- 18 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/24(金) 23:44:04.13 ID:J/dRS4Kk0
ハインとフサギコが渡辺の温室へ向かっていた頃、ヒートとドクオはまた別の騒動に巻き込まれていた。
正確には巻き込まれた――と言うよりは、追い詰められていたの方が正しいだろう。
('A`)「ぅおっ! あぶねぇ!!」
廊下で身を躱すドクオ。そのスレスレのところを駆け抜けていく白球。
余りにもずば抜けたスピードを孕んだそれは、もはや白い軌跡となって飛んでいく。
ノパ听)「邪魔だ!!」
剛腕に物を言わせ、ヒートは素手で白球を叩く。
- 21 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/24(金) 23:47:04.63 ID:J/dRS4Kk0
軌道を反らされたそれは逆方向へと弾けた。
程なくして外に面した窓ガラスに激突。廊下を破片が飛び散る音が、戦闘の大合唱のエッセンスとなる。
「おらっ! 血も滲むような一万往復キャッチボールの日々で鍛えた肩の威力、もっぺん受けてみろ!」
白いキャップ帽に、同じく白だがスライディングの賜物によってか茶こけた色となったユニフォームを着た少年たち。
三人でトライアングルの隊形をとり、廊下を逃走するヒートとドクオを追跡する。
この恰好を見れば十人が十人同じ答えを返す。
彼らの部活は何だろうか。
無論、野球部である。
- 22 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/24(金) 23:49:04.53 ID:J/dRS4Kk0
ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです
第九話『疾風、逆巻く』
- 24 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/24(金) 23:52:34.47 ID:J/dRS4Kk0
赤っ恥に終わった四時間目はドクオの精神に深い傷を残したが、過ぎたものは過去である。
やれ勉学の疲れを解消するためと、フサギコの料理に舌鼓を打とうやってきた二人。だが生憎、食堂に彼は不在。
仕方なく購買のパンでお茶を濁そうとしてきた時である。
四方八方から遅い来る白球の狙撃。
ヒートの勘が頼りになったのか、間一髪で事無きを得た二人だったがパンの陳列ケースは尽く破壊されてしまった。
腹に入れるモノも入れられず、衆目を避けるため二人は逃走劇へと身をやつすことになる。
――そして現在、再び襲撃者たちの投擲が彼らを襲う。だが今度は三人同時だった。
「「「バックホオォォームッッッ!!!」」」
叫びと共に三つの剛速球が、射抜かれた矢のように凶悪な速度をもって二人に迫る。
- 25 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/24(金) 23:55:18.96 ID:J/dRS4Kk0
ノパ听)「ヤロォオオ! 三つでも五つでも殴り返して――」
('A`)「さすがに三人は分が悪い! それに狭くてここじゃ戦い辛い! 外に抜けるぞ!」
ノパ听)「……ちくしょおおおお!!!」
ドクオに襟首を掴まれ、半分引きずられるようにしながらもヒートは間合いを取る。
頬を白球が掠めていった。痛みが走る。それは頬にできた、鋭利なナイフで切り裂かれたかのような傷のせいだ。
この球を直接身に受けていたら、どれほどの威力なのだろうか。
そう考えるだけでヒートの身は緊張に強張り、また興奮に奮え立つ。
ドクオの強引な先導により、東校舎一階を駆け抜ける。
間もなく見えてくる玄関口――だが、敵も一筋縄ではいかないらしい。すでにまた別の三人の待ち伏せがそこにはいた。
皆々一様に同じユニフォームで、木製バットを刀のように正眼に構える姿は一瞬息を飲むほどのプレッシャーだ。
- 26 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/24(金) 23:58:11.32 ID:J/dRS4Kk0
('A`)「待ち伏せかよ!!」
ノパ听)「左だ!! 勝手口から裏に出る!!」
ようやっとヒートもドクオの手を払い、並走すると待ち伏せたちを眼前に急遽、左へ急カーブ。
人気のない空き教室の前を走り抜け、普段生徒の使用しない管理人用勝手口へと急ぐ。
もう視界に映るほどの距離。二人の間に、襲撃者への反撃の闘志が湧き上がるその刹那――
ばたん、と。
乱暴に叩きつけられるドアの音と共に、勝手口から二人組の野球部員が飛び出してくる。
挟み撃ち、伏兵、罠――様々なワードがドクオの思考を蹂躙する間も、敵は振り上げたバットを脳天へと打ち込もうとしていた。
止まれない。もし止まれば背後の敵にやられてしまう。地利も状況も最悪だが、もはや強引に突っ込むしかないと彼は判断する。
ノパ听)「窓だああああああ!!!」
だが走り出したヒートには、誰も逆らえない。
- 28 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 00:01:16.66 ID:9FgLzztt0
今度は反対にヒートがドクオの襟首を引っ掴み、彼ごと右方向へとタックルする。
狙いは廊下の窓。並ぶ無人教室と廊下を挟んで面していたそれは、青空輝く屋外への唯一無二の脱出口。
先の物とは比べ物にならない大音響で、窓は砕け散った。
ノパ听)「着地成功ぅ!!」
('A`)「失敗だ!! いきなり無茶すんなよ!!」
砂埃とガラスの欠片をまき散らし、窓を突き破った二人は大地に転げ出る。
何とか受け身を取ったものの、今の一瞬はかなりヤバかっただろう。
まさに袋の鼠。こちらの動きをあらかじめ予測していたかのような、見事な追い込みであった。
しかし窮地を脱したのも束の間、躍り出たグラウンド前広場には既に野球部員たちによる包囲網が完成していた。
- 30 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 00:04:08.42 ID:9FgLzztt0
まさに、今の決死の脱出すら予測の範疇だったのだろう。
( ´ー`)「まんまと引っ掛かってくれたんだーヨ」
集結した八人の部員たちが一斉にキャップを剥ぎ、気持ちの良い声であいさつをする。
グラウンドから広場に繋がる階段を悠々と登り詰め、木バット片手に現れた追跡者たちの首魁。
ガッチリとした体形に細い眼、丸めたイガグリ頭がいかにもといった野球男である。
( ´ー`)「野球を制するのはチームワークと情報だーヨ。お前らはオイラたちの作戦にハマってくれたんだーヨ。
『天才(ジーニアス)』ハインリッヒ高岡や『野獣コック』フサギコと怪しい会合開いていたことは、方々に散っていた偵察部員から確認済みだーヨ」
ノパ听)「だーヨだーヨとうるせええ! 私たちが何しよーがテメエには関係ないだろうが!」
( ´ー`)「そんなことネーヨ。このままお前らみたいなチームを放っておけば、後々に目の上のタンコブになるのは見えてるんだーヨ。
だから早めに潰せるところは潰しにかかる……青田刈りと同じだーヨ。早ければ早いほど効果的なんだーヨ」
('A`)「……いきなり襲ってきといて、ブツクサとうるさい奴だな。名前くらい名乗ってもいいんじゃないか?」
- 33 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 00:07:14.06 ID:9FgLzztt0
( ´ー`)「おっと、失礼なんだーヨ。オイラは三年A組、野球部部長のシラネーヨだーヨ。ネーヨと呼ぶがいいんだーヨ」
ノパ听)「だからだーヨだーヨと……」
ノハ#゚听)「うるせええええええんだよおおおおおおお――ッ!!」
痺れを切らしたらしい。
ボキボキと拳を鳴らし、戦闘準備が整うや否やヒートは飛び出す。大地を割らんばかりの踏み込みで。
まさに怒れる鉄砲玉。そして余りにも迂闊な突撃。
ドクオが制止する暇もない。闘争心で火の玉のように燃え上がった彼女は、一直線にネーヨへと突っ込む。
間合いに侵入すると下腹部から天高くへと、彼方まで吹き飛ばしそうな勢いでアッパーを打ち込んだ。
- 35 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 00:10:19.89 ID:9FgLzztt0
( ´ー`)「馬鹿はこれだからやりやすいんだーヨ」
だが、決め手は防がれる。
三人を取り囲んでいた野球部員たちの一人が、いつの間にネーヨとヒートの間にインターセプトしていた。
彼が纏うのは、野球を知っている者なら誰でも見覚えのある剛健そうな防具。
( ´ー`)「ウチのキャッチャーのブロックは天下一品なんだーヨ」
「へへ、お安いご用で」
ヒートの拳はしっかりとキャッチャーミットに包みこまれていた。
引き抜こうとしても叶わない。想像以上の握力でクラッチされている。
ノハ;゚听)「くそっ!! 放せ!」
( ´ー`)「今更焦っても遅いんだーヨ。お前らはこれで分断だーヨ。外野は鬱田ドクオ、内野はキャッチャーと共に素直ヒートを叩くんだーヨ!!」
- 38 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 00:13:15.24 ID:9FgLzztt0
高らかに『オス!』と選手たちは答え、一斉に二人へと群がった。
( A )「ヒート、戻――ぐぅああ!!」
ノハ;゚听)「ドクオォオオオオ! 離れろテメエら、邪魔だああああ!!」
木バット、スパイクによる蹴り、投球――多種多様の攻撃と間合いで八人は襲いかかってくる。
前からの攻撃を防げば後ろから、上段を警戒すれば足元を、そして接近戦と間接攻撃の嵐。
為す術がない。二人で互いの背を守りながら戦えば何とかなっただろう。
ヒートの特攻は、圧倒的窮地を生み出すスイッチとなってしまった。
( ´ー`)「ちょろいもんだーヨ。オイラ達の『菱の陣(ダイアモンド・フォーメーション)』は攻守において完璧、向かうとこ敵無しだーヨ!」
ネーヨは勝利を確信し、細い眼を目一杯に広げると高らかに叫んだ。
- 41 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 00:16:19.78 ID:9FgLzztt0
* * *
彼の日課は昼寝だ。
普段は静かな木々の囁きと風のそよぎを供に、道すがらに拾った茎っ葉を咥えて芝生に横になる。
それが孤独を愛する彼にとっての至福であり、今日だってそれは変わりないはずだった。
だが突然の喧騒。
眠い目を擦り、何事だと見回せばそこには野球少年たちと彼らに囲まれた二人組。
喧嘩だろうか。
ふと思っては残念そうにため息をつく。
自分の唯一の楽しみが、他人の勝手な行動で邪魔されることを酷く嘆いているのだ。
- 43 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 00:18:12.90 ID:9FgLzztt0
人は地に腰かける時、そこに小石が落ちているとどうするだろう。
無論取り上げ、どこか彼方に放り投げる。
そうじゃないと、気持良く腰を落ちつけられないからだ。
眠気も徐々に覚め始めた今の彼の思考は、それによく似ていた。
- 45 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 00:21:17.12 ID:9FgLzztt0
* * *
次々と繰り出される攻撃に、休息を与える甘さは感じられない。
('A`)「ふりゃあああああ!!」
二人がバットを振り下ろし襲いかかってくる。受け止める竹刀がミシリと悲鳴を上げた。
一対一ならそれほど苦戦はしない相手だろう。動きが特別に速い、腕っ節が十人力とは一切感じない。
だが、統率された八人の動き。これが個々人の能力の凡庸さを、一様に補い余らせている。
ドクオは横っ面にバットを打ちつけられながらも、戦慄する。
このチームワークは、彼らを一つの『生物』にしている。
近づいてくる者を竹刀で振り払い、間合いが取れたかと思うと遠距離から白球が身に食い込んでくる。
まるで背中に目が付いてくるようだ。一件動きに規則性も何も無いように見えて、接近組に遠距離攻撃は一発も当たらない。
一度も振り向かず、ドクオに反撃の隙を与えず、二つの間合いを巧みに使い追い詰めてくる。
広い場所に出たのはむしろ間違いだった。ロングとショートのレンジを扱うのには、屋外が絶好の場所。
いや、ドクオたちはむしろ外に逃げるように追い込まれていたのだろう。
- 47 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 00:24:14.23 ID:9FgLzztt0
ヒートを見れば、自分ほど苦戦はしていない。
だが戦い辛そうだ。キャッチャーのホールドがキツすぎる。片手が封じられた状態で、彼女はいつまで対抗できるのか。
少なくとも、すぐに二人が合流して背後を守り合うことは不可能に近い。
このままでは自分が早々に潰され、八人がヒートに攻撃を集中させる。
そうなれば、いくらヒートと言えども敗色濃厚である。
(;'A`) (全ては計算されていた……負けちまう! このままじゃ――)
何か打開策を、何か解決策を。
だが考える隙すら、敵は与えてはくれない。
気を抜いた瞬間だった。鳩尾をボールが食い込んだ。思わず肺の空気が全て体外に吐き出される。
- 48 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 00:26:15.68 ID:9FgLzztt0
( A )「げふっ!」
膝を突く、ドクオの頭上が影に覆われた。
バットを持った二人が一斉に飛び上がり、フルスイングでドクオの頭を叩き潰しにかかる。
( ´ー`)「まずは一人撃破だーヨ!! 見せしめに頭カチ割ってやるんだーヨ!!」
宣言するネーヨ。
そして群がる敵を千切ってはブン投げ、しかし突破できずに叫ぶヒート。
ノパ听)「ドクオォォオオオオ――ッ!!」
返り血を浴びて点々と赤く染まったバットが、今ドクオの額を砕く――誰もがそう思った。
- 50 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 00:29:04.67 ID:9FgLzztt0
だが結果は違う。
破壊されたのはドクオの頭蓋ではなく、突然反対方向へ吹き飛ばされた野球部員たちのバット。
中ほどをまるで刃物で切られたかのようにすっぱりと、真っ二つに一刀両断されている。
尻餅を突いたまま互いを見比べる本人たちも、ドクオも突然の出来事に目を白黒させる。
一体何が起きたのか。そこにいるヒート、ネーヨも含めた全員が理解できずにいる。
不可思議に生み出された沈黙を、一人の男が破る。
( ・∀・)「昼寝の邪魔なんだよ、君ら」
いつの間に現れたのだろうか。
寝癖にもっさりとした髪。染めたのか地毛なのか、真っ白なそれを無造作にボリボリと掻き上げた。
ボタンも全開で、インナーの柄シャツが覗く制服。ついさっきまで芝生にでも横たわっていたのか、あちこちに青葉がくっ付いている。
背は高く痩せていて、大衆が見れば皆々息を漏らすであろう精悍な顔つきだ。だが、少しばかり疲れた表情。
- 51 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 00:32:30.16 ID:9FgLzztt0
突然の乱入者はドクオと敵の間にだらりと佇み、両断されたバットを前におびえ出す高校球児らをねっとりと睨む。
そこには言い知れぬ重圧と鋭さ、そして見た相手の心を見透かすような透明さを帯びている。
大きな欠伸に顔を歪め、男は寝ぼけ眼に呟く。
( ・∀-)「ふぁ……何だか、賑やかなようだけど楽しそうだねえ。野球でもしてるのかい?」
「そ、それがどうした! いきなり邪魔してんじゃねーよてめえ!!」
全員がその謎の男に釘付けとなっている、その均衡がドクオを襲っていた外野の一人により破られる。
彼は遠距離から白球を投げ込んでいた者だ。そして今も、謎の男を痛めつけようと握った硬球を振りかぶる。
( ・∀・)「……投げてもいいけど、それ。投げるんなら君は『怪我しても仕方ねーや』って思ってるってことにするけど構わないよな?」
「き、気取ってんじゃねえええ!!」
雄叫びと共にブン投げられる剛速球は寸分狂わず、男の額へと飛んでいく。
充分な速度と威力だろう。喰らえばただじゃ済まない。痛みに呻く体を起こし、ドクオは叫ぶ。
- 53 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 00:35:08.20 ID:9FgLzztt0
('A`)「お前!! 危ないぞ!!」
( ・∀・)「……優しいねえ、君」
('A`)「っ?!」
呟いたセリフを、ドクオが聞き取るや否や――
( ・∀・)「……シッ!」
男がゆらりと片足を突き出した瞬間だった。
白球が空中で炸裂する。
皮を散らし、まるで小爆発を起こしたかのように弾け飛ぶ。
空気は鳴動し、同時に目撃した全員へと動揺を走らせた。
この男は一体何をしたのか。先のバットといい、一体何が。
緊張が駆け巡る。この謎の乱入者の、ただならぬ気配が場を飲み込んでいく。
そんな全員の疑問を悟ってかのように、自嘲気味に男は言った。
- 54 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 00:38:13.15 ID:9FgLzztt0
( ・∀・)「驚きすぎだよ、君ら。蹴っただけさ」
その一言に、彼らの中でぷっつりと緊張の糸が切れたのだろう。
外野組は一斉に男に襲いかかる。もうドクオは目に入っていない。この突然の侵入者――彼の不気味さに耐えられなかったのだ。
折れたバットを、スパイクを、白球をがむしゃらに彼へとぶつけようとする。遅い来る暴力の嵐。
( ・∀・)「『神――ッ」
そんな中でも、男はそよ風の中でダンスするかのように、再びゆっくりと片足を上げた。
( ・∀・)「剃り』ッッ!!」
斬撃。
余りのスピードに近くで見ていたドクオも目視できない。
一瞬、上げた片足が消えたかのように錯覚するほどの速度の蹴りは唸る。
高速で群がる敵を打つ――それはもはや斬撃だった。
- 57 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 00:41:15.44 ID:9FgLzztt0
バットをトドメの如く微塵に切り刻み、スパイクを両断し、白球を爆裂させ、ユニフォームをズタボロに裂く。
「ぐぁああ!!」
「ひぐうああ!?」
「何なんだ、なんだぁああああ?!」
「蹴りで、き、斬れたあああああああああああ!?」
断末魔を上げ、まるでかまいたちに飲み込まれたかのように傷だらけになると、襲いかかった四人は吹き飛ばされる。
砂塵を撒き散らし、風は高らかに遠吠えを上げた。
墜落し、あちこちに深い切り傷を作られた彼らは激痛に呻き声を上げ、立てない。
('A`)「すげ……」
ノハ;゚听)「こいつ……!」
ドクオ達は余りの芸当に思わず溜め息を漏らす。
昨日ヒートが戦ったニダーという男、彼も足技を得意としていたが――まるでレベルが違うだろう。
とても年端もそう変わらない少年とは思えない。人間離れした技だ。
- 58 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 00:44:32.85 ID:9FgLzztt0
片や、ヒートを取り囲み一緒になって男の鋭い蹴り技の虜となっていた内野四名は、不意に訪れる恐怖に身を震わせる。
そうなればもう行動は早かった。甲高い叫びを上げ武器を投げ捨てると、オロオロと焦り出すネーヨを置き去りに彼らは逃走を始めた。
(;´ー`)「お、お前ら逃げてるんじゃネーヨ!! オイラと一緒に甲子園を目指そうって誓った仲じゃネーのかヨ!?」
( ・∀・)「あんたが最後かい?」
(;´ー`)「――――ッ!!」
目で追うことすら許さない速度。気付かれることなく、ネーヨの眼前へと男は踏み込んでいた。
(;´ー`)「く、くそおお! キャプテンは逃げない! たった一人でもオイラは――」
( ・∀・)「まぁ、一人で野球は出来ねーよな」
ネーヨがバットを男へと打ち込んだのは、完全に悪足掻きで終わってしまった。
手元からまるでゴボウかキュウリのように、バットは輪切りにされる。
息がかかるほどの接近戦でさえ、ネーヨにはいつ脚が動いたのか分からなかった。
- 66 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 01:09:58.68 ID:9FgLzztt0
(;´ー`)「――っひ!?」
恐怖に青ざめた彼が、豚のような甲高い悲鳴を上げたのが最後だった。
( ・∀・)「――『神吹雪』ッ!!」
ネーヨの全身を強かに斬りつける、容赦無き斬風。
先の野球部員たちを蹴散らしたものとはまた一段、格の違うスピードと回数の蹴り。
間合いにある万物を原形も留めぬほどに切り刻まんとする、ミキサーかシュレッダーのような無機質で冷酷な連蹴り。
返り血を帯びて乱舞するそれは、まるで紅い吹雪のようだった。
(; ー )「ネネネネ、ネガッたアアアあああああ――――っ!!?」
空中を独楽のように弾き回り、ゴミクズのようになったネーヨは撃墜される。
もう先のように自信満々な戦略説に舌を働かせることもない。
倒れ伏す彼はピクピクと痙攣し、起き上がっては来なかった。
- 69 名前: ◆b5QBMirrJE[保守ありがとです!] 投稿日:2009/04/25(土) 01:12:08.64 ID:9FgLzztt0
空中をキラリと輝く物。
狙い澄ましたように掲げた男の手の中に収まる、それは間違いなく――武喝道バッチ。
ノパ听)「どおぅうりゃっ!!」
( ・∀・)「――――ッ!」
乾いた音が残響する。
間合いの内まで踏み入ったヒートは躊躇うことなく手刀を打った。だが、それは男の構えた膝によって受け止められている。
脇腹を深く深く抉る、昏倒必至の一刀を叩き込もうとしていた狙いを最初から分かっていたようだ。
最も好ましい射程から放たれたヒートの必殺拳を、何のこともなく防ぐ彼はやはり只者ではない。
ノパ听)「てめえ、武喝道の参加者だな? 何部だ! 横から割りこんでヒーロー気取りか!?」
ヒートは牙を剥く。
今の攻撃を受け止められたことよりも、勝負の邪魔をしたことに激しい怒りを顕にする。
- 70 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 01:15:05.79 ID:9FgLzztt0
( ・∀・)「……君も刈られたいのか?」
ノパ听)「上等だぞコラ!! 逆にてめえを叩き潰して、白髪頭を丸刈りにしてやる!!」
('A`)「ヒート!!」
立ち上がったドクオが声を上げる。
だが両者動かず。当り前だろう。
今この瞬間、たかが声を掛けられた程度で緊張を崩していては間違いなく仕留められる。
ヒートも男も互いにそのことを、良く理解していた。
ノパ听)「邪魔すんなドクオ! こいつ、タダモンじゃないのは分かるだろ! 今度はこっちがやられるぞ!!」
('A`)「だったらわざわざ敵意剥き出しで襲いかかんなって! 話せば分かる相手かもしれないだろ!」
ノパ听)「えぇい、うるせい! ごちゃごちゃ言われると集中が切れる! ちょっと黙っとらんかい!!」
(;'A`)「お前なぁ……!」
( ・∀・)「…………」
- 72 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 01:18:10.63 ID:9FgLzztt0
ふいっ、と。
男は唐突に構えを解くとゆらりとヒートに背を向けた。隙だらけで殺気の一つも漂わない。
完全に戦闘態勢を解いていた。これにはヒートもドクオも度肝を抜かれる。
あれほどの気配を漂わせていた者が、このタイミングで突如身を退くことの意味を汲み取れなかった。
ノハ;゚听)「ちょ……! お前、何逃げようとしてんだ!」
声が上ずる。
構えはまだ解いてはいないが、男の突然の行動にヒートも動揺を隠せない。
( ・∀・)「……気が削がれた。昼寝に戻る」
ノハ;゚听)「はあ?」
男は胸ポケットから雑草の茎らしき物を引っ張り出すと、尖らせた口先に咥えてクルクルとそれを回す。
もうすっかりとヒートたちと戦うつもりはないらしい。どこからか吹く春風の匂いに誘われるように、ふらりふらりとその場を離れていく。
- 74 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 01:21:15.79 ID:9FgLzztt0
('A`)「おい、あんた名前は?」
( ・∀・)「言う必要はないね」
('A`)「…………」
茫然と背中を見つめる二人。もう、声も届かない。
まさに嵐のように場を掻き回し、何事もなかったかのように消えていった。
ノパ听)「なーんだあいつは? よーわからん」
どうにも不完全燃焼に終わってしまったヒートは、うずうずが止まらないらしく小刻みに足踏みを始める。
('A`)「俺もよく分からん。でもあのまま戦ってたらどーなってたか……」
ノパ听)「まぁ、あっちがどれだけ強かろうと私の大勝利に決まってるがな!」
('A`)「そーだといいんですけどね」
ドクオはそっけなく返しつつ、男が姿を消した渡り廊下を見つめる。
- 77 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 01:24:12.49 ID:9FgLzztt0
確かにヒートの言う通り、あの男の実力は半端なものではなかった。
運動部の筆頭とも言える野球部をこうもあっさり蹴散らし、躊躇なくバッチを狩るその姿。
思い出すだけでもゾッとする。もし彼と戦うことになっていたなら、ヒートの言うように大勝利などと都合良くいくのだろうか。
『凶星』の他にも、あれだけの実力を持った者はいたのだ。
やはり武喝道を勝ち抜くことはそう簡単な所業ではないと、彼は改めて確認させられた。
ノパ听)そ 「――ていうかもう昼休み終わるし! 私ら昼ご飯食ってねええ!」
('A`)「今度から弁当でも作って持って来た方がいいかもな。……あぁ、腹減った」
ノハ*゚听)「お、甲斐甲斐しいねぇドクオ君。私のお弁当はドカベンで頼むぞ」
('A`)「いやいや、自炊してんだから自分でやれよ」
二人の掛け合いもほったらかしに、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴る。
- 79 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 01:27:33.67 ID:9FgLzztt0
* * *
ふらりふらり、ふらふらり。
男は授業が始まっても、相変わらずの根無し草だ。
当てもなく、理由もなく。だが敢えて言うなら、今は新しい昼寝の場所を見つけるため。
先のように、今この学校では血気盛んな者たちがあちこちで喧嘩沙汰を繰り広げている。
落ち着いて休息をとれる場所というのも、以前と比べて明らかに減ってしまっているだろう。
( -∀-)「…………」
陽気を肌一杯に受け、心地よさ気に欠伸を一つ。
屋上の貯水タンクの上に寝っ転がり、男はやっと見つけた新たな憩いの場を十二分にも味わった。
風の音、匂い、温度、肌触りが全て、彼を慰めてくれる。
だが、そんな安らぎの一時も長くは続かなかった。
(゚、゚トソン「随分と余裕ですね、モララー」
- 81 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 01:30:08.25 ID:9FgLzztt0
( ・∀-)「……あんたか」
耳に突き刺さる、割とキツめな女の声。
それが彼の幸せな時間をブチ壊しにしたらしい。舌打ち、ゆっくりと起き上がった男――モララーは飛び降りる。
タンクに寄りかかるようにして立っていたのは少女。
キラリと陽に映える銀縁の眼鏡を携え、草の匂いでも漂ってきそうな明るい緑髪をバレッタで簡単に留めている。
加えて非常に整った顔立ちをしていた。無駄のないすっきりとした頬のライン、高い鼻、小さめの口にしっかりとした眉。
道行く人なら誰しも一度は振り返ってしまうであろう、そんな美少女だ。
彼女はモララーをねめつけながら、桜色の唇を開く。
(゚、゚トソン「授業はどうしました? 短期間とは言え停学になるといろいろと面倒です。少しは真面目に出席しなさい」
( ・∀・)「……優等生は野良犬の世話が好きなのかい?」
(゚、゚トソン「あなたが勝手な振る舞いをすると計画に支障をきたし、会長のご迷惑となるからです。他意はありません」
せっかくの皮肉も彼女には効かなかったらしい。平然と、眉一つ動かさない。
- 83 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 01:33:15.22 ID:9FgLzztt0
ミセ*゚ー゚)リ「うぅむズルい! トソちゃんズルい! いっけめーんなモララー君との会話を独り占め?」
黄色い声が上がると、眼鏡の少女の背後からまた別の訪問者が現れた。
ミセ*゚ー゚)リ「せっかくミセリもいるんだから、ちょっとはお話ししようよ♪」
カチューシャで金髪をまとめた彼女は、八重歯をチラチラさせながら甲高い声で喋り散らす。
眼鏡の少女よりは少し背が低い。
だが出る所は勝っているのか、短めのスカートから伸びる白い太腿やセーターを押し上げる胸の陰影は艶めかしい。
何が嬉しいのか、常にハイテンションな様子だ。
片や宜しくない雰囲気である両名の周りを走り回っては、モララーの腕に絡みついたりしている。
一見ビジュアルも性格も、ベクトルの違う二人に共通していること。
それは右の二の腕にはめた、紅の眩しい『生徒会執行部』と書かれた腕章だった。
- 85 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 01:36:06.45 ID:9FgLzztt0
( ・∀・)「書記の都村トソン、会計のミセリ……か。俺を始末しにでも来たのか?」
(゚、゚トソン「確かにあなたのような屑がのさばっているのは誠に遺憾ですが、会長のご命令には逆らえません」
ミセ;゚д゚)リ「ちょ、トソちゃん怖ぇーっ! とても同じ女とは思えない発言に、ただいまミセリは超サプライズ!」
(゚、゚トソン「うるさいですよ、ミセリ」
ミセ;゚з゚)リ「うっうー……すいやせんでした」
トソンの小奇麗な顔に僅かな不快さが現れ、ミセリはすごすごと口を噤む。
(゚、゚トソン「まぁ、あなたの処理は仕事の結果次第ですね。それで、首尾はどうですか?」
( ・∀・)「…………」
鬱陶しげな面持ち。
モララーはポケットに手を突っ込むと、中から数個のバッチを掴み出す。
手に余るほどの量だった。掲げた手の上で、銀の小山はきらりと光を放つ。
- 86 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 01:39:07.03 ID:9FgLzztt0
ミセ*゚ー゚)リ「すっごぉい! 結構数あるよ? 何個何個?」
( ・∀・)「……八つだ」
(゚、゚トソン「まずまず――いえ、どちらかと言うと二日目でならまだまだですね。それに文化部が無い。
これならまだ、『凶星』ショボンの方が効果的に暴れ回ってくれています。期待外れもいいところですね」
( ・∀・)「悪いけど、あんな戦闘狂と同じにして欲しくないな。無抵抗な文化部を潰す趣味はない」
(゚、゚トソン「利用価値の上でならあなた方に大差はありません。ともかくバッチは貰って行きます」
すいっと。
トソンがゆったりと空をなぞるようにして指を突き出す。
形の良い爪が向くのはモララーの手の平。そこに山と積まれたバッチたち。
それが一体どんなからくりなのか、バッチたちは突然宙に舞い上がる。
ふわりと緩やかに上昇したかと思うと、次の瞬間には吸いこまれるようにしてトソンの手の上に着地した。
モララーの目に映るその現象は、まさに怪異の一言。
- 88 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 01:42:07.30 ID:9FgLzztt0
トソンは一切、モララーの手にもバッチにも触れてはいなかった。ミセリも傍らでニマニマとその光景を眺めているだけである。
本当の意味で独りでに、バッチたちが空中浮遊したのだ。
ミセ*゚ー゚)リ「さっすがトソちゃん、いつ見てもお見事!」
(゚、゚トソン「いえ、少し手元が狂いましたよ。危うく彼の手を切断するところでした」
( ・∀・)「…………っ!?」
ばくり、と割れた手の平。
モララー自身、全く気が付かなかった。
掲げたままにしていた手は、まるで鋭利な刃物で切り裂かれたように深々と傷を負っている。
温かい血が噴き上がり、手首を伝う生々しい感触。遅れて波打つ鋭い痛みは、右腕を痺れさせた。
( ・∀・) (さすが執行部……。女と言ってもやはりタダ者じゃない)
- 89 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 01:45:15.93 ID:9FgLzztt0
傷口を無理矢理抑えつけながら、モララーは眼光を揺らしていた。
いきなりのことに多少動揺したが、取り乱した姿を彼女らに見せるのは癪に障る。
故にその表情は相も変わらず気だるげなまま、繁々とバッチの一つ一つを検めるトソンを睨む。
一見、美人な優等生でしかなさそうな彼女には、不似合いなほど凶悪な未知数の能力。
一体全体どうすればあのような芸当ができるのか、全く予想が付かない。
(゚、゚トソン「ふむ、そう言えば先程の剣道部と空手道部はどうしました。同じ場にいた野球部のバッチはあるようですが」
振り返った碧の瞳が、モララーのそれと重なる。
( ・∀・)「見てたのか……。別に気が進まなかった、それだけだよ」
ミセ*>∀<)リ「きゃわぁ〜ん♪ 弱き者には情けも見せる、そんなクールなあなたがス・テ・キ♪」
ミセ*゚з゚)リ「あ、でもでもミセリもトソちゃんと同じく会長に一直線LOVEだから、ちょっぴり罪の意識感じちゃうかも」
ミセ*゚ー゚)リ「一途な恋に生きる女……ロマンチック。でも、ミセリは恋多き小悪魔な自分も好きなのです♪」
- 91 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 01:48:08.33 ID:9FgLzztt0
(゚、゚トソン「よくわかりました。今ここで始末されたいんですね、ミセリ?」
ミセ;゚−゚)リ「あ、はい。マジですんません。いやほんと、自分が馬鹿でした」
有無を言わせぬ怒りのオーラを漂わせるトソン。
彼女は緩急の少ない無表情でミセリを追い詰め縮み上がらせると、咳払いを一つモララーに向かい直る。
(゚、゚トソン「武喝道はまだ二日目、色々と計算外のことが起こり得るのも仕方ありません。
ですがモララー、一つだけ良く理解しなさい。あなた自身のわきまえるべき立場というものを」
( ・∀・)「…………」
(゚、゚トソン「分からないのなら教えてあげますよ。あなたは未だに、『あの時』と同じ下らない感傷の中にいるんです。
鬱田ドクオと素直ヒートを見逃したのがその証拠。あなたのような『人でなし』が、今更普通の人付き合いができると?」
モララーの眉が、なじるかのような少女の言葉を耳にする度ピクリピクリと跳ね上がる。
誰が見ても分かる。彼の胸の内は、怒りで熱く滾っていると。
- 92 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 01:51:14.06 ID:9FgLzztt0
( ・∀・)「上等だね。生徒会に義理はあっても、アバズレに文句を言われる筋合いはない。あんたも刈ってやろうか?」
(゚、゚トソン「結構。始末してやりたいのは山々ですが、先も言いました通りあなたには利用価値があります。そして会長はそれを買っていらっしゃる。
私の下らない見栄や一時的な感情であなたを細切れに裁断しては、あの方の崇高な計画のお邪魔になります」
( ・∀・)「言うだけ言って逃げるのか。生徒会の雌犬はケツを振るのと捲るのが得意みたいだな」
(゚、゚#トソン「……どうやらその汚い口をパッチワークして欲しいようですね」
爪先でリズムを取り、今にも俊足の蹴りを打ち込みそうなモララー。
対して、先程のように伸ばした指を彼に向け、冷やかに睨むトソン。
まさに一触即発である。
今この瞬間、何が引き金となって両者がブチ切れるのか予測が付かない。汗の一滴、呼吸一吐きでも躊躇ってしまうような緊迫。
その痛いくらいの沈黙を、耐え切れなくなったのかミセリが強引に割り込む。
- 95 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 01:54:21.37 ID:9FgLzztt0
ミセ;゚ー゚)リ「は、はいはいストップ! やめた方がいいよ二人とも! お互い怖いこと言ってるけど本気でやるつもりじゃないんでしょ?
なにより二人で勝負なんかしたら、それこそ会長が頭抱えるんじゃないかな? ほら、ミセリのお願い! ここはお開きで!」
おどけつつ、対峙する狂犬たちの間に踏み入る。
彼らはそれでも殺気を治めようとしない。恐らく、躊躇なくミセリごと互いを攻撃する覚悟はあっただろう。
そうならなかったのは、二人の心にほんの僅かな冷静さと人格が残っていたからだ。
構えていた腕をだらりと下げ、眼鏡を押し上げるトソンは溜め息交じりに言い放つ。
(゚、゚トソン「――ミセリに救われましたね。感謝しなさい」
( ・∀・)「それはあんただと思うけどね」
一方モララーもステップを止め、代わりに嫌悪がふんだんに込められた捨て台詞を吐く。
互いに手打ちで勘弁――ということで納得したらしい。
そうと分かるや否や、もうこれ以上のとばっちりは御免とばかりにミセリはトソンの両肩を押す。
- 97 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/04/25(土) 01:57:08.56 ID:9FgLzztt0
ミセ*゚ー゚)リ「ささ、ミセリ達と言えども授業中にうろうろしてるの見られるとマズイし、ここはトンズラトンズラ!」
(゚、゚トソン「わかりましたから放して下さい。一人で歩けます」
ミセ*^ー゚)リ「はいはい! それじゃあモララーくぅん、また会いましょおねー♪」
すたこらさっさ、と。
息をつかせる間もなく、二人は階段へと姿を消した。
よほどトソンが怖いのだろう。もし、本当に戦いが起きていたのならどうなっていたのだろうか。
それは誰にも分からない。
( -∀-)「まぁいい……これでやっと……居眠りできる」
先の緊迫した雰囲気もどこの話。
ゆるゆると欠伸をすると、疾風を纏う男はしばし、夢路のそよ風に身を委ねることにするのだった。
第九話・終
戻る 次へ