ξ゚听)ξ殺人鬼は微笑むようです

3 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 19:35:43.59 ID:FfmGANbz0
私は極度の緊張を求めると言う。

私は生と死の狭間に立つことを好むと言う。

彼と彼女は変わった鬼違いだと言う。

私は一体何なのだろうか。

4 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 19:37:53.02 ID:FfmGANbz0
 
 
三 其の一
 
 
5 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 19:41:01.68 ID:FfmGANbz0
女性は綺麗であるべきだ。
そう、とある雑誌に書かれていたことを思い出す。

ξ゚听)ξ(肌荒れてきたなあ……)

額にできたニキビを見つけて大きな溜め息を漏らした。
ここ最近は夜遅くまで内藤の奴や直の奴に付き合っているため、肌の調子が良くない。

事件が起きた。
吸血鬼が現れたという。

ξ゚听)ξ(完全に型月信者に思われそうね……)

吸血鬼。
民話や伝説に登場する架空の存在で、人や動物の血を吸う怪物だ。
バンパイヤ、ヴァンパイヤ、ヴァンピルなどとも呼ばれている。

所謂怪物、怪異だ。
創作からそいつは抜け出て、この街に現れたのだ。

7 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 19:46:27.32 ID:FfmGANbz0
それは夏休みをあと一週間前に控えたある日。
あの眼球事件の一週間後に、それは起きた。

( ^ω^)「津出さん、ちょっといいかお」

教室に到着すると、既に内藤と直は私を待ち構えていた。
私は何が起きたかを予測していた。

ξ--)ξ「はいはい、分かったわよ」

連れてこられたのはやはり図書室。
ここで私は様々な体験をしてきた。
何の変哲もない、普通の学校の、普通の図書室でだ。
一体、どう考えたらあんなドラマが生まれるのだろうか?

ここで機関の加入手続きをした。
ここで初めて人を殺す武器を渡された。
ここで初めて大金を渡された。

どれも現実離れしていて、誰かに言いでもしたら笑われてしまうだろう。
はいはいとあしらわれて、もう少し構想を練ってからほざけと言われるだろう。

8 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 19:49:16.59 ID:FfmGANbz0
現に、それはあったのだ。
私は此処で色々な体験をした。
指を切られ、内藤に殺されかけ、直に小馬鹿にされ……。

ξ;凵G)ξ「いい思い出が見当たらねえ」

( ^ω^)「本当よく泣く人だお」

川 ゚ -゚)「気持ち悪い奴だなあ」

くそっ、こいつら。
人間としてお前らは間違っていると思います。

ああ、そうだ、こいつら殺人鬼と鬼違いじゃないか。
常識なんて通用しないわな……。

( ^ω^)「さて、津出さん」

ξ゚听)ξ「吸血鬼が現れたんでしょ」

内藤の先を読んでそう言う。
二人が顔を見合せておおと感嘆の意を込めて声を漏らした。

9 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 19:51:28.09 ID:FfmGANbz0
川;゚ -゚)「まだ三話目だぞ?大丈夫なのかお前?」

ξ゚听)ξ「何がよ」

川;゚ -゚)「いや、日増しどんどん意外性を発揮しているじゃないか」

ξ*--)ξ「まっ、私だって日々成長しているのよさ」

腕を組んで得意げにそう言った。

そうです。
私、あれからも毎日ちゃんと情報収集は欠かさなかったのです。
何故かって?そりゃ毎日馬鹿にされ続けたら見返したくもなるでしょう。
不良だからと言って嘗めちゃあいかんぜよ。

( ^ω^)「そいつは説明の手間も省けていいお」

内藤はそう言って、つい先週見た地図を取り出す。
ん?また新しくなってないか?

( ^ω^)「そりゃ、あんなの使い続けられるかお」

まあ確かに。
あんな赤インクでグチャグチャになった物、見たところで何が何だか分からない。

11 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 19:54:11.62 ID:FfmGANbz0
とん、と内藤が地図を指で叩く。

( ^ω^)「……ならどれだけこれが異常めいたものか、説明できるかお?」

ξ゚听)ξ「えーと……」

記憶の海を潜る。


それはつい昨日のことだった。
毎度同じくニュースブログをチェックしていると、新しい記事を発見する。
タイトルは『吸血鬼現る』……なんとも安直だ。それ故に想像しやすかった。

これもまた鬼違いなんだろうな、と私は感じていたのだ。
吸血鬼って、鬼の一種なんだろう?
だって血を吸う鬼と書いて吸血鬼なんだから。
なら鬼違いも同様だ。
人では無く、鬼と書いて鬼違い。
ほら、仲間じゃん?

既に好奇心は湧き溢れていた。
リンクを踏んで、記事を目の当たりにする。

ξ;゚听)ξ「……え?」

12 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 19:57:01.82 ID:FfmGANbz0
まず、一文目だ。
そこで既に異常は見て取れた。
数字が並んでいるのである。

ξ;゚听)ξ「うっそだあ……」

三十三。
これの意味が分かるだろうか。
何と、被害者の数だったのだ。

しかもさらに驚くべきことは、それがたった四日の内に殺された数だと言う事だ。
例外なく、全員死亡している。
それも全て女性だった。


( ^ω^)「おっおっ。よく調べてるおね」

関心関心、と内藤は頷く。

( ^ω^)「そう。僅か四日で、三十三人を殺しているんだお、その鬼違いは」

15 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:00:01.74 ID:FfmGANbz0
単純計算、一日に八点二五人。四捨五入して約八人。
犯行時間帯は凡そ夜十時から明け方の四時、五時まで。
たった六、七時間で八人。一時間に約一人の割合だ。

私は素直に思う。
こいつは危ない、あの欝田ドクオや若竹益男なんか目じゃないくらい。

( ^ω^)「死因は全員出血死。どの女性にも打撲の跡があるけど、これは直接的な死因ではないお」

そうだ。それは分かっている。
そもそも、何故この事件の犯人が吸血鬼と呼ばれているのか?

それは被害者の血液を全て、抜き取っているのだ。
死体は首や二の腕など、動脈付近を切り裂かれていたそうだ。

( ^ω^)「しかも面倒臭い事に、こいつはその日殺した死体を一ヵ所に纏めて放置してるんだお。
      その上現場はそれぞれ離れた位置にある」

発見されたそれぞれの現場には、死体が山積みにされていた。
女性のカラカラになった死体が、無残に。

( ^ω^)「果たして、最初から被害者一同を一か所に集めてその場で殺したのか、
      はたまた適当なところで獲物を見つけて後ろから殴って気絶させ、運んで殺したのかは」

まだ分からない。奴はそう言う。

16 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:03:03.21 ID:FfmGANbz0
( ^ω^)「あまりにも情報が不足してるんだお」

まだ四日。
警察の方も全力を挙げて捜査に当たっているそうだが、未だこれと言った情報は無いという。
前回の件もそうだが、どうして毎回情報不足なんだよ。ムリゲーすぐる。

( ^ω^)「さて、津出さん」

ξ゚听)ξ「……何?」

また、此処で事件が起きたおね。
内藤が何ともない調子でそう言う。

そう、そして私が一番驚いた理由。
それはまたもや現場が私の住む街で起きたという事実。

( ^ω^)「ま、創作なんかじゃよくある事だお」

ξ゚听)ξ「何言ってんの?」

しかし、実のところそれほど珍しくは無いんじゃないかと、私は思う。
というのも、ここのところこの街を除いても、余所ではほぼ毎日事件が起きている。
全都道府県、今や殺戮のオンパレードなのだ。
一体どうなる日本。

17 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:06:31.49 ID:FfmGANbz0
ξ゚听)ξ「ねえ、何でこんなにも事件が起きるの?」

前々から疑問に思っていた。
この件に関わってからというもの、私はそれなりに色々と調べてみた。
全世界での犯罪件数……その中でも日本のみが、殺人件数のみ異常な数値を叩きだしていたのだ。
欧米諸国や日本を除くアジアでは、今も昔も変わらない数字だったにも関わらず。

ところが日本のみがある時をを境に徐徐に増えていったのだ。

( ^ω^)「まあ、事件が増えていると言うよりも鬼違いが増えたって言うのが妥当なんだけども」

奴は言う。
実際、それは直接的な関係は無いのだと。
だが引き金となったのは事実であると。

( ^ω^)「やれ不況だ、やれ差別だ、やれ規制だ、やれ、やれ、やれ……」

そもそも、日本事態が異常だと、奴は述べる。

( ^ω^)「某国には未だに金を貢ぐは、某国の言いなりになるは、負担ばっかりだし、
      国内でも馬鹿が国を仕切るし、国民も国民で何も考えちゃいないお」

19 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:09:52.83 ID:FfmGANbz0
結果的に、国が傾いて、その際に多くの人が鬼違いの海に呑まれたのだとか。

( ^ω^)「実際、鬼違いっていうのは抑制されてきた目的ばかりを持つお」

だのにも関わらず。
我慢しているところに国力低下だの、国民の低レベル化だの、更にはストレス社会と称されたり。
そんなのが纏まって降りかかってくるものだからついに限界を迎えたのだ。

( ^ω^)「って、言われてるお」

川 ゚ -゚)「実際、今尚問題は山積みだ。イジメ、教育制度、社会の秩序、エトセトラ……。
     それこそ国力の低下に伴って起こされたものばかりと言っても過言ではあるまい」

( ^ω^)「まっ。なったもんはいくら嘆いても仕方無いお」

とは言うが、それでも普通の人達にとっては迷惑極まりない。
っていうか、そもそもそんな危険思想の持ち主が社会でのうのうと生きていたのか?

( ^ω^)「いやいや、そういうの持ってる人って意外と多いお?どこに紛れているか分かったもんじゃない」

現にほら、と言って内藤は私と直を指す。
わーお、マジだよ。

20 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:12:41.75 ID:FfmGANbz0
ξ゚听)ξ「ふうん、そうだったんだ」

皆、意識的にしろ何にしろ、やっぱ影響を受けてるんだなあ。
まあ自分の暮らしてる国だし、神経質になるのも頷けるかも。
欝田なんかは、外界からの影響が強かったんじゃないかと思う。
イジメが元でそういう体質になったと言っていたし。

( ^ω^)「けど鬼違いは、そもそも抑制なんてしてないけどお」

ξ;゚听)ξ「そうなの?」

( ^ω^)「そりゃそうだお。過去、いくら栄えている国でも、取り巻く環境が裕福でも、
      鬼違いは人を殺して目的を達成してきてるんだお」

鬼違いにも種類がある、と言ったおね。
そう奴は私に訊く。

( ^ω^)「まさしくその通りだお。先天的か後天的か、そしてそこから凶悪か安全かに分かれるお」

ピンときた。
それこそ、まさしく欝田ドクオだ。

( ^ω^)「そうだお。何かしら、心境に変化を与えられた人が、鬼違いには多いお」

21 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:15:04.32 ID:FfmGANbz0
つまり、目的を持った理由がある、ということだ。

( ^ω^)「君にはドクオ君が一番分かりやすいだろうから彼で説明するお。
      彼なんかはいい例だお。要約すればイジメが彼のコンプレックスを深く認識させたのが目的を持った理由で、
      それが鬼違いになった過程でもあるお」

川 ゚ -゚)「こう言った奴らはな、比較的人間らしいと言えるよ。
     だって理由が人間的だろ?」

まあ、あの若竹益男の理由も、事故が原因だったみたいだし、頷ける。
ところが、と内藤が渋い顔つきをする。

( ^ω^)「……先天的な奴は、最悪極まりないお」

ξ;゚听)ξ「……?」

内藤が、遠くを見つめてそう言う。
何か過去にあったのだろうか?
と、聞こうにも聞ける雰囲気ではない。
直の奴も、何故か難しい顔をしていた。

( ^ω^)「奴等には、過程が、理由が無いんだお」

ξ;゚听)ξ「は?」

22 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:18:10.71 ID:FfmGANbz0
何を言っているかよく理解できない。

( ^ω^)「そのまんまなんだお。奴等は生まれたときから既に鬼違いで、
      ただ目的を達成するために生まれてきたようなものだお」

一度、内藤が口を噤む。

( ^ω^)「……前に、そう、言った奴がいたお」

ξ;゚听)ξ「そ、そいつは?」

内藤と直が首を振った。

( ^ω^)「津出さん、その話はまた今度するお」

……聞いちゃいけないことだったんだろうか?
やけに二人とも表情が暗いが。

( ^ω^)「さて、この吸血鬼事件なんだけども」

と、無理矢理に話を戻す。
先の事は気にはなるが、後でまた話すと言っていたし、置いておこう。

23 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:20:55.41 ID:FfmGANbz0
( ^ω^)「正直に言うお。まったく見当がつかないお」

こいつ、初っ端でこれか。
内藤がこれじゃあ直だって似たようなものだ。
直を見てみれば同じく、と言った感じに肩を竦めた。

( ^ω^)「一応、挙がってる現場三つを周っては見たけど、足跡一つ残っていなかったお」

ξ;゚听)ξ「おま、それムリゲーすぐる!」

バン、と机を叩いて内藤にそう言う。
いやいや、無理だろう。
警察がそもそも収穫無しな上に、専門家である内藤達でさえお手上げ状態だって?

( ^ω^)「だからまた探すんだお」

はいでた。お決まりの捜索活動。
それらしい奴を見つけるまで夜遅くまで歩き続ける無駄な行動。
そんなことで犯人が見つかるなら警察なんていらないっつーに。

( ^ω^)「ほう、探知機が言うとそれらしいおね」

ξ;゚听)ξ「……たん……ちき?」

25 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:23:39.63 ID:FfmGANbz0
……待てよ。
そうだ、そう言えばこいつ、前に私をそんな風に呼んだ気がする。

( ^ω^)「お察しの通り。今回も君の体質を利用させてもらうお」

そうです。
私、こいつらの話によると無意識のうちに危ない奴らに近づいちゃうみたいなんですよ。
いや困ったね。歩く鬼違い探知機とは恐れ入ります。

ξ゚听)ξノ「あ、一抜けで」

( ^ω^)「却下」

ξ;凵G)ξ「死ぬってえええ!!今度こそマジで死ぬってええええええ!!」

前回味わった恐ろしさを忘れたりするものか。
背後から迫りくる鬼違い……間一髪で死を免れたものの、
もし内藤の奴が一秒でも遅れでもしていたら、今頃私は土の中で安らかに眠っていたのだ。

それにもう御免だ。
逃げるのも、殺されそうになるのも。

……人が死ぬのを見るのも。

26 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:25:53.78 ID:FfmGANbz0
( ^ω^)「じゃあ死ぬかお?」

内藤がしれっとそう言った。
私は知らない内に、顔を伏せている。
それは本能でそうしているんだ。
たぶん、今顔をあげたら内藤に首を刎ねられるような気がする。

( ^ω^)「すまないとは思ってるんだお」

内藤が席を立つ。

(  ^ω)「けど、君が生き残るには、機関の言いなりになるしかないんだお」

それは奴なりの慰めだったのか、それとも厳しさだったのか。
私には分からない。
奴が今どんな表情でそう言ったのかも私には分からない。

トン、と戸が閉まる音が聞こえる。
内藤は図書室を出て行ったのだ。
私と直を残して。

川 ゚ -゚)「なあ」

直が私に声をかける。

27 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:28:05.16 ID:FfmGANbz0
川 ゚ -゚)「何で泣いてるんだ」

ξ;凵G)ξ「…………」

そりゃ泣きもしたくなる。
自由はもう二度と手に入らない。
私が生きている限り、奴の、機関の言いなりになるしかない。
人が死ぬ様を見て、訳の分からない目的を背負って、鬼違いと戦って。

金なんてどうだっていい。私はそんな世界にいたくは無い。
そのうち、何時か私は人を殺す術を身に付けるのだろう。
やがてはこの手で実際に誰かを殺めるのかもしれない。

だがそんなものは二の次だった。
恐怖の本質は他にある。

ξ;凵G)ξ「ねえ、直」

私は人間だろうか?
そう短く問う。

川 - -)「…………」

直は一度目を伏せる。

川 ゚ -゚)「お前は人間だよ」

28 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:30:14.52 ID:FfmGANbz0
川 ゚ -゚)「お前、怖いんだろ。自分が人を殺すかもしれないからって」

だって、お前達が言ったんじゃないか。
私が、下手をしたら多くの鬼違いと同じく人を殺すようになるかもしれないって。
何れ異常な緊張感を求めるようになるって。

私は怖かった。
自分がどんどん別の何かに変わっていくようだった。
それまで気にもしなかったことを気にするようになって、夜も眠れなくなった。
果たして私は人間なのか。それとも別の何かなのか。

川 ゚ -゚)「殺さないよ、お前は」

ξ;凵G)ξ「え?」

ふっと直が笑った。

川 ゚ー゚)「内藤がいるからな」

それがお前の答えで、私の答えだ。
そう直が言った。

30 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:32:23.00 ID:FfmGANbz0
川 ゚ -゚)「へえ、美味いなこの弁当」

ξ゚听)ξ「妹の手作りなのよ。本当、美味しくてほっぺたが落ちそう」

時間は流れて昼休み。
私は直と図書室で昼飯の弁当を仲良くつついていた。
直は購買でよくパンを買うようで、見かねた私が零の弁当を少しやる。
すると直は次々と弁当箱の中身を平らげていった。

何故私と直が仲良く二人で昼休みを共に過ごしてしているのだろう。
正直、私自身も戸惑っている。

川 ゚〜゚)「なあ津出」

直が海老焼売を口に頬張りながら私を呼ぶ。

ξ゚〜゚)ξ「何?」

私も同じく海老焼売を食べる。

川 ゚ -゚)「元気がなかったのは、先の所為か?」

ξ゚〜゚)ξ「……気づいてたんだ?」

川 ゚ -゚)「まあな。お、この蜜柑もらい」

31 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:35:01.39 ID:FfmGANbz0
そうです。
前回とは比べ物にならないほど、地の文に影響が及ぶほど私は元気がございませんです。

川 ゚ -゚)「らしくないな。らしくなさすぎて詰らんよ」

ξ゚听)ξ「それはどうもすみませんでしたね」

きっと、これは直なりの慰めなんだろうな。
普段の態度からは想像できないくらい、こいつは優しかった。
今日は何かと私を構う。
初めは面白がってるのかと思っていたが、そうではないと実感した。
温かみがある。

川 ゚ -゚)「なあ津出」

ξ゚听)ξ「ん?」

川 ゚ -゚)「お前処女か?」

ξ )ξ「ぶごっ!!」

おk、おk、おk、おk。
よし落ち着け私。ビークール。
今あの直という人間が突拍子も無く私が新品か中古かと訊ねてきた。

33 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:37:10.51 ID:FfmGANbz0
ξ;゚听)ξ「な、あんた何を一体!」

川 ゚ -゚)「違うのか?」

ξ;゚听)ξ「ち、違わないわよ!」

こいつ何を考えているんだ。
何で脈略も無くいきなり訳の分からん事を。

川 ゚ -゚)「実はな、最近の若人は、もう私たちの年代でズッコンバッコンしているそうだぞ」

ξ;゚听)ξ「おおおおおい!おおおおいいいい!!時間帯と場所を考えろよマジで!!」

少なからず図書室にいる人たちも、私達の会話を聞いているんだろう。
本で表情を隠してはいるが皆明らかに様子がおかしい。

そりゃそうだ。
だって真昼間から、あのマドンナが猥談してるって。
私だって意外だわよ。

川 ゚ -゚)「で、お前は処女なのか?」

ξ;゚听)ξ「し、しししし処女ちゃうわ!」

川 ゚ -゚)「ああ中古か」

35 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:39:19.11 ID:FfmGANbz0
いや違います!私は純潔でございます!
皆さん、信じて下さい!
だって言いましたよね!?私一話目で断言しましたから!
とても初心で清らかな存在ですから!

ξ;゚∀゚)ξ「ま、まあ?中古って言われても?世の中経験してから分かる世界があるし?損は無いし?」

必死で誤魔化します。
何せ私の威厳がかかっていますのでね、そりゃ必死にもなりますとも。
よもや、性の進んだ現代日本で、あちらでもズッコン、こちらでもバッコンの日本で、
その先進たるヤンキーがまさかの処女だなんて衝撃の事実が学校に知れ渡りでもしたら。
今時はオタクにさえ彼女がいて性交渉に励んでいると言うのに、
根暗で目立たない静かな女の子でさえどこぞの男にパコパコされて種付けされているというのに。

だのに私がまだ処女!バージン!?
売れ残りだと?いいえ今や希少価値なのよ!
でも大っぴらに処女って言えない!悔しい!けど感じちゃう!主に精神的に!ギスギスに!

川 ゚ -゚)「ふ ー ん ?」

やめて!その疑いの眼差しを止めて!
私を見ないで!私の心を犯さないで!

川 ゚ -゚)「ま、そういうことにしとくか?」

ξ;゚∀゚)ξ「そ、そうでございますわね!おふぉふぉふぉふぉふぉ!!」

36 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:41:30.56 ID:FfmGANbz0
すると、直がクスリと微笑んだ。

ξ;゚∀゚)ξ「?」

川 ゚ -゚)「さて、私はやることを残してるから、先にお暇するかね」

グッと椅子から立ち上がって、直は私を見て言う。

川 ゚ -゚)b「その方がらしいぞ」

親指を立ててそう言う直は、ちょっと似合わなかった。

ξ゚听)ξ「……あー」

空になった弁当箱を見つめて、私は呻く。

らしい、か。
だわな、そうですわな。
うじうじ考えてても似合わないって言うもんですよ。私馬鹿で不良ですもの。
そうですわ。もうどうでもいいっすわ。
流れに身を任せようじゃないの。レットイットビーよレットイットビー。

37 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:43:49.20 ID:FfmGANbz0
ξ゚听)ξ「だおらっしゃ!」

気合の掛声を一つ。
静かな図書室に響いて、誰もが怪訝な顔をする。

けれど私は反省なんかしない。
これが私ですから。

川 ゚ -゚)「いやそこは反省しろ」

Σξ(゚△゚;ξ「ま、まだいたのか!」

39 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:45:59.64 ID:FfmGANbz0
 
 
三 其の二
 
 
42 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:48:10.16 ID:FfmGANbz0
( ^ω^)「っていうわけで」

ξ;凵G)ξ「いやだああああああ!!死ぬ!!死ぬううううううううう!!」

私、津出鶴子ことツンは今、内藤氏と共に捜索活動に当たっています。
現在午後八時四十分。場所は街中のゲームセンターの前だ。
駄々をこねる私を内藤は襟元をひっつかんで引きづる。

おい人を物扱いするな!立って歩くから!

( ^ω^)「放したら逃げるだろうお?」

ξ;凵G)ξ(バレてまんがな!)

今回、直は別行動をとることになった。
直の行うこととは情報収集。
各機関に問い合わせたり、その線の人から情報を得たりと、結構忙しいらしい。

( ^ω^)「しっかし、随分と調子が出てきたおね。関心関心」

ξ#゚听)ξ「まだ本調子じゃないけどね」

43 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:50:20.59 ID:FfmGANbz0
内藤とそれなりに人の多いところや、出入りの多い場所を回る。
内藤曰く。

( ^ω^)「こういう所で、犯人が獲物を探してるかもしれないお」

ξ゚听)ξ「何で?」

( ^ω^)「それこそ人が多いからとしか言えないお。若い女の子も多いしね」

と言われて、私は事件の内容を思い出す。

被害者の全ては女性。
その中でも多いのは若い人ばかりだった。

( ^ω^)「津出さん。吸血鬼ってどんなのか知ってるかお?」

と、内藤が私に訊ねる。

ξ゚听)ξ「うーん……十字架が苦手で、にんにくも苦手で、血を吸うってくらいしか」

( ^ω^)「おっおっ。そこら辺はよく知られてるおね」

ところが、と内藤が私を指す。

( ^ω^)「吸血鬼はとってもグルメだって知ってたかお?」

46 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:52:30.28 ID:FfmGANbz0
ξ゚听)ξ「グルメ?」

( ^ω^)「そう、グルメ。取り分け処女の血を好むんだお」

ギクリとする。
処女……それは禁止ワードに入れるべきではないか。

( ^ω^)「けどそれは民間伝承における吸血鬼ではなくて、後後着いてきた設定なんだお」

ξ゚听)ξ「え?」

こほん、と内藤が咳払いをする。
いつかの時と同じだ。

( ^ω^)「吸血鬼には様々な伝承があるから、設定もその分多くて、それこそ僕も覚えられないくらいだお。
      一度は葬られた死者が、ある程度の肉体性を持って夜間活動し、人間・家畜・家屋などに害悪を与えるという点では、
      おおむね一致しているけど」

ξ゚听)ξ「へえ、そんなに説があるんだ」

( ^ω^)「だお。例えばヨーロッパ。吸血鬼は血を飲み、銀を恐れる――ただし銀によって殺すことはできない――とされてるお。
      また首を切断して死体の足の間に置いたり、心臓に木の杭を打ち付けることで吸血鬼を殺すことができると考えてたり」

ああ、それはよく聞くぞ。
ホラー映画とかでもそういうことが言われていた気がする。

47 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:54:41.51 ID:FfmGANbz0
( ^ω^)「現代の吸血鬼のイメージはこれが強いと思うお。ここにさらに日を浴びたら死ぬだとか、
      薔薇やワインが好きだとか。どうだお?一気にイメージに近づいたかお?」

言われて、頭の中で思い浮かべたイメージはまったくその通りだった。

( ^ω^)「で、処女の血を好むっていうのも、吸血鬼のイメージでは世間的に強いお」

……そうだったのか。
私はまったく知らなかった。

( ^ω^)「ずばり。犯人は若くて可愛い女の子を狙っているから、街中で探していれば見つかる」

はずだお、と内藤が小さく呟く。
溜まらずに息が漏れた。
こいつ、行き当たりばったりじゃないか、それ。

ξ゚听)ξ「でも、また何で血なんか……」

よもや、血を飲むことが目的なのだろうか。
……やっぱり、理解できないな。他の鬼違いの事は。
血の何に惹かれるんだろう。

ξ゚听)ξ「しっかし……」

人通りの多い中で、私と内藤は突っ立っている。
これでは逆に怪しまれるんじゃないか?

48 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 20:56:53.39 ID:FfmGANbz0
それに、今日の内藤は妙なものを肩から下げていた。

ξ゚听)ξ「ねえ」

( ^ω^)「何だお?」

内藤の肩に掛かる袋。
布越しでも分かるゴツゴツした感じのそれの中には、何が入っているのだろうか?
いや、分かりますよ。凶器だってことは。

ξ;゚听)ξ「何でそんな物騒なものを……」

刀だろうな。うん、これ刀だ。
実物なんか見た事無いけど、そんなもんだろ。

( ^ω^)「うーん、久々にキレた奴が相手だから、それなりの装備で来たんだけどお……。
      この鮪引き、いい包丁だお?ズッパズッパ切れるお」

え、それ包丁なの?そんなのがあるのか。

もしかしたら今日は使わないかもしれないお。
と、内藤は弱々しく言った。

50 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:00:01.06 ID:FfmGANbz0
以上がここ数日で起きたことだ。
そして事件発生から早一週間、世間では今日からが夏休みだ。
捜索を開始してから三日目の今、私は家で寛いでいた。
時刻は七時で、あと一時間後には内藤に駆り出される。

ああ、面倒臭え。

ξ;--)ξ「それがし働きたくないでござる……」

ここ三日で私の足はパンパンになっていた。
おまけに日に日に肌は荒れてくるし、溜まったもんじゃない。
女の子を何だと思ってんだ……。

と、玄関から零の声が聞こえた。
ようやく帰ってきたようだ。

ξ゚听)ξ「零ご飯〜」

ζ(゚ー゚*ζ「ごめんごめん、今作るから」

それよりも、と零が私に何かを突き出した。
紙袋?

51 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:02:09.79 ID:FfmGANbz0
ξ゚听)ξ「? 何これ」

ζ(゚ー゚*ζ「街の駅前でね、化粧水の試作品が売ってたの。お姉ちゃん、最近肌の事で悩んでたから、どうかなって」

まったく、この子は、もう、本当。

ξ;凵G)ξ「何ていい子なのかしらっ!!」

零を強く抱きしめる。
私は幸せ者です。こんないい妹がいて最高です!神様グッジョブ!サンキュー!

ξ*゚听)ξノ「早速試すぜー!」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、お姉ちゃん、あんまりはしゃがないのっ」

洗面所に走って、化粧水のふたを外す。
薄いピンク色で、いい匂いだ。これは女の子も喜びそうだね。

ξ*--)ξノペチペチ「かわいくな〜れ〜かわいくな〜れ〜」

スーパーオーガビューティフルツンちゃんは今日もつるっつるんな肌でキメてみせます。
何せ今をときめくピチピチギャルですから!

53 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:04:28.60 ID:FfmGANbz0
その後は気分絶好調のまま零のほっぺたが落ちるほどの絶品料理を堪能し、
普段は着ない可愛い服を着て、勢いよく家を出た。

ξ*゚听)ξ「んひっ!んひひひひっ!」

ああ実に気分がいい。
これも零のお陰だ。

機関の仕事だと言うことも忘れて、私は内藤との待ち合わせ場所に向かう。
程なくしてそこに着く。場所は街中にある寂れた某公園だ。
内藤は既に居て、私を見ると奇妙なものを見るような目で私を見つめた。

ξ*゚听)ξノシ「遅れてごめり〜んこっ☆」

(;^ω^)「(うっぜ……)遅いお、なにしt」

内藤がはっとした表情を作る。
な、何だ?私?え?何かしたっけ?

( ^ω^)「……津出さん、何をしたんだお」

ξ゚听)ξ「え?何っt」

55 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:06:40.34 ID:FfmGANbz0
ズバン、と私の右側の雑草が吹き飛んだ。
内藤の手には、長さ七十センチ程の、刀のような包丁、鮪引きが握られている。

( ^ω^)「そのニオイ、何だお」

内藤は今、確かに私に向けてその刃を振るった。
つまり、私に敵意を向けたのだ。

ξ;゚听)ξ「ちょ、まって……何を……」

( ^ω^)「他の人は誤魔化せても、僕には通用しないお」

嗅ぎ慣れた香りだ、と内藤が呟く。

( ^ω^)「薄くて、色々なニオイも混じってるけど、間違いない。
      それは血のニオイだお」

ξ;゚听)ξ「――え?」

血の、ニオイ?
何を言っているんだ、こいつは?
私から血のニオイがするだって?

待て、私は今生理じゃないし、ましてや血のついた物も持ち歩いてないぞ。
ならこいつは何を指して言っているんだ?

56 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:08:49.04 ID:FfmGANbz0
( ^ω^)「君の」

くんくん、と内藤が鼻をひくつかせながら私に近づいてくる。

( ^ω^)「顔だお」

そして私の顔の前で鼻を止めると、そう言った。

顔、だって?
何故顔から?確かに肌は荒れてはいるけど、傷も怪我も無い――

ξ;゚听)ξ「か、お?」

待て。
顔、だと?

ξ;゚听)ξ「……まさか」


――街の駅前でね、化粧水の試作品が売ってたの。お姉ちゃん、最近肌の事で悩んでたから、どうかなって――


瞬間、私の記憶はつい先ほどしていたことを思い出す。
ピンク色の液体、妙に心地の好い香り。
それを私は顔面に、塗りたくった。

59 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:11:01.03 ID:FfmGANbz0
ξ;Д;)ξ「げえええええっ!!」

その場で私は嘔吐した。
内藤の言葉で、私は一瞬で理解したのだ。
あの化粧水の正体を。あの液体の色と、香の元となる物を。

近くにある水道で、顔を洗い流す。
ごしごしと何度も、酷い汚れを落とすように。
内藤はそれを黙って見ていた。
私の嘔吐がようやく治まり、落ち着きを取り戻すと奴は静かに私に問いかけた。

( ^ω^)「何があったんだお」

私は全てを話す。
零から化粧水をもらったこと。
それを顔に先ほど塗ってきたこと。
液体の色、香の事。

説明を終えると、内藤は黙る。
私は嗚咽がようやく止んだところだった。

ξ )ξ「最悪だわ……」

色々な意味で最悪だ。
零に対しての申し訳なさや、あれをいい匂いだと思ってしまったことや……。
ああ、最悪だ。

60 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:13:08.99 ID:FfmGANbz0
( ^ω^)「……なるほど。エリザベート・バートリーかお」

内藤がそう言う。

ξ;-听)ξ「……誰、それ?」

( ^ω^)「過去に存在した、とんでもない鬼違いだお」

奴はこう語る。

エリザベート・バートリー。
ハンガリーのトランシルヴァニア地方の貴族の娘として生まれ、
十五歳のときハンガリーの名家であるナダスディ家のフェレンツと結婚し、ツェイテ城に住むことになる。
しかしフェレンツは隣のトルコとの戦に忙しく、エリザベートは暇を持て余していたという。
ある日、侍女の一人に髪を梳かせていたが、それがあまりにも下手だったのでエリザベートは侍女を血が出るまで殴った。
その時手に返り血を浴びてしまったが、その血のついた部分を拭き取ったあとがやけにすべすべしているように思えた。
この出来事が発端となった

( ^ω^)「血を浴びるという行為と永遠の美しさ。この点から奴は現代に存在した女吸血鬼として知られているお」

実際には人間であり、鬼違いだったのだが。
エリザベートは「鉄の処女」や「鉄の鳥篭」といった拷問器具を使用し、若い娘の血を絞り取ってはその身に浴びていたという。
最初は村の農民の娘の血を浴びていたが、それでも足りなくなると近隣の娘を攫うようになり、
貴族の娘にまで手を出したところでとうとう城に捜査の手が伸びた。
千六百十年のことである。
城の地下室には、血を抜かれた娘の死体が山と積まれていたという。
それまで犠牲になった娘の数は六百人を超えていた。

61 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:16:04.99 ID:FfmGANbz0
私はようやく理解した。
何故化粧液に血が使われていたのかを。

( ^ω^)「血液は古来より生命の根源であると考えられているお。そこから美を結びつけたんだろうお」

この化粧水、間違いない。
今回の事件に関与しているとみて間違いはないだろう。
血の事件に血の化粧水。

( ^ω^)「妹さん、さっき帰って来たばかりなんだおね?」

ξ;゚听)ξ「ええ」

内藤が先の鮪引きを袋につめて、肩に担ぐ。

( ^ω^)「場所は駅前。間違いないおね?」

ξ;゚听)ξ「そう言っていたわ」

内藤が手を差し伸べる。
私はそれを掴み、引き起こされた。
まだ少し気分は優れないけれども、時間を無駄にはできないのは承知している。

( ^ω^)「じゃ、行くかお」

62 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:18:14.32 ID:FfmGANbz0
賑わう人混みをかき分けて私と内藤は突き進む。
目的の場所へ近づくにつれて、女の人が増えていることに気づいた。
そしてそのほとんどの人が手に手に紙袋を持っている。

( ^ω^)「いい気なもんだお。中身が何かも知らないで」

よもや想像もできまい。
中身にはついこの間殺された人間の血が入ってるなど。
私ですら気付かなかったんだ。

( ^ω^)「好い匂いだなんて思ったのも、やっぱり君が鬼違いたる証拠だおね」

ξ#゚听)ξ「うるせえ筋肉豚。前向いて歩けカス」

糞、忌々しい。

( ^ω^)「あれかお」

内藤が立ち止まって、顎をくいっと向ける。
私は内藤の奴の隣に立ち、その方向を見た。

( ´_ゝ`)

そこには若い美形の男が一人、並べられた化粧水と差し出された代金を交換している姿がある。
掲げられた宣伝文句には「ビバ美容」……なんとも頂けないセンスだ。
と、今しがた客が買い物を終えて去って行った。
男の周りには、誰もいない。

63 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:20:24.21 ID:FfmGANbz0
内藤がズカズカとそいつに近寄っていく。
それに私はついていく。
男は私たちを見て椅子から立ち上がると、一度軽く頭を下げた。

( ´_ゝ`)「おや、カップルさんですか。微笑ましい限りです」

ξ#゚听)ξ「あ?」

おいおい、簡便してくれませんかね。
カップルだと?私とこいつが?
失礼極まりないだろ馬鹿者。こんな人殺しと誰が付き合うか。

( ´_ゝ`)「うまくいってないんですか?」

( ^ω^)「あれで本人ツンデレなんですお」

ξ#゚听)ξつ(^ω^;)サーセン

男がそんなやり取りを見て笑う。

( ´_ゝ`)「いや、実に仲のよろしい事で。羨ましいですねえ」

ξ#゚听)ξ「んだとこのy」

(^ω^;)「話進まないから黙っててくれお」

65 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:22:33.46 ID:FfmGANbz0
内藤にそう言われて、私は押し黙った。
畜生納得いかねえ。全力で否定してえ。

( ´_ゝ`)「どうです?この化粧水、まだ試作段階なんですが我々の傑作といっても過言じゃないんですよ。
      お一ついかがですか?」

と、男は内藤に商品を進めた。

( ^ω^)「んー、そうですおね……なら、一つ……」

ξ;゚听)ξ(買うのかよ!)

うわあ突っ込みたい!けど突っ込めない!
何このもどかしさ!つーか内藤は何を言ってるんだ!

( ´_ゝ`)「そうですか!こちらはですね、美容のため云々〜……」

男が何やらよく分からないことを語り始める。
それを内藤はうんうんと頷いて聞いている。

訳が分からん。何をしたいんだこの馬鹿は。

( ´_ゝ`)「と、言う訳なんですよ」

( ^ω^)「なるほど。よーく分かりましたお」

66 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:24:51.46 ID:FfmGANbz0
ピッと、内藤が人差し指を化粧液の容器を指す。

( ^ω^)「ところで――」

内藤の眼が男を見つめる。

( ^ω^)「――血って使っていいのかお?」

( ´_ゝ`)「…………」

言った。内藤はすっぱりばっさりと訊ねた。
男は沈黙する。
それを見て私は確信した。こいつが、今回の事件の犯人だと。

( ^ω^)「誤魔化せるとでも思ったかお。この甘ったるい血のニオイを」

内藤は買いもしていない化粧水の容器を手に取ると、中の液体を自分の手の中に数滴たらす。
途端に、甘くて、薄いながらも血の香りが漂った。

( ´_ゝ`)「……少し、お話をしましょうか」

そう言って男は私たちを近くにあるという事務所へと案内した。
道中は、始終皆無言であった。
そりゃそうだ。だって私たちから見ればこいつは殺す対象だし、
男から見たら何故か真相を知っている謎の二人組だ。

68 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:27:00.35 ID:FfmGANbz0
( ´_ゝ`)「お茶は?」

( ^ω^)「結構」

ξ゚听)ξ「わ、私も」

ついたのは、どこでもあるような雑居ビルの一室。
私と内藤は促されるままにソファに腰掛け、男は自分一人分のコーヒーを啜って向かいの椅子に座る。

……なんか普通に案内されてきたけど、これって実は滅茶苦茶マズイんじゃないか?
言わば敵のテリトリーじゃないか。しかも室内。戦うにしては不便だ。

ξ;゚听)ξ(って既に戦闘態勢か私!)

少しばかり自分に驚く。
まだまだ機関に所属して日も浅い上に、遭遇した事件もこれで三件目だ。
だのにこの適応力。
やっぱ私凄いね?

ξ;凵G)ξ「悲しくもあるけどね!」

( ´_ゝ`)「この子大丈夫か?」

( ^ω^)「ああ。情緒不安定なんだお」

もうそういうことでいいです。

71 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:29:11.08 ID:FfmGANbz0
 
 
三 其の三
 
 
72 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:31:20.08 ID:FfmGANbz0
男はゆっくりとコーヒーカップを傾けて、一気に飲み干す。
そしてそれを私達との間を隔てているガラス張りの机に置くと、足を組んだ。

( ^ω^)「随分とまあ、先までとは大違いだおね」

( ´_ゝ`)「これが地って奴だよ。さっきのは仕事向きさ」

うわ、なんかこいつとそっくりな奴を私は知っている気がする。
この偉そうな態度とか、喋り方とか。

ク━━川 ゚ -゚)ノ━━ル

ξ;゚听)ξ(うわあ)

頭の中にあの性悪女の顔が浮かび上がる。
もしかして、鬼違いには直みたいな奴が多いんだろうか。

ク━━川 ゚ -゚)9m後で覚悟しとけよ━━ル

ξ;゚听)ξΣ(私の頭の中で喋りおった!?)

( ´_ゝ`)「百面相みたいで面白いなこの子」

( ^ω^)「馬鹿なんだお」

74 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:33:37.98 ID:FfmGANbz0
さて、と内藤が身を乗り出す。
ようやく本題に迫るようだ。ゴクリ。

( ^ω^)「ここ最近起きていた吸血鬼事件……」

ずばり、と内藤が指を男に向けて問う。

( ^ω^)9m「君が犯人だお?」

( ´_ゝ`)「うん」

うわー!あっさり認めたー!
今までで一番!まだ三話目にして一番!
すっごい即答したー!
内藤も少し拍子抜けしてる、私も変な顔している。

(;´_ゝ`)「? どうしたんだ二人とも」

(;^ω^)「え、あ、うん、あの」

ξ;゚听)ξ「犯人なんだーって思って」

いや、予想はしていたけれども?
だからと言ってこうもあっさりと認められると、少しばかり戸惑うのが人間です。

75 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:35:46.96 ID:FfmGANbz0
内藤がまたもや胸ポケットから例のレコーダーと思わしきものを引き抜く。
一瞬、男は怪訝な表情をするが、内藤は話を切り出した。

( ^ω^)「さて、申し訳ないのだけれども」

僕は今から君を殺す。
内藤の奴は単刀直入に言う。

( ´_ゝ`)「マジ?」

( ^ω^)「マジマジ。で、まあ殺す前に、一応君の目的と犯行の動機を記録しないといけないんだお」

何ともないように会話をしているこの二人ですが、いいですか。
相手は鬼違いですから、当然黙って殺されるなんてこと、あり得ないわけですよ。
となると、やはり殺し合うのですが。
何故こうも冷静にしていられるんだろうか。
内藤は元より、この男もなかなか肝の座った奴だ。
まあ、三十三人なんて大量の人間を殺しているわけだから、当然かもしれないが。

……あれ?

ξ;゚听)ξ(そういえば……)

事件発生から一週間丁度が経った今日まで、殺害された人数は合計三十三名。
犯行は初日と、その次の日、そして初日から四日経った日の三回に分けられる。

76 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:37:55.86 ID:FfmGANbz0
そして、それ以降、私の耳には追加された被害者の数は入ってこなかった。

( ´_ゝ`)「ある程度必要量の血は手に入った。だから殺す必要もなかったんだ」

と、私が眉間に皺を寄せて考えていると、男は察したようにそう言う。

( ´_ゝ`)「まあ、それなりに苦労はしたよ。何せ三十三人もの人間を殺すんだ。
      体力的にも精神的にも辛い作業だったよ」

その言葉を聞いて、私は男を意外に思った。
というか、鬼違いなのか、こいつは?
今、確かに精神的にも辛いと言ったぞ。

( ´_ゝ`)「いやあ、断末魔がさ、結構くるんだよね、うん。
      殺す事に抵抗は無かったけど、あれには少し恐怖したよ」

……ああ、私が馬鹿だった。
こいつは正真正銘の鬼違いだ。

( ´_ゝ`)「さて、どこから話そうか……」

男が椅子に凭れて瞑想をする。

79 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:40:07.31 ID:FfmGANbz0
( ´_ゝ`)「……そう、俺は美青年だ」

男は静かに語り始める。

( ´_ゝ`)「俺は肌が生まれつき白くてな、自分で言うのも何だが、ほら、真白だろ?」

と、私に問いかける。
ええ、そうですね綺麗ですね。
憎たらしい奴だ糞め。

( ´_ゝ`)「小さい頃から女にはモテたし、童貞なんて小学生の時に捨てるくらい、俺はモテた。
      何故ならイケメンで色白で美しくて完璧だったからだ」

うわあ……。
なんていうかもう、うわあ……。
色々とこいつ、ひっどいなあ……。
いるんだなあ、こういうナルシストって。

( ´_ゝ`)「勉強だってよくできた。運動なんてやったらそれこそ女子共は黄色い声を上げたね」

いくら顔が整っていようが、これは……アウトです。

80 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:42:22.91 ID:FfmGANbz0
( ´_ゝ`)「けど」

そこから先は私が要約して話そう。
きっと童貞処女の諸君にはこの男の語りは癪に触るだけだろうから。

思春期を迎えると、男は徐々に肌が荒れてきた。
まあ、よくあることだ。
そのくらいから男子も女子も、ニキビや雀斑なんかが目立ち始めるころだ。

( ´_ゝ`)「俺にはそれが我慢ならなかったよ」

だから男は色々と試した。
僅か十と幾歳にして、既に男は美容の虜になっていたのだ。
このイケメン、恐ろしい。

ともかく、男は色々と試す。
やれ通販で取り寄せたパックだ、やれ高級な洗顔剤だと。
確かにそれらの効果はあった。
彼曰く、誰よりも美しく輝いていたそうだ。

( ´_ゝ`)「だがダメだ」

何かが足りないと男は思う。
ハリ?違う。艶?違う。
皺なんてもってのほか、角質なんて毎日取り除く。
なら何だ?一体何が足りないんだ?

82 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:44:37.34 ID:FfmGANbz0
( ´_ゝ`)「俺は自分の抱いたものにすら疑問を抱いていたんだ」

男は自分の求めているものも理解しないまま、とにかく調べる。
だが当然目的が朧ならば探しようもなく、結局は収穫がない日々が続く。

( ´_ゝ`)「とある日、俺は見つけたんだ」

何の気なしに見かけたその話。
それは実際にあったことだという。
話のなかに出てきた女は、男と同じ目的を持っていた。

それは美の追求。
美しくありたいと言う想い。

( ´_ゝ`)「俺は感動したね。彼女が今尚生きていたなら、俺は猛烈なアプローチをしていただろうな」

そして男は彼女が美しくあった理由を知る。
それこそ、若い女の血だった。

( ´_ゝ`)「そう、俺に足りないものは何なのか?それはな、血色だったんだよ」

あまりにも白い顔は、その実不気味でしかなかった。
男は思う。まるで能面だ。のっぺらぼうだ。

84 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:46:45.65 ID:FfmGANbz0
( ´_ゝ`)「だから俺は血を集めた。そしてより完璧に近い美を求めたんだ」

そこで話は途切れて、内藤はレコーダーのストップを押す。

( ^ω^)「いやはや。まったくもって鬼違いだおあんた」

まさしくエリザベート・バートリーの再来だ。
考えは共通している……むしろ本人じゃないのか?

私も女だから、その美の探究は分からなくもない。
だが、それは人を殺してまで……若い女の子を殺してまで手に入れたいものなのか。

( ´_ゝ`)「価値がある。それだけで殺す理由にはなる」

ξ;゚听)ξ「狂ってる……」

思っていたことが素直に口から出た。
確かに今まで出会った鬼違いも全員狂っていたが、こいつはその中でも筋金入りだ。
なんと言うのだろう。恐怖だとか、そういうものではなく、おぞましいのだ。
こいつは、今まで出会ったことの無い、純粋な狂気の塊なんだ。

( ^ω^)「何故、その価値のある血を売りさばいたりしたんだお」

内藤が、手にする袋から、鮪引きなるものを露わにする。

87 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:48:57.58 ID:FfmGANbz0
( ´_ゝ`)「何、一人占めなんてよくないだろう?」

それに、と男は続ける。

( ´_ゝ`)「人を殺すには金が要る。あんたもよく分かるんじゃないか?」

男は内藤にそう言う。
内藤は、確かに、と頷いた。

( ^ω^)「武器の入手、逃亡用の費用の確保、それに化粧水を作るってことはそれ関連の機材も必要になるお」

内藤が、静かに鞘から刀身を引き抜いた。

ちょ、おい。
殺る気満々っすか!つーか私を巻き込むつもりか!おい!

( ´_ゝ`)「その通り。だが極めつけはな――」

男が、視線を内藤の後ろへと向けた。
その瞬間、内藤は手に握る鮪引きを勢いよく横薙ぎに後方へと振るう。
ガキン、と鉄同士のぶつかる鋭い音が響いた。
内藤がソファに片足をかけて踏ん張る体制を作る。
何者かからの攻撃を防いだのだ。

88 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:51:05.94 ID:FfmGANbz0
ξ;゚听)ξ「!?」

そして私は目にする。
咄嗟に内藤に続いて後へと振り向く。
すると、そこには――

(´<_`;)「げ、受け止められた」

――男がいた。

慌ててもう一度振り返る。
椅子には男が座っていて、私と踏ん張る内藤をにこやかに見つめている。

( ´_ゝ`)「驚いたか?」

( ^ω^)「少し。後ろから誰かが近付いてたのは分かってたけれども――」

内藤が刀を振りぬく。
すると、対峙していた男に似た男が、後方に飛びのいた。

(´<_` )「まあ、吸血鬼は」

( ´_ゝ`)「二人いたって訳だ」

90 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 21:53:15.54 ID:FfmGANbz0
似た顔の似た男が二人、私と内藤を挟んでそう言う。
なるほど、これが衝撃の事実か。
確かに、僅か四日足らずで一人の人間が三十三人もの人間を殺せるかとなると疑問を抱くだろう。
決してできないと言う訳ではないだろうが、共犯者がいると言う可能性も出てくる。

(´<_` )「兄者よ、この状況、どうする」

後に入ってきた男が、ナイフを逆手に構えて男に問う。

( ´_ゝ`)「弟者よ、男は殺せ。女は材料にするために生かすんだ」

男――兄者と呼ばれていたので兄者と呼ぼう――がもう一人の男――弟者――にそう言う。
兄者は懐から弟者の持つナイフと同じサイズの、平均的なナイフを構えた。
糞、殺りあう気満々じゃねーか!

ξ;゚听)ξ「ち、ちくしょっ」

私も負けじと腰から匕首を引き抜く。
内藤は弟者に向き、私は兄者へと向く。
これって、もしかして……まさかの初バトル?

( ^ω^)「津出さん」

内藤が鮪引きを構えて私の名を呼ぶ。

ξ;゚听)ξ「な、何よ」

私も不格好に匕首を構える。

98 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 22:07:07.49 ID:FfmGANbz0
( ^ω^)「――伏せろおッッ!!」

私は、内藤の腕が私の頭上を通過するよりも少しばかり早くしゃがみこんだ。
ソファから転げ落ちる。
と、内藤の足が物凄い音を立ててソファを蹴った。
転げ落ちながらも、私は視線を内藤へと向ける。

内藤は、兄者へとその切っ先を振るっていた。
しかし防がれ、一歩後退。テーブルへと飛び乗った。
その後退すらも信じられない速度で移動し、一歩の跳躍でソファを跳び越える。
威力を示すように、ガラス張りのテーブルが砕ける。

ξ;゚听)ξ「内藤っ!!」

地を這いつくばりながらも、私はソファの向こう側を覗き込んだ。
糞、こんな時に腰抜かすなんて……。

ソファを陰に、覗きこむ。

( ^ω^)「おおおおおお!!」

(´<_`;)「お、お、うわっ、どおわ!」

内藤は狭い部屋を活かし、突きを弟者に向けて連続して見舞う。
しかし相手も流石は三十三人を殺した鬼違いと言おうか、
その突きをナイフでいなしては避け、いなしては避けを繰り返していた。

99 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 22:10:01.58 ID:FfmGANbz0
( ´_ゝ`)「させん!!」

そこに、内藤の背中へ向けて兄者が駆けだした。
私は端から眼中にないのだろうか。
いや、殺すなって言ってたからそういうわけではないんだろうな。
私に戦う意思がないからほっといたんだろう。

だが、果たして内藤に勝てる見込みがこの二人にあるだろか?
確かに経験値はある。レベルも高い。
内藤の攻撃を防いでいられるだけ評価できる。
それでも――

( ^ω^)「っ――」

内藤が、勢いよくまたも鮪引きを振るい、弟者を吹き飛ばした。

( <_ ;)「うおっ――」

一瞬、バランスを崩す。
内藤はそのタイミングを逃さない。

( ^ω^)「――おぉ!」

ズン、と、綺麗に心臓を切っ先が貫く。
弟者の口から呻き声が上がる。

しかしまだ終わらなかった。

103 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 22:13:13.31 ID:FfmGANbz0
内藤が、一瞬で手の中で鮪引きを回転させて逆手に取ると、勢いよく後ろに突き出したのだ。

( ゚_ゝ゚)「がっ!?」

一体、この内藤という奴は、何がどうなっているんだろうか?
もしや、後ろに目でもついているんじゃないだろうか?
そう問いたくなるほど、内藤の攻撃は的確で、恐ろしかった。
刀身は、兄者の肝臓を貫いていた。
兄者の背中から突き出た切っ先が、それを教えてくれている。

兄者は、突き出した右手を、静かに脱力させていく。
その右手に握っていたナイフが、床に落ちて高い音を響かせた。

( ^ω^)「どうかお、自分の血は」

内藤が、その状態のまま問う。

(; _ゝ゚)「ひゅっ、ひゅっ……そ、そう、だなあ」

矢継ぎ早な呼吸が何とも痛々しい。
ああ、もう、これは死ぬのだ。

(  _ゝ )「やはり……ひゅーっ……うつく……しい……」

そして、吸血鬼は息絶えた。

105 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 22:15:22.43 ID:FfmGANbz0
死体はそのままに、私と内藤は部屋の中を調べ始める。
招き通された部屋――殺人現場と化した部屋には、何も無かったようだ。
たぶん、来客用の部屋だろう。

適当に扉という扉を開く。
そう広くは無い間取りだ。直にそこは見つかった。

ξ;゚n゚)ξ「!」

扉を開けて、私は鼻腔から侵入してきた匂いに驚き、咄嗟に手で口と鼻を覆った。
血だ。噎せ返るほどの血の臭いが、その部屋には漂っていた。
少なからず予想はしていた。その扉を見つけたとき、既に臭いは外まで漏れていたからだ。
扉はダンボールやら廃棄物やらで塞がれていた。
これでカモフラージュのつもりなんだろうが、あまりにも怪し過ぎるだろう……。
おまけに、臭いでばれるってもんだ。

( ^ω^)「こりゃ凄いお」

内藤は感心したような声を上げる。
ほおー、と興味深そうに部屋へと乗り込んでいった。
私もそれに続く。

部屋には訳の分からないものが多かった。
名前が分かるのはビーカーやアルコールランプくらいで、他は専門的すぎて知らないものばかりだった。

107 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 22:18:01.44 ID:FfmGANbz0
( ^ω^)「ここで作業を行ってたみたいだおね」

言われずとも分かる。
未だに棚や机の上に並ぶガラス質の容器のなかに、大量の血液が保管されているのだから。

ξ;゚n゚)ξ「あんた、平気なの?」

口と鼻を塞いではいるが、それでも防ぎきれないほどの酷い悪臭。
内藤は普段通りの表情で手で覆うこともせずこう言う。

( ^ω^)「まあ、慣れてるから」

……そりゃそうか。
鬼違いといえども、そりゃ血は通ってる。
奴は殺す度にこの臭いを経験しているんだ。慣れもするか。

( ^ω^)「しっかし、早いうちに見つけられてよかったお」

と、内藤が血液の入ったフラスコを手に取って言う。

ξ;゚n゚)ξ「え?」

( ^ω^)「犯人だお。犯人」

108 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 22:21:00.75 ID:FfmGANbz0
ああ、それは頷ける。
奴ら、殺すのには金が要るといっていた。
既に必要量の血液を所持しているのにも関わらずだ。

つまり、奴等は何れ、また殺す予定があったと言う事だ。
今ある血をすべて使い切り、金が溜まり次第、また化粧水やら何やらを作ろうとしていたんだろう。

( ^ω^)「津出さんは、どうなんだお?」

ξ;゚n゚)ξ「何が?」

これ、と言って内藤がダンボールに入った化粧水を指して言う。

( ^ω^)「これ、欲しいかお?」

……いるわけないだろうが。
  _,
ξ;゚n゚)ξ「誰が好き好んでこんなの使うか!」

( ^ω^)「でも、やっぱ女の人だし」

ξ#゚n゚)ξ「こんなの使ってまで綺麗になりたか無いわよ!」

同じ人間の血だぞ!そんなの身につけられるわけがないだろう!

112 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 22:24:00.76 ID:FfmGANbz0
( ^ω^)「けれどもね、津出さん。ほら、エリザベート・バートリー」

またそれか。
それがどうしたんだ。

( ^ω^)「事実、彼女は終身禁固刑になるまで、つまり血を浴び続けていた間」

彼女は確かに美しかった。
そう内藤は言った。

( ^ω^)「血に美容効果があるかは知らないお。けれども実際、あの兄弟も美顔だったお?」

そう言われて私は頷く。
確かに、あの兄弟は二人とも誰もが羨む程の美顔だった。

( ^ω^)「だから、ほら、効用はあるんじゃないかお」

ξ;゚n゚)ξ「……だからって、使わないわよ、私は」

そこまでして手に入れるほど、価値があるものなのか。
確かに美しくありたいさ、女ですもの。
何時でも綺麗でいたいさ、乙女ですもの。
だからと言ってですね、そんな畜生の道に堕ちてまで手に入れたくはないぞ。

114 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 22:27:02.70 ID:FfmGANbz0
( ^ω^)「ですおねー」

……こいつ、分かってて聞いてきたのか。

ξ#゚n゚)ξ(UZEEEEEEEE!!!!)

けど、と内藤が呟く。

( ^ω^)「僕も最近肌荒れが目立つようになってきたし……折角だから貰ってくかお」

おい、おいちょっと待てお前。
何してるんだお前は。

( ^ω^)「え?ああ、そうか、これじゃ窃盗になるかお?」

えーと、財布財布、と内藤がズボンのポケットに手を伸ばす。

ξ;゚n゚)ξ「いやいやいやいや!おま、頭おかしいんじゃねーの!?
       マジでそれ使うの!?」

( ^ω^)「え?ダメかお?」

万札を放り投げてから、内藤は不思議な顔をして私を見つめる。

( ^ω^)「だって化粧水だお。使わずしてどうするんだお」

115 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 22:30:00.76 ID:FfmGANbz0
いや、確かにそうだ。
だがこれの原料が何か、お前も知っているだろう?
現在進行形で見ているじゃないか?

( ^ω^)「ああ、そういうことかお」

ぽん、と内藤が手を打つ。

ξ;゚n゚)ξ「あんたが異常なのは知ってるけど、これを使うのはいくらなんでも……」

すると、内藤の手が私の肩に置かれる。
な、何だよ。

( ^ω^)「変わらんお。返り血を纏うのも、化粧水を塗るのも」

一瞬、私はそれを見た。
ほんとうに切なく、悲しく、そして泣きそうな、内藤の表情を。

( ^ω^)「……さあ、津出さん。そろそろ死体の処理を始めるから手伝ってくれお」

内藤が何ともない調子でそう言う。

117 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 22:32:09.19 ID:FfmGANbz0
ξ゚ -゚)ξ「……分かったわよ」

私はたぶん、一生忘れない。

あの殺人鬼の見せた、一度だけの表情を。
内藤という人間の、悲しい一面を。

124 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 22:44:45.48 ID:FfmGANbz0
 
 
三 其の四
 
 
127 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 22:48:18.21 ID:FfmGANbz0
内藤という人間は、果たして何なのだろうか。
奴は私の事をよく知っている。
だが私は奴の事を、そこまで詳しくは知らなかった。

確かに数週間前、奴を観察していたから、学校生活での奴を理解している。
だが、私は奴の本質の部分を理解していなかった。

何故、奴が鬼違いを殺す事になったのか。
何故、機関などという所に属しているのか。
何故、学生として過ごしているのか。

疑問は尽きることを知らない。
その実、奴は謎ばかりだったのだ。

川 ゚ -゚)「で?」

ξ;゚听)ξ「え?いや、その」

次の日。
私は直と共にまたもや図書室で、仲好く弁当をつついていた時に疑問を口にした。
幸い既に夏休みに突入したので、図書室には人がいないから、こういう話を口に出せる。
何故夏休みなのに学校に居るかって?補講だよ糞め。
まあ直がいたのには驚きだけども。

130 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 22:51:00.09 ID:FfmGANbz0
しかし、今日の直はどこか不機嫌だった。
何故か苛々している様子で、態度も素っ気ない。

ξ;゚听)ξ「いや、だから、直なら内藤の事詳しいんじゃないかなあって思って」

川 ゚ -゚)「そんなもん、直接本人に聞け」

あっさり拒否された。
それができないからお前に聞いてるんだが……。

川 ゚ -゚)「ビビってるのか?」

ξ;゚听)ξ「び、びびっとらんわ!」

これは嘘。
正直、聞くのが怖い。
何だか触れちゃいけない事のような気がするし。
下手して逆鱗に触れでもしたらそれこそ御陀仏だ。

川 ゚ -゚)「……何れ話す機会が来るだろうよ」

そうとだけ言って直はオムレツを頬張る。
あ、それ私が楽しみに取っておいた奴だぞ!

131 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 22:54:01.35 ID:FfmGANbz0
ξ;゚听)ξ「しっかし、あんた今日はやけに機嫌悪いわね」
  _,
川 ゚〜゚)「当然だ」

もぐもぐと口を動かしながらそう言う。
ちょっと可愛いと思ってしまった。

ξ;゚听)ξ(えええ私そっちの気あるのか!?)

つーか前々から思ってたんだよ。
なんか私女と絡むと変な感じになりますよね。
特に零と居ると百合ってますよね。

ξ;゚听)ξ(これはちょっとマズイかも)

自分の隠れた性癖に若干戸惑いつつも直の言葉を待つ。

川 ゚ -゚)「げふっ……ほら、昨日の」

ξ゚听)ξ「昨日?」

川 ゚ -゚)「見れなかったからだ」

133 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 22:57:00.84 ID:FfmGANbz0
ああー……そうか。
直は、鬼違いが殺される瞬間を見れなかったな。
昨日のやりとりを思い出す。


( ^ω^)「あ、もしもし、空かお?」

『どうした内藤。何かあったか?』

( ^ω^)「あー、その、犯人見つけたんだお」

『なんだと?場所は何処だ?』

(;^ω^)「その、あー……もう殺しちゃったんだけど」

『……は?』

(;^ω^)「と、とりあえず、車まわしといてくれないかお?死体運びたいから」

『死ね』

プツッ、ツーッ、ツーッ。

死体をシートで包んでいる私に、そんなやり取りが聞こえてきた。
内藤は私に振り替えると、やれやれと肩をすくめて私の作業を手伝うのだった。

136 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 23:00:02.59 ID:FfmGANbz0
ξ;゚听)ξ「けど、そこまで怒らんでも……」

川#゚ -゚)「馬鹿野郎、これは私にとっては死活問題だ」

そこまで言いますか。

川 ゚ -゚)「お前はいいさ、目的を果たせてるんだから。私は次の事件までお預けだよ」

そう言って直は憂鬱そうに溜め息をつく。
まあ、そうだな。
私は昨日、それなりに強い緊張感を味わった。
お陰か何なのか、今日目覚めたとき、何故かすっきりしていたのを覚えている。

川 ゚ -゚)「肌はまだ荒れとるがな」

ξ#゚听)ξ「うっせ」

ところで、と直が呟く。

川 ゚ -゚)ノ「ん」

直が手を差し出して、私におねだりをする。

137 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 23:03:05.63 ID:FfmGANbz0
ξ゚听)ξ「……はいはい」

私はあらかじめ持ってきた鞄から、昨夜素直に頼まれた物を引っ張りだした。

川*゚ -゚)「ほお、これがその化粧水か。中々どうして、そそるね、うん」

直曰く。
この容器の中には死の香りが詰まっていると言う。
まあそりゃそうだ。人を殺して、そしてその死体から得た血を使って作ったんだ。
これは或る意味、直の求める物に近いんじゃなかろうか。

川 ゚ -゚)「死に様が見れなかったのは残念だがこれで我慢するとするか」

直がコットンを取り出し、そこに液体を数滴落とす。
それを彼女は頬に塗りたくる。

ξ゚听)ξ「…………」

まあ、流石に慣れたもので。
少し前の私なら、きっと直を軽蔑し、嫌悪を抱いていただろう。
だが悲しいかな私の順応力よ。
既に仕方ないと言った感想しか抱かなかった。

138 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 23:06:00.88 ID:FfmGANbz0
川 ゚ -゚)「ところで津出」

直がパッティングしながら私に訊ねる。

川 ゚ -゚)「お前、何だかんだで内藤の事結構好いているんじゃないか?」

ξ )ξ「ブボオ!!」

飲んでいたミルクティーを噴き出す。

おk、ちょいと待ってはくれませんか直さん。
私は決してそのようなもの内藤に抱いたりしてはいませんが。

川 ゚ -゚)「そうは言っても、聞いてる限り実に相性もよさそうだし、言うことは聞いてるし、いい感じに思えるが」

ξ#゚听)ξ「ざけんなゴルァ!誰があんな豚野郎!」

まあ落ち着けよ、と直が宥める。
お前のせいだろうが!

川 ゚ -゚)「だが、不思議とあいつと一緒に居ると、安心するだろ」

そう言われて私はぎこちないながらも少しだけ頷く。
認めたくはないが、事実だ。

139 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 23:09:00.53 ID:FfmGANbz0
何だかんだで、あれは頼りになるし、いざとなると心強い。
前回、私を助けてくれた件もあるから少なからず感謝も抱いてはいる。

川 ゚ -゚)「先に言うけど、私と内藤は付き合ってるとか、そういう関係ではないぞ?」

ξ;゚听)ξ「え?」

と、衝撃の事実が明かされた。
マジで?あんな息ぴったり相性抜群そうな直と内藤が実は恋仲ではないとな?

川 ゚ -゚)「昨日言ったと思うがな、津出よ」

すっと私を指す。
お前も内藤も、好きだなそれ。

川 ゚ -゚)「私達は人を殺さない。内藤が居るからな」

それが答えだと言ったよな。
そう直は確認してきて、私は頷く。

川 ゚ -゚)「私達が安全な鬼違いたる理由さ。奴がいるから私は殺さずに済む。
     そしてそれはお前にも言えるんだ」

ξ;゚听)ξ「……え?」

144 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 23:12:01.72 ID:FfmGANbz0
と言われても、よく分からない。

川 ゚ -゚)「答えは簡単だ。内藤と鬼違いが戦闘を繰り広げる。この時点で既にお前は極度の緊張感を得ているからだ」

言われてはっとした。
そういえば……欝田ドクオの時も、若手益男の時も、そして昨夜も。
どれも私は緊張感に包まれ、身動きもできない状態ばかりだった。
昨日なんて腰を抜かすほどだったし。

川 ゚ -゚)「まあ当然だな。普通に生きていれば、殺し合いなんか生で見る経験あるわけない」

慣れないものばかりを見たんだ。
血だとか、刃物だとか、歪んだ顔だとか、変形した身体だとか、死体だとか。

川 ゚ -゚)「だからお前は殺さないで済むのさ」

毎度、刺激は違う。
状況も違うから、経験したことのない緊張感が私を襲ってくる。
一先ず、私は安心して人間らしい生活を送れるとみていいのだろうか?
最も、それは内藤があってこそ成り立つ生活なのだが。

川 ゚ -゚)「まあそうだな、そんなとこだ」

ああ、と実感する。
私って、直とまったく一緒だったんだな、って。

147 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 23:15:00.45 ID:FfmGANbz0
内藤という人間がどんな人物かは私にはまだよく分からない。
知っていることと言えば包丁オタクで殺人鬼だということくらいだ。

ξ゚听)ξノ ガラッ

自分の教室の戸を開いて、自分の席に座る。
ふいに視線を感じて私はそちらを向いた。

( ^ω^)「津出さん」

なんとこの殺人鬼も補講だったらしい。
まあ普段寝てばかりだから当然かもしれないが。
これ、と言って内藤が親指と人差し指をくっつけて私に見せる。
ああ、報酬か。

ξ;゚听)ξ「後でいいわよ……っていうか、なんかそういうの渡されると、やっぱり実感が湧くわね」

別に自分が殺したと言う訳ではないのだけれども。
だがその封筒の厚みを見ると、嫌が応でも考えてしまう。

あれが人間二人分を殺して手に入るものだ。
凡そ云百万。
人の命って言うのは、高校生の私から見ても、安いのかもしれない。

人の命を金に換算したら、平均はどのくらいだろうか?
私はその平均を越えられるだろうか?

150 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 23:18:00.80 ID:FfmGANbz0
無理だろうな、と思う。
人殺しに関与して、犯罪を正当化する世界で私は生きている。
そんな汚れた魂を換算したところで一円の価値もないだろう。

だが、内藤にはそれはどのように映っているのだろうか。
奴は金を渡されるとき、それをどのような想いで見ているのだろうか。
単なる札束程度にしか思っていないんだろうか。
それとも汚れた物だと、軽蔑の眼差しを向けるのだろうか。

内藤は人間だ。
ただ超感覚を持っていて、殺人鬼なだけで、後は人間だ。
私や直とは違う。人殺しに慣れているだけの人間だ。

ξ゚听)ξ「ねえ、内藤」

( ^ω^)「なんだお?」

奴は何時でも微笑む。
そのにこやかな顔は、果たして誰に向けているのだろう?

鬼違いに殺された人々へだろうか。
はたまた殺してしまった鬼違いへだろうか。
それとも、自分に向けてだろうか。

156 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 23:21:03.25 ID:FfmGANbz0
ξ゚听)ξ「……誕生日、いつよ」

(;^ω^)「は?何だおいきなり」

私は忘れない。
慈悲も情けもないと思っていた殺人鬼のあの表情を。
悲しみに包まれた内藤のあの弱さを。

ξ#゚听)ξつ「いいから教えろコノヤロー!!」

(^ω^;)「いでっ!な、何も殴る事ないだろうお!言うから、言うから!」

奴が何時から人を殺しているかは分からない。
奴が殺す時、何を思っているのかも分からない。

だが殺人鬼は微笑んだのだ。
体を血に染め、それでも、弱々しく微笑んだ。

そう。
悲しく、切なく、寂しげに。
 
 


163 名前: ◆io1Iv96tBU 投稿日:2009/09/12(土) 23:23:25.01 ID:FfmGANbz0

今回内藤が使用した包丁は以下の物でございます
http://www.houcyoya.com/img/tojiro/F-929.jpg
鮪引き、鮪包丁とも言います
一見刀と見間違えるようですが、この包丁、とても撓るので解体には持ってこいです
大きいもので二メートルなんてのも存在しております

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