- 4 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 19:36:04.31 ID:/EyBXbIg0
【主要登場人物紹介】
・人間
( ・∀・) モララー=ロードネス:主人公(?)。ウォルクシア生まれの身長175センチ
( "ゞ) デルタ=S=オルタナ:モララーの親友。ズーパルレ生まれの身長168センチ
( ><) ビロード=デス:教師。ウォルクシア生まれの身長156センチ
( ´_ゝ`) 兄者:教師。生まれ不明の身長183センチ
/ ゚、。 / ダイオード=メタル:教師。キャグレイ生まれの身長177センチ
( ´∀`) モナー=カノンタ:教師。タチバナ生まれの身長166センチ
( ФωФ) ロマネスク=ガムラン:連合国軍大佐。ズーパルレ生まれの身長208センチ
<_プー゚)フ X=T=プラズマン:連合国軍中将。キャグレイ生まれの身長180センチ
- 6 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 19:38:07.92 ID:/EyBXbIg0
・悪魔
(´<_` ) 弟者:上級悪魔『ダンタリオン』。能力は未来予知と変身。身長不定
( <●><●>) ワカッテマス:上級悪魔『エリゴス』。能力は闇の固定。身長230センチ程度
ノ,, ゚ 了 アムリタ:上級悪魔『カオスドラゴン』。能力は不明。体長400センチ程度
l从・∀・ノ!リ人 妹者:上級悪魔『ヴァンパイア』。能力は血液の操作。身長120センチ程度
・天使
(,,゚Д゚) ギコ=シャティエル:上位天使。古魔法『??』
ノパ听) ヒート=S=O=ラビエル:上位天使。古魔法『??』
(゚、゚トソン トソン=WB=バラキエル:上位天使。古魔法『幻覚』
- 8 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 19:39:56.49 ID:/EyBXbIg0
かつて世界の果てと言われる地へ赴いた者がいた。
彼は天才であり、天才であるが故に誰よりも苦悩していた。
世界の果てには一体の悪魔が眠っていた。
男は悪魔と会話し、そして人間の罪深さを知った。
ついに天才と悪魔は手を組み、反逆の烽火を揚げた。
- 11 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 19:43:33.14 ID:/EyBXbIg0
とある反逆者、リカーナ=ロードネスの知られざる過去である。
( ・∀・)悪魔戦争のようです
第九話:【死に沈む英雄】
The ninth story : Cynicism Hero
- 12 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 19:46:04.35 ID:/EyBXbIg0
降り注いだ千の弾丸。
妹者の血液より生成された紅きそれらは、トソン=WB=バラキエルの心の臓を貫く――――
――ことは、無く。
(,,゚Д゚)「最初に一つ言っておく。俺をこの糞女と同列に扱う事は許さない」
片手。
決して頑強そうには見えない、綺麗な 「てのひら」。
少し首を傾け、右腕を前に突き出した体勢で、ギコ=シャティエルは……告げる。
(,,゚Д゚)「俺の名はギコ=シャティエル。七領域の一翼」
純白の衣を寒風になびかせ、無表情で、あくまで事務的に。
(,,゚Д゚)「罪深き貴様らを地獄へ送り届ける者だ」
- 15 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 19:49:17.57 ID:/EyBXbIg0
(;ФωФ)「じ……上位天使が……二人……!」
ロマネスクは戦慄し、流れ出る冷や汗を止められなかった。
彼の目前のギコ=シャティエルは上空の妹者を見据えている。
(,,゚Д゚)「……見覚えのある顔だ。ふむ、どこで見たんだったかな」
l从・∀・ノ!リ人「儂はお主のことなんぞ、ぜーんぜん、蟻の脳みそほども覚えとらんがの!」
強気な減らず口とは対照的に、妹者の表情は苦りきっていた。
奥義『赤の制裁』が――どうやったかは知らないが、完全に防がれてしまったのだ。
確かに弾丸の雨はバラキエルへと向かったのに。
割って入ってきたこの男が、全て片手で受け止めてしまった。
l从・∀・ノ!リ人(否……受け止めてはおらんのじゃ……受けられるはずがない)
かき消してしまった、と述べた方が正しいだろう。
(,,゚Д゚)「こそこそと隠れるな、屑。本来なら俺は貴様を庇ったりしないんだが」
(゚、゚;トソン「く、屑とは、いきなりご挨拶ですね、ギコさん」
ギコの背後、二の腕の辺りから血を流すトソンが姿を現した。
- 17 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 19:52:08.71 ID:/EyBXbIg0
(,,゚Д゚)「勘違いするなよ、俺は心から貴様が大嫌いだ。反吐が出る」
(゚、゚トソン「遠回しな友情表現と受け取っておきましょう……」
腕を下ろし、ギコは刺さるような視線でロマネスクを貫く。
(,,゚Д゚)「たかが二人の敵に血を流すとはな。お前はセブンスフィアの恥だ」
(゚、゚トソン「ええ。ですから――その恥を洗い流すという功績は、あなたに譲りますよ」
(,,゚Д゚)「黙れ死ね。俺を喜ばせたいなら、派手に散って派手に死ね」
会話の隙を突いて、妹者の翼から槍が生え、飛来する。
(,,゚Д゚)「――この程度の敵」
背後からの攻撃を易々と避け、ギコは飛んできた槍を掴んだ。
右手に力を込めると、紅く輝く槍は粉々に砕け散った。
l从・∀・ノ!リ人「くっ……」
(,,゚Д゚)「……この能力にも、覚えがあるぞ。どこだ? どこで会った?」
l从・∀・ノ!リ人「知るか! 一人増えようが、儂らにそう簡単に勝てると――」
(,,゚Д゚)「いや、残念なお知らせだが」
- 18 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 19:55:59.59 ID:/EyBXbIg0
『――――私もいるんだなぁぁっ!!』
(;ФωФ)「うお!?」
とんでもない爆音と共に何かが飛んでくるのを感じ、ロマネスクは思い切り上半身を反らす。
一秒前まで彼の頭があった空間を――小さな彗星が、駆けていった。
ノパ听)「おおっと、外しちゃった!」
飛び膝蹴りでロマネスクを狙ったヒートは軽く着地し、一跳ね二跳ね、ギコの隣に身を寄せる。
ノパ听)「正義の味方! ヒート=S=O=ラビエル、只今推参!!」
ノハ;゚听>⊂(゚Д゚,,)ジャマダドケゴルァ
アイテテテテテ
(;ФωФ)「き、貴様は……あの時の……!」
ノパ听)「はあっは! 覚えててくれてありがとう! 今度こそ私が勝つ!!」
無駄に派手な動きと無駄に大きな声でくるくるとヒートは回り、びしっとロマネスクを指差した。
l从・∀・;!リ人「……三人目……!」
- 19 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 19:58:05.01 ID:/EyBXbIg0
(,,゚Д゚)「ふん。……思い出したぞ、俺は確かに貴様と会っている」
唇の端を吊り上げ、ギコは獰猛に微笑む。
(,,゚Д゚)「そんな体になってまで――俺に復讐したかったのか。諦めの悪いやつだ」
l从・∀・;!リ人「なんじゃと?」
ぴくりと小さな耳を震わせ、妹者は眼下の男を睨みつけた。
l从・∀・ノ!リ人「お主……昔の儂を、知っておるのか?」
(,,゚Д゚)「知っているとも。少なくとも、貴様自身よりはずっとな――違うか?」
l从・∀・ノ!リ人「…………」
黙りこくる妹者に冷たい視線を返し、ギコはトソンの方へ振り向く。
(,,゚Д゚)「トソン、ここら一帯に誰も近付けるなよ。空間封鎖をかけておけ」
(゚、゚トソン「了解しました。十分もあれば完了します」
一歩後退し、再び姿を消すトソン。
- 21 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:00:13.30 ID:/EyBXbIg0
(,,゚Д゚)「さて、これで二対ニだ。数の上では対等となった」
ノパ听)「ギコ君っ! 私、あのでかいロマネスクって人と戦いたいな!」
(,,゚Д゚)「勝手にしろ。俺はあの女に話がある」
ノハ*゚听)「やたっ!」
何が対等だ、とロマネスクが思った次の瞬間、彼の視界は赤い髪の毛で覆われた。
(;ФωФ)「くっ!!」
咄嗟に大剣を横薙ぎに払う。
一瞬で彼の目の前まで走ってきたヒートは地を蹴り、宙返りでロマネスクの長身を飛び越えていった。
ノパ听)「いいねぇ! 私は魔法を使わないから、君もその体術だけで戦いなよ!」
( ФωФ)「ふん、我輩とてそう易々とやられはしないのである!」
ロマネスクは軍服の懐から二本の投擲用短剣を抜き出し、ヒートへと放つ。
当然ながら――ヒートの拳と回し蹴りで、簡単に叩き落されるナイフ。
しかしながら、それはただのフェイクにすぎない。
ノパ听)「おぉ!?」
腕を投げ下ろし、肩を突き出した、そのままの体勢でロマネスクは突進。
その屈強な膂力を全身に受け、ヒートの軽い身体が宙に舞う。
- 22 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:03:10.99 ID:/EyBXbIg0
(,,゚Д゚)「さて……興味本位で聞いておこう、貴様の今の名は何と言う」
空中で器用に体を捻り猫のように着地したヒートを横目に、ギコは無表情に問う。
l从・∀・ノ!リ人「儂の名は妹者じゃ。昔から変わることもない」
(,,゚Д゚)「妹者……、か。ふん、何を思ってそんな名にしたかは知らんが」
(,,゚Д゚)「貴様が死ぬ寸前に教えてやろう。貴様の本当の名前を」
l从・∀・ノ!リ人「じゃから言うておろうがぁ――――!」
激昂した妹者のドレスは至る所が裂け、腕とも翼ともとれる何かが生え蠢いていた。
l从・∀・ノ!リ人「儂の名は妹者じゃ! 本当の名前など、どこにも存在せぬわ!!」
体積が二倍くらいに膨らんだヴァンパイアは、全身から血液製の武器を突き出し。
ふわり、ふわり、舞い上がり――そして降下して急襲する。
もはや異形の塊となった妹者は、恐るべき速度でギコへと迫る。
(,,゚Д゚)「…………」
標的となったギコの挙動は、右手を上げて掌を妹者へ向ける、ただそれだけであった。
- 23 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:05:55.94 ID:/EyBXbIg0
隕石のように墜ちてくる妹者。
その体から生えた鋭い切っ先がギコの柔らかい手に突き刺さる、寸前に――
(,,゚Д゚)「『消滅』」
ただ一言、呟いた。
一秒よりもなお短く、告げた。
それだけだ。
右手を上げて、呟いた、本当にそれだけなのである。
l从・∀・ノ!リ人「…………っ!?」
ただそれだけなのに――妹者の作り出した武器、腕、翼、その他のありとあらゆるものは、消滅した。
割れただとか溶けただとか、そういった物理現象ではない。
元から存在しなかったかのように、消えてしまったのだ。
残ったのは妹者の矮躯のみ。
(,,゚Д゚)「――捕まえた」
- 25 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:08:07.22 ID:/EyBXbIg0
l从・∀ ノ!リ人「…………っ、かっ、は」
ギコの左手に細い首を掴まれ、妹者は苦しげに呻いた。
彼女はがりがりとギコの腕を引っ掻くが、その束縛が弛む様子はない。
(,,゚Д゚)「加減を間違えたか。塵一つ残さないつもりで消したんだがな」
l从・∀ ノ!リ人「く……っ、は!」
妹者が大きく口を開け、赤い舌を見せる。その舌には小さな傷が入っていた。
能力『赤の誓約』が発動し、舌から細い針が飛び出す。
(,,゚Д゚)「無駄なことを……」
軽く頭を振って針を回避するギコ。
(,,゚Д゚)「冥土の土産に、教えてやろう。俺の司る古魔法は『消滅』」
(,,゚Д゚)「そして――お前の本当の名前は、『××××』だ」
l从 ∀ ノ!リ人「…………!!」
ぎりぎりと締め上げられ、徐々に妹者の身体から力が抜けていく。
(,,゚Д゚)「ふん……昔の方がまだマシだったな。俺が強くなったのかもしれんが」
- 27 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:10:14.48 ID:/EyBXbIg0
『――聞こえるか、ロマネスク。儂じゃ』
( ФωФ)「!?」
急に頭の中に声が響き、ロマネスクは驚いて耳を押さえた。
ノパ听)「うおおおおおおおおぉ!!!」
(;ФωФ)「くっ、少しは休ませてほしいのである!」
この娘の元気は底無しか――。
竜巻のようなヒートの猛攻を何とかいなしつつ、前蹴りを顔面に入れて吹き飛ばす。
ノパ听)「ぎゃん!」
『儂じゃ、ロマネスク。返事はいらんから少しこっちを向け』
( ФωФ)「?」
声に従い、ロマネスクはぐるりと首を巡らせる。
ギコに吊るし上げられている妹者の姿が視界に映った。
(;ФωФ)「い……妹者……」
苦しそうにもがいている相棒を見て、ロマネスクの心内には絶望が広がる。
魔法を使っていないヒートが相手ですら、自分が勝てる見込みは無いのだ。
妹者が倒されてしまえば――紛れも無く、敗北決定だ。
- 29 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:12:01.98 ID:/EyBXbIg0
『今、貴様の耳朶内に残った儂の血液を通して声を送っているのじゃ。長くは続かん』
(;ФωФ)「ど……どうする。何か、召喚術か魔法で……」
雪の山から這い出してくるヒートに大剣を向けて、ロマネスクは冷や汗を流す。
(;ФωФ)「そうだ、妹者が空中に撒いた血液で、何かできないのであるか?」
『そんなもんとっくに消されとるわ。あいつの古魔法でな』
既に視界が赤くないことに、ロマネスクはその時気付いた。
ヒートはぶるぶると犬のように身体を震わせて雪を払っている。
『よいから聞け。儂は今から自爆しようと思っておるのじゃ』
心臓が止まりそうになった。
何を莫迦なことを、とロマネスクは思った。
( ФωФ)「何を莫迦なことを」
『血の残りも少ないが――生命の維持を捨てれば充分に事足りる。最期のどでかい花火じゃ』
( ФωФ)「妹者。しかと聞け、そんな選択肢は無いのである」
『倒せはせんが少しは隙を作れるだろうの。足の速い悪魔でも呼んで逃げるといい』
- 32 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:16:45.61 ID:/EyBXbIg0
『では、やるぞ。儂の死を無駄にしないでくれると嬉しいのじゃが』
(#ФωФ)「妹者ァ!! 我輩の話を聞け!!」
ロマネスクの一喝に、近くにいたヒートはおろか妹者、ギコまでもが彼の方を見た。
『ば……馬鹿、気付かれてしまうのじゃ』
( ФωФ)「よいか……我輩が今戦っているのは、部下の無念を晴らすためである」
ヒートを睨みつけ、続ける。
( ФωФ)「だというのに、お前までが死んでしまっては元も子も無いだろうが!」
(,,゚Д゚)「……? 何を言っているんだ、あいつは」
l从 ∀ ノ!リ人「…………」
だんだんと血の気を失っていく妹者は、少しだけ瞳を大きくした。
『……ロマネスク』
もはや実際に声を出す気力も無いのか、彼女の口の動きに合わせてロマネスクの頭に声が響く。
l从 ∀ ノ!リ人『主人の為に命を捨てられることが、優秀な使い魔である条件じゃ』
l从 ∀ ノ!リ人『お主は……たかが悪魔の一匹程度、使い捨ての道具と思えばよい』
- 33 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:19:15.91 ID:/EyBXbIg0
( ФωФ)「このわからずやめ……!」
遂に頭の中の声も消えた。妹者の残余魔力はほとんど零になったのだ。
ロマネスクの、妹者との付き合いなど、あってないようなものだ。
初めて顔を見てから一時間と経ってはいない。ほとんど初対面と言って差し支えない。
そもそも『血魂石』が無くては、出逢うことも無かったはずの関係なのだ。
しかし、もう、知ってしまった。
この儚げな鬼は自分の味方であると知ってしまった。
知ってしまった以上、見て見ぬふりなど。
(#ФωФ)「できるものかッ!!」
(,,゚Д゚)「……?」
その時、ギコの手をすり抜けて、妹者がどさりと地面に倒れた。
ノパ听)「ん? あれ? 何してんのさ、ギコ君?」
(,,゚Д゚)「いや……俺は何もしていないが……」
首を傾げるギコは妹者の首を掴み上げようとするが、その手は水を掴んでいるかのように空を切る。
l从・∀・ノ!リ「む……これは」
- 36 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:22:12.43 ID:/EyBXbIg0
( ФωФ)「今――我輩と妹者の契約を、破棄した」
目を閉じ、自分自身に言い聞かせるように、言葉を紡ぐ。
( ФωФ)「我輩からの魔力の供給を断ち切られた妹者は、もはや現実界に留まれない。天使、貴様には殺せない」
l从・∀・ノ「こ……この、愚か者が……!」
少しずつ身体が透き通っていく妹者。
血を吐きそうな顔でロマネスクを睨んだ。
l从 ∀ 「儂がどんな思いでお主を逃がそうとし――
言葉が終わる前に、妹者の形は消えて無くなった。
魔界へ強制的に送還されたのだ。天使の手の届く範囲外へと。
再び会い見える事は、果たしてあるだろうか。
きっと無いだろうとロマネスクは嗤った。
( ФωФ)「すまぬ、妹者。我輩は自己中心的な男なのである」
これ以上、仲間の死は見たくない。絶対に見たくないのだ。
(,,゚Д゚)「やってくれたな、人間。この俺を出し抜くとは」
- 38 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:25:05.11 ID:/EyBXbIg0
ギコの射るような視線がロマネスクを捉えた。
思わず逃げ出したくなるような圧迫感を耐え、軍人は精一杯強がる。
( ФωФ)「我輩一人と上級悪魔一体、どちらが戦力になりえるかは自明である」
ノパ听)「ふーん……それが君の『正義』か。ちょっとはマシな答えじゃないか!」
(,,゚Д゚)「ふん。別に俺は誰を殺そうが関係ない。任務を果たせればそれでいい」
つまらなそうなギコの言葉に違和感を覚え、ロマネスクは訊く。
( ФωФ)「任務? 殺戮以外に目的があるのか?」
考えてみれば、そもそもこのニタリキの村を襲撃したこと自体がおかしい。
重要な拠点でもなければ、特に人口が多いわけでもない。
トソンが来る前に全ての住人の避難を完了できたくらいである。
(,,゚Д゚)「口が滑ったか」
まあどうでもいい、と茶髪の天使は言う。
(,,゚Д゚)「どうせお前はここで死ぬ」
( ФωФ)「……だろうな」
後悔は無い、と言えば嘘になる。しかし気分は悪くない。
- 39 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:28:12.01 ID:/EyBXbIg0
(,,゚Д゚)「面倒だ。ヒート、そこをどけ」
ノパ听)「え? あ、うん」
驚異的な跳躍力でヒートは宙を舞い、大木の頂に飛び乗った。
異様な雰囲気を感じ取り、ロマネスクの背が総毛立つ。
左手を天に掲げ、ギコは詠唱を開始した。
(,,゚Д゚)「……レヴィ・シュトラデロギア・スィエレオンコード」
(,,゚Д゚)「『ドラスティッシュ・トルナード』!!」
爆発。
余りにも高まりすぎた風圧は、空気を割る爆音と共に巨大な砲弾と化す。
世界を削り取る、豪速の死神へと変貌する。
セブンスフィアの名に恥じない――正確にして絶大な威力の魔法が、ロマネスクへと襲い掛かった。
<_フ フ
ロマネスクは頼れる上官の背中を見たような気がした。
- 40 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:30:00.55 ID:/EyBXbIg0
ノハ*゚听)「あ、あ、あ――――あぁぁぁぁぁっ!!!」
ヒートは興奮して彼を指差し、叫んだ!
あの日、あの時、あの場所で! 君に遭えなかったら!
この燃えるような昂ぶりも、張り裂けそうな激情も、感じることは無かっただろう!
そう、そこに立っていたのは――ヒートが待ち望んだ男!
ノハ*゚听)「プラズマン! プラズマンじゃないかぁぁぁぁ!! ぬわっ!?」
興奮の余り身体から炎が迸ってしまい、足場の樹が燃え尽きて、ヒートは墜落した。
そう――ロマネスクの前に立っていたのは。
<_プー゚)フ「く、ふ、ふふ、ふははははっははははぁ! X=T=プラズマン、推して参った!」
よほど無理をしてギコの魔法を防いだのか、体中がズタボロになってはいるが。
顔だけは自信と余裕に満ち溢れている、その男。
連合国軍中将――軍部でもトップレベルの実力を持つ男。
X=T=プラズマン。
- 42 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:32:21.86 ID:/EyBXbIg0
(;ФωФ)「ちゅ、中将殿!? 何故ここに……」
<_プー゚)フ「ええいガムラン、お前はいつから馬鹿になった」
<_プー゚)フ「一人で勝手に出撃するなど、私の部下にあるまじき行為だぞ!」
自分より背の高いロマネスクを見上げ、頬を膨らませて怒るプラズマン。
悪戯が見つかった子供のように大佐は頬を掻いた。
<_プー゚)フ「言ってもわからない馬鹿には処罰が必要だな! アムリタ!」
エクストが怒鳴って指を鳴らすと、虚空から銀色の竜が姿を現す。
ノ,, ゚ 了「只今ここに」
<_プー゚)フ「この馬鹿を連れて帰れ。基地に縛り付けてから戻って来い」
ノ,, ゚ 了「御意のままに、我が主人」
ガラス玉の眼で天使達の姿を捉えた後、竜は頷いた。
(;ФωФ)「し、しかし、プラズマン中将!? それでは中将殿は――」
<_プー゚)フ「空間封鎖の気配がする。早くしなければ閉じ込められるぞ、私が足止めしておくから急げ!」
ノ,, ゚ 了「失礼させていただく」
アムリタは長い首を捻って、ロマネスクの胴体を左右から咥え込む。
親猫が子猫に対してするような甘噛みでもって長身を持ち上げ、ばさりと翼を一振り。
- 43 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:35:10.14 ID:/EyBXbIg0
(,,゚Д゚)「逃がすとでも!」
ノパ听)「思っているのかっ!!」
横からはヒート=S=O=ラビエル、前からはギコ=シャティエル。
二人の武闘派天使は、ほぼ同時のタイミングで三人に飛び掛ってきた。
ヒートは両脚を。ギコは右手の掌を。
それぞれを真っ直ぐと敵に向けて、二人は二つの弾丸となる。
――だが。
<_プー゚)フ「逃がしてもらうさ……なあ、アムリタ」
ノ,, ゚ 了「御意。守護は我ら竜族の本分」
四枚の内半分の翼を大きく広げ。
一枚をヒートに、もう一枚をギコに。
ノ,, ゚ 了「世界よ、我と真理を護りたまえ――『護龍輪廻』」
- 45 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:38:10.64 ID:/EyBXbIg0
双翼からは魔力が走り、白と黒で構成された模様が空中に展開される。
円の中に歪んだ半円が交わっている紋様。
いわゆる陰陽魚太極図が(勿論この時代にその言葉は無いが)、二つ生成されたのである。
(,,゚Д゚)「…………!」
勢いのままにそのシンボルを殴りつけたギコは、不可解な現象に遭遇した。
確かに、確実に全力で拳を打ち抜いた――鋼の壁でさえ貫ける程の力で。
ノパ听)「あ、あれ? なんだ?」
両脚で対極図に突っ込んだヒートは、予想外の事に慌てて、そして、また墜落した。
当然、数十メートルは滞空できるほどの余裕をもって、ヒートは跳躍したのだが。
速度とエネルギーが――全て、消失している。
二人の上位天使の攻撃は、完全に完璧に十全に万全に徹頭徹尾、防がれたのである。
音さえしなかった。
(,,゚Д゚)「……俺の古魔法と、似ているな。攻撃のエネルギーを吸収したか?」
ノ,, ゚ 了「否。『攻撃を受けた』という事実を、未来へと吹き飛ばしただけだ……」
ノ,, ゚ 了「我が敵よ、この痛みは後でゆっくりと引き受けよう」
言いながらアムリタは残り二枚の翼で風を捉え、巨体を浮かせる。
数秒の後には、龍は大空へと飛び立っていた。
- 46 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:41:09.02 ID:/EyBXbIg0
(,,゚Д゚)「墜とせ、ヒート」
ノパ听)「応ッ!! ルヴィ・セイクリルドラグ・フォアザ――」
詠唱の最中、ヒートの前に躍り出る影が一つ。
<_プー゚)フ「させんっ!」
軍刀を抜き放ち、上段から振り下ろすX=T=プラズマンである。
やむなくヒートは魔法を中断し、拳で刀を弾く。
ノパ听)「くっ……! 邪魔を、するなぁ!」
両手で握った刀が横に流れ、防御行動のとれない体勢となった。
プラズマンのがら空きの胴体に、ヒートは渾身の力で拳を叩き込む。
<_プ− )フ「がっ……は!」
ごしゃり、という嫌な音と共に、プラズマンの身体は軽々と宙を舞った。
十メートル程も吹き飛び、民家の壁に激突し、そしてその民家は崩壊した。
ノパ听)「……ちっくしょー! また逃げられちゃった!!」
慌てて天を見上げるヒートだが、既に、そこにアムリタはいなかった。
- 47 名前:◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:43:23.49 ID:/EyBXbIg0
(,,゚Д゚)「仕方ない。部下も連れて来ていないしな」
しかし、とギコは首を捻る。
(,,゚Д゚)「今回も情報が漏れていたか。これまでにも何回かあったが……」
ノパ听)「ま、いいんじゃないかな? 作戦に支障は無いし、さ!」
(,,゚Д゚)「ああ。トソンの空間封鎖が完成し次第、例のモノを設置しよう」
誰かが咳き込む音がした。ギコが音の方を見る。
よろめきつつ、瓦礫の山から立ち上がる軍人の姿があった。
<_プー )フ「ふ、ふふ、その前に私を、倒すことだな!」
ヒートの拳はプラズマンの腹を中辺りまで貫いていたのだ。
少なくない量の鮮血が――モノクロの軍服から染み出している。
それに加え、全身に打撲、骨折、脱臼、裂傷、内臓破裂。
右足の太腿には建材の破片が突き刺さり、左手の肘からは捻じ曲がった骨が飛び出ている。
誰がどう考えても、立っていられるのがおかしいほどの重傷である。
<_プー゚)フ「死ぬ、まで、闘うのが……軍人の、務めだから! 私は、倒れないのさ!」
なんとかまだ動かせる右手を握り締め、プラズマンは壮絶に笑みを形作る。
<_プー゚)フ「契約、履行……『コックリ』、具現化!!」
- 48 名前:◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:46:08.76 ID:/EyBXbIg0
狐、狗、狸。
その三つのどれともつかない、奇妙な姿をした獣が召喚される。
(,,゚Д゚)「……おとなしく眠っておけば見逃してやったのに」
『コックリ』は戦闘に長けてはいるものの、下級悪魔である。
アムリタの具現化を維持するだけで――今のプラズマンには、精一杯なのだ。
<_プー゚)フ「ふはは、負けると、わかっていても――男には、闘わねばならん時が、ある」
(,,゚Д゚)「中将ともあろう者が、か。そこまでしてあいつを逃がす意味はあったのか」
<_プー゚)フ「ガムランは、今はまだ弱い、が。いずれ私を凌ぐ程に、成長するだろう」
――私の遺志を継いで、強い男になってくれるだろう。
<_プー゚)フ「私は所詮先の無い男だ。未来は、若者に託すさ。天使にはわからんだろう」
(,,゚Д゚)「俺達セブンスフィアに老化は無いからな――しかし、その意気には敬意を払おう」
敬意を、とギコは言った。
その単語が何を意味するかわからず、プラズマンは怪訝に思う。
(,,゚Д゚)「小賢しい真似はせず、俺の古魔法『消滅』で」
跡形も無く、完膚なきまでに、この世界から退場させてやろう。
- 51 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:49:22.95 ID:/EyBXbIg0
<_プー゚)フ「『消滅』、か。いいじゃ、ないか」
それでこそ。
それくらいの派手な言葉こそ――。
<_プー゚)フ「私の、最期を飾る、のに、相応しい」
傍らの獣が牙を剥き、遠く吠えた。
それは悲しげな響きで氷雪の世界に染み渡っていく。
(,,゚Д゚)「光栄に思え。我がシャティエルの名の下に死せられる事を」
鷹のように鋭い眼でプラズマンを見据え、ギコは吐き出す。
敵へと捧げる言葉を。
(,,゚Д゚)「祈れ。全ての造物主たる我らが神に、祈るがいい」
<_プー゚)フ「生憎だが、私はそんな、見た、こともない、物は、信じていない」
私が信じるのは、人の想いと努力。
それと――――
- 52 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:52:13.20 ID:/EyBXbIg0
/ ゚、。 /「……む」
( ´_ゝ`)「どうしました?」
急に立ち止まったダイオードに、兄者が声をかける。
/ ゚、。 /「靴紐が切れた」
防寒用の厚い革靴。
足首あたりまで巻かれた靴紐が、ぷっつりと切れていた。
( ´_ゝ`)「換え、持ってますか?」
/ ゚、。 /「ああ。すぐ追いつくから、先に行くがいい」
しゃがみ込み、毛皮の上着の懐から黒い紐を取り出すダイオード。
/ ゚、。 /「前に換えたのは……ううむ、覚えているわけがないな」
靴紐が切れるのは不幸の前兆である、とはよく言われる話だ。
全くそんな話は信じていないダイオードは、別に気にすることもない。
- 53 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:54:38.87 ID:/EyBXbIg0
/ ゚、。 /「ふぅ。これでよし」
白い息を吐きつつ、ダイオードは切れた紐を懐にしまう。
/ ゚、。 /「……! これは珍しい、私が靴紐の収納場所を覚えていたぞ」
今更ながらの事実に気付き、ダイオードは顔を綻ばせる。
細かな記憶は片っ端から忘却してしまう彼女にとっては、とても珍しい事だと言えた。
/ ゚、。 /「今日は良い日になりそうだ」
なんと言っても――久しぶりに、敬愛する兄に会えるのである。
多少心がうわついてしまうのも無理はない。
この時のダイオードは、まだ知らない。
/ ゚、。 /「さて……皆を待たせては悪いな」
数時間後にプラズマン中将戦死の報を聞くことになるとは、夢にも思っていない。
- 55 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:56:24.57 ID:/EyBXbIg0
( ФωФ)「……アムリタよ」
ノ,, ゚ 了「何だ。我が主人の子弟よ」
強風吹き荒れる中、アムリタの背に載せられたロマネスクが呟き、竜が応える。
ノ,, ゚ 了「我の魔力も残り僅か。可能なら手短に話せ、我が主人の子弟よ」
( ФωФ)「…………」
魔力が少ない、というのは――契約者からの魔力供給が途絶えたということ。
プラズマン中将の意識は、既にこの世に無いということである。
( ФωФ)「我輩を逃がす為に――プラズマン中将は……」
ノ,, ゚ 了「……そうだな」
( ФωФ)「我輩を恨んでいるか、アムリタ。お前には恨む資格がある」
聞いた話だ。ただの噂かもしれない。
『カオスドラゴン』アムリタは――その昔、竜族での異端児だった、とか。
突然変異的に産まれたアムリタは、誰からも祝福されないままに育った、とか。
ノ,, ゚ 了「何を愚かな。主人の命を護るのは確かに下僕の務めだが――」
哀れな竜の運命を断ち切ったのが一人の軍人だった、とか。
ノ,, ゚ 了「それ以上に――主人の意思を護るべきなのだ、我が主人の子弟よ」
- 57 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 20:58:15.66 ID:/EyBXbIg0
【アロウカ部族連合国・ブラクアロウ平原・ニタリキ】
(゚、゚トソン「空間封鎖、終了しましたよ。多数の軍勢がこちらへ向かっていますね」
(,,゚Д゚)「こっちも準備を始めたところだ。三時間もあれば完了するだろう」
音も無く歩み寄ってきたトソンの方を見る事もなく、ギコは答える。
彼の視線の先には――地面にぽっかりと開いた大穴。
『うおおおおおおおおおお! おおおおおおお!!』
奈落へ通じているかのようなその深い穴からは、絶えずヒートの雄叫びが聞こえている。
そして、時折その穴は、氷交じりの土砂を大量に吐き出すのだ。
(,,゚Д゚)「ここの地層は凍っている。ヒートを連れてきて正解だった」
(゚、゚トソン「確かにそうですね。……では、私はそろそろ帰りますので」
(゚Д゚,,)「は? 何言ってんだゴルァ」
ギコがトソンに目をやると、彼女は天から注ぐ淡い光に包まれていた。
(,,゚Д゚)「『天梯』……貴様、いつの間に」
(゚、゚トソン「最初からこういう算段でしたから。フォックス様に頼んでおいたのです」
- 58 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 21:01:03.65 ID:/EyBXbIg0
(゚、゚トソン「空間封鎖はあと三時間保ちます――それに、周囲に色々と幻覚を仕掛けておきました」
簡単には攻め込んでこれません、と言い残して。
トソンの身体は薄氷のように割れ、光に包まれて上空へ昇っていった。
フォックス=アドラー=サハクィエルの古魔法『空間』の内の一つ、『天梯』。
天界と現実界を繋ぎ、天使の移動をさせることができる魔法である。
これ以外ではかなり時間がかかる方法しかないため、戦略級に重宝されている。
(,,゚Д゚)「あの糞女……フォックス様、だと? 様をつける相手でもなかろうが」
ギコとヒートが『天梯』で転送される予定時刻は、約五時間後。
それまでに人間側の軍勢が大挙してやってくるのは火を見るより明らかだ。
(,,゚Д゚)「長く見積もって二時間、か……」
――交戦は避けられない。
(,,゚Д゚)「糞が……あわよくば俺とヒートを始末しようとしてるんじゃあるまいな……」
(,,゚Д゚)「…………」
あれこれ考えても仕方ないと思い、ギコは手近な石に腰を下ろした。
(,,゚Д゚)「戦争など、なくなればいいのにな」
- 60 名前: ◆BR8k8yVhqg 投稿日:2009/09/20(日) 21:03:39.78 ID:/EyBXbIg0
雄星は墜ち、白い月は泪を零す。
第九話:【死に沈む英雄】 了
The ninth story : Cynicism Hero Dead end
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