( ^ω^)はイキガミの配達員になるようです
- 189 名前:名も無きAAのようです:2011/11/16(水) 22:41:05 ID:EmRmJv1AO
- ( ´∀`)「ねぇ内藤くん、推理小説ってあるでしょ」
( ^ω^)「はい?」
からん。
安い居酒屋のカウンターに、くたびれたスーツの男性が二人いた。
前に置かれた一杯300円もしない焼酎のロックを、ちびちびと煽る姿が妙に二人の哀愁を誘う。
( ´∀`)「ああいうのに出てくる殺人犯ってさ、すんごいトリックしかけてくるでしょ?アリバイ工作、死体工作etc……」
( ´∀`)「そうやって色んな探偵や刑事を欺いてるよね」
( ^ω^)「……はい。まぁ、最後にはキレモノ探偵の名推理により大抵捕まりますけど……」
( ´∀`)「じゃあ」
冷や奴に夢中になりながらも、モナーさんは口を止める気はない。
まぁその母親でもあるまい僕は、それを意地汚いだとか言って責める積もりは毛頭無いのだけれど。
( ´∀`)「じゃあ、だよ。そんなキレモノがいるわけでもない現実で、犯人たる人間達は……なぜこのトリックと呼ばれる工作を行わないんだろう?」
- 308 名前:名も無きAAのようです:2012/01/23(月) 22:13:27 ID:CWQ6nk9UO
- ( ´∀`)「……君は地球温暖化の原因、知ってる?」
('A`)「二酸化炭素じゃないんですか」
( ^ω^)「……」
( ´∀`)「違うらしいよ、それ」
('A`)「え」
( ´∀`)「もしかしたら主要因かもしれない、とは言われてるらしいけどね」
('A`)「……まだわかってないってことですか?」
( ´∀`)「そ。じゃあなんでこんなにCO2、CO2と叫ばれるか、わかる?」
('A`)「……」
( ´∀`)「二酸化炭素が原因、って事にしとけばとっても得する人がいるから」
('A`)
('A`)「はぁ」
- 309 名前:名も無きAAのようです:2012/01/23(月) 22:16:23 ID:CWQ6nk9UO
- ( ´∀`)「つまるところ、そんなもんなのさ」
( ´∀`)「真実はね、人間に悪ふざけみたいにひねくり転がされる」
( ´∀`)「そして僕らは真実を伝える必要はない。例えば目の前に転がる人間が、悪ふざけに興じていても」
('A`)「……はい」
( ´∀`)「僕が言いたいのはそれだけ。さぁドクオくん、行ってらっしゃい」
('A`)「はい」
( ´∀`)「あ、最後に一つ」
('A`)「はい?」
( ´∀`)「僕が言った言葉、も一度復唱」
('A`)
('A`)「……『人の死は、ただの統計として見、そして計れ。紙面は悲劇を語らない』」
( ´∀`)「よろしい」
('A`)「行ってきます」
( ´∀`)「はい。内藤くん、頼んだよ」
( ^ω^)「わかりました」
そう言えば僕に一人、後輩が出来た日があった。
懐かしいから、その日の話でもしようか。
- 310 名前:名も無きAAのようです:2012/01/23(月) 22:18:34 ID:CWQ6nk9UO
- 真面目になんか生きていけない、この人生はまるで悪ふざけ
辛すぎて、不条理で
それでも周りは歩んでいくの。
これじゃあまるで広い海。
この現実にいつかどうせ溺れてしまうなら
せめてもの間、少しの呼吸をさせて下さい。
第七話:「幻実瀬海《シュールシュノーケルシュピーケル》」
対象者:此方ミルナ
- 317 名前:名も無きAAのようです:2012/02/25(土) 08:17:22 ID:noY5QRDEO
- 母がもともと弱かった体を患い、寝たきりになったのはもう1年も前の話だったか。
大学を中退し、コネをフルに利用して就職にこぎつけた俺は、
頑張りの甲斐あってか、幸せな人生を送れていると思う。
( ゚д゚ )「じゃ、行ってきます」
母「はいよ。行ってらっしゃい」
( ゚д゚ )「今日も、すぐ帰ってくるから。何か食べたいものとか、ある?」
母「ふふ、ありがとうね。でもいいよ。アンタの好きにしな」
( ゚д゚ )「わかった」
しかし、母の体は良くはならない。
それだけが今も、心の端に突っかかったままだ。
それでも自分の為、母の為、青春を棒に降った俺は、この選択を絶対に後悔しないと心に決めたのだけれど。
- 318 名前:名も無きAAのようです:2012/02/25(土) 08:22:36 ID:noY5QRDEO
- 神様とやらがいるならば、本当に間の悪い話だ。
( ゚д゚ )「何かあったら連絡して」
母「はいはい。」
いや、真に悪いのはタイミングか。
就職するのは、せめてあと3年は待って欲しかったところだ。
………まぁ、これも、3年早くなかっただけ良い、と考えるしかないのだろう。
( ゚д゚ )「………」
スーツは肩回りがキツくて嫌になる。
やんちゃボーズとよく呼ばれた俺だからかも知れないが、これは拘束具にさえ思える。
着たら社会に縛られるという意味では、まさに拘束具なんだろうけど。
( ゚д゚ )
「失礼します。此方ミルナさん、ですね」
- 319 名前:名も無きAAのようです:2012/02/25(土) 08:27:01 ID:noY5QRDEO
- ドアを開けてすぐに出会ったのは、同じく拘束具に身を包まれた痩せ身の男と中肉中背の男。
( ^ω^)
('A`)「朝早くに失礼します」
( ゚д゚ )「………なんのようですか」
('A`)「………この度は貴方にこの報を届けにきた次第でして」
( ゚д゚ )
( ゚д゚ )「………えっ」
えっ。
('A`)「あなたに………」
('A`)「イキガミを届けに参りました」
( ゚д゚ )
(;゚д゚ )
ホントに。
神様ってやつは、なんてタイミングの悪いやつだ。
- 320 名前:名も無きAAのようです:2012/02/25(土) 08:42:30 ID:noY5QRDEO
- ('A`)「つきましてはこちらがその書類と………」
(;゚д゚ )
心の臓から音が止まらない。
わけがわからない。
なぜ俺なんだ。
頭をめぐらせても、何も追いつかない。
ただ、目の前の男は耳障りな説明をやめない。
('A`)「………という事になっておりますので、こちらのカードが」
(;゚д゚ )「………うるせぇぞ」
('A`)「はい?」
(;゚д゚ )「っるせぇってんだよ!!」
(;'A`)「………はぁ。すいません」
事も無げに言い返した。
畜生。人事だと思いやがって。
(;゚д゚ )「だいたい、なんだっ……あっと、…その………!!」
(;゚д゚ )「イキガミって………」
違う。それは知ってるだろう。
イキガミは、死の知らせだ。
俺らの体にすべからく入っているカプセルが、おおよそ1000分の1で死に直結する。
俺はそれを引いたんだろう。
違うんだ。何か言い返したい。何か言い返したいが、そうじゃない。
ホントは言い返せる言葉なんか1つもない事だって、わかってる。
('A`)「ですから、あなたの死をお知らせする為の紙です。こちらがそうですが……」
(;゚д゚ )「うるせぇっつってんだろ!!」
(;'A`)
狼狽し倫理がめちゃくちゃな自分を、上から眺めて見ている自分がいた。
今の自分のこれは恥ずかしいところだが、この気持ちはどうか察して欲しいと思う。
- 321 名前:名も無きAAのようです:2012/02/25(土) 08:50:24 ID:noY5QRDEO
- 『死』。
そいつの口から漏れたそれは、ひどく心に溜まる。
認めたくなかった。
俺は精神は、他人より未熟だったのだろう。
人は理不尽と不条理に耐えて生きる生き物だ。
でもきっと、多感な青春を仕事に費やした俺は
きっとこの時、キャパシティオーバーを起こしたのだ。
落ち着き達観したところで、今の自分を止める方法は知らない。
(;゚д゚ )「いらねぇよ!!そんなもん!」
('A`)「いらない、と言われましても………貴方は間違いなく明日の朝8時ジャストに死んでしまいます」
(; д )「うるせえ!!」
('A`)「という事なので、貴方は………」
(; д )「あああああああ!!!うっせぇってんだよ!!!」
そうして許容量を遥かに超えた俺は。
(; A`)「ぁがっ…!!」
実に久しぶりに、人を殴った。
八つ当たりで他人に手を出した。
ごっ、と鈍い音がして、男が倒れた。
でも、久々にスカッとした。
- 322 名前:名も無きAAのようです:2012/02/25(土) 08:52:20 ID:noY5QRDEO
- (; A`)「いたたっ………」
(; д )「………」ダッ
(; A`)「あ…!」
そして俺は、逃げるように会社に行った。
( ^ω^)
そいつはずっと、後ろで見ていた。
顔色1つ変えず、ずっと見ていた。
- 323 名前:名も無きAAのようです:2012/02/25(土) 09:04:58 ID:noY5QRDEO
――――――
(; д )「………はぁっ………はぁ………」
会社についた頃には、汗でびっしょりだった。
同僚に心配の声をかけられたが、何でもないとだけ答えた。
( ゚д゚ )
( ゚д゚ )(……死ぬのかな………でも)
あまりにも変わらない仕事の風景にそんな疑問が出てきた。
そうだ。もしかするとさっきのやつらはイタズラかもしれない。
あまり確認しなかったが、きっとそうじゃないだろうか。
だって。だって。あまりにも、いつもと変わらない………
上司「あー………此方。ちょっと、こっちに来い」
(;゚д゚ )
- 324 名前:名も無きAAのようです:2012/02/25(土) 09:43:39 ID:noY5QRDEO
別室に連れていかれた時点で、どんな用かはだいたいわかる。
上司「………あー、その、なんだ」
上司「………お前、イキガミ、貰ったんだってな」
(;゚д゚ )
(; д )
(; д )「………はい」
やはり突きつけられた。
真実だった。
上司「とりあえず……今日は帰れ。後は好きにやればいい」
上司「俺が言えるのは、こんくらいだ。今まで、ホントにありがとうな」
(; д )「………」
「はいっ………」
- 326 名前:名も無きAAのようです:2012/02/28(火) 08:17:26 ID:I68CLcMEO
- ――――――
がちゃ。
ドアを開ければ、その上についた鈴がおかえりと告げてくれる。
ちりんちりん。
でもそれは、ただの皮肉にしか聞こえない。
「あら?早く帰ってくるとは言ったけど……早すぎないかい?1時間も立ってないよ」
録に目も会わせられない俺に、
それでも母は俺の後ろ姿だけ見てそう言った。
当然、俺は言葉に行き詰まる。
「あぁ、その」
「……」
「……忘れ物……しちゃって……」
言えるわけないだろう。
床に伏す母親より先に死ぬ健全体の息子なんて
( ;д; )(………)
そんなの、あるか。
- 327 名前:名も無きAAのようです:2012/02/28(火) 08:24:48 ID:I68CLcMEO
- ああ、母さん。
俺はあなただけが心残りだ。
もう少しすれば、俺も俺の為に生きれたかも知れない。
あなたがよく言う、「自分だけの幸せ」をつかめたかも知れない。
しかしもう、どうやらそれはかないそうに無い。
死ぬんだ。
死ぬ。
( ;д; )
もうすぐ俺は、終わってしまう。
なぁ、どうして俺なんだ神様。
- 328 名前:名も無きAAのようです:2012/02/28(火) 08:43:15 ID:I68CLcMEO
――――――
( "A`)「………とりあえず、会社に連絡をいれました。出勤してた様なので、これから自宅へ向かいます」
( ^ω^)「そう。よかったね。顔はもう大丈夫?」
( "A`)「はい」
( ^ω^)「ナイス強がり。それでこそ社会人だ」
( "A`)「ホントに大丈夫ですよ」
( ^ω^)「そう」
( "A`)「でも…ああやって発狂する事もあるのですね。内藤さんもあんな体験があったのですか?」
( ^ω^)「ああ………うん。あったね。あったよ」
( ^ω^)「玄関先でイキガミを渡したら中に引っ込んでしまって、帰ってきたと思ったら包丁持ってたり」
(;"A`)「うわぁ………」
( ^ω^)「『つまりあなたを殺せば私は死ななくていいんでしょ!!?』なんて言ってね。怖かったのなんの。笑っちゃうでしょ」
(;"A`)「いえ………やはり死はそれほど重いと言う事です」
( ^ω^)「きみ、優等生だったでしょ」
( "A`)「えっ?」
( ^ω^)「はは。………やっぱなんでもない」
- 329 名前:名も無きAAのようです:2012/02/28(火) 08:54:45 ID:I68CLcMEO
- ( ^ω^)「なぁ………ドクオ君」
( "A`)「………はい」
( ^ω^)「ぶっちゃけ、この法律を君はどう思う?」
( "A`)「えっ………」
( ^ω^)「イキガミなんて、名誉の死なんてかこつけてさぁ………お国の為とは銘打つけど」
( ^ω^)「ぶっちゃけこんなの、ただの殺戮ショーなんじゃねえのかな?」
( "A`)
(;"A`)「………え、いや」
( ^ω^)「どう思う?」
(;"A`)「……そんな事はありません。国繁死は間違いなく名誉の死。その死はこの国の未来に生きる人々の糧となり、生き続けます」
( ^ω^)「そこで教科書通りの返答が返ってくるあたり、君はホントに優等生なんだ」
( "A`)「はい……?」
- 330 名前:名も無きAAのようです:2012/02/28(火) 09:02:47 ID:I68CLcMEO
- ( ^ω^)「そんな教科書通りの言葉に頼らなきゃ生きてけない、だから優等生なんだよ」
(;"A`)「………」
( ^ω^)「………これからあの此方ミルナさんをどうするかは君に任せる。ただね」
( ^ω^)「僕の言った『優等生』とは悪口だよ。なぜなら、優等生は『優等』なだけであって優秀ではないから。どうでもいい人間につけられるものなんだ」
(;"A`)「……!」
( ^ω^)「あれ、図星?君はそう呼ばれて育ってきたのかな?まぁでもそのうち君は、必ず後悔する。だから、今から、君には」
( ^ω^)「早く変わってもらわなきゃいけないのさ」
(;"A`)「………」
( ^ω^)「ま、こんなの、モナーさんは否定するだろうがね……」
( ^ω^)「じゃ、行ってらっしゃい」
- 331 名前:名も無きAAのようです:2012/02/28(火) 09:08:20 ID:I68CLcMEO
――――――
( "A`)「……」
優等生は優秀じゃないから優等生と呼ばれる、か。
ブーンさんは俺を、ひどくつまらない人間と、そう言った。
ひどく遠回しだけど。
ひどく曖昧だけど。
何を伝えたかったのかは、少しわかった気がする。
- 332 名前:名も無きAAのようです:2012/02/28(火) 09:19:08 ID:I68CLcMEO
――――――公園。
( "A`)「………此方ミルナさん」
「………」
( д )「………ああ」
( д )「なんで、ここがわかった」
( "A`)「たまたまです。あなたが家にいなかったものですから」
( д )「………」
( "A`)「代わりに出てくれたのは、あなたの母親でした」
(; д )「っ!………」
(; д )「言った………のか?母に。俺が、死ぬと」
( "A`)「いえ。言ってませんよ」
( "A`)「本当なら親族の方にも報告義務があるんですがね………」
( "A`)「優しいお母様ですね。かなりお体を崩されていたようですが」
(; д )「あぁ」
- 333 名前:名も無きAAのようです:2012/02/28(火) 09:25:05 ID:I68CLcMEO
- ( д )「母は……もうほとんど寝たきりの生活だ。………もう先も、長く無いだろう」
( "A`)「そうですか」
( д )「俺は、どうすればいい。他の身寄りもない。頼れる親戚もいない。金もあるわけじゃ無い………どうすればいいんだよ」
( д )「一体、母をどうしたらいいんだよ………なぁ、鬱田さん」
( ;д; )「俺にはっ………!!母に………!『アンタを残して死にます』なんて言う勇気………ねぇよ………!!」
( "A`)「………」
( "A`)「安心してください、此方さん」
( "A`)「僕があなたの母を、介護します」
- 334 名前:名も無きAAのようです:2012/02/28(火) 09:35:55 ID:I68CLcMEO
- ( ;д; )「えっ………?」
( "A`)「あなたがお亡くなりになれば………遺族年金という形で、病院暮らしを出来るだけの費用は手に入ります。当面はそれでなんとかなります」
( "A`)「………後は僕が、あなたの母を最後まで必ず見守る事を約束します」
( ;д; )「なっ………」
(;"A`)「本当ならもっといい解決法も存在するのでしょうが………すみません。これ以上の方が浮かびませんでした」
( "A`)「でも、あなたの母は必ず守ってゆくと誓います。あなたの意思は必ず僕が守ってゆきます」
( "A`)「だから安心してください、ミルナさん。他にも何かあれば、言ってください。先立つあなたに、僕は一切の後悔を残させたくはないんです」
( ;д; )「………」
「………はは」
- 335 名前:名も無きAAのようです:2012/02/28(火) 09:44:21 ID:I68CLcMEO
- 「………そうだな。母は………卵焼き好きだから。病院食だけじゃ寂しいだろうから」
「はい、じゃあ、作ってあげます。あまり料理は得意じゃないですけど」
「あと、花が好きだから」
「どんな花が?」
「なんでもさ。どんな花でも」
「じゃあカーネーションですね。プレゼントしておきます」
「でも、やっぱり俺が死ぬと知って悲しませたくはないな………それだけが心残りだ」
「それも大丈夫ですよ。此方さん」
「えっ?」
「実は――――――」
――――――
――――
――
- 336 名前:名も無きAAのようです:2012/02/28(火) 12:08:52 ID:I68CLcMEO
此方ミルナさんは、そのまま息を引き取った。
最後にしたい事は?と聞いたけど、黙って首を横に振った。
「殴ってごめん。それと、母さんを頼む」
それだけ言って、そのまま世を去った。
( "A`)(………いくか)
- 337 名前:名も無きAAのようです:2012/02/28(火) 12:17:00 ID:I68CLcMEO
――――――数時間前。ドクオが此方宅にて。
ぴんぽーん。
( "A`)「………いないのかな」
( "A`)「………」
がちゃ。
母「はい………」
( "A`)「あ………」
母「おかえり。早かったねぇミルナ」
( "A`)「えっ?」
- 338 名前:名も無きAAのようです:2012/02/28(火) 12:35:15 ID:I68CLcMEO
- ――――――数日後、病院
('A`)「具合はどうだい、母さん」
母「元気も元気。あんたのお陰だよ」
母「………ミルナ」
('A`)
('A`)「………うん」
自宅介護で、自分以外の人間を連れてくる事が少なかったから
気づくのが遅れてしまったんだろう。
ほら、ミルナさん。
あなたの母は―――――もうほとんど、人間を識別出来ていない。
現にあなたを名乗る私を、一ミリの疑問も抱かず抱き締める。
耄碌しちゃって、もうろくに人の顔すら見えていない。
('A`)「………」
胸が痛い。
これが何の救いになろうか。
これが何の幸福になろうか。
「本人が幸せだから幸せ」。
そんな言葉で無責任に終わらせていいのだろうか。
自分で始めた事とは言え………こんなの。
こんなの―――――
( A )「―――――悪ふざけも、いいとこだ」
母「ん?何か言ったかい?ミルナ」
('A`)「いや……なんでもないよ、母さん……」
- 339 名前:名も無きAAのようです:2012/02/28(火) 16:28:00 ID:I68CLcMEO
('A`)「じゃあ、今から出かけるから、母さん」
母「わかったよ。ゆっくりしてきなさいね」
ドアを閉めるまで、ミルナさんの母はこっちを見ていた。
ミルナさんを投影した、自分を。
('A`)「………ふぅ」
( ^ω^)「なに溜め息ついてんの」
('A`)「あっ………内藤さん」
('A`)「なぜこちらに?」
( ^ω^)「君がどんな選択したか見に来たんだけどね」
('A`)「………すいません」
( ^ω^)「何を謝る。立派な選択じゃないか。………まぁ、本業に支障ない程度にね」
('A`)「………はい」
( ^ω^)「ちょっと、飲みにいこうか」
- 340 名前:名も無きAAのようです:2012/02/28(火) 16:35:52 ID:I68CLcMEO
――――――居酒屋
( ^ω^)「僕も一度やってみたかったんだよ。こうやって後輩をつれて、我が物顔で居酒屋に入ってみる」
('A`)「………はい」
( ^ω^)「悪くないな」
('A`)「………」
( ^ω^)「もう顔は大丈夫かい?」
('A`)「はい。もともと大したものでもありませんでしたから」
( ^ω^)「でも痛かったでしょ」
('A`)「そりゃあ、まぁ」
( ^ω^)「はは。こんな世の中になってもまだ、ほとんどのやつらが『自分は死ぬわけない』って考えてんだから始末が悪いね」
('A`)「いえ」
('A`)「そう考えていればいいと思います」
( ^ω^)「ふぅん」
('A`)「人間は未来に保険を置く生き物です………そうやって未来の不幸を食い潰す生き物です」
('A`)「でも、それで幸せまで食い潰していちゃあ、本末転倒だから」
( ^ω^)
(;'A`)「あ、いや、すいません。生意気言って」
- 341 名前:名も無きAAのようです:2012/02/28(火) 16:43:19 ID:I68CLcMEO
( ^ω^)「いや、よく言った」
('A`)「あ………はぁ」
( ^ω^)「前はひどい事言ってしまったね。とりあえず君は、ただ優等なだけの人間ではなかったらしい」
( ^ω^)「君は間違いなく、優秀だよ」
(*'A`)「っ………」
('A`)「ありがとうございます」
( ^ω^)「正直ミルナさんに殴られた時は、かなり不安だったんだけどね」
('A`)「いえ……何かわからされた気分でした。これは、ただ単に人に死を伝える作業では無い」
('A`)「大切な何かを『生き繋いでいく』ことこそが大切なんだろうって」
( ^ω^)「うん」
('A`)「だからあの紙は………『生き紙《イキガミ》』と呼ばれるんでしょうね」
( ω )「………うん」
('A`)「………?」
('A`)「内藤さん?」
- 342 名前:名も無きAAのようです:2012/02/28(火) 16:47:03 ID:I68CLcMEO
- ( ω )
('A`)「………あ、あの」
( ^ω^)「………そこまでわかってるならば、大丈夫だね」
( ^ω^)「例えば明日もし、いきなり君が死ぬとしても」
('A`)「はい………」
('A`)
(;'A`)「は………い?」
( ^ω^)「あのね………ドクオくん」
内藤さんの顔は、無機質だ。
向き合ってないからかも知れないが、その瞳はどこを見てるかすらもわからない。
ただ体はゆっくりと動かし、自らのバッグに手を突っ込んでいた。
( ^ω^)「僕は君に、イキガミを渡さなきゃならない」
見慣れた大きめのカードと書類が。
自らが配り続けてきた紙が。
生き繋ぐ紙が。逝き報せる紙が。意気伝える紙が。
イキガミが、僕の目の前に置かれた。
- 349 名前:名も無きAAのようです:2012/02/28(火) 17:22:53 ID:I68CLcMEO
- 死亡予告証――――――――――――――
『( ゚д゚ )』
氏名:此方ミルナ
生年月日:3月7日
本籍:○○県皆町民奈3―07
住所:○○県皆町民奈3―07
死亡予定時刻:「AM9:00」
あなたの御冥福を心からお祈りします。
発行日付:○月○日
担当人:鬱田ドクオ
―――――――――――――――――――
第七話:「幻実瀬海《シュールシュノーケルシュピーケル》」
終了。
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