- 2 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 21:16:05.57 ID:Q9JAqxPJ0
(; ・3・)「…………」
(;゜3゜)「こいつぁやべえぜ……!」
タラコ唇の二人組。
水泳部副部長を務める、ぼるじょあと田中ポセイドン。
立ち尽くす彼らは、その光景に息を呑んだ。
( ^ω^)
('Aメ)
反対側のプールサイド。
その真ん中で相対するブーンとドクオ――二人の間に、穏やかな空気は既にない。
割れる寸前で形状を止めた風船のように、それは僅かな刺激で炸裂する。
ぴりぴりと、ぴりぴりと。
- 3 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 21:18:45.75 ID:Q9JAqxPJ0
ドクオの手にはJET竹刀。
ブーンは固めた拳を軽く構える。
両者の距離は2メートル弱。
すなわち、踏み込めば確実に間合いへ入る。
それを理解してか、お互いに一切動きはない。ほんの少しでも動けば、相手が切り込んで来るからだ。
身じろぎ一つできぬ緊張の中で、ギャラリーのぼるじょあたちは戦々恐々。
(; ・3・) (ブーンさん、本気なのか? 素手で勝てる相手じゃねーだろ、正直)
(゜3゜) (確かに相手は近接戦闘のプロだが、部長には地の利がある)
( ・3・) (それで互角か? 俺は良く分からないぜェ)
(;゜3゜) (俺だって分からねえ。ただ、一つだけ確かな事はある)
- 6 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 21:21:02.68 ID:Q9JAqxPJ0
ブーンからのたっての願い。
手抜きなし、手心なし、唯一の保険としてバッヂの譲渡は無しで。
ガチンコのぶつかり合い。その所望。だがスパーリングとしては、明らかに桁が違う。
『平和主義者(パシフィスタ)』と『豚鮫』の、真っ向からの一騎討ち。
(゜3゜) (この勝負、どっちが勝ってもおかしくねえってことだ!!)
太陽にかかる雲が、一瞬の影を作る。
その時を待っていたかのように、二人はほぼ同時。踏み込んだ。
- 7 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 21:23:36.12 ID:Q9JAqxPJ0
* * *
('Aメ)「勝負?」
( ^ω^)「そうだお。もちろん、バッヂの譲渡は無しでお願いしたいお」
予想だにしない内容の頼みに、さすがのドクオも動揺する。
(;'Aメ)「ちょちょちょ、どういうことだよ? 話が見えないぞ」
( ^ω^)「要はスパーリングだお。お互いの実力を測る意味で手合わせをお願いしたい、ってこと」
('Aメ)「何だってそんな……」
ブーンの目はしっかりとドクオのそれを射止めていた。
揺れぬ眼差しに、嘘の色はない。本気だ。彼は本気で戦いを望んでいる。
気圧されそうになるほど迫って来るそれに、戸惑うドクオの肩が叩かれた。
- 10 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 21:26:03.94 ID:Q9JAqxPJ0
ポセイドンだ。
彼の目にも、先程のように楽しげな色はない。
あくまで真剣に、語りかけてくる。
(゜3゜)「ドクオ、俺達からも頼むぜ。どうしても、ブーンさんはお前と戦ってみたいんだ」
('Aメ)「戦いたいって言われても、いきなりすぎるだろ。理由は何なんだ?」
( ・3・)「『凶星』、だよ」
居並ぶぼるじょあの口から淡々と述べられる、その異名。
『凶星』という名前を聞くだに、胸の内に重圧が蘇ってくる。
鉛を飲み込んだような不快感と、早まる動悸は治まるところを知らない。
それでも、ドクオは出来るだけ平静を保とうとする。
彼の気持ちを汲んでか、少しブーンの声色が柔らかくなった。
- 11 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 21:29:30.51 ID:Q9JAqxPJ0
-
( ^ω^)「『凶星』ショボンは凶悪すぎたお。運動部も文化部も、男も女も関係ない。
あのまま放置されていれば、彼は武喝道に関わる全ての者を食い潰していたお」
( ^ω^)「それは僕だって変わらなかった。当然、ツンとデレちゃんも」
('Aメ)「――――っ!」
ドクオは気付いた。
そう、ブーンは守護者だ。
津出麗華、津出麗美。二人のため、彼はいつだって傍らにいる。
いざとなれば剣となり盾となり、彼女たちを身を呈して守り切る覚悟と力があるのだ。
そういう意味で、彼にとっても『凶星』は目を背けれぬ存在だったはず。
なにより自分の身以上に、津出姉妹を案じる彼であるが故に。
- 12 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 21:32:02.48 ID:Q9JAqxPJ0
( ^ω^)「いざとなれば、僕は進んで彼を倒すつもりでもあったお。
仮に刺し違うことになろうとも、ツンとデレちゃんのためなら厭う気持ちはなかった」
( ^ω^)「理由は違えど、僕のように彼を倒したいと思う者は少なくなかったはずだお」
( ^ω^)「ドクオ、だから理解して欲しい――いや、理解する責任が君にはある」
肉付きの良い手がしっかりとドクオのそれを握る。
骨に皮が張り付いただけのようなドクオの手を、彼はしっかりと捕まえていた。
そう簡単に振り払えない強さが、そこにある。
( ^ω^)「『凶星』はそれだけ巨大な存在だったんだお。それを倒した君は、より大きい。
だからこそ――彼がいなくなった今だからこそ、僕たちは行き場を失くした闘争心を君へと向けている」
思い起こす、夜の校舎に激闘を繰り広げた『七星連合(ビッグ・ディッパー)』の姿。
彼らもまた、殊更強くショボンのことを意識していた。加えてドクオの存在も。
ブーンの言う通り、猛者たちはみな良くも悪くも、『凶星』の妖しい輝きに魅せられていたのだ。
故に、ドクオを新たな星として捉え、狙っている。
脇目も振らず、戦いたがっている。
- 13 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 21:34:37.60 ID:Q9JAqxPJ0
( ^ω^)「僕は知りたい。ショボンを倒した君の力を。
僕の力が、一体あの死神にどこまで通用出来たのか、どうしても知りたいんだお」
('Aメ)「…………」
いまは違う意味で、ドクオは彼に気圧されていた。
出会った時には感じられなかった、ヒートのように滾る闘争者の気質。
この男には、見た目の温さなど一切無い。根っからの闘士だ。揺るぎなく、歪みなく。
ドクオが彼に出来ることとは、何なのか。
当然、そんなものは決まっている。
('Aメ)「――なら、返事は一つだよな」
ドクオは力強く手を握り返す。
ブーンに負けないくらいの闘志と、戦士としての彼へ尊敬を込めて。
('Aメ)「やろう、ブーン。その代わり、手抜きは無しで行くぜ」
( ^ω^)「――宜しく頼むお、ドクオ」
ブーンもまた、満面の笑みでそれに応えるだけだった。
- 14 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 21:37:00.47 ID:Q9JAqxPJ0
* * *
(#'Aメ)「りゃあああああああ!!」
抜き放つ白い刀身。
怒喝を供とする斬撃は、ブーンの肩口を打たんとする。
(# ^ω^)「おっ!!」
前に出た足をストッパーに。
ブーンは後退。
良い勘をしている。まともに突っ込めば肩を砕かれていただろう。
彼の足さばきは見た目以上に、軽い。
バックステップから身を捻り、反撃にと繰り出される回し蹴り。
すかさず引いた剣で受け止める。ドクオの手に、じんと軽く痺れが広がった。
('Aメ) (重い蹴りだ……!)
- 15 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 21:39:32.11 ID:Q9JAqxPJ0
ずんぐりむっくりとした体形だが、意外と手足が長い。
また体重は申し分なく、一撃一撃が十分な重みを持って迫って来る。
( ^ω^)「おっ! おっ! おっおっおっ!」
遠心力を存分に生かし、手足を振り回す。
格闘の経験でもあるのか、剣を持ったドクオを相手に動きは決して悪くはない。
出来るだけ距離を縮め、剣の間合いを殺す。
打とうとすれば平手で刀身を弾き、反撃に張り手をお見舞ってくる。
ドクオには少しも有効打を打たせないつもりだろう。素手対竹刀、確かに完封は望みたいところ。
打ち崩すには、まず距離を取るのが得策だ。
('Aメ)「よっ!」
剣を鞘に収め、重心を後ろにズラしつつ蹴り。
柔らかい腹に埋まった、それは攻撃ではない。
- 16 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 21:41:59.58 ID:Q9JAqxPJ0
軽く突っ張る。
反動に広がった間合いは、居合の踏み込みには十分な距離。
('Aメ)「鬱圓明流――……!!」
低い姿勢に、柄をしっかと握り締め。
猛々しく吼えるドクオには、一切の躊躇はない。
体勢を持ち直すブーンに対し、遠慮なき渾身の一撃を放つ。その腹積もり。
(#'Aメ)「『JET・竜胆』ッッッ!!!」
圧縮空気の爆裂に加速された、閃光が如き居合いが。
一閃。
- 17 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 21:44:38.28 ID:Q9JAqxPJ0
(# ^ω^)「おっ!!」
あえて肉弾戦に固執していた彼の、戦法がここで変わる。目が物語っていた。
迫る白刃を前にブーンは思いっきり、あらかじめ視線をずらしていた左へとのけ反る。
ふくよかな体型が嘘のような俊敏さ。
脇腹を掠めながらも回避に成功する。
('Aメ) (避けたっ!?)
だが左に身を投げ出す以上、水には落ちる。
むしろそれも思惑の内か、ブーンは器用に身を翻すと、重ねた両手から綺麗に着水する。
さすがは水泳部というだけのことはある。限りなく無音の飛び込みは見事の一言。
('Aメ) (JET竹刀の軌道を見切ったのか?)
振り切った切っ先を収めつつ、ドクオは方向を切り替える。
- 18 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 21:47:48.35 ID:Q9JAqxPJ0
('Aメ) (いや、違う――最初から水に逃げるつもりだったんだ)
裸足がプールサイドの縁を蹴った。
('Aメ) (躊躇はしない。ガンガン攻める!)
跳躍。
狙いは、水中を漂う丸い影に。
(#'Aメ)「『JET・唐竹割り』ッ!!」
第二撃が炸裂した。
初撃の程となんら変わらぬ、全力の一太刀が水面を両断。
立ち昇る水飛沫は雨となり、大質量の水が底までぱっくりと割れる。
(; ・3・)「アルェー!!! う、“海割り”っ!!」
(;゜3゜)「やべええええええ!! こいつ本気だ!!」
- 19 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 21:50:22.16 ID:Q9JAqxPJ0
ズブ濡れになってもまだ、観客二人は叫ぶほどに元気だ。
だが確かにドクオも容赦がない。
生身の、服すら着ていない相手に開幕からの連続でJET居合い。
大技を畳みかけても問題ない相手と踏んだか、激しすぎる探りの一手か。
( ω )「――――…………」
しかし水中のブーンの動きに、乱れはない。
むしろ速度を増し、ぐんぐんとプールを遊泳するばかり。まるでダメージのないことを示すが如く。
やはりいくらJET竹刀でも、水越しに大打撃を与えることは難しいのか。
そして、今度は彼の反撃だ。
(# ^ω^)「BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!!」
- 21 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 21:52:26.99 ID:Q9JAqxPJ0
轟音。
爆音。
立ち昇る、水柱は天まで届かんばかり。
その只中から飛び出る彼は、真っ直ぐに空中のドクオへと突撃していく。
('Aメ)「ぐっ!?」
速い。まさにミサイルやロケットという例えが正しかろう。
あるいは、海面を踊る飛び魚。見た目の鈍重さが嘘のように、その姿はしなやかだ。
両腕をぴたりと脇に付け、抵抗を出来るだけ少なくし、一直線に突き抜ける。
避けることも叶わず、か。
渾身の体当たりが、炸裂した。
- 23 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 21:55:05.97 ID:Q9JAqxPJ0
(゚Aメ)「がっ、は!!」
みしり、と。
推定80キロの巨体が、全体重をかけ、全速力でぶつかる。
その重さ、その衝撃は想像を絶した。ドクオの細い体躯を、砕き散らさんばかり。
バランスを崩されるのも必然か。思わずJET竹刀をも取り落としそうになる。
だが、ブーンは容赦しない。
(# ^ω^)「ぬんッッッ!!」
きりもみ状態から、引き剥がすように肘鉄。
( A )「ぐぁ?!」
肩にめり込む。
やはり体重差は、この一撃にも確実に出ていた。
- 24 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 21:57:31.14 ID:Q9JAqxPJ0
墜落。
(;'Aメ)「ぐぅうッ!」
高高度からの打ち落としは、水面を鉄のプレートと化す。
骨も肉もびりびりと痛みに震えた。強い。僅か数合打ち合っただけでも分かる。
武器を持っているだとか、そんなものは全くの差にならない。
ブーンは純粋に、ただ純粋に強い。
『凶星』を意識し続けていたのは、決して過ぎたる勇気ではなかった。
彼ならおそらく――いや間違いなく、ショボンにも拮抗出来たはず。
そう、自分と互角か、それ以上に。
('Aメ)「――――…………」
あえなく、プールの底へと沈む。
- 25 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:00:12.42 ID:Q9JAqxPJ0
服も髪もたっぷりと水を吸い、どんよりと体は重みを増していた。
なんと不自由な領域だ。それをブーンは縦横無尽に舞い、闘うのだろう。
ここはブーンの世界だ。故に、誘い込まれた。
ここで、ドクオに彼への反撃は可能なのか。
('Aメ) (――できる)
もがき、何とか両足を底面へと根差す。
地上ほどの踏ん張りなどほんの少しも望めはしない。滑る上に、なにせ水の抵抗が重い。
だが、やるしかない。切り開く。
JET竹刀をしっかりとベルトに収め、腰を捻り、筋肉を絞り。
一瞬を待つ。
ドクオの勝利を導く“世界”が、開くその一瞬を。
- 26 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:02:35.94 ID:Q9JAqxPJ0
( ^ω^)「――――…………」
片や、空中でドクオを打ち落した彼は、じぃと眼下を見下ろす。
揺らぐ水面にうっすら浮かんだ影は細く、だがその動きに迷いはない。
しっかりと制服を着込んでいては、まともに泳ぐことすらできないだろうに。
( ^ω^) (いいや、それでも彼は諦めていないはず)
水中は、ブーンにとって圧倒的に有利。
だが逆に水中を陣取らなければ、ブーンはすぐさま討ち取られるだろう。
なにせ相手は地上戦のプロフェッショナル。
多対一ならまだしも、一騎打ちならば剣道部ほど優秀な部活はいない。
ブーンが対等の戦いを繰り広げるには、どうしてもプールというホームグラウンドが必要だった。
ここで勝負を持ちかけた彼は、あるいは卑怯な男なのかもしれない。
- 28 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:05:45.82 ID:Q9JAqxPJ0
だが水場があってこそ、水泳部のブーンは全力で戦える。
( -ω-) (なにより僕は全力で彼に向かいたい。そうじゃなきゃ意味がない)
空中で転身。
頭を水面に向ける。
ふくよかな体をきゅっと締め、両手は重ねて前へ。その姿は鋭い“やじり”のように。
見事なボディーバランスは、一切のブレなき飛び込み姿勢を描く。
狙いは直下、未だ動かぬドクオの影。
そこへ一点突破、全力をもって落ちるのみ。
(# ^ω^)「『HEAVY DIVE』ッ!!」
- 30 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:08:13.53 ID:Q9JAqxPJ0
加速。
(; ・3・)「来たぜ!! ブーンさんのとっておき!!」
さらに加速。
(;゜3゜)「『三重泳法(トリプルストローク)』が一つ! 『HEAVY DIVE』!!」
限界まで加速。
風を切る。
空気の層を貫いていく。
物差しで測ったかのように真っ直ぐ、落ちていく。
いま、一個の砲弾と化したブーンが、ドクオを爆撃する。
(# ゚ω゚)「BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!」
掛け声は雷鳴のように轟いた。
- 31 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:10:54.17 ID:Q9JAqxPJ0
空に、大地に、そして水底に。
彼方からドクオを呼び求めるかのように。
(-A+)「――――ッ」
彼もまた強く、その声に応えたいと思った。
呼応する心臓は高鳴り、血液は沸騰する。
噴き上がる闘志は光となって、溢れ返り、空へと昇ってゆく。
JET竹刀の引き金は引かれ――
('Aメ) (――『新世界(ニュー・ワールド)』ッ!)
剣閃は白い弧を水中に描く。
両者、激突。
- 32 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:13:12.49 ID:Q9JAqxPJ0
(; ・3・)「ぎょえええええ!?」
衝撃は半球状にプールの水を吹き飛ばした。
溢れ返り、大波と化したそれを頭から被り、観戦していたぼるじょあはひっくり返る。
なんせ相当の水量。フェンスが無ければ、外まで押し流されてもおかしくはなかった。
(;゜3゜)「勘弁してくれよ……。水だってタダじゃねーんだぞ?」
もはや彼らには驚くことすらも億劫。
眼前で繰り広げられる超越戦闘に、ただただ腰を抜かすだけだ。
ずぶ濡れの身を引き摺って、プールの縁に辿り着く。
これだけの威力。これだけの激しさ。まず互いに無事では済まないだろう。
プールサイドにいるぼるじょあたちまでもが、吹っ飛ばされるほどだ。
- 33 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:15:40.10 ID:Q9JAqxPJ0
(゜3゜)「二人はどうなった? 決着が着いちまったか?」
(; ・3・)「どっちがやられてもおかしくない威力だぜェ……。ありゃあ、やべェよ」
改めて、エースを名乗る者たち――その実力を実感しつつ。
覗き込んだ槽内に広がる光景に、二人は息を呑んだ。
(;'Aメ)「ぐ……お、きっつぅ……」
(; ^ω^)「かふ……これは……っ」
満杯から脛の高さほどまで減った水に浸かりながら。
見るだに疲弊している。激突によるダメージの大きさを物語っていた。
だが、両者共にリングに立っている。
歯を食いしばり、膝を振るわせ。
勝負の始まりとなんら変わらず、そこに在る。
二人は向かい合い、今なお戦いの最中にいるのだ。
- 34 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:18:07.84 ID:Q9JAqxPJ0
(#'Aメ)「ッ!」
(# ^ω^)「おっ!!」
と、朦朧とする意識の中、お互いの気配を感じ合ったか。
ドクオはすかさず、替えのマガジンを装填。
ブーンは握り締めた拳を振りかぶって。
走り出す。
恐らく、この交錯が勝負を決める一瞬だろう。
漂う緊迫感は最大級。激闘を制するのは、いずれなのか。
( A )「――――ッ」( ω )
だが、ふらりと。
- 36 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:20:22.75 ID:Q9JAqxPJ0
ほぼ同時、二人はぐらりと足元を崩し、倒れ込む。
折り重なる両者、共に意識を失ったのか。水に沈んだ姿はどちらも力ない。
どうやら、もうお互いに限界を突破していたらしい。
最後の空元気も、空を突いただけだ。
(; ・3・)そ 「ぅおい! 相打ちかよ!」
(;゜3゜)「引き上げんぞ!」
まるで心のどこかで、この結果を読んでいたかのように。
素早く飛び込むぼるじょあたち。駆け寄ったドクオ達を、懸命に揺り動かす。
( ・3・)「部長ぉ、しっかりしろよ! 水泳部が溺れてちゃ話になんねーぞ!」
(゜3゜)「ドクオも起きろって!」
ドクオはいいとして、ブーンを運ぶのはなかなかに手間がかかる。
しかし、放っておくわけにもいかない。
手際良くドクオをプールサイドへ引き上げると、二人はブーンのとっぷり太った巨体と格闘する。
- 37 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:22:47.68 ID:Q9JAqxPJ0
(; ´ω`)「う……っ」
その折、本人が目を覚ました。
( ・3・)「お、部長! 起きたなら自分で上がってくれよ!」
(;゜3゜)「俺らじゃ重すぎるぜ!」
(; ^ω^)「す、少しは労わって欲しいお。一度完全に意識が吹っ飛んだんだお」
悪態を吐く二人の肩から身を離し、頭を抱える。
くわんくわんと揺れる脳は寝起きのようにハッキリとしない。
だが、知覚する痛み――右の肩にびりびりと留まるそれは、彼の意識を叩き起こす。
真っ黒な痣は、見れば余計に痛みを助長するほどの深手。
( ^ω^)「……恐れ入るお、本当に」
- 38 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:25:06.09 ID:Q9JAqxPJ0
( ・3・)そ 「うお! すげえ痣! だいじょぶっすか?」
覗き込んで来る後輩たちも目を丸めるばかりだ。
(゜3゜)「氷嚢、持ってきた方がいいっすね。こりゃ」
( ^ω^)「お。それなら、ドクオの分も持って来てあげて欲しいお」
( ^ω^)、「多分、あっちも相当な深手だろうから」
( ・3・)「アイサー! 任せてくだせえ!」
(゜3゜)「ほれ! とっとと行くぞぼるじょあ!」
あれだけ騒いだ後とは思えぬほどに、軽やかに。
二人は走り出す。その背中を見届けた後、ブーンは動く左手を支えにプールから転がり出た。
隣には、大の字になったまま意識の戻らぬドクオ。
- 40 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:27:19.06 ID:Q9JAqxPJ0
見れば見るほど、細くて筋力もなさそうで、言い方は悪いが頼りがいの無さそうな少年だ。
とても、修羅の巷を生き残ってきた者とは思えない、脆弱な風貌。
だが、そこには見た目以上の力があった。輝きがあった。
その片鱗――それが、ブーンの受けた一撃だ。
( ^ω^) (入水の瞬間、僅かに水面が歪む刹那――彼はそこに斬撃を叩き込んだ)
水中で刀は振るえない。
その抵抗に、例えJET竹刀の噴射といえども阻害される。
空中から超加速で飛来するブーンを、弾き返すほどの威力は望むべくもない。
だが、ブーンの技が強力であったからこそ、その圧力は水面を大波となって走った。
ドクオの斬撃は、その波間を正確に斬った。ただそれだけのこと。
( ^ω^) (だけど彼は僕の技を見たことがないはず。
その威力も速度も知らない。それが初見で見切れるものなのか?)
- 41 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:29:56.17 ID:Q9JAqxPJ0
幸運か、無謀な賭けに勝ったのか。
(; ^ω^) (でも彼は見切った。見切って、僕の突貫を打ち崩し、逆に反撃に成功したんだお)
聞いたことがある。
鬱田ドクオには、他人では理解も及ばぬ特殊な『能力』を持ち合わせていると。
それこそJET竹刀以上に、彼が『凶星』と渡り合い、また凌駕し得た理由たる武器なのだ。
水面を切り裂き、ドクオの身を砕こうとしたあの瞬間。
ブーンは見た。
じっと水底に構え、瞼すら落とし、反撃の時を待つドクオ。
錯覚なのか、彼の周りを眼も眩むような光の帯が取り巻き、守護する光景を見たのだ。
それは美しいほどの曲線と太陽のような温かさをもって、彼に優しく剣の軌道を教えていた。
( ^ω^) (アレが彼の――鬱田ドクオの“世界”……)
- 43 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:32:42.76 ID:Q9JAqxPJ0
確信できる。
今この勝負は引き分けたが、彼は間違いなくブーンを凌駕している。
見ていてむしろ気分が良くなるほどの勢いが、彼には漂っていた。
『凶星』ショボンが堕ちたのは、決してあり得なかった奇跡ではない。
なによりこの身が、この肩の傷が、そう語りかけて来る。
( -ω-) (不思議だ。会ってまだ間もない彼に、どうしようもない胸の高鳴りを感じる)
( ^ω^) (見届けてみたい。彼が、いったいどこまで辿りつけるのかを)
勝利は得られなかったが、なんとも清々しい気持ちだ。
窮屈な戦いの中では、決して感じることの出来なかった透き通った感情。
(´‰益゚`)「楽じい友情ごっこは……終わりがぁ?」
- 44 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:35:51.53 ID:Q9JAqxPJ0
きりきりきり。
(´‰益゚`)「なら、あ゛あぁあ゛あぁ、ごれで、いい。これで邪魔は入らない゛ぃ」
きりきりきりきり。
(; ^ω^)そ 「なっ」
せっかくの爽やかな気持ちを汚すように、その音は不快。
錆びた金属の擦れる音が、きりきりきりと、プールサイドに鈍く響く。
車椅子の男。
いつの間に現れたのか。二人の戦いを見ていたのか。分からない。
外に出ていったぼるじょあたちも気が付かなかったのだろうか。
- 45 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:38:11.36 ID:Q9JAqxPJ0
ともかく、その不快な音の出どころは彼で間違いはない。
赤錆びた車椅子に腰かけ、頭のてっぺんから爪先まで包帯に包まれた男。
顔に巻かれた包帯の僅かな隙間から、赤く血走ったひんがら目がぎょろり、ぎょろり蠢く。
それに潰れた声も相まって、とことん不気味だ。
近付くことすら憚られる狂気に、満ち満ちている。
だがこれだけの異彩を放ちながら、かつてこの風貌を目の当たりにした覚えは一切ない。
少なくとも、ブーンには全くだ。
(; ^ω^)「……何者だお、君? いつここへ入って来た?」
故に注意深く、声をかける。
( ^ω^)「申し訳ないけど、武喝道の参加者だって言うなら、いま勝負は遠慮したいお」
(´‰益゚`)「ん゛だゴラッ、このドチンポ野郎がぁあ!! テメ゛エが質問してんぢゃあねえ゛!!」
- 46 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:40:23.47 ID:Q9JAqxPJ0
向かってくる感情は、真っ黒な敵意だ。
彼は最初から固い棘のような敵意を全身に纏っている。
(´‰益゚`)「グピ、グピピ、豚野郎がぁあ……。テメェ゛はあ、ビビってションベンでも漏らしてろ゛ぉ」
(´‰益゚`)「俺の用があるの゛はぁ、そいつ――糞タレな゛がら居眠りこいてる゛ぅ鬱田ドクオだぁああぁあ」
( ^ω^)「ッ!」
とっさに、広げる身が気絶したままのドクオを庇う。
まだ彼は目覚めない。やはり、ブーンよりは受けたダメージ量が多かったせいか。
(; ^ω^)「ドクオに何をするつもりだお?!」
(´‰益゚`)「だから゛テメエ゛が俺に゛質問すんじゃねえ゛! ボゲ!」
(# ^ω^)「答えるお! 何をするつもりだ!? 返答によっちゃあ容赦はしない!」
- 48 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:42:48.73 ID:Q9JAqxPJ0
ぎこぎこ車椅子を軋ませいきり立つ男が、不意にぴたりと静かになる。
不揃いの視線が興味深そうにこちらを覗き込んでいた。
(´‰益゚`)「なんだあ゛? 容赦しないぃい゛?」
そして今度は、包帯の巻き目を盛大に歪め、嗤う。
(´‰益゚`)「グピャ! グピャピャピャ、何を、何も知らねー奴が! 容赦しない?」
(´‰益゚`)「腹が捩れる゛! 下らねえ゛! ゲピャ! テメ゛エがそいづの何を知ってりゅうう゛ぅ?!」
(´‰益゚`)「俺ば知ってる! そいづは、グズでカスでヴンコ野郎だ! 生ぎてる価値も゛、ね゛え、ね゛えぇええ゛!!」
狂ったように――いや、完全に狂っている彼は心底愉快そうに。
身を揺らして、そして、腕をずるずると背中に伸ばす。
椅子の背に引っ掛けてあったのか。取り出した得物は鉄パイプ。
- 51 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:45:03.90 ID:Q9JAqxPJ0
乾いた血糊にてらてらと光る先端が、真っ直ぐにブーンの眉間へ。
(´‰益゚`)「だからよぉおぉ゛、俺は今がらそいづをブチのめじて、粉微塵にスリ潰して殺ず!」
(´‰益゚`)「タマキンもぶちゅぶぢゅに踏み躙っでぇええー!! 目ん玉もええええ抉り出すぅう!
ぢんぽは刻んで! 歯糞臭ぇ口にブッ込んでやる! ンでゲロぶっかけてもっがい殺ず!」
(´‰益゚`)「たま゛んねぇえええぇ゛――ッ!! 女をヤるより゛だまん゛ねえぇぇえええよ゛ぉおぉおおぉ!!」
なんとおぞましい。
なんと汚らわしい。
ブーンは全身の毛が逆立つのを感じる。危険だ。この男は危険すぎる。
自分にも、そしてドクオにも。
( ω )「――黙るおっ!!」
- 53 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:47:33.46 ID:Q9JAqxPJ0
ずん、と。
腹の底まで震わす一喝を、彼は放つ。
( ω )「お前が何者なのかは分からない。だが! たった一つ確かな事は分かる!」
(´‰益゚`)「あ゛?!」
(# ^ω^)「お前が疑いようのないほどのクズ野郎だってことだお!」
肩の痛みを意に介するのも忘れ。
突き進む。前に出る。そして握った丸い拳を、包帯男に突き付ける。
(# ^ω^)「ドクオは守る! お前になんか絶対に渡しはしない!」
- 54 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:50:20.94 ID:Q9JAqxPJ0
ブーンは彼の力に、才能に魅せられた。
ドクオの未来を見届けたい。彼の行く道を見守りたい。
だから守る。ツンやデレと同じくらいの気持ちで、全力で守護し、戦う。
(´‰益゚`)「あ゛、ぞう、そうがい、そりゃ゛あぁいいんじゃあねぇえのぉお?」
対する車椅子の男は、さして気にかける様子もなく。
退屈そうに欠伸を噛み殺すと、黄色い歯を剥き、金切声を上げた。
(´‰益゚`)「だったらデメエから豚バラミ゛ンチになりやがる゛ぇえぇええ!! ブタァアあああぁああぁ!!」
- 56 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:52:22.17 ID:Q9JAqxPJ0
ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです
第三十五話『不浄をもって狂気となす』
- 57 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:55:05.91 ID:Q9JAqxPJ0
* * *
ホイールが急速回転。
摩擦に舞い上がる煙が辺りに立ち込める。
特殊な仕様だ。モーターでも積んでいるのか、その回転は独りでに発生した。
(´‰益゚`)「ぶひゃらぁぁああああああああ゛――ッ!!」
飛び出る車椅子の加速は、あまりにも荒々しい。
コントロールを失った機関車のように、暴走し、迷走し、こちらへ剥き出しの狂気をぶつけんとしてくる。
その牙は、薙ぎ払われる鉄パイプ。
( ^ω^)「おっ!!」
咄嗟にしゃがみ込み、頭上への一撃を回避。
速度はあるが、動きは大雑把だ。目視で避けられないことはない。
- 58 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:57:23.45 ID:Q9JAqxPJ0
反撃に繰り出す、下方からの打ち上げ。
車輪の回転に巻きこまれぬよう、真正面からのアッパーは放たれる。
(´‰益゚`)「ギギ、ギピャピャピャ!」
相手もまた避けた。
首を傾けるだけの軽い動作。顎を砕いたであろう一撃は、耳元を掠めるのみ。
お返しにブーンの首根っこが、強引にフン掴まれる。
脂の乗った首の肉に、包帯まみれの指が食い込んだ。気道がみしりと悲鳴を上げる。
(; ^ω^)「がっ――」
(´‰益゚`)「引き潰ざれてぇぇぇええぇぇええ!! 脂肪ブチ撒けろろろろろろ!!」
そのまま前進。いや、突進の方が正しいのか。
片手に、巨漢のブーンを支える怪力は凄まじいもの。
- 59 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 22:59:46.68 ID:Q9JAqxPJ0
反対側のフェンスに激突する。
(; ω )「お゛っ!?」
二人分の重量と車椅子の加速による衝撃に、たわむ緑色の網目。
押し付けは止まない。背中の肉がぎりぎりと食い込む。
(´‰益゚`)「グッピャアアアァァアアァアァアアア――ッハアアァアァァァアア!!」
腐った魚のような口臭、撒き散らされる唾。
(# ゚ω゚)「歯磨きを……オススメするお……!」
手首と、肘の関節を極めて。
それこそ腕をヘシ折るつもりで、遠慮なく関節を締め上げる。
(´‰益゚`)「ギピイイィイイィイイイ――ッ?!」
(# ^ω^)「おっ!!」
土手っ腹に蹴り。
- 60 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 23:02:04.25 ID:Q9JAqxPJ0
椅子ごと吹っ飛ぶ男。
フェンスから飛び上がるブーンも、弾かれるように彼を追撃する。
一度完全に転倒した車椅子が起き上がるのは、至難の業だろう。
だが、油断は禁物。
パイプの間合いを警戒しつつ、包帯男の背後へ。
後部のハンドルは、ぼろぼろに錆びているが、握る問題はない。
まず優先するべきは、この男を車椅子から引き剥がすこと。
(# ゚ω゚)「おりゃぁぁぁあああああ――ッ!!」
ブン回す。
(´‰益゚`)「ぎぴゃあああああああああ!!」
ブン回しまくる。
- 61 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 23:04:35.94 ID:Q9JAqxPJ0
持てる全力を尽くして、回転を繰り返す。
だが、なかなかにしぶとい。引き剥がれない。包帯男は磔られたように、不動。
このままでは埒が明かない。
(# ^ω^) (剥がせないなら破壊するまで!)
回転数が最高に達した所で、跳躍。
最後のひと踏ん張り。
車椅子ごと男を担ぎ上げ、叩き付ける。
(# ゚ω゚)「砕けろォオ――っ!!」
撃墜。
(´‰益 `)「ゴボォッ?!」
ひしゃげる。
砕ける。
- 63 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 23:06:46.88 ID:Q9JAqxPJ0
威力は十分。
硬いプールサイドに、打ち付けられた車椅子の部品が弾け飛ぶ。
曲がるホイール。割れるシャフト。歪な鉄塊と化すそれは、殺し切れない勢いに大きく跳ねた。
そのまま、プールの底へと転げ落ちてゆく。
(; ^ω^)「ぶっ、ハァ――っ!」
異形の権化のような姿が、一瞬でも視界から消えたことが安心へと繋がったのか。
思わず吐いた大きな溜め息。気が付けば、全身が汗に濡れていた。
やはり、立て続けの戦闘は疲労も緊張も大きい。
(; ^ω^)「ど、ドクオは……?」
まだ気が付いてはいない。眠っている。
それに安堵すると共に、気になるのは敵の動向。確実にダメージは与えたが――
(; ^ω^) (まずは! ドクオを運び出す、それが先決だお)
- 64 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 23:09:14.88 ID:Q9JAqxPJ0
あれだけの大技を仕掛けたのだ。
足となる車椅子にもかなりの損傷を負わせた。問題はない。
今の内のドクオの安全を確保するべきだろう。男の狙いは彼だ。この場に放置するのは良くない。
走り出す、ドクオの元へと。
(´‰益゚`)「行かせぇぇええぇぇるっるるかぁあああああああああ――あぁぁあッ!!」
咆哮。
(; ゚ω゚)そ 「っ?!」
仰ぐ空。
- 65 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 23:11:28.99 ID:Q9JAqxPJ0
すぐには動けぬほどの大打撃を与えたはずだ。
だが包帯男は、依然パワーに溢れている。むしろ、先程よりもより昂っていた。
烈しい。ドス黒く燃える狂気は、息を呑むほどに烈しい。
プールの壁面を垂直にでも登ったのか。その跳躍は高い。
ブーンの頭上を、遥かに超える。滅茶苦茶だ。
(´‰益゚`)「ドクオォオオォォオオォォオオオ!! おばえの脳ミゾ!! 何色じゃばぁあぁぁああ゛?!!」
その高度から、落下の勢いに乗せ鉄パイプは振り下ろされる。
狙いはドクオ。
執念深い。あくまで彼を傷付けることを至上としているのか。
この時ばかりは、ぎょろぎょろ回る目がぴったりとドクオへと向けられていた。
速い。
ブーンがドクオを救出するよりも、遥かに。
- 66 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 23:14:01.87 ID:Q9JAqxPJ0
(; ^ω^)「ドクオォオッ!!」
間に合わないか。
そう思った時、既に体は前に飛び出していた。
繰り出すヘッドスライディングは、僅かに包帯男の行動を先んじる。
ドクオを守るように、覆い被さる身は盾となれ壁となれ――と。
打ち込まれる打撃は、右肩へ。
(; ゚ω゚)「ぐわぁぁあああ――ッ?!」
不幸にも、負傷した右肩にだ。
- 68 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 23:17:39.02 ID:Q9JAqxPJ0
たまらずに身悶える。
視界を飛び散るのは火花。激痛に、大脳は焼き切れそうになった。
骨に直接、電流が流れたようだ。脂汗が止め処なく額から噴き出す。
(; ω )「あ、ぐ、あぁ、ぐぅうぅ〜、ぅううう!」
(´‰益゚`)「グピャ、グピピ! 糞たれがぁあ! 邪魔する奴ばぁあ!」
がしゃん、と派手に着地する包帯男。
彼の振るう凶器は、一切の容赦を残していない。
むしろ手負いのブーンは、格好のサンドバッグ。
(´‰益゚`)「ミンチ肉゛ぅ! いやぁ、ペーストだぁあ!! ドロドログッジュグジュになって死ぬれぁぁえぁあ!!」
叩く。
叩く。
- 69 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 23:21:02.33 ID:Q9JAqxPJ0
背中を、脚を、肩を、頭を。
叩いて、叩いて、叩き潰す。親の仇の如く存分に、生涯の敵の如く入念に。
( ゚ω゚)「ぐは、あ、くぅ……!」
暴力の雨の中。
ブーンはそれでも、ドクオに覆い被さったまま動かない。
身を呈して、彼を守る。守り続ける。固い意志と、折れない決意を支えとして。
(´‰益゚`)「ブピィ、ブピブッピャアア!!」
血塗れになった彼を見下ろして、狂人は汚らしく笑う。
(´‰益゚`)「きぼちぃいいぜ、ブタぁ゛! やっば弱い奴をな゛ぶり殺じにすんの゛はぁあ――」
ここぞとばかりに、鉄パイプを大きく振りかぶった。
トドメを刺すつもりだろう。狂気の爆発は、その証拠。
- 70 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 23:23:22.22 ID:Q9JAqxPJ0
(´‰益゚`)「だま゛んんんぬ゛ぅぇぇええぇ――っえぇぇぇぇええぇいいいいよぉおお゛おお――ッ!!」
誰ぞのものか分からぬ、パイプの乾いた黒い血痕。
それに今、ブーンの血飛沫が上塗りされようとしている。
止められないのか。
( A )「やら……せるか、よっ!!」
がきん、と。
(´‰益゚`)「ッ!!」
鉄パイプが高鳴る。
- 72 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 23:26:58.62 ID:Q9JAqxPJ0
('Aメ)「ブーンは……やらせねぇっ」
垂直に立てられたドクオのJET竹刀の、柄頭。
ブーンを守るように、それが包帯男の一撃を正確に止める。
微動だにしない。
目覚めたドクオの鋭い視線もまた、真っ直ぐに包帯男を射抜き、動かない。
(´‰益゚`)「てめ゛えぇぇええ糞タレ――」
(#'Aメ)「シッ!」
そのまま引き金を弾く。
爆音と共に炸裂する圧縮空気。射出された刀身は、至近距離から包帯男に命中。
柄がめり込むのは、盛んに隆起する喉仏。
- 73 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 23:30:31.57 ID:Q9JAqxPJ0
(´‰益゚`)「ギャッ、ヒ、グ!」
呼吸を乱し、体勢を崩し、JET竹刀の圧力に吹き飛ばされる。
数メートル後方。車椅子は上手く車輪で着地するが、本体はすぐさま戦闘に移れない。
潰された喉を押さえ、悶える。
(´‰益゚`)「ゲヒ、ヒグ、ぎ、ぢ、ぎしょう、ごの゛、糞、野郎ぉ、めが」
さらに聞き取り辛くなった濁声が、恨み節を述べる。
(; ω )「ど、ドクオ、気が付いて、いたのかお……?」
('Aメ)「ああ、すまねぇ」
(; ^ω^)「どーってこと、はは、ないお。ちょっと油断して、ボコボコにはされた、けど」
( A )「――――ッ!」
- 74 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 23:32:47.25 ID:Q9JAqxPJ0
震える。
熱く滾る何かが、体の奥底でびりびりと震えた。
ドクオは傷だらけのブーンをそっと寝かせ、立ち上がる。
状況は把握できないが、この場でやるべきことだけはなんとなく理解できた。
なにより今は、この燃え滾る感情に身を任せたい――そんな気分だった。
(-A+)「――しゅうっ」
鍔を鳴らし、剣を鞘へ。
彼が取ったのは異様な構え。
体を深く深く沈ませ、両手は柄を絞り上げ、引き付けた切っ先は相手の正中線へ。
しかし、刃は鞘に収まったまま。メタリックカラーの表面に、ドクオの横顔が映り込む。
突きだ。突きの構えだ。
- 77 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 23:35:36.60 ID:Q9JAqxPJ0
居合ではなく、さらには剣を鞘に収めたままで。
彼は突撃の溜めを作っている。
(´‰益゚`)「んだそりゃあ゛糞が! ふざけた糞構えしやがってよぉお゛ぉおお! そんなんで俺を斬れるわけがぁあ――」
(-A+)「あんた、誰だか知らねーけど」
目を閉じたままのドクオが、ぼそりと呟く。
(-A+)「その位置、その場所――多分、すごくいい。すごくベストだ」
(´‰益゚`)「ッ?」
(-A+)「俺の射程は、案外広いぞ」
- 78 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 23:38:00.77 ID:Q9JAqxPJ0
解放。
回転。
会心。
開眼。
('Aメ)「鬱圓明流・外法――『JET』ッッッ!!!」
突破。
突破。
突破。
突破。
(#'Aメ)「『孔雀覇王樹(くじゃくさぼてん)』ッ!!」
- 79 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 23:40:31.94 ID:Q9JAqxPJ0
撃ち込む。
(´‰益゚`)「う――」
その場で。
包帯男に、全く剣先など届かぬその場で、放った。
最速の踏み込みと、最大の腕力が、生み出す最後の一撃。
引かれたトリガーは、爆音を上げて圧力を解放。
腰から腕へと伝わる螺旋運動は、射出される鞘に弾丸の如き回転を付加。
放たれた銀の矢がまっすぐに突き抜けていく、その完璧な弾道はまさに会心の出来。
そして開眼したドクオが、命中を確認する。
(´‰益゚`)「糞ぉおええええええええええ゛え゛えぇえぁああ゛あ゛――っ?!」
- 81 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2010/03/20(土) 23:43:25.26 ID:Q9JAqxPJ0
おぞましい叫び声を吐き散らし。
胸板に真正面から鞘を撃ち込まれた、包帯男。
しかし、止まらない。着弾して尚、鞘の回転は止まる素振りを見せない。
(´‰益 `)「グゾォ゛、ゆ゛るさねぇえ!! お前だけば、ぜっだいに゛、ぜったい゛にぃいいい!!」
('Aメ)「クソクソうるせーよ、ミイラ野郎。ここは土足もタイヤも厳禁だ」
呪いを吐き続ける彼にも、損傷した車椅子にも。
もはや耐える術はなかった。
(#'Aメ)「フッ飛べっ!」
吹き飛ばされる男は、フェンスを突き破る。
そして聞く耳をも汚しそうな断末魔を上げ、場外へと消えていくのだった。
第三十五話・終
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