( ^ω^)は呪われたようです

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/24(金) 17:13:16.07 ID:4sMvnka20

第四話「犬になった人間とコソ泥兄弟」


曰く、大きな獣に食い殺されそうになったが、突然現れた犬が勇敢に助けてくれて。
曰く、その犬は実はつい数時間前に二人が追い出された村の人間で、しかも二人が村人と混ざって見送ったブーンで。
曰く、話してみたら意気投合して。
曰く、悲鳴を聞きつけた近隣住民の人にフルボッコにされたものの、弟者は元気に生きてますと。

弟者の説明を聞いているうちになんだか脱力した兄者は、抜いていた短剣を収めて犬の隣に座った。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/24(金) 17:14:10.77 ID:4sMvnka20

( ´_ゝ`)「おい、お前さん何でそんな姿になっちゃってるんだ?」

(∪ ^w^)「分からないお!」

ブーンは尻尾を振って兄者と弟者の周りをくるくると回る。

(´<_` )「分からない?」

(∪ ^w^)「お……。いや、寝る前までは人間だったんだお」

( ´_ゝ`)「何で寝てる間に犬になっちゃうんだよ?」

兄者の問い。
しかし、ブーン本人にすら分からない事を兄者や弟者が聞いたところで明快な答えが出てくるわけがなく、兄者は困ったように頭を掻いた。
ブーンも少し困ったような様子だったが、白くふさふさした尻尾を振り回して元気な声で兄弟に訊ねる。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/24(金) 17:15:08.93 ID:4sMvnka20
(∪ ^w^)「ところで、二人はこれからどこへ行くんだお?」

( ´_ゝ`)「俺たちはこれから、適当に大きい国を回って色々盗んで金に換えるさ」

(´<_` )「手始めにこの国からも金になりそうな物を頂こうか」

(∪;^w^)「お…。二人は泥棒なのかお?」

ブーンの質問に、流石兄弟は愕然とした様子で顔を見合わせた。

(;´_ゝ`)「……お前さん、世を騒がせたこの盗賊兄弟を知らないのか?」

兄者の質問に、ブーンは首と尻尾を振る。

( ´_ゝ`)「俺たちは東の大国から超レアな宝石を盗みだしたんだ。な、弟者」

(´<_`*)「(尻尾……)」

(∪ ^w^)「レアな宝石?」

( ´_ゝ`)「光石っていう綺麗な鉱石だ。あれだけの大きさはもうどこを探しても手に入らないだろうな。な、弟者」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/24(金) 17:16:15.89 ID:4sMvnka20
(´<_`*)「(尻尾触りたい……)」

(∪ ^w^)「兄者も弟者も凄いお!」

(*´_ゝ`)「そうだろう。その武勇伝を余すことなく語りたいが、ここでは省略しておくことにしよう。な、弟者」

(´<_`*)「(ああこの毛を毟りたいもふもふしたい尻尾を踏みたい抱きしめたい)」

(∪ ^w^)「分かったお。今度ゆっくり話してもらうお!」

夜も深くなり、ついにこの町から灯りが消えうせた。
どちらが宿屋に泊まるか不毛な争いをしていた兄弟も今は、町はずれで熾した焚き火の周りを囲ってブーンと談笑することに決めたらしい。
二人とも不満すら漏らさず、案外楽しんでいる模様。
獣が寄ってくることもなかった。
ブーンが背中に負っていた鞄の中には簡素な食料が数日分入っており、この夜は三人でそれを食べる。
少し味気ない食卓を彩っていたスープが無くなった頃、今まで兄者と同じように笑っていた弟者が真面目な顔で切り出した。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/24(金) 17:17:19.99 ID:4sMvnka20
(´<_` )「ところでブーン、お前その姿でどこを目指してたんだ?」

(∪ ^w^)「お!西にあるVIP王国だお!そこに行けば、僕のこの姿の治し方を知ってる人がいるかもしれないんだお!」

(´<_` )「VIP王国ねぇ……。」

弟者がなにやら考え始めた。
数十秒沈黙を守り、結論を出した弟者は頷く。

(´<_` )「よし、ブーン!俺たちもその旅を手伝おう」

(;´_ゝ`)そ「弟者!?」

弟の勝手な判断に、兄者は大層驚いて弟者の顔を見る。
寝転んでいたブーンも同じだった。目をまるくさせて弟者を見上げ、何も言わない。

(´<_` )「お前のその姿じゃ出来ることと出来ないことがあるだろう、それにさっき助けてもらったしな。その礼だ」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/24(金) 17:19:48.09 ID:4sMvnka20
(∪ ^w^)「お…」

( ´_ゝ`)「おいおい弟者、勝手に決めるんじゃ―――」

(´<_` )「兄者。さっき兄者は俺を差し置いて逃げやがったよな」

( ´_ゝ`)「馬鹿を言え、俺はその後ちゃんと弟者を救おうと短剣片手に向かったんだぞ」

(´<_` )「そんな事はどうでもいい。ブーンは兄者とは違って勇敢に獣を追い払ってくれたんだ。
俺はその恩に報いたい。どっかの腰抜けとは違う。ブーンに協力する。そう決めたんだ」

弟者の声に迷いはない。
もう決めたんだ、と繰り返した弟者にブーンは感謝の意味で頭を垂れ、兄者は敗北の意味で頭を垂れた。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/24(金) 17:20:37.54 ID:4sMvnka20

(´<_` )「(旅の間に一回は尻尾もふもふする。絶対に、絶対にだ!)」

(´<_`*)「(俺は尻尾を守る騎士となろう)」

(´<_` )「(ブーンはおまけ)」

(´<_`*)「(これからはチャンスがたくさんある……。むふふふふふふ……)」


――――――――――――――

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/24(金) 17:21:21.15 ID:4sMvnka20
翌日。
活動の早い人間達の好奇な目に晒されながらも、ブーンたちは装備や薬の補充をしてから町を後にした。
兄者はまだこれからの進路について勝手に決められた事に対して恨みがましく弟者を見ていたが、
弟者は涼しい顔で少し先を歩くブーンの後に着いて歩いている。

特に何の問題もなく二人と一匹はまっすぐに舗装された道を西に向けて辿り、太陽が頭の上を照らしだした頃にようやく休憩をとることになった。

日立グループの気になる気になる木に酷似した大樹の下。
ショボン村長の言っていた白い森はまだ見えないのだろうかとブーンはぼんやり思いながらも、香ばしい匂いに釣られて視線を兄者弟者の方へ戻した。

(∪ ^w^)「肉なんて買ってたかお?」

( ´_ゝ`)「これか。いや、これは盗んだ」

(´<_` )「店員が兄者に気を取られているうちにちょろっとな」

(∪;^w^)「盗んだのかお…」

見るからに箸が進まなくなったブーンを見かねた弟者が、ゆっくりと咀嚼してから口を開く。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/24(金) 17:22:02.00 ID:4sMvnka20

(´<_` )「ブーン、確かにこれは盗んだ肉だ。でもこれは俺たちの血肉となって俺たちを生かす。
そしてこの肉は俺たちの血肉となるために生まれて殺された命なんだ。
ここでお前がこの肉を食べないという選択をするのは、その命を無駄にしているのと同じ。
何が言いたいっていうと、とりあえずせっかく盗んできたんだから食え」

(∪;^w^)「お……。よく分からないけど、ここで捨てるのももったいないから食べるお」

(´<_` )「ああ、そうするといい。(尻尾尻尾尻尾尻尾尻尾尻尾尻尾尻尾尻尾尻尾)」

うまくブーンをまるめこみ、日立っぽいの木の下でしばしの休憩を取ってから三人は西へ向かう旅を再開する事になった。
焚き火を消し、忘れたものがないか確認していた時。
早々にチェックを終え、進行方向を見ていたブーンと弟者は「うわああああああ」となんとも情けない兄者の声を聞いて振り返る。

日立っぽい木、四方八方に根を伸ばしている木の下で兄者は尻餅をついて何かから逃げるかのように後ずさりしていた。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/24(金) 17:23:01.68 ID:4sMvnka20

(´<_`;)「兄者!?」

(∪;^w^)「どうしたんだお!?」

慌てて兄者に駆け寄る弟者とブーン。
兄者はあわあわと声にならない声を上げ、震える指で大樹の根元を差す。
その指の差された先には、なんとも形容しがたい姿の「何か」がフラフラと頭を揺らして立っていた。
最も近い生物を挙げるなら、蜂とカブトムシを合わせ、巨大化させたような感じの外見。
黒く、見るからに固そうな体。
するどい鉤のついた細く長い手足はブーンたちを威嚇するかの如く空を裂き。
時折背中の羽を震わせ、嫌な音を奏でる。
明らかにこの世にいるモノではない。
虫嫌いの人が見たら卒倒しそうなその生き物は、脚を振り回しながらブーン達に近づいてきた。

(∪;^w^)(;´_ゝ`)(´<_`;)「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」

幸いにも奇妙な生物の動きは鈍い。
しかし、外見のインパクトや気持ち悪さ、恐怖が兄者たちの足をもつれさせる。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/24(金) 17:23:50.45 ID:4sMvnka20

(;´_ゝ`)「何だあれ!気持ち悪!!」

(´<_`;)「くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」

(∪;^w^)「にっ…逃げるおー!!!」

三人は、奇妙な生物に背を向けて逃げだす。
身軽なブーンは一足先に化け物から距離をとった。
しかし、

(´<_`;)「転ぶなよ、兄者!!
転んだらあの変な生き物の鉤爪によって色々蹂躙された挙句にかなりエグイ殺され方するに違いない!
そう、それはまるで某バイオハザー●5の怪物のように!」

(;´_ゝ`)「妙なプレッシャー掛けないでくれ、弟者。それにしてもブーンの奴、自分だけ安全圏に逃げやがって!」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/24(金) 17:25:16.25 ID:4sMvnka20

兄者の言葉の通り、ブーンは二人より少々離れたところで早く早くと急かしている。
背中にかかる重圧やら、転んだら殺されるという恐怖が兄弟の足を掴もうと手を伸ばしてくる。
それに兄弟は決して軽くない荷物を背負っているので、おのずと足はいつもよりも遅くなって。

(;´_ゝ`)「あぶ!!」

ついに兄者が転んでしまった。
驚いて足を止める弟者。
奇妙な生物は依然として歩くスピードを緩めようとはせず、かえって早くなったように見える。
兄者の元へ着いた弟者はなんとか兄者を立たせようと腕を引っ張ったり蹴り飛ばしてみたが、
兄者は自分に近づいてくる化け物を前にして立ち上がれない。
腕を振り回して近づく化け物は、兄者たちから2メートルほど離れたところで不意に歩みを止めた。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/24(金) 17:26:17.34 ID:4sMvnka20
(;´_ゝ`)「…………?」

動かなくなった化け物。
この隙に立ち上がろうと、弟者の腕を借りて腰を浮かせる兄者。

(´<_`;)「な、何だったんだ?」

(;´_ゝ`)「分からん…」

ピクリとも動かなくなった化け物。気味が悪いと思いつつ、気を取り直して歩き始めた流石兄弟の二人。
一歩踏み出したふたつの足を、化け物の細く頑丈な腕が絡め取ったのはその直後のことだった。
気づけば二人とも逆さまに吊り下げられている状態で、目の前には化け物の顔。
背負っていた鞄から、色々なものが落ちる。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/24(金) 17:27:25.43 ID:4sMvnka20

( ´_ゝ`)「捕まっちゃった」

(´<_` )「流石だよな、俺ら」

(∪;^w^)「ちょ、何やってるんだおおおおおお!!?まさにミイラとりがミイラってこの状況だろおおお!!」

そんなツッコミを入れながら化け物に向けて疾走するブーン。
情けない醜態を現在進行形で晒している流石兄弟の間をすり抜け、ブーンは化け物の顔面に思い切り蹴りを入れてやった。
走ってきた勢いのことを加味すると、結構な威力だったのだろう。
化け物は凄まじい咆哮を上げてよろめいた。
しかし兄弟を吊るしている腕は、しっかりと握られたままだ。

(;´_ゝ`)「すっかりブーンに助けてもらってるな」

(´<_` )「厳密に言うと全く変わってないんだけどな。かえって悪化するかもしれない」

( ´_ゝ`)「それもそうだな。よし、弟者。反撃するぞ」

(´<_` )「よしきた」

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/24(金) 17:28:29.96 ID:4sMvnka20
それは全く同じタイミング。
短剣を抜き、重力に逆らい、自分の足を拘束している黒い腕に刃を突き刺す。
化け物は怯み、わずかに開いた隙間から足を滑り落とせば――

( ´_ゝ`)「これで立派な戦闘員A!」

(´<_` )「これで立派な戦闘員B!」

(∪;^w^)「いいから早くこいつ倒すお!」

にんまりと笑う兄弟に、ブーンからの一言が飛んでくる。
怒った化け物の攻撃をヒラヒラとかわしながらブーンは身を低く屈めて跳躍し、
化け物の頭らしき場所に爪を立てて、固い皮膚を切り裂いて地面に降り立った。

茶色い地面に落ちた赤い液体は、化け物の頭から流れる血。

化け物の怒りは頂点に達したらしく、先ほどから猛烈な速さで振り下ろされていた鉤爪はブーンを仕留めるために全力で動く。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/24(金) 17:29:43.99 ID:4sMvnka20
(∪;^w^)「お…これは危ないお」

( ´_ゝ`)「おっと、俺たちの存在を忘れてもらっちゃ困る」

(´<_` )「実はお前が俺たちに喧嘩を売った時から勝負はついていた」

一本の鉤爪が、ブーンの白い毛皮をかする。

ブーンの息が荒くなった頃、何の前触れもなく化け物が苦しみ始めた。
やがて力尽きて倒れた化け物の胸にあたる部分からは、二本の剣が突き出ている。

まさか短剣二本にここまで化け物を苦しめて殺せるほどの力があるとは思えない、とブーンが弟者を見上げると、
血に塗れた短剣を化け物の死体から引き抜きながら弟者は地面に落ちていた瓶に入った何かをブーンに見せてくれた。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/24(金) 17:31:04.19 ID:4sMvnka20
毒々しいオレンジ色の液体。
ご丁寧に髑髏マークのシールが貼られたその瓶を見上げ、毒薬だと確信しながらもブーンは一応聞いてみる。

(∪ ^w^)「これは?」

(´<_` )「見ての通りだ。俗に言う、毒薬ってやつだな」

(∪;^w^)「何でそんなもん…。物騒な奴らだお」

( ´_ゝ`)「効果の程はごらんの通り!分厚い皮膚を持つ化け物でも倒せます。
今なら2瓶で50000円!50000円でございます!こりゃお得ですよ、旦那!」

布で血を拭い、兄者は楽しそうに言う。
ブーンと弟者の反応は若干冷めていたが、兄者は気にしない。
弟者はため息をつき、ブーンは化け物の死体をつつき。

(∪ ^w^)「こいつ、一体何だったんだお」

すっかり綺麗になった短剣を革の鞘に収めると、兄者はブーンの隣に座りこんだ。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/07/24(金) 17:31:50.98 ID:4sMvnka20
(´<_` )「普通に考えたら、生物の突然変異とかそんなんだろうけどな」

( ´_ゝ`)「コレがか?最近の突然変異種ってのは洒落た模様があるもんなんだな」

そう言って兄者は、化け物に手を伸ばす。
ブーンにも見やすいように動かされた化け物の背中には、うっすらと何か模様が浮かんでいた。
シンプルな三日月の模様。
世界を照らす太陽の光が雲に隠れて一瞬陰り、化け物の体に浮かんだ三日月模様は不気味に青く光る。

(´<_` )「…………」

( ´_ゝ`)「何が起こって何が起きようとしてるのかは、しがない盗賊の俺たちには分からんな。
わざわざ人を訪ねるくらいだから、ブーンも分からないんだろ?今はとにかく、VIP王国を目指して進もう」

珍しくまともな事を言ってから立ち上がった兄者に、弟者もブーンも黙って腰を上げる。
何かがだんだんこの世界に侵蝕してきているような。
生命活動を終えた化け物を見下ろし、ブーンはなんとも言えない気持ちで旅を再開した。


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