- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 17:30:32.80 ID:gEidAFuXO
- 第十話「離散、集合」
砂。
砂。
砂。
砂。
時々、力尽きた獣の死体。
時々、砂嵐や塵旋風。
(∪ ^w^)「暑い。むしろ熱い。そして痛い」
( ´_ゝ`)「痛いな、主に日差しが」
(´<_` )「痛いよな、なんかもう全部」
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 17:31:39.89 ID:gEidAFuXO
- そんな文句を零しつつ、ブーン達一行は西の大国、VIPを目指してのろのろと砂を行く。
旅路がなかなか進まないのは、壊滅してしまったニュー速国の僅かな生き残り5人を連れているからだ。
国の外にも出たことのない老若男女が6人にラクダが4匹。
砂を歩く足取りは、必然的に遅くなる。
結局ニュー速から連れてこれたのは、
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 17:33:02.51 ID:gEidAFuXO
- |゚ノ ^∀^)「砂漠はとっても広いですわー」
レモナ。
( ・−・ )「………………」
シーン。
( l v l) 「なぁ、後どのくらいでVIPに着くんだい?」
宗男。
( ´W`)「この老体にゃ、長い旅は堪えるのぉ…」
シラヒーゲ。
イ从゚ ー゚ノi「VIPというのは一体どういう所なのか」
狐娘、の5人だけだった。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 17:34:04.09 ID:gEidAFuXO
- ―――ニュー速を出て、2日目の昼。
大きな砂丘を登り切った11人の眼下には、見渡す限りの砂の海が広がっていた。
まだVIP国は見えない。
(∪ ^w^)「この様子を見るに、まだVIPは先だと思うお。頑張って耐えるんだお!」
( l v l) 「そうだな、俺達がラクダを占拠してるんだから、こんなことで弱音なんて吐いてられないよな」
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 17:35:38.39 ID:gEidAFuXO
- 生きていたラクダは4匹。
宗男たち5人の中から、少なくとも1人は歩かざるを得ない。
しかし、老人のシラヒーゲと子供のレモナ、左足を怪我をしているシーンを除いたら、1匹のラクダに狐娘と宗男が交代して乗ることになる。
荷物を括られている分も加算したら、ラクダの負担も相当なものだろう。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 17:37:17.36 ID:gEidAFuXO
- 普通の旅よりも進み具合が数段遅いのを気にしながら、彼らの歩調に合わせてブーンたちもゆっくりと、確実に進んでいく。
(,,゚Д゚)「それにしても暑いな」
从 ゚∀从「化け物が出ないだけマシだろ?」
(,,゚Д゚)「そうかも知れないけどよー…」
のろのろと砂に足跡をつけて行く一行の少し後ろを歩くギコとハインは、退屈そうに空を見上げた。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 17:37:59.21 ID:gEidAFuXO
- 雲ひとつない、青い空。
なんとなく段々腹立たしくなってきたので、ギコは空を見上げるのを止めた。
ただ何もない所を歩き続けることに暇を感じたハインはそっと、欠伸をひとつ。
遠くに、小さな塵旋風が渦巻くのが見えた。
――――――――――
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 17:39:44.71 ID:gEidAFuXO
- ――――――――――
歩く。
歩く。
ξ ゚听)ξ「(少し離れてるけど、小さな砂嵐が起こり始めてる…。距離とか風向き的にこっちに来そうな様子はないし、みんな何も言わないから大丈夫なのかしら)」
黙って歩いていたツンは、順調に前に進み続けていたはずのラクダが突然足を止めたのに気付いた。
そのラクダに乗っているのはレモナだ。
ξ ゚听)ξ「疲れちゃったかもしれないけど、もう少し頑張るのよ」
ラクダのコブを撫でようと、近付くツン。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 17:41:14.24 ID:gEidAFuXO
- レモナも心配そうに、動かなくなってしまったラクダの顔を覗き込んだ。
風に運ばれる砂漠の砂に少しずつ埋もれるラクダの足。
その茶色の毛に包まれた前足を、何かが掴んでいるのが見えた。
(´<_`;)「ツン危ない!」
そう、弟者がそう叫んだのは偶然に近かった。
ξ;゚听)ξ「!?」
危険を知らせてくれた声に、半ば反射的にツンはラクダの上のレモナを抱えてその場から離れる。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 17:42:32.31 ID:gEidAFuXO
- 途端、レモナが乗っていたラクダは砂の中に引きずり込まれていった。
助けを求めるような切なげな鳴き声が、僅か数秒でくぐもったものに変わる。
(∪;^w^)「!」
びゅう、
風向きが変わり、強い風が砂を巻き上げた。
すっかり怯えてしまい、ツンの後ろに隠れていたレモナが突然大声を上げる。
|゚ノ;;∀;)「いやですわぁあああ!!!」
泣きじゃくりながらツンの服を掴むレモナ。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 17:44:23.87 ID:gEidAFuXO
- その細い足に、先程ラクダを地中に引きずり込んだのと同じような手が絡み付いていた。
(∪;^w^)「レモナちゃん!」
|゚ノ ;∀;)「うわああああん!!!助けてぇええ!!」
バランスを崩し、レモナは転ぶ。
慌ててツンや兄者たちがレモナの腕を引っ張るが、彼女の身体はどんどん砂に飲み込まれていく。
強風で目に砂が入って思わず瞼を思い切り閉じた狐娘は、妙な気配を察して後ろを振り向いた。
そこで見たものは、もこもこと膨れ上がりながらこちらに向かってくる巨大な砂嵐。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 17:45:52.62 ID:gEidAFuXO
- 物凄い勢いでまっすぐ一行に向かって砂を巻き上げるその砂嵐との距離は、目測で大体10キロほど。
イ从゚ ー゚ノi「ま、まずいぞ!砂嵐がこっちに―――」
|゚ノ ;∀;)「うわああああん!助」
泣き叫んでいたレモナの声が、ぷっつりと途絶える。
彼女がいた場所には、何事もなかったかのように砂があるだけだった。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 17:46:58.52 ID:gEidAFuXO
- ξ;゚听)ξ「……」
(∪;^w^)「……」
(;´_ゝ`)「……」
(´<_`;)「……」
( ・−・;)「……」
(;´W`)「……」
(;l v l)「……」
(;,゚Д゚)「……」
从;゚∀从「……」
イ从;゚ ー゚ノi「……」
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 17:49:06.37 ID:gEidAFuXO
- 茫然としていた一行の耳に、腹に響くような重い音が聞こえてきた。
まるで地面を噛むような音だ。
今までレモナを助けようと躍起になっていたブーンは、そこでやっと砂嵐の存在に気付いた。
(∪;^w^)「!み、みんな逃げるお!」
弾かれたように走り出す、レモナを除いた10人。
砂嵐はもうすぐそこまで来ていた。
(´<_`;)「うわっ!」
(;´_ゝ`)そ「弟者!?」
走り出して数歩。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 17:50:28.80 ID:gEidAFuXO
- 弟者が砂に足を取られて転ぶ。
慌てて弟の元へ引き返す兄者の目に、地中から伸びる手が見えた。
その手はレモナやラクダを砂の中に引きずり込んだように、弟者をも地面に引っ張る。
(#´_ゝ`)「くそっ!何なんだよこれ!」
(´<_`;)「兄者、もういい!逃げろ!砂嵐がもうそこに!」
うるさい分かってる!
そう叫びながら兄者は、刃こぼれしている短剣を弟者を引きずり込む手に何度も何度も振り下ろす。
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 17:52:13.09 ID:gEidAFuXO
- 手応えはあるのに、『手』は全く怯まず、かえって数が増えてしまった。
兄者の必死の攻撃は無駄だったらしい。
d( )
親指を立て、ゆっくりと砂に沈んでいく弟者。
( ´_ゝ`)「……」
( ´_ゝ`)b
自分にも絡み付き、地の底に引きずり下ろそうとする手を振り払うこともせずに短剣を鞘に収めた兄者。
砂嵐を目前に、兄弟二人が砂に消えた。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 17:54:19.54 ID:gEidAFuXO
- ―――――
ブーンは、兄者が砂に消える瞬間を見て思わず足を止めた。
弟者がいなかったことからすると、もう彼は既に地中なのだろう。
(∪;^w^)「お!?」
何かに尻尾を掴まれ、ブーンは恐る恐る尻尾を見る。
白いふさふさした尻尾を、地中から伸びた血色の悪い手が掴んでいた。
((∪ ゚w゚)
(∪;^w^)「おおおおおお!!!」
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 17:55:42.44 ID:gEidAFuXO
- この手に掴まれたら最後なのだ。
冷たい砂の中に引きずり込まれ、その後は。
(∪ ゚w゚)「 」
何も出来なかったブーンが砂に埋もれる前見たのは、ハインやギコ、ツンやシラヒーゲが例の手に掴まる光景。
―――全滅だ。
意識が途絶える直前、ブーンは思った。
――――――――――
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 17:56:50.90 ID:gEidAFuXO
- ――――――――――
熱い、冷たい
明るい、暗い
寒い、暑い
怖い、楽しい
死んでる?生きてる?
(∪ ^w^)「絶対におかしいだろこれ」
灼熱の太陽。
熱せられた砂。
申し訳程度に生えるサボテン。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 17:57:47.78 ID:gEidAFuXO
- b
b
b
b
b
b
親指を立てながら地中に潜って行った、ブーンたちを砂に引きずり込んだ『手』。
それを見送ったブーンは困り果てて、とりあえず辺りを辺りを見回してみる。
見渡す限りの砂の海。
砂嵐も塵旋風も見当たらず、生き物の姿もない。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 17:58:39.77 ID:gEidAFuXO
- 耳をそばだててみても、何も聞こえない。
嗅覚も、何も感知しなかった。
(∪ ^w^)「僕が生きてるんだから、皆生きてると思うんだお。それにあの手も、砂嵐から僕たちを助けてくれたのかもしれないお」
音がないのは何ともつまらないので、ブーンは独り、呟く。
(∪ ^w^)「みんなを捜しにいくか、それともVIP目指して西に行くか…。みんな、行く場所は知ってるんだ」
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:01:05.89 ID:gEidAFuXO
- (∪ ^w^)「この近くに全員揃っているとも限らない」
(∪ ^w^)「……」
(∪ ^w^)「よし、この付近を捜してみて、誰もいなかったらVIPに行ってみるお」
(∪ ^w^)「某FFみたいに綺麗に揃いそうにもないお…」
(∪ ^w^)「あ、あれもしばらく1人揃わなかったっけ」
長い独り言を終え、ブーンは西に向けて歩きだした。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:10:38.96 ID:gEidAFuXO
- ―――
歩く、
歩く。
何時間歩いたかも忘れた。
その成果として見つけたものといったら、ニュー速から連れてきたラクダが一匹。
まだ人には出会えていない。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:11:51.14 ID:gEidAFuXO
- (∪;^w^)「……」
歩く。
(∪;^w^)「……」
歩く。
(∪;^w^)「……」
歩く。
もう一頭、ラクダを見つけた。
(∪;^w^)「何で見つけるのはラクダだけ?!犬一匹とラクダ二頭が並んで砂漠を歩くって、傍から見たら凄いシュール!
ブーンくんビックリ!誰もいないから、別に見られる心配なんかいらないんだけど!」
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:13:14.17 ID:gEidAFuXO
- (∪;^w^)「でもここまで来たら話し相手が欲しいよね!ラクダ話せないからね!」
二頭のラクダに挟まれながら、ブーンは歩く。
歩く。
(∪;^w^)
歩く。
(∪;^w^)
またラクダを見つけた。
(∪;^w^)「またラクダ?!僕一人でラクダ三頭独占ってどうなの?!てかそこの二頭!交尾すんな腹立つ!
そこの一頭も仲間に入れてやれ!すっごい切ない目で僕を見るな!こっち見んな!こっち来んな!」
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:15:05.59 ID:gEidAFuXO
- (∪; ゚w゚)「アッー!」
「ブーン?」
(∪; ゚w゚)「あひっしゅごい!しゅごいよラクダしゃん!睫毛長いし目はうるうるしてるしよく見たらラクダって美人かも!…」
(∪;^w^)「え?」
ξ;///)ξ「ごめんなんかとんでもない時に声かけちゃった」
名前を呼ばれたブーンが見たのは、顔を赤くして俯いてるツンの姿。
違った意味で、ブーンは終わりを確信した。
――――――――――
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:16:07.46 ID:gEidAFuXO
- ξ ゚听)ξ「私が来た方向には、人はいなかったわ。間違いないと思う。ちゃんと確認しながら歩いて来たんだから」
(∪メメメメメメ)ゝ「お疲れ様であります!」
すっかり日が暮れ、ブーンとツンは眠るラクダに寄り掛かるようにして味気ない固形食料を食べていた。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:17:49.72 ID:gEidAFuXO
- 火を起こす道具も技術も二人にはないので、暗闇の中、ラクダに積まれていた鞄の中から手探りで手軽に食べられるものを選んだのだ。
ξ ゚听)ξ「そっちはどうだったの?」
(∪メメメメメメ)ゝ「異常なしでありましたお!見つけるのはラクダばかりですお!」
ξ ゚听)ξ「そう…」
ツンはため息をついた。
「みんな無事だといいけど」と、そう言いたそうなため息だった。
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:18:45.24 ID:gEidAFuXO
- その後、しばらくは味のしない固形食料を頬張る音だけが夜の砂漠に吸い込まれる時間が続く。
ξ ゚听)ξ「――明かり…。…焚火がないと、なんか不安にならない?」
ぽつり。
ツンが小さな声で呟いたのは、ブーンが眠くなってきた頃。
その声ですっかり目が覚めたブーンは、どういう意味なのかと聞き返す。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:19:42.77 ID:gEidAFuXO
- ξ ゚听)ξ「うーん、なんて言えばいいんだか分からないけど…。いつも私は、光に包まれた街に住んでたから…。
こういう暗闇ってなんか、不安になるの。ブーンはどうだった?
今まで、こんな日も何度かあったんじゃない?不安になったり、寂しくなったり、怖かったり、何かに縋り付きたいって思ったことない?」
暗闇の中、ツンのシルエットが縮こまるのがなんとなく見えた。
ブーンはツンの質問を反芻する。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:20:29.92 ID:gEidAFuXO
- (∪ ^w^)「……もちろん、こういう日がある度にそう思うお。特に僕は今、こんな姿だから…余計に。でも」
ξ ゚听)ξ「でも?」
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:22:33.84 ID:gEidAFuXO
- (∪ ^w^)「行商の旅に出てた時も、今も、僕は寂しくはないんだお」
ξ ゚听)ξ「……どうして?」
(∪ ^w^)「多分、旅するのは好きだったからだと思うお。前の僕には希望も目標もあった。
今の僕には、ツンがいてくれてるお!だから不安じゃないし、寂しくないし、怖くないんだお。それに、こいつらもいるし」
ブーンの言う『こいつら』とはラクダのことだ。
ξ ゚ー゚)ξ「……」
ツンは暗闇の中、微笑む。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:24:24.03 ID:gEidAFuXO
- ξ ゚听)ξ「……?」
ξ////)ξ「って!っな、何言ってんのよ!……でも、私もブーンがいてくれて良かったわ。
で、でも勘違いしないでよね!別にあんたじゃなくても良かったんだから!」
(∪ ^w^)「おっおっ」
閑話休題。
ツンもブーンも何も喋らず、ただ何も見えない闇を見つめる時間が続く。
ξ ゚听)ξ「…デレが、羨ましかった」
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:25:20.81 ID:gEidAFuXO
- ξ ゚听)ξ「デレは、『歌姫』の試験で合格したの。何度も失敗した私とは違って、あの子は一回で合格。
子供の頃から出来る限りの努力をしても『歌姫』にはなれなかったから、私はデレが羨ましかった」
今までデレの話をしなかったツンが、訥々と呟く。
まるでブーンが聞いていてもいなくても、どちらでもいいというように。
ツンは顔を膝に埋めて、続けた。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:27:44.80 ID:gEidAFuXO
- ξ ゚听)ξ「私には、何かが足りないんだと思う」
ξ ゚听)ξ「それが何か、分からないけど」
ξ ゚听)ξ「デレにはあって、私にないもの。私にはなくて、デレにはあるもの。いくつか目星はついてるけど、結局は分からない」
それきり、ツンは話さなくなった。
ブーンはツンがいる方向を横目で見る。
か細い星の光に、ぼんやりと人の形が見えるだけだった。
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:29:15.14 ID:gEidAFuXO
- (∪ ^w^)「ところで、『歌姫』って何だお?」
ツン曰く、『歌姫』というのはニュー速国の宝なのだそうだ。
毎年の『歌姫』合格者数はたったの5人。
10代から20代前半の女しかなれず、厳しいテストと厳正な審査があり、それらに合格した者だけが『歌姫』として音楽を紡ぐのを許される。
ニュー速の若い娘達はほとんどが『歌姫』に憧れており、『歌姫』になるべく努力しても実を結ばない者も数多くいる。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:30:52.91 ID:gEidAFuXO
- その中の1人が、ツンだった。
『歌姫』か、『候補生』ではない女は、国の中で歌うことを禁じられ、禁を破った者は喉を引き裂かれるという刑すら処されたようだ。
ξ ゚听)ξ「今はそんなことしないけどね、さすがに」
それだけの試練を、今年、それもたった一回で乗り越えたデレ。
長年努力しても合格出来なかったツンが羨んでも無理はない。
(∪ ^w^)「……」
ξ ;;)ξ「歌いたかった。一度でもいいから、認められたかった」
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:32:20.20 ID:gEidAFuXO
- 呟く声に、湿っぽさが混じったように聞こえたのはブーンの気のせいではないだろう。
歌を歌うという自由な行動に、常に罰が付きまとうニュー速国。
その国のできそこないの歌姫にかけてやる言葉を、ブーンは一晩かけても見つけられなかった。
珍しく月の出ていない夜。
暗闇に支配された世界に、時折鼻をすする音がずっとずっと響いていた。
――――――――――
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:33:53.45 ID:gEidAFuXO
- 朝、ツンはいつもと変わらない表情でラクダに乗り込んだ。
目指す場所はVIP王国。
もしも途中で誰かを見かけたら一緒に連れていけばいい。
そう結論し、ブーンとツンはラクダ3頭を引き連れて西へ向かう。
(∪ ^w^)「VIPか人が見えたら言ってくれお!」
ξ ゚听)ξ「分かった」
幾分か早めの足取りで2人と3頭は砂漠を進んでいく。
化け物との遭遇もなく、今までになかったほど順調に進めた。
ラクダの上にいるツンからはまだ何の報告も受けていない。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:35:07.80 ID:gEidAFuXO
- ブーンも、時折鼻を使って何かのにおいを探れないか試してみたが、無駄だったようだ。
結局、地平線の先にVIPが見えたという報告を受けたのは昼前だった。
ξ ゚听)ξ「大きい国ね、そういえばブーンはVIPにいる人を訪ねに来たんだっけ?」
(∪ ^w^)「そうだお!じゃあツン、作戦通りに」
ξ ゚听)ξ「うん」
VIP王国の前で、2人は足を止める。
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:36:36.24 ID:gEidAFuXO
- 国の唯一の出入り口である大きな門の脇には、かっちりとした制服に身を包み、槍を持った男が2人立っていた。
恐らく門番と、入国審査員の両方を兼ねているのだろう。
「入国する際には、こちらの質問に答えてもらう」
傍らの男がツンを見上げる。
ξ ゚听)ξ「はい」
「あなたは先日壊滅したニュー速国の民か?」
肯定。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:37:51.53 ID:gEidAFuXO
- 「武器になるようなものは何か持っているか?あれば提出してもらう」
護身用のナイフなら、とツンは言い、男にナイフを預けた。
「もうないか?」
肯定。
少し疑わしそうに男はツンを見たが、何も言わなかった。
「国の中心にある城は、立ち入り禁止だ。移住を希望するのなら、北にある役所で手続きをしろ」
ξ ゚听)ξ「分かりました」
「そのラクダと犬は、ニュー速国から連れてきたのか?」
ツンが肯定。
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:39:01.49 ID:gEidAFuXO
- 今まで黙っていたブーンも、尻尾を振って『犬らしく』振舞う。
(∪ ^w^)「わんわんお!」
「ラクダはこの国では高く売れるぞ、旅の資金に困っているなら一頭ほど売ってみればいい」
ξ ゚听)ξ「分かりました、ありがとう。それより、ここ最近、私の他には誰か入国した人はいますか?」
「あぁ、『兄者』という男が昨日入国したばかりだ」
ξ ゚听)ξ「…1人ですか?」
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:40:41.21 ID:gEidAFuXO
- 「いや、あと『シーン』という若者と、『シラヒーゲ』という老人が一緒だった」
ξ ゚听)ξ「そう、ですか…。では、入国してよろしいですか?」
「許可する。国の中の詳しいことは、案内図が色んな場所に貼ってあるから参考にするといい」
ξ ゚听)ξ「何から何までありがとう。感謝します」
「構わんさ、ニュー速国から逃げ延びた人を匿えないほどこの国は困っていないからな。ゆっくり休め」
ツンが軽く頭を下げる。
大きな門が開かれ、ツンとブーンとラクダたちはVIP王国に入国した。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:41:52.54 ID:gEidAFuXO
- 門からまっすぐ、国の中心VIP城に伸びている大きな道の両脇には、色とりどりの装飾が施された店が所狭しと並んでいた。
鉄の臭いや果物の甘酸っぱい匂い、重油のような臭いがただよう通りを、国の人たちが歩いている。
(∪ ^w^)「結構簡単に騙せたお」
ξ ゚听)ξ「そうね、ひとまずは作戦成功って感じかしら」
そんな賑やかな通りを少し外れた、細い路地。
人気が全くない所でブーンとツンは腰を下ろした。
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:43:38.84 ID:gEidAFuXO
- ξ ゚听)ξ「とりあえずブーンの言うとおりに、武器とあんたの事は言わないでおいたけど…。なんか意味はあるの?」
ツンは、VIP国に入る数分前のことを思い出していた。
―――――
(∪ ^w^)『武器は、拳銃持ってたおね?』
ξ ゚听)ξ『うん』
(∪ ^w^)『もしも門番に武器の提出を求められたら、拳銃は隠し持っておいた方がいいお』
ξ ゚听)ξ『?分かった』
(∪ ^w^)『それと、僕の事は何も言わなくていいお。適当に犬の振りしとくから』
ξ ゚听)ξ『?把握』
―――――
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:44:48.80 ID:gEidAFuXO
- (∪ ^w^)「あぁ、武器はただ単に国の中での護身用。もしかしたらツンを襲う人もいるかもしれないお、ありえないけど」
ξ ゚听)ξ「なるほど、じゃあもしもの時以外は出さない方がいいのね。じゃあ、あんたについては?」
(∪メメメメメメ)「僕については、ちゃんと国の中に入れるように」
首を傾げるツン。
ブーンは、人気がないのをもう一度確認してから続ける。
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:46:31.29 ID:gEidAFuXO
- (∪メメメメメメ)「犬が人の言葉喋るのは、少なくとも普通じゃないお。僕だけ入国出来なかったら、本末転倒ってやつだお。
だから僕はこの国では『普通の、少しばかり大きな犬』ってことにしといてほしいんだお」
ξ ゚听)ξ「(何を今更…)分かったわ。それじゃ、これからどうするの?兄者たちが一足先に入国してるみたいだけど」
(∪メメメメメメ)「それは、「まず兄者の方から探すだろ?」
話を遮られ、ブーンとツンは背後から手で目隠しさせられた。
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:47:36.17 ID:gEidAFuXO
- 「だーれだ!」
「あはは、だーれだ!」
目隠しのあとに、上から降り注いでくる女の子たちの声。
まだ幼さの残る声と、少し低めの声だった。
(∪ つw⊂)「ハイン」
ξつ凵シ)ξ「レモナね」
該当する名前を呼んだ途端、ブーンとツンの視界が元に戻る。
悪戯っぽく笑いながら、ブーンの目の前にハインとレモナが現れた。
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:49:05.40 ID:gEidAFuXO
- 从 ゚∀从「ハイン参上!」
|゚ノ ^∀^)「レモナ参上!ですわ!」
(∪メメメメメメ)「おっ!2人とも生きてて良かったお!」
从 ゚∀从「あぁ〜?オレとレモナがこんな砂漠如きでくたばる訳ねぇだろ?」
|゚ノ ^∀^)「途中で変なのが出てきましたけどもね!」
ξ ゚听)ξ「変なの?」
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:50:11.27 ID:gEidAFuXO
- 从 ゚∀从「なんかサボテンのデカイのが出てきやがったんだよ」
|゚ノ ^∀^)「倒しましたけどもね!」
从 ゚∀从「かっかっか!あんなの弱い弱い!棘全部抜いてやったぜ!」
|゚ノ ^∀^)「サボテン、大変美味でしたわー!」
収拾のつかないことになりそうだったので、ブーンはハインに質問するために口を開いた。
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:51:28.45 ID:gEidAFuXO
- (∪メメメメメメ)「ハイン、从 ゚∀从「おめーの聞きたい事は分かってるよ、他に誰か見なかった。だろ?」
どうやら先読みされていたようだ。
ハインはさきほどまでの笑みを引っ込め、ブーンの聞きたかった事を代弁してから答える。
从 ゚∀从「誰もいなかった。レモナに叩き起こされてからここに来るまで、人は誰一人としてみてないぜ」
|゚ノ ^∀^)「私も誰も見てませんわ!」
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:52:58.88 ID:gEidAFuXO
- ξ ゚听)ξ「じゃあ、結局まだ弟者、ギコ、狐娘、宗男、ラクダ一頭が行方不明のままなのね」
ツンが確認するように、指を折って人数を数える。
砂漠をさ迷っているのは、4人と一頭。
どこにいるのかさえ分かれば、今すぐにでも迎えに行ってやりたいが、そう簡単にはいかなさそうだ。
どこに誰がいるのかすら分からない。
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:54:01.56 ID:gEidAFuXO
- 从 ゚∀从「でもよ、あいつらがそう簡単にくたばるか?くたばんねーよ!平気だって、VIPを目指してるのは全員知ってるんだから」
|゚ノ ^∀^)「それに、みなさんお強いのは分かってますわ!明日まで待ってみてはいかがですか!」
ξ ゚听)ξ「ブーン、どうする?」
(∪ ^w^)「………。分かったお、明日まで待って、残りの4人と一頭が来なかったら探しに行く。これでいいおね?」
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:55:43.96 ID:gEidAFuXO
- 从 ゚∀从「上出来だ!お前、確かここで会いたい奴だいるんだよな?会って来いよ、オレたちは兄者たちを探して、レモナたちの移住許可貰ってくるから」
|゚ノ ^∀^)「移住ですわ!」
ξ ゚听)ξ「…………」
(∪ ^w^)「分かったお、じゃあまた後で!」
(∪ ^w^)ノシ
从 ゚∀从ノシ
|゚ノ ^∀^)ノシ
ξ ゚听)ξノシ
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 18:58:55.65 ID:gEidAFuXO
砂漠の中の大国、VIP。
国の中心にある城に住む王が国を治め、王と民と自分を護るために人々は武器を取る。
VIP軍の行進の音を聞きながら、ブーンは一度大きく尻尾を揺らした。
戻る 次へ