- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/21(火) 15:39:13.48 ID:zt/oQE240
プロローグ
星空。月の姿は見えない。
押しつぶされそうな暗闇の中、一組の男女が星を見上げながら他愛のない話をしていた。
しかし話の内容とは裏腹に、女はとても辛そうな顔をしている。
そんな彼女の表情の意味を読み取った男は、とっておきの話をするよ、と前置きをしてからむき出しの地面に寝転がった。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/21(火) 15:40:10.48 ID:zt/oQE240
「目を閉じて、耳を澄ます。そしてイメージしてみるんだ。今君は、果てしなく続く草原の中にひとり佇んでいる。誰もいなくて寂しいかもしれないけど、優しい風と可愛い鳥がいてくれる。だから君は寂しくない。
風が草の海を作る音を聞きながら、君はゆっくり目を開ける。そしてあの超有名映画のワンシーンのように両手を横に広げる。
風が自分にまとわりつくのを感じて、君は歩き出すんだ。最初はゆっくり少しずつ。段々スピードを上げて、最後には走り出す。
早く走れそうな掛け声を叫ぶのもいいね。何も考えずに手は横に伸ばしたまま、とにかく風と一緒に走るんだ。段々と足が地面についている時間を短くするように意識して……。
いつしか君の足は土じゃなく、風を掴むようになってるはず。飛べるんだ、人間でも、飛べるんだよ。風になれるんだよ」
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/21(火) 15:40:51.25 ID:zt/oQE240
- 何よそれ、女は微かに笑みを漏らし、体育座りの体勢を崩して立ち上がる。
男の言った通りに彼女は目を閉じ、聴覚に神経を研ぎ澄ませたところで――――
「風になれなかったら、どうするの?」
そんなつまらない事を聞いた。
聞いてしまった。
男はいつものうっすらした笑みを浮かべるばかり。
全く動くことのないその笑みに、彼女は少しだけ恐怖を感じた。
空には星空が浮かんでいる。
本当に?
それは彼女が見ていた幻覚ではないのか?
だって、
黒に塗りつぶされた空と世界には微かな光すら見えない。
唐突に訪れた恐怖に彼女は耐え切れず、咽が張り裂けるほどの悲鳴を上げた。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/21(火) 15:42:12.97 ID:zt/oQE240
聞かなくて良かったことではないか。
知らなくて良かったことではないか。
言わなくて良かったことではないか。
彼女がどんなに後悔しても、過ぎた時間は戻らない。
全知全能の神ですら、不可能なこと。
未だに絶叫をあげている彼女の傍に寄り添うのは、
黒い世界から伸びてきた無数の腕だった。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 15:44:15.39 ID:zt/oQE240
そしてその大陸のどこか。
始まりは、良くも悪くも何も無い村。
見渡せばそこにあるのは畑ばかりで、世を騒がせている戦争もこの村には関係なく、その村に住む人々は豊穣を恵んでくれる太陽を信仰しながら平凡に暮らしていた。
( ^ω^)「ふう」
そんな村の入り口で、今一人の青年が立ち止まった。
嬉しそうな様子の青年に気付く者はまだいない。
( ^ω^)「ブーン、ただ今帰ったお!」
小さな村に、青年の声が響き渡る。
その声に誘われた一匹の蝶がはらはらと風に流され、やがていたる所から村の住人が青年の周りに集まってきた。
空は文句なしの晴天。
風は少し強く、村の近くにある砂漠から運ばれてきた砂が人々の足元をくすぐった。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 15:45:27.95 ID:zt/oQE240
- ( ^ω^)ブーンは呪われたようです
第一話「太陽と月の伝説」
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 15:46:34.39 ID:zt/oQE240
むかしむかし、あるところに二人のしまいがおりました。
おねえさんはとってもきれいなきんぱつで、とってもあたたかくほほえむので、にんげんもどうぶつもしょくぶつも、みんなおねえさんのことがすきでした。
いもうとはとってもきれいなぎんぱつで、だれもがうらやむほどのうつくしさをもち、やさしいひとだったので、やっぱりにんげんもどうぶつもしょくぶつも、いもうとのことがすきでした。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 15:47:49.15 ID:zt/oQE240
- とてもなかよしのしまい。
せいかくはおたがいにまったくちがうけれど、とてもなかよしのしまいはおかあさんにとってもじまんのむすめたちでした。
やがてしまいは、「かみさま」というおしごとををすることになりました。
おひるにひかりとあたたかさをわけへだてなくみんなにあたえるかみさまはおねえさんに。
よるにうつくしいほしをひきつれてみんなをみまもるかみさまはいもうとに。
ですが、しまいが「かみさま」になるにあたり、とてもかなしいしれんがありました。
なかのよいしまいは、あえなくなってしまうのです。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 15:48:41.18 ID:zt/oQE240
- 「わたしは、いつもいもうとのことをおもっています。いもうとがみちにまよわないように、ずっとひかりをてらしつづけます」
おねえさんはいいました。
「ではわたしは、いつもおねえさんのひかりをうけつづけます。いつもおねえさんのおんどをかんじていられますように」
いもうともいいました。
なかのよいしまいは、やくそくをしました。
『いつかかならず、またあおうね』。
そうしてきょうもしまいはそれぞれのそらでかがやきつづけています。
やくそくをまもるため、それぞれのひかりはきょうもそらをてらします。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 15:49:48.98 ID:zt/oQE240
太陽と月の起こりを謳った伝説が、世界にはあった。
今ではもう廃れて、知る者も少なくなってしまった伝説だ。
しかし、その伝説があった名残として太陽に祈る信仰は今日も続く。
さきほど村中の人間からお迎えを受けた青年、ブーンは太陽を見上げてあくびをした。
ぽかぽかと暖かい日差し。伝説を信じているわけではないブーンだが、この暖かい日差しを浴びられるのなら伝説も馬鹿にするものじゃないな、と思う。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 15:50:58.63 ID:zt/oQE240
- ミセ*゚ー゚)リ「無事で良かったね、ブーン。この前大きな砂嵐が起きたでしょ?大丈夫だった?」
ブーンの隣を歩くのは、幼馴染のミセリ。
行商人として大陸を歩き回るブーンのことを彼女は心配してくれていたらしい。
( ^ω^)「大丈夫だお、頑張って走って逃げたお」
ミセ*゚ー゚)リ「砂嵐に勝ったのか!?走って!?」
他愛の無い話をしているうちにブーンとミセリは村の居住区に着いた。
ブーンを見たものは、「旅の土産話を聞かせてくれ!」だとか「さっさと養生して、畑を手伝ってくれよ!」と声をかけていく。
その度にブーンは人懐こい笑顔で、「明日たっぷり聞かせるお!」だとか「モララーの畑は広いお……」と答える。
ブーンがこの村でそこそこ慕われているのは、揺ぎ無い事実だった。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 15:51:47.37 ID:zt/oQE240
こじんまりとした家の前でミセリの足が止まる。
ブーンも一緒に立ち止まった。
ミセ*゚ー゚)リ「ブーン、おなかすいてない?」
( ^ω^)「村に入る少し前に食べたお」
ミセ*゚ー゚)リ「そっか!じゃあブーン、あたし今から脱穀の手伝いするからここでバイバイね!それと、明日あたしにも旅の話聞かせてね!」
( ^ω^)「分かったお。ミセリは働き者だおな…。頑張れお!」
( ^ω^) ノシ
ミセ*゚ー゚)リ ノシ
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/21(火) 15:52:31.17 ID:zt/oQE240
家の手伝いをすると言って、ミセリは自分の家へ。
大荷物を抱えたブーンはそこから少し離れた自分の家に向かった。
戻る 次へ