 『考える柔術家』 モナー

 【AGE】16歳
 【GRADE】二年B組
 【CLUB】柔道部
 【HEIGHT】170cm
 【WEIGHT】87kg

 【破壊力】B+
 【耐久力】B
 【スピード】 B−
 【正確性】B
 【頭脳】  B+
 【持続力】B+
 【成長性】B−

 ・『七星連合』が一人。その勘の良さと技術で敵を追い詰める、万能なる追跡者。
 ・柔道部部長。恵まれた体格と積み上げてきた技術は、多くの大会で彼に優秀な成績を与え続けてきた。
  夜の校舎を舞台にハインと追跡劇を繰り広げるも、彼女の機転を利かせた反撃に苦戦を強いられる。
 ・肉弾戦において、柔術の対応力の高さをここぞとばかりに見せつける。格闘戦でまず弱点はない。
  力でぶつかる相手には、まさに天敵中の天敵。しかし、フサギコの決死の覚悟を前にあえなく破り去った。
 ・対フサギコ戦、敗北。

9 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 20:30:10.63 ID:qu0uVv5q0

 (’e’) 『絶対王者』 セントジョーンズ

 【AGE】15歳
 【GRADE】一年D組
 【CLUB】囲碁将棋部
 【HEIGHT】158cm
 【WEIGHT】58kg

 【破壊力】E
 【耐久力】E
 【スピード】 C+
 【正確性】B
 【頭脳】  S
 【持続力】E
 【成長性】C

 ・『七星連合』が頂点。類稀なる頭脳と戦術で戦場を支配する、絶対なる君臨者。
 ・あらゆるアマチュアボードゲーム界で無敵を誇る、盤上の帝王。その性格は尊大にして傲慢。
  ハインと過去に因縁があるらしく、決着をつけ真の王者となるために武喝道で権勢をふるう。
 ・戦闘能力はほぼ皆無。だが、その高い知性は『七星連合』を巧みに操り、勝利をもぎ取ってきた。
  トラップの作成・設置や、諜報活動にも覚えがある。良くも悪くも、ハインと酷似した戦法。
 ・対アサピー戦、敗北。

12 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 20:32:38.87 ID:qu0uVv5q0


 ― CAUTION ―

 なお、ここで表す能力値はあくまで目安的なものなので、その差が本編での勝敗に必ず影響するわけではありません。

 ご理解のほど、あしからず。では本編入ります


14 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 20:35:10.89 ID:qu0uVv5q0


 まず一番最初に知覚したのは、胸の痛み。


ノハ )「…………っつ」

 ずきんと疼くその痛覚は、彼女のまどろんだ意識を引き戻す。
 眠りから解放された脳内は、混濁する記憶と意識でごっちゃになっている。
 時間経過の程も感じ取れない。

 どのくらい気を失っていたのか。

 ここはどこなのか。

15 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 20:37:48.14 ID:qu0uVv5q0

 やがて、ゆるりと開かれた瞼。
 その隙間から覗く光は、網膜を焼き尽くしそうなほどに眩い。
 ちかちか、と明滅する視界。

 同時に気だるい肉体に、徐々に力が戻りつつあるのを感じた。

ノハ-听)「…………?」

 手足の感覚を取り戻して、ようやく自分が裸足であることに気付く。
 横たわるのも固い廊下の上ではない。
 フローリングの優しい木の色に、陽光が映っていた。

 どこかの部屋にいる。

16 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 20:40:06.27 ID:qu0uVv5q0

ノパ听)「ここは……?」

 覚醒し切ると同時に、むくりと身を起こす少女。

 360度。辺りを見返してみても、この場が学園外であることに変わりはない。
 それどころか部屋の色調や家具、吸い上げる空気の匂いはどこか覚えのあるものだ。

 ほんの一瞬考えた後、すぐさま答えは導き出された。

ノパ听)「ドクオの部屋だ」

 薄手のカーテンから差し込んでくる朝の光が、部屋の全貌を照らす。

 ちゃぶ台一つ、小さなテレビ一台、本棚には漫画がぎっしり。
 部屋の隅を占領するベッドの上には、今は部屋の主はいない。

17 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 20:42:53.17 ID:qu0uVv5q0


川 - _-)


 代わりにクーが眠っている。

ノパ听)「…………」

 よたよたと傍まで近づき、覗き込んだ彼女の顔。
 今は深い眠りの内にいるのか、苦しそうでも痛みに耐えるようでもない。
 規則的な呼吸が、静かに繰り返される。

 ただ掛けられた布団から覗く右腕に、巻かれた包帯だけは見た目にも痛々しい。

ノパ听)、「クー姉ぇ……」

 労わりの意味を込めて、彼女のきめ細かな黒髪を撫でる。
 まるでガラスから紡いだ糸。その手触りは滑るように心地が良い。

19 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 20:45:09.80 ID:qu0uVv5q0

 甘い香りが、鼻をくすぐる。

 そこで、不意に蘇ってくる窮地の記憶。
 まるで雪崩のように押し寄せるそれは、ヒートの背筋に冷たいものを走らせる。
 髪を撫でる手も凍りついてしまった。

 ドクオが不意打ちを受け、クーが圧倒され、自分もあと一歩でトドメを刺される危機。

 渋澤、ダイオード、モララー。
 あの場にいた者たちの顔がぐるぐると脳内を駆け巡っては、悔しさと恐怖に苛まされる。
 胸の痛みも呼応するように疼いた。

ノハ;--)「うっ」

 思わず気分も悪くなる。

21 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 20:47:41.57 ID:qu0uVv5q0

 ふらつく足取りを支えるため、ベッド脇の勉強机にもたれかかった。
 食道を圧迫する吐き気を飲み込んで、呼吸を落ち着かせる。
 彼女自身、この反応は信じられなかった。たった一度の敗北に、ここまで動揺するなんて。

 思っている以上に、渋澤たちは彼女にトラウマを与えているのだ。

 しかし、いつまでもこの場にいない者相手に、ビクビクしていられるか――と。
 暴れ回る動悸を抑えつつ、彼女は再び幼馴染の部屋を見まわした。

 眠るクーと自分以外に、人がいる様子はない。

ノパ听) (ドクオがここまで運んでくれたのか?)

 ここは彼の部屋であるし、そう思うのは当然だろう。
 だが、ドクオの負傷の程も相当なものだった。それは事実だ。

23 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 21:28:04.97 ID:TLRERzXT0

 怪我人の彼が気絶したヒートとクーを、抱えてここまで来ることなど出来るのだろうか。

 尽きない疑問にヒートが首を捻らせていると、唐突に玄関の鍵が開く。
 がちん、と大仰な音を立てて回る内鍵と、傾くドアノブ。
 ゆっくりと開かれる扉の向こうから、見なれたシルエットが二つ現れる。


ミ,,゚Д゚彡「どうした?」

('Aメ)「いや……ヒート、起きているのか?」


 買い物袋をそれぞれ二つずつ、両の手にぶら下げた男衆だった。


24 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 21:30:36.83 ID:TLRERzXT0



ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです

第二十九話『エメラルドの海』



26 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 21:32:46.89 ID:TLRERzXT0

 * * *


 用意された三つのマグカップからは、ココアの甘い匂いが漂う。


ミ,,-Д-彡「……そうか、やはりお前たちにも追手がかかったか」

 その一つを熊手のように大きな手で握り、フサギコは神妙な面持ちをする。

 向かい合ってちゃぶ台に座っていたヒートは、ドクオからカップを受け取りながら身を乗り出した。
 今はココアの熱さも気にならないらしい。

ノパ听)「一体どういうことなんだよ? もう全然分かんねー、渋澤とか色々……。
     結局、セントジョーンズたちとの勝負の結果もハッキリしないままだし、わっけわからん!」

28 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 21:36:53.13 ID:TLRERzXT0

('Aメ)「まぁ、訳分からんのは正直フサギコだって同じなんだろ」

 最後に、二人の間に臨むように鎮座するドクオが、自分のカップをくゆらしヒートを止める。

('Aメ)「とりあえず、ブッ倒れてた俺たちを助けてくれたのはハインとフサギコなんだ。
    あの異常事態の中で、よく生き残っててくれたよ。お前も感謝の一言くらい言ってやれ」

ノパ听)、「んー……、すまんかった。ありがとう」

ミ,,^Д^彡「構わんよ。仲間なんだから当たり前だ」

 フサギコも笑いかけてはみるが、実際心の底からの笑顔はまだ作れそうにない。
 その証拠に、一呼吸すると再び表情は固くなっていた。

29 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 21:39:59.89 ID:TLRERzXT0

ミ,,-Д-彡「しかし、クーの容体が良くないんだ。見た目以上にな」

ノハ;゚听)「やっぱ腕の傷か?」

ミ,,゚Д゚彡「いや、胸を打たれた方のが辛そうだ」

 強烈すぎる渋澤の技。
 それを真正面から思いっきり、二回も喰らったのだ。
 ダメージは尋常ではないはず。いま落ち着いて眠っているのが信じられないほどだ。

('Aメ)「あれきり、ずっと目を覚ましていない。まぁ、お前もそうだったけど。
    実際、起きてみて大丈夫なのか? あんまり覚えていないけど、一応一発貰ったろ」

ノパ听)「私は大丈夫。少し痛むくらいで動く分には」

('Aメ)「そうか……なら良かったけど……」

31 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 21:42:35.74 ID:TLRERzXT0

 ベットのクーを頻りに見ては、ドクオは溜め息を繰り返す。
 お人好しなものだ。彼自身、腕を含めて相当なダメージを負っていたというのに。

 片方どころか、両腕に巻き付いている包帯を見て、ヒートも大きな溜め息をつく。

ノパ听)「そうだ、ハインはどうしたんだ?」

ミ,,゚Д゚彡「あいつは買い出しの途中で別れた。何か用事があるらしい」

('Aメ)「いま思えば、一人で行かせたのってマズくないか?」

ミ,,゚Д゚彡「何が危ないって言うんだ。今日は日曜日だぞ。
      ルールにもあった通り、週末に関しちゃ武喝道が行われることはない」

(;'Aメ)「今さら、そんなルールなんてどれだけの意味を持つんだか……」

 現にそれを無視し、さらには夜の校舎で無断の決闘を行ったのは自分たち。
 あながち過ぎた心配でもない。もしかしたら、ということもあり得る。

32 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 21:45:07.36 ID:TLRERzXT0

ミ,,-Д-彡「……分かった。なら、後で俺が捜しに行く」

ミ,,゚Д゚彡「だがまずは状況確認だ。俺とハインの知り得た情報と、お前たちの情報。
      『七星連合』のことも含めて、まずはそれらを把握しておきたい。構わないな?」

 彼が提案するのは、まず戦況の再確認。

ミ,,゚Д゚彡「ハインとドクオとは少し話したが、今はヒートもいる。もう一度最初から洗い直そう」

('Aメ)「そうだな……焦っても仕方ないし、まずはそこからか」

ノパ听)「私も。分かんない所は早くスッキリさせたい」

 色々思う所はあるだろう。しかし、お互い不明な点は多い。
 まずは、持ち得る情報だけでも整理しておこうというフサギコの提案は正しかった。

 互いの手に持つ、ココアの満たされたマグカップ。

 その表面を、さながら彼らの心の内を示すよう、三様に波紋が立っている。

33 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 21:49:02.91 ID:TLRERzXT0

 * * *


从 -∀从「ふぅ」


 自室の玄関扉を閉じて、施錠を終えるとハインは歩み出す。
 小奇麗なデザインの戸を後に、マンションの廊下に小さな足音が響いた。

 部屋には着替えを取りに寄ったのだろう。
 ボロボロの制服から、服装は一転している。

 黒字に大きなハートを写したTシャツに、キュロットパンツ。
 にもかかわらず、肩にかけるのはやはり白衣だ。スペアが部屋に置いてでもあるのだろうか。
 彼女自身、そこはこだわりを持っているらしい。

34 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 21:51:39.02 ID:TLRERzXT0

 もっともこの服も、箪笥にあったのを適当に引っ張り出しただけだが。

从 ゚∀从 (さて、どうしたもんか)

 昇ってきたエレベーターに乗り込み、『1』のボタンを押してから。
 ハインは手に持つ携帯の液晶に目を這わす。履歴に、何度か渡辺の名前が挙がっていた。

从 -∀从 (渡辺の奴……、また携帯落っことしちまったのか?)

 渡辺が戦線を離脱してから――というより、ハインが無理矢理に追い出してからだが。
 寝る前と朝起きた時に、安否を確認する意味も込めて彼女に電話をかけることにしている。
 過分かもしれないが、用心も含めて。彼女の安全を確認するため。

从 ゚∀从 (まぁ、昨日はやたらと忙しかったからな……。オレも夜の分は忘れちまってたが)

35 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 21:54:04.60 ID:TLRERzXT0

 ドクオの祝賀会から、突然の『七星連合』の襲撃と、深夜の決闘。
 加えて、『聖斗指導部』の介入。そこから後は、脱出とヒートたちの治療でてんてこ舞いだ。

 渡辺に一言、電話を入れる暇すらなかった。

 それでやっといま、一報を入れようと思ってもさっぱり通じない。
 留守電や電波が繋がらないわけではなかった。ただ、いくら待っても返事が無いのだ。

 気付いていないのか。

从 -∀从 (落としてるかだよなぁ……)

 それも、渡辺の性格やドジっぷりを考えれば分からないことでもなかった。

36 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 21:56:34.19 ID:TLRERzXT0

从 ゚∀从「…………」

 ふと、一瞬脳裏をかすめる不吉な予感。

从 -∀从「杞憂だな」

 下らないと一蹴し、開いたエレベーターの扉をくぐる。
 白を基調としたエントランスに、差し込む光がまぶしく反射していた。

 そう、それはあり得ないはず。
 彼女は渡辺を誘拐の魔の手から守るために、わざわざ家に軟禁した。
 事件の犯人――それもハインは生徒会と目をつけているが、彼らもまさか校外に手を出すわけにもいくまい。

 何より人目がある。下手な事をすれば、不利を被るのは向こうだ。

从 ゚∀从 (問題ないはず、問題ない……)

39 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 21:59:14.83 ID:TLRERzXT0

 自動ドアを抜け、マンションを後に通りを過ぎ、静かな町並みを闊歩する。
 渡辺の住むアパートは遠くない。徒歩で行ける距離だ。
 時間もかからない。急ぐ必要は、一つとしてないはず。

 それでも、心なしかハインの歩調は速かった。

 彼女自身、無意識のうちだろう。

从 ゚∀从 (いや、やめよう。今は別のことを考えろ)

 このまま彼女の家に向かい、無事を確かめてそれで問題はない。

 故に頭を切り替える。
 一番に、ハインが考えるべきこと。それは昨夜、貞子たちが与えてきた更なる謎についてだ。

40 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 22:02:11.72 ID:TLRERzXT0

从 -∀从 (ドクオの話によれば、あっちを襲ったのは国語科の渋澤に生物科の鈴木ダイオード……)

 そして、ハインたちを襲った音楽科の浦召貞子、数学科のアサピー。
 現在確認しているだけで、『聖斗指導部』を構成するのはこの四人だ。

从 ゚∀从 (どいつもこいつもよくは知らねえ。経歴も素性も、能力もだ)

 貞子とアサピーはこの目で見て、渋澤とダイオードに至っては話に聞いて。
 結果的には見せつけられる。その圧倒的、超越的な力の程を。

从 -∀从 (それだけの奴らが、ずっと教師として学園に潜み続けていた。
        理由は一つ。学園に起こる、ある緊急事態への保険のために)


 それが、武喝道。


45 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 22:06:53.52 ID:TLRERzXT0

从 ゚∀从 (嘘か本当かは分からないが、奴らは武喝道の『本当の理由』とやらを知っていた。
       それはつまり、バックの荒巻学園長――奴がこの戦いの全てを把握しているわけか?)

 全ては断片的な情報からの推測だ。
 結局のところ、その『本当の理由』が何なのかすら分かっていない。
 だが方向性は正しい。まず着目すべきは荒巻の存在だ。

从 ゚∀从 (武喝道の全てを知っている、ということは誘拐事件の全容も知っているはずだ)

 誘拐事件。

 それらは全て、武喝道と時を同じくして始まった。
 無関係ではない。二つは必ず、同じ根を持っている。

 今までは一方にばかり目が向いていたが、あるいはもっと広い視点を持つべきかもしれない。

46 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 22:09:33.86 ID:TLRERzXT0

从 ゚∀从 (待てよ……それはつまり、元々荒巻が武喝道に一枚噛んでいたってことか?)

从;-∀从 (ならアサピーの言っていたことはフェイクなのか?
        誘拐事件の犯人は一つに見えて、実は二つの事件が重なっていた?)

 犯人は複数――それも別々の目的を持っている者たちなのか。

从;゚∀从 (セントジョーンズは攫われていた。『聖斗指導部』も怪しい。
        しかし、いや……生徒会が誘拐を行っているのは確定だが奴らは……)

 抜けるような晴天の下、少女の頭の疑問はなかなか晴れない。
 分からないことに、不確かな情報がちらちらと見え隠れし、真実が遠のいていく。

 このままでは埒が明かない、と。ハインは立ち止まり深呼吸をする。

47 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 22:12:41.48 ID:TLRERzXT0

 落ち着くこと。それが大切だ。
 繁茂する情報たちに飲み込まれては、思考は終わる。
 充分にクールダウンを済ませて、もう一度息を吸い、吐く。

从 -∀从 (ダメだ。結局、芯の部分は何も分からん。
        『聖斗指導部』の言うことも、鵜呑みにしてるままでは良くないな)

从 ゚∀从 (理解できるのは、『聖斗指導部』が生徒会と対立していること。
       そして奴らが、武喝道を強引な形で崩壊させようとしていることは確かだ)

 それだけは、まず間違いない。

 彼らはハインたち参加者を襲った。それは武喝道に波紋を起こすため。
 元々細部に至るまで、荒巻が戦いのことを知っていたのか。それはまだ不明だ。
 ただ、彼らはもう参加者の詳しい情報まで把握している。

48 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 22:14:33.61 ID:TLRERzXT0

 ならば、これから起きること。それは、


从 ゚∀从 (狩り、だ)


 子供たちは一方的に狩られるだろう。

 数に差はある。お互いの素性を知っている、という点で条件は同じ。
 しかし、基本の戦闘能力が違う。圧倒的過ぎるほどに。

 太刀打ちできる者は少ない。

从 -∀从 (学園長に接触するべきか……それも無理だろうな)

51 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 22:17:42.57 ID:TLRERzXT0

 そう簡単に話を聞けるとも思わない。
 普通に近付こうとも、真相についてなどは尻尾すら見せてくれないだろう。
 力ずくで尋問することも、『聖斗指導部』に守られた彼には無理だ。

 手詰まり。

 そんな屈辱的な言葉が、ふっと浮かんでは消える。

从 ゚∀从 (いや、まだ打開策はある)

 諦めるのはまだ早い。

 この先、重要になるのは生徒会のリアクションだ。

从 -∀从 (すぐにでも、邪魔な『聖斗指導部』への処理を始めるはず。
        ということは最悪、武喝道は生徒会と先公どもとの戦いへと発展していくだろう)

 言わば、三つ巴の戦い。

52 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 22:20:43.71 ID:TLRERzXT0

 直接的に参加者たちが生徒会と戦う理由は無いが、そこに教師たちの介入が入ることで変化は起こる。
 奇妙な三角関係の中で、誘拐事件の真相も少しずつ浮き彫りになるだろう。
 生徒会は『聖斗指導部』を相手にして尚、その工作活動を続けるのは恐らく不可能だから。

 そうなれば参加者側の人間にも、事件に疑問を持つ者も現れるはず。

 ハインはそう考えているのだ。

从 ゚∀从 (一番考えたくないケースは、このまま武喝道自体が凍結されて、真相が闇に葬られること)

 それでも、実害はない。
 だがここまで首を突っ込んだ以上、何か掴めるものが無いと意味が無いのだ。
 そもそも、始まりを同じくしているであろう二つの事件が、同時に消失するとも思えない。

 武喝道が凍結された後も、誘拐事件は続いて発生する可能性はある。

53 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 22:23:06.79 ID:TLRERzXT0

 彼女がこの事件の真相解明に躍起になるのは、偏に渡辺のためだ。
 今はまだ身の安全を保っている彼女が、いつ事件に巻き込まれるとも分からない。

 取り返しのつかない事態になる前に、先手を打つため。

 彼女は謎に挑む。

从 ゚∀从「…………」

 長い長い思考の果て、足は惑うことなく渡辺のアパートへと向かっていたらしい。
 少し古びた印象を受ける、こじんまりとした建物。

 屋根の赤と壁の白が、可愛らしい雰囲気を纏っていて。
 渡辺もそこを気に入っていた。ハインは古臭い古臭いと馬鹿にしてはいたが。
 それでも、改めて見るとやはり渡辺にぴったりな住まいだった。

55 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 22:25:36.74 ID:TLRERzXT0

从 ゚∀从「叩き起こしてやるとするか」

 とりあえず、持ちえる情報ではこの程度の推論が限界。
 あとは今後の情勢の変化に任せるしかない、とハインは割り切った。
 推理の終わりを告げるかのように、彼女は引っ掛けていた白衣に袖を通し階段を登る。

 唯一無二の友の、きっと寝ぼけているだろう可笑しな表情を拝むために。

 戦いの中で確かに在る、自身の安らぎを求めるために。

57 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 22:28:13.92 ID:TLRERzXT0

 * * *


('Aメ)「『聖斗指導部』……か」


 空になり、すっかりと冷め切ってしまったマグカップ。
 それをテーブルに置きながら、固い表情を浮かべるドクオは呟く。

('Aメ)「武喝道の阻止のために、学校側が送り込んだ刺客、ってとこか」

ミ,,-Д-彡「おそらくその存在を一般教員は知らない。唯一知っているのは――というより黒幕は荒巻学園長だろう」

('Aメ)「学園長は武喝道が起きることを知っていたんだな」

ミ,,゚Д゚彡「うむ」

 相変わらず、神妙な面持ちのフサギコは頷く。

60 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 22:30:30.95 ID:TLRERzXT0

(;'Aメ)「『七星連合』との戦いは大勝利だってのに、何だか素直に喜べねえ……」

ミ,,-Д-彡「奴らを倒したことで、バッジの数は二倍近くに膨れ上がった。優勝は固い」

ミ,,゚Д゚彡「だがハインの予想じゃ、このまま武喝道の中止も考えられるかもしれん」

ノハ;゚听)そ 「そんな!」

 がたん、とちゃぶ台を揺らして。

 立ち上がるヒートは、何とも言えない目付きをフサギコに向ける。
 怒っているようで、悲しそうな。だが上手く言葉に出来ず、目で訴えているのか。
 先走りする感情をコントロールできないらしい。

 フサギコは焦りに震える彼女へと、低音の落ち着いた声をかける。

62 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 22:33:42.23 ID:TLRERzXT0

ミ,,゚Д゚彡「ヒート、それは仕方のないことだ。
      こればっかりは運営の生徒会が決定することだし、俺たちにはどうしようもない」

ノハ;゚听)「だけど……私……」

ミ,,゚Д゚彡「まだ確定事項じゃないが、俺はむしろその方がいいとも思ってるよ」

('Aメ)「こんな形で、武喝道が終わることがか?」

 フサギコは確かな意志を持って、首を縦に振る。

ミ,,-Д-彡「最初に言ったろう、俺の目的は戦いの中にない。
       ただ、恩人であるお前たちを助けたい気持ちから、これまで力を奮ってきた」

ミ,,゚Д゚彡「お前たちが颯爽と優勝してくれれば尚いいが、中止なら中止で納得もできる」

63 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 22:36:29.00 ID:TLRERzXT0

ノハ#゚听)「私は納得できない!」

ミ,,-Д-彡「それはお前の言い分だろう……。とにかくだ」

 食って掛かるヒートを押し退けて、彼は続ける。

ミ,,゚Д゚彡「俺は途中でお前たちを見捨てたりはしない。行ける所までついていく。
      だがな、仮に中途半端に戦いが終わった時、無茶や無理を通すことはしないと思ってくれ」

ノハ--)、「…………」

ミ,,゚Д゚彡「例えば、生徒会や『聖斗指導部』に喧嘩を売ったりとかはな。
      それはもう、俺が手を貸すようなことじゃない。お前たちが勝手に始める、ただの喧嘩だ」

('Aメ)、「それくらい、分かってるよ……。そこまであんたに甘えられない」

ミ,,-Д-彡「そうか、ならいいんだ」

66 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 22:39:17.57 ID:TLRERzXT0

 その一言が終わらない内に、空気は深く深く沈みこむ。

 狭い部屋に、息苦しいほどの重圧が漂っていた。
 皆、フサギコが言わずとも何となく分かってはいるのだ。教師の介入が、戦いに一つの亀裂を生みだしていることを。
 それはもう、自分たちの小さな手の平では支えきれないほどの、大きな裂け目となっている。

 フサギコは、こうした形でも日常が帰ってくることを喜んではいる。
 なら、二人はどう思っているのか。

ミ,,゚Д゚彡「ドクオ、お前はどうなんだ?」

('Aメ)「え?」

ミ,,゚Д゚彡「お前だって、戦いが早く終わればそれに越したことは無いと言っていただろう。
      それなら例えこんな形でも、武喝道が終わるかもしれんことは良いことじゃないのか?」

67 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 22:41:34.34 ID:TLRERzXT0

(;'Aメ)「んん、あぁ……そうだな。まぁ……」

 ドクオの返事は芳しくない。
 ちらちらと横目でヒートの様子を窺っては、唸り続ける。
 彼も色々と迷っているのだろう。フサギコは答えを急かさなかった。

 しばらく、ほんのしばらくの間待って。

 ドクオも言いたいことがまとまったらしく、面を上げて宣言する。

('Aメ)「俺も納得……できないかな」

ミ,,゚Д゚彡「理由は、聞いていいのか」

 静かに肯定。

70 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 22:44:10.06 ID:TLRERzXT0

('Aメ)「確かにさ、もう痛い目見たりすることもないし、終わるならそれもいいと思う。
    でもここまで来たのなら――って気持ちもあるんだ。まだ、俺たちは何も出来ていない」

ミ,,゚Д゚彡「うむ」

('Aメ)「言ったよな、俺はヒートを優勝させる。この戦いの中で、ヒートの背中を守り続けるって」

ノハ-听)「…………」

('Aメ)「だから、やっぱり納得できない。やれるとこまでやってみたいんだ。
    ヒートが戦うなら俺も戦うし、抗い続ける。いきなり入ってきた横槍になんて、挫けてられない」

ノハ--) (それって……)

 聞き入っていたヒートは不意に、濁った感情を湧き出でさせる。

ノパ听) (なんか私を、戦う言い訳にしてるみてーじゃん……)

71 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 22:46:34.13 ID:TLRERzXT0

 ドクオが無理に戦う理由は無い。
 彼が唯一、依存しているといえるのはヒートの存在だ。
 ヒートが戦う以上、彼もそれについてくる。例え、武喝道にどれだけの変容があろうとも。

 それはつまり、ヒートが折れなければドクオはずっと戦いの渦中に巻き込まれるということ。

 再び、渋澤のような超越者に追いつめられる可能性が、彼にも増えるということ。

ノハ--) (……私はどうすれば、いい?)

 戦いたい。

 だが渋澤にブチのめされた今、その挽回を約束できない自分がある。
 苦い敗北を覆したいのも事実。しかし、このまま対峙しようとも何も変わらないだろう。

74 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 22:50:18.61 ID:TLRERzXT0

 そして武喝道が続くというならば、渋澤との対決はきっと避けられない。
 いや、もしかしたら武喝道そのものが潰えても、彼と戦うことはあり得るのかもしれない。

 そう思うと、ただ純粋に戦いたいという気持ちに揺らぎが差す。

 怖い。

('Aメ)「ヒート、お前はどうだ? 当然、やるからにはとことんやるんだろ?」

 まだ考えもまとまらないにもかかわらず、ドクオは答えを急く。
 彼女だって胸を張って『応』と答えてやりたい。しかし、それではダメなのだ。

 今までのように、力と勢いだけで何とかなる戦いは終わった。

75 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 22:52:37.16 ID:TLRERzXT0

 ここから先に待ち受けるのは、真の強者のみが生き残れる世界。
 そこでは己を守ることすら過酷だ。さらに仲間を、というなればより難しい。

 理屈ではない。感覚でそう思うのだ。

ノハ )「私は……まだ……分からない。分からなくなった」

 だから、彼女は進むのを躊躇う。

(;'Aメ)「ヒート?」

ノハ )「渋澤に負けるまでは、戦うことは何より楽しいことだったかもしれない」

 薄く開けた目の前に、手の平。
 それはどこか震えを帯びて。そして決して、武者震いではない震えを。

78 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 22:55:12.85 ID:TLRERzXT0

ノハ )「でも……今は……」

 たまらない。

 ここから逃げ出してしまいたい。

('Aメ)「おい! ヒート、どこへ……!」

 そう思ったら、ヒートの行動は速かった。
 すっくと立ち上がると、二人の制止を振り払って部屋を飛び出す。

 ドクオに借りたTシャツのまま。裸足でローファーを突っかけながら、ドアに体当たり。
 朝の光を目いっぱい浴びて、目が眩もうとも関係ない。突っ走る。
 飛びだした瞬間、どこか湿った春の香りが鼻孔を満たす。

79 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 22:57:32.09 ID:TLRERzXT0

 一人の時間が欲しかった。

 もっともっと、考える時間が。無い頭で、これから先どうするか決める時間が。
 しかし、それは限られたもので。それでも、決めなくてはならない大切な事。


ノハ;--)「くそったれ……っ」


 だから、今は走るしかなかった。

 滅茶苦茶な感情を、心の幼い彼女はまだ抑え付けることが出来ないから。


81 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 23:00:21.60 ID:TLRERzXT0

 残された二人は、ただ茫然と突っ立っているだけ。

 開けっぱなしにされたドアからは青空が覗くが、ヒートの姿はもうない。
 いきなり嵐のように駆け去っていった彼女に、ただ舌を巻くばかり。

 訳が分からないと溜め息をつくのは、ドクオだ。

('Aメ)「ちょ、あいつ……」

ミ,,゚Д゚彡「…………」

 話の途中に突然飛び出すなど、彼らにしてみれば驚いて当然だろう。
 だがフサギコに至っては、彼女のその行為の理由を汲み取れるらしい。

84 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 23:02:34.24 ID:TLRERzXT0

 超常的な力を持つ者たちや、どうしようもない事態を前にすること。
 そしてその上で尚、押し退けたいと思う心。
 考えてることと出来ることの間に生じるギャップ。生まれる際限ない焦り。

 ジレンマだ。

 ヒートは大きな壁を前に、地団駄を踏んでいる最中なのだ。

ミ,,-Д-彡 (辛いだろうな)

 彼にも、ドクオにも。
 彼女の行く末を決めることはできない。決めるのはヒートだけだ。

 だから、待つしかない。

 二人は芳しくない顔をぶら下げ、ひたすらに開いたドアを眺め続ける。
 フサギコはどかりと床に腰を下ろすが、ドクオは困惑してるのか立ちっぱなし。

86 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 23:05:10.32 ID:TLRERzXT0

 そんな何とも言えぬ空気の中、衣擦れの音ともに背後で声が上がった。

 凛としたそれは、弱々しくも普段の気高さを失っていない。


川 ゚ -゚)「――朝から随分と賑やかだな、お前たちは」


('Aメ)そ 「クー!」

ミ,,゚Д゚彡「起きていたのか」

川 ゚ -゚)「あぁ、ちょっと前からな」

 ゆっくりと床へ足を降ろし、ジャージ姿の彼女は立ち上がる。
 ハインがドクオのものを着せてやったのだろう。破れて汚れた道着よりはマシだ、と。
 振り返った男二人はヒートへの驚きもひとまずは置いておき、クーの無事を喜ぶ。

89 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 23:07:43.01 ID:TLRERzXT0

 しかし、立ってはいても彼女の足取りは重い。
 辛いのだろう。その証拠に片手は常に胸を押さえている。

 よろりと膝を折り、やっとのことでちゃぶ台にもたれかかると大きな吐息をつく。

川 - _-)「話も途中から聞いていた。『聖斗指導部』、なるほど教師たちの切り札ということか」

川 ゚ -゚)「ヒートは? 行ったのか?」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ……一人でな」

('Aメ)「何か……置いてけぼりって感じだ。追いかけなくて良かったのか?」

川 ゚ -゚)「今は放っておいてもいい。ただ、頃合いに見てお前が捜しに行ってやれ」

(;'Aメ)「俺一人で?」

川 ゚ -゚)「当たり前だ」

91 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 23:10:09.60 ID:TLRERzXT0

 何が当たり前なのかさっぱり分からない様子のドクオ。
 彼を尻目に、年長者二人は顔を見合わせる。

 そして、もう話すべきことは話し終えたと。
 頃合いを見計らってか、今度はフサギコが立ち上がった。

ミ,,-Д-彡「なら、俺も出るか。ハインを捜しに行って来るよ」

 重い腰を上げ、巨体が部屋を横断。
 開けっぱなしになった玄関のドアを支えに、フランスパンのように大きな運動靴へ爪先を通した。
 踵で二、三回、とんとんと床を叩き、部屋の二人に向き直る。

ミ,,゚Д゚彡「そのまま帰るから、後のこと――特にヒートの件はよろしくな」

('Aメ)「あぁ、わかった」

92 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 23:13:18.33 ID:TLRERzXT0

川 ゚ -゚)「すまなかったな。色々と迷惑をかけた」

ミ,,^Д^彡「いいんだよ。結局今日のところは、みんな無事に助かったんだ。それで十分」

 また明日な、と。ぎこちない笑みで別れを告げる。
 ただでさえ気持ちが沈んでいるからこそ、表面上でも笑っていたい。
 それに、仲間たちが全員無事だったこと。それが喜ばしいのは事実だ。

ミ,,-Д-彡 (今日のところは、な……)

 そして、絶え間ない不安が胸に渦巻くのも、また事実。

 玄関のドアをくぐった時、彼の顔は再び険しいものになっていた。

93 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 23:15:33.52 ID:TLRERzXT0

 * * *


 嫌な予感というものは、往々にして当たり易いものなのだろうか。


从;゚∀从「あの……本当に渡辺は帰って来ていないんですか?」

( ノAヽ)「そうなノーネ。ナベちゃん、昨日はお出かけしたきり帰ってないノーネ」

从 ゚∀从「どこに行ったか、とかは聞いていませんか?」

( ノAヽ)「分からないノーネ。ただ昨日の朝に制服を着て、階段を降りて行くところを見ただけなノーネ」

从 -∀从「そう……ですか」

95 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 23:19:29.90 ID:TLRERzXT0

 渡辺のアパートの、一階。その隅。

 以前から彼女に聞いていた、ここの管理人の部屋だ。
 チャイムに誘われ軋むドアから顔を覗かせたのは、年配の男性。
 白髪頭で、額には深い皺。重力にひっぱられた顔の弛みで眼がハの字のよう。

 かなり年配の男性である。ハインも見かけたことは何度かあったが、話したのは今日が初めてだ。

( ノAヽ)「連絡がつかないノーネ?」

从 -∀从「はい……その、管理人さんの方に何か伝えていないかと思って」

( ノAヽ)「申し訳ないけど、私は何も聞いていないノーネ。お友達の家に泊まったんじゃないノーネ?」

从 ゚∀从「はい、そうだといいんですが」

96 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 23:22:35.36 ID:TLRERzXT0

 では何故今さら、関わりもなかったような者に話を聞いているのか。

 答えは一つだ。

 渡辺の部屋の戸に、鍵がかかっている。
 そして呼び鈴をいくら鳴らそうが、戸をどれだけ叩こうが反応が無い。
 いくら渡辺でも、こうも喧しくて目を覚まさないわけはないはず。

 つまり彼女は、いま部屋にいないということになる。

从;゚∀从 (外泊なんて、普段するような奴じゃない。絶対におかしい)

 ここにきて、下らないと一蹴したはずの不安が再燃する。
 おかしい、変だ、奇妙――と、心が嵐のようにざわめいて。
 こうやって落ち着いて他人と話せているのが、彼女自身も驚いているくらいであった。

97 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 23:25:33.72 ID:TLRERzXT0

( ノAヽ)「……もしかして、何か良くないことに巻き込まれているノーネ?」

从;゚∀从「いえ、そんなことはないと思います。ただ連絡がつかないだけで」

( ノAヽ)「そうなノーネ? ならいいけど……」

从 -∀从「ご迷惑をおかけしました。また少し自分の足で捜してみます」


 一礼し、管理人が戸を閉じるのを待ってから、ハインは階段へと足早に向かった。


 かんかんかん、とハイテンポの金属音を上げて。
 再三確かめた渡辺の部屋。膨れ上がる不安を抱えながらも、その前に立つ。
 念のためもう一度、戸を叩くが反応は無い。

98 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 23:28:05.54 ID:TLRERzXT0

从 ゚∀从「…………」

 白衣のポケットに手を差し入れ、取り出したるは針金。
 10センチほどの長さで、どこにでも良く在るような形。それを二本だ。

从 -∀从 (渡辺ん家のドアを吹っ飛ばすわけにはいかねえからな……)

 一瞬躊躇しながらも、器用に折り曲げた一本を扉の鍵穴に差し入れる。
 その根元に添えるように、もう一本も挿入。

 しっかりと奥まで入ったことを確認してから、ハインは針金を出し入れし始めた。

 やがて数十秒もしない内に、がちりと解錠の音が鳴る。
 丁寧に針金を引き戻してから、静かにドアノブを回してみた。当然、ドアは開く。

100 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 23:30:34.77 ID:TLRERzXT0

 ピッキングの成功。

 親友の家の鍵を無断で開けて入るなど、心の痛む行為だ。
 しかし、いまのハインには方法を選んでいる余裕もない。
 何か、彼女の行方にかかわる手がかりがあるかもしれないと期待して。

 周囲に人目が無いのを確認すると、中へ滑り入った。
 
 カーテンを閉め切ったそこは、落ち着いた色調の壁紙に影が差している。
 小さめの家具がきちんと整列し、可愛らしい鏡台が部屋を横切るハインを見つめていた。
 紅茶やミルクのように優しく、甘い香りが鼻をくすぐる。

从 ゚∀从「…………」

102 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 23:33:47.28 ID:TLRERzXT0

 花柄のシーツが掛けられたベッド。その上には、パジャマが乱雑に広がっていた。
 どうやら急いで着替えた後、片付けないまま外出したのだろう。
 触れてみるそれに、温もりはもう残っていない。

从 ゚∀从 (今朝脱いだものじゃない……)

 おそらく昨日の朝に脱ぎ散らかしたものだろう。

 渡辺はおっちょこちょいだが、綺麗好きであることもハインは知っている。
 確かに急ぎの時は部屋を散らかすこともあるが、それを一日中放置するような性格ではないのだ。
 その日の内に帰っていたのなら、服を片付けない彼女ではない。

 つまり彼女は丸一日ここに戻っていないのだ。

 管理人の勘違いや見落としを疑ったハインだが、これは間違いない事実。

103 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 23:36:17.95 ID:TLRERzXT0

从;゚∀从 (渡辺……)

 据えてあるこじんまりとした植木鉢の、乾いた土を指でなぞる。

 ここには何もないし、誰もいない。
 手掛かりの一つもなく、むしろいるだけでハインの不安をより一層かき立てる。
 暗く小さな世界で今、彼女は一人ぼっちだ。

 堪らなくなってうずくまると、冷たい床の感触が体を伝う。
 形の無い何かが腹の底から昇り詰めた上、目頭のところに滞留しているよう。

 熱い。

 どうしようもない感情が込み上げて来る。

从 -∀从「どこ……行ってんだよ、お前ぇ……」

104 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 23:38:39.01 ID:TLRERzXT0

 泣きごとを洩らしても、分かってはいる。
 全て自分のせいなのだと。

 ハインも馬鹿ではない。ちゃんと分かっている。

 まさか渡辺が本当に外泊をして、偶然に携帯電話を落としているわけはなかろう。
 彼女は風紀委員の手に落ちたのだ。認めたくもない最悪の事態に陥った。

 まさか、まさかだ。

 彼女も考慮すらしなかった。
 生徒会が衆目に凶行を晒す覚悟で、渡辺の『回収』を優先するなど。
 現に目撃情報はなく、渡辺はあっさりと捕まってしまった。


 彼らの勝ちだ。 


105 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 23:41:04.07 ID:TLRERzXT0


从 ;∀从


 決して流したくないと思っているものが、最近はよく溢れ出る。


 ハインは敗北した。

 キナ臭いものに近寄っていった挙句、しっぺ返しを受けた。
 それは綻べば繕えるようなものではない。戻らないのだ。
 彼女の小さな手の平から、零れ落ちてしまった。


 渡辺は、もう――


107 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 23:43:37.93 ID:TLRERzXT0


 憎くて、悲しくて、許せなくて。

 寂しい。


 誰もいない部屋、何も無くなった場所。
 ハインは声を張り上げて泣いた。長い睫毛を湿らせて、大きな瞳を滲ませて。
 自分の愚かさを、友のいない孤独を、無力さを。

 ただ泣いて、だがどうすることも出来なかった。

108 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 23:47:28.53 ID:TLRERzXT0

 * * *


 少女は無意識の内から覚醒する。


 体表にまとわりつく感覚から、そこは水の中なのだということだけは理解できた。
 ただし体温のような温さと緑色の色彩は、虚ろな思考にもどこか不思議だ。

 息を吐く。

 薄緑の水泡が口から溢れ、顔を覆い、上昇していく。
 ここで初めて、自分の口にマスクのようなものがあることに気付いた。
 試しに大きく息を吸っても、苦しくはない。

 みずみずしい酸素が、肺を潤していくのが分かる。

109 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 23:50:08.95 ID:TLRERzXT0


从 ー 从


 なんとなく、だが。

 きっと母親の胎内というのは、こんな感じなのではないか。


 頭の中にまで、この緑の水に満たされているようだった。
 少女は気持ちがふわふわとして、上手く考えることが出来ない。
 ここはどこだとか、いまはいつだとか、自分は何者なのかとか。

 そういったことは二の次で、ただ目に見えるものだけが脳内を埋め尽くす。

 だから彼女はこの緑色の水の中で、ひどく落ち着いた気分でいられた。

110 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/29(日) 23:52:45.88 ID:TLRERzXT0


(   )「――――……――……――」


 小さな囁き。

 世界を覆い尽くす緑色の液体。その向こうから。
 人の声のような、くぐもった音。水中だからか、それらはよく聞き取れない。
 水の壁に阻まれた場所に、黒い影がいくつかゆらりゆらり。


(   )「……――……――――」

(   )「――――……」


 影達はしきりに話しこんで、こちらを指差し。

 横切っては、また違う影が現れる。


112 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/30(月) 00:00:08.12 ID:xj5r6huf0


从 ー 从 (何だろう、よくわからない……)


 少なくとも、彼らには温かいものを感じなかった。

 この海のような、自分をすべて受け入れて、包み込んでくれる優しさを。
 彼らのゆらゆら蠢く影からは、もっと良くない気配がする。
 ただ、今すぐに彼女をどうするか――なんてことはないらしく。

 ならそれでいいや、と。

 少女は心地いい水のベッドに身を委ねる。


从 ー 从 (不思議……なんだか……)


 心が体を擦り抜けて、天へと昇っていきそうな気分。


114 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/30(月) 00:03:49.86 ID:xj5r6huf0

 だがふわりふわりと遊泳する中、彼女は別の声を聞き取る。
 方向は分からないが、あの影達の囁き声ではないことは確か。
 もっとはっきりとした音が、少女の耳に触れてきた。

 しゅん、しゅん、と規則的に繰り返される。

 これは泣き声なのか。


从 ー 从 (どこにいるんだろう……泣いているの……?)


 誰の泣き声かは分からない。

 しかし泣いているのなら、何か悲しいことがあったのだ。
 可哀そうに。慰めてあげたい。傍に行って背中を撫でてあげたい。
 どうしてそんなに悲しいのか、聞いて癒してあげたい。

115 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/30(月) 00:06:08.56 ID:xj5r6huf0

 だが、ふわふわと漂う彼女には泣き声の主の居場所が分からなくて。

 風船のように自由に飛び回る意識を、上手くコントロールできない。


从 ー 从 (あぁ…………)


 やがて、遠のいていく声。
 悲しそうで、どこか懐かしい声。
 手を伸ばしても届きそうにない場所で、その人は泣いている。

 二人の間には距離がある。

 きっとお互いに会いたいと思っているはずなのに、触れ合えない。
 少女はそんな気がしてならなかった。

116 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/11/30(月) 00:09:25.73 ID:xj5r6huf0


从;ー;从 (あなたに、会いたいよ)


 胸が締め付けられるように苦しい。
 だが何一つ分からない。この胸を焦がす、感情の正体でさえ。
 いつかどこかで、忘れてしまった思い。

 それは大切な思いだったはず。


 緑色の――エメラルドの海の中で、漂う少女は己の無力と無知を悟る。

 そして諦めと共に瞼を閉じるのも、仕方のないことだった。


第二十九話・終


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