- 4 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/03/31(火) 22:32:11.91 ID:/CqLfUAVO
昼休みも終わり、午後の授業。
少女は教室の片隅でカチカチとシャーペンを鳴らし続ける。
芯が机の上に落ちてしまっても、彼女のペンをノックする音は止まない。
ノハ#゚听)「…………」
ヒートはイライラしていた。
せっかく面白そうな祭が始まるというのに、この感情のせいで彼女は素直にはしゃげない。
何にイラついてるのか。それは一手に、ドクオの棄権に関与している。
彼女は思っていた。当然、ドクオは自分に付いて来てくれるだろうと。共に戦ってくれるだろうと。
何故なら、彼女にとってドクオとは自らの後ろに在って当然だと思っていた者だからだ。
いつも自分はドクオと共にいる。いつも自分はドクオを導いている。
それが二人の常識。
- 6 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/03/31(火) 22:36:56.44 ID:/CqLfUAVO
故に、彼が自ら舞台を降りることなどこれっぽっちも考えていなかったのだ。
所謂これは彼の『反逆』であり、記憶のあるうちにそんな事態は在り得なかった。
ノハ#゚听)「くそぅ…………」
だが彼女はドクオにだけイラつきを憶えているわけではない。
本当の所、一番気に食わないのは自分自身だった。
あの時何か、彼を引き止めるような言葉を思いつかなかった自分を。
たとえ無理矢理にでも、ドクオを留めようともしなかった自分を。
全ては後の祭りだった。ドクオはもう、この闘いとは関係がない存在。
ふと、隣の席を見てみた。
いつもそこにいるはずの彼はいない。空席である
ノハ#゚听)「――っぬがああああ! チクショオオオオオ――っ!!!」
教室がどよめいた。
- 8 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/03/31(火) 22:40:32.53 ID:/CqLfUAVO
ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです
第四話『それぞれの午後』
- 9 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/03/31(火) 22:46:34.60 ID:/CqLfUAVO
思わず口を付いて出てしまった叫びは、このクラスの全員に響き渡ってしまったようだ。
あちこちでひそひそと囁きが聞こえ始め、皆が席で仁王立ちとなっているヒートのことを珍獣か何かを見るような目つきで観察していた。
ヒートはそんな衆目も目に入っていない。まるで檻から放たれた虎のように息を巻く。
そんな中、教壇に立っていた人物はめんどくさそうに溜め息をついた。
肩に手をかけ、やれ重そうに首を回している。
ゴキリ、ゴキリ。ひっつめ髪を後ろでくくっている頭が円を描く度、重々しく骨が鳴った。
_、_
( ,_ノ` )「おいお前ら、静かにしろよ。素直もとっとと座らんか」
二年E組担任、渋沢国語教諭。
齢四十六の初老にして、色黒の肌と引き絞られた身体に年齢以上の若々しさを感じる者だった。
しかしその顔には、人生の半分を生きてきた者に相応しい皺が確かに刻まれている。
- 12 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/03/31(火) 22:51:06.78 ID:/CqLfUAVO
彼はヒートと縁が深い。彼が顧問を務める部活動は空手道部。そして実は二年続けての担任。
少なくとも校内では、彼女の監督者は渋沢その人で間違いは無いのだ。
_、_
( ,_ノ` )「素直――いやここにいる奴もだな、もうちょっと落ち着きってものを持て。
あと一年もせんうちに受験が始まるんだぞ? 遊んだりはしゃぐのもいいが、ちっとはピシッとしとくのも悪くないんじゃないのか」
ノハ;゚听)「ぬぐう……わ、わかった」
天魔をも恐れぬ暴れん坊も彼には歯が立たない。
クラスメート達のささやかな笑いの中、すごすごと席に腰を戻す。
それを確認するとおもむろに渋沢はチョークを放り投げ、胸ポケットに手を突っ込む。
パリッと糊の効いたワイシャツの胸から取り出されたのは、細く、小指ほどの長さの棒。彼はそれを咥えた。
- 13 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/03/31(火) 22:54:31.29 ID:/CqLfUAVO
誰かが手を上げる。
「センセー、学校で煙草は禁止されてますよー」
_、_
( ,_ノ` )y━・「煙草じゃない、パイポだパイポ。咥えてなきゃ落ち着かないんでね」
すぱぁ、と肺に溜め込んだ息を吐き出す。
とは言っても、彼の言うように咥えるそれはパイポでしかないので、煙の一つも出ることはない。
だが一方、怒りに打ち震えていたヒートの頭の中には深い靄がかかっていた。
そう簡単に晴れそうにない靄が。
- 16 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/03/31(火) 22:59:12.95 ID:/CqLfUAVO
* * *
面、面、面、面。
竹刀は振り抜かれる。一心に、まるで迷いを打ち払おうと、もがくように。何度も何度も。
('A`)「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」
剣道部部室。
両脇のロッカーには部員の誰かが持ち込んできたのか、少年漫画のコミックスがズラリ。
種類は多けれど、そこに日本刀やら剣道をモチーフにしたような表紙は見られない。
サッカー、野球、ただの恋愛漫画、ファンタジーもの、麻雀のハウツー、多種多様で一貫性の無いテーマたち。
('A`)「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」
ドクオは入部してからこれまで、それらに手を付けることは無かった。
今も何をしてるかと思えば、狭い部室で素振り。
面打ちをする竹刀の切っ先が、危うく蛍光灯を掠めそうになっている。
だが、彼は気にしない。いや気付かない。
- 19 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/03/31(火) 23:04:14.04 ID:/CqLfUAVO
無心。
彼はただひたすら、竹刀を振る事にのみ集中していた。
('A`)「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、……ふぅー」
満足したのか、剣を下ろす。
ふと、顔を上げてみる。時計は三時を示していた。もうとっくに授業は終わってしまっているだろう。
どうにも夢中になってしまい、ドクオはチャイムが鳴っていた事にすら気付かなかったようだ。
大きく深呼吸し、パイプ椅子に腰掛ける。手首にジリジリとした痛みがあった。
心地よい痛み、素振りを終えた時に感じるこれはドクオにとって嬉しいものである。
努力をし、汗を流した者のみが感じる事のできる感覚。
ただでさえ何事も面倒な事はお断りな彼に、剣道だけは例外に位置していた。
('A`) (剣道はいい。剣を振っている時だけは何も考えなくて済む。わずらわしいことやめんどくさいことも全部――)
がたん。
突如、ドアが嘶く。
- 21 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/03/31(火) 23:08:45.03 ID:/CqLfUAVO
(;'A`)「うぉっお、何だ?」
「お? なんだ、誰かいんのかー。ダレだよ? もしかしてドクオかー」
ドアの覗き窓、そこから見える影が一つ二つ三つ。誰かが開けようとしたらしい。
('A`)「え? あ、あぁその声――デミタスか」
扉が開かれる。
(´・_ゝ・`)「よーぉ、ドクオじゃん。珍しいな」
出てきたのは三人の男子生徒。
皆一様に、襟についた青い学年章から二年生とわかる――つまりドクオの同級生だ。
先頭の少年は背と鼻が高く、ドクオよりもまた一段とひょろっとした体型だった。
頭はゴワゴワと目に痛い金髪。ワックスで無造作にセットされたそれを掻き毟り、彼は後ろの二人に耳打ちした。
彼らもまた同じようにガラの悪そうな容姿・背格好だったが、ドクオは彼らに見覚えが無い。
デミタスは共に剣道部の部員だ。だが取り巻き共は違う。
- 23 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/03/31(火) 23:12:45.26 ID:/CqLfUAVO
('A`)「え、デミタス。そいつら剣道部じゃないよな? 何でここに入れてるんだ」
(´・_ゝ・`)「別に部員じゃないから部室入っちゃ駄目なことねーだろ。今から麻雀、面子足りねーしドクオもやろうや」
(;'A`)「麻雀? 部室をそんなことに――いや、そもそも部活動はどうするんだよ!」
(´・_ゝ・`)「何だよおカタイねー! んなもん自由だろ? お前だって昨日もサボってんじゃん」
(;'A`)「サボったわけじゃ……!」
言ってから気付く。確かに、自分は形はどうあれ部活はサボってしまった。
しかしそれは昨日に、且つ自分だけに言えた義理ではない。
VIP学園剣道部で今、まともな活動しているのはドクオだけだった。
(´・_ゝ・`)「な? いいじゃん、だからドクオもやろうぜ。もうちょっとしたらこいつらの女友達も来るから」
取り巻きたちは下卑た笑い声を上げる。
- 25 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/03/31(火) 23:18:49.65 ID:/CqLfUAVO
同学年で、同じく部の中心とならなければならないデミタス。彼はこのざまである。
部活動なんてどこぞの話で、毎日毎日部室を私用に使って放蕩三昧。
彼の行動の浅はかさに――そして、それに叱咤を加えることの出来ないドクオの情けなさに、周りの部員たちは苦言を呈してきた。
だが、現状は変わらない。故に一人、また一人と幽霊部員が増えに増え、結果ドクオは一人になってしまった。
(´・_ゝ・`)「よぉーし、わかった! 明日、明日は絶対部活やるから見逃してよ! いいだろ、部長?」
この言葉も、もはや聞き飽きた言い訳だった。
無論、約束は守られない。
それは今まで通りの結果であり、デミタスは恐らく明日は何処か別の場所で遊び呆けているだろう。
ドクオだって分かっていた。
自分が剣道部で惨めな思いをしなければならないのは偏にこの男のせいだと。
だが――
- 26 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/03/31(火) 23:23:26.42 ID:/CqLfUAVO
('∀`)「そ、そうか、うん……わかった」
文句の一つも言えなかった。
(´・_ゝ・`)「マジで? そっかー! サンキューさすがドクオだぜ!」
彼を目の前にすると、言ってやろう言ってやろうと考えてきた言葉の数々が霧散してしまう。
喉が萎縮し、汗が額を走る。握り締められた指は固まって動かなくなり、そして最後には適当な生返事しか出てこない。
ドクオ自身にもどうしようもなかった。彼は恐れていたのだ。
単純な暴力に対しての恐怖ではない。それなら武道を嗜むドクオには問題ないだろう。
ただドクオが知り合いで、同じ学校に在籍している彼に物を申す事。
その勇気が生まれない。
('A`)「…………」
ドクオは愕然とした。
自分の根性の無さに。上っ面の付き合いを守るための、弱気な言葉しかいえない自分に。
- 28 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/03/31(火) 23:28:42.40 ID:/CqLfUAVO
(´・_ゝ・`)「さー、サクッと始めよーぜ。ドクオも座れよ」
デミタスたちは部室を片付け始めると、ロッカーの隅から麻雀卓を取り出してきた。
そんな物まで持ち込んでいたのか。ドクオは再びショックを受ける。
彼は何も知らなかったのだ。そこまで部室が彼らの私物となっていたなんてことは。
('A`)「……いいよ、俺は」
ドクオは早くこの部屋を出たかった。
吸い上げる湿った空気、薄暗い照明。
そのどれも彼が二年の剣道部生活で慣れ親しんだものだが、もう違う。
ここは剣道部の場所ではなくなっている。デミタスの物なのだ。
- 30 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/03/31(火) 23:33:20.93 ID:/CqLfUAVO
('A`)「デミタス、明日は部活出ろよ」
(´・_ゝ・`)「オッケーオッケー」
意味の無い念押し。これももう腐るほど交わした会話だ。
既に卓で牌をかき混ぜているデミタス。彼の返事には一切の心がけも真剣さも臭わない。
ドクオは竹刀を握り締める。長年使い続けてきたその柄は、染み込んだ汗に黒く滲んでいた。
ふらりと、ドクオは倒れそうな足取りで部室を逃げ出す。
その寂しげな背中に声をかける者はいなかった。
- 31 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/03/31(火) 23:38:16.71 ID:/CqLfUAVO
* * *
(*゚ー゚)(#゚;;-゚)「「すいませーん」」
イライラ、プンスカ。
傍から観ればそんな感じで、遂に放課後まで燻ぶりっぱなしだったヒート。
結局あれから教室にドクオが帰ってくることはなかった。
帰ってきたからと言っても、ヒート自身ドクオに何と言って良いのか分からない。
謝るのか、何を? 怒るか、また? 殴る、論外だ。
またたく間に思考の大渦に飲み込まれてしまう。
本人を目の前にして「要らん」なんて言ったことも、今考えると勢いに任せすぎたのではないか。
ドクオのことが心配で、ドクオが必要だが、自分で突き放す形になってしまった。
でもやはり、ドクオに根性がないのも悪いだろう。反面、協力してくれると思い込みの過ぎた自分にも責任はあるのかも。
しかし、しかし、しかし……――
ヒートはどうしていいのか分からなくなっていた。
- 33 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/03/31(火) 23:42:42.72 ID:/CqLfUAVO
そんな折、中庭で眉毛をハの字していた彼女に客が訪れた。
ノパ听)「はぁ? ……あぁ、えー、ダレだっけ?」
(*゚ー゚)「いきなりすみませんっ。初めまして、私は二年C組のしぃって言いまーす」
(#゚;;-゚)「妹で一年D組のでぃです。お姉ちゃんと新聞部をやらせてもらってます」
白いセーターを着た、明るいショートの茶髪で活発そうな少女はしぃと。
隣で灰色カーディガンを羽織った、ちょっとクセッ毛な黒髪でおとなしそうな少女はでぃと。
双子とまでは言わないがよく似た姉妹――彼女たちはそれぞれそう名乗った。
- 34 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/03/31(火) 23:47:52.26 ID:/CqLfUAVO
ちょっと可愛いじゃん、なんてのん気に思っていたヒートだったが、彼女らの言葉に挟まっていた新聞部の言葉へ敏感に反応する。
ノパ听)そ 「新聞、新聞部……はっ! つまり敵かああ!!」
(*;゚ー゚)「え?」
ノハ#゚听)「男じゃないが、ヤロオオオ――ッ! 白昼堂々とはいい度胸だなあああ!!
今の私はいつもより二百パーセントムシャクシャしてるぞおお! 来るなら来い!!」
(;#゚;;-゚)「ちょっとちょっと待って、誤解です! 私たち戦いに来たんじゃありませんっ」
(*;゚ー゚)「そ、そうなの、だから落ち着いて! 新聞部は武喝道に参加してないの!
それにあんまり騒ぎ立てたら、先生たちが聞きつけてきて武喝道の事がバレちゃいます!」
ノパ听)「声がデカイのは生まれつき――って、え?」
- 36 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/03/31(火) 23:56:12.79 ID:/CqLfUAVO
* * *
ややあって。
中庭は中央の噴水からささやかに水飛沫を上げている。なんとも平和な光景である。
ヒートはその縁に腰掛け、少し平静を取り戻すと改めて二人の話に耳を傾けた。
ノパ听)「つまり新聞部は最初からサバイバルを免除、その代わりに色々バトルの状況を調べて参加者に伝えたりするのか」
(*゚ー゚)「そうなんですー。なんかもともと、生徒会の人たちは私たちにそういう役柄をさせるつもりだったみたいねー」
ノパ听)「新聞とか作って教師にバレないのか? 掲示はマズいし、読んだら捨てちゃう奴もいるだろうに」
(#゚;;-゚)「えと、その点は大丈夫かと。ウチは紙媒体じゃなくてメール速報なんで」
ノハ;゚听)「またケータイ……」
ヒートは肩を落とす。
何故、こうも世は情報弱者に厳しい世の中になってしまったのだろうかと、携帯電話を持たぬ彼女は嘆いていた。
- 38 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/01(水) 00:02:58.07 ID:CEx0PH+nO
(#゚;;-゚)「はい?」
ノハ--)「いや、いい。お気になさらず」
(#゚;;-゚)「はぁ。えと、それでですね。今、私たちは武喝道リサーチの一環で参加者の情報を集めてるんです。
でもさすがに全員を網羅するとなると難しいので、優勝候補になりそうな実力者に絞っていこうかと……」
ノパ听)「ほほう、実力者とな」
(*゚ー゚)「そこで色々とインタビューして回ってるってことです! あなたも結構有名人だし有力株よ、『熱血喧嘩屋』さん。
早速だけど、このサバイバルに対して何か意気込みはある? 優勝賞金の目的は? 好きなお菓子とか、付き合ってる人はいる?」
(;#゚;;-゚)「お姉ちゃん……好きな人とか下世話すぎるよ」
肩に掛けた小型のレコーダーからマイクを伸ばし振り回すしぃ。
興奮気味に迫る彼女をでぃは溜め息交じりに制する。放っておけば、しぃは勢い余ってそのまま噴水に突っ込みそうなほどだ。
- 42 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/01(水) 00:09:09.36 ID:CEx0PH+nO
ノパ听)「うむ。そっちの質問聞くのはいいんだけど、私も聞きたいことがある」
(*゚ー゚)「ん? いいよ。折角インタビュー受けてくれるんだから、前払いで何でも教えてあげましょう!」
ゴホン、とヒートは咳払い。
ノパ听)「実力者の情報を集めているって言ってたよな? 今分かるだけでいいから、強そうな奴の名前を教えてくれ」
しぃとでぃは顔を見合わせた。
その時、彼女たちがほんのちょっとだけ笑みを浮かべたようにも見えた。
(*゚ー゚)「「お任せあれっ」」(゚-;;゚#)
二人は提げていたポーチに手を突っ込む。中から出てきたのは束になった写真と大量のルーズリーフ。
そして捲し立てるように二人は話し始めた。
- 44 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/01(水) 00:19:11.90 ID:CEx0PH+nO
(*゚ー゚)「まずはザッと有名どころから。二年B組柔道部のモナー、共に弓道・アーチェリーの部長である三年D組の流石兄弟。
あと二年A組槍術部部長のミルナ、この人はすごいよ。全国クラスの大会でも負けなしの強者で、通称『壱の槍』って呼ばれてるの」
(#゚;;-゚)「初日の戦績で見るなら、料理部の『野獣コック』・三年C組フサギコさんもすごいです。
始まって早々に文化部が陸上・バスケの二強を討ち取るなんて、誰も予想できませんでしたよ」
ノパ听)「お、そいつなら知ってる」
(*゚ー゚)「そうなんだ? えーっと他には三年E組シンクロ部の、『白鳥たち(スワニルダ・パ・ド・ドゥ)』のツンデレ。
同じクラスで幼馴染、水泳部の『豚鮫』内藤ホライゾン。あとは帰宅部がものすごく強いって話なんだけど……」
ノパ听)「帰宅部ぅ? それってアリなのか?」
(#゚;;-゚)「えぇ、でもまだハッキリとは正体がわからないんです。なんせそもそも部活じゃないし、ゲリラ的な参戦じゃないかと……」
- 46 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/01(水) 00:27:19.52 ID:CEx0PH+nO
(*゚ー゚)「特定はまだ先かな。あとね、これはとっておきだよ! 現在判明してるだけでこの人の撃破数は六つ!」
(#゚;;-゚)「少なくとも、私たちが調べ上げた中ではトップの成績です」
ヒートは喉を鳴らした。
まだサバイバルは始まったばかりだというのに、すでに六人も倒している。
戦闘の内容は窺い知れないが、どちらにせよ数字はその者の確かな実力を指示しているはず。
期待に胸を膨らませ、尋ねた。
ノパ听)「そいつの名前は……!?」
二人はその質問に重々しく、まるで爆弾を取り扱うかのようにそっと答える。
(*゚ー゚)「――二年F組の卓球部部長……」
(#゚;;-゚)「人呼んで、『凶星』のショボン……だそうです」
- 48 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/01(水) 00:32:31.55 ID:CEx0PH+nO
* * *
静謐な空気に包まれる武道場。
ドクオは一人、その空気を吸い上げる。心地よい、胸の中を通り抜けていくさわやかな感覚。
他に誰もいないそこは必要以上にだだっ広く、そんな中防具を着せた木人に正座で向かうドクオ。
眼を固く閉じ、呼吸を整えて精神統一。深く深く息を吸い、長く長く吐く。
ふと気が緩み、デミタスの顔がちらつく。すかさず首を振り、雑念を払った。
何も考えたくなかったのだ。サバイバルのことも、あの男のことも。
('A`)「……俺はどうすればいいんだ」
迷いはなかなか晴れてはくれない。
自分はこれからヒートにどんな顔をして会えばいいのだろうか。
自分はどうやってデミタスに本当の思いをぶちまけられるのか。
すべては霧の中である。
- 50 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/01(水) 00:41:34.49 ID:CEx0PH+nO
('A`)「やっぱり戦うしかないのか……色んなモノと」
彼が戦うには、まず相手に立ち向かうことが必要である。
今まで避け続けてきた道。敵意ある、脅威あるものから目を放さずに、前へ一歩踏み出す勇気。
('A`) (悩むことなんてないのに……。もう武喝道は止めたし、デミタスのことも放っておけばいいんだ。
結局俺自身が安全なら……問題がないのならそれでいい。他の部員なんて知ったこっちゃないんだ)
('A`)「そうだ、そうなんだ……でも……――ん?」
物思いに耽っていたドクオは顔を上げる。
武道場の奥、ちょうど出入り口の辺り。そこに人が倒れていた。
いつの間に現れたのか、うつ伏せになったその人物は入口の引き戸に手をかけたまま動かない。
グッタリとしているが体が小刻みに震えている。
- 52 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/01(水) 00:48:35.26 ID:CEx0PH+nO
('A`)「おい、あんたどうした?」
駆け寄るドクオ。見れば男のようだった。
肩に届く黒の長髪、制服はあちこちが裂け、肌が露出しているところにはいくつもの青あざがある。
案の定というか、ドクオも彼を見て薄々は気づいていたが、やはり胸ポケットには銀のバッチ。
軽音楽部、と表記されている。この男も武喝道の参加者なのだ。
おもむろに地に突いた手が何かに当たる。ドクオは目を向けた。
遠くからでは気付かなかったが、傍らにはエレキギターのような物があったようだ。
ドクオがそれをギターの『ような』物と思う理由はひとつ。
完膚なきまでに破壊されていたからだ。
ネックは折れ、ステンレスの弦はどれも明後日の方向に弾けてしまっている。
そのいたるところに、小さな球形のめり込み痕があった。
手のひらに収まるほどのサイズの、球形の何か。それがものすごいスピードと重量でぶつからなければこんな痕はできないだろう。
- 54 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/01(水) 00:54:32.89 ID:CEx0PH+nO
爪'ー`)「うぐ……ぐ」
注意しながら武道場の中へ男を運ぶと、呻き声が上がった。
固まった鼻血の痕を震える手で拭おうとする。だが上手く顔まで届かない
満身創痍だった。一体彼の身に何があったのだろうか。
('A`)「おい、おいしっかりしろ! どうしたんだ、何があった?」
爪'ー`)「くぅ……痛ぇ、うぐっぐ、うぐぅ……」
('A`)「お前もサバイバルの参加者なのか?! 誰にやられた? 一体誰が……こんなひどいことを……?」
痛みに呻く男は喋るのも辛そうだった。
これこそドクオが恐れていた事態。
勝利のために手段を選ばない者が現れたこと。
生き残るため、あるいはもっと別の理由かもしれない。
何にしてもこれはやりすぎだった。男は満足に立ち上がることもできないほどに痛めつけられている。
同じ学び舎にいる、そう年も離れていない者へ私欲のためにここまで暴力をふるうとは。
ヒートはこの戦いを遊びの一種と考えればいいと言っていたが、それは違ったようだ。
武喝道は初日にして既に、本物のサバイバルバトルと化してしまっている。
- 56 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/01(水) 01:01:01.88 ID:CEx0PH+nO
爪'ー`)「うぁ……あ、お、俺は一年のフォックス……軽音……部」
('A`)「フォックスだな? フォックス、誰にやられた?! 誰と戦ったんだ!」
爪'ー`)「俺……にげて……くっ、でも……追いかけて、きて、死ぬ、かと……」
('A`)「わかった、わかったから! 誰に……誰がやったんだ!?」
フォックスの言葉はあやふやだった。ボソボソと呟く最中も咳き込み、微量ながら血を吐く。
爪'ー`)「にげ……なきゃ、殺され、る……! きょ、きょう、『凶星』……!」
(;'A`)「……『凶星』? 一体何のこ――」
風の切れる音。
爪;'ー`)「う、うわあああああぁぁぁぁあ!!!」
- 59 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/01(水) 01:06:21.74 ID:CEx0PH+nO
ドクオの頬の横を何かが触れた。あまりにも速い、目にも止まらない速さで。
同時にフォックスが叫ぶ。まともに動かぬ体に鞭打ち、後ずさる。まるで何かから逃げるように。
その正体は、畳にめり込んだ鉄球だった。
ドクオの頬を掠めたの物の正体はこれだろう。
先程までフォックスが横たわっていたすぐそば、あと数センチずれていれば彼に直撃したであろう地点だ。
ほんの小さな――そう、ピン球くらいのサイズの鉄球。深々とめり込んだそれは凶悪なまでに黒光りしている。
(´・ω・`)「ひどいなぁ、逃げちゃうなんて」
('A`)「――っ!!」
声がした。
すかさず竹刀をひっつかみ、固く構えながらドクオは振り返る。
- 61 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/01(水) 01:09:37.75 ID:CEx0PH+nO
武道場の入り口に寄りかかるように男が佇んでいる。
中肉中背、マッシュルームカットのしょぼくれ顔。見た目に恐ろしさは感じない、どこにでもいそうな顔。
だが、決して彼は普通には見えなかった。
口からチラチラと垣間見える――鮫のように尖った歯。彼がくつくつと笑う度、それがガチガチと音を立てる。
短パンにラインの入った半袖を着ていて、それはドクオも見たことがある、卓球選手のユニフォームだ。
その証拠に卓球のラケットは持っている。しかして、かざしたラケットの上を上下に跳ねている物はピン球ではない。
――先と似たような鉄球だ。
ラケット上を鉄球が踊る。ゴン、ゴン、ゴン――と。
単調で、腹の底まで届きそうな重い、そして乾いた音を響かせて。
爪;'ー`)「うわあああ、やめてくれよお! もう嫌だ、負けでいい! 降参するぅう!!」
フォックスは悲鳴を上げる。壁際で立ち上がろうと必死にもがいている彼は、余りにも惨めに見える。
まるで肉食獣に追いつめられた獲物のように。
- 62 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/01(水) 01:13:15.49 ID:CEx0PH+nO
(´・ω・`)「逃げたことはもういいさ、ほら、立ちなよ。僕はまだ全然満足していないんだよ?」
しょぼくれ男はドクオのことが目に入っていないようだった。
鉄球を打ち続けながら、音もなく闊歩する。
構えたまま動けないでいるドクオの脇を通り過ぎ、ゆっくりと、そして確実にフォックスへと近づいていく。
(;'A`)「……こ、いつ……!?」
その瞬間、ドクオの全身から汗が噴き出た。
極度の緊張か、あるいは無意識の内に感じていた恐怖。それが一気に押し寄せてくる。
覇気のない顔を醜悪に歪め、鮫の牙を鳴らして笑う男は言い知れぬ狂気を孕んでいた。
今まであったどんな奴よりも、気味の悪い気配。
まるで恐怖という感情が、見えない鎖となって縛られたように、体は言うことを聞かない。
- 64 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/01(水) 01:19:03.73 ID:CEx0PH+nO
爪;'ー`)「やめてくれよおお!! 嫌だああ! 来るなああああああ――!!!」
(´・ω・`)「ひどいなぁ、どうしてそんなに怖がるんだい? もっと楽しもうよ。せっかくのお祭りなんだ」
手の届く距離。しょぼくれ男は鉄球遊びをやめると、フォックスにラケットの先をゆらりと突き付けた。
フォックスにはそれがまるで刀剣の切っ先のようにでも見えたのか、顔が青ざめ絶望に染まる。
爪;'ー`)「あがが、あひっ……ひぃいい……っ」
(´・ω・`)「さあ、はやくあそぼう」
(´゚ω゚`)「ぼくとあそぼおおおおおおおおおおよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
- 65 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/01(水) 01:23:24.87 ID:CEx0PH+nO
揺らぎ、地に伏す。
フォックスは頭から畳に倒れこみ、動かなくなった。恐怖に気絶したのか、白目を剥き口からは泡が吹き溢れていた。
しょぼくれ男はキョトンと彼を見つめ、足の先で二、三度突いてみるが反応はない。
――溜め息。
(´・ω・`)「なぁんだ、つまらないの」
とどめとばかりに思い切りフォックスの頭を蹴っ飛ばす。それでも彼は起き上がらない。
しょぼくれ男はフォックスのバッチをむしり取ると、くるりとドクオに向き直る。
今、初めて目が合った。
その瞬間、怖気が走る。
爛々と狂気に光る目に見つめられ、ドクオは更なる恐怖に襲われた。
もう言葉にできない、はち切れてしまいそうな緊張と戦慄。
まさに蛇に睨まれた蛙だった。
- 67 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/01(水) 01:30:31.39 ID:CEx0PH+nO
(´・ω・`)「やあ、僕はショボン。卓球部のショボンだ。君は? 君は何部だい? ねえ?」
(;'A`)「な、何だお前……いきなり」
しょぼくれ男――ショボンは退屈に辟易としていた表情に、再び気味の悪い笑顔を浮かべた。
(´・ω・`)「道着を着てる――見たところ剣道部かな。剣士か、いいね。まだ戦ったことないや。
面白そうだよ。君は他の奴よりも丈夫かな? 嬉しいな、楽しみだよ。雑魚ばっかで退屈だったんだ」
(#'A`)「て、てめぇ、他人をあんなにボコボコにして、何とも思わないのかよ!」
刹那的な怒りと、恐怖に飲まれたくないという思いからか。ドクオは思わず叫んでいた。
声を張り上げ、喉を絞り、できるだけ大声で。ショボンのプレッシャーに歯向かうように。
- 69 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/01(水) 01:34:11.13 ID:CEx0PH+nO
(#'A`)「ただの生徒会のバカ騒ぎじゃねーか! ここまでする必要があるのかよ! 答えろよ、おい!!」
(´・ω・`)「何を言ってるんだい? 僕は遊んでいるだけだよ。他の奴が脆すぎるだけさ。
強そうに振舞っているくせに、いざ戦えば弱い奴くて口先だけの奴ばかりで嫌になっちゃうよ」
(;'A`)「な、何だと?」
(´・ω・`)「どうでもいいんだよ、負けた奴のことなんか。大切なのは、今この戦いなんだよ」
ドクオは悟った。
違う。この男は根本的に違う。
自分や、普通の者とはまったく別の次元にいる。
ドクオが放つ全ての言葉が、常識がすり抜けていく。暖簾に腕押し、糠に釘――まるでそれだった。
- 71 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/01(水) 01:38:59.80 ID:CEx0PH+nO
ショボンはラケットを玩ぶ。笑いは止まらない。
まるで、クリスマスのプレゼントが届くのを待ちわびている子供のようだった。
あまりにも、あまりにも無垢な狂気。
(´・ω・`)「もういいかな? ほらほら、竹刀を構えなよ」
(;'A`)「……ま、待て! 俺はもう武喝道には……!」
感情に走りすぎた。ドクオの弁明はもう、意味がない。
(´゚ω゚`)「来ないならこっちからああああ行くよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」
恍惚に満ちた嬌声を上げ、ショボンは宙に踊り上がった。
第四話・終
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