ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです

2 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 21:13:02.62 ID:aJ4wtbQM0

 吸い上げる空気は、清涼な水の匂いを孕み。
 そこにどこか甘い香りも伴っているように思うのは、ドクオだけだろうか。

(;'Aメ)「おぉ……!」

 感嘆の声を洩らしつつも、先導するクーに続いていく。

( 'Aメ)「左を見れば――」

 白い歯を覗かせて、からからと笑う女の子。

('Aメ )「右を見れば――」

 こちらを興味津々に見ては ひそひそとささめく女の子。

(*'Aメ)「が、眼福すぎる!」

 鼻の下を伸ばすな、と言われても難しいであろう。
 後ろから怖い目つきで付いて来るヒートの存在に、彼はまだ気付いてはいないのだが。
 
4 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 21:15:34.89 ID:aJ4wtbQM0

 しかし、ドクオが興奮するのも無理はなかった。

 そこは掛け値なしに女の園。
 眼に映るのは全て女、女、女。まさに絶景だ。
 むさくるしい男の姿など一つも見当たらない。

 背の高いのからひよこ豆のように小柄な娘、モデル体型の者もいれば勇ましく筋張った少女もいる。

 そんな多種多様、齢も三年生から新入生までいる中で共通している点。

 それは皆、零れそうなほど瑞々しい肌にピッチリとした水着を纏っていることだ。


(*'∀メ)「こ、ここが楽園(エデン)か……!」


 VIP学園シンクロナイズドスイミング部所有、専用屋内プール。


 ドクオはその只中で、人目もはばからず歓喜の声を上げるのだった。

 
5 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 21:18:00.31 ID:aJ4wtbQM0



ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです

第三十三話『水辺の集い』


 
7 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 21:20:40.11 ID:aJ4wtbQM0

 * * *


lw´‐ _‐ノv「よき運命の旅を、諸君」


 開け放たれたロッカーにもたれかかり、妖艶な笑みを浮かべるシュールはそう述べた。

 ヒートとドクオの占いが終わり、クーがヒートの次の目的地を見出した。
 やれ今は時間が悪いというらしく、昼休みに動くぞとクーから指示を受けている最中。
 二人は最初に出会った時とは、また別の意味合いの視線をシューに向けていた。

ノパ听)「本当にすげーな、シュー! 何でも分かっちゃうなんて」

lw´‐ _‐ノv「だから言ったろう子猫ちゃん。運命とは意志のある者が切り開く」

lw´‐ _‐ノv「私はその一端を見て、伝えただけ。すごい事なんて一つもないよ」

('Aメ)「その“見た”って言うのが、人には出来ないすごいことだと思うんだけどな……」

lw´‐ _‐ノv「ではすごいお姉さんを存分に崇めたまえよ、少年」
 
9 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 21:23:08.14 ID:aJ4wtbQM0

 誘うようにドクオの下顎を撫でると、眠そうな目でウィンク。

lw´‐ _‐ノv「君は興味深い。いつでも好きな時にお茶をご馳走しよう」

(;'Aメ)「はは、嬉しいんですけど……」

 たじたじといった風のドクオは、二人の蹴りに足元をすくわれてひっくり返る。

ノハ#゚听)「残念だな! ドクオは水道水しか飲めない体質だからお茶は結構だそうだ!」

川 ゚ -゚)「そういうことだ。ウチの弟を誘惑しないで貰おうか」

 ずいと彼を踏み転がして、姉妹二人はシューに食って掛かる。
 こればかりは彼女も対応し切れないらしい。お手上げとばかりに苦笑いを浮かべた。

lw´‐ _‐ノv「羨ましいね。強く気高い女性に好かれて、ドクオ君は男冥利に尽きるらしい」

('Aメ)「毎度酷い目に遭わされてますから、マイナス面が勝ってますよ」

 尻餅を突いたままの彼の、しょぼくれた声が何とも情けなくて。
 思わずシューは笑ってしまった。今までの張り付いたような笑みではない。
 
10 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 21:25:31.85 ID:aJ4wtbQM0

 もっと自然で柔らかい、そんな笑顔。

lw´‐ _‐ノv「それもまた羨ましがられるのだろうさ」

 きぃ、と扉を軋ませて。

 シューはロッカーの内に身を滑り込ませる。
 まるで底のない奈落のように、隙間から覗く箱の奥は深淵さに満ちていた。

 「しかし、もしかしたら君たちとは近い内にまた会うかもしれないね」

 「それも今度は“全員”揃って」

 閉じる寸前、こぼれた闇の中から透き通った声が漏れてくる。
 なんとも感情の読み取れない声色だが、彼女にヒートたちをたぶらかすつもりなど毛頭ないだろう。

 彼女はただ“見た”から、それを伝えるだけ。

川 ゚ -゚)「それも未来に見た“運命のゆらぎ”とやらか?」
 
11 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 21:28:04.64 ID:aJ4wtbQM0

 「どうだろうね」

 答えを知っていてはぐらかしているのか、あるいは本当に知らないのか。
 その一言には、シューの見通せぬ心情が浮かんでいる。

ノパ听)「ともかくありがとな! 会えるならまた会おうぜ!」

 そんな彼女に遠慮もせず、ヒートはロッカーの横っ面に張り手を喰らわせた。
 ぐわりぐわりと揺らぐスチールの大箱。親愛の証にしては少々激しいものだ。

 返事は、微かな含み笑いと共に。


 「また会おう」


 魔女の小部屋は、それきり沈黙を続けるのであった。

 
13 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 21:30:50.73 ID:aJ4wtbQM0

 * * *


川 ゚ -゚)「どうした、ドクオ」


 振り返る可憐な少女の立ち姿に、はっと我に返る。
 少しばかり、刺激的な光景のせいでトリップに陥っていたらしい。
 覚醒を促すようにぶるっと首を振り、応える。

('∀メ)「全然! 何も!」

ノパ听)「……キメェ」

 すぐ後ろで、いままで聞いたこともないような暗い暗ぁい声が上がる。
 地獄の底でもこれほどまでに不気味な声は聞けないのでは、と思うほどだ。

 振り返れば、妖怪アヒル口。
 
14 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 21:33:10.18 ID:aJ4wtbQM0

ノパ听)「ドクオ、お前鼻の下が伸びてるな」

('Aメ)「そ、そうか?」

('∀メ)「んまぁ、こんなこの世の楽園まがいの場所に居ちゃあ、誰でも鼻の下の一つや二つは――」

ノパ听)「提案がある」

ノパ听)「このままほっておくとお前の鼻の下が、伸びすぎてひどいことになるだろう。
     貧相な顔にだらだらびろびろの鼻の下じゃ、いつ変質者に間違えられてもおかしくないしな」

('Aメ)「え」

ノパ听)「だからここは、黙って私のアッパーカットで矯正した方がいい。そしたら――……」

 ぎりり、と。

 麻縄を強引に絞ったかのような、強烈な音。
 発生源は握り込まれたヒートの拳で、それはもう目一杯に背中へ振りかぶられている。


ノハ#゚听)「スケベ根性も少しはマシになると思いますよぉぉぉぉぉおおおおおおお――ッ!!!」

 
15 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 21:35:56.08 ID:aJ4wtbQM0

 弧を描く鉄拳は、下方から打ち込まれた。

(゚Aメ)「げぐぅうっ?!!」

 砕く。

 すくい上げられたドクオは、顎関節も下心もまとめて破砕される。
 吹き飛ばされるまま一瞬の無重力を感じた後、綺麗なアーチを描いて水底へどぼん。
 高々と上がる水飛沫と悲鳴。

 無論ヒートは悪い事をした気などさらさら無い。

ノハ#゚听)「ケェェェエ――ッ! イラつくぜぇえ! 何が楽園(エデン)じゃコラ!」

 どざえもんのように浮かんでくるドクオの、ずぶぬれ頭を蹴りまくっている最中だ。
 
 ドクオが不憫なのもまた事実だが、周りに迷惑がかかっているのもまた事実。
 クーは荒れ狂う彼女の首根っこを引っ掴む。
 
16 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 21:38:35.95 ID:aJ4wtbQM0

川 ゚ -゚)「それくらいにしておけ。部員の人に迷惑がかかる」

ノハ#゚听)「ふんッッッ!!」

 機嫌は斜めどころではないが、仕方なしとクーに従う。
 裸足だが、水着少女たちを掻き分けるその闊歩は、勢い余ってプールサイドを月面クレーターに変えそうなほど荒々しい。
 そんな従妹の姿に心底呆れ返るクーだが、気持ちが全く分からなくはないのだろう。

 自分も一発、ドクオに蹴りをブチ込んでおく。

 彼が沈むと同時に、水面に大きな波紋が広がった。

川 ゚ -゚)「さて」

 そして何事もなかったように、ヒートの下へと歩み寄っていく。

 ここは、学内でもとびきり設備がイイことで評判だ。
 完備された空調、部員たちが充分に活動できるだけの広さ、昨日建てたばかりかと見紛うほど美しい外観。
 他の優秀な部活と比べても、かなり上位の環境である。
 
17 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 21:41:03.46 ID:aJ4wtbQM0

 それもこれも全て、シンクロ部の歴史と実力が設備に値するだけのものである証拠だ。

 アーチ状に組まれたガラス張りの天井からは、しかして青い空は窺えない。
 さんさんと輝く太陽光がこの天蓋から降り注ぐ、その光景は見事の一言だろう。

 今はただ、曇り空から零れる重い雨粒が表面を叩くのみ。

川 - _-) (怪しい雲行きだ。なにか悪いことの予兆やもしれんな)

 湿気を吸い、どこか重くなった髪をばさりと揺らして彼女は行く。

 ヒートは何事かと集まって来たシンクロ部員たちを前に、牙を剥いて威嚇している最中のようだ。

 止まらない溜め息を飲み込んで、叱咤。

川 ゚ -゚)「何をしている、馬鹿者」

ノハ#゚听)「クゥゥウウウ姉ぇえええ! なんだってこんなとこに来なきゃいけないんだよぉ!」

川 ゚ -゚)「言っただろう。ここがシューの予見した場所だと」

ノハ#゚听)「こんな水着女ばっかの場所なんて目に毒だぜ!」
 
19 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 21:43:38.42 ID:aJ4wtbQM0

川 ゚ -゚) (ドクオが情けないツラをしていたのがムカついているだけだろうに)

 このままでは埒が明かない。

 失礼、とギャラリーに一言詫びを入れ、ヒートの顔面を鷲掴む。
 もががと悲鳴を上げる彼女を余所に、振り返った手近な部員に尋ねた。

川 ゚ -゚)「すまないが部長はいるだろうか? 彼女と話をしたくてお邪魔させてもらった」

 凛とした透き通るその声色に、一瞬気圧されながらも彼女は応対する。
 少々待っていて欲しいという旨を告げ、何名か部員を引き連れるとパタパタと走り去っていった。

 後に残されたクーたちに向けられるのは、更なる好奇の目と囁き。
 部長が、部長に、部長だって――……声は七色、しかして内容はほぼ同じ。

 よほどクーが――いや、シンクロ部部長を尋ねる人物がいることに、驚きを示している。

 そんな中、ヒートが無理矢理に顔面クラッチを外した頃、ずぶ濡れのドクオが這いずりながら合流してきた。
 濡れた黒髪のせいで酷い有様だ。ワカメを頭から被ったかのような風貌である。
 さすがに不気味だったのか、周りの少女たちも彼の姿に慄いた。
 
20 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 21:46:07.78 ID:aJ4wtbQM0

(;'Aメ)「痛いとか寒いとか色々言いたい事はあるけど、どういう流れ?」

川 ゚ -゚)「いま部長を呼びに行ってもらった。少し待ってろ」

ノパ听)「し、シンクロ部の部長なんて呼び出してどうすんだよ?」

 言ってからハッとした顔をする。

ノパ听)「あれか! 水着女どもの首魁としてブッ飛ばした後、バッジを頂く寸法か!」

川 ゚ -゚)「何が『寸法か!』だ、阿呆」

 ほぼ反射的に打ち込まれた張り手が、ヒートの頭でばしりと音を立てる。

('Aメ)「水着に恨みでもあんのかよ……」

川 ゚ -゚)「多分お前が原因だぞ」

(;'Aメ)「???」

川 ゚ -゚)「ともあれ――」
 
22 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 21:49:11.06 ID:aJ4wtbQM0

 気が付けば見物客たちの視線から、好奇心の他に疑念や敵意に似たものが漂ってくる。

 冷静に考えれば、ヒートたちは彼女らの敵だ。
 シンクロ部の部長は今だ武喝道で健在なのだろう。そこに他部が突然の接触を図ってきた。
 ヒートのお馬鹿な発言も相まってか、三人を珍奇な客から悪意ある侵入者と見なしてもおかしくはない。

 そうなれば、完全に敵に取り囲まれたこの状況。

 一度火が付けば、一斉に襲いかかられることもありうる。

('Aメ)、「…………っ」

 ドクオもそのことにようやっと気付いたのか、張り付いた前髪をかき上げながらも後ずさる。
 もっとも、逃げ場などとうにないのだが。

川 ゚ -゚)「ドクオ、気付いたか? 私たちが虎穴の最奥にいることを」

ノパ听)「おケツ?」

('Aメ)「どうでもいいけど、女の子相手に剣を振るのは勘弁したいね」
 
24 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 21:51:45.31 ID:aJ4wtbQM0

 とは言いつつも、腰のJET竹刀に思わず手が伸びてしまう。
 そこに厳しい視線が集まるのも、また事実だ。

川 ゚ -゚)「安心しろ。確かに私たちは彼女らの敵だが、それも時と場合による」

 と、クーが言うや否や。
 三人を囲んでいた水着のドーナツ。その一端がごそごそと動く。


ζ( ー *ζ「ちょっと……ごめんね、通して……」


 誰かが、外側から円の中に割って入ろうとしているのだ。


ζ(゚ー゚*ζ「……クーちゃん? クーちゃんなの?」


 よいしょよいしょと人を掻き分け、現れたのは白鳥の艶姿。

 
25 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 21:54:02.07 ID:aJ4wtbQM0

 白い。

 そして恐ろしく美少女だ。

 積もりたての新雪を塗り込んだかのように、水着から覗く肌は純白。
 頬や唇を彩った桃色が愛おしく、大きな瞳にすっと通った鼻立ちはまさしくフランス人形のそれ。
 ちょうど外したゴムキャップから漏れ出でるのは、太陽を編み込んだが如き金髪である。

 浮かべる笑顔は破壊的に、クーに駆け寄る先からそれらがふわふわと舞い踊った。

川 ゚ー゚)「デレ」

 危うく己ですら霞みそうなほどの絢爛豪華な容姿に、しかしてクーは同じく笑顔を浮かべる。

ζ(゚ー゚*ζ「久しぶりだね! 元気にしてた?」

川 ゚ -゚)「息災だ。そっちの方も元気そうで何よりだよ。大会の方はどうだった?」

ζ(^ー^*ζ「デュエットは一位だったよ。チームとコンボは二位」
 
26 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 21:56:35.00 ID:aJ4wtbQM0

ζ(゚、゚*ζ「お姉ちゃんなんか、県外のチームに誘われてるのに断っちゃって……」

ζ(゚ー゚*ζ「部活でやってる方が気楽でいい、って」

川 ゚ー゚)「すこぶる優秀で羨ましい限りだな」

ζ(゚ー゚*ζ「クーちゃんだってその道では無敵じゃない!」

 朗らかな会話は、クーと彼女の親しさを示している。

ζ(゚ー゚*ζ「?」

 クーの後ろでまじまじと見てくる二人に気が付いたのか、金髪美少女はてけてけと近寄った。

ζ(^ー^*ζ「こんにちは」

 まずはヒートに握手。

ζ(゚ー゚*ζ「もしかしてあなた達がヒートちゃんとドクオ君かな?」

 次にドクオ。
 
29 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 21:59:13.13 ID:aJ4wtbQM0

 握るその手は恐ろしく滑々としていて、触ることさえ躊躇うほど。
 しかし二人がまず着目したのは別の部分であって……。


ノハ;゚听) (乳デケぇ……ッ!!) ('Aメ*)


 握手される度に跳ね回る、そのわがままな胸部だった。

 白黒を基調とした競技用水着を、突き破らんばかりの存在感。
 小振りなスイカでも包んでいるのかと思うくらいのサイズである。
 細い背中や小柄な身長とは、一切のバランス取っていない。アニメ体型と言っても過言ではなかろう。

 ヒートは戦慄し、ドクオはだらしなく見入るばかり。

 ひょろひょろと背の高い彼からすれば、ちょうどデレを見下ろす形になる。
 つまりどうやった所である程度は谷間を覗く体勢になり、その魅惑の領域にくらくらと頭を悩ませることになった。

ζ(゚ー゚*ζ「クーちゃんからお話聞いてます。元気な従妹さんと可愛い弟分なんだって」
 
30 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:01:39.88 ID:aJ4wtbQM0

川;゚ -゚)「ちょ、ちょっと待て。そんなこと言わんでいい」

ζ(゚、゚*ζ「そうなの?」

 幸い見とれる二人にはきちんと聞こえてないらしい。

川 - _-)「すまんな、紹介が遅れた。彼女は津出麗美(つんでれいみ)、同期の三年だ」

ζ(^ー^*ζ「よろしくっ」

(゚Aメ)そ (年上!!)

ζ(゚ー゚*ζ「クーちゃんとは中学の頃からのお友達なの。仲良くしてね」

(*'Aメ)「仲良くしたいです!!」

ノパ皿゚)「ぬがッ!!」

(゚Aメ)「ぎっ?!」

 すかさず鳩尾にブロー。
 
32 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:04:11.39 ID:aJ4wtbQM0

 完全に脱力し切っていたふにゃふにゃの体と意識は、そこで粉砕。
 後には悶絶するドクオが、床を転がりまくる光景だけが残る。

ζ(゚ー゚;ζ「???」

ノハ#゚听)「おいこの野郎……何だその反則的な体型は? クー姉ぇの知り合いでも許さんぞッ!」

 遂には詰め寄り、訳の分からない因縁まで吹っかけ始める。

 デレの後ろでクーがやめろと睨んでくるが、ヒートには珍しくそれに反抗。
 荒ぶる鷹のように両手を広げ、おろおろと困り出すデレに接近した。

 明らかに宜しくない空気を纏っている。

ζ(゚ー゚;ζ「えっとえっと、何か怒らせちゃったかな?」

ノパ皿゚)「ガルルルルルルルル!!」

ζ(゚ー゚;ζ「うーんとうーんと……」
 
34 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:06:32.44 ID:aJ4wtbQM0

ζ(^ー^*ζ「ご、ごめんね?」

 両手を合わせて、可愛く小首を傾げる。

 並みの男(ドクオのようなの)ならそれだけで許すどころか、むしろ逆に感謝していたかもしれない。
 それほどに悪意なき可憐さを前にして、しかしヒートの怒りは爆発した。


ノハ#゚゚Д゚゚)「きょえええええええええええええええ――っ!!」


 むしろ暴走した。

ζ(゚ー゚;ζ「ひゃっ」

 訳の分からない奇声を上げるとデレに飛びかかり、有無を言わさず押し倒す。
 抵抗する暇すら与えない。すかさず彼女の胸をぐわしと握り締めた。

 あとはただめちゃくちゃに引っ張るのみ。
 
36 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:08:58.72 ID:aJ4wtbQM0

ノハ#゚゚皿゚゚)「片乳よこせぇぇぇぇぇええええええ――――っ!!!」

ζ(;、;*ζ「痛ぁ、いたた、痛いぃ!」

 何たる暴挙。

 しかし片手では収まらないと分かると、今度は両手で左の胸をひっこ抜かんとする。

 無論、これが痛くないわけがない。
 悲痛な叫びを上げ、暴徒と化したヒートから逃れようとするデレを前に、ついにギャラリーが動く。
 各々が様々な事を騒いでいるが、総じて「デレ先輩を離せ」の大合唱。

 雪崩を打って迫り来る少女たちにより、プールサイドは混沌と化した。

川 ゚ -゚)「ヒート!」

 クーも押し潰されないよう、近付いてくる者から手当たりしだいに投擲する。

川#゚ -゚)「早く離せ、馬鹿!!」
 
38 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:12:03.20 ID:aJ4wtbQM0

 無論最小限に手加減してだが、津波殺しにも無茶はあるのか。
 さすがにドクオとヒートの分までは防ぎきれない。

ζ(;、;*ζ「痛い痛い! お願い、放して! 千切れるぅ!」

ノハ#゚゚Д゚゚)「千切ったるぅううううううううううううううううううううくぁwせdrftgyふじこlp;」

 部員達にポニーテールやらスカートを引っ張られても、デレに食い付き離れない。
 四、五人が組みかかってようやく腕を外しても、今度は本当に“喰らい付いた”。

 反動にぷるんと艶めかしく揺れる乳房に、容赦なく突き立ったヒートの歯。

ζ(;、;*ζ「いやぁぁぁあああああああ!!」

 悲鳴が空間を劈く。

(゚Aメ)「あ゛あ゛あ゛ああぁぁぁぁぁああああ――っ!!」

 片やドクオは、殺到する少女たちの足蹴にされるばかり。
 誰も彼のことが見えていないのだろうか、裸足の雨は収まりを見せない。
 
42 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:14:45.96 ID:aJ4wtbQM0

(;'Aメ)「え、楽園(エデン)が一瞬にして地獄に……!」

 と、絶望している女の子が数名のしかかってくる。
 ヒートが振り払った子たちなのだろうか。元々身動きが取れなかったがこれでは余計にだ。
 しかし覆い被さってくる肉布団の感触は、払い除ける気が起きないほどに柔らかい。

('∀メ)「や、やっぱりまだ楽園(エデン)!」

 それも重なるに重なると苦しいだけだが。

(゚Aメ)「ぐぇぇぇええええええ――っ!!」

 クーが叫び、ヒートが暴れ、デレが泣き喚き、ドクオが死にかける。
 訪れた当初の穏やかさはどこの話、今や戦場のように騒然となる屋内プール。

 その騒ぎに終止符を打つのは、一つの怒声。

 
45 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:17:02.83 ID:aJ4wtbQM0


ξ# )ξ「あんたたち!!! いい加減にしときなさいよ!!!」


 轟く。

 響き渡る。

 女の声だが芯まで震えるほどの声量。
 びりびりと痺れんばかりのそれに打たれ、揉みくちゃとなっていたシンクロ部員たちがはっとなり、一斉に立ち上がる。
 顔に浮かぶのは焦りと恐怖だ。むしろ、畏怖という意味の方が強いのかもしれない。

 蜘蛛の子を散らすように、わたわたと動き出す少女たち。

 それが再集結し綺麗に整列する中、声の主は鼻息荒くこちらへと向かってくる。
 しかし錯覚か、その容姿は今ヒートに押し倒されている哀れな白鳥とそっくりそのまま。


ξ゚听)ξ


 まるで鏡越しの同一人物。
 
47 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:19:51.55 ID:aJ4wtbQM0

 黄金色を頂く巻き毛も、純白の肌も、陶器のように細いラインも、怖いほど整った顔も。
 変わらぬ美しさだが、唯一の相違点は薄い薄い胸。絶壁の呼称が相応しい。
 デレのものとは比べようがないほどに、胸部の膨らみは小さかった。

 そんな彼女の表情は険しく、唇をきつく結ばれている。

 口で言わずとも、相当の怒りをその身に纏っているのが見て取れた。
 宝石をはめ込んだかのような瞳は良く動き、部員を、そしてヒートたちを睨みつける。

 非常に、鋭く。

 それだけで、整列する少女たちが何故にそこまで怯えているかが窺えそうなものだ。

ξ゚听)ξ「あんたたち」

 ぴたぴたと裸足の奏でる可愛らしい足音も、いまは恐怖を助長するだけ。

ξ゚听)ξ「私の勘違いなら仕方ないんだけど、ここって馬鹿馬鹿しい大騒ぎをする場所だったかしら?」
 
51 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:22:13.60 ID:aJ4wtbQM0

 冷たい刃物を首筋に当てられたような、言い知れぬプレッシャーを秘めた囁き。

 「ち、違います!!」

 一人が叫んだ。
 連鎖的に別の者が声を上げる。

 「ここは私たち、VIP学園シンクロナイズドスイミング部の屋内練習場です!」

ξ゚听)ξ「我が部の方針は?」

 「ゆ、『優雅、優然、優秀』!!」

 「『美しくあれ、しとやかであれ、そして如何なる時も勝者であれ』!」

 「我が部設立の時から歌われ続けた、永久不変の精神です!」

ξ゚听)ξ「そうよ、分かってるじゃない」

 少女はそれでも不満げに、持ち上げた手を高らかに打ち鳴らす。
 
53 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:24:27.22 ID:aJ4wtbQM0


ξ#゚听)ξ「だったらさっさと練習に戻りなさい!! 時間の無駄よ!!」


 「「失礼しますっ!!」」

 一糸乱れぬ礼の後、我先にと彼女の視界から消えていく少女たち。
 水飛沫が上がり、掛け声が木霊していく。全国屈指の強豪チーム――その姿がそこにはあった。
 当然、彼女らにはヒートたちへの敵意など既にない。

 もっと恐ろしい人物が現れたからだ。

ξ゚听)ξ「…………」

 残されたデレと、ヒートたち三人。

 まず少女はデレに喰らい付いて離れないヒートを、次にドクオ、最後にクーを見やる。
 クーの風格ある立ち姿を目に映した瞬間、不機嫌な顔により一層の険が増えた。
 見る見るうちに唇も尖っていく。

 仲よさげに接していたデレとは大違いの反応だ。
 
55 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:27:03.89 ID:aJ4wtbQM0

 それでも、睨まれるクーは肩をすくめるばかり。

(;'Aメ)「いちち……」

 踏まれた背中を擦りながら起き上がろうとも、ドクオには実際何がどうなっているのか見当もつかない。
 ただデレとそっくりな少女が乱闘を鎮め、いまはクーと睨み合っている最中である。
 両者の間にただ事ではない雰囲気を感じ取れるのだけは、確かだが。

 そんな折、背後に人の気配。


 ばさり、と。


 気が付いた時には、頭に厚手のバスタオルを被せられていた。


( ^ω^)「制服を濡らしちゃ風邪をひくお」


 もっちりとした笑みが覗きこんで来る。
 
58 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:29:29.93 ID:aJ4wtbQM0

 ふくよかな輪郭と体形。短めの頭髪。
 上は肩かけ、下は膝上まで――俗に言うワンピース型の、ショートジョンという競泳水着を装着している。
 しかしとっぷりと膨らんだ体格が、どうやってそんな水着に収まっているのか不思議な話。

 なんとも人当たりの良さそうな、太っちょ青年。

 タオルをくれたであろう彼に、ドクオはどこか既視感を覚えた。

('Aメ)「あ、あんたは確かどこかで――」

( ^ω^)「それより」

 ドクオの質問を制し、彼はヒートを指差した。

( ^ω^)「あの子も直にずぶ濡れになるだろうから、その時はタオルを貸してあげるお」

('Aメ)「?」

 太っちょの言葉が嘘か真か、ドクオが目を白黒させている間にも事は運ぶ。
 背後に近付く少女の気配にも、当のヒートは噛みついたまま気付きもしない様子だ。
 乱闘も沈静化したのに、そのバイタリティーはどこからくるのか。
 
60 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:32:22.07 ID:aJ4wtbQM0

 よほど豊満な胸が羨ましかったのか。

ノハ#゚皿゚)「きぃいいいいい――っ!!」

ζ(;、;*ζ「うぅう、うぅ、う、痛いよぅ……お嫁に行けないよぅ……」

 被害者は被害者で、涙と悲鳴をぼろぼろとこぼすばかり。

 見るも無残な光景だ。しかし、遠慮はない。
 ヒートのぴったり後ろにまで近寄り切ると、少女はすかさず――


ξ#゚听)ξ「ふんっ!」


 ヒートの脇腹に思いっきり蹴りを入れる。

 それも爪先でだ。

ノハ;゚听)「痛ってえええええええええええええ?!」
 
62 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:34:39.19 ID:aJ4wtbQM0

 勢いは十分。
 鎌のようにさっくりと抉り込まれ、たまらずヒートはデレから飛び退いた。
 裸足で幸い。厚い革靴にでも蹴り込まれていたら、痛みは今の比ではないだろう。

 残されたデレは、小さく丸まってえんえんと泣いている始末。

ξ#゚听)ξ「デレ!!」

 そこへ浴びせられたのは、優しい言葉ではなく怒声。

ξ#゚听)ξ「副部長のあんたがしっかりしていればこんなことにはならないんでしょうが!」

ζ(;、;*ζ「だってお姉ちゃん、私、いきなり押し倒されて、噛み付かれて……」

ξ#゚听)ξ「弱音を吐くな! あんな野猿一匹蹴散らせないでどうするのよ!」

 辛辣を極める言葉の数々に、デレはもう溶けて消えてしまいそうなほどにぐずぐず泣き濡れている。
 
64 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:37:44.18 ID:aJ4wtbQM0


ノハ#゚听)「おい、テメーこら!!」


 しかし、問題はそっちばかりでは済まないらしい。

 蹴っ飛ばされたプラス、野猿呼ばわりされたこともあってかヒートの怒りはさらに悪化。
 巨乳への嫉妬がベクトルを変え、デレのそっくり少女へと矛先を向ける。

 実際、構えを取る彼女は割と本気で喧嘩をする気らしい。

 拳がぎりりと、凶悪に唸りを上げる。

ξ゚听)ξ「何よ野猿、日本語喋れんの?」

ノハ#゚听)「野猿じゃねえええ! いきなり人に蹴りブチ込んでおいて、謝りもしねえのかよ!!」

ξ゚听)ξ「妹を襲っていたから追い払ったまでよ、この猿。赤毛猿」

ノハ#゚皿゚)「キィイイイイイイ!! 何だコイツ! 巨乳よりムカつく!!」
 
65 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:40:21.48 ID:aJ4wtbQM0

 ざわざわと毛を逆立てるヒートを前にしても、少女は一歩も引かない。
 むしろ口先では完全にヒートを圧倒している。
 相当の胆力だ。

ξ゚听)ξ「何よ猿? 猿サルさるのお猿さん? 何か文句でもあるの?
       無いならとっとと失せなさい。プールサイドに猿の赤毛を落とされちゃあ堪ったもんじゃないわ」

ノハ# 皿 )そ 「――ぐっ!」


 ついに堪忍袋の緒が切れる。


ノハ#゚听)「テメエええええ覚悟しろよおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 突っ込んだ。

 
68 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:42:40.31 ID:aJ4wtbQM0

('Aメ)そ 「ちょ、おい馬鹿やめろ!!」

 彼の制止など彼方に振り切って。
 剥き出しの足の底で、タイルをブチ抜かんばかりの踏み込み。
 間違いなく正真正銘、本気の加速。そこから打ち出される拳速は閃光。

 大の男が受けても無事では済まない、昏倒必須の重撃。

 風を切り、空気の層を破り、固い固い拳が音を立て迫る。
 狙いは真っ直ぐに顔面。少女の、その小生意気な面に叩き込むコース。

 絶対の絶対に泣かせてやるぞ、という意志も十二分に。

 ヒートの鉄拳が炸裂した。


ξ゚听)ξ「見え見えよ、猿パンチ」


 すいっ、と。

 
70 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:45:29.08 ID:aJ4wtbQM0

ノハ;゚听)そ「っ?!」

 まるでそんな擬音が聞こえてきそうなほど、あっさり。
 レーザービームのようなパンチは、呆気なく避けられる。拳の行き先は何もない中空へ。
 驚くほどに滑らかで、最小限の動き。軌道を読み切っているからこそできる回避。

 刹那、胸に圧迫感。

ξ゚听)ξ「溺れて反省しなさいな」

 見れば、ぴたりと付けられた足の底。

ノハ;゚听)「あ――」

 豪奢な金髪は、柔らかく揺れる。
 決して高速で動いているわけではない。所作は自然体で、滑べるようだ。
 万力のような力がそこに潜んでいるかと言えば、そうでもない。
 
72 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:48:21.82 ID:aJ4wtbQM0


 普通ならかわせる、普通なら振り切れる――そんな蹴りとも言えぬ生ぬるいもの。


川 - _-)「――やれやれだ」


 だが、手も足も出なかった。


 間抜けな声を上げた時には、ヒートは蹴り押されるままにざぶんと、水中へと落ちていった。

 
75 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:51:02.78 ID:aJ4wtbQM0

 * * *

 後輩の練習を邪魔するべきではない、と促され。
 とりあえず六名は場所を移すことにした。

 招かれる場所は部室兼更衣室。男には縁遠い禁断の園。

 ドクオとブーンだけしばらく外に待機した後、入室を許可された。
 きっと目に付く場所にある着替えや荷物を片付けていたのだろう。
 しかして、さすがは純度100%の乙女領域。漂う空気の甘ったるさに、足を差し出すことも躊躇ってしまうほど。


ξ゚听)ξ「で、あんたが私に用って言うと何があるのかしらね」


 シンクロナイズドスイミング部部長、デレの双子の姉、津出麗華(つんでれいか)。

 綺麗に片付けられたベンチの上で、ぴっちり足を組むその姿はさながら女王のように尊大。
 体躯以上のスケールをもった、その何とも言えぬ“自信と尊厳に満ちたオーラ”に気圧されかねない。
 
78 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:55:07.77 ID:aJ4wtbQM0

川 ゚ -゚)「そっけないな。久しぶりに会ったのに四方山話も無しか?」

 そんな彼女に臨むクーは、また普段ドクオ達には見せないような表情を浮かべる。

ξ゚听)ξ「残念ながらあんたと世間話する暇はないのよ」

川 ゚ -゚)「あとは受験を控えた三年生の台詞とは思えんね」

ξ゚听)ξ「間抜け言ってんじゃないわ。後輩の育成に裂く時間なんていくらあっても足りやしない。
       もっとも、自分の部活をほっぽり出して、下らない喧嘩祭りに興じているあんたには分からないでしょうけどね」

ζ(゚ー゚;ζ「お姉ちゃん、そんな言い方ないよ」

ξ゚听)ξ「お黙れっ!」

 巻き毛を怒らせ、ぴしゃりと叱責。

ξ--)ξ「下らないに決まってるでしょ? 何考えてんだか分からない生徒会の企画に、どいつもこいつも大騒ぎ」

ξ゚听)ξ「優秀なウチには過剰なお金は必要もないし、まして喧嘩に名誉もへったくれもないでしょうが!」
 
79 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 22:58:08.18 ID:aJ4wtbQM0

ζ(゚、゚;ζ「ご、ごめんなさい……」

( ^ω^)「まぁまぁ、ツン」

 しゅんと縮み込むデレの肩を優しく叩いてやってから、太っちょ男は女王に意見。

( ^ω^)「何にせよ、そんな危ない時に幼馴染がこうして四人、五体満足に再会できたはいいことだお」

ξ゚听)ξ「生き別れた兄弟じゃないのよ! クラス隣なんだから会おうと思えばいつでも会えるでしょうが!」

 けんけんと尖る少女――ツンは随分と不機嫌そうだ。
 加えて言うなら、相当クーを目の敵にしてるようにも思える。

 濡れた服を乾かす下級生二人は、そんな上級生たちのやり取りをじっと眺めていた。

 ドクオは興味津々に。ヒートはツンと同じくらい不機嫌に。

( ^ω^)「あぁ、そういえば……」

 そんな二人にひょいと差し出される、むっちりと肉の付いた手。
 
81 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 23:01:27.59 ID:aJ4wtbQM0

( ^ω^)「さっきは紹介が遅れたお。僕は内藤ホライゾン、親しい人はブーンと呼ぶお」

 ヒートとドクオ、二人の手をしっかりと握って微笑む。
 人畜無害なその面持ちは、まるで七福神のよう。思わずこちらの頬も緩んでしまいそうだ。

('Aメ)「思い出した! 確か……内藤さんって水泳部部長ですよね。今朝の集会でも――」

( ^ω^)「おっおっお。いやぁ、あの時は恥ずかしいところを見せてしまったお」

 ほくほくと笑ってはいるが、どこが恥ずかしいだろうか。

 誰しもが気付きつつも口を閉ざす、生徒会の怪しい素振りを公衆の面前で糾弾しようとした。
 例え副会長クラスの人間相手でも、一歩も退かずに真相を突き付けたその豪胆は、むしろ誇るべきもの。

('Aメ)「やっぱ、気付いてる人もいるんですよね。生徒会の暗躍に」

 少なからずその影を目にしてきたドクオは、同じ考えをもつ彼に共感しているのか。
 だが、ブーンは興奮気味の彼をゆっくりと落ち着かせる。
 
83 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 23:04:01.89 ID:aJ4wtbQM0

( ^ω^)「生徒会のことは長い話だお。また次の機会に」

('Aメ)、「あ、そ、そうですね。すんません、内藤さん」

( ^ω^)「クーの仲間に敬語なんて使われちゃ困るお。気軽にブーンとも呼んでくれお」

('∀メ)「じゃ、じゃあブーンで。よろしくな」

(* ^ω^)「おっおっおっ!」

 第一印象が示す通り、なんとも人の良い青年である。

ノパ听)「ブーちゃんって、クー姉ぇと幼馴染だったのか?」

 そこに、床であぐらをかくヒートの声がかかる。
 ブーンに質問はしつつも、視線はツンに張り付きっぱなしだ。よほど気に喰わないのだろうか。

( ^ω^)「デレちゃんから聞いてると思うけど、僕らは中学の頃からの付き合いがあるんだお。
      その頃から四人でつるんで、遊んで、楽しかった中学の思い出は大概四人で作ったお」
 
84 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 23:06:42.39 ID:aJ4wtbQM0

( ´ω`)「まー……、時に男一人の肩身の狭いポジションに泣いた時もあったけど」

('Aメ)「それすっげーわかる」

( ´ω`)「僕も君を見ていて、何となく自身の面影を感じたお」

 すっかり意気投合する野郎どもは、お互いの狭き肩を組んで涙を忍んだ。

ζ(゚ー゚*ζ「でも、そんな四人が同じ学校に進学して、みんな部長になったのはすごいことだよね」

ξ゚听)ξ「あんたは副部長だけどね」

ζ(゚、゚*ζ「うぅ……」

川 ゚ -゚)「そう虐めてやるな。双子でユニット組んでいるんだし、今さらデレもシンクロ以外の進路はなかったろうに」

ζ(゚ー゚*ζ「さすがクーちゃん、優しいっ」

ξ゚听)ξ「妹を甘やかさないでよ!」
 
86 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 23:09:11.57 ID:aJ4wtbQM0

 ブーン、デレ、そしてクーは比較的再会の時を喜んでいる。
 にもかかわらず、同じ立場の彼女だけは最初っから最後までぷりぷりしっ放しだ。
 美しい顔立ちも、眉間に皺を寄せていては台無しという話である。

('Aメ) (ツンさんて……もしやクーのことが嫌いなのか?)

(; ^ω^) (言わば愛情の裏返しだお。昔っから二人は何かで競い合ってて、まぁ良きライバルというか)

ζ(゚、゚*ζ (でも大概の事でお姉ちゃんは負けちゃうんだけどね。お料理も勉強も、いつもちょっとだけクーちゃんが上回るの)

('Aメ) (へぇ……)

ξ#゚听)ξ「聞こえてんのよ、そこ!!」

 容赦な怒号を前に、ドクオですら縮み上がるほど。
 ツンのイラつきは相当だ。腕を組み、踵でがつがつ床を叩いて、息は荒げたまま。
 クーを見てはムッとし、さらにヒートを見てはまたムッとする。

ξ#--)ξ「とにかく、私は忙しいの! 暇を持て余しているあんたと違ってね。
        話があるなら用件だけさっさと伝えて。もちろん絶対に聞いてやる義理もないけど!」
 
87 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 23:11:50.96 ID:aJ4wtbQM0

川 ゚ -゚)「すまんね」

 これも慣れた掛け合いなのか、苦笑を浮かべたクーは続ける。


川 ゚ -゚)「頼みは一つだ。こいつ、素直ヒートと戦ってもらいたい」


 唐突な、それは果たし合いの申し込み。


川 ゚ -゚)「さらに言うなら一人ではなく、デレと組んだ二対一でやって欲しい」

( ^ω^)「…………っ」

ζ(゚、゚;ζ「えぇ……?」

 驚く二人とは対照的に。

ノパ听)「…………」

 ヒート本人は至って冷静だ。
 
88 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 23:14:44.13 ID:aJ4wtbQM0

 普段のように喚くことはなく、ただじぃっとツンとクーを見比べるだけ。
 むしろ、炎が青く青く燃えているのと似た静けさをも感じるが。

 全く話は聞かされていなかったが、ある程度こうなることを予想していたのかもしれない。

('Aメ)「――そうか、なるほど」

 ドクオはドクオである程度の合点は付くらしい。

('Aメ)「白鳥二羽に、見守る豚。シューさんの占いはとりあえず当たってるってことか」

( ^ω^)「ブタ?」

('Aメ)「いや、こっちの話」

 ブーンの追及をかわし、クーへと向き直る。

('Aメ)「柔拳をヒートに手取り足取り学ばせるのは無理だけど、柔拳を相手取る実戦でなら――ってことだな」
 
89 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 23:17:05.90 ID:aJ4wtbQM0

 クーは小さく微笑む。
 戦いの中、少しは勘の良さを付けてきた弟に嬉しさを覚えているのかもしれない。

川 ゚ -゚)「そうだ。基礎こそ定着していればの話だが、実戦経験というのはなにより大きい経験となる。
     しかし今さら慣れ親しんだ私と組み手をやった所で、ヒートが新たに学ぶべき点は少ないだろう」

('Aメ)「だからこそ、クーと同レベルの柔の心得を持ち、かつヒートが戦ったことがないタイプの相手とヤる必要がある――」


 それがこの津出姉妹。噂に聞く、『白鳥たち(スワニルダ・パ・ド・ドゥ)』。


川 - _-)「まぁ正確に言えば彼女らは柔拳を使うわけではないが、それに比類する実力があるのは確かだ」

ξ゚听)ξ「――話が」

 周りをそっちのけで話を進める二人を、遮るキツい一声。

ξ゚听)ξ「上手く見えてこないけど、要するにそこの野猿と『武喝道』参加者として戦えってことかしら?」
 
90 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 23:19:32.37 ID:aJ4wtbQM0

 その言葉にデレは身を固くし、ブーンは彼女を守るように一歩前へ出た。
 表情は、先程のフレンドリーさが嘘のように険しい。僅かな敵意すら感じられる。

 ドクオはその行動の的確さ――というよりも決断に至る時間の短さに、舌を巻いた。

 ブーンは守護者だ。
 立ち居振る舞いにも滲み出ている。彼はこの二人を心から守りたいと思っているのだ。
 どんな脅威に晒されようと、彼女らを守護する。そのためなら誰を撃滅しようとも構わない。

 たとえ、それがかつての幼馴染であるクーであっても――ということだ。

( ^ω^)「……クー」

川 ゚ -゚)「大丈夫だ、ブーン。私は敵ではなく、友として頼み事をしに来ただけだよ」

川 ゚ -゚)「この勝負に関しては、お互いにバッヂの譲渡を行わない――言わば模擬戦という扱いにして欲しい」

川 ゚ -゚)「だが、ヒートが負けた場合は積極的にこちらがリスクを背負う。
     望むなら私が武喝道バッヂをツンに引き渡し、祭から退場することも構わないさ」
 
92 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 23:23:17.11 ID:aJ4wtbQM0

(;'Aメ)そ 「おい!」

 こればかりは予想できなかったか、ドクオも身を乗り出す。

(;'Aメ)「クーがそこまでする必要あるのかよ!」

川 ゚ -゚)「ドクオ、これは対等な申し出ではない。私は幼馴染という立場を利用して、彼女らにヒートの踏み台になれと言っているのだ」

ζ(゚ー゚;ζ「…………っ」

川 ゚ -゚)「故に、私が譲れるものは全て差し出して頭を下げよう。そうでなくては、ツンも納得がいかないだろうからな」

(;'Aメ)「…………っ! ヒート! お前も何とか言えよ!」

 当事者、実際問題戦わなくてはいけない者。
 ヒートを振り返って、ドクオは声を荒げた。クーの、あまりにもリスキーな申し出に反対したいがために。

 だが、彼女は彼女でクーの気持ちをしっかりと理解していたし。
 またクーもヒートの答えを、最初から知っていたかのようだ。
 
93 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 23:26:05.52 ID:aJ4wtbQM0

ノパ听)「問題ねーよ」

('Aメ)「ちょっ」

ノパ听)「全くな。どっちみちこんなとこで負けてちゃ、渋澤に勝つなんて夢物語ってことだぜ」

(;'Aメ)「か――っ……!」

 これは駄目だと頭を抱える。

 猪突猛進の熱血妹と、怖いくらいに平素から冷静沈着を保ち続ける姉。
 全く正反対の二人なのだが、どうしてこういう時ばかりは寸分違わず意見が噛み合うのだろう。

川 ゚ -゚)「こちらの意見はまとまっている。先に言った通りだ、あとは――」

 ツン――彼女の答えを聞くだけ。

ζ(゚、゚;ζ「お姉ちゃん……?」

( ^ω^)「…………」
 
94 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 23:28:30.30 ID:aJ4wtbQM0

 デレはきっと、姉の決定に逆らいはしないだろう。
 ブーンもまた、口を出さない以上どう転んでもツンの意志を尊重する腹づもりだ。
 あとは、彼女の決断のみ。

ξ--)ξ「その話……」

 薄く噛んでいた唇を放し、ツンは答えを出す。


ξ゚听)ξ「断るわ」


 首は縦に振らず、か。

 
96 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 23:31:00.96 ID:aJ4wtbQM0

ξ゚听)ξ「――と言いたいところだけど、あんたが困って愉快じゃない話はないし、受けてあげてもいい」

ξ゚听)ξ「バッヂや武喝道その物には一切興味はないけどね」

ξ゚听)ξ「ただし条件をもう一つ付け加えさせて」

川 ゚ -゚)「こちらに断る理由はない。言ってみろ」

 とりあえずは保った、決闘の約束を前に胸を撫で下ろしながらも、クーは聞き返す。
 その言葉に、ツンは終始強張らせていた表情を僅かに緩めた。
 不敵に、意地悪く。


ξ゚听)ξ「私が勝ったら、こっちの言うことを何でも一つ聞くこと。あんたがね、クー」


 なんとも、言葉以上の意味を持ち合わせかねない提示。
 しかし、ここで変に突っぱねてもツンの機嫌を損ねるだけ。
 
97 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/02/20(土) 23:34:40.52 ID:aJ4wtbQM0


川 ゚ -゚)「良かろう。交渉成立だ」


 彼女が了承すると同時、更衣室の床を勢いよく叩くヒート。
 無論、その答えに反対するわけではない。むしろ、決闘が決まったことに勇む仕草だ。

 なによりの証拠として、彼女の瞳には轟々とたぎる闘志が浮かんでいたのだから。


第三十三話・終 


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