ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです

3 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 21:45:34.86 ID:nz4hE+hv0

 期待があった。

 ヒートがいれば――彼女が傍にいれば戦況は変わるのだと。
 精神的にも戦力的にも、ショボンにさえ立ち向かうことは可能になるのだと。
 そう、ドクオは思っていた。

(´゚ω゚`)「ふぐふふふ、ぐぅふふぅう!! イイねその顔! 歪んでるね、絶望にぃ!!」

 その頼みの綱は断ち切られた。
 一撃、たった一撃である。ヒートはくたりと横たわり、目覚めない。
 朝のように、少ししたらまた立ち上がるのではないかという希望もある。
 だが、その淡い願いすら今は絶望的だった。

(;'A`)「ヒート……ヒート、おい! しっかりしろよ!」

5 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 21:48:43.91 ID:nz4hE+hv0

 構える竹刀の切っ先をショボンに向けつつも、大声でヒートを呼ぶ。
 ほんの少しでも、彼女の覚醒のきっかけになるように。
 ひたすら、血を吐く思いで叫び続ける。

ノハ )「――――」

 その静けさに、目の前が真っ暗となりかけた。

(´゚ω゚`)「もお、いいじゃないか。珍しくイイ動きするからビックリしちゃってさ、思いっきりブチ込んじゃったよ。
 やっぱり邪魔はよくないよね。だからさ、剣道部くん。まずは君と遊ぶよ。そいつはまぁ後からでもいいや」

( A )「……くそっ、くそっくそっくそぉおお!!!」

 叫んでもどうしようもないことは分かっている。
 滅茶苦茶に竹刀をブン回しても、事態は変わらない。

6 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 21:52:29.34 ID:nz4hE+hv0

( A )「戦うんだ、戦うんだ……一人で、俺が!!」

 声を上げ、言い聞かせ、自らを鼓舞する。
 未だかつてない恐怖に立ち向かう――その勇気を振り絞るため。

 ヒートを、守るため。

(#'A`)「うおおおおおおおおおおお!!!!」


 袈裟掛けに打ち込んだ。


8 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 21:54:47.65 ID:nz4hE+hv0

ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです

第七話『Stampede 〜Boys Side〜 』

9 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 21:58:05.84 ID:nz4hE+hv0

(´゚ω゚`)「――ふひひひっ!!」

 受け止められる。
 ラケット――ヒートとハインを一撃でノックアウトした強烈な武器。
 それはとても市販の木製の物とは思えない代物であるし、実際打ち込んだ感覚からもドクオは悟る。
 竹刀をビリビリと震わせる、その頑強さはとてもじゃないが木製ではない。

('A`)「鋼鉄のラケット……!」

(´゚ω゚`)「そうさ! 鉄板を厚重ねにした重量五キロの特注品! 震えが止まらないだろおお!!」

(;'A`)「ぐぅ――!!」

 狂気の声と共に、押し返される。
 鍔競り合ったまま、だが上段から押し付けていたドクオが徐々に跳ね返されていた。
 その見た目からは読み取れない、まるで重機のような人間離れしたパワー。
 彼は目の前にある物を全て踏み潰し、征服する。そのためだけに生まれてきたのだ。

11 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 22:01:21.26 ID:nz4hE+hv0

('A`)「るぅぅう――ああああッ!!!」

 このままでは、逆に押し込まれてしまう。
 ドクオは切り返し、距離を取る。
 あくまで相手の得物は卓球のラケット。距離を取れば長物である自分が有利のはず。
 確かにそうだった――だがその一瞬の考えは、ドクオの背に冷たい感触を走らせる。

(;'A`) (…………っ! しまった!!)

 この選択は間違いだ、という感触を。


(´゚ω゚`)「下がったね?! ふははははは、喰らいなよぉおおおお!!!!!」


 しかし、その時点で全てが遅かった。

12 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 22:05:07.27 ID:nz4hE+hv0

 鉄球とラバーの激突が高々と立てる音。
 打ち込まれ、剛速球となった鉄塊が風を切る音。
 そして鉄球が、ドクオの身を深く深く突き込む音。

 三つの音が巡り合い、奏でたのは痛切な叫び。

( A )「うぐぅああああああああ――――っ?!」

 一瞬で、踊り場は吹き荒れる鉄球の嵐に飲み込まれた。
 今までどこに隠し持っていたかも定かではない、尋常ならざる量の鉄球。
 それを神速の連続スマッシュで、ショボンは打ち込み続ける。

(´゚ω゚`)「どこまで? いつまで? 何発まで耐えられるぅぅううう――っ!!?」

 滑らかな腰の回転に、残像すら帯びる亜光速のスナップ。暴力の突風は止まることを知らない。
 ドクオは為す術もなく、鉄球を受け続けてしまう。

13 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 22:08:42.77 ID:nz4hE+hv0

 あの、一瞬の後退はやはり迂闊だった。
 続け様に二名を昏倒させたラケットの存在の大きさに、鉄球のことをすっかり忘れていたのだ。
 身を守るように構えた竹刀はあまりにも心許ない。直撃は免れてはいるが、完全に鉄球を防ぎきれてはいなかった。

(;'A`)「ぐぅうう! ちくしょおおお――!!」

 腕に、脚に、腹に、鉄球が容赦なく浴びせかけられる。
 このままでは埒が明かない。立ち止まっていては、悪戯に消耗するばかりだった。

('A`)「――ブッた斬って、間合いに飛び込む!」

 一閃。

 壁のように迫る鉄球の雨霰に向かって放たれる斬撃。それが一瞬の隙間を作る。

14 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 22:13:22.58 ID:nz4hE+hv0

 厚い雲に亀裂が走り、天から一筋の光が差し込んでくるかのように。
 ドクオにとっての希望と逆転の道標が、ばくりと眼前に押し広げられた。

('A`)「うりぃやあああああ!!」

(´゚ω゚`)「――――っ!?」

 自身の疲労の程も分かっていた。このまま時間が長引けば其れこそ勝利の可能性は消え失せる。
 故にドクオは、その踏み込みに全神経を集中し、全筋力を振り絞り――

 放った一突きは、ショボンの頸部に定められていた。


('A`)「鬱圓明流――『鬼灯(ほおづき)』ぃぃ!!!!」


16 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 22:17:07.85 ID:nz4hE+hv0

 嵐を切り裂き、雷撃のような刺突が唸る。
 纏う風圧が辺り一面を席巻し、突撃運動を繰り広げていた鉄球たちが四方へと霧散。
 間違いなくそれはドクオが今放てる最大級の一撃であり、確かに竹刀の切っ先はショボンの喉に食い込んでいた。

(´ ω `)「――――っ」

 食い縛った鮫の歯の隙間から血が流れる。醜悪な笑みを浮かべていた顔が、痛みで歪む。
 低い呻き声のような、小さな小さな呼吸が漏れるとショボンの身体が脱力。
 白目を剥き、膝を突くその姿を見てドクオは確信した。

 勝ちだ、幸運な勝利だと。

18 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 22:20:43.87 ID:nz4hE+hv0

 今までのドクオの経験上、例え防具をしていてもこの突きを受けて悶絶しない者はいなかった。それだけの威力を有した技。
 たとえ怪力で異常に勘の良い化け物でも、急所に思いっきり打突を加えられて倒れ伏さないわけがない。
 一瞬の差で勝ちを拾った。そう思った。自分もやればできるじゃないか、と。
 故に、歓喜の声が漏れるのは当然のことだった。

(;'∀`)「や、やった――」


 ぐるん。


 ショボンの目が転回する。
 溢れんばかりの生気に満ちた黒目が正中に戻り、弛緩していた顔の筋肉が再びドス黒い狂気の笑顔に包まれた。

(´゚ω゚`)「ぐひ――、ひひひひひひぃ!!!」

19 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 22:25:06.55 ID:nz4hE+hv0

 意識を取り戻したショボンは猛り、気味の悪い嬌声を上げながら力任せに竹刀の切っ先を掴み取る。
 抜かれた喉には黒々と突きの痣が残っていた。
 それでも、彼の暴虐は止まらない。

(;'A`)「う、うおお?! てめえ!?」

 迂闊だった。
 もしドクオが、先の一撃でショボンを倒せていなかったと気付けていたら。
 気付かずとも、せめて竹刀を手元に引き戻しておけば。

(´゚ω゚`)「つぅぅううかまえたああああああッ!!」

 ショボンは万力のような力で竹刀を振り回す。すっかり油断していたドクオにとんでもないことである。
 彼がその唯一の武器を手放してしまったことは、言うまでもない。
 吹き飛ぶ竹刀は階段の段差にブチ当たり、勢いの殺されぬまま根元から折れる。まるで爪楊枝か何かのように、あっさりと。
 ただ投げただけ。それでこの威力。
 ポッキリと分断された竹刀。その残骸はショボンの並々ならぬ腕力を物語っていた。

21 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 22:30:35.73 ID:nz4hE+hv0

(;'A`)「ぐ、くそ……」

 辺りを見回した。
 何の変哲もない階段の踊り場。ここには掃除ロッカーの一つすらなかった。
 ドクオが竹刀の代わりに使えそうな物は、特に。
 もう残っているのは身一つのみである。

(´・ω・`)「ふふ……ちょっと今のは効いたよ。避けるのも面倒なんで喰らってやったら、意外と痛くて痛くて」

 ゴキリゴキリと首を柔軟に回し、足元に血を吐き捨てる。
 その余裕は強がりでも何でもない。間違いなく突きが効いていない証拠だった。

(;'A`)「わざと喰らった……だと?!」

(´・ω・`)「んー、確かに普通の人が避けるのは難しいスピードと正確性だよね。でも曲がりなりにも僕は卓球部。
 反射神経には人一倍自身があるんだなぁ……あぁ、まぁその点じゃ君の反射神経もさすがだね。剣道部君」

(;'A`)「…………っ!!」

22 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 22:34:44.98 ID:nz4hE+hv0

 何がさすが、なのだろうか。
 これほどの実力差が――目に見えるほど明らかなそれがあっていいのだろうか。

 ショボンはじりじりとドクオを隅へと追い詰めていく。両眼はしっかりとこちらのそれを射止めていた。
 彼も負けじと睨み返しつつも、間違いなく後が無い。武器が無い剣道部など、何も出来ない木偶の坊。
 無茶を承知の素手で特攻か、あるいは撤退するか。どちらも希望の薄い選択だった。
 ならば、彼はどうするべきなのか。
 気付くと、既に壁際まで追い詰められていた。ショボンの荒々しい呼吸が肌で感じられる。

 ふと足元に、横たわったヒートの身体が触れた。


 ――「そいつはまぁ後からでもいいや」


('A`) (俺が今やるべきこと……)


23 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 22:38:18.65 ID:nz4hE+hv0

 身を屈め、目覚めないヒートを背に覆う。
 自分の身を盾にするように、ショボンが彼女に指一本でも触れないように。

(´・ω・`)「……それは何の真似だい?」

 終始狂喜の表情を浮かべていたショボンが、ここに来て初めて不快そうな顔をした。

('A`)「決まってる。ヒートが目を覚ますまで――いや、覚まさなくてもだ。お前にはこいつに手を出させない」

(´・ω・`)「もう武器も無い君が? どうして? さっきも見ただろう。そいつじゃ僕には勝てない」

('A`)「勝つとか負けるとかじゃない。守るだけだ」

 眉根が不穏に波立つ。ショボンは明らかに機嫌を損ねている。
 ドクオのまっすぐな瞳に。
 圧倒的な実力差をつけられ敗北して尚、曲がらない意志を灯した瞳に。

25 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 22:41:13.08 ID:nz4hE+hv0

(´・ω・`)「気に食わない」

 みしりと音を立て、握りしめていた鉄球が砕け散る。
 欠片が辺りに飛び散り、ドクオの頬を切った。
 だが、それでも彼はショボンを見つめることをやめない。

('A`)「何発でも殴ってみろよ。絶対負けねえし、倒れねえ。……お前の相手はオレだ!!」

 青筋が走った。
 ショボンはもう先程までとは全く違う感情に包まれていた。
 憤怒、激怒、怒髪天を突く――荒々しく猛り狂う怒りに燃え上がっている。

(´・ω・`)「その女の何がいいんだよ、え? 気に食わない、きにくわないぃぃぃ……!!!」

 ショボンはグリップがヘシ折れそうな力でラケットを握り締め、天高く構えた。

26 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 22:44:10.24 ID:nz4hE+hv0

 もはや体力も限界。武器も無いから防御も取れない。
 そんな状態で、五キロの鉄塊を身に受けて無事で済まないことはドクオも分かっていた。
 だが、退けない。
 もう心に決めたから。


('A`) (絶対に、逃げない!!!)


 身をさらに大きく広げ、目を閉じる。

(´゚ω゚`)「気に食わないんだぁよおおおおおおおおおおお――っ!!!!」

 ショボンのラケットが、空気を斬り裂いて唸り声を上げた。


27 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 22:47:08.66 ID:nz4hE+hv0



 静止。



 踊り場を覆い尽くす黄金色の軌跡。
 幾重にも折り重なり、四方八方を巡るその内の一本が、ショボンの振り下ろしたラケットを受け止めている。
 それはドクオの額からわずか数センチの位置だった。間一髪、という言葉がふさわしい。

ミ,,゚Д゚彡「――どうやら間にあったな」

 それは聞き覚えのある声。

('A`)「あんたは……!!」

 階下から現れるその者は、剛健な筋肉に包まれた大柄な体躯。
 使い込まれた白いエプロンは、窓から差す光を反射している。
 そして肩に担いだ中華鍋が、まるで聖なる剣のように迷い無くショボンへと向けられていた。


 彼の名はフサギコ。三年料理部部長である。


29 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 22:50:46.68 ID:nz4hE+hv0

(´・ω・`)「……また邪魔者かい?」

 ショボンは吐き出す怒りの捌け口も見つからぬまま、昂りに瞼を痙攣させながらフサギコを睨む。

(´・ω・`)「どいつもこいつもウゼェーんだよ。僕と剣道部君の……」

(´゚ω゚`)「邪魔をするなぁああああああ!!!」

 金色に煌めく線を振り払い、方向を変えると突進。
 ラケットを腰溜めにフサギコへと猪突猛進する。

(;'A`)「気を付けろ!! そいつタダモンじゃねえ!!」

 ドクオの言う通りである。
 ショボンは生半可な戦士では無い。油断をすれば一撃でやられてしまう――そう、ヒートたちのように。
 だと言うのにフサギコは構えない。まるでショボンとの間に見えない壁があり、そのことを知っているかのような余裕である。

ミ,,゚Д゚彡「……やってみろ、『凶星』っ!!」

31 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 22:54:42.53 ID:nz4hE+hv0

 銀の光沢が一文字に走った。

 中華鍋とは別の手に握っていた湯切り網。それが高々と音を立て振り抜かれる。
 瞬間、空中を飛び散る熱湯と共に再び黄金の軌跡が走った。
 波打ち、貫き、曲がり、巻き付く変幻自在さ。その剛の弾けと柔のしなりで宙を舞う。

('A`)「これは……!?」

 視界を覆い尽くすそれは超スピードで広がり舞う。
 ほのかに鼻腔をくすぐる、芳しい香り。


('A`)「――『麺の結界』!!」


 しっかりと確認すればすぐに分かる。踊り場を縦横無尽に覆う、それは中華麺。
 手摺りや照明を軸に往復し、辺りを何重に交錯する麺は結界となった。

34 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 22:58:39.47 ID:nz4hE+hv0

 それは攻撃を通さない絶対の盾にして――獲物を絡め取る蜘蛛の巣。

(´゚ω゚`)「ぐっ……!」

 突っ込むと同時にショボンは麺に身を囚われる。
 両手、両足を雁字搦めにされた彼に、もはや動ける隙は皆無に等しい。

(´゚ω゚`)「ざっけんなよぉぉお! ラーメンなんか引き千切って……!!」

 ヒートを一撃で昏倒させ、素手で竹刀を叩き折る怪力。それを用い、ショボンは麺の拘束を破ろうとした。
 だが、ビクともしない。
 柔らかいがしっかりとした弾性を含んだ麺は、引っ張ろうが握ろうが全く千切れない。

ミ,,゚Д゚彡「特製の打ちたてシコシコ麺だ。完璧なゆで加減だと歯触りは最高、だが固茹でになると噛み切るのは難儀かもな」

(´゚ω゚`)「てめえええ……くっそがぁああ!!」

ミ,,゚Д゚彡「――ゴラァアっ!!」

35 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 23:01:49.28 ID:nz4hE+hv0

 身動きを封じたところへ、思いっきり振り回された中華鍋が激突する。
 固定されたままでは衝撃を殺すこともできない。火花を散らし、派手な打撃音を高らかに響かせショボンは麺ごと吹き飛ぶ。
 だがそれで終わらない。まるでリングロープのように、麺は彼をフサギコの元へと跳ね返した。



ミ,,゚Д゚彡「ゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴラゴルァァアアアア――――ッ!!!!」



 殴り、跳ね返り、殴り、跳ね返り、殴り、跳ね返り、殴り、跳ね返る。
 受け身も防御も回避も後退も、何もかもを許容しない。容赦無き、鍋による無数の乱打。

36 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 23:04:48.29 ID:nz4hE+hv0

ミ,,゚Д゚彡「ゴルァァアアアアアアア!!!」

(´゚ω゚`)「――――っ!!」

 とどめと言わんばかりの、今までで一番勢いのついたスィングがショボンの顔面をジャストミートする。
 幾度となく跳ね返り吹き飛ばされていたが、ここでついに麺の耐久力が尽きたらしい。
 ブチブチと音を立て、麺の束は千切れる。拘束から解放されたショボンは、弾丸のように吹き飛ぶと壁に激突。
 その筆舌に尽くしがたい威力。衝突の殺されぬまま、彼はぶつかるままに壁を突き破る。
 鉄筋コンクリートを砕き散らして、麺に簀巻きにされたショボンは視界から消え落ちていった。

 痛みに軋む体を引きずり身を乗り出すドクオは、舞い上がる砂塵に覆われた眼下を見定める。

('A`)「た、倒したか?」

ミ,,゚Д゚彡「いや、手応えが浅い。それに物凄く硬い奴だ。一番良い鍋がベコベコになっちまった」

37 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 23:08:14.15 ID:nz4hE+hv0

 吐き捨て、フサギコは鍋を放り投げた。
 床を跳ね返るそれは無残にもあちこちがへこみ、柄もひん曲がっている。
 もう調理道具としても武器としても役に立たないだろう。

('A`)「ていうか、あんたどうしてここに?」

ミ,,゚Д゚彡「後で言う! とりあえず今は逃げるぞ」

 そそくさと彼は床で伸びていたハインを肩に抱え、顎でヒートを指し示す。

ミ,,゚Д゚彡「外は火災で大騒ぎ、『凶星』も今すぐには追跡出来んはずだ。早くヒートを担いで来い!」

(;'A`)「わ、わかった!」

 ドクオもそれに続く。全身が疲労と負傷でボロボロだったが泣き事を言っている暇もない。
 すっかり脱力してしまったヒートを何とか肩にもたれかかせ、下の階へと走り出すフサギコに付いて行った。

40 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 23:11:23.00 ID:nz4hE+hv0

 * * *

 戦闘があった場所は三階踊り場。
 そこから落下したのだ。普通ならば大怪我以上の結果は免れない。
 無論、ショボンも無傷では済まなかった。だが、決して再起不能ではない。

(´・ω・`)「…………」

 その身は外の垣根に仰向けに落ちていた。クッションとなって最悪の事態は免れたらしい。
 目を覚ますと彼は解けかかった麺から腕を伸ばす。
 二、三度握っては開いてみた。動く。問題無く動いている。

(´・ω・`)「我ながら丈夫だね」

 残っていた麺を全て毟り取り投げ捨てる。立ち上がってみるその身からは、ミシミシと骨の軋む音が大合唱となった。

42 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 23:15:01.09 ID:nz4hE+hv0

(´・ω・`)「それでも絶好調じゃないか。しばらく休息がいるかな」

 動けないわけではない。だがこれ以上他の者を相手に暴れまわっても、今の彼には満足できない。
 そう簡単に取り除けないしこりが心に沁みついてしまったのだ。
 ドクオ、という名のしこりが。

 それは身を震わすほどの、欲求。

 ドクオにもう一度見えたい、戦いたい、壊したいという狂おしいほどの欲望。

(´゚ω゚`)「……待っていてよ、剣道部君。次は逃がさない」

 傷まみれの顔を狂喜に歪めて、ショボンはその場を後にするのだった。

44 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 23:18:48.44 ID:nz4hE+hv0

 * * *

ミ,,゚Д゚彡「スープの仕込みに夢中になっていたら、警報に気付かなくってな。こんな時間まで居ちまった」

('A`)「夢中なんてレベルじゃねーよそれ……」

ミ,,゚Д゚彡「で、もしかしたらと思ってな。案の定、お前と『凶星』がやり合っているところを見かねて飛び込んだってわけだ」

 東校舎一階。すでにドクオとフサギコはもう走るのを止めていた。周りに敵の気配もないと判断したのだろう。
 避難が完了しているらしく、廊下を一般の生徒が出入りしている姿は見られない。

('A`)「『凶星』……ショボンのことはどこで?」

ミ,,゚Д゚彡「新聞部のメールだ。口コミでも広がっている。もう知らない参加者はいないだろうな」

45 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 23:22:34.89 ID:nz4hE+hv0

 ドクオは言われてみて、今日初めて携帯をチェックしてみる。
 幸い防水に優れた機種だ。風紀員にぞんざいに扱われた割には、機能に問題もなく電波も立っている。
 メールボックスには一件の未登録のアドレス。タイトルは新聞部広報と打ってあった。
 読む元気もない。
 むしろ文章よりもずっとリアルに、『凶星』の恐ろしさは味わったのだ。

ミ,,゚Д゚彡「恐ろしい奴だ。初日で既に六人倒している。オレや他の運動部たちが霞む勢いだよ」

('A`)「……いや、多分それ、もう七人に増えてるよ」

ミ,,゚Д゚彡「…………?」

 不幸な犠牲者、フォックスの顔がドクオの頭に浮かんでくる。
 己の身を守るために逃げてきてしまったが、彼は無事なのだろうか。

46 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 23:25:50.74 ID:nz4hE+hv0

 少なくとも、もう武喝道に参加することはできないだろう。しかしそれ以前に酷い怪我を負っていた。
 見知らぬ他人だったが、今思うと見捨ててきたようで、ドクオは胸を痛めるばかりである。

('A`) (あいつがやられたのはオレの責任じゃない……でも、後味悪いな……)

 自分が関わった者が酷い目に遭い、それに対して何の救いの手も差し伸べてやることができない。
 歯痒い思いだった。ヒートを完全に守れなかった今としては。

ミ,,゚Д゚彡「……とにかく、火の元からは離れたが安心できない。早く外へ――」


(;、;*川 「あばばばば、ちょ、だ、誰かぁ〜……!」


 ふと、声がする方に二人は目をやる。
 半開きになった保健室の引き戸から、涙目になりながらヨタヨタと這いずり出てくる者がいた。
 VIP学園所属養護教諭、ペニサス伊藤だ。

47 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 23:29:03.62 ID:nz4hE+hv0

 * * *

('、`;川 「もぉー本当に怖かったのよぅ! あたし避難訓練でも泡食っちゃうのに、本物の火事なんて生まれて初めてだったから腰抜けちゃって……!」

 ペニサスは興奮気味にまくし立てると、腰掛けた保健室ベットの上で苦痛で眉間に皺を寄せた。
 見たところ本当に腰が抜けてしまっているようだった。ドクオもフサギコもやれやれという感じで顔を見合わせる。

ミ,,゚Д゚彡「伊藤先生、苦しいのは分かりますけど早く逃げた方が……」

('、`;川そ 「かかか勘弁して、先生動けないの! 今動いたら、文字通り腰砕けで最悪の状況になっちゃうわ!」

('A`)「保健の先生が腰抜かして動けないとか……」

('、`;川「保健の先生だからって医者じゃないのよ! 万能じゃないの!」

 たわわな胸を揺らし豪語するも、またも腰部に激痛が走ったのか気の毒な声を上げてベソをかく。

48 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 23:32:23.76 ID:nz4hE+hv0

 二人もこうなったらペニサスを見捨てていくわけにもいかなかった。
 火事なのは確かだが先程見た感じでは煙も火も出ていなかった。加えて、今は反対側の校舎。それほど焦ることもないかもしれない。
 ただ危険なのは変わりないと判断し、一時的にヒートとハインを休ませる名目でペニサスの回復を待つことにする。

 空いたベッドに二人を寝かせ、ドクオは即席で濡れタオルを額に乗せた。

 顎に痣を残したヒートはいつもの騒がしさが嘘のように、静かで規則的な呼吸音だけを響かせる。
 紅玉のように眩い赤髪も、今はおとなしく床に横たわるだけ。

('A`)「しっかりしろよ、ヒート……ん?」

 まじまじと見ると彼女はつやつやと綺麗な肌で、ドクオも改めて異性として確認させられてしまう。
 少し息を呑む。気が付かなかったが、よく見れば濡れ鼠だ。
 透けたシャツからは下着が見えそうになっている。
 ヒートのこと、スポーツタイプなのかと思えば意外や意外に――

49 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 23:36:23.12 ID:nz4hE+hv0

ミ,,゚Д゚彡「ヒートは大丈夫なのか?」

(;'A`)「え? あ……あぁ、顎を殴られて気絶してるんだ。そんなひどい怪我じゃないとは思う」

 フサギコに声を掛けられて我に帰る。何だか一人で悶々とした微妙な雰囲気になっていた。
 冗談じゃない、ヒートは幼馴染だ――と振り払い仕切りなおす。 

('A`)「その小さい奴の方も大丈夫だとは思うんだが……、本当のこと言うとこっちは油断できない。
 今朝、俺らはこいつに襲われたんだよ。その時は何もかんもいきなりだったんで、武喝道のことさえ知らなかったんだが」

ミ,,゚Д゚彡「そうか……。そう思うと、ヒートがこいつとつるんでいるのも不思議だな」

 ハインの顔を覗き込む。
 まっ白い肌に長いまつげ、癖がキツくてあちこちに跳ねてはいるが細やかで銀糸のような髪。
 まるで人形か何かのような、とても端正な顔立ちだった。
 こんな品のいい器量良しの彼女が、一体何を思い自分を襲い、そしてヒートと連れ立っていたのか。
 ドクオには想像が付かなかった。

51 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 23:40:28.32 ID:nz4hE+hv0

('、`*川 「ねぇ、あなたたち。何コソコソ話してるの? 『ブカツドウ』ってクラブのこと?」

 ドクオとフサギコは揃ってギクリと肩を震わせる。忘れていた、ここには無関係のペニサスもいたのだ。
 慌てふためき、言い訳を始める。

(;'A`)「そ、そうそう、クラブ! こいつ空手部だから! 色々あってノックアウトされちゃって」

('、`*川 「ヒートちゃんは知ってるけど、もう一人の子はよく知らないわね。空手部じゃないんじゃない?」

ミ;,,゚Д゚彡「ははは、いやそんなこと言ったら俺も料理部ですけど。ほら、まぁ部と関係ないただの友達ってやつですよ」

(;'∀`)「そ、そーですよねフサギコ……先輩! 先輩は料理も美味くてマッチョで頼りになるからなぁ!」

ミ;,,゚Д゚彡「ふはは、褒めるな褒めるな!」

 バシバシバシ、と無理矢理に肩を叩き合い褒めそやす。
 自分たちでも怪しい言い分だとは思っていたが、今はこれ以上どう説明すればいいか見当もつかない。

52 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 23:43:53.51 ID:nz4hE+hv0


从 -∀从「んっ……ここは?」

ノハ-听)「うー、なんだあ?」


 そんな折、最悪のタイミングで二人が目覚めてしまう。

('、`*川 「あら? お友達さんたちが起きたんじゃない」

('A`)「うわ――」

从;゚∀从「え? 何だ、何のことだ? ってかここは……」

ノパ听)そ 「ぬぉ! ここ保健室じゃん――ってかショボン! おいドクオ! あいつどーした!」

('、`*川 「…………?」

('A`) (あぁぁああん、もおおおおう!)

(;'∀`)「おぉう! よく起きたな二人とも! ほら先輩、彼女のハインさんも起きましたでっせ! いつものハグを!」

54 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 23:46:26.61 ID:nz4hE+hv0

ミ,,゚Д゚彡「ぅなっ?!」

('A`) (話合わせろ!)

从;゚∀从「???」

ミ;,,゚Д゚彡「お……おぉう、そうだった彼女! 君は彼女で俺彼氏だったな! そーれ高い高ーい」

 がむしゃらに突っ切るしかないと判断したフサギコは、おもむろにハインの腰を両手でクラッチすると天高く掲げる。 
 それが恋人同士の仲睦まじい行為のつもりならば、少しズレているとしか言えない。

 掲げられた本人も、そこでやっとペニサスの存在に気が付いた。
 武喝道参加者が情報を絶対に隠匿しなければならない相手――それは教師。
 状況もまともに判断できてはいないが、とりあえずこの場はドクオの手筈で演技をする。

从;゚∀从「そ、そうねー! お前は彼氏でオレ彼女だよなー! 高い高い……」

从#゚∀从「……い、いやマジで高い!! 下ろせ! この超ハイスペックな頭をぶつけたらどーする!」

ミ;,,゚Д゚彡「うお、す、すまん!」

55 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 23:49:55.53 ID:nz4hE+hv0

 危うく天井に首から先が埋まってしまうような勢いだった。ジタバタと暴れるとハインは無理矢理着地する。

 ペニサスが二人に気を取られている間に、片やドクオはヒートと額を突き合わせ小声で耳打ち。

ノハ;゚听) (ドクオ! 一体何が何だかワケワカメ!)

(;'A`) (先生がいるとマズイのくらい分かるだろ! 適当に話合わせて、ズラかるぞ!)

ノパ听) (全然分からんが、そこだけ把握した! 後でちゃんと説明しろよ!)

('、`*川 「今度はこっちが内緒話? もーなんなのよー」

 またもペニサスは密談に首を突っ込んできた。
 日がなパンジーに囁くのが趣味なだけあって、声なき声を聞きとるのが得意なのだろうか
 ドクオがまた適当な言い訳を言おうかと口籠っている間に、ヒートが叫ぶ。

ノパ听)「わあああ!!! ペニたん! 大変だよやばいよ! 火が近づいてる音がする! もう上の階かも!」

('、`;川「え? や、やだ脅かさないでよヒートち――」

56 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 23:53:06.26 ID:nz4hE+hv0

ノパ听)「そんなこと言ってると屋根が崩れ落ちる! 煙充満! 逃げ遅れてアッチアチだぞおお!!」

('、`;川「だからそんな――」

 どう聞いても冗談にしか聞こえないヒートの大騒ぎに、ペニサスはもぞもぞと言葉を詰まらせる。
 次第に顔色も青くなってきた。

(;、;*川「あわわわわわ! 確かにそうかも! 隣の校舎だからってのんびりしてる暇なんて無かったわ!
 って、うぐぅ!! あぁぁぁぁダメだわあたしまた腰が抜けて動けないいぃぃ! 煙吸って死んじゃうぅう」

 ヒートはドクオに『どうよ?』と囁く。彼はやれやれと肩をすくめた。
 珍しくヒートにしては機転の利いた作戦である。

ノパ听)「安心しろ! ペニたんは私が運んでやる! 今すぐ大脱出だ!! 行くぞ野郎ども!」

 床に四つん這いになったままオロオロと泣き出すペニサスを小脇に抱え、ヒートは我先にと進みだす。
 罵詈雑言で罵っているハインと、罵られているフサギコも気付いたらしい。軽く頷くとヒートの背を追うドクオに続いた。

 こうして、長いようで短かった武喝道初日――そしてショボン襲撃の騒ぎはドタバタのうちに幕を閉じるのである。

58 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 23:55:47.02 ID:nz4hE+hv0

 * * *

 帰る頃にはすっかり日も傾き、ドクオは身も心もクタクタだった。
 差し込む夕日が目に沁み入る。片や、早々に気絶したヒートは元気そのもの。
 だがそれも体力の話。精神的にはと言うと、なかなか芳しくないものだった。

('A`)「もぉ、疲れたよ。今日は色んな事がありすぎた……」

ノパ听)「そうだな」

('A`)「あの後、すぐに避難しなかった事を怒られたし。でも結局、火元はお前らが原因の小火で大したことはなかったけど……。
 ハインには明日もフサギコ連れてツラ貸せとか言われーの……ホント、今までの無気力ライフが嘘みたいだ」

ノパ听)「そうだな」

('A`)「……どうしたヒート、元気ないぞ? まぁそれもそうか、あんだけ――」


ノハ#゚听)「負けた!!」


59 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/13(月) 23:58:52.41 ID:nz4hE+hv0

 斜陽をバックに仁王立ちとなったヒートは爆発するかのような声でたった三文字、吼える。
 びりびりと肌に感じる振動。ドクオは深くため息をつく。

('A`)「もういいだろ、そういう時もある」

ノパ听)「でも、でもムカつく! 本当に久しぶりの負けだ! それにスゲー……」

 彼女は俯く。その身に渦巻いているものが怒りなのか、歯痒さなのか、本人も分からない。
 ただそれはドクオを見ていると、吹き零れそうなほどに膨れ上がってくる。

ノハ--)「スゲー……カッコ悪い負け方だった。しかもお前の目の前で。めっちゃカッコ悪い」

('A`)「……ヒート」

 ドクオもあの時は必死だった。
 ただヒートを守ろうとがむしゃらに突っ込んでいって、フサギコが助けてくれて、何とかここに事無くして立っている。
 全ては偶然や不確定な要素で手に入れた無事だった。

61 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/14(火) 00:02:20.64 ID:O0h609dh0

('A`)「ヒート、多分ショボンはまた俺らに付きまとってくる。その時は――」

ノパ听)「決まってる! 今度こそ後れは取らない! 私とお前、無理なら私一人ででもあいつを……」

('A`)「いや、俺がやる。一人でな」

 並び立つドクオはヒートの肩にポンと軽く手を置いた。
 だと言うのに、ヒートはその手にひしひしと力を感じる。決意のような熱い何かを。

ノパ听)「何で!!」

('A`)「元々俺が買った喧嘩だ。やっぱり、俺一人でケリを付けた方がいい」

ノハ#゚听)「先に目を付けていたのは私だ! お前……それに一人で勝てるとでも思ってんのか?!」

('A`)「……正直、自信は無い」

ノパ听)「だったらよお……!」

62 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/14(火) 00:05:32.50 ID:O0h609dh0

 胸倉を乱暴に掴まれたドクオは、それでも燃え盛るヒートの目を睨みつけている。

 確かに、一人でも勝率が低いことは重々承知のこと。だがそれでも、一度ちゃんと向き合って戦ったからこそ理解できる。
 ショボンの危うさは、ヒートのそれに酷似していると。
 あの戦いへの際限ない狂喜――それは、自ら進んで過酷な戦場へと身を投じるヒートにダブって見えてしまう。
 今のヒートは前が見えていない。敗北に心が滾り、見境なく触れる物を壊しそうな有様だ。
 その暴走の行きつく先は――ショボン、彼の姿がある。

 今の彼女を、ショボンと戦わせたくない。

 そのせいで、彼女が暗く深い狂気の谷底へと引きずり込まれてしまいそうな恐れが、ドクオにはあったのだ。

 そして、ヒートと似たものを感じるからこそ、自分がショボンと戦わなくてはならない義務を感じているのだ。

64 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/14(火) 00:08:26.25 ID:O0h609dh0

('A`)「でも譲れない。頼む、いや後生だ! ショボンとは戦うな、俺に戦わせてくれ」

ノパ听)「ドクオ……! どうしてそこまで!」

('A`)「どうしてもだ、こればっかりは。俺が戦わなきゃいけない、そしてお前に戦わせたくない理由があるんだ」

ノパ听)「……ドクオ」

( A )「マジで頼む、分かってくれ!」

ノパ听)「…………」

 もう、ドクオを吊り上げる拳には力が入っていなかった。
 ゆっくりと地に足が付く。ドクオは制服を整え、取り落としてしまったカバンを拾い上げた。
 ヒートはもぐもぐと口を動かしている。何か言いたげだが、言葉が見つからないようだ。

 しばらく黙りこんで、ついに観念したのか一際大きなため息をつく。

66 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/14(火) 00:11:07.60 ID:O0h609dh0

ノハ--)「くっそー……何だよもう……わかったよ! 私はショボンのことは諦める」

('A`)「ヒート……すまん」

ノパ听)「いい、他にも強そうな奴一杯いるし退屈しない。でも、もしお前が負けたら敵討ちはする。それはいいよな?」

('A`)「……あぁ、その時はよろしく頼むよ」

 何気なく差し出されたドクオの手。

ノパ听)「…………」

 ヒートはそれをじろじろと見分すると、自分のそれをスカートでパンパンと払い、握る。

ノハ--) (ドクオの奴……)

 もう一度スタートするための。
 戦い続ける覚悟を決めるための握手だった。

67 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/14(火) 00:13:10.11 ID:O0h609dh0

('A`)「……じゃあ、帰るか」

ノパ听)「……うん」

 二人は、もう一度夕日に向かって歩き出す。

ノパ听)「あ! ドクオんちにご飯食いに行っていい? ウチ、今日食い物が何も無いんだけど……」

('A`)「いいけど食ったら帰れよ」

ノハ*゚听)「おうおう、帰る帰る! でもめんどくさくなったら泊まるかも」

(;'A`)「帰れ!」

 そして、今日が過ぎていった。

 本当に、慌ただしいまでの一日が。

第七話・終


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