- 2 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 17:59:58.32 ID:gdFY+3Nb0
-
毀 下
- 4 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 18:04:16.10 ID:gdFY+3Nb0
- ξ゚听)ξ「ほら、立てる?」
私達の戦い……いや。
派手な喧嘩は、私の勝利という事で終わりを告げた。
内臓に多大なる負荷を負った空は未だ呼吸も荒く、口の端から血が滲んでいる。
私も確かに限界が来ていたが、今の空よりまだましな方だ。
残っている左手で空の手を取り、立ちあがらせてやる。
川 ゚ -゚)「……私をどうするつもりなんだ」
ξ゚听)ξ「……決まってるでしょ。連れて帰るのよ」
そんな言葉を吐く私を、彼女は笑う。
川 ゚ -゚)「つくづく馬鹿だな……お前は。そんなの無理に決まっているだろう……」
ξ゚听)ξ「……っさい。いいからあんたは黙ってついてきなさい」
反旗を翻した空が、今更機関に戻れるわけもない。
むしろ内藤達の前に出せば、きっと始末されてしまうだろう。
だが私がそんな事はさせない。彼女には指一本触れさせやしない。
川 ゚ -゚)「お人よしめ。長生きしないぞ」
ξ#゚听)ξ「だーもう!!だから黙ってなさいよ!!」
- 6 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 18:08:41.31 ID:gdFY+3Nb0
- 未だ彼女の足はふらついているが、何とか立つ事は出来るようだ。
まあ、私の肩に手をまわしていなければ、今にも倒れそうなのだが。
ξ゚听)ξ「……さて」
私は先から喧しい音が響く上を見上げた。
当然天井が見えるのみだが、私の意識はその上、このタワーの屋上。
ヘリポートへと向けられている。
ξ゚听)ξ「あの馬鹿な妹が何をしでかそうとしてるかは知らんが」
一歩一歩、私は空を引き摺りながら歩いていく。
向かう先は屋上へと通じるであろう階段だ。
ξ゚听)ξ「あんたも連れて帰るわよ、零」
……一体、何が彼女を狂わせたのだろう。
きっかけは間違いなくあの夜だ。あの鬼違いとなった日。
だがここまで大それたことをする理由とは何だ?
彼女は鬼違いだ。では必ず目的とする物がある。
ξ゚听)ξ「……無限の死……ね」
ちらり、と私は顔を伏せている空を見やる。
もしもそうなのだとすれば。
それは取り返しのつかない物に成り果ててしまうのかもしれない。
- 8 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 18:12:20.81 ID:gdFY+3Nb0
- かん、かん、と私は人一人を背負って階段を上っていく。
ξ;゚听)ξ「っぁー……もう!!あんた何でこんな重いのよ!!」
川 ゚ -゚)「……そりゃお前、筋肉とおっp」
ξ#゚听)ξ「あーあー聞こえない!!」
……ああ、そうだ、そうなんだよなあ。
やっぱ、こういうのが私達なんだよ。
喧嘩したけどさ、やっぱお前、そういう存在であって欲しいよ。
ふざけて、馬鹿にしあってさ。
やっぱ友達ってそういうもんだよ。
ξ゚听)ξ「……ねえ」
川 ゚ -゚)「……何だ?」
ξ゚听)ξ「帰ったらさ……どっか遊びに行きましょうよ。二人でさ……」
川 ゚ -゚)「…………」
ξ゚听)ξ「そんで、また馬鹿やって、事件に巻き込まれて、内藤に地獄の特訓喰らわされてさ……」
川 ゚ -゚)「……ああ……そうだな……」
- 11 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 18:16:02.04 ID:gdFY+3Nb0
- ξ゚听)ξ「でも、その前にあんた、皆に謝らなきゃね」
川 ゚ -゚)「まいったな……人に頭を下げる事は苦手なんだよ」
ξ゚听)ξ「このプライドの塊め」
川 ゚ -゚)「ははっ。言ってろ」
上へと続く階段は、もう、無い。
あるのは重圧な鉄の扉だ。
この扉を開ければ、そこはヘリポート。
先からプロペラ音が爆音を奏で、それはこの扉越しからでも十分に伝わってくる。
ξ゚听)ξ「……そんでさ」
川 ゚ -゚)「…………」
私は扉を蹴り開ける。
轟音が響き、扉は弾かれたように開け放たれた。
目に映るのは中型のヘリコプター。
眩いライト。
そしてその前に立つ、我が最愛の妹。
- 13 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 18:20:38.34 ID:gdFY+3Nb0
-
ξ゚听)ξ「あんたも一緒に帰るのよ、零」
ζ(゚- ゚*ζ「……お姉ちゃん?」
- 14 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 18:23:29.88 ID:gdFY+3Nb0
- 彼女はその表情を驚愕に塗りつぶしていた。
きっと、私がこんな事をしでかすとは思っていなかったのだろう。
仮にも空という人間が控えていたにも関わらず、私は此処まで辿り着いた。
ζ(゚ー゚*ζ「……そう。まさかそんなに強くなっていたなんて。計算外だったかな?」
しかしその表情は数瞬のみで、すぐさま何時もの優しい笑みに戻される。
ξ゚听)ξ「あんた、姉を嘗めちゃいけないわよ?何せお姉ちゃんなんだからね」
ζ(゚ー゚*ζ「まあ、日頃の生活態度を知ってるから、何とも言えないかなあ」
この小娘、言うじゃないか。
何て、ほくそ笑んでしまう。
ξ゚听)ξ「ほれ、そんな飛行機で遊んでないでとっとと帰るわよ。そんで皆にごめんなさいしなさい」
ζ(゚ー゚*ζ「ええー……。嫌だよ。まだ遊び足りないもの」
ξ゚听)ξ「……もう、十分でしょう。これ以上の何を望むのよ」
その言葉に彼女は大きな声で笑う。
ζ(゚ー゚*ζ「はぁっ……もう。何度も言わせないで?私はね、限りない死を、無限の死を望んでいるのよ」
ξ゚听)ξ「…………」
- 15 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 18:28:58.32 ID:gdFY+3Nb0
- 確かにお前はそう言っていた。
しかし、それを一体どうやって行うと言うのだ?
今や『ν』の残存兵力は微々たるものになっているだろう。
下では『国解機関』の機関員総出で鬼違い狩りが繰り広げられていると言うのに。
だのに、まだお前は殺戮を続けると言うのか?
一体どうやってだ?
川 ゚ -゚)「……あるのさ、その手段が」
そんな疑問に、彼女が、空が答える。
支えになっている私から離れると、一歩私の前へと踏み出て、零へと対峙する。
川 ゚ -゚)「……そこに積んであるんだな。『過去の遺物』は」
ζ(゚- ゚*ζ「……あーあ……何?もしかして寝返っちゃった?」
敵意を露わにする空に対し、零は苛立たしげにそう言う。
ζ(゚ー゚*ζ「……ええ。あるわよ、『過去の遺物』」
確か、あの情報屋の朝日さんも口に出していた単語だ。
内藤が何の事かと訊ねても、結局はぐらかされてしまってそれが何なのかは分からず仕舞いだった。
しかし、今までの零の台詞。
そして空の緊張に染まった表情から察するに、それは恐らくかなり危険な物なのだろう。
- 16 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 18:33:14.35 ID:gdFY+3Nb0
- 大量の殺戮を行える物とは何だ?
頭に浮かぶのはミサイル。
局地的破壊に優れているものとすれば、そう言った物の類だろう。
つまりは……爆弾だ。
川 ゚ -゚)「いいや……これは、そんな生易しい物なんかじゃないさ」
ξ;゚听)ξ「え?」
爆弾を生易しいと判断するほどなのか、それは。
では一体何だ、その危険な物とは。
川 ゚ -゚)「……文字通り、『過去の遺物』さ。それはとうの昔に誰も使用しなくなった」
あまりにも危険すぎるから、と。
彼女は続ける。
川 ゚ -゚)「確かに科学は進歩し、それに対抗し得る物も少なからず作りだされてきた。
しかし対抗するだけで、それを完全に殺すものは未だに存在しやしない」
科学、進歩、対抗……?
待て、まるでそれは……。
川 ゚ -゚)「それは誰もが恐れた生物兵器。各国で名を馳せ、戦争ですら使用される事の無かった最悪の兵器」
そして零は嬉しそうに笑った。
ζ(^ー^*ζ「そうよ。今ここに確かにそれはあるわ。『炭疽菌』が、ここにね」
- 20 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 18:38:20.81 ID:gdFY+3Nb0
- その名に私は聞き覚えがあった。
嘗て日本である宗教団体が起こした事件――結局それは未遂で終わったが――や、
数年前に起きた、米国でのその事件。
ζ(゚ー゚*ζ「炭疽菌芽胞をエアロゾル化し、薬剤耐性遺伝子を導入してある。
それも超々高濃度……過去のそれらとは比較にはならないわ」
何が起きるのかなんて、分からない。
だが、それは、生きている兵器。
生きている限り増殖し、人から人へと移っていく。
それはつまり死の連鎖だ。
その上それを完全に破壊する物が今、この世には存在しない。
ζ(゚ー゚*ζ「このヘリ一台だけで、日本の半分は殺せる」
ξ;゚听)ξ「……おい」
お前、それは、本当に洒落になってやしないぞ。
お前、どうかしてる。
ζ(゚ー゚*ζ「長かったわあ……長らく手放していた物を、ようやく回収できたの。
しかも素晴らしいタイミング。これほど出来過ぎた事があるかしら?」
くすくすと彼女は笑う。
まるで無垢な子供のように。
- 22 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 18:43:55.47 ID:gdFY+3Nb0
- ξ;゚听)ξ「……一体そんな物、どうやって……」
ζ(゚ー゚*ζ「元々は『vip』の所有物だったのよ、お姉ちゃん。
けど先の抗争でそれは紛失。行方は知れないままだった……」
だけれども。
ζ(゚ー゚*ζ「彼、『躯』が持ち帰ってくれたのよ。何処にあったと思う?まさかの日本!
この兵器は、例のテロでも使われていたみたいね。まあ、あれは出来としては最悪だったみたいだけど」
ξ;゚听)ξ「……つくづく裏の世界ってのは恐ろしいものね。そんな厄介な物、出回すんじゃないわよ」
ζ(゚ー゚*ζ「でも、これこそが私の持ち得る最強の鬼札(ジョーカー)。『天然痘』が本当は欲しかったけど……。
まあ高望のし過ぎね。あれは手に入れられる代物じゃないし……」
先から訳の分からない単語ばかりを口にしやがる。
兎にも角にも、今、目の前のヘリコプターには危険極まりない代物が積まれているのだ。
恐らく彼女、零はそれを空中からばら撒く算段なのだろう。
それは無差別に、無計画に。
彼女の事だ、航路全てが標的と成り得るだろう。
ξ゚听)ξ「……零」
尚更見過ごせはしない。元から見過ごす気は微塵もないのだが。
だが彼女の最終兵器を目の当たりにして、改めて彼女は狂っているのだと実感する。
- 24 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 18:48:17.86 ID:gdFY+3Nb0
- 川 ゚ -゚)「お前はその後、どうするつもりなんだ」
空が訊ねた。
ζ(゚ー゚*ζ「どう、ね……どうしようかしら?まあ日本はもうダメよね。かといって他国に渡るにしても、
この現状を作り出した張本人を丁重にもてなしてくれる組織は有りはしないだろうし」
過激派組織でも此処まではやらないだろうよ。
テロにしてもまるで規模が馬鹿げているレベルだ。
川 ゚ -゚)「……結局、お前の言う安全やら絶対って言うのは、何処の誰が保証してくれる筈だったんだ」
空が怒りを露わにする。
ζ(゚ー゚*ζ「ふふふ……」
それに対して零は笑った。
その声は段々と大きくなり、やがて渦を巻き、天高く響きだす。
それはまさに狂気の塊に見えた。目は血走り、口は裂けてしまうほど大きく開かれ、身体は興奮の為か痙攣していた。
ζ(゚∀゚*ζ「何を言っているの?何もかも、ここからが始まりなのよ?全ての土台となるべく、
この殺戮のオーケストラは開催されたのよ!!拍手喝采、死のファンファーレが鳴り響いて!!」
すう、と彼女の目が据わる。
ζ(゚ー゚*ζ「……私が望むのはね、無限の死。『人の死』。ならば起こすのよ。飽き足りない、終わりのない闘争を」
- 26 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 18:54:53.28 ID:gdFY+3Nb0
- 川#゚ -゚)「……やはり鬼違いは鬼違いかっ……!!」
ζ(゚ー゚*ζ「けど、お姉ちゃんだけは確実に守り通して見せるわ」
川#゚ -゚)「嘘を吐くな!!結局、お前は己の欲の為だけに全てを利用してきたんじゃないか!!
そんなお前の何を信用しろと言」
ζ(゚- ゚*ζ「黙 れ 阿 婆 擦 れ」
空の言葉を遮ったのは重い声。
それは先の洋館で無線機越しに聴いたトーンと同一だった。
ζ(゚- ゚*ζ「べらべらと喧しい。信用?馬鹿なの?お前からの信用何て得る必要も何も無いんだよ。
利用されてきた側が何をほざく」
川#゚ -゚)「……貴様ぁっ……!」
空が奥歯を噛みしめ、震える足取りで零へと近づいていく。
ξ;゚听)ξ「く、空!!」
不穏な雰囲気が漂っている。
一触即発という奴だ。空からは明らかな殺気が放たれている。
対して零からは冷めきった妙な雰囲気が垂れ流れていた。
ζ(゚- ゚*ζ「最早寝返ったかどうかもどうでもいいわ。あなたの役目はもう終わりよ。
ここまでお姉ちゃんを苦しめる事が出来た。それだけで十分」
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/10/15(土) 18:57:23.93 ID:gdFY+3Nb0
- ξ;゚听)ξ「くる……しめ……?」
何だ?一体この馬鹿は何を言っている?
ζ(゚ー゚*ζ「精神的にブッ壊れたお姉ちゃんを見たかったのよ……あの時のお姉ちゃん、最高に可愛かったもの!!
おかげで楽に連れ去る事も出来たし、あの内藤とか言う奴にも有効な手段だったようだしね」
ξ;゚听)ξ「……ッッッ」
……こいつ、どうかしてる。
そんな事の為だけに、空を利用したと言うのか。
たった私一人の為に?
ζ(゚ー゚*ζ「うふふ……違うわよ、お姉ちゃん?目的があったのよ?」
私に微笑むと、零は空を見据える。
ζ(゚- ゚*ζ「理解できた?もうあんたは要らない。で、この後どうするの?
『国解機関』に戻る?それとも、逃亡の日々を?」
その問いに空は鼻で笑う。
そして彼女は懸命に震える足取りで零の下まで一歩一歩近づいていく。
川#゚ -゚)「……帰るのさ、ツンと一緒にな。己の愚かさは十分理解している。
到底許してもらえることではないだろう。だがそれでもいい。私はツンを連れて帰るぞ」
ζ(゚- ゚*ζ「駄目ね。お姉ちゃんは私の物だもの。誰にもあげない。渡さない」
- 29 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 18:59:25.95 ID:gdFY+3Nb0
- ξ;゚听)ξ「お、い」
私はこの状況を誰よりも理解している。
それは今まで何回も見てきた光景だからだ。
これは、そうなるに違いない。殺し合いの風景になるに違いない。
両者の距離が拳一つ分に至るまでに狭まり、空が零を睨みつける。
それに対して零は冷めた目で見つめ返している。
川#゚ -゚)「――おぉおっ!!」
そして空は――
- 30 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 19:01:23.78 ID:gdFY+3Nb0
- ζ(゚- ゚*ζ「……駄目ね」
川# -゙)「がぁッッ――!?」
――地に叩き伏せられた。
鈍い音が響く。それは拳で殴りつけた音だ。
どさりと空は冷たいアスファルトに倒れ伏す。
ξ;゚听)ξ「空!!」
……無理もない話だ。
彼女も私も、瀕死とまではいかないが、もう余力なんてほとんど残っていない。
更に彼女は外見的にはマシに見えるが、内面のダメージの蓄積量は半端ではない。
- 33 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 19:06:04.71 ID:gdFY+3Nb0
- 慌てて私は駆け寄ろうとする。
だが。
ζ(゚ー゚*ζ「こーらっ」
ξ;゚听)ξ「!?」
空の頭を踏みしめたまま、零は私に振りかえると、その拳を振るう。
ξ;゚呀)ξ「ぐぅっ――」
裏拳が叩きこまれそうになった所を、残された左腕だけで防ぐ。
片腕だけでは防ぎきれず、結局バランスを崩され私も地を這う形となる。
ζ(゚ー *ζ「駄目よ、お姉ちゃん?良い子にしてなきゃっ」
微笑む彼女の瞳に浮かぶのは狂気。
ξ;゚呀)ξ(く、そぉっ……)
最早私と空に抗う術は残されていなかった。
空は呻き声を上げながら未だに頭を踏み続けられ、私はその光景を突っ伏したまま見つめている。
- 36 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 19:09:31.77 ID:gdFY+3Nb0
- ζ(゚ー *ζ「あーんまり良い子にできないとさあ」
カチャリ。
嫌な音だ。
そいつは……そいつはよく知っているぞ。
ζ(゚ー *ζ「お仕置きしちゃうよ?」
向けられた銃口は私の右太ももに。
トリガーは躊躇いもなく引かれた。
- 37 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 19:12:37.65 ID:gdFY+3Nb0
- 甲高い音が響く。次いで私の太ももを貫いていく鉄の塊。
急速に広がる体温。駆け抜けていく激痛。そして焼け焦げたニオイを撒き散らしながら地に落ちていく薬莢。
ξ; Д )ξ「っ――があぁあああああぁあぁぁああああああああ!!!!」
脈動する度にその痛みは、熱は広がっていく。
想像を絶する痛みだ。今まで感じてきた痛みの中でもトップクラスを誇るだろう。
頭の中がジンジンする。
涙がこみ上げてきて視界がぼやけてくる。
ξ; 皿 )ξ「れ、い、いいいいいいいいいい!!!!」
だがしかし。
私は最後の力を振り絞って立ち上がる。
その際の運動で撃たれた傷口から血が噴き出す。
だがそんなものに構ってなどいられるか。
左拳を振りかぶる。
ζ(゚- *ζ「……もうっ」
そして私の体には、また新たな風穴が追加された。
- 40 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 19:15:53.88 ID:gdFY+3Nb0
- 闇夜にマズルフラッシュが輝き、それとほぼ同時に私の身体を何かが通り過ぎていく。
左肩を、左太ももを、弾丸が突き抜けていく。
ξ; Д )ξ「――――」
声にならない叫びが響いた。
それは他の誰でも無い、私の物で。
きっとこの大きな叫び声は街一帯に伝わっただろう。
ξ; Д )ξ「あああっ!!!アあっ!!!うぁあァァアアァアああああっ!!はぁぁあああっあああ!!ああアアアアアア!!!」
その痛みに地をのた打ち回る事さえ許されない。
ただただ、地の上でだらしなく横たわり、痛みに狂い、叫び散らす。
川#゚ -゙)「ツ、ン!!ツン!!糞おおおおお!!」
お前の言った通りになったな、空。
やはり五体満足ってのは、この殺戮の場では不可能だったみたいだ。
しかし、こうも情け容赦なく撃ってくるとは。
流石は私の妹ってか?ははっ。笑えないな。
川#゚ -゙)「殺す!!!ブッ殺してやるぞ!!!ツンを撃ったな!!!傷つけたな!!!」
ζ(゚- *ζ「貴女が言えた義理?それに必要な躾よ。解らせなきゃ覚えないもの」
怒り狂う空は、しかし自由を許されはしない。
その頭は未だに踏みつけられたままだった。
- 42 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 19:20:24.31 ID:gdFY+3Nb0
- 川#゚ -゙)「ふざけるなああああああああああ!!!!」
だが彼女もやはりその道の人間だ。
己の限界を超えてでも、戦う事を選んだのだ、彼女は。
足を振りほどき、地を蹴る。
ζ(゚- *ζ「!」
川#゚ -゙)「許しを乞うても遅いぞ!!泣いたって許さん!!」
その手に握られていたのは特殊警棒だった。
それをめいいっぱい振りかざし、零の顔面に叩きつけようとする。
ζ(゚- *ζ「ふっ!!」
川# Д )「ぐぅっ!?」
しかし、それをすんなりと避けると同時に、零の肘が空の鳩尾へと叩きこまれる。
前屈みになった空の左腕を取ると、そのまま背後に回り込み、左腕を完全に極めた。
ζ(゚- *ζ「伊達や酔狂で首領をやっているわけじゃないの――よっ」
言葉尻にアクセントをつけるのと同じくして、空の左腕を思い切り捻る。
バキリと、嫌な音が響いた。
川; Д )「がぁあああっ!!??」
それで勝負はついた。
私達は、どうあっても零には敵わないようだった。
- 43 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 19:23:26.68 ID:gdFY+3Nb0
- ζ(゚- *ζ「馬鹿ね、本当。相手をよく知りもしないで突っ込んでくる……愚の骨頂だわ。
けどまあ、二人が万全の状態だったら、結果は違っていたかもしれないけれども」
ガチャリ。
その音は響く。
ξ; Д )ξ「――お、い」
零は構えた。銃を。
川; Д )「う……ぐぅ……」
……空に向けて。
ζ(゚- *ζ「本当、大馬鹿。でもだからこそ利用価値があったし、結局私の思い通りになってくれた」
ξ; Д )ξ「何、してんだ」
血塗れの手を、零と空へと伸ばす。
地に倒れ込む空に、それを見下ろし銃を構える零。
さながら死刑執行の瞬間のようだった。
例えばそれは最後の審判のような、世界の終わりの日に立ち会ったような。
つまり、それは絶望だった。
ξ; Д )ξ「……おい」
嘘だろ?
そんな、まさか、お前。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/10/15(土) 19:26:34.72 ID:gdFY+3Nb0
- ζ(゚- *ζ「これであなたの任務はすべからく完了よ――」
全てがスローモーションだった。
零がそのトリガーを引くのも。
空がその銃口を睨みつけた瞬間も。
ξ; Д )ξ「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
私の叫びが響いたのも。
- 47 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 19:30:08.14 ID:gdFY+3Nb0
-
ζ(゚- *ζ「さよなら、役立たずさん」
乾いた音が響いたのも。
全てが、スローモーションだった。
- 49 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 19:33:21.21 ID:gdFY+3Nb0
- ξ Д )ξ
真っ赤な花が浮かぶ。
宙に咲く。
川 - )
彼女が声も出さず、血を噴き上げる。
ξ Д )ξ「……いやいや……いやいやいや……」
いや、それ、おかしいですやん。
あんた、ジョークにしちゃあ、笑えんぞ。
ξ Д )ξ「いやいや、お前、馬鹿やってんなよ……」
自分で作った血の池の上を這いずり、空の下へと近づいていく。
動くたびに激痛が身体を支配したが、構ってなんていられなかった。
ξ Д )ξ「……おい」
彼女の頬に触れる。
何だ、温かいじゃあないか。
お前、生きてるのか。
- 51 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 19:36:01.52 ID:gdFY+3Nb0
-
川 - )「ヒューッ…ツ……ン……」
ξ Д )ξ「……馬鹿ね、あんた……演技も下手ったらありゃしない」
真っ赤に染まっていく彼女の右胸。
肺を、それは通過していた。
- 52 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 19:39:24.15 ID:gdFY+3Nb0
- 彼女を抱きしめてやる。
両腕とも、ぎこちない動作でだけど、彼女を起こしてやる。
ξ Д )ξ「ほら、帰るんでしょう?こんなとこで寝てたら……風邪、ひいちゃうわよ……」
ヌルヌルと滑るそれを直視することなんて出来やしなかった。
彼女の口から血が溢れ出て、苦しそうに呼吸が続いている。
それは今にも途絶えそうで、聞いているだけで涙が零れてきた。
ξ。 Д )ξ「ははっ……何、何時もの事じゃない……大丈夫、ほら、大丈夫なのよ」
それは誰に対して言っているんだ?
彼女にか?それとも自分にか?
そうだ。だって毎度私達は生きてきたじゃないか。
どんな状況も切り抜けられてきたんだ。ならこんな状況だって乗り越えてやるさ。
川。 - )「ツン……ゲホッ、ツン、ツン……!」
彼女が震える手で私の頬を撫でる。
それを握り返す。
ξ。 Д )ξ「さあ、帰りましょう……かえ、り、まじょうッッ……!」
……冷たい手。
色褪せていく彼女の顔。
受け入れろっていうのか。
これを。
- 53 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 19:42:49.71 ID:gdFY+3Nb0
- 川。 - )「いやだっ……まっ、だ……ヒューッ……死にたくな、い……よ……ッッ!」
ξ。 Д )ξ「大丈夫、大丈夫よ……絶対、あんた、死なないから」
右胸を思い切り押さえつける。
止まれ。
止まれよ。
止まってくれよ。
止まれ、止まれ、止まれ、止まれ、止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ
止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ
止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ
止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ
ξ。;Д;)ξ「止まれええええええ!!止まりなさいよおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
溢れ出てくる血は止まる事は無い。
まるで決壊したダムのように、彼女の血液は流れ出ていく。
嫌だ。こんなのあんまりだ。
死ぬって言うのか。空が。我が友が。
ξ#;Д;)ξ「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だああああああっっ!!止まれよ!!止まれってばああああ!!!」
川。; -;)「ガフゥッ……うっ……うぅぅうぅっ……ヒューッ……ゲホッ……」
- 55 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 19:47:14.47 ID:gdFY+3Nb0
- ξ#;Д;)ξ「畜生畜生……!!うぅぅうううっ!!!糞っ!!!」
力の入らない右腕も、肩の撃ち抜かれた左腕も。
彼女の血を抑えることはできやしなかった。
川。; -;)「ツ……ン……」
そんな私の名を、微かな声で彼女は呼ぶ。
川。; -;)「なあ……出会えて……本当……よかったよ……」
ξ#;Д;)ξ「何を気弱な事言ってんの馬鹿!!しっかり生きなさいよ!!」
川。; -;)「ご……めん……無理っぽ……ッハァッ……だ」
ξ#;Д;)ξ「ふざけんな!!!」
彼女を抱きしめてやる。
震えている。
寒いのか?ならずっとこうしてやる。
それでお前が助かるなら、永遠でもいい。お前を抱きしめてやる。
川。; -;)「な……あ……」
ξ#;Д;)ξ「……何?」
腕の中で、彼女は私に問う。
川。; -;)「私は……良い……友達……だったか……?」
- 56 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 19:50:37.23 ID:gdFY+3Nb0
-
――川#゚ -゚)「ああそうかなら殺してやるお前なんか斬って刻んで家畜の餌にしてやる」――
――川 ゚ -゚)「それでも私達は戦わなきゃならないんだ」――
――川 ゚ -゚)「ま、一応仲間だからな。連絡くらいは取れる状態じゃなきゃ」――
――川 ゚ -゚)「だな。こいつ、これから非常に役立つかもしれん」――
――川 ゚ -゚)「お前は人間だよ」――
_,
――川 ゚ー゚)「泣くなよナイチチ。どうした?その真っ平らな胸は?どっかでおっぱい落としたか?ん?」――
――川 ゚ -゚)「死にたいならそのままでいいが、そうでなければ自分なりに鍛えてみろ」――
――川 ゚ -゚)っ「なーなー行こうよ行こうよ津出ーデートだデートー」――
――川 ゚ -゚)「……もう、いいんじゃないのか」――
――川 ゚ -゚)「……友達を危険にあわせたがる馬鹿がいるものか」――
- 59 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 19:53:28.51 ID:gdFY+3Nb0
-
馬鹿野郎が。
そんなの、訊くまでも無い事くらい、分かってるだろ。
ξ。;ー;)ξ「……当たり前でしょう、私の親友……」
川。;ー;)「……そう……か……」
- 60 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 19:56:35.75 ID:gdFY+3Nb0
- 「ありがとう」
そんな言葉が、聞こえた気がした。
川。 - )
ξ。 )ξ
彼女の頭を撫でてやる。
酷く、疲れてしまったんだね。
なら今は……お休み。
ξ。 Д )ξ「―――うぅぅっ!!!」
お前と出会えたこと。
それは本当に、大きなことで、掛け替えのない事だったよ。
ξ。;Д;)ξ「うわあああああああああああああああああああああ!!!!」
きっとずっと、仲良く居られたのに。
ずっと楽しい事や悲しい事や、色んな事を共有できただろう。
川。 - )
もう。
彼女は何も語らない。
何も聞いてくれない。
あの罵倒も、甘えたような声も。
もう聞かせてくれない。
- 62 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 20:01:26.65 ID:gdFY+3Nb0
- ξ。;Д;)ξ「うわあああああああああああああああああああああ!!!!」
死んだんだ。
私の友達、直 空は、今。
ξ。;Д;)ξ「空!!空ううううううううううう!!!!」
どれだけ呼んだって、戻ってきてくれる筈が無い。
分かっている。分かっているさ。
何時かはこうなる日が来る事くらい、覚悟はしていたさ。
分かっている。分かっているんだよ。
でもこんなのってあんまりだ。
何故だ、何故彼女が死ななきゃならないんだ。
ζ( ー *ζ「うふっ……ふふっ……っふふふっ!!」
私は頭を上げる。
彼女を殺した奴を、睨みつける。
ζ(;∀;*ζ「良ぃぃいいいいいぃいいいいいわっ!!!!最っ高よ!!!!!
やっぱり彼女が適任だった!!ああっ!!なんて素晴らしい『死』なのかしら!!
なんて美しい!!名作と謳われる美術品でも到底かなわないくらい最高!!」
そいつは興奮していた。恍惚の笑みを浮かべ。
あまりにも感動した為か涙すら流していた。
- 64 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 20:04:46.79 ID:gdFY+3Nb0
- ζ(;∀;*ζ「やっぱりこうじゃなきゃいけないのよ……!!『死』の『美』を引き立てるのはやはり『愛』!!
なんて美しいの……最早言葉で現わす事すら無粋だわっ……!!」
ξ。 )ξ「……お前、まさか……端から……」
……思い出す。奴の言葉を。
空を利用する目的があったと、そう言っていたな。
つまりはそういうことなのだな。
お前はこうなる事を知っていたな。そうしようと考えていたんだな。
私の目の前で。
親友を。
殺す算段だったんだな。
ζ(ぅー゚*ζ「正解よ、お姉ちゃんっ!!あーっ……久し振りに良質な『死』を見れたー……」
そうか。
そうなのか。
ζ(゚- ゚*ζ「――!」
私は立ちあがる。
身体の痛みも、傷も、全てかなぐり捨てて。
血が吹き出る。目の前が霞む。
だがどうした。だからどうした。
- 66 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 20:08:30.01 ID:gdFY+3Nb0
- ξ。 )ξ「許さない」
胸の中にドス黒い炎が渦巻く。
それは殺意。それは憎悪。
抱いてはいけない相手なのに。
だが私の胸中でそれは燃え盛る。
ζ(゚- ゚*ζ「……馬鹿なお姉ちゃん……もう、意識を保ってる事すら奇跡なのに」
だからどうした。
ξ 听)ξ「許さない」
それは今迄抱いた事のないものだった。
自分が自分じゃ無くなるような、そんな感じがした。
一歩、踏み出す。
ぴしゃりと私と空の混ざった血が滴る。
ζ(゚- ゚*ζ「……はぁ……本当、世話の焼ける」
また一歩、踏み出す。
ぐらりと視界が揺れた。
だが止まらない。止まれない。
ξ 听)ξ「許さないわよ、零」
ζ(゚- ゚*ζ「いいよ。別に」
- 68 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 20:11:05.25 ID:gdFY+3Nb0
- がっ、と足場を蹴り、彼女は私に向けて駆けだす。
それを微動だにせず待ち構える。
今の私に何が出来るか?
はっきり言おう。何もできやしない。
ただただ向かい来る彼女を睨みつける事くらいしかできやしない。
だがそれでもいい。
零だけは……こいつだけは許してはならない。
ξ 听)ξ「……空」
匕首を、腰から引き抜く。
彼女が私に接触した時。
その瞬間が最後のチャンスだ。
恐らく、両者ともタダでは済まない。
そもそも上手くいくとも限らない。
だが相討ち覚悟で挑まなければ、私はそこでゲームオーバーだ。
きっと彼女の手中に収められ、永遠の闇を生きる事になる。
ξ 听)ξ「少し、待っててね」
心のどこかで。
もういいのだと、そう、思っていたのだ。
- 69 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 20:14:39.89 ID:gdFY+3Nb0
- きっと死んでしまっても良いのだ、私は。
もう、空っぽなんだ、今の私は。
無二の親友を殺され、妹は狂っていて。
何処に救いがあるのだろう。
分かりゃしなかった。
もう、疲れたんだ。
こんなにボロボロになっても、何故戦い続けなきゃいけない。
ξ 听)ξ(……終わりにしましょう)
だからこれで終わらせよう。
零。お前を冥土へと共に連れてってやる。
そしてあっちでお前を散々苛め抜いて、百年以上謝り続けさせてやる。
そうしたらきっと空だって腹の虫が治まるさ。
ζ(゚- ゚*ζ「本当、悪い子」
彼女が急接近する。
その瞬間を見抜き、私は匕首を――
- 70 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 20:17:17.04 ID:gdFY+3Nb0
-
「させねーお」
- 72 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 20:18:58.03 ID:gdFY+3Nb0
-
――ああ。
お前。
ξ )ξ「……お前……本当、何時も何時も……」
何でだよ。
何で今なんだ。
- 73 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 20:21:05.41 ID:gdFY+3Nb0
-
( ω^)
内藤。
- 75 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 20:24:51.27 ID:gdFY+3Nb0
- ζ(゚- ゚;ζ「――!!」
刃の群れ――ペティナイフの群れ――が私と彼女の間を通過していく。
それはまるで刃の嵐で、私と彼女の距離を広げるには十分だった。
ζ(゚ー゚;ζ「来た……来たのね!!」
コツコツと、そいつは歩いてくる。
振り返らなくても分かる。お前以外誰がいる。
お前以外誰があんな優しい声色で喋る。
ζ(゚ー゚*ζ「っ……あら……いやでもまあ、そりゃ当然、そういう結果になるわよねえ……」
ξ 听)ξ「……?」
零が内藤を見た瞬間、残念そうにそう言う。
何がどういう事なのかと、私は振り返る。
ξ 听)ξ「内――」
――其処に立っていたのは。
右肩を肺の直上まで切り裂かれ、今にも千切れ落ちそうな右腕を抱え、
全身を血で染め、足取りも覚束無い、ボロボロの内藤がいた。
ξ;゚听)ξ「――あんた!!」
……ふざけるなよ、馬鹿野郎。
お前、これ、もう、もう……!!
- 77 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 20:27:06.71 ID:gdFY+3Nb0
- ( ω^)「大丈夫だお、津出さん」
そう言って、内藤は左手で私の頭をぽんぽんと撫でた。
その手は震えに震えていた。
顔を見やれば、右目の焦点が合っていない。
ξ。 )ξ「……何で皆……そんなにまでなって戦うのよ……!!」
お前も死んでしまうのか。空のように。
私を残して死んでしまうつもりなのか。
お前、血、止まっていないじゃないか。
お前、もう、限界をとうの昔に超えているじゃないか。
( ω^)「……大丈夫だお」
そう言ってから、内藤は地に横たわる空を見つめる。
( ω^)「……ああ、そうか……そうなのかお」
そう言って、彼は覚束無い足取りで彼女の下まで歩いていった。
誰も、何も、できなかった。
零はやはり、その様子を歓喜の目で見つめている。
( ω^)「……本当、馬鹿がお……死ぬ奴があるかお……」
空の頬を撫でてやる。
内藤は……その温もりを、確かに感じていた。
- 78 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 20:29:41.46 ID:gdFY+3Nb0
- 零が唐突に私達に問いかける。
ζ(゚ー゚*ζ「貴方はどうするの?内藤さん。此処まで来たと言う事はあの『躯』を倒したと言う事よね。
凄い事だわ。これで貴方は間違いなく『最強』の名にふさわしい」
けれども、と続ける。
ζ(゚ー゚*ζ「そんな身体で何が出来るのかしらね?むしろここまで来れたことに驚きだけれども。
今のあなた相手なら私でも出来る。私でも勝てる」
( ω^)「……ごちゃごちゃうっせーお阿婆擦れ……今空と話してんだから」
ζ(゚- ゚*ζ「っ……言うじゃない」
零の言葉に、内藤は耳を傾ける事もしなかった。
まるで愛おしい娘にするように、内藤は空の頬を撫で続ける。
( ω^)「……よく頑張ったお。お前なりに、津出さんを守ろうとしてきたんだろうお……?
僕や、仲間を裏切ってまで……それはお、空。称賛されるべき事なんだお。
僕は嬉しい。お前が最後の最後まで、誰かの為に戦ってくれた事が。僕は、何よりも」
だから。
( ω^)「もう、お休み。疲れたろう……今度、また会いに行くお。そしたら、また一緒に馬鹿しようお」
- 79 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 20:33:24.94 ID:gdFY+3Nb0
- そして内藤は立ちあがる。
( ω^)「……津出さん」
ξ゚听)ξ「…………」
言わなくたって分かっているさ。
そうだ。そうに決まっている。
私達はそう言う存在だ。
( ω^)「津出 零。お前に対する機関からの審議結果を告げてやるお」
内藤は左手の親指を、地へと向ける。
( ω^)p「死だ。死刑だ。お前には煉獄すら生ぬるい。果てなき永遠を彷徨え、鬼違い」
内藤が、ペティナイフを取り出す。
私は匕首を構える。
ζ(゚- ゚*ζ「本っ当にさあ……私を見くびり過ぎなんじゃないの?」
零は頭をかきながらそう吐き捨てる。
ζ(゚- ゚*ζ「雑魚が一匹増えた所で、私の勝利は揺るぎやしない。
お前も殺してあげるわよ、内藤平助」
そして零も拳銃を構える。
- 80 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 20:37:29.43 ID:gdFY+3Nb0
- ( ω^)
ξ゚听)ξ
これが、最後の戦いだ。
私は内藤を見つめる。
内藤は私を見つめる。
お互いボロボロだった。
内藤まで酷くは無いが、私、これでも四肢全て破壊されてるんだけどな。
それでもまだ尚戦えって言うんだから、本当、鬼だ、お前は。
( ω^)「言ったお?腕がへし折れようと、足が消し飛ぼうと、内臓をバラされようと、それでも戦えお。
戦って戦って戦って、そして生きろ、ってお」
ξ゚听)ξ「おーおー、本当、お師匠様は鬼だよ。それも最低最悪の」
成程。私が相討ちを狙っていたのは、見透かされていたわけか。
生きろ、か。
何とも無責任な事を言いやがる。
それがどれだけ難しいことか分かってるのかよ。
( ω^)「だからこそ生物ってのは、すげーんだお」
ξ゚听)ξ「……まったくもって――ね!!」
- 82 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 20:41:15.33 ID:gdFY+3Nb0
-
――世界は狂ってなんていない。
――狂っている人も、本当は居ないんだ。
- 83 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 20:44:25.29 ID:gdFY+3Nb0
- ただ、皆分からないだけで。
何が正しくて、何が間違っているのか、判断できなかっただけで。
そもそもその定義をどう定めると言うのか?
一体誰の言う通りにすればいいのか?
そんなの誰にも分からない事だ。
だから皆、自分を主張したがる。
私も、内藤も、空も、零も。
其々が其々、自分の中に確固たるものを抱いていたんだ。
譲れないもの。護りたいもの。
それは必ず誰しもが持っている筈なんだ。
そしてその確固たる意志を、譲れないものを、護りたいものを奪い去ろうとする奴が何時か現れる。
それは必ずだ。
それに対してどうする?一体どうすればいい?
その答えは『戦う』だ。
闘争こそが己を正当化するための手段だ。確立するための手段だ。
全身全霊を以ってして戦い、勝った者こそが正しいと証明される。
それこそが生きる事で、生きる事こそが闘争なんだ。
- 84 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 20:48:36.91 ID:gdFY+3Nb0
- 負ける事は許されない。
それは己だけじゃない、己の信仰した全てを否定されることになるのだから。
ならばどうなってでも戦い、勝つ。
例え地べたを這いずり回り、血反吐を啜り、四肢をもがれ、内臓をかき出されようとも。
声を失い、光を失い、仲間を失おうとも。
一歩、前へ。
一歩、未来へ。
踏み出すんだ。後ずさってはならない。
目の前にのみ活路はある。目の前にのみ未来があるのだから。
踏み出せ、その一歩を。
その心を刃に変え、握りしめろ。
信じろ。自分を。そして叫び散らせ。
己こそが正しいのだと喚き散らすんだ。明日を渇望し、夜に泣け。
ξ# )ξ(勝 つ ん だ よ ! !)
死んでいってしまった人々の為。
そして何よりも自分自身の為に。
私は、内藤は、立ち向かうんだ!!
- 87 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 20:51:35.48 ID:gdFY+3Nb0
- ζ(゚ー゚#ζ「はああああああっっ!!」
駆けだす零に対し、内藤が接近を仕掛ける。
その動きは見ていて痛々しい程に、目茶苦茶だった。
彼は今では、その左足だけで動いている。
恐らく、もう右半身は使い物にならないのだろう。
それを理解した途端、目尻から熱い物が込み上げてくる。
だがそれを強く瞬くことで掻き消す。
ζ(゚ー゚#ζ「無理よ!!」
零が弾丸を内藤に目掛けて射出する。
それを彼は本当にギリギリの所で回避していく。
ζ(゚ー゚#ζ「滑稽だわ!!これが最強!?これがあの『躯』を倒したですって!?」
空になったクリップを内藤目がけて投げつけるのと同時に、飛躍。
そのままの勢いで、内藤の顔面に蹴りを入れた。
意表を突かれた内藤はそれを素直に受け入れてしまう。
鈍い音は響けども、呻き声の一つも上がる事は無かった。
( ω^)「黙れ」
ζ(゚ー゚;ζ「なっ!?」
そしてその光景は一つの奇跡にすら思えた。
内藤は掴んでいたのだ。その左腕で、彼女の足首を。
- 89 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 20:55:51.31 ID:gdFY+3Nb0
- ( ω^)「ぉぉぉおおおおおおっっ!!!」
そのまま振り上げ、地面へと叩きつける。
が、それに威力はさして無かったようで、零は受け身を取ると即座に距離を置いた。
ζ(゚ー゚;ζ「……何て生き物なの、貴方」
流石の零も驚きを隠せないのだろう。
そりゃそうだ。だって私ですら驚いている。
有り得ないだろう。普通。
それを精神論や根性だ何だで説明できてしまったなら、彼は途方も無くイかれた存在になってしまう。
( ω^)「人間だお。それも極めて頑丈で力が人より少し強いだけの、お」
ふらふらと、彼は零に向き直ってそう答えた。
急な運動の為か、肩の傷が裂け、血飛沫が軽く上がる。
ξ# )ξ「侮ってんじゃないわよ、零」
そして私も踏み出す。
一歩、一歩と。
歩く度に撃たれた個所から血が吹き出る。
何発か、弾丸がまだ体内に残っているようで、軽く気持ち悪さを覚えた。
ξ# )ξ「まだ戦いは始まったばかりなのよ」
- 91 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 20:59:17.82 ID:gdFY+3Nb0
- ζ(゚ー゚;ζ「……お姉ちゃんまで……何なのよ、あんた達……!」
それは純粋な殺意だった。
私と内藤から溢れ出る、ドス黒く、灼熱に燃え盛る殺意。
研ぎ澄まされ、究極につきつめてしまえば、それは死の体現だった。
死と隣り合わせにある今だから分かる。これこそ火事場の馬鹿力って奴だ。
ζ(゚ー゚;ζ「――このおおおおおお!!!!」
零は駆けだす。私へと目掛けて。
それを私は匕首を構えて見据える。
ζ(゚ー゚#ζ「いい加減にしなさいよ!!!!」
彼女の拳が私の頬を撃ち抜く。
だが私は崩れない。
足を踏ん張って立ち続けて見せる。
ζ(゚ー #ζ「――がぁぁあああああああああああああ!!!!」
そして私に叩き込まれたのは後ろ回し蹴りだった。
ξ; )ξ「――かっ――ぁっ――」
……成程。お前、手、抜いてたのか。
驚いたぞ。まさかこれほどに力があったとはな。
- 93 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 21:03:01.62 ID:gdFY+3Nb0
- 鳩尾に叩き込まれる。
次いで、どこぞの骨がビキリと痛んだ。アバラか。
そのまま勢いをつけて私は入口まで吹きとんでいく。
ζ(゚ー゚#ζ「――もういい。手加減無しよ」
そう言うと、彼女は懐からもう一丁拳銃を引き抜く。
ζ(゚ー゚#ζ「そこで跪いてろ、殺人鬼(スプラッター)」
そう言って、迷うことなく彼女の弾丸は射出される。
その弾丸は内藤の両膝を撃ち抜く。
( ω^)「――おぉっ――」
だが、内藤は狂い続けていた。
両膝を撃ち抜かれたのに、彼は片膝をつき、立ち上がろうとする。
ξ; )ξ「内……藤……」
そうか、それがお前の言っていた戦闘人間のなれの果て何だな。
何て。
ξ; )ξ(なんて美しい……)
- 95 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 21:07:06.35 ID:gdFY+3Nb0
- 私もああなれたのだろうか。
今となっては、分からないな。
必死で立ちあがろうとする内藤を無視して、零は私へと歩みを進める。
こつこつと足を鳴らし、闇夜に燃える真っ赤なドレスを翻して。
ζ(゚ー゚#ζ「馬鹿よ。二人とも。いいえ、皆馬鹿だわ。本当、救いようのない程愚かだわ。
絶対的な力を前に、瀕死の状態で尚立ち向かおうとするだなんて」
ガン、と彼女のヒールが私の左肩の傷口に食い込む。
ξ; 皿 )ξ「いぎいっ!!」
ζ(゚ー゚#ζ「ねえ、おいたがすぎると、本当に四肢もぐわよ?」
そう言って彼女は私の顔を持ち上げる。
( ω^)「――貴、様」
内藤が、血塗れのまま地を這いこちらへと向かってくる。
ξ; )ξ「……内藤」
……もう、いい。いいよ。
お前、もう、無理だよ。
ξ;凵G)ξ「お願いだから……もう、大丈夫だから……!」
- 96 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 21:10:28.81 ID:gdFY+3Nb0
- 今のお前を見たくなんて無かった。
あの最強最悪の殺人鬼のそんな姿を、見たくなかった。
何が美しいだ。今のあいつは、もう、死ぬ間近なんだぞ。
なのに何故だ。何故お前は尚も動き続ける。
ξ;凵G)ξ「もういいよおおおおお!!もう休んでよおおおおおおおお!!」
色々な感情が心の中を駆け巡っていく。
悲しみや、怨みや、怒りや、苦しみ。
それらが頭の中まで支配していく。
そして内藤の姿を直視した時、私の涙は止め処なく溢れた。
ξ;凵G)ξ「嫌だよおおおおおおおお!!もう死なないでよおおおおおおおお!!
もういいよおおおおおおお!!もう動かないでよおおおおおおおお!!!!」
お前まで失ってしまうと言うのか。
もう嫌だ。
もう懲り懲りだ。
これ以上あの悲しみを知ってしまったら。
もう私は私で居られなくなってしまう。
きっと壊れるだろう。
際限なく、心は破壊されて、そして永遠の闇に生きる事になるだろう。
- 98 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 21:13:08.10 ID:gdFY+3Nb0
- ( ω^)「うっせーお」
だが内藤は這いずり、尚も動き続けた。
自身の流れる血を厭わずに。
( ω^)「何時だって何だって。師匠が、ヒーローが、弟子を救えない、人を救えないなんてあっちゃならないんだお」
ξ;凵G)ξ「だからってっ……!!」
(# ω^)「黙れ!!」
がぎり、と内藤が奥歯を噛み砕き、立ち上がった。
血煙りをあげ、色々な音を立てながら。
( ω^)「……今。助けてやる」
ごつり、ごつりと。
彼は歩いてくる。
私と零に向かって。
ζ( ー #ζ「本っ当に……!!」
そして零は向き直る。内藤に対して。
その両の手に拳銃を構えて。
ζ(゚ー゚#ζ「この大馬鹿野郎が!!!!」
- 99 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 21:15:49.62 ID:gdFY+3Nb0
- トリガーに指がかかる。
内藤はその歩みを止めぬまま。
ξ;凵G)ξ「嫌だ」
全てがスローモーションになる。
あの時と同じだ。空の時と。
決するのだ。何かが。
それが良くも悪くも。
けどきっと、私は涙を流す結果になるんだ。
ζ(゚ー゚#ζ「死ね」
指が動く音がする。
撃鉄の動く音がする。
死が動く音がする。
ξ;凵G)ξ「嫌だああああああああああああああああああああ!!!!」
- 101 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 21:18:22.62 ID:gdFY+3Nb0
-
「そうか。ならばボクが終わらせてやる」
- 104 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 21:20:50.37 ID:gdFY+3Nb0
-
( ω^)「――――」
ζ(゚ー゚;ζ「――――」
ξ;凵G)ξ「――――」
全ては一瞬の出来事だった。
そいつはやってきた。全身に狂気を纏って。
腕に日本刀を括りつけてきたそいつは、殺人鬼。
闇夜に狂気に輝く瞳を浮かべ。
その口元は歪み笑み。
悲痛な傷跡がその少女の顔を穢す。
(# ;;-゚)「終わらせてやる。この下らない戦を」
- 108 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 21:22:48.77 ID:gdFY+3Nb0
- 銃身を、その刃が細切れにしていく。
内藤が動く。最後の力を振り絞って。
零が咄嗟に『屍』から飛退く。
だが後方から内藤が最後の力を振り絞って叩き込む。『当て身』を。
鈍い音が響き、零が呻き声を上げる。
全てがスローモーションで、全てが終わりを告げようとしていた。
ξ )ξ
私は匕首を構える。
狙う先には討つべき敵。
風も無く、今、全てが止まって見えていた。
左手を構える。血が吹き出る。
そう言えば、私の飛刀って、当たった例が無かったっけかな。
けど。
ξ )ξ「終わりよ」
- 110 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 21:25:01.56 ID:gdFY+3Nb0
- 闇夜を切り裂いていく。
血の香る空気を切り裂いていく。
それは駆け抜ける。
早く、速く、疾く。
銀の軌道を描き、それは迫っていく。
打つべき敵へと。
ζ( ー ;ζ
我が最愛の妹の左胸へと。
- 111 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 21:26:31.23 ID:gdFY+3Nb0
-
戦いは終わりを告げた。
肉の突き刺さる音と、血の飛沫の下に。
- 114 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 21:29:54.90 ID:gdFY+3Nb0
- ξ )ξ「……馬鹿よ、あんたは」
血の池を作る彼女の下へと歩みより、私は頬を撫でてやる。
ζ( ー ;ζ「……つくづく、運いいよね、お姉ちゃん。昔っからさ」
ξ )ξ「……奇跡すら勝ち取るわよ、私はね」
虚ろになりゆく零の瞳を見つめる。
その手を握りしめてやる。
ζ( ー ;ζ「……覚えてる?昔の事」
ξ )ξ「……思い出したわよ、昔の事」
ζ( ー ;ζ「幸せだったんだ。今までずっと」
ξ )ξ「後悔の繰り返しだったんだ。ずっと」
ζ( ー ;ζ「二人でならきっと、永遠に幸せになれると思ってたんだけどなあ……」
ξ )ξ「……全ては私が罪で、罰だったのよ。この現状に至ったのも、全て。
過去から逃げ出した私は、この戦に終止符を打つべく、今こうして生き続けてきたってことよ」
ζ( ー ;ζ「……馬鹿だったのかな?私」
ξ。 )ξ「……馬鹿よ。大馬鹿野郎」
- 117 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 21:32:41.91 ID:gdFY+3Nb0
- ざりざりと、『屍』が内藤を引き摺りながらこっちまで歩んできた。
ζ( ー ;ζ「いい様だわ。これで良い気分であの世へ逝ける」
( ω^)「……あの世ですら、お前は殺戮を繰り広げそうだおね」
ζ( ー ;ζ「それが叶うのならば喜んでやるわよ」
( ω^)「そうかお。なら、その時は僕が殺してやる」
ζ( ー ;ζ「あっそ……」
ふう、と零は息を吐いた。
広がる夜空。いやに輝く月。
どうにも今日は、忘れたくても忘れる事が出来そうにない。
ζ( ー ;ζ「ねえ、お姉ちゃん」
ξ。 )ξ「何よ」
そして彼女の鼓動が静かになっていく。
どくどくと、血が流れた分、脈拍は減っていく。
ζ( ー ;ζ「愛してる」
そう言って彼女は私に口付た。
- 119 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 21:35:04.19 ID:gdFY+3Nb0
- 真っ赤な口紅をつけて、私は息を引き取った最愛の妹を見つめる。
ξ。 )ξ「……馬鹿……野郎がッッ……!!」
もう、涙は出し尽くしたと思っていたんだけれども。
やっぱり、出てしまった。
(# ;;-゚)「……悲しいのか、お前は」
『屍』が、不思議そうに、理解できないと言いたげにそう訊ねた。
その問いに対して、私は何も言えなかった。
( ω^)「……横堀。少し、そこに下ろしてくれるかお」
(# ;;-゚)「……命令するな」
とは言うものの、彼女は内藤の言う事を直に聞いた。
私の隣に内藤は胡坐をかいて座ると、ふいに私にその左手を差し出した。
( ω^)「ほい」
ξ。 )ξ「……?」
( ω^)「握手、してくれないかお」
言われて、何を言ってるんだと思いつつも、痛いのを我慢して左手を差し出す。
( ω^)「ありがとうお。左手ですまんけど」
- 120 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 21:38:54.11 ID:gdFY+3Nb0
- 内藤の手は、思ったよりも小さかった。
そして歳には似つかわしくないほど、硬くて、ゴワゴワで、痛んでいた。
その無数に刻まれた古傷こそが、彼の歴史だ。
その手に掴んだ物も、落としてきた物も、その傷が全てを物語っていた。
( ω^)「津出さん。いい手をしてるお」
ξ。 )ξ「良い……手……?」
( ω^)「だおだお。小さくて、華奢で、すべすべしてて、つるつるで。
けど温かい、優しい手をしているんだお」
……内藤。
( ω^)「時には必要な事だお。その身を修羅と化し、心を鬼にする事は。
けれどね、津出さん。君は忘れてはいけない。君自身のあり方を」
ξ。;凵G)ξ「ない……どぉおおおっ……!」
ぽん、と頭を撫でられる。
分かっている。分かっているんだ。
でも、嫌だ。嫌なんだよ。
( ω^)「君は、誰かを愛する事が出来る。誰かを許す事が出来る。そして護る事すらできる。
それは凄い事なんだお、津出さん。誰にでもできる事じゃない。
だから君は、心の奥底まで、僕のようになんてなっちゃいけない」
- 123 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 21:42:28.01 ID:gdFY+3Nb0
- 何を言っているんだ。
お前を私はどれだけ見てきたと思っているんだ。
お前は、お前は本当はとても優しくて。
とても脆く、弱くて。
大人ぶって見えるけど、本当は子供で。
ξ。;凵G)ξ「いやだよおおぉぉぉぉ……」
内藤に抱きつく。
酷く冷たかった。
今にもその熱が途絶えてしまいそうで。
( ω^)「……横堀」
(# ;;- )「……結局。お前は嘘つきなんじゃないか。何が手を掴む事は出来る、だ。お前はもう、もう……」
( ω^)「約束、してくれないかお」
(# ;;-゚)「……約、束……?」
( ω^)「……この子を、助けてやってくれ」
(# ;;-゚)「……何を」
( ω^)「……この子は、津出鶴子は……きっと、お前にとって掛け替えのない存在になるからお……」
- 127 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 21:44:32.55 ID:gdFY+3Nb0
-
ぐっと、内藤の体が硬くなった。
ふいに、夜空が白け始める。
空には紫色の雲が伸びていて、東の空が燃えるように赤く染まり始める。
( ω^)「……ああ、ったく……」
内藤が空を見上げた。
- 128 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 21:45:11.14 ID:gdFY+3Nb0
-
( ω )「良い……人生……だったお……」
- 132 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 21:47:33.42 ID:gdFY+3Nb0
-
遠くの空から、ヘリのプロペラ音が無数に響き始める。
全てが今、終わりを告げたのだ。
戦の終わりが。
- 133 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 21:49:26.60 ID:gdFY+3Nb0
-
ξ。;Д;)ξ「うわあああああぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
朝焼けに私の慟哭は響き続ける。
何時までも。
何時までも。
終
- 138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/10/15(土) 21:51:23.70 ID:gdFY+3Nb0
-
エピローグ
- 141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/10/15(土) 21:53:13.94 ID:gdFY+3Nb0
- ミ,,゚Д゚彡-~「…………」
月日は流れに流れた。
あの大殺戮から、もう半年程過ぎた。
今でもまだその傷跡は癒えず、あの街は未だに封鎖されたままである。
(´・ω・`)「……凄いな、これは」
あの事件は、大規模なテロとして、報道される結果となった。
誰もがそれに疑問をあげたが、しかしそうと発表しておいた方が世の為人の為って奴だ。
死者は凡そ一千名に渡り、負傷者も含めれば二千にまで膨れ上がる。
とても非凡な数だ。こんな馬鹿げた数字を叩き出すなんて、あり得ちゃならない。
ノパ听)「おおおおおいい、生きてるかあああああ?」
あの後、明朝五時に自衛隊、並びに特殊部隊が動き出し、
生存者の保護やら鬼違いの駆除に付き合ってもらった。
何もかも対応が遅すぎたのだ。
その全ての元凶は、今ここに居るのだが……。
ミ,,゚Д゚彡-~「……派手にやってくれたもんだ」
俺達『国解機関』は今日この日、上層部との合同会合がある予定であった。
何故予定だったのか?
- 144 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 21:55:59.93 ID:gdFY+3Nb0
- ( ゚∋゚)「とても病み上がりとは思えないまでの破壊の限りだな、これは」
それはその会合を、役員共を目茶苦茶に破壊して行った奴がいるからだ。
会議室の中はまさに嵐の後だった。
机は吹き飛び、椅子は砕け散り、スーツを着込んだおっさん共は誰一人としてまともな状態では無かった。
流石に死んではいないようだが、これでは全員即入院、絶対安静コースだろう。
咥えていたゴールデンバットを吐き出す。
(・∀ ・)「津出、強くなったなー」
(`・ω・´)「しかし逆に胸がすっとしたな。よくやった」
こいつ等は、と呆れはしたが、俺も内心胸がすっとしていた。
ミ,,゚Д゚彡(……津出さん)
彼女のその後の処分について語ろう。
結果から言えば、彼女は現状のままだ。
あの大戦争の後、多大な負傷を負った彼女はこの半年間、ずっと病院で安静に暮らし続けてきた。
しかしあの怪我で生きているのだから、末恐ろしい話だ。
ミ,,゚Д゚彡(内藤の訓練の賜物、かな)
- 147 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 21:58:35.04 ID:gdFY+3Nb0
- 晴れて退院となった今日、ようやく彼女は待ち望んでいた事を実行できたのだ。
何度も何度も「あのハゲ共ぶっ飛ばす。絶対ぶっ飛ばす」と呻いていたからな。
彼女もようやく胸が楽になっただろう。
(・∀ ・)「で、どうすんだー?布佐さんー」
o川*゚ー゚)o「私お腹すいたよー」
斎藤が倒れているおっさんを突きながらそう訊ね、優がぼやく。
ミ,,゚Д゚彡「そうだな……」
まあ、しばらくは。
ミ,,゚Д゚彡「酒、飲むか!」
平和に過ごしていたい、な。
最も、俺達にそんな日は来るわけ無いんだろうが。
- 149 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 22:01:18.76 ID:gdFY+3Nb0
- ξ*゚听)ξ「ああああああすっきりした!!」
私は夕暮れの何処とも知れないビルの屋上で、横たわってそう叫んだ。
現在、日本の首都頭狂。
この街で私はずっと入院生活を送る羽目になり、長らく色々な物が募りに募りまくっていた。
やはり上の奴等は腐りに腐っていた。
誰もが己を守る事に必死で、罪を、間違いを認めようとする事も無く。
それが私の怒りに拍車をかける事になった。
結果的に予想よりも派手に暴れ尽くしてしまった。
しかし半年ぶりに思い切り身体を動かしてみると、何と鈍っていることか。
全盛期ならもっとなあ……と思うも、まあこれから取り戻していけばいいかと一人結論付ける。
ξ*゚听)ξ「ね、あんたもそう思うでしょ?でい」
ふと、私は隣に座っている少女にそう訊いた。
(#゚;;-゚)「……さあね」
それにそっけなく彼女は返す。
_,
ξ*゚听)ξ「あっいかわらず素っ気ないわねー……少しは可愛げってもんをねぇ」
(#-;;-゚)-3「……お前は相変わらず喧しいよ、津出」
- 151 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 22:04:15.77 ID:gdFY+3Nb0
- 横堀でい。
嘗て日本を震撼させた恐るべき存在だ。
その余りある殺意を撒き散らし、己の道程を血で染め上げ、屍の山を積み上げてきた女だ。
しかしそんな彼女は今では『国解機関』にその身を置いている。
そう言えば加入希望を布佐さんに告げた時、あのおっさんったらすっごい驚いてたっけか。
ちなみに彼女も絶対安静の身で、私と同室で一緒に入院していたのだった。
しかしよくもあの怪我で腕が治ったもんだ。まあ私の身体も完全回復したんだけれどね!
ξ゚听)ξ「あ、メール来てる」
そんな噂をしているものだからか、おっさんからメールが届いていた。
「バーで飲み会してるから来い」
なんとも素っ気ないメールだこと。
こりゃ女性にモテやしんだろうな、なんて笑ってやる。
ξ゚听)ξ「さーて、でい、行くわよ」
立ち上がる。
体に異常は特には無い。
ただ、やはりまだどこか気だるさがあるのは事実だった。
まあ、すぐに取り戻すさ。
- 153 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 22:06:51.29 ID:gdFY+3Nb0
- (#゚;;-゚)「……津出」
ふいに彼女が私に声をかけた。
(#゚;;-゚)「ボクは、まだよく分からない。人との接し方や、人との生き方って言うのが」
ξ゚听)ξ「…………」
(# ;;- )「……正直、此処にいる事が許されるのかも……」
そんな事を俯いて言うものだから。
ξ゚听)ξていや!」
(;゚;;-゚)「ぅあっ!?」
オラオラー イヒャイイヒャイ
ξ゚听)ξつ<゚-;;゚;)
彼女の頬を抓ってやる。
(;゚;;-゚)「なっ、いきなり何を……」
ξ゚听)ξ「……んなこと、考えなくったっていいのよ」
(;゚;;-゚)「え……」
- 154 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 22:09:46.62 ID:gdFY+3Nb0
-
世界は真っ赤に染め上がる。
それは綺麗な夕日だった。
こんなにも世界は綺麗なんだ。
何処かで人が死に、殺されていようとも。
それでも世界は輝いている。
ξ゚听)ξ「ただ、生きなさいよ。楽しみなさい。人生を。そして生き続ける限り、償いを込めて戦いなさい」
(#゚;;-゚)「……津出」
さあ、行きましょう、と。
私の声が弾む。
でいがそんな様子を見て、呆れながらも着いてくる。
- 156 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 22:12:30.31 ID:gdFY+3Nb0
- 内藤。
空。
零。
私、今も生きているよ。
こうして生きている。
ってことは、やっぱりまだ戦い続けなきゃいけないんだ。
それを私は拒む事はしないよ。
それは自分で選んだ事だから。
零。今までありがとう。
空。さようなら。
内藤。
ξ゚听)ξ「…………」
- 158 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 22:14:45.12 ID:gdFY+3Nb0
-
真っ赤な空を見上げている。
笑っている。笑わなくちゃ。
あいつがそうしたように。
私も笑わなくちゃいけないんだ。
- 160 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 22:16:25.86 ID:gdFY+3Nb0
-
(#゚;;-゚)「……津出」
ふいにでいが私に話しかけてくる。
(#゚;;-゚)「……何か、内藤みたいだな」
ははっ。
内藤みたい、か。
そりゃそうだ。
だって殺人鬼は――
- 161 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 22:19:05.10 ID:gdFY+3Nb0
-
ξ*^ー^)ξ「微笑むのよっ!」
- 162 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/10/15(土) 22:19:31.56 ID:gdFY+3Nb0
-
ξ゚听)ξ殺人鬼は微笑むようです
完
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