( ^ω^)ブーンは呪われたようです

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 00:37:50.84 ID:xbusISKsO
―――大粒の雨が視界を遮る。

私の目の前には真っ白で大きな、喋る犬の死体。

彼女の手には、銃口から煙を吹いている見慣れた拳銃。

倒れた犬の血が私の足元に流れてきた。

何だこれ。

何だこれ。

殺したのは誰?

さぁ、一体彼を殺したのは誰でしょう

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 00:40:22.12 ID:xbusISKsO
第九話「『月下軍』」

デレが笑顔で撃った拳銃の弾は、ブーンの額の中心に穴を開けた。

一瞬の後に穴から噴出したのは鮮血。
そして砕かれた細胞や脳の破片。

ブーンの体は、為す術もなく地面に叩き付けられた。

ξ;゚听)ξ「……な、デレ…?!」

ζ(^ー^*ζ「大丈夫だよツン、ブーンくんは『死なない』から」

ξ;゚听)ξ「は…!?何言ってn」

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 00:42:11.45 ID:xbusISKsO
ツンは思わず言葉を切った。

地面に倒れ、普通なら死ぬはずのブーン。

それが今、絶句した流石兄弟やツンの目の前でゆっくりと起き上がったから。

(∪ ^w^)「……」

(´<_`;)「ブーン、大丈夫なのか?」

弟者はブーンの頭を調べる。
弾丸で撃ち抜かれたブーンの額の穴は、塞がりつつあった。
よく見ると、先ほど蝶の化け物の触手によって貫かれた体も完全に治っている。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 00:43:18.95 ID:xbusISKsO
(´<_`;)「……なんだそりゃ…」

ζ(゚ー゚*ζ「彼はね、死なないの」

ツンに言ったのと同じ言葉をデレは繰り返し、瓦礫の山の上に座った。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 00:45:03.49 ID:xbusISKsO
――――――――――

ζ(゚ー゚*ζ「ブーン君は月の呪いに囚われた。だから、斬っても突いても焼いても死なないんだよ」

足を組み、デレは笑顔で話していく。

ζ(゚ー゚*ζ「その代わり、どんどん呪いは進行してk(∪;^w^)「何を言ってるのか分からないお!大体君は何なんだ!?何でそんな詳しく知ってるんだお!」

ξ;゚听)ξ「そうよ、どうしちゃったのデレ!」

(´<_`;)「…………」

( ´_ゝ`)「…………」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 00:46:33.24 ID:xbusISKsO
それぞれの思いが交錯する雨下、デレは小馬鹿にするように笑った。

ζ(゚ー゚*ζ「そういえば紹介してないね。私は『月下軍』のデレ」

(∪;^w^)「月下軍!?」

ζ(゚ー゚*ζ「月の使者って思ってくれればいいよ」

(∪ ^w^)「……!」

ζ(゚ー゚*ζ「あなたはいずれ私たちと同じになるわ。復讐や憎悪に身を焼かれ、どうしようもなくなったとき…。耳を澄ませば聞こえてくるはず。
救済の声が、ね」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 00:48:17.12 ID:xbusISKsO
(∪#^w^)「そんなもんに縋り付かなきゃならないほど僕は落ちぶれるつもりはないお!」

ζ(゚ー゚*ζ「それはどうかしら?だって、そういう気持ちは平等に誰にも訪れるのよ?」

(∪#^w^)「だとしても僕は!」

ζ(゚ー゚*ζ「あーそうそう、ツン」

デレの目がツンに向けられた。
ツンはびくりと肩を震わせ、デレを見上げる。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 00:50:16.78 ID:xbusISKsO
ξ; )ξ「……」

ζ(゚ー゚*ζ「この国の門を封鎖したのは私。最後ら辺は解除されちゃったみたいだけどね。親友(笑)のあんたも殺すつもりでいたんだけどなぁ…。失敗失敗」

けらけらと笑うデレ。
何かを言い返そうと口を開くも、何も言えないまま地面にへたり込んでしまったツン。

ζ(゚ー゚*ζ「結構長い間、あんたのご機嫌取りするの大変だったんだよー?あんた、プライドだけは凄い高かったから」

ξ;;)ξ「………」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 00:51:35.26 ID:xbusISKsO
ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ、今どういう気持ちなの?私に全て奪われた今、どういう気持ち?悔しい?悲しい?怒ってる?」

ξ;;)ξ「………」

ζ(゚ー゚*ζ「答えてよぉ、つまんないなぁ」

ξ;;)ξ「………」

ζ(゚ー゚#ζ「答えろっつってんでしょー!?」

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 00:53:06.41 ID:xbusISKsO
デレが瓦礫を投げる。

瓦礫はツンには当たらず、地面に当たって砕けた。

ツンは俯いたまま何の反応もしない。

それが余計にデレの機嫌を損ねたらしい、デレは手当たり次第に色んなものをツンに向かって投げつける。

―――まるで幼い子供が駄々をこねてるみたい、

頭に当たった木の破片を眺め、ツンはぼんやりと思った。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 00:53:59.30 ID:xbusISKsO
信じてたのに。

頼りにしてたのに。

いつまでも笑い合っていけると思ってたのに。

優しかったのに。

嬉しかったのに。

何でも話せる仲だと思ってたのに。

デレの前では素直になれたのに。

心のそこから親友だと思ってたのに。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 00:54:39.83 ID:xbusISKsO
何で

どうして

いつから

何があって

誰が

こんなことに







25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 00:56:41.19 ID:xbusISKsO

----------------

ξ )ξ「……」

ζ(^ー^*ζ「ふふふ、あはは、くすくすくす」

無邪気に、無邪気に、デレは笑う。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 00:57:44.26 ID:xbusISKsO
雨の音とデレの声。

世界はこんなに暗かった。

何が太陽の国だ、何が祈りだ、

ここまで壊れてしまった親友を助けてくれないなんて。

ここまで絶望した私を助けてくれないなんて。

何が神様だ

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 00:58:36.04 ID:xbusISKsO
光なんてどこにも見えないじゃないか

何が信じるものは報われる、だ

信じた先にあったものは絶望だけじゃないか

ふざけるな

ふざけるな!

ふざけるな!!

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 00:59:45.68 ID:xbusISKsO
ξ )ξ「―――――ッ」

ζ(^ー^*ζ「きゃはは、うふふ、くすくすくす」

聞こえない

聞こえない

嗤う声しか

もうなにも

聞こえn(∪#^w^)「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

!!

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:00:43.15 ID:xbusISKsO
――――――――――

まるでバケツをひっくり返したような、雨。

誰かの声も、雨の音が掻き消してくれる。

俯き震えながら何も言い返さないツンを見て、ブーンはついに叫んだ。

「ふざけるな!!」

そしてツンを笑いながら責めるデレに向かって走る。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:01:36.19 ID:xbusISKsO
(´<_`;)「ブーン!?」

(;´_ゝ`)「ブーン!」

(∪#^w^)「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

驚いたように目を丸くしたデレが、ツンの拳銃でブーンを撃つ。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:02:48.96 ID:xbusISKsO
一発

二発

三発

四発

五はζ(゚ー゚*ζ「あ、弾切れ?」

五発目の弾丸は銃口から出てこなかった。

デレは特に気にした様子もなく、役立たずになった拳銃をブーンに投げつける。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:03:46.19 ID:xbusISKsO
銃弾を全部体に受けたブーンは、それでも怯むことなくデレに向かって走った。

―――許せない、許さない、

親友だったんじゃないのか?

それなのに殺すつもりだったなんて

許さない!

ζ(゚ー゚*ζ「武器がないなぁ…」

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:05:18.74 ID:xbusISKsO
悠長に武器になりそうなものを探すデレに、焦った様子は見られない。

ここにいる全員を皆殺しにする自信があるのか、それとも何か他の策があるのか。

それでも死ぬ心配をしなくていいなら、とブーンは真っ直ぐデレの腹目掛けて爪を振りかぶった。

(∪#^w^)「おおおおおお!!」

ζ(゚ー゚;ζ「!」

ブーンの狙いが腹だと知った途端、僅かながらデレの表情に焦りが見えた。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:07:05.91 ID:xbusISKsO
服だけを切り裂き、ブーンはデレから距離を取る。

デレからの攻撃はいつまで経っても来なかった。

ζ( ー *ζ「…………」

(∪;^w^)「……お?」

ζ(^ー^*ζ「…ふふ、そろそろ私は退散するね!そこの奴だけでも殺そうと思ったけど、殺す価値がなくなったからどうでもいいや!」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:08:45.44 ID:xbusISKsO
腹を両手で押さえ、瓦礫の上に立ち上がったデレはにっこりと微笑み、ツンを指さす。
ツンは未だに俯いて震えていた。

(∪;^w^)「ま、待てお!まだ聞きたい事はたくさん!」

ζ(^ー^*ζ「そんな心配しなくたってまたすぐ会えるよぉ」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:09:53.93 ID:xbusISKsO
手を軽く振り、雨に掻き消えたデレ。

その場に残されたのは、消えたデレの行方を探そうとそこらを探し回るブーン。

震え、俯いたままのツン。

何も出来ず、どうしようもないまま成り行きを見守っていた弟者。

ぼんやりと何かを考えるように宙を見つめる兄者。

何も知らず、すやすや眠るギコとハインの二人…。

ξ )ξ「…………」

黙ったままだったツンの拳が、思い切り握られたのを知る者は誰もいない。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:10:49.06 ID:xbusISKsO
――――――――――

雨は昼頃止み、厚い雲間からうっすらと太陽の薄い光が差し込みだした頃。

ブーンたちは高台に登り、ニュー速の惨事を目の当たりにした。

ギコとハインは、ツンの傍で眠らせたままだ。

(∪ ^w^)「……」

(´<_`;)「ほとんど助けられなかったんだろうな…」

( ´_ゝ`)「………」

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:11:52.73 ID:xbusISKsO
活気のあった頃は、それはそれは楽園のような場所だったという。

それが今はほとんどの建物が崩れ、灰色になってしまった街並みの光景が広がるばかりだ。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:12:50.58 ID:xbusISKsO
(∪ ^w^)「…僕は…」

―――ずっと着いて来てくれていた兄者、弟者にも話していないことがあったんだ。

僕はもう、自分がどこから来たのか思い出せない。

自分が人間だった頃の姿ももう分からない。

今はっきり覚えているのは、暗い闇の中で『声』と話した内容だけ。

いつから兄者たちが僕に着いて来てくれているのかも、そろそろあやふやになってきてる。
まるでモザイクがかかっているかのように、不鮮明になってきてる。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:13:43.91 ID:xbusISKsO
(∪ ^w^)「…やめとくお」

言葉にしたら、本当になりそうで恐ろしい。

ブーンは頭を振り、暗い未来のイメージを振り払った。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:14:54.56 ID:xbusISKsO
――――――――――

(,,゚Д゚)「ブーン!」

从 ゚∀从「兄者弟者!」

『オアシス』に戻ったブーン達を迎えたのは、魔力や気力を使い果たして眠り続けていたギコとハインだった。
残してきたツンがその場にいないことに気付いたブーンは、彼女の行方を尋ねる。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:16:07.47 ID:xbusISKsO
从 ゚∀从「あーなんか街を見てくるって、さっき歩いてったぜ」

(,,゚Д゚)「それより俺たちが寝てる間、何があったんだ!?」

『ツンは街を歩きに行った』

大丈夫だろうか、馬鹿なことなんて考えていないだろうか。

ブーンは嫌な予感を感じ、ツンの匂いを探ってみる。

血や埃、焦げ臭さに混じって微かにその匂いを探り当てた。

説明は兄者と弟者に任せ、ブーンはツンがいると思われる場所に向かった。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:16:55.78 ID:xbusISKsO
――――――――――

夢だと思った。

夢が醒めたら、いつもみたいに髪を結って少し露出の高い服を着て、笑顔の練習をして。

踊って。

デレと他愛のない話をして、少しお酒を飲んで、眠って。

それなのに、いくら思い切り頬を叩いても私の意識は覚醒しない。

だからこれは現実なのだろう。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:17:58.73 ID:xbusISKsO
踏みしめる足の裏に感じるガラスの破片や、コンクリートの破片。

瓦礫に埋もれて助けを求めるかのようにこちらに手を伸ばして事切れたと思われる、黒と肌色のまだらな死体。

多分親子だろう、子供を胸に抱えてうずくまったままの形で焼かれた死体。

これら全て、あの蝶の化け物とデレがやった事だと思うとやりきれない気持ちでいっぱいになる。

ごめんなさい、ごめんなさい。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:19:17.88 ID:xbusISKsO
外の世界へ通じる門の前で苦悶の表情を浮かべて死んでいる人の隣を何度も通り過ぎた。

その度に重くなる足。

その度に潰れそうになる心。

涙は雨と一緒に流したはずなのに、また泣きそうになる。

ごめんなさい、ごめんなさい。

もう少し私に勇気があったら、私に力があったら助けられたかもしれないのに。

だから、

(∪ ^w^)「君は悪くないお」

だから。

そんな言葉をかけられたら私は、どうすることも出来ない。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:20:52.39 ID:xbusISKsO
――――――――――

ツンを見つけるのは案外簡単だった。
この時ばかりは、犬の嗅覚に感謝してもいいのかもしれないと思ってみる。

―――

居住区の細い通りにツンは泣きそうな顔をして立っていた。

(∪ ^w^)「君は悪くない」

ブーンは同じ言葉をもう一度繰り返し、そして尻尾を振ってツンの隣へ歩み寄る。

ツンは何も言わず、ゆっくりと「私は悪くない」と呟いた。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:22:29.50 ID:xbusISKsO
ξ゚听)ξ「……」

(∪ ^w^)「だから君が気に病むことはないんだお」

ξ゚听)ξ「……。…ありがとう」

(∪ ^w^)「それと、泣きたいときに泣けるのは人間のいい所だお。我慢する必要はどこにもないお」

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:24:00.28 ID:xbusISKsO
ξ ゚听)ξ「………何綺麗ごと言ってんの…犬のくせに…」

(∪ ^w^)「おっおっ、確かにそうだお!」

簡単で、使い古された台詞。
だからこそ説得力があり、慰められる台詞。

ツンのキツイ一言に、ブーンは気を害した様子もなくばさばさと尻尾を振り回した。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:24:56.70 ID:xbusISKsO
ξ ;;)ξ「何笑ってんのよ…う…うわあああああああああああああん!!!」

子供のような泣き声。

広く、死んだ街に、生きた泣き声が遠く響く。

弱々しい太陽の光が、そっと街を包み込んだ。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:25:47.78 ID:xbusISKsO
ツンの叫ぶ「ごめんなさい」を聞きながら、ブーンは目を閉じる。

瞼の裏の、無限の暗闇。

恐怖はなく、むしろ心地好い暗闇の中をブーンはゆったりと泳いでいた。

この暗闇の中ではブーンは犬じゃなく、人の姿でいられるようだ。

黒を掻く手は、肌色で普通の人間のものだった。

たったそれだけの事が嬉しくなったブーンはにっこりと頬を緩め、黒の世界を泳いでいく。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:27:19.90 ID:xbusISKsO
そんな安全な世界が壊れたのは、聞き覚えのある声がブーンの鼓膜を刺激してからのこと。

『誰かを護る力が欲しいとは思わないか?』

その囁きに、ブーンは驚いて声をあげた。
その声は間違いなく、いつか聞いたものだ。

(#^ω^)「どこにいるんだお?!」

『お前に力をくれてやろうではないか。だから、復讐や殺意に身を委ねろ。もっともっと血を浴びろ。その爪で全てを切り裂け!』

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:28:27.33 ID:xbusISKsO
蠱惑的な声に、甘美な囁き。
頭の髄から揺さ振られるような錯覚。
何が善で、何が悪か。
それさえもあやふやにさせる言霊の力。

(;^ω^)「黙れ、黙れお!」

『今回、ニュー速国が壊滅。人間が大量に死んだのを目の当たりにしてお前は一体何を思った?
何も出来ず、ただ独り生き残った女の泣き声を聞いて何を思った?
もう少し、もう少し力があれば救えた命があったかもしれないと思ったのではないか?』

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:29:40.60 ID:xbusISKsO
(;^ω^)「黙れお…」

『私が、お前に、力を貸してやろう』

一言一言、ブーンの頭に染み込ませるように。
声の主はくす、と笑う。

ブーンが漂う暗闇に、ぼんやりと青い光が浮かんできた。

忌ま忌ましい青。
ニュー速の人間を間接的に殺した、三日月模様。

それが、三メートルほど離れたところにぽつりと浮かんでいる。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:30:45.73 ID:xbusISKsO
『その光を受け入れろ。そうすれば私の力を与えてやる』

(;^ω^)「………」

駄目だ、罠だ、絶対に駄目だ。

ブーンの理性は必死に抗う。

―――人を殺す力なんかいらない、だからお前の甘言にも乗らない!

しかしそんな内心の抵抗とは裏腹に、ブーンの足は暗闇を踏み締めて三日月模様に向かう。
自分の意思が、足を進めさせた。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:31:29.21 ID:xbusISKsO
一歩一歩、

確かに三日月に、

確かに絶大な力に、

近づく。

(;^ω^)「…駄目だお」

抵抗する声までもが弱々しくすぼんで。

後一歩で、三日月に触れるところまでブーンは進んだ。

『そのまま、光に、触れろ』

声の命令。
ブーンの手はゆっくりと三日月に伸びる。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:34:23.99 ID:xbusISKsO
あと10センチ、

あと9センチ、

あと8センチ、

あと7センチ、

あと6センチ、

あと5センチ、

あと4センチ、


72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:35:06.50 ID:xbusISKsO
あと3センチ、

あと2センチ、


73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:37:00.23 ID:xbusISKsO



あと1センチ。




75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:38:54.96 ID:xbusISKsO
あと、

「大丈夫?」

印まであと数ミリ。

ブーンの手を止めさせたのは、ツンの声だった。

彼女の声でブーンの周りの暗闇は消え、三日月も見えなくなった。

ξ;゚听)ξ「大丈夫?なんだかうなされてたみたいだけど」

光に囲まれた街。
ツンの心配そうな顔が見えた。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:40:11.00 ID:xbusISKsO
彼女は傷だらけだ。
身体も心も、ボロボロになっている。
それでも、確かな強さが宿っているのだ。

現に泣くのを止めたツンは凛とした表情でブーンを見下ろしているではないか。

(∪ ^w^)「助かったお、ありがとうお!」

ξ ゚听)ξ「え?」

意味がわからない、といったツンを横目にブーンは尻尾を振ってみせた。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:41:02.02 ID:xbusISKsO
どんなに辛くても、どんなに大変なことがあっても、助けてくれる人がいる限りブーンは甘い囁きに答えはしない。

どんなに打ちのめされても立ち直れるのが、人間なんだから。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:42:25.59 ID:xbusISKsO
――――――――――

(,,゚д゚)「ブーン!」

崩れたオアシスに戻ると、焚火を囲んだギコ達がブーンとツンを迎えた。

(∪ ^w^)「お!ギコにハイン、もう身体は大丈夫なのかお?」

(,,゚д゚)「俺たちは平気だよ、つかお前が大丈夫なのか?なんかヤバい事になってるみたいじゃねーか」

焚火の輪に入り、ブーンは大きく頷いた。

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:43:17.31 ID:xbusISKsO
(∪ ^w^)「呪いをどうにかするために僕は西を目指して旅に出てるんだお、こんなんでへこたれてなんかいられないお!」

(,,゚д゚)「そ、そうか?」

( ´_ゝ`)「ブーン、わずか数人だけど生き残りがいるんだ。彼らはどうする?」

从 ゚∀从「ここを復活させるのは骨が折れるぜ!」

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:44:11.02 ID:xbusISKsO
そう、だってやることは沢山ある。
こんなところでうだうだと悩んでなんかいられない。

兄者と弟者の後ろに、申し訳なさそうに縮こまって座っている数人の男女がいた。
彼らを見て、ブーンは考える。

(∪ ^w^)「怪我人はいるのかお?」

从 ゚∀从「まぁいるっちゃーいるけど、かすり傷とかそんなんだ。歩けないほどじゃない」

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:45:49.84 ID:xbusISKsO
(∪ ^w^)「じゃあVIP王国までどのくらいで着くか分かるかお?」

从 ゚∀从「だいたい三日から五日だな。でもあいつらの話だと、最近気圧とか気候が不安定だからデカイ砂嵐がよく起こるらしい」

(∪ ^w^)「砂嵐…」

(,,゚д゚)「でもここにいても同じだぜ」

(∪ ^w^)「……」

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:47:07.64 ID:xbusISKsO
国の外にすら出たことのなさそうな人間が、五人。
大体VIPに着くのは一週間ほどかかるだろうか。

ξ ゚听)ξ「あのね、」

考えあぐねていたブーンに、隣に座っていたツンが話し掛ける。

ξ ゚听)ξ「さっき街を回ってたらラクダが何頭か生き残ってるのを見たわ。先に進める」

(∪ ^w^)「お!ちょうどいいお!ラクダをちょっと拝借するお!」

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:47:47.30 ID:xbusISKsO
嬉しそうに尻尾を振り、ブーンは生き残りの人間達に近付く。

ラクダに乗っての一週間ほどの旅を告げると、彼らは力無く頷いて準備するために街中へと散った。

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:48:55.82 ID:xbusISKsO
――――――――――

一方、急に活気づいたオアシスの片隅にある大きな門の前にギコとハインは立っていた。

二人の視線は門に向けられている。

(,,゚д゚)「無くなったな」

从 ゚∀从「そうだな」

蝶が死に、デレという人間が忽然と消えてから三日月の印は嘘みたいに消えたのだ。
門を閉鎖する魔術を施したのはデレだと、本人が笑いながら言ったという。

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:49:57.17 ID:xbusISKsO
―――あの時、ハインが印を見付けてギコが一つひとつ消していなければ、今生き残っている五人も死んでいたかもしれない。

ハインが街中の至る所に、簡単な命令に従う火獣を喚んでいなければ、全員が死んでいたかもしれない。

从 ゚∀从「危なかったよな、確かに」

(,,゚д゚)「まあな。良かったよ召喚出来る奴がいて。多分俺だけだったら全員死んでたしな」

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/04(火) 01:51:22.38 ID:xbusISKsO
从 ゚∀从「かっかっか!オレに感謝しろよ?」

(,,゚д゚)「何でだよ!」

ほとんど誰も知らない二人の貢献は、確かに実を結んでいる。




第九話「『月下軍』」終了


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