ξ゚听)ξ殺人鬼は微笑むようです

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 19:56:12.31 ID:qXfoG8NG0
 
匕首は何も語らない。
 
ただ妖しく光り、血に飢える。
 
今か今かと獲物を待つ。
 
匕首は何も語りはしないのだ。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 19:57:03.79 ID:qXfoG8NG0
 
 
六 其の一
 
 
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 19:58:14.92 ID:qXfoG8NG0
どーん、ぱーん。
音は響く。
火の花は夜空に咲き誇り、火薬の匂いや夜店の独特の香りが夜風に流されていく。
どこかしら、遠いような近いようなところから祭囃子や人々の声が微かに聞こえてきた。

八月の夜空は思ったよりも広く、明るかった。
今、また新たな花火が打ち上げられ、そして鮮やかに夜空を彩る。

夏だった。
夏で、夏祭りだった。
過ぎていく子供の声、それを追う親の声。
童心にかえったような、そんな気持ちになれた。
童心といってもまだ高校二年生だから、言っても説得力のかけらもないのだろうけれども。

けれど。
心の底から楽しい。
そう思えた。

*(‘‘)*「お姉ちゃん」

どーん、ぱん、と。
大きな花火が私と少女を照らし、影を強く残す。
お互いの影を、色濃く、隅々まで。

ξ; )ξ「……勘弁願いたいわよ、本当」

少女の手には鋏が。
そして私の手には匕首が。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:00:27.38 ID:qXfoG8NG0
花火よ、どうか今一度枯れ果ててはくれないか。
願わくばこの光景がすべて夢幻であってほしい。切にそう願った。
だが悲しきかな。
彼女の手にも、私の手にも、それはあるのだ。
八月の月に照らされ鈍く光る鋭い鉄の塊が。
花火に彩られ闇の中に形をしっかりと得たものが。

ξ; )ξ「ほんと、さ」

彼女の足元には細切れになった何かがある。
できるならば認めたくはない。それの存在を拒否したい。
そして彼女の顔や衣服が血塗れになっていることも、無かったことにしてしまいたい。

神よ。腐れ外道の糞っ垂れで愚鈍なる神よ。
この世に鬼違いなる哀れな存在をつくった木瓜茄子の神よ。

ξ; )ξ「ねーから、マジで……」

殺せと言うのか。この少女を。
殺せと言うのか。この私に。

匕首をぎゅっと握りしめる。掌の汗が匕首を握った隙間から垂れた。
喉が鳴り、体の至る所が引き締まるのを感じた。
アドレナリンが大量に分泌されている。興奮を得ている。

*(‘‘)*「遊ぼうよ、お姉ちゃん」

じゃりっと少女は砂の地面を蹴り、私に突っ込んでくる。
咄嗟に私は匕首をわけもわからず、目の前に横に突き出した。
ぎん、と、うまい具合に少女の鋏による攻撃を奇跡的に受けることに成功していたようだった。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:02:03.09 ID:qXfoG8NG0
内藤、直。
どうすればいい。私は今、この少女をどうすればいい。

*(‘‘)*「ね、遊ぼう?」

鍔迫り合いの最中、少女は幼い声で私に喋りかけてくる。

ξ; )ξ「ざっけんなよ、マジで……!」

遠くから響く祭囃子と花火の音が、この異次元と化した空間をより意識させた。
人っ子ひとりいない、この隔離された林の中。

私は少女を殺そうとしていた。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:04:56.11 ID:qXfoG8NG0
宇宙の始まりはビッグバンと呼ばれる大爆発であったとされている。
既に宇宙が誕生してから137.2±1.2億年。
日々膨張を続け、止まることを知らないらしい。

そんな大いなる宇宙の中の銀河の中の一つの小さな小さな星、地球。
約46億歳であるこの星では様々な命が生まれ、消え、また生まれ続けてきた。

水中の微生物から始まり、海から陸へ、そして空をも飛べるにまで進化を遂げてきた。
地上を歩く猿はいつしか知恵を持ち、脳を発達させていき、やがて火を熾し、狩りを覚え、そして人となったのである。
これほどの歴史の中、今存在する我々とは果たして何なのだろうか?
この平成の世に至るまで凡そ二千年。私たち人類が築き上げてきた歴史だ。
しかしその歴史もまたなんと短く、底の浅いことか。

これほどまでにちっぽけな我々人類が大いなる地球、
しいては宇宙を総べようなどと過ぎたことを言うのはおこがましく、馬鹿げているのである。
小さく脆弱であり、学習をせず、常に争い、妬み、正に醜悪である人類には、には、には……

ξ#゚听)ξφ「――庭には二羽鶏がニルヴァーナああああああああああああ!!!!!!!」

みんみんと蝉の鳴き声が聞こえる糞暑いこの夏真っ盛りの夏休みのある日のこと。
私は課題の自由レポートを直に渡された本を読みながら書いていました。

どうも皆さん。愛しのヤンキー鬼違い、鶴子ことツンです☆
長い長い長い長い夏休みに感じるのは気のせいですよね?うん問題無い!

ξ#゚听)ξつ「つーかなんだよこの訳の分からない内容はあああああああああああああああ!!
       何かの宗教かこらああああああああああああああああああああああああああ!!」

絶叫し、私は直から手渡された本を壁にたたきつける。
ばしん、と虚しく床に落ちる音がして、「人類撲滅説論」という背表紙が恨めしそうに私を睨んでいた。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:07:04.60 ID:qXfoG8NG0
ξ;゚听)ξ「つーかまじアチイ。暑くて無理、死ぬ、まじで死ぬって」

世間では新記録を更新するといわれている猛暑のこの夏。
現在室温四十一度。暑い。やばい。

ξ;凵G)ξ「なんでだよ……なんでクーラー潰れたんですか……リビングが、我がオアシスが……」

えー、ここ津出家では現在、たった一つしかなかったリビングのクーラーがこの暑さでご臨終となってしまいました。
いやお前ふざけんなよと。空気読めよと。空気読まなくてもいいから空気送れよと。

ξ;凵G)ξ「畜生ボケにもキレが……キレがでねえ……」

キレテナーイ!なんていうセルフツッコミは虚しく無人のリビングに響くのみであった。

さて、そんなこんなで夏休みも残すところ後一週間である。
この夏休み、記憶にあるのは青い海、白い砂浜、遠く向こうから呼ぶ友達の声……。

ξ#;皿;)ξ「補講と会合とレポートしか記憶にねえええええ!!」

あはは青春まっただ中なのに。高校生なのに。

そうです、そうなのです。
この夏休みを私は完全にエンジョイすることができなかったのです。
理由は色々とありますが一番の理由といえばやはりあの殺人鬼と鬼違い以外にほかなりません。

ξ゚听)ξ「…………」

ふと奴等の顔を思い浮かべた途端、私は冷静になった。

そういやあ、あいつ……。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:10:08.93 ID:qXfoG8NG0
ξ゚听)ξ「……まあいいか」

さて、と気を取り直して気が狂いそうになる部屋の中で私はレポートを再開しようとシャーペンを握った。
生憎扇風機なんていうものもないのでね、冷えピタを額に張るくらいしか対処のしようはないのだよ。
ペロペロと額から剥がれてくる冷えピタを手で押さえながらそんなことをぼやく。

さー、あと何枚だったかな、と残り枚数を書いておいた紙をペラっと見る。
教師から要求された枚数をこなせば、単位は保障してやると言われたこのレポート。
これさえやりきればしばらくは安泰!

ξ゚听)ξ「ごひゃくじゅうよんまい」

ξ゚听)ξ

ξ゚听)ξ

ξ^凵O)ξ「無理!」

人生諦めが肝心と言う。私は先人の言葉をよく理解しているのだろう。
悟りとは諦めと書いて悟りと読むのだ!

ξ;゚听)ξ「しっかし、マジであちーなおい。どうかなっちまってんじゃないの地球?」

暑いうえに、暇である。
ふいに寂しくなってリビングを見渡してみるが、愛しのマイラブリーエンジェル零たんは何処にもいなかった。
そう、いないのである。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:11:53.96 ID:qXfoG8NG0
その唯一の私の味方であると思っていた零はというと。

ζ(^ー^*ζ『ちょっと友達と遊んでくるね』

ξ;凵G)ξ「リア充死ね!!」

なんとも酷い裏切りがつい数時間前にここ津出家では起こっていたのだった。

そんな暑さと無気力でリビングを一人転がり続けること数分。

ξ゚听)ξ「そうだ水風呂に入ろう」

などと奇特なことを私は思いついたのだった。

思いついたが吉だ。早速私は風呂釜に冷水をはった。
しかしこれだけでは平凡すぎて面白みがなく、またチャレンジ精神というものがない。
人間生きる上でチャレンジ精神というものはとても重要だ。
ならばと私は冷凍庫からありったけの氷を取り出すと、それを水風呂の中へとぶち込んだ。
かちかちと氷が水の中へと沈みこんでいく。

ζ(゚ー゚;ζ「……何やってるの?」

ξ )ξ「ワカラナイ……ワタシニハナニモワカラナイ……」

結局その氷水の中、
三十分の入浴――しっかりと肩まで――という銭湯精神を見せつけた私の水死体を零が見つけたのは一時間後のことであった。
リビングの中心で水滴を垂らしながら寒さに震える全裸の私に、零は呆れたように問いかけ、そっと毛布をかけてくれた。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:14:13.12 ID:qXfoG8NG0
川 ゚ -゚)「うわキモッ」

ξ )ξ

川 ゚ -゚)「これが幽霊ってやつか?唇真っ青顔真っ青。おっとあそこはピンクだな。ははははは」

ξ )ξ

川 ゚ -゚)「あー腹減った。零たーん、ご飯ー」

ζ(^ー^*ζ「はーい、ちょっと待ってて下さいねー」

川 ゚ -゚)「しっかし暑いな。おいこらヤンキー。そこ濡れてるから拭いとけよ」

ξ )ξ
 
 
 
ξ#゚听)ξ「いや何でお前がおんねん!!!!」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:17:18.06 ID:qXfoG8NG0
川 ゚ -゚)「いやいやだってここ来れば飯タダだし?美味しいし?」

ξ#゚听)ξ「完全に乞食じゃねーか!!」

川 ゚ -゚)ノシ「まあまあ落ちつけよ。ほら、この椅子に座ってもいいぞ」

ξ#゚听)ξ「そこ私の席ですけどね!!」

川#゚ -゚)「お前の席ねえからあああああ!!」

ξ#゚听)ξ「こっちの台詞じゃぼけえええええええええええ!!」

我が聖域に突如現れたこの悪魔の名前は直空といい読みはスナオクウである。
私の通う高校一のマドンナと称され、噂にたがわぬ才色兼備である。
その美しき美貌と 普 段 の 直を見ていれば誰もが納得するであろうが、
新の素顔を知っている私には到底あり得ないことだと思っている。
つーか大魔王だろ。

糞、以前家に来た時に素麺なんか食わすから習性がついちまったか。
お前は野生の猫か何かか?え?

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:18:58.28 ID:qXfoG8NG0
糞、以前家に来た時に素麺なんか食わすから習性がついちまったか。
お前は野生の猫か何かか?え?
  ∧ ∧
m川*゚ -゚)m「くーにゃんおなかしゅいたにゃん!たべもにょたべたいにゃん!」

ξ゚听)ξ「生きてて恥ずかしくないの?」

川 ゚ -゚)つ「おーっと直選手の幻の左ー!!」

三三三川 ゚ -゚)つ)听)ξ ボヘェ

ξ#) )ξ「いでええええええ!!??」

ζ(^ー^*ζ「仲いいなあ二人とも」

そんなこんな騒がしい食卓となったのであるが……。

川*゚〜゚)「うめえ!!うめえ!!」

ξ  )ξ(私のおかずも全部食った……だと……?)

相も変わらぬその暴君っぷりで平和でゆったりとした一時は戦時中宜しく飢えを耐え忍ぶ時間となるのであった。
糞っ!つーか少しは遠慮しやがれ糞尼が!

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:20:43.26 ID:qXfoG8NG0
川*゚〜゚)「おいおいどうした津出、食わんのか?」

こんなに美味しいのに、と私の味噌汁を飲み干してそう言う。
知っていますとも。ええそれは誰よりも何よりも知っていますとも。
何故なら?我が愛しの妹に?毎日?作ってもらっているわけですから?

ξ#; x;)ξ「うめえなあ……零たんの炊いたお米と市販の梅干はよお……五臓六腑に染渡りやがるぜ……」
  _,
川*゚〜゚)「なんだお前貧乏臭い。そんなんだから成長しないんだぞ。主におっぱいとか」

ξ#;凵G)ξ「ぶっ殺す!!」

こいつはマジでどうしようもない程の腐れ外道か!

ζ(゚ー゚*ζ「でも、珍しいよね」

ξ゚听)ξ「え?」

ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんがお友達連れてくるの」

っていうか初めてじゃないかな、と零は呟く。

川 ゚ -゚)「お前……妹にまで友人関係心配されるとかマジパネエな……」

ξ#゚听)ξ「うっせーぶち殺すぞ!」

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:23:39.14 ID:qXfoG8NG0
いやまあそりゃあ、ねえ。
今までつるんでいたやつらが、所謂不良って言うカテゴリーの人種でしたし。
最悪零に手なんか出されたら世界崩壊どころの騒ぎじゃないし。
そりゃあ女の不良も中にはいたけど、あいつら煩いし臭いしで、ねえ?

ζ(^ー^*ζ「だからなんか嬉しいなあ」

いやいや、そもそもこいつ勝手に入ってきただけだし。
つーか友達じゃねーから。マジで。うん、いや本当に。

川 ゚ -゚)ノシ「出た出たツンデレ。ほれほれ可愛い奴め」

ξ#///)ξ「てめ、こら、頭撫でんな!」

でもまあ……悪くはないかも。
なんて柄にも無いことを思うのは、きっとここ最近退屈な毎日を送っていたせいだろう。

川 ゚ -゚)「さーて飯も食ったし津出の部屋でも散策するか」

Σξ;゚听)ξ「いや帰れよってか何しようとしてんだお前!」

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:25:02.33 ID:qXfoG8NG0
三三三ヽ川*゚ -゚)ノ「バイブ!ディルド!浣腸!電マ!」

三三三ξ;凵G)ξ「やめろ無いから零の前で卑猥な単語を出すなあああ!!」

ζ(゚ー゚*ζ「バイブ……?ディルド……?」

ξ(;△;ξ「そんな単語使っちゃダメ!!」

あの糞鬼違い腹黒核爆弾がああああああああああ!!
人の家で無銭飲食だけでは飽き足らず我が愛しの妹に悪影響を与え、
さらに我が私物をおおおおおお!!

ξ#゚听)ξノ「ゴルァアアアア!!」

私の部屋の扉を開け放つと、なんと直の奴が、私の宝物に触れようとしていた。

川;゚ -゚)「こ……これは……」

ξ#゚听)ξ「おいそれには絶対に触るな!!」

直を退けてそれを腕の中に抱きしめる。
おおよかったよかった、傷はないだろうな?あの悪魔女のことだ、
触れていたとしたらへこみや引っかき傷の一つや二つあってもおかしくはない。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:26:58.91 ID:qXfoG8NG0
ξ*゚听)ξ「おー、よかった。なんともないみたいだ」

川;゚ -゚)「つ、津出さーん」

ξ(゚△゚#ξ「おま、直!次これに近づいたらただじゃすまさんぞ!」

と言って、私はその真っ赤な日焼けした、重量感のある――ギブソンレスポールスタンダードを突き付けた。

川;゚ -゚)「えええええええええぇぇぇ……」

ξ*゚听)ξ「おーよちよち、大丈夫でちたかー?」

なんか、直から憐れみの視線が突き付けられている気がしないでもないが気にしない。

川;゚ -゚)「意外すぎるだろ……お前がギターって……」

ξ--)ξ「ふっふっふ……直よ、この津出鶴子はな、根っからのロックンローラーなのだよ!!」

そうなんです。実は私ロックが大好きなのです。
唯一不良たちの間でも理解されなかった部分ですが、
流行りのJポップ?だとかレゲエ?だとかよりよっぽどいいものだと思います。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:29:54.93 ID:qXfoG8NG0
ξ*゚听)ξ「ああ、このチェリーサンバーストたんを手にしてから早幾年……。
       貯めに貯めたお年玉とお小遣い――全て零から――と、
       秘密裏で集めたお金――不良から巻き上げた――でようやく手に入れたレスポールたん。
       ペイジに憧れ、必死でブラックドッグやロックンロールを練習したのはいい思ひ出……」

ストラップを肩にかけ、レスポールを構える。
当然、腰の位置でだ。これぞペイジスタイルよ!

ξ#゚听)ξ「某糞池沼姉も同じモデル使ってたがあいつは死んで謝れ!五万で手に入れるとか死ね!」

私なんてな!これを手に入れるまでな!
ゴミ置き場から拾ってきたボロボロのメーカー不明のエレキギターをずっと使い続けてだな!
弦が錆びても切れるまで使い続けてだな!

ξ゚听)ξ「でもSGが一番好きなんだよね」

Σ川;゚ -゚)「うそお!?」

と、直がこほん、と咳ばらいをした。
相変わらずお前もあいつも好きだな、それ。

川 ゚ -゚)「まあ、意外な趣味があったのは分かったよ」

ところで、と直はつづけて、ギターを指す。

川 ゚ -゚)「何か弾いてくれよ」

ξ;゚听)ξ「え?」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:34:01.07 ID:qXfoG8NG0
川 ゚ -゚)「何か弾いてくれよ」

ξ;゚听)ξ「え?」

と、突然にそんなことを言われてしまった。

川 ゚ -゚)「あ?もしかして弾けないのか?」

ξ;゚听)ξ「ち、ちげーし!弾けるし!」

いや、弾けるから、本当だから!
ほぼ毎日暇があればギター弾いてるくらいだから!
何だかんだギター歴五年くらいだから!

ξ;゚听)ξ「いや、その、実は人に聴かせるのって初めてで……」

川 ゚ -゚)「そうなのか?」

ギターを私が弾く事を知る人なんて、それこそ身内――零――くらいだ。
不良達にはそういうジャンルの音楽には興味なんてないだろうし。
そもそも弾く機会が今まで一度もなかったんだ。
零が家にいるときだって、極力弾かないようにしてる――以前散々怒られたため――し。

川 ゚ -゚)「じゃあいいじゃないか。私が君の初めてをもらってやるよ」

ξ;゚听)ξ「……何か誤解の生じる言い方ね」

うーん……。
しかし、いざ、といわれるとなあ……。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:36:33.53 ID:qXfoG8NG0
川 ゚ -゚)「何でもいいぞ」

いや、それが一番困るんだって。
それにもう夜だからアンプ繋いで音出せないし……。

ξ;゚听)ξ「だー、何でもいいや!」

とにかく、適当に指の配置している場所から、私は咄嗟に愛しのレイラを弾いた。
うう、ハムではなくシングルコイルで鳴らしたい……。
まあアンプ繋いでないし、相手初心者だし分かんないでしょ。

ξ;゚听)ξ(う……弾き始めてなんだけど、なんか緊張する……)

本来、こういう人前で何かをすること自体苦手だ。
目立つことだって好きじゃない。
けれど。


川*゚ -゚)

ξ゚听)ξ

なんか、目、輝いてる……。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 20:38:19.30 ID:qXfoG8NG0
ξ*゚听)ξ(……ちっとばかりは嬉しいかも)

最後はアドリブも加えて適当にコードを鳴らして終わらせてみた。

川*゚ -゚)「おー、凄いな津出!馬鹿にも取り柄の一つはあるんだな!」

ξ#゚听)ξ「おちょくってんのかお前は!」

本当に失礼なやつだ!

川 ゚ -゚)「けど、大したもんじゃないか。私はそういうものに詳しくないから大それたことは言えないが、
     十分上手だと思うぞ?」

……そんな事を言われるのは意外だった。
てっきりまた、似合わない、だとかよく分からない、とか言われるものだと思ってた。

ξ*゚听)ξ、「い、いや、全然だよ。まだアドリブ下手だし、スケールだってペンタとかメジャー、
        マイナースケールくらいしか把握してないし、指運も小指からだと弱いし……」

なんだか急に気恥しくなる。
あの直の奴によもや褒められるだなんて、夢にも思っていなかったからだ。

川 ゚ -゚)「今の曲、内藤もよく聴いていたぞ」

ξ゚听)ξ「え?」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:40:40.11 ID:qXfoG8NG0
川 ゚ -゚)「同居していた時くらいかな。今も聴いているかは知らんが、久し振りに聴いたからなんか嬉しかったよ」

まさかあの内藤の奴が、エリック・クラプトンをねえ。
まあ愛しのレイラは名曲だし、あのリフは好きになるのも頷ける。

ξ゚听)ξ「内藤かあ……」

思い浮かぶのはあの憎たらしい顔だ。
にこにこしているくせに毒吐くわナイフ突き付けるわと最悪極まりない。
まったくこの直と内藤には酷い目にあわされてばかりである。

ξ゚听)ξ「あと三日で帰ってくるのよね?」

川 ゚ -゚)「ん、確かな」

直が私のベッドに寝転ぶ。ついでに私も隣に腰かけた。
こいつ、もしかして今日ここに居座るつもりか。

冷房のないこの部屋の中を、開け放った窓から少しだけ冷えた風が入ってくる。
相変わらず茹だる様な暑さの中、私は直と何故か私室で時を過ごしていた。

ξ゚听)ξ「何もないといいけど……」

川 ゚ -゚)「そういうのをフラグ、と言うんだ」

夏休みも後一週間のある日。
内藤は今、この街には居ない。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:42:19.87 ID:qXfoG8NG0
 
 
六 其の二
 
 
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:45:49.20 ID:qXfoG8NG0
深い深い海底から浮き上がっていくように、私の意識は覚醒していく。
まどろみの中、突き刺すような日の光と焦げ付くような暑さに気が滅入る。
糞、最悪な目覚め方だ。

ξ;--)ξ(あぢい……)

元々冷房の無かったこの部屋だが、常にリビングから垂れ流されていたクーラーの冷風が、
毎年この暑さを軽減させてくれていたのだった。
ちらりとベッドの上にある温度表の付いた時計を見ると、室温は三十五度。

ξ;-听)ξ(いつの間にかシャツ脱いでたんだ……)

視界に入る小さな胸を隠すピンクの生地。
夏は開放的とは言うが、流石にこれははしたないだろう。
まあ、誰も見ていないし、どうでもいいことだろうけれども。

さて、と体を起こそうとするも、何か重りのようなものが付いているように、体はうまく動かなかった。

ξ;゚听)ξ「……ん?」

なんだか右半身が妙に重い。つーかなんか暑苦しくないか?

ξ゚听)ξ「何が――」

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:49:02.04 ID:qXfoG8NG0
ξ゚听)ξ「何が――」

川 - -)zzz

ξ゚听)ξ

ξ゚听)ξ

ξ゚听)ξ
 
 
 
ξ )ξ ゚ ゚

時刻十時半頃。マンション中に私の叫び声が響き渡った。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:50:34.66 ID:qXfoG8NG0
川 ゚ -゚)「いやーうっかりうっかり。まさか全裸でしかもお前に抱きついて寝るとは思わなかったよ」

ξヽ )ξ「貞操の危機を感じたわ。つーかせめてブラとパンツぐらいしてくださいお願いします」

川 ゚ -゚)「えぇ……だって寝るとき苦しいし……」

朝飯をリビングで食べながら、先ほどの事を思い返していた。
察しの通り、なんと直の奴が私に全裸で抱きついて眠っていたのである。
不覚にもおっぱいでけーとか寝顔可愛いなーとか思ったのは秘密だからね!

ξ;゚听)ξ「っていうか、あんた床で寝かせたはずだった気がしたけど?」

川 ゚ -゚)「だってー床痛いしー」

いつの間にか潜り込んできていたらしい。
まったく迷惑なやつである。

ζ(゚ー゚*ζ「でも、もう少し二人とも早く起きようね」

はい、とエンジェルスマイルで私と直の前にトーストとコーヒー、目玉焼きを置いて零が言った。

川*゚ -゚)「朝飯ktkr」

ξ#゚皿゚)ξ「はふはへいほいへへいほ!(まずは礼を言え礼を!)」

ζ(゚ー゚*ζ「食べながらしゃべらないの!」

ξ;゚〜゚)ξ「……はぐはぐ……ヘイヘイ……」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:53:22.90 ID:qXfoG8NG0
新鮮な光景だった。朝起きて、私と零以外の誰かがいる家。
特別仲がいいわけではないし、友達と呼べるかもわからない関係にも関わらず。
けれど、少し照れくさいというか、落ち着かなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「そう言えば今日、近くの神社でお祭りあるよ」

川 ゚ -゚)「あー、そういやここら辺ってこのくらいから祭だったっけか」

そう言われればもうそんな時期だ。
私の地区は、夏休みの終わり頃に祭が開かれる。
特に大したものではないが、この片田舎では少しばかり珍しいくらい人が訪ねてくる。
夜店も結構出ていて、花火大会まで開かれているのだ。

川 ゚ -゚)「なー津出。祭いかないか?」

ξ;゚听)ξ「は、はい?」

そんなことをぼんやりと考えていると、突拍子もなく直の奴が祭の誘いをかけてきた。

皆様。こんなこと、いいのでしょうか?
この私津出鶴子、人生で一度たりとも零以外の人と祭だなんてリア充な所行ったことがございませんでした。
苦節十七年にして!ついに!ついにお誘いが!

ξ;凵G)ξ(鬼違いからだけどね!)

畜生……!普通の奴なら!せめて鬼違いじゃなければ……!

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:55:00.63 ID:qXfoG8NG0
川 ゚ -゚)っ「なーなー行こうよ行こうよ津出ーデートだデートー」

ξ<゚△゚;ξ「分かった、分かったから頬を引っ張るな!」

あれ、なんか流れで約束しちゃった。やべえ何かリア充っぽい!不思議!

ζ(゚ー゚*ζ「あっ、もうこんな時間だ!」

突然に、零が壁に掛けてある時計を見て慌てだす。

ξ゚听)ξ「? 何かあんの?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん、今日ね、ちょっと友達と遠くに出掛けるんだー」

へ、へぇー……と、遠くにねぇー……。

ξ;゚ー゚)ξ「そ、そう?まあ、あまり遅くならないようにしなさいよ?」

ζ(^ー^*ζ「うん!お姉ちゃんもお祭り楽しんできてね!」

じゃあもう行くから、と、零は風のように去って行った。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:56:58.67 ID:qXfoG8NG0
ξ;゚ー゚)ξ「……くくく」

ξ;゚∀゚)ξ「くく……くはは」

ξ゚∀゚)ξ「くはははははは!!見たか直!!今のリア充同士の会話っぷりを!!え!?おい!?」

川 ゚ -゚)「あーそーすねー」

やっべ!これやっべ!すっげえなんか充実感って言うか!
何これ超楽しいんですけどみたいなちょべりばお風呂場喋り場!
今の私はガチで輝いてるね!うんたぶん十五ワットくらいの明るさで!

ξ゚∀゚)ξノ「これでこの夏は私の物よ!!」

川 ゚ -゚)(うっせーなーこいつ)

狂喜乱舞してしまうのも無理はないのですよ。だってそうでしょう?
今まで碌なことなかったんですよ?
やれ食人事件だ、やれ眼球事件だ、やれ吸血鬼事件だって……。
まじでそろそろいいk「ピンポーン」ってばちあたりはしないでしょ!

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 20:58:01.95 ID:qXfoG8NG0
ξ゚听)ξ「……ピンポーン?」

なんだその間抜けな効果音は。どこから湧いて出てきやがった。

ピンポーン。
あ、まただ。

川 ゚ -゚)「チャイムじゃね?」

ξ゚听)ξ「あ、そうか!」

川 ゚ -゚)(分かれよ……)

おいおい、人が折角いい気分で物思いに耽っているというのに。
一体何処の空気読めないお馬鹿さんなんですかね。

ピンポーン。
鳴らしすぎだって……。

ξ゚听)ξ「はーい、いまでま――」

がちゃり、と玄関を開けば、そこには……。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:01:13.38 ID:qXfoG8NG0
ξ;゚听)ξ「――す……え?」

巨大な体が逆光を浴びて、仁王立ちで立っていた。

「やあ、津出s」

ξ;゚听)ξ「す、直おおおおおおおお!!」

なんかこれやばい気がする!!

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:03:06.48 ID:qXfoG8NG0
(;´ω`)「あっぢいいいいいいいいいいいいい」

ミーンミーンと僕の頭上で蝉の合唱コンクールは開かれているらしく、
鳴りやまぬそれに僕は段々と怒りが込み上げてきた。
無理もないことだ。この例年よりも遥かに高温であるといわれる酷暑の中、
僕は真っ黒なスーツに、真っ黒なシャツを着て、真っ黒なネクタイを締めているのだから。

(;´ω`)「ったく、相変わらずこっちは糞田舎だお。コンビニすら見当たらないとか辺境の地ここにありだお」

僕は今、とある県の田舎まで来ていた。
道中、あまりの暑さと疲労によりすっかりまいってしまった僕は、こうして木陰の下で休憩をしているのである。

(;´ω`)「しかし、思ったよりも情報は少なかったかお……」

仕方のないことだ。むしろあったことに驚きと感謝を覚えるべきなのだから。

(;´ω`)「ふむ……」

手提げかばんの中から、自分で整理した書類を引っ張り出す。
ぽとりと額から垂れた汗が紙の上に落ちて染みを広げていった。

(;´ω`)「……止め止め。後にするお」

さて、と立ち上がる。
あまりの暑さに目まいがした。

(;´ω`)「あとはもう一つの目的を終えるだけ、かお」

木陰から出ると、その刺し貫くような太陽光に容赦なく撃ち抜かれる。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:05:58.08 ID:qXfoG8NG0
ずし、ずし、と重い革靴を引き摺るように歩く。
殺人鬼であり、超感覚の持ち主であり、機関序列一位の僕でも、暑さには勝てないらしい。

(;´ω`)「おー、見えてきたお」

田んぼなんてものすら無く、辺りは野原のみが広がるこの超辺境の地。
小山の上に、其処は有るのだ。
僕の第二の目的の場所である、とある小屋が。

(;´ω`)「おいすー」

どがん、と扉を吹き飛ばす。やばい、力の加減を間違えた。
まあいいか、これは仕方がないことなのだ。
所謂事故だ。しかも故意ではない。なので無実である。そう僕は無実だ。
などとぶつぶつと言っていると、僕の顔の横を何かが――金槌のようだ――とんでもない速度で通り抜ける。
後ろの壁にそれはぶつかり――いやめり込み?――木造の家にめきりという音が響いた。

(#=゚ω゚)ノ「それで許されるわけがあるかボケ!!」

突然現れたのは初老の男だった。
僕はこの男をよく知っている。もう何年もの付き合いがあるのだから。

( ^ω^)「おっおっ。伊予さん、久し振りだお」

(#=゚ω゚)ノ「何今さっきのこと水に流そうとしてやがる!あれ請求しとくからな!」

まったく近頃の若い奴は!と怒り心頭に老人は砕けた扉の破片を片付け始める。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:07:37.92 ID:qXfoG8NG0
( ^ω^)「悪かったお、謝るお。どうもごめんね」

(#=゚ω゚)ノ「誠意が感じないわ」

まあいいじゃないの、と僕は小屋の中の中心にある机に腰掛ける。

(;^ω^)「とりあえず飲み物くれないかお。喉からっからだお」

(#=-ω-)ノ「お前は、本当に!……ちっ。机じゃなくて椅子に座ってろ」

何だかんだで優しい老人伊予さん。
彼にとって、僕の存在は所謂孫のようなものだ。
僕だって彼のことを祖父のように思っている。

彼とは長い付き合いになる。
まだ姉さんが生きていたころから、今に至る約十年程の関係があるのだ。

(=゚ω゚)ノ「おらよ、茶だ」

奥の方から二つ分の湯飲みを持ってくると、一つは僕に、もう一つは自分の手元に置く。

(;^ω^)「あづっ!おま、これ……」

せめて冷やした茶でも出せよ、と言おうと思ったが、流石に厚かましいのでやめておいた。
何で老人ってやつはどんな季節だろうとあっつい緑茶を好むのだろう。

(=゚ω゚)ノ「平助よぉ。おめー、いくつになったっけか」

( ^ω^)「お?あー、十七だお」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:09:06.69 ID:qXfoG8NG0
久方ぶりに――三年ぶりだろうか?――会った故か、世間話には花が咲いた。
お互いの近状を報告しあい、やれ今の経済は、やれ今の日本はなんて老人らしいことを伊予さんは繰り返す。
そんな中、伊予さんは茶を啜ると僕にそう聞いてきた。

実際、僕の実年齢は不明である。
戸籍がないので生年月日なんてものすら分からない。
あやふやではあるが、大体十七なはずだ。

(=゚ω゚)ノ「はえーもんだ。あんなにちっちゃかったお前が、今やこんな大きくなっちまってな」

鶴子も見たら驚くな、と伊予さんは言って笑う。

(=゚ω゚)ノ「……なあ、平助」

後何人殺すんだ?
そう、伊予さんは僕に問いかけた。

( ^ω^)「限は無いお。奴らほぼ無限に存在するんだから」

(=゚ω゚)ノ「そういうことじゃあねえよ」

手元の湯飲みをくるくると回転させながら伊予さんは僕の目を見て再度問いかけた。

(=゚ω゚)ノ「後何人斬れば気が済むんだ」

( ^ω^)「…………」

伊予さんだって分かっている。
僕が『国解機関』に所属していることも。
……そして僕の最終目標が何であるかも。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:10:49.55 ID:qXfoG8NG0
けれど。
嘗て僕が僕自身に立てた誓いは今でも変わらない。
今まで僕が殺してきた無害な人達のために。そして鬼違いにより殺されてしまった人々のために。
僕は殺し続けなければならない。

( ^ω^)「それが僕の持ちえる、贖罪の方法なんだお」

分かっているくせにそう問いかけるのは、きっと優しさなのだろう。
僕を心配してくれていることくらいわかっている。
今一度自分を見つめなおすためにそう聞いてくれていることも分かっている。
その意思に揺らぎが無いかを確かめるために眼を見るのも分かっている。

(=-ω-)ノ「……ちょっと待ってな」

伊予さんは、僕の言ったことには何も言い返さなかった。
ただ黙ってうなずくと、また奥へと引っ込んでしまった。

(;=゚ω゚)ノ「よっ……約束……の…重っ……品っだ」

二つの何かを担いできた伊予さんは、それを僕の足元に並べる。

(;=゚ω゚)ノ「……言われた通り、お前専用の最強の包丁を作ったぜ」

僕は最早待ち切れなかった。
その二つを覆う布を一瞬で剥ぎとる。

(;゚ω゚)「――おほっ」

それが第一声だった。
その二つの規格外の刃物――包丁を見て、間抜けな声しか出なかったのだ

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:13:38.01 ID:qXfoG8NG0
(=゚ω゚)ノ━・「スゥーッ……ふう……俺もそんな包丁初めて打ったよ」

(;゚ω゚)「……やっべえこれ。やっべえお伊予さん」

手前にある、呆れるほど太い、刃渡り凡そ七十センチの包丁を持ちあげる。
装飾に龍の彫り物までしてある。

(=゚ω゚)ノ━・「嘗て昔の阿呆な解体屋が鯨を捌くときに使われていた包丁、鯨包だ」

あまりの重さにびっくりする。
まるで鉄の塊を握っているようだった。
中華包丁――菜刀――の形状に近いくせに、厚みも重さもこちらの方が圧倒的に勝っている。
刃の部分なんてまさに鉈だ。

(=゚ω゚)ノ━・「んで、そっちの両刃造りの糞みたいに長いのが、鰹包丁だな」

形状は僕の持つ鮪引きに近いが、長さがこちらは約百五十センチはある。
おまけにしなりがいい。しかも意外と重すぎない。
振ってみるとしっくりと手に馴染んだ。

(;゚ω゚)「……確かに、いい物作ってほしいとは言ったけど……」

もう包丁の範疇を超えているよ、これでは。
なんて言いたいが、手に持った感覚が包丁である。
日本刀やナイフを持った時とは違う、この心地の好い感じ。

(=゚ω゚)ノ━・「鶴子を殺った相手がまたでたんだろう?」

伊予さんは紫煙を吐きながらそう言う。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:16:31.95 ID:qXfoG8NG0
(=゚ω゚)ノ━・「俺の包丁が通じなかった相手だ。しかも使い手が鶴子であったにも関わらず」

見る見るうちにその眼が怒りで赤みを帯びていく。
僕は生唾を飲み込んだ。
完全に伊予さんに気圧されていた。それほどに、今この老人からは禍々しい空気が漂っているのだ。

(=゚ω゚)ノ━・「ならば今までよりも斬れ、硬く、柔らかく、しなやかで、そして砕き、叩ける包丁を作るまでよ」

平助、と伊予さんは僕の名を呼んだ。

(=゚ω゚)ノ━・「ぶっ殺せ。鶴子の仇をとれるのはお前だけだ」

その包丁で斬り刻んでやれ。
伊予さんは、もしかしたら僕よりも殺人鬼に向いているんじゃないかと、時々思う。
彼の刃物にかける想いは誰よりも異質だ。

そう。姉さんと伊予さんの関係とは、客と商人の間柄だったのだ。
姉さんは何処の工房の包丁より、ここの包丁を好んだ。
曰く、これは切るためではなく斬るための包丁だ、と。

相も変わらず、伊予さんの打つ包丁は見惚れる程美しい。
だが包丁はこう語りかけてくるのだ。

早く斬りたい、早く殺したいと。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:18:37.99 ID:qXfoG8NG0
僕はそれを皮で作られた鞘へと仕舞い込む。

(=゚ω゚)ノ━・「使いこなせるまでどのくらいかかるんだかなあ?」

( ^ω^)「おっおっおっ。もう馴染んじゃったお」

けっ、と伊予さんは笑う。

(=゚ω゚)ノ━・「さて、問題のお勘定なんだがな……」

( ^ω^)「おっおっ。これなら二本で五百って言われてもひょいって出しちゃうお」

(=゚ω゚)ノ━・「……ん、あー」

(=゚ω゚)ノ━・「すまん、一千万!」

( ^ω^)

( ^ω^)

( ^ω^)
 
 
 
( ^ω^)つ「はい一千万入りのトランクケース」

て(゚ω゚=)「おう、確かに」

生憎だが僕の出せる金額に限度なんてものは無い。
それに僕は彼の言った値段でいつも買っているし、今回は文句のつけどころが無かった。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:20:39.13 ID:qXfoG8NG0
(( ^ω^)) ソワソワ

((^ω^ )) ソワソワ

(;=゚ω゚)ノ━・「よーし、しっかりある……落ちつけよお前」

(;^ω^)「いやあ、だっていいもの手に入れたし、早く振ってみたいんだおー」

先ほどしまったばかりだというのに、僕はもう二本とも出して両の手におさめていた。

(;=゚ω゚)ノ━・「おま!中で振るなよ!外で振れ外で!」

(;^ω^)「大丈夫だお!そこまで馬鹿じゃ無いお!」

なら言われた通り外でやるとするか。

(=゚ω゚)ノ「そういやあ、今日は泊っていくのか?」

( ^ω^)「おっ!そうさせてもらうお!」

久し振りに伊予さんの家での泊まり。
なんだか、孫が祖父の家に泊まりに来たようだ。
心なしか僕のその言葉を聞いて、伊予さんも嬉しそうである。

(=^ω^)ノ「おう、分かったぜ。んじゃあ晩飯の材料狩ってくるわ」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:22:01.45 ID:qXfoG8NG0
そう言って伊予さんは出刃包丁を一本だけ持って、山の中へと消えていった。
普通ならば止めるだろうが、彼にはあれで十分な装備だろう。
しかしもう歳だから無茶は控えてほしいものだ。

( ^ω^)「おー……」

さて、僕の方はこれで一応やることは終わったな。
果たして彼はあっちでちゃんとやってくれているのだろうか……。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:24:07.53 ID:qXfoG8NG0
灼熱の太陽光を背に佇むその影は、私を高くから見下ろしていた。
その鋭い眼が私に突き刺さる。
今にもそのぶっとい腕で殴りかかってきそうなほど、その何者かは異常な空気を漂わせていた。

これは、こいつは間違いなく普通の人間じゃあない。
私にはわかる。これと似た人種を今まで多く見てきたのだから。

ξ;凵G)ξ「やめて殺さないで私まだ何もしてない死にたくない!!」

必死で願った。
どうか、どうか奇跡よ起これと。
願わくばこの目の前にいるベルセルクをどうにか――

(;゚∋゚)「……取りあえず、落ち着け」

そう言って、男は私の肩に手を置こうとした。
ひいいい!!やめろおおお!!私を食べても美味しくなんて!!

川 ゚ -゚)「どうしたー……って駆けつけてみれば、なんだクックルじゃないか」

ξ;凵G)ξ「……え?」

……クックル……?って、そう言えばどっかできいた名前だな。

( ゚∋゚)「お、空じゃないか。先日ぶりだな」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:26:15.33 ID:qXfoG8NG0
今一度その顔を見てみる。
この引きしまった大きな身体、鶏冠みたいなモヒカン頭。
そして黄金色に輝く大きな瞳……。

ああ!

Σξ;゚听)ξ「思い出したー!ってか何でここに!?」

そうだ、『国解機関』に所属するアメリカアイダホ生まれの超感覚者こと殺人鬼!
確か名前はクックル・ドゥードゥーといったっけかな。

( ゚∋゚)「ん?空や内藤から何も聞かされていないのか?」

あれれー?何だかデジャブを感じるぞー?
そう言えば前にもこんなやり取りがあったような……。

ξ;゚∀゚)ξ「……直さん?また私に大事なお話するのを忘れていたのでは無くて?」
  _,
川*゚ -゚)ゞ「いっけね!うっかり忘れてた!」

щξ#゚听)ξш「うっかりじゃねえええええええ!!どうして毎度お前は大切なことをよおおおおお!!
          つーか内藤も内藤で大事なことくらい電話かメールで教えろよ馬鹿野郎おおお!!」

前回だってお前等の所為でだな!私は散々な目にあってだな!
もういやこの子達!仲間ならせめてそこらへんしっかりして下さいお願いします!

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:28:38.79 ID:qXfoG8NG0
(;゚∋゚)「……取りあえず、中に入れてもらえるかな?暑くて敵わんのだが……」

川 ゚ -゚)「地に這いつくばり私の靴を舐めてご主人様お願いしますと言ったらな」

(;゚∋゚)「相変わらずのサディストっぷりだな」

ξ゚听)ξ「慣れてきた自分が不安です」

川 ゚ -゚)「本当は嬉しいくせにー☆」

ξ#゚听)ξノ「ぶっ飛ばすぞ!」

川 ゚ -゚)「まあ積もる話は中でしようぜ。ほらクックル、汚いところだが我慢してくれ」

ξ#゚皿゚)ξつ「やっぱぶっ飛ばす!!」

(;゚∋゚)(内藤から聞いた通り、元気な女の子たちだなあ)

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:30:09.00 ID:qXfoG8NG0
リビングに通すと、熱気は先よりも一層増した気がした。
それも仕方がない。ただでさえクーラーは壊れているのに、暑苦しそうな男が入ってきたのだから。
畜生この筋肉マンめ。殺人鬼は何でどいつもこいつもそんなマッチョなんだよ。
内藤もすっげー筋肉らしいし(直談)。

( ゚∋゚)「聊か暑いが、まあ外にいるよりもましだな」

冷えた水がうまい、とクックルさんは出された水道水に氷を入れたものをゴクリゴクリと飲む。
……あのお、そろそろ本題の方を……。

( ゚∋゚)「ああ、そうだったな」

ξ゚听)ξ「あのお、何で貴方がこっちに?」

あの会合の日、其々の担当地域を私は一応聞いていた。
あの白髪ピアスの斉藤又座は四国を、火糸と優は関東を、曙歩と樹の双子は九州と関西を。
そして目の前い居るクックルさんは確か東北を担当していたはずだ。

川 ゚ -゚)「内藤と一時交代しているのさ」

と、私の隣に座る直はそう言った。

ξ゚听)ξ「交代?」

そうだ、とクックルさんが話を繋げる。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:32:30.30 ID:qXfoG8NG0
( ゚∋゚)「今に始まったことではないんだけれどな、内藤の放浪癖は。
     時たまふらっと別の地方に行ってあいつは調べ物をする事があるんだ。
     今回は俺の担当する地域に用があったみたいだから、あいつの代わりに俺が来たってことだ」

はあ、そうなのですか。

……ん?
あれ?いやちょっと待った。

ξ;゚听)ξ「それいいの?」

調べ物……って。
てっきり、私は今回内藤がこの街を離れたのは何かの任務のためかと思っていたのだが……。

(;゚∋゚)「相変わらずあいつは誰にも大事なことを話さず好き勝手やってるみたいだな……。
     いいや、今回は任務でも何でもない、ただの私情に尽きるよ」

ええええ!私情って、そんなもんで勝手に持ち場離れていいのかよ!

川 ゚ -゚)「いいんじゃね?現に、今の組織内での実質トップはあの内藤だ。
     代表――布佐さんも何も言ってない。それに私たちも別に問題無いと思っているからな」

そんな適当でいいのかよこの組織……これほどに大それた機関だと言うのに、
なんと言うアバウト……。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:35:19.62 ID:qXfoG8NG0
ξ;-听)ξ「つくづく意味がわからん……それで、どうして交代を?」

つーか何のための交代だ?

川 ゚ -゚)「お前、回を増すごとに頭良くなっていっていたと思ったら、急に馬鹿になったか……」

ξ;゚听)ξ「う、煩いわねっ!こっちは暑さと長すぎる夏休みで今だ絶好調に至らずよ!」

これだから馬鹿で変態は……という呟きをして肩を竦めた直。
誰が馬鹿で変態だ!

川 ゚ -゚)「いいか津出。鬼違いによる事件が今どれだけ発生しているかくらい、分かってるよな」

そ、そりゃあ当然だ。これでも一応組織の人間だし……。

川 ゚ -゚)「なら想像しろ。その鬼違い共を排除できる存在が一日でも居なくなった時の事を」

そう言われてようやく理解できた。
なるほど。だからこその交代、か。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:36:46.18 ID:qXfoG8NG0
現在、此処日本国での殺人件数は異常の値を示している。
先月起きた事件の内、十七件が殺人事件である。
そしてその全てが鬼違いによるものであった。

記憶に新しい物では、我が地域に現れた吸血鬼の双子によるものなんかだ。
あれは三日で三十三人もの死者を叩きだしたのだ。

鬼違いとは。
長い人類史の中、シリアルキラー、或いはサイコパス等と呼ばれてきた人種でもある。
彼らは殺人鬼の一種である。
しかし、彼らにとっての殺人とは目的を達成するための手段でしかないのだ。

多くの殺人鬼と鬼違いとの差はそこにあるのだ。
鬼違いには確固たる目的がある。それは人により様々ではあるが、
人肉を食らう(太るため)、眼球を手に入れる(視力を取り戻すため)、血液を手に入れる(美容のため)、
などが例に挙げられるだろう。

そう。彼らの目的は人を殺して、或いは殺す寸前などして初めて手に入るものが多い。
抑制されるべき欲望こそが、多くの鬼違いの持つ目的なのだ。

そんな日々世界に暗雲をもたらす鬼違いを狩る組織がある。
それこそが我らが属する『国解機関』だ。

マスコミ、警察、軍、政治、エトセトラ……と、あらゆる分野に精通し、それら全てに支持されている組織だという。
その上その狩る人間達は普通の人間ではない。
超感覚――所謂超能力、第六感など――を持つ者達なのだ。

彼らは何かしらの能力に長け、内藤なんかは戦闘、殺人の感覚が優れていると言う。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:38:55.91 ID:qXfoG8NG0
だがそんな組織に、私と直もなんと属しているのだ。
鬼違いにも関わらず。

直は私よりも何年も早くこの世界に踏み入れていた。
彼女の目的は生物の死を見ること。
奇跡的にも安全な部類の鬼違いらしく、内藤の監視の下、未だに生きていられている。

そして私も鬼違いだったのだ。
目的は極度の緊張感を求めることだそうだ。
おまけに体質的に、無意識のうちに危険なものに近づいていくらしく、その所為か危険な目にもあったりした。

さて、先の話に戻ろう。

そんな最強最悪殺人集団がもしも一日でもいなくなりでもしたならば?
鬼違いを野放しにすることになる。
運よくいない間に鬼違いが犯罪を起こさなかったとしても、それは単純に幸運なだけの話だ。

いつ何が起きてもおかしくない。彼らに常識は通じないし、中には理性も無く、本能のみで動く奴もいる。
だからこそ、誰かが居なくなったならば、代わりを用意しなければならないのだ。

今回の場合、内藤とクックルさんが内藤の用事がすむまでの間、お互いの担当を交換する形となったらしい。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:41:07.70 ID:qXfoG8NG0
川 ゚ -゚)「おーおー、ようやく頭が回転してきたじゃないか」

ξ*--)ξ「ふふふ、これが真の実力よ!」

けどもう頭痛い!もう何も考えたくないでちゅ!ばぶー!

( ゚∋゚)「まあそんな分けで、これから後三日間滞在することになった。よろしく頼む」

そう言ってクックルさんは私に握手を求めてきた。

とξ(゚△゚;ξ「う、うす」

……少し不安だ。
内藤以外の殺人鬼、か。
確かに前回、組織の人間とは全員顔を合わせたが、それでもまだよく分からないことだらけだ。

ξ゚听)ξ(ま、そのうち色々と知ることになるでしょう)

共に過ごしていれば、いつか色々な事をお互い共有しあうようになるだろう。
私と内藤や直の奴のように。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:41:50.10 ID:qXfoG8NG0
 
 
六 其の三
 
 
67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:45:12.95 ID:qXfoG8NG0
わいわい、がやがやと、珍しく片田舎の道は人で賑わっていた。

川 ゚ -゚)「はー。よもやこんなに人が集まるとは思わなんだよ」

ξ゚听)ξ「毎年こんな感じよ」

私と直は夕暮れの道を一緒に歩いていた。
これから祭へと出かけるのである。浴衣を着たかったのだが着付けできる人間がいなかったのは痛かった。
畜生零め、せめて着付けくらいしてってくれたらよかったのに……。

しかしこれもまた新鮮な感じだ。
誰かと休日を共に過ごし、隣を歩くだなんて。しかも同性だ。
なんだか……これが一般的な、と、とも、ともだ……。

( ゚∋゚)「仲の好い友達みたいだな、二人とも」

ξ////)ξ「ちちちちが!!何言ってんですか!!」

川 ゚ -゚)「うお、顔真っ赤だ。キメエ」

そして私たちの後ろをクックルさんがついてくる。
折角この街に来たのだから、と私と直が祭へと誘ったのである。
……道行く人々が、顔を伏し目がちにしているのは、きっと……いや、言うまい。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:47:13.30 ID:qXfoG8NG0
しかし傍から見れば、この絵はやはり可笑しく見えるのだろうな。
そりゃそうだ。絶世の美女に糞悪魔女狐に殺人鬼巨漢モヒカンだもの。
そりゃ奇妙だわ。関わりあいになりたくないわ。

川 ゚ -゚)「まあ下手な奴等に絡まれないだけいいじゃあないか?」

ξ;゚听)ξ「うーん、まあ、そうだけど……」

(;゚∋゚)(……俺そんなに怖いかな)

「うわあ、また猫の死骸だ……」

「最近多いよね。さっきもあっちであったし」

「犬の死骸も見たなあそう言えば」

「動物虐待かあ?」

と、私たちが歩いている前方から、そんな会話が聞こえてきた。

ξ゚听)ξ「あら、本当だ」

道端に、猫の死骸があった。轢き殺されたのだろうか?その割には結構形は奇麗な気がするが……。

川 ゚ -゚)「……これは」

( -∋-)「……はーあぁ」

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 21:49:47.34 ID:qXfoG8NG0
そんな風に猫の死骸を観察していると、どーん、と空に大きな音が上がった。
これは花火の音だ。つーかもう打ちあげてんのかよ?早くね?

ξ;゚听)ξ「二人とも、早く行かないともっと込み始めるわよ!」

とうとうお祭りが始まったのだ。これからより一層人も増えてくるだろう。
そうなると花火を見る場所を取られてしまう。
……いやもう遅いと思うけど。いい場所確保されてるんだろうなあ……。
だがまだ!まだ間に合うだろう!

川;゚ -゚)「おい待て馬鹿、早いって」
  _,
ξ*゚听)ξ「脚が短いから早く走れないだけでしょ」

川 ゚ -゚)「あ?何?喧嘩?喧嘩売ってんの?」
  _,
ξ*゚听)ξ「くやしけりゃ追いついてみろばーか!」

川#゚ -゚)「上等だこら普段から鍛えていることを努々忘れるなよ!」

(;゚∋゚)「おい馬鹿!お前ら少しは落ち着いてくれよ!」

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 22:01:45.51 ID:qXfoG8NG0
って早っ!これすぐ追いつかれるんじゃね?

(;゚∋゚) ォォーィ

ふと遠くを見てみれば、人波にもまれていくクックルさんが!
やべ、しまったぞ、人が増えてきやがった。

ξ;゚听)ξ「く、クックルさーん!」

糞、目立つくせに何故か距離は遠のいていくばかりだ。何やってんだあの人!
と思ったら、実は私が人波にもまれて先へ先へと進んでいるのだった。
いつの間にかもう神社内のようである。

ξ;゚听)ξ「直ー?」

と、あの馬鹿女の名前を呼んでみるが、返答は無い。
……これは困ったぞ。早速あの二人……。

ξ;゚听)ξ(迷子になりやがったー!)

いや分かっていますとも。私が迷子だってことくらい!
でもいいもんね!どうせ携帯あるからあの二人とすぐ連絡取りあえるもんね!

ξ゚听)ξつ□「さーて電話電話ー」

……あれ?何か画面真っ暗じゃね?
これはもしかして……。

Σξ;゚听)ξ「電池切れだああああ!!」

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 22:05:37.75 ID:qXfoG8NG0
やばいぞこれ……どうしよう……。
あの二人はたぶん、なんとかして連絡取りあって合流できるだろうが……。
うーむ困った、私はどうすれば……。
とりあえず一度人の波から出て道の端で一人考える。

「……ツンお姉ちゃん?」

ξ;゚听)ξ「え?」

ふいに、幼い女の子の声が私の名を呼んだ。

*(‘‘)*「やっぱり!ツンお姉ちゃんだー!」

きゃー、と騒いで女の子は私に抱きついてきた。

ξ゚听)ξ「エリカちゃんじゃない。どうしたのこんなとこで?」

*(‘‘)*「こんなとこって、お祭り見に来たんだよー!」

ああ、そりゃそうだ、と私は笑う。

この女の子の名前は沢近エリカ。確か小学二年生だ。
え?何故私がそんな子と面識があるかって?

それは以前の事だ。
ある日、私が夜の集会から帰宅し、マンションにバイクを停めていた時のことだ。
偶然目の前に通りかかった黒尽くめの男がなんと女児を連行していたのである。夜更けに。
これは怪しいと思い木刀を持って話しかけてみればやはり犯罪を現在進行形で行っていたようで、
男は風のように女児を残して去っていってしまったのだった。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 22:09:40.13 ID:qXfoG8NG0
*(‘‘)*「お姉ちゃんも一人なの?」

ξ;゚听)ξ「いや、違うんだけど、それがはぐれちゃってね」

そしてその誘拐されそうになっていたのが、このエリカちゃんなのだった。
助けてからというもの、時たま私に会いに来たりすることがあった。

この子には両親がいなかったらしく、とある施設でお世話になっているのだとか。
親近感を覚えた私は、彼女の姉になったつもりであった。
もう一人の妹ができたな、と。

*(‘‘)*「なら私と遊ぼうよ!」

そんな少女は私を祭を一緒にどうかと誘ってきた。

ξ;゚听)ξ「う、うん、いいけど、取りあえず私は人を探したいんだけど――」

*(‘‘)*「ほら、行くよー!」

ξ;゚听)ξ「ちょま、待って待って!」

突然にエリカちゃんは私の手を掴み、走り出した。
子供は風の子、なんて言うけれど、まさしくだ。
相も変わらず元気の良いエリカちゃんを見て、私は顔が綻んだ。

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 22:14:01.65 ID:qXfoG8NG0
ξ゚听)ξ「よ、っと」

ぽこん、なんて情けない音がして、撃ち落とされた景品が落ちる。
先ずエリカちゃんに連れて行かれたのは、何故か射的だった。
普通金魚すくいとか……つーかまずは綿菓子じゃねーのか?その歳的に考えて。

「凄いねお嬢さん、祭始まって早々に最高得点だ!ほれ、これ景品!」

*(‘‘)*「すごーい!!お姉ちゃん格好良いー!!」

ξ*゚听)ξ「はっはっは!お姉ちゃんにかかればこんなもんよ!」

実は、射的だとかこういうものは私は得意だったりする。のびた君とまではいかないが、
目標に向けて何かを投げるなどは大得意だ。バスケ然り、サッカー、野球然り。

じゃあ次は、と少女は元気に指を向ける。
よしよし、いいだろう。何にだって付き合ってあげるよ。

ξ゚听)ξ(直達は……)

ま、いいか。どうせいつかどっかで合流するだろ。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 22:17:32.70 ID:qXfoG8NG0
流石に色々と回りつかれ、ついでにお腹まで減ってしまった私たちは、
少し外れたところでたこ焼きとトロピカルジュースを飲み食いしていた。

屋台の裏手に回ると、綿菓子屋の機械の高い音だとか、たこ焼き屋のいい香りだとか、
人の賑わう声だとか、色々な音や匂いがよく分かる。

ああ、夏なんだなあ。夏で、夏祭りに来ているんだな、私たちは。

ξ゚听)ξ「美味しい?エリカちゃん」

隣に腰掛けるエリカちゃんは、頬にソースをつけたまま元気に美味しい!と言った。
やはりまだまだ子供だな、なんて思いながら、私は持ってきたハンカチで頬をふき取ってやる。
あ、今意外だとか思った奴死刑な。

*(‘‘)*「お姉ちゃーん」

ξ゚听)ξ「んー?」

やけに間延びしたようにエリカちゃんは私を訊ねた。

*(‘‘)*「今日一緒に来てる人って、友達ー?」

ξ゚听)ξ「……あー、どうかなあ……」

なんとも答え難い。何度も言うが、あれ等とは友達と言えるような仲ではないと思う。
いや、傍から見ればどうかは知らないが、それでも私たちは人を殺す集団だ。
何だか、友達とかいう響きは、似つかわしくないというか、優しすぎるというか……。

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 22:20:27.62 ID:qXfoG8NG0
ξ゚听)ξ「……まあ、うん、そんなもんかなあ」

だが、人の家に泊まったり、一緒にご飯を食べたり、お祭りに一緒に出かけたりする相手を、
友達と言わずなんと言うのだろう?
気恥しいし、あいつの前では絶対に言わないが……これはもう、友達の域だろう。

*(‘‘)*「……そっかー」

いいなあ、とエリカちゃんはぼそりと呟く。

ξ゚听)ξ「……エリカちゃん」

以前、彼女は私にこんなことを相談してきたことがあった。
友達ができない、と。
別に見た目が悪いわけではない――むしろ可愛い方だ――のだが、如何せん人と喋れないそうだ。
話しかけられても何を喋って良いのか分からないらしく、無言を貫いてしまうらしい。

だったら私と喋るようにすればいいよ、と言いもしたが、それはお姉ちゃんだから平気なだけ、
とも言われたりもした。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 22:23:37.65 ID:qXfoG8NG0
*(‘‘)*「お姉ちゃん、変わったよね」

ξ゚听)ξ「え?」

彼女の顔を見た。無表情だった。無表情のまま、私をその大きな瞳で見つめていた。

*(‘‘)*「前はあんなに暗くて、怖くて、近寄りがたかったのに」

……確かにそうかもしれないな。
以前、ヤンキー共とつるんでいた時分、一人でいた時は常に根暗だったし、誰とも喋りたくなかった。
零にも酷い態度をとっていたことが多々ある。

変わったのだろう。少なからず、奴等の所為で。
それがいい方向にか?と問われれば頷けはしないが、前よりか幾分明るくなっている気がする。

*(‘‘)*「いっつも私は一人なの。一人で学校に行って、誰とも喋らないまま学校も終わって……。
     施設に帰れば他人行儀な子供たちとご飯を食べて」

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 22:26:33.22 ID:qXfoG8NG0
だけど、と続ける。

*(‘‘)*「最近、いっぱいお人形さんを集めてるから、夜寝るときが一番好き。
     一人じゃないもん。あの子たちと一緒に遊んで寝るの。楽しいんだよ?」

何故だろう。背筋がぞくぞくした。
可笑しいな、ただ少女と喋っているだけなのに……。

ξ゚听)ξ「お人形?」

*(‘‘)*「うん!」

果たして、彼女にそんな物を買うお金があるだろうか?
一応施設の園長らしき人からお小遣いはもらっているそうだが……人形って結構、
高かった気がする。小学生が集めるとなると聊か……。

まさか、盗みか?いや、そんなはずは……。
少女の目を見つめる。深く、大きな瞳だ。
まるで汚れを一切知らないとでも言いたげな大きな瞳だった。

この子がそんなことするはずがない、か。

*(‘‘)*「でも、ね」

ダメなんだよ、とエリカちゃんは呟く。
ふいに、せえ背筋がまたぞくぞくした。さっきから、これは一体何なんだ?

*(‘‘)*「やっぱりお人形はお人形だもん。本当の友達じゃ……人間じゃないもん」

ξ;゚听)ξ「……エリカちゃん?」

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 22:30:08.74 ID:qXfoG8NG0
飲み込まれるほど少女の目は澄んでいて、大きい。
まるでこれでは……。

*(‘‘)*「――あ!」

突然、エリカちゃんは大声をあげて立ち上がった。
何だ何だ、と思い前方の林を見てみると、林の手前に野良と思わしき猫がいた。

*(‘‘)*「猫!!」

走り出すエリカちゃん。猫はそれから逃げるように林の中へとはいって行ってしまった。

ξ;゚听)ξ「ちょ、待って!」

辺りはすっかり日が落ちて、夜の蚊帳は閉まっていた。
頭上にはいくつもの光の花が咲き誇り、次いで高い音と空気の響きが体に伝わってくる。

糞、面倒だが一人にするのは危険すぎる。
私は少女と猫を追って、林の中へと踏み入れた。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 22:32:55.77 ID:qXfoG8NG0
ξ;゚听)ξ「エリカちゃーん!」

ざっざっと、林道を抜けていく。
よかった、私服できて。浴衣だったら大変だったな。

この真っ暗な林の中、唯一輝く月明かりと、花火を頼りに少女を探す。
糞、一体何処まで行ったと言うんだ。つーか何故猫如きを……。

……猫?

ξ;゚听)ξ(……嫌な予感がする)

ええい、兎も角、早くエリカちゃんを見つけるのだ。

そうやって探し回ること五分程だろうか。
流石に走りつかれた私はとろとろと歩きながらも、エリカちゃんの名前を呼び続ける。
少し喉が痛くなってきた。

ふいに。
風に流されてくるニオイに、何か変なものが混じり始めた。

ξ;゚听)ξ「…………?」

嗅いだ事のあるニオイ。独特のニオイ。
この火薬や夜店の匂いとは合わないニオイ。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 23:11:52.60 ID:qXfoG8NG0
ξ;゚听)ξ「こっちか?」

果たして私は犬にでもなったのだろうか。ニオイの流れてくる方向へと足を向ける。

心のどこかで、頭のどこかで理解していたのだ。このニオイの元となる物を。
だが、それでも足が進むのは、私が鬼違い故なのだろうか。

開けた所に出た。頭上で花火が上がる。
どうやら秘密の絶景スポットを見つけたらしい。案外綺麗に花火を見ることができた。

ξ゚听)ξ「…………」

上を見るな。目を逸らすな。

ξ; )ξ「……分かってるわよ」

分かっているとも。見ないふりをして何が悪い。
目の前の木の下で少女が猫の腸を抉り出している所を、見ないふりして何が悪い。

*(‘‘)*「いらないないぞーちょきんちょきん♪ちょきんちょきーん♪」

随分と楽しげに少女は行為をしていた。月下、そして花火の下、少女の笑顔は血に塗れていた。
その手元の猫の死骸から五臓六腑を引きずり出し、それを手に持つ鋏で細切れにしていく。

さながら猫の腸造りだな、と思った。
ああ、現実逃避さ。もう何も考えたくなんて無かった。

*(‘‘)*「……だから、ダメなんだ」

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 23:15:49.59 ID:qXfoG8NG0
少女は一人語る。

*(‘‘)*「この子達ね、すぐにダメになるの。臭くて、手足がとれて、全然ダメ。
     酷い子なんて一度遊んだらもうボロボロになっちゃうの」

当たり前だ。それは、君の言う人形たちは、死んだ生物なんだ。
死骸は臭いを放ち、腐り、崩れていくに決まっている。

*(‘‘)*「でも、人なら、きっと大丈夫だよね?」

お人形作りを少女は止めて、私を見つめた。
すくりと立ち上がる。

その瞳には何も無いなんて嘘だ。
分かっていたとも。その深い理由も、純情無垢だなんて思った訳も。
真っ黒なのだ。あまりにも何もないから、そう例えるしかなかったのだ。

その大きくどす黒い瞳が私を逃すまいと見つめる。
だが生憎様だ。私は見つめられることに関しては内藤のおかげで幾分か慣れている。

*(‘‘)*「友達が欲しいよ。でも生きているのは嫌。だって煩いし、何より怖いもの。
     何をするかわかったもんじゃない。こんな風に」

そう言い、少女はシャツを捲ってお腹を私に見せた。
濃い痣が、へその下あたりに見えた。

ξ; )ξ(苛められていたのか……)

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 23:17:11.39 ID:qXfoG8NG0
少なからず、そんなことも一時期心配した時期があった。
だが少女にそんな事を聞ける訳もなく。

怖かったのだ。それに触れてしまうことが。
もしもそうだった場合、彼女に苛められているのだと認識させてしまうことになるのが。

*(‘‘)*「ねえお姉ちゃん」

どーん、ぱーん。
音は響く。
火の花は夜空に咲き誇り、火薬の匂いや夜店の独特の香りが夜風に流されていく。
どこかしら、遠いような近いようなところから祭囃子や人々の声が微かに聞こえてきた。

八月の夜空は思ったよりも広く、明るかった。
今、また新たな花火が打ち上げられ、そして鮮やかに夜空を彩る。

夏だった。
夏で、夏祭りだった。
過ぎていく子供の声、それを追う親の声。
童心にかえったような、そんな気持ちになれた。
童心といってもまだ高校二年生だから、言っても説得力のかけらもないのだろうけれども。

けれど。
心の底から楽しい。
そう思えた。

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 23:19:19.21 ID:qXfoG8NG0
分かっているとも、今の状況くらい。
内藤も、直も、そしてクックルさんも居ないこの状況で、目の前には幼いながらに鬼違いが一人。

飛びかかってきたエリカちゃんの鋏を匕首で迎え撃つ。
花火とは違う火花が闇の中に散った。

心臓は早く鼓動する。初めて私は今、殺し合いをしている。
手足は震える。視界はぐらつく。呼吸は乱れる。
今現在、私の立っている場所は何処だ?私は今、何と対峙していたのか?

見つめろ、目の前にいる少女を。目を反らすな。

ξ; )ξ「!」

少女が、鋏で匕首を強くはじく。
匕首と鋏が、離れた。

*(‘‘)*「あはは!!」

鋏が左からお腹にめがけてやってきている。

ξ; )ξ「うおお!?」

咄嗟に後方に転がり込むように避ける。糞、服が砂まみれだ。
しかも匕首が遠くに。

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 23:21:14.36 ID:qXfoG8NG0
ξ; )ξ(訳分からん避け方するから――だろうが!)

少女はなおも突進してきた。体と体がぶつかる。
だが所詮は女子小学生。軽い衝撃で済む。
だが。

*(‘‘)*「へへ!」

ξ; )ξ「!?」

しゃがみこむようにして受け止めていた私の足を払い、エリカちゃんは私を地に叩きつけた。
後頭部が痛い。

ξ; )ξ「!!」

そして夜空を仰ぐ私の視界に、鋏が迫りつつあった。

ξ; )ξ「っだおらあああ!!」

咄嗟に片手で刃先を握りしめた。もう片腕は、
乗りかかっているエリカちゃんの片足により動かすことはできない。

ξ; )ξ「ぐ……くっ……」

映画で見るワンシーンに、よくこんな画があった気がする。
ナイフが少しずつ、少しずつ迫り、それが寸での所で制止する画だ。

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 23:22:50.94 ID:qXfoG8NG0
力は等しく均衡していた。
おいおい、本当にこれが小学二年生の力だって言うのかよ?

*(‘‘)*「お姉ちゃん」

鋏を抑える力を緩めず、少女は私に話しかける。

ξ; )ξ「何、かしら……?」

私は余裕ぶってそれに応えた。

*(‘‘)*「助かると思ってる?この状況で」

まあそりゃ無理だろうよ。体は抑え込まれ、目の前には鋏だ。
武器は遠くに転がっているあの匕首一本だけ。おまけに連絡を取りたくても携帯の電源は無し。
つーか電話できるような状況じゃねーし。

あー積んだ積んだ。無理ゲーだろこんなもん。
こっからの最善の一手とかまったく思いつきもしねーよ。

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 23:24:45.74 ID:qXfoG8NG0
ふいに、あの会合の日に直が私に言った言葉を思い出す。

――死にたいならそのままでいいが、そうでなければ自分なりに鍛えてみろ――

……なるほど?今になってそのツケが回ってきた、と。
ああたまんねーなこりゃ。悪うござんした。
だって普通こんな状況になるとか思わないから。そりゃそういう世界に足突っ込んでるけど、
思いつきもしねーって。

*(‘‘)*「楽しみだなあ、ああ、うふ、楽しみ」

少女は一人不気味に笑う。

*(‘‘)*「色んなお洋服着せて、お飯事したり、お医者さんごっこしたり。一緒に出掛けたりもするの。素敵だわ」

ああロマンチックだとも。とても紳士的な事で。

ξ; )ξ(……もう、抵抗するのも、無駄か)

次第に、私の鋏を受け止めている腕の力が抜けていく。
諦めたのだ。もう、抗っても意味は無いのだろう。
どうせ遅かれ早かれいつか死ぬのだ、人というものは。
ただ死ぬのが早まった、それだけの話だろう。

そうして鋏は、今にも私の首に突き刺さろうと――

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 23:27:44.49 ID:qXfoG8NG0
「迷子みーっけ」

*(‘‘)*「え?」

すぱっ、と鋭い音が耳を劈き、跨っていた少女の首が、私の顔の横にずり落ちてきた。

ξ;゚听)ξ「……はあ?」

ぴゅっぴゅっと血飛沫が上がる。
私の顔に生温かく、臭く、さらさらとした血が降りかかった。

( ゚∋゚)「やあ、津出さん」

エリカちゃんの身体が、力無く私の体の上に倒れ触れると、その上からクックルさんが覗き込んでいた。
手に手袋をはめ、何かを手繰り寄せている。

川 ゚ -゚)「運がいいな津出。お前」

そう言い、直は私に駆け寄るとエリカちゃんを退けて私の体を抱き起こす。

ξ゚听)ξ「運が……いい、ね……」

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 23:28:54.24 ID:qXfoG8NG0
分かるものかよ。この恐怖。
お前に分かるものか。この喪失感。

お前らに分かってたまるか。!

ξ )ξ「ああ……死んじゃった……」

良い事なんて何もない。何も無かったのだ。

もうエリカちゃんは居ない。
少女の生首は、地に転がりながらも、目は私を捉えたままであった。
その瞳から血を流して私を見つめていた。

104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 23:30:54.72 ID:qXfoG8NG0
 
 
六 其の四
 
 
115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 23:54:56.34 ID:qXfoG8NG0
川 ゚ -゚)「以上で報告終わりだ」

ぱたりと手に持つ資料を閉じて、私は目の前にいる殺人鬼――

( ^ω^)「おっ。御苦労さまだったお」

――内藤にここ数日間に起きたことを纏めた報告を終えた。

( ^ω^)「ふうむ。最近動物の死骸が目につくと思っていたら……成程。
      しかし人を襲う前に始末できてよかったおね」

まあ、一人襲われたわけだけど、と内藤は呟く。

此処は内藤の――嘗ては鶴子さんの――家だ。
馬鹿みたいに広いリビングで、私は内藤と向かい合ってソファに腰掛けている。

川 ゚ -゚)「津出にとってはよくなかったんだろうさ」

何でも聞いた話、あの子とは知り合いだったようである。
酷いことをしてしまったとも思うが、それが我々の仕事なのだ。
そこは津出も理解しているのだが、それでも……。

( ^ω^)「難しいおねえ。僕だって知り合い殺されるのはいい気分じゃ無いお」

川 ゚ -゚)「鬼違いでもか?」

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/25(土) 23:58:15.62 ID:qXfoG8NG0
しんと静まり返る。

つまりは、そういうことだったんだ。
そう。全ては仕方がないと、その一言で片づけなければならない事なのだ。

( ^ω^)「……難しいおねえ」

熱い茶を啜って内藤は同じ言葉を繰り返した。

川 ゚ -゚)「……収穫はあったのか?」

話を反らす。
内藤の調べていることくらい、私にだって分かっている。

( ^ω^)「まあ、一つ二つ程度だけれども」

こん、とテーブルに置いてある資料に内藤は指を乗せる。

( ^ω^)「目撃情報くらいだけど、少なからず奴があそこにいたのは間違いないみたいだおね」

今も昔も、ずうっとある事件が存在している。
その名も斬り裂き事件。または人斬り事件。
もう何十年前からあるのだろうか。彼の存在を覚えていない、或いは忘れた人々も多いだろう。
だがそれでもまだ奴は未だに人を斬り続けている。

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/26(日) 00:02:34.52 ID:qXfoG8NG0
( ^ω^)「特徴的だからすぐわかるけどお」

人を真っ二つに斬り裂いていく奴なんて、確かに奴くらいだろう。
中々できる芸当じゃない。それなりの実力と経験があるからこそできる事だ。

川 ゚ -゚)「しかし、やけに重武装で帰ってきたな」

壁にかけてある、皮の袋に包まれた二つの獲物を見て私はそう言う。
見るだけで分かる。あれは普通の武器――包丁じゃないことくらい。

( ^ω^)「まあ、何れ見る機会も来るだろうお」

つまりそれは、お前が奴と接触する時だ、とでも言いたいのか?

( ^ω^)「さあ?」

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/26(日) 00:06:25.69 ID:1hNrsjjK0
明くる日、私はまた津出家に来ていた。

川 ゚ -゚)ノ「よ、零たん」

ζ(゚- ゚*ζ「あ、直さん、いらっしゃい」

なんだか表情に元気がない。
大体察しはつくが、何かあったのかと聞いてみる。

ζ(゚- ゚*ζ「それが、お姉ちゃんずっとお祭りの日から部屋でふさぎこんでて」

成程、確かに。
この悲しげなブルージーなギターの音色は彼女によるものだろう。
楽器にまで影響するものなのか、感情と言うものは。

川 ゚ -゚)「質問があるんだが」

ζ(゚- ゚*ζ「え?」

すっと私は津出の部屋の扉を指でさす。

川 ゚ -゚)σ「この家鍵が扉についてるのか?」

ζ(゚- ゚*ζ「いえ、ついてないですけど」

そうか、なら安心した。
危うく扉を吹き飛ばすところだった。

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/26(日) 00:10:37.02 ID:1hNrsjjK0
川#゚ -゚)「――まあぶっ飛ばすけどなああああああああ!!」

豪快に扉を蹴りあける。凄まじい音が響いた。

川 ゚ -゚)ノ「よお津出、元気か?」

彼女は部屋の中心に座り込んで、ずっとギターを弾いていた。
私が挨拶をしても返事もしない。

川 ゚ -゚)「おーい?津出さーん?」

ξ゚听)ξ チャカチャカ

顔を覗き込んでも、彼女は反応を示さなかった。
まるで何処か遠い星にでも行っているみたいで、心すら無いようだった。

川 ゚ -゚)「よっと」

隣に腰掛ける。相変わらず彼女はギターを弾いている。

川 ゚ -゚)「……仕方がなかったんだ」

彼女は反応を示さない。
だが、私は喋り続ける。

川 ゚ -゚)「あの少女はもう、お前を襲った時点で凶悪な存在になっていたんだ。
     殺さなければいけなかったんだよ」

ξ゚听)ξ チャカチャカ

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/26(日) 00:14:04.76 ID:1hNrsjjK0
川 ゚ -゚)「……もう、いいんじゃないのか」

我慢すんな。
そう言って私は津出の頭を引き寄せ、胸の中へと抱きよせた。

ξ゚听)ξ「…………」

川 ゚ -゚)「……すまなかった」

ギターがごとりと音を立てて津出の手の中から落ちた。

すまなかった。お前の眼の前でああも無残な殺し方をしてしまって。
何も知らなかったとは言え、それだけは謝らなければならない。

(;-∋-)『空、すまなかったと、伝えておいてくれ』

あのクックルも、申し訳なさそうにしていた。
だが、あいつでまだよかった。あいつはまだ綺麗に殺してくれる。

……いや、そんな事が問題なんかではない事くらい分かっている。

ξ゚听)ξ「……もう一人のさ……妹みたいなもんだったんだぁ……」

ぎゅっと津出は私にしがみつく。

ξ )ξ「なんでこうなんのかなぁ……ってさぁ……」

川 ゚ -゚)「…………」

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/26(日) 00:18:29.24 ID:1hNrsjjK0
誰が悪いのか?何が間違いだったのか?
そんなもの、ありはしない。
怨むものも、喜ぶものも、ありはしない。

ξ;凵G)ξ「ざっけんなよなあ……マジでさあ……!」

よしよしと、私は泣き喚く津出を抱きしめてやる。

私には友も、知り合いも、家族もいない。
だから失う悲しみを持つことは決してあり得ないのだ。

川 ゚ -゚)(……だが)

津出を見る。
どうしようもないまでの馬鹿で、間抜けで、ヤンキーだ。
今時珍しいほどに勉強もできないし、運動もできないし、絵に描いたようなツンデレ女だ。

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/26(日) 00:22:00.02 ID:1hNrsjjK0
川 ゚ -゚)(お前が殺されるのは、耐えられそうにないよ)

これがきっと、友情と言う奴なのだろうか?
私には分からない。
今までこんな思いを抱いたことは無かった。
誰かと一緒にいて楽しいだとか、ご飯が美味しく感じるだとか。

ξ;凵G)ξ「畜生おおぉぉ……」

私たちは殺人鬼。私たちは鬼違い。
ただ同族を殺した、傍から見ればそれだけで終わってしまう話だ。

殺人を正当化するこの闇の世界で、私達は生きていく。
誰に認められるわけでもなく、血で日々を染めながら。

ただ、今だけは。
彼女が涙を流しても罰は当たらないはずだ。
そうだろう、神様?
 
 


124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/26(日) 00:24:18.07 ID:1hNrsjjK0
おじゃんでございました

参考資料
鯨包丁
http://thumbnail.image.rakuten.co.jp/s/?@0_mall/chokuhan/cabinet/ikou_20100323/img1022398694.jpg
鰹包丁
http://thumbnail.image.rakuten.co.jp/s/?@0_mall/chokuhan/cabinet/ikou_20100323/img1022398704.jpg





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