- 3 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 02:49:06.38 ID:ECauuQgm0
-
奪われたくない。
そう思う事は悪いことなのか?
なあ、友よ。
ならばいっそ、いっそ……。
- 7 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 02:59:00.41 ID:ECauuQgm0
-
八 其の一
- 4 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 02:52:01.10 ID:ECauuQgm0
- ξ;゙呀)ξ「づがれだあああああああ!!」
ばたんと我が家の扉を開いて、真っ先に出た言葉はそれだった。
拝啓、皆々様方。
この狂い狂える世界を萌とツンデレにて征服しようと目論むヤンキーオーガービューティフルレディー、
津出鶴子ことツンちゃんです。
夏休みも終え、気温もようやく落ち着きを取り戻してきました。
しかし相も変わらず冷房の壊れた我が家は、聊か熱が籠っている。
ζ(゚ー゚;ζ「お帰りなさい、お姉ちゃん――って」
そんな訳だから、当然愛しの我が妹、零たんも薄着である。
ああ、なんとハレンチな、これでは世の悪い男共に目をつけられてしまうではないか。
ζ(゚ー゚;ζ「……何か変なニオイ?」
平日の夜の十一時。
私はこんな時間でも内藤の奴に特訓へとかりだされていた。
ξ゚听)ξ「? 何が?」
ζ(゚ー゚*ζ「うーん、何か香ばしいような香りかな……」
- 5 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 02:56:47.01 ID:ECauuQgm0
- くんくんと身体のニオイを嗅いでみる。
あ、脇?脇なの?運動後の脇のニオイのことなの?
ξ*゚听)ξ「そ、そんな、まさか零が私の脇をペロペロしたいだなんて!」
ζ(゚ー゚;ζ(素直に気持ち悪いなあ)
なんと奇特な嗜好の持ち主よ。
いやしかし、だからこその我が妹とでも言おうか。
よかろう!ならば存分にとっくりと味わいたまえよ!!
ヽξ*゙Д゙)ξノ「さあカモーン!!カモオオオオオオオン!!!!」
ζ(゚ー゚*ζ「早くお風呂入ってねー」
両の手を広げてやるが、しかし零は私を無視して、それだけ言うと自室へと向かってしまった。
糞っ、渾身のギャグだというのに……!
ξ゚听)ξ「……ふむ」
くんくん、とまた自分のニオイを嗅いでみる。
ξ;゚听)ξ(……あー、こりゃ確かにな)
におうのだ。
この独特な香ばしいような、しかしツンとつくような香り。
ξ;゚听)ξ(火薬って結構染み付くのね)
- 8 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 03:01:33.97 ID:ECauuQgm0
- ふと先ほどまでしていたことを思い出す。
あの事件――解体事件――以来、昼夜を問わずして内藤による訓練が開始された。
相も変わらず内藤にはまったく敵わない。
そもそもの経験値が違うだろうが、しかしそれでも到底追いつけるとは思えない。
_,、_
ξ;゚听)ξ「ぬうぅ……」
そんな今日は、初めての武器での戦闘訓練を行った。
訓練を行うに当たってまず必要な取り決めがある。
それは自分の獲物を決める事だ。
( ^ω^)「ほおう、意外だお。君、射撃のセンスあるんじゃないかお?」
ナイフや刀剣類を最初選んでは見たが、どうもしっくりこない。
以前渡してもらった匕首は持ってはいるが、しかしどうにも合わない気がした。
つーか、刃物自体扱いなれてないっちゅーねん。
そんな私にナイフだの匕首だの、どうせいっちゅーねん。
あーだこーだと内藤と議論を交わすうち、ほいと出された物を、私は驚きのまま見つめた。
拳銃だ。刑事ドラマなどで使われる、あれ。
渡されたのはトカレフとかいうよく分からない物だった。
- 10 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 03:05:09.42 ID:ECauuQgm0
- 撃ってみると、反動に戸惑いはしたが、さして問題は見当たらない。
そもそも、こういう何かに向けて物を投げつけるだとか、射的だとかって言うのは得意な部類だ。
なのだが。
ξ;゚听)ξ「うーん……」
何か違う気がする。
( ^ω^)「気に入らんのかお?」
ようやくいい相棒に巡り合えたと思ったのに、と内藤はぼやいた。
いや、悪くは無い。決して悪くないのだが……。
ξ;゚听)ξ「何ていうか、これじゃあ、駄目な気がするのよねえ……」
必殺の一撃を放つ武器。
これさえあれば、きっと百戦錬磨も夢ではないのだろう。
あの布佐のおっさんも銃器を好んで使うと聞く。
だが……。
ξ;゚听)ξ(……しっくりこない)
直感と思しき物はそう告げる。
- 11 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 03:07:53.56 ID:ECauuQgm0
- ξ゚听)ξ「ねえ、内藤」
( ^ω^)「ん?」
ξ゚听)ξ「銃って、取り回しだとか、扱いが悪そうなんだけど……」
うーんと内藤は唸った。
( ^ω^)「……まあ、刃物類を扱う僕からしたら、面倒臭い極まると言ったところかお」
曰く。
メンテナンスは刃物のそれとは比較にならないほど小まめに行い、弾薬の補充だのパーツのストックだの、
おまけに弾薬数はワンクリップで数が限られるし、予備弾薬などで重いし嵩張る。
( ^ω^)「だから、僕は好まんお」
確かにそうかもしれない。
刃物はかけようが刺せるし、殴れる。
銃だって弾が無くなれば投げるなりなんなり使えるだろうが……。
刃物を扱う近距離タイプの人に比べれば、普段中、遠距離の人が唐突に近距離戦に持ち込んでもたかが知れるだろう。
つまり、銃を扱う人はそれだけしか頼ることはできないのだろう。
勿論腕力だとか最低限の対術は身につけているだろうが、あまりにも信頼性や確実性に欠ける。
- 12 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 03:10:34.36 ID:ECauuQgm0
- ( ^ω^)「だから銃を扱う人はよほどの玄人じゃないとお」
うーむ、そう言われてしまうと、余計に選び辛くなってしまった。
( ^ω^)「けどいい線いってると思ったんだけどおー、津出さん」
そうは言うけれども、私自身、何かが違うと感じてしまったんだ。
( ^ω^)「わがままな人だお」
まあ、まだそんなに焦らなくてもいい、と内藤は続けて言う。
そうだな、急いで決めたって仕方がないだろうし。
ξ;゚听)ξ「はあぁ、まさかこんなに悩むとは」
でもこれくらい悩まなければ意味なんて無いのだろう。
そりゃそうだ。これから先、自分自身の最もたるパートナーになるんだから。
( ^ω^)「さて、今日はこれくらいにするとするかお」
がさごそと私の為に持ってきてくれた沢山の武器を大きな袋に放り投げていく。
おいおい、ぞんざい過ぎやしないか?
( ^ω^)「いいお、どうせつかわないし」
ξ;-听)ξ「あんたね……」
- 13 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 03:13:55.98 ID:ECauuQgm0
- それより、と内藤は思い出したように言葉を漏らした。
( ^ω^)「明日から学園祭だおね」
そう言われて、私はそんなこともあったっけかなと思いだした。
ξ゚听)ξ「しかし意味の分からない時期にやるわよね。九月の半ばとか」
( ^ω^)「しようが無いお。そういう決まり事なんだし」
だから、と続ける。
( ^ω^)「明日は登校早い上にやることも多いから。早朝の三時に公園に集合で」
ξ゚听)ξ「え?」
何を言っているんだこいつ?
ξ;゚ v゚)ξ「んんん〜?ちょっと聞こえなかったかな?明日は休みだって?」
( ^ω^)「僕、スパルタで有名だからおー。まあ諦めて早く寝て起きて地獄に慣れろってこったお」
ξ;凵G)ξ「ざっけんな!!また肌が荒れるだろうが糞野郎!!」
知ったことか、と内藤は満面の笑顔を作って陽気に鼻歌を歌いながら廃工場から出ていく。
ああ、糞、ファッキンスプラッター!!
- 14 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 03:16:43.53 ID:ECauuQgm0
- そして現在へと至る。
ξ゚听)ξ「ふむ、十一時ね」
これから風呂に入って布団に入るにしても十二時くらいになるだろう。
そうなると睡眠時間は三時間だ。
かといって体中汗でベタベタのまま眠りにつくのは癪だ。
いっそサボってやろうとすら思えたが、そうすると後が怖い。
ξ;凵G)ξ「あの鬼めが!!」
結局即行で風呂に入るとくたくたの身体をベッドに埋める。
ああ、あと三時間後には駆り出されると言うのか。
遅刻なんてしたら痛い目見るんだろうな。
ξ゚听)ξ(けれども)
あいつもそれくらいしか、いや最悪眠れないかもしれない。
それでも私の特訓に付き合ってくれると言う。
ξ--)ξ(……ったく)
文句なんて言えた立場じゃないな。
- 15 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 03:20:24.63 ID:ECauuQgm0
- ∧ ∧
川 ゚ -゚)「……何これ?」
( ^ω^)「……津出さんだったモノ?」
ξヾ呀)ξ「ヒューッ、ヒューッ」
清々しい朝だ。目の前には天使が飛び回り、聞こえてくるのは何時かのメリークリスマス。
世界は虹色に満ちていて、体はどこかふわふわしていた。
うふふ、そうよ、私は今、鳥。
世界を自由に飛び回り、至福と癒しを与え給う。
ξヾ∀゙)ξ「あひっひぇ、ああ、天使様が、天使様が私を呼んでいる……」
∧ ∧
川 ゚ -゚)「……サイレンが響いたか?」
( ^ω^)「もう突っ込むのも面倒だお」
こ、こいつ!
そもそもだな!お前の所為で私はこんなことになってんだろうが!
見ろこの目の下の隈を!!満身創痍の体を!!
∧ ∧
川 ゚ -゚)「おお、本当にまた可哀そうに……小さなおっぱいになってしまって……」
ξ#;Д;)ξ「ぶっ殺すぞ!!」
- 17 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 03:24:33.30 ID:ECauuQgm0
- そうです。良い子な私は内藤の言いつけをしっかりと守ったのです。
そして何故か本日よりメニューが一新されましてですね。
やれランニングの距離が十五キロになったり、新しく状況的戦術とかいう戦闘訓練を取り入れたり、
近接戦闘に置いての体術にともない、棍術だの刀術が取り入れられたりラジバンダリ。
ξ;凵G)ξ「おかしいですやん……あんさん何で今日に限ってこないなことになっとんねん……」
( ^ω^)「忙しくなりそうだから?」
ξ;凵G)ξ「死んだらもともこもねえだろうが!!」
過労死寸前だぞこちとら!少しは労れや!
∧ ∧
川 ゚ -゚)「普段の行いが物を言うよねー」
( ^ω^)「ねー」
ξ;凵G)ξ「あれ、おかしいな、マジモンの涙が……」
ええい、まあもういい。
どうせお前らに常識も糞も無いからもうやめだ。
ξ゚听)ξ「つーか、空、あんた此処に居ていいわけ?」
- 18 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 03:27:24.60 ID:ECauuQgm0
- 現在、朝の学校。
本日より二日間にわたって開催される我が高での文化祭。
特にこれと言って目立ったものなんて無いが、それでも年に一度っきりの学校上げてのお祭りだ。
私達のクラスはありきたりなお化け屋敷とかいうのをやることになり、
今では教室の中はホラーチックに仕上がってしまっている。
特にやることのない私と内藤は、教室の外で受付をやっていた。
何故やることが無いかって?そりゃあ君、勝手に輪の外扱いされていたからさ。
はははは。
ξ;凵G)ξ「いや別に泣いてねーし、悔しくねーし」
(;^ω^)(ええいうっとおしい)
そんな私達が受付をやる目の前に居るのはお馴染の糞性悪最低最悪女、直空だ。
学校内でその名を知らない者はいないと噂されるほどの美人で、
おまけに勉強、スポーツと両方とも大得意の、もう生まれながらにチートの称号を持った存在である。
そんな少女が、私達の前に立って世間話をしている。
メイド服で。
- 19 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 03:31:59.07 ID:ECauuQgm0
- ξ゚听)ξ
ξ゚ -゚)ξ
ξ- -)ξ
ξ-ー-)ξb(GJ、空のクラス)
最早思い残すこともあるまい。
これで安心して冥土へと行ける。
あ、メイドだから冥土ってか!!ははっ!!バロス!!
∧ ∧
川 ゚ -゚)「いやつまんねーから。つーか死ね」
と、そんな事を言う猫耳メイドな直空さん。
正直苛つかないし怖くない。むしろ萌えてしまうではないか。
ξ*゚听)ξ「あーしかし糞め、午前がフリーならあんたをこき使えたと言うのに!!」
∧ ∧
川;゚ -゚)「っぶねー、まじっぶねー、想像したら身の毛がよだったわ」
折角、折角普段から書き連ねているノート――空奴隷計画――の内容を、
主人と言う権力を以ってして行使しようと思ったのに!
(;^ω^)「まじ碌でもねーお」
ξ#゚听)ξ「おおお前に言われたくないわボケ!」
- 20 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 03:35:36.53 ID:ECauuQgm0
- そんな空は、どうやら店の宣伝係として、クラスのカードを首に下げて校内を歩きまわっていたようである。
いやしかし、空さんや、そんな姿でいるからか知らんが、先から君への視線がだね、主に男性からのだね。
∧ ∧
川 ゚ -゚)「ふん、醜い奴等だ。浅ましさが見て取れるぞ」
だがそれも仕方がないではないか。
むしろ今の彼女を見て見ぬふりしろと言う方が難しいだろう。
ξ*´凵M)ξ(いやしかしかわええのう、零たんとまではいかんがこれもまたええもんやでー)
∧ ∧
川;゚ -゚)(寒気がする……)
と、そんな事をしていたら、空のポケットから振動音が響いた。
なっ、ま、まさかこいつ、よもや!!
ξ;゚听)ξ「あんたまさかバイb」
(;^ω^)つ「言わせねええ、絶対言わせねえええええ」
暴れる私の口を内藤の奴が手で塞ぎ、そんな私と内藤のやり取りを、空が冷めた目線で見下ろす。
そしてポケットから音の正体――携帯電話――を引っ張り出すと、何かを確認してすぐ閉じた。
∧ ∧
川 ゚ -゚)「では、お呼び出しがかかったのでな、私は戻るとするよ」
最後に、と空が私を見る。
∧ ∧
川 ゚ -゚)「変 態」
ξ )ξ「ゴフゥァッ!!」
- 22 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 03:40:22.23 ID:ECauuQgm0
- 手を出すでもなく、ただその言葉だけを残して空は去って行った。あ、猫の尻尾まで付いてる。
しかしその言葉はとてつもない威力を発揮したようで、私の心をぐしゃぐしゃにしていった。
ξ* )ξ「ああ!やめて!そんなゴミを見る様な眼で、私を罵らないで……!」
( ^ω^)「あの、本気で気持ち悪いのでやめてくれませんか」
誰もが私の様子を見て遠ざかっていく。
ふん、好きにしろよ。
そもそも、こんなヤンキー感丸出しの私を受付にする方が悪いんじゃボケ。
( ^ω^)「いやそれだけじゃねーだろ原因は」
_,
ξ゚听)ξ「知ったこっちゃねえ!」
本能のままに生きて何が悪い!
あ、駄目じゃん、それじゃまるっきり鬼違いですやん。
まあ鬼違いなんですけどね!でへへ!
( ^ω^)「どうしよう。まさか君と二人きりってのがここまで苦痛だとは思わなかったお。
君の頭の中は年中カーニバルか何かが起こってんのかお?」
_,
ξ゚听)ξ「はあ?あんた頭大丈夫?」
(^ω^ )(やべーこいつ殺してやろうか)
- 24 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 03:46:38.75 ID:ECauuQgm0
- 「あ、あの、二人とも」
内藤とそんなやり取りをしていたら、教室から二人の女子が出てくる。
ξ゚听)ξ「?」
( ^ω^)「どうしたお?」
見るからにおどおどしているのは、まあ、言うまでもないか。
私が怖いんだろう。
内藤の奴をどう思ってるのかは知らないが、それでも校内ではヤンキーで名の通っている私と、
まあ、それなりに仲良くしている姿が最近では目立つ。
だから、恐らくこの子達は私達二人に怯えているんだ。
ξ゚听)ξ「……早く要件を言いなさいよ」
何と言うか、苛つく。
別に君達二人に興味は無いし、そもそも危害を加えるつもりなんて無い。
スカートが短くて、ブラウスの前をはだけて、リボンをしていないのがそんなに怖いか?
濃すぎない化粧をしているのが?
「あ、あの、交代、です」
「二人とも、あとは自由にしていいって」
- 25 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 03:51:48.34 ID:ECauuQgm0
- ξ--)ξ「……あっそ」
遠回しに、もう何もしなくていいよと、言われたのだ。
それがクラスの総意なのだろう。
そうだろうとも。何せ私と内藤が受付を一時間していて、誰も客が入ってこなければ不審に思う。
だがその人選をしたのは君らだろうに。
それで使えないと分かったら用済みとな。
ξ゚听)ξ「じゃ、後よろしく」
と、二人の肩をぽんぽんと少しだけ強く叩いて、私は去っていく。
二人の顔は少し強張っていた。
( ^ω^)「まあ、気にするなお」
そんな私の後を、殺人鬼はついてきた。
ξ゚听)ξ「別に、慣れてるし」
そう、もう慣れてしまったからどうだっていい。
怒れる気もしないし、そもそも興味を抱きもしない。
好きで自分がこういうことをやっていて、それを他人が否定的になったって。
それを選んだのは自分自身だ、しょうがないじゃないか。
- 26 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 03:56:52.92 ID:ECauuQgm0
- 今更真面目を装って何になる?
過去は覆しようが無いのだ。
ならばもう、いっそこのまま突っ走るのみさ。
ξ;゚听)ξ「つーか、何でついてきてるわけ?」
( ^ω^)「暇だから?」
いや、そうは言うがな、こちとら朝からずっとお前と一緒なんだぞ?
( ^ω^)「まあ、偶にはいいじゃないかお」
……一体どういうつもりなんだかは知らないが、まあ、いいだろう。
と、そんなやりとりをしていると、私の腹がぐううと鳴った。
ξ;゚听)ξ「あー、そういえば朝からのハードな特訓に加えて、朝食あまり食べて無かったわね……」
ちらりと携帯を見る。
時刻は、十時半。
ξ゚听)ξ「んー……」
微妙な時間だ。
何か食べるにしても、これでは夕方まで持つか分からない時間だ。
- 27 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 04:01:02.84 ID:ECauuQgm0
- ( ^ω^)「食べ、行くかお?」
そんな私の様子を見て、内藤がそんなことを言った。
ξ;゚听)ξ「え?」
あの、内藤が?
自ら、誘い事、だと?
ξ;゚听)ξ「やばい、ちょっと地球滅びる予兆か何かかしら」
(;^ω^)「君って本当に失礼な奴だおね」
いや、だってねえ。
あんたのすることなんていつも、それこそ鬼畜じみているじゃないか。
そんなあんたが優しさって……正直、戸惑う。
( ^ω^)「まあ、兎に角中庭行ってみようお」
連れられてきたのは、沢山の出店が並ぶ中庭だった。
屋上や校庭付近にも色々と出ていたが、丁度一階の中庭付近を歩いていたのでそこに寄る。
ξ;゚听)ξ「ふえあー、意外と人いるのねー」
予想以上に、お客さんが並んでいた。
こりゃ、少し時間がかかるやもしれない。
- 28 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 04:05:52.87 ID:ECauuQgm0
- ( ^ω^)「……仕方が無いおね」
津出さん、と声をかけられる。
( ^ω^)「何が欲しい?」
何、だと?
まさか、こいつ買ってきてくれると言うのか?
( ^ω^)「まあ、簡易なご褒美だとは思うけどお、君、最近頑張ってるからお?
だから、偶のサービスってやつだお」
ξ*゚听)ξ「ま、マジ!?じゃ、じゃあ、あそこのフランクフルトと、いか焼きと、たこ焼きと、ビーr」
( ^ω^)「フランクフルトと、いか焼きと、たこ焼きね」
お、おーい、大事な部分を、大事な部分を言わせてはくれんのかね。
( ^ω^)「いやそもそも無いですし。つーか君未成年ですし」
_,
ξ゚ 3゚)ξ「ちぇー」
まあ、大人しく待っててくれ、と内藤は行って屋台へと足を運んで行った。
- 29 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 04:10:27.87 ID:ECauuQgm0
- 私は近くの適当な所に腰を落ち着けると、中庭を見渡した。
ξ゚听)ξ(本当、意外と人がいるのね)
まだ十時半だと言うのに、皆ご飯を食べ忘れてきたのだろうか?
まあ、でもこういう出店を見かけると、食べたくなる気持ちも、分からんでもない。
そう言えば。
夏祭り、とある少女と、こうして出店を見て回ったっけ。
ξ゚听)ξ「…………」
まだ一月前の事だ。
あの事件が、全ての、いや、私に変革をもたらした発端だった。
掌を見つめ、それを握りしめる。
その中には当然、何も無い。
だがこれこそが今、私には何よりも大切な物に思えた。
この握り拳をといてはならない。
それは、きっと死ぬまで続くのだろう。
もう、戦うと。戦い続けると決めたから。
- 31 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 04:15:27.15 ID:ECauuQgm0
-
ふいに。
何かが私を射抜く。
- 33 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 04:18:13.22 ID:ECauuQgm0
- ξ;゚听)ξ「!?」
一瞬、勘違いだと思った。
何か、そう、何かが。
とてつもなく、味わったこともない何かが。
私の何かを貫いた。
立ち上がって辺りを見渡す。
ξ;゚听)ξ(……いや)
気の、せいか?
ξ;゚听)ξ「あ、焦ったー」
……果たして、私は何に焦ったと言うのか。
その未知な物とは一体何だったと言うのか?
未だ立ちつくす私は、それでも周囲に目線を配る。
ξ゚听)ξ「――え?」
視線が、交差した。
じっと、私を見つめる、目線。
- 34 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 04:22:04.73 ID:ECauuQgm0
-
ξ゚听)ξ
(//‰ ゚)
- 35 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 04:25:51.63 ID:ECauuQgm0
- 顔面中に包帯を巻きつけた、上に白いブラウス、下に黒のスラックスを穿いた、
何処となく中世的な雰囲気を持つ人が、私を見つめていた。
(//‰ ^)
ξ;゚听)ξ「え、なっ――」
その人はにこりと微笑むと、何処ぞへと歩きだす。
何故だか、見失ってはいけない気がした。
あの笑顔が、何の歪も無いあの笑顔が。
ξ;゚听)ξ(ダメ、だ)
歩き出す。
あれは、何か、おかしい。
ξ;゚听)ξ(あれは、違う)
今まで遭遇してきた、今まで味わってきたそれとは何かが違う。
けれど私の中の何かは告げている。
追え、逃がしちゃいけない。
あれはきっと、マズイものだ。
- 36 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 04:29:05.96 ID:ECauuQgm0
-
八 其の二
- 38 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 04:32:30.54 ID:ECauuQgm0
- 学校内を走り抜ける。
ξ;゚听)ξ「ぐっ、くっ」
今日は学園祭だ。当然、学校内は来客やら生徒たちやらでごった返していた。
ξ;゚听)ξ(ざっ、けんな、よ!!)
糞、何でだ。
何でこんな時に限って、こうまで人がいっぱいいるんだ。
ξ;゚听)ξ(糞、何処だ――!!)
見失った訳ではない。かといって姿が視認できているわけでもない。
だが、そいつが何処に居るのかは、なんとなく分かってしまう。
ξ;゚听)ξ(何処に向かおうとしてんだ!?)
こういう時、自分の体質に感謝してしまう。
おそらく、これも無意識のうちなのだろう。
だが身体は反応していく。奴の、あの包帯人間のいる方向へと。
奴はまるで彷徨っているようだった。
一度通った道を引きもどしてみたり、校内の端から端へと移動してみたり。
ξ;゚听)ξ(一体何を……)
- 39 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 04:37:42.04 ID:ECauuQgm0
- まるで。
ξ;゚听)ξ(――見定めているような)
この学校内に居る人間一人一人を、観察して回っているようだった。
ξ;゚听)ξ(けれど)
何か、違う。
今までの鬼違いとはまるで。
ξ;゚听)ξ(目的は何だ?)
確かに、私は鬼違いだ。
だが鬼違いであるにしても、他の鬼違いの目的など理解出来やしない。
そもそも、奴が鬼違いだと言う証拠は無い。
にも関わらず。
ξ;゚听)ξ(何なんだよ、この焦燥感は)
胸を渦巻く焦り、苛立ち、そして恐怖心。
あの笑顔が脳裏を焼き付いて離れやしない。
一緒だったんだ。
見たことがあるんだ。
あの笑顔は。
あの、微笑みは。
- 40 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 04:41:44.50 ID:ECauuQgm0
- ξ;゚听)ξ(――!)
またも無意識のうちに身体は向かう。
今度は校舎の外へだ。
ξ;゚听)ξ(何処へ――)
私の意識とは無関係に、本能のみで身体は駆ける。
まるで誘われているようだった。
奴に、踊らされているような――
ξ;゚听)ξ「っ、はぁ、はぁっ」
乱れた息を整える。
身体は止まってしまった。
場所は東校舎の裏。
辺りは木々が生い茂り、とても人が来るような場所ではなかった。
ξ;゚听)ξ「……あんた」
そんな場所だと言うのに。
奴は、いた。
- 42 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 04:47:24.68 ID:ECauuQgm0
- (//‰ ゚)
一本の木に背を預け、私を見つめている。
その片方だけが剥き出しにされている瞳が、私を射抜く。
(//‰ ^)「……凄いな、少し驚いちゃった」
声。奴のだ。
だがなんとも判断しにくい。
男とも、女ともとれる、中世的な声色。
ξ;゚听)ξ「……何者なのよ、あんた」
びりびりと、肌に突き刺さる。
何故だ、何故こうまでも私は敏感に感じ取っている。
だって、奴は、微笑んでいるではないか。
何もせず、ただ木に背を預け、私に語りかけているだけだ。
だのにも関わらず。
ξ;゚听)ξ「誰なのよ!」
この、身を震わせるそれは。
間違いなく、純粋な殺気だ。
- 44 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 04:52:53.89 ID:ECauuQgm0
- (//‰ ゚)「誰、か」
ふふ、と奴はそれに笑う。
まるで可笑しなことを言っている、とでも言いたげに。
(//‰ ゚)「では逆に訊くけど、君は?」
ξ;゚听)ξ「っ」
こ、たえて、しまうか?
これは、こいつは正にそれだ。
間違いなく、私達が今まで対峙してきた奴等と一緒の部類の、危ないモノだ。
だが、本当に?
本当にこれは、鬼違いなのか?
ξ;゚听)ξ「答える義理なんて、あるのかしら?」
漂ってくる血の香り。まるでその身に纏っているように思えた。
目から迸っているのは狂気。存在そのものが凶器に思えた。
ξ;゚听)ξ「あんたは――」
何をしに来たと言うんだ。
狡猾で、残忍なはずの貴様らが、何故。
- 46 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 04:58:45.15 ID:ECauuQgm0
- まるで無計画じゃないか。
まるでただ狩りにきたとでもいいたけじゃないか。
お前は、まるで――
(//‰ ゚)「成程、君、鬼違いなのか」
ξ;゚听)ξ「!?」
一歩、後ずさる。
何故――
ξ;゚听)ξ「何で、その名称を……」
奴等が知りえるわけも無い。
むしろこれは俗称の類だ。
これは機関内での奴らの呼び名であって、一般的に知られることはまずあり得ない。
ならばこれは、機関の人間だとでも言うのか?
この、狂気の塊が?
否。断じて否だ。
何故なら私は機関の所属組員と全員接触しているからだ。
こんな奴、見たことなんて無い。
(//‰ ゚)「……ははっ」
- 47 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 05:03:48.59 ID:ECauuQgm0
- こつ、と奴は木から離れて私へと近づいてくる。
(//‰ ゚)「成程、成程。君、そうか。そうなんだな。面白いじゃないか。機関の人間なのに、鬼違いか」
私は、懐に隠しておいた匕首を抜きだす。
(//‰ ゚)「運が良いのか悪いのかはさておき、しかし、うん」
風が吹いた気がした。
何だか、とても強烈な。
(//‰ ゚)「でも。君、生きてるからさ」
殺すよ。
そう言って、奴は私の眼前まで、肉薄していた。
- 48 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 05:07:49.63 ID:ECauuQgm0
- ξ;゚听)ξ「!?」
反射的に、右拳を引き奴の脇腹目掛けて拳を叩きこもうとする。
が、奴はそれに合わせて一歩後ずさった。
だが。
ξ;゚听)ξ「ふぅっ――!!」
左手に握った匕首を、奴の右太ももに斬りつけようと滑らせた。
だが、それすらも見透かされていたようで、奴は私の右に回り込む。
内藤の訓練のお陰だとでも言おうか。
だが、こうまで早く、実戦に参加する羽目になるなんて、思わなかったのだけれど。
けど、体が覚えてしまっている。
無意識だろうがなんだろうが、あの血に塗れた特訓は、恐ろしく効果があったのだ。
ξ;゚听)ξ「っらあ!!」
右ひざ蹴りを腹に、右ひじ鉄を顔面に向けて同時に叩き込もうとする。
禁じ手と言われているらしいが、有効な物だと内藤は言っていた。
(//‰ ゚)「うーん」
けれど。
奴はそれを屈んでやり過ごすと、私の足をはらう。
左足のみを軸として立っていたのだ。そんなものに耐えられるわけがない。
無様にも私は地に身体をへばり付ける形となった。
- 49 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 05:12:55.74 ID:ECauuQgm0
- (//‰ ゚)「弱いね」
形勢なんてものは端からありはしなかったが、それでも窮地に陥る。
私は跪き、奴は私を見下ろすように立っていた。
ξ;゚听)ξ「……あんた、本当に鬼違い?」
湧いて出た疑問。
そもそもが謎に包まれていて、鬼違いだと言う証拠も無い。
だが奴はその口を動かし、言ったのだ。
「殺すよ」と。
一般人がそんなこと、容易く言えるわけも無い。
仮に冗談で言ったとしても、こんな状況、作り出すわけも無い。
(//‰ ゚)「……鬼違い、ね」
ぼりぼりと奴は頭をかいて、呆れたように言った。
(//‰ ゚)「やめてくれないかな、あんなのと一緒にされたら、たまんないよ」
そう言った。
だが、やはりまだ疑問は解消されやしない。
何故、その鬼違いと言う単語を知っているのだ?
- 51 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 05:16:03.42 ID:ECauuQgm0
- (//‰ ゚)「いいじゃん、知らなくてもさ、君は。ボクを理解する必要は無いよ」
懐から、奴は何かを抜きだす。
小刀……いや、これは脇差と呼んだか?
全長凡そ四十センチ程の刃物を、鞘から抜いて構える。
途端に、血の香りが辺りを満たした。
まるで血が注がれていくように、身体を包み込んでいくように。
普通じゃない。これは、異常だ。
想像に及ばないほど、これは、血を吸いこんできたのだ。
でなければこれほどまで死の香りを充満させるものか。
何時かの吸血事件を思い出す。
あの双子の兄弟の集めた血の部屋を思い浮かべた。
まるであれと一緒だった。それが全てで、それが世界なのだ。
まるで歴史だ。あれはそれだけの数の人を、命を、魂を食らってきたのだろう。
「待てお」
そんな、血に酔いしれている時だった。
声がした。
何よりも強くて、完全無敵の、殺人鬼の。
- 52 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 05:23:36.49 ID:ECauuQgm0
- まるで場違いじゃないか、と言いたくなった。
それもそうだろう。
何せ奴は――内藤は、その手に多くの食べ物を持って、のったりくったりと歩いてきたのだから。
( ^ω^)「おお、津出さん。大丈夫かお?」
内藤を見ると、奴は少しだけ下がり私と内藤の様子を見ている。
荷物を下ろし、私の手をとると、内藤は私を立たせた。
( ^ω^)「ふむ。まあ初戦にしては健闘したんじゃないかお?」
まあ、相手が悪すぎるけれども。
そう言った。
ξ;゚听)ξ「な、内藤、こいつ、こいつ、やばいっ」
言いたい事がまとまらない。
だが、敏感に感じ取れることだけを、口に出した。
あまりにも状況判断に欠ける単語ばかりだ。
だが、内藤は一つ頷くと、知ってるよ、と呟いた。
ξ;゚听)ξ「え?」
何だって?おい、それは一体――
( ^ω^)「来ちゃったのかお」
疑問を表情に出す私を置いて、内藤は私の横を通り過ぎていく。
そして未だに私達を見つめる奴に向かって、そう言った。
- 54 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 05:27:39.61 ID:ECauuQgm0
- ( ^ω^)「屍」
しか、ばね?
それが、奴の名前?
(//‰ ゚)「うーん、まるで来るのを知っていた様子だよね」
また、奴は――屍は頭をかく。
( ^ω^)「そりゃあ、お前、どんだけ自分が有名人か、理解できてるだろうお?」
(//‰ ゚)「どうかな。君達の方が有名に思えるけれども」
ふん、と鼻を鳴らして、屍は続ける。
(//‰ ゚)「『国解機関』、ね。仰々しいよ、まったく。それでいて図々しい」
( ^ω^)「まあそう言うなお。僕もそう思うけれど、けど無きゃ困るのは分かるだろうお?」
(//‰ ゚)「無きゃ困る?」
ははは、と屍は笑った。
(//‰ ゚)「馬鹿な。無くなってもらわなきゃ困るんだよ」
- 56 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 05:32:00.93 ID:ECauuQgm0
- ξ;゚听)ξ「なっ――」
もう、状況はさっぱり、理解出来てなんていなかった。
屍という奴が誰で、何なのかも、内藤が何故屍と言う奴を知っているのかも。
( ^ω^)「四年前」
そんな私を気遣ってかなんなのか、内藤は口を動かし始めた。
( ^ω^)「とある片田舎で起きた事件、津出さん、分かるかお?」
そんな事を言われても、分からない。
四年前……。
ξ;゚听)ξ「――え?」
いや、待て。
何か大きなことがあった気がする。
そうだ、片田舎。
普段聞かないような地名で、何か、とんでもないことがあったような――
( ^ω^)「一家惨殺事件、そして〇×中学校三十二人殺し」
はっとした。
忘れたくても忘れられない。
それほどまでに衝撃的な事件だった。
- 58 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 05:37:50.13 ID:ECauuQgm0
- あの時期、それはとてつもなく世間に衝撃を伝えた。
何時、どのニュースを見ても、当時はそればかりが取り立たされていたのを覚えている。
そうだ。
私は覚えている。そのニュースを見て、まるで狂気が産み落とされたようだと感じたのを。
( ^ω^)「それだけなんかじゃない。歩行殺戮事件、〇×会社虐殺事件と」
全部、こいつが犯人だ。
そう、内藤は言った。
どれも、世間を騒がせた大きな事件だった。
その被害者の人数たるや、尋常ではなく。
ξ;゚听)ξ「う、そ」
その犯人が今、目の前に居ると言う。
屍。こいつが。
( ^ω^)「分かっていたとも、君が来ることくらい。君、前回機関の人間に接触してるおね」
(//‰ ゚)「ん?……ああ、もしかして、あの白髪ピアスの少年かな」
そ、それは。
ξ;゚听)ξ「斎藤!?」
接触している、だと?
単なる接触なら良い、だがこいつを見やるに、そんな穏便なこと――
- 60 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 05:42:23.46 ID:ECauuQgm0
- ( ^ω^)「安心しろお、津出さん。あいつは生きてるお」
そして。
( ^ω^)「こいつも、生きている」
それが答えだと言いたげだった。
まるで、あの斎藤が、敵わなかったような言い方だった。
私自身、彼の戦闘を見たことは無い。
だが、腐っても機関の人間だ。腕はたつに決まっている。
( ^ω^)「残念だけど、君は超絶VIP待遇だお。見す見す逃すわけにもいかない」
(//‰ ゚)「成程ね。だからここに来るのも知っていた、と」
( ^ω^)「いいや?偶然だお。本当に偶然、君はこの学校に来た」
まあ、と続ける。
( ^ω^)「粗方予想はついてたお?虐殺者さん。君は人の多い所を好む。そして」
若い人を。
その言葉が、妙に頭に残った。
( ^ω^)「あまりにも上手い具合に状況が被ったんだお。学校、学園祭、溢れかえる人、人」
- 62 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 05:46:03.73 ID:ECauuQgm0
- 屍の起こした事件を思い出す。
そのどれもが、大量虐殺だった。
とても人の出来る範疇を越えているような量だ。
ならば今この学校は、まさに狙い目だっただろう。
こんな片田舎で、珍しくこの時期に学園祭なんて開いている我が高校は。
(//‰ ゚)「しかし、まさか追跡だなんて、本当にあるものなのだね」
( ^ω^)「だから、君は特別なんだお」
すっ、と内藤はペティナイフを取り出す。
屍も、再びその脇差を構えた。
ξ;゚听)ξ「内藤、こいつは、一体」
かすれた声で問う。
違うのだ、こいつは。
今まで対峙してきた鬼違いとは、別の種類に思えてならない。
( ^ω^)「そうだお、津出さん」
ならばなんだ、こいつは、一体。
( ^ω^)「こいつは鬼違いじゃあない。純粋な殺人鬼(スプラッター)だお」
- 63 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 05:50:01.57 ID:ECauuQgm0
-
八 其の三
- 64 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 05:55:29.52 ID:ECauuQgm0
- 目の前で状況は加速していく。
( ^ω^)「ぉぉおおっ!!」
(//‰ ゚)「ふぅっ!!」
正午に近い時刻。
とある片田舎の、とある学校で、それは起きていた。
超感覚と言う類稀なる能力を宿し、日夜殺戮に生きる男と。
虐殺に生き、血を啜り、世界を彷徨う屍と言う人間が。
あまりにも平凡なこの空間を、異常に歪めていた。
刃と刃が交差し、離れ、接近し、また激突していく。
異常だった。何もかもが。
少し移動すれば、そこでは生徒や学校へ来た人々が、幸せそうに日常を謳歌しているのに。
だのに、ここはもう、取り返しがつかないくらい、異常に満ちていた。
ξ;゚听)ξ「すご、い」
私は、見惚れていたのだ。
その光景に、ひしひしと感じ、そして恍惚の笑みすら浮かべてしまえた。
これは、これは違う。
今までとは比べ物にならないほどに。
- 65 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 05:59:38.23 ID:ECauuQgm0
- ξ;゚听)ξ(内藤と、渡り合ってる)
果たして内藤が全力かは知らない。
だが、間違いなくあの屍と言う殺人鬼は、内藤と互角だった。
その呆れるほどの破壊を、奴は避け、いなし、反撃へ。
その流れる様な、展開の読めない攻撃を、内藤は受け、押し返した。
見たことが無かった。
あの内藤と、此処まで戦闘できる人間が、居るわけがないと。
きっと機関の人間と戦うのなら、こうもなるのだろう。
だけれど、それでも内藤と互角に渡り合えるとは思わなかった。
( ^ω^)「流石だお、屍」
内藤がペティナイフを奴の心臓目掛けて、とんでもない速度で突く。
だがそれすらも奴はするりと回転して避け、逆にその回転を利用して横一閃に脇差を振るう。
(//‰ ゚)「君も、やるじゃないか」
その一撃を、内藤はペティナイフで受け止めた。
力の拮抗。
屍は力では分が悪いと悟ったのか、ふいに力を緩めると身体を屈ませる。
咄嗟のことに内藤は前蹴りをしようとするが、それすらも読んでいたのか屍はそれを両の手で塞いだ。
そしてそのまま、足を掴むと、内藤を引っ張り倒す。
- 68 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 06:05:23.35 ID:ECauuQgm0
- (;^ω^)「っとお、おや、はしたない」
仰向けに倒れた内藤の腹にすかさず乗ると、屍はその両足で内藤の両腕を踏みつけ、脇差を振りかぶる。
ξ;゚听)ξ「ちょまっ!?」
お、おい!あまりにも早すぎる展開についていけない!
なんだこの戦闘は!!
つーか、内藤超ヤバイんじゃないのか!?
(//‰ ゚)「!?」
だが内藤の本質は何だ?
その戦闘技術か?はたまた刃物の扱いか?
いいや、違う。
奴の本質は、その馬鹿げた破壊力。
そう。単純な力にこそある。
奴はふっ、と息を吐くと、無理矢理に屍を吹き飛ばした。
な、何が?何がどうあってああなった?
(;^ω^)「っつー、腹筋死ぬかと思ったお……」
恐らく、奴は腹筋に力を込めて、背中で地面を思い切り……蹴ったのだ。
普通じゃない。呆れるほど……異常だった。
(;/‰ ゚)「ってて……なんて目茶苦茶なんだ、君は」
- 71 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 06:09:04.77 ID:ECauuQgm0
- 状況は変わらない。
ただ、お互いの距離を置いただけで、未だ戦闘は続いている。
ξ;゚听)ξ「ぅっ……」
糞っ。
なんだって、なんだってこうも――
ξ; )ξ(――気持ち良すぎる)
こうも鬼違いであったことを呪った日は無い。
この現状を、快楽へと変換する身体が気味悪くて仕方が無い。
だが、誤魔化せやしないんだ。
この状況は、あまりにも緊張感に溢れているのだから。
( ^ω^)「……屍」
ぺっ、と内藤は唾を吐く。
恐らく、繰り広げられる戦闘の中、屍に殴られた時に口内が切れたのだろう。
( ^ω^)「機関に入れお」
瞬間、世界が凍りついた。
今、何と――
( ^ω^)「って言うのが、上からの君への対応なんだけれどお」
どうかお?と内藤は問いかける。
- 74 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 06:12:46.21 ID:ECauuQgm0
- ξ;゚听)ξ「は、あ?」
あまりにも馬鹿げているように思えた。
何だそれは。一体何を言っているんだ、内藤。
( ^ω^)「力もある。戦闘経験もある。これだけの人材を、機関が見過ごすわけがないお」
確かにそうだろうさ。
この屍と言う奴は、殺戮マシーンだ。
いっそこいつの人生は殺人に彩られていると言っても過言ではない。
だけれど、それでもいいのか?
こんな奴を、機関にだと?
ξ;゚听)ξ(――いや)
だからこそ、かもしれない。
ある意味、合法的に殺せるようになるのだ、機関に入れば。
そうすれば、態々危ない橋を渡ってでも、奴が殺すことはもう――
(//‰ ゚)「――くくっ」
だが。
(//‰ ゚)「くはっ、くく、はははは!!」
奴は大きな声で笑った。
- 76 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 06:19:13.40 ID:ECauuQgm0
- (//‰ ゚)「はぁ……馬鹿言わないでよ。言ったろ?むしろそっちには潰れてほしいんだよ」
呆れたように奴は続ける。
(//‰ ゚)「分かるかい?高々鬼違いっていう種類なだけで、君たちは殺していくんだ」
ボクの獲物を。
そう、言った。
(//‰ ゚)「知っているんだろう、君達は。ボクのしたい事くらい?」
そう問いかけられた内藤は、無表情のまま、だが軽蔑した眼差しで言う。
( ^ω^)「……そこまで、憎いかお。人間が」
生きている人々が。
(//‰ ゚)「憎いね。憎くて憎くて仕方が無い。全員殺さなければボクの気は収まりゃしない」
( ^ω^)「屍。いや――横堀でい」
(//‰ ゚)「っ」
名前を呼ぶと、屍は黙る。
それが奴の名前だろう。
私ですら知っている。
何故なら、その名前は何度もテレビや新聞で報道されていたからだ。
- 80 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 06:23:42.46 ID:ECauuQgm0
- ( ^ω^)「お前の送ってきた人生なんてとっくに調べてあるお。共感できないわけでもない」
だが。
( ^ω^)「お前は殺すのかお。お前を傷つけなかった人々すら」
内藤の拳に力が込められているのが見受けた。
まるで、怒りに震えているようだった。
(//‰ ゚)「殺すよ。何故ならそれが彼らの罪で、罰だ。ボクは一片の迷いすら無く、殺していく」
ばっ、と内藤がかけて、屍にペティナイフを振るう。
それを屍は脇差で受け止める。
(#^ω^)「――ふざけるなよ、殺人鬼(スプラッター)。お前にそんな権限があると言うのかお?」
(//‰ ゚)「あるさ。無いのなら認めさせる。何度でも殺して殺して認めさせるさ」
がっ、と音を立てて二人は距離を置く。
(//‰ ゚)「貴様等と何が違う?お前たちは、平和って言う大義名分を振りかざして、殺人を正当化しているだけだろう?」
ふざけるなよ、と屍は言った。
(//‰ ゚)「何が鬼違いだ。何が害悪だ。お前達だって、殺して殺して、殺し続けているだろう!!」
そうして、またも屍は内藤に急接近する。
- 81 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 06:28:22.11 ID:ECauuQgm0
- 右から、左から、上から、下から。
縦横無尽に刃は行き交う。
それを内藤が受け、いなす。
だが受け止めきれていない。
内藤から血が舞う。
斬られているのだ。
(;^ω^)「く、ぅっ!」
ξ;゚听)ξ「内藤!!」
何だ、どうしたというんだ。
まるで全然、いつもの内藤じゃないぞ。
おかしい。あれでは、内藤が負けてしまう――
(//‰ ゚)「一緒だ!!お前も、ボクも!!単なる殺人鬼だ!!殺したいから殺しているんだろうが!!」
屍が叫ぶ。
尚も攻撃の威力は休まることは無い。
次第に、内藤が対応しきれなくなっていた。
(;^ω^)「ふ、ざけるなよ、殺人鬼!!」
だが、内藤は押し返す。
僅かな隙間を埋めるように、そのペティナイフを振るう。
(;/‰ ゚)「ぐっ!」
- 82 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 06:34:05.83 ID:ECauuQgm0
- (;^ω^)「僕との相違はただ一つ……それは明確な殺意と憎悪を以ってしての殺人だお!!」
だがしかし、有効な攻撃の数は、明らかに屍の方が多かった。
(#^ω^)「僕と貴様は違うぞ、殺人鬼!そして鬼違いとも違う貴様は一体なんだと言うんだお!!」
内藤の、捨て身の当て身が屍の身体を吹き飛ばす。
渾身の一撃だろう。見れば、屍の一閃が、見返りにと内藤の脇腹を切り裂いていったようだ。
だが、屍も吹き飛んだ先の木々に滅多打ちにされ、途方も無いダメージを受けていたようだった。
(;/‰ ゚)「……憎い、憎いぞ、お前もだ、殺人鬼。何故生きている、何故、生きようとする」
だが、屍は立ち上がる。
その手に脇差を握りしめ。
(;/‰ ゚)「許すものか。お前達、全人類を許してなるものか。
ボクの世界を壊したのは、ボクを先に攻撃したのは――お前達だろう!!」
駆けだした。
向かう先には、内藤。
一体、今の内藤に何ができる。
満身創痍だ。
何なんだ、何なんだよ、お前は、屍。
ξ;゚听)ξ(――ふざけんな)
- 84 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 06:37:36.24 ID:ECauuQgm0
- 何故私は何もしない、何もできない。
あの誓いはどうしたと言うんだ。
もう誰も傷つけない、誰も悲しませないと。
決めたのは誰だ。
ξ;゚听)ξ(ふざけんなよ……!!)
だが、この距離で間に合うのか?
あの疾走する屍の速度に、間に合うのか?
ξ;--)ξ「――んなよ」
手に持つそれを、私は信じた。
諦めるな。
信じるんだ。
自分はいったい、誰の下で鍛えられた?
ξ;゚听)ξ(そうだろうがよ、最強の弟子……!)
振りかぶる。
手に持つのは、匕首。
あの日。初めて渡された凶器。
私といつも共にあった、内藤から託された武器。
- 85 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 06:41:43.91 ID:ECauuQgm0
- ξ;゚听)ξ「なめんじゃねえええええ!!」
それを、屍へと投げる。
何よりも早く。
速く
疾く。
それは駆ける。
討つべき敵へ向け、宙を切り裂いていく。
(;/‰ ゚)「!?」
貫け、突き刺され。
敵を打ち果たしてくれ。
- 88 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 06:45:20.51 ID:ECauuQgm0
- 何かを裂く音がして、ついで何かに突き刺さる音が響く。
ξ;゚听)ξ「っ――」
果たして、匕首は木に突き刺さっていた。
外したのだ。このチャンスで。
包帯が舞う。
匕首は屍の頬を切り裂いていったのだ。
(;゚;;-゚)「ぐっ――」
傷だらけの少女の顔が、そこにはあった。
何とも悲惨な痕の数々が窺えた。
だが。
「ありがとお、津出さん」
そんなこと、知ったことか。
お前は敵だ。私達に殺意を向けたんだ。
(;^ω^)「ちっと、歯ぁ食いしばれお、屍ええぇぇえええええええぇええ!!」
うちの殺人鬼が許すものかよ。
内藤の右ストレートは、屍の頬を確実に捉え、吹っ飛ばした。
- 89 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 06:49:55.06 ID:ECauuQgm0
- (; ;;- )「ぐふっ」
地に膝をつく屍。
そして。
(;^ω^)「はぁ、はぁっ」
脇腹の傷を抑えながら、立ちつくす内藤。
ξ;゚听)ξ「内藤っ!!」
そしてそんな内藤に私は駆けよった。
ぼろぼろになっている屍を見る。
未だ警戒心は解けないままでいた。
当然だ。何せ今、目の前に居るのはおびただしい数の人間を殺して回っている殺人鬼だ。
例え鬼違いではないにしても、その力は恐るべきものだ。
(;^ω^)「……屍」
未だに荒い息をつきながらも、内藤は屍に話しかける。
(;^ω^)「はっきり言えば、僕はお前に機関に入ってもらうとか、そんなことは、どうだっていいんだお」
(; ;;- )「…………」
(;^ω^)「けれど僕はお前に対する興味は以前からあったお」
答えろ、と内藤は言う。
- 90 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 06:54:05.68 ID:ECauuQgm0
- すっと指を奴の持つ脇差に向けて差す。
(;^ω^)「お前が好んで使うと言われるその脇差、何処で手に入れたんだお」
ξ;゚听)ξ「……脇差?」
地に膝をつきながらも、それでもその手の脇差を離すことをしない屍を見る。
(; ;;- )「……君、会ったのかい、彼に」
二人は、それだけで何かを悟ったようだった。
(;^ω^)「奴の居所、知ってはいないかお」
(; ;;- )「知ってたとして、答えると思うのかい」
その言葉に、内藤は雰囲気を変える。
(;゚ω゚)「……此処で確実に死ぬよりかは、マシだろうがお」
満身創痍の癖に、そんな風に言う。
屍は、馬鹿じゃないのか、と笑った。
(; ;;- )「……悪いけれど、ボクにとっても彼は殺すランキングのトップランカーだ。そう易々と情報はやれない」
だが、と続ける。
(#゚;;-゚)「……ヒントでいいのなら、あげるよ」
- 93 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 06:58:33.11 ID:ECauuQgm0
- 屍は、ようやっと呼吸が整ったのか、立ち上がってそう言った。
( ^ω^)「……あるだけ、ありがたいお」
内藤も、ようやっと息が整い終わったようである。
この二人、やはり普通ではない。
ξ;--)ξ(もう、ついてけないわよ……)
あれだけの戦闘をしておいて、まだ余裕だ、ってか?
さっきまでの虫の息は、一体何処に行ったと言うんだ?
内藤は頷けるさ、超感覚者なのだから。
だがそれと渡り合った屍はいったい何者なのだ?
( ^ω^)「もしかしたら、かもしれないおね」
内藤のその一言で理解する。
ああ、糞め、何なのだこいつ等は……。
(#゚;;-゚)「内藤、と言ったか、君は」
それに内藤は頷く。
(#゚;;-゚)「vipを、知っているね」
その単語だけで、内藤は理解したのだろう。
- 94 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 07:02:28.26 ID:ECauuQgm0
-
( ゚ω゚)
驚愕を露わにしていた。
- 95 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 07:05:56.96 ID:ECauuQgm0
- (;^ω^)「……いや、馬鹿な。だって、あれは」
(#゚;;-゚)「そうさ、それはもう、存在しない組織だ」
(;^ω^)「なら、何でその名前が――」
(#゚;;-゚)「……その残党が指揮する組織が、まだ残っていたとしたら?」
二人の空気が張り詰める。
何だ、一体何の話をしているんだ。
(;^ω^)「……嘘だろうお。だったら、こっちに要請があったって……」
(#゚;;-゚)「ふざけたことを言うね。vipの時だって、あれは君たちの独断専行だったと聞くが?」
(;^ω^)「……まあ、いい。それで、それと奴と、一体何の関連性があるんだお」
一度、屍は間を置く。
(#゚;;-゚)「正式に雇われたそうだ」
それを聞いた内藤は。
( ^ω^)「――そうかお」
殺意で表情が固まっていた。
- 97 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 07:08:41.50 ID:ECauuQgm0
- もう、何が何だか分からない。
一体、二人は何の話をしていると言うんだ。
(#゚;;-゚)「後は自分で調べてくれ」
( ^ω^)「いや、十分だお。むしろこれだけのヒント、助かったお」
ざっ、と屍は踵を返す。
ξ;゚听)ξ「おっ、ちょっ、内藤、あれ、行っちゃうけど!?」
( ^ω^)「……構わんお。どうせ僕達組織が関与していいのは殺人鬼ではなく鬼違いだお。
今回だって、勧誘に失敗したとでも言っとけば事は済む」
で、でも、いいのか?奴はまた人を殺して回るぞ?
( ^ω^)「暫くは、まともに行動できないだろうお。それなりに重傷、あるから」
聞けば右脇腹は全て叩き折り、右肩、左の手の付け根も粉砕してあると言う。
( ^ω^)「そもそも、上からの命令は奴の勧誘。止めるでもなく、殺すでもないんだお」
ξ;゚听)ξ「……あんたは、それでいいの?」
内藤が拳を握った。
もう、それだけで分かる。
( ^ω^)「……さあ、お」
- 98 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 07:10:54.92 ID:ECauuQgm0
-
八 其の四
- 99 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 07:15:10.52 ID:ECauuQgm0
- 私は夕暮れの校舎の中を歩いていた。
あの後、内藤は先に帰る、とだけ言って、そそくさと帰ってしまった。
しばらくの訓練は、休みだろうか。
あの状態の内藤を見るに、そう思えてしまう。
ξ゚听)ξ「……訳分かんないわよ」
内藤も、あの屍と言う奴も。
最早理解が追いつかなかった。
いいのか?機関はそれで。
奴を野放しにして?
鬼違いではないからと、虐殺者を野放しにしていて?
ξ゚听)ξ「あれじゃ、やってること、変わらないじゃない」
奴は、きっと復讐の為だけに動いている。
知っているさ、分かるさそのくらい。
何故なら嘗ての事件で、彼女の生涯は明らかにされてしまっているからだ。
当て所なく続く暴力の日々、狂った家族。
そんな中で生きていれば、壊れてしまうのも仕方がないだろう。
- 100 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 07:19:19.04 ID:ECauuQgm0
- だからと言って、全てを殺し尽くすと言うのか。
何の罪も穢れも無い人すらも。
そしてそれを機関は見過ごすと言うのか。
一人の殺人鬼として捉え、鬼違いではないからと言って。
その境界線は一体何処にあると言うのか。
変わらないではないか。明確な殺意を以ってしての行動じゃないか。
確かに、鬼違いは殺意などと言うものを持ち合わせてなどいないだろうよ。
だが結果的に殺しているんだぞ。異常な数字の人を殺しているんだぞ。
何処が違う。あの屍と鬼違いの何処が。
結果的に死へと追いやっているのなら、それはやはり、同義ではないのか。
ξ゚听)ξ「…………」
途方も無く、私はぶらぶらと彷徨っていた。
既に人は疎らで、各教室では本日の営業は終わっていたようだった。
何となく何処にも居辛くて、私は自然と習慣的に、図書室へと足を延ばす。
ζ(゚ー゚*ζ「……あれ、お姉ちゃん?」
図書室を目前にして、出てきたのは、まさかの我が妹だった。
少し驚いているようだったが、私の顔を見て不思議な表情を作る。
- 102 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 07:23:07.76 ID:ECauuQgm0
- ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの?何か、元気ないよ?」
そう、言われてしまった。
元気が無い、か。
そうだろうとも。最早私に元気を取り繕う気などありゃしない。
ξ^凵O)ξ「……ううん、何時も通りよ」
だが、零を心配させたくは無かった。
だから無理矢理に笑顔を作ると、そう言ってやる。
零は何かを言いたそうにしていたが、察してくれたのか、それ以上追及してくることは無かった。
ζ(゚ー゚*ζ「……先、帰ってるからね」
今日の夕ご飯、からあげだから、と言って零は廊下を駆けて行った。
からあげ、か。なんとも普通だな。ああ、愛おしい普通だ。
きっと、家に帰ればそれこそ温かいご飯と、愛しの妹が待ち構えてくれているだろう。
そうして私は、疲れを癒す為に風呂に入り、軽くネットサーフィンでもして、眠りへとつく。
普通だ。私が昔、何よりも毛嫌いしていたものだ。
刺激を求める事ばかりに夢中になり、不良になった。
だが、今では普通こそが、程遠い物に見える。
- 103 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 07:26:31.83 ID:ECauuQgm0
- 図書室の扉を開き、かつかつと歩いていく。
誰もいない、静かな空間だ。
丁度もう、下校の時刻だ。学園祭故か、図書委員の一人すらいない。
だのに。
川 ゚ -゚)「……ツン?」
居たのだ。
我が親友が。
ξ゚听)ξ「…………」
驚いて、目を見開いてしまう。
川 ゚ -゚)「お前、日中ずっと見なかったが……あれ、そういえば内藤も見かけなかったぞ?
一体何してたんだ?」
彼女へと近寄っていく。
そうさ。彼女は何も知らない。
日中、何があったのかを、彼女は知る由も無い。
川 ゚ -゚)「? ツン?」
ξ )ξ「空っ」
椅子に座る彼女に抱きつく。
もう、我慢の限界だった。
- 104 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 07:31:31.81 ID:ECauuQgm0
- 空は何も言わず、私の頭を撫でる。
知らぬうちにこぼれる涙が、彼女の肩を濡らしていく。
川 ゚ -゚)「…………」
ξ )ξ「…………」
何も聞いてこない。
それは優しさか、はたまた?
けれど、語らせてくれ。
ξ )ξ「初めて、戦ったよ」
その一瞬一瞬が、まるで夢のようだった。
たったの数秒間の戦闘だっただろう。だけれど、私にはそれが無限にすら思えた。
ξ )ξ「初めて、殺したいとも思った」
屍と言う人間を、許せないと。いっそ、殺してやりたいと思った。
だってそうだろう?彼女が生き続ける限り、被害者は後を絶たないに決まっている。
ξ )ξ「もう、訳が分からないよ」
機関は、何故。内藤は、何故。
だって、その為の聞かんじゃないのか。
だって、怒っていたではないか、内藤は。
- 105 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 07:34:45.99 ID:ECauuQgm0
- 川 ゚ -゚)「……辛かったな」
空は、言う。
川 ゚ -゚)「まだ、全部を理解なんてできないさ。それに、暗部なんて、結局は矛盾で構成されているようなものなんだ。
それを理解なんてできないだろうし、慣れろと言われても嫌気がさすだろう」
けれどな、と空は続けた。
川 ゚ -゚)「それでも、私達は従う他無いんだ。生き続けるために」
ξ )ξ「嫌だよ、そんなの」
正義を振りかざすわけでもない。
分かっている。殺人を正当化するような組織が、そんなもの掲げたって認めやしないさ。
だがこの胸の中にある、熱い物は何だ。
煮え滾って、燃え盛って、熱は引く所を知らないんだ。
そう。怒りだ。
奴に、屍に対する怒りと、機関に対する怒りや不信感。
生き続けたいさ、そりゃ。死にたくなんて無い。
だからと言って、あれを見過ごせるわけがないじゃないか。
川 - -)「……ツン」
- 112 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 08:01:15.47 ID:ECauuQgm0
- ぎゅっ、と抱きしめられる。
川 - -)「皆、同じ思いだ。恐らく、布佐さんだってな。だが、上にも何か考えがあるんだろう」
そう思わなければ、やっていけなんてしない。
川 ゚ -゚)「……来ていたんだろう、屍が。そして、内藤と一緒に、戦ったんだろう、奴と」
情報屋から連絡が来ていたよ、と空は言った。
川 ゚ -゚)「端から内藤は知っていたみたいだ。奴の進行ルートを、事前に知っていたらしいな。
いや、或いは自らで誘導させたのか」
兎も角、既に屍との戦闘は避けられなかったのだろう。
内藤は、本当に奴の知りえる情報だけを目的に?
川 ゚ -゚)「……どうだろうな。だが、奴は戦っていた時、どうだったんだ?」
そう言われて、思い出す。
あの、怒りに歪んだ表情を、握りしめられた拳を。
川 ゚ -゚)「ある意味、内藤は奴を機関に入らせたかったのかもな」
あいつは、自分を重ねていたんだろう、と言う。
- 113 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 08:06:52.24 ID:ECauuQgm0
- 川 ゚ -゚)「嘗て、内藤も殺人鬼(スプラッター)だった。状況は違えど、それでも奴は殺人の為だけに生きてきた。
だが、奴と屍との違いは、救いがあったかどうかだ」
きっと、内藤はなろうとしていたんじゃないだろうか?
奴の、屍の救いに。
川 ゚ -゚)「だから内心、あいつは怒り狂ってたんじゃないかな。屍にも、そして機関のやり方にも」
……何だよ。
結局、一緒なんじゃないか、私も内藤も。
川 ゚ -゚)「さあ、顔を上げてくれ、ツン」
ξ。゚听)ξ「…………」
空と居ると、何故か安心してしまう。
彼女の言葉一つ一つに、説得力を感じてしまう。
不思議な奴だな、と思った。
どうしてお前といると、こうも心は温かくなるのだろう。
川 ゚ -゚)「おいおい、涙の後、残ってるぞ」
ξぅ听)ξ「べ、別に、泣いてねーしっ」
せめて、強がって見せた。
- 114 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 08:10:14.11 ID:ECauuQgm0
- ξ゚听)ξ「……ありがとう、空」
川 ゚ -゚)「……ん」
毎度、本当に。
空には助けられてばかりだ。
ξ゚听)ξ(ありがとう)
私の友達。
大好きな親友。
- 116 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 08:14:10.86 ID:ECauuQgm0
- vipという組織が嘗てあった。
当時、まだインターネットがアングラだった時代。
その組織はインターネットを駆使し、裏の世界を牛耳っていた。
( ^ω^)「……嫌な名前が出てきたもんだお」
日本国内にその組織はあった。
警察、政治家、はては軍とまでのコネを持つその組織は、まさしく覇道を築く。
誰もが手を出せない組織だった。
そう。『国解機関』でさえも。
vipの名は有名だった。ある特殊なことで金を稼いでいたからだ。
当然、麻薬や武器弾薬の密売なんかもお手の物。
中には暗殺めいたものもやっていた。
だが極めつけのものがある。
( ^ω^)「懐かしいおね……」
スナッフビデオの制作だ。
これが馬鹿みたいな金で取引された。
内容は何でもござれ。
中でも売れ筋は子供たちによる殺し合いだった。
- 118 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 08:18:27.84 ID:ECauuQgm0
- そうさ。
僕はその組織を誰よりも知っている。
( ^ω^)「糞っ垂れだお」
嘗て僕が飼われていた場所だからだ。
あの忌々しい過去がよみがえってくる。
鉄の折の中、日々を血で染めた。
毎日毎日、見知らぬ人間を殺し、犯され、穢れていった。
暗殺めいたものもやった。
誰かの護衛だってした。
組織の勢力は全国に及び、そして力は国の根本まで忍び込んでいた。
正に、本当に誰も手を出せない状況だったのだ。
だが。
それを突き壊した組織がある。
そう。『国解機関』だった。
( ^ω^)「しかし、当時、姉さん達も相当な無茶したおね」
全てと繋がっていると言われていたあのvipを、根こそぎぶっ壊して行ったのだ。
- 120 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 08:21:36.17 ID:ECauuQgm0
- 当然、動く事は許されていなかった。
その実、vipの構成員のほとんどが鬼違いだったにも関わらず。
それで美味い汁を啜ることのできる人間が大半だったのだから。
だがそれでも、姉さんたちは動いた。
全ての支部を破壊し、本部までをも。
結局、お咎めがあったのかは知らない。
だが、それからもう、vipの名前を聞く事は無かった。
だと言うのに。
( ^ω^)「残党がまだいたのかお」
そりゃ、完全に壊し切れるだなんて思えない。
嘗てのナチスだって、未だにその遺志を引き継いだ馬鹿共が暴れているではないか。
だがしかし、あの組織の後釜があるだなんて話は聞いたことが無い。
となると、組織の規模はそこまででかくは無いと言う事だ。
だが。
( ^ω^)(侮れんお)
嘗てのvipを思い出す。
そのほとんどの人間が鬼違いだった所を見るに、今存在している組織も、そうである可能性が高いだろう。
- 121 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 08:25:12.37 ID:ECauuQgm0
- ( ^ω^)「っと」
脇に巻いた包帯をテープで止める。
よし、順調だな。
( ^ω^)「しかし……」
やはり、長くは持たなかったか。
( ^ω^)「……超感覚、ね」
その実、科学的に解明してみればなんてことは無い、所謂リミッターが外れているっていうだけの体だった。
常にアドレナリンとエンドルフィンが溢れ出ているこの身体は、長くは戦闘できない。
身体が耐えられないからだ。
しかし、超人的な力を発揮することができる。
車を蹴り飛ばしたり、驚くほどの跳躍を見せたりと。
( ^ω^)「……屍、か」
殺人鬼。嘗ての僕が重なる。
だが僕は違った。望んで殺しになんてかかっていなかった。
もしも姉さんがいなかったのなら、僕もああなっていたのだろうか?
- 123 名前: ◆hrDcI3XtP. 投稿日:2011/07/05(火) 08:28:49.39 ID:ECauuQgm0
- ( ^ω^)「……チッ」
自然と舌を打ってしまう。
考えたくない例えだ。
だが、目を背けられもしなかった。
見過ごしてしまっていいのか?彼女を。
例え鬼違いではないからと言って?
( ^ω^)「一体、何をしたいんだお、上は」
だが、何れ下る結果は、想像できる。
僕の時と一緒だ。断れば、始末するのだろう。
そうだろうとも。それほどまでに恐ろしい存在、始末しない方がどうにかしている。
長らく尻尾を掴めなかった状況で、しかし殺すのは早計と考えたのだろう。
( ^ω^)「勝手だお、本当に」
屍。嘗て苦痛に生き、地獄を彷徨っていた女性。
いや、未だに彼女は彷徨っているんだ。
その出口の見えない地獄の中を。
続
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