( ^ω^)ブーンは呪われたようです

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 15:53:14.46 ID:zt/oQE240

第二話「村の青年に課せられた試練」


( ^ω^)「………」

( ^ω^)「久しぶりだお」

自分の家に、もうどれだけの期間帰らなかっただろうか。
ブーンが行商の旅に出る前と全く変わっていないこの家は、久しぶりに帰る主を忘れてはいないだろうか。

( ^ω^)「おっ?」

荷物を床に降ろし、一息ついていたブーンは、家具に埃や砂が一切溜まっていないことに気づいた。

( ^ω^)「………」

心優しいこの村の住人のことだ、きっとブーンが世界各地を回っている間、家の管理をやってくれていたのだろう。
砂漠から運ばれる砂に、ブーンの家のものが傷つかないように。
いつしか溜まる埃に、ブーンの家のものが真っ白く覆い隠されないように。

感謝の気持ちは、言葉と共に行動で示そう。

長旅の疲れはいずこへ、ブーンは荷物を降ろすとモララーの畑へ向かった。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 15:54:40.89 ID:zt/oQE240
たしかにこの村には何もない。
観光するものも、名産品も、なにもない。
でも―――何も無い代わりに、この村の人々は太陽よりも温かく、月よりも優しい。

( ^ω^)「モララー、畑手伝うおっおっ!」

(∵) ゴエエエエエエエエ

(;^ω^)「おっ…?」

ブーンは疲れを忘れるほど十分に心満たされていた。
大好きな村の、大好きなみんな。
お互いを思いやる心を持つ、優しい村。

そして、過酷なその呪いは誰も知らないうちにブーンを蝕もうとしていた。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 15:56:42.04 ID:zt/oQE240
―――夜。
少し欠けた大きな月が、黒い空を照らしていた。
外では鶏がお喋りをし、猫は月を見上げて毛づくろいをし、人間は家族で団欒を楽しむ。
昼間たっぷりモララー(+何故かビコーズ)にこき使われたブーンは、自分の家で静かに寛ぎながら今までの旅のことを思い出していた。

( ^ω^)「さすがに疲れたお。モララーは相変わらず人使いが荒いお…。」

( ^ω^)「…眠いお…寝るかお……」

ぼんやりと部屋を照らしていた灯りをそっと消すと、ブーンの周りは闇に包まれる。
月の光が届かない屋内では、外よりも濃い闇が人を襲う。
闇は孤独や不安、精神的な寒さを伴っていて、旅の間は何度もうなされたものだった。
そんなことをぼんやりと思い出し、ブーンは微かに頬を緩めて布団に潜り込んだ。

「あたしだって立派に脱穀できるもん!」

ここにいても聞こえるこの声は、ミセリだろうな。
頭のどこかでそんな推測を立て、ブーンは深い眠りに身を任せることにした。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 15:57:51.55 ID:zt/oQE240
――――――――

『あの話を知っていますか?』

『私はいつもあの人の後ろでした。昔も、そして…今も。』

『いつも好かれるのはあの人だけ。崇められるのはあの人だけ。』

『憎い。殺してしまいたい。でも今ではもうあの人には近づけない。』

『私はいったいどうすればいい、私はいったいあの人をどうすればいい』

幸せな夢を見ていたはずだった。
思い出せないが、きっとありふれた幸せの夢を。
しかしそれは突如終わりを告げて、いつしかブーンは真っ暗な場所で誰のものか分からない声を聞いていることしかできなくなっていた。
自分の支配する夢であろうに、自分の精神が干渉することをこの漆黒の世界は許さない。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 15:58:53.96 ID:zt/oQE240
『聞いていますか、憎たらしい人間よ』

( ^ω^)「おっ……。…僕かお?」

『お前以外にここに人間はいるのですか?』

姿の見えない声は、辺り一面から聞こえてくる。
ブーンは声の主を探すことを諦め、首を振った。

( ^ω^)「誰だお、お前は」

『お前も知っている存在です。そこにあるのが当たり前すぎて、もしかしたら見えないのかもしれませんが。』

( ^ω^)「何言ってんだこいつ」

『これは夢だと思いますか?これは妙な夢だと。』

声の問いかけに、ブーンは今度は首を縦に振る。

『そうですか…。ならば夢ではないということを教えましょう。次にお前が目を開けたとき…。そのときお前は』

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 16:00:12.29 ID:zt/oQE240
不意に声が止まった。
何が起きたのかとブーンは代わり映えしない漆黒の世界を見渡す。
しかし、視界には何も映ることなくブーンはその世界に置き去りにされたようだった。

( ^ω^)「おっ?声さん?」

声さん、と呼ぶのにも気が引けたのだが、声の主が名乗らなかったのだから仕方がない。
ブーンはその後、何度か声の主に呼びかけてみたが声が再び返ってくることは無かった。
次第にブーンを包む黒色が段々と薄れてきた。
ある一点から白い光が差し込み、それが黒の世界を壊していく。
白い光はどんどん黒を浸食し、やがて黒色が見えなくなったころ。
ブーンはやっと目を覚ました。

( ^ω^)「お…。」

どうやら朝になっていたらしい。
変な夢を見たものだと瞳を開け、伸びをし、欠伸をひとつ。
ブーンが違和感に気付いたのはそれからすぐのことだった。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 16:01:14.46 ID:zt/oQE240

( ^ω^)「(何だ?)」

ベッドに腰かけ、見える目線の高さが見慣れたそれとは明らかに違う。
まるで子供に戻ったかのような目線の低さにブーンは戸惑って、掛け布団を剥がそうとした時にそれは目に映った。
毛むくじゃらの、獣の腕。
それも、自分の体から伸びている獣の腕。

( ゚ω゚ )「」

何だこの獣の腕は?
何が起きたのか全く分からない。
この腕が自分の体から伸びているということ、それだけは理解できる。
しかし確かに昨日までは普通の腕だったはずだ、それは間違いない。
じゃあ何で?この毛むくじゃらの腕は一体?

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 16:02:58.13 ID:zt/oQE240
出入り口の脇に掛けてある鏡で自分の姿を確認することを、一瞬ブーンは躊躇った。

もしも鏡に映る自分の姿が見慣れたもの以外であったら、どうやってこの現実を受け入れればいいのか分からなくなりそうで。
だから、鏡の端に映った獣の腕が見えた時に思わずブーンは目を閉じてしまった。
しかしこれでは埒があかない。

( ^ω^)「こ、これは夢だお!そう!これは夢だお!」

自分に喝を入れ、ブーンは恐る恐る目を開けた。

鏡には、昨日旅を終えてギコの畑を手伝い、ミセリと楽しく喋っていたブーンの姿はどこにもいなかった。

あるのは、白い毛に金色の目の犬の姿のみ。
それも、かなり大きな犬。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 16:04:36.79 ID:zt/oQE240


――――――――――――

(∪;^w^)「お……おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!?」

その叫びは早朝の村中に響きわたり、ブーンの姿は叩き起こされた村の者たちの目に晒されることになる。

―――――――――

ミセ*゚ー゚)リ「あれえ、こっちからブーンっぽいアホな声が聞こえたと思ったんだけどなあ…」

(∪^w^)「ミセリ!僕だお!こんな姿してるけど僕だお、ブーンだお!」

ミセ*゚ー゚)リ「うん、なんかブーンの声が聞こえる!ブーン、どこなの!?ブウウウウウウン!!!!」

(∪^w^)「ぶっ殺すお」

('、`*川「ミセリちゃんじゃない、こんなところでどうしたの?なんか変な悲鳴が聞こえたから来たんだけど」

ミセ*゚ー゚)リ「ペニサスさん!…それが、ブーンの声はするのにブーンはいないんです!」

('、`*川「ブーンくんが?」

ミセ*゚ー゚)リ「はい、代わりにいたのがこのデカイ犬だけで…」

('、`*川「あらあら…。どこから入り込んだのかしらね、このワンちゃんは…」

(∪;^w^)「ペニサスさん!?」

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 16:05:52.55 ID:zt/oQE240
二人ともブーンの声が聞こえない訳ではないのだろう。
しかし、昨日まで人間だった者が突然犬になってしまった現実を俄かには信じられないだけ。
ブーンにはどうすることもできず、困ったようにペニサスとミセリの周りをうろうろしていた。

(´・ω・`)「どうしたんだい?」

('、`*川「あ、村長さん……」

数人の若者を引き連れてブーン達の元へやって来たのは、しょぼくれた眉毛がチャームポイントのショボン村長。
ショボンはペニサス達の周りをうろつく犬(ブーン)にちらりと視線を投げて、追い払うように若者の一人に命じた。

(∪^w^)「村長!僕だお!ブーンなんだお!」

(´・ω・`)「なんだかブーンくんの声が聞こえるけど、彼は一体どこにいるんだい?それよりさっきの絶叫は誰のだい?」

(∪^w^)「村長おお!!聞いてくださいお!昨日僕は夢で――――」

(´・ω・`)「そうか!それは大変だ!」

(∪^w^)「まだ何も言ってねーよ」

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 16:07:14.64 ID:zt/oQE240
――――――――――――

気を取り直し、ブーンは村長の家で経緯を初めから説明することになった。
集まってきた村人はブーンに襲い掛かった奇異な出来事を恐れて皆自分の家に引きこもったようだ。
いつもの賑やかな声が今日は聞こえない。
静かな家の中で、ブーンは村長に一から説明する。

昨日の夢。
ブーンは黒い世界の中で誰かに話しかけられたこと。
声の主は誰かを激しく憎んで、殺したいと言っていたこと。

話を聞いたショボンは、難しい顔をして何度か頷く。

(´・ω・`)「君をその姿にしたのは、その声のヒトだと考えてよさそうだね。」

(∪;^w^)「お…。どどどどうすれば元の姿に戻れるお?僕はずっとこんな姿なんて嫌だお!なんとかならないのかお、村長さん!」

(´・ω・`)「まあ落ち着きなさい。解決をあせって中途半端に元の姿に戻ってしまったらどうするんだい?体は人間、能力とかそこら辺は犬、頭には犬耳の立派な萌えキャラになってしまうじゃないか。君はそれでよくても、周りからしてみれば結構キツイと思うよ?」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 16:09:18.46 ID:zt/oQE240

(∪;^w^)「…あ、案外アリじゃないかお…?」

(´・ω・`)「ねーよ」

(∪;^w^)「……」

(´・ω・`)「とにかく、君のその奇異な姿はこの村ではどうしようもない。どうすることも出来ないんだ。僕の知り合いにそういうのが詳しいやつがいるんだけど、尋ねてみるかい?ここから西にあるVIP王国で隠居生活を送ってるらしい。」

ショボンの提案に、少しだけブーンは何かを考えるかのように目を伏せる。
旅は、嫌いではなかった。
いろんな国を回って、いろんな文化や人間に触れて。
時には危険なこともあるけど、それも立派な旅の土産話になる。
しかし、旅を純粋に楽しめたのは人間の姿だったからだ。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 16:10:30.34 ID:zt/oQE240

今は犬…。それもかなり目立つ大型の犬の姿。
火を起こしたり、他にもいろいろと不便は付きまとうだろう。
即答で「旅に出る」とは言えなかった。
しかし、この村に居続けてもどうにもならないのはブーンにも分かっていた。

どうやらブーンには旅に出るしか道はないらしい。

(∪ ^w^)「……行くお」

(´・ω・`)「そうか……。すぐに発つのかい?」

(∪ ^w^)「うんお、ずるずるここにいてもこの姿じゃ何も出来ないお。この村に戻ってくる時は、元のイケメンの姿に戻った時だお!」

(*´・ω・`)「誰がイケメン?僕かい?いやあ照れるなぁ」

(∪ ^w^)「僕の家の鏡は真実を映すから、行って見てみるといいお。しょぼくれたオッサンが映るはずだお」

(´・ω・`)「寂しくなるね、まだ一日も経ってないのにね。体に気を付けるんだよ。ちゃんとご飯食べるんだよ。」

(∪ ^w^)「どこのお母さんだお」

(´・ω・`)「まぁ冗談はこのくらいにしようか。西に向かうなら、ニュー速国の手前に白い森があるはずだから寄ってみるといい。噂によると、精霊だか妖精がいるって話だからね。君次第で、力になってくれるかもしれないよ」

(∪ ^w^)「ありがとうだお村長さん。」

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 16:12:16.47 ID:zt/oQE240
村の端。
つい数時間前にブーンは人間の姿でここから帰って来たばかりだ。
しかし今は犬の姿。
最低限必要なものを鞄に詰めて、落ちないように村長に背中に乗せてもらった。
この作業も、つい数時間前はいとも簡単に自分ひとりで出来たのに、と思うと自嘲の笑みが漏れてくる。
しかし犬の顔ではその笑みは表れなかった。
見送りに立ってくれたのは村長だけ。
村の入り口に立つまで、誰ひとりとして村人の姿は見なかった。

(∪ ^w^)「……じゃあ村長、行ってくるお!」

(´・ω・`)ノシ「うん、気をつけて」

とぼとぼと歩き出したブーンの後姿。
そのなんとなく気落ちした姿を見送っていた村長の隣に、物凄い勢いで誰かが並んだ。

ミセ*;Д:)リ「ブーーーーーーーーン!!!!」

恐らく大慌てで来たのだろう、サンダルの左右は反対。
息も荒く、涙目で、それでもミセリは声を張り上げてブーンを呼んだ。
そしてミセリの後ろから続々とブーンに見送りの言葉をかける村の人々。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/07/21(火) 16:13:34.66 ID:zt/oQE240

(∪ ;ω;)「お……!みんな!」

ミセ*;ー;)リ「……頑張んなよ!その姿で戻って来たら犬じゃなくてスライムにしてやっから!!!」

(∪ ;ω;)「こんな感動的な見送りを受けたのは初めてだお…。」

(∪ つω;)「……行って来ますお!!」

ミセ*;ー;)ノシ「行ってらっしゃい!!」

('、`*川「ブーンくん、体に気をつけてね!」

( ´_ゝ`)ノシ「行ってらっしゃい!」

(´<_` )ノシ「頑張ってこいよー!」

(∵)ノシ「ゴエエエエエエ」

数々の声援を糧に、ブーンは四つの足で歩き出した。
太陽の光をその白い毛に受けて。

そして、過酷な旅は始まりを告げた。


――――――――――――


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