ξ゚听)ξ殺人鬼は微笑むようです

1 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 21:20:22.39 ID:2zlA92og0
何かが終わる様は美しい。

花は散るから美しいのだ。

ならば生命が終わる様も当然美しい。

何かが終わる様は愛しく、切なく、そして可憐だ。

3 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 21:23:40.40 ID:2zlA92og0
 
 
二 其の一
 
 
4 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 21:25:50.21 ID:2zlA92og0
私、津出鶴子ことツンは、目出度くも鬼違いなどという訳の分からない存在であることを、
つい先日、彼の殺人鬼の御仁である内藤と、同じく私の同種である直という奴から教えられた。

ξ゚听)ξ「あ、yarimanman新刊出てたんだ」

ξ゚听)ξ「あー、この子いいなー、羨ましい体系……主に胸が」

何でも私はその鬼違いの中でも風変りのようで、どうやら私は極度の緊張感とやらを求めているらしい。

鬼違いと言うのは、一種の殺人鬼の仲間のようなものだ。
とは言っても、それぞれは決して殺す事を目的としているのではなく、殺す事を手段として用いるのであり、
本来の目的は、その前後の物を求めているのだ。

例えば、人肉を喰らう奴だとか、指を持ち去る奴だとか、頭爆発させるだとか……。
要は、殺して初めて手に入るものが多い。

けれども稀に、人殺しを手段とする必要がない鬼違いもいるという。
鬼違いという異端のカテゴリーの、そのまたもっと異端の部類に、私と直は属する。

5 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 21:28:30.99 ID:2zlA92og0
( <●><●>)「三百四十五円が一点、二百七円が一点……」

ξ゚听)ξ(ついつい晩御飯とハーゲンダッツまで買っちゃった)

直は生物が死ぬ瞬間を見ることが目的だという。
正直、これって人を殺す動機としては凄く……現代的です……。
しかし奴は未だに人を殺した事が無いそうだ。

その理由が内藤だと言う。
内藤との出会いの話は聞いてみたいと思ってはいるのだが、毎度半殺しにされるので最早諦めた。

何故直は、殺す必要がないのかと言うと。
内藤は殺人鬼――語弊が生じる?いや立派な殺人鬼ですから――だから、直は内藤と行動していれば
勝手に内藤が鬼違いを殺すから、直自らが態々殺人など犯す必要がないのだと言う。

( <●><●>)「ありがとうございましたー」

……しっかし、何だかんだで私も大分理解できてきたぜ。
あの事件――食人事件――から一週間経った今、改めて思う。

ξ゚听)ξ(順応の早い人間っていうのよね、こういうのは)

6 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 21:31:46.40 ID:2zlA92og0
まあ、まさかこんな事になるとは思わなかったけれども?
まさか自分の正体が殺人鬼の仲間だとは思わなかったけれども?
まさか自分の目的がかなりマゾヒスト的なものだと思わなかったけれども?

ともかく。

ξ*゚听)ξノ「生きてるからどうでもいいや〜」

そう。
正直、未だに生きてるのも驚きなくらいだけど、もう済んだ事だし、ね。
直の奴はこれからもちょくちょく関わる事があるかも、なんて言ってたけど。

ξ゚听)ξ(シラネ。早く晩御飯食べよーっと)

いやもう関係ないっす。自分、無関係っす。
だってそんなさ、関わるって言ったって、どうしろっていうのよ。
自分何もできませんし。つーかする気ないですし。

内藤の奴も、あれからは度々点数が云々ほざいてるけど、その他では何も言ってこない。
つまり。

ξ゚听)ξ(自由なのよ。私は今――)

7 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 21:33:56.10 ID:2zlA92og0
ξ*゚听)ξノ「自由なのよおおおおおおおおおおお!!」

ドガアン、と自宅の扉を蹴り開けて叫ぶ。
あらやだ、私ったらはしたない。

ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃん!御近所さんに迷惑かかるから、静かにして!」
  _,
ξ゚ 3゚)ξ「えー?レーイーの意地悪ー」

ζ(゚ー゚*ζ「そんな某池沼姉の真似してもダメ!」

居間に入ると、そこには零がご飯を準備して待っていた。
それより、今何かとんでもない数の人間を敵に回すような発言をしましたよね、零さん?

ζ(゚ー゚*ζ「ほら、もう晩御飯とっくにできてるから、早く食べよう?」

ξ゚听)ξ「ああ、晩御飯要らないや。さっき買ってきたから」

――瞬間、鶴子に電撃走る。

ξ;゚听)ξ(こ、これは、まさか)

9 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 21:36:10.19 ID:2zlA92og0
ζ(゚- ゚ ζ「……え?」

先の発言を聞いて、妹の顔が険しくなる。
これは、どう考えても地雷を踏んでしまったようだ。

ξ;゚听)ξ「あ、ああ、その、ほら、零?たまには、ね?中食もいいかな〜ってさ?」

ζ(゚- ゚ ζ「……ふうん」

な、何だ、この子……。
普段と比べてなんかとてもサディスティックな感じが……。

ζ(゚- ゚ ζ「つまり、私のごはんなんか、食べたくないんだ」

ξ;゚听)ξ「え?いや、すみませんどうしてそう飛躍するのか理解できないのですが」

こう言うとき、本当、女って面倒臭いなあと思う。
自分も女だけどさ、居るじゃん、こういう、なんていうか粘着質なの。
そりゃ可愛いとは思うよ。一生懸命なのはよく分かるし、折角作ってくれた物を食べないなんて酷い話だと思う。

いや、ですけれどもね、零さんよ。
ならこの買った弁当はどうしろと。
つーかそろそろそこ通してくれないと、ハーゲンダッツが溶けるんだけども。

11 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 21:38:47.03 ID:2zlA92og0
ζ(゚- ゚ ζ「何その態度?何でそんな偉そうなの?」

ξ゚听)ξ「……は?いや、じゃあこの弁当どうしろっていうの?」

ζ(゚- ゚ ζ「今そんな話してないじゃん」

ξ゚听)ξ「いや、だからさ、私が悪いよ、うん、ごめんね」

ζ(゚- ゚ ζ「ねえだから何でそんな偉そうなの?ちっとも誠意ないじゃない」

ξ#゚听)ξ「はあ?あんた何そんな怒ってんの?」

段々こっちまで腹立ってきた。
いや、うん、可笑しいのは私だけどさ。
けどそこまで意固地にならなくてもいいじゃない。
そこはさ、そう、分かった、でも今度から何か買ってくる時は連絡の一つは入れてね、くらいで済ませろよと。

ζ(゚- ゚ ζ「怒ってんのはお姉ちゃんじゃん」

ξ#゚听)ξ「いやあんたもでしょうが。何?どうしてほしいの?」

ζ(゚- ゚ ζ「……っ」

今度は黙りやがったよ。

12 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 21:41:00.16 ID:2zlA92og0
……まあ。
正直今の発言は無神経すぎたと言うか、酷過ぎると言うか。
分かっちゃいるけど、中々難しいものですよ、人間関係。

ζ( - ζ「もう知らないっ」

零はそれだけ残すと、居間を出て、自分の部屋に閉じこもった。

ξ#゚听)ξ「……なによ」

私が一方的に悪いわけじゃないし。
零も悪いんだ。何もあんな言い方しなくてもいいのに。

ξ#゚皿゚)ξ「がー!ふはふふー!!!!(あー!ムカつくー!)」

買ってきた弁当を、かっ食らう。
温め?いいえ必要ありません。
何せ私の体たるや、今や湧き上がる怒りのあまり口の中に入ったものは全て
味も分からず、温度も分からぬまま胃へと落ちていくのですから。

ξ#゚听)ξ「っぶふぁ」

はー、食った食った。
……でも、まだ治まらないわね。

ξ゚听)ξ「あ、そう言えば」

13 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 21:44:01.65 ID:2zlA92og0
そうだそうだ、そう言えば私はハーゲンダッツを買っていたではないか。
こりゃいいね、うん。
これさえ食べれば零の件もチャラにできるね。

ξ*゚听)ξ「リッチミルク、ええのう主はええのう」

ガサゴソとコンビニのビニル袋を漁り、中からハーゲンダッツを取り出す。
蓋に手をかけ、私は勢いよくそれを外そうと――

ξ゚听)ξ「……トプン?」

――して手を止めた。
……何だ今の液体の入った容器を傾けた時のような音は。
中で液体が動くような音は。

あ、そう言えばまだ七月だ。
学校が夏休みに入るまであと二週間、ああ待ち遠しいね夏休み。
しっかし、今年は例年に比べて暑いんだよね。
今日なんか特に暑くて、さっきも夜だっていうのに汗だくで帰宅してきたし――

ξ )ξつ ペリペリ

蓋を開け、無言でパンドラの箱を解放する。

15 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 21:46:53.90 ID:2zlA92og0
そこには白の大海が広がっていた。
まるで全てを包み込むようなホワイト。
芳しく、艶やかで気品漂うミルクの香り。
私はその白の池へと、スプーンを突っ込んだ。

パチャン。

ξ )ξ

掬う。
可笑しなことにこのアイス、液体である。
虚しくスプーンから零れおちる雫は再び大海へと戻って行った。

ξ#゚听)ξ「糞があああああああああああああああああああ!!」

もうやってらんねえ。

17 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 21:49:59.60 ID:2zlA92og0
そんな事があり、私はいつもよりも一層不機嫌なオーラを纏って教室に入る。

あの日以来、取り巻きの不良共は私に近づかなくなっていた。
お陰でこの一週間、快適なスクールライフを送らせてもらい、私は少しばかり気が楽になった気がした。
そしてそれは今日も変わらず。
不良共と同じく、教室でも誰からも近寄られない存在となってしまったが、それでも今はそんな状態がありがたかった。

ξ#゚听)ξ「ふんっ!」

ガン、と鞄を机に叩きつけると、私は勢いよく椅子に腰かける。
周りの連中は私と視線を合わせまいと徹底していた。

( ^ω^)「横暴な態度、減点、と」

ξ#゚听)ξ「やかましい!!」

この、内藤を除いて。

教室では――いや、学校では最早知らないものは居ない。
なんとこの不良少女である私と、あの空気の内藤が仲良さそうにしている風景が、今や日常になった。
おまけに。

川 ゚ -゚)「津出さん、女の子がそんな言葉を使ってはだめだよ」

この性悪女、直の奴も、何故かその輪の中に居る。
……お前に言われたくねーよ。

19 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 21:52:09.90 ID:2zlA92og0
あの日、一週間前から、内藤と直は私によくちょっかいを出すようになった。
最初は誰もが妙なものでも見るような眼差しで私たちを観察していたが、
私が一暴れすると以降は誰も何も言わなくなったし、視線を向けることもなくなった。
注目されるのは御免だ。
おまけにこんな奴らと仲良くしているとは思われたくない。
けどまあ、皆はこの二人の本性も正体も知らないから、珍しいな程度にしか思っていないのだろうが。

ξ#゚听)ξ(私が納得いかないわよ!!)

何度でも言おう。
私はこいつ等と仲良くしていると思われたくない。
何故かって?
だってこの人たち私を殺そうとしたんですよ?
分かります?普通、あり得ませんよね?
だって理由はどうあれ、自分に殺意を向けてるような奴らと仲良くなれます?
いいえなれません。少なくとも私はお断りです。

まあ、今じゃそれも保留となっているけれども。
……死の宣告は受けてるけどもね。
それでも毎日監視めいたものだとか、評価めいたものをされるのは気に食わない。

ξ#゚听)ξ(けど逆らえません!だって二人ともつおいもん!)

21 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 21:54:32.86 ID:2zlA92og0
かたや鬼違いを殺して回っている、正義のヒーローめいた殺人鬼の内藤。
かたや校内では一番の人気を誇る美少女、しかし実態は何とも恐ろしい目的を持った鬼違いの直。

前者を敵に回したらまず殺される。終わる。
後者を敵に回してらまず学校生活が終わる。そして直に殺される。終わる。

ξ;凵G)ξ「私苦労人だなー」

(^ω^ )「何泣いてるんだおこの人」

川 ゚ -゚)「落ちてる沢庵でも食べてあたったんじゃないか?」

ξ;凵G)ξ「死ねばいいのに」

それでも、一応この二人は私を対等の立場で会話するのを許している――いや初めからそうだったけど。
だから何だって感じだけど。

( ^ω^)「それより津出さん」

ξ#゚听)ξ「……何よ」

べ、別に照れ隠しとか何かじゃないんだからね!
内に秘めるこいつへの想いは憎悪と殺意だけなんだからね!

22 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 21:56:53.21 ID:2zlA92og0
( ^ω^)「昼休み、図書館来てくれるかお?」

そう言って殺人鬼は微笑む。

さて、一気に時は流れた。
だって特に授業中の事で書くべきことなんてないし、いつもと変わりのない時間だったし。
私は回らない頭を必死で動かし、やれパントテン酸だアミノカルボニル反応だ、
訳の分からない単語をノートに書き殴る。
内藤の奴も、珍しく起きてノートに写していた。

あ、それ既に珍しいじゃん。
内藤が起きているなんてそれこそ珍しいの一言に尽きる。
何故なら奴は普段、夜中は鬼違いを殺し回っているから、ろくに睡眠をとれていない。

ξ゚听)ξ(……あれ?)

鬼違い。
そう言えば、ここ一週間は事件が起きていなかった気がする。
あの日からは毎日テレビニュースを見るよう心がけていたし、
とってあったことすら知らない新聞を見てみたり、インターネットでニュースブログを見て回ったりしている。
ところがここ最近は何も無いようだった。

書いてあることといったらやれ某動物園のパンダに子供が生まれただとか、
巨大イカが陸に打ち上げられていただとかそんな他愛もないものばかりだった。

24 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 21:59:01.23 ID:2zlA92og0
ξ゚听)ξ「よっと」

ガララ、と戸をあける。
昼休みの図書室は、意外と人は少なかった。
というか、居なかった。

ξ゚听)ξ「…………?」

いや、内藤と直の奴は既に席に居たのだが、他に誰も居ないのだ。

( ^ω^)「遅いお」

川 ゚ -゚)「察しろよ内藤。こいつは食当たりでずっとトイレに籠ってたんだから」

ξ#゚听)ξ「なわけねーだろ!」

内藤と直は隣り合って座っていたから、私は二人の正面に座る。

ξ゚听)ξ(しっかし)

こうしてみると、やっぱりこの二人、付き合っているように見える。
なんか意外としっくりきていると言うか、様になると言うか。

25 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:01:10.43 ID:2zlA92og0
ξ゚听)ξ「と、ところで、誰もいないわね」

見つめていたら、二人に怪訝な顔をされたので咄嗟にそう言う。

私自身、図書室に来たことなんて学校案内の時の一度きりしかない。
けれども、やっぱり読書好きな人とか、図書委員の人間くらいは居ると思うのだが。

ξ゚听)ξ「見事に誰もいないわよね」

( ^ω^)「あー、そりゃそうだお」

と、内藤が自分のこめかみに人差し指を押し付ける。

( ^ω^)「今、プレッシャー放出してるんだお。そう強くはないけど」

ξ;゚听)ξ「え?」

と言われても、私はそんなもの、全然感じなかったんだが。

( ^ω^)「慣れたんじゃないかお?」

ξ;゚听)ξ「何で」

川 ゚ -゚)「……気づいてなかったのか?」

28 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:03:44.33 ID:2zlA92og0
と、直の奴が言う。
待て、何だその言い方。

川 ゚ -゚)「本当に気づいてなかったのか、目出度い奴だな。やっぱり馬鹿だ」

ξ#゚听)ξ(あああああムカツクムカツクムカツクムカツク!!)

直の奴は私を見下し、鼻で笑いやがる。
こ、この糞尼!なんてー性格してやがる!

( ^ω^)「ここのところ、僕と津出さん、よく話したりしてたおね?」

ええ、そりゃもう毎日ちょっかい出されていましたがね。

( ^ω^)「実はその度、毎回君にプレッシャーをかけてたんだお」

ξ;゚听)ξ「……え?」

(;^ω^)「……まさか、感じてなかったのかお?」

ξ;゚听)ξ「う、うん」

いや、今教えられても全然しっくりこない。
だって、何も感じていなかったし。

30 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:05:52.93 ID:2zlA92og0
(;^ω^)「どういうことだお……」

奴が困惑の表情を作る。
もしかして、私、何かやってしまったか?
死への道へ一歩踏み出してしまったのか?

( ^ω^)「んー……まあいいお」

ξ;--)ξ-3(セーフ……)

しかし、どうしてまた、何故にwhy?

ξ゚听)ξ「どうして毎日私にプレッシャーを与えていたの?」

そう言うと、内藤はにこりと微笑んだ。

( ^ω^)「言ったお。もう君は、無関係ではないと」

ドクンと胸が高鳴った。

( ^ω^)「君には悪いけれど、もう君は僕の指示通りに従ってもらわなきゃいけないお」

じゃないと、処分しなきゃいけない。
そう、奴は続けた。

33 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:08:01.48 ID:2zlA92og0
( ^ω^)「詳しい話は追々説明するけど、まあ大切な話だし、誰にも聞かれたくないから人払いの意も
      あって、こうして今もプレッシャーを放出して皆が近寄りがたい空間にしてるんだお。
      君は既に慣れてるから気にならないだろうけども――津出さん」

ξ;゚听)ξ「……何よ」

( ^ω^)「確かに君や空は、人を殺さなくてもいい存在だお」

だけれど、と奴は続けた。

( ^ω^)「残念だけど、君たちを野放しにはできないお。既に君の事は機関にも報告済み。
      実のところ空だって僕が保護・監視しているようなもんだお」

ξ;゚听)ξ「……マジで?」

( ^ω^)「マジマジ。鬼違いであるのには変わりないお。事件を起こしているわけではないけど、
      それでも一応危険な存在だお」

……なるほどね。
前に内藤と直の奴が言っていたことが、ようやく理解できてきた。

確かに、その強大な機関だか組織だかいうのが、みすみす鬼違いを逃すわけないだろう。
例えそれが偶然で発見されて、それも危害を加えるとは言い難い存在だとしても、それが
鬼違いという種であるのには変わりないわけだから、保護・監視するのには頷ける。
私が殺人を犯すとは断じて思えないが、空なんかいい例だ。
奴はいくら安全な鬼違いだからと言っても、その実、奴は内藤がいるから殺さずに済んでいる
ようなものだ。

34 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:10:21.61 ID:2zlA92og0
まあ、危害を加えていないのは事実のようだが、何か起こそうものなら即抹殺されるんだろうな。
そう言う意味でも、手元に置いておいた方が楽なんだろう。

川;゚ -゚)「……意外だ。よもやこいつがここまで考えが及ぶようになるとは、とても想像が出来ん。まだ二話目だぞ」

ξ#゚听)ξ「あんた本当失礼ね」

川;゚ -゚)「一体何を食ったんだ?」

ξ#゚听)ξノ「転がすぞゴルァ!」

( ^ω^)「落ち着けお。話が進まないお」

……こいつ、シリアスに戻しおった。
自称シリアスブレイカーを誇るこの私を前に、やりおるぞ!

( ^ω^)「まあ、君の考えている通り、君はこの組織に入ってもらわなきゃならんお」

ξ;゚听)ξ「なーんか話が進むにつれて現実離れしていくわね……」

( ^ω^)「仕方ないお。普通の人には想像もできない世界だお」

で、と奴が身を乗り出した。

36 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:12:33.67 ID:2zlA92og0
( ^ω^)「まず君にいくつか話さなきゃいけないことと渡す物があるんだけど」

ガサゴソと奴が鞄の中を漁り、何かの用紙を引っ張りだした。

( ^ω^)「この紙に氏名、住所、電話番号……とりあえず個人情報全部書いてくれお」

目の前に何やら薄く黄色がかった、高級そうな用紙を突きつけられる。
難しい漢字がいっぱい並んでいるが、とりあえず書いてある指示通りに筆を走らせる。

( ^ω^)「書けたかお?」

ξ;゚听)ξ「もう諦めたけど、なんか思惑通りに話を進められてるのがなあ……書けたよ」

( ^ω^)「じゃ、最後に下のとこに血判を」

ξ゚听)ξ「え?けつぱん?」

けつぱん?ケツパン?
何それ。イヤラシイ響き。
もしや、お尻にパンツを挟んで、それを添えろってこと?

ξ#゚听)ξ「人をおちょくるな!!」

川 ゚ -゚)「お前本当馬鹿だよな」

38 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:14:54.82 ID:2zlA92og0
川 ゚ -゚)「血判っていうのはな、誓詞などに、背かない意を示すため、指先から血を出して署名の下に押すことだ」

ξ゚听)ξ「へー、そうなんだ。あんたは物知りね……え……」

……え?
何、もう一回言ってくれる?

川 ゚ -゚)「だから、指先から血を出して署名の下に押すことだ」

血?血って血?
傷口から出るヘモグロビンやら血漿やらとにかくあの赤い血?

( ^ω^)「はい人差し指出してー」

ちょ、内藤さん、その右手に構えてるペティナイフなんすか。
お、おい!直!お前何しやがる!その腕を放せ!

川 ゚ -゚)「じっとしててくださーい」

おわあああ指固定されとるがな!
あ、待って!お願い待って!痛くしないで!

ξ*゚听)ξ「お・ね・が・い☆」

( ^ω^)「おりゃ」
 
 
いってえええええええええええええええ!!!!!!

40 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:17:05.63 ID:2zlA92og0
 
 
二 其の二
 
 
43 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:19:47.72 ID:2zlA92og0
兎に角、私は書類に印を押し、この時点で仮に組織に加入したことになったそうだ。
全然実感はわかないけれども。

( ^ω^)「そんな泣くなお。綺麗に斬ってあるからあと少しすれば皮膚はくっつくお」

ξ;凵G)ξ「肉体的な傷は癒えるのは早いけど精神的な傷は時間がかかるのよ!」

ものっそい速度で切られると熱いんだね。私初めて知りました。

( ^ω^)「で、早速なんだけどお」

こいつ、人を傷つけておいてそれか!
しかもこんな可憐でか弱い女の子を!

( ^ω^)「鬼違いが出たお」

川 ゚ -゚)「しかもまた此処」

……なんですと?

ξ;゚听)ξ「え?嘘だあ、だってここしばらくニュースとか見てるけどそんなの全然」

44 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:22:13.46 ID:2zlA92og0
川 ゚ -゚)「報道規制っていうものがあってな」

ξ;゚听)ξ「ほうどうきせい?」

川 ゚ -゚)「おお、やはり進化したなお前。よく読めた」

( ^ω^)「マスコミが行なおうとする事実報道に関して、別の分野からストップがかかることだお。
      報道協定に基づいてマスコミが自主的に行なうものと、当局などからの政治的圧力によるものとがあるんだけども」

川 ゚ -゚)「実際、鬼違いの事件でもあまりにも過激すぎる物や連続して事件が起きた場合はこのようなことが起きる」

成程、確かに。
内容があまりにも恐ろしいものだったら、それが報道されるとなると、人々に危機感を与えるだけではなく、
逆に過剰な恐怖心を与えることになる。
おまけにそんなものが毎日続いてると知ったら、どうなるというのか。
そもそも、内藤がほぼ毎日どこぞへでかけている時点で、明らかにされていない事件が多い事が窺える。

川 ゚ -゚)「今迄に比べたら異常なまでに事件の発生率は上がっているが、それが日常となると別だがね」

( ^ω^)「お陰で感覚もおかしくなってきたお。むしろ一週間何も起きていなかっただけ平和と言わざるをえないお」

45 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:24:40.88 ID:2zlA92og0
ここでギャップが生じるんだから、私はまだ正常に近いんだろう。
やはり、内藤はほぼ毎日殺し続け、そして素直はそれをずっと見ているんだ。
私にはそれが想像できない。
それに発生率で言ったら異常も異常だ。

一体、何人の人間が、消えていったのだろう。
鬼違いも、被害者も含めて。
そのうち日本人全滅なんてことが起きるかもしれないぞ。

( ^ω^)「それで、今回の事件なんだけども」

と言って、内藤が自分の目を指す。

( ^ω^)「右目を、持ち去っているんだお」

ξ;゚听)ξ「め、目?」

と聞いて、そういえば似た事件があったことを思い出す。
そう、指切り事件だ。
あの犯人も、死体からいずれかの指を持ち去っていた。

川 ゚ -゚)「実のところ珍しくはないんだ。そう言った犯行は」

47 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:26:58.81 ID:2zlA92og0
( ^ω^)「津出さん、歴史上の鬼違いの事件、詳しいかお?」

ξ;゚听)ξ「い、いえ、まったく」

というか、歴史上、って。
そんなに前から存在しているのか、鬼違いは?

( ^ω^)「まあ、往々にしてそういう類の奴等はサイコキラーだとかシリアルキラーと呼ばれて存在していたお」

川 ゚ -゚)「例えば有名なエド・ゲインなんかは、人間の死体を使って、ランプシェイドやブレスレットを作ったことで知られていて、
     アメリカの殺人史を代表する1人だ」

( ^ω^)「奴の目的は死体から物を作る、というものだったお。
      わざわざ墓場を荒らしてまで死体を収集したり、鬼違いらしいっちゃ鬼違いらしいお」

川 ゚ -゚)「挙げればきりがないが、少なくともそう言った奴等は鬼違いだ」

……なんとまあ。
鬼違いが昔から存在していたのにも驚きだが、そのエド・ゲインだかいうのにも驚いた。
自分も一応鬼違いではあるが、死体から物を作る、だなんて。
いやはや全く理解できない。

48 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:29:12.49 ID:2zlA92og0
川 ゚ -゚)「な。自分の目的っていうか意識は理解できるのに、何故か他の鬼違いのやろうとすることは理解できないよな」

うんうんと直が頷く。
ええまったくもってね。
あの欝田ドクオの時もそうだが、何故人肉を喰らうなんて発想に行き当たったのか。
そもそも何故太りたがっていたのかも理解できない。女の敵め。

( ^ω^)「まあ人が完全に他人を理解するのは難しいお」

御尤もで。

( ^ω^)「それに、理解する必要もないお」

どうせ殺すんだし。
奴のその一言が、あまりにも無慈悲に感じた。

( ^ω^)「大まかに今回の事件の概要を説明するお」

内藤の奴が、直にあれを、と言った。
うわ、格好いい!私も一度それ言ってみたい!
直君、あれを出し給え。
畏まりました、津出様。

ξ*゚听)ξ(げへげへげへ!そんであんなことやこんなことを!普段の仕返しにこき使って恥さらさせて!)

川 ゚ -゚)(キモイなあこいつ)

49 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:33:00.23 ID:2zlA92og0
( ^ω^)「まず、今北町の、線路脇だお」

直が取り出した地図に、内藤の奴が指を置く。
結構真新しいように見えるが、しかし地図には内藤が書き込んだと思われるメモや印などで、
ほとんどが赤インクで見えずらくなっていた。

ξ゚听)ξ「今北って……美歩町のすぐ隣じゃない」

以外にも、現場はかなり近かった。
今現在居る美歩高校とも、そして実家とも。

( ^ω^)「被害者は女性、死因は腹部を刺され、出血死。この時点で右目が死体から無くなっていたため、
      鬼違いの犯行であると予測されていたお」

で、と続ける。

( ^ω^)「次は、今北の西よりで、犯行現場は路地裏。同じく被害者は女性で、右目無し。
      この時点で鬼違いと断定、僕のもとへ依頼が来たお」

今度は西へ移動。また美歩町に近づいた。

( ^ω^)「で、現在は三件確認されているお。最後の現場は今北の東よりで住宅街の変哲もない道路。
      やはり同じく被害者は女性だお」

52 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:35:49.64 ID:2zlA92og0
ξ゚听)ξ「三件……」

果たして、これを多いとみるか少ないとみるか。
ここで私の人間性が試される。
はっきり言えば、人が三人、死んでいる。
国内、いや世界的に見れば微々たる数かもしれない。
だが現場は地元だ。こんな片田舎の街で、三人が死んでいる。

ξ゚听)ξ「……多いわn」

川 ゚ -゚)「何だ、少ないな」

もう嫌だこの女。

( ^ω^)「でもこれ、連日起きてるんだお」

毎日、毎日?僕等は鉄板の?

ξ゚听)ξ「うえでやかーれてー」

川 ゚ -゚)「ほう、結構大胆な奴だな」

( ^ω^)「単に馬鹿なだけかもしれないお」

54 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:37:58.48 ID:2zlA92og0
無視されたのはさておき、殺人は毎日起きていた。

ξ゚听)ξ「何で馬鹿なの?」

川 ゚ -゚)「ただでさえ目立つ犯行だ。その上犯人は現場を選ばないように見える」

( ^ω^)「まず一件目。現場は人の通りが多い駅のすぐ付近で行われているお。これはアウト」

川 ゚ -゚)「二件目は比較的見つかりにくい路地裏だ」

だが、と直は呟いた。

川 ゚ -゚)「三件目。ここもアウトだ」
  _,
ξ゚听)ξ「?」

( ^ω^)「いいかお。犯人は、民家の付近で犯行を犯したんだお。これがどれだけリスキーか分かるかお」

そう言われてようやくはっとした。
そうか、人目に付きやすいような場所で人を殺そうものなら、
声を聞かれていたり、姿を見られている可能性が高くなるんだ。

55 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:40:13.95 ID:2zlA92og0
川 ゚ -゚)「憶測するに、こいつはビビってるか、正真正銘の馬鹿か、捕まらないと自負してるようなうんこだ」

( ^ω^)「たまに居るんだおね、こういう奴。目的だけが先走って状況判断できなかったり後の事を考えない奴」

ξ゚听)ξ「つまり、計画的じゃないってこと?」

川 ゚ -゚)「そうだ。一、二、三件。これらを分けるとすると分かりやすい、分かりにくい、分かりやすい現場になる」

( ^ω^)「犯人は現場を選ばない。たぶん、獲物と定めたらその場で仕留めるお」

少し分かりにくいので、欝田ドクオと比較してみる。

ドクオの場合は、対象を選ばない。それこそ老若男女、好き嫌いせず食べた。
奴が犯行に用いる場所は、自分で見て回った限り、どこも見つかりにくい場所だ。
一件目の美歩大橋は、初犯だからか分かりやすい場所だったが。
しかし以降はほとんどが入り組んだ場所だったり、閉鎖した場所であったり、
注目してみなければ分かりにくい場所だった。
犯行も不定期だから、犯行日を特定するのが難しい。
まあ、一般ブロガーに、よく晴れた夜に事件が起きると見破られていたが。

対して、今回の鬼違いの場合。
犯人は、所構わずそれらしい獲物を見つけたら、その場で殺して目的の右目を奪って逃走する。
場所は二件目以外はとてもリスクの大きい場所だ。
そして連日人を殺している、というのは過剰な自信の表れと、無防備であることの表れだ。
その上犯人は女性しか襲っていない。
ここから予想できるのは、犯人の鬼違いは弱そうな人間しか襲わないと言うことだろうか?

57 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:42:24.49 ID:2zlA92og0
( ^ω^)「いい感じに頭が回ってきてるおね。ずばりそんな感じだお」

川 ゚ -゚)「なあ、お前マジで何食ったんだ?」

ξ#゚听)ξ「いい加減しつこい!」

ま、そんなところだお、と内藤が〆る。

( ^ω^)「で、津出さん」

と、内藤が何やらまた紙をよこしてきた。
そこに書かれているのは何個かの数字。

( ^ω^)「上のが僕の携帯の電話番号。下のが空のだお」

ξ;゚听)ξ「……え?」

川 ゚ -゚)「ま、一応仲間だからな。連絡くらいは取れる状態じゃなきゃ」

皆さん、私、津出鶴子は妙に感動しております。
何でって、だって、すっごい人間らしいことしてるんですもの。
分かります?
目の前にいるのは殺人鬼と鬼違いっていう、特殊な生物なんですよ。
それが!携帯の番号を!私に!

58 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:45:10.32 ID:2zlA92og0
( ^ω^)「別行動取ってて敵に襲われたりした時とか、すぐに連絡飛ばせて便利だお?」

……はい?

川 ゚ -゚)「ま、別に死んでもいいけど、私が着くまで何とか足止めくらいにはなれよ?」

……え?

ξ;゚听)ξ「あ、あの、え?」

( ^ω^)「じゃあ、本題に入るお」

ほ、本題?ちょ、え?
さっきのが本題じゃないの?
つーか連絡先って、何で襲われ……え?

( ^ω^)「この事件の各現場から推測して、犯人は次にここ美歩町、今北町、三業町の何れかに現れると思われるお」

ξ;゚听)ξ「ちょ、あの」

( ^ω^)「そこで、どの可能性も捨てきることはできないから、僕も含めて三人其々が指定地域で犯人を捜すんだお」

59 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:47:20.61 ID:2zlA92og0
犯人を捜す?
え?今三人って言いました?

川 ゚ -゚)「あ、私産業な」

( ^ω^)「はいはい、クーは産業ね」

ξ;゚听)ξノ「す、すみませーん」

( ^ω^)「お?どうしたお?」

ξ;゚听)ξ「今、三人って聞こえたんですけど、それって私も含まれてます?」

( ^ω^)「当然だお」

おーい!おおおおおおおおいいいいいいいい!!
どういうことだよこれ!何で私がそんなことしなきゃいかんのだ!
私は無関係でしょうが!

( ^ω^)「おやおや、機関の人間がよく言うお」

と、内藤が先の用紙を突きつける。
その禁則事項機関の加入手続き書には、私の個人情報と血判がある。

60 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:49:41.05 ID:2zlA92og0
( ^ω^)「大丈夫だお。武器も所持させるし」

ξ;凵G)ξ「無理!絶対無理!もしも犯人に会ったらどうすんのよ!」

( ^ω^)「そんときは僕か空に連絡を入れて、僕達が到着するまで応戦するんだお」

ξ;凵G)ξ「だから無理だって!私一般人だって!」

川 ゚ -゚)「いいえ鬼違いです」

ξ(;△;ξ「そう言う事じゃなくて!!」

と、ヒステリックを起こす私の肩を、内藤が身を乗り出して、ポンと叩いた。

( ^ω^)「なーに、デッドオアアライブなんて五分五分。今ここで確実に死ぬよりかは生存率は高いお?」

そう言って奴はもう片方の手に握るペティナイフをチラつかせた。
こいつ、不良よりもよっぽど性質が悪い。

63 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:51:55.34 ID:2zlA92og0
( ^ω^)「ま、諦めるんだお。君はそう言う運命だったんだお」

泣き疲れて冷静さを取り戻した私に、奴は情けもかけずそんな事を言った。
畜生、無責任な。そもそも私をこんな境遇に陥れたのは貴様じゃボケ。

( ^ω^)「じゃ、今のうちに渡すお」

と、また内藤が鞄を漁り出す。
それが私の眼前に置かれる。

( ^ω^)「気に入ったかお?」

ξ゚听)ξ「…………」

正直、言葉を失った。
何せそれは初めて目にするものだし、触れたこともないからだ。
似たようなものでは包丁を握ったことがある程度だ。
しかし私は料理が苦手で、何時も妹に任せっぱなし。
鶏肉を切ることすら苦難だった私に、これは少々扱い辛い。

( ^ω^)「匕首だお」

短刀だった。
手に取って横から見ると、匙のような形の刃先を持っているのに気づいた。
刃渡りは凡そ二十センチ前後、全長は二十八センチほどだろうか?
柄も刀身も全て一体化された鉄の塊。
私は僅かに息を呑んだ。

64 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:54:06.28 ID:2zlA92og0
ξ゚听)ξ「…………」

言葉を無くしていた。
今、私は凶器を託された。人を殺す事の出来るものだ。
鉄の無慈悲で無機質な銀色が、私を吸い込むように見つめている。

( ^ω^)「やっぱ、腐っても鬼違いだおね」

ξ;゚听)ξ「んうぇ!?」

内藤の言葉で我に返る。

( ^ω^)「ま、気にいったようだからよしとするお」

そう言って内藤は立ち上がった。
それに続いて直も立ち上がる。

( ^ω^)「津出さんは美歩町を頼むお。八時になったら、一度僕に連絡くれお」

それじゃ、と言って内藤は去ろうとする。

ξ゚听)ξ「……ねえ、内藤」

( ^ω^)「ん?」

私は、ふと抱いた疑問を投げかけてみた。

65 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:56:15.31 ID:2zlA92og0
ξ゚听)ξ「何であんたは、牛刀だとか、ペティナイフだとか、包丁を使うの?」

私にこんなものを渡せるって言うことは、少なからずそういったちゃんとした武器を、
奴は他にも所持していると言う事だ。
にも関わらず、奴は包丁を使う。
何故だ?

( ^ω^)「ああ、その事かお」

内藤はポンと手を叩いて、ニッコリと微笑んでこう言った。

( ^ω^)「だって包丁ってそういうための物だお?」

66 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 22:58:24.87 ID:2zlA92og0
 
 
二 其の三
 
 
67 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 23:00:37.70 ID:2zlA92og0
ξ゚听)ξ「ただいまー……」

家に戻り、無人の部屋に私の声が響く。
何故無人だと分かったのかというと、玄関には妹の靴がなかったからだ。

ξ゚听)ξ(部活かしら……)

一応、私も美術部に幽霊部員として存在しているが、行ったことは一度もない。
零は、あれで水泳部で、部内でも結構優秀な存在らしい。
彼女の得意種目は何だっただろうか?

ξ゚听)ξ(そんな事も知らないのか、私)

冷蔵庫を開けて、オレンジジュースの紙パックを引っ掴む。
コップなどという物は用いず、直接口をつけて飲む。
女らしからぬ行動だが、こんなもんだ、実際の女なんて。
男が見てない所では何をしているか分かったもんじゃない。

ξ゚听)ξ(脇剃ったり毛剃ったりなんて絶対見られたく無いわ)

冷蔵庫をもう一度見る。
どれも調理を必要とする材料ばかりである。

68 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 23:02:52.39 ID:2zlA92og0
制服を脱ぎ散らかして、適当な服に着替える。

ξ゚听)ξ「はー、お腹すいたなあ」

居間のソファに倒れこみ、壁にかけてある時計を見た。
時刻、七時二十三分。
私が機関の人間として行動を起こすまで後約二十五分。
今の内に少しでも胃に物を詰めておきたいのだが。

ξ゚听)ξ「零早く帰ってきてよー」

そう言えば、何で零が家事を全部してくれることになったんだろう。
何時決めたのだろう。

昔から零はよく出来た子で、可愛くて、自慢の妹だった。
勉強もよくできたし、運動も難なくこなしたし、世間からも評判はよかった。

それに比べて私はどうだろう?
こんな、不良じみた外見で、頭もすこぶる悪くて、運動なんて走るだけで息切れするほどだ。

つくづく、零の存在が偉大だと思い知る。
きっと私は、彼女がいなかったら今頃のたれ死んでいただろうな。

と、零への感謝と尊敬の意が強まった頃、玄関の扉の開く音が聞こえた。

70 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 23:06:03.83 ID:2zlA92og0
ξ゚听)ξ「あ、零ー、ご飯ー」

居間へと彼女が無言で入ってくる。

ξ゚听)ξ「零?」

彼女は、あからさまな無視を決め込んでいた。
私を見ようともせず、直に冷蔵庫へと向かい、食材を出し始めた。

ξ゚听)ξ「お、お姉ちゃん、今日は親子丼が食べたいなあ……」

零は静かにまな板を取り出し、玉葱を刻み始めた。

ξ;゚听)ξ「れ、れいさーん」

トン、と心地よいまな板を打つ包丁の音が止んだ。

ζ(゚- ゚ ζ「私のごはんより、コンビニの方が美味しいから買ってきたら?」

……この子、まだ怒っているのか。
頭をかく。面倒くさい女だ、本当。

ξ゚听)ξ「ねえ、機嫌直してよ、悪かったって」

ζ(゚- ゚ ζ「…………」

72 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 23:09:02.78 ID:2zlA92og0
零は、その後いくら話しかけても、何も反応してくれなかった。
胸に怒りと悲しみが広がる。

ちらりと時計を見た。
七時四十五分。

ξ--)ξ-3「……私、出掛けてくるから。ご飯もいいや」

ζ(゚- ゚ ζ「…………」

ξ゚听)ξ「零」

何の操作をしているのか理解できない私だが、それでも零が調理している姿を見つめて言った。

ξ゚听)ξ「ごめんね」

ζ( - ζ「!」

零の表情は見ることはなかった。
何かを察しはしたが、私は振り返らず、家を出る。

ξ゚听)ξ「あ、やべ」

そういや、私今日死ぬかもしれないじゃん。

75 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 23:12:01.86 ID:2zlA92og0
マンションの敷地内にある公園から、私は内藤と電話のやり取りをしていた。

『どうかお、気分は』

ξ゚听)ξ「って、言われても、何とも」

緊張感の無い人だお、と内藤が呟いたのが聞こえた。

『今回は、犯人が見つかるまでずっと探し続けてもらわなきゃならんお』

ξ;゚听)ξ「は?」

『まあ今日中に見つかるとも思えないから、数日間徹夜になると思うけど、そこのところおkかお?』

ξ#゚听)ξ「よかないわよ!」

そんな、ふざけんな!
最近妙に肌荒れもしてきてるんだ、これ以上肌が荒れたらどうしてくれるんだ!

『そんなもん僕は知らないお。いいかお、これは命令なんだお。背いたらどうなるか――』

76 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 23:15:05.66 ID:2zlA92og0
くどいので切断。
ツーツーと虚しい音が耳をつくが、どうでもよかった。

ξ゚听)ξ「やってらんないわよっ」

ふざけおって。
何で私がそんなこと、しなきゃいけんのだ……。

ξ;゚听)ξ「……うぅ……」

だが、意外と体は正直なようです。
ええ、あの時と同じですよ。食人事件とね。
体が求めてるんだ、極度の緊張感を、極限状態を。
実感したくてたまらない。
またあの甘い痺れを体感したいのだ。

ξ;゚听)ξ(何か、これだけ見るとただの変態女ね……)

果たして私は変態なのか否か?
答えは次回!

ξ;゚听)ξノシ「いや全力で否定しますがな!」

答えは無い!

79 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 23:18:02.07 ID:2zlA92og0
さて、しかしどう行動しようか。
前回――食人事件――の時は、現場は私の住んでいる近くだったから、そこを回って行っただけだった。
だが今回の場合、私の持ち場では事件は発生していない。
現場はすべて今北町で起きている。
となると、怪しい場所を回ってみるのが一番なのだが……。

人ごみの多い場所。
アーケード街や如何わしい場所を回るが無理。見分けがつかない。
人の少ない場所。
住宅街や公園などを回るが無理。そもそも人の居ない場所に来るのか?

そもそも、今回は情報が少ない。
犯人の特徴すら挙がってないし。
それで犯人を見つけろなんて無理無理。
警察とか探偵とか専門の人間なら分かるかもしれないけれど、私は今を時めくピチピチギャルよ?
そんなもん、分かるわけがないでしょうが。

ξ;゚听)ξ「わっかんねえええええええええ」

結局、私はマンションの近くに戻っていた。
無駄な出費が出たなあ……通行費って請求できるのだろうか。

ξ;゚听)ξ「っつーか既に言いなりになってるぞ私!」

80 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 23:21:02.42 ID:2zlA92og0
結構私は行動派だったようである。
意外と一生懸命に探してるなあ私も。

携帯の時計で時刻を確認する。

ξ;゚听)ξ「もう九時五十分かあ」

と、突然腹の虫が鳴いた。
そう言えば、何も食べていなかったっけ。

ξ゚听)ξ(お小遣いがもうぱあだよぱあ)

ちなみにお金のやりくりまで零が見ていてくれたりする。
本当、実際零には頭が上がらない。
後で、もう一度謝らないといけないな、こりゃ。

姉らしからぬ、ってとこね。
年長者なのに訳の分からない意地はってたのは私の方だったのかも。
零を傷つけたのは私だしね。

ξ;゚听)ξ「流石にお金の事は怒られそうだけど……」

まあ、仕方があるまい。
後できっちり内藤達に請求しよう。

82 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 23:24:01.44 ID:2zlA92og0
コンビニに入り、その涼しさに癒される。
相変わらず外は暑い。
適当にサンドウィッチを数点と飲み物を買い、レジへ向かう。

( <●><●>)「二百五十二円が一点、百十五円が一点……」

ξ゚听)ξ(私もバイト始めようかなあ。家もそろそろ厳しくなってきたみたいだし)

( <●><●>)「三点で合計五百六十七円になります」

ξ゚听)ξノ「あ、千円からで」

( <●><●>)「千円のお預かりになります、四百三十三円のお返しになります」

……コンビニってどうなんだろ。
そう言えば前に不良が、コンビニは楽だし金稼げるしバイトには
もってこいと言っていた気がする。

それに、ここはマンションから近いし、よく来てるから顔馴染みの店員さんとかもいる。
他のチェーン店よりも私の好みの品ぞろえだし、いいんじゃないだろうか。

ξ゚听)ξ(後で求人雑誌でも見るかなあ)

コンビニを出るとき、ちらりと時刻を確認する。
十時丁度だった。

84 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 23:27:02.22 ID:2zlA92og0
マンションの敷地内にある公園のベンチに座って、サンドウィッチを頬張る。

ξ゚〜゚)ξ(しっかし、やっぱ見つかんないわね)

そりゃそう簡単に見つかるわけはないだろうけど。
けどこれってあんま意味無いような気がするんだよなあ。

ξ゚听)ξ「……よっ……」

スキニーパンツのベルトに挿んでおいた匕首を取り出す。
街灯の明かりを受けて鈍く輝いた。

ξ゚听)ξ「こんなの、持たされてもねえ」

犯人と出会わないとも限らない。また出会うとも限らない。
襲われたらこれで応戦しろって言われても、私は格闘技の経験もなければ喧嘩したことすらない。
ましてや、刃物の扱いなんて。

ξ゚听)ξ「ん?」

マナーモードにしていた携帯電話がポケットの中で振動する。
取り出し、画面を見ると内藤から着信が来ていた。

86 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 23:30:01.96 ID:2zlA92og0
ξ゚听)ξ「何?」

一先ず食事は終了し、私は携帯電話を耳元に当てる。
片方の手には匕首を持ち、それを色々な角度から観察する。

『どうかお?何か変わりはないかお?』

ξ゚听)ξ「そんなの分からないわよ。色々な場所を回っては見たけど、何も」

『そうかお……』

そこで一旦会話が止まる。

『変わった感じはなかったのかお?』

ξ゚听)ξ「いや、だから分かんないって」

何をそうしつこく訊いてくるんだこいつは。

『じゃあ、今何処にいるんだお?』

ξ゚听)ξ「美歩マンションの公園で食事休憩よ。文句ある?」

88 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 23:33:40.77 ID:2zlA92og0
すると、内藤は美歩マンション、美歩マンション、と呟き始めた。

『津出さん、ちょっといいかお』

と、雰囲気が変わる。

ξ゚听)ξ「……何よ」

『そこ、丁度今北町との境界線だおね?』

ξ゚听)ξ「そうね。確かにこのマンションより東は今北で、西は美歩よ」

『事件の現場のそれぞれの位置、覚えてるかお?』

ξ゚听)ξ「……?いいえ」

『まず、現場は何れも今北町で起きている。これはおkだおね?」

ξ゚听)ξ「覚えてるわよ」

『じゃあ、まず一件目だお。一件目は今北駅の線路脇で起きていたお。
 実は、この件の被害者の推定死亡時刻は十時半で、その少し前に美歩駅から今北駅、つまり
 西行きの電車が一本通ってたんだお』

90 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 23:36:05.88 ID:2zlA92og0
ドクンと胸が高鳴った。

『二件目。これは一件目よりも西より、更に美歩街に近づいていたお。
 三件目は何故か東に行ってるけれども、実はどれも死亡時刻が十時代で――』

ξ;゚听)ξ「……まさか」

ふと、視界の先、暗闇の中。
街灯に照らされてこちらに近づいてくる男の姿が見えた。

『おそらく、犯人は美歩町に居る可能性が高いお。
 まあ、もう少し離れた位置でやればいい物を――』

内藤の声が遠ざかっていく。
私は右手に握る匕首を握りしめ、ゆっくりと立ち上がった。

ξ;゚听)ξ「おいおいおいおい」

鼓動が速くなる。
いや、そんな、違うって。

『――津出さん?どうしたんだお、津出さん?』

相手の顔が見えた。

92 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 23:39:05.55 ID:2zlA92og0
( <●><●>)

ξ;゚听)ξ(さっきのコンビニの定員!)

その眼から、私は敏感に感じ取っていた。
前にも味わったことのあるもの。
そう、プレッシャーだ。それも尋常ではない者の、足が竦むほどのもの。

ξ;゚听)ξ「ない、とう」

『どうしたんだお』

それでも精いっぱい声を振り絞る。
直感した。はたまた鬼違いだから分かるのだろうか。

ξ;゚听)ξ「犯人、いた」

94 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 23:42:26.76 ID:2zlA92og0
ξ;゚听)ξ「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

とにかく私は走る。
走る走る走る走る!
何故走るかって?決まってるでしょ。

( <●><●>)「ますますますますますますますますますます」

ξ;凵G)ξ「ひいいい!!キモイよおおおお!!」

後ろから鬼違いがおっかけてきてるんですもん。
しかも某未来兵器みたいに腕と足直角にして走ってるし!
キモイ上に目が怖い。

『津出さん、大丈夫かお、津出さん』

ξ;凵G)ξ「大丈夫じゃねえよおおお!!殺されるわボケエエ!!」

『何だ、全然余裕そうじゃないかお』

ξ;凵G)ξ「ざけんなカスがあああああああ!!」

97 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 23:45:01.10 ID:2zlA92og0
チラッと背後を見る。

( <●><●>)「待って下さいよ逃げないで下さいよ話くらい聞いてくれてもいいじゃないですか」

ξ;凵G)ξ(独り言があまりにも不気味です!)

何かをブツブツと呟いている。
奴は突然、大型ナイフを取り出すと、私に襲いかかってきたのだ。
咄嗟の事に私は買った食べ物を置いて走り出す。
すると奴は追っかけてきた。

『ちゃんと指示通り、人通りの少ない場所選んでくれてるかお?』

ξ;凵G)ξ「お、おお、お前な!そんな余裕があるかバカタレ!!」

『そりゃ困るお、事後処理するのは僕じゃないけど、上が煩いからできるだけ目立たないy』

ξ;凵G)ξ「いいから早く助けろおおおおおお!!」

いいですか、皆さん。
私、鶴子は、今とんでもなく大きな声を出してると思っていますね?
いいえ、それは違います。
私、実のところ超小声で叫んでおります。
走りながら気を使うのって死ぬほど疲れるね!

109 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/06(日) 23:58:26.33 ID:2zlA92og0
『仕方がないお。津出さん、今何処だお』

ξ;凵G)ξ「え、ええと」

辺りを見渡し、視界に看板が見えた。
美歩小学校、西へ五百メートル。

ξ;凵G)ξ「び、美歩小学校の近く!」

『そこかお。うーん……』

早く!頼むから!お願いしますから!

『そこから東に、今北西公園があるから、そこに誘導してくれないかお?』

ξ;凵G)ξ「分かったそこに逃げますからなんとかしてくださいいいいいいい!!」

『ご武運を』

プツッ、ツーッ、ツーッ。

ξ;凵G)ξΣ「切れたあああああ!?」

112 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 00:00:56.65 ID:0NazITYc0
ええい、こうなったら腹くくってやる。

ξ;凵G)ξ「こ、粉糞めっ、勝負だこの鬼違い!」

( <●><●>)「何を言っているか分かりませんが望むところです」

ξ;凵G)ξ「ワイは浪速のシューマッハやー!!」

追いつかれたらそこでジ・エンド。
スーパーオーガガールツンちゃんはそこで死んでしまうのだ。
それだけはアカン、アカンで。

兎に角、私は無我夢中で走った。
右手には匕首、左手には携帯を握りしめ、死ぬ気で走った。

ξ;゚听)ξ(! 今北、西公園!)

大きな通りに出て右折。
すると、見据える先には広い敷地を誇る公園があった。

ξ;゚听)ξ「うおおおおおおお!!」

見事、公園内へと侵入。
や、やったで!ワイはやったんやー!

115 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 00:04:05.56 ID:2zlA92og0
が。

ξ;凵G)ξ(内藤の姿が見当たらねえええええええ!!)

立ち止まって辺りを見渡すが、どこにも誰もいない。
辺りは伸びきった雑草と寂れた遊具があるのみで、今しがた入ってきた入口には、
奴が、鬼違い店員が佇んでいた。

( <●><●>)「もうお終いですか」

右手の、重量感のある大型ナイフをチラつかせて、奴は近づいてくる。
私は後ずさった。
お互いの距離は数メートルを隔ててはいるが、奴が襲いかかったらお終いだ。
逃げられる場所を探す。
後方には遊具が並んでいる。却下。
前方には鬼違いが。左右を見渡すが……どちらに逃げても追い付かれるだろう。
私の体力も限界に近かった。
ああ、糞、体力つけときゃよかった。

ξ;゚听)ξ「あーあ……はぁ……はぁ」

ぺたりと地面に座り込む。
終わった終わった。ゲームオーバー。ジ・エンドだ。
逃げ場無し。打つ手無し。

117 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 00:07:05.60 ID:0NazITYc0
( <●><●>)「くりくりとした、大きくて可愛らしい目だ。お譲さん、視力はお幾つかな?」

ξ;゚听)ξ「こう見えてもコンタクトでしてね、左右とも0.4よバーカ」

すると、鬼違いは微笑む。

( <●><●>)「何、見えているだけ、いいのですよ」

だから、と奴はその大型ナイフを振りかぶる。

( <●><●>)「私に、よこしなさい」

ああ、殺されるのか。
ゆっくりと、自分に迫りくるナイフ。
きっと、あれは私の顔を斜めに大きく切り裂いていくだろう。
そしてこの鬼違いは私をめった刺しにし、右目を持ち帰るのだ。

ξ; )ξ「零、ごめん。先、逝くわ」

畜生。
最後に零のごはん、食べたかったなあ。

119 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 00:10:08.37 ID:0NazITYc0
しかし私の閉じようとした眼は、或る物を捉えた。
影だ。
それも、そいつは上空から降ってくる。
果たして私の知る限り、そんな芸当をできる人間がいただろうか?
ああ、居たな。一人。
そいつは自分を超感覚の持ち主とのたまい、戦闘の才能を持つと言った。

( <●><●>)「うおっ!?」

蹴りが、目の前の鬼違いを吹き飛ばす。
鬼違いは私の横を通り過ぎ、地面に倒れ伏した。

ξ;ー;)ξ「おっせーよ、このバーカ」

知らないうちに涙がこぼれていた。
そりゃ、誰だって泣くって。
死にかけて、助かったんだ。
もう二度と愛しの妹に会えなくなるところだったんだ。
それを喜んで何が悪い。泣いて何が悪い。

( ^ω^)「何時の時代もヒーローは遅れてやってくるもんだお」

124 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 00:13:01.37 ID:0NazITYc0
内藤という奴は、実のところ掴み所の無い奴だ。
飄々としていて、自由で、自分勝手で。
だのに、それが不思議と似あっている。

( ^ω^)「さてそこの鬼違い君」

内藤は両手に、やはり包丁を握っていた。
左手には中華包丁を、右手には剣のような包丁を握っている。

( ^ω^)「あ、この右手の奴は関東型の鰻包丁だお。よく切れるおー」

ξ;゚听)ξ「いや、知らんがな」

そんなやり取りをしていると、奴は起きあがった。

( <●><●>)「成程、真打の登場ですか」

( ^ω^)「おっおっ。そうだお」

内藤が右手の包丁を奴に向ける。

( ^ω^)「残念だけど君の相手は僕がさせてもらうお。女の子ばっかり狙いおって、この変態」

128 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 00:16:00.93 ID:0NazITYc0
( ^ω^)「一応、これも任務の一つだから聞くけど、何故こんなことをしたんだお?」

( <●><●>)「おや、貴方は理由を聞きたいのですか?」

( ^ω^)「レポート書かないといけないんだお。じゃないと先生に怒られちゃうお」

すると、鬼違いは笑いだした。
低く、気味の悪い笑い声だ。

( <●><●>)「何ですか、貴方。もしや私を課題研究の対象にでもしているんですか?」

( ^ω^)「まあ、結構君らは注目度高いお?自覚してないだろうけど」

はあ、やれやれ、と鬼違いは呟く。

( <●><●>)「私はね――」

そして、私は一瞬で理解した。
何故、こいつが右目を持ち帰るのか。
何故、右目でなくてはならないのかを。

( <○><●>)つ●「右目が義眼でしてね、見えないのですよ」

その鬼違いは、自分の指を右目に突っ込むと、眼球を取り出した。
だが神経は繋がっておらず、それが作りものであることを理解する。

129 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 00:19:08.49 ID:0NazITYc0
( ^ω^)「ほうほう。右目が義眼とな」

( <○><●>)つ●「くっ、私の右目が疼くっ!!」

( ^ω^)「微妙なネタだお」

ふうんと内藤が呟いた。

( ^ω^)「で、何故持ち去ったんだお」

内藤が、シャツの胸ポケットから何かを取り出した。
あれは、レコーダーか何かの類だろうか?
内藤が何かのボタンを押す。

( ^ω^)「あ、どうぞ」

( <○><●>)「…………」

内心、あの鬼違いもこの状況を理解できてないんだろうな。
いきなり自分を攻撃してきたうえに、理由を問いただされ。
挙句相手のペースにのせられている。

132 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 00:22:02.23 ID:0NazITYc0
( <○><●>)「私はね、元々はちゃんと右目もあったし、視力だって悪くなかったんですよ」

( ^ω^)「ほうほう」

( <○><●>)「ところが、ある日のことです」

奴の語った内容はこうだ。
ある日、奴はいつものようにバイト先へと向かっていた。
彼はお気に入りの音楽をいつもウォークマンで聴いている。
当然外界の音は遮断され、彼は音楽以外、何も聞こえてはいない。

( <○><●>)「悲劇は起こったのです」

建設中の高層ビル。
その下を彼は歩いていた。
しかし、上では些細な事故が起きていたのだ。
ボルト。金具の一つであるボルトが、地上に落ちたのだ。
高さ云十メートルの高さからその僅か数グラムの鉄の塊は落ちてくる。

( <○><●>)「何を思ったか、私はその時、空を見上げたのですよ」

きっと、天気がよかったから、空を仰ぎ見たくなったんだろう。
それが間違いだったのだ。

134 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 00:25:01.49 ID:0NazITYc0
そのボルトは、確かに小型で、持っても重さを感じることはないくらいのものだ。
だが万有引力の力が働き、それが凄まじい速度で、彼の、鬼違いの右目を貫いたのだ。

( <○><●>)「以来は義眼で過ごしてきました」

だが彼は我慢がならなかった。
それまで広く感じていた世界が狭まり、遠近感は崩れた。
慰謝料だの金などは問題じゃない。
彼は写真を趣味としていたのだ。
見える世界を納めるはずの写真すら、変わってきてしまった。

( <○><●>)「分かりますか?いいえ分からないでしょうね。世界が崩れることはとても恐ろしい事なのですよ」

そこで彼はある日思いいたったのだ。

( <○><●>)「目だ。目があれば、きっと私はまた、今まで見ていた世界を取り戻す事が出来るはずなんです」

だから奴は殺して回り、右目のみを持ち去っていった。

そこで奴は話を終える。
内藤がそれに合わせてレコーダーの停止と思わしきボタンを押した。

135 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 00:28:02.49 ID:0NazITYc0
( ^ω^)「で、見えたのかお?」

内藤が包丁を握りなおして問う。

( <○><●>)「…………」

それに奴はだんまりを決め込んだ。

川 ゚ -゚)「そりゃそうだ。神経が途切れてるんだから、眼球を詰めたって見えるわけがない」

ξ;゚听)ξ「直!?」

川 ゚ -゚)「遅れたな。内藤から連絡があったんだ」

突然、公園の入り口にそいつは現れてそう言った。

確かにその通りだ。視神経の通っていない状態では、そんなもの何の役にも立たない。
頭の悪い私でもそれくらいは分かる。

( ^ω^)「なるほどね」

けれど、と内藤が続けて、二本の包丁を構える。

137 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 00:31:02.17 ID:0NazITYc0
( ^ω^)「たかだか三人を殺したとはいえ、君を野放しにはできんお」

再び、内藤はあの晩の殺意を纏った。
月下、そこに奴は居る。
殺人鬼内藤。
そしてそれに対して、相手の鬼違いは大型のナイフを構える。

( <○><●>)「私はね、まだ死ねないのですよ。
        何れ、世界をこの目でしかと見て、それを記録に残さねばならない」

二人の獲物が、妖しく、鈍く輝く。

(#<○><●>)「貴様の目をよこせえええええええええええ!!」

駆ける。
まるであの時と同じだった。
あの時も内藤にドクオは駆けて行った。
そして、ナイフを弾かれ、刺され、バラバラに切り分けられたのだ。

ξ;゚ -゚)ξ「ゴクッ」

息を呑んだ。
今、これから目の前で人が死ぬ。
直を見た。

川*゚ -゚)「いいね、ゾクゾクするよ」

139 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 00:34:01.63 ID:0NazITYc0
鬼違いが多い。
ここには私を含め、鬼違いが三人も居る。
直は生命が散る様を見るのが目的といった。
何故そのようなものを求めるのかは理解できない。

ただ。

ξ;゚ -゚)ξ(これは――)

素直に、気持ち好かった。
張り詰めたこの緊張感、何時訪れるとも知れない死の瞬間。
今ここには、完全な極限状態がある。

( ^ω^)「ふぅっ!」

内藤が、鬼違いの横一文字の一線を、身を低くして回避。
右足は一歩踏み込み、体は右へと軽くひねっていた。

ガラ空きになっいていた。
鬼違いは、もう、隙だらけだった。

( ^ω^)「おぉっ!!」

まず、内藤の左手の中華包丁が、鬼違いの左腕を吹き飛ばす。
その瞬間に、内藤は鬼違いの足を払い、バランスを崩す。
次に、内藤の右手の包丁が、鬼違いの首を貫いた。

141 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 00:37:01.03 ID:0NazITYc0
その光景は一瞬だった。
血飛沫が上がる。内藤が包丁を引き抜くと、風が通るような音が喉から断続的に続いた後、静かに止んだ。

死んだのだ。
今、目の前で。
前に見たドクオの時よりも、さらに近くで私はそれを見た。

だのに。
私は不思議と興奮していた。

ξ; )ξ「…………」

何も言えず、右手に握る匕首を見つめる。
匕首は、まるで自分も切り刻みたいとでも言うかのように、月光の光に鈍く輝いていた。

143 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 00:40:08.65 ID:0NazITYc0
 
 
二 其の四
 
 
145 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 00:43:00.95 ID:0NazITYc0
あの犯人の名前は、若竹益男というらしい。
直の奴に渡された資料を見た限り、奴の過去の件は、本当だった。
右目は摘出。元通りには……現段階の医学では難しかったようだ。
彼はバイトの後に犯行に及んでいた。
自宅から離れた場所で行っていたのには頷けるが、もう少し遠くでやっていればよかったのに。

ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃーん!ごはんだよー!」

ξ*゚听)ξ「はーい」

ま、そんなのどうでもよかとよ。
今はね、もうね、このラブリー零タンと仲直りできたのが何よりもうれしいっちゃよ。

ζ(^ー^*ζ「はい、親子丼だよー」

ξ*^凵O)ξ「わーい零大好きー!」

あの後。
事後処理に付き合い――死体の処理のみだが――先に帰らせてもらい、家に着いたのは深夜だった。

疲れた体で扉を開け放ち、まず目に入ったのは居間に電気が灯っていることだった。

147 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 00:46:06.39 ID:0NazITYc0
そこには、零がいて、私を見るや否や泣いて謝ってきた。
ごめんねごめんねと何度も謝り、私が謝るはずだったのが、先を越されてしまった。
まあ、その日は仲直りということで姉妹仲良く同じ布団で眠り、そして今朝――現在となる。
朝から親子丼を食べて何が悪い!

ζ(゚ー゚*ζ「さ、お姉ちゃん、学校行こっ」

ξ*´凵M)ξ「はーい(零タンカワユスな〜)」

そして私は至福に包まれたまま学校へと向かった。
が。

川 ゚ -゚)「はい連行ー」

( ^ω^)「近隣の皆さん、迷惑かけてすみませんおー」

教室に着くや否や、私は直と内藤に連れ出された。

ξ;凵G)ξ(あーああもうやだこいつら)

人の平穏をどこまでぶち壊す気だ。

149 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 00:49:01.13 ID:0NazITYc0
そして連れて行かれたのはまたしても図書館だった。

ξ#゚听)ξ「で?一体何の用よ」

私は不機嫌な態度を前面に押し出す。
少しはね、人のね、気持ちをね、分かってください。
私は昨日慣れもしないことをして、慣れもしないものを見て、疲れて疲れて……

ξ#゚听)ξ「そんで零タンによおおおお!!癒されてたのによおおおおおお!!」

と、喉に何かが当たる。
いたっ。チクッとしたよ今。

川 ゚ -゚)「結構さ、首って硬いんだよ。試す?」

ξ;凵G)ξ「すみませんでしたお願いですからそのペーパーナイフ置いてください」

行ったん落ち着きを取り戻す為に深呼吸をする。

162 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 01:02:28.64 ID:0NazITYc0
( ^ω^)「うん、まあ、昨日はお疲れさんだお。君は本当によく頑張ってくれたお」

と、内藤大先生は私を褒めてくれた。
まあ、悪い気はしないけど。

川 ゚ -゚)「それは私も褒めてやろう。武術の心得もなく、知能も無い割に頑張ったようだしな」

ξ#゚听)ξ(こいつ貶してるだけじゃねーか!)

とは口には出せません。
後が怖いですからね。はい。

( ^ω^)「で、君にまたまた二つほど用件があるんだお」

今度は一体何だと言うんだ。
内藤はまたも鞄を漁り始め、紙と、何か厚みのある封筒を私の前に置く。

( ^ω^)「まず、君は正式に機関に加入したとして、この証明書を渡すお」

その紙にはどこぞで見たことのある名前が責任者と書かれていた。
木が三つって……政治家の方ですよね、この人。

167 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 01:06:27.40 ID:0NazITYc0
( ^ω^)「で、これは昨日の件の報酬だお」

ずい、と私に先の封筒が寄せられる。
報酬?

ξ゚听)ξ「あ、そうだ!私、昨日お金使いすぎちゃったからお金請求しようと思ってたんだ」

( ^ω^)「残念だけど僕等に経費なんて与えられないお」

ξ;゚听)ξ「えー、マジで……?」

けどその変わり、と言って内藤が封筒を叩く。

( ^ω^)「見てみるお」

促されて、封筒を掴み、開いてみる。

ξ;゚ v゚)ξ「……ん?」

……幻覚だろうか。
何か、紙の山が、あったような。
もう一度見る。

ξ;゚ v゚)ξ「……あの?これって?」

( ^ω^)「? だから、報酬だお」

169 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 01:09:15.28 ID:0NazITYc0
川 ゚ -゚)「まあ、昨日のはあまり危険度も高くなかったから、大した金額でもないぞ?」

( ^ω^)「だおだお。あ、中に明細入ってるから見てみるといいお」

はい。畏まりました。
明細ですね。見てみます。
封筒を開けて、紙を発見。他の紙とは色の違いと質の違いで分かるもんですよ。
ペラッとな。

ξ;゚ v゚)ξ「一、十、ひゃk……」

数え間違いでしょうか。
見たこともない数字で、私分かんない☆

川 ゚ -゚)「見せてみろよ」

と、直に奪われる。

川 ゚ -゚)「へえ三百万か。初任給にしてはまあまあじゃないか?」

( ^ω^)「そう言えば、僕も最初は五百とかそんなもんだったおー」

173 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 01:12:01.95 ID:0NazITYc0
目の前で現実離れした話が繰り広げられております。
いや、分かるよ?こんだけお金が出るのも頷けるよ?
だって死ぬかもしれないし?人殺してるし?
国が直接関与してるんだから、それくらいできるのは分かるよ?
けどさ?私一般人ですよ?いや元ですけど、まだ日が浅いですよ機関に所属して?

( ^ω^)「この間貯金が億行った時は嬉しかったおー」

川 ゚ -゚)「な、気持ちいいよな。私はまだ五千万程度だなあ」

( ^ω^)「まあ、それで好きなもの買うといいお」

ξ;゚ v゚)ξノ「ぴゃーい」

おk、分かった。慣れるよ。慣れればいいんだろ。
普通なんか求めるなってことだろ。
了解しました。もう頷くだけにします。

( ^ω^)「けど、読みが当たってよかったお」

ん?

176 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 01:15:07.12 ID:w2fzuFw20
川 ゚ -゚)「だな。こいつ、これから非常に役立つかもしれん」

……何の話だろうか。

( ^ω^)「津出さん。君の事で分かったことが幾つかあるお」

ξ゚听)ξ「え?」

と、内藤が人差し指を立てる。

( ^ω^)「一つ。君は緊張感……それに準ずるものを、無意識的に求めているんだお」

……え?

( ^ω^)「それも一度体験すると興味がなくなるほど、君は贅沢だお」

ξ;゚听)ξ「……あの、何の事だか」

川 ゚ -゚)「お前の事を少し調べさせてもらった」

177 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 01:18:02.71 ID:w2fzuFw20
直がバン、と資料と思わしき紙の山を叩きつける。

川 ゚ -゚)「お前、不良とよくつるんでいたそうだな」

ξ;゚听)ξ「え、ええ」

( ^ω^)「それはお、津出さん。そういった一般的に危ない奴らと言われている存在達と共にいれば、
      或いは緊張感を得られるだろうと、君は無意識で近づいて行ったと思われるお」

そんなまさか。
私は、ただ刺激が欲しかっただとか、いい子ぶりたくなかっただけで――

ξ;゚听)ξ「あ」

( ^ω^)「だお?」

そうか、確かにそうだ。
私は刺激を求めて奴らと関わるようになったんだ。

( ^ω^)「そこから予測して、僕は君をまたまた試させてもらったお」

180 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 01:21:02.47 ID:w2fzuFw20
何だと?
おい、どういうことだ。

( ^ω^)「所謂、君は鬼違い探知機に使えるお」

ξ;゚听)ξ「え?何で?」

川 ゚ -゚)「お前は本能の深いところで、そういった危ないものを敏感に感じ取っている。
     そもそも、お前が内藤に興味を持ったのも、きっとそのせいだろうさ」

ピンときた。
そういえば、私はまだ内藤を観察する前、何故かかなり内藤を理解できていた。
奴がまだ、殺人鬼と知らなかったのにも関わらずだ。

( ^ω^)「だから、君はあの日、僕と空の会話を無意識のうちに聞いてしまったんだお。
      そして、僕達に関わってしまった」

大きな溜め息が出た。
なんてこった。じゃあ結局、いつかは鬼違いと関わる運命だったのか。

( ^ω^)「だお。君は今回も、無意識のうちに犯人の近くに居たお」

便利な体質だな、私も。

188 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 01:24:05.51 ID:w2fzuFw20
( ^ω^)「で、二つ目なんだけど」

内藤が一度黙り、直と顔を見合わせた。

ξ゚听)ξ「……?」

私が怪訝な顔をすると、内藤が、あまり見られないケースだけどお、と続ける。

( ^ω^)「君は、一度その体験した緊張感……状況や行動に慣れるようだお。
      それよりもさらに刺激の強いものを、欲するようになるようだお」

川 ゚ -゚)「お前は昨日、内藤が今までお前にプレッシャーを与えているのに気付かなかったと言った。
     お前は学習しているんだよ。適応していっているんだ」

しかし、そうは言われても、特に何がダメなのか分からない。
いや、だって、この二人難しい顔してるんですもの。

( ^ω^)「いいかお、津出さん。例えば数で表すと、君は大きい数を求めているんだお。
      しかも一度その数を味わうと、もう興味がなくなって、さらに高い数字を求めるようになるんだお」

川 ゚ -゚)「つまり、お前はどんどん異常な緊張感を求めるようになる。行き過ぎると、お前は何れ――」

――人を殺すようになるかもしれない。
直は、そう言った。

190 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/07(月) 01:26:24.98 ID:w2fzuFw20
内藤と直は、それだけを伝えて図書館を去って行った。
HRの予鈴が鳴る。だが私は動けずにいた。

ξ゚听)ξ「なーんかなー」

実感はない。
自分がどんどん危ない存在になっているなどと、分からない。
だが、専門家である二人が言うのなら、間違いではないのだろう。

ξ゚听)ξ「…………」

封筒を掴む。
三百万円。一人の人間を殺して得た金だ。

ξ゚听)ξ「私も、こうなるのかしらね」

血で汚れた金。
私はそれを、汚いものを見る目で、ただ見つめていた。
 
 


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