人形師と人形のようです

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/24(日) 21:54:35.39 ID:PNxXOj8qO

ある所に人形師がおりまして、それはそれは見事な腕でございました。

その人形師が造る人形はただ美しいだけでなく、まるで生きているかのようなのです。
瞳はきらきらと輝き、ばら色の頬と唇は温かさを感じさせ、今にも言葉を話し動き出すのではないかと思わされます。
また、その人形師自体もまるで作り物の如く美しい姿をしていましたので、街の外れに建っているにも関わらず店は大層繁盛しておりました。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/24(日) 21:57:06.58 ID:PNxXOj8qO
( ‘∀‘)「まぁなんて可愛らしい」

从´ヮ`从ト「私この子にするー」

( ´W`)「孫の誕生日に贈ってやりたいんだが」

爪゚∀゚)「ああんモララー様ぁん」

老若男女問わず、店には沢山のお客が訪れます。
中には人形師目当てのあまり関心出来ない人も居て、彼を巡って争いが起きたりもするのですが

('、`#川「ちょっとどきなさいよ、モララー様が見えないでしょ」

爪゚∀゚)「ふん、ブスは引っ込んでなさいな」

('、`#川「ならあなたこそ引っ込むべきね」

爪#゚∀゚)「なんですって!」

( ・∀・)「喧嘩は良くありませんよ、美しいお嬢さん方」

爪*゚∀゚)「「はぁいモララー様ぁ」」('、`*川

人形師がにっこり微笑めば丸く収まってしまうので、何も問題は有りません。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/24(日) 21:58:34.65 ID:PNxXOj8qO
さて、ある日の事です。
店に一人の男の人がやって来ました。
彼はちょっと残念な顔をしているものの街で評判の細工屋で、オーダーメードの人形をご所望のようです。

('A`)「この人にそっくりの人形を作って欲しい」

細工屋が差し出したのは一枚の絵姿でした。
そこには長い黒髪の大層美しい女と、目の前の細工屋が仲睦まじい様子で寄り添っています。

( ・∀・)「奥様、ですか?」

('A`)「ああ」

細工屋は苦笑いを浮かべます。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/24(日) 22:00:18.02 ID:PNxXOj8qO
('A`)「妻を病で亡くして以来どうにも仕事が手に着かなくて。いつも彼女の為に細工を作っていたようなものだから、さっぱり創作意欲が湧かないんだ」

( ・∀・)「だからせめて人形を?」

('A`)「彼女そっくりの人形が居れば少しはやる気が出るかと思って」

( ・∀・)「愛してらっしゃったんですね」

('A`)「俺はあんたと違って人に好かれる容姿をしている訳じゃない。けどあいつは見た目なんかどうでも良いって言ってくれたんだ」

( A )「あんなに綺麗な細工を作れる俺の手が好きだって。心が好きだって」

悲しそうに目を伏せていた細工屋ははたと顔を上げました。

('A`)「……悪い、詰まらない話を聞かせちまったな」

( ・∀・)「いいえ。素敵なお話でしたよ」

人形師は微笑んで依頼を受ける事を伝えました。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/24(日) 22:06:00.86 ID:PNxXOj8qO
( ・∀・)「それで人形を作るにあたって用意して頂きたい物が有るのですが」

('A`)「用意する物?」

( ・∀・)「奥様が生前身につけていらっしゃった物を何か一つ。何でも構いません。
故人の人形を作る時はいつも、その方の形見の品を使っておりまして。ああ勿論壊したりはしませんから安心して下さい」

('A`)「はぁ、それなら昔贈った髪飾りが有るから後で持ってくるよ」

( ・∀・)「よろしくお願いします」

それから代金の話をして、細工屋は帰っていきました。
彼を見送って人形師はぐい、と背伸びをします。

( ・∀・)「さあて、と」

扉の前に閉店の看板を出し、人形師は仕事部屋に引っ込みました。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/24(日) 22:07:03.45 ID:PNxXOj8qO
─────

それからしばらくして、人形師は朝早く細工屋の家を訪れました。
コンコンと人形師はドアをノックします。

( ・∀・)「ご依頼の品をお届けに上がりましたー」

<悪いー、ちょっと手が離せないから勝手に入ってくれー

( ・∀・)「わかりましたー」

人形師がドアを開けて中に入ると、細工屋はせっせせっせと小さな椅子を磨いていました。

('A`)「よし、これで良い」

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/24(日) 22:08:04.17 ID:PNxXOj8qO
ぴかぴかに磨き上げた小さな椅子をテーブルの上に置いて、細工屋は人形師の方に向き直りました。
人形師に向かって少し恥ずかしそうに頬を掻きます。

(*'A`)「昨日、人形が座る椅子が無い事に気づいてな。あいつの事を思ったらすいすい作れちまったよ」

( ・∀・)「なるほど。ですがそんな椅子彼女が座ったら潰れてしまいますよ」

('A`)「そんな事は無いさ。華奢に見えて、結構丈夫だからな」

( ・∀・)「いえ、大きさ的意味でですよ」

('A`)「人形の椅子ならこれ位で十分だろ?」

( ・∀・)「えっ」

('A`)「えっ」

人形師と細工屋は二人して首を傾げました。
どうやら二人の間に何か思い違いが有るようです。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/24(日) 22:09:50.27 ID:PNxXOj8qO
('A`)「……あー、さっきから気になってたんだけどさ」

( ・∀・)「なんでしょう」

('A`)「その抱えてるでっかい包みは何だ」

( ・∀・)「何って人形ですけど」

('A`)「えっ」

( ・∀・)「えっ」

人形師は抱えていたそれを丁寧にソファの上に下ろすと、巻いていた布を取りました。
布の下から現れたのは艶やかな黒髪の、美しい一体の人形です。
それを見た細工屋は、ああやっぱりと頭を抱えてしまいました。

( ・∀・)「そっくりとの事だったのでそっくりに作ったのですが……もしかしてまずかったですか?」

(;'A`)「確かにそっくりだけどよ。まさか大きさまでそっくりで来るとは思わないだろ」

確かに人形は、細工屋の亡くなった妻にそっくりでした。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/24(日) 22:11:22.94 ID:PNxXOj8qO
真っ白な肌に冷たい美貌。
豊かな胸にくびれた腰。
よくぞ絵姿一枚でここまで作り上げた物だと、感心せずには居られません。
細工屋は呆れたようにため息をつきました。

('A`)「……でも丁度良いかもな。俺一人だと部屋が広すぎて困ってたんだ。これ位でかけりゃそんな事も無いだろ」

( ・∀・)「お、という事は気に入って頂けましたか」

('A`)「ああ気に入ったよ」

細工屋は笑みを浮かべました。

('∀`)「ありがとう」

(* ・∀・)「大切にしてあげて下さいね。きっと良い事が有りますから」

その笑顔を見て人形師は満足そうに帰っていきました。
代金はいつでも良いとだけ言い残して。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/24(日) 22:13:57.96 ID:PNxXOj8qO
('A`)「けどこんだけ良い仕事して貰ったんだから、あんま待たせる訳にもいかないよな」


川 ゚ -゚)


細工屋はしげしげと人形を眺めました。
見れば見る程亡き妻に似て来るようです。
何となく触れた頬は硬質で、やはり作り物なのだと思わされましたがほんのり温かい様な錯覚を覚えました。

('A`)「ちょっと待っててくれな。あの人形師に頼まれたもん作ったら直ぐにお前のも作ってやるから」

人形のお陰か創作意欲がムラムラと沸き上がってきます。
これならきっと良い物が作れるに違いない。
そっと人形の頭を撫でて、細工屋はやる気満々で仕事に取り掛かりました。

否、取り掛かろうとして躓きました。
服の裾を何かが引っ張っているのです。
良く見ると、人形の手に引っ掛かってしまっていました。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/24(日) 22:16:13.57 ID:PNxXOj8qO
('A`)「危ない危ない」

細工屋がそれを外そうとした時の事です。
川 ゚ -゚) ガタッ

突然人形が立ち上がりました。
そしてそれどころか細工屋に抱き着いたのです。

(゚A゚)「!?」

一体何が起こっているのでしょう。
訳の解らない細工屋は目を白黒させます。

(;゚A゚)「なっ、なななななな何、何が」

川 - )「……ドクオ」

(;゚A゚)「!」

名前を呼ばれて細工屋はびくりと体を跳ねさせました。
その声は亡き妻の声に良く似ていました。

川 - )「ドクオ……ドクオ……」

(;'A`)「そんな……まさか……」

声は人形の方から聞こえて来るようです。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/24(日) 22:18:49.80 ID:PNxXOj8qO
最初は幻聴だと思いました。
あんまりにもそっくりだから錯覚を起こしているのだと。
けれど何度も何度も繰り返し、切なそうな妻の声が耳を打つのです。

(;'A`)「クー……」

思わず妻の名を呟くと一掃強く抱きしめられました。

(;'A`)「本当に、クーなのか」

川 ゚ -゚)「他に誰が、プロポーズしようと思ったら私に先を越されてお前が大泣きしたなんて話知ってるんだ?
指輪握り締めて涙、鼻水垂れ流しながら『お、おおお"でから言おうどぉおお』と泣き叫んだ顔は抱腹絶倒ものだったよ」

(;A;)「オーケイ、この容赦の無さは間違いなくクーだ。間違いない、心が痛い」

細工屋は目から汗が流れりのを感じました。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/24(日) 22:20:36.67 ID:PNxXOj8qO
(;'A`)「それにしてもなんでこんな事に」

川 ゚ -゚)「解らない。死んでからずっとお前の側でふよふよしてたんだが、いきなりこの人形に吸い込まれたんだ。それでドクオの側に行きたいと思ったら体が勝手に動いて」


細工屋は人形を自分から剥がして上から下まで眺めます。
石粉粘土の体に硝子の目。
何の変哲もないただの球体関節人形です。

('A`)「どうなってんだ一体」

細工屋は首を傾げ、ふ、と人形師の言葉を思い出しました。

( ・∀・)『大切にしてあげて下さいね。きっと良い事が有りますから』

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/24(日) 22:22:16.43 ID:PNxXOj8qO

もしかして、人形師はこうなる事を知っていたのでしょうか。
だから大きな、等身大の人形を作ってきたのでしょうか。

自分の目からはただの人形にしか見えませんでしたが、何が特別な仕掛けがあるのかもしれません。

('A`)「……まったく、ほんとに良い仕事してくれたもんだ」

川 ゚ -゚)「? どうしたドクオ」

('∀`)「いや、こっちの話だよ」

細工屋は妻の硬質な体を改めて抱きしめました。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/24(日) 22:23:51.80 ID:PNxXOj8qO
─────

さて、それから暫くしての事です。
お客のあまり来ない昼時に、人形師の元をまた細工屋が訪れました。
人形の代金を支払いにきたのです。

( ・∀・)「おや?」

包みを開けて人形師は首を傾げます。

( ・∀・)「私がお願いしたのは髪飾りだけだと思うのですが」

包みには細かな百合の透かし彫りが入った髪飾りと、もう一つ水晶の付いた首飾りが入っていました。

('A`)「おまけってやつだ。あいつの代金に髪飾り一つじゃ安すぎるだろ」

( ・∀・)「ふふ、随分気に入って頂けたようで」

('A`)「お陰で家が賑やかになったよ」

( ・∀・)「それはそれは」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/24(日) 22:27:05.51 ID:PNxXOj8qO
意味ありげに視線を交わし、そっと二人は微笑みます。

( ・∀・)「また何か有りましたらおっしゃって下さいね。メンテナンスとか、まぁその他色々。
あと体はただの石粉粘土ですからあんまり無理させちゃダメですよ」

('A`)「ああ、わかった。じゃあな。それを贈る相手にもよろしく言っといてくれよ」

細工屋は晴れやかな笑顔を浮かべて帰っていきました。
残された人形師は髪飾りと首飾りを持って、奥の仕事部屋に引っ込みます。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/24(日) 22:28:26.23 ID:PNxXOj8qO
( ・∀・)「という訳で上手くいったみたいだよ、でぃ。それでこれが報酬」

(#゚;;-゚)「ん」

でぃと呼ばれた少女は持っていた彫刻刀と人形の腕を置いて、人形師の方を向きました。
実は人形を作っているのはこの美しい男ではなく、傷だらけの少女の方なのです。
モララーは外に出ようとしないでぃに代わり、店番をしているだけで人形なんて本当は全く作れません。
でぃが全く外に出ないので、みんなでぃの存在を知らずに勘違いしているだけなのです。

(#゚;;-゚)「そうなると思った。髪飾りの記憶、優しかったから」

( ・∀・)「そうなの?」

(#゚;;-゚)「細工屋さんと奥さん、とっても幸せそうだった」

さて、でぃは人形師であるだけでなく魔女でもありました。

魔女であるでぃにとって、物の記憶を辿るのはたやすいこと。
形見の記憶を辿り、依頼人にとってどうしても必要であると判断した時のみ、彼女は特別な故人の人形を作ります。

勿論故人の魂が無ければどうしようもありませんし、依頼人と故人の魂、その両方の強い気持ちがなければいけないのですけれどね。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/24(日) 22:29:49.24 ID:PNxXOj8qO
(*゚;;-゚)「喜んで貰えたみたいでよかった」

きらきら輝く髪飾りと首飾りを手に取り、でぃは幸せそうに微笑みます。
それを見てあまりの可愛らしさに、モララーが頭を撫でようとしたところで

<すみませーん、このお人形くださーい

と、ドアの向こうからお客さんの声がしました。

( ・∀・)「……」

(#゚;;-゚)「お客さん」

(´・∀・)「……うん」

お客さんならば仕方がありません。
でぃを撫で撫でするのはお預けです。

(´・∀・)「いらっしゃいませどちらの商品でしょうか?」

爪゚ー゚)「? どうかしたんですか?」

「いえいえ何でもありませんよ。何でもありませんとも」

今日は早く店を閉めよう。
モララーは固く心に誓いました。



依代人形 了


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