(,,゚Д゚)オトギリソウの散る頃に”繭”のようです

2 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 22:21:51.73 ID:wTQdYJ+JO
【登場人物紹介】

(,,゚Д゚)…木鼓 靖虎(ギコ ヤストラ)
・助っ人教師として矢峠村にやってきた大学二年生。矢峠村の隣にある矢継村の出身。通称ギコ。

椎名 ゆい(シイナ ユイ)
・ギコの恋人。現在は親戚の法事の手伝いの為に地方へ帰省している。

川 ゚ -゚)…素直 空(スナオ クウ)
・大学二年生。助っ人教師として矢峠村にやってきた。ギコの元恋人。通称クー。

(´・ω・`)…下眉 和也(シタマユ カズヤ)
・矢峠学校の教師。ギコは確信している、こいつは絶対に教員免許を持っていないと。通称ショボン。

( ・∀・)…茂羅 弘(モラ ヒロシ)
・矢峠学校の教師。眼鏡が似合うクールな男。通称モララー。
  _
( ゚∀゚)…長岡 ジョルジュ(ナガオカ)
・おっぱいおっぱいな高校一年生。曾祖父をドイツ人に持つ。しかしドイツ語は喋れない。

3 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 22:25:57.46 ID:wTQdYJ+JO
(,,゚Д゚)「…………」

朝。
矢峠村に来て六度目の朝が来た。
助っ人教師として鞭を振るうこと早一週間。
野菜泥棒の一件以降、この村は何事もなく穏やかな日々を過ごしている。

シャワーで身体と顔を洗い。村唯一のスーパーで購入した食パンを口にほうばり。使い古したデニムとお気に入りのシャツを着る。
がたつきが悪い襖の横に置かれた鏡をチェックし、誰もいない部屋に「行ってきます」と言っていく。
住家が変わっても一人暮らしでやることはさほど変わりはない。
珍しくぶ厚い雲が空一面を覆う中、俺は自転車をこぎながら学校へと向かった。

4 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 22:28:02.39 ID:wTQdYJ+JO
(,,゚Д゚)「おはよう」

曇天に毒されでもしたのだろうか。
入った教室には何ともなしにどんよりとした空気が漂っている。
こういう日は何故か嫌な勘がよく当たるので好きじゃない。

(゚、゚トソン「おはようございます。ギコ先生」

いつも通り、きっちりした身なりをする都村が不安げな表情で俺に挨拶をし。
教室には都村の他に欝田と長岡がいる。
彼等も一様にして難しい表情をしていた。

(,,゚Д゚)「欝田。何かあったのか」

('A`)「ビロードさんが二日前から家に帰ってないらしいんです……誰とも連絡が付かなくて……」

(,,゚Д゚)「ビロード? ああ、校舎の整備をしてくれている尾呂(ビロ)さんか。町の方にでも降りたんだろ」
  _
( ゚∀゚)「今日はグラウンドの定期整備の日なんだ。あの人が仕事をほっぽり出してどこかに行くわけがねぇ」

6 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 22:32:37.83 ID:wTQdYJ+JO
ううむ。それを言われると何も言い返すことは出来ないな。
尾呂とは何度か顔を見合わせた程度の間柄だが、与えられた仕事を真面目に熟す実直な男だった。
長岡が言うように仕事をサボるような人間には見えない。

(゚、゚トソン「杉浦さん達が朝から捜索をしていますが、家は完全にもぬけの殻で手掛かりすらない状態だそうです」

( ・∀・)「はいはーい。心配しても何も始まらないよ。尾呂さんの件は村の人達に任せて、君達は自分の仕事に取り掛からなきゃね」

ぱんぱんと手を叩きながら入室してきた茂羅は、生徒三人に机に座るよう指示を出す。
都村は急な教師の登場に少し驚いた顔を見せたが、そのまま黙って着席し、欝田もそれに続く。
一方で、ひとりそわそわと落ち着きを見せようとしない長岡をブロンドの髪を押さえ付けて無理矢理席に座らせた。
まったく、忙しない男だ。

7 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 22:35:08.10 ID:wTQdYJ+JO
だが、まあ……大都市ならともかく僅かな人口しかいない過疎集落で人が行方不明になれば心配にもなるだろう。
しかしここで下手に不安を煽るのはよろしくない。
茂羅の心情を察した俺は長岡に鞄から取り出した問題プリントを手渡した。
  _
(;゚∀゚)「ゲぇ!! 難易度『鬼』プリントじゃねーか。酷いぜギコ先生、昨日頑張ったぶん今日は易しくしてくれるんじゃなかったのかよ!」

(,,゚Д゚)「気分が変わった。どうせお前も来年は受験生だ。今のうちに地獄を見とけ」
  _
( ;∀;)「うごごごごご」

そういえばクーの姿がまだ見えない。
茂羅に聞いてみると今日は担当生徒がいないから暇を利用して何処かに出掛けているとのことだった。
俺の講座も今日は長岡だけだ。
天気が悪いが午後になったら少し出かけよう。

だが、尾呂失踪の件はやはり気になる。
ようやく生徒達が与えられた課題に集中し始めた頃を見計らった俺は、小声で茂羅に話し掛けた。

8 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 22:36:05.60 ID:wTQdYJ+JO
(,,゚Д゚)「(茂羅さん。ショボンの奴はどこに行ったんです)」

( ・∀・)「(尾呂さんの捜索を手伝っている。今日中に見つからないようなら鶴岡市警に連絡を入れるつもりらしい)」

(,,゚Д゚)「(誘拐されるって歳でもないでしょう。ご家族は?)」

( ・∀・)「(彼、独身なんだよ。それに嫌な目撃情報が村人から上がっていてね。少し大事になりそうなんだ)」

嫌な目撃情報?
訝しがる俺を茂羅は生徒達に聞こえないよう廊下に連れ出して囁くように呟いた。

( ・∀・)「尾呂さんを最後に目撃した人によれば、彼はミルナと一緒にいたらしいんだ」

(,,゚Д゚)「あの狂人と? 仲良く散歩ってわけでもないでしょう」

( ・∀・)「だろうね。夕方で辺りも暗かったから本当にミルナかどうかは定かじゃないが、聞こえてきた声は確かに尾呂さんのものだったらしい」

10 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 22:40:01.32 ID:wTQdYJ+JO
それっきり尾呂は忽然と姿を消したという。
この村は四方を山に囲まれた地形となっている。
村自体はさほど大きくないので、秘密基地でもない限り一日で彼を見つけることは出来るはずだ。
それでも見つからないということは尾呂が山に入っている可能性が必然的に高くなる。
無論、入山『した』のか『させられた』のかは分からないが。

( ・∀・)「既に山狩りは開始されている。見つからなければいよいよマズイ事態だね」

(,,゚Д゚)「俺も手伝いましょうか」

( ・∀・)「いや、身近な人間がイレギュラーな行動を取れば人は不安に駆られる。
       生徒達が安易な行動に走らない為にも、ギコくんには普段通りの行動を心掛けてくれ」

11 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 22:41:34.56 ID:wTQdYJ+JO
茂羅の台詞に「山の中に勝手に立ち入るな」というニュアンスが含まれていることは明白だった。
山は不動の自然物だが、同時に巨大な生物でもある。
気候ひとつ変わるだけでその表情はがらりと変わる様を生命体と捉えずなんと表せば良いのか。

どれほどの玄人であっても登山家は見知らぬ山に入るときの下調べは怠らない。
プロですら遭難することもあるこの辺りの山々に、土地勘のない俺が立ち入ることを村人達は歓迎しないだろう。

俺だって一応の山育ちだ。本能的な勘は鈍っているにしても、ある程度の知識は備えている。
だがミイラ取り文句があるように人命救助にあたる人間が遭難するような愚行は、やはり避けるべきだろう。

12 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 22:43:16.04 ID:wTQdYJ+JO

( ・∀・)「ああ! そういえば」

突然、あからさまな大声で茂羅さんがポンと手を打った。

( ・∀・)「ギコくん。いつぞやに矢継村の住人のことを聞きたがっていたよね。村の役場に行けば何か分かると思うよ」

(,,゚Д゚)「…………」

( ・∀・)「…………」

(,,゚Д゚)「分かりました。今日辺りに尋ねてみす。わざわざすみません」

( ・∀・)「気にすることはないよ。同郷の人が見つかるといいね」

話題の逸らしかたが随分と下手な気がしたが、茂羅にも何かしら思う部分があったのだろう。
ここで下手に食い下がる理由もないし、尾呂の話題はここで打ち切ったほうが無難か。

14 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 22:45:09.29 ID:wTQdYJ+JO
(,,゚Д゚)「(やれやれ。心労が絶えない一日になりそうだな)」

長岡の苦悶の叫びが萎み始めた昼過ぎ。
俵型に作ったオニギリ(隕石型では?:都村談)を口に押し込み、俺は生徒達よりもひと足速く学校を後にした。

天井は相変わらずの曇り空だ。
重いギアを回転させながら、俺は田んぼの道をひたすら突き進む。

(,,゚Д゚)「えっと。役場は確か白い建物を右に折れればあるんだよな」

生徒に書いてもらった地図を片手に、村の住居区へと進入した。
瓦造りの日本家屋がときおり田畑を挟みながら転々と並んでいる。
懐かしながらも、有り触れたのどかな風景だ。

15 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 22:46:40.08 ID:wTQdYJ+JO
地図に印された白い家は……。あった。それらしき建物が見えてきた。
周りのレトロな雰囲気に反した白基調の家だ。
近付いていくとその家屋に大きな看板が掲げられていることに気付く。

(,,゚Д゚)「矢峠診療所。クリニックか」

恐らく元あった民家を改築したのだろう。
近くで見ると意外と立派な造りになっているその一軒家。硝子戸には『診察受付中』のプレートが掲げられている。
だが、今俺が消化すべき問題はこの小さな病院を観察することではなく、この建物を右に折れた先にある道を進むことなのだ。

(,,゚Д゚)

なのだが……。

(,,゚Д゚)「なんで道が分かれてるんだよ」

目の前にはYの字に開いた道が二つ。
曲がったところを直進とだけ聞いていたので、どちらに進めば良いのか分からない。

17 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 22:52:16.80 ID:wTQdYJ+JO
ちくしょう。やはり長岡に地図を書かせるべきじゃなかった。
やたら道案内に自信があるようなことを言っていたが、奴の説明能力がこれほどまでに低いとは。
よくよく見れば地図には診療所までの道のりしか書いていない。まさか描いてる途中で飽きたのか? 最低だ。
いや……待て。紙の端っこに何かメモが記されている。

(,,゚Д゚)「なになに。『診療所を右に折れると道が二股に分かれているので』」

なんだ。ちゃんと書いてあるじゃないか。

(,,゚Д゚)「『分かれているので……』」

(;゚Д゚)「ので……ッ!」

(# Д )ブチ

字がッ! 読めん!!


19 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 22:54:36.05 ID:wTQdYJ+JO
致し方ない。かくなる上は山勘で道を選んで行くしかないのか。

ハハ ロ -ロ)ハ「Excuse」

(,,゚Д゚)「行くしか……?」

聞き慣れない発音。
いや、聞き慣れないのはその言葉が日本語ではなかったからだ。
振り向くと金髪の女性が腰に手を当てて俺を見つめていた。
紅い眼鏡をかけた英国風の外人は「そこをどいてくれ」と青い目で語りかけてくる。

(;゚Д゚)「あ、スミマセン」

ハハ ロ -ロ)ハ「Thank you」

20 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 22:56:28.52 ID:wTQdYJ+JO
どうやら彼女は診療所に用があるらしい。
扉の前を塞いでいたことに気付いた俺は慌てて道を譲る。

木戸の軋む音と来客を告げる小さなベルの音。
扉を半ばまで潜ったその女性は、ふと足を止めると俺に向き直って中に入るよう促した。

いや、俺は別に診てもらうような所は……。ああ、無理だ。なんか断れるような雰囲気じゃない。
本当にこういうときの日本人は押しが弱い。ノーと言えないニッポン人はまだまだ健在というわけか。
と言うか、なんでこんなへんぴな場所に外人がいるんだろう。何者だ?

ハハ ロ -ロ)ハ「Well....May I help You?」

ドラマに出てくるような小さな診察室。
手に持っていた買物袋を棚に置きながら、女性は俺に向き直って質問する。

情けないことに口調が速くて聞き取れない。
そういえばこの部屋には医者や看護師がいないようだが、俺と彼女は勝手に入ってしまって良かったのだろうか。

21 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 22:58:41.65 ID:wTQdYJ+JO
(,,゚Д゚)「ぱーどん?」

ハハ ロ -ロ)ハ「用件は何かって聞いてるのよ」
(,,゚Д゚)「あ! 日本語ペラペラじゃねーか!」

ハハ ロ -ロ)ハ「怒らないでよ。からかっただけじゃない。貴方、この村の人間じゃないわね? よそ者をここの村人は歓迎しないわよ」

(,,゚Д゚)「俺はこの村の住人に頼まれてここに来たんだ。元の生まれも『矢』の人間だしな」

ハハ ロ -ロ)ハ「ふーん。で、何処が悪いの?」

(,,゚Д゚)「どこって?」

ハハ ロ -ロ)ハ「ここは診療所。この部屋にいる間は死人か病人か怪我人よ」

22 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 23:01:34.30 ID:wTQdYJ+JO
と、さも当たり前かのように彼女は壁に吊された白衣をふわりと着込む。

ハハ ロ -ロ)ハ「白衣、眼鏡、金髪、おまけに美女。完璧だと思わない?」

(;゚Д゚)「なっ。あんた医者なのか?」

ハハ ロ -ロ)ハ「あら、外国人が医者になっちゃ悪いかしら」

そういうわけではないが。
蝉達の合唱をBGMにニヤリと笑うブロンドヘアーの医者の姿は何と言うか色々と違和感がある。
こういうときは意外とリアクションに困るものだ。俺も人に突っ込み適性が無いなどと言える立場ではないということか。

女性の名はハロー=ウィリアムズ。
数年前に英国から日本に移住した外科医だそうだ。
日本に住むのは構わないが、なんでまたこんな寂れた村に居を構えたのだろう。

23 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 23:06:11.59 ID:wTQdYJ+JO
ハハ ロ -ロ)ハ「ダーリンがこの村の人間だからよ。大学時代に交流留学したときに知り合ってね」

(,,゚Д゚)「ふうん。」

(,,゚Д゚)"「あ。あと俺は道に迷っただけで身体はどこも悪くないんで」

ハハ ロ -ロ)ハ「なあんだ。扉の前にいたから患者かと思ったじゃない。で、どこに行きたいの? 道ぐらいなら教えてあげる」

おお、クールな感じの人かと思ったら結構優しい部分もあるのか。

(,,゚Д゚)「村役場なんですけど。ここから先にどうやって行ったらいいのか……」

ハハ ロ -ロ)ハ「そこの分かれ道で迷ったってわけね。正面に立って右側を通るといいわ。道なりに進めば嫌でも目につくから」

(゚Д゚,,)「分かりました。ありがとうございます」

ハハ ロ -ロ)ハ「ねぇ。君、ギコ君だっけ」

(,,゚Д゚)「はい」

ハハ ロ -ロ)ハ「また暇になったら遊びにいらっしゃい。ビタミン剤注射してあげる」

(,,-Д-)「戦前の医者かあんたは。まあ、何か調子が悪くなったらヨロシク頼みます」

24 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 23:08:06.47 ID:wTQdYJ+JO
思わぬ形で知り合った奇異なる女医殿に別れを告げ、俺は再び役場を目指す。
最後に喰らったウィンクは普段ならありがたく受けとっていただろうが、どうにもハロー女史のそれは胡散臭い。

行方不明になった尾呂を探しに行っているからか、それともただ単純に人口が少ないからか、空気が少ないタイヤを転がす青年とすれ違う人間は女史以降、一人もいなかった。
時刻は一時を少し過ぎた頃。
普段ならジリジリと日光で焼かれるような暑さに襲われる時間帯だが、朝のときよりも益々厚みを増した雲のおかげで十二分に涼しい。

(,,゚Д゚)=3「ふぅ。やっと着いたか」

古臭い建造物。
直線距離なら学校からも存外近いようだが、何せ田んぼやら家やらが邪魔して迂回に迂回を重なければならない。
これは一骨折れる距離だ。

26 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 23:10:33.28 ID:wTQdYJ+JO
役場に入ると中はガランとしており、人気がなかった。
声をかけてみても返事は来ない。
まさか役人まで山狩りに出ているのか?

(,,゚Д゚)「弱ったな。手ぶらで帰るってのもシャクだぞ」

( ^ω^)「…………」

(,,゚Д゚)「住民帳簿……勝手に調べたらマズイよなあ」

( ^ω^)「一応、プライバシーの問題があるから。許可が必要だお」

(,,゚Д゚)「だよなあ」

( ^ω^)「…………」

(,,゚Д゚)「…………」

(;゚Д゚)そ「って。なんだあんた! いつの間に!?」

( ^ω^)「さっきからいたお」

27 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 23:13:45.67 ID:wTQdYJ+JO
痛んだ長椅子に座る老人が一人。
白髪混じりの頭と短く整えられた髭を持つこの老男。一言で表すなら寡黙な賢老、詳細に語れば異質な雰囲気を感じさせる人間だった。

兎に角、気配がない。
役場はそれほど広くないし、建物に入ったときに俺は一通り辺りを見渡している。
にもかかわらず、俺は彼を見つけることが出来なかった。
いや、認識できなかったとするべきか。

(,,゚Д゚)「爺さん。どちら様?」

( ^ω^)「内藤」

(,,゚Д゚)「ないとう……ああ、思い出した。貴方が村長!」

そうか。この違和感に妙な懐かしさを感じると思ったら、俺はこの老人を見知っていたのだ。
昔、矢継村にいた頃に何度か会ったことがある矢峠村の村長。
あれから少し老けたようだが、岩を砕くような力強い眼は塵ほども衰えていない。

28 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 23:15:16.36 ID:wTQdYJ+JO
( ^ω^)「久しぶりだな。木鼓 靖虎君」

(,,゚Д゚)「俺を、覚えている?」

( ^ω^)「昔の話。記憶力には自信がある。今、うちの職員は皆出張っている。茶でも飲んでけお」

内藤は唸るような声を出すと、戸惑う俺を応接室にまで案内してくれた。

正直に言うと俺はこの老人をどうにも好きになれない。
人懐っこそうな笑みは何処か凍り付いていて、表情からは何を考えているかさっぱり読み取れないし、逞しい体からたまに見え隠れする幾つもの古傷が怖かった。
面と向かって話して、この人に真っ向から逆らえる人間などいないだろう。

言いようない威圧感。或いは見えない圧迫感。
果たして歳の甲だけでここまでのプレッシャーを造れるものなのか。
アンドロイドという形容がぴったりの男だった。

29 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 23:17:32.43 ID:wTQdYJ+JO
( ^ω^)「粗茶」

(,,゚Д゚)「どうも」

( ^ω^)「で、何を知りたい?」

(,,゚Д゚)「昔、矢継村に住んでいた人でこっちに越してきた人はいるのでしょうか」

( ^ω^)「それを知ってどうするお」

(,,゚Д゚)「何となく気になって」

( ^ω^)「なら、知らなくても問題ないだろう」

(,,゚Д゚)「そうではありません。同郷の者を気にかけるのに理由がいるのですか?」

( ^ω^)「はっきり言っておく。例え私が何かを知っていても君に教えるつもりは毛頭ない」

(;゚Д゚)「何故ですか!?」

30 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 23:18:39.67 ID:wTQdYJ+JO
内藤の宣告に俺は思わず机を揺らした。
青年の猛りに微塵も動じない内藤は、ただ腕組みをしたまま静かに机の湯呑みを見据えている。

(,,゚Д゚)「内藤さん。俺がそれを知っちゃ何かマズイことでもあるんですか?」

( ^ω^)「随分と突拍子もない発言だ。何を剥きになっているお」

(,,゚Д゚)「別になっていません。貴方こそ何を焦っているんです?」

( ^ω^)「…………」

(,,,゚Д)「部屋、少し暑いですね。温度を下げた方が良いのでは?」

(,,゚Д゚)「俺は快適ですけど、貴方は随分と汗をかいてらっしゃるようだ」

( ^ω^)「ッ……」

31 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 23:19:47.04 ID:wTQdYJ+JO
おっ。挑発のつもりだったが、的を射た発言だったか?
だが、決してハッタリというわけでもなかった。
前述したように内藤は表情の変化が非常に乏しい。しかし、彼が俺に話し掛ける時の目つきが先程から妙に気になったのだ。
口にする言葉をひとつひとつ慎重に選んでいるような印象を受ける。もしくは、腫れ物を扱うかのような態度に見える。

(,,゚Д゚)「内藤さん。何を怖がっているんですか?」

( ^ω^)「帰れ。消え失せろ」

(;゚Д゚)「な、何を急に……」

内藤が声を荒らげた。
冷たく、燃えるような威圧感が俺の身体を襲う。
駄目だ。この男から目を逸らすことが出来ない。

33 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 23:23:53.61 ID:wTQdYJ+JO
( ^ω^)「他所者のお前がこの村で安全に身を置いてられるのは、ひとえにお前が矢祟様の加護を受けた同志の端くれだからだ。ゆめゆめそれを忘れるなよ」

(,,゚Д゚)「矢祟様か……懐かしい御名だな。昔はみんな狂ったように盲信していた。貴方は今もそうなのか」

( ^ω^)「軽率な発言をするなよ小僧。符逆の頼みがなければ村人達はお前をこの地に迎えることなど無かったのだ」

(,,゚Д゚)「よく言う。御自分だって素直 空を村に引き入れているじゃあないですか。彼女は『矢』の人間ではないでしょう」

( ^ω^)「違う。彼女は別だ。空は素直家の世継ぎにとって代わる稀少な……!!」

そこまで言って、内藤の目が少し大きくなった。
明らかな失言。クーの名を聞いて反応した俺を見て情報を与え過ぎたことを悟ったのだ。
小さな舌打ちをしながら、内藤はゆっくりと震える指を扉に向けて無言の退出命令を俺に出す。

34 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 23:25:00.07 ID:wTQdYJ+JO
(,,゚Д゚)「空が素直家の……? どういうことだ。彼女はこの村の出身ではない筈だ」

( ^ω^)「お前の小さな脳の中で何を考えているかはよく分かる。だが、それを口にすれば次はない」

( ゚ω゚)「私の敵は村の敵。皆の敵。お前が"事故死"する理由など、この土地にはいくらでもあるのだお」

(;-Д-)「……今日のところは引き上げます。俺だって喧嘩をする為にここへ来たわけじゃない。それに」

( ^ω^)「…………」

(,,゚Д゚)「御先祖様の前で言い争うのも気持ち良くないですしね。内藤さん、俺は貴方の機嫌を損ねるつもりはないんだ」

35 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 23:28:50.17 ID:wTQdYJ+JO
接客室の壁に飾られた立派な家紋を見ながら俺は内藤に言った。
純金で模られた三本の矢を平行に三つ並べた家紋だ。
俺はあの紋がどういったものかをよく知っている。この村にとって大切なものだ。
立派な額縁に納められているそれを見ながら、俺は内藤がどう切り返してくるかを待つ。

( ^ω^)「そう思うなら早くこの部屋から出ていけ」

(,,-Д-)「そうします。お茶、ご馳走様でした」

一滴も飲んでいない茶碗を一瞥した俺は、足早に部屋を退散する。
ああいう手合いは逃げるが勝ちだ。
扉を閉め切る直前に見えた内藤の顔は少し寂しそうに見えた。



37 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 23:35:01.58 ID:wTQdYJ+JO


   ※※   ※※   ※※


(,,-Д-)、「くそっ。気分の悪い日になっちまったな」

自宅に帰り、早めの夕食を済ませた午後七時。
特に面白いテレビ番組も無く、単調なインターネットにも特に目を引くものが無く、暇を持て余した俺は舗装されていない道をのんびりと散歩していた。
綺麗な夕日も半分ほど沈み、クマゲラの鳴き声がよく響く。
そういえば、もう繁殖のシーズンだったかな。枯木を叩くあの鳥の姿は見ていて飽きない。
天然記念物だから捕ったら逮捕されるけど。

('A`)「ギコ先生。今晩は……」

(,,゚Д゚)「欝田じゃないか奇遇だな。それと――――」

( ФωФ)「杉浦である。君がギコ先生か。ドクオから話は聞いておるよ」

从 ゚∀从「高岡だ。へぇ、中々のイケメンって話はマジだったのかあ」

38 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 23:37:37.70 ID:wTQdYJ+JO
欝田と共に道を歩いてきた三人組と鉢合わせになった。
一人は大柄な身体を持つ目つきが怖い中年男性。
一人は猟銃を抱えた茶髪の若い女性だ。

話を聞くと例の尾呂の捜索を打ち切った帰りらしい。
打ち切ったということは、やはり尾呂は見つからなかったということか。

( ФωФ)「残念ながらその通りである。もはや我々だけの力ではビロードを見つけることは叶わん」

(,,゚Д゚)「では、警察を?」

从 ゚∀从「しゃくだな。外部の人間をここに迎えることは……村の皆が許すかどうか」

40 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 23:45:09.14 ID:wTQdYJ+JO
そうか、尾呂は確か独身だったな。
捜索願いを出さなければ警察は動かない。
民事不介入という奴だ。
明確な事件が起きない限り司法の先兵は食指を動かさないとは。

(,,゚Д゚)「(くそったれの閉鎖的な村だ。矢祟の風習はやはり人間を腐らせちまう)」

だから俺は……いや、俺達はあの村を棄てたんだ。

(,,゚Д゚)「欝田も捜すの手伝っていたのか」

('A`)「いえ、ただ後片付けを手伝っただけです」

从 ゚∀从「悪ぃなあ受験生なのに。人ひとり捜すのにあれだけの機材を用意しなきゃならんとは、人間ってのは面倒な生き物だぜ。助かったよドクオ」

('A`)「いえ……」

( ФωФ)「がっはっは。何を赤くなっとるドクオ」

('A`)「勘弁して下さいよ……」

41 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 23:49:17.83 ID:wTQdYJ+JO
後から知った話。欝田は高岡という女性に仄かな熱を上げているらしい。
高岡は見た目を裏切らない姐御肌な人物だが、欝田はこういう男勝りな女性が好みなのか。
意外と言えば意外だし、やはりと言えばそれも通る。「Mなのか?」と聞くと欝田は眉ねを寄せて首を激しく横に振った。
確かに美人だけど俺にはちょいと敷居が高いなあ。

从 ゚∀从「んで、君は彼女いんの? うん?」

(;゚Д゚)「距離が近いっすよ。そ、それより尾呂さんどうするんですか。本当に警察を呼ばないつもりですか」

( ФωФ)「こればかりはな。鈴木のためにも何とかしてやりたいが……」

42 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 23:51:58.79 ID:wTQdYJ+JO
鈴木? 鈴木って鈴木 大尾のことか。

( ФωФ)「ああ、その子である。鈴木くんは昔から尾呂に懐いておってな。聞き分けが良い子だから尾呂も随分可愛がっていたわ」

从 ゚∀从「今日の山狩りも朝から着いて行くって聞かなくてよ。
     気持ちは分かるが、山の縦断は流石に中坊にゃキツイ。
     我慢しろって説き伏せるのに随分苦労したぜ」

そうか。鈴木の奴、学校で見かけないと思ったらそんなことをしていたのか。
橙色の日光を背に受けながら、高岡はボリボリと頭を掻く。
肩に担いだ猟銃が先程からいやに目につくが、山狩りに持ち込んだ物だろうか。
少し物騒だ。

43 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 23:56:09.45 ID:wTQdYJ+JO
从 ゚∀从「この辺りの山は猪やら熊やらがたまに出る。不意の遭遇なんざザラにあるから、護身用に持って行くのさ」

( ФωФ)「獣とて進んで人を襲うわけではない。こちらから存在を発してやれば自然と逃げて行くものだが、
       川や風下に吾輩達がいるときなんぞは匂いやら音やらが先方に伝わらんときがある。そういう時の保険であるな」

('A`)「高岡さんは昔、射撃のオリンピック選手候補にもなったことがある。スコープが無くても百メートル先の林檎を撃ち落とす……」

(,,゚Д゚)「オリンピックとは、また豪勢な話だな」

从 ゚∀从「昔の事さ。まあ、そこらの射撃手になら負けない自信はあるし、
     実際こいつで生計を立てられてるのなら、それなりの腕はあるんじゃねーの?」

ケラケラと笑う高岡。
そんな悠長な事態でもないだろう。
杉浦も高岡もはっきり言おうとはしなかったが、尾呂の捜索は事実上打ち切られる可能性が高かった。

民間による捜索能力をこれ以上引き上げることは不可能。
見殺しとは恐れ多い表現だが、もし尾呂が事件や事故に巻き込まれていたとしたら、もう助からないかもしれない。
世間から見ても異常な行動がこの村でまかり通ることが時折あるのだ。

44 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/20(日) 23:59:12.55 ID:wTQdYJ+JO
( ФωФ)「では、吾輩とドクオはこの辺りで」

从 ゚∀从「オレはこっちの道だ。じゃあな」

('A`)ノシ「…………」

(,,゚Д゚)「お休みなさい」

この村の。いや、『矢』の名を持つ村々の歴史と特性を少し話そう。

今より数百年前。この辺り一帯には三つの大きな村が存在した。
今はダムに沈んだ俺の故郷「矢継村」
数百年前に大規模の土砂災害で沈んだと言われる「矢墜村」
そして、唯一現存しているこの「矢峠村」
学者連中なんかは歴史を語るときに、この村々を三本矢と総称することもあるらしい。

何処の地にもあるように、三つの村には共通した伝説が伝えられていた。
というより、その伝説によってこれらの村の名がそれぞれ付いたとされている。

45 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/21(月) 00:00:36.02 ID:MocwnjrfO
ここからは史実とその伝説が少し入り混じっている話。

その昔、この近辺には不実(フザネ)・素直(スナオ)・都村(トムラ)という三つの有力な豪族がいたそうだ。
もともと三族はそれぞれ別地方の生まれで平安時代以前から戦国に至るまであらゆる危機と苦難を乗り越えるうち、
山形県の前身、出羽国へ自然と集結したという。

ただ、鎌倉時代には武藤・大江氏が、平安時代には最上氏が周辺地域一体を強力に支配していた為、
彼らは従える一族をそれぞれ引き連れ、戦乱と権力が届きにくい山間部を力を合わせて開拓したらしい。

46 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/21(月) 00:03:10.23 ID:wTQdYJ+JO
(,,゚Д゚)「(だが所詮は弱肉強食。喰うか食われるかの時代。三族が仲良く一つの集落に住めるわけがねぇ)」

そこで三族はとある掟を作った。


“我ら不実、素直、都村の三族。これより射る一本の矢を『始・中・終』の三点に分かち、これを不可侵の領域とす”


つまり、一本の矢を放った地点、飛んでいく矢の中間地点、そして矢が突き刺さった地点を基点に開拓した土地をそれぞれ分割しましょう、というわけだ。
もちろん現実に存在する村々の間には何十キロという距離が開いているので、本当にそんな方法で土地を分けたとは思えないが、
とにかく、"始"を得た不実家は『矢継』、"中"を得た素直家は『矢峠』、"終"を得た都村家は『矢墜』と手に入れた地に名前を付け、必要な時は互いに協力しあいながら戦乱の世を生き延びたのだそうだ。

48 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/21(月) 00:06:31.43 ID:MocwnjrfO
(,,-Д-)「で、みーんな仲良くめでたしめでたし」

……そんなわけがない。

閉鎖的な山間部に築かれた三本矢の村には三族が持ち寄った莫大な財宝が眠っていると大昔から囁かれていた。
古の時代には有力な豪族や徒党を組んだ山賊連中が時折、村を襲ったとされている。
財宝の伝説が本当かどうかは知らないが、自衛を迫られた三族は互いの戦力を一つに統一し、連合軍を創設した。

掲げられた紋は三本の矢を縦に並べたシンプルなもの。そう、あの村役場の応接室に飾られていた家紋がまさにそれだ。

49 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/21(月) 00:08:47.84 ID:MocwnjrfO
(,,゚Д゚)「だが、ある日を境に三つの矢の向きは少しずつズレ始めてしまう」

何がきっかけなのか何が理由なのかは様々な憶測が飛び交っていて不確かだが、戦国時代の最中に村で凄惨な事件が起きたらしい。
それが、村民同士による大量虐殺。
これは史実にもしっかり記載されており、少なくとも矢継・矢峠・矢墜を合わせて三百人以上が犠牲になったと言われている。
同志が同志を手にかける異常事態に一族滅亡の危機を感じ取った三族の長は、この地の土着の神にある契約を持ち掛けた。

"矢祟様(ヤダタリサマ)"

それが、村の住人達が今日まで独自に信奉している神の名だ。
矢祟様はその名の通り人を祟ることを得意とする呪いの化身。あまり褒められたような存在ではない。

50 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/21(月) 00:10:53.24 ID:MocwnjrfO
通常、神社や寺などでは賽銭や供物を捧げる代わりに人は神や仏に願いを叶えてもらうが、矢祟様はそんな生温い物では満足しない。

彼の神は人の血肉を欲するのだ。
人間という贄を捧げることで、矢祟様は強力な加護と呪いの力を三族に与えたらしい。
その力ゆえに、攻め寄せて来るならず者から三村ともに一度も侵されることがなかったのだとか。

(,,゚Д゚)「今回の尾呂失踪の一件。皆、口にこそ出さないが矢祟様の童敵(ワラベガタキ)になったと思っているに違いない」

矢祟様は下界に降りる時に可憐な少女の姿で現界すると伝えられている。
少女はとても寂しがりやで、辺りに遊び敵がいないか探し回る。
そうして初めに出会った人間と共に遊び。楽しいひと時を過ごすのだそうだ。

その人間が死に絶えるまで。


51 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/21(月) 00:13:06.14 ID:MocwnjrfO
(,,゚Д゚)「童敵に選ばれた人間は神隠しに状態になる。つまり行方不明。これで尾呂の居所が完全に分からなくなれば、この村の人間は……」

矢祟様が童敵を探す時は村に不幸が訪れる前兆とされている。つまり、かつての原因不明の大量虐殺が再来すると言われているのだ。
神隠しは矢祟様が村に対して行う悲劇の警告。
三族はその警告を受けると契約に乗っ取った儀式を施し、悲劇を回避してきた。

(,,゚Д゚)「その儀式も随分と血生臭いものだったみたいだけど……」

歴史に興味のない俺はこれ以上のことは知らない。

53 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/21(月) 00:18:20.60 ID:MocwnjrfO
(,,゚Д゚)「大分暗くなってきたな。そろそろ帰るか」

从'ー'从「あれれ。ギコ先生こんばんわ〜」

少し雰囲気が出初めた学校を横切ろうとすると、校舎から渡辺が出てきた。
今日の講習は午前中で終了している。一人のようだが、何をしていたのだろう。

从'ー'从「アラマキのお世話をしてたんだよ。あと花壇の水やりかな」

(,,゚Д゚)「そっか。関心だな」

从'ー'从「えへへ」

(,,゚Д゚)「もう辺りも随分暗い。尾呂さんの件もあるから気をつけて帰るんだぞ」

从'ー'从「は〜い」

54 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/21(月) 00:19:57.05 ID:MocwnjrfO
いつも通りの柔らかい笑みを見せる渡辺。
別れの言葉を交わして歩き出すと、背後から改めて渡辺から声をかけられた。

从'ー'从「ねぇギコ先生。ビロードさんはどこに行っちゃったのかな」

(,,゚Д゚)「さすがに分からないな。無事だといいんだが」

从'ー'从「無事? 本当にそう思う?」

(,,゚Д゚)「…………」

目を細めてゆっきり俺に近付いてくる渡辺。
何故か、背中に冷たいものが走った。

55 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/21(月) 00:20:48.21 ID:MocwnjrfO
从 ー 从「みんなね。言おうとしないの。誰も口に出さないの」

(;゚Д゚)「…………」

从 ー 从「ギコ先生は矢継村に住んでいたんでしょ? だったら矢祟様のことは知ってるよね」

(,,-Д-)「わ、わからん。そもそも尾呂さんはただの家出かもしれないんだ。憶測で語るのは―――――――」

从゚ー゚#从 「ゴマカスナァッ!!」

(;゚Д゚)「うっ!?」


56 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/21(月) 00:24:38.80 ID:MocwnjrfO
金切り声を上げた渡辺が俺に飛び付き、胸ぐらを掴んで激しく揺さぶる。
目が血走り、鬼のような形相だ。
なんだ? いったい渡辺に何が……。

从゚ー゚#从「みんな知らないふりをしている! みんな関係ないふりをしている! どいつもこいつも無関心を装っている!」

(;゚Д゚)「お、落ち着け渡辺。大丈夫……大丈夫だから!」

从゚ー゚#从「何が大丈夫なの!? 知っているでしょう。これは矢祟様の警告だよ! ビロードさんは童敵になってしまったんだ!」

ぜぇぜぇと荒い息になった渡辺は、俺のシャツを掴んだまま地面にへたりこんでしまった。
一方の俺はというと矢祟云々の話よりも普段の渡辺からは想像できない彼女の豹変振りにうろたえるだけ。
背筋に張り付いた物が首筋にまで拡がってくる。

57 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/21(月) 00:27:28.60 ID:MocwnjrfO
从 - 从「みんな死んじゃう。みんな死んじゃう。みんな死んじゃう。みんな死んじゃ……死んじゃうんだ……」

(,,-Д-)「大丈夫。大丈夫だから。お前には学校の皆がいるじゃないか。俺も茂羅先生もショボンもいる。大量虐殺なんて起こるもんか」

小さな身体を抱きしめ、崩れ落ちた少女を抱きしめる。
今日は曇り。日は暮れて。風は少し吹いている。
珍しく肌寒い一日。だが、渡辺が震える理由は辺りの気温が低いからではない。

58 名前: ◆LLLzw1dMIQ 投稿日:2009/09/21(月) 00:30:21.18 ID:MocwnjrfO
  _
 |∀゚)

(,,゚Д゚)「(長岡?)」

 |

(,,゚Д゚)「…………」

結局、渡辺の予見が杞憂に終わることはなかった。
小さな星の小さな国の小さな村で起きた小さな殺戮に俺達は巻き込まれる。

貴方はこの謎を、殺意を、恐怖を解き明かせるか。
いや、解き明かさなくてはならない。解き明かして欲しい。

オトギリソウの散る頃に。破滅を企む鬼子は繭より出ずる。


(,,゚Д゚)オトギリソウの散る頃に“繭”のようです    完




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